1 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:
今から「トルファの冒険」シリーズを再開させて頂きます。
次の行き先としては「パプニカ、シエーナ、アスカンタ」とします。
年内中には終わらせようと思うので、次に書きたいと思われる方はご存分にアイデアを練ってお待ちください。
*初めてトルファの冒険をご覧になる方へ
これは連作短編ゲームブック方式の小説です。書き手は固定されていませんので
いつもはROMの方も書き手になってみてください。
1)主人公は旅の扉を使って新しい町へゆき、冒険し、また次の町へ 旅の扉から旅立ちます。
冒険中の行動を全て書き手さんが決めても、途中にゲームブック風選択肢が登場しても構いません。
ただし、冒険の最後の旅の扉の行き先だけは複数の選択肢を用意してください。
2)次に書く人は、どの選択肢を選んだか明記して進めてください。
書き手以外の人が希望を書き込む事も可能ですが、その希望に沿って進むかどうかはわかりません。
3)書き手は選んだ選択肢以外については、書く事ができません。以前の選択肢に出たのに選ばれなかった場所を再び選択肢に出す事は可能ですし、過去に行った場所の事を思い出す、等はOKです。
例:A、B、Cの中からAに行ったとしたら、B、Cに行った場合の話をAの中で書くことはできません。
4)基本的にはひとつの冒険をひとりで書いた方がやりやすいように思いますが、
途中で書き手が交代してもOKです。
5)旅の扉が出た時点で、次の書き手さんに交代します。書き手希望者がいない場合は続行もOKです。
6)ドラクエ世界の中なら、どこへ行っても構いません。アリアハンの次にフィッシュベルへ飛ぶ等もアリです。
今までの粗筋を全部書くのは面倒臭いので、興味をもたれた方は「トルファ+ドラクエ関係の用語(例:ダーマ、竜王)」で検索して過去ログを発見してみてください。
2 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/12/28(水) 21:20:52 ID:1YKd/RpiO
2
■プロローグ
旅の扉。特殊な魔法で2箇所をつなぎ合わせた、トンネルのような移動手段だ。今では旅の扉を作れる者は
いないと言われ、既にあるものを利用するしかないが、旅をする者には1つの道として重宝されている。
旅の扉がどこにあるのかは、多くの冒険者によって世界中から報告され、数年前からその地図も売られており、
旅行感覚で旅をする者も増えてきた。今や「冒険者」と言えども命を賭した戦いの場などない。それは平和の
証だが、冒険者にとってひどく退屈な事でもあった。
暇を持て余す冒険者の間に、最近流れ出した噂がある。赤い旅の扉。一見すると色が違うだけの旅の扉に
見えるが、入り口と出口はつながっておらず、入ったが最後引き返す事はできない。世界のどこにもつながって
おらず、どこにでも行けるがどこに行くかはわからない、そんな物があると言うのだ。噂を聞いた冒険者達は
久しぶりの未知に沸き立った。君も冒険の旅を夢見るならばわかるだろう、どこにでも行けるがどこに行くかは
わからない、その危険がどれほど心を震わせるか。多くの冒険者が旅先でその話をし、瞬く間に噂は世界を駆けた。
多くの冒険者が旅立ったが、その幻の旅の扉を見つけたという話は全く無い。やはり噂に過ぎなかったのだと
言う者も多く、流行りが過ぎて人々の関心が薄れても、トルファはまだ探し続けていた。彼がそこまで探し続ける
理由は誰も知らず・・・いや、もとより冒険者にとっては旅に理由など必要ないのかも知れない。今夜は宿を
取れず、野宿していたトルファが夜空を見上げていると、目の前の空間が赤く裂けた。驚いて剣を構える
トルファの前に、赤い亀裂の中から一人の男が現れ言った。
「これがお前の探している旅の扉だ。一度これを通れば、時が来るに従い扉の方からお前のもとに現れるようになる」
呆然と見ていたトルファが我に帰ると、男は既に姿を消していた。
あの男が何者なのか、何故自分にこの扉を届けにきたか解からないが、求めていた旅の扉がここにあるのだ。
トルファは赤い旅の扉に飛び込んだ。直後視界がゆがみ一面が赤一色になる・・・
頭の中に響く声に従って扉を抜けたとき、トルファの前に見知らぬ世界が広がった。
■これまでのあらすじ
第一の扉 〜レヌール城の宴〜
扉を抜けたトルファの目の前に、荒野に寂しくそびえる古城の姿があった。
そこで、トルファはブーンと名乗る一人の魔法使いと出会う。『光の玉』を求める
この不気味な男に、何故か共感をもったトルファは、男に協力して城内の探索を
開始した。次々と襲いくる亡霊の妨害、鎧の騎士との死闘を経て『光の玉』を
手にしたトルファを待っていたのはブーンの裏切りであった。
ブーンこそが真の魔物だったのだ。気が付けば、呼び笛に導かれた魔物の軍団が
レヌール城を囲むように迫り、逃げ場はない。魔物の手助けをしたことを歯噛みして
悔しがるトルファに向けてブーンの必殺の呪文が放たれる。
虚を突かれた形となったトルファ救ったのは、王妃ソフィアと国王エリック。
二人の亡霊であった。王妃ソフィアが身を挺してトルファをかばい、国王エリック
が、『光の玉』を自分たち夫婦の墓所に隠す。全てを見届けた後、
トルファは迫り来るモンスターの集団から逃れるべく、テラスに身を躍らせた。
自嘲の笑みを浮かべて大地に叩き付けられるのを待つトルファを、赤い渦が飲み込んだ。
第二の扉 〜アッテムト〜
アッテムト。そこは、かつて死と荒廃に満ちた鉱山町であった。
町を覆うように鉱山から噴き出すガス。毒の沼地の毒気。
しかし、今この町を覆うものは人々の陽気と幸せそうな笑顔。
そこで、トルファは一人の男の懺悔を聞く。
第三の扉 〜ラダトーム “竜の一族”〜
赤い旅の扉を抜けた先にそびえるは、ラダトームの城。
地下世界アレフガルドを治める大国の首都だ。「竜王の島に異変有り」との報に
国中が恐怖に涌くなか、トルファは訪れた。探索隊で出会った頼もしい男達、
イシュタル島に新たな魔王となるべく天界から降臨した成竜の息子。数奇な縁に
導かれて出会った人と天界の住人の結束を前に、竜王二世は地に伏した。
探索隊の面々が勝利の喜びと興奮にかられるなか、呼び止める声を軽くいなして
トルファは一人背を向けて歩き始めた。竜王の島から虹の橋へと一歩踏みだしたとき、彼を
おなじみとなった赤一色の空間と、友誼を結んだ竜族の若者が待っていた。
精霊の加護に守られたこの地で繰り広げられた冒険は、トルファが体験した数多い
冒険のなかで、代表的なものの一つとして数えられている。
第四の扉 〜 ルプガナ “丘に咲く曼珠沙華の花” 〜
赤一色の空間をわたって、人となった竜族の若者は旅立っていった。
竜の血をひくことになる自分の子孫のために街を作ると言って……。
また一つ小さな別れを繰り返し、トルファは港町ルプガナに立った。
そこで出会ったスイと名乗る謎の美少女を通して、トルファはアレフガルドに
残る悲話の体験者となる。野望のために魔物にまで成り下がったスイの父・ムーンブルクの
国王を討ち果たした後、トルファはスイと別れ、血のような花を咲かせる曼珠沙華の丘から
新たな見知らぬ地へと旅だった。
■トルファの冒険の書
第一の扉 〜レヌール城〜 “古城の宴”
第二の扉 〜アッテムト〜 “古代遺跡の街”
第三の扉 〜ラダトーム〜 “竜の一族”
第四の扉 〜ルプガナ〜 “丘に咲く曼珠沙華の花”
第五の扉 〜イシス〜 “風と砂の狂想曲”
以下、第六の扉 〜ダーマ神殿〜 “神殿の守り手” へ
トルファは即座に判断し、右の──ダーマ神殿へと通ずる扉へと駆け込んだ。
ガツン!
