DQの周辺  

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1名前が無い@ただの名無しのようだ
DQ辺りのスレ
2名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:09:23 ID:OXWPixHs
うんこすれ
3名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:09:27 ID:MCL41qVb
2辺りをゲット
4名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:09:57 ID:DxYCeezC
なかなか死なない


暗い岬の洞窟の更に奥深く、地下2階の階段を上がると見えて来たのは研磨された美しい岩の壁だった。
勇者は初めて塔に入った。彼女がキョロキョロと見回しているのはナジミの塔の地下一階。
赤い塔は、アリアハン大陸内海に浮ぶ孤島にあった。晴れた日はアリアハンの家屋からも望めたものだ。
その赤い階段をもう慣れた様子で上へ上へと勇者は上って行く。
先頭を行く武闘家は、若い勇者と戦士を引っ張る、三人パーティーの中では比較的旅慣れた壮夫である。
どこかはんなりとした大男で、冒険初頭は二人の若者を何気なくしかししっかりと連れて歩いた。
若い戦士の方は、これも大男で勇者に恋している。

ナジミの塔の最上階。一人の老人が勇者を待っていた。
待ち切れなかったのか、彼女がまだ階段を上り切らない内に老人は話し掛けて来る。
「よくぞ来た」
最上階の部屋は洒落ていて明るい。この老人の気質を表している様だった。
「あなたがこの塔に現われる夢を見た。さぁ、夢の通りこれを渡そう」
老人は赤茶けた小さな鍵を勇者に渡した。盗賊バコタから彼が奪った鍵。
勇者はその鍵を見詰めながら受け取り、老人に笑顔を見せる。
勇者の感慨深かげな瞳を見て老人は感じたままを問う。
「盗賊は嫌か」
「…。でも盗賊の行いが私達の助けになる事も多くありそうですね」
「そうだな。夢でもあなたはそんな事を言っていた」
勇者は老人と少し話をした。
勇者はアリアハン城牢獄に閉じ込められていたバコタも相当の戦士と思ったが、この老人はそのずっと上を行く手練れと感じた。
初めて、この老人を見た瞬間から解っていた。これ程の強者が塔で一人切りで、
(あたしを待っていたの?)
勇者がそう思ったのは、老人が適当に話を切り上げ
「さぁ、儂は夢の続きを見るとしよう」
とベッドのシーツに包ってしまった時だ。その続きの夢にも女勇者はきっと登場するのだろう。
女勇者の未来を気にして、楽しんで、老人はこの塔で一人夢の続きを見るのだろうから。
5名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:12:18 ID:DxYCeezC
「どんな」
勇者の低い嗄れ声は聞く。夢に何の魅力があるのか気になった。
「どんな夢を見たんです。私はただ鍵を貰っただけ?」
その勇者の言葉に老人はベッドから少し起きて、目を開き言った。
「それは…」
夢よりもずっとエロティックな女の低い声。こちらの下半身を押し上げジワリと体に響く。
「この鍵が欲しければ…と、あなたに色々と強要したのだ」
女勇者は老人の言葉にほんの少し動揺、昂揚している。
その彼女の様子に、隆起した胸に、老人は魂をもぎ取られた様になって喉から言葉が溢れ出す。
「もうそんな夢は見ない。でも見たら、ごめん」
勇者は不機嫌な顔を老人に見せ、その後少しだけ妖しく笑った。
勇者の仲間、男二人は遠く離れてその男女を見ていた。

老人と武闘家と戦士、男三人は簡単な出会いをして別れる。
勇者は盗賊の鍵で扉を開け、老人の部屋を出る。
戦士は、勇者と老人が二人切りで話していて面白くなかった旨を武闘家に言う。
勇者への好意結構だが、戦士は武闘家にも喧嘩を売っている。
武闘家が勇者と二人で話す事など何度もあったから。


ナジミの塔の老人の夢。その続きで勇者はゾーマに会う。
勇者は16才で旅を始め、18才で彼を見た。
ゾーマは勇者の青春である。
その上この女勇者は…ゾーマとの愛と絆があった。
老人は勇者に思った。人の男のエゴかとも思いながら、人間の男を愛してその男の側に居てくれと。

勇者の仲間の武闘家も、この勇者とゾーマの深い関係を感じていた。
武闘家は勇者と共に大魔王(ゾーマ)の所まで行こうと思うようになっていた。
ゾーマが勇者に触れる前に、この拳で倒す。
6名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:14:05 ID:DxYCeezC



勇者に取って二個所目の塔、彼女の足取りは迅速だった。
彼女はカンダタに怒っていたのだ。盗賊カンダタ。見た事はないけれど。
この塔、シャンパーニの塔にカンダタが居た。
塔の5階から階下を覗いていたカンダタ子分Cが勇者達を見付ける。
我々では勝てないかも知れない。そばに居た兄貴分のAとBに黒装束を着るようCは言った。
「なんだ、なんだ。誰か来たのか」
美貌の子分Aがのん気にCの元に来て、彼と一緒に階下を覗いた。
その瞬間、Aは素早く戦闘の用意を始める。
Bもパワーナックルをはめていつでも戦える形となった。
カンダタはその頃風呂に入って喉を振るっていた。おもちゃを泳がせていた。
4階に子分AとCが下り、Bは5階で待機する。
歌い上げるカンダタ顔を上げると、虫の死骸が天井から落ちて来て口に入った。カンダタげーごー吐いた。
4階で子分Cと武闘家が出会う。
知将のCは慌てながらもその才知で武闘家を翻弄しようと試みたが、その大男はヌルヌルと話をかわし上手く行かない。
「もういいだろ」
武闘家の美しく豪奢な声がその場の空気を変えた。
そして軽そうに体を跳ねさせ戦闘態勢に入り、Cを見ながら少し口の端を上げる。
その笑顔は妖しいのだけれど爽やかで、子分Cは(殺される)と思った。
Cは逃げた。
Aも戦士を見た瞬間、一時退却とばかりに走っていた。
AとCは合流し、鎧を着る為走る。
戦士と武闘家が子分達をゆっくり追って来る。そのスローモーな動きの恐ろしさ。
AとCは5階に上がり、小部屋に入って鎧を着た。
狭い部屋の扉の向こうに武闘家と戦士の気配がする。
子分のAとC。二人は自分達が“蜘蛛の糸に絡んだ獲物”の様に思えた。
7名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:19:03 ID:DxYCeezC
「関係ぇねぇ」
冷静になったAは言う。相手が強かろうと恐かろうと戦う。殺されてはもう盗みは出来ないのだ。
(俺の盗みの邪魔をするな)
Aは扉を蹴破って戦士に躍り掛かった。
戦士の鋼の剣は思わぬ所から伸びて来て、Aの鋼の剣を叩き割り、粉砕する。
続く剣戟は鮮烈。Aの肩当てを切り落とした。
戦士の攻撃は痛みよりも重さをAの体に残す。
(強い、ロマリア王よりも)
このカンダタ軍団4名は、金の冠を盗みにロマリア城に入った事があった。
軍団は王と対峙した。一対一なら、カンダタよりロマリア王の方が強かったのだ。
この戦士はその王をも超えるか。
「このガキ!」
Aは低い声で吼えて戦士に掴みかかろうとした。戦士20才、Aは24才。
実際Aは年上だが、戦士より若く見える。Aは瑞々しい美貌、猛進、全く引かない。
盗みの最中に殺されても本望だが、休日女っ気の無いむさい塔の中で襲われて死ぬのは無念だ。
掴み掛かって来るAの腕を跳ね除けると戦士は動きを止めた。
止まった戦士の視線の先にあるのは、赤い絨毯と絨毯の上の二人。
炭団の様な黒くて丸い男(子分B)と、皮の腰巻の勇者である。
腰巻の女は低い声で問う。
「カンダタの盗賊団か。金の冠は」
「ここにある」
「では王の元へ」
その勇者の威厳に満ちた恐ろしい声を聞くと、Bは両拳につけたパワーナックルを叩き合わせて鳴らした。
勇者の事はBに任せて、子分Aは武闘家の目に向けてナイフを走らせる。
武闘家に短刀は掠りもしない。武闘家と言う人種に接近戦を挑んではいけない。
この武闘家今は鉄の爪を携帯しているが、本当は武器を装備するならパワーナックルが一番相応しい。
鉄の爪、黄金の爪などは爪の分敵から遠いので、この男が武器を持つなら超接近戦のパワーナックルが一番良い。
その燻し銀の色の、敵に近い小さな武器がこの男に似合った。
(あの武器はいくらかな。どこで売ってるんだろう)
Bの武器を見ながら勇者は、武闘家の為にいつか欲しいと思っていた。
8名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:20:55 ID:DxYCeezC
勇者との戦いでBは不利となっていた。
武闘家に近い素早さを持ち、戦士に近い能力で武器を扱う。この女の種類はなんだ?
勇者!?
(これが!)

女は腰巻の腰をねじり、Bを蹴り飛ばす。Bは飛んだ。
「アリアハンの勇者なのか」
倒れながらそう聞くBは勇者の名を呼んだ。蹴った勇者はそうだと言う。
「お頭の、当てが外れたか」
フンと笑うとBは立ち上がり、低い声で続けた。
「カンダタはな、お前はここに来ないと思ったんだよ」
「なぜ」
「お前はそんな女じゃねぇと思ったのさ奴は。お前カンダタと会ってるんだぞ」
ガザーブで、素手で熊を倒した英雄の事を女勇者に語っていた男が居た。
“実は素手ではなく鉄の爪を使って熊を倒したのだ”と言う真相にその男は面白くなさそうだった。
「頭の言う勇者の様子を聞いて、俺達も勇者は来ないと思ったが油断した」
Bは太った体の割りに身軽で、勇者を6階へと誘う。
複雑な形の長い階段を上り、勇者と戦士がBを追った。

5階に残されたAとCと武闘家。
何か、勇者一行を不審に思ったAは武闘家への攻撃を休めてみた。
すると武闘家は自由になってそこいらをノシノシと歩き始める。
武闘家は5階の窓から外へ体を乗り出すと上方を見上げる。6階の外壁に何か見える。6階から5階を通らず直接4階へ行ける経路を発見した。
子分のAとCは根本的な事を理解する。この武闘家、こちらが危害を加えなければ自分からは戦いをしない。
その時Cの上に戦士が、Aの上に勇者が降って来た。
小さな少年Cは巨漢に潰され、立ち姿で勇者に当ったAは思いも寄らず彼女のクッションとなった。
Aは勇者の腰を押す。皮越しに伝わる柔らかい感触と、甘い香りを認めた。
(女だ!)
驚いてAは勇者を覗き込んだ。勇者も瞼甲の中のAの目を見る。
9名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:25:07 ID:DxYCeezC
勇者は自分の祖父よりも美しい男を今まで見た事がなかったので、世の中は広い物だと思った。
Aは遠目からしか彼女を見ていなかったから勇者は男だと思っていた。
戦士と勇者はどうやら6階で落とし穴に誘われ、ここ5階に落ちて来たらしい。
「時間稼ぎだな」
武闘家は穴の開いた天井を、6階に居るだろうBを見上げて言った。
しかし勇者は何か考え事をしていて動きが鈍い。子分Aもその場に固まっていた。

Bは6階の浴室へ走った。
「カンダタ!」
お頭の影を見たBは叫んだが、カンダタはスッポンポンに靴だけを履いてウロウロしていた。
「パンツがねぇなぁ」
彼は色々と探している。Bは様々な事態を容認する男だが、今は動転して足をスベらせてしまった。
「なぁ、パンツ」
「これを着ろ」
とBは覆面マントをカンダタに渡した。
「パンツなしで着れない」
「いいから来いよ」
とBはカンダタを引っ張って、6階から4階へ飛び降りようとする。
その途中カンダタはパンツを見付けた。飛び降りながら着けた。
「なんだ」
4階に降り立ったカンダタはBに事態を尋ねた。
「勇者が来たぞ」
「アリアハンの?」
「だな。金の冠を返せって」
「だから冠持って逃げるようって? …勇者はそんなに強いか」
「まず勝てねぇな。取られて良いのか冠」
「あいつらはどうした?」
カンダタはただ、子分のAとCの事を心配した。

勇者は(カンダタはあの人か?…)と思い当たる男が頭の中にいたが、思案を止めてカンダタを探し始めた。
10名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:27:06 ID:DxYCeezC
子分AとCは勇者達3人を追った。そしてその5人は到達した6階からバラバラと降下して4階のカンダタを見付ける。
風呂場なら風呂場、6階なら6階、4階なら4階と…現れたらその場の空気を一瞬全て持って行ってしまうのがカンダタである。
勇者の父オルテガ並の、至高の存在感である。
精悍さでは他の者の追随を許さないし、均整の取れた逞しい体躯と顔立ち、そして切ない「セクシー」を持っていた。
まさに勇者が気にしていたあの男だった。逞しい腕に斧を持っている。ただその身は今パンツと靴である。
(あぁ、あいつら生きてたよ…)
カンダタは子分二人を見てホッとした。やっぱり勇者は思っていた通りの女だった。
「よう。一対一でやらないか?」
カンダタが勇者を誘い戦闘となった。

勇者の仲間と子分達は静かにカンダタと勇者の決闘を見物。
「あんた強いな」
Aは武闘家にボソリと言った。
武闘家もAの事を“気迫がある”と言った。
俺もこの男の様な気迫が…あったかなと、懐かしい事を武闘家は思い出していた。
Aはこの武闘家が優れた男に感じられて言う。
「あんたら世界でも救うのかい。あんまり…女に酷い事させんなよな」
Aは勇者を心配している。
「旅の好きも嫌いもあいつが決めてる。俺はあの女は世界が得た物だろうと思って」
武闘家の美声をAはぼんやりと聞いていた。
「あの人がつくる世界なら、俺も見てみたいなぁ…」
Aはカンダタ子分として「だけ」には留まらない男らしい。女勇者に惹かれているのだ。
「いい女なんだから。守れよ」
「守るだけが能ではない」
その戦士の冷たい声に、Aは負けなかった。
「絶対守ってやるくらい言えないのかよ。俺は手を貸したいし、守りたい」
戦士が「勇者を絶対守る」など、こんな所で喋れるものか。とは言えAも真剣そのものだった。
それにしてもAは敵に対しても喋る男だ。この探求心と積極性でなかなか良い出会いを引っ張って来る男である。
11名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:32:20 ID:DxYCeezC

カンダタの斧が、勇者のチェーンクロスに絡み取られ飛ばされてしまった。
しかし徒手空拳こそがカンダタの武器。彼は武闘家だった。
カンダタの拳が勇者の顔面を思い切り打った。その時カンダタは勇者自身のダメージより彼女の仲間の様子を見た。
あらゆる面からこの女の戦闘能力を計る。命懸けの戦いでもカンダタはこうした危なかしい事をする。
勇者の仲間二人は全く動かない。逆に自分の仲間のAがうろたえていた。
カンダタは老若男女差別無しだが、手加減もなしである。
カンダタ、勇者の首を掴んで今度は床に頭を叩き付けたが、実は…戦闘能力を計られていたのはカンダタの方だった。
カンダタの間合いは複雑だったので、勇者は様子を見ていたらしい。床の埃が付いただけで平気そうな顔をした勇者がカンダタに向って歩いて来る。
カンダタは立って堂々と彼女を迎えた。彼の厚い胸と彼女の丸い額が触れそうな距離。
「どうして来た」
カンダタは勇者の事を軽蔑した様な眼差しで、見下して言った。
「金の冠を」
「それがどう、お前に関わりがある」
カンダタは勇者の顔に自らの顔を寄せ、形の良い眉をギュウと上げて形相を作った。
「王に媚びを売ろうって言うのか、貸しを作りたいのか。
お前に関係ないだろ、胡散臭い勇者じゃ!」
「王が戦う暇がないと言うから私が」
「だから…」
12名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:34:51 ID:DxYCeezC
「友達なの。王様は傷付いた。誰かに奪還を任せる事で…王が傷付くなら、その役はこの私が」
(友達)
と、カンダタは一瞬思考停止した。(王様が好きなのか)
その時子分のBが叫ぶ。
「お頭!! 離れろ!!」
シャンパーニの塔を覆うほどの大型の黒雲が瞬時に現れ、喉を鳴らせてカンダタに迫る。
一歩でも良い、直撃を避ける為、
「動けカンダタ!!」
そのBの声と、雲に気付いて上を見上げるカンダタの視線と、勇者の低いつぶやきは同時だった。
「ライデイン」
小さな光の糸がパリッと音を立ててカンダタに纏わり付いたと思うと、空が重さを持って落ちて来た。
勇者の目の前、カンダタは仰け反って雷撃を浴びる。水と言う導体で出来ている人の体。
さらに風呂上がりの蒸された体の中で電撃は縦横無尽に走って行く。
カンダタは叫んだ様だったが、破壊される塔の音といかずちの轟音に掻き消された。
塔は、電撃を受けて最上階から一階まで斜めに抉(えぐ)り取られている。
勇者の電光は今小さな閃きとなったが、まだ複数の竜の様にカンダタの体に絡みついて突き刺さる。
勇者のレベルはこの時36。カンダタ軍団勝てはしない。
削り取られた塔の中でモンスター達が「ギピー、ギピー」と勇者を恐れていた。
カンダタは半壊した塔の6階から、地上へ向って体が崩れる。
その時カンダタは勇者の仲間二人を見た。まるで事件の様なこの勇者の魔法力を見ても男達は眉一つ動かしてはいなかった。
(こいつら、大魔王倒すんじゃないか)
抉られ内部を露わにされた塔の5階、4階、3階と…カンダタは落ちて行った。
勇者は始め、初めてこの呪文を生き物に炸裂させた慄きを少し持ったが、自分の力とこの呪文の一切から目を反らさなかった。
まだカンダタへの攻撃を止めない自分の雷光と、自分が壊した塔と、落ちて行くカンダタをじっと見続けた。

カンダタは5階の床に頭を打ち、4階の壁が脇に刺さり、2階の梁に靴を片方引っかけてしまった後、1階のフロアに転がった。
子分Bは勇者と拳を交えながら、彼女の隠された魔法力も脅威に感じていたのだ。
13名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:37:41 ID:DxYCeezC

「おきて」
カンダタを突つきながら、勇者は目を閉じているその男に呼びかけた。
カンダタは目を開け、女勇者の名を呼んだ後、焦げ臭い上半身を起こした。
「俺、お前の旅を見る」
場合に寄っちゃ助けるとも言う。
「もう悪い事しないから許してくれよ。な。な」
冗談の様な声でカンダタは言う。
後にカンダタと子分Aとで喧嘩になる。「盗みをもうしないってのはどう言う事だ」と。
「返して」
「うん」
返事をするとカンダタはパンツの中から大きな冠を取り出した。
勇者は「いらない」とも言えず金の冠を受け取った。
「簡単に渡すね」
「盗む事で冠が新しくなる気がしたからさ」
「?」
勇者はカンダタの小声がはっきりと聞き取れなかった。
「この冠は「一度盗む」だけで十分だったんだよ。やる。売ればGになったんだけどな」
カンダタは笑うとAの操縦する馬車に乗って去って行った。
(じゃあね)
勇者は心の中で彼に別れを告げた。
14名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:40:57 ID:DxYCeezC



カンダタ盗賊団は、“盗む事”に対する考え方が四人それぞれ違って見えた。
考えの違う人間達を纏め上げているカンダタの統率力と愛情を勇者は見た。
勇者一行は…パーティーの中一人だけ魔法が使え、一人だけ女である女勇者が特別だ。
女勇者が画いたしたたかなパーティー編成に見えるが実態は、勇者がこの男二人に惚れ込んだから今のパーティーがある。
武闘家と戦士は勇者より強かったし、パーティーは皆で、三人で作って行ったものだった。
勇者は自分がハッとする様な考え方を持った賊に、いつかどこかで出会えるのではないかと思ってみた。
勇者はフと、ナジミの塔の老人の事を思い出す。あのおじいさんは元盗賊だったのかも知れないと。
そうだとしたら…「盗賊は嫌か」なんて言わせてしまってごめんなさいと、勇者はひっそり思った。

カンダタは馬車に揺られながらロマリア王を思い出して、胸を熱くした。
あのガッシリとした大きな体の剣士。間合いに入ると王は大きな剣を振るって、カンダタから行動の自由を奪うのだ。
(あぁ)
カンダタは心の中で少し叫んだ。あの男が権力に囲われていると思うと切なくなる。
その王にいたずらしたくなった。金の冠は絶対に手に入れたいと思い、心からの盗みは成功した。
(頑張っちゃったよ。俺)
カンダタは冠を通して王に自分を憶えさせた。冠は新しい意味を持ち、新しく生まれ変わったのだ。
ロマリア王は自分と全く違う気ままな盗賊を憶えた。大帝の迫力を持つ黒装束の男を見た。
金の冠は一度カンダタの物になった。その間カンダタはロマリア王の関心をずっと手に入れていた。王の執着を得ていた。
そしてカンダタは先程シャンパーニの塔でも心臓が止まる程の恋を得た。
その男が6階から降って来た瞬間に、
(お前に惚れた!)
あの武闘家である。カンダタは嬉しくて上の空だった。シャンパーニ塔では素手で戦うあの強い武闘家。
男カンダタ18才の青春である。
15名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:42:53 ID:DxYCeezC

カンダタ子分Aはルビーを盗みたいと言い出した。
「ボス、そこをなんとか」
カンダタ18才に取って、24才のAは(昔二人が所属していた盗賊団では)元兄貴分だった。口論になるとボスのカンダタが折れてしまう事もある。

Aはまた窃盗を犯す。女王の治める小さな里に忍び込んだ。
女王は人間が来た事と、勇者が取り戻してくれた夢見るルビーが奪われた事でパニックとなっていた。
「ちょっと貸してよ。すぐ返すから」
エルフの女王は勇者の事が好きだった。女王に取ってあの女勇者は“母親としての見本”なのである。
「俺も好きだよ」
貴方もあの勇者が好きなのね…と感心した事と、絶世の美男の毒気に当てられた女王は隙を作った。その間にAは逃げた。

Aとカンダタは白昼堂々ロマリアに素顔を晒して闊歩した。
劇団の男優かと思わせる男二人の華やかさである。Aの美貌、カンダタの男振りは騒がれた。
こんな目立つ風采、目立つ魅力の男達を盗賊団と思う者は居なかった。
Aは、旅人の服も、腰巻も、女王のドレスも似合う勇者に狂喜乱舞。
「あんな良い女が居るか、居るものか?」
遠目から道行くドレスの勇者を見かけただけで、Aは燃え上がっている。
(まったく惚れるって言うのはどうしようもねぇなぁ…)
カンダタは呆れて格闘場に行き、大臣の装いのロマリア王にドキドキしていた。

Aは数々の新しい警備を越えて王室に辿り着く。
彼が覗き見たのは、睦まじそうなロマリア王とアリアハンの勇者だった。
ロマリア王は娘は居るが妻を亡くし独身なので、恋愛はかなり自由な様子。
「ねぇ」
「駄目」
しかし男女の秘めた声は何と言う事もない、勇者が「女王に暇を」と言うのを王が許していないだけだった。
王と勇者はもっと一緒に居たい。だけどお互い友達で居たい。王はロマリアを守る王。
だから一緒に旅に出る事も、勇者が王妃になる事もなく、このイベントの様な女王の時間を出来るだけ長引かせる事に執着している。王と勇者のあがきである。
16名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:45:18 ID:DxYCeezC
王と勇者は見た通り友達の様で、Aは…Hで可愛い女勇者が惜しく思えた。
(相応しい場所に帰してあげたいものだ)
Aはこれからどうするか考えた。その時王が城外を目指して王室を後にし、勇者も別室に移ろうと廻廊を歩き始めていた。
Aは勇者を追った。相手の動きを封じる夢見るルビーを持って、勇者と二人切りになるまで。

「勇者の心を盗んで世界征服なんてどうだい」
昔、Aは目を閉じながら言った事があった。
「確かに勇者は金になる」
カンダタの冷静な声をAは嫌がる。
「そうじゃなくてさー。夢がないなー」
更に冷静なBは、
「人一人に何が出来るんだよ」
と勇者の事を言った後、勇者は以外と女だったりして。と言う。
「わぁ。どんな女だろう」
とAは華やぎ、「まーた女か」とカンダタは眉を歪めた。

Aはロマリア王室からカンダタの元に帰って来た。
Aは勇者を自分達の仲間にしようとカンダタに頼む。カンダタはきっぱり断った。勇者の旅を奪う気はない。
「お前が抜ければ良いだろ」
カンダタは小さい声でAに言った。次にはっきりと言う。
「勇者の所へお前が行けよ」
いやだ。とAは言う。カンダタと勇者が居るから良いのだと言う。
「あんたがあの人を扱うなら良いんだよ。それに俺が普通にここ(盗賊団)から抜けたとしても勇者さんの所へは行かないな」
「あの女に従う気はないって事か」
「そうかもな。ボスはこれからどうするんだ」
ここでカンダタが盗みを止めると言えば、この男はこの場で踵を返してどこかへ行ってしまう。
(でもこいつはまだ俺に期待している)
カンダタはその事を知っていた。
17名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:48:26 ID:DxYCeezC
「メダルを集めようと思う」
こんな小さなメダルが希代の財宝に姿を変える。
「あの勇者達に色々送ろうと思うんだ」
「へぇ、あんたが勇者って奴をそんなに尊敬してるとは知らなかったな」
こうしてAはカンダタの元に留まった。カンダタにまだ期待をしているし、あの女勇者の事も好きだから贈り物が出来て丁度良かった。



盗みをしていた頃の緊張感は無いが、カンダタ盗賊団の旅は続いた。
気の置けない仲間とのんびり世界中を冒険する。この時期は男四人の休暇だったのだろう。
とうとうカンダタは勇者以外は拒むと言う雪原の聖域にまで足を踏み入れる。
レイアムランドに聳(そび)える鈍い黄金の塔。天を付く高さ、雪を頂く不死鳥の祠。
「見えた」
カンダタが呟くと、その高い塔は子分3人の眼前にも突然現われた。
「何だ、俺にも見えたぞ」
「親方勇者なの?」
「ええ?」
4人はびっくりし通し。
男達の休暇に終止符が打たれたのは、ここレイアムランドでの事だった。

祠の長い階段を上がると、最上階に大きな卵があった。カンダタは卵にペチペチ触る。
どこからか女が二人現われた。
「わたし達…「わたし達…」
「……」「…」「……」「…」
双子らしい妖精の巫女が、一斉に喋るので何だか変である。4人は彼女達の言葉が終るまで黙っていた。
Aは悔しそうに指を弾き、女達を品評する。
「くう! もうちょい色気があればなぁ」
カンダタは女にチヤホヤするAに(ん、もう)と焦れた。
「あなたオルテガに似てるのね」
巫女がカンダタに言うとカンダタは表情を険しくする。
「オルテガ。アリアハンのオルテガがここに来たのかい」
18名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:55:17 ID:DxYCeezC
「ええ」
男カンダタが詰め寄って来たので巫女はドキリとした。



その男は仲間のサイモンが着ていた鎧を着て、レイアムランドに現われた。
不死鳥の事は信じなかったと言う。

「不死鳥が居るなら、何故サイモンは死んだ。あれは大魔王を倒す勇者だった。
加護が無かったとは言わせない」
寒い祠の中でそこだけが別世界の様だったと言う。オルテガの存在は氷よりも寒さよりも鋭かった。
「俺は不死身を信じない。俺より若い勇者が死んだ」
「不死鳥も一度は死ぬんです」
「復活とは一度死なないと起らない物でしょう」
巫女達の言葉に、刃の様な眼差しの男は返す。
「今そんな悠長な事を言っている場合か。あいつが死んだら俺が行くしかないだろう」
「だったらラーミアを復活させて。あなた不死鳥に守られて旅を続けるべきよ」
「すまない。そんな時間は無いのだよ」
「それにその方は生きているかも知れないわ。勇者サイモン」
オルテガは巫女を振返った。
「その方の魂が、どこかで燃えているかも知れません」
オルテガはその言葉を大事そうに胸に納めると卵に触れた。卵はオルテガを喜んで、彼の手を温めて来る。
(許せ。俺は最短距離で行く)
ラーミアに心の中で話し掛けるとオルテガは雪原の中に戻り、北へ行ったと言う。



カンダタはその話を“死んだのか?”と思える程の静けさで聞いていた。
「サイモンの…魂があるとしたらどこに」
やっと口をきいたカンダタは巫女に尋ねる。
「そこはさびしい祠の牢獄…」
「死んだ後も戦っているのか。勇者を待って居るのか」
19名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 02:58:04 ID:DxYCeezC
カンダタはそう言うと泣き出した。嬉しい。そして切なかった。
「友達に突然襲われて、強い抵抗も出来ないまま殺されたようなんです」
そう言う巫女にカンダタは尋ねる。
「サイモンはサマンオサの勇者だった。友達とはサマンオサ王?」
「いいえ。モンスターよ」
友達はボストロールから、サマンオサ王まで。サイモンは愛情深い人だった。彼に愛された妻達も、彼を愛した。
勇者オルテガは自分の娘の活躍やサイモンの復活を期待出来ないらしい。
ただ女の戦闘を徹底的に嫌うし、「サイモンの次は俺だ」とプライドを燃やしている。
勇者サイモンと勇者オルテガの名を聞くとカンダタはまさに電撃に打たれた様になって始動した。
「俺もアレフガルドへ行くぞ。オルテガはその後どうやってアレフガルドへ行った」
「火山の火口に入ったのです。激しい火傷を負って、死にそうになったのよ…」
と巫女は涙を見せた。
「この祠に招いてくれたのも何かの縁だな。俺の事も死なない様に守ってくれよ」
「あぶないわ」
巫女は一人泣きながらカンダタを怒った。もう一人は困った様に泣いた。
さすがにカンダタも(こりゃ可愛い)と思って女達に笑顔を見せる。
オルテガとカンダタは二人してこの妖精達の心を得た様だった。オルテガ、カンダタは人間外の女にこそ慕われる様である。選ばれた英雄の二人。
レイアムランドから出立する時、吹雪の中「あの巫女達なら仲間にしてもいいなぁ」とカンダタは言う。Aは久々の女の連れに喜ぶが、カンダタはAの喜びに釘を刺す。
「でも巫女達はあの女勇者を待ってるんだろうからな」
女勇者がラーミアを復活させるだろう。あの女勇者はロトなのである。期待してもしすぎる事はない。


運の良いカンダタ軍団は怪我無くアレフガルドへ到着。巫女達もホッとした。
カンダタは益々力が漲って見えたが、アレフガルドで僧侶になってしまった。
だからAは仲間達の元から去って行く。
Aが居なくなるのでカンダタは怒った。
(なんだよバカ)
自分に対し“性愛の親しみ”をカンダタが持っていたなどAは知らなかった。ただのアホに見えた。
20名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:00:34 ID:DxYCeezC
Aはアレフガルドで一人旅の人となる。別れたけれどカンダタの事は心底嫌になった訳ではない。立派だったし可愛い所もあるボスだった。
Aは少し寂しくなったが、そんな事は忘れて女勇者の為に小さなメダル収集に燃えた。精力的に実行する。
バラモスと親交を深めたAは、大魔王の城に入り込む事が出来た。
そこでAは大魔王ゾーマに出会う。

「俺は本当に大魔王ゾーマに会った。理想の高いあの大王を俺は見て来た」
「俺を虚言癖と言うのは構わない。だがあの王の存在と高みは嘘じゃない」
ゾーマの城を出たAはリムルダールで熱弁する。打倒ゾーマと思う者達にもAは言って回った。
「あの魔王さんに世界征服されても諦めるんだな。どうせお前等には勝てないよ。いいか良く聞け」
ここまで来るとさすがにAは捕まって、リムルダールの牢屋に入れられてしまった。
Aは「一つ所に居るのもなかなか良いぞ」と思い始めた。あの女勇者に会えるかも知れないし。



Aがリムダールの牢獄に居る頃、勇者はアレフガルドに到着し世話になった事のある海賊と再会していた。
その海賊は女海賊団に居た商人で、女統領と共にアレフガルドに来ていたらしい。
「銅の剣が7Gはないよなぁ」と言っていた40絡みの男である。
「今の旅が終ったら俺と旅しようぜ」
彼はそう言って18才の女勇者を誘う。
イエローオーブの町が出来て行く時、その“発展”と“牢に入った商人の釈放”の両方を助けてくれた男である。
「ありがとう。本当に」
「いや、あれは俺も得る所があった」
「どう言う事」
「俺も何か起こそうと思ってね」
この商人、金は貯まりに貯まっている。
「俺も40半ばよ。ここで一勝負して、元の金をどこまで増やせるかやってみたいんだ」
「おもしろそう」
「じゃあ、俺と来るか?」
アレフガルドに着いた時にはもう、勇者は戦士と結婚していた。
「あなた統領と喧嘩したの? あたしと旅するとか、貯めたお金使っちゃうとか変だね」
21名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:03:21 ID:DxYCeezC
「昔お前さんは俺を誘った。今度は俺が」
気が良くて、瞳のとても優しい男だ。でも時に刺激がある。
「そう言えばお前さん余りお頭と関わらなくなったな。義理堅いね」
勇者には、彼を女海賊の元から引き抜こうとした負い目がある。彼の言う“俺を誘った”とはこの事だ。
「いきなり取っちゃうなんて褒められた様な事じゃないでしょ。
でも今は遠慮しない。今あなたの力を借りたい事があるの」
「どんな事?」
「一つだけ」
願いは一つ。光の鎧を見つけ出して欲しい。
「お前さんが着るのかい?」
「うん。ずっと大事にします」
「よし行こう」

ルビスの塔へは海賊商人と女勇者、戦士と女賢者の4人パーティーで行く。
塔の中に光の鎧は有った。
しかし鎧に辿り着くまでの道は回転床に阻まれている。
細い道に敷き詰められた回転床から足を踏み外すと階下へ真っ逆さま。細い綱を渡り歩くアープの塔よりも余程危険である。
商人を阻んだのはしかし、回転床だけではなかった。
このウソの様な良い男が噂の元大盗賊かと思うと、その話の旨さが商人は気持ち悪い。
黒髪の傑僧は元盗賊の機敏な足で回転床の道の途中まで行き、既に待っていた。
「おーい。俺と勝負するか?」
カンダタが道の途中から商人を誘う。
「おい、カンダタはあんたらの仲間じゃないのか?」
商人が勇者に聞くと、
「仲間じゃないんだよ。鎧取られたら何されるか解らない」
「大勇者のオルテガに届けようかなー!?」
とカンダタは叫んでいる。
「あぁ、父さんにあげるの? じゃあ…」
との勇者の言葉を商人が止めた。そしてカンダタの元へ歩む。
カンダタは若い。20才。商人は44才、回転床を渡って見せた。
22名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:07:18 ID:DxYCeezC
海賊歴30余年の動きにスキはない。あっと言う間にカンダタと同じ床の上に商人は立った。
「へへ、ウソだよ。大魔王の城へ俺は行かない。オルテガを信じてる。心配もしねぇで待ってるよ。
大勇者(オルテガ)の元へはあいつ(女勇者)に届けさせな」
「なんだ、端から勝負に意味は無かったのか」
「いいや。何か賭けよう。あんた負けたら俺に付けよ」
商人はカンダタから正式に誘われた。だが商人は断る。
「お前に付くよりはあの女勇者の方が良い」
カンダタ、ギャフン。
この商人が何故今、統領の女海賊と不仲なのか。
それは女海賊がカンダタのカリスマに参ってしまったからだ。統領を張る気迫を彼女は無くしてしまった。
女海賊は統領を半分引退した状態で、カンダタの下に付いたと言って良い。
更に言うと、彼女の部下も殆どカンダタの下に収まってしまった。
カンダタの統率力とカリスマは唯一無二。女勇者もカンダタのこれには遠く及ばない。
商人はしかしまだ女海賊に期待している所があった。
如何ともし難い今の状況は、この商人に取っては降って湧いた休暇であろう。
この時に女勇者と過したかった。
カンダタに付く位なら一人で居たい。
しかしこの商人も男を欲した事があった。一人だけ。生涯で惹かれた男はただ一人。ベルベッドボイスの艶男、あの武闘家である。
(ミスター…死んじゃった)
女勇者の仲間だった故武闘家。この商人は女勇者の恋敵でもあった。商人と勇者、二人であの人(武闘家)が好きだと告白し合ったものだ。
「あんた、チ○○で物事決めてんじゃねぇのかっっ?」
可愛い性格の商人は、カンダタに半端な推測を言われてしょんぼりした。
「情けない事を言うんじゃねぇ。○○ポとはなんだ、○○ポとは」
「俺よりあいつ(女勇者)の方が良いって!?」
カンダタは激しく動き、商人に足掃いをかけて来た。
「やめろ、下を見ろ!」
下は回転床。下手に滑ると数階下に落ち、堅い床に叩き付けられる。
回転床に足を取られて男二人は転ぶ転ぶ。
「あ〜、こんなつもりじゃなかったんだあぁ」
23名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:10:05 ID:DxYCeezC
そのカンダタの後悔は遅く、カンダタの長い足と商人の短い足が絡んで何度も倒れる。崩れ落ちそうな激しい衝撃に床は堪える。
転び転(まろ)びながら、商人と元盗賊は力を合せて光の鎧まで走った。
「取った!」
商人は瑞々しく叫び、光の鎧を抱く。遠くから見ていた勇者はワァァと喜んだ。
その途端カンダタは転び、光の鎧に激突しながら暗い階下へ真っ逆さまに落ちて行った。
その衝撃で光の鎧の肩当てが外れそうになる。それを咄嗟に防ごうと手を伸ばした商人はバランスを崩し、鎧ごと階下へ落ちて行った。
勇者はびっくりしてワァァと言う。


商人は少々怪我をして戦線離脱する事になる。光の鎧を抱きながら女勇者を待っていた。
その商人の元へカンダタは歩み寄る。
見事なその顔から流血しているが、彼は元気そうに商人に話し掛ける。
「俺なぁ、あの女勇者と寝た事あるんだよ」
商人はびっくりしてカンダタに視線を投げた。
(そんな、俺もしてない事を…)
「良い女でね。なんにも手が付けられなくなったよ。気も漫ろになるし、他の女が忌々しく見えるし」
つまりカンダタは女勇者と触れ合って、強烈に世界を狭くした時期があった。
商人は逆だった。勇者に触れて世界が広がった。他の女の魅力も久々に細かく見るようになった。
俺は逆だ…と商人は言おうとしたのだが、カンダタに手を翳(かざ)され止められた。
「待てよ。今は俺の器が小さい事を言いたいんじゃない。
あいつに問題があるって事で聞きな。実際俺の様な男も居るわけだしな」
男好きのカンダタさえも、一時期はあの女勇者に狂った。
「あいつは強い。女としても、勇者一族の長としても、新しく始まる血脈の祖としてもだ。
魔王になれる程の力だよ。魔王の存在は有ってはならない。阻止しなければならない。
俺はあいつの力を半分に……4分の3にでも良い、抑えて留めたい。
俺に力を貸してくれ」
商人はカンダタに引き込まれる。まるでこの時の為に誂(あつら)えた様な決まりの良い声、表情、容貌。
商人はカンダタの誘いに首を振らない。しかし頷きもしない。
「なぜ俺を。何に使う気だ」
「なり行き次第だがな、その気になりゃ俺は国でもおっ立てようと思うんだよ。その為に必要だよあなたは」
24名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:12:53 ID:DxYCeezC
「国か。出来るのか」
「やるだけやる」
力の強い、面白い男だと商人はカンダタを思った。スケールが最高。
しかし商人は「ふんふん」と頷くと話題を変えた。
「しかしお前は女に関しちゃ器が小さいじゃないか」
「アー、うん。俺男好きだからかな」
「そうかそうか。触るな」
商人は懸命にカンダタから光の鎧を守った。
男が好きとは……この男に掛けた数多い女達の執念と、未練が見えた様だった。
飛び抜けた美人や良い男は嫌な物を背負ってる奴が多いなぁと商人は思う。
良い女と言えば…真っ先に商人は勇者を思い出した。しかしあの女勇者の背に付いてる数々の執念達は何とも楽しそうだ。
あの女勇者の魅力は長く付き合わないと解らなそうだ。

