【みわくの眼差し】ククール×ゼシカ 5【愛のムチ】

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1名前が無い@ただの名無しのようだ
[このスレのしきたり]

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃カップル萌えスレでこれだけは守れ!
┃1.常時sage進行を原則としろ。この板は最下層でも落ちないから安心だ。
┃2.煽り荒らしは当然放置な。特に他カプ萌え派を装い抗争を誘う連中には完全無視を貫け。
┃3.他スレで萌えキャラが貶されていても一切構うなよ。相手にしたら負けだ。
┃4.SS投稿してくれるときはなるたけトリップをつけろ。トリップくらい知っとけ。
┃5.エロいSSや画像のうpは……俺的には大歓迎だが注意書きくらいつけてくれな。
┃       21禁以上の大人なエロ、それにグロ汚物系は相応の板へ投下しろ。
┃  ,〃彡ミヽ
┃. 〈(((/(~ヾ). /  守らねー奴にはSHTバイキルトミラクルムーンだ。
┗ ヾ巛゚.ー゚ノ" / ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   /~'i':=:!゙)つ      クックル カヨ
 |~ ̄) ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|     ∧ ∧    ∧ ∧ ゼシカ センセイ ノガ ヨカッタナア…
  | ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|     (゚   )   (゚   )
  |  |            | =====⊂   ヽ==⊂    ヽ======
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ||──(   ノ〜─(   ノ〜─||
                    || ┏━━━━━━━━┓ ||
2自分で2get!:2006/01/13(金) 02:46:27 ID:kAnhWfPo0
前スレが容量オーバーで書き込めなくなったので
勝手に次スレ立てました。
ちなみにスレタイはその3で僅差でボツになったのを
復活させました。

過去スレなどは>>3参照。
3割り込まれませんように。:2006/01/13(金) 02:47:35 ID:kAnhWfPo0
[過去スレ]
DQ8 ククール×ゼシカでカプばな〜
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101739628/
【カリスマ】ククール×ゼシカ2【お色気】
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1110809484/
【ハニー】ククール×ゼシカ 3【……バカ!】
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1115903844/
【君を守るよ】ククール×ゼシカ 4【はいはい】
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1124707443/

[まとめサイト]
ttp://www.geocities.jp/kukule_jessica/

[ククゼシお絵かき掲示板]
ttp://bbs3.oebit.jp/kukulejessica/
4これで最後。:2006/01/13(金) 02:51:57 ID:kAnhWfPo0
ククールの単独スレはこちら。
【あー】ククールはアホカワイイ5【かったりぃ】
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1135514577/

ゼシカ単独スレ?はこちら・・・じゃないかも。
ゼシカは黒ニーソじゃなくて黒ストッキングなのに
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1131980937/
5名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/13(金) 05:48:43 ID:jxYhn3ea0
            lll:::::::::::::::::..                        \
             | |::::::::::::::::::::::.                        ヽ
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           〉ゝ_::::::::::::::::::     ..::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::...       |
           /::::::: ̄`ヽ:::::::......      :::::::::::::::: ⌒`''-、:::::.       /
           |:::::::  /ヽ::::::l:::   `ヽ-、,  ''''''...,,;   〈  ヽ::::    ,/
           l::::::: <;;;;;;;〉::::ヽ-__     ヽ  ´   __,, '   ヾ  /
 ,─--_      ヽ:::. \/:::::::::ヽllllllliii,,,,、   ),,,,,;iiillll//      ゙l..ノ
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヾヽ-─ ̄lllヽ___/::::::::::: ヾll;;;;,,,,,,,,;;;;;,iii´''''''' ,//_/"´⌒ヽ,  
l;;;/⌒ヽ;;;,,  ヾlllヽ;;;llllll;;; l;;;l:::::::::::.. ` ──''''' `-─''/l;;;lllllll;;;;;'''''''''|  ベビー様が>>5に寄生したぞ
l;;;;/ ̄;;;\;;,  ヽlllヽlllllll;;; ヽ;;ヽ,::::::::::..   \__ゝ,   /llll  lllllll   |  今日はスレの新しい誕生日だ
 Y;;;;;;  ヽ   lllll 巛〈;; ヽ;;;;;ヽ:::::::     ,,,,   /llllll  llllll    |ヽ さぁ、このオレにサイヤパワーを送れ!
 l;;l;;;    ヽ;;  川 l lヽヽ; ヽ__ `ヽ_    ,,// /llll  llllll   /;;;l 
 l;;;;;;     l;;   lllll ヽヽ/;; /  ̄ヽ-,,,,"''''''´ ̄ ヽ llll  lllllll  / ;;/
  〉,;l;   ,-ゝ;;   llll ヽ/;; /      `l     l  Y  lll/  / /
 /\__/'''''''''|;;  lllll  /  /        |     ヽ ヽ/;/  /ヽ/
(;;;;;;;;;;/    |;; lllll/ /         |.      ヽ  Y/ / |
6名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/13(金) 06:48:34 ID:QLB/b6jp0

  あたしたち 純真無垢のDQ少女漫画系カプオクテット
  叩かれても晒されても ずーっとラブラブし続けまーす!         +
   ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         ,. -−、   love            +        love
  love     | |田||.        . love                ._.、 ノ,_
.    __△__ |__,|_|| +  ._ _       ,'^y'⌒⌒ヾヽ.〃彡ミヽ.  ,〃ミ'彡ミ、    +
.    ヽ_____L..、_,i  , '´ ,_丞_ヾ'"ヾi"ミ. ))!#八~゙リ(,〈(((/(~ヾ》 ソノ〈〈、~゙))〉ニニヽ
     / ,ノノノぐ/*゚.-゚ノゝ.i ./ノノノ))〉(O=O)゙(.(ヾ(!゚ n゚ノ!) ヾ巛^ヮ゚ノ"  〈リ(_゚ -゚ノ>(゙)从ハ
   (9ノノ(,^ヮ゚ノK~キチス ノゞ(! ^ヮノ'σ)^ヮ゚ノj '゙ /ヽ、)ノ)づく"'i':=:゙i!}つ〔_〕キ干!〕’- ’*リノ、
  @ノノ (゙フづ∪i÷-|j((ソ/゙ミ三ノノi| 兄゙i⊃  U曰ニ〈  〈._,」"Yヾl.  U〉=ニ=iJ)'i:lと》))ソ
.    んく/__i.〉.Li_,_/」 ゙ゝU .  ノ/ il.__」!. + // ,!@   i†=|=|ノ   /_i__i_i_〉/ |;|_ ヾ'  love'
 +    じ'ノ  し'`J . ん、;___,ゞーじ' J'   ん、_!__!,ゝ.  |ー |-|.  +  |ー||-|. ~じじ~´
                                   ̄  ̄ .    ̄  ̄
7名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/13(金) 20:35:41 ID:ncHB3PQp0
乙!!書き込もうとしたら出来なくなってて焦ったww
次スレの話題も無かったし
8名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/13(金) 22:10:52 ID:3LaoF6sR0
良かったー! 新スレたってるー!
>>1 乙です! そしてありがとう。その3で一票投じたスレタイで、密かに嬉しいw
私、前スレの容量をほとんど一人で食いつぶしたSS書きです。
スレの皆さん、本当にごめんなさい。
容量まるで計算に入れずに昨日も長文投下したせいで、誘導も出来ないほどギリギリになっちゃった。
全部、私のせいです。皆さんが無事に辿りつくことを祈ってます。
(しかし、よく昨日全部投下しきれたもんだ・・・)
前スレにコメントくださった方、どうもありがとう。本スレでもよろしくです。
9名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/13(金) 23:11:27 ID:tFSuRNL5O
誘い受けは少しウザいですよ?
101:2006/01/14(土) 22:01:19 ID:z1rp0Ka80
良かった。見つけてくれる人がいて。
誰もたどり着けなくて荒らされてスレ終了、だと寂しいなーと思ってたので。

>>8
Jbyさんですか?前スレのSSほんとに乙です!!
お礼を書こうとしたら書けなくて慌ててこのスレ立てたんですよ。
でも本当に途中でスレ終了しなくて良かったです。
SSの途中で終了してたら焦らされて辛い事になるところだったw

んで、本スレでは『そういう話』はあるんでしょうか?
予想ではラプソーンを倒した後は姫様の結婚式での再会があるから
そのあたりのお話から続くのかなぁ、と思っておりますが。
まだまだ楽しみにしてます!
11名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/14(土) 23:31:00 ID:Hfqr0NvEO
>>1乙です!前スレに書き込めなくて焦ったよw
>>8いつも萌えSS乙です!是非このスレも食い潰してくださいなw
12名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/15(日) 00:15:24 ID:+85n9MOJ0
>>1
乙!わーい新スレだ嬉しいな。
まだ早いような…と思ったんですが、そうかそういう事だったんですね。
職人さんその他の皆さん今スレもがんがれ。
そろそろ絵板も新作見たいぞ。

>>6
激可愛い(;´Д`)
13名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/15(日) 01:34:56 ID:tg38ykKoO
>>1乙ー。
AAといえば前スレで小ネタ貼ってくれた香具師、またやってくれんかね?
14名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/15(日) 02:15:58 ID:XhXrlyif0
まとめサイトの事なんですが、前スレのSSがまだ半分くらい
アップされずに残ってますよね?
Dat落ちしたら読めなくなってしまうので、今のうちに
一時的に避難させておいて、まとめ人さんの時間があるときにでも
ゆっくり更新してもらった方がいいかな?と思ってるんですが、どうでしょう?

特に『お仕置き』が消えるのは哀しいなぁ。
15まとめ人:2006/01/15(日) 06:58:50 ID:u057FrOT0
>>14
遅くなってスミマセン
更新しました〜。
16名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/15(日) 13:10:12 ID:XhXrlyif0
うわ?ほんとだ!
まとめ人様いつもお疲れ様です!
催促したみたいでスミマセン。ゴメンナサイ!
これでいつでも読めます!
ありがとうございました!
17名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/15(日) 16:12:30 ID:F56cUJ/G0
1さん、Jbyさん、まとめ人さん乙です!
前スレ最後に書き込んだ者です。容量オーバーなんて初耳だ〜
みんなたどり着くといいな。
18名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/15(日) 18:39:39 ID:AA5td1o/0
age
19名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/16(月) 18:38:04 ID:lgjRRnb50
まとめ人様、いつも大変お世話になってます。JbyYzEg8Isです。
こんなスレをまたいでしまう連続物を書けるのも、まとめサイトさんあってのことです。感謝してます。
本当に足向けて寝られません。どちらの方向にお住まいかは存じませんが・・・w
今回もお疲れ様でした。
20名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/16(月) 20:19:44 ID:WbWosLcg0
もしかして、クラッカーはあなたですか?

http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1137175629/
↑このスレです

21名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/17(火) 23:01:33 ID:MBKjIla6O
ほしゅ
22名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/19(木) 10:01:51 ID:3WiwRBrN0
hosh
23『そして』前編1/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:09:24 ID:LtFCXAn+0
自分でも呆れるほど早かった。ラプソーンを倒してから、ものの五分もかからなかったと思う。
オレが自分を見失うまでの時間のことだ。

レティスの背中に乗りトロデーンに向かう途中、ゼシカが口にした言葉で、オレはわかりきっていたはずのことに、改めて気づかされた。
「ふう・・・。これでやっとポルクとマルクに報告できるわ。あと、サーベルト兄さんにも、ちゃんと報告しなきゃ・・・。私、自分の信じた道を進んで、ここまで来たのって」
ゼシカには故郷があって、旅の目的を果たした今、その大事な故郷に戻るべきなんだってことだ。
急速に自分の中の何かが冷えていくのがわかった。
だけど皆が喜んでるっていうのに、それに水を差すこともできなくて、何とか言葉を振り絞る。
「・・・やれやれ。我ながら、とんでもないところまでつきあわされたもんだな」
スカした口調で、キザったらしく前髪を掻き上げる。
「さすがのおっさんも、ここまでは来られないようでがす!」
ヤンガスの言葉に笑い声をあげる仲間たち。
だけどオレの心だけが取り残されて、一緒に笑うことができなかった。
少しずつ、ゆっくりと剥がしてきたはずの冷たい仮面は、外すためにかけた時間をあざ笑うかのように、あっさりと元に戻ってくれていた。

姫様やトロデ王が元の姿に戻り、城も、城の住人も呪いから無事に解放された。
それは素直に良かったと思えるけど、宴を楽しむ気分にはなれない。
せっかくドニの安酒とは段違いの上等なワインが振る舞われてるっていうのに、城の壁にもたれて、それをグラスの中で遊ばせてるだけだ。
『終わった後の事を考えろ』『それもできるだけ楽しいこと』
偉そうにゼシカに忠告してきたくせに、いざ戦いが終わってみたら自分がこのザマだ。
最後にもう一つ付け足すのを忘れてたのが失敗だった。
『ただし、現実味のあることにしておけ』ってやつをな。
ラプソーンを倒して目的を果たしたら、ゼシカに想いを打ち明けるつもりでいた。そして・・・。
そして? 笑い話だ、その後を考えてなかった。
戦いが終わった時に、ゼシカの頭に真っ先に浮かんだのは故郷のこと、そして兄のサーベルトのこと。そこにオレの入り込む余地なんてない。
本当に筋金入りのブラコンだよな。まあ、だからってゼシカの兄になりたいとも思わんがね。
24『そして』前編2/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:11:46 ID:LtFCXAn+0
トロデ王は嬉しそうに宴を仕切り、エイトは同僚らしき奴らに、次から次へと話を聞かれてる。ヤンガスはとにかく食いまくり。ミーティア姫は飲み慣れてないのか、顔を赤くしながらワイングラスを傾けている。
そしてゼシカは子供になつかれて、魔法を見せてやってるようだ。
そういえば故郷のリーザス村でも、ずいぶんガキ共に慕われてたみたいだもんな。
ゲルダの家みたいなところで一人で暮らしたいなんて言ってるけど、ゼシカには無理だ。
何だかんだいって、あいつも寂しがりやだからな。オレも同じだからよくわかる。
やっぱりゼシカは故郷に帰るのが一番いいんだ。

「あの・・・」
声のした方に顔を向けると、栗色の髪を後ろで束ねた女性がワインのボトルを持って立っていた。どうやら注いでくれるつもりらしい。
女性の勧めを断るのは失礼だから、とりあえず今グラスに入ってる分は飲み干した。
「私、エイミといいます。このお城の厨房で働いています。・・・あなた、まだこの城が茨に覆われていた時に、エイトと一緒にいらしたことがありませんか?」
ワインを注いでくれながら、その女性が訊ねてきた。
「ああ、ここの図書室に用があったりで、何度か」
「その時、祈ってくださってましたよね?」
「どうして、そのこと・・・」
まさか、あんな姿に変えられながら、この城の人間には意識があったっていうのか?
その可能性に気がついた途端、胃の辺りを何かにつかまれたような気分になった。
苦しいなんてもんじゃなかったろう。一体オレたちは何カ月、時間を無駄にしてきた? 
ああ、でも大半はエイトの寄り道のせいだ。いいヤツではあるんだけど、度外れたマイペース野郎なんだよな、あいつ。
「ああ、やっぱりそうでしたか。私、呪われていた間、ずっと夢を見ていたんです。真っ暗な世界で一人で取り残されていました。でも、あなたが祈ってくださった時、世界が急に明るくなったんです。
エイトやお仲間の姿も見えました。そうしたら、自分を助けてくれようとしている人達がいるんだってことが伝わってきて、とても勇気づけられたんです。
すぐにまた真っ暗な世界に戻ってしまいましたけど、そのことはずっと私の支えになってくれました。こうしてお礼を言える日が来るのを信じることが・・・。本当にありがとうございます」
25『そして』前編3/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:12:40 ID:LtFCXAn+0
あの時のあれは、別にそういうつもりじゃなかった。もちろん助けたいとは思ったさ。でもその手段は戦ってドルマゲスを倒すことであって、祈ることなんか気休めにしかならないと思ってた。神頼みなんか意味がないと思った。
でも・・・ああ、認めるよ。本当は祈ることは、ガキの頃からずっと嫌いじゃなかった。気は休めてくれるんだ、確かに。焦りや恐れは薄めることが出来る。根本の部分は解決されないにしても、その安らぎが必要な時だってあったんだ。
そんな自分のための祈りに、支えられたなんて言われると、正直ちょっと困る。

「少しでも・・・お役に立てたのなら何よりです」
騎士の礼をとって応えた。ラプソーンを倒したら騎士は廃業だと思ってたのに、身に染み付いたものは、なかなか取れない。
目を上げると、エイミさんは何やら様子がおかしくなっていた。何ていうか、オレを見る目がさっきまでとは違う。
「・・・何か?」
声をかけるとエイミさんは驚いたように飛び上がり、持っていたボトルが手を離れた。
下は芝生が生えているから割れはしないと思ったのに、運の悪いことにそのボトルは、剥き出しになっている石畳の上に落ちて砕け散った。
咄嗟にエイミさんの身体を引き寄せ、ガラスの破片から守る。
「す、すみません、大丈夫ですか?」
服のすそに少しワインがかかった程度で、今更ガラスでケガするほどヤワじゃない。慌てるエイミさんに、オレは笑顔を向ける。
「このくらい平気さ。それよりエイミさんは?」
「ええ大丈夫です。あなたがかばってくださったから・・・」
まただ。エイミさんの瞳が熱を持ち、そわそわと落ちつかなげだ。
・・・ああ、そうか。何のことはない。この美貌と、洗練された立ち居振る舞いで魅了しちまっただけのことだ。
このところ、あんまりにも靡いてくれない女のことばっかり考えてたから、これが一般的な反応だってことを忘れてた。
「キミにケガがなくて良かった。美しいレディを守るのが、騎士の務めだからね」
「やだ、そんな、美しいなんて・・・」
その時だった。オレンジ色の火の玉がとんできて、すぐ横の壁に見事な黒焦げを作ってくれたのは。
26『そして』前編4/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:13:35 ID:LtFCXAn+0
どうしてゼシカは、こう乱暴者なんだろうな。
潔癖なゼシカにしてみりゃあ、女性と見れば誰にでもいい顔するのが気に入らないんだろうが、もう力を合わせなきゃならない戦いは終わったんだ。オレが何しようがゼシカには関係ないはずだ。
「ゼシカ! そうやって簡単に人に向けて・・・」
『魔法なんて放つな』そう言うつもりだった。
だけどゼシカの方を振り返ったオレは、言葉を失った。
気の強い顔で、軽薄な男に嫌悪と怒りを示している姿をオレは予想していた。
だけど今、オレの目に映っているゼシカは、悲しいような恨めしいような目をして、唇を噛み締め、スカートのすそを握り締めている。
今にも泣き出しそうなその姿に、オレはようやく気づいた。
・・・ゼシカ、まさか、オレのことを・・・?

「ごめんなさい! 本当にごめんなさい」
さっきからゼシカはあちこちに謝りまくりだ。
オレやエイミさんはもちろん、城を焦がした件でトロデ王やミーティア姫に。驚かせたからって、周りにいた人たちや子供たちに。
これに懲りて、人間に向けて魔法を放つのは控えるようになってほしい。自分の魔力がシャレにならないレベルだってこと、わかってないんだもんな。
ちなみに、エイトとヤンガスにはオレが怒られた。鈍いのにも限度があるってな。
あいつらに言われるのは腑に落ちないけど、確かにそれはその通りだった。
オレはまだ諦めグセが直ってなかったんだ。
気持ちを伝える前からゼシカの気持ちを決めつけて、拒絶されることを怖れて勝手に諦めた。
つくづく自分の鈍さに呆れる。
ちゃんと意識してゼシカの様子を見ていたら、好きでもない男には絶対しないだろう言動のオンパレードだった。思えば結構前からそうだった気がする。
ゼシカ自身に自覚がないらしいのが、せめてもの救いだ。
・・・今更気づいたところで、もう遅いからな。
27名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/19(木) 19:15:15 ID:bzcAMBXe0
リアル遭遇キター*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!
後で読むの楽しみにしておく。とりあえず連投回避!Jbyさん頑張れ!
28『そして』前編5/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:15:16 ID:LtFCXAn+0
三日三晩続いた祝宴も終わりを告げ、それぞれが元の生活に戻ることになった。
エイトはもちろんトロデーンの復興に。ヤンガスはエイトと一緒にいるのかと思いきや、パルミドに戻った。もちろんその前にゲルダの所に怒りの鉄球を返しに行くって言ってたけどな。
いい加減観念して、そのまま住み着いちまえばいいのによ。
そして今、オレはゼシカと二人で世界を回ってる。
リブルアーチや聖地ゴルド、焼け落ちてしまったメディばあさんの家。その他にも暗黒神に命を奪われた人達に、敵討ちが終わった報告と墓参りをして回りたいとゼシカが望んだからだ。
ゼシカは全部の場所に花束を供え、オレは一応僧侶として祈りを捧げる。
失われた命は決して戻ってこないけど、ラプソーンを倒す前よりは、静かな気持ちでその場に立つことは出来た。
ゼシカも同じように感じてると思う。悲しみは伝わるけど、救えなかった人達への罪の意識や、それがもたらす痛みは大分薄れてるとわかる。
こんな華奢な女の子が、よくあんな化け物と最後まで戦い抜いたと思う。それどころか、最後の方は間違いなく人類最強だったからな。
・・・こうしてると、自分がラプソーンを倒した後、どうするつもりだったのか、漠然と考えてはいたのに気づく。
きっとこんなふうに二人で世界を旅したかったんだ。墓参りなんかが目的じゃなく、気の向くままに、自由にな。・・・ほんと夢みたいな話だぜ。

移動方法はほとんどルーラだから、三角谷で一泊しただけで、行きたいとこには全部行くことが出来た。
かなりハイペースだったとは思うけど、出来るだけ早く済ませちまいたかったからだ。
ルーラでリーザス村の入り口に着いた時も、まだ陽は落ち切っていなかった。

「ありがとう、いろいろ付き合ってくれて。私、ルーラ使えないから助かったわ。疲れたでしょう? 少しうちで休んでいって」
せっかくのゼシカの勧めだけど、オレは首を横に振った。
「いや、そんな疲れてもないさ。遠慮しとくよ」
今は少しでも早く、この場を離れたい。オレが取り返しのつかない行動に出る前に。
本当は、こんなふうに二人きりになることも避けたかった。
でもゼシカ一人で世界を回らせるなんて出来るわけがなく、オレがお供するって言ったらゼシカも喜んでくれて、他に選択肢なんて無かった。
29『そして』前編6/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:16:39 ID:LtFCXAn+0
「・・・あの、ククール? だいぶ前になるけど、覚えてる? 敵討ちが終わったら、リーザス村に来ること考えてほしいって約束したの・・・考えておいてくれた?」
・・・この話が切り出される前に、姿を消したかったんだ。
考えたさ、もちろん。この何日か、そのことばかり考えてたって言ってもいいくらいな。
でも何度考えたって答えは変わらなかった。
オレには無理だ。この村で暮らす自分なんて、とてもじゃないが想像つかない。
気づく順番が逆なら良かったんだ。ゼシカの、故郷や兄への思いと、オレへの想い。そうしたらゼシカを離しはしなかった。リーザス村になんて近づきもせずに、二人でゆっくり気ままに世界中を旅して回ってた。
そうしてる間はうまくやっていける自信はある。つまらないことでケンカしたりもするだろうけど、それでも仲良く過ごせただろう。
だけど、そんな時間はいつまでも続かない。いつかはどこかに落ち着きたくなる日が来て、そして思い出すんだ。大事な人が暮らしてる、生まれ育った故郷があったってことを。懐かしんで、帰りたくなる日がきっと来る。

でもきっとそうなっても、オレはこの村では暮らせない。
どうしてなんだか理由はわからないが、ゼシカの母親にも嫌われてるみたいだしな。
いや、理由なんて簡単だ。普通に考えて、母親として娘に近づいてほしくないタイプの筆頭だよな。軽薄な女好きで、なまじ美形なもんだから女の方からも寄ってくる根無し草。
そんなのが、美人で世間知らずで、男に免疫のない良家のお嬢様の相手なんて、どこかの捻りの無い芝居の脚本みたいで、本気だなんて受け取ってもらえるはずがない。
そして板挟みになって辛い思いをするのは、ゼシカだ。そんなことにはさせられない。
「・・・考えてはみたけどさ、やっぱりやめとくよ。こんな酒場も無いような健全な村で、オレが暮らせると思うか? どう考えても無理だろ? 気持ちだけもらっとくよ」
ゼシカもオレの答えは予測してたんだろう。少し寂しげではあるが、ショックを受けた様子はない。
「うん・・・そうよね。でもたまには遊びに来てね。そりゃあ遊ぶところなんて無いけど、私、いつでも待ってるから」
30『そして』前編7/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:17:57 ID:LtFCXAn+0
このまま何も考えず、何もかも振り切って、どこかにゼシカをさらって行きたい衝動にかられる。
でも、ゼシカの身体越しに教会が目に映り、ふと会ったこともない男のことが頭をよぎる。おかげで頭は冷えてくれた。
思いを馳せたのは、ゼシカの兄のサーベルトのことだ。
仲の良かった妹が、か弱い女性の身で、暗黒神なんてものを倒すために命懸けの戦いに身を投じる。
お嬢様育ちなのに、野宿もザラな旅を続けて、周りにいるのは空気読めない寄り道好きの呑気者と、思考がメルヘンなむさ苦しい悪人顔と、下心のある何やらせても半端な頼りない男。
そして可愛い妹がそんな道を選んだのは、自分が死んでしまったことが発端だなんて、たまったもんじゃなかっただろうな。
つまらないことで嫉妬して、ブラコン呼ばわりしてゼシカをいじめたりして、本当に悪かったと思ってる。
生きて力を貸せたことが、どれほど幸運なことか、わかってなかった。
辛いよな、死んじまったら何もできない。大事な人間が傷ついてても泣いてても、そばにいてやることさえ出来ない。
そんな簡単なことに今になってようやく気付けるほど、オレは勝手な人間なんだ。
・・・ちゃんと返すよ、あんたの大事な妹。
『守る』なんて大口叩いたけど、オレはほとんど上手くやれなくて、それでも何とかなったのは、ゼシカ自身が強かったからだ。逆にオレの方が随分救われてきた。本当に感謝してる。
「サーベルトは・・・死にたくなかっただろうな。可愛いゼシカを残して」
オレがサーベルトの名前なんて出すもんだから、ゼシカは少し驚いてる。
「でも、幸せだったとも思う。その大事な妹が、自分を慕ってくれたこと。・・・その点だけは羨ましいよ。オレもゼシカみたいな妹、欲しかったな」
オレにとっては嘘つくことなんて簡単なことで、自分の本音を晒すことの方がずっと難しかった。でも今は、こんな心にもないことを言うのが、やけに苦しい。
31『そして』前編8/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:18:57 ID:LtFCXAn+0
まっすぐ見つめてくるゼシカの視線が耐え難くて、逃れるためにゼシカの前髪を掻き上げ、その額にそっと口づけた。
「・・・何?」
ゼシカはとまどったような顔をしている。
「ラプソーンと戦う前、生きて帰ってきたら、キスしていいって言ってただろ? まさか忘れたのか?」
「・・・あれは、キスしていいなんて言ってない。そういう話は帰ってからにしてって言っただけよ・・・」
悲しそうな、困ったような顔。オレの態度に混乱してるのがわかる。
結局オレはこうなんだな。ゼシカを戸惑わせる存在でしかない。オレと一緒にいたってゼシカは幸せにはなれない。
わかってたはずだ、棲む世界が違うって。それなのに、すっかり忘れて勘違いして、一緒に生きていけるもんだと思い込んだ。
・・・でも無かったことにはしたくない。
顔だけが取り柄じゃないと言ってくれたこと。いつも心配してくれてたこと。迷わずに信頼してくれたこと。たくさんの小さな優しさ。そしてこんなふうに誰かを大切に思える気持ち。
ゼシカはオレに大切なものをたくさんくれた。それだけでもう充分だ。オレの全てを捧げると思う気持ちに変わりはない。たとえそばにはいられなくても。
「しばらくはドニの町にいるから、何か困ったことがあったらいつでも来いよ。必ず力になるから。ゼシカはほっとけないからな・・・世話のやける可愛い妹みたいでさ」
数秒しか経ってないのに、さっきよりずっと楽に嘘が言えた。
「ゼシカ姉ちゃ〜ん!」
いつも村中走り回ってるガキ共がゼシカの姿に気づいて、走りよってきた。
「ポルク、マルク」
ゼシカもそれに気づいて振り返る。
「じゃあな、ゼシカ」
そのスキにオレは数歩後ろにさがる。もう一度あの真っすぐな瞳に見つめられたら、抑えが効かなくなってバカなマネしちまいそうだ。
「えっ、ちょっと待って・・・」
ゼシカに止める間も与えず、オレはルーラの呪文を唱えた。
お互いのためにこれが一番いいんだと、自分に言い聞かせて。
32『そして』後編1/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:20:47 ID:LtFCXAn+0
「オレは、姫のしあわせを守るのも、近衛隊長の仕事だと思うんだがな」
ラプソーンを倒し、皆がそれぞれの生活に戻ってから三カ月が経った。
明日は、ミーティア姫と、あのチャゴス王子との結婚式。
ククールは、さっきからエイトに結婚式をぶち壊すようにけしかけている。
でもエイトは首を縦には振らない。ミーティア姫のことだけじゃなく、自分を今まで育ててくれたトロデ王や、トロデーンの人達のことを思ってしまって動けないでいる。エイトはそういう人。
「・・・わかった。お前がどうしても動かないっていうなら、オレがやる。明日、姫様を大聖堂からさらって逃げる」
ククールのその言葉に、私は心臓が止まるかと思った。
「よく考えたら、近衛隊長なんて肩書背負っちまったお前と違って、オレは騎士団を抜けた身軽な体だしな。最初からオレがやるべきだった。じゃあ、そういうことで。無理言って悪かったな」
そう言ってククールは宿屋を出ていってしまう。
唖然としているエイトとヤンガスを残して、私は彼の後を追う。
さっきの言葉を、本気で言っているのかどうか確かめたかった。

ククールはすぐに見つかった。彼はとても目立つから。階段の途中に立って大聖堂を見上げていた。
「ゼシカ? お前、女の子がこんな時間に一人で出歩くなよ。・・・って、何かこういうセリフ、もうそろそろ言い飽きたな」
私の気配に気づいたククールは振り返って、呆れたように言う。
その響きがカンに障った私は、つい声を荒げてしまう。
「だったら、言わなきゃいいじゃない! そうやって保護者ヅラしないでよ。私、ククールのこと兄さんみたいだなんて思ったこと、一度もないんだからね!」
ククールは私の顔をしばらくジッと見つめてて、それからちょっと寂しげに笑った。
「そうだな。ゼシカの兄貴はサーベルト一人で充分だよな。前に言ったあの言葉、取り消すよ。変なこと言って悪かった」
・・・違う。違わないけど、違うの。こんな言い方したいんじゃない。だけど、訂正するよりも先に、訊きたいことがある。
33『そして』後編2/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:22:24 ID:LtFCXAn+0
「さっきの話、本気で言ってたの?」
今の私には、他のことを考える余裕はない。
「ククールは、ミーティア姫のこと、どう思ってるの?」
「そりゃあ、姫様は美人で可愛くて、健気だからな。幸せになってほしいと思ってるよ。あんなチャゴスなんかにくれてやるのは、もったいなさすぎる」
「愛してる、わけじゃないの?」
「そう訊かれると、違うっていうしかないな」
ククールはあっさりと言い放つ。
「そんな軽い気持ちでよくあんなこと言えたわね。もし捕まったら、きっと死罪よ。あんた一人の問題じゃなくて、いろんな人に迷惑がかかるのよ。同情でそうするんだったら、無責任すぎるわよ」
「同情で何が悪い?」
刺すようなククールの言葉の響きに、私は何も言えなくなった。
「同情でも何でも、助けが必要な時は誰にだってあると思うぜ」
それはわかるわ。でも私が言いたいのはそんなことじゃない。
「それに、捕まるようなヘマはしないさ。ゼシカも知ってるだろうけど、花嫁っていうのは父親にエスコートされて、外から入場する。その時に乱入してルーラを使えばいい。
行き先は、そうだな。レティシアあたりがいいか。普通の奴らは追ってこられないし、あそこの服装はオレ好みでもあるしな」
・・・確かに、そのやり方ならうまくいきそうだわ。
わかってる、ククールは勝てない勝負は決してしない人。成功するとわかってるから、あんなこと言い出したんだって。
「あとは、あの時のパーティーメンバーが見逃してくれれば、それでOKだ。それともゼシカ、オレたちをチャゴスの奴に売ってみるか?」
私は一瞬で頭に血が昇った。
「バカにしないで!」
ククールを殴ろうとするが、あっさりとかわされてしまう。
「危ねえな、こんなところで暴れるなよ。悪かった、冗談だって。そういうことする奴は一人もいないって信じてるよ。そうでなきゃ、こんなにペラペラ喋るかよ」
34名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/19(木) 19:22:28 ID:bzcAMBXe0
ななな長いな・・・もっかい連投回避!(* ゚ー゚)つ
35『そして』後編3/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:23:31 ID:LtFCXAn+0
冗談だっていうのは、もちろんわかってる。でも私にとっては冗談じゃすまない。私、ミーティア姫に嫉妬してる。旅をしている間、私だけに差し出されていた手が、今度はミーティア姫に伸ばされる。
私と同じだけククールと旅をして、彼が本当に優しい人だってこと、ミーティア姫はきっとちゃんとわかってる。始めはエイトのことを想っていても、いつかはククールの事を愛するようになるかもしれない。そして、ククールはそんなミーティア姫を決して裏切ったりしない。
私は自信がない。そうなった時に、ククールが言ったように、醜い感情にかられてチャゴス王子に二人を売らないなんて言い切れない!
好きなのよ。私はククールを愛してるのに!