火花が散る。
トルファはいきなり固い壁に頭をぶつけてしまった。
そこは真っ暗な空間だった。足元には砂利の感触があり、靴の固い底皮と小石がこすれあう音がする。
そこでトルファはカンテラと火打ち石を取り出し、明かりをつけた。
思ったとおり、狭く閉ざされた空間だ。手をのばすとすぐに石壁にぶつかる。
上を見上げると、(目測ではあるが)トルファの身長を10倍掛けしたあたりの高さまで石壁は続いている。その上には光がある。
「どうやら古井戸の底みたいだな。こんな変なところに扉がつながっているとは……それほど慌てていた、ってことかな」
トルファは一瞬、自分をこの旅に導いた「彼」に思いをはせた。彼は自分を逃す為に、謎の男達を食い止めてくれたのだ。
果たして彼は無事なのだろうか。
「まあ次に会う時に分かるか」
トルファはまだわずかに痛む頭をなでると、靴紐と手袋を締め直した。
「よし、上まで登るとするか!」
トルファはカンテラの取っ手を紐で雑嚢に固定し、石壁へと張り付いた。
石壁はかなり年月を経てところどころ欠けているようで、登るのに十分な取っ掛かりがある。
崩れやすい箇所もあり、苔で手を滑らせそうにもなった。しかしトルファはカンテラの明かりを頼りに、三点支持で登攀を続けた。
そして数分後──トルファはとうとう井戸の縁に手を届かせた。両手で縁をつかみ、一気に身を起こす。
……目が合った。
槍を持った若い男が、井戸のほうを向いて立っていたのだ。
男は予想だにしなかった光景に目を見開き、口はあ然としたまま開いていた──それはトルファも同様だ。
「……」
「……」
しばし、二人の間に気まずい沈黙が流れる。が、トルファはようやくのことで言葉をしぼり出した。
「……や、やあ、ここはどこだい」
男は声をかけられたことで緊張の糸をほぐし……いや、断ち切ってしまった。
そして甲高い声で叫んだ。
「い、井戸魔人だーー!!」
「待てい、こら!」
トルファは慌てた。確かに自分は井戸から出てきた。それに先の冒険のため薄汚れた格好をしている。
しかしだからといって、あんな醜いモンスターと一緒にされるとは!
トルファは急いで井戸から飛び出て、男をなだめにかかる。しかし彼はすっかりパニックを起こし、槍を無秩序に振り回すばかりだ。
「くそ、気の小さいやつだ」
トルファは弱った。そして追い討ちをかけるように事態は悪化した。
男の声に非常を察知したのか、部屋の扉の向こうから多数の駆け足の音が聞こえてきたのだ。
男はそれに勇気付けられたかのごとく急いで扉を開け……10名ほどの戦士や魔法使い達がなだれ込んできた。
トルファはおとなしく手を挙げるしかなかった。
「……どうしてもあなたは、全く別の異世界からやってきたと主張するのですね」
トルファを詰問するのは金色の長い髪を垂らした女魔術師だ──彼女はヘルメスと名乗った。
そして彼女は、まるで信じがたいことだ、とでも言いたげに天を仰いだ。
トルファは今、狭い部屋で取調べを受けている。むろん武装を解除された上でのことだ。椅子に縛り付けられ、なおかつ魔力封じだという手錠もされている。
窓どころか、机一つない殺風景な部屋。脱出は不可能だ。その事実はトルファを大人しくさせるのに十分なほど重すぎた。
先ほどからヘルメスと、彼女と瓜二つの──双子の妹だという──マーズという女性がトルファの尋問を担当している。
彼女たちは自分たちのことについてはそれこそ何一つ話さないくせに、トルファのことについては根掘り葉掘り訊いてくる。
トルファは嘘を感知するという魔法まで使われたので、洗いざらい自白せざるをえなかった。しかし、
「にわかには信じがたいことです。ですが私たちの魔法には反応しない……」
「これは彼が本気でそう信じ込んでいるか、あるいは強大な魔法で私たちの嘘発見の魔法をごまかしているのか……」
こんな調子だ。すっかり信用してもらえない。扉から出るところでもみせていれば話は別だったかもしれないが、いまさらどうしようもない。古井戸の底の入り口も既に消えてしまった。
(八方ふさがりだな……)
それが現状であった。トルファとしても、美人に囲まれるのは嫌ではないがこんなシチュエーションを好む性的嗜好はない。
トルファは何度目かの反論を試みた。
「あんたら、こんなこと続けても意味ないだろ。そろそろ俺の言うことを信じてくれよ」
「ですが、あなたの言うことには無理があります。この神殿はルーラ、バシルーラやリレミト等の呪文による侵入、脱出を拒む結界を張っていますし、だいいち井戸の底などという構造上複雑な場所へ正確に出現させることは技術上の問題があります」
「それはだから……」
「旅の扉がいつの間にか古井戸の底に出現していたという仮説も否定されます。過去数百年にわたってあの古井戸は封印されてきました。またあなたの出現後の調査でも、既知の時空移動の魔術が引き起こす時空間の歪みの痕跡は検出されませんでした」
これにはトルファも驚いた。赤い扉が超常の力により出現しているだろうとは想像したが、まさかそのような検証がなされていたとは。
果たして、自分に冒険を提供してくれている「彼」は一体何者なのであろうか。謎は深まるばかりだ。
しかしそれもトルファの証言を証明する役には立たない。むしろ真相の究明を困難にさせている。
トルファが何度目かのため息をついたとき、取調室の扉が開いた。武装をしていない若い男だ。おそらくはパシリの神官見習いだろう。
「ヘルメス様、マーズ様、最高神官様がお呼びです。その男を連れてくるようにと仰せられました。そして……その……丁重に扱えとのことです」
ヘルメスとマーズは……困惑を顔に浮かべてトルファを見つめた。
