○このスレのコンセプト
DQはちゃんとした小説がエニックス出版から出ていますが、FFは2以外まったく刊行されていません。
文才と多少の暇のある方、どうかこのFFDQ板でFFのどの作品でもいいので、ストーリーの最初から
最後まで完全小説化してみてください。
といっても一人でこんなこと最後までやりつづける人はいないでしょう、普通。印税入るわけじゃないし。
ただの趣味だし。根気が続くはずが無い。
なので、リレー小説にするのが妥当かと。
結構おもしろい企画だと思いませんか?
ただ飽くまでも「公式の小説が出版されていない作品を情熱あるこの板の住人がノベライズする」
がコンセプトなので、FFでなくてDQでもいいです。
ただしDQ1〜7は当然対象外になるわけで、可能なのはモンスターズ等でしょう。
やはりプロの作品にはかなわないですから、DQ1〜7は書く必要がないわけです。そういうものです。
乙
('・ω・)つ乙
始まりの部屋に潜入したスコール一行。
そこで彼らが見たものとは?
「こ、これは・・・おいスコール、俺の中の『物知りゼル』が発動しそうだぜ!」
ゼルが叫んだ。
「ああ・・・期待している」
スコールが言った。言葉とは裏腹に、期待している様子は見られなかった。
しかしゼルはそこまで気づかない。言葉を続けるゼル。
「この色、この形状、このサイズ・・・そして室外に突き出た給排気口、
間違いねえ、こりゃナショナルのFF式暖房機だっ!」
(ん?)
スコールは思った。
(もしかしたらゼルの奴、本当に物知りなのか?)
「これがFF式か」
スコールは近寄って詳しく調べようとした。
「おい、よせよスコール」
ゼルが止めに入る。
「万一の場合、死亡事故に繋がるおそれもあるんだぜ。ガーデンで習ったろ?」
「かといって、調べない訳にもいかないだろ」
そう言ってスコールはFF式暖房機を調べ始めた。
「こ、これは!」
スコールはドローポイントを発見。
ファイガをドローした。
8 :
297:2005/12/19(月) 22:08:51 ID:6h8EqRpf0
FINAL FANTASY IV #0296 4章 4節 これから(16)
「ところでセシル殿、その姿は?」
「あぁ、これは……」
セシルはちょっと苦笑した。確かに、彼と別れたときはまだ自分は暗黒騎士の甲冑に身を包んで
いたわけだから、今のパラディンの姿を見て彼が首を傾げるのも当然のことだろう。パラディンに
なったのはほんの数日前なのに、もう昔を忘れかけているとは、我ながら都合のいいことだ。
その考えとともに、ひとつの利点が浮かびあがった。つまり、セシル自身は忘れかけていたが、
人々の記憶の中にあるセシルの姿は、先程のヤン同様、暗黒騎士のセシルのままだということだ。
それならば、シャーロットやヤンのようによほど親しい間柄の人間でもない限りは、今のセシルを
あの暗黒騎士と結びつける者はいないはずだ。素性が知れていなければ、今後のバロンでの行動が
だいぶ自由になる。
ふと肩を叩く手に考え事を中断して振り返ると、いつのまにやってきたのかテラが双子を従えて
セシルとヤンを見比べていた。
「話はついたようじゃな?」
「あぁ、そっちも無事のようだね。良かった」
「先程はとんだご無礼を……私は」
頭を下げかけるヤンを制して、テラが忙しなく言う。
「面倒な相談は後じゃ。早くここを離れた方がよい」
テラの言葉が正しそうだった。朝っぱらから通りの真ん中で戦闘騒ぎなど起こしたものだから、
いつのまにか周囲には人だかりが出来ている。こんな所で目立つのは好ましくない。
「兵士どもも応援を呼びにいっただけで、引き返してくるかもわからんぞ」
「そうだね…」
9 :
297:2005/12/19(月) 22:09:57 ID:6h8EqRpf0
FINAL FANTASY IV #0297 4章 4節 これから(17)
言いながらセシルはがっかりしていた。先程思いついたばかりの利点が、もう通用しなくなって
いることに気付いたからだ。
確かに自分が赤い翼のセシルだということは知られていないだろう。だが先程の騒ぎで、今度は
肝心のパラディンの自分の顔も、衛兵に覚えられてしまった。晴れて正真正銘のお尋ね者である。
こうなってしまっては迂闊に動けない。
とりあえずこの場を離れなくてはならなかったが、どこへ行ったものか。
安易に宿などに泊ればすぐに見つかってしまうだろうし、第一、町人の様子を見る限り、泊めて
くれるかどうかすら怪しいものだ。
あれこれ考えを巡らせかけて、セシルはやめた。
考えるまでもない。この街にきて、どのみち自分が頼れる場所など、一つしかなかった。
「行こう、こっちだ」
街の一端を示して、セシルたちは足早に歩き出す。ぼんやりと成り行きを見守っていた民衆は、
彼らが立ち去りだすと道を開け、騒ぎが終わったらしいことを悟りちらほらと散らばっていった。
そうしてまた、街の中を無気力な空気が押し包む。
セシルは少し歩いてから先程の広場を振り返り、もうそこから自分たちを気にかける視線が消え
ていることに驚いた。あれだけの騒ぎを起こしたというのに、町人たちはもうセシルたちの存在を
忘れかけていた。その態度は、いかに彼らが虐げられた環境にあるかを、そして今のバロンの姿を
克明に示していた。彼らにとって重要なのは、兵隊に目を付けられぬよう、決して出しゃばらず、
臆病にその日その日を生き抜くことだけ。たとえ凶悪なお尋ね者どもがあらわれようとも、彼らが
自分に関わりさえしなければ、それ以上彼らに関心を示そうとする者などいないのだ。
いや、その空虚な人混みの中からただ一人だけ、セシルたちの後を追ってくる人影があった。
10 :
297:2005/12/19(月) 22:11:03 ID:6h8EqRpf0
FINAL FANTASY IV #0298 4章 4節 これから(18)
「あの……!」
言いすがる彼女を、セシルはそっけなくあしらう。
「シャーロット、僕らに関わらない方があなた方のためです」
「存じております、ですが……」
関わらない方がいいというより、関わらないでくれ、というのがセシルの本音だった。
なぜなら、彼はシャーロットが何を知りたがっているのかとっくにわかっていたからだ。そんな
ことは、初めに再会したときからずっと、彼女の心配そうな表情がもの語っていた。
そしてセシルにとって、それに答えるのはとても辛いことだった。
「お嬢様は……、ローザ様はどちらに?」
ほら、やっぱり。
「ここには連れてきていません、安全な所で身体を休めています」
「そうですか……」
そう聞いて、彼女は少し安堵した様子で胸を抑えた。
嘘を見破られない方法は嘘にならない言葉を選ぶこと。
どこかで聞きかじった話、嘘などつかないと思っていたけれど、意外な所で役に立ったものだ。
「奥様に、お伝えしないと……」
ふいにセシルは足を止め、シャーロットを見据えた。
思わぬ彼の反応に、シャーロットは立ちすくむ。
「シャーロット」
「はい」
「奥様には、僕やローザのことはまだ話さないでもらいたいんです」
「えっ、でも……何故…」
「……それじゃ」
半ば強引に言い捨てて、セシルは彼女を振り払った。シャーロットはなおもすがろうとしたが、
セシルの背中に決別としたものを察し、諦めて口を閉ざすと、遠ざかる彼らを不安げに見送った。
11 :
297:2005/12/19(月) 22:11:50 ID:6h8EqRpf0
FINAL FANTASY IV #0299 4章 4節 これから(19)
遠く彼女の様子を振り返りながら、テラが口を開く。
「セシルよ。ローザというのは、確かそなたの…」
「まだ話していなかったね、テラ。そういえばお礼もまだだった」
「あの病人の娘だったな?」
「そうだ。あなたとギルバートのおかげで、彼女の命を救うことが出来たよ」
「しかし、その娘はどこに…?」
テラの問いかけに、セシルは目を細めて口を閉ざす。
苦しげな彼を見かねて、ヤンが言葉を返した。
「ローザ殿は、ゴルベーザの元に連れていかれて………」
「……なんということじゃ、…するとあの女性は」
再びシャーロットの姿を顧みるテラに、セシルが付け加えた。
「ファレル家の、ローザの屋敷に仕えている女中だよ」
言いながら、セシルも振り返り、こちらを見つめる優しげな中年の女性でを見た。
懐かしさに胸が溢れた。幼い日々の想いが駆け巡る。だが彼はすぐさま彼女から目をそらした。
自分たちの境遇を忘れてはならない。この懐かしさすら、今だけはあだになってしまうだろう。
セシルは努めて先を見据え、いっそう足を早めていった。
やがて、彼らは街外れにある一軒の家の前で止まった。
12 :
297:2005/12/19(月) 22:12:26 ID:6h8EqRpf0
即死回避。
スレ立てお疲れさんです。
今連載中なのはFF4・5・6・7AC・8の五作か
これらの続きは一人の作者限定じゃなくて別の人が自由にリレーしていいんだっけ?
構わないとは思うけど、一応作者さんにお伺いをたてるのが礼儀でつ
というか書くならとりあえずそのシリーズに目を通して、
前後に矛盾などが生じないようには必要だな
なにしろ「真面目」だし
297氏
早速の投下乙です。
就寝前に保守
心配なので保守。
FINAL FANTASY IV #0300 4章 4節 これから(20)
シドの家の門は変わっている。閂がないかわり、歯車と楔をいくつも組み合わせたからくりが、二枚の扉をぴったりとつなぎ合わせているのだ。
すぐ後ろは切り立った崖になっていて、その中を、石で補強された幅の狭い階段がまっすぐに切り込んでいく。飛空挺の生みの親は、生まれた落ちたその瞬間から空に近いところにいた。
「やれやれ、街の中でこんな苦労をするはめになるとはの」
天まで届こうかという急な階段を見上げて、テラが渋面を作った。試練の山の急斜面に比べれば可愛いものだが、人の手で造られた道に苦労させられるのは御免らしい。
対照的に、目を輝かせて風変わりな錠に取り付くパロム。見た目ほど複雑ではないので、時間をかければ外せるだろうが、セシルはそれを待たず少年の頭越しに手を伸ばした。
「なんだよ、邪魔しないでくれよ!」
「バカっ、あの音が聞こえないの!?」
ふくれるパロムの頭をポロムが小突く。彼女の言うとおり、いくつもの荒々しい物音がこちらに向かっていた。
「つけられておったか!?」
「だが、そんな気配は……」
「現にこうして追いつかれてしまったではないか!」
門を開く手順はセシルの頭に入っていたが、所々に浮いた錆が引っかかり、時間を取られてしまった。ようやく最後の楔を外し、強引に門を蹴りあけると同時に、東の角から兵たちがなだれ込んで来る。
「見つけたぞ!」
「やはりここに来たか!」
追っ手は全部で11人いた。5人の近衛兵と彼らを率いる小隊長、それに加えてリーダーのいない手負いの近衛兵が5人。テラが危惧していた通り、井戸の前で退けたあの5人が、加勢を引き連れてやってきたのだ。
FINAL FANTASY IV #0301 4章 4節 これから(21)
「先に行け!」
テラと双子を目前の階段に押しやり、セシルは門扉の前に陣取った。隣に立ったヤンと二人で壁を作り、魔道士たちへの追撃を断つとともに、背後からの攻撃を未然に防ぐ。
相対した兵たちも隊列を組んだ。互い違いに前6人、後ろ5人のやや変則的な陣形でセシルたちを半包囲する。
素早く統制の取れた動きは、彼らが軍の精鋭として鍛錬を怠っていないことを証明していた。だが突きつけられた剣先から、王の盾たる誇りを感じ取ることは出来ない。
「愚かな……せっかく拾った命を」
「馬鹿を言え!
この様を王に知られたら、どんな目にあわされるか……」
「西隊の二の舞は御免だ!」
ヤンと、彼の先程までの配下のやりとりが、いま兵たちを動かしている力の正体をセシルに教えた。王への忠義や報復心ではなく、懲罰に対する怯えが、執拗な追撃へと彼らを駆り立てたのだ。
セシルたちの実力を思い知らされたにしては、やけに増員の数が少ないのも同じ理由だろう。よほど信頼しあったものでなければ、自分たちの失態を明かすことが出来ないのだ。そこまで蝕まれている。
「……元飛空挺団隊長、赤い翼のセシルだ!