私はバカだ。どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。
会えなくなって初めて自分の気持ちに気が付いて、何度もククールに会いに行こうと思った。でもククールが私を守ってくれていたのは、世話の焼ける妹を見るような気持ちだったんだって知らされて、どうしても訪ねてなんていけなかった。
だけど、こうしてミーティア姫の護衛の同行を頼まれて、また会えるんだと思ったら、その前にこの気持ちに決着をつけたいと思った。妹じゃイヤだって。ククールのこと、お兄さんだなんて思えない。男の人として好きなのって、そう伝えたかった。
だから覚悟を決めてドニの町まで会いに行ったのに、その時ククールは出かけていて会えなくて。しかも、それを教えてくれたのが、ククールと今お付き合いしてるっていう踊り子さんで、ククールは今、その人の部屋で寝泊まりしてるってことまで教えてくれた。
確かにショックだったけど、私にそれを、どうこう言う権利はないのはわかってる。
だけど、それならどうして女の人をもう一人連れてきたりするの? それって二人ともに対して失礼じゃないの?

・・・でもそういうククールを最低だと思うのに、どうしても嫌いになれない。やっぱり好き。自分でもバカだと思うけど、どうにもならない。
花嫁強奪。それも一国の王女を一国の王子から奪うなんて危ないこと、してほしくない。
今よりも遠くには行かないでほしい。
でも言えない、どうしても。私は意気地無しだ。拒絶されて傷つくのが怖いのよ。
36『そして』後編4/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:24:38 ID:LtFCXAn+0
そして運命の夜が明けた。
ククールとヤンガスが起き上がって出て行くのがわかったけど、私はそのまま寝たふりをしていた。何となく、ククールと顔を合わせたくなかったから。
エイトは、まだ目を覚ます気配はない。一晩中ベッドに腰掛けて考えこんでたみたいだから無理ないけど。
でも私なんて横になってても眠れなくて、そのまま朝になっちゃったっていうのに、こうやって最終的に寝てるエイトも、やっぱりよくわかんない。
旅の間は、どこでも、どんな状況でも熟睡してる姿を頼もしいと思うこともあったけど、呑気者なだけなのかも。
そもそも、エイトが自分でミーティア姫をさらってくれれば、ククールが代わりにやろうなんて言い出さなくて済んだのに。その辺り、わかってるのかしら。
・・・ごめんね、エイト。今のは八つ当たり。相手は仕えてるお城のお姫様だもんね。そんなこと簡単にできるはずないよね。
『好き』って一言さえ言えない私に、そんなこと思う資格なかったわ。

そろそろ結婚式が始まってしまう。エイトはまだ眠ってるけど、私もとりあえず宿屋を出た。
大階段の下で、ククールとヤンガスが何か相談してるらしき雰囲気。本当にミーティア姫をさらって逃げるつもりなのかしら。
そう思って見ていたら、いきなりヤンガスがククールの向こう脛を蹴飛ばした。遠目に見ても、すごく痛そう。
「一応これで勘弁してやる。今度はちゃんとやれよ」
私が近づくと、珍しくヤンガスが真面目な口調でククールに言っているのが聞こえた。
「じゃあ、アッシはエイトの兄貴を呼んでくるでげす。あ、ゼシカの姉ちゃん、おはようでがす」
ヤンガスは普通に私に朝の挨拶をして、宿屋へと歩いていった。
「何やってたの?」
私が訊いてもククールは何事もなかったような顔をする。痛む足はおさえてるくせにね。
「いや、別に何も」
そうやって、私はいつも仲間外れ。何よ、いいわよ、もう。
・・・ククールを止めるなら今が最後のチャンスなのよね。でも何て言えばいいの? 私は散々助けてもらっておいて、ミーティア姫を助けるのはやめてって? 言えるわけないじゃない、そんなこと。

37『そして』後編5/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:25:19 ID:LtFCXAn+0
エイトが起き出してきた。もう結婚式は始まってしまっている。
「あんだけ人が多けりゃよ、どさくさにまぎれて、何かやらかしても大丈夫なんじゃねーかな」
ククールはあっさりと言う。人が多いとか少ないとか、そういう問題じゃないと思うわ。
「ミーティア姫様もガンコよね。いくら先代の約束でも、イヤなら、やめればいいのに・・・」
・・・イヤだ、こんな自分勝手なこと言うの。だけど思っちゃうのよ、どうしても。こんな結婚無かったことにしてくれれば、ククールだって無茶なことしなくて済むのにって。
「一国の姫君ともなると、そういうわけにも、いかないのかな?」
フォローの言葉のつもりで付け足したけど、だからって私の醜い感情が消えてくれるわけじゃない。
「あとオレたちは仲間だ。お前が何かするつもりなら、ちからを貸すぜ」
ククールの言葉に、それまでうつむき加減だったエイトが顔を上げた。その目には輝きが戻っている。
「ほら、行ってこい。姫様が待ってるぜ」
ククールに背を押され、エイトは弾かれたように階段を駆け上がっていった。

「はあ〜っ、やっと行ったか。全く世話の焼けるヤツだぜ」
エイトの背中を見送るククールの目は、とっても優しかった。でも何だか、もう自分の役目は全部終わったって感じ。
「・・・ククールは、行かないの?」
「何で、オレが?」
「何でって、昨夜言ってたじゃない。ミーティア姫をさらって逃げるって」
「その時ちゃんと言ったろ? エイトが動かないならオレがやるって。あいつが自分でやるなら、オレの出る幕じゃないさ」
・・・何よ、それ。要するにエイトにハッパかけただけってこと?
「ま、エイトが最後まで渋るようなら、姫様をさらった後にエイトのヤツもぶん殴って、レティシアに強制連行するつもりだったけどな」
・・・やりかねないわ、この人なら。でもこんなこと言ったって、多分ククールは信じてたと思う。エイトが自分の意志でミーティア姫を迎えに行くこと。
だけどどっちにしても、エイトとミーティア姫を結び付けるつもりだったってことで、自分が姫と暮らすつもりは無かったってことよね。私一人でヤキモキしてバカみたい。
38『そして』後編6/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:26:12 ID:LtFCXAn+0
「でも退路は確保してやらないとな。大聖堂の警護の騎士団員は腕の立つヤツが揃ってそうだしな」
そうね。私、自分のことばかりで、エイトのこともミーティア姫のこともちゃんと心配してあげられなかった。そのお詫びをしなくちゃ。
それに、煉獄島に押し込められたお返しをするチャンスでもあるんだわ。
「ゼシカ、手加減て言葉知ってるよな?」
またククールが見透かしたようなことを言ってきた。
「失礼ね、当たり前でしょ」
・・・ベギラマくらいはいいかなって思ってたけど、メラで勘弁してあげるわ。

エイトが大聖堂に乗り込むより先に、ミーティア姫とトロデ王は式場から逃げ出していた。
一国の主としては間違った行動かもしれないけど何だか嬉しい。土壇場で自分の気持ちに正直になってくれたミーティア姫も、王であることよりも娘の幸せを願う父親であってくれたトロデ王も。
騎士団員たちを蹴散らした私たちは、エイトたちが乗っている馬車が見えなくなるまで、その姿を見送った。
また私たちは解散して、それぞれの生活に戻る。そして・・・。
そして? それでいいの? エイトたちは国同士の結婚をぶち壊してまで、自分たちの想いを貫いたのよ? 私には失うものなんて何もないのに、何をためらってるの?

「ククール〜! 見てたわよ、すごくカッコ良かったー!」
私がやっとの思いで絞り出そうとした声は、バニーさんの声であっさり遮られた。
「エイトさんに会わせてくれてありがと。でもお姫様と駆け落ちしちゃうんだもの、つまんない。ねえ、そっちの丸くてワイルドなお兄さん。あたしのヤケ酒に付き合ってくれない? 一人で飲むのは寂しいの。でも飲むだけよ、パフパフとかはナシよ」
「アッシの場合はヤケ酒じゃなくて祝い酒でがすが、それで良ければ付き合うでがす」
意外なほとアッサリとお誘いを受けたヤンガスは、ククールを上目使いで睨んで言った。
「さっきの話、覚えてるな? これ以上ゴチャゴチャしてると・・・」
「わかってるって。今度は大丈夫だ、ちゃんと言う。もう蹴られるのはゴメンだしな」
何? 言わないと蹴られる言葉?
ヤンガスは今度は私の方を向く。
39名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/19(木) 19:27:32 ID:bzcAMBXe0
うぅ・・・これって最終回?終わるのイヤだぁ。゚(゚´Д`゚)゚。
でもがんがれってことで、もっかい合いの手。読むの緊張するよ、なんか・・・
40『そして』後編7/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:27:43 ID:LtFCXAn+0
「いいでがすか、ゼシカの姉ちゃん。ククールに泣かされるようなことがあったら、すぐにアッシに言ってくるでげすよ」
「うるせえよ、いいからサッサと行け」
ククールが追い払うような仕草を見せる。私は全然ついていけない。
「じゃあね〜、ククール〜」
ヤンガスとバニーさんは、キメラのつばさを使ってどこかへ飛んでいってしまった。
「ほんとにそのお嬢様、強いんだ」
今度は踊り子さんが声をかけてきた。
・・・この二人は今、一緒に暮らしてるのよね。ってことは、この場のお邪魔虫は私ってことで、私がどこかに消えた方がいいのよね。
「いいよ。もうこれで許してあげる。お嬢様、ククールのことよろしくね。ククール、このコのことまで泣かせたら、承知しないんだから」
・・・えっ?
ククールが申し訳なさそうにうなだれる。
「ああ、わかってる。本当に・・・」
「ゴメンなんて言ったら、別れてやらないよ」
「・・・ありがとう」
「そう、それでいいの。じゃあね、二人とも、お幸せに」
そう言って踊り子さんも、キメラのつばさでとんでいってしまう。
「とりあえず、オレたちも移動しよう。騎士団員たちが追ってきたら面倒だ」
そしてククールはルーラの呪文を唱えた。

着いたのはリーザス村の入り口。私の頭は本当に置いてけぼりで、何がおこってるのか考えが追いつかない。
「ゼシカ・・・」
ククールの手が、私の前髪を掻き上げる。そこまでは三カ月前の別れの時と同じ。
でも、今ククールの唇が重なっているのは額じゃなくて、私の唇。
「・・・愛してる」
今、何がおきてるの?
「今までごめん。オレは本当に意気地無しで、ゼシカに悲しい思いさせてきた。でももう逃げない、約束する。ようやく勇気が持てた、自分の気持ちに嘘はつかない。許してくれるのなら、ゼシカとずっと一緒に生きていきたい」
ククールの目はとても真剣で・・・でも、私はすぐには信じられない。
「だって・・・じゃあ、なんで女のひと二人も連れてきたりするの? それでそんなこと言われたって、信じられないわよ」
ククールはちょっと目を泳がせて、それからようやく聞き取れるような声でボソリと呟いた。
「断れなかったんだ・・・」
・・・何だか、急に納得いってしまった。
41『そして』後編8/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/19(木) 19:29:12 ID:LtFCXAn+0
「・・・そうよね。ククールって、意外と押しに弱くて、頼まれたらイヤって言えないところあるわよね」
エイトの寄り道も、文句言いながら全部付き合わされてたものね。
「ん、まあ、そうなんだけど・・・。ほんとゴメン。なんていうか、こんな情けないヤツで。多分この先、いろいろガッカリさせることあると思うけど、出来るだけ直すようにするから」
「・・・知ってるわ。他の人の為だと大胆だけど、自分のことになると結構臆病なところあるのよね」
でもそれは誰でも同じ。私だってそうだったもの。
「嘘つきなのも、見えっ張りなのも、意地悪なのも、単純なところあるのも、お調子者だったりするのも、全部知ってるわ」
それをうまく隠せてると思ってるあたりが、またマヌケなのよ。
「クールぶってるのがカッコいいって勘違いしてるところや、見た目は大人っぽいけど中身は子供なところも、全部知ってるわよ。今さら何を見たってガッカリなんてするわけないじゃない」
ククールはガックリと肩を落としてしまった。
「前からそうじゃないかと思ってたけど、ゼシカ、男の趣味悪いんじゃないか? どこがいいんだよ、こんなヤツ」
もうダメ、なんてカワイイ人なの! 好きになる以外、どうしようもないじゃないの。
「そういうとこ、全部よ!」
いろいろ言いたいこともあるけど、今はいいわ、全部許せちゃう。
我慢できなくて、ククールに抱き着いた。ククールもちゃんと抱き返してくれる。

「信じられないかもしれないけど、ほんとにずっとゼシカだけ見てた」
「知ってたわ・・・ずっと」
そうよ、気づいてなかってけど知っていた。ククールがどんなに私を優しく見ていてくれたか。だから私は自分の信じた道を進むことが出来た。
「愛してる」
声と身体の振動で二重に伝わる言葉。今度こそ本当に信じられる。
「私も、愛してる」
ようやく素直に伝えられた言葉。幸せすぎて怖いくらい。

また仲間たちは解散して、それぞれの暮らしに戻って、そして・・・。
そしてその後はこう続くのよ。
二人はいつまでも、仲良く幸せに暮らしましたって!

<終>

42名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/19(木) 19:33:16 ID:LtFCXAn+0
>>39
可愛すぎ! 抱きしめたくなるじゃないですか。
でも、鳥山先生風に言うと『もうちょっとだけ続くんじゃ』(DB知らない人ゴメン。年バレちゃう)
あと、この話の隙間も埋めます。彼にどういう心境の変化があったか、ちゃんと説明します。

しかし、ホントに今回長い・・・。読んでくださった方、お疲れ様でした。
43名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/19(木) 20:04:08 ID:bzcAMBXe0
スーパー乙です!回避ちゃんです。可愛いだなんて!(つω`*)テヘ
早速読んだよぉ〜。一番乗り?すごーーーーーーーーい良かった!!
場面が場面だというのもあるけど、今までで一番かも。萌えた・・・。

完全に終わりじゃないんだね、ヤターー!!ほんと好きなんですよJbyさんのお話。
読みやすいし適度に面白いし感情も物凄く伝わってくる。正直感激しました。
イバラにされてた人達に意識があって・・・という設定、泣けますた。
今日はなんか具合悪くてローだったのに、おかげでハイになれそうですよ!

実は私もサイトでSS書いてる端くれなんですが、書く側の立場から見ても
Jbyさんはやっぱりスゴイんだよね。いやいやほんと、自信持ってください。

そしてククゼシ万歳!おめでとう、お二人さん!
いつまでも、仲良く幸せに暮らしてくれー!!(*^o^)乂(^-^*)
44名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/19(木) 20:31:46 ID:H7UzgEH60
ありがとう、すばらしいものを見せてもらったよ。




GJ!
45名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/19(木) 22:05:05 ID:8IqhIFsa0
         .。::+。゚:゜゚。・::。.        .。::・。゚:゜゚。*::。.
      .。:*:゚:。:+゚*:゚。:+。・::。゚+:。   。:*゚。::・。*:。゚:+゚*:。:゚:+:。.
ウェ━.:・゚:。:*゚:+゚・。*:゚━━━━゚(ノД`)゚━━━━゚:*。・゚+:゚*:。:゚・:.━ン!!
  。+゜:*゜:・゜。:+゜                   ゜+:。゜・:゜+:゜*。     オボレル
.:*::+。゜・:+::*                        *::+:・゜。+::*:.´Д`;)ノ
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あまりの素晴らしさに言葉もよく出ません。
本当にお疲れ様でした。…もうちょっとだけホニャララ…も楽しみしてたりして。
あとそれから2人がケコってうわなんだおまえrやめrくぁwせdrftgyふじこlp;@

46名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/19(木) 23:47:16 ID:M1TmnaUf0
ィィ!(・∀・)
Jbyさん毎度乙です!
47名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/20(金) 05:00:23 ID:NGKMidCdO
GJ!

…よくGJとか神とかネ申とか言うけど、心からのGJとネ申を初めて感じた。
あんたすげぇよ。
48名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/20(金) 13:34:40 ID:+AQ3SvcP0
(m’∀’*)ホワ〜〜〜ン
あんまり恋愛経験なさそうなのにククールを叱り付けるヤンガスも、
潔く身を引いてくれた踊り子さんも、
ヤンガスと飲みに行っちゃうお姉さんも
そしてもちろん、やっと気持ちに正直になれた二人も
みんな良かったよ〜〜〜゚(ノД`)゚

Jbyさんって以前にも結婚式のシーンは書いてたから
もう書かないんじゃないかと思ってたけど
また結婚式シーンが読めてめちゃくちゃ嬉しい!

もうちょっとだけ、と言わずにまだまだ続けてください!
いつもすごい神SSうpしてくれてありがとう!
49名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/20(金) 20:57:33 ID:1xi/wg5Y0
みんな、心広いなあ。
私なんて今回の話、自分で書いてるくせして、何度かククールに対して殺意芽生えたのにw
事実上最終回と言ってもOKなハッピーエンド、気にいってもらえて何よりです。
でも、今回の話はハラハラヤキモキして読んでほしい話なのに、随分前からハッピーエンドにすると公言していた自分が憎いorz

確かに以前、城での祝宴も結婚式も書いてたんですが、あれは別解釈のククゼシで、キャラの性格等、ちょっと違ってます。
『とまどい』より前に書いてて、今の設定のククゼシは『約束』と『味方』だけです。(まとめ人さん、本当にありがとう)
『味方』には、その後編に当たる話を書く予定なので、良ければ頭の片隅に入れておいてください。
個人的には裏ダンクリア後エンドより、ノーマルエンドの方が好きなので、今回こっちにしました。
50名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/21(土) 09:42:33 ID:yV92GnMx0
うん、踊り子と同棲までさせることはなかったんじゃないか、とは思う。
51名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/21(土) 09:55:55 ID:qZ7NmJf+0
(*´д`*)モット激しく!!
52名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/21(土) 12:32:33 ID:682DpM9A0
>>23
あー、とうとう終わってしまったのですね。まだ幾つかネタがあるということですが、
寂しい気持ちでいっぱいです。

最後の最後で幸せいっぱいの二人。でも甘すぎないさわやかなやり取りが彼ららしいです。
そしてククの「ずっとゼシカだけ見てた」の台詞には、
ずっと綴られてきた彼の行動とか会話なんかが思い出されて、ジンと来てしまいました。
わたしJbyさんのククール、ほんと好きなんですよ。

最後に1つ。物事を始めるのは簡単。でもそれを最後まで完了させるのは努力と強い意志が必要。
だから連載小説を完成なさったこと十分誇って良いと思います。お疲れ様でした。
53名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/22(日) 13:36:37 ID:vjvVwOLC0
何様www
54名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/22(日) 17:54:31 ID:4g6JAYFg0
SSの書き手さんによって微妙にキャラの性格とか
設定が違ったりするけど、Jbyさんのキャラってみんな
無理がない感じで、すごい読みやすかったなぁ。

あえて言うならククールがかっこよすぎ&ゼシカがかわいすぎってところくらいw
本来のアホさとワガママさが薄められて、めちゃくちゃかっこよかったし
かわいかった。(*´Д`)

また小ネタが来る日を夢見てお待ちしております(・∀・)
個人的には「整っているようでいてブサイクすれすれの男」との
縁談をゼシカが断るところが見たいかも。
あ、でもそれじゃククゼシじゃなくなるのか。スンマソ。
55名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/25(水) 08:27:47 ID:bFMmjZes0
hosh
56名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/25(水) 22:17:44 ID:GMGX/9eP0
そして 拝見しました。うおおおおおおおJbyさんありがとうハァハァ(´Д`;)ハァハァ
ゼシカから見て、ククールがカワイイというのがめきめき伝わってきてこっちもにやにやし通し。
ククゼシの、ひとつの終わりを見ますた゚(ノД`)゚
57名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/27(金) 22:57:23 ID:Lbwoo8Vz0
58名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/30(月) 21:04:54 ID:bj9Igipn0
保守
59名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/31(火) 13:01:19 ID:/DfognO40
あ!
60名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/31(火) 22:02:00 ID:Aek7jR0L0
Σ(・A ・;)
61名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/01(水) 12:59:10 ID:m0IcwICw0
DQ8三週目始めた。ククールがかっこよすぎることに気付いた。遅すぎ。
指輪を渡されて、テレながら怒るゼシカが、ほんといいねえー。
62名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/02(木) 10:55:57 ID:/B2k8UlK0
>61
あれ、同じような状況w
ククール単独スレってまた落ちちゃった?
63名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/02(木) 13:02:06 ID:LkzpRRwR0
>62
落ちた。
最近スレが乱立傾向にあるようで、週二回は圧縮かかる(総スレ数670前後で圧縮)。
こまめに保守しないと落ちるよ。
64名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/03(金) 09:45:11 ID:2juwsHpJ0
hosh

>>61
いいなぁ。2週目したくなってきた。
でも時間がないから指輪のシーンだけ見ようかな。

次にやるときは弓と格闘技あげまくっていろんな特技がみたい。
65名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/04(土) 09:36:29 ID:1pifetCdO
>>64
禿同。
色んなククールが見たい!
66名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/04(土) 20:11:02 ID:SyLoTkBK0
( ´_ゝ`)フーン
67名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/05(日) 19:59:06 ID:TyZgrsev0
たくさんの労いのお言葉ありがとうございました。
もうちょっとだけと言っておいて、また長いの書いちゃいました。
『そして』の前編と後編の間の時系列の話ですが、ククール編の方、前スレの『秘密』を読んでない方には意味わからない話になっちゃいました。
すみません、予めご了承ください。
68『暖かい世界』ゼシカ編1/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:03:15 ID:TyZgrsev0
ラプソーンを倒し、リーザス村に戻ってきてから、もう一カ月。
本を読んだり、刺繍なんかしたりして、一日のほとんどを家の中で過ごしている。
ただ心だけが世界を飛び回っていた頃に戻る。たった一カ月しか経っていないのに、もう何年も前のことのような気がしてしまう。
痛いことや辛いこともたくさんあったけど、生きてるって実感できた日々。毎日が楽しかった。
だけど、懐かしく思い出したいのに、どうしてなのか悲しい気持ちになってしまう。
ラプソーンを倒せば、もう悲しいことはなくなるって思ってたのに、どうしてこんな気持ちになるんだろう。
ドルマゲスを倒した時、仇を討ったって兄さんが戻ってくるわけじゃないという当たり前のことを再確認させられて、虚しさに負けてしまった。
それに懲りたから、ラプソーンを倒した時はそうならないようにしようと決めていたのに、結局私は何も成長していない。
ククールが今の私を見たら、どう思うかしら。
あんなに何度も『戦いが終わった後のことを考えろ』って忠告してくれてたのに、私ったら全然それを活かせてないんだものね。
そりゃあ、子供扱いもされるわよね。
それなのに『心配でほっとけないからリーザス村で暮らさない?』なんて傲慢だわ。本当にバカみたい。

『ゼシカはほっとけないからな・・・世話のやける可愛い妹みたいでさ』
別れ際のククールの言葉が耳を離れない。
額にキスされたのはイヤじゃなかった。だってすごく優しかったから。
それなのに思い出すたびに、胸が締め付けられるような苦しさを感じる。
大事に思ってくれてるのは伝わってきたのに、どうしてなんだろう。
・・・とうとう最後まで対等な仲間になれずに、一方的に守られる存在でしかいられなかったんだとわかって、悲しかったのかもしれないわね。

「どうしたの、ゼシカ。あなたも熱が出たんじゃなくて?」
お母さんが心配そうに訊ねてきた。
いつの間にか額に手を当てていたから、そう見えたのかもしれない。
「ううん、何でもないわ。ちょっと考え事してただけ」
私が家に帰ってすぐ、お母さんは心労が祟って倒れてしまった。
ずっと一人で家を守ろうと気を張り詰めていたのが、緩んでしまったらしい。
要するに精神的なものなんだけど、やっぱり放っとけないので、こうして看病はしてる。
69『暖かい世界』ゼシカ編2/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:04:21 ID:TyZgrsev0
「少し外を歩いてきたら? 家の中にずっといたんじゃあ、気が滅入るでしょう?」
サーベルト兄さんが生きていた頃、家の中でジッとしてるのが大嫌いだった私に『少しは女らしく、家で花嫁修業しなさい』って言い続けてたお母さんの口から、こんな言葉を聞ける日が来るとは思わなかった。
この一カ月、私とお母さんは、今までに無いほど良好な関係を保っている。少なくとも一度も怒鳴りあってはいない。
お母さんの気が弱くなってるっていうのと、私も病人相手にケンカするつもりはないっていうだけなのかもしれないけど。
でも少し考えないといけないとは思う。
以前はサーベルト兄さんが仲裁してくれていたけど、その兄さんはもういないんだもの。
「私もそろそろ起きようかと思ってるのよ。今日の夕食は食堂で一緒に摂りましょう。最近あまり食べてないって聞いたわよ。少し動いて、お腹を空かせてらっしゃい」

せっかくお母さんが心配して勧めてくれるので、少し外の風に当たりにいくことにした。
教会までゆっくりと歩き、サーベルト兄さんの墓に参る。
兄さんのお墓を守りたいというのも、私がこの村に留まる理由の一つ。
旅が終わって仲間と離れるのが寂しくて、ずっと皆で旅を続けられたらいいなって思ってたけど、それは夢みたいな話で、皆それぞれの人生がある。
私はこうしてリーザス村で暮らしていくのが、やっぱり一番自然なことなのかしら。

「ゼシカお姉ちゃん、見て見て! 私、本当にモシャスが使えるようになったの!」
陽が落ちかかり家へ向かう道の途中、魔法使いを目指す村の女の子、ミーナが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ほら、スライムにモシャス!」
・・・ミーナは見事に変化した。
「あれー! 変だな、動けない。それにゼシカお姉ちゃんが大きく見える」
スライムピアスに。
「あーあ、つまんない。今度こそって思ったのに」
元の姿に戻ったミーナはボヤいている。
「ほら、だからメラから練習しなさいって何度も言ってるでしょう? 基本が出来てないからそうなるのよ」
それでも一応変化は出来てるんだから、才能はあるのよ。ちゃんと伸ばさないともったいないわ。
70『暖かい世界』ゼシカ編3/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:05:59 ID:TyZgrsev0
「ねえ、ゼシカお姉ちゃん、『コイワズライ』って何?」
この年頃の子の無邪気な言葉には、時々ドキッとさせられる。以前も『ボンッキュッボーン』て何? なんて訊かれて、返事に困ったことがあるもの。しかもそれ、村の人が私のことをそう言ってるんだっていうんだから、どう答えろっていうのよね。
「う〜ん。恋煩いっていうのはね。好きな人がいるんだけど、その人とうまく仲良くできなくて病気みたいになっちゃうことよ」
「病気になっちゃうの? それなら仲良くすればいいのに、どうして?」
これは難しいわ。私だって造形が深いわけじゃないのよ。
「だってね、好きな人が同じように、その人を好きになってくれるとは限らないのよ。二人ともが同じくらい好きじゃないと、仲良くはできないの」
ミーナが泣きそうな顔になってしまう。
「病気になっちゃヤダ・・・」
「ああ、違うのよ、本当に病気になるわけじゃないの。あくまで『病気みたい』になるだけ。だから大丈夫よ」
「ほんと?」
「うん、本当」
何度も頷いてしまう。苦手分野の話の途中で泣かれるのは辛いわ。
「じゃあ、ゼシカお姉ちゃんも大丈夫なの?」
「・・・私?」
「お父さんとお母さんが話してたの。ゼシカお姉ちゃんが帰ってきてから元気がないのは『こいわずらい』してるからだって」

