ただの小説ではなく、映画のような興奮と感動をどしどし作ろう!
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./⌒\ / i⌒i \ / ト、 ∨ .イ \ ./この作品には\ /ヽ 暴力シーンや 7\ ./- グロテスクな表現が -\ / ∠ 含まれています。 =- \ ( 7 へ 、 , へ \ )  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
〜プロローグ〜 かつてアレフガルドの制覇を企て、世界を手にしようとした竜の化身・竜王。 数十万を超える手下のモンスターを率い、ラダトーム城の現王女・ローラ姫を拉致し、 砂漠の集落ドムドーラを襲撃し陥落させた。 しかし結果的には、伝説の勇者の血を引く者によって、首領である竜王の首をとることができ、 さらわれたローラ姫も無事救出。けっきょく被害はドムドーラの大殺戮だけで済んだ。 竜王の宣戦布告から勇者の勝利まで、実にたったの18ヶ月ほどで平和が訪れた。 実際アレフガルドの歴史から見ても、この暗黒時代は瞬きする間の出来事だった。 だがその中で最も被害を受けた、砂漠の町ドムドーラ。 この町に竜王の配下のモンスターたちが現れ、町を全滅させるまでに至る時間は1時間半。 ドムドーラの住人・約1500人は、わずか90分の間に悪夢を見た。 町を護衛していたわずかな兵士も、男も女も、子供も老人も、現れたモンスターたちによって ほとんどが悲鳴を上げる暇もなく駆除された。 基本的に魔王に操られた魔物というのは、取引や交渉といったものは一切通じない。 魔物の目から見れば、そこにいるのは無力な女子供ではなく、単なる破壊と殺戮の対象。 弱肉強食や自然の摂理の本能はなくなり、空腹でなくても人を襲うモンスターに成り下がる。 しかもこの町を襲ったモンスターは、通常の魔物を遥かに上回る強さを持つ生態系がほとんどであり、 たったの一匹でも少数部隊を全滅できる強さだった。 これが群れを組んで襲ってくるとなると、ニ〜三国の兵士たちをかき集め、強力な精鋭部隊を 結成して、やっと互角に渡り合える勢力だ。並みの住人などひとたまりもない。 アレフガルドの歴史に刻まれる、この悲惨なドムドーラ襲撃。しかしこれは殺戮というよりも、 むしろ災害に近いものだ。殺戮というのは、人が人を無差別に殺害していくものであって、 人であらぬものに襲われるのは、自然現象に近い大災害として扱われる。
大地震や大災害が起こる確証のある前兆、または予報できるものは一切ない。 仮に前触れのようなものがあったとしても、人はさほど気にもしないし、 例えば遠くの国で起こっている戦争など、実際自分らには無関係だ。 だがある日突然、自分たちの住む町に侵略者が現れ、わけもわからず次々と 同胞が消されていくのはどれほどの恐怖感だろうか。しかも抵抗しようにも 全く歯が立たない相手だったら、人は果たして手を取り合い、力を合わせて、 巨大な敵に立ち向かう気になれるだろうか。 死の恐怖とは、いったいどれほどの恐怖感だろうか。それはいざ、死を目前に控えた者にしか 分からないとすれば、生きている実感もまた、ただ生きているだけの者には分からないかもしれない。 この物語は、襲撃されたドムドーラの住人、たった二人の生存者が、背筋の凍る恐怖を味わい、 征服者と大戦争の幕開けを垣間見て、その恐怖と混乱、そして生きることの実感を初めて味わった、 大災害の体験談である。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドムドーラ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドムドーラ PAGE1 とある砂漠の町 古井戸の中 水脈の洞穴―――――― 二人の男女が地下20mの洞窟の奥にて、歯も合わせられないほど身を震わせながら抱き合い、 お互いの体温で体温低下を防いでいる。 エル「あ…うぅぅ…お、おいリン…、しししっかりしろ…。ねね眠いのは、わわわかってる。 けど、けど、ききききっと、も、ももうすぐ隣国から、きゅ、きゅ、救援部隊が…」 男の名はエル。まるで薬物中毒のような震える手で、しっかりと妹のリンを抱きしめている。 水温0℃に近い井戸の水はヒザまでつかっている、この状態になってから何時間経過しただろうか。 リン「エ、エ、エル…。あたしななななんだか変…。す、す、すっごく疲れて……て、て、て、 手も足も、感覚がなななな、なくなくなくなっちゃって…て…て…。」 エル「ししししっかりするんだ…。た、た、体温低下のせいだよ…。ね、ね、眠らなきゃ だだだだ大丈夫だ、だ、だ、だ。」 生命機能が明らかに低下しているエルとリン。二人の目の下には、まるで子供がイタズラ描きしたように 真っ黒にクマができている。さらに両手の爪は紫色に染まり、血が通っていない唇は青紫に変色している。 普通の人間ならば、これは非常に危険な状態であり、一刻も早く水から上がらなければならない。 放っておけば体温低下が進み、激しい疲労感とともに眠ったまま生命機能が停止する。
リン「さ、さささ寒い…!すごく寒いわ…!そ、そ、そ、外へ、で、出たい…!も、もうだめ…!」 エル「バ、バ、ババババカも、休み休みヤスミ、ヤシュミ、やしゅみ…!!うぉぉぁぁぁああ!!」 リン「も、も、もうダメ…!ここここんなとこで、しししし死にたくないわわわぁぁぁ!エル! そ、そ、そ、外へ、ででで出たい…!」 エル「よ、よよよよせ!リン!い、い、今、今、町が、どどどどういうことに、なてるか…! わわわわかって、い、い、いるだろ…!」 リン「ど、ど、どうしてななななの…!い、い、い、いったいあいつら…!あの怪物たちって どどどどうして、あたしたちの、ま、ま、町を襲ったりすすするの…!あ、あ、あたしたちが いいいいいったい何を、ししししたって言うの…!」 エル「わ、わ、わかりきったこと聞くなよ…。お、お、お、俺も信じたくない、ない、ないけど、 あ、あれが噂に聞いた、例のヤツら、だ、だ、だろ。」 リン「例のヤツらって、な、な、何よ。」 エル「い、い、いいかリン…!ま、ま、まだ耳は、き、きき聞こえるだろ…。あ、あ、あの音が 聞こえるか…。よ、よく聞け…あの音だ…。」 リン「や、やめて…!もももう聞きたくない!!」 井戸の洞窟の中では、上のほうから爆発音や、世にも恐ろしい怪物のうなり声が聞こえる。 それらが聞こえるたびに、洞窟のカベや天井が振動し、パラパラと小石や土が水面に落ちる。 地上では今、およそ信じられないことが起こっており、目を疑うような地獄絵図が完成しつつある。 その異常事態を察知した土の中のミミズが、井戸の洞窟のカベから次々と這い出てくる。 ヒザまでつかる水の中は、無数に這いずり回るミミズのジュウタンと化している。
エルとリンの皮膚はヒルにかまれ、背中や足を何箇所も喰われているが、すでにそんな小さなことに 気をやる余裕のない二人は、ただただ早く終わってくれ、終わってくれと祈るだけ。 リンはこの状況に混乱し、ついに兄をののしる始末。 リン「た、戦うのよ!ふふ二人で力を、あ、あ、合わせ、合わせ、合わせて…!」 エル「よよよせ!!バカなことを考えるな…!」 リン「モ、モ、モンスターたちが、な、な、何だっていいいい言うのよ!あ、あたしだって ま、魔法の一つや二つくらい…!」 エル「お、お、落ち着け…!も、もう何も言うな…!」 リン「エル!あ、あ、あなただって剣の腕は、そそそそのへんの兵士、な、なんかよりも、ずっと…!」 エル「やめろ!!お、お、お前はまだ分かってないのか!そ、そ、外にいるバケモノの連中を…! や、奴らの生態系を見ただろ…!ち、ち、力を合わせて、どうのこうのって問題じゃないんだ!」 リン「あんた男でしょ!!ここここんなところにいたって、確実に死ぬだけでしょう…!も、も、もう 限界だわ…!あ、あ、あたし、そそそ外へ…!」 エル「やめろ!!死にたいのか…!」 すでに足の感覚は麻痺し、それでも這って洞窟を出ようとするリン。それを必死で止めようとするエル。 水の中を這うたびに、感覚を失った手のひらに、やわらかい感触がぐにゃぐにゃと、そしてプツプツと 何かがつぶれていく。ミミズが手のひらで押しつぶれているらしい。それに気づいたリンは 気分が悪くなり、すでに吐くものも無くなったが、血のまざった胃液を再び吐き出す。 リン「いやあああああ!!こんなとこにいるんなら死んだほうがマシよ!!放して!」 エル「だめだリン!じっとしてろ!!おいよせ!」 リン「あああああああああ!!」
乱れたリンの髪の毛から、小さな虫がパラパラと落ち、頭皮はかすかに出血している。 どうやらシラミまで沸いたらしい。彼らは長いこと、不衛生な古い井戸の洞窟に身を潜めていたからだ。 ネズミの死骸が散乱する中、地中に潜んでいた無数のアリまでが避難しようと、彼らの鼻や耳や目の中に 無理やり入ってこようとする。 エル「く、くそ…!虫が…!」 リン「きゃああああ!!た、た、助けて…!」 エルはカベに突き刺していたたいまつを取り、あわてて火で虫を追い払おうとする。 だが顔にまで上がってきた虫は、火では追い払えない。無数のアリは青白いリンの顔を這いずり、 眼球の中に強引にもぐりこむ。 リン「ぅぁぁぁぁ!!エ、エ、エル!たたた助けて…!あたしの目の中に…!」 エル「じ、じっとしてろ!掻くな!い、い、今とってやるから…!」 血行が悪くなった青白いリンの顔は、無数のアリによって、みるみる真っ黒に変色していくようだ。 つまりそれほどの数のアリが、顔中を這いずり回っているのだ。 鼻から侵入したアリが口から出てくる。まったく少しも笑えない話だ。アリまでが混乱している。 リン「いやあああああ!!」 まぶたの中にアリが潜り込み、アリがもがくたびに皮膚の中に不快な感触が伝わる。 皮膚の上から叩き潰したくても潰せない。顔の皮膚の中がアリの死骸だらけになることを想像すると、 本気で自殺を考えたくなる。エルはやむを得ず、皮膚をつまんで一匹一匹ずつ、そっと取り出すしか なかった。もうリンは半狂乱の状態だ。
ゴゴゴゴゴゴゴ…! エル「な、何だ…?!」 リン「ま、また振動が…!」 ――――ッズガァァーーーンン!! エル「うおあああ!!」 リン「きゃあああ!」 目も満足に開けられない混乱した状況に、さらに追い討ちをかけるように地上で大爆発が起こったらしい。 その際に洞窟の天井の岩盤が崩れ落ち、出口が完全に塞がってしまった。 リン「も、もうダメだわ…!完全に終わりよ!あたしたちここで死ぬんだわああああああ!!」 エル「し、静かに…!落ち着くんだリン…!」 たいまつは水面に落ち、火も消えてしまった。文字通り完全な暗闇となり、一筋の光も差し込まない 闇の世界、二人は井戸の洞窟に生き埋めとなってしまったようだ。確認できるのは、お互いの声だけ。
「いやあああああ!!だ、だれか助けてーーーー!」 「し、静かにしろ…!もう空気も入ってこないんだぞ!大声出すとそれだけ酸素が…!」 「も、もうイヤ…!気が狂うわ…!」 「リ、リン…。大丈夫だ、必ず助かる…」 「いい加減にして!あなたの‘大丈夫だ’‘助かる’はもう聞き飽きたわよ!」 「シーー!静かに!い、いいかリン、もうすでにお互いの顔も見えない…、けどお互いの声は 聞こえるだろ。」 「…だだだから、何だっていうのよ…」 「で、で、伝書バトを、おおお送っただろ…。きききっと、ラダトーム国まで飛んでいって、 きゅ、きゅ、救援部隊が、かけつけてくれる…。ラ、ラダトーム国だぞ…あああああそこの兵は 強力な、せ、せ、精鋭部隊が、いっぱい…」 「そ、そ、その前に、あたしたち、しし死ぬんじゃないかしら…。」 「だ、だだだめだ。いいか、死ぬんじゃないぞ…。」 気休め程度の希望にすがり、二人は暗闇の中で声を震わせながら恐怖に怯え、 寒さに震え、疲労感に襲われ、それでも話し続ける。すでに町は全滅したであろう、生き残っているのは エルとリンの二人だけかもしれない。住人たちは全て怪物たちに駆除されたのだ。 「ね、ね、ねぇエル…。ささささっき言ってた、例のヤツらって…」 「あ、あ、あぁ。きききっと、あれが噂に聞いた、竜王ってやつの、ちょ、ちょ、ちょくちょく 直属の部下、ブカ、ぶか、つつつまりバケモノたちだと、おおお思う。」 「う、う、うぅぅ…。し、し、信じられないわ…!あ、あた、あた、あたしの目の前で、子供も 女性も、老人も、あああっという間に、間に、間に…!!」 「よ、よせよ…。もう言うな…!」
「あた、あたし、人が、人が、人が殺される瞬間って、初めて見たの…!だ、だ、だってだって…! 首が首が飛んだ男の人が…!」 「や、やめろ!」 「くくく首が飛んだ瞬間って、ま、ま、まだ少し、ものが言えるなんて、なんて、なんて…!」 「やめ、やめろっつってんだろ…!」 二人はヒクつきながら、お互いをののしり合う。リンのまぶたは腫れあがり眼球が充血している。 恐ろしくて泣き出しそうなのか、それともアリに噛まれたためか。いつの間にか兄のエルまで、 今にも泣き出しそうな表情だ。いい大人が二人とも、まるで幼い子供のように半べそをかきながら、 歯をガタガタ震わせて恐怖している。 「あ、あ、あたしの目の前で、男の人の、首が、首が飛んだのよ…!!そ、それなのに、それなのに 地面に落ちた首が、首が、あた、あた、あたしのほうを見て…!」 「う、う、うるさいぞリン!!だだ黙れ!もう言うな!」 「エル!!聞いて!そ、そ、その人、なんて言ったと思う!くく首をはねられて、人生最期の言葉が ししし信じられないセリフだったのよ…!」 「いいいいいい、いい加減にしろ!!そ、そ、そんなくだらない話なんか…!」 エルとリンは、この井戸へ避難するまでの間に、よほど信じられない恐怖を体験したのだろう。 何しろ目の前で大殺戮が起こったのだ。今自分たちがこうしてまだ生きているのが、奇跡といってもいい。 リンの話によると、自分の目の前で魔物に首をはねられた男が、首だけになったのに、死ぬ直前に 一言だけ口をきいたのが、何とも恐ろしくてトラウマになったようだ。
