「うわあああああああ!!!!!」
クジャは耐え切れない。耐えられない。許せない。
何がなんだかわからなかった。
腹の底からふつふつと怒りがこみ上げる。
いや、何かはわかっている―ネズミに逃げられた。
目の前に居る5匹のネズミ。
白い奴。でかい奴。こまい奴。細い奴。ごてごてした奴。
その内しとめた2体は、散々な口ぶりでクジャをなじり、その内3体にはあっさり逃げられた。
これをどうして許せよう?
これをどうして腹立たずにいられよう?
「ついにきれたーーー!」
クジャは叫んだ。赤い何かが弾けた。
クジャの姿は変じていた。
先程弾けた赤い何か―それをまとった赤い赤い燃えるような魔人の姿。
フ。
フフ。
アハ。
クジャは哂った。みなぎるぞ、みなぎるぞ、力がみなぎる。
途方もない力がクジャの体を宙に浮かす。
「みんな死んでしまえーーーっ!!!!」
光が奔る。大地を穿つ。木を裂き、岩を砕き、川を蒸発させ、奔る。奔る。
世界を消滅させる程の力だった。禁じられた力、アルテマが解放された時だった。
モリガンは本を読んでいた。赤い光の迫るのには気付かなかった。
後ろから斜め下に貫く形で、頭と、本を支える腕、本が消し飛んだ。一瞬の出来事だった。
二撃、三撃、続いて光が彼の体を撃ったが、彼がそれを知ることは無かった。
コリンは見た。自らの視界を覆う草越しに、それから漏れる赤い光を。
危険な力だ。来る、と思う。
しかし、速い。コリンがわずかに身を起こそうか、そう思うよりも早く身を貫かれていた。
次々と撃つ、撃つ。光はコリンの体を貫く。
彼の不幸は絶命する急所をなかなか撃たれなかったことだった、嬲られるように痛みが彼を襲った。
だが、やがてそれも彼の死とともに終息した。
セーラは途端、その身を担がれ振り回された。
死を運ぶ赤い光には気付かなかったが、同行していたSeed、スコールがいち早くそれに気付いた。
彼女を守るため、彼が抱え上げたのだ。
かわす、かわす、人一人を抱えているというのに見事な体捌きであった。
が、しかし、光は広がり、陸そのものが藻屑となった。
彼らにかわす場所は無くなったのだ。セーラも死んだ。
ガーランドも見た。その光を。
強大な魔力。圧倒的な破壊の力。
止むを得まい、カオスの力を解放した。
その時である、光が弾けた。ガーランドの意識は消えた。
フリオニールも見た。その光を。
かつて見たことも無い強大な魔力。彼の知る最高の魔力、皇帝マティウス以上の物であろう。
―まだゲームは始まったばかりじゃないか。
無念だった。しかし、どうしようもない。静かにその死を受け入れた。
ミンウは光を見ることは無かった。
半死半生だった。セルフィという狂気じみた陽気さの少女―それに殴打され重傷だった。
わずかに残った命を、得意の白魔法でなんとかつなぎ止めていたが、
その体で、迫るアルテマの光に抗することなど全く出来なかったのだ。
ミンウは光を見るよりも早く絶命した。
マティウスは、光が放たれるよりも早く、その異様な魔力に感づいていた。
―なんという魔力だ!
皇帝として、魔王として、自分以上の存在を彼は知らなかった。
―パンデモニウムよ……!
必死に地獄に呼びかける。彼のいた古城は光の中に消失した。
導師は見た。その光を。
赤 赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤―光が広がっていく
赤 赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤―全てが飲み込まれていく
私は…?私は?私は…
私も死んじゃった!
ニセコも見た。その光を。
―もっと強い奴と戦いたい。
しかし、この光の主は強すぎた。これ程のスケールの強さもあったのか。
自分がいかにちっぽけな存在の中で粋がっていたか…、それを知った時が彼の死の瞬間だった。
イリアも見た。その光を。
「バッツさん!」
バッツも光に気付いていた。
しかし、二人に抗う力は無かった。
スリークも見た。その光を。
「うっおおおおお!なんだありゃ!超やべーぜ!
光が遥か彼方より迫っております!あ〜っと、私のすぐ横の地面が穿たれました!
土が!草が舞い上がります!おっと!木がへし折られました!
あ〜〜〜〜!そして!そして!ついに私の正面に光がやってまいりました〜〜〜〜!」
―なぜ実況をする。
「皆さんさようなら〜〜〜〜〜!!!!!」
ズガン!
最後の最後まで、やかましい男であった。
デッシュはその光を見ることは無かった。
疲れており、彼が光を見咎めるより早く彼の命は消えた。
セシルは見た。自分ではない、目の前のヴァンに迫る光を。
―危ない!