それからの数時間、私の頭は考えるということを拒否したようだった。
普通にミーナと別れ、家に帰ってお母さんと夕食を食べ、お風呂に入って部屋に戻った。
だけどドアを閉めた途端、洪水のようにいろんな感情が溢れ出した。
あんな小さな子供に言われるまで気が付かなかった鈍い自分への腹立たしさ。村の人達に知られてしまっている恥ずかしさ。相談できる人が誰もいない寂しさ。そして気づいてしまった気持ち。
「ククール・・・」
名前を口にしただけで、涙が抑えられなくなった。
そばにいる時は、名前を呼ぶのが嬉しかった。私を見てくれる瞳も、返事をしてくれる声も、差し出してくれる手も、全部嬉しかった。きっとずっと好きだったから。
『世話のやける可愛い妹』
この言葉が頭を離れなかったのは、恋愛相手としては対象外だと言われたのと同じだったから。それがずっと悲しかったんだ。
だけど今さら気づいたってもう遅いのよ。私はもう一カ月も前に失恋してしまってるんだもの。
71『暖かい世界』ゼシカ編4/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:07:02 ID:TyZgrsev0
一晩中泣き続け、それでも明け方少し微睡んで、目を覚まして起き上がり鏡を見た時には、自分の顔のひどさにショックを受けた。
瞼は腫れ上がって、目の下には隈ができてて、とても人前には出られない。
こんな風になったのは、サーベルト兄さんが殺された時以来だわ。
・・・でも旅の間にだって、眠れずに泣いた夜は何度もあった。
だけどチェルスを死なせてしまった時も、メディおばあさんを助けられなかった時も、こんな顔にはならなかったのに。
そして私は、また気が付く。
こんな風に泣きあかした夜、明け方にやっぱり少し微睡んでいる時、緑色の柔らかい光を感じることがあった。今思うと、あれはホイミの魔法。きっとククールが、私が眠っている時を見計らってかけてくれてたんだ。
・・・私、本当に何もわかってなかった。
ククールが優しい人だってこと、知ってるつもりだった。いっぱい助けてもらって、守ってくれてたこと、ちゃんとわかってるつもりでいた。でもきっと他にもたくさんあったはず。私が気づかない間にしてくれていた優しさが。
・・・でもそれは全部『妹みたい』な私に向けられていたものだった。
そう思うとまた悲しくなって、一日中部屋に閉じこもって泣き続けた。

だけど不思議なもので、その後の私は、それまでの一カ月よりはずっと元気になった。
原因のわからない悲しさよりも、理由がはっきりしてる悲しさの方が幾分マシだったみたい。ポルトリンクへ定期船の様子を見に行ったり、リーザス像の塔の見回りをしたりと身体を動かし、食事も普通の量を摂るようになった。
私は面と向かってフラれたわけじゃない。少なくとも大事に思ってくれてはいたんだもの。今は『妹』でも、私が好きだと打ち明けたら女性として見てくれるようになるかもしれないんだし。
でもそう思う一方で、あれだけ勘のいい人が私の気持ちに気づいてないとは考えにくくて、遠回しに拒絶するつもりで、あんなこと言ったのかもしれないとも思ってしまう。
ククールはいつでも来いって言ってくれたんだから、ドニの町に行って確かめればいいんだってわかってるんだけど。
迷っている間に時間だけがどんどん過ぎていき、更に二カ月近くも時間を消費してしまった。
72『暖かい世界』ゼシカ編5/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:08:08 ID:TyZgrsev0
そしてリーザス村に、トロデーン城からの使いの人がやってきた。
使いの人に渡された手紙はエイトからのもので、ミーティア姫とチャゴス王子の結婚式の日取りが決まり、一週間後にサヴェッラ大聖堂へ向けて出発するので、その道程の護衛に付き添ってほしいという内容だった。
そして、ヤンガスとククールにも同じ内容の手紙を出したから、久しぶりに皆で会おうとも書かれてあった。
返事は口頭で構わないということだったので、もちろん護衛を引き受けると使いの人に告げ、お母さんにも許しをもらった。
久しぶりに皆に会えることはもちろん嬉しい。
だけど同時に怖くなる。どんな顔してククールに会えばいいんだろうって。
自分の感情を隠しておく自信なんて私には無い。たとえ自分では隠せてると思っても、ククールには絶対見抜かれてしまう。いつだって見透かされてきたんだもの。
もう臆病になってる場合じゃないんだわ。自分の気持ちに決着をつけないと。

キメラのつばさを使ってドニの町にとぶ。
だけどククールを探そうとして、彼がこの町でどういうふうに過ごしているのか、何も知らないことに気づく。住んでる所もわからない。
とりあえず酒場に行って訊いてみることしか思いつかない。
「ねえ、ちょっとそこのお嬢様、もしかしてククールに会いに来たの?」
町の入り口で客引きをしていた踊り子さんに、声をかけられた。
「えっ、あ、はい、そうです。・・・でも、どうしてわかったんですか?」
この町には何度も来てるけど、この人は初めて見る顔だわ。すごくキレイな人だから、会ったことがあるなら忘れたりしない。
「その胸見ればわかるよ。ククールから聞いてた通りだもん」
・・・ククール。一体私のこと、どんなふうに話してるの?
「残念だったね。ククールは人に会うって言って出かけてったよ。だけど、そんなに長居はしないって言ってたから、待ってればすぐ戻ってくると思うけど。良ければあたいたちの部屋で待つかい? 狭いとこだけど、座る場所ぐらいはあるよ」
せっかくの親切だけど、初対面の人の部屋にいきなりお邪魔するのは気がひける。
・・・ちょっと待って。
「・・・あたい、たち?」
「そ、ククールは今、あたいの部屋で一緒に住んでるの」
踊り子さんは、実にあっけらかんとした口調で教えてくれた。
73『暖かい世界』ゼシカ編6/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:09:27 ID:TyZgrsev0
来なければ良かったのか、トロデーン城で会う前に知っておいて良かったのか。
よく考えればククールは女の人には大人気で、お付き合いしてる人がいてもおかしくないのに、全くこういう事態を予想してなかった。
ショックが大きすぎて、案内されるままに町の外れにある家に入る。
「酒場のおかみの家の二階を、あたいたち踊り子やバニーの住まいに貸してくれてるの。本当は男を連れ込んじゃいけないことになってるんだけど、おかみさんもククールだったらって、特別に許してくれてるんだ」
一番奥の部屋に通された。
「本当に狭いけど勘弁してね。どうぞ座って、楽にしてよ」
私は勧めてくれた椅子に腰をおろす。
「何か飲む? って言っても安ワインしかないけど。昼間っからお酒なんて飲まない?」
「いえ、いただきます」
辛い時にお酒に逃げるのは最低の人間だと思ってたけど、今はそういう人の気持ちが少しわかる。飲まなきゃやってられない時ってあるのね。

「潔癖で真面目なお嬢様だってククールから聞いてたのに、結構イケるじゃない」
三度目のおかわりをした私に、踊り子さんは感心した声を上げる。
「ククールは、この町ではどんなことしてるんですか?」
忘れるためにお酒飲んでるのに、思考能力が落ちてくると、逆にククールのことしか考えられなくなる。
「ククール? そうねえ、外で魔物と戦ったり、教会でケガ人の治療したりしてる。結構忙しいみたいで、ここには寝るために帰ってくるだけ。ちょっと寂しいかな」
忙しい・・・。そうよね、私みたいに帰る家があった人間と違って、ククールは何もない状態から新しい生き方を始めなくちゃいけなかったんだものね。
「あたいとククールは、別に何ともないよ。まあね、こうやって男と女が一つの部屋に寝泊まりしてれば、何もないとは言わないけど、でもそういうんじゃないの」
あまりにも唐突に意外なことを言われて、ほろ酔い加減も吹き飛んだ。
「あたいね、出戻りなの。結婚して引退してたんだけど、たった二年でダンナに死なれたもんだから、最近復帰したってわけ。だからククールのことも昔から知ってる。あいつは寂しい未亡人を慰めてくれてるだけで、お互いに本気なわけじゃないの」
「・・・いいんですか? それで」
時々思い知らされることがある。ククールには、私には全く理解できない部分があるって。
74『暖かい世界』ゼシカ編7/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:12:20 ID:TyZgrsev0
「いいの。だってククール、昔からそうだったから。あいつ寂しがり屋だから、女と見たら誰にでもいい顔するの。本当に誰にでも変わらないから、あたいたちみたいな場末の女でも、お姫様みたいに大事にしてくれる。
気分いいよ、あんな王子様みたいなキレイな男に優しくされるのは」
「でも、そんなの本当に優しいっていうのとは違うわ」
ククールはそんなまやかしみたいなものじゃない、本当の優しさだって、ちゃんと持ってるのに。
「本当に優しいよ、ククールは」
静かだけど、はっきりとした言葉で返された。
「初めは誰もククールのこと、本気では相手しないの。本気になっても意味ないってわかってるから。でも、いつの間にかすっかりノボせ上がっちゃう。それでもやっぱりククールだけは変わらないから、すぐに冷めちゃって別れることになる。
だけどキライにまではなれないんだ。むしろイイ関係になれる。一緒にいる間だけは本当に大事にしてくれてたって、わかるからなんだよね。だから、あたいとククールは今、調度そういうイイ関係の状態なの。
それにあたい、亭主に死なれてまだ半年だよ。もう少し感傷に浸ってたいよ」
「・・・でも、好きなんですよね? ククールのこと本気で」
そうでなければ、こんなに優しい顔、優しい声では話せない。
「・・・驚いた。鋭いね、お嬢様。・・・ほんとに罪な男だよね、ククールは。本気になるもんかって、何度思ってもダメ。気がついた時には手遅れになってる。
でもククールが悪いわけじゃないの。前みたいに、こっちに期待を持たせるようなこと言わなかった。それどころか『オレは誰にも本気になれない理由がある』って念押しされたのに、こっちが勝手に本気になったんだから」
「本気になれない理由って・・・?」
「う〜ん、そこまでは訊かったんだよね。多分アレと関係あると思うけど。お嬢様知ってる? ククールが首から下げてる指輪。時々その指輪をジッと見て物思いにふけってるの。サイズから見て女のものじゃないから不思議なんだよね」
・・・それはきっと、マルチェロの指輪。
そうよね、あんな形でお兄さんと戦って別れて、今どうしているのかもわからないのに、恋愛なんてしてる心の余裕はないのかもしれない。
でもきっと一人で思い出すのは辛い時があって・・・誰かにそばにいてほしいと思う気持ちを責める権利なんて私にはない。
75『暖かい世界』ゼシカ編8/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:13:53 ID:TyZgrsev0
「私・・・帰ります」
「どうして? ククールだったらもうすぐ帰ってくるよ」
踊り子さんが引き留めてくれるけど、ここはやっぱり私のいる場所じゃない。
「いいんです、多分またすぐ会うことになると思うから。・・・あの、私がこんなこと言うの変なんですけど・・・」
私は立ち上がって、踊り子さんに頭を下げた。
「ククールのこと、よろしくお願いします」
ククールはいつも優しくて人に気を遣っていて、だからいつも心配になった。
自分のことは後回しにしてしまう人だから、せめて私だけでも心配してあげたいなんて思ってしまった。私の方がずっと子供なのに。
この人はとても大人で、ククールのこともよく理解してくれていて。いつか彼が自分の気持ちの整理をつけたいと思う日が来た時、きっと力になってくれる。
「・・・あんたが訪ねてきたって言ったら、きっとククール喜ぶよ」
「ワイン、ごちそうさまでした。失礼します」
もう一度頭を下げて部屋を出た。そして建物を出たところで気がつく。あの人の名前も聞いてなかったことに。
・・・また来よう。ちゃんと気持ちの整理をつけて、今日のお礼をしに。あの人とはお友達になりたい。
私は、ただアルバート家に生まれたっていうだけで『お嬢様』なんて呼ばれて、苦労もなく育ってきた。何もしなくても暖かく迎えてくれる世界で生きてきた。それに甘えて、人に好かれる努力をしてこなかったから、今度のことでも誰も相談できる人がいなかった。
それに比べてククールは、全て自分で努力して手に入れてきたんだ。心配してくれる人たちの気持ちを。
私も負けたくない。

・・・なんて思ったのよ。トロデーン城でククールたちに再会するまでは。
ククールはあの踊り子さんの他にもう一人バニーさんまで連れてきていた。
「ククールのいくとこなら、どこだってついてくって、決めたんだからさ」
聞こえよがしの大声で踊り子さんが言う。一週間前は大人の女性だって思ってたのに、何なのこれ。遊びに来てるんじゃないのよ、お姫様の護衛の仕事なのよ? 信じらんないわ。
あっさりエイトと離れて暮らしてるヤンガスも、チャゴス王子なんかと結婚するミーティア姫も、それを止めないトロデ王もエイトも、皆信じられない。
そして、あんなククールのことなんかを、まだ好きだと思う自分のことが、何より一番信じられない!
76『暖かい世界』ククール編1/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:16:59 ID:TyZgrsev0
ラプソーンを倒し、ドニの町に落ち着いてから二カ月近く経つ。
いや、落ち着いてっていう表現は正しくないかもな。そんなヒマなんてまるで無かったから。
ラプソーンを倒しても、全てが解決するほど、世の中甘くなかった。
マイエラ修道院とドニの町の周辺は、もうメチャクチャというしかない状態になっていた。オレが余計なことをしたのも原因の一つだ。
三大巡礼地の一つである聖地ゴルドが崩壊し、神頼みが好きな連中は救いを求めるように、サヴェッラ大聖堂とマイエラ修道院へ殺到した。
だけどマイエラ修道院では、騎士団員たちが毎日飲んだくれてて、まともな運営がされてなく、かろうじて修道士によって支えられてた。
それなのに、オレが下手に教会のお偉方にゴルドへの救援要請なんかしたもんだから、マイエラに残っていたまともな聖職者たちのほとんどが、ゴルドへと派遣されちまった。
マイエラ修道院は機能停止状態になった。
修道院の回りを警護する騎士団は役目を放棄し、巡礼者たちを魔物から守るヤツは誰もいない。それでも何とか逃げ延びて、ようやく修道院に辿り着いた巡礼者たちの傷の治療を出来る聖職者も、ほとんど残っていない。
だけど、巡礼者たちにそんなことが事前にわかるはずがない。巡礼をやめさせる手段なんてものも無い。
おまけにラプソーンのせいで、闇の世界から出て来た強い魔物たちがまだ残ってて、この辺をウロウロしてるもんだから、死人ケガ人、続出の状態だった。

そんな中でオレに出来ることは、人を襲ってる魔物を退治することと、ケガ人をドニの教会に誘導して治療することぐらい。
毎日修道院の周りを巡回し、魔物を倒して、巡礼者たちを死なせないようにはしてる。
大分慣れてはきたけど、一人で戦闘能力の無い人間を守りながら魔物と戦うことは、正直かなりキツい。
ラプソーンと戦う方が楽だったような気がするくらいだ。
今思うと、あのラプソーンも、ほんとに小者だぜ。
普通だったら、暗黒神なんてものを倒せば、魔物が人を襲うことなんて無くなって、世界は平和になるって話は決まってるだろうに、そんな気配はほとんど無い。
もう心配なくなったっていうのに、空が赤く染まったことを不安に思い続ける連中が、神にすがろうとすることも変わらない。
ゴルドの女神像が暗黒神だったなんて皮肉すら、何も変えることが出来てないんだからな。
77『暖かい世界』ククール編2/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:18:02 ID:TyZgrsev0
一人で生きていきたいと何度も口にしたことがあるけど、実際にはなかなか難しい。
今も、ドニの町の人間を巻き込んで、迷惑かけてる。
特にシスターには申し訳ない。自分で誘導したケガ人は、自分で治療するようにはしてるけど、それでも傍観してられない優しい人で、手伝おうとしてくれるもんだから、ただでさえ一人できりもりしてる教会なのに、負担がデカくなってる。
それと、居候させてもらってる踊り子のリンダにも迷惑かけてるとは思う。
言葉遣いは少し粗いが、昔から細かいことにこだわらないサッパリしたアネゴ肌で、面倒見のいい女だった。
魔物退治とケガ人の治療に追われて、教会で仮眠を取るだけのオレを見かねたんだろう。二週間ほど前にいきなり教会にやってきて、ケガ人の治療を終えたオレの腕をつかんで有無を言わさず部屋に引きずり込み、自分のベッドに寝かせてくれた。
そしてオレはそのまま住みついちまった。

初めの一カ月は闇雲に魔物退治に一日のほとんどを費やし、何も考える余裕がなかったけど、最近は大分慣れてきたせいで、部屋に戻るといろんな事を考えちまう。
首から下げている、騎士団長の指輪を取り出す。
オレが今ここでやってることは、自己満足の範囲を出てないことはわかってる。
本当にこの土地で起こってることを解決したいなら、この指輪を使って団長命令とでも何でも得意の嘘を吐いて、騎士団員たちに修道院の周りの警護をさせればいい。
でもオレがサヴェッラで打った芝居が元で、修道院が機能しなくなった。今度もまたどこかに無理が生じるんじゃないかと思うと、二の足を踏んじまう。
つくづく中途半端な自分に呆れる。
そして、視線は指輪を通している鎖へと移る。
指には嵌められないブカブカな指輪を失くさないようにと、ゼシカがくれたもの。
旅の間に集めた武器も防具も、全部トロデーンに置いてきたから、これだけが唯一の旅の記念にもなる。
・・・あんな別れ方をしたけど、そのままにしておくつもりじゃなかった。
自分の気持ちにもっとはっきり区切りをつけて、もう少しマシな態度で接することができるようになったら、様子を見に行こうと思ってた。
なのに日々にただ追われて、二カ月も放ったらかしにしちまってる。
78『暖かい世界』ククール編3/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:20:16 ID:TyZgrsev0
・・・オレは本当に何もない人間なんだと思う。
何やらせても中途半端なうえに、まともな感情も持ち合わせていない。
あんなに別れが辛かったはずのゼシカとも、会わなけりゃ会わないで何ともない。
それどころか、他の女の部屋に住みついて、平気でその女を抱いてる。
親代わりの院長の仇さえ、まともに憎めなかった。暗黒神なんて名乗っちゃいるが、滅ぼされるために復活させられた、哀れな化け物としか思えなかった。
マルチェロのことだって、一応気にはなってるが、本当に心配してるんだかどうだか自信がない。
きっと、オレはどこか感情が欠けてるんだろうな。

人間、必要に迫られれば、何でもできるようになるもんだ。
レイピア一本で魔物退治するのはかなりキツくて、もう少し切れ味のいい剣を貰っとけば良かったと後悔もしたもんだが、おかげで剣の腕はあがって、武器の性能に頼らなくてもいい大技も習得できた。
だいぶ落ち着いた状態になったのか、ゴルドにいた騎士団員や派遣されてた修道士が戻り始め、修道院の周辺も落ち着きを取り戻しつつある。
ようやく少し身体を空ける余裕が出来たので、オレは時間を見つけてルーラでベルガラックへととんだ。
カジノのオーナーの、フォーグとユッケに呼ばれてたからだ。
先代のギャリングは、オレの死んだ親父がここのカジノで負け込んだカタに、領地を没収したっていう、それだけ聞くと険悪になりそうな関係なんだが、ガキだったオレにいろいろ良くしてくれて、養子縁組の話までもちかけてくれた恩人だ。
イカサマカードを初め、ロクでもないことばかり教えてくれた師匠でもある。
だから、ここの兄妹が困ってる時はいつでも力になると約束した。それが少しでも恩返しになってくれればと思いながら。

「久しぶり、クク兄。元気だった?」
ユッケの出迎えの言葉を聞いて、思いっきり脱力した。
「ユッケ、頼むから『クク兄』はやめてくれ。力が抜ける」
「えー。でもお兄ちゃんだと、フォーグお兄ちゃんと区別つかないし」
「だから、無理に兄呼ばわりしないでいいから。ククールでいい」
「だって、せっかく背が高くて顔のキレイなお兄ちゃんが出来たんだもん。自慢したいじゃない」
「背も高くなくて、顔もキレイじゃなくて悪かったね」
フォーグがちょっとスネたような声で抗議した。
79『暖かい世界』ククール編4/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:21:22 ID:TyZgrsev0
「今日来てもらったのは他でもない。三カ月前の大王イカの件なんだ。うちの用心棒たちが不甲斐ないばかりに、キミの手をわずらわせたそうだね」
・・・ああ、あったな。そういうこと。ラプソーンとの最後の戦いの前、大当たりしそうな予感があってカジノに立ち寄った時に、水遊びしてる大王イカを退治したんだ。せっかく黙っててやったのに、バレたのか。
「こんなことでは、彼らに身辺警護を任せるのは心もとない。そこでキミに彼らを少し鍛え直してもらいたいんだよ。引き受けてもらえないか? よければそのまま、この街に残ってもらいたいとも思ってるんだ」
フォーグの誘いに、正直少し心は動いた。
マイエラの周辺は落ち着いてきたし、いつまでもドニの町の人間の好意に甘えてるわけにはいかない。それにベルガラックの街はオレには合ってると思う。・・・少なくとも、リーザス村よりは。
「少し考えさせてほしい。引き受けるにしても、今いる所をすぐに離れるわけにはいかないんだ。ちょっといろいろ立て込んでてさ」
「何、クク兄? 暗黒神とやらを倒しても、まだ何か大変なことあるの?」
「だから『クク兄』はやめろって・・・ユッケ、お前何で暗黒神なんて?」
フォーグとユッケは顔を見合わせて呆れ顔をする。
【世界一のカジノのオーナーの情報網をナメないでほしいね】
兄妹仲のいいこった。見事にハモって答えてくれた。

・・・またオレは、助けられてたんだ。
大王イカを退治した日、オレは100コインスロットで二時間の間に『777』を三回出した。隣で見てたエイトは、イカサマしたと勝手に決めつけてたけど、無理に決まってるだろ、そんな芸当。
あれはこの二人が、裏で手を回してくれてたんだと気づく。オレたちが暗黒神なんてものと戦ってるのを知って、武器や鎧を遠回しに差し入れてくれたってことか。
「あと、父の遺品を整理してたら、こんなものが出てきたんだ」
フォーグが見せてくれたものは、一枚の書類。土地の権利書だった。
今は何もない、ただの荒れ地になっているこの土地は、かつてオレの生まれた家があった場所・・・。そして名義人の欄には、オレの名前があった。
「その権利書の名義が書き換えられたのは、父が亡くなる前の日なんだよ。そういうことを決して口にする人ではなかったけど、何か予感めいたものがあったのかもしれないな」
80『暖かい世界』ククール編5/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:22:27 ID:TyZgrsev0
「それとこれ、多分一緒に書いたと思うんだけど、クク兄あてだと思う。中は見てないからわかんないんだけど、多分ね」
ユッケが封がされた手紙を渡してくれる。宛て名には『デカくなったチビスケへ』と書かれてある。予感めいたものがあった人の書く言葉とは、とても思えなくて、思わず苦笑しちまった。
オレは権利書をフォーグに返す。
「これは、受け取れねえよ。もらう理由がない」
「そう言われても、こっちだって困る。父がどんな気持ちでこうしたのか、わからないわけじゃあるまい? はい、そうですかと引き下がるわけにはいかないよ」
「・・・それはそうだよな。・・・正直、ちょっと動揺しててさ。悪いけど、とりあえずは預かっといてくれ。あと、こっちの手紙はもらってっていいんだよな?」
ユッケが黙って頷く。
「悪いな、今日はこれで帰らせてもらうよ。近いうちにまた来る。さっきの話もそれまでに考えとく。・・・ほんとに、いろいろありがとな」
ギャリングの屋敷を出てすぐ、オレはルーラの呪文を唱えた。

移動した先は、ふしぎな泉。他に一人になれる場所を思いつかなかった。
我ながら取り乱しっぷりがすごい。指先が震えて、手紙の封を切るのにも苦労するくらいだ。
なのに、ようやく取り出した便せんに書かれていたのは、あっけないほど短い言葉。

『幸せになれ』

「なんっ、だよ、これ・・・」
宛て名より短いじゃねえかよ。こんなもん、わざわざ封筒に入れてんじゃねぇよ。
何なんだよ、ほんとに・・・。ちくしょう、不意打ちくらわせやがって。目からヨダレが止まんねえじゃねぇかよ。
「師匠っ・・・」
あんた、ほんとにずっとオレのこと忘れずにいてくれてたんだな。なのにゴメン、オレはすっかり忘れてた。
あんたが教えてくれた、たくさんのこと。いつか巡り会える本物も、諦めるなと言ってくれた言葉も。そして何よりオレにだって、幸せを願って心配してくれる人がいるんだってことを・・・。
オレはいつだって誰かに助けられてた。勝手にスネて諦めて、そのことから目を背けてただけだったんだ。
ありがとう、思い出させてくれて。もう少しで、気づかずに生きていくところだった。オレを取り巻く世界は、いつだってこんなに暖かかったんだってことを・・・。
81『暖かい世界』ククール編6/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:23:55 ID:TyZgrsev0
「ゼシカ・・・」
口にしただけで、胸に柔らかな光が差す名前。オレが手に入れることのできる『幸せ』なんてものがあるのなら、それは彼女のところにしかない。
「・・・愛してる」
・・・ゼシカのことはずっと心配してたんだよな。あいつ、絶対ロクでもない男に騙されるって。まさかそれがオレのことだとは思わなかった。
練習しなくちゃ愛の告白もできないほど情けない男だとは、思ってないだろうな。本性知られて『だまされた』って言われても文句は言えない。
でも、それで愛想つかすかどうかは、ゼシカに決めてもらえばいい。
母親との板挟みになる心配なんかも、オレの空回りだった。
ゼシカはどんなことだって、自分で決めた道をまっすぐに進んできたんだ。オレはそれに従えばいい。
知ってたはずなのに、すぐ忘れる。ほんとにオレは忘れっぽいんだ。

ドニの町に戻ると、教会の前に人だかりが出来ていた。何でもトロデーン城からの使者が来てたとかで、王家とか城に縁のない町の人間たちには、ちょっとした話の種になってたらしい。シスターが預かっててくれた、エイトからの手紙を受け取る。
内容は、一週間後にサヴェッラへ出発するミーティア姫様の護衛の付き添いを頼みたいというもの。
おい、一週間後って何だよ! 話が急すぎるっつーの!
こっちにだって予定とか事情とかあるって、考えろよ。人が良さそうな顔して、相変わらず呑気者のマイペース野郎だぜ。
だいぶ落ち着いてきたとはいえ、今この土地で、闇の世界の魔物を相手できるやつは他にいない。その状態で何日も、留守にするわけにはいかないんだ。
「使いの方にはお引き受けすると、お返事しておきましたから」
シスターにあっさり言われて、オレは面食らった。
「返事したって、引き受けるって、でもオレは・・・」
「いい加減に一人で何でも背負い込もうとするのは、おやめなさい。あなた一人がいないくらいで、この地方が滅ぶわけでもないでしょう? それよりも大事なお友達が困っているのなら、助けてあげなくてはいけませんよ」
言われて初めて思い至る。いくら一緒に世界を旅した仲間だからって、オレたちみたいな馬の骨を姫様の護衛につけなきゃならない程、トロデーンが人手不足とも思えない。エイトはエイトなりに悩んでて、自分でも気づかないうちに助けを求めてきたのかもしれないんだと。
82『暖かい世界』ククール編7/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:24:59 ID:TyZgrsev0
「ねえ、ちょっと話変わるんだけど、ククール。あんたが留守の間に、胸の大きなお嬢様がも訪ねてきてたよ。ほんとにタイミングの悪い男だね」
リンダが呆れたような声で教えてくれた。
胸の大きなお嬢様って・・・。
「ゼシカが?」
「そう、一目でわかったよ。ほんとに水風船みたいな胸してたから。あんたが今、あたいの部屋に寝泊まりしてるって言ったら結構ショック受けてたよ。ちょっと悪いことした」
うっわ、最悪だな、おい。我ながら、我ながら本当にタイミングが悪い。でも事実だし、口止めしてたわけじゃないし、リンダを恨むわけにもいかない。
「ふ〜ん・・・大層な慌てっぷりだね。なーにが『オレは誰にも本気にならない』さ。『本気の相手がちゃんといる』だけじゃないか、この大嘘つき!」
返す言葉もないとは、このことだ。
「あんた、何やってんの? あのコの気持ちに気づいてないわけじゃないんでしょ? あたいに『ククールをお願いします』って頭下げてったよ。それ聞いた時、あんたのこと殴ってやりたくなったね」

・・・そうだ。本当に、オレは今まで何をやってたんだろう。
オレは誰の気持ちも受け入れなかった。どうせ誰も本気じゃない、女たちだって見た目の良さにつられてるだけだと決めつけて、二股かけるのだって毎度のことだった。
でも今ならわかる。オレがどれだけの本当の気持ちを踏みにじってきたのか。今だってそうだ。リンダだって、寂しさや同情からだけでオレと一緒にいるわけじゃない。人の心なんて、そんなに器用にできてない。
彼女たちがオレを想ってくれていた気持ちに不足があったわけじゃない。・・・だけど、今さら悔いてもどうにもならない。
「ごめん、リンダ。今までのいろんな事、全部含めて申し訳なく思ってる。世話になりっぱなしで勝手だけど、オレはもうキミとは暮らせない。別れてほしい」
オレの心はもう決まってしまった。たった一人の相手を見つけてしまったんだから。
「甘いね。それで許されるとでも思ってんの?」
「・・・え?」
「決めた。あんたはちょっとこらしめてやんないとね。お姫様の護衛とやら、あたいもついてく。それで思いっきりベタベタして、あのお嬢様に見せつけてやる」
・・・何で、そういう話になるんだ?
83『暖かい世界』ククール編8/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/05(日) 20:26:41 ID:TyZgrsev0
「それで愛想つかされるようなら、自分の今までの行いが悪かったって諦めるんだね。今まであんたに弄ばれてきた女たちの分、まとめてお返しさせてもらうよ。せいぜい覚悟しな」
「ちょ、ちょっと待て。お返しはこの際いいとして、これは遊びで行くんじゃなくて、王女様の護衛なんだから、ついてくとか言われてもダメだって」
いや、そもそもオレ、行くって決めたわけでもないし。
「あ、それならアタシも行く〜。手紙くれたエイトさんて、お城の近衛隊長さんなんでしょう? 会ってみたい、連れてってぇ」
ドニの町でも一番のミーハーバニー、エレナが話をこじらせてくる。
「だから、遊びじゃないんだって。無理に決まってんだろ」
「もし連れてかないって言うんなら、あんたのちょっと言えないような話、あのお嬢様に全部吹き込むよ。それがイヤなら観念するんだね」
リンダ、こえーよ。っていうか、ちょっと言えない話って、心当たりありすぎてシャレにならん。
「そのお嬢様に嫌われたくないんでしょ? リンダと二人きりなら完璧カップルになっちゃうけど、アタシも一緒ならただの連れですむじゃない? だから連れてって。エイトさんに紹介して」
エレナの言葉に、つい納得しそうになり、慌ててその考えを振り払う。
「ほんとに勘弁してくれ。他のことなら何でもするから、これだけは絶対無理だって!」

・・・オレはほんとに情けない。結局押し切られ、二人ともトロデーンに連れてくるハメになった。
ゼシカはかなり怒ってる。城の中庭で再会した時も、サヴェッラへ向かう船の中でも、ほとんど口をきいてくれない。リンダが宣言通り、見せつけるようにベタベタしてくれるからってのもある。
だけどゼシカの怒り方を見て、少し安心もしてる。脈ありな怒り方っていうのかな。
ごめん、ゼシカ。ずっと寂しい思いさせてきた。そしてこれからも、しばらくそれが続くと思う。
オレはこの護衛が終わったらまたドニに戻る。闇の世界や空飛ぶ城から来た魔物だけは、何とかしてマイエラ地方から一掃したい。それだけはどうしても譲れないんだ。
面倒なヤツですまないとは思うけど、選んだ相手が悪かったと思って諦めてくれ。
そのかわりオレはもう二度と諦めたりしない。この先に何があったって、ゼシカと一緒に生きることだけは、決して諦めないことを約束するから。

    <終>
84名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/06(月) 00:26:34 ID:0Pa2jkYM0
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85名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/06(月) 00:31:09 ID:0Pa2jkYM0
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                  `''─ _________ ─''´


お待ちしてました!夜更かししてよかった!!(´∀`*)
JbyさんのSSが終わって寂しかった。
全てが終わってショボーンのゼシカの気持ちがよく分かった。
いや、私は読むだけで何も大仕事が終わったわけじゃないんだけども。

ところで、やっぱり踊り子さんとククールは何もなかった訳じゃないんですね。
大人の男と女が一緒に寝るわけだから、そりゃそうか。
ゼシカ、がんばれよ・・・。
86名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/06(月) 00:37:03 ID:rOxX3/ZU0
せ、切ない・・・・・。゚(゚´Д`゚)゚。
87名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/07(火) 18:55:46 ID:3Eszzlea0
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
心理描写が上手くて感激です。
88名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/07(火) 20:04:55 ID:NTD8pHaz0
キングスライムちゃん、スライムのかんむり落としてー!
じゃなくて・・・。
読んでくださってありがとうございます。
今回ちょっとククもゼシも可哀想(ゼシカは純粋にククールは株が下がるようなこと書かれ)すぎたので、次は仲良くする話に挑戦してみようと思います。
(ダジャレに逃げずに)
・・・書けるかな?
89名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/07(火) 21:21:14 ID:8Qf0LZDJO
乗り遅れましたがGJです!!!!
良いククゼシでした…!