バロン王に会う! 王を問い質して、こんなことは終わらせる!
それまで隠れていればいい!
好きでこんなことをしているんじゃないだろう!?」
思い切ってセシルは声を上げた。純粋な恐怖から王に従っているのなら、逆にきっかけさえあれば、味方についてくれるかもしれない。
間違いなく、彼の言葉は近衛兵の心に届いていた。ほんのわずかな時間だけ、奇妙な連帯感がセシルとバロンの兵を結びつける。
そして。
「……あんたと違って、俺にゃ家族がいるんだよ」
「そいつはあの世で、西隊の連中に言ってくれ。
あと半月早けりゃなぁ」
セシル以上に沈痛な表情で、兵たちは、彼の期待を打ち砕いた。
FINAL FANTASY IV #0302 4章 4節 これから(22)
「かかれっ!」
小隊長の号令にあわせ、近衛兵が一斉に剣を突き出す。無言のままセシルはそれらを迎え撃った。
試練の山で授かった剣が、暗黒の力を帯びた甲冑を易々と切り裂く。血飛沫と絶叫をあげて、兵のひとりが武器を取り落とした。
背後でか細い悲鳴が上がる。ポロムの声だ、と判断するその間に、いくつか攻撃をセシルは体で受けるはめになった。しかしダメージはほとんどない。防具に込められた光の力の祝福が、闇に染まった刃の威力を大幅に削いでいる。
「はっ!」
傍らのヤンが武神に舞を奉げ、2人の兵がほとんど同時に倒れ伏した。その穴を埋めるように、後列の兵が進み出る。
それでもバロン兵は攻撃の手を緩めなかった。倒れた仲間を踏み越え、互いの身すら傷つけかねない勢いで第二波を繰り出してくる。軸足の位置をわずかにずらし、セシルが備えようとした瞬間。
「だめ〜〜〜〜〜っ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
やわらかいものが膝に絡みつき、彼の動きを妨げた。振り払おうとしてその正体に思い当たり、危ういところで踏み止まる。
これはポロムだ。もう少し気付くのが遅ければ、地面に叩きつけてしまうところだった!
肝を冷やしたところで、容赦なく敵の攻撃が殺到する。両腕を、胴を、続けざまに衝撃が襲う。鎧を破られはしなかったが、息がつまり、腕が痺れる。どうにか頭部は庇いきった。思わぬ妨害に、近衛兵たちも戸惑ったのかもしれない。
感覚の戻らない腕を振り回し、目の前の敵を遠ざける。周囲を気にかける余裕が、多少なりとも生まれたのはそのあとだった。
真っ青な顔をしたパロムを足にしがみつかせたまま、血だらけになったヤンの体がぐらりと傾く様を、セシルは目の端で捉えた。
>1
スレ立てありがとうございました。
率先して脱線させといてなんですが、このスレでどこまで話が進むか楽しみです。
>13
新規の書き手さん大歓迎〜
元々リレー形式が前提なんで、特に断ったりしなくても大丈夫かと。
>15にあるとおり、これまでの展開を無視したり、ゲームの大筋から離れたりしなければ問題ないと思いますよ。
と、捏造魔が言ってみる。
>>1乙です。細かくなりますがFF7ACですね。
>>FF8
シド学園長の演説ってあったんですね。弱音吐く場面しか印象なくて
でも事前にちゃんと「穏やか」っていう人柄が描かれてるんだなと再発見。
いよいよ実地試験、市街戦がどう描かれるのかが今から楽しみでなりません。
>>FF4
井戸に並ぶ人々が圧政下にあるバロンの様子がよく描けているなと感心します。
その後に続く兵士達との対峙がもの凄く切ない…。
前スレ563の回想もあって、この先の対面が楽しみです。
24 :
FF6:2005/12/26(月) 01:56:12 ID:7W7fGOTL0
ff6 - 29 figaro
瞼を開けば、その中央には大臣の姿があった。見計らったように彼はティナに向けて
言葉を続けた。
「弟のマッシュ様は王位継承を巡るゴタゴタに嫌気がさして城を出て行かれたのです。
なんでも、どちらが王様になるかコイン投げで決めたとか……」
もちろん、フィガロがいくら小国とはいえ玉座がコインに賭けられるほど軽いものでは
ありませんが。と真剣な表情で続けた大臣は、けれど次の瞬間、小さく笑って言うのだった。
「エドガー様とは、そう言うお方なのです」
呆れているのか、それとも信頼の裏返しからの微笑なのか。にわかには判断できない
表情の大臣を見つめながら、ティナは改めて思うのだった。この国の人達は皆、柔らかい
表情で笑うのだなと。
――どうすれば、そんな顔で……笑えるのかしら?
ひとつ息を吐き出してティナは扉に背を向ける。足元に広がる赤い絨毯から視線をあげると、
太く大きな柱と石壁が見えた。見た目にも頑丈な作りの城の中にさえいれば、強烈な日差しや
灼熱の砂漠気候から守られている。人々は、だからこそ柔らかい表情で笑えるだろうか。
それだけではない、気がする。
武器を手に携えた衛兵も、気むずかしそうな顔をしていたこの大臣も。皮肉混じりの
神官長さえもが、最後には穏やかな笑顔を向けてくる。そこには必ず国王の名が語られて
いた事を思い出す。
ここにいると感じる安心感は、きっとこのせいもあるのだろう。ぼんやりとではあるが、
そんな風に思った。
ティナは顔を上げて大臣の方へ向き直ると、控えめな声で告げたのだった。
「……分かりました」
その言葉を聞いて、扉の前の衛兵はあからさまに安堵の表情を浮かべ、横に立っていた
大臣は、目尻にたくさんの皺を作りながら笑顔で頷いた。
閉ざされた扉の向こう側で繰り広げられている攻防を、室内にいたティナ達が知ることは
なかったけれど。
再びこの扉が開かれるときには、あのふたりの笑顔があるのだろう。
そのことをここにいる者達は皆、確信していた。
25 :
FF6:2005/12/26(月) 02:07:37 ID:7W7fGOTL0
ff6 - 30 figaro
フィガロ砂漠のほぼ中央に位置するこの城で、過酷な任務の1つが門衛だと
言えるかも知れない。
頭上からは容赦なく照りつける太陽と、砂漠を渡り熱せられた風に晒されながら
正門横に立ち続けている彼らは、入城者にとって最初に目に入る存在だ。そのため
どんなに体力を消耗していても、立ち居振る舞いに気を配らなければならない。
もちろん、彼らに与えられた主たる任務は外敵の発見に他ならないのだが。
とはいえこのフィガロ城における外敵と言えば、吹き荒れる砂嵐と灼熱の日差し
ぐらいのものだった。
「……ん?」
門衛は砂丘を降りてくる人影に気づき身構える。商人かとも思ったが、それに
しては様子が変だ。目を凝らして見てみれば、陽炎に揺れる人影は3つある。
それが帝国兵と気づくのは、それから少し遅れての事である。
(……ケフカ……!)
3つの人影のうち、2つが帝国兵だと気づくよりもまず先に気づくべきだったと
内心で舌打ちした門衛だったが、それ以上に厄介な人物が来城したものだと、
今度は本当に舌打ちししそうになるのをどうにか堪え、顔を上げた。
避けられない対峙に備えるべく、彼は呼吸を整える。確かめるように携えた槍を
強く握った。
(南方大陸3国を滅ぼしたという……ガストラ帝国の……魔導士)
ケフカという名に覚えはあったし、実際に彼自身がケフカと顔を合わせるのは今日が
初めてではない。それでも彼は、ケフカの姿を目に焼き付けるようにして、近づいて
くる彼らから視線を離さずにいた。
同時に砂漠の砂を運んでくる熱風とは別に、イヤな風を肌に感じた。それでも
表情ひとつ変えることなく、門衛は自分の横を通り過ぎようとする一行に声をかけた。
26 :
FF6:2005/12/26(月) 02:11:46 ID:7W7fGOTL0
「ケフカさま。今日はいったい何の……」
門衛の言葉を遮ったのは、道化師風の男――ケフカ自身だった。
「どけ!!」
歩きづらい砂の上を長時間歩かされたせいもあって、ケフカは不愉快きわまりない
と言わんばかりに門衛を突き飛ばすと、そのままズカズカと城の中へ入っていく。
フィガロは帝国との同盟関係にあり、どんなに不遜な態度であっても帝国魔導士の
ケフカは外敵ではなく賓客なのだ。よって、これは侵入ではない。
突然でしかも無抵抗の状態で突き飛ばされた衝撃で、城壁に背中を強打しそのまま
体勢を崩した門衛だったが、彼にはそれ以上どうすることもできない。むやみに槍先を
向ければ、これ見よがしに帝国から何を押しつけられるか分かった物ではない。
恐らく自分の視認よりも先に、塔の兵士がこの様子を伝えているだろう。
(後は、王の判断に委ねよう……)
門衛は開け放たれた城門を見上げた。やがて槍を拾い上げて立ち上がると、何事も
なかったように再び元の配置についた。
27 :
FF6:2005/12/26(月) 02:21:36 ID:7W7fGOTL0
ff6 - 31 figaro
ティナを残し、扉から外へ出たふたりを出迎えたのは、頭上から降り注ぐ強烈な
日差しだった。「この回廊に屋根とかつけられないのか?」などと、半ば独り言の
ように城の構造への不満を零しながら、ロックは手をかざし僅かに眉をひそめた。
「ところで『ケフカ』って、あの? 帝国の魔導士ケフカが来たってのか?」
先程、謁見の間でエドガーが口にした言葉を確認するように尋ねる。
「そうらしいな」
エドガーは淡々と応える。しかしケフカ自らが来城するというのは、どう考えても
好ましい事態とは思えない。
「なんでまた?」
「城攻めの準備かも知れないな」
「おい!」
どこまでも淡々と応じるエドガーだったが、彼が語る不吉な予測は、この状況で
口にする冗談としてはかなり質の悪いものだった。しかも国王自らがそんな事を
言っているのである、臣下が聞いたらどう思うだろうか。そう咎めようとしてロックは
口を開きかけたのだが。
「……最悪の事態に備えて、既に大臣には今後のことを伝えてある。煮詰めなけ
ればならない点も多くあるが」
そこで言葉を切ったエドガーは、表情を一変させた。まるでいたずらを思いついた
子どものように微笑むと。 . .. . ..