その時女勇者がカンダタと商人の元へ来た。彼女は商人を目指して駆けて来る。
(ハハ、真っ直ぐ走って来る…)
たまに商人は“おれは○○○そのものだ”と思う程、女勇者を求めたい時があるが今はとても温かくて穏やかだ。
「ありがとう」
と勇者は言い、商人を抱いて頬にキスした。
「帰ったら一緒に旅しよう」
と女勇者は笑顔を見せた。勇者はこの商人の前でとても愛らしい。
(普通にその男好きだろ)
とカンダタは思う。そしてこの商人の財力、気の良さと冒険心は、この勇者の生涯のパートナーとして誰よりも相応しく見えた。
「お前男と仲良くして良いの?」
カンダタは勇者をからかう。
「あたし達いつか旅する」
勇者は嬉しそうな顔でカンダタにも言う。
「あんたも来る? たまに」
勇者はカンダタを誘い、「何だ?」とカンダタは楽しそうだ。
「じゃあ、旅で一緒になったら仲良くしよう」
とカンダタは商人にウインクする。商人は目を閉じ、両手で顔を覆って難(ウインク)を逃れた。
25名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:15:47 ID:DxYCeezC



リムルダール牢獄のAは、勇者と再会し死んだ。
Aはゾーマと勇者は結ばれて欲しいと思う。素敵だと思った。
光と光、闇と闇では無ではないか。眩し過ぎて、暗過ぎて前が見えない。
光と闇あってこそ、そこに有る物をこの目に見せてくれる。光と闇こそこの世だと。
牢獄で戦士に介錯され、死の世界へ歩むAの元へゾーマがやって来た。
「お前、死ぬのか」
「そうだろうな。俺は、宝が欲しくて盗賊やってたよ。でも盗賊達は仲間だったし、勇者さんも宝って感じじゃなかった。あんただった」
「俺の宝はあんたさ。ずっと探してた。やっと見つかったんだ」
Aは今のゾーマが最高に思えたが、ゾーマの今後も優しく認めた。
ゾーマは竜王に志しを継がせて、更にその後復活するだろう。ゾーマはずっとロトと共にある死と闇の男。
「勇者さんと二人で、世界を作って行ってくれ。永久にだな」
「待て、お前に取ってあの女勇者はなんだ」
「んー…」
「お前の死は私の物だ。だがお前の魂は、あの女勇者の所へ届けてやろう」
「ありがとう」
Aは泣いてしまった。涙を見せた訳ではないが、泣いたと言って良いのだろう。
「あんた達好きだよ」
女勇者とゾーマの事をAは言った。Aに取ってゾーマは宝、女勇者は自分の魂の帰る場所であった。
さまざまな虚飾を脱ぎ去って訪ねても堂々と愛してくれる、大きな巣であった。無器用なAは生前、その彼女への触れ方が乱暴だったけれど。
ゾーマも彼女に並ぶ器だった。そして悪魔は人の心が好きな物である。ゾーマはAの望む物も理解出来たし、叶えてやりたかった。


ゾーマの城の順路を、Aは勇者に教え込んだ。
王座の後ろに階段がある。
勇者はそれを現地で確認した時「凄い」と盗賊Aを褒めた。死んでしまったAに勇者は優しかった。
26名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:18:02 ID:DxYCeezC
キングヒドラが見えて来るとここからは一本道。
そしてキングヒドラのそばに男が居た。
女勇者は見た。
顔は紫に腫れ上がり、ヒドラの首が巻き付いた為か入れ墨の様な呪いの跡を腕に付けた一人の男。
立派な体格の男は恐ろしい存在感でキングヒドラと女勇者に迫って来る。
その名オルテガ。女勇者はその時息を呑んだのだ。
目も耳も聞こえないオルテガはそれでも戦って……しかし死に際して一番思ったのは娘の事だった。
「世界を救えなかった父を許してくれ」


アレフガルドで、カンダタとオルテガは出会った事がある。一緒に覆面マントでラダトーム城を走った事がある。
「見たか、アリアハンから来たと言う勇者を。覆面マントにパンツ一丁だぜ」
そんな噂をしているラダトームの輩に傑僧カンダタは凄んで、恐れさせた。
その時気まぐれなバルログがいきなりカンダタの前に現れて、カンダタはびっくりしたけれど、
「パンツ一丁」
とバルログが言ったので、パワーナックルをバルログに投げ付けて命中させた。
バルログは「ギャー」と叫んだ後「ボー」とメラゾーマを撃って来た。
カンダタはメラメラ燃える。
カンダタは鼻毛まで燃やしながら思うのだった。
(あの覆面マントにパンツ一丁。俺は一生忘れない)
あの女勇者が力をつけて来てオルテガの力は翳って来ている。
しかしカンダタに取ってはオルテガこそが憧れの戦士、憧れの勇者なのだ。
強い男はなかなか死なない。
そんな男をカンダタは忘れられない。



27名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:21:12 ID:DxYCeezC
勇者はゾーマと対決し、アレフガルドに太陽を取り戻した。
ラダトームで馬上のカンダタが勇者を待っていた。
「乗りな」
ロトの称号を貰った女勇者だが、ラダトーム城での宴もそこそこにカンダタの操る馬に飛び乗り、彼に手綱を任せて駆けて行った。
「お前、ゾーマをちゃんと滅ぼしてないだろう」
「そうなのよ。まだどこかに居る」
「どうするんだよ」
「探すわ」
「ゾーマの人気たるや凄まじい…その、モンスターの残党さん方をだな、俺が預かりましょう」
女勇者には影に隠した一つの目標があった。“カンダタを信じ続ける”事である。
信じたい男だと彼女はずっと思っていた。信じて、これから面白くなりそう。少なくとも千数百年、ロトとカンダタのこの信頼関係は続く。
カンダタはこの女勇者と違ってモンスターに好かれる男だった。
モンスター達は勇者を「ロトちゃんバリーちゃんあるいはママちゃん」と呼び、カンダタを「大王」と呼んだ。

これよりアレフガルドではロト、カンダタ、ラルス一世の時代が幕を開けた。
ロトは姿を現す事は無い。姿を見せないのにラルス王室の権威を揺るがせた。

ラルス王は女勇者ロトを本気で憎んでいた。カンダタはその事に気付く。
ラルス王は「必ず殺したい」程ロトを疎んでいた。
(あんた、ロトだけじゃないか)
カンダタは、王はロトに束縛されていると見た。ロトがまた男を手に入れる。

カンダタはゾーマにもロトにも惹かれなかった希有の人だった。
ロマリア王もラルス王も“勇者に触れない”と思う向こうで、はっきりと彼女に男として好意を寄せたが、カンダタは勇者に一線を引いて冷静だった。
28名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:25:02 ID:DxYCeezC



カンダタ30才がアレフガルドに新大陸を求めて、選び抜かれた仲間と夥(おびただ)しい数のモンスターを連れ出港する事になった。
そして28才の勇者はゾーマとの2度目の対決の場に居た。
勇者は神龍に戦士を焼き殺され、その神龍には勝った。それに続いてのゾーマ戦である。
カンダタの船に、女海賊と共に居た海賊商人はカンダタに言う。
「もし一人で戦っていたら」
と女勇者の事を心配している。
いや、とカンダタは言い、勇者は最強の魔法使い(勇者の祖父、オルテガの父)を連れているぞと。
しかし商人はキメラの翼で船から出た。
そのころ勇者は戦場に一人で居て、ゾーマに左腕を引き千切られていた。
無論カンダタも一時撤収し、今は時間を取ってキメラの翼で戦場へ飛んだ。

豪商53才と、男も盛りの30才カンダタは、戦場に向う途中18才のポポタにばったり出会った。
あの武闘家に似ているポポタに商人とカンダタはときめく。
この三人は全て戦える男だが、ポポタがずば抜けて強い。三人は戦場へ駆けた。
ポポタは初恋が勇者ロトであった。元いたずらっ子は一途で逞しい男になり、生涯でロト一人を愛する事になる。
女勇者ロトの初恋の相手は勇者サイモンだった。彼女は2歳だったけれど、自分が一人の人間である事、女と言う生き物である事を「彼を思う」事によって体で知った。
武闘、魔法、武器、全て操る勇者の様なポポタ。サイモンにも似ているポポタとこれからを生きるのもロトに似合いかも知れない。
29名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:26:20 ID:DxYCeezC

ロトが長剣で戦う相手はゾーマのみ。
傷の無かった勇者の体に、傷を付けるのは唯一ゾーマ。
そして男の言う事を聞く事が多かった女勇者が、自分の意思を伝え抜きたいと強く思った男はゾーマだけ。
ゾーマとロトには二者だけで通ずる言葉があり、この男女だけの世界がある。
武闘家だって、戦士だって、戦いのプロは戦場で死んだ。
女勇者も女剣士らしく戦場で死ぬのが相応しいだろう。
(ちょっと待てよ!)
と心で叫ぶのは商人と元盗賊。勇者に勝る事はないけれど勇者を助ける職業の男達。
女勇者は戦場で死ぬべきかも知れない。しかし今目の前で死にそうな彼女が居れば、
(助けてやるぞ!)
と、男達は駆けて行く。



30名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:29:32 ID:DxYCeezC
「勇者は、血や素質でそう呼ばれるんじゃない。生き方だ」
カンダタはそう思っている。だから勇者の祖父(オルテガの父)だって、勇者と呼ばれて本当は良い筈だ。
でも現実は忌々しい。
子供を抱いて笑っている偉大な女勇者ロト。彼女を守りたい為に数々の子孫の男が死んで行く。
ロトこそが、彼女こそが誇りだからと、守りたいのだと腕を振るう。
ラダトームの勇者、ローレシアの王子、……若い男達が
(なーにやってんだか)
カンダタは思う。
血、女、母……そんなに拘りたいものとは。
竜王と死闘を繰り広げ、三つの大国になるまで権威を伸ばして行くロトの名。これは女勇者ロト本人が望んだ未来ではないかも知れない。
しかし彼女の息子達である。母は中々に一喜一憂して息子達に着いて行くだろう。
大戦争を起して殺し合ったとしても、命は命だ。
皆彼女が産んだもの。



31名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:32:01 ID:DxYCeezC
勇者が産んだばかりの子供をカンダタに見せた事があった。
「よしよし」
カンダタは子を抱き慣れていた。堂に入っていてしっかりと彼は嬰児を抱く。
「可愛いな」
まるで、父と言うより祖父の貫禄である。
「子供は好きだよ」
カンダタは沢山いる弟妹の為にも、盗賊になったと言える。
彼は頑張ったけれど…弟妹が成長し切ると、この大いなる兄、小さな父は孤独になった。
兄が盗賊だったと知る事は弟や妹も嫌だろうから、もう家には帰れない。
勇者はカンダタが仲間や家族を大切する事や、男色嗜好である事ももう知っている。
「あんた、自分で子供産んでみたいと思う?」
「考えられないな。人が体の中で大きくなってく訳だろ」
「そうだよ。中でしゃっくりとかするの」
「ひぇー」
考えられない。カンダタは女ではない。
ただ物心ついた時には父の事が好きだった。
血は繋がっていないかも知れないがそんな事はどうでも良い。元々男親は血脈の確実性ならば圧倒的に低い。
ろくでもなかった幼少の頃、あの父はその時代からカンダタを救い出してくれた。
カンダタは生きようと思う。
彼に取っての最高の宝は世界樹の葉。この葉を様々に加工して、あらゆる用途に使う。
父から与えられた命を、擦り切れるまで。
一つの命を、生きるのだ。




ゾーマとの戦いの後女勇者は死ぬ。その戦場で死んだかどうかは諸説はっきりとしないがとにかく彼女は死ぬ。


32名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:33:54 ID:DxYCeezC


広野を一人行く勇者が、祠に向って全速力で走っている。
祠の結界の中へと彼は滑り込んだ。
この勇者、逞しい立派な肉体だが戦いが好きではないらしい。強いが威嚇と逃走の日々。
勇者を追っていたリカントは、祠の結界を破ろうと咆哮する。
破るのは無理と思えたがリカントは急に勇者に接近し、彼は手を噛まれそうになった。
(何!)
結界が移動したのだ。この結界は“その場所”に張られた物ではなくて、
(人か)
人のオーラが災いを寄せ付けないのだ。この祠の中にいる人間が動けば結界も移動する。
勇者は早速祠の中へ走った。
(さすが三賢者の一人雨雲の地仙。これは相当の仙人がいる)
案の定、年を取り過ぎて肉片が爛れた様な仙人がチョロチョロ動いていた。老いも老いたり。しかし鋭く神々しい眼差しの男。
「雨雲の杖が欲しいなら、ガライの竪琴を持って」
その言葉の途中で勇者は道具袋をゴソゴソと調べた。大きな竪琴が、勇者の大きな背から姿を見せる。
「もう持っていたか! せっかちな人じゃな!」

その昔、ロトに太陽の石を預けられた男と、虹の雫を預けられた男がいた。
「太陽の石を持ってた奴は太ってただろ。
またそっくりなのが生れた。あいつの祖先は儂の幼なじみよ。
あなたはこれから虹の雫の仙人の所に行くだろう。その仙人の祖先とも儂は働いた事があった。
そいつはロトと同郷の僧侶で少年時代にロトに触れた。ロトが初めて契った男だ。
つまり性器に触っておけ。御利益があるぞ」
へぇ…と青年が面白そうにしたので、老人は少しドキッとした。
「若いな。男伊達だね。女房は居るか」
「いいえ」
仙人は祠の中の椅子に勇者を座らせる。自分の長い足を邪魔そうにして座る勇者の、落ち着きに老人は何か見たのか、
「…姉妹がいるか?」
「はい。妹だけ4人」
33名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:40:05 ID:DxYCeezC
勇者は2才の時、嬰児の妹に愛情を憶えた。以来妹4人に取って実に頼れる兄であった。
「俺が小さい頃…世の中は酷かった。妹達はあの光景を憶えてない様で救いです」
この勇者が幼い時に乱世を止めた者は竜王。
「竜王は救世主です。モンスター達を鎮圧し、惨状を終らせた。俺に取っても子供の頃からの英雄です」
「それと戦うのか。ラダトーム王の命令?」
竜王にも失点があった。ドムドーラの大火である。
ドムドーラの長、14代目ユキノフを殺したとか。人間ユキノフを焼いたと言う事で、ラルス16世は竜王討伐の大義名分を得て昂揚した。
大火の真相を確かめるべく、奮って竜王の城に赴いたローラ姫さえ、ラルス王は竜王に攫われた事にしている。
「そう言う経緯で、私は王に呼ばれたラダトームの男です。
それにドムドーラ陥落に竜王が絡んでるのは必至でしょう」
「あなたと同じ立場であるロトの子孫…中でも狂戦士達が言っていた。ラルス王は竜王とロトが潰し合う事を望んでいると。
どうなんだ。それでも王家に逆らわないのか?」
「俺は姫を連れ出して、竜王に会い、帰るだけです」
「相手が王室だろうと自分の強さの証明するだけか。見せる物だけを見せると」
「…それが…」
100年前、天高い世界からロトの血を引く者と言って、勇者達がラダトームに降って来た。
だがモンスターに中々勝てない。しかし仕事はそう悪くないので、強く責められる事もなく勇者達は子孫をこの地に残した。
「それが俺達です」
「微妙だ。ロト」
「その決着の付かない乱世の中、数百年の眠りから醒めて竜王が復活した。
竜王が鎮圧に要した時間はたった数年でした。ロトの子孫は100年掛けても出来なかったのに」
「英雄が出たな」
「ラダトーム王室はもう強い愛憎を向ける相手が竜王一色です。王家に取ってラダトームに住むロトの子孫の事は憎悪の対象に成り得ていないと見えます」
「くやしいとは、思わないかね」
「うーん…」
と勇者は低い声で少し唸った。仙人はこの勇者の内に激しい物が見える。もし、この男がラダトーム王室のローラ姫と結ばれたら…と思うだけでゾクゾクとした。
この地仙は確かに仙人だけれど、人間臭い機微が好き。勇者の声を待っていた。
「しかし竜王を偉大と思えば思う程…自分達ロトの子孫の事が悲観出来なくなる」
「うん」
34名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:43:15 ID:DxYCeezC
「仙人様御存知なんでしょう?」
「いいや。聞かせて」
「竜王は確かに竜の女王の子。でも人の姿もする…きっとそれも真の姿です。
人の女がその腹を痛めて竜王を産んだ…と言う説があります」
「うん」
「我等と同じ、人です。私は竜王の母の名前も知っている」
貧乏だから働いてばっかりいて読書する時間は限られていたけれど、この勇者速読の天才。
古い資料を読み漁り、ロト伝説ゆかり物、場所に出掛けては何かを掴んで帰って来る。
竜王の師…いや、竜王の父の名までこの勇者は知っている。
「ラダトームのロトの子孫はラルス王に強い事を余り言えない。先程言われた通り子孫には狂戦士も多いし。
でも俺は「ラルス王が俺も竜王も死ねば良いと思っている」と疑っている訳では無いし、
王室を都合良く信じている訳でもない。
俺がこの旅で信じ、疑う存在はロトと救世主の竜王だけです。
ロトにはいつも謎があります。解いても、解いても、まだ足りない。
仕事に託(かこつ)けて俺は、ロトの事を忘れていた時期があるんです。今はその時期を取り戻したい」
折角竜王がラダトームに来た事があったのに、仕事が忙しいので見に行かなかった事もある。
つまり勇者は竜王を見た事がない。竜王の鋭い眼光、厳しい聖人の雰囲気も見ていない。
勇者より10程年上で、頭一つ小さい男の様だった。(それでも180cmは超えてる)
竜王は気軽に笑顔を見せないが風の様に涼しい、見事な男だったと。
「ロトは女だったと、最近伝え歩いているのはお前なんだな」
仙人は凛と勇者を見詰めて言った。
「ええ。艶めかしい人だったらしいですね」
「フフ、儂は会った事あるぜ。良い女だよ。夏に一度会ったら夏中楽しいぞ。でも、俺の方がモテタけどね。俺の方が色っぽい」
「色っぽさは比べてみないとわかりませんね。ここにロトが居ないと」
「ナマ言って! どうせお前もロト選ぶ口だな!」


男二人は祠の外に出た。
リカントがまだ居て、今度は老人を襲おうとした。
35名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:48:36 ID:DxYCeezC
「こら、仙人様に攻撃するな」
と勇者はサッと前に出て仙人の胸を押し、下がる様に言った。仙人はときめいて下がる。
(俺を守ってくれるのか…いけねえ、親父を思い出す)
勇者の大きな背を見ながら老人は子供に返った。
この勇者、竜王に勝てるだろう。そしてゾーマからロトを奪える唯一の男だろう。老人は千年生きて来たけれど、勇者であり覇王である男を初めて見た。
最高、最強の勇者だ。女勇者だったロトは戦闘力で彼に劣る。
今勇者は手に炎を生み出していた。
(来れば打つぞ)
とリカントを睨むその顔の恐ろしい事。仙人は(この男、女にモテるだろうな)と思っていたが、この睨みを見た時(一体どんな女がこの男の妻になるんだろう)とワクワクした。
リカントは逃げて行った。
「大変な魔力をお持ちだな」
「ロトの石盤を見てから、俺は魔法が良く使える様になりました。ロトが力を貸してくれてるんでしょうか」
「石盤!? 誰が探しても見つからなかったのに」
「すぐ見つかりましたよ」
「お前、ロトに気に入られたな。据え膳だよ。なんかいやらしいなぁ」
勇者は思う。ロトは調べれば調べる程エロティックな側面を見せてくれる。自分だけを選んでくれたのかと思って胸が奮えた。
老人が勇者の目の前で「どうした?」とばかりに手を振る。勇者は我に返った。
「お前は、竜王を斬り付けてはならない男だろうぜ」
「は…」
「ロトが悲しまないかね」
勇者は少し静かになって言う。
「太陽が眩しい…これだけでも竜王と戦う必要は無いと思う時がある」
竜王は太陽も人間も、どちらも消さない。
「苦しい時代から皆を救ってくれた竜王は、最高のバランスを持った最高の救世主。
雨雲の杖まで手に入れた俺はどうせなら会いたいと、ただ思うだけです」

この勇者はロトが女である事を解き、説いて回った。「ロトは女である」事こそが最も有力な説にまで伸し上げた。
36名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:51:59 ID:DxYCeezC
ロトを、勇者としても、女としても復活させ、
彼女の誇りと、色香と、志しを守った。
(この男が最高だろ。お前をこれ程守った男は他に居ない筈だ)
仙人はロトに語り掛けた。ロトがもしこの場に居たら嬉しくてどうにかなりそうであろう。
(人はこうして愛し合う事も出来るのか)
千年生きて来たからこそ、こんな男、こんな男女に会えた。

(1000年前の女もサラッと落としたか。色男)
老人は良い男を前に、さっきからずっとウキウキしていた。
(色っぽいのはお前だよ)
と思いつつ「お前。指が長いな…」と勇者に向ってボソリと言ってしまった。
「ウム、良い髪だ」
と勇者の長い赤毛も褒めた。今日、自分がちょっと大胆で(いやん)と思いながら老人はこの男を称える行為を止められなかった。
そんな性愛の親密を受けて、勇者は狼狽している。
(男に好かれるのは初めてだ。さっき胸を押して良かったんだろうか…)
男にこんな間近でこんな目を向けられるのはこの勇者、これが最初で最後になる。記念となった。
何しろこの勇者の一生は短い。
この勇者は雰囲気のある雄である。
女を抱く為に男と言う性を持っている風格。百戦錬磨のこの老人さえも、いやそんな老人だからこそ、この青年に触れる事が出来なかった。
勇者の髪。
(まるで火の様だ)
戦場の返り血で更に赤く染まる様子も見える様だった。そして男は自らの血で赤く美しく死ぬだろう。
勇者は20代前半だそうだ。
「生まれたのこないだじゃないか」
「貴方は?」
「きゅうひゃく…なんだっけ…」
「貴方は、本当に人間だった? 元から仙人だったんじゃ」
「人間だよ。お前こそ凄い呪文使えるだろ。電撃が混ざったベギラマ出しおって。人間じゃねぇ。儂はトラウマなんだよ雷が」
37名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:57:44 ID:DxYCeezC
この老人が言っていた事は本当なのだろうかと勇者はフと思った。ロトを抱き、ロトに電撃を落とされ、ロトの死目を見られなかった悔しさは今でも忘れていないと言う。
「お体に気を付けて。さよなら」
「さよならとは言うな」
「じゃ、また」
勇者は祠を後にして、その背を又老人に見せてくれた。そしてどんどん遠ざかる。
「成し遂げた時に家族に会える様な旅をしてくれ」
もう小さくなっている勇者は振り向いてくれた。
「若いうちに死ぬな。ロトが泣くぞ」
勇者は仙人の様子から、ロトは若くして亡くなった事を悟った。
「お前はロトに似ている」
女だからこそ世界を救った勇者と、男だからこそ平和をもたらした勇者。
女だから死に拘るゾーマに目を掛けられ彼の心を得て、彼に自分の心も見せた伝説の勇者ロト。
男だからロトとローラと言う女を愛して、その女二人の心を得て、孤独で荒んだ竜王も静めた勇者。
そして若くして死の影のある元気な二人の勇者。
母なる勇者と父性の勇者は、二人共まるで絶望的に温かかった。



老人は本日、二人の勇者に会った様な気がした。今まで食らった事の無い、想像もし得なかった電撃に撃たれた思いだった。

あの勇者は知らないんだろうな…デルコンダルと言う国がある事を。
さあ、仙人の次は俺は何になるのかなぁ。
自分からやめた王の座だったけど…またデルコンダル王になってみるか。
またサーベルタイガーと遊ぼう。
(そうさ!)
38名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 03:59:19 ID:DxYCeezC
老人は世界樹の葉を握り締め、広野を駆けた。雨雲の杖を持つ勇者はもう遠く、叫んでも聞こえないだろうが老人は声を張った。
「大海に出て南に下れ!俺の国がある!また会おう!」
今度王になった時は、女の子でも好きになろうかな。
ゾーマの様に、自分が「一緒に死にたい」「一緒に一生終えたい」と思う女に俺も会えるのかな。




自国へ向かって歩くデルコンダル王の足に、子犬が纏わりついた。
「おぉ、儂は子犬も好きだよ」
抱かれると雌の子犬はキャンキャン喜んだ。あとはどっちが野生的なのかわからない程に青年王と犬は遊ぶ。
この青年、この仙人の名は
この男の名は





なかなか死なない     END
39名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/09 13:12:15 ID:Vt4myj6U
読みにくかったけど全部読んだよ。
文体が「俺が勇者だったら〜」の1に似てるな…
40名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/10 12:08:25 ID:sG75A6RF
ageとく
41名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 03:38:30 ID:8BcrtLG9
>39
読み難い中全部読んでくれて、すまないと同時に感謝します。
(その人の作品は見た事ありません)

>40 どうもありがとう
42名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 03:43:47 ID:8BcrtLG9
家族になる 


「ビアンカはどうして父さんの話ばっかりするの?」
お姉さん振りたい筈である…ビアンカはパパスの事が好きだった。
サトチーはこの様に6才にして恋を目撃した。
それはサトチーがビアンカを好きになったとは異なり“ビアンカの恋心”を理解出来た、解ったと言う事である。


青年になったサトチーはぼんやりと思っていた。
やっぱり僕の初恋はビアンカだったのかな…と。
こんな事を思うのは、ヘンリーが結婚したり、回りの人達が「サトチー恋人は? 結婚は?」なんて聞くからである。
(もう。結婚、結婚うるさいのだからなぁ)
モンスターを連れて旅するとんでもない男がサトチーである。
ある日、いかにも荘厳な盾が市場の競りに掛けられていた。
(あれはそんな値段で渡して良いものじゃないよ)
そう思ったサトチーの隣で、
「あれは私が買おうと思うのだ」
肥った商人が笑って言った。それから落札までヒートし、サトチーの隣に居たルドマン商人が盾を手に入れた。
(まるで戦闘の様だった。格好良かった!)
と、サトチーの仲間のモンスターは喜ぶ。
「勇者の盾を探している?…、ハハ、その事は私から言い出そうと思っていたのに。
素晴らしいお仲間をお連れだな。私の為に…腕を貸して欲しい」
モンスターの中のモンスター、ブオーンの事をルドマンは語った。
結婚は、舅選びがまず第一である。
これがサトチーの、もう一人の楽しい父となる。
そして青年サトチーはビアンカと再会するより先にフローラに会ってしまった。これがまず決定的。
出会った瞬間にサトチーとフローラの結婚はなんとなく決まっていた。
サトチーの初恋はビアンカなのか、フローラなのか、結局サトチー自身もわからないまま。
43名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 03:48:51 ID:8BcrtLG9


フローラとの結婚の証し…水のリングを取りに行く時、サトチーは山奥の村でビアンカと10年振りに再会した。
ビアンカはサトチーの旅に同行したが…サトチーはビアンカを馬車から出そうとしない。洞窟に行かせようとしなかった。
「どうして。冒険の旅をするって昔約束したのに」
「昔ね…駄目だよ。ビアンカはこの洞窟を行けない」
力不足だからである。なんと戦力としてはお嬢様のフローラの方がビアンカより上だった。
そんな事より、今はサトチーの状況把握力と決断力が光った。
「ケチ!」
「ビアンカ」
「フン」
「ビアンカ…後で話そう」
ビアンカは馬車から彼の後姿を見送るだけ…。
ビアンカにはサトチーが…目に見える距離よりずっと離れて感じられた。

「話って何なの」
山奥の村、ビアンカの家ビアンカの部屋で、サトチーは彼女に口を開いた。
「僕は…ビアンカの事好きだった」
「え?」
「言って置きたかった。ビアンカは僕の父さんの事好きだったろ?」
「やだ、どうして貴方知ってるの?」
「父さんの事を好きだったビアンカが、僕は好きだった。本当に…あの頃は楽しかった」
「…そうね」
「僕は、フローラと結婚するよビアンカ」
サトチーはビアンカとビアンカの父を自分の家族に出来ないのが心残りだったが、フローラとの関係を前にして吹っ切った。
昔は終って、ビアンカからパパスとサトチーは遠く離れた。
44名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 03:52:47 ID:8BcrtLG9


「ビアンカさんは…サトチーの事を…」
サラボナの夜、ビアンカにそう尋ねたのはルドマンだった。
「いいえ。私は、サトチーとフローラさんの結婚式が見たいわ」
「私に気遣う事はないのだよ。サトチーは楽しい。これからも友人だ。それだけで良い。
サトチーがビアンカさんを選ぶなら二人の結婚式にしても良い」
「サトチーと私は似合いませんわ」
「不似合いと言うならフローラも金に関しては苦労知らずなんだ。サトチーとどうかね?」
「でも悲しみや、人の悲しみ苦しみの解る人だわ。私フローラさんの事はなんだか解る気がするんです」
そして金に困った事のないフローラは、サトチーとデコボコの夫婦で一生楽しそうである。
「私あの二人楽しみなんです、私の楽しみを取らないで欲しいわ」

ルドマンと別れた後、ビアンカはパパスの事を思い出した。そうすると涙が出たのだ。
(おかしい、本当に子供の時の事なのに…)
ビアンカは早熟だった。やっぱりパパスの事が好きである。
パパスに取ってのエルヘブンの人々が、サトチーに取ってはサラボナのアンディだろうか。
弊害を越えて、他人の心を前に自分の心を消さず押し切る結婚。サトチーはパパスに似た行動を取った。
ビアンカはサトチーの事も好きだ。勿論彼と結婚も出来る。実際フローラの存在がなければビアンカとサトチーは結婚して居たろう。
その喪失感も悲しいけれど、パパスとの関係が遠くなった事にビアンカは胸が震えた。

(元気を出せよ…)
ビアンカの部屋で、キラーパンサーのゲレゲレが彼女を慰めてくれる。
「どこ触ってんのよ」
ビアンカは大きな男の狭い額をポコッと小突いた。
(ビアンカは俺のモンだ)
グフンッと鼻息を吹き出し、ゲレゲレはビアンカの机に大きな顎を乗せる。
「あなた何を考えてここに来てんのかしらね…。あっ」
ゲレゲレの量の多い鬣の中に、見覚えのある布地が…。
「あら、これ、私があげたの…? あなたずっと持ったの?」
45名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 04:05:54 ID:8BcrtLG9
ゲレゲレの胸元からスラリんがポンと飛び出した。
「ダディ(サトチー)がもってたのさ」
そのスラリんの言葉に、そうだとばかりにゲレゲレは鼻息を吹いた。
「あら、脈ありだったのかしら」
「そうさ」
とスラリんは跳ねた。そうだとばかりにゲレゲレは鼻息。
「これ、私が持った方が良いわね」
しかしゲレゲレは、そのビアンカのリボンを彼女に返そうとしなかった。
(俺にくれたんだろ。良いじゃないかリボンくらい)
との雰囲気を伝えるゲレゲレだが、
「そんなの持ってて…フローラさんが傷付かないかな」
幼い頃サトチーと一緒に冒険したし、何よりビアンカはパパスの事を知っていた。
パパスが風邪を引けば、それを良く看病した。
一方フローラは夫の父を知らない。夫の子供の頃を知らない。フローラがその事を気にするのは、ビアンカは嫌な気がした。
(お前は俺やサトチーの中から消えたいと言うのか)
ゲレゲレは「ビアンカの存在を失いたくない」自分の思いを知っている。
ビアンカのこだわりは何だろう、強く意識している事は何だろうとキラーパンサーは思った。
パパスを知っている自分自身を相当凄い存在だとビアンカは思っているらしい。
それはつまり。
(死んだ人間を追っ駆けて…)
ビアンカは世紀の、絶世の美女である。偶然にもそんな自分に相応しいパパスを求めている。
これではビアンカは孤独運である。やはり凄まじい美女は不幸だった。
(お前はもっと、器用な奴だと思ってたよ…)
とゲレゲレはビアンカに思う。更に(幸せになれそうな顔もしてるのになぁ…)とも。
46名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 04:09:11 ID:8BcrtLG9



ビアンカはどんどん美しくなって行った。サトチーが石像になっている8年の間にも女振りを上げていく。
しかし美しすぎて、近寄り難い容姿なのが玉に傷。
彼女が結婚しようかと思う男は確かに居る。山奥の村に沢山居る。彼女はもう誰でも良いと思っているかも知れない。
幸せを感じて生きて行けるなら。
そんな時、サトチーに再会した。
「サトチー!」
「ビアンカ!」
26才の筈のサトチーは、容姿が10代後半のままであった。
ビアンカはもう心身共に28才である。
(若いあなたの前で恥かしいわ…)
恥じらうビアンカには哀愁があって、溜息の出る美しさ。
「ビアンカ、綺麗だね。いつも」
サトチーの言葉は優しいけれど、ビアンカを褒めると言うより、目の前にある事実を淡々と伸べたに過ぎない様子だった。
一方ビアンカは、サトチーの逞しい腕に体中がゾクリとした。
彼の肌は浅黒く焼けて、以前再会した時よりずっと男らしくなっていた。
(いやだ、貴方、こんなに小さかったじゃない!)
あの頃の面影はもう…彼の澄んだ瞳にしか残って居ない。
そしてサトチーは今、新たな悲しみに堪えていた。フローラが石像のままで行方知れずだそうだ。
「そう…でも貴方、疲れてちゃ何も出来ないわ。今日はこの家でゆっくり休みなさい」
「ありがとう」
とサトチーはビアンカに微笑んだ。

ビアンカは自分の部屋で鏡を見る。
美しい顔。でも。彼女は顔よりも体に自信があった。
白く形の良い乳房。淡い色の乳首に、滑らかな背中。
この体…あの逞しい腕に、胸に抱かれたい。
47名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 04:12:31 ID:8BcrtLG9
(あぁっ)
とビアンカは自分の机に突っ伏した。
今の自分は、白日の下にマーサを攫ったパパスとも、正々堂々アンディと勝負したサトチーとも訳が違う。
(嫌だ、最悪)
あんな事を考えてしまう自分が…ビアンカは嫌になった。
その時小さな手がビアンカの部屋の扉をノックする。少年少女が彼女の前に現れた。
「ねぇ、ビアンカさんに昔の話して欲しいの」
サトチーの娘のランが元気に言った。
「話?」
聞き返すビアンカは髪を少し乱していて、ゾッとする程美しかった。
少年少女は話を聞きたいと言いながら…本当の所はビアンカの美貌を見たかったからここに来たのだ。
「サンタローズの事とか…」
サトチーの息子のヌットが、8才とは思えない程の低い声で言う。
剣を携えていて凛々しく、最早男の風格のある少年。そして彼こそ勇者だった。
「ヌット王子…」
とビアンカが囁く。
「はい」
とグランバニアの王子が彼女に歩み寄った。
「私、今ね。貴方達のお父さんの友達失格になるくらい…恥かしくて悪い事考えてたのよ」
娘のランは「まぁ」とばかりに驚いており、ヌットは凛とした目をビアンカから反らさなかった。
「その剣の鞘で、私の頭をポンって叩いて欲しいのよ」
「そんな」
そんな事は出来ないとヌット王子は遠慮した。
「格好だけでも良いの。貴方達のお父さんがね、貴方達のお祖父さんにやられていた事なのよ。
悪い事したら叱ってたわ」
椅子に座るビアンカと、立っている勇者ヌットの視線の高さは殆ど同じであった。
勇者はゆっくり鞘をビアンカの頭に落として、微かに触れた。
「懐かしいわ…フフ」
とビアンカは穏やかに笑う。
48名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 04:17:45 ID:8BcrtLG9

この夜、ヌットとランはビアンカの部屋で寝た。大きなベットに三人並んで寝る事が出来た。
ビアンカが熟睡している隣でヌットが囁く。
「ラン、ラン」
「なぁに、お兄ちゃん」
「僕はビアンカさんと結婚する」
「え? 本当?」
「何だか、離れたくない」
「私もそう。婚約なら、今すぐにでも出来るんじゃないかしら」
ビアンカと家族になれると思って、兄妹二人はワクワクしながら眠った。


勇者ヌット15才の時、ビアンカと結婚した。
ビアンカは夫より20才年上だけれど、夫の勇者の方が恥かしくなる位の美女であった。
(ほら、やっぱりビアンカ幸せそうになった!)
とゲレゲレは喜んだが(チイィィ!)と勇者を睨む。
結婚式に出席しているグランバニアの王サトチーは、若くしてそろそろ退位を考え出す。
「さぁ、もうのんびりしちゃうか」
と妻のフローラに言うと彼女も楽しそうに笑った。
ビアンカは良く気が付くし、素早いし、王妃の貫禄はフローラより上である。
「私、ビアンカさんが王妃になって政治をするの楽しみよ」
と楽しそうなフローラを見てサトチーは言う。
「君と結婚して良かった」
「え? なぁに?」
婚礼の式の喧騒に、妻は夫の声を聞き逃した。
これでサトチーはビアンカも、ビアンカの父も家族にする事が出来た。
ビアンカの父は病弱なので、今度は自分が看病する番だとサトチーは思う。
(なぁに? 優雅に引退するわけ?)
とビアンカは、サトチーとフローラが少し羨ましかったが、若い夫と共にハツラツと王室に君臨するだろう。
フローラの物よりもずっと新しいシルクのヴェールを付けた若々しいビアンカの人生は、まだまだこれから輝き出す。

END
49名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 07:59:21 ID:jdgv3wrN
読んだよ、いい話だね。

>>41
作者のことは俺の勘違いだったか、失礼。
50ーーーーーーーv−−−−−−−−:04/11/11 08:01:05 ID:hypT4qoY
           ー-"'" ⌒,,ィシヽミミiミミ 、
         /     三彡彡彡ィ`、ミミミ`、
        /      シ彡彡彡彡ノ'ヽミミミ`、
        ,'        ,三彡彡彡彡彡ソ,ー--'
          l    _ _ """'彡彡彡彡彡ノi
       {;、 ';;;='''"""`  彡彡彡 - 、ノノi
          kr) .ィェー   彡彡' r、ヽ}彡i  
        レ'  ..      シ彡' )ァ' /彡'  と、思う吉宗であった。
       {_,,,、 ;、      シ彡 ニンミミ{
        l         '''"::.   彡ミi
         ! ̄"`     ...:::::::: ノ""{
        l    .......:::::::::  /   \_
51名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/11 15:47:25 ID:8BcrtLG9
>49
どうもありがとう。途中までは暗い話一辺倒だったので不安でした。

