【君を守るよ】ククール×ゼシカ 4【はいはい】

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782名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/05(木) 07:24:53 ID:e3j/ELQM0
あけまして保守
783『呼ぶ声』前編1/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 20:40:34 ID:GFUrmhz20
聖地ゴルドが崩壊した。結局オレたちは暗黒神の復活を止めることが出来なかったってわけだ。
まあ、起こってしまったことは仕方ない。まだ世界が滅びてしまったわけじゃない。出来ることがある限り、それに全力を注ぐだけだ。
空を飛ぶ手段は持ってるから、ラプソーンの城に攻め込むこと自体には苦労は無かった。これは不幸中の幸いと言ってしまって、いいんだろうか。
変なところでばかり事がスムーズに運んでる気がして、気に入らない気持ちの方が強いんだがな。
「こんな所に住んでるやつと戦うことになるとは、オレの人生もろくなもんじゃないな」
おもわずボヤいちまった。
「・・・弱気? めずらしいね」
ゼシカが不安げにオレの顔を覗き込んでくる。しまった、またやっちまった。オレの精神が不安定だと、ゼシカまで巻き込んで不安にさせるってのはわかってたのに。
それにしても、本当に随分オレに対する評価は上がったもんだ。弱気が珍しいとは、結構頼りがいがある男に思われてるらしい。
「ここまで来たら、つべこべ言っても仕方ないでがす」
でもヤンガスに諭されるのは、何かイヤだ。やっぱりグチなんてこぼすもんじゃないな。
「暗黒神を復活させたのは、それほどの失敗じゃなかったと思うでげすよ。復活した暗黒神を倒さなければ、いつまで経っても暗黒神の脅威から世界を救えないと思うんでげす」
続けてヤンガスが口にした言葉は、近ごろ感じていた苛立ちの答えを唐突にオレに突き付けてくれた。

・・・そういうことかよ。
このところ、ずっと感じてた。誰かの掌で良いように操られている自分ってやつを。どうやらそれは気のせいじゃないらしい。
おかしいとは思ってたんだ。血筋を絶やしちゃいけないはずの賢者の家系が、今の代になってほとんど子孫を残してないってことはな。
サーベルトやチェルスは若かったから仕方ないとしても、血の繋がった子供を残してるのはメディばあさんだけ。オディロ院長や法皇様に至っては聖職者なんて道を選んで、子孫なんて残せるはずもない。
初めから封印は続かないようになってたんだ。
暗黒神が復活してしまうことは、止められないように仕組まれてたとしか思えない。
784『呼ぶ声』前編2/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 20:41:39 ID:GFUrmhz20
こう見えても、人生の半分は修道院で暮らしてきたんだ。神様だって、それなりには信じてた。信心深かった人ほど俺に良くしてくれたからっていうのが、理由としてはデカかった。そういう人たちが信じてるものなら、オレも信じてみようって気持ちにはなった。
だけど、あの夜から神様なんてものは信じられなくなった。
『神の御心ならばいつでも死のう。だが神の御心に反することならば私は死なぬ。神の御加護が守るであろう』
そう言い切った人の命を神様は守ってなんてくれなかった。神に全てを捧げているという、あの人の言葉には嘘なんかなかったのに。
本当に神様なんてものがいるのなら、オディロ院長のことを助けてくれても良かったんじゃないかとしか思えなかった。それなのに院長はあんな殺され方をした。あの光景を見せられて、神なんて信じる気にはとてもなれなかった。
でも今は強烈に感じる。神っていうものの存在を。あの夜のオディロ院長の言葉の通りだった。あの人が殺されたのは、神の御心ってヤツだったってことだ。

この旅に出る前から、全ては始まってたんだ。
オレは元々、霊感の強い方じゃない。多少は魔物の気配を感じることは出来ても、それは訓練された僧侶としては平均的なものだ。
それなのに、エイトたちと出会ったあの一時期だけ、オレの邪悪な気配に対する感覚は異様に鋭くなってた。
修行したわけでも何でもない。突然に降って沸いたような感じだった。
だけど、そんな力は便利なようで不便なもんだ。
それまでは気にならなかった、あの辺りの魔物たちがどうしようもなく凶悪な存在に感じて、ちょっと道を歩くのにもピリピリしてた。
そのことで苛立ってたから、確かにそれまで以上に素行が悪くなってた。オレのことは無視したがっていたマルチェロでさえ、呼び付けて謹慎を言い渡さなきゃならない程にな。
そしてオレだけが気づくことが出来た。ドルマゲスの、いや、今にして思えば杖の放つ、とてつもなく邪悪な気配に。
なのに、オレのその感覚は全く役には立たなかった。日頃の行いが悪すぎて、誰もオレの訴えに耳を貸してはくれなかったからだ。おまけに謹慎なんか言い渡されてたもんだから、修道院の周りに見張りまで立てられて、外に出ることさえ出来なかった。
785『呼ぶ声』前編3/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 20:42:44 ID:GFUrmhz20
それでもあの夜、何とか院長の館にたどり着くことは出来たのに、ドルマゲスの野郎に指一本触れることが出来ずにぶっとばされて、オディロ院長を守れなかった。
与えられていたチャンスを活かせなかったんだと思って、自分が情けなくなった。
それならせめて敵討ちのために、ドルマゲスを見つける役に立てばと気持ちを入れ替えたのに、邪悪な気配を感じる力は日を追うごとに弱くなり、船を手に入れる頃には完全に元の自分に戻ってしまっていた。
せめてゼシカが杖を手にしてしまって呪われた時まで保っていられたら、気づいてやることが出来てたかもしれない。そうしたら、あんなひどい目に合わせずに済んでたのかもしれないのに・・・。

だけど、今なら確信できる。そうなったらマズかったんだ。
全ては仕組まれていた。オレたちは暗黒神の復活を止めるためじゃなく、復活した暗黒神を倒すために選ばれて、集められて、こうしてここにいる。
オレが出会って間もないエイトたちに、頼み事をしなきゃならなかったことも、こいつらがマルチェロに濡れ衣着せられてるのを、オレが助けなきゃならなかったことも、全部そのために必要なことだった。
そうでなければ、お互いに、こんなふうに一緒に戦うような気持ちにはならなかっただろうからな。自己紹介代わりに利用されたんだ。
道理でドルマゲスのことも最後まで憎みきれなかったわけだ。それどころか気の毒とまで思っちまったからな。あいつもオレたちと同じ、暗黒神を完全に滅ぼすために選ばれて利用された駒だったわけだ。
まあ、トロデーン城で杖を強奪しようとした時点で、同情の余地は無いんだろうけどな。
・・・もしそうなら、やり方があんまりなんじゃないか?
オレは賢者の末裔全員に会ったことがあるわけじゃない。でも、あんな風に杖で刺し殺されるなんて死に方しなきゃならなかったヤツなんて、一人もいないと思うぜ?
オレみたいな凡人には、大いなる神の御意志なんてものは理解できなくて当然なのかもしれないけど、少なくとも二度と神に祈る気持ちになんかはなれねえな。
786『呼ぶ声』前編4/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 20:43:56 ID:GFUrmhz20
「ねえ、ククール?」
ゼシカの呼ぶ声で現実に引き戻された。こんな敵の親玉の居城で考え事なんて、我ながら胆が座ってるもんだ。
「もしかして、怒ってる?」
「・・・どうして、そう思う?」
「怖い顔してたわよ」
・・・マズいな。ポーカーフェイスが自慢のはずだったのに、最近ゼシカには悉く見破られてる。
「ごめんなさい・・・」
続くゼシカの言葉の意味するものが、オレにはさっぱりわからなかった。
「どうしてゼシカが謝るんだ?」
「だって・・・。マルチェロのことで、もうよけいなこと言わないって約束したのに、つい口出ししちゃったから」
・・・そう言えば大分前になるけど、その話で結構手ひどく突き放しちまったことがあったっけな。
「そのことで怒ってるわけないだろ。気持ちはありがたいと思ってるよ、ほんとに」
ダメだな。自分の口から出てる言葉なのに、とても心がこもってるようには聞こえない。
「マルチェロのやつもバカだよなぁ。オレだったら、こんなナイスバディの美人が心配してくれてるってわかったら、悪いことなんてする気なくなるのにな」
「何、言ってんのよ、バカ・・・もういいわ。今度こそ、よけいなこと言わないわね」
結局またこうなる。どうしてなんだろう。オレとしては、ちゃんと本心だけ言ってるつもりなのにな。