「まあ安心しろ。この城はそう簡単に落ちやしないさ」
「本気かよ……」
28 :
FF6:2005/12/26(月) 02:22:43 ID:7W7fGOTL0
そんな国王の姿に呆れた声をあげたロックだったが、逆にエドガーは妙に冷めた
口調で反論したのだった。
「残念ながら冗談で国王が務まるほど器用じゃないんでね」
あーはいはい分かったよと頷いて後に続こうとしたロックの前に、エドガーの左腕が
伸びる。
「ロックはここで待機してくれ。万が一の時には中の大臣に」
そう言ったエドガーの横顔から笑みは消えていた。
「……分かった」
頷いたロックの様子にエドガーはまた笑顔を向け、いかにも国王らしい優雅な動きで
左手をひらりと振った。
それにしてもこの短い時間でいくつもの表情を見せるのだから、充分器用だよと言って
やりたくなったが、勝てる見込みがないので口に出すのはやめておいた。
かわりに、大きく息を吐き出して。
「それじゃあ、俺はここで『ケフカ様』とやらを拝見するとしますかね」
そう言ってロックは扉によりかかって、エドガーの後ろ姿を見送った。
29 :
FF6:2005/12/26(月) 02:26:17 ID:7W7fGOTL0
ff6 - 32 figaro
砂漠を渡ってきた風は熱せられて乾燥し、おまけに頼んでもいないのに砂まで
一緒に運んでくる。少しばかり鬱陶しく思う時はあるが、この風が嫌いなのでは
ない。地上に住まう人々に等しく照りつける太陽も、大地を覆い尽くす砂の海も、
頭上に広がる眩しいほどの青空も、そのどれもがエドガーにとって幼い頃から慣れ
親しんだものだったからだ。
先程のロックと同じように手をかざし、降り注ぐ日差しを遮った。城門をくぐった
ケフカと2人の帝国兵の姿が視界に入ると、エドガーはあからさまに眉をひそめた。
仮にその事で指摘を受けたとしても、日差しのせいだと返せばいい。
国交上なんら差し支えはない。そう判断したエドガーは不自然な表情を作りながら
ケフカ一行を出迎えた。
やがて回廊の中央で向かい合った両者だったが、笑顔で挨拶が交わされるといった
ことはなかった。
礼を欠く者にこちらが礼を尽くす必要はない。必要最低限のことをすればいい。
帝国側の3人の姿を観察しながら、装備している武器の類を確認する――たいして
攻撃力のある物は所持していない――この場でもしも交戦があったとしても、なんとか
やり過ごせるだろう。
それに、すぐ後ろにはロックが控えている。
エドガーは全ての状況を考慮した上で、切り出した。
「同盟を結んでいるわが国へも攻め込まんという勢いだな」
「同盟? 寝ぼけるな。こんな小っぽけな国が!」
帝国兵がエドガーの問いに答えるが、エドガーが更に反応する事はなかった。
「南方大陸3国を滅ぼしたようだな。一体どういうつもりだ?」
「お前らの知るところではない」
別の帝国兵がさらにエドガーの問いに答える。優位に立つ者が陥る不遜な態度を
エドガーは無視し、今度は正面に立つ道化師に向けて言葉を発した。
30 :
FF6:2005/12/26(月) 02:29:43 ID:7W7fGOTL0
「ガストラ皇帝直属の魔導士ケフカが、わざわざ出向くとは?」
こんな小っぽけな国の、さらに砂漠の中央にあるフィガロの城へようこそ。と微笑み
ながら付け加える。エドガーは語る言葉と相手、そしてその順番まで慎重に選びながら、
最終的にはケフカに対する痛烈な皮肉を向けたのである。
ケフカの目つきに鋭さが加わった事を、エドガーは見逃さない。
「帝国から一人の娘が逃げ込んだって話を聞いてな」
挑発には乗らず、用件だけを突きつけてくる。風貌は変わっているが、どうやら
本質的に頭の悪い人間ではなさそうだ。
(なるほど)
内心で頷いてからエドガーはようやく、かざしていた手を下ろした。この男を煽っても
効果がないと判断してのことだった。
「魔導の力を持っているという娘の事か……?」
「お前達には関係のないことだ。それより、ここにいるのか?」
エドガーからの質問を退け、あくまでも用件だけを聞き出そうと言う姿勢は崩さない。
両脇に控えている帝国兵は、無言でこのやり取りを見つめていた。
沈黙が数秒、その後にエドガーはわざとらしく両手を広げて見せた。
「さあ……」
その姿に、ケフカが僅かに顔を歪めた。視界の端でその姿を捕らえながら、尚も
エドガーは言葉を続ける。
「娘は星の数ほどいるけどなあ……」
彼女たちの過去について、詮索する趣味はないのでね。と続けながら、エドガーは
ケフカに笑みを向けた。
同盟国という体裁を繕いながら、互いの腹を探り合うこの勝負。どうやら引き分けで
幕を閉じたようである。
31 :
FF6:2005/12/26(月) 02:31:08 ID:7W7fGOTL0
「隠しても、何も良いことはないのにねえ……」
そう言いながら、ケフカは回廊からフィガロ城を見渡した。自分の立つ
位置から前後左右4方向に延びる回廊の先には扉と、衛兵が立っている。
どうやら出口を含め城内を移動するためには、必ずここを通らなければ
ならない構造になっているようだ。
ケフカは奇妙に表情を歪め、気味の悪い笑い声を立て始めた。
「ヒッヒッヒ……。ま、せいぜいフィガロがつぶされないように祈ってるんだな!」
そう言ってエドガーに背を向けると、ケフカ一行は城の出口へ向けて歩き
出した。彼らの姿が見えなくなっても、あの気味の悪い笑い声が耳に残って
いる気がして、フィガロ国王の気分を害したのである。
前スレ319です。
少し長くなりましたがケフカとの問答シーン終了です。
引き継いで頂ける方がいらっしゃったら、是非お願い
します。
(基本的にゲーム本編の動作への動機付けという形
式で書いていますので、特に変わった設定等はない
かなと思います。)
微妙に失敗しましたが「落ちる」の強調はフィガロ城を
離脱する際に(大臣のセリフとの比較で)使えるかなと
思って書きました。それ以上の深い意味はありません。
書けるようでしたら魔導アーマー戦の(OPとの)逆転
現象までは書いて行けたらと思いますが、時間的に
ちょっと厳しいかもしれないので。
リレー形式の難しいところは、次の方が引き継ぎ易い
状態で文末を終えることで、初めてとはいえその辺の
配慮不足があった点もお詫びしておきます。
長レス失礼しました。
33 :
FF5:2005/12/26(月) 18:34:14 ID:9iHahJg/0
FINAL FANTASY 5 (61) 「飛竜」12
やがて人影は四人の前に完全に姿をさらした。
腰に鞭を巻く、30前後の女。
「何者だ!」
バッツが剣を突きつけながら叫んだ。が、別段気にした風もなく、というよりまったく意に介せず、
蛇のような視線を四人にめぐらせる。
その視線が、レナを捉え、口の端を持ち上げニタリと笑った。
「ヒッヒッヒ、何か獲物が掛かるかと思えば、タイクーンのお姫様じゃないか」
「貴様っ・・」
『獲物』という言葉に逆上したファリスが腰の剣を抜きはなち、突進する。が、
「ふん、馬鹿だね!」
女は急にしゃがみ込み、縄らしきものを引っ張った。するとファリスの足元の土が音を立てて
勢いよく下界の森へ落ちていった。
「ファリス!!」
「落ちたよー、ヒッヒ・・・何!」
しかしファリスは落ちなかった。硬い地層に剣を突き刺し、それにぶら下がって落下を免れていた。
そして器用に、すいすいとあっさり上ってしまった。
バッツとガラフが、レナを抱えてファリスに駆け寄った。
「大丈夫か!」
「ああ、それより・・」
キッとバッツ、ファリス、ガラフの三人が女を睨む。
思わず女は腰に巻いていた鞭の柄に手をかけた。
「ヒヒ・・・いいだろう、教えてやるよ。アタシはこの山でハンターをしてるマギサってもんさ。と言
っても狩りをする相手は動物に限らない。アタシらは魔物、時には人だって狩る。今みたいにね」
ひゅっ、ぱぁぁぁぁん!と音を立て、鞭を抜き地面に打ち付けた。
三人は、まだ顔を青ざめさせているレナをそっと地面に下ろし、庇うように立つ。
・・・再び、マギサの顔が、醜悪な笑みに変わった。
「アンタ!出番だよ!!」
その声に反応してか、奥から大きな、否、巨大な男が現れた。
乙です!
久々に5もきましたね。わくてか。
サイト更新とまってるなあ……
FF8 第一章 SeeD−24
「今回の実地試験、場所はドールよ」
キスティス先生が言った。
「まずはバラムシティへ移動。バラム港にて高速上陸艇に乗り換え、
ドールに直行することになるわ。さあ、急いで」
バラムシティへと移動する車中、俺は今朝医務室で見た不思議な夢について考えていた。
あれは、本当に夢だったのか?
白い清楚な衣装を身に纏い、柔らかな微笑を湛えた女性・・・いったい何者なのか?
彼女は俺を見て「やっと会えた」と言った。そして「思い出して」とも。
どこかで会っているのか?俺にはまったく覚えがない。しかしその一方で、
俺は彼女の微笑に奇妙な懐かしさを感じずにはいられなかった。
いったい、どういうことなのか・・・
「な、スコール、ガンブレード見せてくれよ」
俺の思考を妨げるように、ゼルが話しかけてきた。
「な、ちょっとでいいからよ」
うるさいな、邪魔するなよ。
「いいじゃねっかよ〜」
相手にしだすと、キリがない。俺は無視を決め込んだ。
「わかったよ、はいはい。お前はケチは奴、そういう事でいいんだな?」
なおも執拗に絡んでくるゼル。
そんなゼルに対し、サイファーがはき捨てるようにつぶやいた。
「ウゼェんだよ、チキン野郎」
「あんだと!」
「いい加減にしなさい!」
キスティス先生が割って入った。
FF8 第一章 SeeD−25
「チームワークを大切にって言ってるでしょ。もう、今からこんな調子でどうするの」
キスティス先生の一喝で車内に静寂が戻った。
俺は再び思索にふける。しかし、どうにも考えが纏まらない。
そもそも、あれは本当に夢だったのか?
・・・最初の疑問に戻ってしまった。堂々めぐりだ。
俺は思い切って先生に聞いてみることにした。
「先生」
「なあに?スコール」
「今朝、医務室にいた女、知らないか」
「誰かいたの?気づかなかったけど」
・・・そうか、なら仕方ないな。
「ていうか、誰?誰なの?」
先生の語調が少し強くなった。心なしか目つきも険しい。
「いや、いいんだ」
「よくないわ。女ですって?誰?どういうこと?」
なんだよ、妙に絡んでくるな、先生。
もしかして先生・・・いや、まさかな。
「クックック・・・」
サイファーが嘲るように笑った。
「最高だ。俺のチームは、チキン野郎と色気づいた兄ちゃんか」
嘲笑が哄笑に変わった。
聞くんじゃなかったな・・・俺は強く後悔していた。
FF8 第一章 SeeD−26
俺たちを乗せた車は、間もなくバラムシティに到着した。
バラムシティ。バラム島南岸にある港町。
優美な曲線で構成された家々、青と白で統一された街並み、眼前に広がる海。
全てが見事に調和した美しい風景に憧れ、近隣から訪れる観光客は後を絶たない。
しかしそんな景観を楽しむ余裕もなく、俺たちは港への道を急いだ。
「あっ、ゼル兄ちゃん!」
「よう、ゼルじゃねぇか、おめかししてどこいくんだ?」
「また何かやらかしたのかい、ゼル」
ゼルの姿を目にした町の人々が、次々に話しかけてきた。
彼等とすれ違うたびに、ゼルは手を挙げて応じている。
「そういえば、ゼルはこの街の生まれだったわね」
「おう、そうだぜ」
「いい街だ。チキン野郎にゃもったいねぇ」
「うるせぇよ!」
やがて俺たちは港にたどり着いた。すでに高速上陸艇はスタンバイしている。
「おそいぞB班、駆け足!」
俺たちの到着に気づいた試験官が、大声を張り上げた。
叱声背中を押されるようにして、俺たちは急いで上陸艇に乗り込んだ。
FF8 第一章 SeeD−27
上陸艇の船室に腰をおろすのと同時に、シュウが姿を現した。
シュウは女性SeeD。キスティス先生やサイファーと同じく18歳。
古今の戦士軍略に通じた才媛だ。戦闘そのものはあまり得意ではないようだが、
卓越した戦術眼と臨機応変な用兵は、他者の追随を許さない。
兵站や補給などの後方任務にも抜群の才を発揮し、「SeeD参謀にシュウあり」
という評価には、揺るぎがない。
同年齢のキスティス先生とは仲がよく、しきりに教員になるように勧められているが、
本人は現在の「SeeD参謀」という立場がお気に入りらしく、そのつもりはないようだ。
「今回の任務については、こちらのシュウから説明してもらいます」
キスティス先生が言った。
「よろしくお願いします」
俺とゼルは立ち上がって敬礼した。サイファーだけはベンチに踏ん反りかえったままだ。
「サイファー、何度目?」
シュウがうんざりしたような口調で言った。
「フン、俺は試験が好きなんだよ」
「まったく、戦闘能力だけなら、キミに勝てるSeeDだって、そうはいないのに」
「何だよ、説教しに来たのかよ」
「わかったわ・・・では、任務の説明に入る」
サイファーを相手にするのを諦めて、シュウは本題に入った。
FF8 第一章 SeeD−28
「本件のクライアントは、ドール公国議会。SeeDの派遣要請があったのは18時間前。
ドール公国は72時間ほど前からガルバディア軍・・・以後『ガ軍』と呼称・・・
ガ軍の攻撃をを受けている。
開戦から49時間後、ガ軍は市街区域を制圧。ドール軍は周辺山間部まで撤退し、
部隊の再編を急いでいる」
ドール公国はバラム島の西、ガルバディア大陸の東端に位置する国だ。
もともとは「神聖ドール帝国」として大陸のほぼ全てを領有していたのだが、
十数年前に新興国家ガルバディアが独立を宣言し、軍事力にモノをいわせた
強引な領土拡張政策を展開した結果、現在のような小国家に成り下がってしまった。
「報告によると、現在ガ軍は周辺山間部のドール軍相当作戦を展開中だ」
シュウの説明は続く。
「我々はルプタンビーチより上陸し、市街区域に残るガ軍を排除しつつ、
速やかに市街地を開放。その後、山間部から戻るであろうガ軍を迎撃する事になる。
キミたち候補生には、市街区域のガ軍排除を担当してもらう。
B班の割り当ては中央広場だ」
「楽しくねぇな。俺たちゃSeeD連中のおこぼれ頂戴かよ」
「・・・ああ、言うまでもないことだが、退去の命令は絶対だ。」
サイファーの横ヤリを無視してシュウは話を締めくくった。
「間もなく上陸だ。各自準備を怠るな」
8投下キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!乙でありんす!!!!