そしてトルファは、ようやく事態が動いた事に安堵した。果たして吉と出るか凶と出るか。いずれにしても構わない。冒険はトルファが望む事なのだから。
トルファは前後を双子の女魔法使いヘルメスとマーズに、左右を衛兵に囲まれて最高神官の部屋へ連れて行かれた。
この建物──ダーマ神殿は相当に格調が高く造られており、その歴史の重さと厚さを感じさせる。しかしトルファはあることを疑問に思った。
「なあ、やけに物々しい雰囲気だな。武装したやつらばっかだな。それに……血の臭いもする。戦争でもやっているのか?」
「察しが早いですね。確かに我々は戦いのさなかにあります。そう、魔物の軍勢を相手に」
トルファの言葉にヘルメスが答えた。心なしか彼女の顔色はかげったように見えた。
そこに後ろのマーズが口をはさんだ。
「姉さま、あまり彼に話さないほうがよいのではないでしょうか」
「いえ、最高神官たるユピテル様が彼を客人として扱うように仰られたのです。これぐらいかまわないでしょう。それにユピテル様のところに行く前に簡単な事情は知っておいてもらったほうがよいようですし」
その口ぶりはこれから先にトルファにどのような事態が起こるかを予測しているようでもあった。
しかし情報は情報だ。知っておいて損はない。トルファは黙ってヘルメス、マーズの話を聞いた。
──ここはダーマ神殿。はるか昔、神々の時代より人々の生きるべき道……言い換えるならば「職業」を司ってきた神聖なる場所なのです。
それゆえダーマ神殿は幾たびも魔界の侵略を受けてきましたが、いずれも天空の神々のご加護と地上の人々の勇気により退けてきました。
しかしここ数年、魔物の軍勢が以前とは比べ物にならないほど強大になっているのです。魔界を支配する大魔王が本腰を入れて侵略にかかってきたのではないかとすら噂されています。
なぜならこのダーマ神殿は職業を司るというだけでなく──
そこまで話したところで彼らは足を止めた。最高神官の部屋に着いたのだ。
ヘルメスは扉にノックをし、到着を告げた。
「さあ、中に入りましょう」
ヘルメス、トルファ、マーズの順に中に入った。衛兵たちは外で扉の番をするようだ。
この部屋は応接用のようだ。幾らかの椅子と机が並んでいる。また、机の上には重厚な造りの宝箱が置かれていた。そしてその向こうの椅子には白髪の大男が座っていた。
整えられた頭髪、見事な口ひげ、そして白色の神官衣に包まれ、鋼鉄のように鍛え上げられた肉体。まさに神話に出てくる天空の主神の様だ。
「ユピテル様、こちらがトルファなる冒険者です」
ヘルメス、マーズは同時に頭を下げた。トルファは戸惑いながらもそれに続いた。そこへユピテルは声を投げかけた。
「正式な礼をとる必要はないぞ。略式で気楽にするとしよう」
そしてユピテルは立ち上がり、トルファの傍らへと歩み寄った。
「わしがダーマ神殿の最高神官を務めるユピテルだ。よろしく、トルファ」
「は、初めまして……最高神官、様」
トルファはユピテルの威厳に圧倒されそうになり、しゃちほこばった受け答えをしてしまった。
「いや、わしのことは単に「ユピテル」でかまわない。君はわしの部下というわけではないからな」
ユピテルは笑みを浮かべ、トルファに握手を求めた。トルファは気を落ち着け、それに応じた。相手がいいと言うのだ。トルファは普段のペースを取り戻し、椅子に座った後、臆することなくユピテルに質問をした。
「えーと、なんで俺のような不審者一歩手前の流れの冒険者とじきじきに会うんだ」
トルファのタメ口にヘルメスとマーズが目をむいたが、ユピテルが手を上げて制した。そしてトルファに答える。
「それは……君自身がよくわかっているのではないかね、異なる世界を旅する者よ」
ユピテルの言葉にトルファはほほう、という顔をした。彼の素性をすぐに見破る者はそれほど多くはない。
「……俺の顔になんかついているのかな」
「まあ、君の宿命というか星の導きのようなものだ。気にすることはない。それに君は……そんなものには構わず旅を続けているのだろう?」
「ま、そうだな」
トルファは苦笑した。誰かが何かの目的で冒険の機会をトルファに与えてくれていることは確かだ。しかしその中での行動はすべてトルファ自身の意思によるものである──そうトルファは考えている。
「それでは本題に入ろう。トルファ、君とヘルメス、マーズを呼んだわけだが……」
ユピテルはそこで大きく息を吸い、そして深く、長く吐いた。まるで心の奥深くに沈めたものをはきだすかのように。
「昨晩の祈りの最中に神託が下されたのだ。今日の夜、魔物の軍勢による総攻撃が行われ……ダーマ神殿は滅びるとのことだ」
ヘルメスとマーズは両手を口にあて、驚きを示した。トルファは突然のことであっけにとられた。
「滅びるっていうと……俺たちも死ぬってことか?」
「そう、このまま神殿内にいてはな」
「……それでは最高神官様は私たちに何をせよと?」
「ヘルメス、マーズ……お前たちはこの宝箱の中身を見たことがあるか?この中には、遠い昔に伝説の勇者が用いた武具が入っているのだ」
「ま、まさかそれは……」
ユピテルは魔法の鍵を取り出し、宝箱の鍵穴に差し込んだ。
ガチャリ
宝箱の蓋が開いた。気のせいか蓋と箱の隙間から光がもれてくるように見えた。
ユピテルは見事な造りの盾を取り出した。黄金でもミスリルでもブルーメタルでもない、不思議な質感を与える金属だ。
「これは……オリハルコンか?」
トルファは必死で知識を搾り出し、見当をつけた。
「そう、これこそはオリハルコン製の伝説の武具の一つだ。かつて用いた勇者の名にちなみスフィーダの盾として伝えられている」
「もしかして魔界の大魔王とやらはこいつを狙ってるのか?」
「恐らくは。また神託では『異界より訪れし者にスフィーダの盾を預けよ』とも告げられた。そして今朝、君が突然現れたと報告を受けたのだ」