「そ、それだけじゃないわ…!ま、ま、町のみんなが、みんな、みんな、耳から噴水のように出血して、 ま、ま、まっすぐ歩けなくなって…!」 「わわわわかってる!音にやられて鼓膜が破れたんだろ!三半規管を失うと、ま、ま、まともに 歩けなくなるんだ…。」 「ままままるで、障害者になったように、何をしゃべっているのか、わわわわからなかったのよ…!」 「みみ耳をやられたんだ!しゃ、しゃべれなくなって、当然だろ…!っていうか、そそそそんなこと どうでもいいだろ!み、みんな死んだんだぞ!ユキノフさんだって殺されたに違いない…!」 「ユ、ユ、ユキノフさんって、あんな人だとは、おおお思わなかったわ!じじ自分の子供よりも 高価な鎧を持って、ひひひ一人だけで逃げ出したのよ!!かかか家族を置いて…!」 「い、い、いや、どうせもう、しし死んでるさ…。」 「うぅぅ…!ど、どうしてこんなことに…!」 「な、な、泣くな…。い、今はじっとしてるしかない…。」 町の住人たちが殺された光景、今でも鮮明に記憶している彼ら。一生忘れられない光景が まぶたに焼きついたというよりも、脳髄に刻まれた悪夢と言ったほうが近いだろう。 「あぁぁ…どどどうでもいいけど…す、す、座りたい…。足が疲れて、も、もうだめ…。」 「リ、リン。お、お、俺に寄りかかれ…。すすす少しは楽だろ…。」 「あ、あ、ありがと…。つつ疲れてきたら、こ、交代するわ…。」 少し落ち着いてきた二人だが、地上の町で大殺戮が開始されてから、すでに12時間が経過している。 話し続けてきた二人だが、それとは裏腹に、魔物たちによって陥落した町は、ついに第二段階へ 入ろうとしていた。
「い、痛いわ…!あ、あ、足がすごくしみる…!ちょちょっと…!ここここの水…おかしいわよ!」 「ま、ま、まずい…!地下水が酸性を帯びてき始めたんだ…!リン!あ、あ、あまり動くな!」 「いやあああ!!あ、あ、あ、足が溶けちゃうわああああ!」 「お、お、落ち着けリン…!ちょ、ちょっと魔法で明かりを灯してくれないか…。」 「う、うん…」 リンは指先に魔法を集中し、レミーラの呪文を念じてみた。するとごくわずかな明かりが 足元を照らしだす。しかし、自分たちがどういう状態になっているのか、正直いって 見なければ良かったかもしれない。 「うおあああ!!い、いつの間にこんなに出血してる…!」 「きゃああああ!!こ、こ、これ、何??どどどどどういうことなの?!」 エルとリンの足は、皮膚がボロぞうきんのようにただれ、足から出血したせいで水が真っ赤に 染まっていた。履いていたブーツはとっくに溶けてしまい、なんと足の指は肉が削げ落ち 骨が丸見えの状態だった。すでに感覚が無くなっていたために、今まで気づかなかったのだ。 「いやあああああああああ!!」 「落ち着け!おい!明かりを消すな!も、もう一度魔法で照らしてみてくれ…!キズの具合を…!」 「いやあああ!いやよ!!いや!絶対にいや!うぅぅ…!い、い、今のって骨でしょ…!し、し、 信じられない…!あ、あたしたちの足の指が…!足の指がぁぁぁあああ…!!」 水の中にうごめいていた無数のミミズが、身が破裂したようにドロドロに溶け、次々に 浮かび上がってくる。これは特に、魔物によって滅ぼされた町や村に多く見られる現象であり、 魔物の瘴気によって大気や水分が変質し、井戸の水や土に含まれる水分、これらが全て濃度の 高い酸性に変わっていく。ひどいときには剣や鎧のような金属さえも溶けていくほどだ。 言い換えると、硫酸の中に素足を入れるようなもの。これがいわゆる毒の沼地だ。
「もうダメだわあああああああ!!イヤよ!あたしこんな死に方したくない…!少しずつ身体が 溶けていくなんてーーー!」 「お、おい待て!ちょちょちょっとこれ…!」 「な、何よ…。え?えぇ??」 暗闇でもそれは確認できたようだ。なんとさらに水のかさが増えてきている。 ヒザまでつかっていたはずの水が、腰のほうまで水位が上がってきていたのだ。 このままだと身体すべてが溶けるのは、時間の問題のようだ。 「いやあああああ!!た、た、助けてーーーー!」 「ま、ま、待て!落ち着け!落ち着けリン!」 「いやよ…!し、し、死にたくないーーーー!!」 「だ、黙れっつってんのがわからないのか!!おい!おいリン!聞け!」 バシィッ! エルはリンの頬を強く叩くと、泣きながらリンはようやく静かになった。 しかしまだ半狂乱の状態だ。水位はさらにどんどん上がってきている。 「うぅぅ…。」 「い、いいかリン!時間がない!おおお落ち着いて聞くんだ。み、水のかさが増えてきたってことは ど、ど、どういうことだと思う?」 「し、し、死ぬってことでしょ…!これじゃ溺死じゃなくてガイコツになって死ぬんだわ…! あ、あたしたちの標本ができるのよ…!」 「違う!!そ、そ、そうじゃない!川から水が逆流してきているんだ!」 「……え?」
「お、お、俺も、今まで気づかなかった…。こ、この古い井戸の地下水脈は、きっと、かかか川に 通じているんだ…!だ、だから…」 「ま、まままさか、ここをもぐっていけって言うの?!じょじょじょ冗談じゃないわ!硫酸の水を 泳いで脱出するっていうの?!」 「リ、リン!早くしないと確実に二人とも死ぬ…!も、もうそれしか方法はない!」 「や、やだ!ちょ、ちょっとエル!水が上半身まで上がってきたわ…!痛みも感じてきた…!」 水位は彼らの胸まで上がってきている。泡と一緒に音を立ててタンパク質が溶けていくのが 感じられる。鼻を刺すような匂い、間違いなく身体が溶けている。 「いやあああ!!」 「俺の手を離すな!い、いいか!一気に潜って泳いでいくぞ…!」 「そ、そんな…!怖いわ…!あ、あたしそんなにうまく泳げ…!」 混乱してうまく立ち泳ぎできないうちに、ついに水位は洞窟の天井まで届きそうなほどに 上がってしまった。わずかに空間が残っている水面に顔を出し、二人は息も整える暇もなく 心の準備もままならない。 o . 。 o 。 o o 。 o o . . 。 o 。 。 。 。 「エ、エルーーーーー!!あ、あ、あ、ブフッ!…ゲフッ!ゴボゴボ…!も、もう口にまで水が…ガボッ!」 「リ、リン…!ゴボッ!み、水を飲むな…!ブボッ!お、大きく息を…ガフッ!す、吸い込め…!」 「いやああああああ!!ゴボッ…!し、死にたくない…!ゲコッ…!ぶっ…!」 o . . 。 o 。 o
o . . 。 o 。 o o 。 。 。 o 。 身体が溶け始めている状態で、果たして泳いでいけるだろうか。そもそも息が続くのか。 水脈から川までの距離は?真っ暗の中をどうやって泳いでいくのか?目を開けていられるのか? 誤って水を飲んでしまったら、身体はどういうことに? o . . 。 o . . 。 o 。 o 考える余地もなく、水位は完全に天井まで届き、硫酸の水族館が完成してしまった。 o . . 。 o 。 o o 。 o 。 。 。 o o 。 。 o . 。 o 。 o o o 「ゴボッ…ゴボボッ…!」 o 。 o o 。 o . 。 o 。 o o . . 。 o 。 o o 。 。 。 o o 。 。 . . 。 「ガブッ…!ゴボゴボ…」 o . o . . 。 o 。 o . 。 o 。 o o 。 o . . 。 o 。 o o 。 。 。 o o 。 。 o . . 。 o 。 o o 。 。 。 o 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
∧ _^-| ,ヘ _ _ __ / /^ \∧ヘ ヘ ヘ /,− 二/ / /^ _ .| ̄ニ、 ̄ // ̄ /| /^ \\|ニ| |ニニノ / |\ _ , ヘ \ \| | / /| (ヽ ヘ } ,_ゝ >_ / < } \ヽ__、―-(_. ゚-´^゜´-― ⌒) しばらくそのままお待ちください  ̄\「/ >―-`―-)/ , `-ヘ_-―vv-w´ / / ヽ/  ̄\\z⌒ヽ,、 / \ / \\z~ y  ̄\| ̄  ̄\| ヽ 二/
新中さんまだご存命だったんですね……ヨカッタヨカッタ。
21 :
代行者 :2005/10/13(木) 00:04:01 ID:YkaXlFZu
ドムドーラ PAGE2 それから32時間後――――――― リン「……シュー……シュー……」 リン「……フシュー……フシュー……」 ここはどこなのだろうか。リンは目も開けられず、口もきけず、身体も動かず、呼吸も苦しく、 何とか息をするだけで精一杯だ。自分はまだ酸の中なのだろうか。けど息はできるということは、 少なくとも水の中ではないだろう。 リン「……シュー……シュー……」 兄のエルは…エルはどこに?彼は無事なのだろうか。自分たちは、あれからどうやって今まで…。 それともここは天国なのか?しかし身体中が痛み、指一本動かそうとするだけでも激痛が走る。 痛みを感じるということは、死んではいないらしい。ではいったい、ここはどこなのか。 リン「……シュー……シュー……」 目は開けられないが、どうやら耳は聞こえるようだ。そばで誰かが何か話している…。 女性の声のようだ。きれいな声で、どことなく上品さを感じる…。 「お父様、お父様…」 「何だ、どうしたローラ。」
「その…。あまり聞きたくなかったのですが、先ほど訓練所で兵士たちがコソコソ話しているのが 聞こえてしまって…」 「今さら隠すようなこともない、お前が気にせんでもいい。」 「はい…。ではお聞きします、ドムドーラの町を襲ったのは、まさか…」 「あぁ、竜王の配下の連中に間違いない。」 「…では、いよいよ戦争ですの?」 「……うむ。」 リン「……シュー……シュー……」 「我がラダトーム国も、もう黙ってはおれんぞ。これ以上竜王の好きにはさせん。」 「お父様…」 「こんなこともあろうかと、すでに勇者の派遣は済ませてある。部下の報告によると、彼はまだ 少年だそうだが、伝説の英雄・ロトの血を受け継ぐ子孫らしい。」 「まぁ…あの有名な?」 「ウム、期待通りだといいが…。」 「それで…陥落したドムドーラの町は、どうなさるおつもり?」 「あの町はもう忘れろ…。近寄っただけですさまじい瘴気を感じる、そんへんの魔物など 比べ物にならんバケモノの棲家になっておるらしい。」 「そうですか…。」 「これは一種の大災害だ、町の住人たちには気の毒だったが、運が悪かったとするしかない…。」 リン「……シュー……シュー……」
リンは静かに二人の話を聞き、ここがどこなのか、少しずつ理解し始めた。 何やら戦争だの勇者だの、物騒な話だが、実際に町が襲われてからようやく国が動き出すとは…。 そんなに強い勇者がいるなら、なぜもっと早くから手を打たない? ドムドーラの町が今どうなっていようと、陥落させたまま放っておくつもりなのか? 大災害という言葉で片付けるのか?犠牲者への弔いは? リンは口がきけない状態でも、二人の話を聞いていると次第にイライラしてきた。 「ただ一つ気がかりなのは……例の鎧のことだな。」 「何ですの?鎧とは。」 「うむ、あの町の武器屋には伝説の鎧を預けておってな。それが無事であれば良いのだが…。 なにぶん高価な品ゆえ、決して売らぬよう武器屋の主人にクギを刺しておいたが…、ともかく 魔物の手によって奪われないことを願う。」 「なるほど、その鎧が勇者さまの手に渡ることを、竜王は恐れたのですね。」 「だろうな。そうでなければ、あんな二束三文にもならん町を襲わせるわけがない…。だが無論のこと 鎧だけが目的で襲ったわけではない。ヤツの宣戦布告による、みせしめとしての意味もあろう。」
24 :
代行者 :2005/10/13(木) 00:08:24 ID:YkaXlFZu
「怖いですわ…。このラダトーム国にも、伝説の剣が保管されています。まさかいずれこの国にも…」 「あぁ、来るかもしれんな。だがローラ、安心しろ。我が国が誇る精鋭部隊の守りは万全だ。 魔物たちにはロトの剣はおろか、お前にも指一本触れさせはせん…。」 「はい…」 「とにかく今は鎧だ、鎧のほうが心配でならん。あの英雄ロトが装備していたという伝説の鎧だけは 無事であってほしい…。」 リン「……シュー……シュー……」 このような状況で、被害者よりも高価な鎧が気になる国王。何とも腹立たしいかぎりだ。 私が今、口をきければ一言いってやりたい。あなたは人命よりも鎧のほうが大事なんですか、と。 ……待って、鎧?…鎧…鎧…。どうしてかしら、何か気になるわ…。何だか誰かがそれを 持っていたような……。誰だっけ……思い出せない。っていうか、そんなことどうでもいいわ。 「お父様、私あの男の人の容態を見てきますわ。ここをよろしくお願いします。」 「そうか、じゃあ頼むぞ。何しろ彼は、こっちの女性よりもひどいキズだからな。」 リン「……シュー……シュー……」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして翌日の午後――――――― リン「う…うぅ…」 ローラ「まぁ、気がつかれましたのね。」 リン「あ…う…」 ローラ「無理にしゃべらなくて結構ですわ、ゆっくりお休みください。」 意識はすでにあったのだ、リンは単にしゃべれなかっただけ。 ようやく目も開けられるようになり、リンはベッドに寝たまま辺りをうかがう。 そしてそこはもう井戸の洞窟の中ではないことを再確認し、清潔なシーツのベッドも認識した。 ローラ「お父様、お父様、彼女意識を取り戻しましたわ。」 王「ふむ…、ではあまり刺激せんようにな。まだ錯乱しておるかもしれん。」 ローラ「はい。」 身体中に包帯が巻かれ、顔にまで包帯が巻かれている。露出しているところは目と鼻と口だけで、 リンはまるでミイラのような状態だ。目の前には美しい女性が立っている。 おそらく自分を看病してくれた、あの美しい声の女性に違いない。 リン「た、た、助けていただいて、あり、あり、ありが…」 ローラ「しーっ。お静かに。お礼の言葉は身体が良くなってからに…。」 王「お嬢さん、そなたはドムドーラ付近の川に流されていたところを、部下の兵士たちが発見した。 この国の城下町に伝書バトが一羽飛んできおってな。調べにやったら川に……いや、すまん。 町のことはお気の毒だった。ともかく無事でなにより。今は安静にすることが先決だぞ…。」