漏れはシュウタソが……(*´Д`)好きだーー!。
制服も好きだーー!
FINAL FANTASY IV #0303 4章 4節 これから(23)
前触れもなく風が湧き出す。セシルらに群がる近衛兵たちの後方、かたく絞った布のようにきつく渦を巻き、捩れながら伸び上がる。
近衛兵が2、3人、甲冑ごと持ちあげられ悲鳴と共に上空へ消えた。地上に残った者も、横殴りの風に姿勢を崩され、地面にはりつくはめになる。
例外はただひとり、階段の半ばに陣取る老賢者。かざした杖の先端に灯る光を見るまでもなく、彼の魔法がこの竜巻を生み出したことは疑いなかった。
「うひゃぁぁぁ……」
パロムの悲鳴を風が引き千切る。武装した大の男がこの様なのだから、子供の体重でこらえきれる訳がない。ヤンの道着にかじりついていなければ、止める間もなく空に吸い込まれていっただろう。
セシルは手を伸ばし、荒れ狂う風の牙先から小さな体をもぎとった。ポロムと2人、体の下に庇い入れ、セシル自身を重石にする。
「ヤン! 動けるか!?」
返答の代わりにモンク僧の腕が持ち上がり、分厚い筋肉をまとった体を仰向けの状態からひっくり返した。
テラの待つ階段を指差してヤンに頷く。砕けた岩石の破片が頻繁に降り注いでいるが、階段を挟む崖そのものはなおも強固にそびえていた。
柵の内側へ、崖の根元へ、腹這いのままにじり寄る。風が届かない場所までたどり着き、降りてきたテラに双子を託した。
続いて、階段の手前で動かないヤンの体を引っ張り上げる。流れ出た血が風で冷やされ、ぞっとするほど冷たかったが、息はあった。
すかさず蘇生魔法を準備するテラ。拙い輪唱のように、そっくり同じ呪文を紡ぐポロムの声を耳にして、老人特有の長く伸びた眉が寄った。
レイズの呪文は人事不省に陥った者の意識を取り戻させる。ひとりの人間に重ねてかけても意味がない。
セシルもポロムのミスを悟り、代わって傷を治すためにケアルの呪文を唱え始めた。本職の魔道士には遠く及ばないものの、これもまた、パラディンに転身して手にいれた力のひとつだ。
呪文が完成する間際になって、ポロムが判断を誤ったことに気付き、ケアルラの呪文に切り替える。
パロムひとりが、なす術なく血で汚れたヤンの手に取りすがっていた。
FINAL FANTASY IV #0304 4章 4節 これから(24)
3人がかりの治療が功を奏し、無事ヤンの傷はふさがった。とはいえ、既に流れた血まで消えるわけではないので、一見すると相変わらず深手を負っているように見える。
だからだろうか、なおも懸命にケアルラを唱え続けるつづけるポロムの肩に、テラが皺深い手をおいた。
「もうよい」
「私ならば大丈夫だ。ほら、この通り……」
テラの、そしてヤン自身の制止も無視して、ポロムの呪文が完成する。
「ケアルラ!」
小さな掌から光の粒があふれ出る。だが、無残に裂け乾いた血の色に染まった道着の下に、もはや癒すべき傷はない。
無意味に放出された魔力が宙に掻き消え、くにゃり、とポロムが膝を崩す。精神力を使い果たしたのだ。テラの顔にも疲労が浮かんでいた。セシルも同様だろう。
ぐったりと目を閉じた幼い白魔道士を、ヤンが抱え上げた。
ほんの数歩先では、トルネドの魔法が生み出した竜巻が未だ猛威を振るっている。風の唸りに混じって、巻き上げられた兵士が崖に打ち付けられる鈍い音が聞こえてくる。
そびえる風の柱に目をやり、大きく息を吐き出すと杖にすがりつつテラは階段を上り始めた。
ヤンとポロムが後に続き、最後にセシルが、呆然と立ったままのパロムの手を掴む。篭手を通して伝わる感触は、いかにも脆く、頼りない。
「……どうして、こんなことを」
問いつつも、双子の行動の裏にあるものを、セシルは半ば察していた。だから、文字通り足を引っ張った彼らを責めるつもりはなかった。
ささやかな、ある事実をここに至るまで彼は見落としていた。
「なんでって、なんでって……
オイラのほうが聞きたいよ!
あいつら魔物じゃないじゃんか!」
ミシディアの天才魔道士たちは、これまで魔物以外と──ただの人間と戦ったことはなかった、ということを。
とりあえずキリのいいところまで投下です。細切れですんません〜
ちなみに、トルネドの魔法は本来全体がけ不可です。
FF8 第一章 SeeD−29
防波堤を飛び越した勢いそのまま、上陸艇は滑るように砂浜に乗り上げた。
ハッチが開くのももどかしく、俺たちは艇から飛び出した。
砂浜はすでに先遣部隊によって制圧されている。
要所に立つ歩哨の脇をすり抜けて、俺たちは市街地に続く道を駆けた。
「このまま中央広場まで突っ走るぞ、俺に続け!」
サイファーは声は張り上げるや、一段と速度を上げて走り出す。
「サイファーの野郎、ご機嫌だな」
「怖気づかれるよりマシさ。行こう」
俺とゼルはサイファーを追った。
市街地の入り口に差し掛かった時だった。
「止まれっ!」
叫び声と同時に、いくつかの人影が建物から飛び出してきた。
それぞれの手には小銃や長剣が握られている。ガルバディア兵だ。全部で10人。
「こいつらがドールの援軍か?」
「SeeDとかいう特殊部隊らしいぞ」
「まだガキって感じだぜ」
ガ兵が口々に感想を漏らす。
「さあ、いよいよお祭りの始まりだ。お前ら、遅れをとるなよ」
サイファーが言った。無言で頷くゼルと俺。
「行くぜ」
俺たち三人は敵めがけて突進して行った。
FF8 第一章 SeeD−30
初めての実戦・・・それはまさにあっという間、そして実にあっけない結果に終わった。
俺たち三人の足下には、戦闘不能となった10人のガ兵が横たわっている。
ガードを崩す目的で繰り出した俺たちの攻撃は、そのまま致命的なダメージとなって、
ガ兵は次々と倒れていったのだ。
10人すべてを倒すまで、おそらく一分と経過していないだろう。
襟元の階級章から、彼らが最下級の兵士である事は分かっていたが、それにしても弱い。弱すぎる。
ガ軍とはこの程度のものなのか、それとも俺たちが強すぎるのか。
互いに戦闘のスペシャリストの筈だ。なのに、この戦力差はなんだ。
「すげぇ、GFの威力、本当にすげぇぜ」
ゼルが感嘆の声を上げた。・・・そうか、GFか。
彼我の戦力差、それはGFをジャンクションしているかどうかの違いだった。
GFをジャンクションすれば、自己の能力が飛躍的に増大する。その事は分かっていた。
しかし、これ程のものだとは、正直思ってもみなかったのだ。
ガーデンでの戦闘訓練、思えば互いにGFをジャンクションしていたからな。
「お前ら、ザコ相手に勝ったぐらいで、浮かれてんじゃねぇ!」
サイファーの叱声が飛んだが、俺もゼルも、決して浮かれているつもりはなかった。
一方的すぎるバトルの結果に、拍子抜けしていただけだ。
しかし俺たちの胸中に気づく様子もなく、サイファーは今度は空に向かって叫んだ。
「おい、ガルバディアの臆病者!コソコソしてねぇで出て来い!俺を退屈させるな!」
叫び終えると同時に、ひとり全速力で走っていく。
「・・・バカだぜ、あいつ」
ゼルが呆れたようにつぶやいた。俺も同感だ。
FF8 第一章 SeeD−31
持ち場である中央広場に向けて、俺たち三人は大通りの石畳を走り続けた。
途中で何度か、5〜10人規模のガ軍小隊に出くわしたが、走る速度を落とすことなく、
目の前の障害物を脇にどけるような感じで、次々に撃破してきた。
ヌルい。ガーデンでの戦闘訓練とは比較にもならない。
SeeD。ガーデンが世界に誇る、傭兵のコードネーム・・・
俺はSeeDが世界各地で引く手あまたである理由の一端を知ったような気がした。
走り続けて30分ほど経っただろうか、俺たちはだしぬけに開けた空間に飛び出した。
頭の中のドール市街図と照合する。間違いない、ここが中央広場だ。
そこには一個大隊、少なく見積もっても100人を超すガ兵がいた。
「なんだ、コイツら?」「敵か?」「まさか、たった三人で、どうやって」
ガ兵のつぶやきが聞こえてくる。突然の闖入者に驚きを隠せない様子だ。
広場へ至る道の要所要所に伏兵を配置したことで慢心し、敵がここまでやって来ることは
想定してなかったに違いない。
(行くぜ)
俺たち三人は目顔でうなづき合うと、敵陣めがけて一気に突入した。
「うわっ、来たぞ」「マジかよ、こいつら」「狂ってやがる」
中央広場は、一瞬のうちに大混乱に陥った。
ガ軍は指揮系統を完全に失っている。戦局はこちらが圧倒的に有利だ。
人数では劣っているものの、個人の能力では、俺たちの方が明らかに上。
同士討ちを懸念することなく、俺たちは力任せに武器を振り回すだけでいい。
・・・10分ほど大暴れしたのち、俺たちは中央広場を完全に制圧した。
今日はここまで。ありがとうございました。
次回は新年特大号、隠しタイトル「純白のセルフィ」ですw
では、皆様よいお年を。
おー乙。
ゲーム的な敵の弱さをゲーム設定でうまくカバーしてるな。
特大号に地味に期待。
来年も期待
明けましておめでとうございます。
作者の皆様来年も宜しくお願いいたします。
じゃないわ、今年も宜しくお願いします。
すみません、吊ってきます・・・。
きにするな。(。゚∀゚)ノ
>>52 今年もよろしくおねがいします。
54 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/01(日) 13:05:27 ID:wlQ1IWZB0
ほしゅあげ
純白のセルフィってw
イイ!すごくそそる!!