>50
目がィェーなのが最高
52名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:08:32 ID:dBkeoppY
今日そして明日


ライアンはバトランドの兵士。ホイミスライムと共に湖の塔にやって来ていた。
「この塔の魔物は強い! こんな事なら古井戸の中にいたホイミンという奴を仲間にしてあげるのだったよ……。
お前が羨ましいよ」
塔の中で会ったバトランドの兵士にライアンはそう言われ、言った兵士は少し眩しそうにした。
ライアンは体力の漲った良い目をしており、纏う鎧にさえ傷一つない美しさだった。

ホイミンを連れたライアンの快進撃。一人で動く戦士に追い付ける物ではない。
戦士ライアンとホイミスライムのホイミンは、更に塔の中を進む。
バトランド、イムルを騒がせていた人攫いの本拠地へ踏み込もうとしたその時。
またバトランドの兵士が居た。先程の兵士とは違う男で、冷たい塔の床に倒れている。
もう死を待つだけの体だった。
「……世界の…どこかで、地獄の帝王が復活しつつあるらしい。しかし、予言では帝王を滅ぼす勇者も育ちつつあると。
この階下に居る者達は…勇者がまだ子供のうちに見つけだし、闇に、葬るつもりなのだろう。
ライアン! 子供たちを守ってくれ……!」
ライアンは彼を看取る。バトランド式の戦場の作法で、その兵士を送った。
「この人…」
ホイミンはか細い声でその屍に執着した。
「ねぇ、この人良い人だったよね。ボク会った事ある。“仲間にしてっ”って言ったら少し考えてくれた」
しかし兵士は
「なんで俺と仲間になりたい?」
とホイミンに尋ねた。その時ホイミンはうろたえてまごまごしてしまった。
「旅の理由も明かさない者と一緒に行動は出来んな」
困った様な笑顔をホイミンに見せると、その兵士は去って行った。
「あ、…あのね。ボク…」
ホイミンは小さな声を出してみたが、遠くに行った兵士にはもう聞こえなかった。

「言えなかったんだ。人間になりたいって。言ったらこの人は仲間にしてくれたかな。この人にボクのホイミを見せたかった」
53名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:11:15 ID:dBkeoppY
ホイミンは屍にフヨフヨと触手を伸ばして彼の腕をさすり出した。涙が出て来た。
「お前一人がそんなに悔いる事はない」
ライアンは独得の低い声で語り掛ける。
「お前は今私と居るじゃないか」
「そうだね」
戦士は鋭い眼差しをホイミンに合せて言った。
「今出来る事を考えろ」
「はい」
あとは戦士二人無言で、跳ねる様に戦場へ駆けて行った。


塔の地下一階。
助けを求める子供達の声を聞くとライアンとホイミンは更に奮い立つ。勇敢な男達だった。
ピサロの手先と、大目玉。いよいよ人攫いの主犯格と対峙すると言う時、ホイミンは囁いた。
「誰にも言った事がなかったんだよ。人間になりたいって。
ボク生まれた時から人間になりたかったの。でも誰にも言わなかった」
ホイミンは体高が3cmくらいの時から人間になりたかった。
なぜなりたいのかもう理由もわからない。ホイミンにとっては当り前の思いだった。
「人間になりたいって言えた相手はライアンさんが初めて。
ボク、他の誰にもこの事言えなかった。だからボクはこの戦い、
貴方に全てを掛けています」
ホイミンの声は、ライアンの背を風の様に押した。
戦闘が始まるとホイミンはライアンから離れて彼を援護する。


勝利し、息を切らしながら助け出してくれる戦士とホイミスライムは子供達の神様だった。
「上の階から飛び降りれば、塔から出られるよ」
救出された子供達の声は誘う。ライアンとホイミンの旅の終わりは派手なダイブとなった。
54名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:14:25 ID:dBkeoppY



「ライアンさんは英雄だ!」
ホイミンははしゃいだけれど、イムルとバトランドの人々の迎え方も負けてはいなかった。
しかしライアンは歓喜と歓声の中でも凛々しく、笑顔は子供達にしか見せなかった。
バトランドでのライアンの迎えられ方はまさに国を挙げてと言った態で、王城は彼の為に宴までしてくれると言う。

ライアンはひとまず家路についた。
「わぁ、ライアンさん家」
ホイミンはライアンの一階建てでウッディな家を気に入っている。
ハンモックに巻き付いて遊んでいたホイミンは、色の重ねが美しい紙に筆を走らせているライアンを見つける。
何を書いているの? と言う風にホイミンは寄って来た。
ライアンは達筆で、モンスターのホイミンがドキリとする優麗な趣きがあった。
「王に宛てて。…だからお前は読んではいけない」
「はい」
ヒョイヒョイと遠ざかるホイミンの後ろ姿を見ながら、ライアンは言った。
「ホイミン、出掛けよう」

ライアンとホイミンは外に出て、王城に向って歩み始める。
途中店に入り、ライアンはホイミンに服を与えた。

王城に入ったのはホイミンだけである。
タキシード姿のホイミスライムは宴の席で愛された。
袖や裾から黄色い触手を覗かせて人々に挨拶している。ワインの入ったグラスも器用に持って見せた。
ライアンはホイミンに簡単な礼儀作法の指導を済ませてある。
「お前は大丈夫」
とライアンに言われたが、王と話す時ホイミンはドキドキした。そしてライアンからの手紙を早速渡す。
55名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:16:09 ID:dBkeoppY
王がその文面を見ると、宴に参加出来ない無礼を侘びた後、こうある。

私よりも楽しい者が、宴に参加しこの拙筆を献上…云々…。
愛らしい姿ですが、私の盟友、私の戦場の切り札です。
どうか、この席ではその者を私の代りと……

ライアンは、王から何かしら拝領出来る事を知っていた。
旅から帰って来てすぐのライアンに王は「土地をやろう」と言った。
しかしライアンは王に「勇者を探す旅にすぐにでも出たい」と言った。
王は「んー。………いや、そうか」と、物足りなそうに口篭もっていた。

王はライアンが欠席しそうな事は感じていた。
彼は一人、死んだ兵士達の事を思っているのかも知れない。盛り上がりたいとは思わないだろう。
可愛い仲間がこの旅の喜びを担当してる化身なのか、一匹だけフヨフヨと来て宴の席は妙に盛り上がった。
このホイミスライムも件の功労者である事は間違いないのだから。


宴が終わり、ライアンの家の前でホイミンは華やいだ別れの挨拶をしている。城の兵士とだろうか。
ホイミンは試しにペシペシとライアンの家の扉を叩いて見た。すると彼は起きていてホイミンを屋内へ招く。
「起きてたんだね」
「あぁ。お疲れ」
ホイミンはピョンと椅子の上に立ち、テーブルに顔を付けた。その顔は溶けそうにドロドロしている。
「何だ酔ってるのか」
「ボクね。酔っ払ったの初めてじゃないんだよ。果物とか腐らせて食べるもの」
「そうか、醗酵しているわけだからな」
えへー。とホイミンは笑っている。
「楽しかったか?」
「うん。あ、これ貰ったの」
とホイミンは横笛をライアンに見せてくれた。
56名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:18:06 ID:dBkeoppY
「ん、私にくれる物とは笛だったのか」
「え? ライアンさんに渡す物だったの?」
「いや…」
「ライアンさんに贈られたのは曲だよ」
曲? とライアンは思い出す。一人で家に居た先刻、城から音楽が流れて来ていた。
「あれは私の曲だったのか」
「そう。戦士はひとり征く」
吹いちゃうよ。とホイミンはたどたどしく曲を聞かせた。
ライアンは一人で飲むくらいはしていたらしく、酔っている。曲を聞きながら更に盃を進めた。
「はぁ」
と感心した後ライアンは拍手した。
「良い曲だよね」
「うん」
と返事した後ライアンは下を向いて黙った。
「ホイミン」
「うん」
「勝ったな」
ライアンは酔っていた。
ホイミンは、ライアンも楽しむゆとりがあったのを見て安心した。
「私とも飲むか」
「うん。エヘヘ」
乾杯はせず、亡者に献杯をする何とも凛々しい酒であるが、彼等の話は続いた。旅の事、洞窟の事、町の事。
たまにライアンは「俺」と言ったりする。ホイミンはちょっと乱暴な口調のライアンも好きだ。
ライアン、飲んでしまって元々色っぽい声が更に生々しくなっている。
風邪を引いたように鼻孔を刺激してから出るライアンの声は、聞いている方の海綿体を刺激する。
この声に、野生的なホイミンは時々冷静を欠いた。初めて会った時などホイミでライアンの声を治そうとしたのだ。
「あれ、風邪引いてるんじゃないの?」
「いいや」
この時ホイミンはちょっと(イヤ…)と思った。これが地声なんてしょっちゅうドキドキしてしまいそうだから嫌だった。
57名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:19:36 ID:dBkeoppY
「ライアンさん、女の人達が騒いでた」
「ん?」
「ライアン様の正装が見れなかったわぁって。僕みたいな格好して二人で来て欲しかったって」
「全く…私は戦士だぞ」
ライアンは女達の戯れに合わせる。
「見たい、ライアンさん」
「?」
「正装して」
「嫌だな」
と言いながら、ライアンは奥の部屋に引っ込んでイソイソと着替え始めた。
「どうだ」
着替えの早い男である。黒いタキシードのライアンがそこに立っていた。
「おわぁー」
と声を上げた後、ホイミンは言葉を発しなかった。感心してしまったのだ、この人は戦士の筈だった。
「俺は痩せたな」
と言ってライアンは椅子に座った。服の胴回りが緩くなっているらしい。
黒い短髪と髭が清潔で何だか貴族の様だった。こんな戦士は面白いからちょっと騒がれそうだ。
「ライアンさん。似合うよ」
「左様か」
「とっても」
ホイミンの感動が、意味深長な物に感じられてライアンは黙った。ホイミンの次の言葉を待った。
「デスピサロとか、騒ぎがなかったら……ライアンさんはきっと、自由に色んな事が出来たよね」
「何を言ってるんだ」
「ライアンさんは色々な事がきっと出来るよ」
「何でお前まで…私は戦士だ。おい。お前だって勇者じゃないのか」
「ええ!?」
「なにも人類を救う勇者が人間じゃなくても良いじゃないか」
やっぱりライアンは変な人だ。普通の大人じゃない。
「ボクは、…なんでそんな事」
58名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:21:16 ID:dBkeoppY
「お前と初めて会った時、何か感じた。おい、お前なのか」
「やぁん」
「お前との旅はもっと、長い物だと私は思った」
「ライアンさん。もう旅が終ったみたいに言わないで」
「…お前は何も感じないのか。お前…勇者でなくて何なんだ」
ホイミンはゾクゾクとしていた。ライアンは謎めいた男だ。そしてこの戦士の謎に迫ると、同時に自分の中の謎にも迫っている様な不思議な感覚を憶えた。
気付くと男二人は眠っていて、朝を迎えていた。

一人身の切なさか、ライアンは料理が上手い。
「なんで料理って男の人が作った方が美味しそうなんだろうね」
「お前、人間と言う物がわかって来てるな」
台所に立つライアンはそれなりの風格を持っていた。芳香と共にサクサクと料理は出来上がる。
しかし盛り付けた皿をテーブルまで運ぶ役目はライアンだと少々ゴツイ。ホイミンの方が適任だった。
「こら、お前は客人なのだから」
「だって」
「ほら、パンも焼いてある」
「やったー!」
ホイミンはしきりにパンを食べたがった事があった。
「お前の欲しがった物を用意したのだから、大人しく座っていなさい」
「ひゃっほう。はーい」

「おいしーい」
「うぅん、焦がした…」
「おこげー」
ホイミンは少しフォークを踊らせてしまいながら美味を喜び、ライアンは焦がした事にちょっと額を掻き、ホイミンはその微かな焦げを突っついて食べた。

「お前、昨日の夜の事を憶えているか?」
「結構ね」
二人は後片付けをしながら会話した。
ライアンはタキシードを着て寝ていた自分にちょっとびっくりしたが、ホイミンはちゃんと憶えていた。ライアンの黒い正装。
59名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:24:14 ID:dBkeoppY
(何だか、鎧姿の時とは違う人みたいだった…。鎧と…どっちの姿が格好良いなんて言えないけど、でも)
「ライアンさんは憶えてるの?」
「大体な」
と言うと、ライアンは台所から出て自室に行った。
ホイミンは居間に戻り、朝日で明るくなったライアンの家の中を妙に改まって見回した。
綺麗過ぎるとホイミンは思った。こんなに殺風景だったかと。
ホイミンが宴に行っている夜の間に、ライアンは旅の支度をしていたらしい。
「ライアンさん、旅に出るの? いつ?」
「今日、今だ」
彼の部屋の中から鼻に掛かった低い声がする。
「昨日旅から帰って、今日行くの? 勇者さんを探しに」
「そうだ」
旅の目的はここで、ライアンとホイミンを別つ。ホイミンは人間になる。ライアンは勇者を探す。
しばしの別れ。
(さよなら、ライアンさん…)
ホイミンは涙を懸命に堪(こら)えた。泣いてはいけない。またきっと会えるのだからと。
(怒られちゃう…ご飯美味しかった…)
ホイミンはバトランドの笛を大事そうに持って、宙に浮きスススッと戦士の家を出た。
だが、玄関近くに座り込む。
ホイミンはクスンクスンとして、顔を上げられなかったけれど涙は零さなかった。
(別れの挨拶するぞ)
しかし彼の勇気は思わぬ発展をもたらした。
日の光の元へ姿を見せたライアンにホイミンは(あっ)と息をのむ。
60名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/12 19:25:34 ID:dBkeoppY
ただ普通に、今まで通りに桃色の鎧を着たライアンが立っているだけなのだが、
(何だ、そうかボクは!)
今見ているライアンが一番良いのだ。タキシードを着ている時は(鎧姿より良いの?)と思ったりしたが、結局目に見えている今の彼が一番良いのだ。
勿論思い出の中のライアンも素敵だ。でもこの戦士はどんどん、どんどん凄くなる。
だから離れると又会いたくなって、彼の今後が知りたくなって、
(わーい)
ホイミン今は別れを諦めて、とても楽しい気分でこう言った。
「ライアンさん。もう少しボクと旅してよ」
「そうか」
と戦士は闊達な笑みをホイミスライムに見せた。
「うん! そう!」
「うむ。では参ろうか」


ホイミンとライアンの旅はもう少しだけ続いた。
人間になったホイミンとライアンは会う事はないかも知れないけれど…
大きな世界の流れの中に二人共飛び込むから、どこか荘厳な城の中で知らず知らずに合流するだろう。
そして心の向き、精神も同じ方向を向いて歩いているから、離れていても寂しくない。
しかしホイミスライムは思う。

また会おうねライアンさん。
ライアンさんは会う度いいよ。今度会ったらあなたはもっとかっこ良くなってると思うの。
あなたにまた会えたら──
もっと素敵な事が、すごい事が、ボク達を待っているんだ。



モンスターと心が通じ、それと旅する黒髪の男。
それは遠い未来かも知れないが、そんな男が勇者の父や祖父になるような未来がきっと訪れる。
ライアンもきっと、(そいつの特徴殆ど私ではないか)と思いながらも、そんなホイミンの予感を喜んでくれるだろう。

END
61名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/14 03:31:31 ID:yxs3ZJ2L
改名たん、乙。
まだ全部読みきってないけど、まってましたよー!
おもろい。
62Kの中の人:04/11/15 18:47:03 ID:o0yMcBpC
改名さん、相変わらずいいですね。
続きが凄く楽しみです。
63名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:11:55 ID:8TJahMqe
>61-62
どうもありがとう。懐かしい名前が出たのでちょっと連絡します。
このスレがあるうちには出来ませんが、もしサイトを見てみたいと思ったら「DQ、繧」で検索かけてみて下さい。
64名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:13:17 ID:8TJahMqe
ランシール奇譚

蒼い壁が基調の冷然とした洞窟。ランシールの地球のへそ。
臍(へそ)とは母体と子を繋ぐ大事な器官である。
(何か生まれいずるものなのかしら)
とか、浪漫を考えているのは洞窟を一人行く女勇者。
一人旅のセンチメンタリズムも彼女の神秘的な妄想に拍車を掛けていた。
「ひきかえせ」
勇者は緊張した。壁が喋る。
「ひきかえせ…」
この洞窟は人を惑わすと聞いた事がある。一人身の寂しさでも誘うのか。
壁の声に誘われない女勇者がどんどん進むと(あっ)行き止まりであった。
「意見に耳を貸すのも大切な事なのだよ」
「はい」
と勇者は元来た道を戻る。すると今度は人が笑う。
「ウフフ…」
嗄れた女の声がした。
「あんた、なんで男二人と旅してんの」
なんと自分である。
「Hな娘とか言われない? 嫌じゃないの?」
もう一人自分が現われた。
「女の人と旅した方が良い時もあるでしょう。それが全員自分自身だったらどんなに楽で便利で頼りになるか……」
自分の目の前に自分が三人居る。勇者は混乱しながらも冷静に尋ねる。
「あんた達名前は?」
「あたしバリー」
「バリー」
「皆同じだよ」
ランシールには世にも不思議な秘術があると言うがこれか。それが人を惑わす。
(やだ…)
「あら、どこ行くの」
「帰る」
女勇者が自分の声を振り切り、歩を進めると仲間が立っていた。
65名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:15:14 ID:8TJahMqe
(あら、あんた。ここは仲間を連れちゃいけない洞窟なのよ)
彼は武闘家。しかし美しい長剣を携えていた。
「さあ、今すぐ魔王を倒しに行こう」
このオジサンは何を言い出すのか。魔王がどこに居るのかもわかって居ない状況なのに。
「俺が隼の剣を装備すればどんな魔王も瞬殺なのさ」
もう一人の仲間の戦士も現われた。彼は黄金の爪を装備している。
「あんた達、そんな武器使えるの?」
「俺達は最強だ。連れて行け」
その武闘家の声を聞く女勇者の前に又バリーが現れて、「これあげる」と数え切れない程の力の種を彼女に見せた。
「限りなくあるのよ」
「サッと強くなろう」
「迷ってる場合じゃない。食べて。皆の為じゃないの勇者でしょ」
「何だお前等は」
と武闘家は、徒党を組んで勇者を誘う三人の女を軽く睨んだ。
「この勇者はそんなにズルくないぞ。どれ、捕まえてやろう」
「いやぁん」
「H」
「あんたなんてキライ」
武闘家に追われると、三人の勇者は蜘蛛の子の様にササーッと消えて行った。
そして物陰から三つの同じ顔をヒョコヒョコと出してこちらの様子を覗っている。
勇者バリーは考え事をしていた。
この状況に心惑わす彼女ではない。
思案している彼女を見て、何度も一目惚れしている戦士がいた。
(可愛いぜぇ…)
思案する彼女の色と愛らしさには、今ランシールの神殿で待っている戦士も何度も心ときめかせて来たが、目の前に居る変な戦士も同じ心の動きを示した。
そして彼女の肩をおずおずと抱いて引っ張った。
(あら)
この戦士の自分への好意を勇者は感じる事がある。確かめた事は一度もないけれど。
変な男戦士に抱かれている女勇者へ、三人のバリーはとうとう六つのオーブを見せて来た。
66名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:16:52 ID:8TJahMqe
「これでラーミアが甦る」
「あなたが復活させなきゃ」
言われた勇者バリーは惑わされない。悠々と地球のへその床に寝転んだ。

悪魔達の誘惑を退けている彼女は“立派な勇者”として元の世界に戻っても良さそうだ。
(帰りたいよ)
しかし彼女は一行にこの変な世界から抜け出せない。
「仲間にしてくれ」
と頼む男二人を勇者の心が拒んでいないからだった。
変な世界でもこの二人の男に勇者は捕えられていた。
(あたし、このまま出られないのかな…)
「俺と一緒に出よう」
戦士は勇者を誘って来る。このランシール世界の戦士は優しげで鷹揚で。
(あんたもっと柄悪いのよ)
「あなたを連れて行けない」
「どうして」
断ると落胆して、悲痛に戦士は言う。
こんなに瑞々しい切ない顔を、こんなに素直で可愛い戦士の顔を見た事がない。
こんな本物か偽者かもわからない男だけれど…その長い指が彼女に触れた。
「あたし…戦士の仲間が居る…」
彼女のその言葉は彼の指によって喘ぎに変った。

(熱い…)
この戦士の色々な物が。
「好きだ」
現実の戦士からは聞いた事のないセリフであった。
「ごめん、あたし…」
「さっきお前はあの三人の自分を退けた。そう言う真面目な所も好きだ。全部好きだ」
男の心がどんどん自分の中に入って来て、勇者は涙が出た。
67名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:24:04 ID:8TJahMqe
「俺と旅をして欲しい」
「ごめん、あなたを連れて行けない…」
「何でもする。お前の為に」
と、男は女にまた覆い被さって来た。
「ダメ…」
「頼むから俺を…」
その戦士の頭をパーンと蹴り飛ばす男が居た。
「しつこいのは嫌われるぜ」
と、蹴り終えた長い足をしまうのは武闘家である。戦士は死んで棺桶になってしまった。
「ウム、アリアハンの城の屋上でグルグルしてな」
何の事だかさっぱり解らない勇者に武闘家は説明してくれた。
ランシールの秘法──
人類の叡智を越えた、夢の話。その歓喜の世界の始まりは神殿だった。
「神殿から全てが始まっている」
ここ地球のへその洞窟から、ランシールの神殿は砂漠を隔てて遠く離れている。
「お前は神殿の神父に話し掛けた時一人だったな。
“この先の洞窟に一人で行ける勇気があるか”と神父に聞かれて“はい”と言った。
その後でアリアハンに帰っただろ。これがいけなかったのさ」
「色々と用意があったから…いけなかった…?」
「それでお前はこの世界に入った。ここに入ったら抜け出すのは難しい。
でもこんな秘法がお前に許されるのは、お前が勇者だからだよ。
お前は本物の勇者だって事だ。俺を連れて行かないか」
68名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:26:38 ID:8TJahMqe
「嫌だ。仲間内で殺し合って」
「秘法なんだって。それに仲間の代わりはルイーダの酒場に行けばいくらでも居る」
こんな事を言う男ではない。この武闘家はこれ程冷淡な事は言わない。
「あんた、そんな事言ってあたしを試そうとしてるの?」
「試す?」
「あんたの言う事は聞けない」
「凛々しいじゃないか」
と男は女を抱く。
「なにすんのっ」
「まぁまぁまぁ…」
もの凄い腕力である。勇者は抵抗する気力を奪われた。
「イヤ」
小さい叫びの様な声。それでも口付けの音は止まなかった。
「お前はね、きっととても長い血筋の祖となるだろう。
母親だから祖である確率は100%。
そして子供を育てて未来へ繋げるのさ。だから子供作るのも大好きだろ。
大好きかどうか試してやるよ。子作り大好きだからこそ勇者だよ。手伝うよ」
「やぁん、何でそうなるの」
バリーは美味しそうに物を食べ、快感には気持ち良さそうに悶える。伸びやかでエロティックである。
彼女は今日も元気だ。
(実は俺も、お前が好きなんだが…)
「…こんなの、帰れなくなる」
小さな声で困る勇者に、
「大丈夫。俺もお前が大好きだ」
ポロリと本音が出てしまった武闘家は少し焦った。彼のその顔に勇者はドキリとする。
「何が、大丈夫なのさ」
「つまり愛があれば…どんな世界に居ても、何に対しても恥じる事ないじゃないか。
愛があれば仲間にしても問題無いじゃないか」
言う事が嘘くさい。洞窟の彼にも“らしさ”は確かにある。
69名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:28:06 ID:8TJahMqe
基本的に慈父である。千変万化する“太陽”のイメージを持ち、どんなに情けない時も甘えて来る時も凛とした背骨を感じさせる男である。
でも今は“あんたなんか”と言う風で、勇者は横を向く。
びっくりする程可愛い横顔だったので男は、
(なにお、この…)


「あんっ」
と勇者が少し体を跳ねさせると、
「どうだ」
男も喘ぎながら言う。
「あたし、あんたの事愛してる」
武闘家はびっくりした。
「剣を捨てて。剣がなくてもあんたの強さは世界一よ。足と拳で戦って世界を救う武闘家なの」
勇者のその声の後、戦士の棺桶がいきなり現れ近付いて来る。
「あんた」
勇者が呼ぶとビタッと止まって、棺桶はわけの解らない呪文を唱え出した。
「あんたの体力で、あたし安心してる。あんた普通の武器でも強いじゃない。
レベルを上げたいなら一緒に強くなろうよ」
男二人(一人棺桶)はジッと勇者を見詰めて来る。
「そうか…?」
と男二人が囁くと、勇者は激しい痛みを体中に感じて卒倒した。


勇者が目をさますとベッドの中に居た。見渡すと小さな部屋に彼女は一人切りで横になっている。
(ここどこ?)
賑やかな人々の声がする。きっとこの部屋の扉を開けたら沢山の人が居る筈だ。
彼女の体はまだ苦しく、呼吸も乱れている。
アリアハンのルイーダが扉を開けて勇者の元にやって来た。
「ルイーダさん」
「良かったわ。あなたここのカウンターの所で倒れてたのよ」
70名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:30:05 ID:8TJahMqe
「ここ…酒場? アリアハンの?」
「そうよ」
この部屋はルイーダの酒場のカウンター奥にある小部屋であった。
勇者は本当は地球のへその洞窟には行って居なかったのである。
神父の言葉に“はい”と返事をして、アリアハンに帰って来て、ここで倒れてしまっていた。
(洞窟の事は…夢…?)
「まだ具合悪いの? 貴方のお祖父様呼ぼうか? 大魔法使い様」
「だめ…」
と勇者は苦しそうに言った。祖父(オルテガの父)にはこんな所を見せられない。
「でも、私ではあなたを助けられないわ…」
「いいの、いいから…」
それに、こんな必死な顔のルイーダを祖父に見せたくないと思った。
(お祖父様だって、男の人だもん…)
やきもちである。
その時、酒場のカウンターに武闘家が訪れていた。
ルイーダは応対に行く。勇者はヨロヨロと立ち上がり、大きな酒樽の影に隠れてルイーダと武闘家の様子を眺めた。
ルイーダは深刻かつ官能的な表情で、何か武闘家にすがる様にこう言った。
「今日はどんなご用で…?」
「仲間を探しに」
武闘家の美声、その言葉に安心したルイーダは、彼の逞しい腕に手を添えて嬉しそうにため息を付いた。
(いやぁん)と勇者はちょっと興奮する。
「名簿があります…どなたにしますか?」
武闘家は大きな名簿を静かにパラパラと捲り、一番新しい真っ白なページに目をとめた。
ルイーダが懸命に殴り書きしたと思われる女の名前があった。
「勇者のバリーだ」
「そうよ、バリーちゃんよ! バリーさーん、瑠璃さんがお呼びよ!」
体力も精神も完全回復した勇者が酒樽の影から出て来て、酒場のカウンターをポンと飛び越えて武闘家の前に現れた。
ルイーダは、勇者の名前だけがわからなくなっていた。懸命に思い出そうとしたが、ルイーダの力では無理だった。
勇者は死ぬと言うより、世界から消えそうになっていたのだ。
71名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:35:12 ID:8TJahMqe
「あんたが名前を呼んでくれたから助かったわ。ありがとう」
低い声で勇者バリーは武闘家瑠璃にぺコリと挨拶した。
「ルーさん。あたしまた酒場に戻れる?」
「あら、自分と別れる事は出来ないわよバリーちゃん」
これで元通りだ、と思った勇者はルイーダに笑顔を見せた。
この酒場の名簿に入れる事は出来ない…それは、ルイーダに言わせれば最上級の評価であった。彼女に勇者であると認められている事だ。
ルイーダは自分の酒場に欲しい女性だと、バリーの事を思っていたけれど。
「あたし、貴方と旅しても良い」
「何?」
言われた武闘家は聞き返す。彼は隼の剣を装備している。
「愛があれば、良いんでしょ?」
「俺に対して愛があるのか?」
「ある。たぶん」
「…ありがとう。元の世界に返してやるよ」
武闘家が言った途端、戦士のノアが走って来て、勇者バリーの首を黄金の爪で切り裂いた。
「バリー。俺だ」
「ノア…あんたも行こう…」
「駄目だよ。俺達を好きになっちゃ」
戦士と武闘家は溢れ出す勇者の血に塗れた。
勇者は始め痛くて床に転がった。それを戦士が抱いた。
バリーはギュッと両目をつむって、小さくピクッと体を跳ねさせる。
さすが一流の戦士だ、と勇者はノアに思った。始め痛みはあるがもう気持ち良くなって来た。
(わぁ、綺麗…)
目の前が光り溢れる世界になると、勇者は呼吸と鼓動を止めた。
戦士は泣いて、勇者を抱いた。武闘家は勇者の手を取って最後を看取った。
死んだ勇者の横顔を見て、ルイーダは(こんな良い女もない)と思った。彼女の幼女時代からその女振りに嫉妬もしたものだ。
美しく、妖しく、官能的。自分の酒場の名簿の一番上に書き込みたい女性だった。
温かく、気の良い、セックスアピールのある彼女が自分の名簿の最高位に欲しかった。
72名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:36:57 ID:8TJahMqe
「俺は、こいつを早く元の世界に返してやりたかった」
「…うん」
「でももう俺は駄目だ。後の事はお前に任せる」
戦士は勇者を抱いて泣いていたが、もう後の事全てを武闘家に任せた。
武闘家は勇者を両腕に抱き、立ち上がる。




「おお!バリーよ!死んでしまうとは情けない!」
勇者はまた目覚めた。今度はランシールの神父の元気な声を聞いた。
(そうか、あたし死んだんだ)
勇者がヒョイと起き上がって…空を見上げると……遠い。空がこんなに遠い筈がない。
かと思うと、宇宙まで見えてしまいそうな低い空も見える。
(わ!)
もっと辺りを見まわすと喋る神父は武器屋の看板だった。神殿も瓦礫の山のと化していて、その同じ瓦礫の岩壁から木が生えたり川が流れたりしている。
(これは!)
何だか、悪夢の方がもっと出来の良い風景を見せてくれそうな、破綻した世界の中に勇者は居た。
自分の真後ろに仲間の武闘家が居た。しかし彼はピクリとも動かない。
いや、このランシールと言う広い大陸で、生命があるのは勇者一人だけのような静寂と疎外感。
勇者は武闘家に懸命に呼び掛けた。彼は微かに、動かない体から魂を動かして声を掛けてくる。
「走ってこの町を出るんだ。振り向かないで」
「貴方を連れて行けたら」
「良いんだ。その気持ちだけで良い」
戦士の棺桶も遠くにあった。勇者が話掛けると戦士は言う。
「さっきはごめん。痛かったろ」
「あたしを助けようとしてくれたんでしょう。良いの。行こう」
「走るんだ」
武闘家も、戦士も言う。
「…わかった。あんた達の事忘れない。出来たら着いて来て」
73名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:38:54 ID:8TJahMqe
勇者は走った。そして三人の自分とすれ違う。
「あんた思ったより立派なのね」
「たまにはHな事すんのよ」
「あんたの事、褒め称える人が沢山現れるかも知れない。でも自分が人間だって事忘れちゃ駄目よ」
自分が自分を褒めてくれたので何だか不思議だったが、それ以外の事には
「うん。わかってる」
と勇者は返事をした。

走る勇者はランシールの町を出て、もう一度ランシールの町へ入った。
すると何故か、勇者は神殿の狭い通路の中を歩いており、神父が待っていた。
「さぁ、行けバリーよ」
神父は言う。
「あの…私一度死んで神父様のお世話に…」
「いや…知らないな。貴方まさか秘法を見たかね」
「はい…私の仲間に似た者がそう言っていました」
「よく……そこからお帰りになられた。もうそれだけで勇者と呼ばれるに値する」
「そんな。行って来ます」
勇者は改めて地球のへその洞窟へ向かった。




勇者ロトが、勇者として目覚めた土地はどこかと言う事にも様々な説がある。
勇者サイモンの意思を引き継いだサマンオサの地か、
そもそも彼女が物心付いた地、アリアハンであって議論する余地無しとか言われている。
ランシールの悪魔達を退けた時ではないかと言う者も。



しかし勇者のバリーは、地球のへそで一人冒険している時
(あたし、皆の事ちょっと好きだった)
とその悪魔達に愛情と惜別の寂しさを寄せていた。悪魔達も、バリーの事が好きだった。
74名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 04:42:59 ID:8TJahMqe



「一人で寂しくなかったか?」
「はい」
「そうか…お前は強いのだな。それではお前は勇敢だったか?
……いや、それはお前自身が良くわかっているだろう。さぁ、行くが良い」
勇者が歩いて行くと、通路の向こうで武闘家が待っていた。
彼は利き腕に小さな武器、パワーナックルをはめている。
勇者はダッと走って武闘家の腹に飛びついた。
「ただいまっ」
「おう、どうした」
彼女はえーんと随分素直に涙ぐんでいる。
甘えて来るのは珍しい女なのだが、あまりに急だったので武闘家は虚を衝かれた。
(本当に怖かったのか?)
一人で洞窟に入る等と言う事が、大好きな奴かと思っていたのに。
「そらそら、泣くな」
と彼は彼女の髪を整えている。
「心配したぜ、でも無事で良かった」
勇者は武闘家の美声を恍惚とした顔で聞いていた。わかりやすく言うと“うふん”とした顔。
「これ、仲間内で騒がぬように」
神殿の中、この勇者と武闘家は艶かしい。その上抱擁は頂けない。
姿勢を正すものの、武闘家は怒られてしまった事を微かに恥じている様子だった。
「テレるね」
「お前が悪いんじゃないか」
と武闘家は勇者の耳にキスした。
(剰(あまつさ)え接吻までかますとは…)
プルプルしている神父から、勇者と武闘家は消えようとする。
75名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/16 13:55:21 ID:8TJahMqe
「おぉ、お帰り」
とバトルアックスを持った戦士がやって来ると、勇者は彼の首に飛び付き、ぶら下がって言う。
「ごめん、あたしちゃんとするから」
「う、うん」
何だかわからないが戦士は返事した。そして彼女の方から戦士の唇に口付ける。
「仲間内で騒がぬように! これ!」

その後女勇者が神父に軽くお仕置きされたのもまた伝説。
勇者は神殿で大胆だった自分を省みる。
(これも秘法のせいかしら)
いや、それは彼女が元からHだから。


ランシール奇譚  終
76名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/19 20:32:30 ID:vTaTz37e
エロパロでやってろって。板違いだろ。
77名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 04:15:06 ID:cy1cqGhl
>76
エロシーンのもろに有るものは駄目だ、と言うのは思ってたんですが
今回(夢で…)はどうでしょう。
注)健全なファンにはあまり見てもらいたくない話です。
78名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 04:16:30 ID:cy1cqGhl
夢で逢えたら


ガーデンブルグは男勇者以下、ライアン、ブライ、クリフト、トルネコの目を楽しませた女の国だったけれど、勇者に取ってこの国一番の衝撃的出会いは、男性との間で繰り広げられた。
ガーデンブルグだからこそ男性が衝撃だったのかも知れない。常に女ばかりを見る中で、逞しい異国の男性が視界に入るとちょっと目を奪われた。
日に焼けた精悍な男で、弁髪を結っているから後頭部以外は髪を剃っている。額に六つのチャクラを入れて…武闘家らしい容姿をしていた。
「何を見てる」
「いや、男が居るなと思って…」
ガーデンブルグの一室、扉を開けて一人で居た武闘家を勇者は廊下から眺めていた。
武闘家は笑顔を見せた。肌が黒いから歯が白く光って見えて、中々エロティックな男だ。
「あんた最近入国した噂の?」
「うん」
素直に返事をした噂の男は、肌が白く髪が緑の美貌。
「勇者だそうで、これは有り難い」
と武闘家は勇者に拝みが入った。勇者は自分の頭をポリポリ掻く。
「ほら、ここを覗いてごらん」
武闘家は勇者を誘った。部屋の隅にある戸棚の中で美しい十字架が輝いていた。
「綺麗だ」
「そう。貴方にあげような」
「いいよ、誰のなんだよ」
「私の物だ。貴方にあげようと思うんだ」
と武闘家はブロンズの十字架を手に持った。しかし勇者にくれる様子は無い。
「ほら、勿体無いんだろ。要らないよ」
「今はまだ…切っ掛けがないからさ…」
その時部屋の中にガーデンブルグの尼が入って来た。彼女は叫ぶ。
「バコタ!」
「ほい、来なすった」
と褐色の肌のバコタは勇者に囁く。そして自分の顔も異国の髪型も隠さず、尼の元へ堂々と歩み寄った。
「やぁ。もうこれきりだ」
「…貴方が、持っていたの」
79名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 04:22:36 ID:cy1cqGhl
「そう」
と十字架を見せると、バコタは全速力で走り出した。
「大切な物なんです! 勇者様どうか十字架を!」
「はい」
と勇者はバコタを追った。
逞しい男二人は追い追われ、女だらけの城の廻廊を一目散に走って行く。
勇者は途中、ライアンアリーナの二人組と擦れ違った。
(バカだなぁ。折角ガーデンブルグに来てるのにアリーナと二人で居る事ないじゃないか)
と勇者はライアンに呆れる。
「勇者殿どうした」
勇者は呆れる事に時間を取られ、事情を説明する暇を無くしてしまった。
「ライアン! アリーナ! あのー!」
勇者の話は途中だが、走る彼とライアンアリーナの距離は瞬く間に数百m離れてしまった。
他にも勇者は仲間と擦れ違う。
「皆来てくれ!」
走る勇者の声は耳の良いトルネコが聞いた。仲間達が少し駆けて勇者を追った。

もうバコタと勇者はガーデンブルグ城内から出てしまって、モンスターの這い回る林や森、道無き道を駆け抜けて行く。
(わぁあ!)
勇者がまだ追って来るのでバコタは狼狽した。そしてその白い腕に捕まり土の上に倒れた。
「お前はテレーッとしてるくせに足が速いな!」
バコタは土だらけになって感心している。
「返せ、返せ、何やってるんだ」
バコタは辺りに人の目が無いのを確認すると十字架を勇者に渡し、「じゃ」と去って行く。
「待て、城に戻って禁固刑だろ」
「えー!? 冗談じゃねえや」
「罪と罰だろ。この泥棒、盗人、掻っ払い」
バコタは逃げようとした。勇者は捕えようとする。揉み合った。また二人転んだ。
勇者は手に持っていた十字架の鎖でバコタの首を絞める。その勢いが凄まじかったので、クロスの部分がバコタの口に入り、喉に突き刺さって取れなくなった。
バコタの苦しみ方に勇者は貰った。あの嘔吐の独得の感覚を共有する。
80名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 04:24:04 ID:cy1cqGhl
バコタは異常に嗄れた、声に成らない声で勇者を責めた。
「ご、ごめん…。飲んじゃえ。ウンコと一緒に出るよ」
出るかのよ…と言う風にバコタは力の無い顔で勇者を見る。その時、バコタは勇者の仲間が走って来ているのを見掛けた。
捕まると思ったバコタはまた逃げる。勇者は追う事に消極的になりバコタを見失った。


