ある意味王道
2 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 23:03:55 ID:H8RV5VfG
『煮解賭 ( にげと ) 』
明朝末期、中國北東部の男達の間で、素麗建(すれたて)なる遊びが流行っていた。
先端に旗をくくりつけた棒を地面に立て、合図と共に棒に駆け寄り旗を奪い合
うという、己の機敏さを誇示する遊びであった。
やがてこの遊びに飽きた者達が、毒草を煮込んだ煮汁を飲み、その解毒剤を旗代
わりにして奪い合うという遊びに発展させた。
命を落とす者が続出したが、戦いに勝利したものは英雄として賞賛され、朝廷に
仕える者を輩出するほどであった。
この毒草の煮汁の解毒剤を賭けた闘いは「煮解賭」と呼ばれ、時代を左右する勝
負の場でも競われてきた。
己の肉体を誇示する機会の少なくなった現代社会においては、インターネットで
の「2ゲット」と形を変えて、現代人が機敏さを争っているのである。
民明書房刊「できる!これであなたもイソターネット」より
3 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 23:04:45 ID:H8RV5VfG
『惨解賭(さんげと)』
『煮解賭 ( にげと ) 』に失敗した者のこと、運良く生き延びたものの生涯にわたってその恥を晒し。
恥を忍ばねばならない。
民明書房刊「できる!これであなたもイソターネット」より
「四外途(よんげと)」
>>2、
>>3で記されているとおり、煮解賭・酸下吐が明朝末期に流行したのだが
当時、四順(よん・じゅん)という東の半島出身といわれる者が
煮解賭・酸下吐の名人と言われていた。
ところが四は実際には煮解賭・酸下吐の名手でも何でもなく
ただ時の瓦版出版者で大富豪だった蝦正日(えび・じょんいる)と
宦官田通(でん・つう)のお気に入りというだけで
彼の出場した煮解賭・酸下吐に関しては全てデキレースだったと言われている。
明代はTVは当然のことながらその他庶民が情報を知る術は殆ど無く、
首都以外においては蝦が発行する瓦版得鵺治恵(えぬえいちけい)が
庶民が情報を知る全てであった。
しかし瓦版を読んで、四の出場する煮解賭・酸下吐を観戦にきた庶民の多くが
実際の四を目撃してもなお四を英雄と崇め、「四様」と称されたと言う。
一方で、四の人気なるものが蝦・田の捏造だと見破った一部の者は
「人の途に外れた四」と言うことで、四外途と彼を嘲ったと言われる。
現在において「4ゲット」が「2ゲット」「3ゲット」と違って嘲りの対象でしかないのは
このことが原因ともいえる。2ゲット・3ゲットと違って
4ゲットには何の己の実力も必要としないからであろう。
( 民明書房刊 「DNAに刻まれた中國 現代人の行動のルーツを探る」 より )
5 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 23:10:44 ID:8YgqJ1uh
SSまだー?
110 名前: 1/6 [sage] 投稿日: 04/05/02 03:16 ID:mJOFwvZm
「おお、サトチー。なんと水のリングを手に入れたと申すかっ!」
その丸々と太った男、ルドマンは嬉しそうに立ち上がった。
「はい……これが水のリングです」
サトチーと呼ばれた男の手の中には、とても美しいリングがある。
一瞬我を忘れ、水のリングに見とれるルドマン。
「……ゴホン! サトチーよ、素晴らしい働きであった!約束通りフローラとの結婚を認めよう!
フローラもサトチーが相手なら文句は無いであろう?」
ルドマンはフローラに視線を移す。
「ええ、お父様……。……? そちらの女性は?」
サトチーの背後には金髪の女性が立っていた。
金髪の女性――ビアンカは辺りをきょろきょろと見回した。少し経って自分が呼ばれた事に気づく
「……え? 私? ……私はビアンカ。サトチーとはただの幼なじみで……」
そういえば、どうして私はサトチーについてこの屋敷に来たのだろう?
そう考え、わざと用事を思い出したようにビアンカは慌てた。
「さ、さあてと! 用も済んだことだし、私はこの辺で……」
間髪入れず、フローラは立ち上がった。
「お待ちください!」
111 名前: 2/6 [sage] 投稿日: 04/05/02 03:18 ID:mJOFwvZm
「もしやビアンカさんはサトチーさんの事をお好きなのでは……?