次回も楽しみにしてます!
90名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/07(火) 21:40:29 ID:mBX1Lqsu0
おー!まだ続きがあるのですね。楽しみにしてますよ。
>あたいに『ククールをお願いします』って頭下げてったよ。
>それ聞いた時、あんたのこと殴ってやりたくなったね
ってとこが、もうね、きてる。泣かせるなぁ・・・。
そんなゼシカの姿、そして心情を思い浮かべると、胸が痛いよ。
でもさ、ククールが普通におとなしくなるわけないってのはわかるんで、
ちょっと紆余曲折もってきたってわけなんだよね?仕方ないか。
あーでもあたいもククールぶん殴ってやりたくなったねw
91名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/07(火) 21:51:28 ID:ENM8AJcM0
なんなんだ。この人たち。
92名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/07(火) 22:08:46 ID:9qRSyftSO
>>91
ククゼシに燃える人達です
93名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/07(火) 22:38:38 ID:voNgxhTU0
怖いですよ
94名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/08(水) 00:04:21 ID:BaZKbqo0O
ダジャレとか勘弁してほしい。これだからオヴァは嫌いだ。
95名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/09(木) 18:34:40 ID:hvj6eg9t0
ぜったいに、つづきかいてよ!
96名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/10(金) 08:20:58 ID:DiWSL/z20
妄想すいっちお〜ん!!!
97名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/12(日) 00:39:35 ID:KF9Dj9mn0
ほしゅ

北米版やりたいなぁ。
98名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/13(月) 12:04:12 ID:hLZyumKd0
hosh
99名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/14(火) 16:01:25 ID:eJJQmT7W0
バレンタインだというのに静かですな。
この二人、どっちがどっちに贈るんだろう?
100名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/14(火) 17:02:43 ID:knFN74Vh0
女性がプレゼントするのは日本くらいとか。
クックルがチョコあげればいいじゃなーい。100
101名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/14(火) 19:35:04 ID:CBkr5wOG0
age
102名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/15(水) 00:34:21 ID:PXsnPTUx0
また投下しに来ました。
バレンタインネタ(日付変わったけど)じゃなくて、すみません。
今回は前後編じゃなくて、1レスごとに語り手交代するので、少し読みにくいかも。
あと、ちょっぴりエロいかも。
15禁以上18禁未満というとこかな?(実は基準がよくわかってませんw)
苦手な方はスルーでお願いします。
103『月を照らす光』1/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/15(水) 00:36:32 ID:PXsnPTUx0
「ごめんゼシカ。本当はこういう時、もう離れないって言わなくちゃいけないんだろうけど、すぐにそうする訳にはいかないんだ。空が赤くなったことと、ゴルドが崩壊したせいで、マイエラ修道院に巡礼に来る人間が増えてる。
当然ドニの町にも人が多く来るんだけど、あそこの教会はシスター一人しかいないから、オレが手伝わないとちょっと大変なんだ。しばらく寂しい思いさせるけど、わかってほしい」
悲しげに曇るゼシカの顔を見るのは、胸が痛む。
「一段落着いたら、必ずリーザス村へ行く。だからそれまでゼシカには待っててほしい」
三カ月も待たせておいて、ようやく想いを伝えた直後にまた待てなんて、我ながらひどいとは思う。でも先延ばしにすれば、余計に失望を大きくさせるだけだ。
暗黒神ラプソーンのせいで起こった異変は、世界中のほとんどの人間を恐怖に陥れた。
なのに、ラプソーンがもたらす破滅に関してはもう心配いらないと、証明する術が無い。
結果、人は神にすがろうとする。サヴェッラ大聖堂と同じように、マイエラ修道院にも救いを求めた人間が集まってくる。道中には、闇の世界やラプソーンの空飛ぶ城から来た、普通の人間には歯が立たない、凶悪な魔物が待ち構えていることも知らずに。
それは何も、マイエラ地方だけの問題じゃないのはわかってる。
でもやっぱりあそこは、オレにとって特別な場所だ。親代わりになって育ててくれた、オディロ院長が治めていた修道院。自分勝手なことばかりしてたオレを、仕方ないというような顔をしながら、笑って受け入れてくれてた人たちのいるドニの町。
どうしても、この手で守りたい。ラプソーンのせいで現れるようになった魔物だけは、どうにかして根絶やしにしたいんだ。
「できるだけ早く、ゼシカの所に行けるようにする。・・・今は、それしか言えない」
この期に及んで隠し事をしてると思うと、罪悪感でいっぱいになる。
だけど全てを話せば、ゼシカもオレと一緒に戦おうとするだろう。それは絶対にいやだ。
こんないつ終わるかもわからない、最終目的のはっきりしてない擦り減るだけの毎日に、ゼシカを巻き込みたくない。
「うん・・・わかった、待ってる」
スカートのすそを握り締め、寂しさを堪えながらも、真っすぐ顔を上げて答えてくれるゼシカ。
いじらしいその姿に、オレの方が離れがたい気持ちになった。
104『月を照らす光』2/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/15(水) 00:38:27 ID:PXsnPTUx0
人間て贅沢なものだと、つくづく思う。
つい数時間前まで片思いだと思ってて、ククールも私を好きでいてくれてるとわかっただけで幸せなはずだったのに、また離れ離れにならなきゃいけないと言われて、思いっきり沈み込んでしまった。
「ゼシカ、デートしようぜ。今日一日はゼシカの好きなことに付き合うからさ。何でも言う事きくよ」
なのに、泣きそうな気分はククールのその一言で一瞬にして吹き飛んだ。
我ながら本当に単純にできてると思う。

今の私の望みはたった一つ。一緒にいられれば、それだけでいい。
そう伝えるとククールはルーラでベルガラックにとび、カフェでテイクアウトのお弁当と飲み物を買って、今度はトロデーン城へと移動した。
だけど目的地はお城じゃなくて、少し歩いたところにある湖。あまり大きくはないんだけど、底が見えるほど水が澄んでいる、とても綺麗なところ。
暖かい陽差し中で、柔らかい草花の匂い嗅ぎ、風に揺れる水音を聞く。
三カ月も会わずにいて、言いたいことも訊きたいこともたくさんあったはずなのに、話をするのはもったいないような気までしてしまう。
ただ手をつないだまま地面に寝そべって、ゆっくりと時間を過ごした。
それだけで、泣きたくなるほど幸せだった。

陽が沈みだし、辺りが茜色に染まると、呪いから解けて暗雲が消えたトロデーンの城はオレンジの背景の中で夢のように美しいシルエットを映し出す。まるで絵画の中にいるような錯覚さえおこしてしまう。
そして空の青と夕日の赤が交じり合い、紫色に染まった空は徐々に赤を失っていき、代わりに星たちの煌めきへと変わっていく。
・・・夜になってしまった。
「さすがに夜になると冷えるな。・・・行こうか」
ククールのその言葉は、今の私には刑の執行のように聞こえてしまう。
「イヤ。まだ今日は終わってないもの。私のいうこと、何でもきいてくれるって言ったわ。お願い・・・せめて朝まで、一緒にいたい・・・」
手も声も震えてしまう。ククールは少し驚いたような顔をして私を見ている。
心臓が爆発しそうだけど、このまま離れてしまうのは絶対イヤ。
「・・・意味、わかって言ってるんだよな?」
私だって子供じゃない。意味はもちろんわかってる。でもとても言葉にはできなくて、ただ黙って頷くしかできなかった。
105『月を照らす光』3/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/15(水) 00:40:47 ID:PXsnPTUx0
正直、少し驚いた。
まあ自然な流れではあるんだけど、まさかゼシカの口から、あんな言葉を聞けるとは思ってなかった。
でも完全に心の準備はできてないんだろうな。その証拠に、バスルームに入ったきり全然出てこない。先に風呂を使ったオレの髪が、もうほとんど乾くほどの時間だ。
急かさずに待つつもりでいたが、ノボせてるか湯冷めしてるかのどっちかだろうから、ドア越しに声をかけてみる。
「ゼシカ、大丈夫か? いつまでもそんなとこにいると身体壊すぞ」
「ま、待って。今出るから」
ひっくりかえったような声が返ってくる。少なくとも溺れてはいないらしい。
少しして、バスローブに身をつつんだゼシカが出てきた。ガッチガチに堅くなってるのがわかる。普段あれだけ露出度の高い格好してるくせに、こういうところがアンバランスだよな。
「長湯したから、喉渇いたろ? そんなとこに突っ立ってないで、こっち来て座れよ」
できる限り、いつもと変わらない調子で声をかけ、ゼシカの手をとりソファに座らせる。グラスにワインを注いで差し出すが、受け取ろうとする手が震えてて、どうにも危なっかしい。
「・・・怖いんなら無理しなくていいんだぞ。そんなことしなくても、今夜はちゃんとそばにいるから。またオディロ院長作のダジャレでも聞かせてやろうか? 未公開のがまだまだあるぜ」
「やだ、やめてよ。あの時は笑い過ぎてお腹痛くなったんだから」
ようやく少し笑ってくれた。ワインをゆっくりと飲み始めてる。
ふと、ゼシカの髪がかなり濡れた状態なのに気づく。バスローブの肩の辺りに、水が落ちて滲んでいる。
「髪の毛、濡れたままだと風邪ひくぞ」
タオルで頭を拭いてやる。今夜はありったけの理性を総動員して、優しく紳士でいよう。今までさせてきた分と、これからしばらくの間させる寂しい思いを、少しでも埋め合わせしたい。
その時は確かに本気でそう思ったんだ。
でも、突然ゼシカがオレの胸に飛びこんで、自分の身体を押し付けてきた。
「私・・・子供じゃないわ」
ありったけ総動員したところで、オレの理性の総量なんてタカがしれてた。
だけど、これで紳士でいられるヤツがいるわけない。もしいたとしたら、そいつは紳士を通り越して男じゃない。
せめてもう一つの方、優しくすることだけは忘れずにいようと、自分に言い聞かせた。
106『月を照らす光』4/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/15(水) 00:45:47 ID:PXsnPTUx0
頬に手を添えられて顔を上に向けられる。
「本当にいいのか? これ以上先にいったら、もう止まらないぞ」
本当は逃げ出したいくらい怖い。心臓が止まりそう。でも朝になったらまた一緒にいられなくなる。このまま離れたら、絶対に後悔する。
「・・・抱いて」
言い終わると同時に、唇がふさがれた。昼間のような優しいキスじゃなくて、食べられてしまうんじゃないかと思うほどの激しさ。
息が苦しくなるほどの時間それが続いて、ようやく解放されると同時に抱き上げられてベッドへと運ばれ、バスローブの紐が解かれた。
もう私はされるがままになるしかない。
「あ、あの・・・私、初めてだから・・・」
蚊が鳴くようなかすれ声しか出ない。
「わかってる。全部まかせてくれればいい。力抜いて、楽にして」
もう頭の中グチャグチャで、何も考えられない。
ただ時々『大丈夫か?』と問いかけてくるククールの言葉に何のことがわからないままに『大丈夫』と答えるだけ。
怖さも、痛さも、恥ずかしさも、息苦しさも、なにもかもが今まで知らなかった感覚ばかりで、泣きたくなる。
ククールはすごく優しくて、ずっと気遣ってくれて。そのことは嬉しいはずなのにその一方で、私はこんなに緊張してるのに、余裕たっぷりな態度が、にくらしくさえなってしまう。
だけど、ふれあってる肌のぬくもりだけは本当に温かくて。それを感じてる間は、不思議なくらい安らいだ気持ちになれて。
ずっとこのままでいたいと、そう願ってしまった。
だから、全て終わって気が緩んだ時、思わず口走ってしまった。
「離れたくない・・・ずっと一緒にいたい」
困らせるだけだとわかってる。でもどうしても我慢できなくて、涙が溢れてしまう。
ククールは一瞬、辛そうな顔になって、その後すぐに強く抱き締めてくれた。
ヤキモキしたこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、幸せだったことも寂しさも、全然何も整理ができてなくて、自分でも信じられないくらい大声で、小さな子供のように泣きじゃくってしまった。
でもようやく我慢してた言葉を吐き出せて、気持ちはずっと楽になっていった。
107『月を照らす光』5/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/15(水) 00:50:26 ID:PXsnPTUx0
可哀想なことしてるんだと、つくづく思う。ゼシカにしてみたら、オレが想いを打ち明けたことも、すぐに一緒にいられないことも、突然に押し付けられたことだ。感情の整理がつかなくて当たり前だ。
なのにそれでも、ずっと一緒にいるとは言ってやれない。本当にオレは、どこか感情が欠落してるとしか思えない。

「ごめんね、わがまま言って。泣いたら、なんかちょっとスッキリした」
少しして顔を上げたゼシカの声には、確かにいつもの調子が戻ってきていた。この立ち直りの早さには随分救われる。
オレはテーブルにワインとグラスを取りにいく。
「喉かわいたろ? ゼシカの声ってかわいいよな。何度も抑えが効かなくなりそうになった」
途端にゼシカはうろたえる。
「な、何て言い方するのよ、バカ! どうしてそうやって、いっつも私をからかうの?」
「ムキになるのが可愛いから」
「何よ、意地悪」
そう言ってスネた感じで顔を背けたゼシカは窓の外を見て、こう続けた。
「ククールって、月に似てるよね」
突拍子もないことを言われるのは毎度のことだが、今度は何を思ったんだろう。つられてオレも窓の外を見上げる。
旅の間は不思議と満月ばかりが目についたけど、今日は弓の形に良く似た三日月だった。
「欠けたり満ちたりする気まぐれな所がそっくりよ。さっきまで優しかったと思ったら、急に意地悪になるんだから」
毒舌まで戻ってきた。相変わらず的確にツボを突いた辛辣さだ。
「でもどんな形でもキレイよね。気まぐれでも、いつでも好き。だからあんまり意地悪しないでね。それでも嫌いになれないから、よけいくやしいのよ」
いつでも真っすぐなゼシカは、愛情表現も本当にストレートだ。真っ正面からぶつかってくる。
オレはいつも自分には何かが欠けてると思ってた。強い感情が苦手で、愛情も憎しみも、自分自身で持つことも受け入れることも出来ずにいた。
・・・そうだな。もしオレがゼシカの言ってくれた通り、月に似てるとしたら・・・。
雲に隠れて、光が当たってなかっただけなのかもしれない。
もしゼシカのように真っすぐ正面から、光りを当ててくれる人がそばにいてくれるのなら・・・。
案外そこには、どこも欠けていない自分、なんてものを見つけることが出来るのかもしれないな。
108『月を照らす光』6/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/15(水) 00:58:38 ID:PXsnPTUx0
ドアの閉まる音で目を覚ます。一瞬、ククールがどこかに行ってしまったんじゃないかと慌てて飛び起きるけど逆だった。
ククールはもう完璧に身支度を整えていて、どこかに行って帰ってきたところだった。
「ごめん、起こしちまったか。服買いに行ってたんだ。昨夜調子に乗りすぎて、ちょっといつもの格好じゃマズいから」
まだちょっと寝ぼけてる私は、言われたままにククールから渡された袋を受けとり、バスルームに移動する。
ククールが買ってきたという服は、私がリーザス村にいた時の普段着のような、窮屈そうな白のブラウスだった。私が動きにくい服は好きじゃないって知ってるのに、どうしてなんだろう。でも、せっかくわざわざ買いに行ってくれたんだから、一応着るけど。
そして、バスローブを脱いで鏡を見て気がついた。首の回りとか胸元が、虫さされみたいに赤くなってることに。
・・・もしかして、これって話だけ聞いたことがある・・・。さっきククールが言ってた『調子にのりすぎた』って
お母さんに見られでもしたら、どうなると思ってんの? しばらくこんな窮屈な服着てなきゃなんないじゃないの。先まで見通してるような顔して、こういうところで考え無しなんだから!

リーザス村の入り口まで、ククールがルーラで送ってくれた。
またしばらく離れ離れだけど、三カ月前とは違う。あんなに悲しい別れじゃない。
「・・・ほんと、ごめん。寂しい思いさせる」
「いいのよ。それより無理しないでね。私、ちゃんと待ってるから」
「ああ・・・じゃあ、また」
ククールが意識を集中してルーラの呪文を唱える。
・・・と、思ったのに、呪文は中断され、ククールはいきなり私の肩をつかんだ。
「一カ月だ。それ以上は待たせない。っていうか、オレの方が我慢できない。一カ月後の今日、必ずここに来るから、それまでの間だけ待っててくれ」
そして、そのまま私の返事も聞かずにルーラでとんでいってしまった。
・・・ククールって、あんなに慌ただしい人だったっけ?
何か本当に、忙しく変わる人だから、今だに掴みきれないわ。
でも約束してくれた。一ヶ月だけ待てばいいって。
一緒にいられないのが寂しいのは私だけじゃなかったんだって。
そう言ってくれたのと同じなのよね、きっと。
<終>
109名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/15(水) 07:41:30 ID:1SQhuWSO0
お疲れ様でした!(・∀・)
ちょっとどきどきしますた。
110名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/15(水) 20:26:00 ID:QQTj1jVO0
乙です!微エロもたまにはいいですね(´Д`*)
111名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/15(水) 21:07:59 ID:8/WMaOgc0
ハァハァ(´Д`;)ハァハァありがとうありがとう
112名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/16(木) 12:16:46 ID:qjQu7npe0
わあああああああああ(萌・悶
これ微エロ?エロとの境界線、よくわからないけど。
妹扱いされて傷付いてたゼシカならではの台詞ですね>私、子供じゃないわ
一ヶ月後も、書いてくれるんだよね?Jbyさん!!
113名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/16(木) 19:31:25 ID:Fo9So+It0
いつも応援してくれて、ありがとうございます。
微エロ認定してもらえて、ホッとしました。どこまでOKなのか、ほんとにわからなかったんでw
えーと、これの一ヶ月後の話が前スレで書いた『味方』なんです。
(まとめサイトで見てみたら五ヶ月も前だったw こんな書き方が出来るのも、まとめ人さんのおかげです。しつこいようだけど、ありがとう)

なので、次は更にその三ヶ月後の話を書かせてもらいます。その時もよろしくお願いします。
114名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/17(金) 08:17:26 ID:kir13iYl0
( ´ー`)フゥー...
115名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/17(金) 12:07:15 ID:imczPmsE0
参考までに…

某過去スレでの「このスレで性描写はどこまでOKか」談義を一部転載

292 :名前が無い@ただの名無しのようだ :05/03/15 22:37:10 ID:y3Re5NPn
性描写を飛ばして次シーンへワープ
やっちゃったことだけを前後の文章で匂わせる>15禁

性描写あり・性器の名称はぼかす>18禁

バリバリの性描写ありで放送禁止用語垂れ流し>21禁

…だそうです。
ここは全年齢板なのでせいぜい15禁(=朝チュン程度)まで。
◆JbyYzEg8Is さんのssはOKだと思いますよ。
116名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/17(金) 22:26:17 ID:9kzpoxotO
突然お邪魔します。
いつもは別のところで書いているのですが(こちらも読ませていただいてます)
ククゼシ要素が強くなりすぎてしまったのでこちらに投下させていただきたいのです。

以上の事情から、ククゼシ以外に主姫要素も含んでいます。
ご注意ください。
117手綱 ◆JSHQKXZ7pE :2006/02/17(金) 22:27:57 ID:9kzpoxotO
外は嫌味なまでにいい天気。
「ゼシカ、出ていらっしゃい。今日の主役がそれでは皆困ってしまいますよ」
閉ざした扉の向こうからお母さんの声が聞こえる。でもそんなこと知らないわ。だってもう、
行かないって決めたんだもの。
「ゼシカお嬢様、どうかお部屋に入れてくださいまし。お仕度させてくださいまし」
メイドたちの声もするけど、知らんふり。行かないんだから仕度する必要なんてないんですも
の。
がっちり閉ざした扉に私の決意の強さを分かってくれたのか、漸く静かになってくれた。けど
今度は外の方の物音が気になりだす。誰かこの村に着いたのかも。あの声はポルクとマルクか
しら?え?
「ゼシカお姉ちゃんが出てこない」
ですって?嫌だわ、そんなこと大きな声で言わないでよ。
玄関が開く音がする。階段を昇ってくる足音は二つ。軽やかで華奢なものとちょっと重い、しっ
かりしたもの。お母さんと何か話し合っているみたい。でも部屋からは一歩だって動かないわ。
「ゼシカ、あなたにお客様よ。出てこなくてもいいから、ご挨拶はなさい」
お母さんが静かに、でもきっぱりと言う。…仕方ないわ、お客様なら。自分の口から事情を話
して帰っていただかないと。
そう考えて閂を上げ─連れ出されそうになったらすぐ呪文を唱えて逃げる心積もりをして─扉
を開けた。
「ゼシカ、久しぶりだね」
「ゼシカさん、こんにちは。まあ、綺麗なドレス!」
エイトとミーティア姫様だった。二人ともにこにこしつつも有無を言わせず部屋に入ってくる。
「二人とも久しぶりね…ってどうしてここに?」
唖然としている私に二人は顔を見合わせ、エイトが口を開いた。
「あれ?だってそういう予定だったんじゃないの?」
「ええ。約束の物、持ってきたのよ」
隣でミーティア姫様がにっこりする。ああ、そう言えばそうだったっけ。
「トロデーンに伝わる装身具のセットよ。『何か借りた物』の」
「ああ、そうよね、そうだったわよね。どうもありがとう。…でももういいの」
持ってきてくれたことは嬉しかったんだけど、でももうそれは必要ない。私は二人の前を離れ、
部屋の奥の鏡台の前へ移動した。
118手綱 ◆JSHQKXZ7pE :2006/02/17(金) 22:29:22 ID:9kzpoxotO
「え?何で?」
エイトがとぼけた声を出す。ああもう、ニブいんだから!準備の済んでいないこの様子を見れ
ば分かるでしょう!
「もう行かないって決めたの」
「え。だってみんな集まって集まっているよ。義父上は代父だっていうんでやけに張り切って
いるし。ほら、ヤンガスなんてばっちり礼装しているんだよ」
「…」
ぷい、とそっぽを向く。何でそんな子供を宥めるようなこと言うのよ。それにヤンガスの礼装
なんてエイトの結婚式の時に見ているわ。
「ゼシカさん」
と、急に横で黙ってやり取りを聞いていた姫様が話し掛けてきた。
「行きたくないのならここでおしゃべりでもしませんか?」
予想外の言葉に私もだけどエイトも眼を剥いた。
「ミーティア」
「エイトは先に行っていて。女同士の会話なんですもの」
「…うん、分かった」
姫様のきっぱりとした態度にエイトは渋々頷いて部屋を出て行く。が、その後姫様が扉に鍵を
かけたのに気付いた。
「え?」
「さっ、これでゆっくり話せるわ」
にこにこしながら言うんだけど、何だか怖いわ。
「ゆっくり?だってもうお客様も揃っていて、式が始まるんでしょ?」
「あら、主役の一人がいないのでは式は始められないわ」
あれ、連れ出しに来たんじゃないの?
「女の方のお仕度は時間が掛かるものなんですもの。皆様もそれは分かっていてよ。だって一
生に一度のことなんですもの」
「一生に一度、ね…」
その言葉に深く溜息を吐いた。
「そのつもりだったんだけどね…」
「あら、そうでしたの?てっきりまだ心を決めかねているのでは、と思っていましたのに」
何て言うか…似たもの夫婦よね、エイトとミーティア姫様って。きょとんとした顔がそっくり
だわ。
119手綱 ◆JSHQKXZ7pE :2006/02/17(金) 22:30:49 ID:9kzpoxotO
「私も決心していたし、あいつもそうだったと思うのよ。少なくとも早くこの村に馴染むため、
ってことで式の大分前にここに来た当初は」
首を傾げるばかりで姫様は何も言わない。仕方がないから何となく場つなぎ程度にぽつぽつと
話し出す。
「でも…」
「でも?」
何だか話しているうちに怒りが戻ってきたわ。
「あいつったら村の女の人を片っ端から口説いているのよ。お年寄りから子供まで。昨日なん
て宿屋のおばちゃんに『あなたの向日葵のような笑顔を見ると一日頑張ろうという気持ちにな
れる』なんて言っていたの!」
あ、もう駄目。腹の底から怒りがふつふつと煮えたぎってきたわ。
「それにお母様だって!『お二人も子供をお産みになられたとは思えない程若々しくていらっ
しゃる』とか口説いているし!それってどこのメロドラマよ、そんな泥沼真っ平だわ!」
私の剣幕に驚いて何も言えずにいたミーティア姫様だったけど、急に吹き出した。
「何よ、姫様。笑い事じゃないわ」
「ご、ごめんなさい。あ、あまりにゼシカさんがヤキモチ焼きだから…」
ぷるぷると身を震わせて笑いを堪えている。そんなに笑うことじゃないわ、それにヤキモチ焼
きって。
「そんなんじゃないわ。分かってはいたけど、そんな女ったらしとは一生を誓えないわよ。だ
から」
「だから式に出ない、ってことなのね」
漸く笑いを収めて言った言葉に深く頷いた。
「お客様には申し訳ないんだけど、この式はなかったことに…」
「あら、それは駄目よ」
にこやかに、でもきっぱりと遮られる。
「自分の気持ちに嘘吐いては駄目」
「う、嘘じゃないわ」
「うふふ、ではどうしてドレスを着ているの?」
びしっと突っ込まれ、返す言葉に詰まる。
「これは、その」
しどろもどろの私にそれ以上の追求はなく、話題が変わった。
120手綱 ◆JSHQKXZ7pE :2006/02/17(金) 22:32:26 ID:9kzpoxotO
「ゼシカさん…リーザス村っていいところね」
「え?あ、そ、そうね」
突然のことに我ながら間抜けな相槌を打つ。何が言いたいのかしら。まあいい村だと言われる
と嬉しいけど。自分の故郷なんだし。
「世界中を旅して、色んな街や村を見てきたけれど、ここは本当に穏やかないい村だと思うわ」
私は黙って頷いた。旅が終わってこの村に帰ってきた時、どんなに嬉しかったか、ほっとした
か、今も覚えている。家に帰るって素敵なことだった。
なんてことを思っていたから、次の言葉は唐突に聞こえた。
「だからこそ、一生懸命なのではないかしら」
「え?」
「この静かな村に馴染もうとしていたのではないかしら、あの方なりに」
と、姫様が私の眼を覗き込んでくる。
「だ、だって、だからって何で片っ端から口説かなきゃならないの。別にそんなことしなくたっ
てこの村の人たちはみんないい人よ。ちゃんと受け入れてくれるわ」
必死に反論を試みる。が、
「そうね…この村で生まれて育っていらしたゼシカさんはそう思うかもしれない…」
と軽く流されてしまった。その上、
「ね、ゼシカさん。エイトの子供の頃の話って聞いたことあるかしら?」
また話を変えられた。
「えっと…愛想のない、痩せこけた子供だった、って話?」
「そう。城に来た当初はそうだったの。愛想がないだけじゃなくて、感情も表に出せなかった
の。だから中々馴染めなくて、疑われたり疎まれたこともあったって言っていたわ」
そんなこともあったのね。今のエイトからは全く想像できないけど。
「あの頃、もうちょっと愛嬌のある子供だったら、ってエイトは言うの。もう少し楽に城の生
活に溶け込めたんじゃないか、って」
「…それと同じことをしているってこと?」
何だか話の筋が見えてきたわ。
「ええ」
「だからって何で美辞麗句の大安売りになるの。それも女の人にばかり」
「あら、女の人の噂話の威力って強いのよ。それに一度嫌われてしまったら挽回するのは大変
だわ」
「そうなのかしら…」
121手綱 ◆JSHQKXZ7pE :2006/02/17(金) 22:34:26 ID:9kzpoxotO
正直、そういう噂話って好きじゃなかったからよく分からない。でもそういうものなのかしら。
「それに女の人に人気のある方だって分かっていらしたでしょ?」
「まあ、それはそうなんだけど…」
肩を竦める私に、内緒話でもするようにミーティア姫様が語りかけてくる。
「あのね、お城ではエイトはとっても人気があるの」
「そうなの?」
それはそうかもしれない。だってあの城を救った英雄だもんね。
「エイトは皆に優しいのよ。時々メイドさんたちから贈り物を貰ったりしているの」
「ええっ、そんなことされて姫様は平気なの?!」
あの物固そうなエイトもそうだなんて。ああもう誰も信じられないわ!
「うふふ、平気、って言ったら嘘になるのかしら」
平気じゃないのならどうしてそんなに穏やかに微笑んでいられるの。私だったらちやほやされ
て鼻の下伸ばしているあいつを見たら即メラゾーマ、だと確信しているわ。
「平気ではないわ。心がちょっと波立つ感じ」
そう言って自分の胸に手を当てる。
「でも、優しくすることと愛することの間には大きな隔たりがあるわ。ゼシカさんは村の皆様
がお好きでしょう?」
優し気な問いかけに私は素直に頷いた。
「ええ。…そうね、皆大好きよ」
「ではその方々とあの方とは同じようにお好きなのかしら?」
一瞬息が詰まる。同じ?そうかしら?同じ言葉で括ってはいるけど。でも。
「…そうね」
自分の中に答えはあった。なぜあいつのことになるとむきになって怒ってしまうのか。
「そうだわ。違う、全然違うわ。他の人だったらこんなに腹が立ったりしない。だって…」
好きだから。それは言葉にできなかったけど、伝わったのだろう。私の眼を見返して深く頷い
た。
「それにね」
ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべて姫様が言う。
「人気があるって悪いことじゃないわ。それだけ好かれているってことですもの。いいことだ
と思いません?」
「うふふ、それもそうね」
122手綱 ◆JSHQKXZ7pE :2006/02/17(金) 22:36:15 ID:9kzpoxotO
「その分しっかり見張っておけばいいの。あのね、エイトは気を遣って贈り物を貰ったことは
話してくれないのよ。でもそのことはちゃんと知っているわ」
「ええっ、そうなの?!」
あのほんわかした雰囲気のミーティア姫様とは思えないような言葉。
「だってそうでしょう?変な方向に行ってしまったら困りますもの。人気者でいられるように、
でも決して手綱は離さない」
澄ました顔の姫様につい笑いが零れる。そっか、じゃ、今は姫様が手綱を握っているのね。
「エイトは多分このことを知らないわ。それにこういうことは男の方には知らせない方がいい
ように思うの」
「だから女同士、って言ったのね」
漸く納得した。そういうことだったのね。
「ええ。それにこれって結構楽しいのよ。人気のある男の方程楽しいのではないかしら。私は
エイト一人でもう充分ですけど」
これって惚気?どこか得意気に言われて何だかちょっと悔しい。
「素敵な方なのでしょう?」
「…ええ」
頷いた時、ふと対抗心に火が着いた。
「姫様のエイトより、ちょっと上かしら」
「まあ、うふふ」
「うふふ」
二人で顔を見合わせ、どちらともなく笑い出す。
「…さあ、お仕度しなくては」
           ※          ※          ※
123手綱 ◆JSHQKXZ7pE :2006/02/18(土) 00:20:19 ID:56o3VhNKO
外に出ると眩い光が目を射す。
「本当にいい天気」
教会まで姫様が一緒に行ってくれるという。お母様は一足先に出ているらしい。二人で並んで
歩いて行くと、だんだん晴れがましい気持ちになってきた。
「おーい」
向こうでエイトが手を振っている。その隣にはトロデ王様。
「行ってらっしゃい、ゼシカさん。一人で行く道より二人で行く方が数倍楽しいわ」
ちょっと足を竦ませた私に囁いてくれる。
「そうそう、この日の為にあの方も相応しい礼装を整えてきたのよ、錬金釜を使って。見てあ
げてね」
「えっ」
何だか嫌な予感。
「まさかダンシングメイルにファントムマスクじゃないでしょうね。そんな格好していたりし
たら逃げるわよ」
「うふふ、さあ、それは後のお楽しみよ」
…今更気付いたんだけど、姫様って人が悪いわ。
「先に入らせていただきますわね。楽しんでいらして、ゼシカさん。一生にたった一度きりの
ことなんですもの」
もう教会の扉の前まで来ていた。待っていたエイトとミーティア姫様は私に手を振ると先に中
へ入って行く。
「覚悟はよいかの?」
冗談めかして問いかけるトロデ王様に私は晴れやかに笑ってみせる。
「ええ、もちろんよ」
そう、扉の向こうには新しい世界が開けている。私とあの人、二人で行く世界が。
行きましょう、二人で。喜びも、悲しみも分け合うために。しっかりと手綱を握って、ね。
                      (終)