FF8 第一章 SeeD−32
「さて、新たな敵さんの登場まで待機だ」
サイファーはそう言うと、噴水前のベンチにどっかと腰を下ろした。
・・・10分が経過した。何も起こらない。
「待機か、退屈な言葉だ」
サイファーがため息混じりにつぶやく。
ゼルは先程からシャドーボクシングを黙々とこなし、退屈を紛らわせている。
・・・さらに10分が経過した。相変わらず、何も起こらない。
「何てこった、こいつぁさすがに退屈だぜ」
シャドーボクシングにも飽きたのか、ゼルが吐き出すように言った。
ゼルの言を待っていたかの様に、今度はサイファーが口を開く。
「またお預けか・・・もう限界だ!耐えられねぇ!これは犬の訓練か!」
その時、俺は遠くからやってくる足音を聞きつけた。
「静かに。誰か来るぞ」
俺たち三人は手近な遮蔽物に身を隠した。
広場の一角に、工兵と思しきガ軍の一団が現れた。それぞれ重そうな機材を抱えている。
彼らは俺たちの存在に気づくことなく、そのまま郊外へと続く道に消えていった。
「連中、どこに向かう気なんだ・・・アレは?」
彼らの向かった先、市街地の外れには小高い丘があり、山頂には何かの施設が建っていた。
「ああ、ありゃ電波塔だ」
俺の問いにゼルが応じた。
「17年前に始まった電波生涯以降、使われてない筈だぜ」
・・・ゼルの奴、変なことに詳しいな。
「面白ぇ」
サイファーは立ち上がり、電波塔を指差して決然と言い放った。
「あそこへ行くぞ!」
FF8 第一章 SeeD−33
「そりゃ命令違反だぜ」
すかさずゼルが抗弁する。
「何だよ、チキン野郎。お前だって、さっきまで退屈だと言ってたじゃねぇか」
「それとこれとは別だろ。あのなぁ、これ、ただの戦闘じゃないんだぞ。
SeeD認定試験なんだ。勝手な行動はマイナスでかいぜ。
おいスコール、お前からも言ってやれよ」
「・・・・・・」
俺は直言を避けた。
ゼルの言ってることは正しい。しかし、サイファーの気持ちも判らないでもない。
敵目標が電波塔にあると判明した以上、ここに留まり続ける意義は薄い。
「もういい、お前らはここに残れ!俺一人で行く」
業を煮やしてサイファーは言った。
「敵を目前にして怖気づく野郎は、かえって足手纏いだ」
サイファーは電波塔めざし疾走していった。見る間にその姿は消えてなくなる。
「マジかよ、アイツ・・・どうするスコール?」
呆然とサイファーを見送りつつ、ゼルが言った。
「班長を一人で行かせる訳にはいかないだろう。俺たちも行こう」
「チッ、仕方がねぇな・・・恨むぜ、B班の人選した奴」
サイファーを追う俺とゼルは、ようやくの事で丘の頂上に到達した。
サイファーの姿はどこにも見えない。物陰から電波塔施設の様子を伺う。
入口には門衛と思しきガ兵が二人、倒れ伏している。恐らくはサイファーの仕業だろう。
「サイファーの奴、もう中に侵入しちまったのか、やれやれだぜ」
ゼルがつぶやいた。
その時、だしぬけに背後で声がした。
「みぃ〜つけた♪」
FF8 第一章 SeeD−34
背後の瓦礫の山から、一人の少女が姿を現した。
ガーデンの制服に身を包んでいる。俺たちと同じく、SeeD受験生のようだ。
「こら〜B班、探したぞ〜。なんで持ち場にいない、わ、わ、わわわわっ!」
足下のバランスを崩し、ガラガラと転がり落ちてきた。少女はそのまま、
あられもない格好で地面に投げ出される。
「痛った〜い」
「うおっ、白!・・・あ、いけね」
慌てて自分の口を両手でふさぐゼル。
「え?あ、見た?見た?見たな〜」
少女は顔を紅潮させ、制服のスカートを必死になって押さえた。
「へ?いや、何の事だ?」
「ぶ〜!!」
すっとぼけてあさっての方向を見るゼルを、少女は恨めしげに睨みつける。
「・・・で、何の用なんだ、あんた」
俺は少女に向かって訊いた。
「あ、あたし、伝令で〜す。A班のセルフィ」
セルフィと名乗る少女は立ち上がり、服の埃を払いながら言った。
「B班に伝令〜。班長は、サイファーだよね?どこ?」
俺は無言で電波塔を指差した。
「はぁ〜」
セルフィは大きくため息をついた。
「伝令ってつらいね〜。こら〜、班長待てぇ〜」
駆け出そうとするセルフィに、ゼルが声を掛けた。手にはヌンチャクを持っている。
「待てよ、これ、お前のだろ」
「あ〜、触るな、のぞき魔め〜」
「なんだとっ!」
・・・なんなんだ、この緊張感のなさは・・・
FF8 第一章 SeeD−35
俺とゼルは、伝令のセルフィと共に、電波塔施設内部に足を踏み入れた。
中には誰もいない。
部屋の中央にエレベーターがあった。ランプは最上階を示している。
「サイファーは上か。どうする、スコール」
「どうするって、行くしかないだろ」
「そうそう、行くしかな〜い!待ってろ班長〜」
俺たちはエレベーターに乗り込んだ。
電波塔最上階。エレベーターのドアが開く。
「よう、お前ら。遅かったじゃねぇか」
サイファーが出迎えた。相変わらず、自信たっぷりの表情だ。
「遅かったじゃねぇ!」
ゼルが抗議の声を上げる。
俺は周囲を見回した。何人ものガ兵が倒れている。
「どいつもこいつも期待外れだ。ガ軍にはホネのある奴がいねぇらしい」
サイファーがうそぶいた。
「ありゃ何だ?」
ゼルが壁際にある黒い物体を見つけて言った。
何かのコントロールボックスらしい。広場で見たガ兵が担いでいたものだ。
ボックスからは無数のコードが伸び、建物の配電盤に接続されている。
「ガ軍の連中、いったい何がしたかったんだ?」
「そんな事より、B班班長、伝令〜」
セルフィが一歩前に出てそう言った時、背後のエレベーターのドアが開き、
二人のガ兵が姿を現した。
FF8 第一章 SeeD−36
「む、これは・・・」
「敵襲か!」
二人のガ兵は驚きの声を上げた。
俺は彼らの階級章を見た。少佐と大尉、大物だ。
少佐は長剣、大尉はメタルナックルを、それぞれ携えている。
「貴様らの仕業か!」
大尉が一歩前に出て、少佐をかばう様にして言った。
「貴様らじゃねぇ、俺様ひとりだ!」
サイファーが負けじと声を張り上げる。
「次はお前らの番だ、覚悟しな」
サイファーがガンブレードを身構えた。
「ほう」
サイファーの構えに感嘆の声を上げたのは、後ろにいる少佐のほうだった。
「少しは出来るらしい。ならば、私が相手しよう」
「ビッグス少佐!」
「構わん、ウェッジ大尉。私は軍人である前に、武人なのだ」
「・・・判りました」
ウェッジ大尉はバトルの邪魔にならぬよう、後方へ退いた。
「面白ぇ。ようやくホネのある奴に出会えたってわけか」
サイファーがほくそ笑む。そして俺たちのほうを振り向いて言った。
「いいかお前ら、こいつぁサシの勝負だ。手出しすんじゃねぇぞ」
・・・やれやれだ。こうなっては、誰もサイファーを止められない。
俺たちは仕方なしに、後ろへと退いた。
「私としては、まとめてお相手しても構わないのだが?」
長剣を青眼に構えながら、余裕の表情でビッグス少佐が言った。
FF8 第一章 SeeD−37
「やかましいっ!」
サイファーは一気に間合いを詰めて、俊敏な突きを放った。
「甘い」
その突きを長剣で難なくさばくビッグス。
「どうかな?」
サイファーがうそぶく。
さばかれた筈のサイファーのガンブレードが、再びビッグスの喉元に襲い掛かる。
「ぬぅ!」
首をひねって、かろうじて突きをかわすビッグス。
そこへ間髪入れずに、サイファーの新たな突きが飛んでくる。
「なんとっ!」
サイファー得意の三段突き。ガーデンでの戦闘訓練では、俺も随分苦戦した。
勝負あったな・・・そう思ったのは、俺の早計だった。
三段目の突きが襲い掛かる直前、ビッグスは上体を反らし、そのまま後方へ
とんぼ返りを打って、難を逃れていた。
「三段突きとは・・・その若さで、よくやる」
充分な間合いをとった上で、感嘆を発するビッグス。
「フン、お前もな。こいつをかわせる奴ぁ、ガーデンにも滅多にいねぇのによ」
必殺の三段突きをかわされたというのに、サイファーはどこか嬉しげだ。
「どうやら互いに相手をなめていたようだな」
ビッグスが言った。こちらも嬉しそうな笑みを浮かべている。
「では、本気で行かせてもらう」
そう言って、ビッグスは下段に構えた。いや、これは、下段ではない。
構えは青眼つまり中段のままに、前後のスタンスを極端なまでに広くとり、
上体を大きく前傾させているのだ。
これは・・・地擂り青眼!
FF8 第一章 SeeD−38
「参る!」
地擂り青眼の構えのまま、ビッグスはするすると間合いを詰め、
地を這うような横殴りの斬撃を放った。
「足払いかよ、ゲスな剣法だぜ」
サイファーが前足を引っ込めて、余裕の体でかわそうとしたその時、
ビッグスの横殴りの長剣は、速度を落とすことなく、角度だけを変えて
サイファーの胴体めがけて急上昇していった。
「ぬおっ」
身をよじって避けようとするサイファー。しかし間に合わなかった。
「ぐはっ」
サイファーの胸元から鮮血が噴き出す。
しかし、ビッグスの攻撃はこれで終わったわけではなかった。
サイファーを切り上げた長剣が、今度は雷撃の勢いで振り下ろされたのだ。
「こなくそっ!」
ガンブレードを頭上に仰ぐようにして、かろうじて受け止めるサイファー。
そのまま渾身の力で押し返し、自らもバックステップして距離をとる。
「決められなかったか・・・やるな」
ビッグスがぼそりとつぶやいた。
「チッ!何てぇ奴だ・・・今のは何だ?飛燕とも思えねぇが」
胸元を鮮血に染め、荒い息をしながらも、サイファーが強がって言った。
飛燕、それは東洋に古くから伝わる剣技で、神速とも言うべき左右の二段攻撃からなる。
しかし、ビッグスのそれは左右ではなく、下→上の二段攻撃だ。
いや、初太刀の足払いを加えた、恐るべき三段攻撃と見るべきか。
「うむ、これは飛燕をもとに私が編み出したもの。名づけて跳燕という」
FF8 第一章 SeeD−39
構えを平青眼に戻し、ビッグスは言葉を続けた。
「決められなかったとはいえ、その傷、決して浅くはないぞ」
「ぬかせっ!」
「悪いことは言わぬ、剣をひけ。その体では、もはや貴様に勝ち目はない」
「見くびんじゃねぇぜ!」
サイファーは疾風の素早さで間合いを詰め、火の出るような強烈な突きを繰り出した。
そして、繰り出した勢いそのままに、一気にビッグスの後方まで走り抜ける。
「ぐふっ」
長剣をとり落とし、脇腹を押さえてうずくまるビッグス。
「なんと、蛇切剣とは・・・ぬかったわ」
蛇切剣、これも東洋に伝わる剣技の一つで、古名を「へび胴」とも言う。
サイファーは突くと見せかけてビッグスの長剣を払い上げ、ガラ空きになった
ビッグスの胴に、すれ違いざまの斬撃を見舞っていたいたのだ。
もしも相手が初太刀の突きを「虚」と見破って胴に備えれば、「虚」はたちまち「実」となって、
相手の喉に喰らいつくという、恐るべき剣技だ。
・・・サイファー、侮れない奴・・・
ガーデンでの訓練で、サイファーの手の内は全て知り尽くしていると思っていたのだが、
まさか、こんな隠し球を持っていたとはな。
「見事だ」
ビッグスが苦しい息で言った。
「へっ、いい勝負だったぜ」
会心の笑みを浮かべて、サイファーが返す。
「ウェッジ大尉、あとは、頼む・・・」
そう言い残して、ビッグス少佐は床につっ伏した。
みなさま明けましておめでとうございます。
新年特大号はここまでです。ありがとうございました。
本年もよろしくお願いいたします。
なんかビックスツエーww
まぁ一応ボスだけど
>>64乙です
今年もよろしくお願いします。
>>ff4
バロンの民の悲哀が、パロムポロムの純粋さとの対比によって、
切なく伝わってくるね。上手い。
>>ff8
セルフィ登場のコミカルモードから、サイファーvsビッグスの真剣勝負へと、
緩急がとても巧みで、惹きつけられた。
しかもバトルシーンがいい!映像が目に浮かんでくるよ。
剣豪小説ばりの緊迫感ある攻防に胸がときめいた。
近々、FF9を書き始めるかもしれないですが、まだちょっとわかりません。
とりあえず希望だけは書き込んでみた。
まあできるだけやってみたいです
その日は、月が出ていた。寒々しい夜だった。
忘らるる都。その中心に位置する湖に、カダージュ達はいた。
なんの因果か、かつて彼女が葬られたその湖の傍らに。
「兄さんが隠してたのか…」
半ば有頂天になりながら、誰にともなく言うカダージュの足下には、ロッズの持ちかえった「手土産」が置かれていた。
そう、クラウドのマテリアだ。
「ライフストリームから生まれた力…」
ほくそ笑みながら、頑丈そうな箱からマテリアを取り出し、顔にかざしてまじまじと眺める。
星の知識と力を凝縮したその結晶は、淡い美しい光を放っている。たぶん、下手な宝石よりも綺麗だ。
その輝きを後ろに立っているヤズーとロッズにも見せてやろうと振りかえる。と、あるものが目に入った。
小さい女の子が、ロッズに肩の辺りを押さえつけられるようにして立っていた。
それはロッズの手柄の、ちょっとしたおまけ。
星痕は持っていないようだが、ロッズ曰く、「おもしろい遊び相手」なのだそうだ。
名前は…そういえば知らない。
とりあえず、にやりと笑いかけてやる。怖がると思ったが、きつい目つきで睨み返された。
なるほど。確かにおもしろい。その度胸が気に入って、カダージュはもう少し脅かしてやろうと思った。
「これで僕達も新たな力を…」
呟くと、右手に持っていたマテリアを左の手首にあてがう。
と、マテリアがそのままカダージュの腕に埋没し、丸ごと取り込まれていく。
大きさにして握り拳ほどもあるマテリアが、だ。
背後から息を呑む音がしたが、カダージュは無視してマテリアを腕に押しつけ続け、ついには完全に埋めこんでしまう。
腕の中に取り込まれてもなお、マテリアは淡い光を放ちつづけている。
その光景は、彼らが生身の人間ではなく、思念によって創り出された存在である、何よりの証。
少女を見る。流石にこれには驚かされたらしい。いい気味だ。
それに満足して、カダージュは大声で「驚いたかい?」と言い、湖の方へ向き直る。
湖を挟んだ対岸、そこにはヤズーの持ちかえった手柄が、数十人の子供達が集まっていた。
どの顔も一様に、カダージュの光る腕に半ば驚き、半ば怯えた様子で立ち尽くしている。
ますます満足したカダージュは、再び口を開いた。
「なに、怖がることはないよ。これは僕が授かった、ありがたい力なんだ」
カダージュと名乗る男が光る腕を振り上げながら、声高らかに言った。
全身黒尽くめの衣装に、子供の頃からまったく成長していないような顔立ち。得体の知れない、不気味で小柄な男だ。
「人間を苦しめる、この星と戦う力をね」
言葉を続け、小さい湖の対岸から、デンゼル達ひとりひとりに、睨むような視線を送る。
その刺すような眼光に身動き一つ取れないでいると、彼は少しだけ表情を和らげた。
「実は、この力はみんなも持っているんだ
…わかるかい?そう、僕達は兄弟なんだよ」
え?