「……」
途方もない話にトルファ、それにヘルメスとマーズは沈黙するしかなかった。自分たちが現在いるダーマ神殿が明日には滅びると聞かされただけでも驚愕したが、それに伝説の盾が絡んでくるとは想像をはるかに超えている。
「現在このダーマ神殿は魔物どもによって隙間なく包囲されており、恐らくは移動魔法を使ったところで、何らかの手段により妨害されるだろう。
現にルーラやキメラの翼で近隣諸国に救援を呼びにいたはずの者たちも帰ってこないのだ。こうなれば直接……自らの足で脱出するしかない」
「というと……」
「明日のやつらによる総攻撃の際、我々は打って出て乱戦を作り出す。トルファ、君たちはその中で敵の包囲網を潜り抜け、脱出してほしい」
「しかしそれでは最高神官様たちは……」
「もちろん、死ぬだろう」
ユピテルは平然と言った。
「だが、このまま篭城していても緩やかな死を待つだけだ。ならばせめてスフィーダの盾だけでも脱出させなくてはならない」
「そうか……わかった、その依頼を引き受けるぜ」
「よし、ありがとう。ヘルメス、マーズ。お前たちもトルファについていきなさい。そしてスフィーダの盾を守り抜くのだ」
しかし二人は納得できないという顔をした。
「……ですが、仲間をおいていくわけにはいきません!」
「そうです!我々は今までともに戦ってきたのです。ここで私たちだけが脱出するのは──」
「お前たちの気持ちはわしにもよくわかる。だが……これは世界のためなのだ。いつの日か伝説の勇者が現れるまで、この武具を守ることこそが世界を救う道だ。その日は、十年二十年どころではなくもっと先……おそらくは百年単位の年月が流れるであろう。
だがかならずその日は来るのだ!我々は大魔王により滅ぼされる。しかしそれは決して敗北ではない!遠い将来に必ず現れる勇者に伝説の武具を渡し、そして勇者が大魔王を倒す。それこそが我々の勝利なのだ!!」
ユピテルは声を高めながら一息に言った。そして深呼吸をし、未だ興奮冷めやらぬ声で告げた。
「さあ、一刻も早く旅立ちの準備をするのだ。そして休み、今夜の出発に備えるがいい」
トルファたちはユピテルに促されるまま部屋を出た。トルファは衛兵たちに連れられていき、ヘルメスとマーズは自分たちの部屋に戻っていった。彼女たちはトルファが声をかけてもうつむいたままであった。
「俺を尋問していた時には気が強く見えたけど、それだけじゃあなかったんだな」
そんな思考が浮かび、トルファは思わず頭を振った。
「ちぇっ、こんな命がかかったときに不埒なことを考えるとは、な」
真夜中……戦いは始まった。
雄たけび、剣と剣がかち合う音、魔獣のうなり声、攻撃呪文による爆発音、そして断末魔の叫び。
準備は万端である。トルファは既に革靴を履き、鎧を着、剣を帯び、マントを留め、そして背中には布にくるんで隠したスフィーダの盾を革紐で十字に縛り付け、その上に雑嚢をしょっていた。
神殿内の人間たちは確かにあわただしくしているが、思ったよりも混乱はしていない。よく訓練が行き届いているからだろう。しかしユピテルが受けた神託が正しければ、今日中に彼らは全滅するのだ……。
(見捨てる形になってしまってすまない)
トルファは心の中で頭を下げながら進み、そしてユピテルの部屋に入った。
バタン
扉を乱暴に開く。そこには既に三人が待っていた。
「うむ、準備ができたようだな。彼女たちも今来たところだ。」
「それで俺たちはいつでてゆけばいいんだ?」
「今、神殿の正面玄関に兵を集めている。魔物の軍勢は裏をかいたつもりか、正門以外の方面から攻撃を仕掛けてきた。我々は裏の裏をかき、正門から斬りこみをかける。君たちは彼らの出撃後、時間差をとってから脱出してくれ」
「正門を堂々と開けて大丈夫なのか?逆に付け入られたりしたら元も子もないぞ」
「君たちが出た後、門はすぐに閉める」
「それじゃ、斬り込み隊のやつらはどうするんだ?門の外に出るんだろ?」
「彼らにはしばらくしたら森の中に散らばり、可能な限り魔物の注意をひきつけるよう指示を与えてある。君たちが逃げられるように」
「つまり……」
「そう、彼らには死兵となってもらう。だから君たちには必ず生き延びてもらわなければならないのだ。神殿に残って篭城する者も、最期まで魔物を防ぎやつらの目を向けさせ続ける」
ダーマ神殿の全ての者たちがただ一つ、スフィーダの盾を託されたトルファたちを逃がすため、そしてそれを未来の勇者に渡すためにその命を捧げるのだ。
トルファは思わず背中に縛り付けたスフィーダの盾に手をあてた。まるでその重さを感じ取るかのように。
一方、ヘルメスとマーズはまるで葬列に加わるかのような表情をしたままであった。共に過ごし、戦い続けてきた仲間たちをおいて自分たちだけ脱出するというのだ。
その引き裂かれんばかりの感情は想像にかたくない。
それを察してか、ユピテルは彼女たちに対し……慈しみに満ちた目で肩に手を置いた。
ヘルメスとマーズはそのままユピテルの厚い胸にすがり──トルファは彼らを気遣い、一足早く部屋から出た。
トルファたちは人一人通るのがやっとというまでに狭められた門をくぐった。
そしてすぐに門は閉められた。もはや後には退けない。
前方の森では斬り込み隊の者たちが魔物の軍勢に強襲をかけているのか、激しい戦闘が行われている模様だ。
神殿の正面だけではなく、他の方面でも神殿内に侵入しようとする魔物とそれを防ぐ人間との戦いが繰り広げられている。
地の利もあり防御側が優勢にことを進めているが、魔物たちの陣容は非常に分厚い。じきに数の差に押し切られてしまうだろう。
「ダーマ神殿が滅びる日が来ようとは……」
マーズが泣きそうな声でつぶやいた。それをヘルメスが励ました。