代父:婚礼、洗礼の時に父親代わりになる人。日本なら烏帽子親みたいなもの。
124名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/18(土) 00:22:08 ID:56o3VhNKO
変なところで切れてしまってすみません。
これで終わりです。では巣に戻ります。お邪魔しました。
125名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/18(土) 13:36:51 ID:jeyg/gSx0
?
126名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/18(土) 13:53:07 ID:amtHCZLu0
>>117>>123
いいなぁ・・・ゼシカがすんごい女の子ってかんじがする。
ダンシングメイルにファントムマスクワロスww
127名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/18(土) 22:16:28 ID:rEMM8vc70
ククゼシというより姫様の印象がすごい強かったけど面白かったw
姫様GJ!天然っぽく見せかけて実はしたたかな女って
世界最強の女だと私は思う。
柔和な笑顔の下の芯の強さがほの見えて
さすがは時期女王ですね。
(何となくハプスブルグ家のマリア・テレジアを思い出した)

JSHさん乙です!&GJです!
128名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/18(土) 22:21:35 ID:KePDd/Ie0
悪魔姫や・・‥(´Д`|||)

のびたの結婚前夜思い出しますた。GJ!!
129名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/18(土) 22:29:11 ID:vFQDLl210
向うのスレのお話もいつも読ませてもらってます。
負担にならないのであれば、これからこっちにも書いてくださいな。
130124:2006/02/19(日) 17:23:55 ID:gRz4ndggO
感想どうもありがとうございました。

構成の都合上ククールは名前すら出て来ないのに分かっていただけてありがたいです。
(ダンシングメイル〜の台詞はその為に入れたものです。)

それにしてもゼシカの口調って難しいですね。
こちらで書いていらっしゃる皆さんを尊敬します。
131名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/21(火) 15:53:23 ID:zEkboR3j0
ククールがフィギュアスケーターだったら。
132名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/21(火) 16:43:24 ID:mc2YpWR20
魅惑のまなざしを放ちながら四回転トゥループを決め、会場の女性ファンを釘付けにw
ゼシカはスーパーG(アルペン)をがしがし滑っている感じ
133名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/21(火) 21:42:58 ID:GIpvY+5i0
間違っても開会前に変なラップを披露しないでね
134名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/22(水) 07:30:33 ID:s8Gzi8PIO
かう
135名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/23(木) 14:40:57 ID:k++TAjfBO
ペアで滑ってほしい妄想。
136名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/23(木) 15:36:09 ID:wGgYlV+i0
ゼシカは神秘のビスチェで是非。
危ないビスチェだと規定違反になるぞw
ククールはデフォ服かなあ。鎧系だとリフトした後危ないし。
137名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/24(金) 23:18:39 ID:BuX8Zi+V0
オンリー行く人ー
138名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/26(日) 00:19:17 ID:3tsblwMR0
ロンリーか……。
139名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/26(日) 02:40:14 ID:c5jdkW3wO
グローリーだ
140名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/26(日) 09:53:15 ID:cn81iWX00
>136
誰か絵板に描いてよ
141名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/26(日) 22:21:36 ID:7oDDAwlu0
つぎいってみよ〜!
142名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/28(火) 01:08:14 ID:W34LO3Fm0
この二人はお互い相手を他人にどう説明するんだろう?
143名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/28(火) 07:23:59 ID:mdFbFKf90
>>142
意味がよく分からない。馴れ初め?相手の性格?
144名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/28(火) 19:04:06 ID:p/j185tX0
この二人の場合、初めの方と最後の方の互いの評価は全然違うだろうから、どの段階でのことかも重要だよね。

さて、去年の9月に投下した話の続き(しかもまた長いの)を投下させていただきます。
145『祝福の瞳』1/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:05:36 ID:p/j185tX0
「ゼシカはこのアルバート家の大切な跡取りです。その結婚相手には、この家を一緒に守っていけるしっかりした方を望むのは当然のこと。何度いらしても無駄です、お引き取りください」
ゼシカとの付き合いの許可を求めて、こうしてアルバート家に訪れるようになってから三カ月になる。
オレを嫌ってるアローザさんの神経を逆なでしないように、リーザス村には住まずにベルガラックのギャリング邸に住み込んで用心棒のマネごとをしてる。
ゼシカにはずっと寂しい思いをさせてたから、三日と開けずに会いに来るようにしてるけど、アローザさんはなかなか態度を緩めてはくれない。

「ごめんね、頭の固いお母さんで。本当にわからずやなんだから」
そして、こんな風に憤慨してるゼシカの頭を冷やすために、ポルトリンクとの間にある海辺を一緒に歩くのも、もう何十回目になるか。
「二言めには『アルバート家、アルバート家』って。お母さんは私自身よりも、アルバート家の方が大事なのよ。跡取りとしての私しか必要じゃないんだわ。もうたくさんよ」
初めから覚悟してたこととはいえ、オレが原因でゼシカをこんなふうに苦しめてることは、結構辛い。
「そんなことないさ。ゼシカ自身を大事に思ってるに決まってるだろ。考えすぎだ」
「だったら、少しは私の意志を尊重してくれたっていいじゃない。ククールは頭に来ないの? こんな風に追い返されるの37回目なのよ?」
「ゼシカ、そんなの数えてんのか。だったら30回目あたりで言ってくれりゃあ良かったのに。そしたら記念ディナーにでも、お誘いしたのにな」
「何バカなこと言ってんのよ。私は少しは怒りなさいって言ってるの。これだけ足しげく通ってるんだから、少しは話を聞いてくれたっていいじゃない。いつも家訓がどうのってうるさいくせに、こんな失礼な事ってないわよ」
ゼシカがいつもこうやって怒ってるから、オレまで怒ると収拾つかなくなりそうで、却って頭が冷える・・・なんて言ったら、ますます怒るんだろうな。
「失礼だと思ったことはないんだよ。追い返されるにしても、とりあえず会ってはくれるし。ゼシカの意志だって、それなりに尊重されてると思うぜ? その証拠に今だってこうして二人きりでいられるだろ? 会うこと自体、邪魔されてるわけじゃないんだからな」
146『祝福の瞳』2/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:06:29 ID:p/j185tX0
これはゼシカの頭にますます血が昇るだろうから言わないけど、オレにはどうしても貴族や金持ちへの偏見があって、『財産目当て』とか『手切れ金いくら欲しい』とかの類いの言葉を一度くらいは浴びせられるんじゃないかと覚悟してた。
でもアローザさんはただ『気に入らないから認めない』としか言わない。
はっきりしてて、気持ちいいくらいだ。そういう所はゼシカとそっくりだと思う。似た者同士だから、ぶつかっちまってケンカになるんだろうな、この母娘は。
「私が誰と会おうと、お母さんに止める権利なんてないわよ。これ以上わからずやでいるつもりなら、いつでも家を出てやるわ」
「だから、それはダメだって。オレは何だかんだ言っても、母親が心配で家に戻っちまうようなゼシカが好きなんだから、無理すんなよ」
「無理してんのは、そっちじゃない。どうしてそうやって我慢するの?」
そう言われても、オレは無理や我慢をしてるつもりはないんだよな。
駆け落ちみたいな形で連れ出したりしたら、ゼシカはもう家には戻れなくなる。
オレにはもう親はいない。生まれた家だって残ってない。
だからこそ、それをゼシカから奪うようなマネだけは絶対にしたくないんだ。
それにリーザス村にとっても、ゼシカは大事な存在だ。村の中を歩いてる時でも、行き交う人たちは皆が笑顔でゼシカに挨拶していく。
ついでにオレにも『あんたも懲りないね』とか『頑張れよ』とか『しっかりやれ』とか声をかけてくれる。おまけに『うまくいかないからって浮気するなよ』なんて、よけいなお世話だと思うことまで言ってくれるヤツもいる。
それを思うと、どうして自分がリーザス村で暮らすなんて無理だと思い込んだのかと、笑えてくる。
ドニの町でもベルガラックでも、リーザス村でだって、付き合ってみたら住んでる人間なんて、どこでもたいして変わらない。修道院みたいな特殊なところでさえ暮らせてたのに、リーザス村では無理だなんて、そんなことバカなことあるわけないのにな。
でも・・・。
どうしてなんだろう。こうして真っすぐにオレを見てくれるゼシカが好きなはずなのに。
時々・・・本当に時々なんだけど、その瞳から目をそらしたくなってしまうのは。
そうしなきゃならないような後ろめたいことなんて、もう何一つないはずなのに。
147『祝福の瞳』3/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:07:27 ID:p/j185tX0
リーザス村に戻ると、今日も見回りに励んでるポルクとマルクが走ってきた。
「ククール兄ちゃん、今日もまたダメだったのか?」
「おう、どうやらこれで37回目らしい。そうだな、これが50回目になったら、記念にお前らもベルガラックに遊びに連れてってやるよ。カジノは十年早いけど、にぎやかな街だからそれなりに楽しいぞ。それともオークニスで雪遊びの方がいいか?」
「・・・ククール兄ちゃん、そうやって平気なふりしなくていいんだぞ。少なくともオイラたちはゼシカ姉ちゃんとククール兄ちゃんの味方だからさ」
「うん。無理することないと思う」
「バーカ。お前らみたいなガキに心配してもらわなきゃならないほど落ちぶれちゃいねえよ。それより今日は時間があるから、稽古つけてやるよ。抜きな」
二人とも毎日、村中走り回ってて足腰は鍛えられてるし、サーベルトに基礎は教わってたおかげで筋はいいから、こうして剣を教えてやるのは結構楽しい。
それにしても、こいつらに『ククール兄ちゃん』て呼ばれると、自分でもおかしくなるくらい胸がときめくんだよな。
親がまだ生きてた頃、遊び相手がいなかったオレは弟が欲しいと思ってたことを思い出す。でもそう言うと母さんは困ったような顔をしてたっけ。
あの頃の何も知らなかったオレには、その表情の意味なんてわからなかった。ちょっと悪いことしたと思う。そりゃあ困るよな、『兄ならいる』なんて言うわけにもいかなかっただろうしな。

陽が落ちかかり暗くなるギリギリ前に、ゼシカを屋敷まで送っていく。アルバート家は夜になると家人でも出入り禁止になるから、その辺りは気をつけないと面倒なことになる。
ゼシカが家の中に入るのを見届け、ベルガラックに戻ろうとルーラの呪文を唱えようとした時、目の端に何かおかしな光が映った。
東の方角、リーザス像の塔がある方だ。
気のせいだろうとは思う。たぶん木が揺れた時の光の加減だ。この村の中から、あの塔を見ることは出来ない。距離がありすぎるし、木が邪魔にもなってる。
でも何だ? 何かが起こる前のような、この胸騒ぎは。こういう感覚になる時は、たいていロクなことにならない。面倒に巻き込まれる前兆だ。
・・・違う方向からなら、絶対無視するんだがな。世話になったリーザス像様の様子を見にいかないってわけにはいかないよな。
148『祝福の瞳』4/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:08:22 ID:p/j185tX0
この塔には何度も昇ってるし、出てくる魔物も雑魚ばかりだけど、賊が潜んでないかと全部のフロアを確認しながらだと、それなりに時間はかかる。最上階のリーザス像まで着く頃にはすっかり夜も更けていた。
とりあえずどこにも異常はなかった。あの極悪宝漁りコンビ、エイトとヤンガスの通った跡に、めぼしい宝なんて残ってるはずないし、リーザス像の瞳に埋め込められてたクラン・スピネルも、今はもう無い。像本体を盗んでいく根性のある盗賊もいないだろう。
気の迷いだってわかってたはずなのに、とんだむだ足だ。オレらしくもない。
・・・やっぱりゼシカたちが言ってたように、少しはまいってんだろうか。
アローザさんに嫌われてるのは、初めからわかってた。そのことでゼシカを板挟みにしてしまうことも、予想はできてた。何もかも覚悟した上で、ゼシカと一緒にリーザス村で生きていくと決めたはずだった。
でも一つだけ、全く予測できなかったことがあった。
オレの死んだクソ親父が昔、未亡人になりたてのアローザさんをしつこく口説いて怒らせてたってことだ。その親父の面影を強く残してるってことが、オレを嫌う理由の一つにもなっている。
もちろんオレ自身の悪い評判と相俟ってのことではあるけど、あれだけはどうしても少しキツくなる。
オレを通して、もうこの世にはいない親父を憎む目。あの目がどうしても思い出させる。
十年以上もの間、ずっと向けられていた瞳。
最後まで向き合えないままに別れてしまい、今どうしているのかもわからない、あいつのことを・・・。

塔を出ようと踵を返した時、ここに来たのはこれに呼ばれてたんだってことがわかった。
塔の上から流れ落ちてくる水が、窓枠のようなものを形作って、階段の横に見覚えのあるものを浮かび上がらせていた。
月影の窓。願いの丘とトロデーン城で見たのと同じものだ。
・・・開けるしかねぇんだろうな。今までの経験で、こういう現象には逆らっても無駄だってことは学習済みだ。少なくともイシュマウリは敵じゃないことはわかってるしな。
そう思って扉に手を触れようとした瞬間、向こう側から目を開けていられないような眩い光が溢れ出す。そしてようやく光が収まり目を開けると、初めからそこにいたかのように、月影のハープを手にしたイシュマウリがすました顔して立っていた。
149『祝福の瞳』5/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:09:22 ID:p/j185tX0
いろんな事態を想定して、どんな場面に出くわしてもなるべく動揺を見せないようにと努めてきたが、世の中は本当に予想もつかないことに満ちている。この入り口が向こうから開くなんて、アリなのかよ。
「・・・久しぶり。その節はいろいろ世話になったな。船は有効に使わせてもらったよ」
イシュマウリが何も言ってこないもんだから間がもたなくて、とりあえず挨拶しておく。
「でも、何でまたオレの前に現れたりしたんだ? 願いを叶えてくれるのは一度限りなんだろ? 二度でも特例だろうに、三度目なんてのは反則なんじゃねえの? 第一、それ以前にオレには叶えてほしい願い事なんてないぜ」
イシュマウリはハープをつま弾き始める。
「確かに、この月影の窓が人の子の願いを叶える為に開くのは、生涯にただ一度きり。それを二度開き、願いを叶えたのは全てこの時のため。月の世界より願いを運び、この私の手で扉を開くため。古の時代よりこの地を見守りし美しい像。どうかその願いを聞き届けておくれ」
ハープが奏でる曲が次第に大きくなっていく。ラリホーとメダパニを一度にかけられたように意識が遠のき、頭の働きが鈍って上下の区別もつかなくなる。
ああ、絶対こうなるとは思ってたよ。面倒に巻き込まれてロクなことにならないってな。わかってたのに油断した。
せめてイシュマウリに『お前の演奏、モグラ以下』と一言くらい悪態吐いてやりたかったが、そんな猶予は与えてもらえず、ハープの音が一際大きくなったのを感じた直後、完全に目の前が真っ暗になった。

あー、気持ちわりぃ。
頭いてぇし、耳鳴りするし、吐き気もする。口の中がジョリジョリいってるし、波音らしきものも聞こえるから、海岸ってとこだな。世界がグルグル回ってる気がして、目を開ける気にならない。
イシュマウリのヤロウ、有無を言わさずやってくれるもんだぜ。
あいつの言葉を要約すると、こういうことか。
『一回だけなら願いをタダで叶えてやるけど、二回目からは有料。その時の分の取り立てに来た』と。
いいさ、それは。タダより高いもんは無い。世の中はギブアンドテイク。アスカンタの王に恩を売れたことも、船が手に入ったことも、無駄じゃなかった。返せというなら借りは返す。ただそれだけのことだ。
だけど何をすればいいかを教えてもらうぐらいは、当然の権利だと思うんだがな。
150『祝福の瞳』6/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:10:14 ID:p/j185tX0
地面が揺れるような爆音が響き、慌てて飛び起きる。いざ起き上がってみると、頭痛も吐き気も耳鳴りも無くなってた。
イシュマウリに文句つけてる場合じゃなかった。ちょっと呑気に生きてると、すぐに緊張感がなくなる。我ながら困ったもんだな。
爆音がした方に目を向けると、月明かりの中、数十匹の魔物と、岩を背にそれを一人で迎えうってる人影が目に入った。
再び爆音。襲われてる人間の方が、イオナズンを放った音だ。加勢しようにも、迂闊に近づけばオレまでふっとばされそうだ。
だけどこの最高位の爆発呪文でも、魔物たちの数は全く減ってない。それどころかその中の何匹かが、反撃のイオナズンを放った。その呪文は光のカベに反射し、呪文を唱えた相手に跳ね返される。マホカンタの効果だ。
こんな高度な呪文の応酬の中でオレの出る幕があるのかどうか怪しいが、見ぬフリするわけにもいかない。とりあえず自分にマホカンタをかけておく。
魔法は無効だと知った魔物たちが、武器を振り上げるのが見えた。ここから一気に詰めるのは、無理な距離だ。
「バギクロス!」
風の呪文の中では最高位の呪文だが、これだけの数の魔物を一度に切り裂くのは無理だ。
でも新手の存在が牽制にはなったようで、魔物は再び少し遠巻きになる。そのスキにオレは襲われてた人間の隣に駆け寄った。
「大丈夫か? オレは回復呪文なら大抵使える。必要があるなら言ってくれ」
「あ、ありがとう。助かるわ」
その声を聞いて思わず敵から目をそらし、声の主の顔を見てしまう。
女!? 男装してるが間違いなく、うら若き乙女。それもかなりの美女だ。
だけど驚いてる場合でもない。魔物の種族を確認すると、アークデーモンやデスプリースト、リザードファッツなんていう、力も体力も有り余ってるようなヤツばかりだ。ほとんど無傷なヤツも結構いる。
防具と言えるものも身につけず、レイピア一本でやり合うにはキツい相手だが、レディのピンチとなると、やる気は五割増しくらいにはなる。
「バイキルト!」
隣の美女が筋力増強の呪文をオレに唱えてくれる。だけどマホカンタがかかった状態だから当然のごとく、その呪文は術者本人に跳ね返った。
「あいたた、いたたたた!」
攻撃魔法が跳ね返ったわけでもないのに、その女性はいきなり腹をおさえて苦しみだした。
151『祝福の瞳』7/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:10:57 ID:p/j185tX0
だけど今は治してやってる余裕はない。魔物たちが距離を詰めだし、襲いかかるタイミングを見計らってる。
ここは大技使って、最短時間で仕留めるしかない。
意識を集中して剣先に魔力を送り込み、地面に突き立てた。
魔法の力を呼び水に、雷が地面を這い上がり、突き立てた剣に到達する。沸き上がった地獄の雷、ジゴスパークを解放した。
さすがに、この顔触れを一発では仕留められない。間髪入れずに、もう一発放つ。それでようやく、残ってた魔物もあらかた倒すことができた。
だけど一匹残しちまった。この輪郭としぶとさはボストロールか。
頭上にこんぼうが振り上げられる。剣を地面に突き立てたままのこの状態じゃあ、とどめはさせない。死なないように防御するしかない。
だが、その必要はなかった。その次の瞬間、ボストロールの首は胴体とキレイにお別れしたからだ。
ついさっきまで苦しそうにうずくまっていた女性が、晴れやかな顔で剣を鞘に収めた。伝説の剣、人間世界最強の剣とも言われてるメタルキングの剣だった。
「危ないところをありがとう。今の技すごいわね。初めて見たわ、あんなの」
「いや、こちらこそ。おかげで無傷で済んだ。それより、どこかケガしてたんじゃないのか?」
「ああ、違うのよ。バイキルトのせいで、お腹の子がビックリしちゃったみたい。あなたも人が悪いわね。マホカンタかけてあるならあるって言ってよ」
思いっきり背中を叩かれた。思わずムセそうになる。信じられねぇバカ力。ボストロールの首を一撃で切り落とした剣の腕といい、女にしとくのがもったいない。
・・・それよりお腹の子って・・・妊婦!? 思わず腹の辺りをマジマジと見てしまう。
「まだ五カ月だから、そんなに目立たないわよ。でもさっきは本当に死ぬかと思ったわ。あ、私のことはリズって呼んで」
死ぬなんて、少しも思ってなかったとしか思えない調子で、高らかに笑ってる。
ゼシカのことも逞しいとは思ってたけど、この女性は更に上を行ってるな。
ゼシカ並の魔法に、オレより強いかもしれない剣技。大体、あれだけ大量の魔物が一度に現れるのを見たのは初めてだった。この女性を狙ってのことだとしたら、ただごとじゃない。
でも、オレの心をより大きく占めていたのは別のことだった。
「オレはククールだ。・・・あんた、一度どこかで会ったことなかったか?」
152『祝福の瞳』8/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:11:46 ID:p/j185tX0
夜中だけど月明かりがやけに明るいせいで、彼女の姿がはっきりと見てとれる。流れるような稲穂色の髪と春の若葉のような明るい碧の瞳。どうも見覚えがある気がする。こんな美人に会ったことがあるなら忘れるはずがないんだけど、どうしても思い出せない。
「やだ、それって口説き文句?」
言われてみて、ちょっと恥ずかしくなる。確かにベタな口説き文句に聞こえなくもない。
「ないわよ、会ったことなんて。こんな絶世の美男子に、一度でも会ったことがあるなら忘れたりするわけないじゃない」
もう一発、バカ力で叩かれた。やっぱり声にも聞き覚えがあるような気がするんだけどな。

当面の魔物は全部倒したとはいえ、こんな時間に妊婦を一人で放り出すわけにもいかないんで、家まで送っていくことにした。
切り立った崖を左手、海岸線を右手に見ながら、道らしきもののない草の上を歩く。この辺りにはリズとその旦那以外の人間は誰も住んでないから、道なんてものは無いらしい。当然店屋もないから、全てを自給自足で賄ってる。
こんな時間に外をうろついてたのは、まんげつ草を詰むためだそうだ。まんげつ草は普段は雑草と見分けがつかないが、満月の夜にだけ花を咲かせるから、自生してるのを集めるには、こういう夜に探す方が効率がいいからだ。
何でも彼女の遠いご先祖とやらが、魔物の恨みを買うようなことをして、そのせいで魔物に狙われることも少なくないから、今夜のようなことは慣れっこなんだと、笑い話にならない話を笑いながら口にする。
「今のうちに少しでも多くああいう魔物を倒しておけば、それだけ私の子供たちを狙う魔物の数は減るでしょう? 出来ることなら、この子が生まれる前に全滅させたいくらいよ」
魔物の恨みを買うってことは、ご先祖とやらのしたことはむしろ善行なんだろうけど、オレだったらきっと、とばっちりくらわせやがってって恨むだろうな。

開けた草原に出たところで、進路を右に取る。
何だろう。辺りの風景に見覚えはないのに、道も目印もないこの場所で曲がることが自然に感じる。
今日はいろいろと、おかしいなことばかりだ。
やたらとマルチェロのことを思い出したり、ゼシカたちがやけに心配してきたり、知らないはずの人物や場所に覚えがあったり。
イシュマウリに問答無用で飛ばされたってのが、何よりも極めつけだけどな。
153『祝福の瞳』9/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:12:32 ID:p/j185tX0
リズに案内されたのは、子供が生まれたら狭いんじゃないかと思うような、簡単な造りの小さな家だった。
そのすぐそばには、大量の木材や石材が家を何十軒も建てられそうなほど山積みになっていて、男が一人、地道に土台らしきものをを積み上げている。
「ただいま、あなた!」
結構な大声で呼びかけても、リズの旦那は気づきもしない。いるんだよな、こういうヤツ。何かにのめり込むと、何も見えない聞こえないってタイプ。
「もう、マリウスったら」
リズは足元の土を拾い上げ、器用に泥団子を造って、旦那の頭に投げ付けた。見事に命中、ナイスコントロール。って、いいのか? これ。
「やあ、おかえり、リズ。そちらの方は?」
旦那の方も動じずにこっちに歩いてくる。この二人の間では普通のことなんだろう。
「ナンパされちゃったの。というのは冗談で、魔物と戦ってる時に助けてもらったの。夫のマリウスよ。それで、こちらはククールさん」
おい、変な冗談やめてくれよ。一瞬、旦那の発する空気が怖くなったぞ。こういう、一見おとなしくて人の良さそうな顔したヤツほど、情け容赦なかったりするんだからな。
「そうだったんですか。妻が大変お世話になりました。ありがとうございます」
魔物に襲われたって方はスルーかよ。まあ、こんなところで二人だけで暮らしてる辺り、その辺はお互いに納得済みなんだろうな。夫婦の間に、よけいな口出しはしないさ。
「ちょっと待ってて、ククール。あなたに渡したいものがあるの」
そう言ってリズは家の中に入っていく。渡したいものって何だ? マリウスも訳知り顔でその姿を見送っている。まあ、貰えるものはとりあえず貰っとくけどさ。
「乱雑にしててすみません。これでも建築家の端くれでして、ここに大きな塔を建てようと思ってるんですよ。そしてリズの彫った像をその最上階に飾って、いろんな人が見に来てくれるような場所にしたいと思ってるんです。彼女は見事な腕の彫刻家なんですよ」