そばには王族の衣を纏った中年の男がおり、看病をしてくれた女性は、その娘らしい。ということは この女性は王女なのだろう。そしてこの中年の男が国王…。よくよく辺りを見ると、この部屋には 高価な絵画や骨董品などが目に付く。やはり思ったとおりだった、ここはリンのような労働階級の 者には、およそ場違いな場所、王族の寝室だったのだ。 ローラ「よくご無事で生還しました、主に感謝しなければなりませんね。…申し遅れました、 私はローラといいます。こちらが私の父の国王…」 ローラは上品に挨拶し自己紹介するが、リンはそれどころではなかった。 リン「あ、あの、ひ、ひ、一つだけ、教えてくだ…くだ…。わ、私の、兄…兄は…どこに…。」 無理に話すなと言われようと、リンは必死にしゃべろうとする。それに対し美しい王女は 少し言いにくそうに下を向いたが、小さく微笑みながら答える。 ローラ「あなたと一緒に川に流れてきた男の人ですね?…ご安心を、彼も命だけは無事で…。」 リン「お、お、お願い…お願いします…。ど、ど、どうか、ひとめだけでも、会わせ…会わせ…」 ローラ「えぇ、ですが今はまだ…」 リン「おね、おね、お願いします…。」 王女は困った様子で王のほうを振り返る。その様子を見た国王は、仕方ないといった表情で 王女に向かって小さくうなずいた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ラダトーム城 衛生室にて――――― 車椅子でリンを運び、兄のエルに会わせてやろうとする王女。 王女は静かにリンの車椅子を押してやり、兄のエルが寝ているベッドの前までやってきた。 そこには見るも無残な、変わり果てたエルの姿があった。 リン「エ、エル…!」 ローラ「ごめんなさい、有能な僧侶に魔法治療をさせたので、何とか命だけはとりとめたのですが…」 リン「エ…エル、あたしよ…。リンよ…。」 エル「……ウ…ア…アァ…」 エルの身体は両足が無くなり、目も見えなく、舌も溶けてしゃべることができなくなっていた。 耳はかすかに聞こえるため、リンの声を聞いて必死に何かを言おうとする。 リン「うぅぅ……エル……」 エル「…ア…ウゥ…」 ローラ「彼の両足は腐食が進行しすぎて、切断せざるを得ませんでしたの…。それに酸を飲みすぎて 内臓のただれ具合も…。舌はすっかり溶けてしまいましたが、自発的に呼吸はできるように させましたわ。食事は自分では無理なので、今まで私が食べさせてきましたが…。」
ミイラのように全身包帯だらけのエルとリン。エルはベッドから必死に手を差し伸べようとする。 それを車椅子から身を乗り出し、エルの手をしっかりと握るリン。 顔の包帯の間から、リンの目から涙がにじみ出ている。だがそれは悲しみの涙ではなく、無事に 再会できたことの、うれし涙だった。 リン「エル……よかった…本当に無事でよかったわ…。」 エル「ア……アゥゥ…」 ローラ「………」 美しい王女は、その兄妹愛が不思議に思えて仕方なかった。こんなに変わり果てた兄を見て、 悲観するどころか、全く悲しみもせず心から再会を喜んでいたからだ。 逆に王女のほうが気を使って、今まで二人を会わさずにいたのだ。まさかこんなに喜ぶとは 思いもよらなかった。そして王女は思った。この兄妹は、それほどまでに生きていることの喜びを 感じるほど、とてつもない恐怖を体験したのか…と。 幼いころから何一つ不自由せずに生きてきた王女だが、一般世間の冷め切った人生観ぐらいは知っている。 ドムドーラの住人なら、おそらくこの二人は労働階級だろう。それに対して自分は王族の身分。 この身分の差は天地の違いがある。王女はますます分からなくなった。 貧しい暮らしをすれば、この兄妹のように生命の尊さが学べるとでもいうのか。 なぜ悲しんだりしないのか、なぜ自分たちの町を滅ぼした魔物に、怒りを感じないのか。 少しでも戦おうとしたのだろうか、少しでも抵抗しようとは思わなかったのか。 王女はついに、思い切って彼ら兄妹に聞いてみることにした。
ローラ「あの…」 リン「…え?」 ローラ「無礼を承知でお許しください。差し支えなければ、あなた方のお話を伺えればと思います。 もちろん無理にとは申しません…。」 リン「……」 実は王女には、前もって国王からの命令を受けていた。‘彼らが目を覚ましたら、任意尋問を 受けさせろ。例の鎧はどこにあるか、魔物の手に渡っていないか、鎧について何か知っていることは 全て聞き出せ’…と。 しかし王女には、そういった尋問には慣れていないし、被害者に対してそういう質問は、あまりにも 酷だと思った。だから王女はあえて、その日何があったのか、ということだけを聞くことにした。 ローラ「いったい何があったのでしょうか…。いえ、ドムドーラの事件は知っております。 しかし今後、このような惨劇を繰り返さないためにも、少しでも参考になればと…。 よろしければ事の詳細を、お話うかがえないでしょうか。……こうして出会えたのも 命が助かったのも、何かの縁でございましょう。あなた方も、何かを話せば少しは 気が楽になるかと…。」 リン「……」 その質問に対し、リンはじっと王女を見つめているだけ。彼女は顔中に包帯を巻いているため、 どういう表情で王女を見つめているのか分からない。にらんでいるのか、怒っているのか。 空気を読んだ王女は、はっと我に返った。
30 :
代行者 :2005/10/13(木) 00:17:11 ID:V2MYoMRh
ローラ「……ご、ごめんなさい。私などが首を突っ込む話ではないですよね…。大変失礼なことを 申し訳ありません。」 リン「……わかりました、王女様…。」 ローラ「えっ…?」 リン「こんな話を聞いたところで、何かの参考になどならないと思いますが……あなたがそう おっしゃるのなら、お話しましょう…。私も少しずつ、あの日のことを思い出してきたので…。」 あの地獄の恐怖を話す気になったのだろうか、リンは承知したようだ。まさか話してもらえるとは 思ってもみなかった王女は、少しとまどった様子だ。 どのみちリンたちは王女らに命を救ってもらっている、そのお礼代わりだろうか。 リン「王女様、あなたのお聞きになりたいことは分かっています…。私たちのような被害者の 体験談などではなく、本当は鎧のことが知りたいのでしょう?」 ローラ「え…。あ、そ、そんなことは…」 リン「いいんです、あなたと国王様の会話は全て聞いていました…。でも私たちは、あなた方に命を 救っていただいています。できるうる限り、協力に応じなければなりませんね…。」 ローラ「……」 全てお見通しだったのかと、王女は恥ずかしく思い、少し肩身がせまくなってしまった。 だがこれも国王の命令、彼女の話を聞かずにはならない。 やがてリンは車椅子にもたれながら一息つき、エルの手を握ったまま静かに口を開き始めた。
リンたちの目撃した情報だけだが、結論から言うと例の鎧は、ユキノフという名の武器屋の主人が 持っていたとのこと。だが彼は鎧を持って、一人だけでどこかへ逃げていってしまったという。生死は不明。 しかしリンたちにとっては、そんなことは関係のないこと。問題はあのバケモノたちだ。 あの町に降臨してきた魔物の総数は不明だが、その中で大きく分けて四種族の魔物に分別された。 それらには正式名称があっただろうが、魔物の知識を知らないリンのような一般人は、彼らのことを 次のように俗称した。 「桃色の怪鳥」「黄色い獣人」「大地を叫ぶ四本足」「杖をかかげる者」 この四種族の魔物が同時刻に突然現れ、町を一瞬にして地獄へ変えたという。どのようにして 彼らは現れたのか、どのようにして住人たちは消されたのか。リンたちが古井戸に身を隠すまで どのような恐怖を味わったのか。リンは静かに、体験を語った。 …しかし結局、王女はリンの話を最後まで聞くことはできず、お嬢様育ちの王女は口にハンカチを 当てながら席を立ち、昼に食べた最高級のフォアグラを、残らずゲロとしてトイレにぶちまけた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
_ _ ,-―-(⌒、\_//⌒)-―-、 / > _ _ < / ヽ / ! ヽ_・X・_/ .! V ヽ (⌒V | ( ,´▽`、 ) | ,―、 > `ー、 / `i(_,vーv、_)i´ ヽ _/ -´- 、 ( ), ( )/ヽ- ´ヽ.|,、,、,| / /ヽ( )_ >-´ 深夜レイトショー、レディースディ、 ( )´ , ヘ ヾニニ/ /l `( ) 学生割引もあるよ。 < ヽ_二二(○)二二/ヽ / \_ _ ,< ( イ  ̄ ̄ ̄ ̄\_ \ [二二] [ 二二] <___> | | / ⌒\  ̄ ̄ ̄ ̄
プロットの目の付け所といい内容といい小ネタといい、あいかーらずさすがっすね。 でもなんでギャルゲー型の文体から卒業しないのかイマイチわからない……。
_ / ヽ _ / \ /__ヽ _ / l⌒ー-一⌒i ヽ ヽ二ノ \\∩ __{ ヽ⊂・X・⊃/ }___| | ⊂二 l i´ 人_ `ー- ―´_ノ | |`i ⊂ -, 二l⌒l⌒| Т  ̄ | ,-| |―-、 私は観ない 私は買わない ι´ | | ` / /, ( ̄ } | | | 、 / / i_( } | | | \__/ / |(__}、 | | ヽ / / || | | .| \ -― ´ / |.| |/ | \ / / | | / >――- _/ (_| |´ / | |、 < ___ ____ |_| >  ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ドムドーラ PAGE3 ドムドーラの町 日の角度 やや東より。夕方前の市場にて――――― エルとリンの兄妹はあの日、いつもと変わらない町で、いつものように仕事に追われていた。 すでに説明済みだが、この二人は労働階級の身分。奴隷の一つ上の位。兄のエルはカジノの 賭博産業の組合幹部。妹のリンは夜間に働くストリッパー。あまり人に堂々と言える職業ではない。 幼いころに両親が蒸発してしまった兄妹だが、それでもドムドーラの町で、平和に暮らしていた。 エル「おいリン、今日の客はお偉いさんが多いらしい。あんま化粧を濃くするなよ。」 リン「なによそれ、感じ悪い言い方ね。」 エル「だってよ…、お前べつにカオ悪くないんだからさ、ケバケバしくするとかえって変なんだよ。 それじゃまるで娼婦だぞ。」 リン「失礼ね、誰が娼婦よ。あんただって、うさんくさいダフ屋みたいじゃん。」 エル「うるせーな、ほっとけ。」 エルは幼い頃から剣のすじが良く、一時は王国の騎士団にまで推薦されるほどだった。 だがその自由奔放な性格から、カジノに手を出してギャンブラーとして生計を立てるようになり、 出世の道から外れに外れまくって、落ちるところまで落ちた。今では借金の取り立てもするようになり、 金が返せない客からは、平気で家財道具を差し押さえる始末。 妹のリンも似たようなもので、初めて身を売ったのは13歳のころ。それまで教会に身をゆだね シスターとして身の振り方が決まっていたが、流行の服を欲しさに売春し、それが神父にバレて 教会を追い出された。それ以来、身を売るようなことはしなかったが、更生の道は残されておらず 夜間のカジノステージで、ストリッパーとして働くようになり現在に至る。
エル「あぁそうだリン、今日は俺、晩飯いらないから。これからすぐ仕事に行かなきゃならないんだ。」 リン「そう、わかったわ。また借金の取立て?」 エル「あぁ、今日中に三人もしぼり取らないとならないんだ。」 リン「あんまり乱暴しないでよね、いくら仕事とはいえ…。」 エル「仕方ないだろ、こっちは仕事なんだ。カジノで遊びまくって借金を作るほうが悪いんだ。」 夕方前の市場通り、エルとリンにとっては仕事前の日常茶飯事の会話。「それら」がやってくる 前触れはあったが、人々はさほど気にかけず、これから起きようとしている大惨事など とても想像がつかなかっただろう。今日も町はにぎわい、誰しもがいざ殺戮が開始されるまで 目の前の現実にしか興味がなかった。 主人「らっしゃいらっしゃい、果物が安いよ。全て三割引だよ!」 主婦「あら、今日は安いのね。じゃあリンゴ一袋いただこうかしら。」 主人「まいど!」 住人A「おい、なんかやけに寒くないか?」 住人B「そうだな、今日はいつになく冷え込むな。まだ夏も終わってないってのに。」 子供「ねーママ、お空を見て。なんか曇ってきたよ。」 母親「あら大変、洗濯物を干したままだったわ。急いで帰りましょ。」
町の上空にだけ雷雲が取り囲み、風は身体を突き刺すように冷たい。 空気中に静電気がおびただしく発生し、金物にさわっただけで脳天にまで響く。明らかに 自然現象とは違う。多少の知識がある者であれば、この時点で異様な気配を察知できる。 リン「さてと、あたしもそろそろお買い物して仕事に…あら?」 少年「号外号外!号外だよー!あの竜王がついに宣戦布告!号外だよー!」 リン「坊や、一部ちょうだい。」 少年「まいどー、5ゴールドです。」 世界の情報を知るには、新聞やポスターなどの紙媒体を見るしかない。 近い将来、戦争が起こるなどと記事に書かれていても、まったく実感は沸かないし 遠くの土地に君臨している魔物のボスなど、自分らにとっては無関係のように思えた。 リンは新聞売りの少年から一部買い、飛ばし読みしながら自分の読みたい記事だけを探した。 リン「…えーと、なになに…‘世界制覇をもくろむ竜王、ついに宣戦布告…。数十万を超える モンスターを率いて…’…アホらし、勝手にやってなさいよね。労働階級のあたしたちには 関係ないわ。どうせ国が動くでしょ。」 第一面の世界情勢の記事には全く興味を示さないリン。彼女はそんなことよりも、第六面の 小さく載っている店の広告が目当てだった。
リン「えーと、こんなつまらない記事よりも……あ!あったわ!メルキドの都市情報! アクセサリーショップ…アクセサリーショップ…。やだ!これ超かわいい!欲しいなー。 え?なによこれ!半額セールは今日でお終い?ふざけんじゃないわよ!」 どこの世界でも、一般人が興味を示すエリアはたかがしれている。このような光景は 誰でも目新しくなく、当然の反応であり、当然の日常風景だ。だからこそ、いきなり大地震が 起こったときの恐怖感は倍増するものであり、それまで平和だったのが嘘のように感じられる。 リン「あ!いけない。こんなことしてられないわ。早く仕事に…」 ――――ッバシュウウゥ!! リン「きゃああ!」 そのとき突然、空気中の静電気が発火し、激しい音を立てて爆発した。大災害の幕開けは近い。 リン「な、なによ今の……」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一方こちらは ドムドーラの武器屋にて―――― ユキノフ「いらっしゃい、今日は何のご用で?」 客「やぁユキノフさん、実はうちにある武器を全て売りたいんだが…。」 ユキノフ「おや、こりゃまたどうして?」 客「はっはっは、武器なんか持っていても実際あまり使わんのでな。どうせ戦争など他でやるだろうし、 わしらのような労働階級の人種には必要ない。」 ユキノフ「いやぁー、そうかもしれませんな。しかし私にとってはメシの食い上げですよ。」 客「ははは、それはいえる。」 武器屋にて談笑する主人と客、そこへエルがおもむろに店へ入ってきた。 主人のユキノフはエルの姿を見るなり、急に顔色が変わる。 エル「よぅユキノフさん、景気はどうだい。」 ユキノフ「ギクッ…!」 エル「相変わらずいい店だな。あんたのような、毎晩カジノに入り浸ってる人の店とは 到底思えない。何か新しい武器でも手に入ったかい?」 ユキノフ「ゴホン…。あ、あの、今日はもう店じまいです。どうぞお引取りを…」 客「な、なんだ急に…。わしの武器を買い取ってもらえるはずだろ…」 ユキノフ「も、申し訳ない。後日出直してくれ。さぁさぁ!」 客「お、おい!ちょっと…!」 バタン!