「そう…逃げてしまったの…」
「…十字架は貴方の物なの?」
と勇者は気落ちしている尼に尋ねた。
「神に全てを捧げ、教えを説いて来ました私が…女王様に認められ頂いたブロンズの十字架です。
…ごめんなさい。あの男(ひと)足が速いから、追い付けないと思って貴方にお願いしてしまって…」
「いいやぁ。取り返してきますよ。バコタは何だか俺にくれる感じでしたから」
「ええ?」
「“私の物だ”っても言ってたけど、“貴方にあげる”と言ってました。俺に」
「…わかりました。女王に全てお伝えしますわ、私」

尼は恐れながらとバコタの件を、女王に申し述べた。
王座の女王は顔色を変えて尼を睨む。
「そなた…滞りなくこの件の事調べたのですか?」
「は?」
「勇者と呼ばれて居る者が隠し持っているやも知れません。その男をこれへ呼びなさい」


王座に呼ばれた勇者に、女王はこう切り込んだ。
「私はこの国の女王。罪を犯した者を裁かねばなりません。
ブロンズの十字架を盗み出したのは誰なのでしょうか?
そなたが盗んでいないと言う証拠はありますか?」
「取り返してここに持って来ます」
81名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 04:25:54 ID:cy1cqGhl
「そなたの事を一つも信じないとなると…事は更に複雑になりますね。
もし濡衣であるならばそなた達に本当の犯人を見つける機会を与えましょう。
ただし、それまで仲間を幾人か預からせてもらいます…いかがですか」
「仲間を全員預けて俺一人で行きますよ」
「私達も良い結果を待っています」
その女王の言葉に、ガーデンブルグの女兵士達から異議が出た。
「一人で旅立たせてはガーデンブルグの沽券に関ります。危険です、仲間の同行を許しては」
その兵士の言葉に勇者が異議を唱える。
「旅から外れる仲間を選ぶ事は出来ません。俺の問題だ」
勇者の言葉に割り込んだのは又も女の声だった。
「はい。じゃあ立候補と言うのはどうです。私残りますわ」
と手を挙げたのはアリーナ。
「陛下。ここから先は私達旅の仲間で検討したい。お許し下さいますか」
アリーナの声はこの場に居る誰よりも堂々とし、威厳を持っていた。


「だってチャンスなんだもの」
とアリーナは勇者に生き生きと立候補の理由(わけ)を語る。
アリーナは、自分かライアン、どちらかが旅から抜ける事を望んでいた。
「私が抜けた時、戦闘はどうなるのか。それかライアンが居ない状態で私がどこまでやれるのか、試してみたかったのよ」
「何でライアンがガーデンブルグに残る方考えるの止めたのさ」
勇者が聞くと、アリーナは乙女の様にクルクル回って恥かしがった。
「だって…。この国女の人ばっかりなんだもん…」
ライアンが残るのは嫌なんだそうだ。
「…そうか」
アリーナの、ライアンへの“好きになり方”は勇者を昂揚させる事がある。それは永遠の恋にも見えて、
(格好良い)
と思っている。アリーナにしては大人っぽい恋愛と言って良い。ブライに対する様な、幼女時代からの恋(初恋)とは少し違う。
そのブライが、勇者とアリーナ二人の前に現われた。
「姫が残るなら儂も残ろう」
82名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 04:35:09 ID:cy1cqGhl
アリーナがそのブライに駆け寄り、勇者に言う。
「ねぇ、これで私一人じゃないし良いよね」

良くないのはクリフトだった。
「では私もガーデンブルグに残りましょう」
しかしそれを、マーニャが嫌がった。
「サントハイムの三人が別になるって嫌だな。それに抜けるのが三人は多いでしょ。
誰かこっちに戻ってよね。アリーナちゃんが居たいって言うんだから、ブライ様か…」
「クリフト行け。残るはお嬢(マーニャ)とミネアさんと戦士殿、商人殿だろう。バランスが良い」
マーニャに続くブライの声を、勇者はフンフンと聞いていた。
「良いなぁ。良しじゃあクリフト行こう」

クリフトと、二人になった時に勇者はコソッと言った。
「今回はライアン、ミネアが決定なんだよ。バコタと手合わせしたのは俺だけだから決められる。
じゃあ馬車に残るのはマーニャになるかも知れない」
「はぁ…」
「その中で…マーニャとあの爺ちゃんが二人で馬車になっちゃうのは、俺面白くないのさ」
「そんな事、私だって姫とブライ様が二人切りで居るのは」
「まぁ、そっちは古い縁と言う事で。マーニャとブライじゃ生々しいよ」
マーニャとトルネコは仲の良い父娘の様で、勇者も見ていてほのぼのする。
その時々、仲間を決めるには小さな事でも理由があるものだ。
しかし対バコタにはルカニの使い手が必要だったので、マーニャとブライが二人馬車に残る事はあり得なかった。勇者の考えは一種の徒労に終わる。

エドガンとバルザック。年齢は離れていても師匠と弟子と言うより、そこはかとなく親友だったらしい。
83名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 04:37:25 ID:cy1cqGhl
マーニャとミネアの一番好きな人は、実父エドガンとそれを殺した弟子バルザックである。
サントハイムでバルザックに会った時勇者はそれが解ってしまった。
バルザックを見てから勇者はマーニャに触れていない。マーニャの思いを知ってからは。
勇者はぼんやりと空を見詰めてバルザックを思った。
死に顔が例えようもない程美しかった。自分の目の前で死んでいるのに「この男は自分より長生きする」と、勇者はバルザックに変な感想を持った。
(復活するのかな…今度は魔族の王?)
サントハイムのモンスター達は彼を慕っていた。男気溢れる炎がバルザックの為にマグマの杖を守っていたのが印象的だった。
勇者は親、恋人を殺され、新しい恋も諦め…(諦めさせられ)
(どうせおいらぁ孤独運さ)
勇者は悲しい口笛を吹いた。
勇者の本当の敵、時代を超えた魂の敵を、この勇者本人が気付く事はない。
それは時代を超えて、勇者の魂が新しい仲間や新しい家族に出逢う事でもあった。
バルザックにもっと何か気付けば勇者の未来の孤独も少しは消えるのに…この勇者は時代の大きな流れに関しては全く鈍感だった。
現在、自分は7人の仲間を連れてそれでやっと勇者。
占い師のミネアが
「初めて会った時から、一人切りで凄まじい光を放っていた人でした。
初めから…私の水晶玉には写り切らない人だった…」
とバルザックの事を言っていた。


ミネアがその占いでバコタを見つけ出す。
「何でここがわかったんだ!」
ガーデンブルグ東の洞窟の奥深く、バコタは妙に生活感のある部屋に潜んでいた。
「こっちには占い師が居るんだ」
「へいへいへい」
とバコタはミネアの女っ振りを喜んだ。ミネアはライアンとマーニャの後ろに隠れる。
「お前の所為で俺は血反吐吐いたんだぞ」
バコタに言われた勇者はまた「ごめん…」と彼に謝っている。
「ほら、返すから。もう帰れ。…でも俺も運が良かった。あんたらがガーデンブルグに来てくれてさ。
十字架返す役目を負ってくれるんだから、隠れて返す面倒が無くなったよ」
「何でそうなの? すぐ返すなら何で盗んだの?」
84名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 04:42:52 ID:cy1cqGhl
勇者に言われたバコタはベッドに座り込んで言う。
「そら、お前、ガーデンブルグに嫌われる為さ」
別に勇者に倒されたと噂されるくらいならバコタは構わないのだそうだ。
「なんで嫌われたいの」
「そこまで言わなきゃ駄目かね、勇者様」
「…あの国(ガーデンブルグ) の醜聞か?」
ライアンの声にバコタは「そうそう」と頷く。「そんな事聞きたい?」とまたバコタは尋ねて来る。
「この場所だけの話に留めるから聞かせてくれ」
勇者が珍しく積極的だ。
「何しろ寝ても女、醒めても女だからね…。ことに女王が凄くて…俺はいい加減この国出たかったんだけど、女王の方に未練があるまま別れちゃあ…ねぇ」
勇者は…女王の言葉や態度の全てが…これで納得行った。女王はギリギリまでバコタに期待していたのだ。
バコタにもう一度会うために。
「さぁさぁ、女王には俺の様な男の事は忘れて貰おう。良いさそれで」
勇者がバコタの腕をガシッと掴んだ。
「駄目だ。盗んだ事は盗んだんだから、牢に入れよ」
「あのねぇ。俺と顔を合わせるのにバツが悪い女何人居ると思ってるんだよ。可哀想だろ」
離せよと、バコタが乱暴に勇者の手を振り解いた。殴り合いになりそうな雰囲気。
「お前のその、格好つけたまま、格好良い雰囲気のまま国を出て行く姿が気に入らない」
女が絡むと勇者は男性に対して強気になる。普段の彼とは思えない程語気が強い。
「ここでの話をお前達が黙っているなら女王は恥をかかないさ。
お前らが女王に濡れ衣掛けられたのは可哀想だけどな。
勇者なら女達の心を守れよ。国中の人間が本当は俺が盗んだと思ってるって」
「わからないさ。証拠を持ち帰るんだ。十字架だけじゃ駄目だ」
バコタも勇者の仲間達も…この勇者の執念の意味がわからない。
「なぜ」
「俺の濡れ衣を晴らせ。そしてガーデンブルグに戻ってみな!」
勇者は剣を抜いたまでは良いが(人を斬り付けるのこわい)と思っていた。
バルザックはあれ、青い鬼こんぼうだったし…だから勇者は人と戦闘した事が無かった。
85名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 04:45:18 ID:cy1cqGhl
(う、う…)
と勇者はビクビクしている。バコタは(なんじゃそりゃ)とこけそうになった。
「ライアン…ライアン、あのね…」
駄目な勇者である。この日はもろに戦士に頼った。
しかし黒髭が清潔なこの戦士も人と戦うのが久しぶりだったので、間合いを取り戻すまではモタモタ。



「姫」
「あっ、ダメよ。ブライ」
ガーデンブルグ牢獄に入るのを望んだのはアリーナだった。理由は一言、物好きだからである。
冤罪なんてもう体験出来ないかも知れないから、面白がる所は面白がるの。と言う。
アリーナの真向かいの牢にブライも付き合って入っていたのだが、彼はその牢を優しく破った。
そしてアリーナの牢の扉も開け、一つの部屋で二人仲良く座る。
「見つかったら怒られるわ」
「姫の声が遠く、聞こえなかったので」
「もう。おじいちゃんね」
ハハハと談笑するものだから、簡単に牢番に見つかった。
「牢に入るなら、それらしくして頂かないと」
と若い女性の兵士にブライは連れ出された。アリーナの牢から少し離れた所でブライが呟く。
「良いではないか。ちゃんと牢に入って居った」
「あれではこちらが馬鹿にされた様に感じました」
「儂はずっとあの方のお側近くにおった者です。不安が有れば取り除いて差し上げて、お守りしたい。儂があの方から離れられようか」
牢番の女性は一発でブライに惚れてしまった。
(凄い男だ)
その眼差し、表情、声、鋭く聡明な雰囲気、一級の男であった。
そしてブライはこの自分の声がアリーナに聞こえていた事を知っていた。
しかしアリーナは自分の居ない所で(ブライ、あんな事を……!)と恋心から泣きたくなった。
ブライは策士で、アリーナはちょくちょく溺れる。ブライの策だとわかっていながら溺れる事も。
86名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 04:47:11 ID:cy1cqGhl
そのブライがアリーナの牢に帰って来た。
「バカね…怒られちゃったじゃない…」
「了承とって来ましたよ。貴方の牢に一緒に入っても良いって。その為にあの人に捕まったんですから」
「バカ、向かいの牢と少しも離れてないのに…」
「いいや。遠かった」
少女と老人の密やかな会話。アリーナは自分の興奮と赤い顔をブライに見られるのが恥ずかしくて少し身じろぐ。
そしてその会話を、牢番の女兵士達がドキドキしながら聞いていた。
その後…ブライ様とお話がしたいわと言う女達が、牢獄に訪れる様になった。
その数は多く…化粧の仕方を教えてだの何だのと、道具が必要な触れ合いと化し、ブライは結局向かいの牢に入り浸る事が多くなった。
「ブライはバカだ」
アリーナはちょっと本気でそう思った。





バコタはライアン(そしてちょっとは勇者)に取り押さえられ、ガーデンブルグに罪人として入国する。
「勇者殿お見事!女王様の命令であなた達をつけて来たのです。
もし困っている様なら力になってあげなさいと……。
ともかく、この者は私が一足先にお城に連れて帰ります。勇者殿も早くお城にお戻りください。では」
女兵士はそう言っていたが、困って居るのを助ける…と言うのは罪人でない方を助けると言う事だ。
当初は勇者達の事に限らず、バコタの事も含まれていたろう。

「で…。お前のやりたかった事ってのはこれか」
ガーデンブルグの牢の中で胡座をかいているバコタは勇者に言った。
「ごめん…ブライがこんなにモテちゃうとは俺も思わなかった…」
少なくともブライに会いに来る女達はバコタの事を忘れてしまって、ブライ様、ブライ様とちょっとした祭りの様になっていた。
そして女王も「すみません。貴方を牢に閉じ込めて居たなんて私」とブライに最後の鍵を渡している。
勇者は盗人猛々しいバコタを少し懲らしめてやろうとして「もう女達は新しい男に夢中になって元気にやってるよ」と言うのを見せたかっただけなのだが、ブライの人気は想像以上だった。
87名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 04:53:38 ID:cy1cqGhl
「いじめじゃ!」
とバコタは勇者にわんわん噛み付いた。
「なんであの夢のままで終わらせてくれなかった」
「ごめんよ、ごめんよう」
勇者は鉄格子にしがみ付いて懸命に謝る。
「それに俺だって、ここの女達をもう見たくなかったんだ」
「なんで。美人多いだろ。可愛い娘も」
「男ってさ…やった事のある美人より、やった事のないブスの方が好きだろ?」
勇者は聞いてはいけない事を聞いたと思って走り、クリフトを連れて来た。
「この男のさもしい心をお救い下さい。神官様」
と勇者はクリフトを拝んだ。
「お前だって男だろ〜? 勇者様」
勇者は奇声を上げながらバコタの声に耳を塞いだ。
一通りバコタの懺悔が終わると、クリフトは勇者に言った。
「でもブライ様はそんな方ではないですよね。長年顔を合わせているお美しくお若い姫を、大事にして居られます」
「バカだなクリフト。ブライ爺はアリーナと長年顔を合わせてるだけで、やってはいないからさ」
しまった!違うんだ!と慌てふためく勇者と、しきりに十字を切るクリフトを見て、バコタは楽しそうに哄笑した。
「バカだなクリフト。綺麗とか見かけじゃない、アリーナを人間として好きだからだよ。それに古い縁だからこそもあるじゃないか」
「はい」
男達は手を取らんばかりに高揚して、勇者などは取り澄ましながら必死で前言撤回した。
バコタは転げまわって笑う。






ガーデンブルグで宿を取り、寝ていたミネアのベッドの中に忍び込む男が居た。
「あっ…」
「よう。あんたが俺を探し出したんだって?」
88名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 05:00:22 ID:cy1cqGhl
「ええ…」
「立派な占い師さんが、どうして俺みたいなケチな男を見つけられたんだ」
「悪には敏感ですから」
「俺は悪だったのかなぁ…良くわからねぇや。でも俺にも予感ってのがあってね。
あんた、自分が見つけ出したい男だけ見えてるんじゃないか」
「まぁ…」
「例えば惚れてしまうような男とか」
バルザックや勇者のことがミネアの脳裏に浮かんだ。
「あんた良い女だ。もう会うつもりはないけど、きっと俺に惚れる」
「もう会わないのにどうやって好きになれるの?」
「わかるさ」
「あっ」
「俺結構、子供の事は気を付けるんだ。子供を産んで欲しい女くらい自分で決めるよ」
「あなた…」
「さぁ、始めようか」




バコタは一度別れを決めた女とは二度と逢わなかった。
ミネアはだから、バコタがヨボヨボの老人になった姿を見ることは無い。
彼女の記憶の中、ずっと若い男のまま。
ミネアは、勇者の笑顔を見ていると……この人(勇者)が老いさらばえても、どんな姿になっても愛せると思えるのに。


バコタが脱獄した事は瞬く間にガーデンブルグに知れ渡る。
バコタが逃げていったと言う方向を向いて、遠くの山脈を望む女の一団があった。その中にあの十字架の尼が居る。何気なくミネアも居た。
遠くを望む女達の頬や髪に、涼しい風が静かに流れて行くだけだった。


89名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 05:02:29 ID:cy1cqGhl
ミネアに取っては記念の場所であるガーデンブルグを去る時に、彼女はアリーナに話掛けた。
「私…これから体の具合が悪くなるかも知れないの。女同士助けて頂きたいのよ」
清楚で美しいミネアだけれど、精神的には強靭で頼りになると思っていたから少し頼りない今のミネアをアリーナは心配した。
「あぁ、任せて。任せて。どうしたの、ミネアさん調子悪いの」
「今は平気。アリーナさん本当、頼りになるわ」
優しく抱きつかれて、アリーナはドキッとした。ミネアはこのごろ妙に色っぽい。
髪の香りが心地良い。女にドキドキしたのはアリーナは初めてだった。
「アリーナさん、ライアンさんの事好きでしょう」
「うん…」
「そう言う、ちゃんと好きな男の人が居る人に頼りたいの」
それに姉のマーニャには恥ずかしくてこの体の事はまだ伝えられない。父エドガンの墓にも。
(あーあ、どうしようかしら)
アリーナの頑丈な体に守られながら、ミネアは自分の今後を考えた。

「あら、アリーナさんその武器どうしたの」
「ガーデンブルグの牢番の女の人に貰ったのよ」
とアリーナはミネアに炎の爪を見せてくれた。
「でも申しわけ無いんだけど私、キラーピアスの方が良さそう」
「使わないなら、私に預けてくれませんか?」
「え…良いけど…」
ミネアに炎の爪を渡しながら、アリーナは思い出していた。

「あぁっ、それを探してたんだよ俺は。俺実は盗賊なんだ。それを盗みにこの城に入ったんだよ。
手に取りたい。いつか俺に寝首を掻かれない様気を付けな、お姫様」
と牢の中の盗賊バコタが炎の爪とアリーナを見て悔しそうにしていたものだ。
ミネアはその武器を少し大事そうに抱えている。


勇者に取って「ミネアの子の父」は、折角自分を好きになってくれた女を攫って行く衝撃の男だった。
ミネアの子の父は…旅の仲間で無い事は確定しているが、その名は杳として知れなかった。

90名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/20 12:21:07 ID:hp5H3BTL
バコタ×ミネア?いい感じ。乙です!
91KINO ◆v3KINOoNOY :04/11/21 16:17:19 ID:559jeZfA
検索をしたのですが


みごとに引っかからない_| ̄|○ 
もういちどヒントを……むしろ、我が家に連絡を……
92名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/22 10:12:13 ID:wlenMo8j
GJ!!
93名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/24 00:27:51 ID:CJuZWjxJ
>90 92
バコタ×ミネアでした。ありがとうございます。

>91
まだ出来てないのにヒント書いてすみませんでした。
出来ているかも知れないのは、たぶんこのスレが無くなった後です。
94名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/27 05:47:40 ID:LU8cCZJj
僕の道、僕の旅


男はよくよくこの仲間達を観察してみる。
やはりトルネコが一番頼りになりそうであった。…一番力があるかどうかはまだ判断出来ないが、自分の心眼にかけ、自らの挑戦の門戸を彼に開いて欲しい、そう思った。
「あのトルネコさん…」
「はい。なんでしょう」
「ちょっとお骨折り頂きたいんです」
「どんな事ですか?」
「と言っても本当に骨を折るわけじゃないですよ」
トルネコはその男にハッとした。
その時落雷が落ち、男二人の緊張を彩る。
それはこの男パノンの、挑戦の始まりを知らせる合図となった。


パノンは仲間達を見ているだけの時期を終えて、行動に移す事にした。
ライアン、勇者、アリーナの三人の事を、トルネコと談義する。
「うん、戦闘中の肉弾戦と言えばこのお三人なんですよ。この三人はつるみ易くもあって、また揃うと独特の雰囲気です」
「なる程…」
ピエロのメイクをしたまま、パノンは静かに真剣にトルネコの言葉に聞き入っている。
お笑い芸人パノンは一種のシチュエーションを作り出す事にした。
「トルネコさん。私と一緒に三人と話をつけて欲しいんですが」
こうこう、こう言うわけで。
「なる程…。わかりました」


ライアン、勇者、アリーナの三人は、パノンの頼みで一人コント、あるいは一発芸を披露する事を強いられた。
「面白い事…やれと言われて出来るものでは…」
三人の総意はそんな所だ。
しかしトルネコの穏やかな交渉力とパノンの勢いに、三人は応える事となる。
95名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/27 05:49:34 ID:LU8cCZJj


まず、あなたは先生である事。そのシチュエーションをパノンは作り出した。
先生に扮し、教室に居る生徒達を笑わせる。
トップバッターはライアンである。
ブライ、クリフト、マーニャ、ミネアの居る教室に、ライアンは入る。
小奇麗で爽やかな服装、そして背筋をピンと伸ばし、立ち居振舞いが美しい。ハッとする教師であった。
ライアンは低い声で淡々と授業を始める。
あまりに普通、そして授業内容がかなり興味深いので、生徒達はライアンとこの状況を訝しんだ。
その刹那目敏いブライが何か見つける。
ライアンの髭が曲がっていた。そのまま荘厳な教師は授業を続けている。
一度目に入ると、気になって気になって…ブライが撃沈した。
ブライがハーハー笑っているので他の生徒が身を乗り出してライアンを見詰める。
髭が変な方向に曲がっていて、その曲がった部分だけがツヤツヤしていた。
クリフトが切なそうに笑い、ミネアとマーニャはひっくり返って華やいだ。
ライアンは一生懸命、清潔な仕草と表情で授業を続ける。生徒達はもうまともにライアンを見る事が出来ていない。
その時トルネコが「勝負あり!」と勇ましく旗を上げる。
カッコイイ先生が格好良く勝利の拳を固めて、髭はそのままである。マーニャがもう一笑いした。
トルネコはウンウンと穏やかに頷き、勝ったライアンに微笑みを向けた。

パノンの読み通りである。ライアンがこのパーティで一番濃い目のセンスを持っているらしい。
雰囲気作りに力があり、そしてその笑いには凄みがあった。
96名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/27 05:51:07 ID:LU8cCZJj

二番手は勇者である。
しっかりとスーツを着込んで、ライアンよりフォーマルであった。
しかし下半身は鋭いブリーフ姿でケツを半分プリンと出しており、生徒達に背を向けて見返りながら授業する。
脅威の出オチである。
勇者が教室に入った瞬間、
「ブーー!」
とクリフトが吹き出した。
ケツが見えた瞬間マーニャも激しく笑った。ブライとミネアは安定した笑い。ミネア楽しそうだがちょっと引き気味。

パノンは「神官下ネタが案外好き」と筆を走らせた。
勝負の前、勇者は「クリフト狙いだ」と言っていた。笑いへの戦略が緻密な男で、かなり頭が良いと言えそうだ。
勿論勇者は勝利し、控え室のライアンとハイタッチしている。
97名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/27 05:52:43 ID:LU8cCZJj

閉めはアリーナ。
可愛い服装で、可愛い笑顔を見せ、静々と教室に入って来た。
「ではこれから授業を始めます」
可愛い声で、太陽の様な笑顔を若い女教師は見せてくれる。
見惚れている生徒達は、(ライアンの時と同じパターンか?)とアリーナを見詰めた。
その瞬間、アリーナは教壇に突っ伏して寝出した。可愛らしさを残したもの凄い顔である。
ちょっと憎めない様な生意気な顔である。
ハイリスク、ハイリターンの攻防。
顔芸が好きなマーニャが瞬殺された。
先程の美しい娘が嘘の様で、不思議でアーティスティックな雰囲気にミネアも笑った。
でもどこか可愛らしいので、クリフトとブライも(しかたない姫だ)とばかりにワツと笑う。

緊張と緩和。アリーナはその力技を見せてくれた。
度胸が良い。スリルを楽しんでいるのかも知れないが、勘と経験が無ければ出来るものではないとパノンはアリーナを見た。
アリーナは普段ツッコミが多いんだと勇者から聞いてパノンは更に感心する。
98名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/27 05:54:28 ID:LU8cCZJj


この催しと、普段の仲間達の様子を参考に、皆どんなセンス、どんなツボを持っているのかパノンは研究した。
ブライは批評家か…毒舌漫談が行けるかも知れない。
クリフトは長身の二枚目。それも手伝ってかリアクション芸人、ハプニング芸人の華がある。
ミネアも複雑で中々面白い。だがその面をあまり見せてくれようとしない。
マーニャはこちらが笑わせたいと思わせてくれる客だ。
三人が芸を見せた催しの際、涙目のマーニャはこう言っていた。
「あーぁ、お父さんのも見たいねぇ」
と実父エドガンの笑いも欲しがっていた。エドガンは超絶美形だが笑いの人だったらしい。死してもなお、客からああ言われる笑いを作りたいとパノンは思った。


スタンシアラ王城への道、水の都の船の上で、パノンは華やな芸を仲間達に披露していた。
さすが芸人で、この間の催しの様なスリリングな緊張は無く、皆笑った。
ずっと弛んでいたピエロは、スタンシアラ王にそのメイクのまま美しい眼差しを送る。
99名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/27 05:55:53 ID:LU8cCZJj
「よくぞ来た。パノンと申すのか。わしのおふれは知っておろう。
さあ早く笑わせてくれ! どうした? 早くせぬか」
「お言葉を返す様ですが王様。私には王様を笑わせる事など出来ません。
ですが私を連れてきたこの者達なら、きっと笑わせる事が出来るはず。
どうかこの者達に天空の兜をお与え下さい。
この者達は世界を救い人々が心から笑える日を取り戻してくれるでしょう」
なんでそんな顔で言うのか。自分が王だったら笑うかも知れないなと、ライアン一瞬想像してしまったので、
「ぐふっ」
と茶を吐き溢す様、びっくりした様に吹き出した。
ライアンが口火を切り、旅の仲間は皆楽しそうに笑い出した。
今の顔とセリフだけでなく、パノンはさっきまで形態模写をやっていた男である。持ちネタの「てなモンバーバラ」とか。
天空だとか、何だとか、この男は本気でそんな事を考えているのか、疑う事すら楽しい。悪いがつい笑ってしまった。
スタンシアラ王は取り残されてポカンとしている。
良いのだ。パノンはそれで良かった。
彼が笑わせたかったのは後ろに居る8人である。スタンシアラ王からは天空の兜を貰いたかっただけ。パノンは勝負に勝ったのだ。
勇者は笑いの笑顔も見せたが、今度は優しく微笑んでパノンに「ありがとう」と言った。
あんなデザインの兜が似合うのは彼くらいだろう。パノンは勇者のそんな笑顔も嬉しかった。
クリフトがまだ笑い転げている。パノンがソワソワしてクリフトに近付き、笑うわけを聞くと、
「いやー、さっきのライアンさんの吹き出し方が…」
と苦しそうにクリフトは言った。
パノンは帰り道で少し修行してからモンバーバラに戻りたいと思った。
パノンの道、パノンの挑戦はまだまだ続く。



100名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/28 01:44:16 ID:BOMjhfPz
秘法マーク2


「よくおいで下さいました」
穏やかで逞しい大王は、自分が王太子だった時代の旅の仲間を笑顔で王室に招き入れた。
「お元気でしたか殿下。いや、陛下」
大王に答える客人はサマルトリアの王子。相変わらず垢抜けて明朗な小男である。

「臣下に下られるのか?」
「はい」
大柄なローレシア大王は驚いて王子を振りかえった。大王の後ろで輝く窓の光が後光の様だった。
(相変わらず素晴らしい王だ)
と好奇心旺盛なサマルトリアの王子ダイは、目新しい赤い装いのスター大王に胸を躍らせる。
「自由な貴方に相応しい。おめでとう王子。私達が会える機会も増えるのだから私も嬉しいですよ」
「ありがとう、喜んで頂けると信じていました」
サマルトリア王子とローレシア大王は固く手を重ね合わせ、握り合った。

(思うように生きておられるな)
と、ダイが帰った後、スターは王座に深く座りダイを思っていた。
(臣下…大臣か。良くお似合いだ)
一緒に旅して居た頃のダイ王子の機動力と思うと、ダイが生きる場所は王位とは少し違う所だとスターは思えた。
(いつも新しい事をしてくれる、見せてくれる。そうか王にはならないか)
と微笑みながら彼を偲んでいる時、ローレシア大王はある事を思い出した。
(すると妹御が即位されるのか)
ローレシア大王はハーゴン討伐の旅の途中で出会ったサマルトリア王女を、ダイの妹を見初めていた。
妻にしたいと思っていたが、その事は誰にも打ち明けていない。
(何たる事だ、今言わねば、しかし…)
王座から立ち上がり、私はわがままだろうか…とか、スター大王は気に病んだ。
王位さえ簡単に明け渡してしまうダイに比べて、自分は惚れた女の事で一言言う事さえ出来ていない状態である。
(たまらないな)
王座に座り直した15才の大王は思い悩み、自嘲も忘れて悶えた。
101名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 01:18:24 ID:u4aqfQFh



さぁ、臣となってサマルトリアの後ろ見、後ろ盾となるぞ。と燃えるダイは他国の王達に挨拶に行く。
とある城へはダイ一人で行った。土壁の長い洞窟の奥深くに、その巨城はある。
「竜王様…」
サマルトリア王子が挨拶しようと王を探すと、王は見た事も無いモンスターと刃を交えていた。
「おお、ダイちゃん」
「竜王様!」
「竜ちゃんと呼んでよいぞ」
「どうしたんです、この者達は!」
「うぅん、見られてしまったな」
と慣れた剣閃で竜王はモンスターを斬る。
「さぁ、この地より去るのだ」
とモンスター達に竜王が言うと、傷付いた彼らは城の壁や床、至る所にある謎の空間にワラワラと向かい消えて行った。
「一体何が起こっているのですか」
それに陛下、そんなに強かったらハーゴン討伐共に戦ってくれても良かったのに。とサマルトリアの王子は言う。
「いやいや、一気に説明させて貰うとだな。こうしてモンスターが出るから、ハーゴンが現れてもわしは旅立てなかったのだよ、ここから」
つまり、変な穴が開いたら塞がねばならない。竜王は“アップリケ”の存在だった。

「なる程、大臣になるのか。では気前良くわしとも会えるようになるな」
そう言われたダイは嬉しそうに「はい」と言う。
「よし、いい機会だ教えてやろう」
と竜王はロトの世界、上の世界の事を語り出した。
「ロトが天高い世界から現れたのは知っているな。
ロトがこの世界に自由に行き来が出来たのは、こちらの空に大きな裂け目があったからだ。
その裂け目は大魔王ゾーマが滅んだ時に閉じた。……とされていた」
竜王は“ゾーマ”と言う単語を言う時、ピリッと緊張して大事そうに口を動かしていた。聞いているダイの方もゾクゾクッとする名前である。
102名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 05:02:03 ID:u4aqfQFh
「しかし、特別に抜け穴があったのさ。それがその大魔王の居城だったまさにここだ。
不思議な事に今は来るだけなんだが」
「来るだけ?」
「あちらの世界の者はこの世界に来れるのだが、こちらからは行けない。
今この世界にまた邪悪な物が蔓延るとしたら、この穴から出て来る物だと思う」
だから竜王はここに居る。
どうして、こうまで竜王は救世主なのだろうかと王子は思う。いつも危険の矢面に立って皆を救うのだ。
「竜王様!」
「竜ちゃんと呼んでよいぞ」
目に涙を溜めて叫ぶサマルトリアの王子に、竜王の曾孫はいつも通りの優しい微笑みを向ける。
輝くばかりの救世主だったから──“ロトの子孫全員の兄”と言われた竜王。彼はその曾孫である。
曾孫の方が、その初代竜王より明るくて柔和ざっくばらんである。そして、初代に無いいたずら心も持っていた。
何か大きな手に首を捕まれ飛ばされるサマルトリア王子を、竜王の曾孫は見た。
モンスターがまだ残っていたのだ。
「すまん」
と言う竜王は隼の剣を構えるダイの前に出て、ダイを守ろうとした。しかし、
「隼の剣か…」
と、竜王は思案顔である。
「ダイちゃん。やってみるか?」
「なんです?」
剣を構えるダイは竜王に尋ねた。
その途端、モンスターは攻撃して来る。竜王は身を交わし、攻撃はダイの刃が受けた。
103名前が無い@ただの名無しのようだ:04/11/30 05:04:14 ID:u4aqfQFh
中々力強いと、隼の剣のダイは思う。
「試してみろ」
と竜王は破壊の剣をダイに渡した。
「この剣は…装備すると呪われてしまいます」
「大丈夫。わしの力を貸す。わしのそばで試されよ。さぁ剣を二つ持って」
「そんなっ」
と狼狽するサマルトリアの王子に、竜王は無理矢理破壊の剣を持たせた。
すると破壊の剣はサマルトリア王子の体の中に入って行く。
(わぁああ!!)
「さぁ、行けっ」
「これは、どういう」
「心配召さるな、怯まずに行くんだ」
竜王の声に押される形で、ダイは駆ける。モンスターを斬り付けるその切れ味と破壊力に、隼の剣を握っているダイの方が驚いた。
(でも少し、勝手が利かないぞ)
と少々困惑しているサマルトリアの王子を見て、一人の王が戦場に飛び込んだ。
そして撃ち放つベギラマ。ダイ王子は体制を整えて竜王のそばに立ち、ベギラマの術者を見上げた。
黒髪を靡かせ、まっすぐに立つデルコンダル王であった。
(わぁ、セクシーダイナマイト!)
サマルトリアのダイ王子の脳内には、デルコンダル大王と言うよりセクシーダイナマイトとして彼の存在が記憶されている。
「カンちゃんではないか。おーい、カンちゃーん」
「大王! 大王! こっち向いてくれ!」
竜王と王子に言われた大王は、格好良くポーズを付けてくる。竜王とサマルトリア王子は格好良い王様にジタバタして悶えた。
104名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/03 02:26:30 ID:XCJs2wqI
「貴方はどんな恋をするのか! どんな人に恋するのか!」
「教えろー! ピーピー」
サマルトリアの王子は爆発的な知的好奇心をデルコンダル大王に刺激されてそう叫ぶ。あーぉ! と咆える。竜王も王子の隣で華やぎ、指笛を鳴らした。
「ダイ王子、剣を試されよ」
格好良い声に誘われたダイは、その声の主デルコンダル大王へ向かって走って来る。
デルコンダル王は剣の使い方をダイに教えてやって、彼を魔物の元へ送り出す。そして自分は竜王の元へ歩く。
「王子に対して悪戯か陛下」
大王に言われて、竜王は少し意気消沈する。
「許しておくれ。そして大王は何だ、あの剣使った事があるのか?」
「ないさ」
しかし今までの勘と武器の傾向でわかるらしい。

勝利したサマルトリア王子が、竜王の元へ帰って来る。
モンスターも大人しくなって異世界へ帰って行くと、王子の体の中から破壊の剣がズルンと飛び出して来た。
「これが名刀、はかぶさの剣だ」
竜王が先程のダイの状態をそう説明してくれた。「軽めの秘法だよ」と。
「でも強すぎて卑怯な感が致します」
王子が言うと、竜王は答えて言う、
「何かを守る為には、卑怯でも強い存在が必要な時もあるだろう。
これから貴方は自国だけでなく、サマルトリア、ローレシア、ムーンブルグの三国を守る存在となるのだろうから。
大臣は強く、汚れた事もして行かなければな」
デルコンダル王は何やら調べ物をしていて、この竜王の言葉、二人の会話を耳にしていない様だった。
サマルトリア王子は竜王の言葉を聞きながら、何故かその大王が気になったが元気にこう言う。
「はい。私はローレシアの陛下とムーンブルグの王女が好きですから」
105名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/03 02:29:24 ID:XCJs2wqI


デルコンダル王は、先程謎の空間があった場所を調査している。サマルトリア王子は尋ねた。
「大王様、魔法以外は素手で戦ってませんでしたか」
「うん。しかし斧も使うよ儂は」
と何処からか(腹に隠してある袋からか)、大きな斧を大王はニョッと出した。
「大王もお強い。きっとハーゴンを倒せた」
「あぁ、私はハーゴンを倒せた」
大王ははっきりと言う。
「しかしその後ろにいる邪神は、儂では絶対に倒せなかったな。貴方達三人でなければ絶対に駄目だった。
だから儂は、月の紋章だけ貴方達に渡して黙っていたんだ」
ロトと言う人を三つに分けた様な、この三人だった。
泣いてる赤子、邪神のシドーを宥められるのは彼らだけである。
そしてこの三人は女勇者ロトだけではない、ラダトームの男勇者のサンの力も受け継いでいる。
この三人の力は大王にも計り知れない。
(計り知れないのは貴方だ)
ダイ王子はそう激しく思いながら、何でもご存知なデルコンダル王に尋ねた。
「大王は千年生きてると言う噂がありますね」
このセクシーダイナマイトは千才以上だと。
「誰から聞いた」
「デルコンダルに居たでしょう? 貴方を仙人と呼ぶ人や、ご先祖様と呼ぶ人が」
「さて、今度何の事を言っているのかその者達に問いただしてみよう」
「いーや。この人は生きてる、生きてる。普通の男じゃないのだ大王は」
と竜王がダイに言う。大王はハハハと低く笑っている。
「上の世界の事も大王は良くご存知なのだ。何でも知っている。今日はどうしてこの城へ来て下さいました?」
と竜王がデルコンダル王に尋ねると、
「モンスターが来たと思いまして。それに大変なんだよ竜ちゃんよ。
上の世界から怪物が来たり、…うーん上の世界その物がこの世界に落ちて来る様な天変地異が起こるかも知れないぞ」
大王の言葉に、竜王とサマルトリア王子は驚いた。
106名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/03 02:32:16 ID:XCJs2wqI
「シドーを、倒したばかりだと言うのに」
そのダイの困惑に大王は言う。
「まぁ仕方が無いさ、起こってしまったらね。それを迎え撃つ為の準備をしなければならない」
眼差しの強い王に、男二人は乗った。
「私も戦います」
「うむ、わしもやるぞ」
そのサマルトリア王子と竜王の声に、
「決まったな」
と端正な青年王は快活に答えた。
「竜王様。どうだろう、この城建て替えないか」
「うええ!?」
大王は「私のGで何とでもしてやるよ」と竜王に言う。
「この二つの世界の通り道をもっと強固にしよう。すぐにとは言わないよ。三日待つ。じゃ、色好い返事を」

