【ぷる】スライムが好きでたまらない【ぷる】

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24名前が無い@ただの名無しのようだ
「ねえ、まだついて来るよ。あのスライム」
「ちょっとウザいな。かわいい女の子ならまだしも…」
「あんたって、いつもそーゆーのばっかり」

髪をかきあげながら肩をすくめるククールに、ゼシカは少々冷たい視線を送っている。

「あっしがいくら脅しても駄目みたいでガス。兄貴、どうしやす?」

ヤンガスに聞かれた僕は、ちょっと振り返る。
さっきから、ずうっと一匹のスライムが、
僕達の後から少し離れてぷわぷわと、ついて来てしまっているのだ。
さっきの戦闘で、他のモンスター達に襲われていたこのスライムを、
たまたま助けるような形になってしまったんだけど…

別にそんなつもりはなかった。
そのモンスター達が、僕達の方に襲いかかってきたので返り討ちにしただけの事だ。
僕達がその場を離れると、物陰に隠れていたそのスライムが
ぴょんと飛び出して、くるくると回り、うれしそうについて来た。
一撃で倒せる程すんごく弱いだろうし、なんだか殺してしまうのも気がひけて、
ヤンガスが何度も脅して追い払おうとするのだが、ぴゅっと逃げては、またついて来るのだ。
どうしたものか?

僕が考えていると、ゼシカが隣に並んできた。
「ね、もうちょっとあのままにしておこうよ。すごく可愛いもん」

そんな風な目、そんな風な声で彼女に言われると、うなずくしかなかった。

『モンスターは、モンスターを引き寄せる』
という記述を城の兵法書で読んだ事がある。少し気になるけど…
今の所無害だし、もうすぐ街に着く。
そうしたら、あのスライムもさすがに諦めるだろうし。
25名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/05 23:00:47 ID:DmbtCg7T
やがて街に到着した。
さすがに、大勢の人々の気配は怖いのだろう。
僕達が大門をくぐり抜けると、スライムはそれ以上はついて来られなかった。
ぴゅいぴゅいと、悲しげな声?をあげて迷っている。
『行きたいけど、ここは怖い。どうしよう。でもついて行きたい』
そんな様子が伝わってくる。

「もう帰りなさい。あなた、こんな所にいると殺されちゃうから」
言葉なんて通じないと思うけど、ゼシカが思わず説得している。

と、門の近くにいた2人のわんぱく坊主が、
まごまごしているスライムに気づいて『怪物退治だ!』と、小石を次々と投げつけた。
幾つかの石つぶてが当たった。
痛みに悲鳴を上げながら、スライムは逃げていく。
それを見た子供達は、一斉に歓声を上げて追い立てようとする。

「やめなさいっ、あんた達!」

ゼシカの表情が、みるみる怒りに染まってゆく。
その気配をいち早く感じ取ったククールが、すれ違い様に
その2人の子供の襟首をつかんで引っ張り戻した。

「そこまでだ。もう十分だ。これ以上外に出ると危険だぞ、坊主ども」
「あんた達ね…弱い者いじめして何が楽しいの!」

つかつかと詰め寄ってくるゼシカの顔が、限りなく怖い。

「…まあ、別の意味でもあれ以上やるのは危険ってことだ。
 片手でモンスター倒せる怖〜いねーちゃんがここにいる。
 しかも、おまえ達を怒ってるみたいだぞ。ほれ逃げろ」

小憎たらしく、べ〜っとゼシカに舌を出して子供達は駆け去っていく。
26名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/05 23:03:46 ID:DmbtCg7T
ムカッときたゼシカの肩に、ヤンガスが手を置いて留めた。

「これでいいでヤスよ。ゼシカお嬢」
「だって」

納得がいかないゼシカが、不満のこもった視線をヤンガスに向ける。
年上のこの元盗賊は、静かに口を開いた。

「いつまでも俺達について来てちゃあ、あいつもこんな目に遭うばかりでガスよ。
 あっしも、あいつと似たような思いをした事が何度もある。
 あいつは、住む世界が違う場所には、これ以上近づかない方がいいんでヤス」

「そっか…そうだよね」

素直にゼシカはうなずいた。
正義感が強くて気丈な彼女も、納得したようだ。
年下の僕を『兄貴』と呼ぶこのヤンガスに、僕は時々驚かされる。
27名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/05 23:05:01 ID:DmbtCg7T
「まあ、もしゼシカが一撃入れたら、あのスライム
 あっと言う間におだぶつだしなあ。丁度良かったんじゃないの?」

ククールがにやにやしている。

「あんたね…ってか、
 『片手でモンスター倒せる怖いねーちゃん』って、どーゆー事!」
「いや、片手で呪文だろ、怒るとメチャ怖いし…ウソは言ってないな、うん」
「こんのお……あ、待てっ!」

素早く街中へ駆け出したククールを、ゼシカがぷりぷりしながら追いかけてゆく。
残された僕達も肩をすくめて、街に入った。
ちょっと沈んだ雰囲気だったゼシカの様子も、ククールの軽口でたちまち消えてしまっていた。
それが、彼独特の優しさなんだろう。
彼女は全然、気づいていないみたいだけど。