それにサトチーさんもビアンカさんの事を……
その事に気付かず私と結婚して、サトチーさんが後悔することになっては……」
ルドマンは、そんな娘の突然の言動に動揺した。
「ま、まあ落ち着きなさいフローラ。……では、こうしたらどうだ?
今夜一晩、サトチーによく考えてもらって、
フローラかビアンカさんか選んでもらうのだ……うむ、それがいい!
今夜は宿屋に部屋を用意するから、サトチーはそこに泊まりなさい。
ビアンカさんは私の別荘に泊まるといい。……いいかね?分かったかねサトチー?」
ルドマンのあまりの強引さに半ば呆れるサトチーとビアンカ。そしてフローラ。
しばらく戸惑ったが了承をし、サトチーはサラボナの宿屋へと足を運ぶ。
「ふう……ルドマンさんったら唐突過ぎるよ」
「結婚……結婚か。そういえばビアンカは綺麗になったなあ。
お化け退治の頃は僕より元気だったのに……あんなに色っぽくなってるなんて。
それにフローラさんも気品の良さが感じられる素晴らしい女性だ……
……ああ、どちらを選んでも僕は二人を傷付けてしまうことになるんだ……」
苦悩するサトチー。
「ビアンカ……ビアンカか……フローラさん……フローラさんか……」
112 名前: 名前が無い@ただの名無しのようだ [sage] 投稿日: 04/05/02 03:19 ID:mJOFwvZm
翌日 ルドマン廷
「よく来たなサトチー。さあ、決断はしたかね?」
ピリピリとした空気が敷き詰める部屋の中で寛ぐルドマン。
呑気なものだ。
「さて、それではサトチーが選んだ方に話し掛けるがいい」
サトチーはビアンカとフローラを見やる。
恥ずかしくてまともにサトチーの顔が見れずにうつむくビアンカ、
サトチーと一瞬目が合ったが、顔を赤くしてつい目をそらしてしまうフローラ。
サトチーはビアンカとフローラの真ん中に立つと、
正面にいる男性の両手を握り締めた。
「ルドマンさん……あなたには奥さんがいる。
そんなあなたの手を取る僕を最低の男だと罵ったって構わない。
でも……僕はあなたの強引さに惹かれてしまったんだ」
その言葉を聞き、ビアンカとフローラの目が点になる。
「な、な……な、なんと、この私が好きと申すか!?
そ、それはいかん! もう一度考えてみなさい!!」
さすがのルドマンも、予想だにしなかったサトチーの行動に動揺を隠せない。
だが、サトチーはルドマンのふくよかな両手を離そうとはしなかった。
「逃げないでください! 好きです。好きなんだ……ルドマンさん」
サトチーは真っ直ぐな目でルドマンを見つめる。
心を丸ごと包み込んでしまうようなサトチーの優しい目……
それによってルドマンの瞳は潤み、心は崩壊寸前だった。
「い、いかん……落ち着くのだサトチー! 考えてみなさい、私達は男同士ではないか!」
ルドマンは力を込め、自分の手を掴んでいたサトチーの手を振り払う。
「何故ですか? 男だからって……あなたを好きになるのはいけないことなんですか?」
サトチーの目は真剣そのものだった。
「サトチー……」
今度はルドマンがサトチーの手を握る。
途端に、サトチーの表情が明るくなった。
「サトチーよ……わしのケツの穴は締まりも悪いしイボ痔だけど……
……よろしくな」
最後の方は小声でとても聞き取れなかったが、サトチーにはそれで充分だった。
ガシャーン!
結ばれたサトチーとルドマンに何かが投げつけられた。
振り返ると、鬼のような形相を浮かべた貴婦人が……ルドマンの妻だ。
妻は、ルドマンが趣味でコレクションしていた食器、壷、女神像などをぶつけてくる。
「あなた、私への気持ちは嘘だったんですか!?