ユキノフは店から先ほどの客を追い出すと、残ったエルを気にしながら、震える手でタバコを 取り出し火をつける。平静を装っているのがバレバレだ。 ユキノフ「ゴ、ゴホン…。や、やぁエル。妹さん元気か?…あ、相変わらず、かわいい娘だよな…。 こないだのショーは見事だった…。あの子が投げたパンツは、私がキャッチして…」 エル「ほぅ、あんたやっぱり来てたのか。熱心なことで。」 ユキノフ「そ、そうとも!私はリンちゃんの一番のファンだぞ!彼女の下着は私のコレクションだ。 これで合計5点セットに…」 だが次の瞬間、エルは腰に差していた長刀を抜いた。 シャキン! ユキノフ「ひええええ!」 エル「あのな、俺は妹のパンツを熱く語りにここへ来たわけじゃねえんだ。下着の話をしたけりゃ 隣の家のおばさんと話せ。40過ぎのおばさんがいい年して、黒いランジェリーを履いている。」 ユキノフ「ちょ、ちょっと待ってくれエル!落ち着いて話し合おう!」 エル「俺がここへ来た理由を?」 ユキノフ「わ、わかってる!わかってるとも!来月に大きな取引があるんだ!確実に15万は入る! だ、だからもうちょっと待ってくれ…!金はきっと返す!」 エル「15万だと?寝ぼけるのもいい加減にしてほしいな、あんたの借金は23万にまで上がっている。 利子は15%の約束だ。」 ユキノフ「そ、そんなこと言ったって…!ないものはないんだ!」
エル「今日中に払えなければ、この店を差し押さえるしかないな。」 ユキノフ「そ、そんなムチャな…!た、たた頼むよ!あと一ヶ月!一ヶ月だけ待ってくれ!」 エル「おや?…そこにあるのは?」 借金を取り立てる中、エルはカウンターの奥に、隠してあるかのような高価な鎧を見つけた。 エル「おいユキノフさん、そりゃ何だ。」 ユキノフ「こ、これは…!その…」 エル「ずいぶん大事そうに隠してあるな。それは鎧か?ちょっと見せてみろ。」 ユキノフ「だ、だめだ!これは特別な材質で作られている鎧で…!」 エル「いいから見せろ、キズなんかつけたりしねーよ。」 ユキノフ「わ、わかったよ…。た、頼むから、これだけはそっと扱ってくれよ…。ラダトーム国王から じきじきに預かっている品なんだから…。」 ユキノフがカウンターの上に鎧を置くと、それはまぶしいほどの光り輝く鎧だった。 ダイヤモンドともサファイアとも違う、プラチナクラスの高価な鎧だった。 エル「すごいな…。こんな鎧は初めて見た、いったい何だこれは。」 ユキノフ「正式な銘柄は知らん…。でも国王によると‘光の鎧’と呼ばれるものらしいんだ…。 伝説の英雄・ロトが装備していたものらしくて、別名:ロトの鎧とも言われている…。」 エル「ふーん、本で読んだことはあるが、これがあの有名なロトがねぇ…。ま、いいだろう。 担保代わりとして充分だ。この鎧を押さえるぞ。」
ユキノフ「ま、まま待ってくれ!こ、これだけはだめだ!担保なんかにしたら、わたしゃ首が飛ぶ! 国王に知れたらとんでもないことに…!」 エル「あんたが金を返すまでの間だ。そもそもあんたが借金を返さないのが悪いんだろうが。」 エルは借金のカタに鎧を押さえることにして、持って帰ろうとする。それを必死に止めるユキノフ。 実はこの鎧は借金の返済どころか、小国が一つ買えるほどの価値を持っており、国宝級の 値打ちものだった。 ユキノフ「ま、待ってくれエル!そ、そうだ!こうしよう!うちの娘を担保代わりにする! まだ10歳なんだ!キズもの一切無し、正真正銘の生娘だ!ものすごい価格のはずだろ!」 エル「おいおい…」 ユキノフ「た、頼むよ…!その鎧だけはカンベンしてくれ!この通りだ!」 自分の娘を借金のカタに差し出そうとするユキノフ、土下座してまでそんなにこの鎧が大事なのか。 というよりも、すでに人間としても、父親としても失格であるこの男。 人のことを言える立場ではないが、エルは憐れみの目で、嘆願するユキノフをあきれて見下した。 この町ではこういう人種、人生観、社会秩序など、珍しくもない時代になっていた。 そんなときだろうか…。思えばこの町への、神からの天罰だったのか、あるいは悪魔がつけこんだのか。 第一の衝撃は突然、そして降臨もド派手であり、大災害の幕開けは、あまりにも唐突だった。
―――――――ッヴァシュウゥゥッ!!―――――――― エル「うわあああ!!」 ユキノフ「ひええええ!!な、なんだぁ……??」 店のすぐ外で、まるで稲妻が直撃したような爆音がした。 エルはただごとではないと思い、あわてて店の外へ出ようとドアを開けようとした。 しかし、ドアを開ける必要はなかった。 ―――ッドン!!―――ッズガァァーーーンン!! エル「うげっ…!!」 あっという間の第二波の爆裂とともに、ドアはおろか、店の半分が吹き飛んだ。 エルは店のカウンターまで吹き飛ばされ、カベに飾られてあった鎧や兜に激突。 爆裂音はすさまじく、今の衝撃で耳鳴りがし始める。 エル「あ…!くっ…!(キィィーーーーーーーーンン!!)」 ユキノフ「い、いったい…!いったい何が…!(キィィーーーーーーーーーンン!!)」
店はすでに屋根や窓が吹き飛び、外が丸見えの状態だ。ようやく外で何があったのか確認できる。 二回も大爆発が起こるなど、そこらのゴロツキが強盗でもやらかしたのか。 エルはよろめき歩きながら、外に目をやった。砂ケムリがもうもうと立ちこむ中、町のど真ん中に 何か大きなものが立っているように見える。それは大型馬車よりも大きく、ゾウ三頭ぶんも あろうかという大きさだ。少しずつケムリが晴れてきて、その全貌が現れた。それは誰もが 知っていて、誰もが見たことのない巨大な魔物だった。 「グ…グ…グガガ……!」 全長18m、体重7トン。鋭いキバとツメを持ち、全身に鋼鉄のウロコをまとったような巨大な竜。 重い体重を支える柱のような四本足は地を制し、背中に生える巨大な翼は空を制す。その怪物が 大きく呼吸をするたびに、緑色のウロコが上下に大きく逆立っていく。そして真っ黒に 塗りつぶされた瞳は、まるで獲物を捕らえる前のサメのようだ。 人はこれを「大地を叫ぶ四本足」と呼んだ。 エル「な…な…なんだこりゃぁぁ……!」 ユキノフ「うおおおおお!!す、すごいぞ!夢か?!こ、これ本物なのか?おいエル! 信じられるか!これってアレだろ!アレ!」
その竜の周り、半径10メートルほどが吹き飛ばされている。どうやら先ほどの爆発は、この竜の 仕業ではなく、竜が降臨しただけで周りの建物が吹き飛んだらしい。 一回目の爆発は次元のゆがみ、二回目の爆発は瘴気が解放されたため。まだ竜は挨拶すらしていない。 だが自己紹介の必要は無し、まずは挨拶代わりに入る。 ゴゴゴゴゴゴゴ……!! エル「うわ!な、なんだ…!地震か…?!」 竜は静かに目を閉じ、何やら腹の底からエネルギーをためているかのようだ。近くにいたハトが いっせいに逃げ飛び、崩れ落ちかけている建物が揺れ、地震はまだ続く。こころなしか竜の身体が さらに大きく見える。四本足の血管が浮き出るほど、何かのエネルギーを全身にためている。 住人A「うほっ!すげーーー!!ドラゴンだ!本物のドラゴンだぞ!」 住人B「マジかよ!な、なんで?!これ本物?」 子供「わーい!かっこいー!」 エル「おい!!危ないぞ!近寄るな!」 ゴゴゴゴゴゴゴ……!! 野次馬はすでにたくさん集まっている。人は怖いと感じながらも、どうしてもそれを見てみたいという 本能がある。本でしか知らないアイドルスターが降臨してきたのだ、誰でも夢中になってしまう。 おとぎ話を信じる子供はドラゴンにあこがれ、絵本の主人公のように友達になりたいと本気で思っている。 その友達とやらは只今、人間殺戮エネルギーチャージ中だ。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!! エル「や、やばい…!これ絶対ヤバイぞ!何だかわからないが、とてつないことおっぱじめる気だ!!」 ユキノフ「か、感動だ!!この町に住んでて良かったーーーー!本物のドラゴンを見れたんだぞ! 女房にも見せてやりたい!」 エル「おいユキノフさん!はしゃいでる場合じゃない!逃げるんだ!」 ゴゴゴゴゴゴゴ……!! 竜の瞳が大きくカッと見開くと、地震もピタッと止まった。どうやら完全に瘴気は集まり、 竜は臨戦態勢の構えに入る。もうこうなってしまっては避難のしようがない。 50匹以上もいたハトたちは、世界の果てまで逃げていったようだ。近くにいるのは人間たちだけ。 竜は最後の一呼吸に入る。先ほどまで黒々としていた竜の目は、膜がかかったように白目をむいている。 攻撃の瞬間はもう目前だ。 「ォオオッ――――――カァァァ……!(ビシ!…ビリビリ!バリ!)」 エル「だ、だめだ!もう間に合わない…!ユキノフさん来い!」 ユキノフ「ちょ、ちょっと何をするんだエル…!」 エルはユキノフを無理やりひっぱり、崩れかかった建物の背後に身を隠した。
ユキノフ「ま、待ってくれエル!最後にもうちょっとだけ見たい…!」 エル「馬鹿野郎!早く伏せろおっさん!!」 ドタン! ユキノフ「あいた…!」 ドムドーラの町、日の角度:夕刻前、その攻撃はついに開始された。 ―――――ッヴァリバリバリバリ!!! エル「うおっ…!やばい来るぞ!伏せろ!耳をふさげ!」 ユキノフ「うひゃああ!」 「大地を叫ぶ四本足」は全身を震わせ、音速を超える、おぞましい雄叫びを上げた。 「―――――――――――――――――――――ッッッ!!」 住人A「え?」 住人B「?」 子供「あれ?」 何が起こったのか、まるで時が止まったように無音の世界に変わり、まったく音もなく いっせいに建物が半径150メートル吹き飛んだ。
―――――――――「オェッ…(ブボッ!)」――――――ッッッ!! ―――――――――「……ほ、ほゲ!(ブッ!)」――――――ッッッ!! ―――――――――「(ブシューー!)……あ、あれ?」――――――ッッッ!! 近くにいた全ての住人の耳から赤い噴水が噴出する。鼻から赤い牛乳が洪水のように流れ出る。 毛細血管が破裂する、三半規管が引き千切れる、あばら骨にヒビが入る、胃袋がひっくり返る。 住人A「な、ほほげ…ろ、ろうなっているんら…」 住人B「は、はなからチちちチが…」 子供「わはーい、ろらごんのこふげひ…」 まっすぐ歩けなくなるどころか、その場に立っていることもできなくなった住人たち。 そして次の瞬間に「音」が遅れて、はね返ってくる。 「―――――ッゥウオオオーーーーォォアアアアアアアガァァァーーーーー!!」 エル「うわあああああ!!(キィーーーン!)」 ユキノフ「ひええええええ!!(キィーーーン!)」 ―――――ッズガシャァァーーーンン!! 熱核爆発でも起こったのか、わけがわからなかった。身を伏せて耳をふさいでも、それは この世の音とは思えない衝撃だった。しかし、今のは「大地を叫ぶ四本足」の挨拶代わり。 次は実演に入る。今度は目を疑うような衝撃的な光景が、エルの瞳を通して写し出された。
エル「こ、こ、これは……いいい、いったい何の冗談だ…!」 逃げることができなくなった住人に、竜は口から灼熱の炎の弾丸をぶちかます。 「オオアァァッ!!――――(キィン!)」 住人C「ほ…ほぇばぁぁぁぁああああ!!ひ、ひいい!」 ――――ッズバァ!! 住人D「ああああああ…!あふえええ!ほがああああ!」 ――――ッギカォ!! 子供「ふぇえええん!!ママ、ママママママ!!ままぁほげ!」 ――――ッバシュゥ!! 住人H「けきゃああああああ!!ほ、ほげがぐがでひいいいいいい!!」 ――――ッズダァン!! 炎の弾丸が住人に当たると、瞬間的に肉が蒸発し、骨格が裸状態で見えたかと思うと 一瞬にして粉々になっていく。まるで魔界のマグマを竜の口からマシンガンで連発しているようだ。 人種を選ばず次々に殺戮が続けられ、害虫駆除が展開されている。 エル「ちょ…ま…!まてよおま…!」 ユキノフ「う、うひゃああああああ!!い、いやだぁぁぁーーーー!」