マルチェロの話なんか出たせいだろうか。やたらとガキの頃のことが頭に浮かんでくる。
自分が小さかったせいか、やたら威圧感を感じた修道院の建物や聖像。初めて手にした時の剣の重さ。新しい呪文を覚えられて嬉しかった時のこと。そしてマルチェロに手ひどく突っぱねられたオレの頭を撫でてくれた、初めて会った時のオディロ院長の温かい手・・・。

また考えこんじまってたオレは、今度はエイトの呼ぶ声で我に返った。本当にどうかしてるな。ここまでくると、余裕通り越して現実逃避に近い。
「暗黒神の邪気にあてられたのか知らないが、やたらとガキの頃のことを思いだすんだ。今さら・・・本当に今さらだ。思いだしたって意味ねーのに」
「アッシ、そういう話を聞いたことがあるでがすよ」
オレの言葉に対して、ヤンガスが意外なことを言い出すもんだから、全員がヤンガスに注目した。
787『呼ぶ声』前編5/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 20:44:58 ID:GFUrmhz20
「人間には、それまでの人生を走馬灯のように振り返る時があると聞いたことがあるでがす。それにしても走馬灯って何でがすか?」
意味わかってねえんだろうけど、ものすごくイヤなことをサラッと言ってくれやがったな、このヤロウ。
一発殴ってやろうかと思ったが、それより早くゼシカのマジカルメイスがヤンガスの脳天に振り下ろされた。
「縁起でもないこと言ってんじゃないわよ、このバカ!」
今のは見事な一撃だったな。兜の上からでもかなりのダメージがあったらしい。ヤンガスは頭をおさえて、うずくまった。
エイトが心配そうにヤンガスの頭を覗き込むが、本当に気になってるのは、どうやら錬釜釜で作った猛牛ヘルムらしい。さりげなくひどいヤツ。うしのふんなんかを材料にした兜を弟分にかぶらせる辺りも相当なもんだ。
思わず笑っちまう。本当にこいつらといると、辛気臭い気分を保たせてはもらえないみたいだな。
「お前がさっき言った人生を振り返る時ってのは、死ぬ時だ。勝手にオレのこと殺そうとしてんじゃねぇよ、バーカ」
「えっ・・・。そいつはすまねえ。知らなかったでがすよ」
「だからって、言っていいことと悪いことがあるのよ! ククール、ヤンガスの言うことなんて気にしちゃダメよ。全部完全に無視するのよ。いいわね」
何もそこまで言わなくても・・・。気の毒にヤンガスは落ち込んじまった。
「ゼシカのねえちゃん、あんまりでがす・・・」
「あのな、ゼシカ。お前にそうやって気にされると、オレまで何か本当に死にそうな気がしてイヤなんだけど」
「やめてよ、そんな死にそうとか言うの! ほんとになったらどうするのよ」
ほんとに、ずいぶん今日はムキになるな。
「そん時は、ゼシカがキスの一つもしてくれれば問題解決さ。おとぎ話とかでよくあるだろ? 美貌の騎士は、美しいレディのキスで永い眠りから覚めましたってな」
「そんな話、聞いたことないわよ。普通、永い眠りについてるのはお姫様・・・って、どさくさに紛れて何言ってるのよ! 心配して損したわ。こんなアホ、殺したって死なないわよ。だからキスなんて絶対にしないんだからね!」
ゼシカは本当に期待を裏切らない。完璧、予測通りの答えだ。・・・つまんねえの。
788『呼ぶ声』前編6/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 20:46:19 ID:GFUrmhz20
「さあ帰るぞ! こんな所さっさとおさらばだ!」
何なんだ? この胸騒ぎは。
ラプソーンは倒したっていうのに、イヤな予感がまるで消えてくれない。
ヤバいのは、この城だ。早く脱出しないと、良くないことが起こるっていうのがわかる。
それなのに、何なんだよ、この城は。
建物が崩れてきて、一刻も早く外に出たいっていうのに次から次へと敵に襲われて、中々先に進めない。
それにさっきから、例の言葉が頭の中でひっきりなしに鳴り響きやがる。
完全死者蘇生呪文『ザオリク』
そんなものを使わなきゃならない状況が、この後に待ってるっていうのか?
冗談じゃない、そんな使えるかどうかもわからない呪文なんて、誰があてにするもんか。
そんなことになる前に回避する。それが本当に守るってことだ。何かあってから動いたって遅いんだよ。

ようやく空が見えるところに出られたってのに、えらく不細工な鋼鉄で出来た魔人が現れやがった。
元々壊れかけてるような外見なんだから、サッサと完全に壊れちまえ!
・・・なんて思ったのが悪かったのかもしれない。
機能を停止した鋼鉄の魔人は、その巨大な身体を崩れさせ、オレたちの頭上に降り注いできた。鉄格子に塞がれて、城の中には逃げ込めない。
バラバラになったからって、元が巨大だから破片もデカい。このままじゃあ、全員押し潰されて死んじまう。バギクロスで巻き上げようにも、数が多すぎる。
「みんな、ふせて!」
ゼシカが叫んで、素早く魔力を集中させていく。
「イオナズン!」
襲いかかる鋼鉄の破片に、爆発の呪文が叩きつけられた。
目も眩むような閃光と、耳をつんざくような爆音。そして鋼鉄は小石ほどの大きさまで砕け散り、パラパラと落ちてきた。
・・・すげえな。
人類最強の称号を、謹んで捧げとくとするか。オレが守る必要なんて、どこにもないかもしれない。思わず苦笑いしちまう。
でも、それはつかの間のことだった。

『どこまでも忌まわしき、クランバートルの末裔よ』
とてつもなく邪悪な声が、頭に直接鳴り響いた。
789『呼ぶ声』後編1/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 20:48:02 ID:GFUrmhz20
おぞましい邪悪な声が頭に鳴り響くと同時に、私の足に何かが絡み付いた。
見下ろすと、トロデーンの城を覆っていたのと同じ茨が巻き付いている。
どうして、こんなものが・・・。
何一つできないままに、次々に茨が巻き付き、私の身体は宙高く吊り上げられてしまった。
耳鳴りがする。頭に雑音が鳴り響いて気持ちが悪い。
バギやギラ、しんくうはが下から放たれているのはわかる。仲間が私を救おうとしてくれている。でも、何も見えない。何も聞こえてこない。
私に見えるのは、ただ闇だけ。聞こえてくるのは頭に直接響いてくる声。
忘れることなんて出来ない。かつて私を支配した、おぞましい暗黒神の声。
『我が肉体を、あのような汚らわしい像に封じた憎きシャマルの血を引きし者よ。完全な目覚めの時は近いようだな。再びその身体、我が貰い受けよう。我が肉体を封印し賢者の末裔が、我が新しき肉体となる。その皮肉に悲しむシャマルの姿が目に浮かぶようだ』
闇か、私の中に入り込んでこようとする。また同じことを繰り返すの? ご先祖様への当てつけで私の身体を利用しようとするなんて、そんなのひどすぎる。

・・・いいえ、そんなことにはならない。
私はもう、あの時とは違う。
兄さんの仇を討つことだけ考えて、ドルマゲスへの憎しみで心を満たしていたから、そこを暗黒神に付け込まれた。仲間すら憎んで殺そうとしてしまった。
今は違う。仇を討ちたい気持ちはもちろんある。でも私が今戦う理由は、これ以上の悲しみを生み出したくないから。こんな『悲しい』が口癖のようなヤツの言いなりには、二度となるもんですか。
何度も同じ失敗を繰り返すのは、ただのバカよ。私はもう、決して闇には飲まれない。
目を閉じると、仲間の放つ魔法の気配を感じる。みんな優しいね。私まで傷つけないように、力加減してくれてるのがわかる。遠慮なんてしなくていいのよ、思いきりやっちゃって。私、そのぐらい何ともないから。
だけどとりあえず、今は自分で何とかするわ。もう一発ぐらい暗黒神を殴ってやりたい気持ちはあったのよね。
耳鳴りのせいで、うまく呪文に集中できない。でもそんなこと言ってる場合じゃないわ。
「ベギラゴン!」
絡み付いていた茨が激しく燃え上がり、次々に燃え落ちていく。
790『呼ぶ声』後編2/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 20:49:28 ID:GFUrmhz20
だけど、後少しで戒めから完全に解かれ自由になれると思った矢先、私の身体は振り上げられ、遠くの壁に向かって力任せに投げ付けられた。
うそ・・・!
いくら何でも、こんな早さで壁に叩きつけられたら死んじゃうわよ。
バイキルト! は意味なさそう。スカラ! はダメ、私使えない。
どうしてこういう時ってスローモーションに感じるのに、何もいい考えが浮かばないの?
もうダメ、絶対死んじゃうー!!
まるで意味ないのはわかってるけど、目をつぶって歯をくいしばった。