「元気を出しなさい、マーズ。私たちが生き延びることこそユピテル様はじめ神殿の皆が望んだことなのですから。さあ、行きましょう」
どうやらヘルメスはマーズよりも先に元気を取り戻したようだ。トルファとしても同行者たちにいつまでも落ち込んでもらっていては自分の身も危ない。
立ち直ってもらわなくては困るのだ。
「よし、俺が先頭を行く。二人は左右と背後を警戒してくれ」
三人は三角形の陣形で暗い森の中へ進んでいった。
時折戦いの音が聞こえてくると慎重にそちらを避け、静かなほうへと進んでいく。もしかして向こうでは仲間が助けを求めているのかもしれない。ひょっとしたら自分たちが行けば助けられるのかもしれない。
しかし、多数の魔物に囲まれてスフィーダの盾を守りきれなくなるという危険を冒すわけにはいかない。トルファたちは唇をかみ締めながら歩を進めていった。
そしてついに──森を抜け出た。彼らは一様に安堵のため息をついた。
「ここまで来ればもう大丈夫でしょう。あとは森の端沿いに西へと進み、港町サンマリノを目指します。そうすればスフィーダの盾の隠し場所を探すにも好都合なはずです」
ヘルメスはそう言った後、マーズへと目を向けた。マーズは抜け出たばかりの森を見つめていた。その先は……ダーマ神殿だ。
「マーズ、振り返ってはいけません!」
ヘルメスはマーズをしかりつけた。声を張り上げるなど、トルファには今までの彼女からは想像できなかった。
「私たちは前へと進まなければならないのです。それがユピテル様の……」
ヘルメスの声は次第にしぼんでいき、それとともに彼女はうつむいてしまった。
そして彼女の目から涙が零れ落ちた。
「ヘルメス……お前、本当はとても辛かったんだな」
トルファは両手で顔を覆うヘルメスに声をかけた。
マーズに比べ、気丈に思えたヘルメス。彼女とて、本当は泣き出したい思いだったのだ。それを義務感により抑えていたが、使命が一段落ついたところでによりとうとう限界が来てしまったのだ。トルファはそれを悟った。
トルファはヘルメスの肩をつかんで言った。
「さあ、もう行こうぜ。ここにいても何もならないばかりか、辛さが増すだけだ。今はただ……前に進もうじゃないか」
ヘルメスは突然トルファの肩に手を回し、抱きついてきた。
「お、おい」
トルファは突然のことに戸惑ったが、ヘルメスは泣きじゃくるばかりだ。
困惑するトルファにマーズが言った。
「もう少しだけ、そのままにさせてあげて下さい。ずっとこらえてきた分、ヘルメスは私よりもきつい思いをしていたのです」
「そうか……」
トルファも単純な男ではない。ヘルメスが自分に抱きついているのは、トルファ自身と認識してのことではなく別人の代わりとして……おそらくはユピテルを意識してのことだろう。
自分がすこし黙っていることで彼女の辛い思いを受け止め、軽くさせて上げられるならそれもいい。
一分ほどして……ヘルメスはトルファから離れた。彼女の目は涙に腫れていた。
ヘルメスはトルファに頭を下げた。
「取り乱してしまい、すみませんでした。謝ります」
「いや、かまわないさ。別に俺だって悪い気分じゃなかった……って、俺は何を言ってるんだ」
トルファが恥ずかしがると、ヘルメスとマーズはかすかに笑った。
「ごめんなさい、あなたが顔を赤らめるのが面白くて……」
「人を子ども扱いしないでくれ!」
彼女たちはすっかり気分が落ち着いたようだ。
「よし……もう行くぞ、いいな?」
「はい大丈夫です……トルファ、ありがとうございました」
ヘルメスはトルファに礼を言った。トルファは気恥ずかしい、という様子で頭をかいた。しかし悪い気分ではない。
彼らが歩き出そうとした瞬間……目前に、黒い影が地面から生えてきた。
「な、なんだこいつは!」
トルファたちはとっさにそれぞれの武器を構え、戦闘体勢を整えた。
影はトルファの身長の1.5倍ほどの大きさになると、霧が晴れたかのように姿が明らかになった。
青ざめた肌の馬にまたがり、馬上槍(ランス)と盾を構えた、魔性の高貴さを漂わせた魔物……死神貴族だ。
死神貴族はトルファたちを一瞥し、馬上から声を投げ下ろした。
「ふっふっふ……うまく探し物を見つけられるとは、私は運がいいようだ」
死神貴族は、可笑しくてたまらない、とでも言うように手を叩いた。
「何が『うまく』かというと、ここには私しかいない。即ち手柄をムドーの部下どもに奪われなくてすむということだ。これは非常に、非常に重要なことだよ」
「……黙って聞いてれば、大した自信だな」
トルファは死神貴族をにらみつけながら言った。
「一人で俺たち三人を相手にするとは、な」
それだけの実力はやつにある。トルファたち三人と互角以上に戦えるだろうとトルファの歴戦の勘は告げていた。
しかしここで気圧されては勝てるものも勝てない。ここははったりが必要だ。ヘルメスたちもそれを察してくれたか、まずは舌戦に出た。
「あなたは何者です?私たちを探していたかのような口ぶりですが」
「ふっ、それは少し違うな。私は君たちの持つスフィーダの盾を探していたのだよ」
そして死神貴族はトルファに馬上槍を向けた。
「せっかくの盾を背中に縛り付けるとは……君らは無粋者だな」
「なに!?」
トルファは思わず片手を背中の盾にあてた。背中に隠していることまで見抜いたとは……。
「私はスフィーダの盾の捜索のため、特別な力を与えられた魔王の使い……造作もないことだ!」
死神貴族はマントを翻し、馬を後退させた──突撃の姿勢だ。
「さて、君たちも名乗ろうではないかね。これから倒す相手の名を知っておくのが礼儀だからな」
「俺の名はトルファ、一介の冒険者さ!」
トルファの名乗りと同時に死神貴族は馬を走らせた。
カキン!