「もう一度言うよ。僕達は実はみんな兄弟なんだ。
ライフストリームに溶けていた、母さんの遺伝思念を受け継いだ、選らばれし兄弟なのさ!」
困惑が辺りを包むなか、カダージュが畳みかける。
デンゼルも混乱していた。
兄弟?いったいなんのことだ?母さんの遺伝思念?母さんなんて、見たこともない。
周囲を見渡すと、みんな一様に、どういうことだ、わけがわからないという顔をしている。
「…でも」
次々と涌き出る疑問に囚われているのもつかの間、カダージュがなおも話し始めた。
「星がみんなの邪魔をしている…」
この時、奇妙なことが起こった。
デンゼルの左隣にいた男の子が突然悲鳴をあげ、脇腹の辺りを押さえて倒れたのだ。
どうしたのかと訝る暇もなく、デンゼルの額に鋭い痛みが走った。
「…ほらね、また始まった」
カダージュの怒気を含んだ、冷ややかな声が響く。
「星がみんなを呪ってる。僕達の成長を止めてしまおうとしているんだ」
額の痛みがこれまでにないくらいに強まっていく。目に涙が滲む。
「だから!君たちの体は痛み!心が挫けそうになるんだ!」
デンゼルは壮絶な苦痛に耐えかね、地面に倒れこんだ。頭が爆発する。手足が千切れそうだ。
痛い。苦しい。やめて。誰か助けて。お願いだから…
「…治してあげるよ…」
苦痛のあまり思考がばらばらになりそうなデンゼルの耳に、その声はやけに甘く、はっきりと聞こえる。
デンゼルは目を閉じていた事に気づき、開いた。
ちょうど、カダージュが湖のなかに歩いていき、その中央の辺りで立ち止まったところだった。
カダージュは湖から両手で水をすくうと、顔が見えなくなるほど体を反らし、飲んだ。
「僕に続いて」
囁く声が、頭の中でガンガンと響く。額の痛みは相変わらずだ。
なんでもいい。この苦痛を和らげられるなら、無くせるなら、どんな救いの手でもいい。
デンゼルは半ば這うように、湖へと進んでいった。
湖は、黒い影で染められている。
比喩ではない。カダージュが足を踏み入れた途端、それまで清らかだった水が、
どす黒くてどろどろとした影のようなもので汚染されたのだ。
マリンは身動きも取れず、目の前の光景を見ていた。
集められた子供たちが苦しげな声をあげて倒れたかと思うと、今度は夢遊病にかかったように、
一斉に湖へと入っていったのだ。
しかし、彼女が見たことがあるなら、もっと近い例えを見つけられただろう。
虚ろな目。熱に浮かされたような表情。ふらついてぎこちない挙動。
それは、2年前の災厄の一つ、セフィロスコピーのリユニオンに、驚くほど似ていた。
見るからに汚らしい湖に、子供たちがひとり、またひとりと足を踏み入れ、カダージュの動作を真似ていく。
何も出来ずにその光景を見届けていた時、ある姿を見つけ、マリンは仰天した。
デンゼルがいる。
彼は目と鼻の先にいるマリンが全く見えていないようで、一心不乱に黒い湖へ向かっている。
「デンゼル…」
呼びかけてみる。何の反応も示さない。マリンは目に涙が浮かぶのを感じた。
「デンゼル!」
今度は強く呼びかける。それでも、彼女の声はデンゼルの耳には入らない。
マリンの隣で、カダージュが微かに笑った。
デンゼルはそのまま湖の中へ入って行き、他の子供たちと全く同じ動作で。
湖の黒い水を飲んだ。
その数時間後…
迷いをひきずったまま、クラウドはフェンリルを駆り、ようやく忘らるる都へとやってきた。
昔は海底だったのだろうか、砂浜の湿った砂のような地面の両脇には、白い輝きを発する不思議な枯れ木が並んでいる。
無数の枝が折り重なり、純白に輝く光景はひどく夜空に映えていた。
クラウドはバイクを駆りつつ、その幻想的な木々を眺めていた。
そして、眺めているうちに、妙なことが起こった。木々の白い輝きが、辺りの風景を白く染め、視界全体を包みだしたのだ。
クラウドは最初、なにかの錯覚かと目をしばたいたが、それでも白い光は消えない。
やがて、目の前が完全に白に支配されると、彼は体が何処かへ引きこまれるのを感じた。
クラウドは前につんのめり、慌てて体勢を整えた。
辺りを見まわす。相変わらず真っ白な靄に包まれているが、足下には花畑が広がっていた。
クラウドはその花を見て、以前、ここに来たことがあるのを思い出した。
「来ちゃったね…自分が壊れそうなのに ね」
背後で誰かが囁いた。その声には聞き覚えがあった。それは忘れるはずもない、彼女の声。
すぐ後ろに、彼女がいる。
クラウドが何も言えずにいると、彼女は「でも、きっといいことだよ」と囁いた。
2年前から全く変わらない、人を安心させる、少し謎めいた話し口調だ。
暫くの静寂。それを破ったのは、やはり彼女の方だった。
「質問! どうして来たのかな?」
クラウドは少し考えてから答えた。
「俺は…許されたいんだと思う…うん、俺は許されたい」
口に出して、その答えに少しの自身を持った。だが、
「誰に?」
彼女はその笑い混じりの、短い一言で、クラウドの詭弁を打ち砕いた。さらに、続ける。
「ほんと、ズルズル、ズルズル。ねえ、もう許してあげたら?」
…え?
クラウドはその一言を訝り、思わず背後を振り返った。
が、そこにあったには、次々と流れて去っていく忘らるる都の風景。クラウドはバイクに乗っていて、地面は湿った砂だった。
白い世界は唐突に消え去った。クラウドは暫く後ろを見ていたが、やがて首を振り、前を向いた。
その直後、銃弾が飛来した。
けっこう、というより超久しぶりなAC投下です。
文章…はえらく時間がかかった割にはあんまり進歩してないです。すいません。
>67
未プレイなんで書く側には回れないけど、楽しみにしてる。
このスレもどんどん発展してくな。
>68-72
幻想的で、不気味だけど綺麗だった。
エアリスの声の形容もすごくいい。
FINAL FANTASY IV #0305 4章 4節 これから(25)
ぷつぷつ泡立つ表面に砂糖をふたかけ放り込む。手鍋を火から下ろし、軽くかき混ぜると、柔らかい匂いが鼻先をくすぐった。甘味の塊が溶け込んだのを確かめて、脇に並べた木彫りのマグに手早く中身を注ぎ分ける。
2人分のホットミルクを手に、レッシィは食卓へ向かった。このところずっと一人で使っていたテーブルが、今日は埋まっている。
鏡に移したようにそっくりな二人の客の前に、レッシィはそっとマグを置いた。
「あんがと」
「ありがとうございます」
容器を通して伝わる暖かさを確かめるように、しばらく手を添えたあと。熱々の液体に男の子が果敢に挑み、敗退する一方で、慎重派の女の子はふうふうと息を吐きかける。
パロムとポロム。ちゃんと名前は覚えたが、どちらがどっちか自信がない。
この家を訪れた時は、二人ともひどい有様だった。男の子は涙と鼻水で顔中ぐしゃぐしゃ、女の子は逆に血の気血の気が引いて、立っているのも辛そうだった。
それに比べれば、今は多少落ち着いて見える。
きっと兵隊たちのせいだ。町中を我が物顔でのさばっているあの連中に、ひどく怖い思いをさせられた違いない。
──そんな風に考えたのは、まず第一に、彼らを連れてきた騎士というのが、父シドの年下の友人にして反逆者、セシル=ハーヴィその人だったからだ。
第二の理由として、この家の周辺では、兵士と出くわす確率が非常に高い。
仕事に熱中するあまり3日続けて戻らぬ父が、王に逆らい拘束されたとの知らせは、4日目の昼過ぎに彼女の元に舞い込んだ。
同時に、完成を間近に控えた最新鋭の飛空挺が、いつのまにやら消えていたことが発覚していた。
以来、階段を下った門の前には、兵士の一団が張り付いて何かと目を光らせていた。
初め恐ろしく、慣れてくると煩わしい生活も、あと少しで終わる。
その先触れだと思えば、別人のように様変わりしたセシルも、血だらけのモンク僧も、どんなに怪しく見えようと、追い返すなどとんでもない。
キッチンにとって返し、椅子がないから、と居間に追いやったセシルたちに供するための紅茶を用意するレッシィ。
彼女は、企みめいたことは何ひとつ知らされていない。
しかし、変化の兆しを読み取る聡明さと、父譲りの豪胆さならば、ありあまるほど持っていた。
FINAL FANTASY IV #0306 4章 4節 これから(26)
「よもや、技師殿が捕らえられていようとは……」
壁を背に直立したヤンが、重い息を吐き出した。
赤い翼を手にしたゴルペーザに対抗するには、飛空挺がどうしても必要だ。
シドの協力を得ることは、それはまだセシルが暗黒剣を振るっていた頃、ヤンらと共にファブールを出港した時からの、一貫した目的である。
それだけに、彼が捕まったと聞いた時の落胆は大きかった。
「だからといって、引き下がる訳にもいくまい。
なんとしてもワシらの手で救い出すんじゃ」
「場所がわかればいいんだけれど……
ヤン、思い出せないか?」
シドの人相風体を伝え、ヤンの記憶を引き出そうと試みるセシル。実直なモンク僧は両目を閉ざし、こめかみを揉み解して期待に添うべく努力したが、結果は芳しくなかった。
「済まぬが、そのような御仁を見かけた覚えはない。
……いや、それどころか。
私はあの城で、以前顔を合わせたことのある相手を、まるで見かけていない気がする」
「というと?」
セシルの問いかけに、厳しい顔でヤンはうなずいた。
「奴らに操られていた私は、消えた飛空挺を探す命令を与えられ、バロンの城と町をくまなく歩き回った。
しかし、ファブールの同胞はもとより、ゴルベーザ、カイン、そしてローザ殿──
誰一人として、顔をあわせた覚えがないのだ。
安否のわからぬ者たちや、囚われている方々は別としても、あまりにも……」
「おぬしが覚えておらんだけではないのか?」
「そうかもしれませんが」
ヤンの表情は険しい。自分の記憶を疑われたから、というよりは、取り戻した記憶そのものが彼を不快にしているようだった。
FINAL FANTASY IV #0307 4章 4節 これから(27)
カイン、そしてゴルベーザの不在が事実だったとしても。シドの居場所がわからない以上、彼ひとりを助け出してそのまま脱出するなど無理な話である。
王との対決はもはや避けられない。その点で、3人の意見は一致していた。
「問題は、どうやって陛下の……
すまない、バロン王のところまで行き着くか、だね」
バロンの城は濠と城壁で二重に囲まれ、唯一の門は近衛兵が守りを固めている。城の内部にも、親衛隊を初めとする警護の目が光っていることだろう。
王の元に行き着くまでに、セシルたちのほうが消耗しきってしまう。
「抜け道でもあれば話が早いんじゃがの。
セシル、お主、何ぞ聞いたことはないか?」
「あるにはあるけど、テラが期待しているようなものじゃないよ」
万が一の事態に備え、様々な仕掛けや秘密が城に隠されていることまでは、テラが指摘する通りだった。
しかしバロンの王は、統治者であると同時に最強を謳われたナイトである。落城の危機を前にして、自分だけ助かるための逃げ道を必要としない精神を含めて、そう呼ばれる。
少なくとも、かつては。
「む、失礼」
突然、ヤンが廊下と接する扉を開ける。ティーセットを両手で持ったレッシィが、すぐ前にいた。声をかる前に勝手に開いたドアに驚いて、目を丸くしている。