颯爽とデルコンダル王は竜王の城から出て行った。
サマルトリア王子は大王を追い、土壁の洞窟の中でその王を呼び止める。
「私は、立太子しない事になりました」
「おぉ、そうか。大臣閣下? いやよう似合ってるよ」
「ありがたいお言葉です。ローレシア大王もそう仰って下さいました」
「今上が? そうか。それなら尚更、あなたの道でしょうな」
「はい」
「これからの戦い、最高の機動力を持つ貴方に皆頼るでしょう。宜しくな閣下」
はいと元気良く返事をしたあと、サマルトリア王子は神妙に言った。
107名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/03 02:33:42 ID:XCJs2wqI
「仕事の話は…貴方とするのが一番楽しいです」
大王は語る王子を見詰めた。
「死んだ仕事も息を吹き返す様な…そんな気がする。貴方と色々な冒険がしたい。困難が起これば一緒に戦いたいです」
(最高に嬉しいやい)と思ったデルコンダル大王は、サマルトリア王子に笑顔を見せた。
「最高に嬉しいです。私はあまり人に褒められないから」
「嘘だ。そんな馬鹿な」
笑顔のまま前を向いて、大王は凛とした端正な背をダイに見せると自分の国へ帰って行った。
(かーっこいい)
生きて動く英雄に中々会える物ではない。ダイはむず痒い楽しさでウハウハしてしまった。
こうしてサマルトリア王子、竜王の曾孫、驚異の仙人デルコンダル王の三人パーティーが誕生した。


竜王の元へサマルトリア王子が戻ると王は頭を抱えて唸っていた。
うーん、うーん、
「建て増しくらいなら良いんだけどなぁ…」
と体育座りで困っていた。
「竜ちゃん様。嫌なら新築の事はお断りなさった方が」
「うん…しかしあの大王を無下に断りたくないなぁ……そうだ、ミィちゃんともょちゃんにも相談しよう」
ムーンブルク王女とローレシア大王の事である。
竜王はローレシア王を、スーちゃんスターちゃんと呼ぶ事もあるが、竜王自ら考案したもょもと言うアダナで呼ぶ事もあった。
ローレシア王は勿論自分のアダナを発音する事が出来ない。サマルトリアのダイが器用にも口に出す事が出来る。
「舌をこうしてね…」
とスターに説明するダイだが、「うぐぐ…」とスターは苦闘していた。
「ダイちゃんがミィちゃんのワンちゃん時代にアイリンと言う名を付けたんだろ。ダイちゃんも別名を付けようか」
(お)とサマルトリア王子はときめく。
108名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/07 13:51:04 ID:qp8vFB6D
「トンズラと言うのはどうだ」
「せめてトンヌラ…」
「略してズラ」
ダイの髪は赤毛でボサボサと量も多い。安泰だろう。それにしてもいつもより竜王の肌は青い。
「どうされました」
「いや、あのな。わしも子を産む事が出来るのだが、竜王の子はな、子が親を選んで生まれて来るのだ。
初代竜王以外は皆そうして生まれて来た。
まず両親が好き合って居ないと、子は生まれて来ようとしない」
いきなり何の話です、と王子は困惑している。
「いや、あの大王に会ったからわしの顔が青いのだろう。
わしはな、あの大王の子を産みそうになった事があるんだ。あの時は痛いは苦しいは」

竜王が苦しんでいる時、デルコンダル王は竜王の頭を撫でて居たと言う。
「俺がここに来た為に…有り難い事だ」
と王は産気付く竜王に微笑んだ。
それは男が女を抱き締める、女が男を抱き締めるとは違って、もっと漠然とした色の無い強い温もりだった。

竜王は立派な人型男性の体を、体高1m、手足の短い人型に変えた。
「わしはこの体が実は動き易い」
人型男で居るのは初代竜王への曾孫個人のオマージュだ。
(あんな優しい竜になりたいな)
と曾孫は憧れていた。
ラダトームの勇者譲りであるダイの赤毛は、初代竜王を斬り付けた色である。
しかし(お前の髪だ)と、曾孫はダイをちゃんと見た。
竜王の曾孫は元々真っ青な肌である。人間の町を歩けば恐がられるだろう。しかしこの竜王は恐れられても、
「へえ、そう」
で終わってしまう。
109名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/07 13:52:33 ID:qp8vFB6D
自分は竜王とスライムが親だが、その事も
「うん」
と明るく微笑む竜王である。
初代竜王がラダトームの勇者と戦ったと聞いても、
「うむ、そうだな。しかしわれら子孫は仲良くしよう」
で終わる。
元々命として、人間とは違うのだ。恨み辛みの形も違えば、恋の意味、親の意味も違う。
「しかし違うと言い切ってしまうと、命と言うのは全て体、体の仕組みに支配されている様な気がするな」
あのデルコンダル大王も言っていたと言う、「体が若くなれば心も若くなる」と。
「つまり、命はただ遺伝を目的としていて…。恋なんてのはその成功の手段なのかな。
だからそれと違う物を、見付けたいものだ。
カンちゃんはな自分が千年生きたとしても新しい物を発見し続ける筈と言っていた。まだまだ見るべき物があるらしい。
あの大王の子供を産んでみたいと思ったが、わしものんびりと新しい旅がしたくなったのだよ」


竜王の曾孫に様々な生き方を知らせたデルコンダル王も、ゾーマの様なのかも知れない。
(ゾーマはロトを見付けて惹かれた。自身は死と闇、彼女は光と命の存在になる事を良しとした。
“戦う”と言う事で発生する彼女(ロト)の闇の部分を、対立する男ゾーマは結局奪っていたのだ)
この男(デルコンダル王)も、人の家のタンスを漁り、一般人にはほぼ無価値の小さなメダルを見付け出してそれを武器、財宝に換えては彼女(ロト)に送った。
デルコンダル王は、女勇者ロトとのコントラストが鮮やかな闇のゾーマとはちょっと違う、ロトの近くで力強く輝く秘密の光だった。

女勇者ロトはランシールと言う所の秘法により悪魔を呼び出してしまい、それを退けなければならなかったが、
サマルトリア王子に笑い掛ける竜王とデルコンダル王と言う可愛い悪魔達は、決して退ける必要のない嬉しい驚異であった。
110名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/07 13:55:09 ID:qp8vFB6D


竜王はサマルトリア王子に言う。
「なぁ、今度三人揃って来てくれぬか。いつも二人だけ来たり、一人だけ来たりとそなた達はバラバラだ。三人で来てくれ」
「はい。お二人にお話をして、共に参りますね」

「われ等、仲良くしましょうな」
竜王は微笑みを絶やさない。まるでそれが生きている意味かの様に。
「貴方は感動的だ」
サマルトリア王子の笑顔も伝説の勇者に負けず晴れやかである。
この竜王と、迫力のデルコンダル王。
二人とならどこへでも、サマルトリア王子は冒険する。


サマルトリア王子はムーブルク王女の元へ行った。
「ダイ様。ご機嫌麗しゅう」
「王女、私は大臣に決まるかも知れません。そこで、また旅が出来そうになったんですよ」
「まぁ」
「火急の事あれば、王女とローレシアの大王に、誰よりも先にお伝えしますね」
111名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/07 13:58:18 ID:qp8vFB6D

その後、ムーブルク王女とローレシア王の会談があり、王は王女からサマルトリア王子の事を聞いた。
彼の新しい仕事、仲間の事…。
サマルトリア王女を恋慕うローレシア王だが、今はただ一つの思いに取りつかれた。


(そうか、貴方はまだ旅をしているのか)
温かさと刺すような痛みが、ローレシア王の胸に去来した。
それは羨望とは違う不思議な嬉しさと悲しさ。
あの頃旅した自分の青いスーツは、衣装棚の奥にしまったままもう出す事は無いだろう。
赤い王衣を纏い、逞しい腕を後ろ手に組んだローレシア王は王室から青空を望んだ。




この世界が潰れ、爆発する様な大災害が起こった場合。
やはり一番に口を開き、世界を動かして行くのはローレシア大王である。
ムーンブルク王女、サマルトリアの大臣、デルコンダル大王、竜王に見詰められながら、第一の存在として事に当たる。
しかし、その時でも彼は決して王衣を脱がない。
彼は王として困難に向かい、王として戦場に立つ。
彼はローレシアと言う国が好きだ。その国の王として立てる事、これほど嬉しい事はない。
ちょっと不安もあるけれど…と、注意深さが可愛い大王である。

(王位に囚われているなんて、勿体無い)
元盗賊のデルコンダル王は、とある国の王にそう思い、その王をからかった事がある。盗賊大王が18才の時である。
時を超えて、王の装いを崩さないローレシア大王を見た時、
(ごめんなさいよ。悪かったよ)
と、デルコンダル王は……もうとっくの昔に亡くなったその国の王に心で詫びるだろう。
112名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/11 01:58:59 ID:I/i6Um6m

「武闘の強さを知りたい。今すぐ、ここで」
武闘家デルコンダル大王に手合わせを快諾されたローレシア大王は、王の衣、その上半分を脱ぎ出した。
薄い生地に隠された厚く艶かしい胸、袖の無い服から飛び出す太く逞しい腕。
脱いだローレシア王は一瞬、一瞬だけ、自分の目の前に「セクシーな少年、そしてHな荒くれが居る」と思ったが、次の瞬間には格好良いデルコンダル王が立っていた。
(錯覚か…)とローレシア王は思う。
「少し待ってくれ」
とデルコンダル王は一呼吸置いてから武舞台での対決を約束をする。
デルコンダル王の自由は規格外である。悪く言うと節操がない。
昔は男も好きだった。今でもその高揚を思い出す事がちょっとある。
殊にあの女勇者に関しては、
「くっそう、俺の女だった時もあるのに!」
とまれに思い出してはまれに激昂した。
デルコンダル王、彼女(勇者)を取られたと怒っているとしたら誰にだろう。やはりゾーマだろうか。

「戦う代わりに今は歌を聞かせよう」
デルコンダル王は、武闘を望んだローレシア王と、今しがた訪れたばかりのサマルトリアのダイに美声を披露した。
デルコンダル王は人を誑(たぶら)かす、かどわかす妖しさがある。
しかし歌いながら大王は、(あの人の様にはいかないな…)と故人の美声を偲んでいる。
「儂は強い者が好きじゃ!」
と言っている大王だから、その歌声の人も何かが強かったのだろう。
歌い終えた時にはギャラリーが妙に増えていて、拍手の量もそれに比例し王室は華かだった。
113名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/11 02:02:12 ID:I/i6Um6m

デルコンダルに君臨するその妖しい光も、ちゃっかり、しっかり人間である。
憧れの歌声の主は大王の父親だった。父の声が好きだった。若くして死んだ体の大きな武闘家、王の好きな父だった。
無色透明で、美しくなり過ぎてしまいそうな大王の手や瞳。しかしフとした時、色が付く。
それは父を思い出した時か、それとも冒険に出掛ける時。女勇者を思う時か。
その時、ムーンブルクの王女がデルコンダルに遊びに来た。犬だった薄幸の王女。


竜王は、ローレシア、サマルトリア、ムーンブルクの三人勇者と揃って会った時、卵を産んでしまうとは思っても見なかった。
うんうん唸って喉から子を産んだ。
これも竜王と勇者三人の幸せである。


死を美とするゾーマ自身を、彼自身を殺せる力のある者はロトだけだった。
死に行く者こそ美しい。だからゾーマは彼女(ロト)だけを見た。

「どうも…いらっしゃったら返事して下さい」
サマルトリアのダイは深い深い地の底、精霊の洞窟の中にいた。
「貴方は…あぁ私の守りを掲げて、私をハーゴンの城から呼び出した…」
「はい。サマルトリアのダイです。ルビス様のご加護が少し欲しいのです。竜王様のお城が少し新しくなるんですよ。
デルコンダル王が様々な結界を張って下さってるんですが、あと一押し、と言う所で」
「そう…では私を太陽の元へ出して下さい」
小さな男は精霊を負んぶしてヨチヨチと長い階段を上がった。
太陽が見えて来た時ルビスは口を開く、
「あぁ…私、地上で暮らして、人の…普通の女になりたいと…思っていたのです」
あぁ、それは良かったとルビスに微笑みを向けるダイである。しかし…ルビスが自分と目を合わせたまま逸らそうとしない事に気付いた。
114名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/11 02:06:05 ID:I/i6Um6m
まさか。
「王子は、どんな女子が好きですか」
(まさか)
「ルビスの名も今日限りでお終い。私普通の女の子になります」
とルビスはダイの背の上で目を閉じる。
(アレフガルド創造主がどの辺で普通になれるんですか!)
これこそ一世一代の秘法。人間になる。
ロトが男だったとしても、ルビスはロトの様に人間になろうとは思わなかったろう。
ローレシア王子、サマルトリア王子、ムーンブルク王女、シドーが現れる時に備え、ルビスは今の今まで精霊として存在する気概が満ち満ちてあった。
(千年前当時、ルビスは破壊の化身であるゾーマを愛して愛して仕方が無かったと。ルビスはその自分の思いとも戦いたかった。
そしてルビスは闇とは歩めない。やはり頗るタフで、光を放つ者を)
今こそ、秘法の時。
「良い匂い…」
と大地創造主のルビスはダイの赤毛を褒めた。
15才サマルトリアのダイは、自分に惚れてくれる女性との人間(?)関係においてさえも、“冒険”の二文字が鋭く光る垢抜けた英雄だった。



秘法マーク2    END
115名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 00:29:30 ID:aYQ4zb6N
最高の女

オルテガはルーラでガザーブに到着。息をつく暇も無く北へ走った。
北の海に小船を乗せて、レイアムランドへ行く為だ。
勇者サイモンは死んだ。その事が悔しかったし、大魔王を討つ為勇者オルテガは異様に燃えていた。
レイアムランドに行けば船が無くとも世界を回れるらしいので、オルテガは急いだ。まさかオーブが六つも必要な不死鳥の卵があるとは思っても居ない。

レイアムランドへの道すがら、オルテガは女の悲鳴を聞いた。
女と共にあるモンスターの気配をも勇者はすぐに察知して、悲鳴の元へ走る。

走る居合いの剣閃。女とモンスターの間にある空気、緊張さえ、勇者は斬った。
もうそれで勝負はついた筈なのに、モンスターはオルテガの強さを認めず向かって来る。
(解った、斬るぞ。遺恨はあの世で聞く)
オルテガはいつ斬ったのか…女が気付くとモンスターはあまり血も出さずオルテガの背後で倒れていた。
「怪我はないか」
とオルテガは女に手を伸ばす。こんな簡単に神様に会えるとは女は思って居なかった。
116名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 00:31:51 ID:aYQ4zb6N

「神様、神様、ありがとう」
と女はオルテガにしがみ付いて来た。オルテガは眩しすぎて普通の人間には見えなかったのである。
(おや?)
神と呼ばれたオルテガは思う。この女性は一時的に頭が狂ったんだと。
「落ち着いて。私はアリアハンのオルテガ」
苦み走った渋い容貌の女性だが幼女の様な表情でオルテガを見詰めた。オルテガは穏やかに微笑んで女性を落ち着かせる。
「私は人間だ」
と言うオルテガだが、肉体の逞しい優男で、頭の先からつま先までビッチビチの美男である。
女は少し嘘をついて立てない振りをした。オルテガは女性を腕に抱く。

ガザーブの北に…ノアニールと言う町があった。女性はその町の人間だった。
「勇者様が来たのよ」
彼女が言うと町の人々は皆勇者を歓迎した。しかし喜ばれるとオルテガは辛い。到着した今日のうちにこの町を出なければならない。
「モンスターに襲われたのは始めて? それなら恐い筈だ」
助け出した女性にオルテガは言った。
しかし20〜30才の人間が今までモンスターに襲われた事が無いと言うのは少しおかしいとオルテガは言う。
「この町の西…森の奥に妖精の村があるんです。この町までその村の結界が薄く届いているのかも知れないと、町の長老は言っていました」
「その村は行った事がある。妖精か…」
この旅に役立つ色々な事を知って居そうだなとオルテガは思う。
117名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/15 00:36:48 ID:aYQ4zb6N
「妖精達はちょっと人間の事が苦手らしいですね」
「ハハ、そうだな」
女が言うとオルテガは笑った。
「でもきっとオルテガ様なら…」
「ん…どうだったかな…」
ここは宿屋の一室である。女はオルテガの手の甲に手を重ねて来た。
「好かれたでしょう?」
「これはどう言う事だ」
「オルテガ様、すぐにこの町を出て行かれるのでしょう。私貴方から何か頂きたいのよ。でも私の方からも差し上げたい」
オルテガは端正な顔を少し驚かせて女を見た。
「こうすれば早い…」
と女はオルテガの唇に唇を重ねて、彼の纏う皮の腰巻を脱がし始めた。
オルテガ45才である。家に居る子は9才。人間の男として良い時期である。女からの誘惑は少なくない。
そして彼自身、体がとても元気だった。
オルテガは女の肩を抱いて、跳ねる様に席を立つと言う。
「大事な事を思い出した」
その時オルテガの腰から皮の腰巻が落ちる。しかしオルテガはその腰巻に頓着せず、部屋から廊下へ出て、宿屋を出、ノアニールから出ていった。

118名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/18 02:17:40 ID:IsjGHYSu
オルテガはアリアハンの自宅に到着。
その家の中では、緑の衣を纏う老魔法使いが孫と差し向かいでお茶を飲んでいた。
「客が来たようだ」
と魔法使い(オルテガの父)は席を立ち、孫(オルテガの子)をその場で待たせる。
「なんだ」
と父はオルテガと玄関で会う。オルテガと比べても見劣りしない立派な骨格の老人である。
そしてオルテガよりもっとずっと美しかった。見た目は勿論性格も美しく、“全てにおいてキッチリしている”“色気を退けている男、色気の無い男”と言うのが彼の特徴である。
その見た目の冷徹そうな老人に、オルテガは言う。
「母さんに会って、顔を見て別れを」
オルテガは、不思議な予感を秘めた得も言われぬ顔をしている。
それを見た硬派な老人は少々焦ってしまった。

オルテガの子は祖父に呼ばれると、小さな体で彼に着いて行った。
「茶はまた入れてくれ」
「はい」
祖父と孫は仲良く歩いて行く。オルテガの子は自分達が裏の勝手口から抜け出した後、残された家が何か不穏な空気に包まれている様に感じて心配したが、祖父を信じて彼に着いて行った。
119名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/18 02:22:30 ID:IsjGHYSu

その不穏な男は妻の元へ歩んでいた。
「あら、父さん」
編物をしていたオルテガの妻は驚いた。この夫はさっき家を出て行ったばかりではないか。
「忘れ物?」
「うん」
とオルテガは椅子に座る妻の前で跪いた。床に座り込む男。
「5年で帰って来る」
「はい」
と素直に返事する妻を、立ち上がったオルテガは抱き上げた。
妻は25才と若いがオルテガの間に一人子を儲けている。スリムな美女であったが、今は結婚当初の倍の体重になっている。
まん丸のシャボンの上に可愛い顔が乗っている様な愛らしい肥えた女性である。
彼女は魔法の様に太った自分の体を気にしていたが、オルテガは自分より面積のある今の彼女も(男として見ても、触れても)好きだった。
夫は丸い彼女をコロンコロンとベッドに転がした。
「ごめん、母さんの事好きなんだけどごめんな」
「あれぇ」
120名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/22 02:58:25 ID:Pa04YzT2

妻はオルテガのわがままな行動と、わがままな肉体に拗ねた。悲しくなって来た。
(どうして来たの…?)
体と言う形でまで、こんなにまで、彼を覚えてしまうのは辛い。
裸のオルテガに裸の妻は抱きついた。
(5年なんて長い、嫌だ)
と思ったが言葉にはしなかった。言葉にしないで、泣いて彼に見せた。
(あー、泣かせてしまった)
とオルテガは反省してしゅんとしたが、裸の妻を強く抱き締める。
そして白熱を終えた体ごと溜め息を出すとこう言った。
「今日の思い出で、5年持つ」
いやだ、と妻は恥ずかしがった。
「浮気はしないから」
浮気だとかよりも、会えなくなるのが妻は辛かった。
「待ってるから、待ってるから帰って来てね」
泣きながら妻が夫に言った後、夫婦はゆっくりと長く口付け合った。


オルテガは自宅の扉を開けて外へ出る。
日の光が眩しくてクラクラした。太陽の子と言われたオルテガしおしおのぱぁである。
(ひゃぁぁ)
と逞しい体をふら付かせたあと、いかにもやりまくりましたと言う顔の下半分をマントで隠しながら、懐かしそうにアリアハンの町なみを少し歩き、ルーラで忽然と消えてしまった。
「あっ、消えちゃった」
とオルテガを見ていた町の子供達は残念がった。
121名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/22 03:00:41 ID:Pa04YzT2
その時、オルテガの子のバリーが家に向かって歩いているのを子供達は見つける。
「バリーの父ちゃん格好良いなぁ」
と言われたバリーはびっくりした。
(なにさ、急に)
さっきまで勇者オルテガはここに居たんだと言われ、更に彼女はびっくりした。
そう言えば、さっきから祖父の行動がおかしい事にバリーは気付き始める。
「お祖父様、父さん帰って来た事隠してたの?」
二人でのん気に日向ぼっこしている時に、孫は祖父に尋ねた。
「うん…母さんと二人で居たいと言ったから」
聞くとバリーは恥ずかしくてどうしようもなくなった。
両親のそう言う話を聞くと堪らなくなる。
バリーはとてもHな顔で、草の上に寝転がってしまった。
「何ゴロゴロしてる」
と祖父にからかわれたが、オルテガの子はコロンと草に戯れている。
「お祖父様、私も戦う。あたし強くなると思う?」
「まぁね」
祖父は中途半端に認めてくれる。
「色んな事教えてね」
と言うHで蠱惑的な孫娘の顔を見て、男は少し興奮しつつ、頼れる女、自分が寄り掛かって行ける女はこの孫娘しか居ない事を思った。
自分の妻も息子の嫁も、自分に頼り切って来た女達である。
自分が母と思える包容力のある女性はこの孫娘のバリー以外会った事が無い事を思っていた。
実母は彼が乳飲み子の時に死んでしまったので、この老人はこの孫娘の誕生により、初めて母親を持った気持ちを得ていた。
実際バリーの方も、
(あたしの子供みたい)
と極たまに祖父を感じ、彼への尽きせぬ愛情を深めるのだった。
122名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/22 03:28:58 ID:Pa04YzT2


女勇者のバリーは旅を始め、16才でノアニールに到着した。
その町で色っぽい女性に出会った。彼女は言う。
「オルテガ様、行ってしまわれたのね…」
長年寝ていた町であった。7年前に訪れたオルテガの記憶は町の人々に新しい。
素晴らしい美男、素晴らしい戦士。女性はオルテガの事をバリーに言って聞かせる。
「あなたもなかなかね…」
とバリーの事も褒めてくれる。バリーはその時、自分の口の周りに纏わりつくマントをグッと下げた。
見ている魅力的な女性がグラッと気が遠くなる程の勇者の女っ振りである。
「でもあなた女の子でしょ。女は良いわ、私」
“そうなの?”とばかりに女勇者は女性に流し目を送る。
(妖しい娘…)
とノアニールの女性は寒さとも熱とも付かない疼きに襲われた。
バリーは褒められてワクワクしていた。少し楽しそう。
「オルテガ様の娘なの? あなた」
女性はそれを知るとバリーに皮の腰巻を渡して来た。とても大事にしまって置いたらしい、雄々しい腰巻からは女の香りがした。
「あなたが持っていた方が良いわ」
「うん」
今度は勇者がドキドキする。腰巻からは女の匂いだけではなく、何かあった。彼女はそれを嗅ぎ分けたのだ。
Hな雰囲気が、香りがしたのである。この女勇者、いやらしい勘も良い。野生の力である。
(どうして腰巻なんて置いて行ったの)
Hな予感がプンプンする。過去に何があったのか。
123名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/22 03:34:05 ID:Pa04YzT2
彼女はその妖しい腰巻を装備しようと思う。すると腰巻のポケットの中に勇者サイモンの形見が入っていた。
(あら、父さん忘れてった!)
仕方が無いなと、バリーは自分の懐にそれを入れた。
(勇者様…)
バリーの胸は掛け替えの無い温かさで濡れた。勇者サイモンは勇者バリーの初恋の人。


(ぐおーー! サイモンの形見忘れたー!)
腰巻だ、あの腰巻の中だ! とオルテガは悶えに悶える。
そんな事を思い出した時彼は、ラダトームの城で火傷の手当てを受けていた。
(ふ…問題は形じゃないさ。俺の心の中に形見もあいつも居るのだ)
声も出ない程の深手である。城の下女が心配そうにオルテガの傷を癒している。
このアレフガルドへ向けて火山の火口を落ちた時、最後の最後物凄い炎にオルテガは襲われた。
オルテガの命へ向けて、ただそれを狩る為、ひたすらまっすぐだった炎。あの炎の正体は。
「行かなければ!」
オルテガは必死で声を絞り出した。そして自らの上半身も死に物狂いで起こす。
まだ駄目です。と下女はオルテガの胸に触れて押す。こんな時なのに、
(あ…ごめんさない)
と下女はオルテガの胸の厚さにドキドキした。
124名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/25 09:46:57 ID:10YtzwsA
男は立とうとしたが、膝が立たずに崩れ落ちた。下女も一緒に床に倒してしまう。
女を、自分の胸の下に配して男はゼェゼェと喘ぐ。
病室、若い女の上で壮年が喘いでいる。第三者が見たらもう“それ”にしか見えないが、男女二人、本人達は違う熱気の中に居た。
「ここは…どこから出れば…」
(この人どうしてこんなに必死なんだろう…)
こうした男の凄まじさに、女は泣いてしまう。
病室で人は命がけの足掻きをする時があり、その命の輝きを見る事が出来る。
それとは少し違う、オルテガの決意の強さ、志しの強さがあった。
「今は傷を癒さなければ駄目です。時には休まなければ。貴方の旅はこれからもずっと続くのですから」
下女はこの男今にも死ぬんじゃないかと思った。だからこそもっと静かに奮い立たせる為にそう言った。

オルテガの体には薬草が良く効き、ホイミ系の呪文も彼は良く吸収した。
「女の人に命を助けられたのは初めてだった」
オルテガは少し顔を赤くしながら「ありがとう」と下女に言う。
「でもお目が…」
視力の事は、この時からオルテガ生涯の持病となってしまった。良く目の前がボヤけ、時に全く見えなくなる。
「大丈夫だよ。良く見えるよ」
「あぁ…私にもっと力があれば…」
「気にするなよ、いいよ」
気付くとオルテガと下女は抱き合っていた。命のやり取りを経た男女は、なかなか腕を離す事が出来ずにいた。
125名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/25 09:51:29 ID:10YtzwsA


「あのおいちゃんの娘なのか!」
「ホー」とポポタは勇者バリーにちょっかい出して来る。
オルテガは6才のポポタよりも元気で、いつまでも遊ぶ事が出来た疲れ知らずの超人だったと言う。
バリーは元気過ぎる父を思うと恥ずかしくなって来た。
そして…ノアニールならまだ解るが、ここムオルの6才ポポタがポパカマズ(オルテガ)をこうも覚えているのは少しおかしい。
「だってポパカマズさんはたまに来る。この前来たばっかりだ」
「そう、アリアハンの家には一度も帰って来ない…」
と冷たい横顔を見せる勇者に向かって、ポポタは「バリー、聞けよ。バリー」と荒くれて見せる。
ポポタは子供らしく、大人の会話を蜜の味の様に楽しむ所があった。
「じっかに帰るのは“なえる”からだってさ」
「萎える…?」
「戦う気がなくなるって事だろ?」
「そう…」
「バリーが嫌われてるんじゃないのか?」
「そんな事言わないで…」
勇者は悲しそうな顔をした。どんなに悪戯してもシレッとク−ルだったバリーがここでいきなり崩れ落ちる。
「ごめん」
と謝っても勇者はほんの少しょんぼりしている。あの格好良かったお姉さんが…。
ポポタは多分この時初めて、大人らしい欲情を覚えた。
ただ、今ここに確かに有るのは眩しい魅力の女と、少年の眩しい初恋。


「王者の剣…ジパングの鍛冶屋…」
オルテガの仕事は山積みで、それに感けている時間は余り無い。
しかしどんな武器なのか、想像しては心の中で何度も握った。戦士オルテガ、やはり魅力的な武器には心を躍らせる。
126名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/30 01:22:33 ID:OBQinhs4
後にオルテガの娘の仲間となる女賢者が居るが、彼女はここアレフガルドで先にオルテガと出会っていた。
このジパングの女を抱けば王者の剣を得られる気がする。(何をバカな)そんな武器なら要らない。
だがオルテガはどうしてもゾーマに勝ちたかった。あの魔王が憎い。世界中の憎しみを代表した男は眼差しを更に鋭くさせる。
その女の前でオルテガは肌を晒した。若い女に見せて恥ずかしくない体だろうか。
早速抱き合ってみた。男は深い息遣いを漏らしたが、それ以外は何も女に漏らす事は無い。
(何だ俺は)
武器欲しさに裸になった。自分の行動ながらオルテガは呆気に取られてしまった。
こちらの都合で利用してしまったとオルテガは感じ、この女を傷付けたと思った。
隣の女を包み込む様に横臥するオルテガは少し謝る。
“妻の代わり”に彼女に触れていた所もある。賢者を一人の人間として見ず、「浮気はしないと」約束した妻以外の女を裸で抱いた。一挙に女性二人に対しての不貞。
いや…傷付けたのは実の娘か…。
(俺は家に帰らないし、約束の5年は過ぎた)
「友達でいよう」
ベッドの上、仰向けになった裸の男は裸の女に言う。
「友達になるくらいなら、二度と会いたくない」
黒髪の女はそう言う。妻にしてくれと言う事だろう。
(王者の剣の事も忘れたい、だからもう殺すしかない)
と頭に過った時はさすがに可笑しくてオルテガは自分の妄想を心の中で笑った。
でも「殺されるのも良いかも知れないわ…」と言い出しそうな危ない女ではある。
「じゃあ俺のお義母さんになるか。俺の父親と添う方向で」
「お父様なんて…いくつになるの」
127名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/30 01:26:00 ID:OBQinhs4
「80。しかし綺麗な顔してるぞ。本人が望んだ訳じゃないが権威がある。力のある人だよ」
そんな約束も確かではない。何故なら、
(父上…父上生きてるのかな…)
家に帰らないので、父の生存が明らかでないのだ。
女賢者は処女だそうだ。オルテガの妻もオルテガしか知らない。自分の女はいつも“そう”だった。
(あぁ、燐もこうした黒髪だった…)
とオルテガは初恋の女性を思い出した。彼女は世界一弱い武闘家だった。いつも今にも死にそうだった。
だが彼女の家からは笑いが絶えず、彼女の家族の事もオルテガは好きで、安らいだものだ。解放の快感。
大体オルテガに取って実父は、会うと世界一緊張する人だった。
殆ど女武闘家の家の婿になり、父とはほぼ別居していたオルテガの青年期である。
「お前は頭が良いからあの父と丁々発止で付き合えるよ。きっと賢さはお前の方が上だけど」
あの確実なマシーンに、この女の魔性を宛がわせたい。
(あの溢れるばかりの戦闘力と言うのかな…あのお人の迫力はもう少し大人しくなって貰わないと、俺は困るよ)
韜晦癖のある父だったが更なる抑制の為、あの堅いジイサンのそばに色っぽい若い女を配置したい気がした。
128名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/30 01:27:57 ID:OBQinhs4
オルテガはまたこの女を利用している自分に気付く。この女の前でどうにも最低な自分を知る。
闇の衣を着こなせる影のある女。オルテガは彼女の事がちょっと嫌だった。
そして太陽の子は少し彼女に惹かれている所もあり、素直にマゴマゴしていたのだ。


人は、初恋が唯一の恋愛と言う事がある。それに漏れない人間も居るが、ちゃんと幾つか恋する者もいる。オルテガは後者だろう。決して恋多い男ではないが、何人かに本気で惚れた。
その中最高の女とはなんぞや? アレフガルド、マイラの温泉でオッサン達の議論をオルテガは聞いた。
「自分が死ぬ時に一番思う女だろ。自分が死んだ時一番泣いてくれる女とか」
死が関わってるなと、オルテガは眉を寄せて言う。
「命が掛かってると言うんだよ」
「生と死は紙一重さ。同じ物とも言えるね」
その幾人かの言葉の中、はぁはぁとオルテガ生返事をして湯をかぶり、立派な肉体を堂々と歩ませて浴場を出た。


「ただいま」
女勇者が久し振りに家に帰った時、あんまり静かで誰も居ないようだった。
「おかえり」
しかし祖父が堂々と居間のソファーに座っていた。戦闘中ではないのだから気配を完全に消さないで欲しい。
彼らしい悪戯である。何故か孫娘にだけ弩級の悪戯を仕掛けてくる祖父である。
「なんなの、なにしてんの」
怒られた。
129名前が無い@ただの名無しのようだ:04/12/30 01:29:35 ID:OBQinhs4
「俺の気配が解らなかったとはのん気だな」
と言う祖父の背後を勇者は取って、彼の肩を揉み始めた。
(うぉっ)
と男はうめきそうになった。彼女のホイミなども、老人の体であってさえ快感だ。
魔法使いの祖父は本当に声を漏らしそうになったのが恥ずかしくて、自分が彼女に施す形を取る。
「お祖父様こってたね」
「お前は全然こってないな」
と祖父は彼女の体をモミモミ…。孫娘はくすぐったい時があってちょっと「きゃっ」と笑う。しかし次第に
「ん…そこ…」
と女は悶えた。
自分がされるよりこっちの方が恥ずかしいと祖父は思い始める。その時勇者の母が帰って来た。
(あ、ごめんなさい)
と、自分は一瞬この“男女”を邪魔したと思った。娘は大きくなったなぁと思う。
「母さん」
ただいまと言って、魔法使いの下、ソファーに寝そべる娘は元気そうだった。
娘が大きくなると母は彼女の妹、娘の様になって彼女に甘えている。この家で一番の包容力と覇気はもうこの10代のバリーだろう。
祖父はこの色っぽい孫娘に掛けているが…オルテガの方はと言うと父よりも先に死ぬ。これは運命だった。


“太陽の石事件”を知らないラダトームの人間は野暮である。
覆面マントにパンツ一丁の男が、二人も躍動した捕り物の騒動。
場所はラダトーム城。台所の裏が発火点。
男はアリアハンの勇者オルテガ。50代の壮年。もう一人はラダトームの僧侶兼町の防衛長カンダタ、バハラタから来た若い男である。
130名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/03 00:22:07 ID:5jaFGide
カンダタとオルテガは力を合わせ、太陽の石を盗んだ賊を捕まえた訳だが…
即刻その場(ラダトーム台所)を去るつもりだったカンダタを余所に、オルテガは懐かしい下女に会うと簡単に覆面を脱いで話を始めてしまった。
ザワザワと噂が立つ。“あれアリアハンの勇者でねぇのか?”覆面を取り、パンツ一丁となったオルテガはキラキラと輝いていた。
オルテガとカンダタがその姿で歩み寄って来ると女賢者は複雑な顔をした。
何故この良さが解らないのか、釈然としないカンダタとオルテガである。
しかし多くの人に受け入れられる姿で無い事くらい、聡い男二人は解っている。
「なのに、何で」
脱いだんだろうとカンダタは思う。寄りによって覆面を。(パンツを脱ぐ方が正体はバレまい)
「あの娘とは素顔で話したくて」
(惚れてんのかなぁ?)
とカンダタは思った。それは的外れでもない。覆面マントのスタイルよりも、あの下女の方がオルテガはずっと好きなのだから。
男カンダタ、妻以外の女にチヤホヤするオルテガを見て、ハンカチを噛みたい気分である。
(勇者オルテガが不倫するない!)
俺以外とは。と思うカンダタである。
「城に挨拶に行こうぜ」
とカンダタはオルテガを誘う。オルテガは乗った。
オルテガのこれまでのアレフガルドでの働きは、他に換え難い功労だとカンダタは言う。
オルテガは大魔王に勝利するつもりであったが、勝利の後何が残るかも考えていた。
それは平和しかない。勝利の下には必ず平和が無くてはならない。平和のない勝利など意味がない……。だから、オルテガの活動は多岐に渡った。
オルテガはただの勇者ではない。戦って勝つだけの男ではなかった。
131名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/03 00:24:39 ID:5jaFGide
「スーツなんて、何年振りだろう」
「勇者だけど着こなすねぇ」
とカンダタは少々戸惑っているオルテガを褒めた。オルテガの方はワイルドなスーツ姿で超カッコイイカンダタに対し「引けを取っている」と思ってテレていた。
(なんでテレる!?)
オルテガの様な貴品も、純真な華も、壮年の落ち着いた美しさも、自分には無いのに。
スーツのオルテガはカンダタと二人切りの時でなければ堂々とし、凛とした。皺の深い壮年だが透ける様な美しさと穏やかな貫禄。
カンダタとオルテガはお互いに「負けた」と思い合って、靴音鳴らしラダトーム城の回廊を行った。
オルテガは男らしい体だが下半身に重心があり、しっかりと確かに歩む様は決まりに決まり過ぎていた。
カンダタは肩幅が広く、(下半身は少々足が長すぎて)上半身が立派。勇壮な鷲が羽ばたいている様な迫力。
全く、あの覆面姿を払拭して余りあるスーツ姿の男二人であった。
オルテガの爽やかな人間力、カンダタの鋭さと野性美。
オルテガは崇拝されて然るべきオーラと容姿であるし、カンダタはそのまま時を止めて永遠の世界に保存して置きたいと思わせる端麗さと男振りがあった。
オルテガは存在の確かな魅力、カンダタはいきなりどこか飛んで行ってしまいそうな躍動を人々に印象付けた。
回廊を男二人で歩きながら、カンダタはオルテガの今までの功労を一つ一つ謳い上げる。
そうしながら王への謁見の手続きを終え、王室の扉に手を触れた。
「ありがとうございます」
オルテガの方だけを見て、オルテガにだけカンダタは頭を下げる。
「貴方のこれからと、勝利を信じます」
そして王への扉を押し開けた。

132名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/03 00:29:42 ID:5jaFGide
両手を開き扉を開けたカンダタの後に勇者オルテガが居る。
その時ラダトーム王ラルス一世は鼓動と表情を止めた。現れた(おそらく二人の)勇者に。
ここぞと言う時に頭(こうべ)を垂れる瞬間をラルス一世は知っていた。
小奇麗な頭を静かに下げる自分より年嵩の男に、ラルス王はロトの称号を与えた。
「私の独断ですから、今は貴方の心に留めるだけに収めて下さい。もし大魔王を倒し戻られたら…
神と、ロトとお呼び致します」
オルテガとカンダタは倒せないし、敵にも出来ないと王は思った。
負けた。負けたがラルス王に悔いは無かった。男対男の勝敗は一瞬で決まる。
オルテガの短期間での素早い勝利にラルス王は感嘆するしかないし、そうしていた。