この光景を、周りの崩れかけている建物の窓から見ている住人たちもいる。恐ろしくて家から 出られないようだ。それに気づいた竜は炎を吐きながら、身体を大きく半回転させて、遠心力で 長い尾を振り回す。なんとシッポを振り回しただけで、二階建ての家が数件も崩壊した。 「ウォォオアアアッ――――!!」 ―――ッズガァァン!!バガン!ドガンドガンッ!! エル「……!!」 もうエルは言葉も出なくなっている。なぜなら吹き飛ばされた家から、裸の男がバスタブと一緒に 上空30メートルも空中に放り出された瞬間を見てしまったから。どうやら入浴中だったようだ。 裸の男は2ブロック先の地上に落下、鉄の柵に串刺しとなった。 エル「う、うぅぅ…!」 竜の攻撃はなおも続く。逃げ遅れた住人を炎で消滅させたかと思えば、今度は走って逃げようとする 数人の男女を一口でくわえた。 住人J「う、うわあああああ!!」 住人O「や、やめやめ…!やめ…!」 住人I「きゃあああああ!!」 50年前のマンガの世界のような笑える光景が、今この場で起きている。怪物の口に数人の人間が くわえられているのだ。エルは目をそむけたくても、怖くて目も動かせなかった。 次の展開は読めているが、実際この目で見るのは初めてだし、というかこれは夢としか思えない。
エル「おい…おい…!ちょっと待てよ…!」 ――――ッゴキャ!! エル「……!!」 それは光景が目に焼きついたというより、音が気持ち悪かった。やわらかいものと硬いものが一緒に 切りつぶされるような音だった。竜の口から上半身と下半身が二つに分かれた肉片が、ドサドサと 地面に落ちる。地面に落ちた下半身は、まだ足がピクピク動いている。 エル「じょ、じょじょじょ冗談じゃないぞ…!!何がどうなってんだ…!」 ユキノフはすでにどこかへ逃げていってしまったようだ。エルもたまらず、ようやくその場から逃げ出す。 だが恐怖と混乱のため、走っていても足がフワフワする感じだ。 まるで夢の中で‘自分は思い切り走っているのに、そのスピードはまるで遅い’といった感じに思えた。 エルが走る中、逃げ遅れた住人がまだ消されていく。竜はついに走っているエルに気づいた。 エル「(や、ややややばい…!見てる!こっちを見てる…!)」 後ろを振り返りながら走るエル。一方、竜の視線は走るエルにピタリと焦点を合わせている。 これは間違いなく追いかけてくる。いや、仮に追ってきたところで、あの巨体で追いついてこれるか? 意外に走るのは遅いかもしれない。その四本足で何ができるというのだ。よし大丈夫だ、ヤツは ついてこれない。このまま一気に市場通りまで走って逃げるぞ。 エル「(よ、よし…!来るなよ…!)」
だが次の瞬間、なんと竜は四本の足を使い、猛スピードで追いかけてきた。 ―――――ッドン!! エル「うわああああああああ!!く、来るなぁぁああああ!!」 ライオンはウサギ一匹を捕らえるのに、全力を尽くすというのは本当のことだったのか。 たかが人間一人を追いかけてくるのに、全身全霊を込めて追いかけてくる。まったく手加減なしだ。 せまい道を走り抜けるエルだが、後ろから全長18メートルの竜が、周りの建物をぶち壊しながら エルめがけて追いかけてくる。 ――――ッドダン!バガン!バガン!ズガン!ドガン! エル「うあああああああああ!!」 追いつかれる、これは確実に追いつかれる。ヤツはすぐ後ろまで来ている。そのバカでかい 大口から炎を吐き、きっと自分は骨まで残らず消されてしまう。この目でさっき見た、瞬間的に 肉が蒸発して消された住人のように。 「ウォォオオアアッ!!(キィィン!)」 トカゲのように走る竜の、口の中が真っ赤に光っていく。まずい、やはりさっきの殺戮兵器がくる。 よけるか何かしないと、このままでは確実に消される。どうすればいい。 エル「だ、だめだ…!もうだめだ!…うわっ!」 ズザザザーーー!
エルは小石につまずき、地面に滑り込むようにして倒れてしまった。だがこれが幸いして 倒れたエルは走ってくる竜の股の間をすりぬけ、竜はそのままエルを追い越してしまった。 ドドドドドドド…!! エル「…!」 勢いあまった竜は前方にあった時計塔に激突、間一髪で危機を逃れられた。 ――――ッズガァァーーーン! エル「…(し、しめた!)」 ゴゴゴゴ……! エル「え?」 だが破壊された時計塔が、エルのほうに向かって倒れようとしている。 エル「な…な…な…!うわあああああ!!」 あわてて身を起こし、とっさに横っ飛びでかわすエル。 時計塔はエルのそばを、すさまじい音とともに崩れ落ちた。 ―――――――ッガシャァァーーーーンン!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドムドーラ PAGE4 ドムドーラ 市場通りにて――――― リン「何かしら…すごい音が聞こえたわね。」 座長「リン、こんなとこにおったのか。ずいぶん捜したぞ。」 リン「あ、やば…」 座長「出勤時間はとうに過ぎておるぞ、今夜のショーを忘れたわけではあるまい。」 リン「はーいはいはい、座長さん。すぐに行きますってば。」 エルのいる雑貨通りから離れたブロック、ここ市場通りでは、まだ大災害の巻き添えには なっていないらしい。遠くのほうで爆発音が何回か聞こえただけ。リンは少し気になったが、 まだバケモノたちの存在に気づいてない。 リン「ねぇ座長さん、さっきものすごい音が聞こえなかった?」 座長「あぁ、そういえば雑貨通りのほうから聞こえたな。何か事故でもあったんだろう。 さぁほら、グズグズせんと会場へ行くぞ。衣装やら化粧の準備もあるだろう。」 リン「はーい。」 座長に連れられ、カジノのストリップ劇場へ向かおうとするリン、するとそのとき、数人の若者たちが ドヤドヤと騒ぎながら通りを走っていく。 住人M「いやマジだって!ほんとに見たって言ってたんだよ!」 住人U「ウソだろ?もしかして、さっきのすげー音がそうなのか?」 住人T「早く見に行こうぜ!まだそのへんにいるかもしんねーよ!」
何このオナニースレ('A`)
何かを見物しに急ごうとする住人たち。それは怖いもの見たさというよりも、まるで大スターが 町にやってきたかのような慌てぶりである。まるでサインでももらいに行くかのようだ。 その大スターは今、この数ブロック先の時計塔を破壊したところなのだ。 リン「ど、どうしたのかしら。さっきから町の様子がおかしいわ。」 座長「なぁに、どうせ馬車が横転でもして、その事故を見たがる野次馬連中さ。」 リン「馬車が横転したくらいで、あんなすごい音がするかしら…」 座長「さぁリン、会場へ急ごう。」 リンを急がせる座長。いま町はとんでもないことになっていることも知らずに、その足取りは いつもと変わらない。彼らもまた、悠長に自分たちだけの現実しか見ていない。 さらに歩き続ける二人だが、第二の降臨はすでに終了していた。これよりリンは、その恐怖のどん底へ 突き落とされる。 ―――――(ピシ!!) リン「え?」 座長「うん?」 リン「……座長さん、今おならした?」 座長「バカ言うな、わしじゃないぞ。だいたい今のは屁の音か?」 リン「そうね、ごめんなさい。」 ―――――(ピシ!ピシ!)――――ッザン!! リン「……ちょっと、ふざけるのやめてください。」 座長「ふざけテなどイないぞ。なんダ今のザン!って音ハ?」 リン「…座長さん?」
二回目の音が聞こえたとき、空中にピンク色の鳥の羽が舞う。二人はまだ第二の魔物の存在に 気づいてない。いや、存在どころか、すでに攻撃は終わった。 座長「マったく今日はヘンなことばカり起こるNOO。一杯ヤリたい気分だワい。」 リン「……」 座長「ほへ?ナんデスか。このピンクの羽ハ?」 リン「あ、あの…。座長さん声ちょっとおかしくない?な、なんなのそのしゃべり方…」 座長「へははは。そんなコとはナカろう。しかしキれイなピンク羽だ……」 おかしいのは一目瞭然。座長の口調は明らかに不自然だ。リンは少し怖くなり、場をなごませるつもりで 冗談まじりに座長の肩をポンと押した。……だが、これがいけなかった。 リン「もぅー!さっきから変ですよ。座長さんったら。」 ポン! それは軽く押しただけ、軽く座長の肩をはたいただけ。よく女の子が照れ隠しに使う叩き方だ。 しかしその軽い衝撃で、座長の頭部が首からずれていく…。 リン「え……」 ヌルっとすべるようなずれ方だった。首の断面図がスローモーションでチラっと見えてしまった。 切断された気管や食道が、まだ活動しているようにも見えた。出血もなく、なめらかに座長の首が スローモーションで地面に落ちる……。 リン「ちょ……」
ボトン 座長の首はすでに、目にも止まらぬ速さで斬られていたのだ。地面に落ちた首は軽く転がり、 リンの足元で止まる。ちなみに座長の胴体はまだ歩き続けている。 リン「あ……あ……あ……」 そして地面で止まった座長の首は、リンのほうをギョロッと見て、自分が死んだことにも まだ気づかずに、リンのスカートの下から、信じられない最期のセリフを吐いた。 座長「あ、こコにもピンクが…」 リン「い、い、い、いやああああああああああ!!!」 最期のセリフを終えた首はもう意識がない、不気味な笑みで固まったまま目が人形のように死んでいる。 歩き続けていた胴体も、ゆっくりと地に倒れこむ。いったい何が起きたのか分からず、リンのヒザは ガクガク震え、その場に立っていることさえ困難になった。 リン「あふ…あふ…あふ…!」 今にも失禁しそうな状態で、リンは辺りをキョロキョロとうかがう。いったい誰が?どこから? どうやって?しかし辺りには誰もいない。小さな小鳥が一羽、チュンチュンと飛び回るだけだ。 リンはそばにあった大木にもたれながら、その場から逃げることもできずに、ついに足がもつれて 地面に倒れこんだ。……だがこの瞬間、真空の刃がリンの頭上を突き抜ける。 ――――――――ッキィン!! リン「え……」
空間まで切り裂かれたような金属音が聞こえ、リンの後ろの大木がゆっくりと倒れる。 ……ッドスゥゥンン! リン「い…いや…いや…!あぁぁぁ…!」 もし座り込まなかったら?座長のように首が飛んでいたのか?ということは、今度は自分が 狙われている?けど辺りにはだれもいない、小さな小鳥がさっきから飛んでいるだけ。 え?小鳥…?小鳥…小鳥……まさかこの小鳥が…。 リン「ハァ、ハァ、ハァ…!」 心臓が今にも大爆発しそうだ。リンは息づかいも荒くなり、小鳥から目が離せなくなった。 美しいピンク色の羽をバタつかせ、つぶらな瞳をした愛らしい小鳥から、目が離せなくなった。 しびれを切らしたように、小鳥はついにその正体を自ら現す。 ――――ッヴァン! リン「ひぃぃっ…!」