トルファの剣は死神貴族のランスをはじいた。助走が足りなかったためか、死神貴族の突撃はさして威力のあるものではなかった。
しかし死神貴族は立ち止まらず、そのままトルファの横を駆け抜けていった。
「しまった!ヘルメス、マーズ!」
トルファは叫んだ。死神貴族は後ろの彼女たちを狙っていたのか!
しかし死神貴族は彼女たちの前で急に馬の進路を変え、離れていった。
「はっはっは、驚いたか。私は誇り高き貴族だ、最初にご婦人を相手にしようとは思わないよ。間に立ってくるなら話は別だがね──だがいずれにせよ、トルファ!まずは君からだ!」
死神貴族はランスを構え、トルファめがけて愛馬を走らせた。
「炎よ!メラミ!」
「閃光よ!ベギラマ!」
ヘルメス、マーズは呪文を唱え、死神貴族にあびせた。
「ふっ、これしきの呪文など……吹雪け!ヒャダルコ!」
死神貴族が馬上で唱えた呪文の冷気は閃光と火炎を相殺し、蒸気を発した。しかし死神貴族は呪文を唱えるため、突撃の姿勢をわずかに崩してしまった。
「くらえ!」
トルファは呪文の衝突により生じた蒸気に隠れ、馬上の死神貴族に斬りかかった。
しかし死神貴族もさるもの、素早くトルファの斬撃を左手の盾で防いだ。そしてさらには馬上槍でトルファを突いてみせた──トルファは馬を蹴った反動で跳び、それをかわした。
「トルファ、大丈夫!?」
「ふう、一筋縄ではいかないな」
ヘルメスの心配に、トルファは額の汗をぬぐいながら答えた。
死神貴族は馬の歩みを遅めて反転し、再びトルファへと向き直った。
「なかなか面白い戦法だな。どうやらまだまだ楽しませてもらえそうだ」
「はは、貴族の戦いの定石にはこんなのはないってか?しかもこちらが態勢を整える余裕をくれるとはな」
死神貴族の余裕の発言にトルファは皮肉で返した。
「私は貴族だ。戦いのさなかにも美学を求める。さあ、立派な死に花を咲かせてくれたまえ!」
三度死神貴族は馬を走らせた。それはまるで蒼い稲妻のようだ。
「ヘルメス、マーズ、援護を頼む!」
二人はそれぞれに呪文を唱え始めた。しかしそこへ死神貴族の呪文がいち早く発動した。
「同じ手は食わないぞ……逝け!ザラキ!」
たちまち、墓場のような冷たさがトルファたちに忍び寄りその肉体を包みこんだ。まるで死人の手で愛撫されているかのようだ。
それは心弱き者、生に疲れ始めた者にはものすごく甘美に思えるらしい。
だが……現在のトルファたちは果たさねばならない使命を抱えているという自覚がある。トルファは必死で抵抗し、死の手を払いのけた。
しかし死神貴族は既に目前に迫っていた。
「うおおお!」
ガスッ
耳障りな音がした。
トルファは避けきれず、死神貴族の馬上槍がトルファの鎧のわき腹を削っていったのだ。その衝撃はトルファの肉体にも鎧ごしに伝わり、血反吐を吐くことになった。
「トルファ!」
ヘルメスが叫んだ。だがトルファは自らにホイミをかけることで気絶を逃れた。
しかし死神貴族はなおも向かってくる。
「どうやら次でおしまいのようだな。人間にしては楽しませてもらったよ」
死神貴族は馬上槍を華麗に振り回すと、突撃の体勢をとった。
「くそ、どうすればいいんだ……」
トルファは焦った。そこへヘルメスが声をかけた。
重複にアラズ。誘導先も間違い。
23 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/03(火) 18:44:36 ID:FAHMUpDU0
保守。
>>3のスレタイを見ると、ねじれ現象が起こっていたことがうかがわれる。
ここ2、3年のうちに板の住人が相当数入れ替わったってことだな……。
25 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/04(水) 06:05:04 ID:S9Lz4fkgO
>>1はモッコスをとなえた
住人のやる気があがった
住人の攻撃…放置
>>1はロウバイしている
>>1は語彙をみせびらかした…
住人はダメージを受けなかった。
住人の攻撃…小説板行け
…
>>1は生きタエタ
おお
>>1よ、氏んでしまうとはなさけないw
「トルファ、次は私も前に出ます」
「それは無茶だ……やつの突撃に耐えられるのか?」
ヘルメスは心配無用、とでも言うかのように腰の小剣を抜いた。
「私の職業は魔法戦士……剣の修行も積んでいます。あなたは馬を狙ってください。まずは馬上から落とすことが先決です」
マーズも再び杖を構えた。
「私が攻撃呪文を唱えますので、二人で挟撃してください」
余裕はない。トルファは腹をくくった。瞬時に判断すると背中の斧を外し、左手に構えた。
そして蹄の音が近づいてきた。死神貴族はやはりトルファを目標としている。
死神貴族の馬上槍が迫ってくるが、トルファはその場で身構えたままだ。
「覚悟を決めたのか!」
馬上槍がトルファの胸を貫い……たかにみえた。なんとトルファの姿が掻き消えたのだ。
「しまった、これは……」
「そう、マヌーサだ。つめを誤ったな貴族さんよ」
トルファは死神貴族の左手に回りこんでいた。その剣は今まさに振るわれようとしていた。
「くっ!こしゃくな真似を!」
右手に持った馬上槍で左側のトルファを突くことはできない。死神貴族はトルファの剣を盾で防いだ。だがそれはトルファの読みどおりであった。
「もらったな」
トルファはつぶやくと左手の斧で──馬の首を刎ねた。
「これを狙っていたのかぁ!」
死神貴族の乗馬は首を失ったというのに暴れだした。トルファはうっかり蹴られないように距離をとった。
馬はわずかの間暴れたが、糸が切れたかのように急に動きを止めた。そしてバランスを崩して前のめりに倒れ、乗っていた死神貴族は前方に投げ出された。
そこにはヘルメスが、彼女の小剣に炎をまとわせて待ち構えていた。
慣性のついた死神貴族の体がヘルメスに覆いかぶさるように飛んでくる。その予測軌道上で刀身を構え──振るった。
袈裟懸けに斬られた死神貴族の体は炎に包まれた。
「火炎切り、か」
トルファは馬の返り血をぬぐいながらヘルメスへ駆け寄った。彼女はすっかり青ざめていた。