「……あ、お茶、入りました」
「ありがとう」
四人分の飲料とカップを乗せた大盆をヤンが受け取り、中央のテーブルに乗せた。手の空いたレッシィが、エプロン脇のポケットから折り畳んだ紙を取り出す。
「それとこれ。父から預かりました。
セシルさんが戻ってきたとき、自分がいなかったら渡してくれ、って」
「シドから?」
セシルは紙を広げた。道具を使って丁寧に引かれた線の上に、びっしりと何かが書き込まれている。シドの筆跡に間違いない。
「見取り図──か? これは」
「バロンの地下水路だ。
……城へのルートが記してある!」
セシルの叫びに、横から覗き込んでいたテラが、それ見たことかと唇を曲げた。
FINAL FANTASY IV #0308 4章 4節 これから(28)
街の西北から北側にかけて広がる地下水路は、バロンで最も古い建築のひとつだ。北の河から引いてきた濠の水が、街で使われる地下水と混じらず海へ出るように流れを制御している。
それと同時に、城にかかる跳ね橋や門などを動かす仕掛けの大部分が集中している場所でもあった。
何頭もの馬に引かせてようやく動く重い扉を、レバーひとつで操作できるのはそういう理由だ。水の流れる勢いや、”時の歯車”と呼ばれる特別な品を利用しているらしい。
それらの機械を整備する役目を担ってきたのが、代々のシドの祖先だ。彼らが行き来する為に、水路の周辺には人が歩くための通路が設けられている。
そして賊に利用されぬ用心として、放水や可動式の壁、落とし穴といった罠が各所に仕掛けられていた。
「この線をたどれば、罠にかからず城まで行き着けるということか……
なかなかに周到な人物のようだな」
赤い色で強調された線をなぞり、ヤンが呟く。架空の侵入者が辿った行程は、複雑に枝分かれした通路を行きつ戻りつしながら、全ての仕掛けを避けて城に至る道筋を見事に探り出していた。
元々は、防御をより完全にするために検討していたのだろう。周辺の空白には、新たな罠の設置案と改修の見積もりが書き込まれている。
「工期からすると、実際の改良はされていないな……
まだ使えるはずだ」
「でも、鍵はお父さんが持ったままなんですよね」
逆向きに地図を覗き込んだレッシィの指摘に、ヤンが視線を泳がせる。
「……もしや、この中に無いだろうか?」
そういって彼は、懐から鍵束を取り出した。操られていた時に渡されたようだ。
形も大きさも様々な金属片を、レッシィがひっかきまわす。図案化された歯車と槌の組み合わせ──誉れ高きポレンティーナの家紋を、彼女はすぐに見つけだした。
「いいぞ!運が向いて来おった!」
「ああ……これなら何とかなりそうだ!」
配慮と幸運が噛み合ってもたらされた展望に、全員の意気が上がっていく。
その高揚を打ち砕くかのように、廊下の奥から物音が響いた。
保
79 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/08(日) 16:03:59 ID:zCyKYExr0
ビッグスとウェッジ、FF8にも出て来るんだ。
未プレイなんで知らんかった。
しかもカッコいい!強い!シリーズ随一だな。
8のビックスとウェッジはシリーズ中でも珍しく生き残ったね。
うわ、5投下した者だけど前スレに張っちゃったみたい・・・。しかもなんかひとつだけこっちにも
張ってある・・・。ごめんね、謝って許してもらおうとも思ってない。仏の(ry
良かったらもう一度このスレに張ったらどうかな?
自分はいいと思うよ。
まとめサイト……どうしたんだろ
さあ・・・。
まあサイト自体は生きてるんだし、またーり待ちましょ。
じゃあ張りなおします。見苦しくてすいません。
FINAL FANTASY 5 (62) 「飛竜」13
一見して熊と見間違うかと思うような体躯を唸らせて歩き、男はマギサと並んだ。
「この人はアタシの旦那のフォルツァ。頭は悪いけど見ての通りの巨体さね」
三人はごくりと唾を飲み、再び戦闘態勢をとった。
フォルツァがそれを見てぐっと腰を落とした。
「やっちまいな!!」
「おおおおおお!!」
マギサの号令に合わせてフォルツァが、その巨体に見合わぬ速度で三人に迫った。
その勢いのまま丸太のような腕をバッツめがけて振り下ろした。
バッツはそれを横っ飛びに反転しながらかわす。フォルツァの拳はそのまま地面に
突き刺さった。
それを素早く一気に引き抜き、巨体を反転させながら背後に回ったガラフとファリス
を蹴り飛ばした。
「がっ!」
「ぬぅ!!」
二人の体は吹き飛ばされ、浮遊感に包まれる。そして落下・・
地面に叩きつけられた二人は素早く身を起こし、フォルツァに向き直る。
「よけろーー!!」
バッツの咆哮に、二人は咄嗟にその場を飛びのいた。次の瞬間、二人の居た場所が
激しく燃え上がる。
マギサの放った魔法だった。
「ちっ、ちょこまかと!」
バッツは剣を構えなおし、思う。
(──強い!今まで闘ったどんな敵よりも)
「はあああああ!!」
フォルツァが地を蹴り、バッツに突進する。作戦を考える暇も与える気はないらしい。
そのバッツの視線の左端で、レナが青ざめた顔のまま立ち上がった。
FINAL FANTASY 5 (63) 「飛竜」14
同時にマギサは、ファリスに向け洗練された動きで素早く鞭を振った。
唸りを上げ遅い来る鞭は動きを予測するのが難しいが、ファリスはそれを剣
で受け止めた。
「へへ、ちょろいぜ」
剣に巻き付いた鞭をマギサと引き合いながら、ファリスはニッと笑った。
青魔道士の真髄は、その眼力にある。
敵の攻撃を見極める事に長け、熟練の青魔道士は敵の体内で練られる魔力
の流れを見極めることもできるという。
「でかしたファリス!」
ガラフがここぞとばかりにマギサに突進する。
しかしファリスは気付く。鞭の引き合いをしていた時から、マギサが片手で鞭を
握っている事を。
そしてもう一方の手は掌をファリスに向けられていた。
マギサの意識と視線が、ファリスからガラフへと向けられる。
「ガラフ!魔法に気をつけろ!」
言うが早いか、マギサの掌はガラフへと向けられ、間髪入れずに魔法が放たれた。
ガラフは危険を察知し、受身の事など考えずに体を捻り、地面に突っ伏した。
ガラフの背中の服が弾け、服の生地が宙を舞った。そしてそこからプシュッと血が
噴き出た。
放たれたのは渦巻く烈風の塊り、風の魔法エアロだ。ガラフの体をかすめた魔法
はそのままガラフの後方へ流れていき、山の岩肌を削り取った。
「てめぇ!!」
マギサの意識がガラフに向けられた一瞬、ファリスは剣に巻き付いた鞭を素早く
ほどき、マギサに斬りかかった。
他の方々と比べると随分下手な文章かと思いますが書かせていただきました。
因みに、バッツ『ナイト』ファリス『青魔道士』レナ『黒魔道士』ガラフ『モンク』で書いています。
ファリスが罠にかかるシーンでは、オリジナルの展開だと綱渡りというのは無理があるかと
思い、こう書きました。杭とか持って無さそうだし。話の本筋には傷つけてないと思いますが・・。(´ー`;)ハラハラ
ちなみに崩れ落ちたのは足場の一部で、人が通れるくらいではあったとか思って下しあ。。
とにかく華麗にスルーしていただけると幸いです。
最後に。もう一方のほうとサブタイトルが一致していませんが、北の山1.2.3→飛竜9.10.11として
書いています。どうまとめるかはまとめサイト管理者様にお任せしたいと思います。
勝手ですかね?ヽ(´Д`;)ノすいません。
ho
90 :
299:2006/01/13(金) 21:16:23 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0308 4章 4節 これから(28)
「入れ……」
控えめなノックの音が部屋に響き渡る。
昼下がり、扉とは反対側にある窓から差し込む光にやや陰鬱な気分を抱いていたベイガンは外を眺めつつ
指示を下す。
窓からは町は見渡せない。広がるのはミストとバロンを仕切るように連なる山脈である。
「失礼します!」
声とともに扉はゆっくりと、それでいて慎重に開かれる。
勢い勇んで入室してきたのはバロンでも最強との噂の近衛兵団の団員であった。だが、今は
普段の勇猛果敢な姿はすっかりなりを潜めている。
それどころか、がちがちに固まり直立するその姿勢は怯えの姿勢である。
「何用かな?」
ベイガンは部下の労いの言葉も無しにいきなり切り出す。
「はっ! はい……」
その無情ともとれる態度に兵士はさらにだじろぎ、語気は萎んでいく。
もはや平静を保つのがやっとであった。
「ヤン様が……私たちに反旗を翻しました……」
何とか伝えるべき用件を声に出す。
それは、最近のバロンの情勢を見るに厳重な処罰が下されてもおかしくはない程の
失態であった。
失態の帳消しの為、事情を明かせる者達だけを連れて再戦を挑みに行った。
しかし、勢力を増したにも関わらず、失態を消せるほどの成果はあげれはしなかった。
それどころか、幾多の同僚を討ち死にさせる結果となってしまった。
追いつめられた兵団達のとった行動は団長へ一連の事態を報告する事であった。
そして、その大役と勤める事となったのが、返り討ちにされた者の中で比較的傷の浅かった彼であった。
「やはりな……まだ完全ではなかったからな」
だが、ベイガン自体はその報告に特になんら感想を抱かなかった。
まるで、あらかじめこの自体を想定していたかのように平静を保っていた。
91 :
299:2006/01/13(金) 21:18:18 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0310 4章 4節 これから(30)
「では……失礼します」
思ったよりも、ベイガンの反応が穏やかなものであったのに安心したのか近衛兵の声はやや
柔らかくなっていた。
そして重い使命感から解き放たれた、軽い足取りで部屋を退出しようとする。
「待て」
「はい……?」
だが、質問はまだ終わっていなかった。
「あのモンク僧への術は完璧ではなかったが、奴が平静を取り戻したのには何か理由があるだろう。
原因は何だ?」
無回答を許さない。質問にはそう察せる覇気があった。
「は、それが今朝の警備中にヤン様を見知った者と偶然に接触しまして……その時に正気を取り返したようです」
近衛兵の男は簡潔に述べた。
もう一度、シドの家前で攻撃を仕掛けにいった事を話しても良いと思ったが、口外しないほうがいいと思い、
そこまでにとどめた。
4と5の展開が同時に緊張感UP!
93 :
299:2006/01/13(金) 22:01:51 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0311 4章 4節 これから(31)
「その者はどんな奴であった?」
「白き鎧を纏っていました。名前は……」
すぐには出てこなかったが、二度目の襲撃の時の叫びが思い出される。
「そうだ! 確か、セシルと名乗ってました!」
そこまで言って彼は自分の言葉に驚く事となった。
「セシルって……ひょっとして」
思い出した。それにあの時彼は自分の事を……どういった?