まるで手品師が箱から美女を取り出すような演出で、辺りにピンク色の羽が飛び交う。 美しいほど恐ろしい登場だったが、決してこいつはふざけているわけじゃない。偶然とはいえ たった今リンが真空の刃をよけたことに、ムカッ腹が立っているのだ。 「クァァ…!」 全長1.5メートル、翼を広げれば2.5メートル。意外に小柄なモンスター。だがその性格は 冷酷・残忍で最悪。獲物を捕らえる最高降下速度は、時速250km。ハヤブサに次ぐスピードだ。 ピンク色の体毛を持ち、ハゲタカのような鳥類のモンスター、人はこれを「桃色の怪鳥」と呼んだ。 リン「あふ…!あふ…!」 桃色の怪鳥は、まだジッとリンを見つめたままだ。モンスターが人間を襲うときは、普通はこんなに もったいぶらない。武士道精神など生まれたときから持ち合わせていない。なのにまだリンを じっと見つめたままだ。よほど機嫌を損なったのか。 リン「(な、何なの…!ここここのバケモノは…!)」 しばらく沈黙が続いたが、向こうから数人の若者がフラフラとこっちへ走ってくる。 よかった、きっと彼らが助けてくれる。よくよく見ると、さっき通りを走っていた若者たちだ。 もう帰ってきたのかと思ったが、どうも様子がおかしい。 住人M「ほが…ほがほげ!はがぁぁぁぁああ!」 住人U「へへら、へはらほへひゃあああ!」 住人T「ほけは…ほがふげ!」 リン「…?!」
彼らは耳から大量に出血しており、鼻血を流しながら意味不明に叫んでいる。しかもまっすぐ 歩けない状態だ。リンはまだ知らないだろうが、この状態は先ほどの惨事を参考にすれば 理解できるだろう。 「クァァアア…!(キィィン!)」 そして桃色の怪鳥は、まるで‘目障りだ消えろ’とでも言いたげに、彼らに向かって虹の真空刃を放つ。 まさに一瞬、それは瞬間的な高速放出系とでも言おうか。七つの色のカマイタチが彼らを襲った。 ―――――ッカァ!!―――――ビシュ!―ザザザザザザン! リン「…!!(うげ!いやあぁっ…!)」 思わず悲鳴を上げそうになるのをこらえ、リンは逃げるなら今のうちしかないと判断した。 ダイコンを輪切りにしたような切り裂かれ様だ。数人の若者は悲鳴を上げる暇もなく、身体が 七つに分散した。こんなバカげた超必殺技があるだろうか。 リン「あぅ…!あふ…!あふ…!」 うまい具合に、バケモノ鳥は向こうを向いたままだ。切り裂いた死体をクチバシでつっつき、 無邪気に遊んでいるように見える。その間にリンは這いつくばって逃げようとする。立ち上がって 走って逃げなければならないのは分かっている。だが恐怖で腰が完全に抜けてしまった。 リン「うぐ…!えぐっひぐっ…!」
泣きべそをかきながら、今リンが考えていることはただ一つ。 ‘お願いだから、そのまま遊んでいてちょうだい。おなかがすいてるのなら、今パンくずでも 持ってきてあげるわ。あたしトリ肉は食べたことがないの、だから殺さないで!’ リン「あぐっ…ひぐっ…!」 頭の中も混乱して、何を考えてもいいか分からないようだ。意味不明な命乞いだ。輪切りになった 腕や足が、そこらじゅうに散乱している。這いつくばるリンの手や服に、血がべっとりとつく。 ついに桃色の怪鳥は振り返り、這いつくばっているリンを再びギロッと睨んだ。 リン「(きゃあああ!や、やだ…!た、たたたた助けて…!だ、誰か…!)」 再びリンは金縛りにあったように動けなくなる。ヘビに睨まれたカエル改め、鳥に睨まれた虫だ。 地に伏したまま動けなくなるリン。だが地獄に仏、そのとき奇跡が起こった。 リン「(あ!あれは…!)」 兵士A「よし!いたぞ!こっちだ!」 兵士B「よーし、まずあの鳥のバケモノからだ。」 兵士C「油断するな!チームワークで戦うぞ!」 なんという奇跡か。町の護衛兵士たちが駆けつけてくれたのだ。これだけの人数なら きっと何とかしてくれる。自分は助かった、助かったのだ。リンは心からそう思っていた。 兵士たちはいっせいに、桃色の怪鳥を取り囲む。
兵士A「バケモノめ!この町を貴様らのいいようにはさせんぞ!」 兵士B「訓練の成果を発揮するときがきたぜ!」 兵士C「俺たちドムドーラ兵士部隊の実力を、とくと味わ…」 ―――――ピシュゥン!――――ズザザザザザザンン!! 兵士A「はい?」 御託を並べる暇はなかったようだ。意気揚々と意気込んでいたが、所詮はレベルが違うというよりも 生態系そのものが違うのだ。兵士たちはあっという間に、鎧ごと輪切りになった。 ドサドサドサ! リン「ひ、ひぃ…!」 桃色の怪鳥は兵士たちを片付けると、今度は上を向いて奇声を発しはじめた。 「クワッ!クワッ!クワッ!」 すると空からいっせいに仲間の怪鳥が現れ、同じ種族のモンスターが何羽も集まりだした。 なんとリンの周りは、桃色の怪鳥たちの集会広場になってしまった。 リン「(う、あが…!ひ、ひぐっ…!)」 死体の血がたくさんついたリン、地に伏せたまま身動き一つできなくなってしまった。 周りでは鳥の会議が始まっている。どうやら桃色の怪鳥は、血だらけのリンを死体だと思っているようだ。 先ほどの攻撃で一緒に始末したと勘違いしている。おかげでリンは、まだこうして無事でいる。
*「キェーー!クワッ!クワッ!」 *「ギャアゥ!ゲゲゲ!」 *「クォー、クワクワ!」 リンの周りで騒ぐ怪鳥たち。いったい何をしゃべっているのか。仲間たちと何を会議しているのか。 まるで「お前はあっち、オレは向こう」「じゃあ俺は?」「お前はそのへんで遊んでろ」 「ひどいな、俺にも少しは仕事くれよ」「仕方ないな、じゃあ邪魔にならない程度にな」 と、仕事の分担をしているかのようだ。何が目的で町を襲っているのか分からないが、間違いなく 人間を狙っていることは確かだ。リンはそのときハッと我に返り、先ほどの新聞記事を思い出した。 たしか竜王の記事が第一面にデカデカと載っていた。世界情勢など、いつもはまるで興味がなく パラパラと飛ばし読みしてたのに…。まさかこれが噂に聞いた竜王の配下だというのか。 リン「(う、うぅ…!)」 一匹だけでも災害を起こせるモンスター、それが何十万という勢力を、あの竜王が率いているのか。 カリスマ的存在だとは聞いていたが、いったい竜王とは何者なのだ。 侵略者と大災害の恐怖を、ようやく実感し始めたリンだが、まだ目の前の現実が信じられない。 戦争なんて、自分とはまるで無関係の世界だと思っていたのに…。 *「クワクワッ!」 *「キェーーー!」 *「ギャオゥ!」 やがて桃色の怪鳥たちは、打ち合わせを終えたのか、さっそく仕事に取り掛かったようだ。 いっせいにリンのそばから飛び去っていく、方角は町の中心部だ。ひと暴れしに行ったのだろう。
ッバサ!バサバサバサバサ!! リン「……うぅ…!ひくっ…ひくっ…。」 鳥たちが去ったあとも、リンはしばらく起き上がることができなかった。 大殺戮が開始されてから、この時点でわずか25分。25分間でドムドーラの人口は三分の二に減少。 男も女も、子供も老人も、モンスターの目から見れば全て同じ。動くものは片っ端から消滅させていく。 リンはこの後、兄のエルと合流して例の古井戸へ避難するが、大災害はまだ続く…。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 _ ____ _/~ _、 ヽ ∩ ノ___) ((|/´(ノ- | ∩|| / __)__) / ̄ ―-、_>^二/ | |∩| } / __)__ ) ⌒ ― -、_;__/| | !~~⌒3 / ___ )__ ) し-――ノ/し ~c 3/ ___)__ ) ポップコーン、コーラ、その他の飲食物は / /c ヽ、,、c 3 ___)__ ) 売店でお求めください。 ι // ヽ、, 、 , 、,、/}_ )__ ) ´-´ { | __)__ ) { ̄`ヽ| | /ヽ | | /⌒i⌒i⌒ヽ } _ノ / /./二`―- ┴  ̄ ノ  ̄  ̄ ̄`ー-― ´
ドムドーラ PAGE5 ドムドーラ アミューズメントパーク カジノ前にて―――― エル「くそっ…!もう町のいたるところモンスターだらけだ!リンのやつ無事でいてくれればいいが…。 いったいどこにいるんだ…。」 時計塔が破壊され、からくも竜を振り切ってカジノ前まで逃げてきたエル。妹のリンを捜しに ストリップ劇場まで足を運んだが、どこにもいない。 エル「リン……無事でいてくれよ…。」 アミューズメントパークはすでに崩壊しており、カジノの巨大看板は崩れ落ちている。 スライムの形をかたどったモニュメントも、見るも無残に人を押しつぶしてころがっている。 ここはまるで地獄の町のようだ。30分前の平和な現実がウソのように思える。 エル「もしかしてあいつ、まだ市場通りにいるのかな…。」 ユキノフ「おーい!エルーーー!」 エル「ユキノフさん!」 先ほどまで一緒にいたユキノフがやってきた。彼はまだ鎧を大事そうにかかえている。 エル「まったく一人でさっさと逃げやがって!どこに行ってたんだ!」 ユキノフ「当たり前だろ!わたしゃまだ死にたくない!」
エル「なぁ、ところでリンのやつを見なかったか?」 ユキノフ「い、いや…ぜんぜん。」 エル「…おいあんた、そんな鎧にかまってる場合じゃないだろ。家族の人たちはどうしたんだ。」 ユキノフ「わ、わからない…。私はあれから家へ戻ってないんだ、きっとどこかに避難して…」 エル「バカ、すぐに戻れよ。奥さんや娘さんがいるんだろ。」 ユキノフ「じょ、冗談言うな!今あっちの道を通ってきたんだが、バケモノがウヨウヨいるんだ! もう自分の家まで帰れないんだよ!そ、そんなことより、この鎧をどこかに隠さねば…!」 エル「な…」 この期に及んで、ユキノフはまだ鎧を優先している。エルはもうあきれ果て、一緒にいるのも 嫌になった。……するとそのとき、一人の老人らしき人物が、杖をつきながらヨタヨタと歩いてきた。 ユキノフ「なぁエル!この先に井戸があるだろ!生き残っている人たちは、みんなそこに避難してる みたいなんだ!私らもそこへ行こう!なぁ!」 エル「ちょ、ちょっと待て…。あそこにじいさんがいるぞ。」 ユキノフ「え?」 その老人らしき人物は、頭までフードをかぶっているため、必ずしも老人という確証はなかった。 だが杖をついているところを見ると、どうやら老人であるらしい。フードをすっぽりかぶっているため 顔もよく見えない。なぜかフードの中から、目がうっすらと光っているようにも見える。 とにかくエルはフードの老人のそばへ駆け寄り、声をかけてみた。 エル「おい、じいさん。一人じゃ危ないぞ。家族の人たちはどうした。」 *「………」 エル「じいさん?」
フードの老人は何も答えようとしない。その様子をチラッとうかがうユキノフ。 するとユキノフは、その老人の持っている杖を見て、顔を真っ青にして怯えた。 ユキノフ「こ、ここここ、この杖は…!!」 エル「あん?なんか言ったか。ユキノフさん。」 ユキノフ「うひゃああああーーーーーー!!」 エル「お、おい待てよ…!どこへ行くんだ!」 またもや一人でさっさと逃げてしまったユキノフ。エルに一言も忠告せずに、フードの人物が 何者かも教えず逃げてしまった。それと同時に、フードの老人は持っている杖を天にかざす。 *「……(ビシ!ビシビシ!)」 エル「な…!(や、やばい…!そういうことか…!)」 雷雲のエネルギーを杖に溜め込み、火の精霊を宿す。エルは逃げることをあきらめ、すかさず 臨戦態勢をとろうとした。その間にフードの人物の杖は、すさまじい魔法力を帯び始めている。 フードつきの闇の装束を纏い、雷の杖を持つ魔法使い。人はこれを「杖をかかげる者」と呼んだ。 エル「(くっ…!だ、だめだ!すごい魔法力だ…!万に一つも勝ち目はない!)」 戦っても勝ち目はないと判断したエルは、剣を抜くことをやめ、ありったけの触媒を使って なんとマジックシールドの結界を12層も作った。 ボボゥ!――――ッズギャン!ビシ! ビシ!ビシ!ビシ!ビシ!ビシ!ビシ!ビシ!ビシ!ビシ!ビシ!