そう思うと、彼の矛に貫かれるのにも構わず彼をかばった。
『あんた…、なんで…?』
セシルはただ申し訳無さそうに微笑むだけだった。
彼をかばった時、光に胸から下、体の三分の二を吹き飛ばされていた。
カインはレノに怒鳴られた。
『危ない!』(―光が、迫ってるぜ、と。)
それを聞いて、即座に彼の身を抱え、ジャンプをしたが、
しばらくの内に光はこの世界全てを覆いつくし、逃げ場はなくなった。
ヤンも見た。その光を。
クジャとの戦いでは絶命しておらず、なんとか半死半生で機会を窺っていた。
だが、それも徒労に終わった。
アルテマの力に抗する力は彼にはないのだから…。
傍で倒れるサイファーも、あきらめ顔だった。
―やれやれ。
ポロムも見た。その光を。
余りに強い魔法の力。いかに天才と呼ばれようと、遥かに自分の魔力を凌ぐ力。
(シェル?リフレク?―無理!)
逡巡する彼女を、セフィロスは拾い上げ、光から逃げ惑った。
パロムも見た。その光を。
「あんちゃん!」
クラウドは、そんなパロムをひょいと摘み上げるとハーディ・デイトナの後ろに乗せた。
走る、走る。光をかわす。
しかし、それでも、彼らも同様に逃げ場は無いのだ。
バッツも見た。その光を。
「イリア!」
彼も答えるように彼の名を呼ぶ。逡巡する暇は無い。
光を避けるべく、目の前の古城に転がり込んだ。
爆音が響く。安全なのはほんの僅かな間だけあった。
彼らが身を潜める古城も光に消えた。
クルルも見た。その光を。
「え…?」
見たのと、体を貫かれていたのがほぼ同時だった。
ギルガメッシュは死んだ。光の中に霧散した。
「あ〜〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜。」
セリスも見た。その光を。
「まだ死ねないのに!」
光は奔る。かつて世界が崩壊したのを思い出した。
「ロックゥゥ〜〜〜〜〜〜!」
最後のその時まで愛する人を信じていた。―今度は彼は来なかった。
カイエンも見た。その光を。
かつて世界が滅んだ時に目にした火、それを思わせる激しい魔力。
「なんと!」
だが、今は光から逃げる手段は無いのだ。
「すまぬ、ミナ、シュン…。」
セッツァーも見た。同じく世界崩壊を思い浮かべるあの光を。
(チクショウ、ファルコンがあれば!)
空を駆ける俺の翼、親友の忘れ形見!それさえあれば、逃げられたかもしれないのに。
―しかし、彼にあるのはその身一つなのだ。
「今思ってることの逆が正解。だが、それは大きなミステイク。」
―そう、彼の傍にはラムザがいた。
その類稀なるジャンプ力はセッツァーの身を抱え上げ、光をかわした。
クラウドも見た。その光を。
パロムが何か喚いている。―構わない。
ハーディ・デイトナの後部に乗せ、光をかわすべく走らせた。
弾丸のように降り注ぐそれはかわしたが、
光が全てを飲み込み広がっていく時、クラウドとパロムもまた絶命した。
ヴィンセントも見た。その光を。
見たと同時に体を貫かれていたが、絶命はしなかった。
「私の体は死ねない体…。光に焼かれ、途切れること無い痛みは私に与えられた罰…。」
心地よい苦痛に身を委ねながらも、
その身が光に完全に消失しては"死んだ"と言わざるを得なかった。
レノも見た。すぐ脇の相棒に迫るその光を。
「危ない!」(―光が、迫ってるぜ、と。)
皆まで、言うまでにカインも気付き、彼の体を抱え上げジャンプしていた。
(俺達、案外いいコンビかもな、と。)
軽く安堵したが、光はやはり彼らを逃すことは無かった。
セフィロスも見た。その光を。
小さな相棒は、絶大すぎる魔力を感じたのか動きを止めている。
ひょいと摘み上げると、腕の中に抱え上げ、赤い破壊の光の矢をかわしにかわした。
しかし、光は彼にも逃げ場は与えなかった。
(母さん……!)