あの時、永遠の愛を誓い合った私への気持ちは!!」
泣きじゃくり、広間にあった椅子を持ち、彼女はルドマンの方へ向かってきた。
「あなたを殺して私も死ぬわーっ!!」
しっかりとした造りの椅子の足が、ルドマンを狙う。
「危ない!」
サトチーの機転により、ルドマンの妻の特攻は辛うじてかわすことができた。
114 名前:5/6[sage] 投稿日:04/05/02(日) 03:22 ID:mJOFwvZm
「ルドマンさん、逃げましょう! どこか遠くへ!」
ルドマンの手を取り、屋敷の入り口へ向かうサトチー。
しかし、サトチーの足は止まった。
入り口付近に二人の女性がいたからだ。
「サトチー……」
「お父様……それにサトチーさん……」
軽蔑……絶望……それらを含んだ瞳がサトチーとルドマンに投げかけられる。
「ビアンカ、フローラさん……すまない。僕は……」
ちらりとルドマンの方に目をやると、再び正面を向き、サトチーは屋敷の門をくぐる。
騒ぎを聞きつけ、ぞろぞろと集まってくる町人の視線さえ気にも止めなかった。
それだけ、サトチーにとってはビアンカとフローラの視線は痛い物であった。
無我夢中で走る二人。
「ハァ、ハァ……ヒィヒィ……ゼェゼエ……」
サトチーに手を引かれているものの、彼のスピードには到底付いて行けず、ルドマンは息切れを起こした。
「すいません、ルドマンさん。でも、もう少しすれば町の外ですから」
サトチーはルドマンの体を持ち上げ、抱えた。
「おおお!? サトチーよ……」
いわゆる「お姫様抱っこ」というやつである。
ルドマンの丸々とした肉体を抱え、必死で馬車へと走るサトチー。
その異様な光景は、後にサラボナの伝説となり、それを元にした絵画や饅頭が売り出されたとかなかったとか……
115 名前:6/6[sage] 投稿日:04/05/02(日) 03:23 ID:mJOFwvZm
半年後――。
ルドマンは、サラボナに残してきた妻と娘に手紙を書いていた。
私の残した財産と屋敷は慰謝料として受け取って頂きたい……という内容の手紙を。
「何を書いてるんだい?」
ルドマンの手紙を、興味深そうに覗き込むのはサトチーだった。
「な、なんでもない」
サトチーに見られまいと、手紙を自分のふくよかな手でそっと覆うルドマン。
「ふふ、そう言わずに見せてごらんよ。ルドマンは恥ずかしがりやなんだね」
「何を言うか。サトチー……いや、あなたも意地が悪いな……ぽっ」
ぎこちないながらも、その微笑ましいやり取りは
まさに新婚夫婦そのものであった。
そう、愛はすべてを乗り越えるのだ。
この先どんな困難が待ち構えていても、
サトチーとルドマンはそれを乗り越えて行くことであろう。
たぶん。
ドラゴンクエスト5 −天空の花嫁− 完
冷静に考えると、たった一晩で相手を決めろってのもひどい話だ。
といっても、この場合10分考えても10日考えても結論は同じだと思うが。
何度考えてもルドマンだった
15 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/16 12:52:07 ID:febxIyOD
ルドマンと結婚したいと思った奴は
全国に何人くらいいるのだろう・・・
ルドマンって何歳だろ
ハゲでデブなオヤジのに何故ここまでDQユーザーの心を掴んでしまうのか
ビアンカかフローラを考えてるくせに
本命はルドマンかい・・・
ルドマンが一番抱き心地が良かったんだ
20 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/17 04:02:04 ID:bHuuw8Pm
本命はブライだから髪型の似てるルドマンで妥協
21 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/17 14:08:22 ID:sGrgojM4
ブライ=痩せ型、魔法使い、よってあの髪型に威厳が感じられる、アリーナ姫の教育係
ルドマン=トルネコ体型、魔力ゼロ、金持ちなだけ
22 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/18 00:28:28 ID:f653tQSl
最高じゃないか
23 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/19 23:52:03 ID:E2G6USBH
ルドマン関連のイベントは嫌いだが、プロポーズを申し込める所は○
このオヤジは押し付けがましくて嫌だ
結婚が申し込めなかったら嫌いなままダターヨ
はげ
主人公と結婚すればルドマンも天空の血を引いてることになるのだ
主人公と結婚すればルドマンも天空の血を引いてることになるのだ
きっと体液交換で伝染するんだな
29 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/27 01:20:38 ID:FYWIVrzV
主ルド最高
「うー……ん……はっ? ここは……」
ここはサラボナの宿屋の一室。
サトチーは、ルドマンの計らいによりこの部屋を提供された事を思い出した。
そして、同時に花嫁選びの事も思い出す。
「そういえば、明日……いや、もう今日か?