「前から言われてたのさ。アリアハンの勇者を呼べってね。やっぱり誰がアレフガルドを救ってくれたのかあの王は解っている様だ」
オルテガのループタイを解きながらカンダタが言った。
「呼ぶように仕向けたんだろうお前が」
カンダタの指に身を任せているオルテガは言う。
「ハハ」
「凄い男だよお前は」
ノーネクタイで鷹揚に笑うカンダタの頭を、オルテガはガシガシと撫でた。
これで晴れて、オルテガはラダトームの王室にも認められて活動が出来る様になった。これはオルテガ便利で助かる。カンダタに礼を言った。
オルテガの活動は、人間達から見れば奇妙で恐ろしい物だった。
この世は人間だけのものではない。だからモンスターに接近していたのだ。
彼は怪物達にマスターと呼ばれ、愛された。
そんな活動に夢中でオルテガは“ロト”と呼ばれてもピンと来なかった。
133名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/03 00:39:16 ID:5jaFGide
「名前も名誉も、どうでも良いんだな」
とカンダタはオルテガに呆れた。
「お前の方がもっとどうでも良いと思ってるだろ」
ロトの名を取る事、それを勇ましく行った男二人だが、こんな風だからどこかあっけらかんとして素っ気無い。
「あー、スーツ脱ぐのかぁ」
とカンダタはオルテガを見て、そうした事の方に感動している。頭を撫でられた時、礼を言われた時等は声も出ず、この世の終わりかと思うほど嬉しかった。
「お前の方が格好良かったから、恥ずかしかったよ。脱ぎたいよ」
オルテガは鏡を見ながらスーツを脱ぎたがっている。
「似合うっつーのに。…でも、鎧の方が良いかな。似合う」
とカンダタはオルテガに言う。オルテガはカンダタの声に服を脱ぐ手を止めた。
「良い鎧、見つけたら届けるよ」
「町の僧侶で警察だろお前は。鎧なんて探せるのか」
おっと。元盗賊とバレてしまっては事だ。カンダタはむにゃむにゃと言葉尻を濁した。
「とにかく、お助けします」
「うん。鎧か」
その瞬間にカンダタの人生がオルテガに少し見えた気がした。悪い事もして来たろう。でもカンダタは、
「お前は人に慕われている。絶大な人気だな。男が惚れる男って所もあるんだろう」
「……男が惚れる男…それは、その男が男好きだから男にモテると言うケースが7、8割だって」
オルテガはギクリとした。
134名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/03 00:43:22 ID:5jaFGide
「そのモテてる男は、自分が男好きだと気付いていない事もあります。しかし気付く者も居る」
ラダトームの教会、衣装部屋の中の男二人の時間は止まった。
(カンダタ、カンダタ何が言いたい)
カミングアウトなんて…やはり、“ロト”の名をオルテガが貰う事は一つの大きな区切りとなっていたのかだろうか。カンダタもう、何でも話してしまうのか。
(貴方を抱きたいとか抱かれたいとか、そんな事思わなくても、そんな事しなくても、貴方の女になれます。俺)
この意味が解ってくれるだろうか…とカンダタは思った。(俺は貴方の影にも日向にも。まぁ簡単に言うと)
「俺は貴方に惚れてるんです」
オルテガはカンダタの眼差しと声にドキドキしたが、なあぁんだと安心しても居た。
カンダタと自分の関係はそれはそれは爽やかな物だった。カンダタの言う“惚れる”とか“男好き”とかは、随分健やかな物だなと信じた。
「俺今度雨雲の杖を持って来るからさ。じゃあ、その間に鎧探せるだけ探してくれよ。頼んだよ」
「はい」
との、カンダタの穏やかな表情にオルテガはまたドキドキした。
不思議に心が揺れて、スーツのオルテガはスーツのカンダタに背を向ける。その時、オルテガの背はカンダタの大きな胸に抱かれた。
「いってらっしゃいませ…」
男を後ろから抱くカンダタは、その男、オルテガの肩の辺りに頬擦りしている。
オルテガは腰が抜けそうになった。相手がカンダタでなければこんな戦慄は無い。オルテガ運が悪い。(しかしカンダタはオルテガに尊敬を表わす為、その気がないので運が良いとも言える)
135名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/03 00:46:12 ID:5jaFGide
(やめて、やめて)
と心の中、野太い声で壮年は嫌がる。男を抱く、男に抱かれるなんて、
(いやだ、人生変わってしまうっ)
オルテガの人生変える程の夢の刺激を持っている男もまた、カンダタだけである。
カンダタはオルテガから離れて前に回り、彼の顔を見ると、カンダタを見てオロオロしていた。
「やめてくれ。冗談ばっかり、アホ」
と恥ずかしそうにオルテガは言う。
(可愛い…)
と思ったカンダタはオルテガの目の下にキスした。
カンダタはオルテガが求めれば何にでもなると言う。新しいエロの世界を開いてくれる想像を絶する女。そんな凄まじい女は、男の体を持ち、男の中の男であった。
(カンダタは男だ)
しかしオルテガの胸はカンダタを思うと嫌に高鳴る時があった。彼の人生は本当に残り少ない。今変えないで欲しい。


「オルテガ」「オルテガ」
雨雲の祠は天使ばかりで、聖なる守りのあるルビスの塔にオルテガを行かせる事を皆拒んでいた。
「聖なる守りは精霊ルビスの愛の証」
と言う祠の主だが、周りの天使は「イヤ、イヤ」と騒ぐ。
136名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/03 00:48:13 ID:5jaFGide
「こんなオジイチャンに行かせちゃイヤ」
(ひっでー)
とオルテガは思ったが、天使は皆オルテガに好意を持って居るらしい。「綺麗」とか「良い意味で人間と思えない」とか言って来る。
「この人間は、ルビス様の愛を受けるに相応しい方と思いませんか」
祠の主が言うと、オルテガは(俺には妻がいるんだが)と思った。だがそう言う次元の愛ではないんだなと思われる。そしてその様だった。
「貴方達を戦わせて居る事を、ルビス様は悔いておいでです。大魔王からアレフガルドの創造主をお救い下さい」
オルテガ、今の祠の主の声色は生々しく感じた。
「ルビスとゾーマの関係は?」
オルテガの声の後の、祠の主の慌て様。オルテガの鋭い勘に慄いている。
137名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/07 01:32:36 ID:8a+zecQ6
その取り乱し方を見たオルテガは、ルビスにゾーマを慕う気持ちがあるのだろうと思えた。
闇と光は表裏一体。大魔王や神のレベルでも通用する普遍妥当の関係だろう。ルビスがゾーマを求めても…誰が責められよう、ルビスも女である限り。
「ルビス様は戦っておいでです、きっと貴方に追い付いて、あの神々しさを取り戻す。
貴方は鈍く強い光。きっと闇にも屈しない。
私が全能の神であったなら、今は戦いの全てを貴方に委ねたいと思うでしょう」
鈍いと言う評価が良いなとオルテガは思った。そうでない光だと、闇に溶けて混ざる方が見事に思えてしまうから。
「俺は子供の頃から、太陽の子と呼ばれて来ました」
“それは良い。どこで呼ばれてた?”と天使達が聞いてくる。“アリアハンと言う、私の故郷でだよ”とオルテガは穏やかに答える。
「太陽の輝きが独特の所で、その光に、俺の目や髪の色が映えたからだと思います。
それだけの理由でも俺は自分を勇者だと思って来た。私を太陽の子と呼ぶ人が居るからです。
俺を信じてくれる人を、俺は信じます。
アリアハンが好きだ。きっと勝ちます。勝って帰ります」
「やった、やった」と天使達は喜んだ。「オルテガを見た時思ったの。これでアレフガルドは救われるんだ」とか、「帰っちゃうの? 凱旋の後も居てよ」と。
「居てよ、せめて、少しでも」と頼んでも来る。ならば、
「一日だけ」
とオジサンはふざけて見せる。
「遊んで」「遊んでね」
と言って来る天使達に勇者は笑顔を見せる。
「抱いて」「抱かれたい」
と言って来る者には勇者びっくりする。「良いではないか」と囃す者も居て、(私には妻が居るんだ)と
オルテガは戸惑う。
138名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/11 04:22:21 ID:RO5Ywdia

負けても、生きてさえ居れば家に帰れる。
どんなに醜い負け方をしても、生きてさえ居れば、家に帰れる。
可愛い妻、身の引き締まる父、小さい勇者の娘とまた暮らせる。
(なぜこんな事を思うのだろう)
オルテガは自分の思考を怪しんだ。何故だ。勝って帰ると考えるのが常道だろう。
(むう。自信の無さも、時に必要か)
ルビスの愛を受けると聞いた時も、(…いいの?)と思った。女神の如き女の愛とはどんなものだろう。
(既婚者でもいいの…?)
取り敢えずさっきからこればっかり勇者は気にしている。そう言う愛でないと解っている筈なのに、やはり神に愛されるなんて想像もつかないから、最愛の人を思ったりして落ち着こう。
(神様でも女だから……女神…)
女神と言う言葉で真っ先に思い出したのはアリアハンで待っている妻の顔だった。
20年下の可愛い妻は、彼の精霊みたいなものだ。
(太ったままかな…コロコロと…)
オルテガは彼女を思い出して今日も幸せだ。この夫婦は二人揃って今だ恋愛中の男女である。
燐(リン)と言う武闘家女はアリアハンの妻に出会う5年前に死んでいる。オルテガと女武闘家の時間は10余年だった。
病弱でいつでもヘロヘロ。そして毎日爆笑ポイントのあった女性だったから“女神の印象”より光沢はない。
だが彼女が一番オルテガの笑顔を見た人間だろう。無敵の爆笑バリアを持っていたから、ある意味では強い武闘家である。
(俺は、聖なる守りを取るのを迷ってる…)
あぁ、あいつ(カンダタ)の様に俺は行かないなと思った。あの即断即決の勇士。
(お前に憧れてる…ラダトームに帰ったら、“俺もお前に惚れてる”と言おう)
男だけど、カンダタにはちょっと恋していると言って良い。良いって事にする。
あいつにだけはオルテガ、ちょっとだけ色っぽい憧憬を持ってしまう自分自身を爽やかに諦めた。
139名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/11 04:24:44 ID:RO5Ywdia
全く、あの一人娘は。友達と遊ぶ時はお花畑に居たりするのに一人遊びの恐ろしい事。内緒で木登りなどしている。
「下りて来い!」
木のやたらと上の方で少女がガサガサと動き、父の前に申し訳無い様な困った顔で現れる。
その柔肌の、幼い頭を父オルテガは堅い拳でグリンと突く。
少女は痛そうに自分のおでこを小さい両手で押さえる。
ある時は「いやっほう」とばかりに、イカダで川流れ。ワーと言わんばかり楽しそうに流れる流れる。
オルテガは川を歩く。泳ぐのではなく歩く。しかし激流の中のイカダよりオルテガの足の方が速かった。
小さい娘は子猫の様に捕まってお尻を叩かれる。
「お前は俺が怒るとわかっているのに、なんで過激な遊びをするんだ」
どう答えて良いのか娘は困っている。やっと口から出た小声は「なんとなく…」の一言だった。
「もうしないように」
そう父から言われても、彼女は何か迷っている様子だった。
「何を迷ってるんだ、返事をしろ!」
娘はコクンと頷いたが、腹の中では何を思っているのか。
140名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/11 04:28:29 ID:RO5Ywdia
オルテガの娘はどうしても寝付けない時、一人でこっそりと家の中の武器庫に入った事があった。
父の鎧を磨く事にする。磨いている時父に見つかった。
暗がりの中で見る父の顔は怒っているように見えたが…複雑な表情だった。静かで、悲しそうな顔とはああした物か。
「おいでバリー」
「…」
「いいから」
父は決して怒ってはいない。娘は磨いて綺麗にしてくれていた。しかし娘は父を見た時咄嗟に「ごめんなさい」と言う所であった。
オルテガは娘に思う。
(剣を持った鎧姿の俺には、少しだけ疑問を持って欲しい)
“戦いの意味が解らない、何でああも戦いたいのか解らない”と言った女ならではの感覚を、少しは娘に持って貰いたい。
あの娘、男の戦争に理解が深いのは許そう。しかし女戦士となって武器や鎧に触るのは思いの外である。
しかしオルテガと少女のバリーが一緒に町を歩くと、鋭く凛々しい戦友同士の雰囲気が見えると町の人は言う。
バリーと祖父が歩いても凛と静かで格好良いらしかったが、いつもどこか幸せそうな祖父と孫だったと。
(なぜ。俺達だって父娘だ)
オルテガは悲しく悶えた。しかしバリーの目を見るとゾクゾクする事がある。バリーも父の目、父の横顔を見るとゾクゾクと息が詰まる時が。二人戦慄し合っていた。
141名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/11 04:32:59 ID:RO5Ywdia
バリーはしかし料理なども好きで、家族に馳走してくれた。
料理は勇者サイモンの物も美味かった。その道で生きていける腕前だったが、彼は家族が多過ぎ、養い切れないから諦めた職だった。
本当はサイモン、そう言う仕事がしたかった。人の生活の中の仕事や、直接人の命の糧となる職業。
大きな腕力体力を持って産まれた勇者には相応しくない、許されない、夢のまた夢の職業だった。
サイモンは強かった。友達のボストロールの不意打ちでなければ死ななかったろう。
引き裂かれた若い彼の遺体。纏う服を浸す血。彼の体バラバラの部分を拾い集めたのはオルテガだった。
娘のバリーの結婚相手はサイモンが良いなぁとオルテガは思っていた。
サイモン、バリーの二人は許婚だったわけだが、バリー9才でサイモンが死んだから御破算となった。
サイモンを思う悲しみは、優しい涙になりつつある。
ここ10年足らずで、あの怒りは何処へいった。
ラーミアの祠の巫女達は、燃える様なオルテガを見た筈だ。
なんだあの雨雲の祠でのほのぼのしたオッサンは。
時が持つ風化の力とも、オルテガは戦う。
あの惨状がまた起こりそうならば。
体など要らないから、この魔の海に飛び込んですぐにでもゾーマに会おう。
オルテガは祠を出て、外の闇を見詰めていた。その時バラモスゾンビからの伝言がオルテガに届く。
これからの新しい闇、竜王が今ゾーマの城で生まれつつあるらしいと。
サイモンを殺したボストロールの様な、哀しい魔物がまた生まれる。
竜王が勢力を持つ為には、オルテガは邪魔になるかも知れない。オルテガが幅を利かせアレフガルドに君臨する事を竜族は許さない。
ギアガの大穴での炎の洗礼、あれはドラゴンの火。
とうとう竜族が、オルテガに牙を剥いて来た。
(望む所だ!)
オルテガは疾走し、毒の名を持つ海へ潜った。
142名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/11 04:38:30 ID:RO5Ywdia


「なぜ、虹の雫で渡らないんだ!」
ラダトームのカンダタはオルテガの噂を聞いた。何でもバラモスの言葉でオルテガの動向は一変したらしい。
「全く、そんな魔物の言葉で動いたのか。そんなに待てなかったのかよ」
カンダタは喋りながら、時折痛そうに目を押さえる。言葉が次げない事もあった。
「どうしたの?」
元子分のCが心配そうにしている。子分だったが、僧侶としては先輩の少年である。
「なんだ、何か染みる…」
カンダタは、オルテガを本気で心配している。その上カンダタはオルテガの魂の同士。今体が繋がった。
(いたいやぁ)
それはオルテガの痛み。
それでも一人海行くオルテガ程の痛みはない。そして短い時間、知らせの様な痛みであった。カンダタは目を擦りながら、
「確かに俺は信じて待とうと思ったが、これでは話は別だ」
と言い、装備を整え出した。父の形見のパワーナックルを着け、夢中でオルテガを追って行った女賢者が着忘れた闇の衣を拝借。
カンダタが駆け出したその時、土左衛門の如き女賢者と何やら色っぽい女を見掛けた。
143名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/15 06:07:55 ID:3Co51VbJ
「来たか!」
カンダタは女の名を呼ぶ。後に女賢者を仲間とする女勇者。名を呼ばれた女は、ここアレフガルドで妖しく微笑んだ。


目の前が全く見えないではないか。
オルテガは思った。俺はかなり目に頼って戦闘して来たんだなと実感する。
毒の潮でもう目を開けないオルテガは今、大魔王城の大陸に立っている。
普段より敵の返り血が多い気がする。自分の目が見えないせいで、魔物に余計な苦しみを与えているのかもと思うと、勇者は悲しくなって来た。


「魔王を倒す旅をしてるの? でも遅かったね。オルテガのおじちゃんが魔王をやっつけちゃうんだ」
光の鎧を纏う女勇者バリーに、リムルダールの少年は言った。
すると少年の目の前の勇者が兜を脱いで顔を見せる。
その人の事でもっと知ってる事があれば聞かせて欲しいと、女勇者は言う。
少年はびっくりした。この人女だった。
声が嗄れて低く、目が凛として鋭い。少年相手でも礼を尽くして跪き、緊張している様子。
(…渋い!)
と思った少年は勇者の前で固まってしまった。
「バリー」
少年の後ろでカンダタが勇者を呼ぶ。格好良い僧侶が後から現れて少年はまたびっくりする。
カンダタは勇者を細い路地に誘い込み、華麗に上着を脱いだ。
服から彼の艶かしい胸が飛び出す。しかしその胸にとても美しいアザがあった。
切り傷に見えるが確かにアザだ。と勇者が思う間にそのアザは消えて行く。
これはたぶんオルテガの傷だとカンダタは言う。カンダタが(まさか)と気付くと、目も胸も痛まなくなったと。
「これで二回目だ。苦戦しているかも知れない。死んでいるかも知れない」
父の死を、バリーは始めて耳にした。まさかそれがカンダタの口からとは。
144名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/15 06:14:45 ID:3Co51VbJ
「俺は勇者オルテガから冷静さを一番買われていた。あらゆる可能性を考える、感じてもいる。
お前の居る今、俺が行ってもモタつくかも知れないから行かない。でも行きたいんだよ、行って、俺の出来る事を」
話しが反れたらしい。カンダタは言葉を止め、話しを戻した。
「勇者オルテガが死んでいても、進む力と意志はあるか? 少しでも不安があるなら俺も行こう」
「…あんたは待ってて。あたしあんたを切り札と思ってる。私も父さんも駄目だったら、次はあんたが居る」
「そこまで考えてたか」
「アリアハンのお祖父様を頼って、戦って」
「あー、あのお祖父様か。あの人がお前を送り出したんだよな。なんか俺いくら考えても、お前が勝つ様に思えて来た」
「本当は父さんが勝ってて、あたし出る幕無しかもよ」
「ラダトームの城の裏で待ってる。勇者二人揃って帰って来い」
「すぐ帰る。忘れ物ないと思う?」
勇者は第三者の目、カンダタの目で今の自分を確かめて貰いたかった。
「ないね」
それを聞くと勇者は背筋を伸ばし、大魔王の城を望むと、仲間に“全速前進”の指示を出して駆けて行った。


(全く俺と言う男は、なんも被ってねぇ!)
道理でさっきから頭部へのダメージが大きい気がした訳だ。
何かあるかなと袋の中をオルテガはまさぐってみた。
覆面マントが出て来た。
(あいつ…)
入れて置いてくれたのだカンダタが。それにしても何故兜ではないのだろう。それは他の誰にも邪魔出来ない“こいつら”だけの世界である。
(…バカ野郎)
俺の為に…(涙が出てくらぁ)とオルテガは覆面に顔を埋める。勿論被った。
その姿はドラゴンを怯ませた。銀色の鎧の上に灰色の覆面マント。ドラゴンは“さっきまでのこいつじゃない”と慄く。
145名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/15 06:16:22 ID:3Co51VbJ
そこからのオルテガの快進撃は言うまでもないが、大魔王の城地下の回廊の橋の上、ドラゴンに足を取られオルテガは銀色の川の中へボチャンと落ちてしまった。
(わあぁっ、スースーするっ、 スースーするっ)
大慌てで、勇者は岸に逃れる。
(む)
体が妙にツルっとしている事にオルテガは気付いた。あの川は殺菌、除菌作用があるらしい。
勿論長く浸かれば人も死ぬだろう。だが短い間ならこんなにも清潔になれる。
(要は闇とも、付き合い方次第と言う事だな…)
岸に座りながら太陽の子、勇者はそんな事を考えた。


女勇者は虹の雫を、魔の海の空に零した。
(私は我慢してた)
今にも駆け出して、父の側に、大魔王の城に行くんだと思いを胸の奥に秘めて、ルビスの愛の証を取り、王者の剣を取り、光の鎧を纏ってここまで来た。
もう思いの全てで進む事が出来る。勇者は大魔王まで架かる虹の橋を全速力で渡った。


オルテガはサイモンの形見の鎧を脱ぎ、カンダタから貰った覆面マントも脱いだ。
頭には何も着けず、地獄の鎧を纏った。何かが変わるかと思って。
オルテガが目を開けると微かに光を感じた。
地獄の鎧は確かに体の動きを止める時がある。しかしオルテガは無理してそれを跳ね除けた。
(俺は皆に頼り過ぎてたかな)
鈍い光と呼ばれた俺には俺なりの、戦い方があるんだな…。
そう思うオルテガの背のさみしさ。
そしてその背を見ている竜がいた。広い回廊の所狭しと六つの首を縦横無尽に蠢かせている赤い竜。
オルテガの弱い視力ではそのヒドラの姿を捉える事は出来なかった。
146名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/15 06:20:40 ID:3Co51VbJ

オルテガはキングヒドラに腹を噛まれ、背中までその牙が貫通した。
腹と口から勇者は血を吹き出したが、次ぎの瞬間には何事も無かった様に立っている。これが彼の“ベホマ”である。驚異的な即効性。
勇者はヒドラの目の前まで飛翔し、その体をまさに鈍(にび)色に輝かせ、薄く熱い雲を呼び寄せた。
まるで全ての光、全ての色を吸収したかの様にどす黒いオルテガの体。何かが起こる予感、その時その体が真っ白に輝いた。
ギガデイン、撃ち放ち打ち鳴らすその男は、まさに雷帝。
大魔王の城が消え去るかと言う程の激しい閃光がキングヒドラに落ちる。
電撃ががなる。雷光が叫ぶ。
キングヒドラは倒れた。

オルテガの周り、空気の層が幾重に出来てそれが刃となりヒドラを斬る。
その風の牙にはライデインが混ざり、ヒドラを斬る。斬る。
おかしい。もう倒れる筈だ。なぜ起き上がり牙を向く。こいつは倒れない様に出来ているのか。
(俺は亡霊と戦っているのか…)
頭(かぶり)を振ってオルテガはキングヒドラを見る。
その時オルテガは胸を噛まれヒドラの長い首に体を持ち上げられた。しかしその牙から脱出。
半永久的に戦えるのは……
(俺だ!)
とマントを翻し勇者は両手を胸の前、中段に構えた。その手の指には実に25個の祈りの指輪。
(妖精の村の賜物よ!)
祈りながらギガデインを繰り出す。その時指輪が一つ、音も無く砕け散った。
147名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/19 17:10:54 ID:zKr/QXuv


昨夜からの雨は止んで、日の光を浴びた朝露と雨の名残が黄金に輝くノアニール。
その西のエルフの里、大きなベッドの上で男が眠っていた。
裸のカンダタである。隣に裸の女王が寝ている。
昨夜の事──
(人は恐ろしいと思うよ。あの時のお前も恐ろしかった…)
(そうか。今日の俺も恐ろしいかも知れない)
なぜ、以前女王はカンダタを受け入れてくれたのだろうか。
(お前がとても醜かったから。本当に、こんな人間を見た事がないと思った)
人間嫌いの女王に変化が起きていた。
(今日は結界の張り方を教えて貰いたくて来た)
盗賊だったカンダタも変化していた。
そうして服を脱いで──。朝陽を浴びても起きられない程に今男女は眠っている。
「キャー、人の男よ!」「ヒー、攫われてしまうわ!」
元カンダタ子分のCがエルフの里を歩くと大騒ぎになった。構わずCは女王の宮殿に入り寝室のドアを叩く。「親方起きろ!」
「わかった、起きた」
とカンダタはCに言い、簡単に服を着て女王に別れを言った。
「お前、人に私達の事を言ったのか」
女王がカンダタを見遣り言う。
「信頼出来る奴だよ。俺との噂は恥ずかしいか?」
「死んでしまいたい程恥ずかしい」
「わからん女だなぁ」
シーツに包まって座る女王はカンダタに聞く。
「今度はいつ?」
「100年後はどうだろう」
「お前生きているのか?」
「きっと。よぼよぼのジイサンだと思うけど、昨日みたいに優しくして下さい」
「サッサとお行き」
148名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/19 17:12:35 ID:zKr/QXuv
華麗な身のこなしでカンダタが寝室から廊下に出た。Cは眉を吊り上げて黙っている。
「行こう。またポルトガ王と鉢合わせになっちゃ大変だ」
カンダタが言うので「王に会ったの?」とCは聞く。
「いや、向こうは気付いてなかったな。さすが俺当時盗賊。逃げた逃げた」
素早い忍び足でカンダタとCは、もうエルフの里を出ていた。
「女王も、ポルトガ王も、女勇者のバリーに会って変わった…」
カンダタはボソと言う。
「俺はあの女勇者から逃げたり、攻撃したりしたな」
でも大魔王の城からあの女が帰って来たら…。
「もう逃げない」
と言うカンダタの立派な後姿を見ながらCは(バリーさんとうとう親方の女になるのかな)と嫌な気持ちがした。
「親方と俺と兄貴(元カンダタ子分B)の事、賢者だとバリーさんが言ってたんだよ。
賢者って人が言ってくれて初めてそうなれる物だろ? 勇者もそうだ。
大勇者オルテガはね、赤ちゃんの頃から勇者だと呼ばれて育って来たらしいよ。
勇者である孤独と重圧を、子供の頃から知っていた筈なのに自ら勇者になろうとした真の勇者さ」
アリアハン出身のこいつはオルテガの事が好きなんだろうな、と思う一方でカンダタは言う。
「なる程、オルテガこそが勇者ロトだからバリーは普通の女として幸せになって欲しいと」
言われたCは、興奮してうっすらと汗をかいている。そしてムッとしながら言う。
「そんな勇者が戦って、帰って来るかも知れない時に、女と寝る事ないだろ」
「アホ、女に触れられない戦場の大勇者に代わって俺が触れてるんじゃないか」
なんて言っているカンダタだが、いつぞやの様に女王とガンッガンだった昨晩ではない。
「裸で…しなかったの…。親方、仙人ぽくなってない?」
「そうか? 結界の張り方が解ったぞ。今度はスーに行って駿馬を貰って来よう。ルーラを使える野郎(馬)を仲間にするぞ」
「エドくらいしかルーラなんて使えないよ」
「探せばきっと居るさ、行こう」
Cはカンダタに一目惚れして、それからずっと着いて行ってる。愛じゃなくても、恋じゃなくても、エロが無くても。
149名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/24 03:05:55 ID:6T2xRuCs


ノアニールで女の誘惑を断り、家に帰り妻を誘惑したあの時のオルテガは、仲間だったホビットを連れてエルフの里に入った。
ホビットの友達と言う事でオルテガは警戒されない。それどころか“素敵な男”とエルフ達からヒソヒソ噂された。
人間と思われないのはオルテガ切ないが、嫌われないのは良い事だ。
オルテガはターバンを頭に巻き、口元をマントで隠し目だけを覗かせている。
彼は大きな戦士の体なので圧迫感がある。しかし目だけでも充分良い笑顔を見せるのでますますエルフに騒がれた。
「指腕を下さい」
オルテガは道具屋で指輪を求める。買い物をしたくてノアニールに来たのである。しかし道具屋の女主人は彼をじっと見詰めて言う。
「貴方からGは頂けません。お求めの物は差し上げます」
「買わせて下さい」
オルテガは驚いて反駁する。そしてターバンとマントを取って人間である事を示した。
「素顔での伝説も残せるかしら。お美しい方ね…」
言われたオルテガは心の中でコケた。素顔でも効果はないらしい。
「貴方は商人でしょう」
オルテガは言う。女主人は「貴方は伝説となる勇者でしょう」と返す。
「…わかりました。Gに見合うものを私が貴方から頂きます。指輪は売りましょう」
そのエルフの言葉に、オルテガもこの対立の泥沼を終わらせたかったから(もう、それでいいや)と思った。
そんな少し気の抜けたオルテガの首が、エルフに抱かれる。
男の唇に女の唇が触れた。男が少し吐息を漏らすと女が又吸い付いて来て高い音が鳴った。
「これで…」
とうっとりしているエルフの前で、もっとうっとりしているオルテガが「はい…」と神妙に頷いた。
指輪を貰ってしまい、オルテガは里の小道に座り込んでしまう。
ちょっとショッキングな快感だった。しかも自分が性を売った形で指輪がここにある。
頭が変になりそうな甘美さに呆然としているオルテガを、ホビットが宥めてくれたものだ。
150名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/24 03:08:05 ID:6T2xRuCs

オルテガは24の指輪をはめて息を乱していた。
ギガデイン二つで息が上がるのは変だと、ゼェゼェ喘ぐ勇者は思う。
そしてもう雲が呼べなくなった。
おかしい。MPに不足はない。
戦いは、HPやMPを問題にしない時がある。それは気迫の問題。
(気迫!?)
俺の気迫が足りないって言うのか!
「ぐおおぉぉぉおぉぉ!!」
オルテガは雄叫びを上げた。
「ヒドラァァアァァァ!」
オルテガはキングヒドラを睨み、低い声で叫ぶ。
ヒドラは竦み上がり、攻撃が長時間止まった。
その間にオルテガはギガデインを呼び出す。
(来い!)
しかし応答はなかった。黒雲は来ない。手に纏わり付く電熱は少ない。
だがバギクロスなら撃てる。また風の斬撃。その風の中勇者はアリアハン王拝領のバスタードソードを握り風と共にヒドラを切り裂いた。
風が止んだ後もオルテガの剣はまだ舞う。美しい野獣は大いなる戦意と戦闘力を竜にぶつける。
──勇者オルテガ。私の声が聞こえますね──
彼女は精霊ルビス。その精霊の姿はオルテガ見る事が出来た。ルビスは“目”で見るものではないのだろう。
(50を過ぎて…精霊を見るとはな…)
54才のオジサンは振り翳す長剣を止め、うっすら口を開けてルビスを見上げている。
──若い勇者が私を助け出してくれました──
あぁ、これはすみませんと、自分がそうしなかった事をオルテガはルビスに詫びたい気持ちになった。
──ゾーマは倒さなければなりません…そうしなければ…。願っています貴方の勝利を。甦ったばかりの私の力も…微々たるものですが貴方に預けたい──
「いえ、女の貴方を戦場に出す事は出来ない。それでも俺に何か下さるなら、代わりにその若い勇者を慈しんでくれれば」
151名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/24 03:10:13 ID:6T2xRuCs
──女性なのです──
「は」
──その勇者女性です──
「その娘、家に帰す事は出来ないのですか?」
──もう、あの者は止められません──
「可哀想に…。こんな戦場にいるのか」
──会えば解ります。なぜ女なのか。なぜあの女性なのか──
「俺はこの戦いに勝ち、家に帰って妻に会いたい」
爽やかな良い顔をしているオルテガだが、案外官能的だと思いルビスは──まぁ──と少し戸惑っている。
オルテガにエロが見えたのは仕方が無い。ルビスはオルテガの妻にそっくりだった。実体が無く、見る者が自由にその形を見、感じる存在がルビスだった。
「男には男の、女には女の戦場があると思います。どうか、貴方も力を尽くしてその女勇者帰す様にして欲しい。俺は急いで勝ちに行きますから」
──急がないで。貴方がその女性に会った時こそ、夜明けが来るのです──
ルビスは消えてしまった。
奥さんの元に帰るのを楽しみにしてる男に向かって、「若い女と夜明けを待て」等と…。
とぼんとして困るオルテガである。(なんて精霊だよう…)と思う。
その時なぜか、女の柔肌が自分の胸にあるとオルテガは感じた。
──貴方に、私の愛を預けたかったのに──
「…この海を渡れると思ったのです。……少々手負いましたが」
オルテガはすみませんと言う顔をしている。許してくれとばかりに弱く微笑む。ルビスは女だからバリーに愛を預けるより、オルテガの方が面白味があったのだろう。
自分を石にしたあのゾーマの手を忘れられないルビスに取って、共に戦う相手はオルテガの方が頼りになった。
あのゾーマの快感から自分を覚まして、新しい世界を見せてくれる男。今オルテガの他に居ない。
(また女を胸に抱いてしまった…)
と反省しているオルテガだが(俺の嫁さんそっくりになってくれてるんだよな…)と思うと、これは精霊の御慈悲だと思い(どれ、顔をもう一度見せてくれ)
とオルテガの手に導かれて上げられたその女の顔は……見た事もない美しいエルフだった。
余りの驚きに表情が付いて行かず、オルテガはまだ穏やかな顔をしている。
(!?)
やっと疑問を目、眉、口に出す事が出来た。
152名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/24 03:12:48 ID:6T2xRuCs
エルフ女のしどけない顔…(貴方が好きです。お慕いしています)と言う思いが溢れているが、俺に向けてのものじゃないとオルテガは感じた。
(会った事無いし…)
このエルフを抱いている男の念を、俺が捕えたのかな。ルビスは関係無いだろうな。とオルテガは物凄い勘で的確に状況を把握した。
オルテガは、エルフの女を後から抱いている胸の広い男も見た。
男の顔は見えないが、若い体の男女はお互い美しく、二人共動きが非常にエロティック。
オルテガは銀色の川の中へ飛び込んだ。すんごい事をしている男女がまだ見える。
(ごめん、見ちゃったよ)
謎の男女に謝りながらも、助けてくれぇと泣きそうになってオルテガは川に沈んだ。すると蒸発して擦り減る様な自分に気付く。
(干乾びる、干乾びるっ)
オルテガは急いで岸に上がった。
自分の脳みそしっかりして欲しいからオルテガは川に飛び込んだのだ。しかし下手すると死んでしまうのだ情けなくも。
オルテガもカンダタも強い緊張状態に在りお互いの念が飛び交いキャッチし合う。比類ない奇跡、この二人だけの世界である。
エルフの白い肌にオルテガは心乱した。だがそこから冷静になりたいと願う事で改めて心が澄んで行く。元より体は静かで熱い。
オルテガはバスタードソードを強く握り、歩いてキングヒドラの元に向かった。ヒドラはまだ竦み上がっていて、オルテガを見ては微かに後退りしている。
(お前も因果な奴だ)
ヒドラはオルテガを食おうとして、その牙のみの攻撃を仕掛けて来ていた。
153名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/24 03:17:08 ID:6T2xRuCs
(ならば、剣にて)
お前の息の根を止める。さらば、悩ましい苦戦。キングヒドラ。
その時オルテガは吐血した。
腹を噛まれた傷を引きずっていたらしい。
(俺のベホマもなまくらになったかな)
とベホマを又かけると、効かない。
それはベホマの効力に翳りがある訳ではなく、オルテガの体が魔法に着いて行かなくなった様子だった。
オルテガはまた血を吐く。
(そうか、魔の海の後遺症と、あの時の…)
あの時、最初にヒドラに腹を噛まれた時オルテガはやられていた。
(亡霊は…俺の方だったか…)
道理で、手応えが無いと、思ったんだ、と…オルテガは熱い息と血を吐きながら思う。
多くの人間が彼を助けようとしても、死の影は突然やってくる。
死ぬのか。オルテガは見えない目で自分の手足を見た。
死ぬのは怖くない。子供頃からそうだった。しかしここで歩みを止めねばならないのは
無念!
膝を付いてうずくまっているオルテガが吐き出した血を、キングヒドラは舐めてすすった。
ヒドラはオルテガの血を初めて口にした。美味に喉を潤し、気迫を取り戻して竜は勇者を見る。
オルテガの上半身が瞬時に素早く起きあがった。力強く迫って来ていたヒドラの口をまたバギクロスで切り裂く。
まだ撃てる。もう一度撃った。その呪文の間にオルテガは膝を起こし立ち上がる。そして三度目の風の魔法。彼の呪文は次第に強大、強力になって行く。
(俺がもう死んでいるのなら、俺と来い!)
キングヒドラはあの世に連れて行く、こいつは必ず倒す。無言の勇者の繰り出す風に、ヒドラは鳴き叫んだ。
第三者が見たらこの戦い、どちらが劣勢に見えるのだろう。それは彼女にしか解らない。
オルテガは自分に近付く柔らかい空気を感じた。
154名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/25 17:20:05 ID:EeuJs6MX
(ルビス? いや…)
恐らく天使か人間の、戦える女だ。女はヒドラに接近し長剣か何かでヒドラを斬り付けたらしい。ヒドラはまた黙っていた。
「父さんっ」
やはり女の声は聞き取れない。低めの良い声の筈だと男は思う。
女勇者がオルテガにぐっと近付き、彼を慈しみ回復呪文をかけてくれる。
(生きてる気がする)
オルテガは思った。俺は生きている。
ずっと一人だと思っていた。サイモンに出会った時それが溶けたと思ったけれど、彼が死んで、俺は勇者と呼ばれるたった一人の人間だと彼は思っていた。
更にこの女の呪文を受けると、オルテガは快感で声を漏らしそうになった。
彼は孤独でもなく、死んでも居なかった。
女勇者は勇者の孤独を感じた事は無い。産まれた時からオルテガが側に居たからだ。そして父を信じて旅をしていた彼女は淋しくなかった。
それどころか旅の道すがら、行く先々でオルテガの噂を聞き、切ない程に父が胸の中に居た。
久し振りに父の顔に触れて、可愛い乳房の奥にある女勇者の心臓は高鳴った。
彼女の持つ王者の剣、オルテガが「貸して」と言うと彼女は「はい」と渡してくれた。
オルテガ一刀でキングヒドラに勝利する。後に居る女勇者は喜び、オルテガはその華やぎを感じた。
155名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/31 02:22:48 ID:ustJIMV0
こんなセクシーな女を好きになったのは初めてでオルテガはソワソワする。女も初対面のオルテガを何故か愛してくれている様子。
(ごめん、あんたの事好きなんだけどごめんな)
(あれぇ、父さんが)
と言う暇も無く、二人は身を崩す。一体女勇者と男勇者にどんなハプニングが起こったのか。