息が詰まるような衝撃。脳が揺らされてクラクラする。
でも、覚悟していた程の痛みはない。想像していたほど、ここの壁も固くない。
・・・そんなわけないじゃない。この感触を私はよく知っている。今まで何度も私を助けてくれた腕。ずっとずっと、守ってきてくれた人。
ようやく顔を上げた私の目に映ったのは、頭から血を流し、苦痛に歪んだククールの顔。私が壁に叩きつけられる直前に、自分の身体を入れて庇ってくれたんだ。
「・・・そんな顔するなよ。前に言ったろ? ゼシカが落ちてきた時はオレが受け止めるって。スカラを重ねがけてあるから大したことない、大丈夫だ」
決して軽いキズじゃないのは、すぐわかる。でも私を見る目も、かけてくれる声も、たとえようもないほど穏やかで優しい。
・・・言いたいことはたくさんあるのに、唇が震えて言葉にできない。胸が一杯で何かが溢れそうなのに、どう表現していいのかわからない。
ただ指を伸ばして、額から流れ落ちてきたククールの血をそっと拭った。

『どこまでも目障りな奴・・・。また貴様が邪魔をするのか!』
血まで凍りつきそうな憎悪に満ちた声に、私の身体は固まった。目の前の空間に、邪悪に光る目だけが浮かび上がる。
『往生際の悪い人間よ。賢者の力を受け継ぎし者共・・・。貴様らだけは許さん。まとめてこの場で死ぬがいい。未来永劫苦しみ続ける、死の呪いを受けよ!』
悪意と憎悪の固まりが、呪いとなって牙を剥く。決して抗えない、圧倒的な力が襲いかかってきた。
「ゼシカ!」
この傷ついた身体のどこにそんな力が残ってたんだろう。私の身体はククールに突き飛ばされ、床に投げ出された。
そして、呪いに捕らえられたククールの身体が死に蝕まれ、全てを失って崩れ落ちるのが見えた。
791『呼ぶ声』後編3/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 20:51:32 ID:GFUrmhz20
それから、この不思議な泉に来るまでのことは混乱していて、よく覚えていない。
頭に残っているのは、再び私を襲った呪いを、駆けつけたエイトが跳ね返してくれたことと、闇の世界から現れた魔物に襲われたのを、レティスが救ってくれたことだけ。

エイトが何十回目になるかわからないザオラルを、ククールに向かって唱えている。
ラプソーンはあの時、確かに『死の呪い』と言った。だから、この泉の水でその呪いが解けるかもしれないという一縷の望みをかけたのだけど、水を口に含ませても、ククールはそれを飲んではくれない。
MPの尽きたエイトが、泉の水を飲んで自分を回復する。さっきから、もう何度もその繰り返し。でも、いくらMPを回復させても、ザオラルなんていう高度な呪文を使い続ければ、身体も精神も消耗する。エイトの顔は土気色になっている。
「もうやめて、エイト・・・」
ククールの身体に手をかざしザオラルを唱えようとするエイトの腕を、おさえて止めた。
「そう、でしょう? ククール?」
自分のために無茶してエイトが倒れたりしたら、嬉しくないよね。あなたがそういう人だってこと、私、ちゃんとわかってるよ。
でも、ククールは私のこと、わかってくれなかったね。私だって嬉しくない。こんなふうに守ってもらったって嬉しくないのに!
「ククール・・・」
血が乾いてこびりついている頬にふれる。さっきはあんなに温かかったのに、冷たく固くなってしまった頬。全ての表情を失って、もう二度とは動かない。
「ククール!」
どんなに呼んでも、もうククールは私を見てくれない。
私の呼ぶ声に応えてはくれない。
私の名前も呼んではくれない。
どうしてこんなことになっちゃったの? 私のことなんて放っておけば良かったのに! 私が死んだら生き返らせてくれれば良かったじゃない。蘇生呪文覚えたって言ってた人が死んじゃってどうするのよ!

『ザオリク』

言葉が唐突に、私の中を電流のように駆け抜けた。
・・・ザオリク? 以前ククールが話してくれた。初めのうちは耳鳴りと雑音だったと。呪文の集中の妨げになっていた蘇生呪文。
私の中にもそれが宿っているの?
792『呼ぶ声』後編4/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 20:53:07 ID:GFUrmhz20
「・・・っリ、ク・・・」
言葉が喉につかえる。どうしても声にできない。
どうして? 蘇生呪文なんてものがあるとするなら、必要なのは今なのに。こんなふうに使えない呪文なら、どうして存在したりするの?
お願い、誰か教えて! どうすればいいの? どうすれば助けられるの?
「ククールっ・・・!」
私を置いて行かないで! 戻ってきてよ!

『ゼシカがキスの一つもしてくれれば問題解決さ』
つい数時間前の言葉が不意に頭の中に蘇る。でも軽口の思い出じゃない。何かを私に伝えようとしてる。
ククールの顔を見ると、閉じられている唇の奥で何かが光っているように見える。そして、私の喉の奥から突き上げてくる、何か。
『美貌の騎士は、美しいレディのキスで永い眠りから覚めましたってな』
おとぎ話でもかまわない。今なら、どんなことでも出来る。
私は何かに引き寄せられるように、ククールの唇に自分の唇を重ねた。

何かが私に流れ込んでくる。今まで感じたことのない程の強いエネルギー。迸るような魔法の力。ほどけていた二本の糸が一つに紡がれ、生み出される言葉。それは奇跡の呪文。
「ザオリク」
その言葉を口にすると同時に、私の意識は遠のいた。

何もない空間。でも闇の中ではない。ずっと遠くまで見渡せる。寒さも感じない。痛みもない。でも私はひとりぼっち。何て空虚な世界。
どうして私はこんなところにいるの? ここは死の世界? それとも本当は私、ずっと夢を見続けていただけ? いつから? どこから? もしかしたら、自分が生まれて生きていたことすら、全てが夢だったの?
「ゼシカ」
・・・背後から、耳に心地よく響く声。ずっとずっと、もう一度聞きたいと願い続けてきた声。振り向いたその先にいた人は・・・。
「サーベルト兄さん・・・」
「そうだよ、ゼシカ」
明るい薄茶色の髪。まっすぐ伸びた背筋。強い意志を宿した瞳。間違いない、本当にサーベルト兄さんだ。
「兄さん!」
私は思わず兄さんにすがりついた。
「兄さん! 兄さん、お願い助けて・・・」
声と一緒に涙が溢れた。心がどうしようもなく痛んで引き裂かれそうだった。

793『呼ぶ声』後編5/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 20:54:34 ID:GFUrmhz20
「ククールを死なせないで。お願いだから、ククールを連れていってしまわないで!」
「ゼシカ、大丈夫。彼はもう戻った。彼には強い護りが付いている。心配しなくていい」
兄さんが優しく抱き締めてくれる。・・・強い、護り?
「私たち賢者の封印を継ぐ者は、こうなる時が来るのを知っていた。だからそれぞれ、自分が最も信頼できる人間に『力』だけを託してきたのだ。彼は『神の子』と呼ばれた奇跡の予言者の末裔より、その力の全てを授けられている。こんなことで死んでしまったりはしないよ」
・・・それは、オディロ院長?
「そして私の持てるものの全ては、もちろんゼシカ、お前に託してある。今はまだ完全に目覚めてはいないが、何も恐れずに自分の道を進むだけの力を、お前は持っているんだ」
「兄さん・・・」
兄さんの指が、私の頬を流れる涙を拭ってくれる。
「今度こそお別れだ、ゼシカ。もう大丈夫だね? お前にはもう私は必要ない。お前を守ってくれる人は、もうちゃんとそばにいるのだから」
兄さんの姿がぼやけてくる。いいえ、私の姿が薄くなっているんだ。
「いつでもお前の幸せを願っているよ」
待って、まだ話したいことがいっぱいあるのに・・・。