スコールも見た。その光を。
目の前のセーラをかばい、果敢に立ち向かった。
しかし、抗いきれる力でないことは既に悟っていた。
「すまない。」
仏頂面のままぶっきらぼうにしか言えなかったが、腕の中のセーラは笑ってくれた。
スコールも光に飲み込まれた。
セルフィも見た。その光を。
スコールと同じく、SeeDとして培われた観察眼は即座に助からないことを見抜いていた。
「なんや〜〜〜、うちいいトコ無しやん!」
―このまま死んでなるものか、悲鳴をあげる。
しかし、迫る。光は迫る。
―何か、言わなきゃ最後の台詞。
「まぁみむぅめも〜〜〜〜〜〜!!!!!」
ガーデンで流行らせることは出来なかったが、今度は"今際の台詞"として流行ったらいいな、少しそう思った。
なにやってんだ・・・
キスティスも見た。その光を。
満身創痍の自分にかわす術はあるまい。
しかし、再び彼女の白チョコボが彼女をかばった。
ひょいと嘴で彼女の体を浮かせると、その背に乗せて走り出した。
(またも、助けてくれた。ありがとう)
キスティスは思う。光は二度も三度も近くをかすめるが、チョコボの足はそれをかわした。
『ひょっとしたら助かるかもしれない』、キスティスは思ったが、次の瞬間、自分達の正面に光が迫るのを見た。
―セルフィの姿が見えた。
『あのなぁ、うち、これを流行らしたいねん。
死ぬ前にちょっとでえぇから、"まみむめも"言うてから死んでや。』
パチンと顔の前で両手を合わせ、おじぎをする格好で懇願される。―幻像だった。
(―やれやれね。)
「まみむめも」
口の中でぼそりと呟いた。
『クワッ クィッ ク〜 クエ! コ〜〜〜!』
チョコも鳴いた。真似をするように鳴いた。
―たまらぬ死に様であった。
ジタンも見た。テラが崩壊する時に見た時以来のあの光だ。
「馬っ鹿野郎〜〜〜〜〜〜!!!!!」
『生きるということの意味が少し分かった』―信じていたのに。
ジタンは死んだ。
スタイナーも見た。同じくテラが崩壊する時に見た、あの時以来のあの光だ。
「なななななななな、なんと!」
即座に理解した。クジャが何か、許しがたい何かに力を解放したのだろう。
『馬っ鹿野郎〜〜〜〜〜〜!!!!!』
横でジタンが叫んでいる。―恐らく、彼のことを信じていたのだろう。
スタイナーはどっかとあぐらを組んだ。
ならば、じたばたしても仕方あるまい。逃げ場はないのだ。
「無念!」
微動だにせず光に貫かれ、スタイナーは絶命した。
ガーネットも見た。やはりテラが崩壊する時に見た、あの時以来のあの光を。
寂しい思いだった、彼女も少し信じていた。
旅の中、ひどく苦しめられたけど、味方になってくれればきっと頼もしい。
目の前のカイエンとディリータに謝った。
「ごめんなさい。」
なんとなく身内の不祥事のように思えたから。
二人は飲み込めない様子であったが、言葉を交わす間もなく皆絶命した。
クジャは放つ、放つ。光を放つ。
破壊のカタルシスに酔いしれ、憎しみに捕らわれていた。
ティーダは見た。その憎しみの光を。
「うっおおおおおお!!!」
スリークはなんか必死で実況をしている。デッシュは死んだ。
さっきまでの陽気ムードは一気に消し飛んだ。
『何やってんスか!』―そうスリークに声をかけ、一緒に逃げようと思った。
光から一瞬、注意がそがれた。
ティーダはスリークに声をかけようとふりむいた瞬間、死んでいた。
ユウナも死んだ。
ティーダには会えなかった。
シーモアも死んだ。
既に満身創痍だった。
ヴァンも死んだ。
目の前の男の申し訳無さそうな微笑が印象的だった。
バルフレアも死んだ。
次から次からへと災難に見舞われ、またかと思ったが、今度は今までと桁違いだった。
バッシュも死んだ。
かばってくれたアーロンに申し訳なかった。
ラムザも死んだ。
セッツァーを抱え、果敢にジャンプでかわしたが、時と共に逃げ場はどこにも無くなった。
ディリータも死んだ。
目の前には覚悟を決める侍、謝る姫。自分は、したたかに最後まで生き抜きたかった。
オルランドゥも死んだ。
操りの輪により殺戮以外の意思の無い彼は、何も考えることなく、光に反応すらせず、打ち抜かれ死んだ。
ガフガリオンも死んだ。
逃げ場は無い。前後にはユウナとセリス、両手に華。『ン、そンな死に方も悪くないか』 諦めて素直に死んだ。
フフフフ。
アハハハハ!
アーハッハッハ!
宙空でクジャが笑う。幼児のように笑う。彼は捨て鉢だった。
全てが消えた。木が、建物が、岩が、川が。陸が全て無くなった。
もうもう瓦礫と煙がたちこめる。
「ん?」
と、クジャは瓦礫の中に異物を発見した。
皇帝は、ギリギリで地獄の召喚に成功した。
猛るアルテマの魔力は、張り巡らされた結界をも粉々に千切りさった。
結界が消え、光が自らに迫る瞬間、ギリギリで地獄の召喚に成功したのである。
地獄に逃れ、皇帝はアルテマの直撃を防いだのである。―卑怯な奴だ!
瓦礫の中に見える異物、それこそパンデモニウムであった。万魔控える、地獄の城。
そして、今、悪鬼共がクジャを喰らおうと、パンデモニウムより飛び出そうとしていた。
―最後の決戦だ!
しかし、クジャは慌てない。
「あらァ、まだ生きてたノ?死になさ〜い♪」
もう一つの切り札、『毒ガス』をクジャは解放した。
ギャアアアアアアアアアア!!!!AHEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!
毒ガスに化け物共がもだえ苦しむ。パンデモニウムの魔物は一つ残らず断末魔の悲鳴をあげ事切れた。
うぼぁーーーーーー!!!!!