この大魔王の城の中で、まるで勇者の為に用意された様な宝箱の部屋がある。そこで勇者は父と正式な再会を果たし、久し振りで恥ずかしそうに父オルテガを見た。
(はぁ…良い女……)
と視力聴力の復活したオルテガは娘をつくづく見詰める。
「バリー、後で話がある」
「はい」
と返事する女勇者はさて仲間を連れていた。男戦士(かっこいい)。女賢者(お前か)。そしてその隣にエルフの女が居る。しかも全裸で。(あんたまだ居たのか!)
自分が見ている“気のせい”に過ぎないとオルテガはまた思った。しかし大変な事にエルフを後から抱いている男がカンダタである事に気付いた。
(あ!)と驚くオルテガに向かってカンダタは
(死ぬのが怖くないなんて言うなよ。こんな事出来なくなるんだよ)
と髪の長いエルフを包み込みキスしている。
カンダタは生への誘惑をオルテガに見せる為に現れている。
(解ったよ、消えろよ。色男色女)
と、オルテガは幻影に手を伸ばし小さくはらう。すると自分の手がエルフの滑らかな背にペチッと触れた。
(…お前手が何本あるの…)
オルテガに気付いていないエルフは低い声でカンダタと戯れている。
カンダタは少し笑い、女の背をしっかり抱く。そして女の肩越しからまたオルテガを誘った。
(可愛い奥さん待ってるんだろう?)
オルテガは小さい声でカンダタに話しかけた。
「俺の嫁さんの事か!? 会ったのか!?」(この前チラッと見た)「お前、手を出したらやっつけるぞ」(うん)
156名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/31 02:24:25 ID:ustJIMV0
カンダタはいい男だが、こう言う場合困る存在だった。それに…
(ちぇ、俺に惚れてるって言ってじゃないか)
女と戯れる青年に向かって、オルテガは珍しい変わった反応を示した。カンダタはドキッとする。
(女が好きだろ? 思い出して欲しいんだよ、帰って来なよ)
オルテガの事を“抱き締めたい”と思いながらカンダタは言い、消えて行った。
(さよならカンダタ)
それはカンダタとの爽やかな関係に別れを告げたのではなく、今の様なちょっと切ない思いを封印する為の言葉だった。
(俺は男だ。お前も男だな)
オルテガは心の中で笑顔を作った。カンダタも笑顔を返してくれるだろうか。両目を×にして「えぇ〜?」不平を言うかも知れない。
女勇者が自分の袋をゴソゴソ探索し出した。父さんに鎧をやるのだろう。
皮の腰巻きが出ると「あぁ、それで良いよ」と言った後それを良く見て(俺のじゃん!)とオルテガはバク宙しそうになる。
ノアニールの女、その思い出と共に回転しそうだった。我が娘が持っていた事によってスピードは更に倍。
バリーは変な物出しちゃったと焦り、ちょっとドキドキ。
「浮気はしてないぞ」
「はい」
そんな会話の折、袋から人の頭部程のモンスターが出て来た。
「おぉ、ピー」
「マスター」
モンスターの進化最前線を行っているメーダと言うバケモノだった。オルテガの肩にぺタリと張りつくグロテスクで愛らしい怪物である。
「こんな所まで来て。恐くなかったか」
「ママ様の袋は安全です」
「ふうん、お前から見てもバリーは強いか」
「イエス、マスター」
仕方の無い所まで、バリーは来てしまったんだなとオルテガは思う。
「お前は良い勇者だ」
157名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/31 02:26:39 ID:ustJIMV0
父に言われた娘はマゴマゴして小さくなっていた。
(バリーに戦いの基本を授けられるのはあの人しか居ない…)
オルテガの父の魔法使いである。
あぁ父親に、バリーを戦士にしないでくれと床に頭を擦り付けて嘆願したのに、彼女は今戦士となってここに居る。
(最初に約束を破ったのは俺だけどさ…)
5年で帰る約束だった。そんなオルテガの落ち度を見逃さず、あの父は自分の思った事を通して来る。
あんな調子だから、お互い若い頃ちょっと喧嘩したものだ。
だがオルテガは(なんで俺の一番嫌がった事を)と父に怒りはせず、
(よく(バリーの事を)見抜かれました。素晴らしい戦士、素晴らしい勇者です)
と、父を賛美した。
バリーが産まれて父と息子(オルテガ)の関係はそこはかとなく穏やかになったのだ。バリーがこの父子にくれたものは計り知れない。オルテガが大事にしたいのはこちらの方だった。
(父上には敵わないよ)
オルテガは吹っ切れ過ぎて楽しくなって来た。
(父上、会いたい)
バリーを見たら父に会いたくなった。
幼児期に一人、洞窟で迷ってる所を父に見つけて貰った時の事をオルテガは思い出した。
(ひとりで出ようとおもったのに…おれはまだまだだな)とも思い、
(ちちうえ、たすけに来てくれた)と素直に嬉しかった。
オルテガを“選ばれた勇者”にも“そこら辺のクソぼうず”にもしてくれた不思議な父親だった。
「お前昔、危ない遊びばかりしてたな。何でだったのか」
そこまでオルテガが言うと、バリーは幼い時と同じ様に思案顔になった。
「この戦いが終わったら、教えろよ」
そう言う父はもう先頭でパーティーを率い、生贄の祭壇に向かい歩んでいた。
あぁ、聡明な貴方の事……貴方と戦う私を見たら解ってしまうかも知れません。
と女勇者は思った。なぜ荒っぽい遊びをしていたのか…それは
(私は父さんの子だと、体全部使って言いたかった)
オルテガは叱ったし、嫌がっていたけど…どこかで楽しんでくれていたんじゃないかと…
(そんなのは私の妄想だった?)
158名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/31 02:27:57 ID:ustJIMV0


生贄の祭壇、奥に居るモンスター達はただ一つの事に疑問と慄きを持っていた。
「なぜ勇者が二人もいるのか」
騒ぐモンスター達を静めたのはバラモスブロスである。
「騒ぐな。恐らくランシールの秘法だ」
モンスター達に取ってその秘法は恐ろしい物であった。勇者達の強さに限界を無くさせる恐ろしい秘術。
「そんな卑劣な者どもに負けてなるものか、そのハラワタ食らい尽くしてやるわ!」
バラモスブロスは堂々と歩んで来る一人の勇者を見た。
勇者の冠を被り、刈り込んだ短髪が逆立っている男。
(オルテガ!)
男の勝負は一瞬で決まる。バラモスブロスは(この男に斬られる為に俺は生まれた)とさえ思ったが、次いで心の中で高笑いした。
(ハハハ、亡霊ではないか!)
やはりキングヒドラはその仕事を成していたと。
「ゾーマ様がお待ちだ。会うが良い。私を倒せたらな」
「こちらは4人で戦う。構わんか」
オルテガのその問いを鼻で笑い、バラモスブロスは戦闘態勢に入る。
そのバラモスの体を縦に切り裂く影があった。オルテガの背後に居た女勇者である。
バラモスブロスは彼女の素早さを目でさえ捕える事が出来なかった。
次ぎにオルテガの重い一刀が走り、バラモスブロスは戦意と動きを永遠に絶たれた。
「勇者、オルテガ……闇の静寂と平穏を知るが良い!」
ブロスは叫んでオルテガを睨んだ。
「目を閉じろ」
そのオルテガの美声こそが、バラモスブロスがこの世で聞いた最後の音だった。

4人で戦うと言ったが結局勇者二人で勝った。
その戦闘を見ていたバラモスゾンビが(美しい…)と剣を持つオルテガに感嘆していた。
159名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/31 02:30:32 ID:ustJIMV0
そして彼の後ろからブーメランの様に飛び出し躍動する女勇者の事も素早い豪腕と。
その女勇者は自分のマントをバラモスブロスに掛けて別れとしてた。
あの父子妙な緊張感が漲っている。
呆然としているバラモスゾンビの側らをゾーマが過ぎ、二人の勇者の元へ歩いて行った。

闇の中から大魔王が歩んで来る。
「見えるか」
見えます、見えます。とオルテガに答えて後の三人が一声に言う。
「どう言う姿だ」
オルテガの問いに一番に答えたのは女勇者のバリーである。
「橙色の衣を纏って、首飾りをしています。額に三つめの大きな目」
皆一様に大魔王をその姿で見ていた。ルビスの様に実体が無い訳ではない、しっかりとアレフガルドに根を張って、この世を支配して来た大きな体だった。
ミイラの様に干乾び、黒ずんだその顔。干し葡萄の如き退化した二つの目。
(美しい…)
ゾーマを見た女勇者の感想である。彼女は目と心をゾーマに奪われた。
そんなバリーの様子をオルテガが見ている。

160名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/31 02:33:05 ID:ustJIMV0
勇者の冠を被り、聖なる男と言った風貌のオルテガ。
オルテガは完全回復しサイモンの鎧は着ても良い様になったが、さて覆面マントは止して置こうと袋にそっとしまった。
娘のバリーが幼い頃である。武器庫の大掃除の時に父の覆面マントを彼女は発見してしまった。
オルテガは悪びれずに「うん、俺の」と言う。娘はちょっと真剣な顔で
「お祖父様と母さんには、言わないから」
と言う。バリーの方が「秘密」と約束してくれた。オルテガは「うん」と娘の小さい小指に自分の小指
を絡ませた。
バリーは父と“くだらない秘密”を共有出来てちょっと嬉しかったのだ。
こんな…覆面マントにパンツ一丁の思い出。
二人の秘密だった筈が、ラダトームで一大ムーブメントを起こしていたなどバリーは知るまい。甘い思い出の中に隠してしまおうとオルテガは思った。

ゾーマを美しいと思ったバリーだが、やはりオルテガの事が好きである。
ゾーマのマヒャドがオルテガの髪に纏わり付き、それを凍らせる。
オルテガは自分の髪ごとその氷を切り裂いた。
やはりバリーはパワーではゾーマに敵わない。大魔王の大きな手に弾き飛ばされ壁に激突している。
(イタタ)(大丈夫?)
しかし女勇者はすぐにも父の側らに控え、次ぎの攻撃に備えている。まるで二人で一つの様な勇者達。
オルテガの兜を被り静かな女勇者。勇者の冠が凛々しいオルテガ。
バラモスゾンビは思った(私は何を見ている!)
たぶん伝説を見ている。これが勇者ロトの真の姿だと。


(歴々の勇者達よ、御照覧あれ)
161名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/31 02:34:24 ID:ustJIMV0
これが歴代勇者最高の戦いである事をオルテガは悟った。
(我らが勝つ!)
光の玉に照らされたゾーマは虫の息だった。動けないゾーマの第三の目を、オルテガは剣で刺し貫く。
──私の勝ちだ!──
ルビスは大魔王の城を望みながら心の中で叫んだ。
オルテガが勝った。私の勇者が勝った。ハハハ! ゾーマが滅んだ!
ルビスは嬉しさと悲しさで爆発しそうだった。彼女が神々しさを取り戻すのはまだまだ後の話なのだろう。

(あんた!)
と女勇者は動かない灰色のゾーマに近付いた。ゾーマは
「光も有れば、闇も有る。お前は光、お前は美しい」
と女勇者に言い、オルテガに
「私には見えるのだ。後の世に新しい闇が現れる。その時お前は年老いて生きてはいまい」
と言って後、動かなくなった。
「そうだ、俺は光じゃない。ただ闇を滅ぼすだけ」
オルテガが言った。
「俺が闇を滅ぼし、お前が光を生み出す。これが常識だ」
娘のバリーに言った。この世の常識、男女の常識。
「ここまで俺の戦いを見たのは初めてだろう。嫌だったか?」
女勇者はプルプルと首を振った。
「父さんのやる事って間違いはないもの」
何だか泣き出しそうな笑顔で女勇者は言う。
「だって、太陽の子でしょう? 皆にそう言われて。
父さんは、髪と目の色の所為でそう呼ばれるなんて言ったみたいだけど、あたし父さんと髪も目も同じ色。
でも太陽の子なんて呼ばれた事無いよ。父さんだからよ。オルテガだから言われてた」
オルテガはバリーと見詰め合った。
「父さん勝ったわ。おめでとうございます」
162名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/31 02:38:35 ID:ustJIMV0
バリーは目に涙を溜めて、オルテガに深々と頭を下げる。
「父さん帰ろう。家に帰ろうよ」
「あぁ、帰ろう」
(アレフガルドに太陽が戻ったのに、アリアハンの太陽が足りない状態じゃ淋しいわ )
女勇者は、あたしは気障だなと思いつつそう思った。
その時ゾーマが目を覚ましバリーと見詰め合った。オルテガの肩越し、二人だけの瞬間だった。
(バリー何を見てる)
きっとゾーマの死骸だなとオルテガは思った。
オルテガは娘の肩を抱き寄せ、強く抱き締めた。
「俺から離れるな」
女勇者のバリーは、勇者オルテガ、勇者サイモンの側に居る。
ゾーマの事はチラッと覗くだけ。様子を見てそれだけだった。
オルテガに抱き締められ低い美声を浴びさせられたバリーは、ギュッと目を閉じてオルテガを抱き締め返した。
そしてゾーマがまだ生きている事をオルテガに告げる。
オルテガは風の様に振り向き、すかさず剣を抜いた。ゾーマはギュッと体を起こそうとしている。
(一体、どうすれば良いのだこの男は!)
アレフガルドに太陽は戻った筈だ。だがゾーマはこうして動いている。
その時大魔王の城は崩れ出す。地面がひび割れて、オルテガとバリーを引き離した。
「父さん!」
「俺はこの先を行く、必ず帰るから任せろ!」
「帰って来て! 一緒に出直そう!」
低い声の女勇者が高く切なく叫ぶ。
大丈夫と言うポーズを見せて笑顔のオルテガは闇に消えた。これが女勇者の見た最後のオルテガだった。
163名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/01 16:46:07 ID:SB25jkib


崩れ出すこの城の中で生きようと思うなら、オルテガは先に行き、女勇者は戻る事だ。
オルテガを追うのは無理で危ういと言う判断が今必要だった。
命運掛けての事態で、勇者が一人行ったらもう一人の勇者は逆の道を行く理想が、偶然にも叶う事になる。
女勇者は戦士とオルテガに背を向けて走る。男戦士は勇者の思いも乗せてオルテガを追った。
(俺は貴方の事を知らな過ぎる)
女勇者の夫となったからにはオルテガとは家族なのだ。これで別れにしない為に戦士は走った。

オルテガはゾーマとバラモスゾンビを前にして、剣を取れなかった。
「数年アレフガルドに居て、気になっていた。お前が、ゾーマが何者なのか」
倒すと言いながら、確かめたかった。見てみると太陽にも滅びない魔王である。
人気がある筈だ。オルテガは確かめようとする。勇者が鉄槌を下すべき相手かどうかを。
オルテガはゾーマの前で立てずに、両膝と両手を付いていた。
「貴方の魂は既に死んでいる。もうお迎えです」
バラモスゾンビが言う。最後の最後オルテガを見捨ててもゾーマを取った竜である。
「助けられない。貴方の命は魂ごと擦り切れて、もう修復出来ない」
魂が傷む様な事を、俺は最近したかなぁと勇者は思う。
(したなぁ)
と勇者は自分にがっかり、げんなりする。
「解った」
とオルテガはそれだけ言った。そして両手と上体を上げ剣に手を掛けた。
164名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/01 16:51:33 ID:SB25jkib
「勇者オルテガ。お前の娘、私にくれ」
ゾーマ、彼女の父親に挨拶である。
「千年でも、あいつと居る」
「許さん、許さん」
オルテガは頭を振った。
嫌だ、嫌だ、絶対に嫌だ。
「あの女…」
オルテガは女武闘家の事を思った。あの女に会ってオルテガは人生が変わった。
武闘家とは名ばっかりの戦えない彼女から、強さを沢山学んだ。
「あの女が命懸けで産んで、育てたのがサイモンだ」
お前はそれを友人に殺させた。お前を許したら、俺は俺で無くなるのだ。と、オルテガは立ち上がろうとしている。
「なぜ、もがき苦しみ生きるのか」
うるさい。あの女の事が好きだ。今の妻の前では出さないが、今でも好きだ。
オルテガは立ち上がった。
まだ動く、進め、あの男を逃すな。
オルテガの足はズル…と動く。
165名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/01 16:54:10 ID:SB25jkib
(見事)
バラモスゾンビは彼を裏切った事に身を震わせ、ゾーマはそのオルテガの頭を大きな手で掴む。
「お前に相応しい死をな」
と大魔王はオルテガの体を冷やして行く。
そのオルテガの袋の中からメーダが飛び出して、彼の腕にしがみ付いた。
この人の遺言を記憶しようと、その目にオルテガの心の声を焼き付け様としている。
「おぉ、ピー」
「マスター」
俺この人好きだなぁ、と思いながらメーダはゾーマの呪文を恐れずにオルテガの側に居た。
「お前が少しでも俺の心を解ってくれたら、お前を見ても良かった」
オルテガはやはり優しい男で、ゾーマにそう言う。それがオルテガの最後の言葉だった。
オルテガは塵となって、この世に骨も影も残さず死んだ。
メーダのピーが飛んで行った。ゾーマもバラモスもそれを許す。
(死に行く者こそ美しい…お前がそれを解ってくれたら…)
ゾーマは舞い上がるオルテガの銀色の塵を見詰めていた。
ゾーマは戦える女、自分を殺せる者を見る。
オルテガは死んでしまったが、一方ゾーマには少し解ってくれる女勇者が居る。この幸せ。

戦士が駆けて来たが、勇者の姿を見付ける事が出来なかった。
「オルテガは死んだよ」
バラモスゾンビが戦士に言った。全機能が停止するまで動こうとし、そしてこの世にその体の何処も残さず死んだと。



戦士は勇者の元に帰ったが、意識不明なのでCが看病するリムルダールの宿で倒れている。
勇者は嬰児の我が子と二人でラダトームに入った。
166名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/02 02:46:37 ID:kVhNv2wj
喧騒と喝采は、帰って来た太陽と勇者に向けてのもの。
女勇者は待っていた仲間の商人に肩車されて、地上3mの所から世界を望みラダトーム城へ向かった。
泣いて喜ぶ者や、笑っている者が居る。その中で
「オルテガ様は? オルテガ様…」
と辺りを見渡している城の下女が居た。たぶん励ましの言葉を幾人にも掛けられている彼女は、いかにも哀しかった。
彼の娘の女勇者はその下女を見ていたが、彼女が何を言っているかまでは周りが騒がしくて聞こえない。
オルテガを助けてくれた恩人で、たぶんオルテガの友達。
オルテガの女と言う事があるだろうか? だがほんの僅かな触れ合いの中に……永遠を見ても良いんじゃないかと勇者は思った。
ただ擦れ違っただけ、目と目が合っただけの“あの”瞬間に…永遠の恋が。
やはりそんな事を思うのはこの商人に担がれてるからかしらと勇者は思う。

太陽の光を浴びたラダトーム城王室は、ラルス一世を日頃より更に神々しく見せて、美しかった。
「よくお戻りになりました。貴方にロトの称号を授けます」
「父が」
女勇者が慌てて言った。父がまだ戻りません。
「私はお二人に称号を与えたい。今貴方が居るのなら貴方へ。断る事は有りますまい」
ラダトーム王ラルス一世は魅力的な笑みでニッコリとそう言う。
今ここで私が死ぬなり、消えるなりすれば、この王の穏やかな笑みを損わずに済むだろうかと女勇者は思った。
「ここアレフガルドのモンスター世界の平定にも、大魔王戦での勝利にも、私は何も力が及ばず。
全ては父の成し遂げた事でした。
私のした事はささやかです、父の歩いた道を辿って来ただけ。
私の仕事はきっとこれからです」
女勇者は優しく、明るく、そして背筋が凍る様な妖しさと美しさでそう言った。
167名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/02 02:49:34 ID:kVhNv2wj
勇者の息子もラダトーム王をジッと見詰める。竜の形をしていた。
「これは…」
「この子の魔術です。私も赤子の頃、泣いては良く雷雲を呼んだそうです」
竜は母の肩の上をペタペタと歩きながらラダトーム城をキョロキョロと眺めている。
「王様、さようなら」
「母御前、もう会えないのですか?」
勇者は王に笑顔だけを返した。


女勇者はこっそりと城の裏口から出てカンダタの元へ向かった。
何だか眩暈がする。体が半分無くなった様な感覚がする。
(父さん、死んじゃったのかな…)
この淋しさは確かだ。

カンダタは震えていた。何だか寒い。だが愛馬が自分を見詰めて来た時は平静を装った。
(お前蹄が大きいよ。蹄が大きいよ)
と彼女をからかっていた官能的なろくでなし。その時は腹が立ったものだけど…今は元気がない。
珍しくて彼女は彼に(大丈夫?)と近寄る。
「ハハハ、何だよ」
と明るい顔を見せるカンダタだが、すぐ具合悪そうに俯いた。
「…いいか?」
と彼女に問い、彼女の首にカンダタは顔を埋めた。
(あぁ…私が人間の雌だったらもっと慰められるのに…)
と馬は悲しくなった。
「勇者が来る。もう乗るぞ」
スーで探し当てたその名馬に跨った時、丁度女勇者がカンダタの元に来た。
168名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/06 03:02:06 ID:+75CtSKh

駆け出す前に、馬上の女勇者とカンダタは会話する。
「キングヒドラ!? 勝ったって!?」
とても大きな竜にオルテガは勝ち、
「大魔王の所まで行ったよ。太陽が戻った時も健在で戦ってた」
「ナイスオルテガ!」
カンダタは満面の笑みで喜び、馬を嘶かせて自分も叫ぶと駿馬の早駆けを女勇者に見せて、日の光を浴びる大地を進んだ。
バリーはカンダタの「ナイスオルテガ」と言うセリフが気に入って、彼の後ろで楽しそうだった。
「強いなぁ、さすが」
「うん」
カンダタも女勇者も寂しさを体で感じていたけれど、オルテガの死をこの目で見たわけではない。
メーダに会うまでは異様な気楽さがあった。

リムルダールの戦士はまだ起きていなかった。そして女賢者は閉じる前の大穴に飛び込んで、上の世界のジパングへ行った。
勇者とカンダタは魔王の城と直結していた勇者の洞窟に向かいオルテガに会おうとしたが、しょんぼりしているメーダのピーが近付いて来た時言葉を失った。
メーダが居る。その隣にバラモスゾンビが居る。この状況から推測される事、誰か足りなくはないか。
「ママ様…」
「どうしたの。ピー」
「城へ行こう。こんな所でする話ではあるまい」
バラモスが再会している勇者とメーダに言う。
城とはどこだとカンダタが聞く。
「先程の魔王の城だ。一階のフロアは何とか形を留めている」
ではゾーマはどこだ。
「消えてしまった。跡形も無くな。探してもきっと無駄だ。オルテガに刺し貫かれた、あれはあれで魔王の死だったのだろう」
「無駄」とは……探しても見つからないと言うよりは、探して見付けたとしても敵ではない存在になっていると言う所が真意か。
169名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/06 03:03:11 ID:+75CtSKh
「詳しい話を…お前には私がしよう」
バラモスはカンダタに言い、4者は元大魔王の城に入った。
勇者とメーダは玉座の間に入り、バラモスとカンダタはそこから回廊を一つ挟んだ右隣の広間に入った。
男達は椅子に座り向かい合う。
「ここは良いな。お前の城にするのか」
カンダタが聞くと、バラモスは「うん…上の世界から来た人間達の拠点にしても良い」と言う。
「俺達の?」
「そう。……そうだ、オルテガは死んだぞ」
それで竜族驚異の男は居なくなった訳だが、どうもこの頃モンスターに好かれる人間の男が居て私もどうしたものかと思っている………
云々のセリフをカンダタはジッと、半分意識が飛びそうになりながら聞いていた。
「どうやらその男はお前だ。由々しき事だ、私がモンスターを束ねるに相応しいだろう。モンスターだからな」
だからお前は引っ込んでろと言う雰囲気で、バラモスはカンダタを見る。
「お前は、勇者オルテガを見殺しにしたか?」
両者の言葉は噛み合わなくなって来た。お互い言いたい事を言うだけ。
「お前を抹殺しようと思っている」
「こっちの台詞だ」
バラモスの静かな声の後、カンダタが凄んで目の前の机を蹴り上げる。両者戦闘態勢に入った。
上の世界の戦士達は打倒バラモスに燃えて…この魔王を攻略せしめんと様々な研究と考察を重ねて居た。
海を渡り、地を走り、その気になれば空だって飛んだカンダタは沢山の戦士に会った訳で、バラモス撃破の戦略を「無駄知識」として聞いていた。
生きて行く上では全く役に立たない無駄な知識、聞くと時には感動もあった。
自分が蹴り上げ飛び上がった机でその身を守る瞬間に、カンダタは対バラモスの作戦を練った。
驚異の魔法イオオナズン、メラゾーマを使い、打撃の強い太った竜。
僧侶のカンダタはマホトーン、フバーハ、ルカニで乗り切ろう。素早さでは負けまい。スカラが欲しい所か。回復呪文は万全。
あの徒然のうちに聞いた雑話は無駄知識ではなかった。こうして生き残れそうではないか。
170名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/06 03:04:31 ID:+75CtSKh
と思った矢先、骨だけの姿であるバラモスは大きく肩を回し、拳で豪打を繰り出して来た。
机は爆発した様に粉々に破砕し、カンダタは後に大きく吹き飛んだ。
(な!?)
結局無駄知識で終わるらしい。バラモスはゾンビになってその戦い方を鮮やかに変えていた。
カンダタは身を守りつつ、バラモスの様子を窺った。
物凄い豪腕。しかし素早さは皆無。魔法は使わず、その体一つで戦いを挑んで来る。
カンダタは高く飛び跳ねてこれから反撃するだろう。
色々な職を転々としても、どんな職業に付いていても武闘家の魂を忘れなかったカンダタである。
斧とパワーナックルを切り札に隠して、爆撃の様な蹴撃。
心が乗ればカンダタ強い。バラモスの腕を一本、足で千切り飛ばした。
オルテガとの出会いはカンダタ幼少期の事。
「よお!」
オルテガは元気一杯だった。
「こんにちは」
カンダタはポツンと小さく緊張して、「に」を異常な小声で言って挨拶した。
「俺は名前オルテガと言うんだ」
「おれカンダタ」
よろしく、よろしくと中年の大きな手と少年の小さな手は握手した。
あれから何年経ったか…カンダタはあの時の事を良く覚えていた。
「そんなに経つか…」
ラダトームで再会した時、オルテガ54、カンダタ20才だった。
「はたち…」と言いながらオルテガは自分の剣を磨き出し、そしてカンダタに聞く。
「お前は俺に何か隠し事があるのか?」
「……それは、あるさ」
その声を聞きながらも、オルテガはカンダタに背を向けて道具の整理を始めている。
171名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/06 03:07:42 ID:+75CtSKh
「その事、後悔してるのか」
やはり相手はオルテガだから…カンダタは自分が裸にされそうだと思っても、嫌がらずに堂々とその問いに答える。
「うん。ちょっとはね。そんな所もあるよ」
振り返ったオルテガが見ているのは鉛の様に固いカンダタ。大人気を誇っても悲しさで輝いている雑多で美しい青年。
オルテガはそのカンダタを見て微笑みながら言った。
「カンダタ」
オルテガは話している相手も自分と同じ54才にしてしまえて、逆に相手と同じ20才になってしまえる空気を持っていた。
抵抗や反抗する事を相手に思わせない、何のストレスも感じさせない魅力があった。
これがアリアハンで太陽の子と呼ばれた勇者。嬉しい時も辛い時も会いたくなるオルテガの無垢。
空前絶後の大勇者は、盗賊を経て懸命に僧侶になろうとしていたカンダタに言う。

「まだまだやれるよ。まだやれる」

オルテガとカンダタの明日が、その言葉の中にあった。

そうか。そうさ、これから始まるんだよな。

「おぉぉぉおぉぉ!!」
叫んで、カンダタはバラモスの肩を粉砕した。
殴られて、カンダタも足を折った。
しかしカンダタは斧を振り続ける。そして彼は勝利した。
カンダタはしかしバラモスを殺さなかった。
「なぜ」
「勇者オルテガはお前と戦いたくない筈だ。あの人の代理でお前を助けるよ。オルテガが死んだなんて俺は認めねぇ。この目で見るまではな」
172名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/06 03:09:28 ID:+75CtSKh
「いいやお前が、お前こそが…」
ゾンビは骨をギーギー言わせながら喘いで言う。
「うるさいよお前は」
「お前に託す」
「何を」
「竜の事を、託す」
竜…。
それこそ、オルテガに託したらどうなんだ。仲良くしろよ。
「だから、オルテガは死んだ」
「やかましい。骨」
「お前が良い。お前が」
「あの女勇者よりも?」
カンダタは少し色っぽくバラモスに迫った。
「そうだとも」
その瞬間、カンダタがバラモスの顎にキスした。バラモスはハッとして死んでしまった。
(き、キスしたら死んだ!)
カンダタ大慌て。
173名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/06 03:10:36 ID:+75CtSKh
その時メーダのピーが「大王ー」とカンダタを呼びつつ飛んで来た。
「ママ様の所に来て」
「バ、バラモスが死んだぞ」
「あ、マスターに冷たかったからね。俺だってメーダチョップ、メーダパンチをお見舞したぞ。
でもゾンビとして復活して、長く生きられないみたいだった。やり残しもあったみたいで…その願いを叶える事は俺も良い事だと思ったし。
なんだい、大王に負ける事がやり残しだったのかな」
大王(カンダタ)に竜族の事を託す事がやり残しだったのだろう。キスまでして貰って満足した様子。
(そうか、キスが全ての死因じゃねぇよな。しかしえらい事になった)
竜族託されて…容易な事ではない。
カンダタはそして気になる事があった。
「お前、チョップとパンチ以外どんな技を持ってる?」
「え? メーダナックルパンチ、メーダ鉄菱(てつびし)…」
カンダタは聞き続けたが、技に蹴りの類が一つも無い事に注目した。
メーダからヒョロヒョロ生えている物はあれ全部手なんだな、足は一本も無いんだと言う知識を得てカンダタはへぇと少し感動した。
174名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/12 04:20:43 ID:hs6ysJMj

タフガイ、豪傑、電光石火のオルテガに比べて、娘のバリーは命知らずのセクシーギャルだった。
色気ならこの父、娘に全く及ばない。
カンダタがバラモスゾンビに殴られている頃、メーダは女勇者バリーにオルテガの遺言を聞かせていた。
メーダのピーが記憶したオルテガは一方的に喋るだけ。しかしHな内容の時だけ娘のバリーと対話出来た。これはバリーがHだからとしか説明の付けようがない。
アリアハンの父と妻への遺言を伝えた後、オルテガはこう言った。
「……お前の為だけには…俺死んで良かったな」
「何言ってるの」
「だってさっき…」
「なによ、キスして“あぁ”しただけじゃない」
“あぁ”は問題だろう。娘は恐ろしい女になってしまったのかなと、オルテガは思った。
「父さんはあたしを自分の娘と思ってなかったでしょ? あたしは父さんと解ってて“あぁ”だったん
だからね。もう言わないで。あたし恥ずかしい」
「ごめん」
「やだもう、その話しないで」
バリーは後を向いてしまった。
女勇者が(あれぇ)と倒れたあの時…よそよそしい彼女に素直になって欲しいからと言って、ラーの鏡を使ってしまったのはオルテガやり過ぎだったのだ。
二人で鏡を覗く事に成功するとお互い「好き好き」と抱き合ってしまった。
カンダタも良い鏡くれたものである。オルテガなど彼女の乳房を触ってしまった。ラーの魔力に酔った娘も(それくらいOKよ)とそれを許してしまった。
175名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/12 04:22:17 ID:hs6ysJMj
「こんな勇者で良いのか!?」
「ホントにねぇ」
「まず、俺はこんな事で成仏出来るのか!?」
「父さんしっかり」


メーダは女勇者にオルテガの遺言を伝え切った後、バラモスに勝利していたカンダタの元へ飛んだ。
「大王、足がヨレヨレしてるよ」
「折ったんだよ」
「そんなに戦ったの?」「ぼちぼちな」
バラモスの生死に関わらず、カンダタはバラモスを女勇者に会わせるつもりはなかった。
オルテガを裏切ったなんて……勇者はどんな顔をするか。
あいつを傷付ける奴は許せん。
(俺以外は)と思うカンダタである。
彼は女勇者の未来を刺激的にエロティックに、そして優しく見詰めた。
メーダは戦いに傷付いたカンダタを見て泣いている。
実はカンダタを呼びに飛んで来た時、彼を見る前から、メーダのピーは泣いていた。
「俺のベホマが下手だからって泣くなよ」
「凄く下手だぁ」
メーダは呆れながらポロポロ泣いている。
カンダタは治り切らない足をヨレヨレさせながら歩いた。
下手過ぎで既にベホマではない域に達しているからいてぇし、だが彼のベホマはしっかりと快感を持ち(ぅっ……)と自分で悶える。この二重苦を持って男は女勇者の元へ。
176名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/12 04:24:57 ID:hs6ysJMj

玉座の間の大きな扉をカンダタはゆっくり開ける。カンダタも扉も、体の半分くらいガタが来ているのだがそれぞれの威厳を持って動く。
ずっと遠くの玉座に女勇者が座って小さくなっていた。座りたくて座って居るのではないらしい。何かに寄り掛かっていないと体が保てないんだとメーダが言う。
彼女の息子が今起きたらしい寝惚け眼(まなこ)で、母の元から何となくカンダタの所に飛んで来た。そして彼の前にポテッと落ちて竜から人の姿になる。
「うー」
「おっす。俺カンダタ」
人の姿の彼とは初めて会う。カンダタは挨拶し、嬰児の彼を抱き上げた。
勇者の子はカンダタの事が好きな筈だった。しかし今は凄く嫌がって離れたがって居る。
「なんだ?」
ちょっぴりしょぼんとしながらカンダタは赤子を見詰める。
「大王、骨の匂いがするもの。竜の骨の匂い。しかも骨の髄の匂いだ。きっと竜を殺したって思ってるんだよ」
「へぇ、勘が良いな」
「勘違いさ。大王殺してないもの」
「殺したんだよ、俺が」
と言うとカンダタは赤子をギュッと強く抱いた。
177名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/12 04:29:13 ID:hs6ysJMj
「これが竜の匂いだ。これが死の匂い。よく憶えて置くんだな」
さっきまでジタバタしていた勇者の子、今はジッとしてカンダタに圧倒されている。しかし鼻をヒクヒクさせて竜の死を確かめようとする勇猛さが見えた。
「可哀想だよ。まだ子供なんだから」
とメーダはカンダタから子を攫って触手の中に抱いた。
カンダタは赤子を抱いた時(こいつ強くなる)と感じてちょっと夢中になってしまった。
そこから遠くに見える王座で、その子の母は、女勇者は泣いていた。
彼女が吸っている空気は彼女の喉を切り裂く刃なのだろうか、勇者はとても苦しそうに小さくなって泣いていた。
カンダタは泣いている女勇者を見て、初めてオルテガの死を認めた。
オルテガはもう死んでこの世には居ないんだと確信し、確認した。カンダタはやっと泣き始めた。
後から後から止めど無く熱い涙が溢れて、カンダタは自分の涙越しに女勇者の姿を見た。
何かに寄り掛かりたいなら。王座と言う椅子よりもっと頼りになる床へ、女勇者は転げ落ちている。カンダタは床にへたばって居る女勇者の元へ走った。
178名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/17 02:18:53 ID:Br0xZcan
わあぁぁ、と女勇者は声を上げて泣いている。この時彼女は生涯で一番泣いた。実は悲しい時思い切り泣く人だった。
彼女が泣きながら聞いていたオルテガの遺言はこうだ。
父である魔法使いに残した言葉と家で待っている妻に向けての言葉、その他沢山の人への遺言、友達だった狼の子供によろしく、家の裏に生えてた待つ宵草の行く末もよろしく…。
とても静かで愛に満ち、幸せなオルテガの声。彼は役目を終えた勇者だ。惜し気もなく天へ行く。
しかしオルテガはそれだけで終わる勇者では無かった筈だ。
“闇を滅ぼす事と光を生み出す事”の二つ。これを二人が分担した男女が、後のラダトームの勇者とローラ姫の関係だが、
女勇者ロトと男勇者ロトは二人共相手の役割に介入する事が出来た。バリーは逞しく父を助ける事が出来て、オルテガはその女勇者を育んだ人である。生きていれば父としてまだ娘を教育出来た。
今は大魔王が倒れただけだ。平和を求めて歩き出すのはこれからなのだ。だがその世界に、オルテガの姿は無い。
あの腹に一物持つラルス王の前に、バリーはたった一人で勇者として立たねばならない。
「世界の平和に尽くす事が出来なかった。お前に重荷を背負わせる」
「許してくれ」との父の苦悶の声に、そしてその中から仄見える自分への信頼に、娘は胸を振るわせ打ち震えた。
奪われて行く自分の命に振り向きもせず、未来を見て、彼女を見てオルテガは華の様に死んだ。
娘は幼い頃からずっと感じていた。父の瞳の勇ましさ。幼女を戦士として見詰める冷静な目。
娘が戦場に出るのは本気で嫌だったがオルテガは真実が見えていた。娘が世界も救える勇者だと言う真実と向き合える勇気が彼にはあった。
オルテガはアレフガルドでも光に目を向けていた。首を上げて光の差す方へ。そして光が見えたから、彼はきっと笑顔で死んだ。
179名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/17 02:20:17 ID:Br0xZcan
娘のバリーから見ればオルテガは自分より先んじて行動を起こし、自分の道を照らし教えてくれた先駆者であった。
闇はここに居ると指し示してくれる紛れもない光だった。
走って来たカンダタは腰を下ろして、座っている女勇者の肩を手の平で抱く。
女勇者は彼の謎の骨折部分に(どうしたの?)と触れて、二人で言葉も無く泣き続けた。
「淋しい」
女勇者はどうやら命懸けで喋る。息をするのも辛そうだった。
「うん」
カンダタは鼻水が出そうになるのを華麗にすすっている。
「もし淋しいと思ったら、カンダタに頼れって」
「本当に?」
オルテガの遺言だそうだ。
「いい男だ。最高だって」
「ホントかよ」
とカンダタは両手で顔を覆って、綺麗な声を上げて泣き続けた。
「俺が追い詰めたのかな」
勇者オルテガは確かに凄い仕事したけど俺が人に知らせた。人に広めた。竜に目を付けさせた事に俺は荷担してないかとカンダタは泣く。
続いて勇者が言う。父は女が戦う事を許さなかったと。
「父さんは、剣士だった自分の母さんを戦場で酷い亡くし方して」
私の鎧姿を見た時どんな気持ちだったのか…。絶対一緒に帰って来るつもりだったから、あたし、親孝行後回しにして…。
「あたし、一人で泣くんだろうと思ってた…」
180名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/17 02:22:59 ID:Br0xZcan
勇者は泣き濡れながら言った。こんな寂しさを分け合える人間が、つまりカンダタが、こんな瞬間にここに居てくれたとは。
「俺も」
小さく嗚咽しながらカンダタも言う。
名を呼び合って勇者とカンダタは抱き合った。男女は支え合って泣いた。
「アー」
と勇者の息子が、母と格好良い男が抱き合っている現場に這って来て母の足をポツポツと押す。
泣いている母を見た事が無かったから異様な彼女の雰囲気を息子は心配したのだ。
(母ちゃんの一大事だ)
と思って母の腕をポンポンと押す。その時母は男から離れ上体を息子に向かい広げていた。そして今は自分の腕に子を抱く。
「お前、心配してくれてるの?」
勇者バリーの息子は目が大きく、細い眉が吊りあがってキリリとした顔をしている。
(俺に着いて来い)
と言う顔をしている。
「なんか頼もしいな…」
と母は息子に呟いた。そして赤子の彼を軽く抱き締めて(お前、優しい)と。
「よしよし」
とカンダタが勇者の手から赤子を抱かせて貰った。
「ほら、俺が本当のお父さんだよ」
「変な事教えないで」
遺言でさえも頼りにされたカンダタは覚悟を決めた。オルテガのやれなかった事をやって行こう。竜? 来やがれこのやろー。
181名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/17 02:25:42 ID:Br0xZcan
「俺とお前は夫婦になろうか。楽だろ、おい」
確かに女勇者の心、精神、立場、魂、力の全てを余さず支えられる人間が居たとしたらカンダタだけだとオルテガは言っていた。
「あたし、あんたの事好きだった」
「俺もお前の事を思ってたよ」
カンダタは自分の心に背く事を口に出さない男だった。でも女勇者は適当にお茶を濁すだけ。
「今のあんたは昔よりずっと魅力的な所がある。前より素敵になったと思うけど、あたし今好きな人が居るからね」
「ゾーマ?」
「人」
昔を思い出しての恋の告白は結婚断る為のものか。フーとカンダタは溜め息をついた。
メーダは邪魔しちゃ悪いと思って、勇者の子を自由にさせた後はこっそり扉の影に隠れてオルテガを偲び、二人と同じ様に泣いていた。
なる程カンダタは女勇者に取って結婚する必要が無い男と見える。
恋人でも、愛人でも、夫でも、友達でもない。ただひたすらに運命の人なんだとピーは甘い溜め息を漏らした。
カンダタと勇者が王位に付いての話をしている。王としての器なら誰にも負けないもんねと、メーダは大王(カンダタ)を思う。
「王位にモテるんだよなバリー」
「女勇者と呼ばれる人が好きな王様多かった。だから仲良くなり易かったけど」
182名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/17 02:27:27 ID:Br0xZcan
「ラダトーム王とは一発やっといた方が良いよ」
「ん…」
「お前が嫌なら俺が一肌」
(ギャー)と女勇者はカンダタの嗜好をこの時初めて知った。
「でも俺経験ない…それも良いだろうか」
(ぅわー)と勇者はひっくり返りそうになる。
男を抱いた事もない、男に抱かれた事もない男好きの色男。一体どの層から需要があるのか。
「下らないと思うかも知れないけどやっぱり効果がある。体は」
「嫌がられる前にアレフガルドからパッと消えちゃうのは? アリアハンに帰るとか」
「ふぅん。俺は勇者オルテガの仕事継ぎたいけどね」
アレフガルドに取ってオルテガはパッと消えて良い様な存在ではなかった。彼の手が止まると沢山の人、モンスターの活動や将来設計が頓挫する恐れがある。
「そう…」
「実質仕事は俺がするよ。しかしあの大勇者の存在とイメージを失った後、補える人間が居たとしたらお前だけだと俺は思う」
オルテガの仕事と穴埋めを放って置くよりは、ラダトーム王に憎まれた方がマシだろ。「アレフガルドに残らないか」とカンダタは女勇者を誘って来る。
「あたし家族を守らなくちゃ…」
「なる程」
カンダタは少し憮然として頷いた。この女帰ってしまうんだなと。
「でも父さんも家族だしね。出来るだけ手伝うわ」
喜んだカンダタは勇者を抱いて回転した。
「殺してやるこのやろう」
と言うカンダタは彼女の両腕を押さえ込んで、隙を見せた勇者のまるい額にキスした。
勇者は彼の唇の感覚を享受すると「うぅ…」と悲しそうな声を上げる。
183名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/17 02:29:59 ID:Br0xZcan
「やっぱりキスじゃ死なねぇよなぁ」
「なにさ」
「さっき死んだんだよ、凄い怪物が」
「もうしないで」
と、ソッとカンダタの手を勇者が握る。どう言う事かと思っているカンダタにビリッと少し電撃が走った。
「この刺激は嫌だ、もうしないから、もうしない、な、な」
これより数日後、もっと刺激的な事がカンダタの身に起こる。
あの戦士が目を覚ましたのだ。そして二人の時間を作ってくれてカンダタに言う。
「お前はバリーの父さんの事も、勇者と言う者もなんたるか良く知ってる。
今までの様に、これからもずっとバリーを支えて助けてやって欲しい」
穏やかで優しい声、笑顔で戦士はそう言った。
余りの戦士の豹変振りにカンダタは言葉も体の動きも失った。
(違う人じゃ)
この豹変は既に異次元である。あの戦士には決して無かった後光が同じ顔した彼からペローンと放たれている。
なんとこの戦士こそがロトであると言われるまでになった。この女勇者の夫は、妻と義父の影武者の役を十二分にこなして見せた。
彼がロトのふりをすると「ロトともなると良い女はべらしてるぜぇ」とか、「ロトの奥さんはやたら渋い」とか言われ、その女の方こそがロトである事に気付く者は少なかった。
ごくまれに気付いた者にバリーはウインクしてみせる。そして気付かれたら最後、その人間の前から彼女は風の様に姿を消した。
184名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/17 02:34:56 ID:Br0xZcan
カンダタはこの穏やか過ぎる戦士には「はぁ…」と神妙になってしまい、どうにもやり辛い。
(博愛リングでも着けて、「優しい人」になったのかな)
と思うカンダタだが、この戦士は光の玉の光を浴びてから人間が変わってしまったと言う。
「それモンスターじゃん! て言うかゾーマじゃん!
目を醒ませよ、バリーお前モンスターになるかも。うわなにす…」
とカンダタは元子分のBとCに両腕を取られて、女勇者夫婦の元から去る事が多く有った。
オルテガもカンダタもずっと前から感じていた。ゾーマとバリーは夫婦なんじゃないかと。
(くそー、ゾーマと一緒になるくらいなら儂(オカマちゃん)の方がマシじゃろうが!)