「にい、さん・・・」
見慣れた天井が目に映る。ここはベルガラックのホテル。
今のは夢? でも頬には、涙を拭ってくれる指の感触。
「おいおい、この期に及んでまだ『兄さん』かよ。今日ぐらいオレの名前を呼んでくれても、バチはあたらねーんじゃねぇの?」
・・・これは夢? でも、この声。この話し方。ちょっとイタズラっぽく笑う顔。月の光のような銀の髪と、澄んだ湖のような静かな蒼い瞳。
「ククール・・・」
私はゆっくりと身体を起こす。少し目眩がした。
「なんてな。冗談だよ。ゼシカが何度もオレを読んでくれるのが聞こえてた。だからオレは、こうして戻ってこられたんだ」
「ククール!」
気持ちが抑えられなくなって、私はククールに抱き着いた。
「ゼシカ、ちょっ、待てっ、って・・・」
ククールが慌てふためいた声を上げ、次の瞬間にはバランスを崩し、二人で床に引っ繰り返ってしまった。
「ああ、ちくしょう、みっともねえ」
ククールがくやしそうに呟くけど、私は何が起きたのか、よくわからない。
794『呼ぶ声』後編6/6 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/05(木) 21:02:14 ID:GFUrmhz20
「オレも結構弱ってるみたいでさ、実は立ってるのがやっとだったんだよ。一度死んだせいか、ザオリクで消耗したせいなのかは、わかんねえけど。でもレディ一人抱きとめられないのは情けねえな」
「ごめんね、知らなかったから。痛かったでしょう?」
・・・ちょっと待って。
「今、ザオリクって・・・」
・・・私も言えた。
「ああ、言えるようになった。多分あれは、一回こっきりで使い切っちまう呪文だったんだな。自分の中から消えてしまったのがわかる」
うん、私の中にももうない。あれはたった一度だけの奇跡。それも、二人でやっと一回だけの魔法だったんだ。

「すごい音がしたけど、どうしたでげすか?」
ヤンガスが扉を開けて入ってきた。
「・・・お邪魔したでがす」
だけど、すぐに扉を閉めて出ていってしまう。
・・・もしかして、この体勢、誤解された?
「ちが〜う! 待って、これは誤解よ。そうじゃなくて!」
「いいじゃねえかよ、別に。減るもんじゃなし」
ククールは全然動じてない。
「減るわよ、何かは!」
まして、これだと私の方が襲ってるみたいじゃないの!
「何かって、何だよ」
おかしそうに笑い出すククール。もう二度と聞けないと思ってた声。そう思ったら、また急に涙が出てきてしまった。ククールの指が再びそれを拭ってくれる。
「・・・さっきもずっと『兄さん』って言いながら泣いてたけど、悲しい夢でも見てたのか?」
・・・兄さん? そう、夢の中で私、兄さんと会った。そして大切な話・・・。
「どうしてくれるのよ! せっかく兄さんの夢見てたのに、忘れちゃったじゃないの!」
「おい! それ、オレのせいかよ!?」
「そうよ!」
・・・思わず顔を見合わせて笑ってしまう。でも不意に頭をよぎった不安。自らの居城を取り込んで、完全に復活してしまったラプソーン。まだ終わらない戦い。
「大丈夫だ、ゼシカ」
全てを察したようなククールの言葉。
「はっきりわかる。次で最後だ。ラプソーンはもう逃がさない。心配しなくていいぜ」
「・・・うん」
ククールがそう言うなら間違いない。だっていつもそう。まるで未来が見えるように、私たちに助言してくれていた。次で最後・・・。そして勝つのは私たちだと。
<終>
795名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/05(木) 21:20:38 ID:6Jyu/LPYO
キテター(゚∀゚)
新年早々乙です!
796名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/05(木) 23:03:28 ID:vfYZgZb10
マジで半泣きしますた…・゚・(ノД`)・゚・
乙です!今年も期待していいですね?
797名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/06(金) 00:02:22 ID:as81ZdtP0
いい話や・・・。
でもこの勢いだと後1,2回で完結か・・・。
とりあえずがんばってください。
798名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/06(金) 12:16:05 ID:nPcqUEs8O
毎度のことながら超絶GJ…!!
話に引き込まれる。
なんとなくやっていたゲームの一場面が、一気に重みを増す。
くぁー、ほんとGJです!!
ラストが近づいてきているけれど、ドキドキしながら待ってます。
799名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/06(金) 17:32:22 ID:w6YPga++0
新作キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
うるうるしてしまったよ、GJ!GJ!
続きが楽しみな反面、終わるのが寂しくもあります
800名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/06(金) 20:12:47 ID:xmzZzfyB0
ww
801名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/06(金) 23:27:18 ID:HUx4kbrq0
新年早々、お付き合いいただきまして、ありがとうございます。
そして妄想が止まらず、また書いてきてしまいました。
続きといえば続きですが、本編じゃなく、ちょっとアレな話です。
シリアスばかりだと疲れるので、ガス抜きのようなものと受けとっていただけると幸いです。
今年もよろしくお願いします。
802『お仕置き』1/3 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/06(金) 23:29:28 ID:HUx4kbrq0
暗黒魔城都市での戦いで一度死んでしまったククールさんは、ゼシカ嬢との共同作業のザオリクのおかげで、無事に生き返ることが出来ました。
だけどそのダメージは大きく、せっかくゼシカ嬢が抱き着いてきてくれたのに、それを支え切れず、彼女共々引っ繰り返ってしまいました。
死者蘇生呪文ザオリクを使ったゼシカ嬢も消耗が激しく、中々起き上がれません。
隣の部屋にはザオラルの使い過ぎでダウンしたエイト君と、一人だけ元気なヤンガス氏がいるのですが、彼らはククールさんとゼシカ嬢の二人きりの時間の邪魔をするほどの野暮ではありませんでした。
助けは期待できないので、二人は何とか自力で立ち上がって、ソファにたどり着きます。
「こりゃあ、すぐにラプソーンをぶちのめすってわけにはいかねえな」
ククールさんはいつになく、元気のない声で呟きました。
「・・・トロデ王が言うにはオレは完全に死んでたらしいな。・・・だけど、どうしてだかゼシカが何度も呼ぶ声だけは聞こえてきた。そうしたら『死にたくない』と思った。本当に心の底から・・・。そしてオレは戻ってこられた」
そう話す表情は、何か苦いものでも飲んだようでした。
「もしも他の時に、同じだけの真剣さがあったら・・・。誰か一人ぐらいは助けられてたかもしれないのに」
ククールさんは、一度限りの死者蘇生呪文を、自分のために使ってしまったことに引け目を感じてしまっているようです。
普段は軽口ばかり叩いていても、やる時は真面目にやってるククールさんだということは誰よりも理解しているゼシカ嬢。その姿が痛々しくて胸が締め付けられるようでした。
ククールさんの首に腕を回し、ギュッと抱き締めます。
「何言ってるのよ。助けてくれたじゃない、私のこと」
言った後で、気休めにすらなってないんじゃないかと不安になるゼシカ嬢でしたが、ククールさんにとって、それは一番嬉しい言葉でした。少し心が軽くなったようです。
「・・・そっか。それなら上出来かな」
ゼシカ嬢の身体に腕を回し、そっと抱き返しました。
静かな時間が流れます。
しかし、それが不運の始まりだったのです。
803『お仕置き』2/3 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/06(金) 23:30:46 ID:HUx4kbrq0
ククールさんが、何やら落ちつかなげな様子を見せ始めました。
「ゼシカ、そろそろ横になった方がいいぜ? 風邪ひくぞ」
ゼシカ嬢もククールさんも、薄手の部屋着姿です。時刻は真夜中。その状況でゼシカ嬢のようなダイナマイトバディの美女に密着されていたら、ククールさんのように健全な男子は不健全な気分になるのも無理ありません。
でもゼシカ嬢、全くわかってません。
「眠くないし、寒くないわよ」
「いや、そういう問題じゃなくてだな・・・」
ゼシカ嬢に遠回しに物を言っても時間の無駄だと判断したククールさん。はっきり言うことにしました。
「これ以上は理性を保つ自信がない」
怒られるのは覚悟の上でした。しかしゼシカ嬢、ククールさんが何だかんだ言っても紳士だと信じていました。後にそれは、かいかぶりだと知ることになるのですが・・・。
「・・・もうちょっと」
ククールさんの首に回す腕に更に力を込めます。
しっかりしているようで、ゼシカ嬢はお嬢様育ちの兄さんっ子。根底の部分が甘えっこなのです。
それにこうして触れ合っていないと、今この瞬間が夢ではないということに自信が持てず、不安だったのです。
「襲うぞ、コラ」
ククールさんが脅しても、平気な顔してます。
「でもククール、体、動かないのよね?」
見事な小悪魔ぶりです。
ちょっと頭にきたククールさん、ゼシカ嬢を抱く腕に力を込めます。
「そうか、動けるならいいってことだな」
その声の響きにゼシカ嬢、身の危険を感じました。慌てて離れようとしますが、ビクともしません。確かにククールさんも弱っていますが、自分も負けずに弱っていることを計算に入れていなかったのです。
「腕はそれなりに動くって気づいてたか? アツ〜いキスで目を覚まさせてくれた礼だ。今夜は寝かさないからな」
「・・・っ。何で、そのことっ!」
ククールさんが全くキスの件に触れないので、知られていないと思っていたゼシカ嬢。慌てふためきます。
「トロデ王が見てたんだぜ? あのおっさんがそれを話さずにいられると思うか?」
ゼシカ嬢、その話をするトロデ王の嬉しそうな顔が目に浮かぶようでした。
「男を甘く見るなって、今まで何度も忠告してきたよな? どうやらお仕置きが必要みたいだな。・・・覚悟しろよ」
耳にかかる声と息に、ゼシカ嬢、身を竦ませました。
804『お仕置き』3/3 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/06(金) 23:32:40 ID:HUx4kbrq0
「ねえ、もうやめて。私が悪かったから・・・」
目に涙を浮かべ、苦しい息の下からゼシカ嬢は懇願します。しかしククールさん、全く聞き入れるつもりはありません。
「お願い、許してっ・・・。これ以上は頭がおかしくなっちゃう」
ゼシカ嬢、身を捩ってククールさんの腕から逃れようとしますが、身体に力が入りません。ククールさんの攻撃が再開されます。
「『ドニで遊ぶのはほどほどに』『海竜の舌が赤い理由』」
「もうやめてーっ! いたたた、おなか痛い。明日絶対、腹筋筋肉痛だわ」
ゼシカ嬢、目に涙を浮かべて大爆笑です。
もちろん、オディロ院長作の駄洒落がおかしいんじゃありません。
この頭がおかしくなりそうな程くだらない駄洒落を耳元で、まるで愛の言葉でも囁くように甘く低い声で並べ立てるククールさんがおかしくて、ツボにはまってしまったのです。
「『毒針を今度配ります』『バンダナをした彼の出番だな』・・・こんなつまらない駄洒落でよくそんなに笑えるな。オディロ院長が生きてたなら、喜んだだろうに」
そういうククールさん。オディロ院長が存命の頃、つまらない駄洒落でも笑ってあげようとしてはいたのですが、冷たい笑みにならないようにするので精一杯だったそうです。
「ち、違うわ。あんまりくだらなすぎて・・・。それにそれを真顔で言うククールが・・・ああ、もうダメ」
笑いすぎで苦しいゼシカ嬢ですが、これが夢じゃないことは確信できて気持ちは安らかでした。
こんなくだらない駄洒落。それを真顔で囁くククールさん。たとえ夢の中だろうと、ゼシカ嬢には到底考えつくことではないからです。紛れもない現実だとしか思えません。