僕が決めなくちゃならないんだ。ビアンカか、フローラさんかを」
サトチーは上体を起こし、傍にあったタオルに手を取った。
「やれやれ、汗だくだ」
顔を拭き、おもむろにベッドから降りる。
「寝苦しいな……眠れそうにないや」
「おや、どうしたんだいサトチーさん?」
こんな真夜中にどこへ行こうというのかとでも言わんばかりに
宿屋の主人は怪訝な顔つきでサトチーを見た。
「あはは、ちょっと風に当たろうと思って。少し出てきてもいいでしょうか?」
それを聞いた主人は、ふっと笑った。
「そうだな、悩むのも無理はないぜ。結婚っていやあ、一生の問題だからな。
散歩でもして、頭を冷やせば考えがまとまるかもしれないぜ。
ま、がんばんなよ、サトチーさん」
宿屋の主人に励まされ、少し勇気が湧いてきた。
確かに、結婚とは一生の問題なのだ。
自分の選んだ女性を、人生の伴侶として迎える。
降りかかってくる責任も重大なのだから。
正直、サトチーの中には後ろめたい気持ちもあった。
この街に留まった最大の理由は天空の盾。父からの手紙にあった伝説の武具、天空の勇者。
最初は結婚など頭の中にはなかった。
サトチーはフローラの婿候補として名乗りを挙げ、家宝の天空の盾を受け取り、
フローラをこのサラボナに残しそのまま蒸発するつもりだったのだ。
奴隷生活から解放されたサトチーを動かしていたのは
父の意思、父の仇、――はっきり言えばそれだけだった。
しかし、命懸けで挑んだ死の火山。
帰還したサトチーと負傷したアンディの身を案ずるフローラ。
水のリングのために立ち寄った山奥の名もない村での、懐かしい人との再会。
子供の頃のお転婆が嘘だったみたいに美しく成長したビアンカとの冒険……
そうこうしているうちに、自分の中で眠っていた何か暖かいものが蘇ってくる感じがした。
「そういえば、ビアンカはルドマンさんの別荘にいるんだっけ……?」
ルドマンの別荘は街の南西にあり、その窓からは小さな明かりが漏れている。
「ビアンカ、まだ起きてるのかな?」
「あら、こんな真夜中に……どうしたの、サトチー?」
ビアンカはいつだって明るい。
幼い頃、二人でレヌール城を探検し、怖くて泣いてしまったサトチーを
一生懸命励ましてくれたのもビアンカだった。
こんな時でも、いつものように明るい笑顔を見せてくれるビアンカの姿を見て、
サトチーはホッと息をついた。
「やっぱり、明日の事で悩んでるの?」
ビアンカの問い掛けに、サトチーは言葉を返せなかった。
「あのね、サトチー。もう十年以上前になるかしら……
サンタローズの村が滅ぼされて、サトチーやパパスおじさまが行方不明になったって聞いた。
でも、私……サトチーとおじさまは絶対に生きてるって信じてたわ。
あれから何度か、サンタローズに行ってみたりもしたんだから」
「そのうち私もアルカパから離れる事になって……複雑だった。
勿論お母さんによくなってほしかったから賛成はしたんだけど……
ただ、サンタローズに行けなくなるのが怖かったんだ。
ここを離れたら、もうサトチー達に会えなくなるような気がして」
ひと息つくと、ビアンカは一際明るい声色で話を続けた。
「でも、やっぱりサトチーは生きていたのよね!