物事っていうのは、わからない時はいくら考えてもわからないが、逆に何げない一言で全てのことがしっくりはまるように出来てるもんだ。
強力な魔法と剣、彫刻家。そして魔物の恨みを買うほどのことをした先祖を持つ女性。このフレーズから導き出される答えは一つだ。
154『祝福の瞳』10/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:14:07 ID:p/j185tX0
「お待たせ。いきなりこんなもの渡されても困るだろうけど、何も言わずに受け取ってくれない?」
戻ってきたリズが布包みを差し出してくるが、今はそれどころじゃない。
「リズ、あんたリーザス・・・リーザス=クランバートルだったのか・・・」
身体が覚えていた。ポルトリンクとの間の海岸線から、リーザス像の塔へと続く道。何度もゼシカと二人で歩いた、その距離感を。
マリウスが建てた塔の最上階に、リズが彫った像が飾られている。年に一度の聖なる日に、リーザス村の皆が昇るのを楽しみにしている場所。
今立っているのはオレがいた時代から、遥か昔の同じ場所。
「あら、もうクランバートルじゃなくて、アルバートよ。リーザス=アルバート。間違えてもらっちゃ困るわ」
リーザス嬢は人差し指を立てて横に振る。
「やっぱりこれを渡す相手は、あなたで間違いないみたいね。あのね、私と同じように魔物の恨みを買ったご先祖を持った人の中に、予言の力を持った人がいるの。
ちょっと悩んでることがあって、その人に見てもらったら『満月の夜に出会う、風の魔法の使い手』にこれを渡せば、全てうまくいくって」
リーザス嬢が手にしていた布包みを解く。そこには強い魔法の力を宿した血のような色の二つの宝石。
クランバートル家に代々受け継がれてたという、クラン・スピネルだ。

そう、その宝石をオレが受け取るのは間違いじゃない。ゼシカをラプソーンの杖の呪いから解放するための結界の材料に、どうしてもなくてはならないものだった。
でも、だからこそ、今のオレが受け取るわけにはいかない。世界に二つしかないこの宝石は、リーザス像に埋め込まれた状態で塔に収まってなきゃいけなかったんだ。
「だから、人助けと思って持っていって」
リズに手を取られ、クラン・スピネルを握らされそうになって、慌てちまう。
「ダメなんだ。今オレがこれを持っていっちまったら、ゼシカがっ・・・」
ここでゼシカの名前なんて出してどうすんだ。動揺しすぎて、うまい言葉が出てこない。
・・・でも、何だかこのクラン・スピネルは、オレの記憶の中にあるのと比べて、随分デカい気がする。倍くらいはあるような・・・。それに形も違う。リーザス像に埋め込まれてたのは片方だけが尖ってて、もう片方は平らだったはず。でもこれは、両側とも鋭く尖っている。
155『祝福の瞳』11/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:15:03 ID:p/j185tX0
「・・・ゼシカ・・・。そうそう、リズ、言わなきゃいけない一言を忘れてるよ」
それまで傍観を決め込んでたマリウスが口を開いた。
「こう言えば全部わかるはずだって言われたじゃないか。『ゼシカをよろしく頼む』って」
それはまるで魔法のようだった。マリウスのその言葉と同時に、二つのクラン・スピネルの中心に亀裂が入り、鋭い刃で切断されたように綺麗に半分に別れる。リズの手に二つ。そしてオレの手にも二つ。そう、リーザス像に収まっていたのは、確かにこの形だった。
「あらら、すごいわね、言葉の魔力ってやつかしら」
こうなっても、リズは全く動じない。本当に肝が座ってる。
「そうだった、すっかり忘れてたわ。最近ちょっと熟睡できなかったもんだから、ついうっかり。この子を身ごもってから、時々変な夢見るのよ。誰かが泣いてるんだけど、顔は見えないの。ただ泣き声が聞こえてくるだけ。『私のせいで瞳が無くなっちゃった』って。
何のことかサッパリわかんないんだけど、どうしても気になっちゃって、予言者の友人に相談したってわけ」
・・・瞳が無くなったって、リーザス像のことか?
「そういえば、女の子の声だったわね。・・・そのコがゼシカなの?」
バカだな、あいつ。そんなこと気に病んでたのかよ。
オレはもう、クラン・スピネルを握り締めて頷くしかない。
「・・・お言葉に甘えて、こっちはありがたく貰ってくよ。そっちはあんた達が預かっててくれ、いつか必ず貰いに来るから」
遠くから、月影のハープの音が聞こえた気がした。
「その時はさ、できればキレイなドレスとか着て、ちょっとでいいからネコかぶってくれるとありがたいな。もちろん、そのままのキミの方がステキだけど、その頃のオレにとっては、場の雰囲気っていうか、イメージっていうのは結構重要なんだよ」
「・・・何かよくわからないけど、検討しておくわ。それに今のセリフは、また会えるって意味だと受け取っていいのよね?」
これはちょっと返事に困る。次に会う時はきっと、彼女は生ある人間ではないから。
156『祝福の瞳』12/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:16:20 ID:p/j185tX0
「きっとずっと先のことになると思う。そうだな、マリウスがこの塔を完成させて、そこにリズの最高傑作の像が置かれるようになって。その後くらいになるかな」
「それは困ったな。この塔が完成したら、今度はちゃんとした家を建てようと思ってるんだよ。子供が十人できても大丈夫なような大きな家をね。
そんなに遠くには行かないつもりだけど、ここに訪ねてもらってもボクたちはいないかもしれない。どこかに印でもつけておこうか・・・」
マリウスは真剣に考え込んでる。人の良さそうな顔して、本当に人がいいらしい。
「そうだ! キミは風の呪文を使うんだから、塔のてっぺんに風車をつけておこう。次にここに来た時は、魔法でそれを回してくれればいい。それが見えたらすぐにここへ駆けつけるから」
ハープの音が少し大きくなった気がする。もう時間切れってことか。元の世界に戻りたい気持ちに変わりはないけど、妙に名残惜しい気はする。
あんまり余計なことは言わない方がいいんだろうけど、これだけは言っておいてもバチは当たらないだろう。
「リズ、いつになるかはオレにもわからないけど、あんたの子孫が魔物に狙われずに済む日は必ず来る。そんなことがあったことさえ忘れられて、誰も彼もが呑気に生きてるような未来が待ってる。だから、あんたはそのまま、自分の信じた道を進んでいってくれ」
空間が歪むような感覚。目眩と耳鳴りが一気に襲ってきた。
「もちろん、いつだって自分の信じた道を進むわよ。ククールこそ、忘れないで。ゼシカのことは、よろしく頼むわよ。今度また、あのコが泣いてる夢なんか見させたら、テンション溜めてメラゾーマだからね」
意識が遠のいていく。このまま目の前からいきなり消えたりしたら、オレは幽霊扱いにでもなるんだろうか。でも二人とも、案外ケロッとしてそうだな。
オレともあろうものが、こんな美女を見忘れるなんて、ありえなかったけど仕方がない。リーザス嬢がこんなはっちゃけたレディだったなんて、誰が思う? でも不思議と納得はいく。なんてったって、あのゼシカのご先祖だもんな。
157『祝福の瞳』13/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:17:05 ID:p/j185tX0
「ククール! ねえ、しっかりしてよ。ククールってば!」
目を開けると、ゼシカが泣きそうな顔でオレのことを覗き込んでいた。
「ゼシカ・・・どうして、こんなとこに?」
何とか上体を起こすが、頭痛と吐き気と耳鳴りがする。それなのに妙にフワフワしてて、これが自分の身体だって実感がしない。
「それはこっちのセリフよ。ポルクたちが教えに来てくれたのよ。ククールが普通じゃない様子でこの塔の方に行くのを見たって。それで心配になって来てみたら、こうやって倒れてるんだもの。死んじゃったのかと思ったじゃないの!」
最後の方は涙声になってしがみついてきた。そういえばサーベルトは、ここでドルマゲスに殺されたんだったっけ。ちょっと刺激が強すぎたか。
それにしても、やっぱりゼシカは抱き心地いいなぁ。極上の柔らかさと弾力に、一気に現実感が戻ってくる。でも、さっきまでのことが夢じゃないことは、手の中にあるものが証明してくれている。
「心配かけてゴメン。ほら、ちゃんとお詫びの品もあるから、元気出せよ」
「・・・お詫びの品?」
ゼシカの手の平に、二つのクラン・スピネルを乗せる。二つの宝石と同じ色の瞳が、大きく見開かれた。
「これ・・・クラン・スピネル!? どうして? だってこれはもう・・・」
「その件は後でゆっくり説明するとして・・・。そのことよりも、オレの知らないところで、一人で気に病んで泣いてたっていう、このお嬢様をどうしてやろうかと思ってんだけどな。何で言ってくれなかったんだよ」
長い間ほったらかしにしてたのはオレの方だってことは、この際棚上げだ。
「えっ、だって、そんなずっと気にしてたってわけじゃないし・・・。ただ、みんな毎年聖なる日を楽しみにしてるのに、リーザス像の瞳が無かったら、やっぱりガッカリするんじゃないかと思うと・・・」
「そのことは、もう村中みんな納得してんだろ? ガッカリなんてするわけないだろ、バカ」
「バカって何よ。この像は、村が出来る前からずっとあったものなのよ? その瞳が私のために無くなったんだから、気にするのが当たり前じゃないの」
158『祝福の瞳』14/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:18:25 ID:p/j185tX0
ヤバイ、泣かしちまった。リズに泣かすなって言われたばっかりなのに、メラゾーマくらうな、これは。
「あのな、家宝だか三大宝石だか知らないけど、結局はこんなもん、ただの石ころなんだよ。ゼシカ自身に代えられるもんじゃない。このクラン・スピネルは、ゼシカが泣いてるのが辛いって、リーザス嬢が渡してくれたものなんだ。
お前、百年以上前のご先祖からまで愛されてんだからさ、そのことだけは忘れるなよ」
そしてオレも忘れない。その大切なゼシカを『よろしく頼む』と言ってもらえたことを。何にも持ってないオレでも、ゼシカのためにしてやれることはあるんだってことをな。

ゼシカが落ち着いてから、二人でリーザス像にクラン・スピネルをはめ込んだ。
元の姿に戻っただけのはずなのに、初めて見た時よりも像が優しい顔をしているような気がする。
「ありがとう、ククール。もう一度、この姿を見られるなんて思ってなかった。本当に嬉しい。夢みたい」
クラン・スピネルのような瞳が、真っすぐにオレを見つめてくる。まるで魔力を持っているように、心の中の深いところまで入り込んでくる瞳。
本当は自分でもわかってた。この瞳から目を逸らしたくなるのは、奥底に隠して見ないフリしてた本心が、全部さらけ出されてしまいそうになるからだってことは。
今までずっと、オレの勝手な都合でゼシカを振り回してきた。もうこれ以上、ゼシカに寂しい思いはさせたくない。だけど・・・。
この気持ちから目を背けたままじゃあ、いつまでもゼシカの視線から逃げ続けてしまう。
「ごめんゼシカ。今度こそ幸せにするって・・・ゼシカだけ見て、そばで守ってくって約束しなきゃいけないはずなのに。オレ、マルチェロを・・・兄貴を捜したい。居場所の心当たりなんてないけど、どうしても、もう一度あいつに会いたいんだ」
そこからやり直さないと、オレはきっとこの先、どこかで前に進めなくなる。
「会ってどうしたいわけじゃない。だけど、オレは決めたはずだったんだ。憎しみだろうが何だろうが、真っ正面から受け止めるって。それなのにオレはゴルドで、あいつの目を見て話せなかった。最後の最後で、背を向けて逃げたんだ。
一度でいい。ちゃんとあいつと向き合って、目を見て話したい」
159『祝福の瞳』15/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:19:27 ID:p/j185tX0
「うん、わかった。いってらっしゃい」
また悲しませると思ってたのに、あんまりアッサリした調子で言われて、一気に肩の力が抜けた。
「そんなにまくしたてなくても大丈夫よ。マルチェロのことに関しては、いつかそう言い出すんじゃないかと思ってたから。ものすご〜くイヤだけど、ククールのお兄さんてことは、私にとってもお兄さんになるってことだし、このままにはしておけないわよね」
「・・・それって、プロポーズ?」
何て言っていいのかわからず、つい茶化したようなことを言っちまう。
「それはちょっとイヤ」
「うん、オレもイヤだ」
ゼシカは呆れたような溜め息を吐く。
「しょうがないわよ。私は何だかんだ言っても、お兄さんを心配して捜しちゃうようなククールが好きなんだから、気の済むようにすればいいわ」
・・・何か、どっかで聞いたようなセリフだな。
「それにね、私は一度だって『私だけ見て』とか『私だけ守って』なんて言った覚えはないわよ。私一人のことで精一杯なんて器の小さい男、こっちから願い下げだわ。自分のためには生きられないような不器用さんだから好きになっちゃったんだもの。
後回しにされるのは、それだけ近い存在になれたんだって思うとイヤじゃないし。幸せにしてもらおうなんて、初めから思ってないわよ」
そうだな、それはわかってる。ゼシカは何でも自分で選んで、自分で決める。オレなんかより、ずっと強い人間だ。
「だからククールのことも、私が幸せにしてあげる。心配で、とてもじゃないけど、ほっとけないんだもの。・・・こっちはプロポーズと受け取ってくれてもいいわよ」
「・・・ゼシカ、男らしいなぁ」
思わず口をついた。本当に、オレなんて足元にも及ばない。
「・・・念のために訊いておくけど、それは褒めてるのよね?」
「もちろん、最大級に」
「何かスッキリしないけど、まあいいわ。あ、でも私だけ見なくてもいいって言ったけど、浮気はダメよ。それだけはイヤよ、絶対許さないからね。本来待つタイプじゃない私が、こんなに何度も待つなんて特別なんだからね。それは忘れないでよ」
ゼシカは真剣だ。オレって、そういう点では信用ねぇんだな。
「ああ,もちろん。・・・今夜はこのまま、一緒にいよう」
瞳の戻ったリーザス像の前では、キスより先にはいけないけどな。
160『祝福の瞳』16/16 ◆JbyYzEg8Is :2006/02/28(火) 19:21:04 ID:p/j185tX0
思えば、イシュマウリは初めから言ってたんだよな。『美しい像』の願いを聞き届けてくれって。
リズが見た夢はリーザス像の感じていたものなんだろう。何も見えないのに声だけが聞こえたのは、像が瞳を失っていたから。
ラプソーンを倒したオレたちが、手下の魔物に狙われることもなく呑気に暮らしていけてるのは、リズのように子孫のために戦ってくれてた人たちがいたからなんだよな。
クラン・スピネルが戻ったことで、またリーザス像はこの地を、そして子孫を見守ることが出来るようになった。このことでゼシカが泣くことも、もう無い。
願いっていうのは、これで叶ったって、そう思っていいんだよな?

夜の外出を止めに入った用心棒に、ラリホーかけて飛び出してきたとゼシカから聞かされ、一緒に謝るために、朝一番で塔を出た。これでまた、アローザさんの心証が悪くなってんだろうな。
でも、村の名前の由来にまでなったご先祖は認めてくれてるんだと思えば、どれだけかかっても認めてもらうことを諦めずにいられる。
随分時間は経ったけど、マリウスとの約束通り塔のてっぺんの風車をバギマで回す。結構これが難しい。それに自然の風でいつでも回ってるから、目印の意味なんてほとんどねぇし。もう少し風の制御を練習してみるか。
そういえば、リーザス村の入り口にも同じように風車があったっけ。
「何かさ、急にリーザス村が、オレにとっても故郷みたいに思えてきた。イヤミな兄貴を捜す旅でも、帰るところがあるんだって思うと、少しは気持ちが軽くなるもんなんだな」
「うん・・・。辛くなったら、いつでも戻ってきてね。私はずっと、待ってるから」
「ああ。必ず戻るよ。ゼシカのところに。そうしたら今度こそ、どこにも行かない」
ゼシカはまるで世界中の全てから祝福されてるようだった。大事にされて、愛されて。だから、こんなにまっすぐで強い人間になれたんだと思う。
それに比べてオレは、生まれてきたことが元凶だの、疫病神だの、散々言われてきた。
だけど、こうしてゼシカの瞳に映ってる自分の姿を見ると。
オレだってちゃんと祝福されて生きてるんだって、そう思うことができる。
・・・オレは幸せだ。
    <終> 
161名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/02/28(火) 20:55:53 ID:rlvHQlSk0
いつまでつづくんや。
162名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/01(水) 00:55:36 ID:EXFwao1zO
まぁ
ろくに書き込む人もいないスレだし
いいんじゃないか?
163名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/01(水) 00:58:32 ID:Ro5IEgH70
>>145-160
…ただただため息です。本当に乙!
ゼシカ、本当に強いなぁ…感服です。
164名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/01(水) 14:33:24 ID:jrCPsK1s0
>>162
個人的には続けて欲しい。無理のない程度に。
今職人さんがいなくなったら落ちるよなぁ…このスレ。
165名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/01(水) 20:20:17 ID:Zpe18u5C0
毎度毎度乙です!
「幸せにするよ」ってセリフ、ゼシカがククールに言う方が
しっくり来るよなーって、私も思ってたw

私もJbyさんのSS好きだから投下されてるとそれだけで嬉しい。
ってか、それを目当てにこのスレを巡回コースに入れてる。
だからなくなると悲しいし、スレ自体落ちるよ。
職人さんがいっぱいいて賑わってる訳じゃないからねー。
166名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/01(水) 20:20:52 ID:Aes98JQxO
Jbyさん、またしてもGJです!
冒険以外の事やそれからの事もこんなにも自然に表現できるなんて、ただただ感服です。
ゼシカがいて今のククールがいる。逆もまたしかり。
しかもリーザス嬢とククールが出会う事で、なんだかククゼシに運命的なものを感じて嬉しいです。
是非これからも無理のない範囲で続けて下さい!楽しみにしてます。
167名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/01(水) 21:40:23 ID:v5+qMpEBO
GJすぎて何ていったらいいか分かりません…!!
泣き声だけ聞こえる理由とか、塔とかイシュマウリとか全てがGJ。
何度でも読み返したい、そう思えるSSでした。
あああ本当GJ。ネ申。
168名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/01(水) 22:09:23 ID:xU/emGzH0
ワードからコピペするだけで疲れるような長話をしっかり読んでもらえて、丁寧な感想までもらえて、本当に感謝以外の気持ち以外、何も返せません。
実はこの話は半年前から温めてました。
ヤンガスはゲルダにビーナスの涙。エイトがミーティア姫にアルゴンリング。
となったら、ククールはゼシカにクラン・スピネル贈るしかない! 三大宝石コンプリート!
・・・それだけのことが半年かけて、こんなに膨らんじゃいましたorz
すぐに書かなかったのは、これ書いちゃうと、くっつくまでの過程の話に気持ちが入れられなくなりそうだったからです。

一応、続き物としては次回で完結予定です。
そろそろ二人には試練を与えずに、のんびりと平和に暮らしてほしいので。
でもペースは落ちると思うけど、保守代わりに小ネタは投下したいと思ってます。
FF12発売後の荒波を頑張って乗り越え、スレを守りましょう。
169名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/01(水) 23:31:00 ID:Qea4mP8E0
がんばって2行くらいはよんでみたかった。
170名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/02(木) 02:02:45 ID:H9Mfld/KO
三代宝石コンプリート!
そんな野望が隠されていたとは流石です。
次で連載が終わるなんて寂しすぎる・・・感動をありがとう。
小ネタも楽しみにしてます。
自分もFF12の波に巻き込まれない様にスレ保守頑張りたいです。
Jbyさん、GJでした!!
171名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/02(木) 16:59:41 ID:xf7HrNRx0
あ、3大宝石コンプリートを目指してたのか!
そこまでは気づかなかったっす。

そういや、もうすぐFF12が発売になるのか・・・。
スレ乱立&圧縮が続きそうだもんね。
落ちないように保守したいけどhoshとだけ書かれたレスが
ズラーっと並んだスレも悲しいような。
自分でもネタ投下できればいいんだけどなー。
文章書ける人ってちょっと尊敬する。
172名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/03(金) 18:58:29 ID:QzmYLwvy0
>>171
おまえさんならかけるよ!!
173171:2006/03/04(土) 00:40:02 ID:x+KUTwRO0
>>172
誰だか知らんが根拠のない励ましをどうもありがとうw
それでもなんかうれしいよ
174名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/04(土) 01:00:38 ID:U7RAYEMW0
( ´_ゝ`)フーン
175名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/04(土) 18:36:07 ID:T8LzG5Vk0
腐女子同士仲良く。
176名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/05(日) 00:41:49 ID:6/c7L/AN0
イッショニシテクレルナヨ(゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャ
177名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/05(日) 01:45:40 ID:Ny6IaccYO
三大宝石コンプリートって…

なんかなあ
178名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/05(日) 12:28:26 ID:CbXGCZN90
主姫スレ落ちたね。
24時間もたないとは恐ろしい事態だ。
179名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/05(日) 14:51:52 ID:wCsahK0F0
ここ一ヶ月がダット落ち攻防期間ってとこでしょうかね。
180名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/05(日) 19:35:05 ID:kLpdmAVB0
はっやいなあ。
例のあれはまだ発売されてないでしょ。なのに
181名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/06(月) 00:51:20 ID:oNrS6/2I0
頑張って落とさないようにしないとね。
という訳でホシュ
182名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/06(月) 16:42:13 ID:Zca3SlYp0
高校の卒業式終わったし、暇な人が増えたんでしょう。
気をつけていかないと危ないね。
183名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/06(月) 22:51:32 ID:SwNIlcUF0
そんなにしんぱいならあげれ。
184名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/06(月) 22:57:05 ID:Y5oJve1G0

   ,.〃彡ミヽ
  〈((((/(~!》   >>1も読めねーのか お前は……
   ヾ巛.-_-ノ"|\
.   /~"i!づ!}つ  )
  ん、_」"Y!i |/       .      i\j
    i†=|=|!                 | ∧_∧
     |ー |-|             と⌒⌒つ."Д")つ>>183
      ̄  ̄
185名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/06(月) 23:59:03 ID:W1v4cBff0
>>184
可愛すぎる!ゼシカとペアのAAなんてのも見て見たいものだ。
絵描き職人さん(最近少なくてテラサビシス!)や小説職人さんがいるのだから
AA職人さんてのも欲しいなあ。
186名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/07(火) 01:43:46 ID:8jXJvTnjO
そういえば絵の方もカキコミがないとそろそろ落ちるんじゃ・・・
187名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/07(火) 07:30:59 ID:/UtnJgf/0
ククール単独スレも少し前に落ちたみたいだし…あれで2回目
188名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/07(火) 12:55:12 ID:X6qKmUeK0
>>184
うわー、ほんとにかわいい。
弓ククもいいけど、剣ククでもいいかも。
189名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/07(火) 21:45:21 ID:PPlUb2Ch0
ゼシカへ愛の矢を射って欲しい。
190名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/08(水) 09:31:39 ID:fTeAFzro0
愛のさみだれうち?w
191名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/08(水) 19:12:27 ID:4hmHgB5O0
でもメラで焼いてしまいそうだなww
192名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/08(水) 20:14:34 ID:L2ScrZ6L0
羽の生えたミニククール(アンジェロ?)が2人に矢を放つ

…全然違う物のはずのキューピッドと混同してる罠。
193名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/08(水) 21:34:14 ID:9S3RhJ6F0
>>184
こんな腐女子の巣窟スレ頭から読む価値なんぞねーからじゃねーの。
194名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/08(水) 21:47:09 ID:PJJBXXk80
ゼシカは結局ククールの事を気に入っているのか?
195名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/08(水) 22:37:35 ID:ZvgEgtCU0
どっちかと言えば嫌い

無口リーダー、山賊くずれ、わがまま王と同じ扱い
196名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/09(木) 09:31:53 ID:Qs5OaBLl0
嫌い嫌いも好きのうち
197名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/09(木) 11:03:14 ID:5lwrTHbN0
嫌いから好きに変わっていく過程が良いんじゃないか。最初は印象悪くなくちゃ!

嫌い→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→好き
気に入らない奴→なんとなく気になる→なぜか意識しちゃう→好きかも
198『ずっと二人で』前編1/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:15:57 ID:8hExe+4m0
いったい、何が起こってるんだ?
マルチェロを捜す旅から戻ってみると、リーザス村はもぬけの空になっていた。
武器屋にも、防具屋にも、宿屋にも、教会にさえ人っ子一人いない。
いつも村を巡回してるポルクとマルクの姿もない。
旅に出てたのは、二カ月ちょっとだ。だけど一月前に様子を見にきた時には、何か起こるような気配は無かったのに・・・。
アルバート家に向けて足を速める。
ゼシカはどうなった? 仮に何かが襲ってきたんだとしても、あいつだったら必ず抵抗するはずだ。それなのに争ったような跡はどこにもない。静かすぎて、かえって不気味だ。
頼むから、どうか無事でいてくれ・・・!