エルはポケットの中に持っていたトカゲのシッポを生贄にし、人工的に魔法を作り出した。 こういった触媒を使うことによって、魔法が使えない者でも、ある程度の呪文が可能になる。 非常用に持っていた極上のトカゲのシッポだったが、おかげでマジックシールドを12層も張れたようだ。 エル「(フン、どうやらこいつは魔法使い系のモンスターだな…。だがこれでお前の魔法は通じない。 この12層の結界は、ちょっとやそっとじゃ破れないぞ…。)」 *「………」 シールド張ったエルは、急に戦闘意欲がわいてきたようだ。いつまでも怯えていられない。 だがフードの魔法使いは、何の躊躇もなく杖から魔法を唱えようとしている。 *「……(ビシ!バリバリバリ!)」 エル「(こ、こいつバカか?!こっちはシールドを12層も張ってんだぞ…!)」 フードの魔法使いは少しも臆せず、杖から電流を帯びた火の玉を放った。 ――――ッヴィーーーン……ッバシュゥゥ!! エル「うわっ…!!」 たった一発でエルの結界は7層も破られた、残り5層。続いて第ニ撃目が来る。 *「……(ビシ!ビシビシ!)」 エル「なっ…(こ、こいつ…!たった一発で7層も…!っていうか、もうニ撃目かよ!)」
魔法使い系のモンスターは、相手がシールドを張ったぐらいで魔法をやめようとはしない。 相手がどうこようと、自分が最も得意とする戦法を最大限にぶつけるだけ。そのためにも魔法は 磨きに磨きが掛かっている。もちろん触媒など必要とせず、ケタ外れの魔力が備わっているのだ。 エル「(や、やばやば、やばい…!もう一発食らったら裸状態だ…!畜生!いったい何をどうすれば こんなアホみたいな魔法力が身につくんだ…!)」 *「……(バリバリバリ!)」 エル「(や、やられる…!)」 今から走って逃げても黒こげにされるだけ。絶体絶命の極限状態だ。エルはすぐさま舌を噛み、 激痛と現実を受け入れ、最後の賭けに出た。 エル「く、くそォォ!もうどうにでもしやがれ!(キン!)」 そして右足を大きく前に出し、剣の鞘に手を置き、大地に根を張ったように腰を深く落とすエル。 瞬間・居合い斬りの構えだ。こうなればヤツがシールドを破ったと同時に斬りつけるしかない。 失敗すれば黒こげ、成功してもヤツを倒せるとは限らない。運が良ければヤツを転ばせる程度。 そのスキをついて全速力で逃げる。ギャンブラーのエルだが、今回ばかりは全く自信がない。 100万分の1の確率を当てるのと同じ。 エル「………」 *「……(ギィィン!)」
ついに杖をかかげる者は、第二の攻撃を放つ。それと同時に、エルは全身の闘気を解放して 思い切り踏み込んで抜刀した。 ――――ッビシィィ!バリバリ!――――(シャキィン!) エル「………」 *「……?」 エルは相手のふところへ飛び込んだ瞬間に剣を抜き、斬りつけたと同時に剣を納刀。 互いに背を向け合ったまま、数秒ほどの静寂。そして… *「ゥォォォ…!」 エル「(や、やった…!)」 剣の道を捨ててから数年のブランクがあったが、むかし習得した奥義は見事に炸裂したようだ。 自分の目が信じられなかった。手ごたえはわずかだったが、賭けは大成功。フードの魔法使いは 下半身をグラつかせ、わずかによろめいた。逃げるなら今だ。エルは全速力で再び走り出す。 *「………」 フードの魔法使いはヒザをついて、その間にエルはその場から逃げ出すことに成功した。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
エル「(まぐれだ…!まぐれの攻撃が当たりやがった…!し、信じられない!)」 エル「(も、もうあの手は通用しないな…!追いかけてくる前に逃げるとこまで逃げる!)」 エルは完全に魔法使いを振り切り、町のオアシス広場の方角へ逃げていった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドムドーラ PAGE6 一方そのころ、ドムドーラ オアシス広場――――― 町の水源である井戸はいくつかあるが、ここオアシス広場では直径2メートル・深さ30メートルの 主水源が設置されていた。普段はここに行列を作って、大切な水を住人たちがそれぞれ汲むが、 今は水などに用はない。井戸の周りは列どころか、殺気のこもった戦場と化していた。 住人V「邪魔だどけ!俺が先に待ってたんだぞ!」 住人X「うるせえ!このさい順番もヘッタクレもねえ!」 住人T「きみたちは労働階級の身分じゃないか!私は中流階級だぞ!」 住人R「ウソつくな馬鹿野郎!そんな薄汚い服を着た中流階級がいるか!だいたい身分の問題じゃない!」 住人Z「待って!こういう場合は女性が先でしょ!男性は戦いにいくべきじゃないの!」 住人V「ほら出た!こういうときに限って女の特権をかざしやがって!普段は男女平等とか デケェ口たたいてるくせに!」 住人Z「なによ!あんた男のくせにビビッてバケモノと戦えないだけでしょ!子供やお年寄りだって いるのよ!弱い立場の者が先に避難して何が悪いの!」 住人V「黙れ!きれいごとぬかしてる場合じゃねえんだ!あんた、あのデカい竜を見なかったのか! 口から炎じゃなくて溶岩をぶちかましてるんだ!あんなのと戦いたかったらテメェが戦え!」 子供「うえーん、怖いよぅ…」 老人「みなのもの、ワシら年寄りのことはいい。それより幼い子供たちを先に井戸へ入れてくれんか。」 住人V「順番を待てと言ってんだよジイさん!!どいつもこいつも自分勝手なやつばかりだ!」
住人T「もうガマンできない!ロープを貸せ!私が先だ!」 住人V「お、おい何しやがる!まだ人が中で降りてるところなんだぞ!」 住人Z「やめなさいよ!そんなに大勢で…!ロープが切れるじゃないの!」 住人W「こうなりゃ早いもの勝ちだ!」 住人R「どけどけ!俺が先だ!」 魔物いないところでも戦争は始まっていた。井戸の周りで、たくさんの住人たちが必死になって ロープをつかもうとするこの光景は、まるで神話の「蜘蛛の糸」のようだった。 いざ大災害が起こると敵は魔物だけではなく、二次災害として住人たち同士の醜い争いも起こる。 こういう非常事態では当然ながら、人は協調性もなくなり、協力して力を合わせることなどしない。 中には殺しあったりする者もいる。それも当然のこと、自分の身が一番かわいいに決まってる。 リン「な、なによこれ…!何事なの?!」 ようやくリンがオアシス広場までやってきたようだ。あれから彼女は一人でなんとか逃げ切り オアシス広場までやってきたが、そこで見た光景は、人が人を踏みつけていく地獄絵図だった。 リン「エルは…エルはここにいないのかしら…。」 井戸の周りで争う住人の中から、兄のエルがいないか捜すリン。だが見当たらない。 もうよそへ行ってしまったのだろうか。万一のことを思って、エルと一緒にここの井戸へ避難しようかと 思っていたのだが、この有様ではどうしようもない。 するとそのとき、ユキノフがやってきた。まだ鎧をかかえたままウロウロしている。 ユキノフ「き、きみ!リンちゃんじゃないか!こんなとこにいたのか!」
リン「ユキノフさん!ねぇ、エルを見なかった?」 ユキノフ「あ、そ、そういえば…」 リン「いたのね?ねぇどこなの?どこで見たの?」 ユキノフ「い、いや…。私は見ていないよ、きっとどこかに避難したんだろう…。」 リン「いったいどこに…。あたし捜しに行くわ。」 ユキノフ「よせ!町はバケモノだらけだ!もうここの井戸へ避難するしかないぞ!」 リン「ダメよ、ほら見て。こんな様子じゃ…」 リンは井戸の周りを指差す。それを見たユキノフは、ガックリとヒザを落とした。 ユキノフ「な、なんと…。ここの井戸だけが頼りだったのに…」 リン「ユキノフさん、そんなことより家族の人たちは?」 ユキノフ「分からんよ…。家には戻ってないんだ。」 リン「えぇ?じゃあ奥さんと娘さんを置き去り?」 ユキノフ「し、仕方ないだろう。きっとどこかに避難しただろうさ…。」 リン「バカ!なに言ってんのよ!そんな高価そうな鎧だけ持って逃げるなんて…!」 どこもかしこも自分の身を優先する住人たち。逃げ場も避難場所も残っていない。 そしてそれを追い詰めるように、向こうから大柄なクマの団体がやってきた。 リン「ちょ…ちょっと…ちょっと…。何よあれ…もしかして救援部隊?] ユキノフ「え…」 救援部隊などではない。服を着てはいるが、その黄色いクマたちは獣の王者。 身長3メートルの巨漢たちにとっては、ゴリラが相手でも赤子をひねるようなもの。二本足で歩く そのクマたちは、生き残っている住人をシラミつぶしにやってきたのだ。ついに井戸へ 避難しようとしていた住人たちを追い詰めた。「黄色い獣人」とは、彼らのことを指す。
*「グルルル…」 *「ガァオ!」 *「ガルル…」 住人V「うああああ!来たああああ!!」 住人W「早く早く早く!井戸へ入れ!モタモタすんな!」 住人R「いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!死にたくないよォォォオオ!」 黄色い獣人は何も武器は持っていないが、特に必要なし。馬の胴体のようなぶっとい腕を振り回し、 住人たちを素手で殴りつける。 *「ウォアア!!」 住人V「うわあああああああ!」 ――――ッバガン!!(ビチャァ!) 住人W「はあああああ!!いやだいやだ!いやだあああああああ!」 ――――バガァン!!(ブシュ!) 住人Z「きゃあああああ!」 住人T「たたたたた助け…!助け…!」 子供「ふええああああん!ママ、ママ!ママ!」 ――――ッドガァン!バガン!ズガァン! 頭蓋骨が吹っ飛び、内臓が破裂し、腕や足が逆に曲がる。ボクシングの世界チャンピオンでも これを見れば小便を漏らす。井戸の周りで暴れる獣人たちは、まるでモグラたたきの 無制限たたき放題をプレイしてるかのようだ。
リン「も、もうやめて…!もうたくさんよ…!な、何なのよこいつらは…!」 ユキノフ「リ、リリリンちゃん…。こ、ここは危ない、はははは早く逃げ…」 恐ろしくて、また立ちすくんでしまったリン。そのとき後ろから、そっと声をかけてきた人物が… エル「おい、リン…」 リン「きゃああああ!」 エル「し、静かにしろ…!気づかれるだろ…。無事だったか?」 リン「エル…!よかった、あたしもう死んじゃったのかと…!」 ユキノフ「(げ、まずい…。エルのやつ無事だったのか…)」 すぐさまエルにしがみつくリン、泣きじゃくるリンをエルはなだめ、お互い無事だったことを 心から安心した。だが悠長にしていられない、すぐそこでは黄色い獣人たちの撲殺パーティーが 開催されている。すぐにここを逃げなくては。 エル「リン、ここの井戸はあきらめろ。すぐよそへ逃げないと。」 リン「うん…。でも、でも、もう町の外へは逃げられないわ!鳥のバケモノが町を包囲してるらしいのよ! ここの井戸だけが避難場所だったのに…!」 エル「井戸は他にもある、とにかく逃げよう。」 ユキノフ「待てエル、もう遅いぞ…。わたしゃ他の井戸を見てきたが、あの竜が井戸の中に炎を吐いて 大火事にしてる…。もう終わりなんだ!なにもかも…!」 エル「あんた、いい加減に鎧を捨てて家族を助けに行け!いい大人が泣いてる場合か!」 ユキノフ「ま、待ってくれ!この鎧をどこか、魔物に見つからない場所へ埋めてくれないか! こ、これだけは絶対に守らないとならない品なんだ…!」 エル「お前…ほんとにいい加減にしろよ…。」
リン「ユキノフさん!そんなに大事な鎧なら、自分で埋めてきなさいよ!けどその前に家族のことを 心配したらどうなの!」 エル「おいリン、もうよせ。ほっとくんだこんなやつ…」 ユキノフ「この鎧だけは…この鎧だけは…」 するとそのとき、一匹の黄色い獣人がこっちに気づいたようだ。 *「ガゥ…」 エル「ま、まずい!」 獣人はエルたちに気づいたわけではなく、ユキノフの持っている鎧に気づいたと言ったほうがいい。 仲間の獣人に手で合図を送り、まるで「おい、アレじゃないのか?例の鎧は」と話しているかのようだ。 暴れていたうちの二匹の黄色い獣人が、こっちへやってくる。 ユキノフ「うひゃああああああ!!た、たたたた助けーーーーーー!」 *「ウガァオオ!」 *「ガルル!」 すると奇妙なことに、獣人たちはエルのほうを無視して、逃げていくユキノフを 追いかけていってしまった。 エル「バカなやつだ…。あんな物を大事そうに持ってるからだ…。」 リン「エル…」 エル「わかってるよ、もう助けられない。俺たちだって早く逃げないと。」 リン「うん…」 エルはリンを連れ、再び雑貨通りへ戻っていった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドムドーラ PAGE7 ドムドーラ 雑貨通りにて―――――― リン「うぐっ…ひぐっ、えぐっ…」 エル「泣くな、避難さえすれば大丈夫だ。」 リン「どうして…どうしてこんなことに…!」 二人は辺りをうかがいながら、雑貨通りを走る。すでに住宅は崩壊され、どこの通りも 黒こげの死体や窓から飛び降り自殺した犠牲者だらけだ。町の活気は見る影もない。 リン「ねぇエル、ところでどこまで行くの…?」 エル「廃墟園だ。」 リン「廃墟園…、あんなとこにいたってどうせ…」 エル「わかってる、けど避難場所はそこしかない。それに…」 リン「なに?」 エル「俺に考えがある…。うまくいけばいいが…」 リン「あ!待ってエル…!」 エル「な、なんだよ。どうした。」 雑貨通りの途中で急に立ち止まるリン、そこは道具屋の前だった。だが無論その店も 崩壊しており、品物は道端に散乱している。
リン「ほら!見てエル!ここ道具屋よ!崩壊されちゃったけど道具屋の跡だわ!」 エル「だから何だよ!買い物なんかしてる場合か!急がないとバケモノに見つかるぞ!」 リン「バカ!キメラの翼よ!道具屋っていったらキメラの翼でしょ!」 エル「あ…、そ、そうか!」 空を飛行して移動できるアイテム・キメラの翼。道具屋といえば、たいていどこの店でも 売っている。エルはどうしてそれに気づかなかったんだと言わんばかりに、必死になって キメラの翼を探し始めた。それさえあれば、町をひとっ飛びで脱出することができるのだ。 エル「おい、リンも手伝ってくれ!俺はこの辺を探すからお前はあっちだ!」 リン「わかったわ!」 二人は瓦礫の中から必死にキメラの翼を探す。薬草やら毒消し草が散乱しているが、 なぜかキメラの翼だけはどこにもない。 エル「な、何だよ…!くそ!どこにもないぞ!」 リン「もっとよく探すのよ!きっと一品くらいはどこかに……きゃああ!」 エル「どうした!」 リンが驚いたのも無理はない、瓦礫の下から道具屋の店長の死体が出てきたのだ。 リン「いやぁ…!も、もうやめてよ…!」 エル「こ、これは…!」 死体を見るのはもうこれで何十回にもなったが、いくら見ても見慣れない。 だが恐ろしかったのは死体ではなく、その殺され方にあった。