僕は赤い翼のセシル無駄な抵抗はやめろっ! そして王に会わせろ。
あの時はセシルを倒す事に必死で特に意識せずに聞き流した言葉であった。
「赤い翼のセシル……」
その名を知らぬ者はバロンにはいないであろう。
王の元で暗黒剣を志した者、現在は反逆者としておたずね者になっている人物。
「何!」
ベイガンも驚いたのか、初めて振り返り、近衛兵の方を見た。
「確かにそう名乗ったんだな?」
驚きを隠さず、激しく問いつめるベイガンの姿に近衛兵自身も動揺しつつ、首を縦に振る。
「それで奴は何を言っていた?」
何故そんな事まで聞くのかが疑問に感じたが、近衛兵は言う。
94 :
299:2006/01/13(金) 22:03:46 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0312 4章 4節 これから(32)
「王に会わせろと言ってました……」
「そうか。ふふふふ……ははははは……!」
近衛兵とベイガンの言葉には少しの沈黙があった。
その後、何が可笑しいのか急にベイガンは不気味に笑い始めた。
目前の近衛兵がその姿を異形の者を見る目つきで見るのにも気づかない程に高らかに笑い続ける。
「まさか戻ってきたとはな! いいだろう。この私が、自らに葬ってやろう……」
「ですが、奴らが此処まで来るのでしょうか?」
こんな以上なベイガンを目にしてもなおもこのような指摘を言える自分に奇妙な気持ちを抱いていた。
上手くは説明できないが、あまりにも場違いな場面に出くわすと感覚がマヒするのかもしれない。
「来るさ……絶対に。奴の事だからな」
そんな事を考えているとベイガンから答えが返ってきた。
そして、回答する本人の目線はすでに近衛兵の方を向いてはいなかった。
物思いにふけるかのように、窓の外を眺めている。
「では……私はこれで」
こんな場所に長居はしたくない。そう思い、部屋を退出しようと足早に駆け出そうとする。
ちらりと視線を外へと笑いを向けるベイガンに向ける。
「!」
そして近衛兵は足を止めた。
いや、止めさせられたといった方がいいだろうか。
自分の見間違いではないのか。
何度か自分にそう言い聞かせ、納得しようとした。しかし、何度見ても自分が戦慄したそれはは間違いない
事実であった。
不気味に笑うその人物の右腕から何かが自分を見つめている。
それはその腕の持ち主――今は背を向け表情を伺う事ができない者の感情を代弁しているものだと確信できた。
95 :
299:2006/01/13(金) 22:08:14 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0313 4章 4節 これから(33)
睨むようなその右腕の目つきに耐えられなくなった彼は慌てて視線を反対に向ける。
だが、そこにも同じような光景が待っていた。
つまりはベイガンの左腕。
そこにも何か、今度は最前よりも良く見て取れる。
どす黒い紫色の肌に二つの目、手先に裂けたかのように露出する口
はこちらを静かに見つめている。
「ひっ!」
すでに声を潜めるという考えは彼にはなかった。いや頭の片隅には存在していたのかもしれない。
だが、そんな行動をできるほどの余裕は彼には存在してはいなかった。
左と右にそびえる恐怖に挟まれてはどんな者でも怯えを隠せないであろう。気を失わなかっただけでも賞賛に
値するかもしれない。
腰を地面につき、わなわなと震え、怯えた目つきでベイガンを見上げていた。
「あんたは一体……なんなんだよっ!!」
何とか絞りだしたその声は、目前の隊長――すでにヒトではない化け物めいた相手に対する問いかけになるほど
の声量を保っていなかった。
その声にベイガンが振り返る。
振り向いたその顔は両手に構えた腕の表情よりもさらに彼を戦慄させる。
そして――
96 :
299:2006/01/13(金) 22:08:54 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0314 4章 4節 これから(34)
直後、彼の体を締め付けるものが一つ。
「!」
そして締め付けられた本人は声にならない悲鳴を上げる。
何とか脱出して体の自由を確保しようと悪戦苦闘するも束縛の力はなおも勢いを増していく。
その間に、この締め付けの正体を探ろうと、そぎ落とされる体力を振り絞り視線を巡らす。
体に巻き付いた長く太いもの、そしてそれの終着点には今の彼の最も恐怖する存在が。
ではこれは……
結論を導き出した時、彼と向き合うように顔を見せるものが一つ。
恐怖の対象その左腕から伸び、彼の動きを封じる先端部分。
彼をあざ笑うかのように見据える顔は絶望しきった心を打ち砕くには充分すぎる程の効果があった。
「あああああああああああああああっっっっっーーーーーーーーーーーーーー」
絶叫。
直後、彼は気を失った。
だが、これはむしろ幸運な事だったのかもしれない。
これから先、襲いかかる更なる仕打ちを苦しまずに終える事ができるのだから。
97 :
299:2006/01/13(金) 22:11:48 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0315 4章 4節 これから(35)
近衛兵の絶叫。
それは、当然ながら室内だけでは収まりきるものではなかった。
近衛兵長ベイガンの部屋。
そこから少しばかり離れたところにいる者の耳にも聞こえたのであった。
「今のは……」
廊下を歩いていた一人の女性は疑問を口にした。
空耳だったのか。一度は自分の耳を疑ったりもした。
そして気にせずに自分の仕事に戻ろうと足を進めようともしたが、彼女は向きを変え、意を決し声の方向へと
歩き出す。
ここ最近の王、そして国全体が異常な状態だというのは一介のメイドである彼女から見ても明らかなものであった。
用の為、何度か町に出向いた時には民衆は怯えきっていた。
そして城に勤める者たちもやはり町衆達と同じようなものであった。
当然彼女の職場自体にも変化があった。同僚達も無口になり、仕事に専念するようになった。
彼女もそのような変化を疑問に感じつつも、日々目立たぬように仕事をこなしていた。
そんな折りにこのような悲鳴だ。
98 :
299:2006/01/13(金) 22:13:01 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0316 4章 4節 これから(36)
実のところ、今の悲鳴と似たような声は以前にも何度か聞こえたような気がしたのだ。
だが、今ひとつ確証がもてなかった上、その時、一緒にいた同僚に確認をとっても聞いてないという一転ばりで
あった。
そして、何度か別の近くにいた人間にも訪ねた事があった。しかし、結果は彼女の同僚と同じであった。
それどころか中には質問されると怯えて逃げ出す者もいた。
そのような状況が続く中、彼女も自分の聞き間違いかと思い込むようになっていた。
だが、今回はよりはっきり聞こえた。
もしかすると音を辿っていくと、今の豹変の片鱗でも知る事ができるのでないか。
淡い期待を抱きつつ彼女は目的地へと着実に向かう。
「確か、この辺りから……」
大体の位置は悲鳴から察せたものの、その場所を具体的に見つけ出すのは困難を要した。
悲鳴の聞こえた先の廊下には沢山の扉があった。
この中から目的地を割り出すのは簡単なものではない。しらみつぶしに探すというにも手だが、変に感づかれ
るのはあまり良くない。
こんな時勢なら尚更だ。
やや、途方に暮れていると、彼女の後ろの扉がひとりで開いた。
99 :
299:2006/01/13(金) 22:18:41 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0317 4章 4節 これから(37)
「誰!?」
急な出来事であったので、彼女は思わず厳しい声で問いかけた。
「あなたは……」
扉から出てきた人物を彼女は知っていた。
「ベイガン様……」
ベイガン程の役所であれば、城に勤務するなら、知らぬ者はいないであろう。
「すいません。驚かせてしまったようですね」
見るとベイガンは珍しく本気で驚いた様子であった。
職業柄、人と接する機会の多い彼女はこのような場を取り繕うのは得意な方であった。
「こんなところまで何用かな……」
「あっ! 少し気になった事があったのですが、もういいんです」
無意識の内に口がそう告げる。少しでも速くこの場所から去りたかった。
「では……」
そう言って身を返し、立ち去ろうとする時――
ベイガンの長身の後ろから僅かに見える室内の光景を見てしまった。
石造りのタイルに赤い水溜まり。そして嫌な臭い。
これは血の臭いだ――
それだけで、この部屋でどのような事が行われたかを想像するのは難しい事ではなかった。
「どうかしたか」
ベイガンが訪ねる。
「いえ……いいんです。それでは」
本当はもの凄い、吐き気が襲いかかり、今でもその場に倒れてしまいそうなくらいであった。
平静を装おうと努力はしているが、きっと顔は蒼白であろう。
悟られない事を祈りつつ彼女は廊下の奥へと消えた。
100 :
299:2006/01/13(金) 22:24:39 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0318 4章 4節 これから(38)
「さて……」
怯えたように去るメイドを見送ったベイガンは一人呟く。
「生きていたんだな。セシル……」
それに報告にきた近衛兵のある言葉が引っかかっていた。
「白き鎧を纏っていたか……」
ベイガンの知る限り、セシルは暗黒騎士として、バロンで名をはせていた。
そして纏う鎧も血に染まった漆黒の色であった。
「何かが、奴にあったようだな」
だが、そんな事はすでにベイガンにとって重要な事ではなかった。
「早く来るがいい……いや、来てもらわなければ困る……」
おそらく心配しなくてもいいであろう。
セシルは王に会いたがっている。どんな手段を使ってでもこの城にまでやってくるであろう。
「この力さえあれば」
後ろに振り返り、先程の自分の所業を見つめ、不敵に笑う。
その顔には部下を手にかけてしまった後悔というものは感じられない。
「ゴルベーザ様より預かったこの力さえあれば……貴様をこの手で倒せる……」
そう思うと気持ちは、否応がにも高鳴る。
「もうすぐそれがかなうんだな……」
口元が微かに歪む。
「ふふふふ……ははははははははーーー!!」
しんと静まりかえった廊下には不気味な笑いは良く響いた。
101 :
299:2006/01/13(金) 22:33:50 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0319 4章 4節 これから(39)
彼女は走った。
何処へ行くのか。そんな事も考えずに。
だが、今はできるだけ離れたかった。あの光景の場所から。
結局、彼女は逃げるように自室へと駆け込んだ。
一介のメイドである彼女に与えられた部屋は質素であった。
鍵を閉めた後、彼女はすぐにでもその場へとへたり込んだ。
「どうしてこんな事になったのかな……」
それは最前の出来事だけに関した事ではない。
いつからこの国は狂い始めたのだ。
以前は王も優しく、民も皆穏やかな暮らしをしていたはず。
追憶する彼女にとある人物が浮かびあがった。
セシル=ハーヴィ
当の本人は覚えていないかもしれないが、出国する以前にセシルの身の回りの世話を担当していたのが
彼女であった。
彼女がセシルを最後に見たのは部屋に帰ってきた彼と言葉を交わした時だろうか。
ベットのシーツを取り替えたゆっくりお休みくださいという事務的な内容であっただろうか。
もう少し気の利いた事を言ってれば良かったと今更ながらに後悔する。
102 :
299:2006/01/13(金) 22:35:02 ID:HbkK+vkH0
FINAL FANTASY IV #0320 4章 4節 これから(40)
「思えば、あの時……セシルさんが国を追われて以降……」
セシルに対する謀反疑惑。立て続けに入ったミストでのセシル死亡報告。
根も葉もない噂であり、確証もない。矛盾しあう二つの事実を特に疑いもせず、それどころか
簡単に信じ、受け入れた王。
逆らう者を次々と処罰していく王。
ゴルベーザという謎の男の重用。進む他国への軍事侵攻。
気づいた頃にはすでに彼女の知っている国とは様相が変わっていた。
ミストへのセシルとカインの出征。
あそこからすべての歯車が狂いだした。
「セシルさん……帰ってきてください……」
別にセシルが帰ってきたからといって現状が覆るとは限らない。
だが、今の彼女は何かにすがる事でしか平静を保っていられなかったのかもしれない。
「今の……今のこの国は何処かおかしいんです。あなたさえ、あなたさえ帰ってきてくれれば」
訂正
>>90 #0308 これから(28)と書きましたが正確には
#0309 これから(29)です。
104 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/15(日) 21:18:18 ID:yh+UOHkf0
保守
保守
106 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:
>>103 乙。
ベイガンの気味悪い感じが出てて良いね。
メイドの描写も良い感じ。