天国からその様子を見ていたサーベルト兄さんとオディロ院長は深いため息を吐きます。
「ククールめ。私の駄洒落百連発をお仕置きと称するとは何事だ。・・・私の駄洒落は、そんなにくだらないかのう?」
「ゼシカときたら、せっかく夢の中まで訪ねていって大事なことを教えてやったのに、すっかり忘れて『ククール、ククール』って。まあ兄妹なんて、結局こんなものなのかも」

・・・えーっと。まあ、あれです。とりあえず今は、生きてる二人が楽しそうならそれでいいということで。・・・かなり強引だけど。
メデタシメデタシ。
805名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/06(金) 23:51:12 ID:n6H82fepO
萌え尽きたぜ…真っ白にな
806名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/07(土) 00:11:56 ID:fOksCS7n0
メシデタメシデタ。
807名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/07(土) 00:17:12 ID:axTfJscO0
……www
オチが最高です。そう来ましたか…上手い。
最後のサーベルト兄さんが哀愁漂っててナイス&チョトカワイソスw


…でもちょっとそっち系の展開を期待しちまったじゃねぇかコノヤロw
808名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/07(土) 13:00:34 ID:xJuK3hSl0
萌え萌え〜www
809名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/07(土) 23:11:18 ID:eSSEJhJu0
>>783 「呼ぶ声」
ククール自身がザオリクの恩恵を受けることになるとは想像してなかったー。
しかもゼシカとのキス付きなんて、嬉しい予想外れです。
それとオディロ院長の臨終の言葉も、ずっと疑問に思ってたんです。
で得た結論が、Jbyさんと同じように、あれも神の意思だったってことで。
なんか一緒の考えになって嬉しいなあ。あれ?もしかしてみんなそう思ってる?

ところで、ククの賢者設定。ククはオディロ院長の孫なのでしょうか?
810名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/07(土) 23:18:27 ID:eSSEJhJu0
>>802 「お仕置き」
かわいい二人だー。エロエロトークになってると思いきや、
駄洒落で場を収めるとは。ククール、よく耐えたねえ。
でも、基本的に二人はぴったりとくっついているわけで。ラブラブだ。
連載が終わってしまっても、こういうコネタでJbyさんのお話読みたいですよ。
811名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/08(日) 01:26:39 ID:uXaGPWVj0
>>802-804 悶絶しますたハァハァ(´Д`;)ハァハァハァハァ(´Д`;)ハァハァ
お互い大変ですねえ、といった感じの院長と兄さんもいい感じです。
812名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/08(日) 01:39:29 ID:2Ktjda7E0
>809
孫じゃなくて賢者の力をククに譲ったということだお
813名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/08(日) 10:12:40 ID:ZmlnPSEG0
メシデタメシデタ
814名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/08(日) 15:59:51 ID:7oVXfr8D0
ゼシカ並みにツボに来たwww
◆JbyYzEg8Isさんに次期オディロの称号を与えます
815名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/08(日) 20:34:01 ID:fJQQ0cCz0
2ちゃんにSS書きは多くいるだろうけど、私ほど幸せな書き手はいない・・・(つД`)
みんな、大スキだーっ!!!