「ゼシカ!! どこにいるんだ!? いたら返事してくれ! ゼシカ!」
アルバート家の屋敷中探しても、やっぱり誰もいない。
ゼシカも、アローザさんも、使用人たちも、影も形も見えない。
一体、何がどうなってやがるんだ。
この村を離れるべきじゃなかったのか? もしオレがそばにいたら、少しはマシなことになってたんだろうか。
・・・落ち着け。
まだ何があったかもわかってないんだ。サザンビークの大臣の家の鏡みたいに、異世界に通じる何かがあって、村中全員がそこに迷い込んだのかもしれない。少なくとも一カ月前までは無事だったんだ。今からでも助けられる可能性は十分ある。
最悪の事態ばかり考えるのは、オレの悪いクセだ。
まずはもう一度村の中を見て回って、何か変わったことが無いかをチェックして、ポルトリンクの様子も確かめて、それでも何もわからないようだったら、トロデーン城に応援を頼もう。
動揺も後悔も、やれることを全部やってからだ。
まずはアルバート家の中を探索する。村中の人間が消えてしまうなんて現象の原因になりそうなのは、こういう名家に伝わる魔法のアイテムなんてもんに、ありがちだ。
・・・そうだ、魔法の力といえば、リーザス像と何か関係してるのかもしれない。
一度そう思いつくと、もう他の可能性は考えられなくなり、オレはアルバートの屋敷を飛びだした。
199『ずっと二人で』前編2/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:17:44 ID:8hExe+4m0
それは不幸な事故だった。出合い頭の一発ってヤツだ。
リーザス像の塔に向かおうと勢いよく開けた扉が、向こう側から同じように扉を開こうとしていた、この屋敷の用心棒に直撃した。
「わ、悪い! 大丈夫か?」
とりあえずホイミをかける。運の悪いヤツ。いや、本当に悪いのはオレなんだけど。
・・・人がいる。
用心棒だけじゃなく、メイドやコック、そしてアローザさんも。
「無事だったのか・・・」
思わず口にしてしまった言葉に、アローザさんが怪訝な顔をする。
「何の話をしてるんです?」
「いや、あの・・・ゼシカは?」
これじゃあ、返事になってねぇし。
「まだリーザス像の塔にいますよ。まったくあの娘ときたら、聖なる日に塔の中庭でお祭りなんて何を考えてるのかしら。先祖の加護に感謝して、厳かに過ごすべき日だというのに、困ったものだわ」
・・・聖なる日・・・。
一気に身体の力が抜けた。
そういえば、この前会った時にゼシカが言ってたよな、聖なる日が近いって。年に一度だけ塔の中に魔物が出ないその日に、村の皆でリーザス像にお参りするんだって。
でも皆って、本当に村中全員、総出でなのかよ! 留守番くらい残してけよ、いつか盗賊団とかに狙われるぞ! さっきまでのオレの焦りは何なんだよ、恥ずかしくてやってらんねえよ!
・・・誰も見てなかったのが、せめてもの救いか・・・。
「どうかしました?」
アローザさんは、完全にオレをうさん臭いものとして見てる。そりゃあ、そうか。
「すいません、あの・・・よけいなことだけど、戸締まりくらいはした方がいいですよ?」
自分で自分のセリフのマヌケさに呆れる。まだ動揺さめやらぬといったところだから、どうにもならない。
だけどまた怒らせると思ったのに、アローザさんはちょっと大きく目を見開いて、それからクスクスと笑い出した。
「そうね、こんなふうに勝手に入り込む人もいることだしね。・・・忠告のお礼にお茶でもいかが? だいぶお疲れのようですわね」
200『ずっと二人で』前編3/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:19:46 ID:8hExe+4m0
オレ、何やってんだろう?
オレを毛嫌いしてるはずのアローザさんに誘われるままに、二階の居間で差し向かいで茶を飲んでる。まさか毒を入れたりしてはこないとは思うけど、真意はつかめない。
でも不思議なもんだな。嫌われるってのは、やっぱり少し辛くて、アローザさんのことは正直少し苦手だった。だけど今は、そうは感じない。
この人がいなければ、ゼシカは生まれてきてなかった。もしゼシカに逢えてなかったら、オレは一体どうなっていただろう。そう思うと、感謝の気持ち以外を抱くことなんてできない。
「さっきあなたが言っていた戸締まりですけどね、したくても出来ないのよ。初めから扉には鍵がついていないの」
アローザさんの言葉で、衝撃の事実を初めて知った。
「私も他所から嫁いできた身ですからね、初めは驚いたものですよ。これだけの屋敷に鍵がついてないなんて、思いもしなかったわ。だけどこのアルバート家は、代々魔法剣士の力を受け継がれている家系ですから、悪意を持って侵入する者などいないのよ」
なるほど、侵入者の方が痛い思いをするだけだと。
「だからあなたが、無人になってしまった村を見て慌てふためくのも、わからなくはないわ。来年以降はポルトリンクからでも、留守番役を寄越してもらった方が良さそうね」
・・・バレバレだし。あー、みっともねえ。
「いつも私が何を言おうと眉一つ動かさないあなたが、あれだけ顔色を変えるとは思わなかったわ。どうやら本当に、ゼシカのことを大事に想ってはくれてるようね」
言葉面だけ捕らえると認めてくれたように聞こえるけど、その声は今までの中でも一番冷たい響きだった。
「それなのにどうしてこんなに何度も、あの娘を放っておくことが出来るの? 残される者の気持ちを、少しでも考えてみたことがあるの? 勝手なのにも程があるわ」
今のはきいた。言葉に詰まる。
「兄のサーベルトの仇を討つという目的を果たして、気持ちの整理をつけて元気に戻ってきてくれると思いきや、毎日毎日物思いにふけって溜め息ばかり。ろくに外にも出ず、食事もまともに取らない有り様。
大事な娘にそんな思いをさせ続けた男を、どうして母親の私が認める気持ちになどなれると思うの? たとえあなたが悪い評判など何もない人だったとしても、そのことを許すつもりはないわ」
201『ずっと二人で』前編4/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:22:18 ID:8hExe+4m0
「・・・返す言葉もありません」
ゼシカはずっとアローザさんのオレに対する態度に怒ってたけど、オレはそのことを理不尽だと感じたことは一度も無かった。
死んだオレの親父の面影や、世間の評判で嫌ってた部分も確かにあったんだろうけど、言い訳しようのないオレ自身の行いが一番大きな怒りの理由だってことに、自分でも知らない間に気づいてたのかもしれない。
「だけどゼシカは私の言うことなど聞くつもりは無いようだし、このまま反対しつづけたら、また家出でもされかねないし・・・だからククールさん、もしどうしてもゼシカとの仲を認めてほしいというのなら、この先もう二度と剣をとらないと約束してちょうだい」
「・・・剣を?」
想像もつかなかった条件を出され、少しとまどった。
「ポルトリンクから出ている定期船のお客様の中には、マイエラ修道院への巡礼者も多いのよ。半年ほど前に、よく耳にする噂があったわ。
それまで修道院の周りにはいなかった凶悪な魔物が出るということと、その魔物から一人で巡礼者を守っている、真っ赤な服を着た銀髪の剣士さんの話をね」
さすがに定期船のオーナーは、耳が早い。
確かに、オレがあの頃ゼシカを放ったらかしにしてた理由の一つは、グダグダになってた聖堂騎士団の代わりに巡礼者たちを守るためだった。
でもそれを、ゼシカに寂しい思いさせ続けたことの言い訳には出来ない。
「息子のサーベルトが、リーザス像の様子を一人で見に行ったために殺されてしまったのは、ご存じよね? サーベルトとゼシカの父親も子供たちがまだ小さい頃、定期船を襲う凶悪な魔物を一人で退治しに行き、相打ちになって還らぬ人になりました」
父親が死んだ時にはゼシカはまだ小さすぎて、ほとんど何も覚えてないと言ってたから、魔物と戦って死んだという話は初めて聞いた。
「夫も息子も、いつもあなたのように剣を身体から離さない人でした。危険なことはやめてほしいと頼んでも、『自分には力があるから責任もある』と何でも自分でやろうとして、結局は二人とも還ってきてはくれなかった。私はただ残されるだけ・・・。
ゼシカには私と同じ思いはさせたくないの。だからあの娘の結婚相手には、武器なんて扱えない人がいい、そう思ったのよ。これ以上ゼシカを悲しませたくないのなら、危険なことはせずに、あの娘のそばにずっといてやってちょうだい」
202『ずっと二人で』前編5/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:24:44 ID:8hExe+4m0
・・・何だよ、ゼシカ。お前、メチャメチャ愛されてんじゃねえかよ。
アルバート家がどうとかじゃなくて、ただゼシカに幸せになってほしいだけ。寂しい思い、悲しい思いをさせたくない。だからオレみたいにいつ死ぬかわからない生き方してた人間は、認めたくない。
大事な人間に先立たれる悲しみを、二度も味わってしまってるからこその想いだ。
でも・・・。
「すみませんけど、それはできません」
ゼシカはずっと、この村を懐かしいとは思えないと言っていた。贅沢言ってるとは思ったけど、ラプソーンが復活した後で寄ったこの村の様子を見ていて、何となく理由もわかるような気はした。
村の住人はほとんどが、ゼシカが家族と最期の時を迎えるために帰ってきたなんて言ってたよな。それは普通の反応で、空を赤く染めるようなヤツと戦おうなんて考える人間はほんの一握りだ。
だけどゼシカの父親や兄は、大切なものを守るために自分で武器を取って戦うっていう考え方で、そういう人間が一番身近な存在だったゼシカにとっては、自分の力で戦って大事なものを勝ち取ることが当たり前のことだった。
そんなゼシカにとって、何かあった時に一緒に戦ってくれる人間はいないってことは、結構寂しいことなのかもしれない。ポルクとマルクは違うけど、あいつらはまだガキだしな。
「何かあった時は、ゼシカは真っ先に飛び出して先頭に立って戦うはずです。その時に隣に並んで戦えない人間にはなりたくありません」
そんなオレがずっとそばにいたって、ゼシカにとってはやっぱり寂しいはずだ。
「あなたは、ゼシカを危ない目に遇わせても平気なの? あの娘を幸せにしたいとは思わないの?」
『幸せにしたい』か、もちろんそう思ってはいるけど、肝心のゼシカがそれを望んでない。いや、望んでないっていうより、あてにされてないってのが正しいか。
「ゼシカは本当に強くて、オレなんかが彼女の幸せをどうにかするのは無理です。それどころか『あんた頼りないから私が幸せにしてやる』なんて言われる次第で。あの逞しさの1/10でいいから分けてほしいと思ってるけど、足元にも及ばなくて・・・。
でも逆にオレなんかに、ゼシカを不幸にすることも絶対できないと思うから、そういう意味では安心してもらえると思います」
203『ずっと二人で』前編6/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:26:51 ID:8hExe+4m0
アローザさんは大きな溜め息を吐き、カップをソーサーに置いた。
「いいえ、あなたも立派に逞しくて図太いわ。付き合いを反対してる母親の前で、よくそんなしまりのない顔してノロケられるものね。普通の神経じゃないわよ」
・・・今、ノロケてたっけ? それにしまりのない顔って、どんな顔してたんだ?
「もういいわ。サッサとゼシカの所にでも行ってくださいな。もうその顔を見ていたくありません。ゼシカの顔も見たくないから、今日は帰ってこなくて結構って伝えておいてちょうだい」
・・・ゼシカ、アローザさん、頭固くねぇよ。話がわかりすぎ。外泊OKだってさ。
「これで認めたと思ったら大間違いよ。そうそう思い通りにはさせません。結局最後には私の方が折れるハメになるんだから、尚更です」
苦労してるんだな、この人も。オレとの仲を反対する本当の理由を言うわけにもいかなくて、憎まれ役をしなきゃいけないのは辛かっただろう。思わずアローザさんの方の味方したくなる。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。ゼシカを家出させるようなことは絶対にしませんから、それだけは心配しないでください。それと彼女を残していくようなことも、もう無いと思います。・・・今日はお話できて良かった。ありがとうございました」
オレも知ってる、置いていかれることの痛み。自分が味わうことも、誰かに味あわせることも、確かにもうたくさんだよな。
「これからのあてはあるの? 住む所や仕事のことだけど」
唐突に現実的な質問をされてしまった。
確かに今のオレは、住所不定無職状態だ。ルーラが使えるおかげでどこに住んでもリーザス村との距離はゼロに等しい分、選択肢が多すぎる。
「ゼシカが、西の大陸に定期船を出したいと計画してるのよ。もっと安全な方法で世界を旅できる人が増えるようにしたいと言ってね。だけど安全な航路を探すのには、海の魔物に強い護衛がいないと現実には難しいわ。
腕に覚えがあるのなら、引き受けてくださらない? ポルトリンクで良ければ、お部屋の手配もさせてもらうわ。返事は明日で結構よ。夕食にご招待するから、その時までに考えておいてくださいな」
・・・どうにも、まいったな。ありがたいような、怖いような。
アローザさんはオレより数段、役者が上らしい。これから先どうあっても、この親心を裏切ることは出来ないようだ。
204『ずっと二人で』前編7/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:29:54 ID:8hExe+4m0
リーザス像の塔から、音楽や村の人たちの楽しそうな声が聞こえてくる。ご先祖たちに楽しく生きてる姿を見てほしいと、ゼシカが計画したそうだ。定期船を西の大陸まで運行することといい、ゼシカもいろいろ考えて頑張ってたんだな。
ゼシカとオレだけが知っている目印、塔のてっぺんにある風車を魔法で回す。初めて試した時よりも、風の制御はうまくなったと思う。もっと訓練重ねていけば、空を飛ぶとこも出来るかもしれない。
ゼシカは気づいてくれただろうか? オレの方から塔に入っていってもいいんだけど、再会の抱擁やキスを村の人間に見せつけるのは、ゼシカが嫌がるだろうしな。
「ククール!」
背後からの声に振り返る。
ああ、そういえばこの塔は、リレミトで出ると随分離れたところに出るんだったっけ。
気品は漂うのに、おてんばぶりは相変わらずで、スカートのすそを跳ね上げて駆けてくる。
今日のゼシカは白いブラウスの普段着姿だ。やっぱり旅の間に着てた服より、こっちの格好の方が可愛いよな。目が赤くて、ツインテールが耳みたいで、ぴょんぴょん撥ねてくるウサギみたいだ。
態勢を整えて、飛びついてくるゼシカを抱きとめた。ゼシカのタックルは結構強力で、油断してると受け止めきれずに引っ繰り返るハメになる。
でも頬を上気させて、喜びを全面に表してくるその姿に、たまらない愛しさが込み上げてくる。
なのに・・・。
「お酒くさっ!!!」
おい! 再会の第一声は、これかよ!?
いや待て。確かに酒臭くて当たり前な量を飲んだんだ。
「・・・そんなに?」
「すごいわよ。だいぶ前に二日酔いになってた時よりひどいかも」
よくアローザさん、そんな奴に文句も言わず、夕食に招待までしてくれたよな。
「ホントまいったんだよな。あいつ、そっちの方では堅物だったから、酒なんてほとんど飲んだことないはずなのに、つえーの何のって。親父が大酒飲みだったから、血筋なのかもな」
「・・・会えたの? マルチェロに?」
ゼシカが心配そうな顔で訊ねてきた。
「それがさ、聞いてくれよ。あのクソ兄貴、会うなりいきなり斬りつけてきやがって、反射神経のいいオレじゃなかったら死んでたぞ、絶対。
おまけに『貴様のようなヤツと素面で話など出来るか』なんて言いやがって『だから酒飲みながら話すぞ』ってことになって。しかも酒代は全部オレ持ち」
205『ずっと二人で』前編8/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:35:46 ID:8hExe+4m0
「それで出た結論は『しがらみとか血の繋がりとか因縁なんて一切関係なく、やっぱりお互いソリが合わない』だった。だけど仲の悪い兄弟なんて、世の中には溢れる程いるだろうし、オレとしてはもう充分スッキリしたんだけど・・・これって変か?」
ゼシカはさっきから、異世界の話でも聞いてるような顔をしてる。
まっとうな兄弟だったことが一度もないから、標準がどういうもんかわからねぇんだよな。だけどいい年した男同士の兄弟って、意外とそんなもんかとも思ってるんだけど、やっぱりちょっとは不安になる。
この期に及んで、実は気持ちの整理はついてませんってオチは目も当てられない。
ゼシカはちょっとだけ呆れたような顔をして、だけどすぐに柔らかく微笑みかけてくれた。
「ううん、変じゃない。・・・良かったね」
心の中にゆっくりと染みてくる言葉。
そうだな、良かったんだ。その証拠に、ゼシカの瞳を真っすぐに見つめ返せる。心の奥まで見透かされるのが怖くて、今まで何度も逃げ続けてきた瞳。でももう、心の中全部見られても、何一つ後ろめたいことはない。
「ああ、ありがとう。ずっと待たせてごめん。今度こそ、もうどこにも行かない」
そこまで言った後に、とりあえず付けたしといた。
「多分」
何となく、オレはそう簡単に平穏な暮らしは出来ないような予感がしたからだ。あと一回ぐらいは、揉め事に巻き込まれそうな気がする。
「何よ、その多分って! 普段嘘つきなくせに、どうしてこういう時だけバカ正直なの!?」
やっぱり怒られた。
「だけど、もうゼシカを残してはいかない。何かあった時は力を貸してほしい。・・・酒臭くて悪いけど、キスしていいか?」
「・・・そういうことは、いちいち訊かないでちょうだい」
ちょっとテレたように怒る顔が可愛くて、つい笑ってしまう。
「相変わらずイジワルなんだから。でも変わってないから、ホッとした。おかえりなさい」
「・・・ただいま」
ずいぶん遠回りして、ようやく辿り着くことが出来た。真っすぐにゼシカと向き合える自分に。
今度こそ本当に大丈夫だ。
これからは何があっても、ずっと二人で生きていける。
206『ずっと二人で』後編1/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:38:09 ID:8hExe+4m0
「良かったね、ミーティア。ずっとこの日が来るのを待ってたんだものね。二人ともよく我慢できたと思う。本当に立派だったわ」
サヴェッラ大聖堂から、エイトとミーティアが手を取り合って、結婚式を脱走してから丸二年。
一方的に婚約破棄したチャゴス王子に対してのせめてものお詫びとケジメのためと、王子の赦しが得られるまでは、二人は決して結ばれようとはしなかった。
私もククールも、ヤンガスやトロデ王も、チャゴス王子にそんな気持ちが通じるわけがない、赦しが出るのを待っていたら一生結婚なんて出来ないと説得したわ。
だけど二人は、クラビウス王が王位をチャゴス王子に譲った時に、争いの火種になるようなことにはなりたくないと、頑ななまでに王女と臣下という関係を守り通した。
それが三カ月前、何とあのチャゴス王子が結婚し、しかもそのお相手が、ダメダメ王子の首根っこを押さえ付けて叱ってくれるしっかりした女性で、正式にトロデーンに使者を寄越し、二つの国の間の友好と平和を約束してくれた。
ようやく二人は明日、このトロデーンの城で結婚式を挙げることになった。

ついさっきまで、東屋で一緒に旅した六人でお酒を飲んでたんだけど、男性陣は残して私とミーティアは二階のテラスで酔いを覚ましてる。
私は二人きりの時だけ、ミーティアから『姫様』を取って呼んでる。私もずっとリーザス村では『お嬢様』って着けて呼ばれてて、お互いに呼び捨て出来る女友達を持ったのは初めてだった。
「ほんとに私、何にもしてあげられなかったね。ようやく呪いが解けた後も、なかなか幸せになれないのを見てるのは辛かったわ」
「何にもできなかったなんて、そんなことありませんわ。ゼシカたちが暗黒神を倒してくれたからこそ、私もお父様も、そしてこの城の人たち全員が呪いから解放されたんですもの。それにサヴェッラ大聖堂で、聖堂騎士団の方たちと戦ってくださったこと、絶対に忘れませんわ」
サヴェッラでの話をされると、ちょっと胸が痛むわ。あの時はククールがエイトにハッパかけるために『オレが姫様さらって逃げる』なんて言ったもんだから、私そっちの方で頭が一杯で、ミーティアの心配してあげてなかったのよね。
そういうことを黙ってるのは得意じゃないし、そろそろ時効だとも思うので、その時のことをミーティアに打ち明けた。
207『ずっと二人で』後編2/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:40:09 ID:8hExe+4m0
「まあ、ゼシカって本当に鈍いわ。ククールさんがずっとゼシカを大事に想ってたことなんて、あのエイトやヤンガスさんでさえ丸分かりでしたのに」
私って鈍い? カンはいい方だと思うんだけど。それにエイトとヤンガスにさえ丸分かりって、そんなにわかりやすくなかったわよ。確かに優しくはあったけど、同じくらい意地悪もされてたもの。
「エイトもね、その時のことは一生忘れないって言ってましたわ。
ミーティアをさらって逃げるなんて言葉は、どうせハッパかけてるだけだっていうのはわかりきってたので、何とも思わなかったらしいんだけれど、大階段の下で『仲間だから力を貸す』って背中を押してもらった時、何も怖いものなんて無くなったんですって」
私もその時のことは覚えてる。それまでちょっと俯き加減だったエイトが、急に力を取り戻したように階段を駆け上がっていったのを。
「あれだけツンツンしてて、ひねくれたことばっかり言ってて、気まぐれで気難しくて素直じゃなかったククールさんに、面と向かって『仲間』だって言ってもらえる日がくるとは思ってなかったんですって。
その言葉を言ってもらうことに比べたら、結婚式の邪魔をすることなんて、大変でも何ともない。そう思ったって言ってましたわ」
・・・それ、ほめてないわよね?
でもエイトの気持ちはわかる気がする。確かに初めの頃のククールはひどかったわ。特にエイトに対して八つ当たりしすぎて、よくシメられてたものね。
そんなククールに認めてもらえたと思うと嬉しいよね。
・・・あれ?
今思い返して見ると私、もしかして一度もククールに『仲間』って言ってもらったこと無いんじゃないかしら・・・。

「お前の話なんかまともに聞こうとしたオレがバカだったよ。だいたい、ムサ苦しい野郎ばかりのとこで酒飲んだってうまくねえや。オレはレディたちに交ぜてもらうぜ」
ククールが何やら怒りながらテラスにやって来た。エイトが一生懸命、宥めようとしながら着いてきてる。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもねえよ。珍しくひとのこと褒めてんのかと思いきや、ツンツンしてたの、ひねくれ者だの、きまぐれで気難しくて素直じゃねえだの、言いたい放題言いやがって。
このおとなしい顔に騙されるけど、こいつとんでもなく毒舌で容赦なくて、腹ん中は真っ黒だぞ」
208名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/09(木) 22:40:38 ID:BJzNys5yO
なげーよW
209『ずっと二人で』後編3/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:41:42 ID:8hExe+4m0
・・・もしかして、さっきミーティアが言ってたのと、全く同じことを言ったのかしら。
ミーティアと顔を見合わせて笑ってしまう。
多分エイトはお礼を言ったつもりなんだろうけど、ククールじゃなくたってそうは思えないわよ。エイト、思ったままを正直に言い過ぎよ。

新郎新婦が結婚式の場でお酒臭いのは問題ありなので、いろいろ話は尽きないけれど、早めにそれぞれの部屋に引き取った。
誰が部屋割りしたのかは知らないけど、私とククールは当たり前のように同じ部屋をあてがわれてしまった。もちろん今更、そのことに抵抗はないけれど。
「なあ、エイトのやつ、少し元気なかったと思わなかったか?」
ククールがいきなり深刻そうに言い出すから、私はドキッする。
「ううん、気が付かなかった。元気ないってどんな風に?」
「初めはマリッジブルーかとも思ったけど、あの呑気者にそんなのあるわけねぇし、どっちかっていうと精神的な問題じゃなくて、身体の方が弱ってるような感じなんだよな。でもヤンガスも気づかなかったって言ってたから、オレの思い過ごしだな」
そんなこと言われても、ちょっと不安にはなる。だって、ククールのそういう感覚って怖いくらい外れないから。
「そんな顔するなよ。多分、結婚式の準備なんかで疲れてたんだろ。エイトがそういうのに向いてるとは思えないからな」
ククールの声は真面目なのに、手の方は私の服を脱がせはじめてる。
「何やってるの?」
「何って、こうやって二人きりでゆっくりできるの久しぶりなんだから、有意義に過ごそうとしてるだけ」
お母さんが自分の手でサーベルト兄さんの部屋を片付けて、そこをククールの為にあけてくれてから、もう半年。
だけど結婚はおろか、つきあいすら認めてないと言い張ってる。
なまじ同じ家に住んでるのに、家長の目が光ってるという微妙な状態だから、確かにゆっくり二人きりにはなりにくい。
お母さんたら、私よりもククールとの方が気が合うみたいなのに、本当に何がいつまでも気にいらないのかしら。
ここまで来るともう、ただ意固地になってるとしか思えないわ。
210『ずっと二人で』後編4/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:43:31 ID:8hExe+4m0
結婚式はトロデーン城の中庭で行われた。
サザンビークへの遠慮もあって、招待されたのは少数の親しい人たちだけなんだけど、二人の晴れの姿を一目見たいと多くの人が集まってくれることは予測できていたので、
自分たちの幸せな姿を見てもらうために、教会の建物の中ではなく、こうして外に面した場所で永遠の愛を誓うことを選んだんだとミーティアが教えてくれた。
広大なお城よりも更に広い面積を誇る中庭は、国中から集まった人たちで溢れかえり、高価なものや豪華なものなんて何もなかったけど、喜びや幸せ、祝福と感謝が一杯で、何よりも素敵な時間だった。

結婚式から一週間後。明日はエイトとミーティアが新婚旅行に出発し、私たちもそれぞれの生活に戻るという日、おかしな夢を見た。
星空がとても近い、高いところにある祭壇のような場所。大きな竜の石像が、何も記されていない石碑を守るかのようにたたずんでいる。やがて炎に照らされたその石碑の中央に、何か紋章のようなものが浮かびあがる。神秘的な光景のようで、何か恐ろしい程の力を感じた。
目を覚ました時、それがどこかで見た覚えのある場所だと気づく。
確かあれは、ベルガラックからサザンビークへ続く街道の途中にある高台の上の遺跡。
空を飛ばなきゃ行けないような所に、どうしてこんな巨大な建造物があるのかと思った場所だったはず。
何でこんな変な夢を見たりしたのかしら?

朝になって、エイトが高熱を出して起きあがることさえ出来ないほどに弱った状態になっていると知らされた。
病気に対しては回復魔法は効かず、出来ることといえばオークニスのグラッドさんの所へ行って、良く効く解熱薬を貰ってくることぐらい。
さすがにグラッドさんの調合した薬の効き目はすごくて、熱だけは程なく下がったけど、何かに生気を吸い取られているように感じて、力が入らないらしい。
ねずみのトーポも、飼い主の不調に同調してしまったように、力無く横たわってしまっている。
ミーティアの話によると、私が見たのと全く同じ、祭壇の遺跡をミーティアもエイトも見たらしい。そしてその直後に、エイトは熱を出して寝込んでしまった。
ククールとヤンガス、トロデ王も同じ夢を見たという。この事とエイトの異変が無関係だとはとても思えない。
211『ずっと二人で』後編5/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:44:50 ID:8hExe+4m0
「だけど、もう神鳥のたましいは親のレティスとどっかへ行っちまったでがす。確かめに行こうにもお手上げでがすよ」
ヤンガスの言葉に、ククールが答える。
「いや、様子を見に行くぐらいなら、多分何とかなるぜ。あそこは街道からは離れてないから、二日あれば行って戻って来れると思う」
ククールはずっとバギの魔法を、切り裂くだけじゃなくて、物を動かしたり持ち上げたりするのに使えるんじゃないかって、風の制御の練習をしていた。
亡くなったオディロ院長がそういう風の使い方をしていたらしく、そのご先祖の予言者エジェウスも、空を飛ばなきゃいけないような所に石碑を残していたことから、使いようによっては空ぐらい飛べるんじゃないかって思ったんだって。
実際に、鳥のように飛ぶことは出来てないけど、真上にだったら、かなりの高さまで浮きあがることが出来るようになってる。

ヤンガスも一緒に行きたがったけど、『その体重を抱えて飛ぶ自信は無い』というククールの言葉で、おとなしく留守番することになった。
そして私とククールの二人だけで、謎の石碑の様子を確かめにいく。
そこには夢で見たのと同じ光景があった。初めて見た時には確かに何も記されていなかったのに、今は翼を広げた竜のような紋章が浮かび上がっている。
そしてその紋章に手を触れると辺りの風景が変わり、洞窟のような場所に出る。だけど、ほんの少し進んだだけで、すぐに引き返すことになった。
出現する魔物の強さが半端じゃないんだもの。何があるかわからないから、一応武装はしてあったけど、ラプソーンの空飛ぶ城にいたのより、更に強い魔物がゴロゴロしていた。
二人だけで先に進むのは、諦めるしかなかった。

トロデーンに戻ると、エイトは大分元気を取り戻して、起き上がれるようにはなっていた。
だけど何かに体力を奪われてるような感覚が完全に無くなったわけでもなくて、本人曰く『慣れた』らしい。
あと嘘みたいな話だけど、ヤンガスのアドバイス通り、とにかく食べまくったら少しはマシになったそうだ。トーポにも大好物のチーズをたくさんあげたら、ちょっとだけ元気になったって。
その辺りは、いろんな意味で『さすがエイト』っていうしか無いわよね。
212名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/09(木) 22:46:16 ID:BJzNys5yO
あげときますね
213『ずっと二人で』後編6/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:47:38 ID:8hExe+4m0
トロデ王を含めた六人で、この後どうするべきかを相談した。
やっぱりあの石碑が無関係じゃないっていうのは、全員一致した意見なんだけど、簡単に『行けるとこまで行こう』というわけにもいかない。
出てくる魔物が普通の強さじゃなくて、エイトもいつまた倒れるかわからない状態。ククールも石碑までは一人ずつ運ぶので精一杯で、体重が二人分は軽くあるヤンガスは最悪残ってもらって、ルーラ可能な町があるようなら、そこから合流ってことになる。
あんまりにも戦力が心もとなさすぎる。
それにエイトはこのトロデーンの近衛隊長であると同時に、世継ぎの王女の夫でもあるんだもの。どれだけかかるかわからない旅に出るなんて簡単には出来るわけがない。
「では、新婚旅行はそこにしましょう」
そんなことを色々考えていたのにミーティアは、その辺の湖にピクニックでも行くような調子でそう言ってきた。
「もう馬車を引いてお手伝いすることは出来ませんけど、ご一緒させてください。今度はミーティアがエイトの為に力になりたいんです。自分のことは自分で守れるようにしますから、どうか連れていってください」
ククールとヤンガスは慌てて止めようとするけど、トロデ王はアッサリ賛成した。
「そうじゃな、それがいいかもしれん。二年もの間、我慢を続けてきたのじゃから、新婚旅行が少しぐらい長くなっても、異を唱える者はおらんじゃろう」
二人を一番近くで見守り続けていたトロデ王は反対しない。
ドルマゲスがこの城から杖を強奪した日、賊が潜んでいるかもしれない場所に愛娘のミーティアを同行させた話を聞いた時は、少し驚いた。旅の間は、ミーティアを危険な場所に連れていくのを何より嫌がっていたトロデ王だから。
でもトロデ王は知ってるんだ。それが必要な時はどんな危険な場所でも、ミーティアは必ず行く人だってことを。まして今度はエイトのことだもの。お城で留守番なんて絶対しないわよね。
そして私はこれも知っている。実はミーティアが、とっても力持ちだということ。
馬に姿を変えられて、旅の間引き続けていた馬車は錬金大好きエイトのせいで、使わない武器防具も捨てられずに荷物が増える一方だった。そうしてる内に自然に足腰は鍛えられていき、腕も足と同じだけの力に持つに至ったことを。
確かに自分の身ぐらいは自分で守れるかもしれない。
214『ずっと二人で』後編7/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:49:32 ID:8hExe+4m0
出発は三日後に決まり、準備のために一旦それぞれの住まいに帰ることになった。
「ククールさん、あなた一体いつになったら落ち着いてくれるの? おまけに今度はゼシカまで連れていくのね。それなら許されると思ってるわけ?」
事情を説明して家を開けることを伝えると、お母さんは深い溜め息を吐いてククールに文句を言う。
「すみません。でもほら、もう残してはいかないっていうのは嘘じゃなかったっていうことで」
それに対してククールは全く悪びれない。私には今一つ意味がわからないんだけど、二人には通じてるみたいで、お母さんはククールを睨みながら、更に大きな溜め息を吐いた。
「・・・三カ月だけですよ。三カ月経ったら絶対に戻ってきなさい。私はその間、ウエディングドレスでも縫いながら待ってることにしますから」
お母さんにしては、ずいぶん諦めが早いわ。って・・・ウエディングドレス?
「いつまでも独り身でいるから、フラフラするのかもしれないわね。あなたたちも、いつまでも若くないんだから、いい加減に家庭を持ってしっかりしてちょうだい」
自分で反対しまくってたくせに、よくそんなセリフが口から出てくるもんだと思う。だけどあんまり突然のことで、声の出し方を思い出せない。
「ありがとう、ございます・・・」
いつもは冷静なククールも、それだけ言うのがやっとみたい。
「いいから、早くお行きなさい。そして忘れないで、三カ月だけですよ。三カ月経ったら、どこにいようとどんな状況だろうと、必ず戻ってらっしゃい。あなたたちが帰ってくる場所はここなんですからね」

支度を終え、トロデーン城へルーラするために家の外に出た時、ククールが呟いた。
「三カ月か・・・」
お母さんがとうとう認めてくれたことで頭がいっぱいだった私は、ククールのその言葉で三カ月という期限をつけられたことを思い出す。
あんなふうに言ってくれたお母さんの気持ちを裏切ることは出来ない。だけど三カ月経ってもまだ問題が解決してなかったとしたら、エイトをそのままにして戻るなんて、もっと出来ない。
何とか三カ月の間に、エイトの体調不良の原因を突き止めて、それを取り除けるように頑張らなくちゃ・・・。
215『ずっと二人で』後編8/8 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/09(木) 22:52:33 ID:8hExe+4m0
「なあゼシカ。仮にこの件を二カ月で片付けたとして、その後の一カ月はゆっくり二人旅なんてするのはダメだと思うか?」
後に続く言葉があんまりにも予想外のことで、咄嗟に意味がわからなかった。
「次に帰ってきたら、さすがにしばらくおとなしくしてないといけない気はするし、せっかく三カ月も時間くれたんだから、目一杯使わせてもらうのも悪くないかな、と。・・・ダメ?」
「・・・ダメよ」
バカみたい。ククールがじゃなくて、私が。
「それじゃ短いわ。この件を一カ月で片付けて、残りの二カ月で二人旅しましょう」
エイトをあんな体調のままで、三カ月も過ごさせるわけにいかないわよね。一日でも早く解決させた方がいいに決まってるわ。そんなのわかりきってたことなのに。
もしリーザス像の塔でエイトに出会わなければ、私はポルトリンクから先へは行けなかった。南の大陸にさえ渡れずに兄さんの仇も討てなくて、そしてククールに逢うことも出来なかった。
ずっと感謝してた。だから今度は私がエイトを助ける番。ううん『私たち』でよね。
「最悪ヤンガスは留守番だし、エイトとミーティア姫様は戦力として計算に入れない方がいいから、実際はオレとゼシカの二人であいつらを守って戦うことになると思う。かなりキツいだろうけど、しっかりやろうぜ」
ククールが私の手をしっかりと握ってくれる。この手の暖かさが、私に何度も前に進む力をくれた。
「まかせといて」
以前の私だったら、ククールに一度も『仲間』だって言ってもらったことがないのに気づいた時、寂しい気持ちになって、エイトを羨ましく思ったかもしれない。
でも、そんな言葉なんてもう必要ないのよね。ククールが私を信じてくれてるのなんて、確かめるまでもないことだもの。
今回のことだって、一度だって私に『どうする?』って訊いてはこなかった。私が一緒に行くことなんて、言うまでもなくわかってくれてた。
ククールとは考え方や価値観が違いすぎて、ぶつかることさえ出来ずに悲しい思いしたことも何度もあった。
だけど一番大事な時はいつだって、同じ答えを選んでいた。大切なものは自分自身の力で守るということ。
握っているものがお互いの手じゃなく武器に変わっても、私たちはもう離れたりしない。
進む道は同じだから、ずっと二人で生きていける。
<終>
216名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/09(木) 22:59:06 ID:Ob/5bkYEO
・・・(´Д⊂)゚。・∵。・.
217名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/10(金) 00:32:17 ID:1an8yoZOO
。・゚・(ノД`)・゚・。
218名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/10(金) 01:00:20 ID:e/1FNCfQO
……(ノ∀`)・゚・。
219名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/10(金) 10:18:01 ID:TRQQmz6Y0
Jbyさま