それもこんなに逞しくなって! 私、あの時は嬉しくて、それに―ー」
次の言葉を待つが、ビアンカは夜空を眺めたまま、何も言わない。
ただ、ビアンカのブロンドの髪が夜風に当たり、さらさらと流れていた。
「……ごめんなさい。こんな大変な事になっちゃったのは私のせいだもんね。
私ね、サトチーと再会できたのが本当に嬉しかったの。
行方不明だったサトチーと無事に会えて……だから、サトチーを離したくなかった。
やっと会えたサトチーがまたいなくなっちゃうなんて悲し過ぎるもの。
でも、そのせいで、サトチーだけじゃなくフローラさんにも迷惑をかけてしまうなんて……
……私は……サトチーよりも自分の事ばかり考えてたんだわ……」
暫しの静寂が流れた後、ビアンカは顔を上げ、複雑そうな顔をしていたサトチーに向き直った。
何かを噛み締めているような様子が垣間見えたが、
振り向いた彼女は明るい表情を浮かべていた。
「だけどね、サトチーに幸せになってほしい。
明日だって悩む事はないわ。フローラさんは気配りの出来る優しい人だと思ったし、
それに、元々サトチーはフローラさんと結婚するために…指輪を……
……けど大丈夫よ、私は今までだってずっと1人でやってきたんだもの。
私はサトチーと再会できただけで充分幸せ……本当よ、サトチー」
微笑むビアンカを見て、何だかやりきれない気持ちになった。
本当は泣きたいくせに強がりを見せて――そういうところは10年前とちっとも変わっていない。
ビアンカはいつだってそうなのだ。
もっとも、一緒にお化け退治をした頃のサトチーは幼く、
彼女が強がるところを見て、「すごいや、ビアンカって強いんだなあ」などと思っていた。
しかしサトチーも成長し、物事の見方も変わってきた。
今、目の前で強がっているビアンカは、とても華奢で、どこか寂しそうで。
「ビ、ビアンカ、僕は……」
何かを言いかけたが、ふとビアンカが怪訝な表情を浮かべているのに気が付いた。
「どうかしたかい、ビアンカ?」
「どうかしたかじゃないわよ……サトチー、汗びっしょり……ここ、そんなに暑いかな?」
ビアンカは周りをきょろきょろと見渡し、ぱたぱたと手を仰いだ後、
手の甲で額の汗を拭うサトチーにハンカチを差し出した。
「もっとしっかりしなきゃダメじゃない。ほら!」
「すまない、ありがとう」
サトチーは恥ずかしそうにハンカチを受け取った。
「さてと、そろそろ眠った方がいいわよ。サトチーは疲れてるんでしょ?」
そういえば最近ろくに寝ていない事をサトチーは思い出す。
「ん。そうだなあ、そうしようかな。ビアンカはまだ寝ないのかい?」
「私は……もう少しここで夜風に当たってるわ。
ここから見える星空がとても綺麗だし……それに、なんだか眠れなくて」
少し寂しそうに呟くビアンカに就寝の挨拶をすると、
サトチーはルドマンの別荘をあとにした。
「ふう……」
サトチーはため息をつき、夜空を見上げる。
「本当に、綺麗な星空だな……」
宿屋に戻ろうとしたが、遥か前方にある建物から灯りが見えた。
そこは他でもない、ルドマンの屋敷。
「明日、ここで決めなきゃならないのか……」
「わんわんっ!」
びくり。
屋敷の門に近付いた所で何かに吠えられ、
腰の父親の形見の剣に手を伸ばそうとした――が、鳴き声の正体が分かると、
ホッとして再び元の動作に戻る。
「なあんだ、リリアンか……びっくりするじゃないか」
リリアンと呼ばれた犬の頭を撫で、落ち着かせると、
「あの部屋から灯りが……挨拶ぐらいしなきゃな」
そう言い、屋敷の中へと入っていった。
階段を上り、サトチーは家族の寝室の前に立つ。
すると誰かの気配を感じたのか、静まり返った寝室の方から足音がする。
ゆっくりと、サトチーの方へ近付いてくるその影の正体は――。
「そこにいるのはサトチーか? どうしたんだね、何かあったのかね?」
やはり――この屋敷の主人のルドマンだった。
ルドマンは片手にランプを持ち、不思議そうに訪ねた。
ランプの光で、廊下に立つサトチーとルドマンの姿がギラギラと照らされる。
「夜分遅くにすみません、ルドマンさん。明日のことで挨拶をしておこうと思いまして。
ところで、フローラさんは?」
「うん? フローラならもう休んでいると思うが……なんなら起こそうかね?