「魔法戦士としては……初歩の技です」
「それにしても魔法と剣を同時に扱うようなものだ。いいとこ取りだな……俺も教えてもらおうかな」
トルファはおどけて見せた。そんな彼にヘルメス、そしてマーズは笑みで返した。
しかしトルファは、笑顔を浮かべながらも剣を構えなおした。
「さて、とどめを刺すとするか」
トルファは振り返り、炎に包まれた死神貴族を見た──そこでは人影が起き上がろうとしていたのだ。
「……私がまだ生きていることを知りながら歓談するとは……なめるなよ!」
人影は炎と同時に、来ていた服を振り払った。
現れたのは4本腕の骸骨のモンスター。それぞれの腕は肋骨の内側に手を差し入れると、斧、棍棒、曲刀、直刀と4種類の武器を取り出した。右上腕に斧、左上腕に棍棒、右下腕に曲刀、左下腕に直刀を構えた姿は戦神の如き。
ヘルクラッシャーやボーンファイターと呼ばれる種族のモンスターだ。
「この誉れ高き死神貴族が──魔王の使いが……まさかこの姿を人間ごときに見せるとはな!」
ブンッ
構えた武器を、その重量を確かめるかのように振り回す。
「さあ、かかってこい!楽には死なせてやらんぞ!!それともこっちからいくか!?」
死神貴族──魔王の使いは激昂していた。
「……我を失ったのでしょうか」
「俺たちの歓迎がよっぽどお気に召さなかったようだな」
トルファはやれやれ、といった態で肩をすくめた。そして魔王の使いへ向かって歩き出した。
ヘルメスとマーズもついて行こうとする──だがトルファはそれを制した。
「やつの相手は俺に任せろ。お前たちは十分戦った」
確かにヘルメスとマーズは、短いが激しい激闘により消耗していた。しかしそれはトルファも同じことだ。
マーズはそれを指摘した。
「俺はいいんだ。お前たちにはここを脱出した後もスフィーダの盾を隠しに行かなければならないんだろ」
トルファには見当がついていた。この双子の姉妹とスフィーダの盾を無事に脱出させることが、このクエストにおける自分の使命なのだろうと。そしてそれはユピテルと既に約束したことでもある。ならば
「あんな化け物を直接相手にしたら、お前たちではもたない。頼むから援護に徹してくれ」
確かに、先ほど死神貴族が構えていた馬上槍でさえ一撃必殺の武器であった。そして現在、魔王の使いは凶暴な凶器を4種類も携えている。まともにくらっては即死が必至である。
「……わかりました。あなたの言うことに従いましょう」
ヘルメスはうなずき、マーズにも従わせた。
「ですが……死なないでくださいね」
「もちろんだ」
トルファは剣と斧を構えつつ進んだ。そこへ魔王の使いが雄たけびを上げながら突進してくる。
「うおおぉ!」
キィン!
魔王の使いはトルファの頭へ棍棒と斧を同時に振り下ろした。しかしそれはトルファの剣と斧により受け止められる。
しかし魔王の使いにはまだ2つの武器がある。
「死ねえぇぇ!!」
魔王の使いは曲刀と直刀を左右から横なぎに振るった。トルファの胴を両断する軌道だ。
「こんなところでくたばってたまるかぁ!」
トルファは深く身を沈めた。当然、それまで上方で防いでいた棍棒と斧が振り下ろされる。
次いでトルファは左に動いた。そこは魔王の使いの右前方である。しかしいまだ斧の一撃の範囲であり、それに加え曲刀の軌道上だ。
二撃の軌道がトルファの体で交わる寸前──トルファは剣と斧を下から振り上げた。
トルファは横なぎに振るわれた曲刀の軌道を捻じ曲げ、斧の軌道に無理やり運んだのだ。
「ぬおおぉ!!」
渾身の力を込めた斧の一撃を、これまた渾身の一撃たる自らの曲刀が防いだ。
魔王の使いの体は大きく左へ傾いた。
29 :
◆CXIsttOtKo :2006/01/05(木) 10:27:37 ID:sWWyjrH90
それでも左下腕の直刀でトルファを狙うことをあきらめなかった。
しかし無理な体勢からの一撃を見切ることはトルファにとってたやすいことだった。
トルファはその反撃を剣で防ぎ、斧の一撃を魔王の使いへと加えた。
「ぬう!おのれトルファ!」
魔王の使いは再び斧と棍棒をトルファの頭へ振り下ろした。そこへ、
「ベギラマ!」
マーズの呪文により生じた閃光が魔王の使いの体で爆ぜ、その動きを止めた。
そしてヘルメスも小剣を構えて走ってきた。
「ヘルメス!後ろに下がっていろ!」
トルファは思わず怒鳴った。しかしヘルメスは止まらず、逆にトルファに言った。
「トルファ、私の攻撃に合わせて!」
その勢いのある言葉に、トルファはしたがわざるをえなかった。
ヘルメスの一撃に、わずかな時間をおいてトルファの攻撃が重ねられる。
二人の斬撃は魔王の使いの体で十字に交差し……光が起こった。これはゾンビ切りと呼ばれる技の応用だ。
魔王の使いの体は真っ白い十字の光により、4つに切り裂かれた。
ガラン
4つの残骸が地面に落ちる。しかしそれらは急速に形を失い始めた。
「そ、そんな馬鹿な……俺が負けるとは……デ……スタ…ーア様……!!」
かすれた叫び声を残し、その体は闇に溶け込むように消えていった。
死闘は終わった。
「さて、行くとするか」
武器を収め、傷の手当てを終えた。あとはサンマリノの港町へ向かうだけだ。
もはやダーマ神殿の攻略戦も終局が近いはずだ。いつまでもここに留まっていると落ち武者狩りのモンスターがやってこないとも限らない。
トルファは歩き出した。マーズもそれに続く。
しかし……ヘルメスは森の方を向いたまま動かない。
「ヘルメス、どうしたんだ」
「……私は戻ります」
「戻るって……まさか……」
「そう、ダーマ神殿へです」
トルファは絶句した。ダーマ神殿は総攻撃を受けている最中だ。そこへ戻るというのは死を意味する。
30 :
◆CXIsttOtKo :2006/01/05(木) 10:29:41 ID:sWWyjrH90
「やめろ、ヘルメス!……マーズ、お前からも言ってくれ!」
しかしマーズはかぶりを振った。
「私には……止めることはできません」
「なぜだ、お前の姉妹なんだろ。死んでもいいというのか」