さて、引っ張ったわりに大した設定じゃない、ククール賢者。
ただ単に『けんじゃのローブ』をゼシカが装備できないのにククールが出来るので、こじつけました。
サーベルトがドルにあっさり殺(自主規制) な理由も欲しいと思ってたので、オディロもサーベルトも、チェルスの先祖がハワードの先祖に力を譲ったのと同じことをしたと、これまたこじつけました。
つまり、賢者の末裔は殺される時は只の人になってて、抵抗できなくても仕方なかった、と。
私の書く話の90%はこじつけで出来てます。
それで良ければ、もう少しの間、お付き合いください。
816名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/09(月) 14:13:32 ID:AuUG3m3j0
メシデタ?
817名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/11(水) 00:49:36 ID:COFKIkeA0
818名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/12(木) 10:29:22 ID:gSxqcen60
age
819『ほしかったもの』前編1/5 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/12(木) 23:11:54 ID:Wim1SCbv0
随分、時間を無駄にしてしまったわ。
ラプソーンが自らの城を取り込み、完全な復活を果たしてしまったっていうのに、ヤンガス以外の全員が、まともに歩くことさえ出来ないダメージを負ってしまい、戦える状態に戻るまで一週間も費やしてしまった。
レティスに指示された七つのオーブを集め終わり、これからレティシアに向かおうという時、エイトはミーティア姫と話をすることを望んだ。
私は別れの挨拶のようなことは好きじゃないんだけど、これは違うとわかる。
エイトは必ず勝つためにそうするんだって。エイトが戦う理由は、世界を救うためだけじゃなく、ミーティア姫を元の姿に戻してあげるため。その気持ちをもう一度力に変えるために、彼女に会いたいんだって。

でも最近、移動する時は空を飛ぶか、ルーラを使うかしてたもんだから、ミーティア姫は人の姿に戻れるほどの量の水を飲めなかった。
それでどうしてるかっていうと、エイトとミーティア姫は一生懸命、泉の周りを走って喉を乾かそうとしている。
ダイエットを兼ねたヤンガスもそれに付き合ってるんだけど、私は辞退させてもらった。
もちろん魔物が襲ってくるようなことがあったらすぐに加勢するつもりだけど、今のところそういう様子はない。
私は泉から少し離れた場所に座って、空を見上げた。
暗黒神、ラプソーンが待つ空。
追いかけて、追い詰めて、今度こそと何度も思ったのに、あいつはそれをあざ笑うかのように、次々と犠牲を増やしていった。
もう許さない。もう次はない。ラプソーンは必ず、この私の手で倒してみせる。

不意に視界が遮られた。
「そちらの美しいお嬢さん。私めに貴女のそばに座る栄誉をいただけますか?」
ククールがすました顔して、私の顔を覗き込んでいた。折角ひとが気合入れてたっていうのに、拍子抜けしちゃうじゃないの。
「勝手にどうぞ」
今は彼の軽口に付き合う気分じゃない。
「それでは、お言葉に甘えて」
そう言ったククールは、わざわざ私の真後ろに回り込んで腰をおろした。
何してるんだろうと思うと同時にククールは、いきなり私に全体重を預けてきた。
完全に油断していた私は、手の指が足のつま先についてしまうほどの、完全な屈伸を強いられる。
820『ほしかったもの』前編2/5 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/12(木) 23:13:26 ID:Wim1SCbv0
「いたたたたたっ! いたっ、おもっ、ちょっと重い! 痛いってば!」
パッと見、細く感じるけど、鍛えてる上に背も高いから結構重いのよ、この男。
「へえ、途中で胸がつかえるかと思ってたのに、ゼシカは身体やわらかいんだな」
妙に感心したような声をあげられた。
「このっ・・・ドアホーッ!!!」
渾身の力を込めて押し返す。何とか元の体勢まで戻すことは出来た。
「おおーっ。すごいすごい」
拍手までされてしまった。何なのよ、このバカ。
付き合ってられないとは思うけど、ククールの力加減は絶妙で、立ち上がって逃げるまでは出来ない。
「あんまり上ばっかり見てると疲れるぜ? 足元が疎かにもなるしな」
・・・何よ、その見透かしたような言い方。
いつもそうよ。自分は何もかも全部わかってるっていうような顔をして、私のことは子供扱いする。

この一週間で、やっぱりククールは私には理解しきれない人なんだっていうことがわかった。
立つのもやっとっていう時は、辛い気持ちやオディロ院長との思い出なんかを、本当にちょっとだけなんだけど話してくれたりして、少し距離が縮まったような気がしてたのよ。
だけど少し回復すると、ククールはマルチェロから渡された指輪を見つめて考え事することが多くなって。そして私はそれを、お兄さんを心配してるんだと受け止めてた。
マルチェロときたら死にそうなケガしてたのに、治療もしないでゴルドから歩き去ってしまったから。あの姿を見送る時も、本当に回復魔法が使えない自分が歯痒かったわ。
だけど、それは私の思い込みだった。
普通に歩けるようになるとすぐ、ククールは一人でサヴェッラに行くと言い出した。
私もエイトも、やっぱり歩けるようになったばかりの時で、どうせ戦えないんだし、ルーラを使うからすぐに戻るって。
もちろん私たち、止めたわよ。何をするつもりなのかわからないけど、行くなら全員で行こうって。
だけど、同行を許されたのはエイトだけ。私とヤンガスは置いてけぼり。
キメラのつばさを使って後を追うことも考えたけど、絶対についてくるなってクギを刺されて、出来なかった。本気で怒らせると、ククールは結構怖いから。
821『ほしかったもの』前編3/5 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/12(木) 23:15:18 ID:Wim1SCbv0
その夜、二人が戻ってきた時もククールは何も話そうとはしてくれなくて、何があったのかを教えてくれたのは結局エイトの方だった。
ククールはサヴェッラ大聖堂のお偉方のところに行って、『行方不明の新法皇様から即位式の直前に、煉獄島の囚人たちを新法皇誕生の恩赦による減刑で出獄させるよう、命令を受けていた』なんて涼しい顔して大嘘ついて。
マルチェロからもらった騎士団長の指輪を証拠の品だって見せて、ニノ大司教たちを助け出す手筈を整えてしまったんだって。
それと崩壊してしまったゴルドへの救援も一緒に要請したらしい。
もちろん、嘘ついたのが悪いなんて言うつもりはないわよ。
煉獄島みたいなひどい所、助けられるなら一日だって早く出してあげた方がいいと思う。崩壊してしまったゴルドにも、回復魔法の専門家の聖職者たちを送り込むのは何よりの助けになると思う。
でも、どうして一人でやろうとするの? 聞くまでもなく、理由はわかってるわよ。もし嘘がバレた時でも、自分一人が捕まれば済むなんて思ってるんだわ。だけどそういうところが本当に腹立つのよ。

・・・でも多分私が一番ショックを受けてるのは、マルチェロに貰った指輪を見ながらククールが考えていたことが、マルチェロの行方じゃなくて、その使い道だったっていうことの方なのかも。
ククールがマルチェロのことを全く心配してないとは思わないわ。でも私だったらきっと、あんな形でお兄さんに渡されたものを、何かに使おうだなんて思いつきもしない。
そして、いくら人助けのためだからってそれを使って公の場でサラッと嘘ついて、その帰りにベルガラックのカジノに寄るなんて絶対無理よ。
そばで見ていたエイトにも教えなかったらしいんだけど、多分とんでもないイカサマをして、わずか数時間の間にコインを40万枚も稼ぎ、大量の剣やら鎧やらをお土産にすました顔して帰ってきた。
私にもグリンガムのムチなんていう最高級の武器をプレゼントしてくれたもんだから、いろいろ言ってやりたいことがあったのに、何も言えなくなってしまった。
本当にわからない。繊細で傷つきやすい人なのかとも思うのに、変なところで人並み外れて図太いんだもの。
そういうところ、半分くらい分けてほしいもんだわ。
822『ほしかったもの』前編4/5 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/12(木) 23:16:46 ID:Wim1SCbv0
「最後の戦いの前に、ゼシカに話しておきたいことがあったんだ」
自分の考えにふけっていた私は、背中越しにつたわるククールの声の響きに、ちょっとドキッとした。
「やめてよ。戦いの前にどうとかって、私、そういうの好きじゃないのよ。話なら帰ってきてから聞くわ」
「今じゃないと、意味ないんだ」
いつになく真剣な声に、それ以上は拒絶できない。
「・・・わかったわ、どうぞ」
「オレがこのパーティーに加わる時、ゼシカに言った言葉、覚えてるか?」
何よ、何言うつもり?」
「・・・覚えてるわよ。私だけを守る騎士になるとか何とかでしょう?」
「そう、それ。あれ、無かったことにしてくれ」
頭をウォーハンマーで殴られたような衝撃がきた。
「あの頃のオレは何も考えてなかった。ひと一人守るってことがどれだけ難しいことか、わかってなかったから簡単にそういうことを口にできた。本当にバカだったと思う」
ひどい・・・。
ククールのバカバカバカ! 何よ。どうしてそういうことを、今言うの?
守ってくれてたじゃない、ずっと。私がどれだけ支えられてきたか、わからないの?
これから決戦だっていうのに、いきなりそんなこと言って突き放すなんて、ひどすぎる。一気にテンション下がっちゃったじゃないの。