サトチーが会いに来てくれたのだ、フローラも喜ぶだろう」
「い、いえ、とんでもありません。ご迷惑でしょうし」
「そうかね。ところでサトチー、少し話があるのだが……
いつまでも廊下で話すわけにもいかんだろう。私達の部屋へ来なさい」
そんな会話を交わした後、サトチーはルドマン夫妻の寝室へと招かれた。
寝室の机にランプを起き、小さめの机の下にある椅子にルドマンは腰掛けると、
その机の向かいにある椅子にサトチーを誘導した。
「で、話と言うのはだ……サトチーよ、本当にお前は大した男だ」
「はい?」
「本当に2つのリングを集めるとはな……君は私の期待していた以上だよ。
素晴らしい働きをしてくれた」
しきりに褒め称えられ、サトチーは照れくさくて何だか身体中が痒くなってきた。
「よしてくださいルドマンさん。ケツ……お、お尻が痒くなってくるじゃないですか」
二人は談笑し、落ち着くと、再び真面目な表情に戻る。
「で、だ。話と言うのは、明日の花嫁選びの事でな……
私は本当に君が気に入ったのだよ! もし君が娘を選ばなくても
結婚式の方は私に任せなさい。ラインハットにいる君の友人にも招待状を書いておくからな」
その言葉を聞き、サトチーは立ち上がった。
目は真っ直ぐにルドマンの方を向く。
「ルドマンさん、どうしてです? どうして浮浪者同然の僕に
こんなによくしてくれるんですか?」
そう言ったサトチーの両肩はがたがたと振るえ、
充血した瞳には涙が浮かんでいるような気がした。
「何を言うか、サトチーは大した男だよ。
それに、考えてみるがいい。うちのフローラと君の連れのビアンカさん。
二人とも君に惚れ込んでいるようではないか、ハハハ」
どこまでも陽気に振る舞い、ふくよかな手でサトチーの肩をぽんと叩く。
「……ルドマンさん。何か、隠してないですか? 結婚とは何の関係もない、何かを」
唐突な言葉を聞き、ルドマンの顔色が変わったのをサトチーは見逃さなかった。
「な、何を言っておるのだ! そんな事はないぞ。
私はサトチーが気に入ったのだよ、気に入った男の手助けをせんわけがないであろう?」
必死に誤魔化すルドマンを見て、サトチーは小さなため息をこぼした。
「僕は、隠していました。
あの時、フローラさんの婿候補として名乗り出た本当の理由を」
「何を言っておるのだ、サトチー!」
「僕は旅人です。どこへ行くでもない、言うなればあてのないの旅をする放浪人……
そんな僕があなたのような立派な人の娘さんをお嫁に貰おうだなんて」
「それでは……何か別の目的でもあったのかね?」
率直な質問に、サトチーは顔を背ける。
「……それは言えません」
「ふむ……そうかね」
ルドマンは肩を落とす。
「だけど、ルドマンさんには感謝しなければ」
「ほう?」
「……結婚なんて頭になかった。確かに最初はそうだったんです。
こんな事話しても信じてくれないでしょうけど……少し前まで僕はとある神殿の奴隷でした。
辛い作業を朝から晩まで繰り返し、時には監視人のムチに怯え、死にそうになりながら
夜を待ち、死んだように眠る……毎日がそれの連続でした。
同じ奴隷仲間にヘンリーっていう友達がいて、挫けそうな時は励まし合ったりもしました。
けど、無気力、無感動、無関心、そんな日々を送り、
僕は次第に時間の感覚をも失って、気が付いたら10年もの月日が流れていた。
その間に、僕の中の人間として大切な物が抜け落ちてしまったんだと思います。
だから、結婚なんて、と……」
話を聞き、ルドマンの表情が曇る。
人当たりの良いサトチーにこんな過去があったとは……
あまりに衝撃的な事実が胸にぐさりと突き刺さり、ルドマンの頬に涙がつたう。
「サトチーよ、苦労したのだな……」
そう言い、目を潤ませるルドマンを見て驚きを隠せなかった。
「僕の為に泣いてくれるんですか……? ルドマンさん、ありがとうございます……ありがとう……!」
サトチーも涙をこぼした。
「それでも、このサラボナに来てよかったと思います。
街の人達が暖かく迎え入れてくれ、心の中が暖かくなっていくのを感じた。
フローラさんの優しさに触れ、荒んだ心が癒えていくのを感じた。
それから、幼なじみのビアンカと再会し、生きていく楽しさを見いだせるようになった。
……これも全て、このサラボナに立ち寄ったお陰です。
ルドマンさん、ありがとうございます……本当にありがとうございます」
言い終わると、瞳に溜まっていた涙がぶわっと溢れ、
サトチーはその場で声もなく泣き崩れた。
それを見たルドマンは、震えるサトチーの背中を優しくさすってやった。
そういえば僕がまだ小さかった頃、よく父さんもこうしてくれた――大好きだった父さん……。