まあ、とにもかくにも、結果的に追い払う事ができた。これで良しとしておこう。


僕達の考えは、甘かった。
翌日、街を出ると、どこからかすぐにあのスライムが飛び出してきたのだ。
28名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/05 23:06:07 ID:DmbtCg7T
うれしいのか、ゼシカの足元近くまで寄ってきて、
ぷわぷわと飛び跳ねている。
昨日の事もあって、わあっと反射的に思わず手を差し出したゼシカに、
スライムはぴょいと、彼女の胸に飛び込んできた。

「あははっ。あんた大丈夫だったの? 怪我しなかった?」

ぎゅっとスライムを胸に抱きしめている。
彼女の胸の中で、ぷるぷるとスライムが動いている。元気そうだ。

「かわいい〜っ!」

ゼシカは、輝かんばかりの笑顔に溢れている。
そんな様子をしげしげと眺めながら、ククールがヤンガスに耳打ちしている。

「(おい、なんかエロいな。あそこにスライムが3匹いるみたいだな!)」
「(う〜ん、どっちが柔らかいか、ってなモンでガスかねえ…揺れがすごいっす)」
「(くそ、あのスライムめ! 俺と替われ!)」
トロデ王も、何やらう〜むとうなずいている。

僕は聞こえない振りをする。とても会話についていけない。
ミーティアが、すぐ後ろでなんかそっぽ向いて
ひづめで地面叩いてるし…(確実に彼女には聞こえてる)
29名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/05 23:07:33 ID:DmbtCg7T
そんなこんなで、このスライムとしばらく一緒に旅することになってしまった。
なんていうか、『ゼシカのペット』という感じだろうか?
(それと彼女が抱き上げた時の、ククール達の目の保養という役割だろうか)

ゼシカは、「スラちゃん」という、安直な名前をつけて可愛がっている。
一緒に寝ている。エサを作ってあげている。何かと話し掛けている。

ヤンガスと少し話したけど、
『あっしも、あんまりいいことだとは思ってないですがね。
 でも、ゼシカお嬢も、きっと寂しいんでガスよ。
 なんだかんだ強がってても、兄さんを殺されて、家族とも離れて、
 一人の女の子が旅に出てる訳ですから。いつか別れは来るでしょうけど…
 最近は、もうちょっと、ここままでもいいかもって感じてるんでヤスよ』


別れは、突然やってきた。

僕達が、森の中で手強い相手に苦戦していた時のことだった。
足を滑らせて転んだゼシカに魔物の手が伸びた瞬間、
スライムが飛び出して割って入ったのだ。

とてもかなう相手ではない。
うるさそうに振り払われた。
スライムなら、こんなに強い魔物から本能的に逃げ出すはずだ。
それなのに、再びスライムは相手に飛びかかっていった。

「スラちゃんっ!」
ゼシカが立ち上がって体勢を立て直した時、
その目の前で、スライムの体が魔物の一撃で砕け散った。
30名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/05 23:09:33 ID:DmbtCg7T
激しい戦闘は、それからしばらくして終わった。
逆上してキレたゼシカの怒りに、その魔物達がかなうはずがなかった。
スライムの体は粉々になって、溶け込むように地面に吸い込まれ、
生き返らせる事もできなくなっていた。

先程の戦闘の様子からは想像できないくらい、
力無く地面にへたり込んでいるゼシカがいる。
両手で、スライムが消えていった所を何度も何度も撫でている。

「ごめんね、ごめんね…」

ポロポロと彼女の頬をつたう涙が、地面に吸い込まれていく。
そんな彼女の隣にククールが膝をつき、小刻みに震えている肩にそっと手を置いた。

「ゼシカのせいじゃない。誰のせいでもないさ。
 あいつは、自分がそうしたくて戦ったんだ。
 誰に頼まれたのでも、命令されたのでもなく」

静かな沈黙が、森の中に訪れる。
聞こえるのは、ゼシカのすすり泣きだけだった。
と、突然大声が上がった。ヤンガスだ。

「生き様、しかと見届けやした!」

斧を高々と掲げ、天にも届けとばかりに、大音声が辺りに響き渡る。
31名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/05 23:11:36 ID:DmbtCg7T
少しあっけにとられた皆が注目する中、ヤンガスはゼシカににっこりと微笑んだ。

「俺達がこれからの戦いで生きて戻ってくる事。こいつを忘れないこと。
 それが何より、こいつが体を張って生きた証になりやす」

「うん…そうだね。そうだよね」
「さ、みんなで、墓を作ってやりやしょうや」
「うん」

涙をぬぐって、ゼシカは素直にうなずいた。
土を盛って石を立て、墓を作った。
静かに皆で祈りを捧げ、僕達は立ち去った。

まだ、僕達の旅は続く。
これから先、幾度も魔物達と戦うことになるだろう。

「(できれば、もうスライムとは戦いたくないな)」

僕は、そう思った。