エル「おい…おい…。これってまさか…」 リン「わ、わかってるわよ…!みなまで言わないで!考えたくないわ!」 エル「な、なんてことを…!」 その店長の死体は惨殺されていたわけではない。黒こげになっているわけでもない。 目玉が飛び出しているとか、内臓を喰い殺された云々ではないのだ。正直言って 惨殺死体のほうが安心しただろう。その店長は、なんと剣で胸を突き殺されていたのだ。 つまりモンスターにではなく、人間に殺されたという証拠。 その死体を見たとき、エルとリンは、なぜここにキメラの翼が一つも見当たらないのかを すぐに理解した。おそらく住人たちに強奪されたのだろう。店長を殺してまで…。 それは極限状況に置かれた人間の残酷さと、その本能を物語っている死体だった。 エル「……ひどい…。」 リン「う、うぐっ…!あぁぁ…!」 二人はこれまで、魔物が人をまるでゴキブリでも駆除するかのような殺戮を見てきたが、 今回の死体はそれ以上に胸が痛んだ。二人はこのとき、自分たちがどういう生き物なのか、 その本質を見てしまった気がした。 エル「リン…、さぁ行こう…。」 リン「うぅ…」 エル「キメラの翼はあきらめよう…。それよりも、ここにいたら危ない…。」 リン「うぐっ…えぐっ…。」 エル「さぁ…来るんだ。」
泣きじゃくるリンの手を引き、再び走り出す二人。 彼らはすでに、キメラの翼が無かったことに悲観してはいなかった。それ以上に 悲観するものを見てしまったし、どのみち次の瞬間、それら全てを吹き飛ばす 最悪の地獄絵図が彼らを待ち受けていた。 ――――ッダン! エル「うわっ…!」 リン「な、なによ…!今度は何よ!」 とつぜん空から何かが降ってきた。走っていたエルのそばの地面に激突したが、かなり 上空から降ってきたものらしい。 エル「な、なんだこりゃぁぁぁああ!!」 リン「…!!」 なんと落ちてきたのは、上半身だけの死体だ。背中にキメラの翼をしょっている。 エル「こ、こ、こりゃいったい…!」 リン「ちょちょっと!エル!危ない!まだ降ってくるわ!」 ――――ッダン! ダン!ダン!ダン! ボトン!ボトン!ボトン!ボトン! エル「うわあああああ!!」 リン「こ、これは…!」 腕や足、頭部、下半身、まるでダイコンを輪切りにしたような死体が‘部品’のように 降ってくる。リンには、この仕業が何者によるものなのか良く分かっている。
リン「エル!早く逃げるのよ!きっと上空に鳥のバケモノがいるのよ!」 エル「な、なんだって?!」 ダン!ダン!ダン! ボトンボトン! リン「急いで!見つからないうちに…!」 エル「あ、あぁ…!」 残酷さでは人間のほうが魔物より上かもしれないが、冷酷さでは魔物のほうが遥かに上だ。 つまり上空から降ってくるたくさんの‘部品’は、キメラの翼を強奪し、空から脱出を 試みようとした住人たちのもの。もはや地上も空も逃げ場はない。上空では今、 待ち受けていたように「桃色の怪鳥」が、空で住人たちを八つ裂きにしているわけだ。 エル「ち、畜生!次から次へと降ってきやがる…!」 ――――ッドダン! ボトン! ダン!ドタン!――――ッボトン!ボトン! エル「ちょっ…!な…な…!」 リン「走るのよ!!早く早く!」 まるで雨のように降ってくる部品、いったい何人の人間が空で八つ裂きにされているのか。 ボトン! ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン! エル「うああああああああ!!」 リン「いやあああああああああ!」
天は雷雲で漆黒に染まり、町は火災で赤く燃え上がり、地は土がこげ茶色のドロ状に、 そして空から雨の代わりに、人間の部品が降ってくる。 もはや町の終わりを告げる状況ではなく、この世の終末を絵に描いたような光景だった。 落ちてくる部品に怯えながら走る二人。ついにエルとリンは走りながら、鼻水をたらし 子供のように泣き出した。 エル「ぢぐじょおおおおおおおお!!どこばでやればぎがずむんだああああああああ!!」 リン「いやあああーーーーっあっあっあっあっ…!もうイヤああああああああ!!」 ボトン!ボトン! ボトン!ボトン!ボトン! ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン! ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン! ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン! ボトン!ボトン!ボトン! ボトン!ボトン!ボトン! ボトン!ボトン! ボトン!ボトン!ボトン! ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン! ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン!ボトン! いくら泣こうがわめこうが、どんなに命乞いしようが何をしようが、大災害の恐怖は 一向におさまらず、全てが無になるまで駆除が続けられる。 この町にいる魔物たちは、特に人間に恨みを持っているわけでもなく、怒りの感情もない。 淡々と計画的に、征服者の指示による仕事として作業を進めているだけ。 人間のように金で取引もできなければ、土下座しても意味は通じず、ましてや戦っても まるで歯が立たない相手だ。地獄の町をヨタヨタと走るエルとリン。その方角は ドムドーラの廃墟園と呼ばれる場所だが、彼ら自身の心も、廃墟寸前だった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドムドーラ PAGE8 ドムドーラの町外れ―――――廃墟園にて 廃墟園とは、このドムドーラの町に最初に住み着いた先住民たちが、最初に築き上げた 小さな町の中心部である。今では発展した中心部が移動したため、そこはすでに誰も住まない 土地となった。砂漠化が進み、木造の家もシロアリの餌場となってしまった廃墟園。 今では夜行性の肉食昆虫の棲みかとなってしまった。とりあえずこの辺りにはモンスターたちは いないようだ。 エル「ハァ…!ハァ…!ハァ…!」 リン「ハァ…!ハァ…!」 ようやく廃墟園までたどりついた二人、もう身も心もズタズタだった。 エル「リ…リン…。ハァ…ハァ…ハトだ…ハトを捕まえろ…」 リン「ハァ…ハァ…え…なに…?」 エル「ハトだよ…。聞こえただろ?ハトだ…」 リン「な、なんで…ハァ…ハァ…ハ、ハトなんか…」 エル「黙って言われたとおりにハトを捕まえろってんだよ!!」 リン「あぁ?!」 廃墟園に着くなり、わけもわからずハトを捕まえろと怒鳴るエル。何をしようというのか。 さっきまで泣きじゃくっていたエルだが、明らかに精神的に不安定になっている。 しかしそれはエルだけじゃない。
リン「だからなんでハトを捕まえるのかって聞いてんのよ!今そんなことしてる場合?!」 エル「脳みそ少しは働かせろ!伝書バトで救援を要請すんだよ!さっさとしろボケ!」 リン「ボ…、だったらあんたも手伝いなさいよ!なにさ!偉そうに!」 エル「わかってんよ!!」 廃墟園までやってきた二人だが、どうやらエルはハトを連絡係として使おうと考えていたらしい。 最初からそう言えばいいものを、感情的に落ち込んでいるせいか、二人の間の空気が悪くなる。 エル「おいリン!そっちはどうだ!捕まえられたか!」 リン「む、ムリよ…!みんな飛んでいっちゃうわ!」 エル「頑張れ!一羽だけでも捕まえられれば…!」 廃墟園に残っていたハトが何羽かいたが、当のハトたちも町を出ようと必死だ。 捕まえるのは容易ではない。 エル「…くそ!もうちょっと…!よし!捕まえたぞ!」 リン「ほんと?!」 *「クワーーー!クワ!クワ!」 やっとの思いで一羽だけハトを捕まえた。エルはすぐにSOSの手紙を書き、ハトの足に結びつける。 ‘SOS、こちらはドムドーラの町。全滅寸前。魔物の総数は不明、犠牲者多発、大至急救援を要する’ この内容を手紙にし、エルはハトを逃がしてやり、町の外まで飛んでいくのを見守った。
リン「…これで本当に助かるの?」 エル「わからない…。けどこの町に住んでいたハトは、人がいる場所をエサ場にしていたんだ。 きっと隣国のラダトームまで飛んでいってくれるさ…。」 リン「そうだといいけど…」 エル「さぁリン、ぐずぐずしてないで俺たちも避難するぞ。」 リン「だ、だからどこに…」 エルは次に茂みの中をさまよい、何かを探し始めた。 エル「この辺りにあったと思ったんだが……あった!ここだ!」 リン「汚いところね…。いったい何を探してたのよ。」 エル「古井戸だ、ここに避難するしかない。」 コケがびっしりと生え、虫がウジャウジャと沸いている古井戸。とても水を汲めるような井戸ではない。 それもそのはず、この古井戸はとっくの昔に閉鎖されたのだ。 リン「こ、これって何十年も前に閉鎖した古井戸でしょ?だ、だいじょうぶなの?」 エル「リン!ぜいたく言ってる場合か!早く入れ!」 リン「わ、わかったわよ…!入ればいいんでしょ!入れば!」 エル「気をつけろ、そこに落ちていた枝をたいまつ代わりに使う。これで明かりになる…。」 リン「いやああああ!!ちょ、ちょっとここヒルの巣になってるわよ!いやよ!こんなとこ!」 エル「地上に残って死にたいのか!文句言うな!早く降りろ!」 リン「わ、わかったわよ…!」 地下20メートルの古井戸、何とか下まで降りられたが、水は当然ドロ水と化している。 だがドロ水はドロ水といっても、一応は地下水。ヒザまでつかる水は、水温0℃に近い。
リン「きゃ!つ、冷た…!」 エル「うぅぅ…!こ、凍えそうな冷たさだな…。もっと奥へ行こう。どこか岩場でもあれば…」 リン「エ、エ、エル…!いやよあたし…!こ、こんなとこ…!」 古井戸は地下水脈が洞窟になっており、奥のほうまで続いている。天井にぶらさがっていたコウモリが 侵入者をこばみ、エルとリンの間を飛び回る。 リン「きゃああああ!いや!いや!」 エル「ち、ちくしょう!どこもかしこも生き物の避難所だ!」 さらに洞窟のカベからミミズが這い出て、肉食のアリが服の中に入り込む。 エル「うあああ!痛っ!こ、こいつ…!」 リン「いやあああ!もういやよ!こ、こんなとこ早く出るわ!」 エル「よせ!もうここしか避難する場所はないんだ!わかってるだろ!」 リン「ど、どうするのよ…!だってここの洞窟、もう行き止まりじゃないの!水からあがれないわ! ずっとこの状態で待つの?!冗談じゃないわよ!」 エル「うるさい!他にいい方法があったら教えろ!俺だって死にたくねえよ!」
リン「もうイヤ!どうしてあたしたちがこんな目に遭うのよ!何なのよあいつらは!あのバケモノは!」 エル「俺が知るか!俺に当たるな!もうブチ切れそうなんだよ俺は!!」 リン「あたしだってキレそうよ!っていうかもうキレてるわよ!」 エル「黙れ!文句ばっかりたれやがって!もうしゃべるな!ブッとばされたいのか!」 リン「なによ偉そうに!この甲斐性なしの落ちこぼれ剣士が!」 エル「なんだと!アバずれのくせに口だけは達者だな!その身体を使って今までいくら稼いだ!」 リン「な、何ですって…!言っていいことと悪いことがあるでしょ!今度あたしのことを アバずれって言ってごらんなさい!そのケツの穴にヒルを突っ込んでやるわ!」 エル「何度でも言ってやる!アバずれのストリッパーめ!」 リン「こ、この…!」 エル「おもしれえ!かかってこい!妹でもブン殴れば少しは気が晴れる!」 リン「もう許さないわ!!この腐れアニキが!」 ドタン! バシャバシャ! 二人はついに神経が耐えられなくなり、古井戸の地下水脈で取っ組み合う。この兄妹のやりとりは 無理もないだろう。お互いに八つ当たりし、売り言葉に買い言葉。挙句の果ては兄妹喧嘩。 だが当然だ、普通の人間であれば誰でも気が狂う。
エル「ハァ…ハァ…ハァ…」 リン「ハァ…ハァ…」 ケンカをするだけの体力も残っていない二人。争いはすぐに終わり、エルはリンに手を差し伸べた。 エル「わ、悪い…。ついカッとなって…」 リン「い、いいの…。あたしもどうかしてたわ…。」 エル「住人たちと同じようなことをしてしまったな…。ほんとに悪かった…もうケンカはやめよう。」 リン「そうね…。」 エルはリンの肩を抱き寄せ、ともかくこの果てしなき地獄が終わるのを、じっと待つことにした。 コウモリと共に、アリに噛まれ、ヒルに血を吸われ、冷たい水につかり、たいまつの明かりに頼り、 地上の大爆発に恐れ、怪物たちのうなり声に怯え、ただただ、それらが終わることを、祈ることにした。 リン「エル……あたしたち、いったいどうなるのかな…。」 エル「さぁ…わからない…。」 リン「こ、怖いわ…。ほんとに怖い…エル…。」 エル「あぁ、俺も怖いよ…。リン……」
地獄の狭間を垣間見た彼らだが、大災害はこのあとまだ続く。 侵略者の攻撃はまだ終わっていない。 征服者の仕掛けた大戦争は、この日を境に火蓋を切ったばかり。 力を持たない一般人は、逃げることしかできない。 人の死体を踏みつけてでも、避難するしか生き延びる手段はない。 大戦争の舞台に立つことができるのは、力を持った国と、力を持った勇者や戦士のみ。 ゴキブリのように必死で逃げる一般人は、その戦争の全貌を知ることさえできない。 戦争が終わったころに、ようやく新聞で知るぐらいだろう。 ある日とつぜん始まった大戦争は、ある日とつぜん終わる。 だがその災害に襲われた住人は、短いようで長い日々を過ごし、自分はどれだけ平和な日々を 送っていたか、ようやく気づくようになる。 生きていることへのありがたみを、生死の狭間で実感することになる。 人は誰だって死にたくはないし、誰でも生きている実感を、味わえるものでもない…。 ドムドーラ 完 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドムドーラ 登場人物 エル リン ユキノフ ローラ王女 ラダトーム国王 作:鬼畜兄貴 監修:aほ
乙彼 こんな面白い話の製作過程に関われて楽しかったで御座いました
>>aほ 今回はかなり助かった。ありあとう。うpするのもすげえ早かったし どうもおつかれさまでした
95 :
名前が無い@ただの名無しのようだ :2005/10/14(金) 18:58:42 ID:DM2Gllpg
上げ
sage
超面白かった。 こういう容赦ない写実がたまらない!
正直あまりおもしろくはなかった。 とくに最後あたりに理屈じみた解説が入るのが嫌
99 :
名前が無い@ただの名無しのようだ :
2005/10/18(火) 21:54:05 ID:A3a8q+4C 一般人視点でドラクエって書き方が面白かったな。 またなんか話作ってよ