いつも、深い考察と、独自の解釈に感服してます。
そして今回も、お話を読み終えて、「こう来たかー」と呟いちゃいました。
良い意味で裏をかかれた感じですよ。お話は残り1つだって言ってましたけど、
まだ続きますよね? この後。
すっごく楽しみにしてますので、是非是非書いて下さいませ!
220名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/10(金) 17:01:25 ID:9PAc0g1Y0
つづきをかくのら!
221名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/10(金) 18:22:29 ID:uX94t6uu0
毎度お疲れ様です。
やっぱ職人さんがいると活気が出てきて嬉しい。
222名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/11(土) 00:01:17 ID:1Jd7o9PQ0
(TдT) アリガトウ
223名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/11(土) 09:07:50 ID:3aQj88su0
長い間、妄想にお付き合いきただきまして、ありがとうございました。
おかげさまで気持ちよく萌えつきることが出来ました。
続きを望んでいただけるのはとってもありがたいです。
だけど私、仲良くない二人を書いてる時は、仲良しな二人を書きたくなり、微妙な関係を書いてる時は早くくっつけたくなり、ラブラブ状態を書いてると、今度はケンカさせたくなるという業の深い妄想家らしいですw
まとめサイトさん一周年の時はお礼に、何か一本書こうかな、とは思ってるのですが・・・。
なので続き物としては、これで完結ということで。
今まで、本当にありがとうございました。



224名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/11(土) 11:41:13 ID:HfuJeOTwO
本当にGJ。
225名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/11(土) 15:59:16 ID:fkCRQlDjO
サヨナラ
226名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/11(土) 16:02:17 ID:cMbSp8mu0
重病ですな
227名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/11(土) 16:45:03 ID:h5D/p4H50
Jbyさん、ありがとう!GJです!
これまでたくさんの作品が見れてほんとに楽しかったです。
228名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/12(日) 13:00:27 ID:/VDSet59O
こちらこそ本当に本当にありがとう
229名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/12(日) 13:47:19 ID:WgvnoERF0
まだ続いとったんかいな
230名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/12(日) 22:23:02 ID:b1hOF8r/O
わたしのククゼシ小説を応援してくれた皆さんありがとう
今度はテリバースレで会いましょう







〜〜〜〜糸冬〜〜〜〜
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/13(月) 13:52:59 ID:imdYXmn80
「イオナズ…」
「!!」
「………zzz……むにゃむにゃ…」
(寝言かよ…おちおち寝てらんねー)
232名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/13(月) 23:00:49 ID:x4DWEbjV0
>>231
一緒に寝てるのか?モエスw
233名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/14(火) 00:51:27 ID:/o3UkB4D0
>>223
少し残念な気もしますが、ここは笑顔でお疲れサマー&アリガトーと叫びたいと思います。
一緒にククゼシに萌えることができて、私にはとても励みになりました。
ほんと、サンクスです。
234名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/14(火) 09:42:39 ID:W+3KHUrX0
( ´_ゝ`)フーン
235名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/15(水) 00:40:13 ID:8ROQLeaFO
保守
236名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/15(水) 08:00:09 ID:1etqzYGy0
hosh
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/15(水) 20:34:04 ID:9tI4Nbas0
gkbnipj:6esin6pesuines]・・・(泣)
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/16(木) 01:13:19 ID:GR6S3VKNO
保守
239祝・まとめサイトさん一周年:2006/03/16(木) 03:45:45 ID:dx0ch63W0
だけど『一周年』と何の関係もない話にorz
お題で話が作れないと痛感。
>>54
本当に今さらだけど、ちょっと取りいれてみました。
でも、きっとこういうのが見たかったんじゃないかもしれない。
ごめんなさい、これが私の限界です。
240『わかってない』前編1/3 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/16(木) 03:47:28 ID:dx0ch63W0
どうしてこう、やることなすこと裏目に出てばかりなんだろう。
新法皇即位式に乗り込んで、マルチェロを止めることが出来たと思ったら、逆にあいつが抑え込んでた暗黒神が自由になって、聖地ゴルドが崩壊した。
操られてたんだと思ってたマルチェロが、自分の意志で法皇様を殺したらしいと知って、頭の中はグチャグチャだ。
煉獄島に収監された時に、身に着けてた武器防具の全てを没収されたせいで、ラプソーンの空飛ぶ城に攻め込むには装備がお粗末すぎるってんで、エイトが錬金釜を使って何とかマシな防具を造ると張り切ってる。
心の整理をする時間の猶予が出来たことだけが、唯一の救いってやつだった。
ベルガラックのホテルで部屋を取る時、ゼシカだけでなくオレも個室を取ると良いとヤンガスが勧めてくれた。悪人顔のくせに、こういう時はあいつが一番、人の気持ちってやつをわかってくれる。
だけどそれと全く逆なのはゼシカで、部屋に入って装備を解く間もなく、オレの所に押しかけてきた。
用件は『エイトが錬金してるあいだにマルチェロを捜しに行こう』だ。
ゼシカに悪気がないのはわかってる。何事も逃げずに真っすぐ立ち向かう彼女にとって、大ケガを負ってたマルチェロの手当もせずに、黙って行かせるって行為は理解できなかったんだろう。
だけどオレはゼシカじゃない。あの時のオレにはあれで精一杯だったんだ。それにあのプライドの高い男が捜されることを望んでるとも思えなかった。
エイトとヤンガスがいてくれたら、もう少しどうにかなっただろうに、個室なんて取ったせいで仲裁してくれる人間もないまま言い合いになり、ひどいことも言ってゼシカを泣かせてしまったりもした。
はっきり言って、泣きたいのはオレの方だ。
だけどそれでもゼシカは一度決めたことを譲ろうとはしてくれないんで、オレはつい余計なことを言い、それが自分の首を締めることになった。
『ひとの兄貴の心配してるヒマがあったら、勘当された婚約者の心配でもしてやれよ』
ゼシカが、あのラグサットとやらを相手にしてないのはわかってた。だけど周囲では、婚約解消されたって認識は浸透してないようだから『お前にだってハッキリさせずに状況に流されてる部分があるだろ』って、つい言っちまったんだ。
そういうことを言えば、ゼシカがどういう行動に出るかなんて、予想はついたはずなのに。
241『わかってない』前編2/3 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/16(木) 03:49:16 ID:dx0ch63W0
「なあゼシカ、頼むからもう戻ろうぜ。まずいって、これ。こんなところで死んだら、誰にも気づいてもらえないぞ。そうしたら誰がラプソーンを倒すんだよ」
「何で死ぬって決めつけてんのよ。こんな所の魔物たちに負けるようで、暗黒神なんかに勝てるわけないじゃない。そんなに帰りたいなら、勝手に一人でどうぞ」
目標まで一直線モードに入ったゼシカにホテルから連れ出され、サザンビークまでのルーラ係にされ、真夜中だっていうのに武装した状態で大臣宅に上がり込むなんて、暴挙に突き合わされてしまってる。
精神的にちょっと参ってたオレはその間ほとんど言いなりで、いかにも怪しく光ってる鏡から異世界らしい所に迷い込むまで、ゼシカを止める気力もなかった。
だけど、もうそんなこと言ってる場合じゃない。この迷宮にいる魔物の大半がトロルとかサイクロプスとかの力押しタイプで、本来後衛タイプのオレやゼシカにとっては、ヤバい相手だ。装備もショボイから、一撃くらうだけでも結構な大ダメージになる。
なのにこっちの魔法もかなり効くもんだから、ゼシカはすっかり強気で、全く引こうとしない。力ずくで連れ帰ろうかとも思ったが、そんな風に揉めてるところを魔物に襲われる方が危険が大きい。こんな時、リレミトを使えない自分が憎いぜ。
「屋敷の住人はここに紛れ込んだのかもしれないって言ったの、ククールじゃない。見つけるまでは戻らないわよ。そうしてキッチリとラグサットと結婚する気は無いって言えばいいんでしょう? それならククールも文句はないのよね?」
「だから、オレは文句なんか初めからないって。どうでもいいだろ、そんなこと」
「どうでもいいって何よ!? 自分から言い出したくせに!」
「怒鳴るなよ、魔物が寄ってくるだろ」
こうしてる間にも、ゼシカはズンズン前に進んでいく。なんでこんなに猪突猛進なんだろう。止められないオレが情けないだけなのかもしれないけど。
そもそも、何でゼシカがこんなに怒ってんのかも実は今一つわからない。
感情が全部顔に出るから、何を思ってるのかは大体わかるけど、そうなる原因がわかりにくいから、余計にとまどうことになる。
こんな迷宮よりも、よっぽど惑わされるぜ。
242『わかってない』前編3/3 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/16(木) 03:51:03 ID:dx0ch63W0
ああ、でもこれは本当にマズい。
予測通り、大臣一家は迷宮の奥でボストロールに捕まって調理されようとしていた。
ボストロール二匹ぐらい、普通の状態だったら問題なく倒せる。だけど、もうオレはほとんどMPが残ってない。回復呪文なしで戦うのは無謀すぎる。
なのにゼシカはすっかりやる気でいる。状況がわかってないんだろう。
「まさか、このボストロールの食事をジャマしにきたとでもいうのか?」
「当たり前でしょう。私たちが来たからには、人間をエサにするようなマネ、絶対にさせないんだから!」
ゼシカ、頼むから挑発しないでくれ。ここは一旦引き上げて、エイトとヤンガスを連れて戻ってくるべきだ。大臣たちには悪いが、勝てそうにない勝負をして一緒に死んでやるつもりはない。
「だが、ボストロール的には、強いヤツとは絶対に剣を交えたくないのだよ。おぬらは見たところ強そうだ。どうかこの場は見逃してくれんか?」
それに対して、ゼシカは威勢良く反論しようとしてる。
レディに対してこのやり方は乱暴だが仕方ない。後ろからゼシカを押さえ付けて口を塞ぐ。後で仕返しされるのも覚悟の上だ。こんな所で死なせるよりはマシだ。
「いいぜ。魔物にだって食事を楽しむ権利くらいはあるだろうしな。そこまで言うなら、見逃してやってもいい」
ゼシカが腕の中で暴れまくってるけど、力を緩めてやるわけにはいかない。
せっかく向こうが下手に出てくれてるんだ。ありがたく勘違いしてもらったまま退散させてもらおう。うまく鍋の湯を引っ繰り返せれば、大臣たちが食われるまでの時間稼ぎも出来るだろう。
エイトとヤンガスが装備を整え、オレもMPを回復させて、またここまで戻ってくるのに早くて二時間ってとこか。もしかして一番てこずるのはゼシカを説き伏せてリレミト唱えさせることかもしれないな。
「そうか見逃してくれるか。ありがたやありがたや。お礼におぬらを回復してやろう」
この後の展開をいろいろ考えてたのに、ボストロールは親切にもオレたちの体力とMPを回復させてくれた。
「これで気がすんだだろう。そうそうに立ち去ってくれい」
・・・MPさえ回復すれば話は別だ。さっき宝箱の中で見つけた剣の切れ味、こいつで確かめさせてもらうとするか。
243『わかってない』後編1/3 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/16(木) 03:55:00 ID:dx0ch63W0
「だがボストロール的には・・・。いい夢見させてもらったぜ!」
幸せそうな顔でボストロールは崩れ落ちた。
「変な奴だったな。オレたちのことは回復しといて、何で自分は一度も回復しなかったんだろうな。単にバカなだけか」
尤もなツッコミを入れながら、ククールは剣を鞘に収めた。
「あんたって、サイテー」
思わず悪態が口から飛び出す。
「なーにが『魔物にも食事を楽しむ権利がある』よ。そんなこと白々しいこと言って逃げようとしたくせに、回復してもらった途端、何事も無かったように退治するなんて信じられない。『恩を仇で返した』って怒られて当たり前よ」
「何言ってんだよ。勝てそうにない勝負を避けて通るのは当然だろ。そして勝てる勝負はキッチリ勝つのが当たり前。人間をエサにしてる奴なんて、見逃せるわけねえだろ」
「MPが無かったんなら言ってくれれば良かったのに、あんな乱暴なことするなんてひどいじゃない。窒息するかと思ったわよ」
「そのことは悪かったよ。だけど敵の真ん前で『MPが無い』なんて言うバカいるかよ。そんなに茹で魔法使いになりたかったのか?」
ククールはボストロールの落とした鍵で牢を開けて、大臣一家を出してやってる。
一緒にリレミトしてあげようと思ってたのに、大臣たちは自分たちだけでサッサと走っていってしまった。
あれ? そういえば私、大臣に話があって来たのよね。
「ゼシカ、いいのか? 大臣たち行っちまったぞ。言いたいことがあったんだろ?」
「・・・忘れてたー!!」
「忘れんなよ!」
この場合のククールのツッコミも、尤もだと思う。

「私、ラグサットとは結婚するつもりなんてありませんから! もうフィアンセでも何でもないってことで、いいですね!?」
無事屋敷に戻っていた大臣は、魔物に食べられそうになったショックから抜け切れてないのか、あんまりピンときてないみたい。
「ゼシカ・・・。おお! そなた、アルバート家のゼシカさんだったのか」
「おい! 息子のフィアンセの顔も知らなかったのかよ!?」
今日のククールは、ツッコミに忙しいわね。
「それは残念だが、そなたがそう言うのなら仕方ない。ラグサットもどこでどうしているかもわからんしの。それではこの婚約は無かったということで」
これで話は終わり。どうせこの婚約なんて、その程度のものだったのよ。
244『わかってない』後編2/3 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/16(木) 03:56:43 ID:dx0ch63W0
外に出ると、もう空が白んでいた。こうやって普通に朝は来るのに、私たちの目の届かないところで世界は着々と滅びの道を歩んでるのかもしれない。
それを止める手立てはラプソーンを倒すことだけ。だからこそ、絶対負けられない戦いに向かうためには、気持ちの整理を着けなきゃいけないこともあると思う。
「どう? これで文句ないでしょう?」
「ああ、はいはい。文句なんてとんでもない。そんなもん、初めからありませんよ」
・・・そんなもん? 初めからない?
「・・・なかったの? 文句」
「そう、文句なんてなかった。っていうか、どうでも良かった。話逸らそうとして、言い掛かりつけただけだ。オレが悪かったから、もう勘弁してくれ」
何だろう、この何とも言えない苛立ちは。
「本当に、どうでも良かったの?」
「何でそんなに絡むんだよ。文句あった方が良かったのか?」
「そうじゃないけど・・・何かモヤモヤするのよ」
だって、ククールにラグサットの名前出された時、すごく腹立ったんだもの。『あんたに関係ないでしょう!』って怒鳴ってやりたくなった。
だけど『どうでも良かった』って言われる方が何倍も腹立つのはどうしてなのかしら。

「ごめんなさい、ククール。もうマルチェロのことは言わないわ、私が間違ってた。ククールは私とは違うんだものね」
ベルガラックまで戻り、ホテルへ戻る道の途中で、ククールに謝っておいた。
私がククールの立場だったら、マルチェロのことを心に残したままで、戦いに集中することなんてきっと出来ない。それが原因でククールに大ケガしたりしてほしくなかった。だからマルチェロを捜そうとしつこく勧めたけど、本当によけいなお世話だったみたい。
鏡の中の迷宮でも、私はすっかり頭に血が昇ってたのに、ククールは全然冷静さを失ってなかったもの。
私が心配なんかしなくても、ククールはちゃんと気持ちの切り替えが出来る、しっかりした人なんだ。
なんて思ったのよ。なのに・・・。
「そういうこと。オレはゼシカと違って、あんなマルチェロなんかの心配してやれるほど優しくねぇんだよ。だけどあいつだってガキじゃねえんだから、自分の面倒くらい自分で見るさ。もうあんまり気にすんなよ」
・・・何なの、ほんとに。
245『わかってない』後編3/3 ◆JbyYzEg8Is :2006/03/16(木) 03:59:30 ID:dx0ch63W0
「・・・バカ!!!」
もう他に何も言う言葉が浮かばない。
何で私が、あのマルチェロの心配なんかしなくちゃいけないのよ!
心配されてるのは自分だってこと、頭の片隅にも浮かばないわけ?
「あんたってどうしてそう、人の気持ちがわからないの? ああもう! この苛立ちを何て表現したらいいのかわからないわ!」
「わかんねぇのはこっちだよ。何でいきなり怒ってんだよ。オレ今『優しい』って褒めただろ? それで怒られてたんじゃ割にあわねえよ」
普段は信じられないほど頭も勘も良くて、全部わかってるような顔して人の気持ち見透かすくせに、こういう根本的なことになると全然何もわかってない。
ククールはまだ私が怒る理由がわからないらしく、途方に暮れた顔してる。
そして私はそんな姿を見てると、不思議と怒る気持ちが薄れていってしまう。
「ごめんね」
もう一回謝っておく。わかってるわよ、私が一方的に勝手なこと言って迷惑かけたってことくらい。
ククールはちょっと肩をすくめて、しょうがないって感じになる。
「もういいから、早いとこ戻って休もうぜ。さすがにちょっとばかり疲れた。出来ればバーで一杯引っかけてから寝たいんだけど、付き合ってくれるか?」
「・・・一杯だけよ」
一応お詫びのつもりで了承すると、ククールはちょっと驚いたような、意外そうな顔をした。
「・・・ほんとに?」
「自分で誘っておいて何よ。私だってたまには飲みたい時もあるの。一つ言っておくけどね、ククールって自分で思ってる程には私のことわかってくれてないからね。それだけは覚えておいてよ」
「そういうこと言うってことは、ゼシカも自分で思ってるほどにはオレの事わかってないな。オレはゼシカのこと理解できてるなんて思ったこと一度もないぜ。何やらかすか予測もつかないおかげで、スリルに満ちた毎日を送らせてもらってる。これはこれで楽しいけどな」
どうしてククールってこうなの?
強がって平気なフリばっかりして、わがままに付き合わせた私が気に病まないように、わざと意地悪な言い方をする。
やっぱりダメだわ。せめて私ぐらいは心配していてあげないと、この人どうなっちゃうかわからない。
その辺り、全然わかってくれてないみたいだけど仕方ないわ。
どうしても気になっちゃって、自分でもどうにもならないんだものね。
   <終>
246名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/16(木) 04:05:09 ID:TjFpDKd0O
リアルタイムで読ませていただきました!!
GJ〜!!!
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/16(木) 09:44:20 ID:rc7r4LHz0
GJ!
248名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/16(木) 09:58:27 ID:j4Xwy1pR0
Jbyさんのククってほんとイイ奴ですよね。
顔なんか良くなくたって、このククなら性格だけで絶対モテルと思う。
しかもゼシカの断り方も男前ですよ。
それとJbyさんのお話はこれが最後だと思って、しっかり噛み締めました。カミカミ。
それでは、本当に、お疲れ様でした。ありがとう。
249名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/16(木) 10:42:12 ID:w6BcYbuMO
まとめサイトさん一周年おめでとう!お疲れ様です。
Jbyさんもお疲れ様。最後と言わずにまた思い付いたら
短編でも投下してって下さいよ。

ところで丸のあれって自分の意思だったのかな?
解釈って人それぞれですね。スレ違いスマソ。
250名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/16(木) 14:53:52 ID:rc7r4LHz0
とりあえず保守しておきますね。
251名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/16(木) 15:09:58 ID:bImLzOQ5O
hosyu
252名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/16(木) 19:33:59 ID:GR6S3VKNO
そろそろ圧縮…保守
253名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/16(木) 21:39:54 ID:VQBskocj0
そういや、ゼシカはわかるが、ククはなんであんなに強かったんだっけ……。
254名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 00:34:01 ID:VKKrNHt/0
保守
255名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 04:05:43 ID:PJgYecy30
感想くださった方、どうもありがとう。
しかし、想像してた以上に乱立すごいみたいですね。12時間もたずに落ちたスレもあるみたい。
それでは私も、ひとまず名無しに戻って。

【保守】
256名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 04:18:14 ID:iJ5fGmiH0
大丈夫だと思うけど保守。
それにしても乱立すごい。
257名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 07:27:52 ID:JswAMBhr0
数時間でスレが落ちるのか…スゴス
258名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 11:31:46 ID:b6kUC27d0
まだやってたんか
259名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 15:42:57 ID:IJtHDKAxO
>>253
何が強いんだ?
260名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 16:34:11 ID:wfMrt40t0
>>240-245
遅ればせながらGJです!!
>>54書いたの私なんですけど、まさか覚えていてくださったとは!!
何気なくいっただけなのにここまでラブラブな話を作ってくれるなんてもう感激ですよ!
ゼシカ、確かに世話焼きっぽい性格が災いして
大きなお世話もいっぱい焼いてそうかもw
文句言いながらも最後まで付き合うククールもほんとにいいやつだなぁ。

>>253
私も聞きたい。何が?
261名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 16:34:27 ID:VKKrNHt/0
hoshu
262名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 18:52:24 ID:Jqb5zq+QO
戦いの強さのことじゃないの?
ゼシカは強いのの末裔だけど、みたいな
でもそうなるとヤンガスもなんで?ってことになるか
263名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 18:55:58 ID:PJgYecy30
ヤンガスは子供の頃に、不思議なダンジョンで鍛えたからだよ、きっと。
264名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/17(金) 21:32:11 ID:wfMrt40t0
うーん、ククールも一応騎士団員だったし基礎的なことは
団長から叩き込まれていたんじゃないかと。
団長自ら手を出さなくても、いじめという名の特訓があっただろうし、
オディロ院長のお気に入りだったから魔法も教えられてたみたいだし。
強くないとやっていけなかったんじゃないかな。
265名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/18(土) 00:00:03 ID:KzpInpol0
ところで、いたストポータブルのパッケージがうpされてたけど、
今作もククゼシ参加するみたいですよ。
ククール&ゼシカが一番前に出ててイイ!!
ゼシカも今回は顔がかわいくなってるし、装備も短剣からムチに変わってるし、
ぜひお相手願いたいですなw

さらにマルチェロ兄さんまで参加する模様です。
ネチネチした嫌な兄弟対決が見られそうで楽しみですw

>http://image.www.rakuten.co.jp/superpotato/img10251933090.jpeg
266名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/18(土) 00:22:53 ID:zF5LHDuhO
マルチェロなんかどーでもいいよ
267名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/18(土) 00:41:55 ID:KzpInpol0
あ、ひどい・・・。
268名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/18(土) 00:50:12 ID:sg06BC8y0
私は団長が出るのも嬉しいぞ。
2人のやりとりにゼシカがそれにちなんだコメントをしてくれたら嬉しい。
しっかし団長の目つきがイヤミだな〜w

それにしてもなんて美味しいパッケージなんだ。(*´д`*)
269名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/18(土) 08:08:01 ID:ZqsHQSGx0
保守
270名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/18(土) 10:10:05 ID:iGwyhHw20
>>267
そんな ひどい・・・。
だともっと良かったw
271名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/18(土) 14:50:23 ID:u6ddmG8U0

     そんな ひどい……!!

     ̄ ̄∨ ̄ ̄∨ ̄ ̄∨ ̄ ̄
  .   _ _     _     r:v;‐、
  . ,'´,. -、ヽ ;'´;.(Ω)ヽ , ' ⌒.,ヾ.ヽ
   川―゚ー!| i. jii^iii^ji! .〈((゙(ヽヾ.〉!
   |!(|TnTノl_ノ (!TnTノ、 i、TnT)シi |
   と)|ト-チiつ⊂{i゙ー)i}つとRヾと)_i_!
   ソリ゙/iヾi!~^</~i゚~ヾ>  .ハ:ハ.:ハ
   んレ';_!_リゝ .//.ハヾゝ  i|.|_|._|」
  .       `~^~~^´
272名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/18(土) 18:04:48 ID:1XVUY4gu0
ひどいどいどい土井たか子
273名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/18(土) 22:13:45 ID:E3HjRdUc0
>>270
うん。送信してから気づいたんだけどね。遅かったみたい。
ところで、なんかまたククールのスレができてたよ。

ククールの美貌にやられた輩→
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1141533102/l50

ぬるぽガッスレみたいなスレになってるけどw
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/19(日) 10:00:48 ID:wA72h/Ph0
275名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/19(日) 14:54:40 ID:bQbw+ds9O
しゅ
2761/2:2006/03/19(日) 16:03:56 ID:wA72h/Ph0
「えっ・・・?」
その瞬間、ゼシカは重力がなくなったような気がした。でもそうじゃない。足を踏み外したのだ。
体がゆっくりと傾き、がけの底に向かって倒れていく。
あたりを見回してもつかまれそうなものがない。
周りのものがやけにゆっくり動いているように見える。
(ピンチの時って時間がゆっくり流れるって言うけど、これがそうなんだ・・・ってのんびり考えてる場合じゃないわね)
つかまるものはないと分かっていても一縷の望みを託して地面の方へ手を伸ばすと強い力でグイと引っ張られた。
ククールだ。
「おい、大丈夫か!」
私より前を歩いてたはずなのに、よく私が落ちそうになってるのに気づいたわね。
しかもとっさに私の方に手を伸ばしてよく間に合ったもんだわ。さすがマルチェロに一度手を振り払われた後
また掴みなおせるすばやさを持った男だわ。あの時はどうしてマルチェロが落ちなかったのか、正直不思議だったもの。
「あ、ありがと・・・。もう大丈夫よ。」
自分の声がかすれている。急に心臓がバクバクしてきた。
冷静なつもりだったけど、思ったより焦ってたってことね。お礼を言ったきり何も言えないし、何も考えられない。
2772/2:2006/03/19(日) 16:04:57 ID:wA72h/Ph0
「えっと・・・、ごめんなさい、ボーとしてたのかしら・・・。これからは気をつけるわ。」
「気にすんなって。ゼシカだけの責任じゃねーよ。さっき街で聞いた所によるとFF12号が通過中らしいからな。
危険なのは分かってたけど、だからって俺たちの旅は止められないだろう?みんなで気をつけて行くしかないんだよ。
それに誰かが気づいて保守してくれさえすれば落ちねーし。だから、さっきも言ったけど
落ちそうになったとしてもゼシカだけの責任じゃないから気にすんな。」
「・・・?保守?」
「ああ。誰にも保守されないと日の当たらない世界へと落ちて、二度と復活できなくなるらしい。すでにマルチェロの奴も
落ちたって話だぜ。まあ、あいつの事だから落ち着いた頃に戻ってくるだろうけどな。」
「怖いわね・・・。って、どうしてマルチェロの事が分かったの?二度と復活できないのに戻って来れるってどういうこと??」
「FF12号はもう2〜3日で落ち着くんじゃないかって言われてるけど、まだまだ油断はできないぜ。でも安心しな、ハニー。
君を守る騎士になるって言っただろ?君を守るってことはこのスレも守るって事なんだよ。だからこのオレに任せてくれ!」
「はいはい、ありがとうございますー・・・ってスレって何よ?さっきから会話が成り立ってるようで成り立ってないわね。」
「という訳だから、落ち着くまでの間、保守がんばろうぜ!」
「だから保守ってなんなのよーーー!!」
「大丈夫でがす、ゼシカのねーちゃん。あっしにもククールの言ってる意味は分かんねーでがすよ。ねーちゃんだけじゃないでがす。」
278名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/19(日) 17:28:28 ID:vz+uanoc0
新職人さん誕生かと思ってwktkしながら読んでたのに、どうしてくれるんだー!!
でも面白かったw
こういうタイムリーなネタっていいよね。
279名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/19(日) 21:46:29 ID:XOk2V2350
キャラ雑談ネタだな。
280名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/19(日) 23:58:32 ID:ayh2/FHG0
>>279
あたりです。
281名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/20(月) 13:28:00 ID:ky9elr1C0
「ん?何かしら、この匂い」
「え?何か匂うか?」
「香水の匂い?かしら?」
「(やべっ。酒場でバニーちゃんにもたれ掛かられたんだった)さ、さあ、知らないな」
「…やっぱり香水の匂いね。他所の香りを身につけて私の前に立つなんていい度胸しているじゃない?」
「お、おい落ち着けよ。何か紫色に光ってる?!」
「さあ選ぶのよ。マダンテと双竜打ち、どっちがいい?」
「どっちも嫌ぎゃあぁぁぁぁぁーっ!」
282名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/20(月) 16:41:39 ID:wbvUSYTf0
いたすと表紙今みたよ。
ククもゼシカもかわいい。
ククの年齢がだいぶ下がってみえるところがやや気なるけどな。
283名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/20(月) 19:35:42 ID:UZMOg0VD0
俺も表紙見たぞ。
よく見てみたらゼシカもククールも触覚2本出てるんだなww
284名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/20(月) 22:09:40 ID:8V5gs0ki0
きっとあの触角からテレパシー発して愛を語り合ってるんだよ
285名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/21(火) 01:21:46 ID:8RK6omBP0
ぬるぽ
286名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/21(火) 02:46:34 ID:G+cr9Fib0
いまどきぬるぽなんて久々に見た
287名前が無い@ただの名無しのようだ
ククールとゼシカがくっつくなんてありえないのに必死だなお前らw