・・・本当に、私ずっと頼りっぱなしだったんだ。ククールのこんな一言でショック受けるほど。
もしかしてククールは、もういやになったのかしら。この間だって私のために危うく命を落とすところだったんだし。
そう考えると、これ以上甘えちゃいけないんだと思う。
そうよ、初めは私一人で兄さんの仇を討つつもりだったじゃない。
私だけを守るなんていうククールの言葉も、言われた時は全く信用してなかった。
それなのにククールは、私を何度も助けてくれて、守ってくれた。
これ以上望むのは間違ってる。次が最後の、それも一番大きな戦いなんだもの。こんなことで落ち込んでるようじゃあ、暗黒神なんてものに勝てるわけないわ。
823『ほしかったもの』前編5/5 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/12(木) 23:18:51 ID:Wim1SCbv0
「それにゼシカつえーしな。ドラゴンキラーやもろはのつるぎなんて片手で振り回してるのを見た時には、うかうかしてたら剣でも負けると思ったもんだ」
でも何か、こういう言われ方されるのはムカつく。
確かに身体が回復してからというもの、今までは重くて上手く扱えなかった剣が嘘のように軽く感じるようになった。
力が特別強くなったわけではないんだけど、私にも少しは魔法剣士だったご先祖様のチカラが受け継がれてたっていうことなのかしら。
でも、だからって剣でククールより強くなれるなんて思ってないわよ。ククールだって、きっと本気では思ってない。
こういう時でも、私をからかうのは忘れないのね。

「それにゼシカだけ守ったって、そんなものに意味なんてないんだよな。大事なものが何もない世界に一人だけ取り残されても寂しいだけだ。ケチなこと言わずに、守れるものは全部守る」
ちょっと泣きそうだったんだけど、続くククールの言葉に、そんな気分は吹き飛んだ。
「オレ一人じゃキツいけど、ゼシカと一緒だったらこの世界全部だって守れる気がする。・・・頼りにしてるんだぜ、これでも。ラプソーンとの戦いでも、よろしくな」
・・・どうしよう、目眩がする。
「ゼシカ?」
私が返事をしないもんだから、ククールがこっちの様子を伺おうとしてる。
ダメ! こっち見ちゃダメ。
「・・・まかせといて」
それだけ言うので精一杯だった。でも、ククールの動きは止まったので一安心。
見られたくないの。私きっと今、すごく変な顔してるから。嬉しすぎて、頭がおかしくなりそうなんだもの。
ずっと聞きたかったの、その言葉。『頼りにしてる』って、そう言ってほしかった。嘘や慰めじゃないよね? ククール、そんなに甘くないものね。
言葉は何も思い浮かばなくて、でも何かは伝えたくて、私もククールの背に体重をかけた。広くて温かくて、力強い背中。命も何もかも、全て預けられる。
うん、私も頼りにしてる。あなたを信じてる。一緒に守ろうね、私たちがこれから生きていく世界を。
さあ、首を洗って待ってなさいよ、ラプソーン。今の私には怖いものなんて、もう何もないんだから!
824『ほしかったもの』後編1/5 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/12(木) 23:21:03 ID:Wim1SCbv0
本当にゼシカは自分の感情に素直だな。
気負ったり、怒ったり、落ち込んだり、張り切ったり。全部背中越しに伝わってくる。
この素直さは、人生のどの辺りでなのか覚えてないけど、オレが置き忘れてきてしまったものだ。今さら取り戻したいとは思わないけど、羨ましいと思う気持ちは少しある。
だけど、やっぱりゼシカは変わってる。
普通の女の子だったら、『君を守る騎士になる』で喜んで『強いから頼りにしてる』なんて言ったら怒りそうなもんなのに、全く逆だ。
機嫌が悪くなるとスパンコールドレスは突っぱねるくせに、どんなに怒っててもグリンガムのムチは受け取る。
まあ、スパンコールドレスはエイトの錬金用にくれてやることになり、今はプリンセスローブになって着てもらえてるからいいけど。
・・・修道院にいた頃はこうやって誰かに背中を預けられる日がくるなんて、思ってもみなかった。ましてその相手が、か弱いはずの女の子だなんてな。
思えばオレの壁によりかかるクセ。あれは誰かに背後に立たれるのが嫌だっていう、自己防衛の気持ちがあったのかもしれない。
誰も本当には信じようとしないで、感情を表に表すことは、弱みを見せることと同じだと思い込んで、自分で自分を檻の中に閉じ込めてた。
でも、それはもう過去の話だ。

「悪かったよ。サヴェッラへ行くのに、置いてけぼりくらわして。だけど仮にも聖堂騎士団員として行くのに、女連れってのはマズいと思ったんだ。ヤンガスみたいな悪人ヅラの強面と一緒なのもな」
その一件以来、ゼシカはずっと機嫌が悪かった。でも文句の一つも言ってくれれば、こっちだって弁解できるのに、何も言わないもんだから、ついそのままになってた。ついでにスッキリさせとくか。
「・・・それはいいのよ。人助けのために必要なことだったんだから。でも今度から、ああいう時は目的を教えてよ。そうしてくれれば、こっちだってよけいな心配しなくて済むんだから。約束して」

オレはバカだ。
すれば良かったんだ、約束。滅多にあることじゃないんだし、口先だけで簡単に。でもしなかった。
オレは基本的に嘘つきだけど、本音でぶつかってくるゼシカに嘘はつきたくなかった。
「それは約束できない。だいたいあの件は、基本的にゼシカには関係なかったことだしな」
結果は予想通りだ。ゼシカは過去最高レベルにスネちまった。
825『ほしかったもの』後編2/5 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/12(木) 23:23:51 ID:Wim1SCbv0
自分が間違ってるとは思わない。
他のことならともかく、煉獄島のことも、ゴルドの崩壊も、オレの兄貴がやらかしてくれたことだ。
そして、その発端はオレへの憎しみだ。だからオレには責任がある。
特に煉獄島に送られた囚人たちは、暗黒神とは無関係のところで起こってることだ。何とかしたいと思うのは、オレの個人的感情でしかない。
だから万一、嘘がバレて罰せられることになったとしても、それはオレ一人でいい。他のヤツまで巻き込むことはない。
知らずにいてくれれば、それで良かったんだ。知ってて、知らないフリをするなんて芸当、初めから期待してないからな。
やっぱり、エイトも置いてけば良かったんだ。あのヤロウ、案外口の軽いところがありやがるから。
でも一人では行かせないっていう、心配してくれる仲間の気持ちはありがたいと思ったから、つい情にほだされたのが間違いだった。
・・・中途半端に考えが甘くなってたのが悪かった。
以前のオレなら、皆が起き出す前に黙ってサヴェッラまで行って、一人でサッサと用件済まして、帰ってから問い詰められても適当にごまかして終わらせてたはずだ。
だけど、黙っていなくなって心配させるのは悪いなんて思ったりするから、面倒なことになる。

