**アラオヒサシブリ(゚д゚)フローラ奥様のスレですわ・**26
あぼーん
「ケインさん…」
表情が見えないでいて、尚このどこか寂しげな声。ケインは一瞬にして不安の渦へと巻き込まれていく。
「私との結婚を望んだのは…」
一度言葉を切った。思うことさえも恐ろしいその先の言葉を、実際に音へと換えるのは躊躇われた。
しかし彼女の中の葛藤は、好奇の心が勝った。
「お父様の盾が欲しかったからなのですか?」
フローラから放たれた言葉は一つの歪みもなくケインに伝わった。
「私ではなく、盾が…」
ここ数日の間でどれだけの涙を流しただろう。それなのに今は、彼女は涙を零すことをしなかった。
鬱陶しいくらいに綺麗に輝いている太陽が、遠慮なく恵みの光を注いでくれている。
「俺は…」
フローラの後姿を見ていることなど出来なかった。俯いて、そしてフローラとは反対のドアの方へと体を向けた。
「俺は…」
言葉が喉に引っかかる。言いたくて仕方がないのに、ケインは続きの言葉を言えないでいた。
何度も、吐き出してでも口に出そうとしてみても、どうしても最後の門で言葉は止まってしまう。
遂にはこの場にいる事さえも苦しいと感じるようになり出した。
昨日まではあれほどに幸せを感じられた空間だったと言うのに、人の心の移ろいは目まぐるしい。
ごめん、と言う音、がちゃり、と言う音、きい、と言う音、ばたんと、言う音。その音の跡にはケインの姿はそこにはなかった。