「姉妹だからこそわかるのです。ヘルメスの気持ちが」
トルファはヘルメスの方へ振り返った。彼女はキメラの翼を手にしていた。
「戻るだけならモンスターたちの妨害もないでしょう。今ならまだ間に合うはずです」
「なぜ死地に行こうとするんだ……」
トルファはヘルメスに詰め寄った。ヘルメスはため息をついて語った。
「私は……神殿の仲間たちと……ユピテル様と共に生き、共に死ぬことが望みなのです」
トルファはうなだれた。そして理解した。彼女の秘めたる想いを。
しかしそれはひどく辛いことだった。
「すみません……」
ヘルメスはキメラの翼を天高く掲げた。
「マーズ。生まれてから今まで、あなたと姉妹でいて本当によかった。トルファ。あなたとは短い付き合いでしたが楽しかったわ」
ヘルメスはトルファとマーズにまなざしをむけた。その顔は悲しいぐらいに穏やかだった。
マーズはこらえきれず涙を流した。
「さよならトルファ、お元気で……。マーズ、勝手なことを言うと思うでしょうけど、あなたは生き延びて……」
ヘルメスの体は光に包まれ……宙へと飛んでいった。
マーズは涙を流しながらそれを見送った。
トルファは手を伸ばしたが、彼女に届くことはなかった。
数日後。
トルファとマーズは街道を歩いていた。
道行く旅人たちの口には、既にダーマ神殿の滅亡が上がっていた。それは暗黒の時代の再来として人々を恐れおののかせていた。
この世界はこれから魔王の恐怖に包まれるのだ。だがそれは、同時に新たな勇者の伝説が誕生することを意味するものでもあった。
今のところトルファたちにそれを知るすべはないのだが。
彼らはサンマリノの港町と大陸の南部を結ぶ街道の交差点へ達していた。
トルファはそこで立ち止まり、背負っていたスフィーダの盾をマーズへと渡した。
マーズは怪訝な顔でそれを受け取った。
「トルファ、どうしてです?」
「俺の仕事はここまでだ。後はもう一人で大丈夫だろう」
31 :
◆CXIsttOtKo :2006/01/05(木) 10:31:23 ID:sWWyjrH90
マーズは目をみはった。
「……あなたも行ってしまうのですか?私をおいて」
その時のマーズの顔を、トルファは正面から見ることができなかった。
「すまない」
トルファは絞り出すような声で言った。
「いえ、今ならなんとなく分かります。あなたは……本来ここにいるべき人ではないと」
「知っていたのか?」
「ええ。出発する前、ユピテル様から伺っていました。その時は信じがたかったのですが……あなたと旅をしていて」
「そうか……」
二人の別れの時が来た。
トルファは街道の交差点を南へ進んだ。すると次第に周囲の景色が赤みを帯びてきた。
マーズから見ると、それはまるでトルファが赤い霧に包み隠されていくように見えた。
「さよなら、マーズ。あの世で会ったらユピテルとヘルメスによろしくな」
そしてトルファはこの世界から姿を消した。
マーズはそれを見送ると、布で目尻をぬぐった。そして西へ──サンマリノへと進んだ。彼女の使命はまだ終わっていないのだ。
余談ではあるが。
そのマーズは西の大陸へ渡り、とある洞窟の最深部に祠を築いた。そしてそこへスフィーダの盾を安置した。ここにある限り盾は魔物の目から逃れ、遠い将来に勇者が訪れるまで守られるであろう。
使命を終えたマーズは再び東の大陸へ戻った。そしてあの日トルファが消えた方向……大陸の南部へ行き、そこに小屋を作って長い余生をおくった。
ときおりダーマ神殿の廃墟を訪れて亡き姉、その秘めたる想い人や仲間たちの鎮魂をするために。そしていつか訪れるであろう勇者たちを待って。
彼女はのちに魔女グランマーズと呼ばれるようになった。
トルファは赤い空間にいた。
しかし以前訪れたときよりも周りの赤みが薄れているように感じた。なにとなく古びた緋色のカーテンを連想させる。
そして「彼」の声が聞こえてきた。
「やあ、君は無事だったようだね」
「……なんで姿を見せてくれないんだ」
「こっちはちょっときついんだ。人様に見せられるような状態でなくて、ね」
トルファはその言葉を聞き、彼がミイラ男さながらに包帯でぐるぐる巻きにされて寝台に横たわっている状況を思い浮かべた。
しかし事実はそんなほほえましい状況ではないのであろう。
「まあ私の方はほっとけば大丈夫、心配は無用だ──さてお約束の、と。」
トルファの目の前に三つの扉が現れた。
「右側からパプニカ、シエーナ、アスカンタという町へ続いている。さあ好きな場所を選んでくれ」
sageの設定をし忘れたか。
以上で6番目の話は終了。
どなたか7番目のエピソードを書き継いでください。
私は冬休みが終わり、年度末どころか黄金週間まで2ちゃんねるに書き込めなくなるのでできれば保持もお願いします。。。
>21
小説スレのほうで多数決により決まったことですので、どうかご理解のほどを。
>23-24
3年前にはトルファが連載しているスレ(≠トルファスレ)の方こそが本家小説スレで、そこに他の人も短編の小説を書いてくれていたからこそスレの保持がなったのですが……。
廃れてしまったのは残念です。
>25
このスレを建てた1氏と私は別人です。モッコスなどという謎の不吉な呪いの言葉をかけないでください。
ほ
34 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/10(火) 12:04:08 ID:mILxt7z+O
しのあき
35 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/10(火) 12:23:59 ID:YuEqs7+WO
何で1人で全部進めてんの?
本当自己中な奴だな!
と、言うわけで自己厨な俺から勝手にスタートね。↓
俺の名はトルファ。どうやら今日で16歳の誕生日らしい。
母親から城に行けと言われた!
しかたねえ、行ってやるか!
A.アリアハン城(DQ3)
B.暗黒魔城(DQ8)
というよりバトンリレーのように一話一話を繋げるやり方だからな。
ちゃんと受け取ったバトンは次の人につなげないと。