マルチェロの指輪を利用して、サヴェッラで一芝居打ったことに関しても、オレは何もおかしなことしたとは思ってない。
でもゼシカは帰ってきたオレに、心の底から意外そうに訊いてきた。
『指輪を見つめて考えてたのって、このことだったの?』
ゼシカが一番ひっかかったのは、どうやらそのことらしい。そしてこう続けた。
『私、ククールはマルチェロの心配してるんだと思ってた』
ああ、全く心配してないってことはないさ。でもあいつはいい年した一人前の男で、回復呪文だって使えるんだ。少なくとも生きてはいるだろうから、今は気持ちを切り替えて、自分にできることをしようと考えただけだ。
そのために、あいつから『奪った』んじゃなく、初めて『貰った』物を少しでもまともなことに使って、ちょっとでも罪滅ぼしになってくれればいいって思うことが、そんなにおかしいか?
それなのに、あんな別世界のものでも見るような目で見られると、やっぱり結構傷つくんだぞ。根っからの正直者だから仕方ないとは思うけど。
・・・それとも、やっぱりオレはおかしいんだろうか?
826『ほしかったもの』後編3/5 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/12(木) 23:26:21 ID:Wim1SCbv0
姫様と心ゆくまで話したエイトは、今度は呑気に世界一周を始めた。
パルミドやゲルダの家、寂れたままのトロデーンにリーザス村。それにご丁寧にマイエラ修道院にまで寄ってくれた。
こんなふうに世界を回ったって、何もいいことなんてない。
結構しんどい思いして、命懸けで戦ってるっていうのに、チヤホヤしてもらえるわけでもなく、知名度は限りなくゼロに近い。
パルミドは相変わらず貧乏臭いし、ゲルダとヤンガスの仲は進展しないし、トロデーンは悲惨な光景だし、ゼシカのお袋さんには意味もなく睨まれるし、修道院では自分が品行方正だったと錯覚おこしちまう様な乱痴気騒ぎが繰り広げられてる。
呑気にしてる連中にイラついて意地の悪い気持ちになったりもするし、サッサと空に行ってラプソーンなんて倒しちまいたいのに、エイトの奴が相変わらずの寄り道好きと錬金マニアぶりを発揮してくれるもんだから、そうもいかない。
きりがないから、そろそろ一発殴って、引きずってでもレティスのところへ行くとするか。

『四人全員が祈れた時、賢者の魂はひとつ・・・またひとつとオーブに宿りゆき救いの手を差し伸べるでしょう』
レティスがそう言うのを聞いた時、オレの人生はほんとに皮肉で構成されてると思ったね。
七賢者の命を守ってくれなかった神様に腹立てて、もう二度と祈らないって思った矢先に、七回も祈れだ? 何の嫌がらせだよ。
『暗黒神のもとへ急ぎましょう。すぐに行けますか?』
しかもレティス、気ィはえーし。
盾や兜なんて、四六時中身につけてるわけじゃない。少し時間をもらって装備を整え、エルフの飲み薬やまんげつそうなんかの道具も確認する。
何げなくゼシカの方を見ると、杖を手に深刻な顔をしていた。
鳥だから仕方ないのかもしれないけど、レティスもデリカシーが無い。
ゼシカにとってこの杖は、暗黒神に乗っ取られた時のことを思い出させる最悪のものだっていうのに、そんなものに向かって祈れっていうのは、ずいぶん酷な話だ。
「ゼシカ、大丈夫か?」
今はオレに心配されても嬉しくないだろうとは思うけど、つい訊いちまった。
「え? 何? ごめん、ちょっと考え事してたから、聞いてなかった」
「・・・いや、いい。何でもない」
心配したところで、他の手段を思いつくわけじゃないんだ。これはオレの自己満足でしかない。
827『ほしかったもの』後編4/5 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/12(木) 23:30:09 ID:Wim1SCbv0
「ねえ、この杖でラプソーンを殴っちゃダメかしら?」
「・・・は?」
あまりにも突拍子もないことを言われて、オレはマヌケな声をあげる。
「ほら、あいつって、自分を封じた岩を女神像に変えたご先祖様への当てつけで、私の身体を乗っ取ろうとしたじゃない?
そういうイヤミなことする奴には、こっちもそのぐらいのイヤミで返してもいいんじゃないかと思って。この杖で殴られたら、あいつきっと凄く悔しがるわよ」
「・・・いや、ダメだろ、それ。宿ってる七賢者が気の毒だ」
「あ、そっか・・・じゃあ諦めるしかないわね、残念」
・・・心配して損した。
オレだったらこんな杖、触るのもイヤだと思うだろうに、本当にゼシカは逞しい。そういうところ、半分とまでは言わない。1/10でいいから分けてほしいもんだぜ。

「ねえ、ククール。マルチェロから貰った指輪は?」
また唐突もないことを言われる。
「・・・持ってるよ」
「持ってるのはわかってるわよ。ちょっと出して」
何となく拒否するのも面倒で、オレは言われた通りに騎士団長の指輪を懐から取り出す。
「やっぱり、そういう無造作な持ち方してたのね。落としたりしたらどうするのよ」
「そんなヘマしねえよ。仕方ねえだろ。あいつ手ェごついし、おまけにそれ、手袋の上から嵌めてたんだぜ? ブカブカで、オレの繊細な指に嵌めたらそれこそ絶対落とす」
もうその件に関しては放っといてほしい。マルチェロの話題が出るたびに、ゼシカとの関係は気まずくなるだけだ。いい加減に懲りた。
「そう思って、これ、買っておいたの」
そう言ったゼシカの手には、細い銀の鎖。ゼシカはオレの手から指輪を取り、鎖に通してペンダントにしてくれた。
「こうして首にかけておけば、簡単には無くならないでしょう? はい、どうぞ」
差し出されたペンダントに、オレは手を伸ばさなかった。
「・・・もしかして気にいらなかった? 余計なことだっていうのは承知してるわよ。でもやっぱり口出ししないなんて私には無理。
だって気になるし、心配だし、放っておけないんだもの。この鎖も本当はプラチナとかにしたかったけど、あんまり高いのは手が出なくて・・・」
「いや、こういうのが欲しいと思ってた」
慌てたように弁解するゼシカに、ようやくかける言葉が見つけられた。
828名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/12(木) 23:30:56 ID:6j/WmMv10
リアル遭遇キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!
829『ほしかったもの』後編5/5 ◆JbyYzEg8Is :2006/01/12(木) 23:31:56 ID:Wim1SCbv0
「ゼシカにかけてほしいな」
「は?」
今度はゼシカがマヌケな声をあげる番だった。
「何甘えてるのよ、子供じゃあるまいし」
やっぱりな。さすがにそこまではしてくれないか。
「ほら、頭さげて」
「へ?」
「まったくククールときたら、中身がコレなのに背ばっかり高いんだから。届かないのよ、早く」
「あ、ああ」
言われた通りに頭を低くすると、ゼシカが背伸びをして、ペンダントをかけてくれた。
「・・・ありがとう」
何かいいよな、こういうの。
誰かが自分を気にかけてくれて、ささやかな優しさをくれる。世界中探したって、これ以上のものなんて、きっとどこにもない。
「何よ、しまりのない顔して」
かけてくれる言葉には優しさはないけどな。
「いや、この体勢だと、抱き締めてキスしたくなるなぁと」
覚悟はしてたけど、やっぱり殴られた。しかも顔の両側から挟むようなビンタ。痛い上に、見た目にも結構マヌケだ。
「あのねえ、そういう話は帰ってきてからにしてって言ってるでしょう? 何度も言わせないでよ」
・・・。
帰ってきてからなら・・・いいのか?
「用意できたのなら、サッサと行くわよ。今度こそ本当に終わりにするんだから」
ゼシカはもう戦闘モードに入ってる。いったいどういうつもりで、あんなふうに言ったのか、聞ける雰囲気じゃない。
・・・とにかくラプソーンを倒してからだ。
思えば杖に宿ってるのは人間だ。神にはごめんだが、かつて頑張った人間になら祈ることに抵抗なんてない。七回でも十回でも祈ってやるさ。
よし、テンション上がってきた!
『ゼシカだけを守る騎士』じゃなく、『一人の男として、ゼシカの大事なもの全てを守る』って、さっきは言いそびれちまったからな。
チャッチャとラプソーンはぶちのめして、泉での話の続きと、『そういう話』の続きをするぜ!
<終>
830名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/01/12(木) 23:40:57 ID:iKeAkx/IO
もう駄目だ、萌え死ぬ。助けて(;´Д`)


相変わらず乙でございます!!
831名前が無い@ただの名無しのようだ
背中越しトーク萌えーーーーーーーーーーー!!!!

いやあ盛りだくさんですね今回。しかし終わりが近付いてるのが寂しい。
『そういう話』もちゃんと書いてくれるんです、よね?よね?
ほんとJbyさんのはゲーム本編に忠実で、余計な脳内背景設定がなくていいなぁ。
ご自分でサイト作る気ないんですよね?どっか一箇所にまとめて読みたい。
(スレのまとめサイトさんではなく、Jbyさんだけの。)

2箇所、笑いました。
>>820 オディロ院長との思い出
これってこないだの囁きダジャレのことですかねw
>>826
レティスほんとに気ィはえーんだよ!あれあせったよ!