宙を漂っていた時魔の視線が、その脚を爪先からさすり上げる。
視線を誘うように、だんだんと露になる肢体。
僅かな窓から挿し込む月光が、話術士の下半身を照らす。
そこにあるべき最後の薄布は、既に取り払われていた。
視線を釘付けにされ、息を呑む時魔。熱に浮かされた双つの瞳は、
まるで愛しいものそのもののように、迫り来る秘所を見つめ続けた。
「はやく、ねぇ、はやく・・・」
話術士は、涙目になった時魔の片脚を持ち上げた。
最早何の抵抗もなく、話術士は自らの秘所を時魔のそれに押し付けた。
くちゅり、と、どちらからとも無い湿った音。
「・・・ッ」
混ざり合った思考。その音を合図に、理性は弾け飛んだ。
・・・・・・・
「あ、あッ、あ、やぁぁ・・・」
半刻は過ぎただろうか。
互いの汗、涎、愛液にまみれながらも、飽きることなく続く営み。
秘所が持つ熱は同じはずなのに、ひとたび擦り合えばその熱は万倍にも感じられた。
更なる熱を求め腰を浮かせれば、己を貪ろうとするもうひとつの熱が叩きつけられる。
腰が離れる一瞬がもどかしく、粘質の糸が名残惜しく二人の間を伝う。
もう、何度達してしまったかなど分からない。
半ば麻痺した思考は、達した数を数えることも、この営みを終わらせることも忘れてしまっていた。
「あッ、ああッ、また・・・またくる!くるッ!」
「はぁ、はぁ・・・そう、またイクのね、いいわ・・・気をやってしまい、なさい。存分に、ね・・・」
おぼろげな思考ながらも、なおも言葉で責めを与え続ける話術士。
彼女もまた快感の渦に飲まれそうになっていたが、こうすることで自我を留めていられていた。
しかしそのとき、彼女に異変が起きた。淡く儚く彼女を取り巻く、光の輪。
「・・・ひるがえりて来たれ、幾重にもその身を刻め…」
息も絶え絶えな時魔の声を、しかし、彼女ははっきりと聞いた。
魔力を伴った言の葉によって紡がれた呪文は彼女をとらえ、その動きを速めさせた。
「え?・・・あ、あッ、あ、あ、あ、あ、あ、ああああッ」
話術士の表情に残っていた、余裕の最後のひとかけらはあっけなく崩れ、口からは涎がしどとに垂れる。
頬で、乳房で、それを受け止める時魔。その唇からは、うわごとのようにヘイストの呪文が紡がれ続ける。
「や、やめてッ・・・あッ、あああ、あ、あぁぁ」
これまでの強気が嘘のように、泣き声をあげ懇願する話術士。呪文の詠唱は止まず、質素な寝床が軋みを上げる。
加速を保たされたままの腰が、時魔の陰部を何度も何度もえぐり、飛沫が弾ける。
「ねぇさま、一緒に、一緒に・・・・ッ」
「あ、は、ふ・・・んっんっ・・・あ、あああああああああッ」
獣のような雌の叫びが、深夜の倉庫街に響き、消えていった。
息がまとまらない。身体は湯気を帯びている。
寝乱れた服もそのままに、話術士は肢体を寝床に投げ出し、ぐったりと体を横たえていた。
意識は朦朧とし、すぐには起き上がれそうにない。
こんなに燃えた相手は初めてだ。話術士は今夜の獲物に満足し、眠りの淵に落ちていった。
いや、落ちようとした。
再び自分を取り巻く、魔力の輪。
「心震え、失われた時間の輝石を 螺旋の相に還さん!クイック!」
自らの意思に反し、身体に活力が注ぎ込まれる。
覚醒を始めつつも未だはっきりとしない意識を巡らせ、ようやく重いまぶたを開ける。
そこには、この世のものとも思えぬ淫靡な笑みがあった。
「も、もうだめ・・・」
「なあに?ちゃんと言わなきゃわからないわよ?」
薄く淫らに開かれた時魔の唇からは、半刻前のオウム返し。
そしてその唇は、そのまま話術士の陰部に導かれていく。
くちゅり、と、どちらからとも無い湿った音。
「やだ・・・やめ、て・・・あッ・・・・あああーッ」
都市ドーターの夜はまだ、明けない・・・。
思いつきでやった。反省はしていない。
推敲もしていない。