父、パパスとの思い出が胸の内から込み上がってくる。
様々な感情が入り混じり、サトチーは、泣いた。
「サトチー、それで花嫁選びの方はどうするのかね?
中止にするわけにも……結婚式の事など、こちらにも事情があるのでな」
ルドマンは困り顔だった。
急に現実的な事を話し始めるので、サトチーはハッとなった。
「大丈夫です……僕はあなたに恥をかかせたりはしません」
「そうか! それでは明日はこの屋敷へ来るのだぞ?」
「はい!」
澄んだ笑顔で、サトチーは爽やかに返答した。
話が終わると互いに就寝の挨拶を交わし、
サトチーはまた宿屋へと戻って行った。
ルドマンは大あくびをかき、疲れた体を休める為に柔らかいベッドへと足を運ぶ。
ただっ広いダブルベッドのシーツをめくり、そこへ丸々とした体を横たえた。
その傍らには、ルドマンの最愛の妻である美しい貴婦人が
とても幸せそうな顔をして眠っていた。
43 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/28 00:09:13 ID:DefXj8rB
続き蝶期待あげ
44 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/28 01:07:37 ID:ufzqp/h8
45 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/28 16:46:17 ID:BXaZlIAb
サトチーって名前が・・・・
やっぱ駆け落ちですな
47 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/31 14:59:10 ID:hiwLXjLN
絵になるな
みんな、文章がうまいなぁ。
しゅるど
50 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/03 23:11:21 ID:sT7N7WNZ
ルドマンの腹に顔をうずめる主人公とか
51 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/06 17:47:04 ID:XGDrHfqF
デブおやぢとターバン男の淡い恋・・・・・
やばい俺たってきちゃったよ
泣かせるぜ…
54 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/09 04:43:57 ID:HEPOwdN1
保守
なんかしっぽりしてていいな・・・
56 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/10 09:40:47 ID:e6fv8fYG
もっとカプばなしようぜ
ルマンド食べたくなってきた
みんな、フローラやビアンカやルドマンも良いが、玄関にいるおばちゃんにもプロポーズできるのをお忘れではなかろう?
59 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/13 00:47:22 ID:eDiKWwvS
よし、ここは主人公×ルドマンのスレだが
主人公×おばちゃんでカプばなも加えよう
60 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/13 19:28:32 ID:zGTAWZo+
SSまだ〜?(チンチン
61 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/13 22:49:12 ID:/iozQQNw
ルプガナとカプばなは似てる
62 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/15 19:14:18 ID:rld4B1Pf
もょもと×グレムリンでルプがな〜
おばちゃんは夫子持ちですか?
クリックしてみたら
なんと良スレ
65 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/21 14:51:37 ID:ZhxK9u2C
66 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:
ルドマンって夫が国王だって知らないんだよな?
牛豚みたいな怪物が復活するってのを知ってて説明も無しに
大国の王様を封印のツボに追いやったり、
説明した後に一番目立つ場所に生け贄のごとく王様を
置き去りにするわけないもんな。