「親方に頼れって?」
子分だったBとCはオルテガの遺言を聞くとハハハと笑った。
「どうしてだ。無法地帯の様な奴だぜ」
「無法痴態と言うか」
Bの後にCが言う。Bは笑った。
……カンダタって、この子分達に取ってなんだろう。
「なんでカンダタと居たの」
女勇者が聞く。
「あいつの近く以外は別に何も楽しくなかったから」
「最初に会った時、子分になったら面白いだろうと思ったけど、実際子分になったらもっと面白かった」
Bに続くCの言葉である。
185名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/22 16:56:54 ID:uCEx7lH4
「カンダタって父さんと仲良かったの知ってる?」
と女勇者が言う。
修行中だった勇者はダーマ神殿で聞いた。男が充実するには三人の女が必要であると。
【1】 名誉、又は財産をくれる妻
【2】 日常生活や、身の回りの世話をしてくれる実務の妻
【3】 肉体を喜ばせてくれる妻
勇者オルテガの【2】になるのは大変な事で、最初の妻と2番目の妻よりも【2】の機能を果たしてくれた者は、男だったがカンダタだったのかも知れない。
「カンダタは…勇者オルテガの奥さんぽかったって言ったら喜ぶかな。
それからね、父さんは別にカンダタだけに頼れって言ったわけじゃないと思う」
カンダタの存在の後に、いつも貴方達が居た。父もそれに気付いていた筈だと女勇者は言う。
勇者オルテガが貴方達に助けを求めていると思って…と女勇者は太陽の石と虹の雫の事を語った。
その二つを貴方達が気に掛けてくれたらカンダタもきっと喜んでくれると女勇者は言う。
BとCの二人は賢者だが、冷静を欠いてしまいそうな勇者の信託の言葉だった。
「たまには責任の重い事やってみるか…」
最初に口を開いたのはBである。女勇者は(渋いなぁ)と思って男の承諾を喜ぶ。彼女はこのセクシーで頑健、決して美男ではないBを気に入っていた。
「貴方の思いに沿える様にします。でも私が頼りないと思ったらいつでも良い様に処置して下さい」
Cは慎重だった。慎重だったが覚悟の深さが直に伝わる声と表情。彼は美男と言って良い。聡明な顔付き、爽やかで男性的な凛々しい容姿である。
リムルダールのBとCの元から帰る女勇者を彼等二人は送った。
「で、お前はオルテガのなんなんだよ」
とBが聞くので「あたしは娘よ」と女勇者が言う。
186名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/22 16:58:04 ID:uCEx7lH4
「バリーさんが大勇者の娘だって、親方が知ったのはごく最近なんだ。驚いてたよ」
「こいつお前の事でカンダタぶん殴った事あるんだぜ」
Bが女勇者に告げるので、Cは顔を酷く赤くした。女勇者も消え入りそうに恥ずかしがっていた。
もっと恥ずかしくさせるつもりなのか、Bはその場を後にする。
「バリーさん家は楽しい?」
「楽しいよ」
「そう。隊長(勇者の夫の戦士)に取ってはさ、バリーさんは剣の弟子として優秀だから名誉もくれるし、家に帰れば居るし、若い体で…健康だし、喜んでるよ絶対」
Cは元アリアハン城の特殊部隊隊長だった戦士の事も良く知っている。
このアリアハン出身のCこそが、三賢者の中で最もロトに付いて造詣深い虹の雫の賢者となる。

確かに、ずっと旅して来た戦士と今の戦士は違う。勇者は浮気してるような、そんな事もないような。
別人ではないのだ。彼は記憶を無くした訳でもなく、自分の事、妻の事、全てを良く憶えている。
「変わった様に思えるかも知れないけど俺だよ」
と本人さえも言う。今まで奥に眠っていたこの人本人が出て来た様に勇者には思える。
勇者はどうするのが自然かなと思っていた。色々考えたが戦士に抱かれてみた。
柔らかそうな乳首をぷくぷくと緊張させている裸の女勇者は、裸の戦士の隣に寝そべっている。
この人と付き合って行こうと勇者は決めた。彼女は考えが行き着く所まで行くと、明るい本性を現わす。
(あなたを不思議がってるうちに、あたしの一生終わりそう)
勇者はそう思うと少し微笑んで、自分に背を向けて横臥する戦士の肩に顎を乗せた。
戦士と勇者は一緒に驚いた。息子が自分のベッドから出て床の上をもごもご動いているのを見たのだ。彼は父母を見て不思議そうにしている。
187名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/22 17:01:08 ID:uCEx7lH4
竜に変身してベッドに飛んで来た。着地すると人間になって「ブー」と両親に話し掛ける。
「お前が寝るのはこっち」
と裸の母が息子を抱くと、息子は母の胸やら乳首やらムニュムニュ触る。押す、撫でる。
勇者は「きゃっ」と笑った。いやちょっと悶えた。
あぁ父と息子に乳房を触られ。いや乳飲み子の息子に胸を揉まれても別に良いだろう。
今思うと父は…“女”と思って私に触れたのだろうかと勇者は疑問に思う。

実際オルテガはキングヒドラ戦の最中(さなか)、駆けて来た女勇者を感じた時、
母さんだ! と思ったのである。あの人50年振りに帰って来た! と。
(母上今度こそ、俺が守るぞ!)
そう思ってオルテガは立ち上がった。少年の様に王者の剣を手に取り、オルテガは跳ねた。
彼が盲目のまま良く気配を感じると、この娘は母に似過ぎている女だと解った。どこが似ていると言われると剣士だった所だけなのだが、その部分こそが良く似ていた。
この女二人が剣を取ったのは愛ゆえ。
目の前の若い女勇者などは愛のみの為に戦っているらしい。事実彼女はオルテガを探したいから、彼が心配だから旅を始めたのだ。
彼女は自分が未熟な時も、十分に強くなった後も変わらぬ思いで(父さんを助けたいな)と思っていた。
この女を家族にしたいとオルテガは思った。家族にしなければとも思った。
目と耳の利かなかったオルテガは、最初バリーを養女にしようと思った。
「我が娘よ」と言って彼女の頭をなでなでとするのも、「母ちゃん」とふざけてそのお腹や太股に少し甘えてみる道もあった筈だった。
188名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/22 17:02:36 ID:uCEx7lH4
しかしあの時のオルテガは、彼女と、その場に合わせようと思った。バリーの艶かしい声の響きと指先。それに応えるには少々男でいる方が自然だと。
「俺の女になってくれ」
自然に派手な言葉を選んでいた。女=養女の思いがあったが、妙に清々しい声。
(あー、恥ずかしい)とオルテガは女勇者の正体を知ると小さくなったものだ。

女勇者夫婦はドムドーラとテドンと元魔王の城に寝床がある。今は元魔王の城に居て、女勇者は息子を抱いて歩く所を、窓の外で宙に浮きご機嫌だったピーに見つかった。
(はだかー!)
とメーダのピーはヒョロヒョロ〜と床に落下する。
女勇者はメーダ相手に肌を隠さない。
「この子自分のベッドから飛んで来たの」
裸の勇者を見るとピーは(何か食べたい)と思った。(増えたい(生殖したい))とも思った。
俺と言うメーダは生きるのだ! と隆々とした気持ちになる。
相手に命を意識させる、生きたいと思わせる魅力を持っている彼女である。
メーダと言う生き物は上半身裸の自分に何も反応しないと女勇者は思っていたが、ピーは何やらゴゴゴゴゴゴと燃えているのでバリーは急に恥ずかしくなり、乳房を手で隠す。
すると自分の乳首が思ったより熱くて(あんっ)と彼女はびっくりする。
189名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/22 17:04:02 ID:uCEx7lH4


ラダトームの僧侶であり町の防衛長カンダタ。彼はラダトームに帰った。
オルテガの形見として女勇者からバスタードソードを貰い、今腰に帯びている。
元はアリアハン王拝領の剣。女勇者は知らない事だが、カンダタはバラモスを一人で倒した勇士である。
「ラダトームを出る?」
ラダトーム城の一角に居を構えていたBは言う。Bはリムルダールの師匠が死んだ後、ラダトームに鍵職人として越して来ていた。
Bはもうカンダタとは行かないと言う。
「俺は暇だったら王室の側に行って、お前と王の仲介してやろう」
権力、出世にまるで興味のない男が。
「まぁ、どこまで行けるかな…」
そのBは太陽の石を持って居る。カンダタは雨雲の杖を持って居た。
「また会おう」
格好良くカンダタが言う。そしてBを男らしく抱き締めた。Bも太い腕で抱き返す。
カンダタとBは子供の頃から仲間だった。しかしこれで別れになるかも知れない。
カンダタは今までの思い出がよみがえった上、これからも“他に張り合いが無いから”カンダタに関わってくれるBを思うと(かわいい…)と殺してしまいたい程彼を可愛く思った。だから
(死ね!)
とBの耳にキスした。
Bは幼馴染の男にキスされて最悪の気分である。本気で捕まえて蹴ろうとしたが、Bはカンダタを取り逃がす。
190名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/22 17:06:38 ID:uCEx7lH4
ラダトーム城の回廊に出た時、カンダタは追ってくるBに囁いた。
「回廊に出た。ここから先は俺とお前が懇意の所を誰にも見せないで置こう」
お前と俺は赤の他人。影でこっそり関わって行こう。
カンダタはそう言うと音も無く梁の上に飛び乗り、気配を消しつつ健脚で静かに駆けて行った。
Bの前からカンダタは跡形も無く消えた。カンダタが居なければ、Bにはもうドラマもメルヘンも無くなってしまう気がする。
でも二度と顔を見たくない様な気もする。
Bは心の中で「変な奴」とカンダタに笑みを送った。キスは許せんが。しかも耳だったのが本当に嫌。
カンダタ曰く「三年殺し」。後からじわじわ効いて来てお前は滅すると言われた。(俺を殺してどうするんだよ…)

「カンダタ様!」「旦那さん!」
カンダタが歩くだけでラダトームの街道は華やいだ。そして人々は彼を取り囲む。
「王は新しい政策を立てておいでに。重臣に貴方の名が上がっています」
「まさか」
とカンダタは言う。
いいえ、オルテガ様と共に
「大臣の官です」
ワァと人々が熱狂した。その場でカンダタだけが冷静である。
「いくら王に官位授かろうと、ままならない事が」
断りなさる? なぜ、なぜ? 人々は困惑した。
191名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/22 17:09:11 ID:uCEx7lH4
「皆様方、私を誤解している。城の役職に就ける人間じゃない。勇者オルテガは善良だったが彼も不向きでしょう。勇者だから」
ラダトーム城から追っ手が来ている。カンダタが餌に食い付いて来ないなら、自ら出向いて暗殺を企む一派があった。その派はオルテガの死を知っているのかも知れない。カンダタ一人ならと。
(ラルス王とは別派だな)
ラダトーム王城は混沌として来た。Bはどこをどう生き残るのか。
追っ手は静かだ。中々本物だなとカンダタは思う。
「その…オルテガ様はどこに。ご存知ですか?」
ラダトーム城の下女が尋ねてカンダタを食い入る様に見詰めている。
「うん」
とカンダタが言うと人々はシィンと静まった。カンダタの声が余りに優しくて驚いたからだろう。
「忙しい人だから。今も俺よりずっと先を走って、飛び回ってるんだ」
ちょっと挨拶に顔見せも出来ないみたいだよと、カンダタは下女を宥めた。
「じゃあ、これで」とカンダタは慌てている様子だった。そして追われ慣れている。
追っ手の影を感じながら、彼は走って行った。
(どっちが飛び回っているのかなぁ…)人々は皆思った。
夜の戸張が迫っているがまだ夕暮れの赤さを残しているラダトームの中をカンダタは走り抜けて行った。
街道の終りでCがカンダタを待っている。Cはカンダタと共に行く。
192名前が無い@ただの名無しのようだ:05/02/22 17:10:24 ID:uCEx7lH4
「ご苦労っ」
とカンダタは足を止めCを抱いて唇を近付けた。Cは滅多に見せない気合の入った顔で懸命にカンダタの腕から脱出し、唇を避ける。
カンダタも目を輝かせ戦闘態勢に入り、とうとうCを捕まえた。
「くらえ!」
と格好良くカンダタが咆えている。男二人が向かい合い崩れ落ちている姿を見て、ラダトームの暗殺者達は(仲間割れ?)と思った。

Cとカンダタはポコポコ殴り合い少々負傷したが、追っ手に捕まる事は決して無かった。
「何か俺も子供欲しくなっちゃった。上の世界にちょっと戻ろうかな」
俺の子欲しいーと言っても嫁さん探しするのでなく、もう既に女が産んでいるだろう自分の子を探しに行く所がカンダタのカンダタらしいメルヘンである。
基本的に手の付けられない不良だが、とんだメルヘン野郎である。
「誰か産んでるの!? 親方の子!?」
確かにカンダタの女は通算するといっっぱい居たが、昔の話だ。
「あいつ産んでるんじゃ…そうじゃなかったとしても、まぁ誰か産んでるさ」
カンダタはオルテガの妻然ときっちりした所もあるが、他の所ではちゃらんぽらんの輝きも持って居る。
オルテガと女勇者と共に歩む三賢者の旅は、今始まったばかり。
193名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/01 05:23:19 ID:0NtUEhUc
いっっぱい女が居たと言ってもカンダタが関係を結んだ女は実は少なく、その中で死んでいる者もいる。
それで子供なんて居るのかな。そんな簡単に行くのかよ、そんなに上手く行くのか?
大体子供が居たとしても親方の存在をすんなり向こうが喜ぶと思ってるのか。
「ん、どうした」
様子がおかしいのでカンダタはCを心配した。
「昔の事を心配し出すのも良いけど今を見てみなよ。女も居るじゃないか。
俺はあんたが心配で…何でも手を付けて一人でどこまでも行って……あんた一体どうなるんだよ」
「そんな、何にでも手を付けられるわけないだろ。…俺はお前に優しい言葉を掛けて貰える様な人間じゃないよ」
「俺は親方と、行ける所まで行く」
カンダタはおかしくなってるCに(…バリーにいちゃつきでも見せ付けられたかな)と思う。
「あぁそうだ、そう言えばバリーさんは幸せそうだったよ」
Cは無表情で言うが相当弱っているらしい。
「初恋だけが自分の恋だと、気付いてない奴が多くて…普通は大概失敗するんだよな」
そんな事を言うカンダタにCは上擦ってしまいそうな声を掛ける。
「親方は上手く行ったの? 親方普通じゃないからな」
「駄目だったよ。第一男だったし」
(わぁ、本当に普通じゃない!)とカンダタの男好きを鮮明に思い出して、Cは彼から距離を置く。
194名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/01 05:26:08 ID:0NtUEhUc
カンダタの父性とカリスマは認める。子供の養育教育にさえ目を向けて来た所も良いとしよう、ただ、
「あんたがオルテガに似てるって言う評判は、俺は認めないぞ」
あの覆面マントとパンツ一丁の二人は伝説である。生き別れの双子が出会ったかの様なきらめき。だがオルテガはアリアハンの英雄だ。
「悲しいなぁ。そうそう、俺の初恋はオルテガじゃないよ」
見事などうでも良さが、Cをして親方を見詰めさせた。
ところで今の女達はかわいい。カンダタは喜んでいる。そして彼の女は全員人間ではない。
彼はとても綺麗か格好の良いオバサンが好きだった。冷たい魅力も好き。
ラーミアの祠、双子の巫女はその条件から外れているがそれでも特別。カンダタが一番好きな女二人だろう。
エルフの女王はど真ん中ストライクで、しかも人間じゃない。深い関係の恋人同士である。百年後に会おう。
若い女はあまり面白くなかった。なのに何故あの不死鳥の祠の巫女に、そして女勇者のバリーに行ったのか。
信じたのだ。信じた女だった。カンダタはこの判断だけで今後数多くの勝利を手にして行く。
双子の巫女はカンダタに「ラーミアの香りがする」と喜んだ。ラーミアとは不死鳥である。
実際カンダタは長生きし、女勇者とその子孫達のドラゴン絡みのクエスト(遊歴)を強烈に見守る事になる。
195名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/01 05:28:14 ID:0NtUEhUc
カンダタはCに「一人でどこまで行くんだ?」と心配されていたが、“長生き”は罪の香りを持つカンダタに罰として与えられた試練の側面を持って居る。
アレフガルドで親しまれている今、カンダタを罰してくれる人は誰も居ない。カンダタは考えた。
長きに渡る猛烈な反省、新しい人間関係を築いてもすぐに相手が死ぬ虚無、新たな勇者の遊歴を待つ気の長い喜び。そう言う事を考えた。
さて、アレフガルドで水を得た魚の様に活躍したのは何もカンダタだけではない。カンダタがまるでその妻となって支えたオルテガもその一人だった。
カンダタは良く、あの怒涛のオルテガを支えられたものだ。女勇者のバリーはその事をとても喜んでいた。
カンダタはオルテガが好きで、一生懸命彼を守っただけである。それだけで沢山幸せを得た(得過ぎた)とカンダタは思っている。
オルテガも「お前はハッとする程運が良い時がある。しかしそれ(運)も実力だ」とカンダタに対し笑顔で言った事があった。
196名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/08 01:25:54 ID:D9qqYeun


父の死の知らせを持って、女勇者のバリーはアリアハンの家に帰った。
バリーは自分より背の高い悲しい女を胸に抱いた。
「あたしこれからどうしたらいいの…」
母が今にも死んでしまいそうで娘は泣けて来た。これでバリーはカンダタより(オルテガの死)で多く泣いた事になる。
勇者の母は恥ずかしがり屋で大胆な事が全く出来ない人だったが、オルテガの死を悲しむあまり自分を殺してしまえる力はありそうだった。
オルテガの父と娘は(つまり祖父と孫は)母さんが死なないように見張ろうと相談した。
「でも…好きな人が死んだら死んじゃいたい気持ちわかる」
バリーの目から見ても母は父に恋していた。本気の恋は辛いなぁとバリーは母を見てしみじみ思う。
「死ぬなよ。仕方ない奴等だな」
と、男は孫と息子の嫁に困っている。

母は寝込んでしまい、勇者は祖父にお茶を作りオルテガの遺言を語った。もう外には朝日が上り始めている。
「最愛の人って、お祖父様だって」
197名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/08 01:29:59 ID:D9qqYeun
「なんだ? 女じゃないのか?」
「一緒に居た時間が一番長い人だったからって」
それからオルテガはこうも言っていた。
「あの人大好きなんだよぉ」
でもなんか格好良い言葉でそれとなくその事を父に伝えて欲しいとバリーに言い残した。
しかし娘のバリーはそのままの言葉で祖父に伝える。
「大好きなんだって」
それを聞いたオルテガの父は少し目を細め、こんな日だからか珍しく吸っていた煙草の火を消した。
「…そうか。もう寝る、朝になった」
そう言って魔法使いは一人自分の部屋に戻る。

オルテガの妻は数日間何も手に付かずぼんやりとしていた。オルテガの骨さえ無いのだから死んだ彼を抱き締める事さえ出来ない。
ある日彼女は家の近くの小高い丘に立っていた。見晴らしが良いなぁと思っていたら、遠くから真っ直ぐオルテガが走って来る。
彼女はオルテガと出会った当時、一番最初に恋したのは彼の走っている姿だったと思い出す。
「父さん!」
やはり女の叫び声の方が通りが良い。オルテガの言葉は彼が接近するごとに鮮明となって来る。
198名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/08 01:31:44 ID:D9qqYeun
「帰って来ると!」
オルテガは走っている途中だが大声を張っている。
「約束した!」
そしてすっかり痩せてしまった妻を腕に抱いた。
彼女はうっぅっと泣いてオルテガを抱き返す。
「生きてたの?」
しゃくりあげながら妻は聞く。
「いいや、死んでしまったよ」
「嘘だ」
「本当…」
「あたしも死にたい」
「おい」
「だってずっと一緒に居たいの、幽霊でも良いから側に居て」
オルテガを抱いて、彼の胸で妻は泣いた。
オルテガは不覚にも、妻がこれ程自分を思っていたのかと驚いてしまった。
彼女の名を呼び彼女の髪を撫でて、オルテガは妻を落ち着かせようとする。
「俺達はこう…人目の無い所では、すかさず暇を見つけてイチャイチャしたな」
なにさ。と妻は泣きながら恥ずかしがっている。
199名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/08 01:34:14 ID:D9qqYeun
「俺が悪いんだけどさ。なんか浮かれた感じだった俺達は」
「父さんが悪かったのかなぁ…あたしだって…」
「お前を女として見過ぎていたように思う。これをきっかけに少し妻っぽくなるんだ。俺が居ない時こそ、お前の妻としての真価が問われるぞ」
頼まれてくれと、オルテガは妻に大きな張り合いを残した。これからも繋がっている証を感じて彼女は嬉しくなった。
「うん」
と妻はやっと笑顔を見せる。
「そうだよ、笑え笑え」
妻はもっと笑った。フフと明るい声まで出す。
「生きろよ」
とオルテガは強い声で言う。
ずっと抱き合って、夫婦は笑顔でいた。オルテガは彼女の名を呼ぶ。母さんとも呼ぶ。段々「母さん」とだけ呼ぶようになる。
……母さん……母さん………
(うぅん、色っぽくないなぁ)
と彼女は悶え、寝返りを打つ。そして声の主がオルテガではなくなって居る事に気付いた。
200名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/08 01:35:59 ID:D9qqYeun
「母さん」
寝るならベッドで寝れと、オルテガの父がソファーで眠る彼女に言っていた。
「おじいちゃん…父さんが…」
「?」
と義父は怪訝な表情を見せる。
「オルテガの夢でも見たか」
夢…その割りには不条理さが無かったとオルテガの妻は思う。
「夢だったのかな…あたしに生きろって言ったよ」
「ふぅん。夢じゃなくてもあいつなら言いそうだ」
わかったか母さん、と舅は嫁に言い含める。
「うん。でもおじいちゃん、自分の後追って死ぬ奥さんも可愛いと思わない?」
ポンと軽快に彼女は言う。バリーもそうだがこの女達は時に底抜けに明るい顔を見せる。
201名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/08 01:38:30 ID:D9qqYeun

「バリーや起きなさい」
まだ朝も早いと思ってまどろんでいた彼女を、母は起こした。
母に起こされるのは小さい頃以来だ。なんだこの母の覇気は。
「今日は王様に会う日でしょ」
さぁさぁ、と母はジリジリ寄って来る。(えぇぇ!?)とバリーは戸惑う。
「さぁ、王様に恥じないようにね」
と孫を抱いた若く美しい34才の祖母は、城の近くまで送ってくれて娘のバリーに言う。
(母さんどうしちゃったんだろう)
バリーは超常現象にソワソワ、ビクビクしたが、母さんが元気になって良かったなぁと幸せだった。
202名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/15 16:31:21 ID:GBO30h+7

アリアハン王と再会した女勇者ロトは、ひっそりとだが人々に大騒ぎされた。
(後にロトの洞窟に石版を残すように、彼女の最高の才能は彫り物であるが)アリアハンで絵師の下働きに就きペンキやハシゴを持ってしょっちゅう城を出入りしていた娘が、
オルテガの娘であり戦っていた事、そして生きて帰って来た事を初めて知る者は多く、アリアハン全土が狐に抓まれた様にキョトンとしてる。
少し時が経つと彼女は神様の様な存在になってしまい、ラダトーム程では無いがアリアハンでも暮らせない雰囲気が見えて来た。
母さんもお祖父様も大変だ。母の出身地テドンで皆と暮らそうかとバリーは思っている。
バリーが伝説の勇者であろうと、畑を耕す若い母さんであろうと、多くの人々が変わらずに彼女を見てくれる場所はテドンだけだ。
203名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/18 16:07:41 ID:++QzclZG
勇者の母はオルテガに「幽霊でも良いから側に居て」と言ったが、テドンの女ならではの言葉ではある。
あの地ではまだ、まるで生きている人間の様に幽霊と話す事が出来る。生と死の境界線は限り無く不明瞭で、その間(あわい)で皆生きている。
元々“死”は別段忌むべきものでも不要なものでもないと言う考え方が根付いていた地である。
ゾーマが一番心揺らされた地。ここから勇者が産まれたら私は負けると大魔王は感じていた。
(次に心に掛かったのはジパング、あの島国は死を美徳とするから気に入っていた)
“ロトの愛人”と噂されるエジンベア大臣はバリバリのキャリアだがその実、人類発祥の地と言われ人々がほぼ裸で暮らすテドンを愛していた。
そう言う大臣閣下がとても魅力的だとバリーは思う。まさかカンダタとエジンベアの大臣閣下があんなスリリング対決を…と、これはこの後の別の話。
遅れ馳せながらロトの夫もアリアハンに帰って来た。
彼は城の元隊長(失脚して女勇者と出会った頃はお巡りさん)だったから彼の方がアリアハンでは顔が広い。
204名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/18 16:08:42 ID:++QzclZG
彼は変わり過ぎていて気味悪がられる。しかしそれは彼と付き合いの浅い人間達の反応だった。
バリーは(この人と一緒に居ると決めたのは間違いじゃなかったんだな)と自分に言い聞かせた。
何だかミステリアスな新婚生活だがこれが幸せかと彼女は思ってみる。一病息災と言った所か。
ゾーマがどこかに行ったらしいけど、本当はこの人の中に居るのじゃないかしら。私の敵。と女勇者は夫の戦士を見る。
戦士は目を大きく開いて“何事か?”と言った様な顔を妻に見せる。妻の勇者は(ごめんね、ごめんね)と彼の腹を抱いた。変な事を考えてごめんと。
しかし彼女の勘も強ち間違いではない。竜王はゾーマの後継者であり、その竜王を竜王たる様に育てて行くのはこの戦士だからだ。
“この人と苦労したい、この人となら苦労出来る”と思ってする結婚が女勇者の愛する結婚の形。カンダタにも思った事がある、あの一緒に旅した武闘家にも。
「お前は二人が好きだったんだ」
とカンダタがバリーに聞いた事がある。
「結婚は戦士としたけど、旅の最中好きだったのは武闘家の方だろ」
言っちまえよと言う雰囲気のカンダタである。
205名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/18 16:09:54 ID:++QzclZG
言ってしまって過去の男にすれば? と言う優しさか、ただ武闘家と言う人種の勝利を喜びたいだけなのか。
「好きって言うか…」
抱かれたい率100%だったなんて言えない。
「え? エロだけかい?」
バリーのソワソワっ振りにカンダタはそう感じた。それは大人過ぎてちょっと嫌だなとカンダタはポツンと寂しそうだった。
「違うよ、好きだった」
売り言葉に買い言葉で飛び出したが、何だか過去じゃない勇者の声。見ているとHな気持ちになる男だったが、思い出はエロだけではない。
「お前は沢山男の話があるなぁ。悪女か」
「うぅ…」
「うーん、違うな。聖女じゃないが、悪女でもない」
一見格好良い言葉だが、
「それって普通の人って事だね」
「アホか、魅力のある女って事だよ。小悪魔と言う言葉もあるがお前の場合もうちょっとこう…」
愛情や自分の思いの為またはその場の流れで大悪魔にもなれる危険な男だが、カンダタの方が「本官は小悪魔だよ」と言う風である。
206名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/25(金) 03:27:04 ID:9gwHhgZk


妻が二人居て、どちらにも子を生(な)したオルテガは(なるほど、最愛の女と言う発想は持っていまい)と魔法使いは思う。
彼はオルテガとバリー二人を育んだ師であり、オルテガに「大好き」と遺言を残された父である。
そして優しく小さい師匠達(オルテガや女勇者)を得ても、やはりこの男こそ戦場で死ぬだろう。
女勇者がアリアハン城で騒がれている時、このオルテガの父は自分の部屋に一人で居た。
女勇者が帰って来て夜通しオルテガを語ったあの時と同じ様に、カーテンの所まで歩いている。
夫が居て子が居てこれから住む所を考えている女勇者の人生は凛々と今始まったばかり。
テドンの勇者であり、女勇者。これこそがゾーマを倒せるのだと祖父は孫娘に夢中になっていた。
オルテガの死を聞いたあの日、この父はウロウロと歩き回って落ち着かなかった。彼はオルテガの事で一度だけ泣いた事がある。その一度は恐らくこの時だろう。
207名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/25(金) 03:28:36 ID:9gwHhgZk
降りる訳にはいかない。まだ降りる訳にはいかない。
オルテガの父が家族に敷いて来た戦いのレールがある。
寝起きの良い父より更に寝起きが良かった幼いオルテガは、父の部屋に入ってこのカーテンを引き寝ている彼に光を浴びせた事がある。
そして元気に父に話し掛けた。天気の事やこの朝の事を。あの男は明るくて可愛くて、戦いを全く知らなければ教えなければ優しい職業に就いた筈の男である。

「ちちうえ、いいお天気です。おさんぽしよう」

あいつを戦場に送り出し、弱音を吐かないからと言ってずっとあいつを見て来た俺が、俺こそが、このレールの上から降りるわけには行かない。
208名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/25(金) 03:30:07 ID:9gwHhgZk
正義の人であり闘神の如きオルテガの父に罪があるとしたら、それを贖うとしたら、彼も長生きと言う罰を。
カーテンの側らに立ち、朝日を浴びて美貌の老人はその罰の中に居た。
そう言えばいつも戦場に居るようなこの老人、散歩と言うこ洒落た趣味を息子の少年オルテガに教えて貰って嗜むようになった。
沢山死を見た大魔法使いの復活もまもなくだった。この老人、この世にたった一人残された勇者と組んで無敵となる。
209名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/25(金) 03:34:59 ID:9gwHhgZk



かくして、ロトの称号を受けた勇者はアレフガルドの英雄となる。
だが戦いのあと勇者の姿を見た者は誰も居ない。
勇者が残して行った武器、防具は、ロトの剣、ロトの鎧として
聖なる守りはロトのしるしとして後の世に伝えられたと言う。

彼の姿を誰も見た事が無いとは、オルテガの事である。
鎧をアレフガルドに残した男は、女勇者の次男。
勇者ロトは壮年の男だったとか色っぽい姉ちゃんだったとか諸説出たのは、オルテガの強大な存在と大魔王の城から生きて帰って来た女勇者の強靭な存在の為だ。
210名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/25(金) 03:37:43 ID:9gwHhgZk
ロトの名は複合技で、沢山の人間がこの名の中に入っている。
主にその輪郭を形作っているのはオルテガ。主役は女勇者とオルテガである。
余りに偉大な人名は、一人ではなく実は集合体だったと言う場合がある。
その名は強く、魅力的な謎に満ちて語り継がれる。
女勇者はキョロキョロしている。空の上に土の中に物陰に父を探す。ゾーマが完全にオルテガを消し去った事は、残された者達に(オルテガはまだどこかで生きてるんじゃないか)と言う“希望の感覚”を残した。
それに女勇者のバリーは死霊を探すのが得意だ。テドンの幽霊も、サイモンの幽霊も、彼女が見付けた。
オルテガの事も再び探して、きっとまた見付けてみせる。
211名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/03/25(金) 03:39:57 ID:9gwHhgZk
あたしどんなに嫌がられてもロトって名前好きだけどね。だってあたしと、父さんもその名前の中に入ってるからね。
ロトと呼ばれる度にオルテガと一緒と言う気がする。オルテガと振り向いてる。
(父さん、父さんどこに居るの?)
女勇者はアリアハンの空を見上げる。
(あたしが見えてる?)
「あぁ見えているよ」とどこかでオルテガが言ったなら「やった」と女勇者は跳ねるだろう。
彼女はテドンで生れ、テドンとアリアハンで育った。剣と魔法の最高峰まで昇った勇者であり、ゾーマよりも“死”に洗練されている女。
雷帝の娘であり、後世アレフガルドの偉大な王の母。女勇者のバリーは後の世を思いオルテガを思って楽しそうに笑った。

212名前が無い@ただの名無しのようだ:皇紀2665/04/02(土) 02:31:28 ID:AOqERKYm
バリーの長男は早くから色々と引っ張り凧で、王として勇者として生きる心を少年時代に自ら決めてしまった。
この子は大変だ、あらあらあら、と忙しそうな母のバリー。息子達に一喜一憂して着いて行ったり叱ったりして飛び回る。
(親子だもん、楽しく行こうね)
そう言う心持ちの女である。ちょっとクールで明るい母に、実は息子達の方が魅せられていたとか。

アリアハンでゆっくり休んでいる女勇者ロト。
「アッァッ」
と彼女の膝の所で息子が遊んでいる。バリーのもう一つの膝の所では母が戯れる。
オルテガが死んだ時は昔のような母さんに一時戻っていてバリーを守らなければくらいに思っていたが、今は娘を「バリー。ママ」と呼びちょっと遊ぶ。これが彼女の本当。
「男の子、男の子」
とオルテガの妻は孫を珍しがって楽しんでいる。そう言えば彼女は男を育てた事も産んだ事も無い。
そんな綺麗なお祖母さんはある日カンダタに出会う。
ラーミアが来たかと思った。不意に曇ったからだろう。ラーミアは大きいので勇者の家のような民家に近付くとその家は日陰になってしまうのだ。
あんまり大きくて、勇者の母はラーミアを初めて見た時「でっかーい」とびっくりし涙目になってしまった。
そしてカンダタを初めて見た時も泣きそうになった。
(あらあら、父さん。この人の中に居るのね)
彼女は人の憑依と言うものが見えるのだろうか。
「バリーをよろしく。助けてやってね」
そう言い、ほっそりした印象だが触ると肉付きの良い彼女の手が、一見筋肉質だがしなやかなカンダタの手を取った。
213名前が無い@ただの名無しのようだ:皇紀2665/04/02(土) 02:33:14 ID:AOqERKYm
カンダタはこの世の男とは思えない程、雲から出て来た日の光を浴びて髪も目も輝いていた。20歳(はたち)。見事だった。
父さん(オルテガ)に似てる。それからラーミアのスケールがある事を、勇者の母はカンダタに言った。
するとカンダタはオルテガの声真似とラーミアの鳴き真似をし出した。そっくりと評するより既に不必要な程似ていて、オルテガの妻はキャッキャッと笑った。
俺の好きな女と同じ事言ってらとカンダタは驚いた。あの女二人は人間じゃない。この人も妖精みたいだからかな。
オルテガが30才で死に別れた前の妻、女武闘家の燐にもカンダタは似ているらしい。今のオルテガの妻もそう感じた。笑い云々よりもその髪と、顔も少しだけ似ているそうだ。
あの女武闘家はカンダタの心の母。武闘家としてのあんな強さは俺には無いかも知れないけれど。
燐は青年オルテガの恋心の全てだった。50を超えてまだカンダタにその面影を見、側に置いたのか。
そうだとしたら…? とカンダタは勇者の母に聞いて来る。
「いいじゃない」と彼女は言い、前の奥さんはあたしが父さんと出会った時にはもう亡くなってて、会ってみたかったからカンダタさんを見れて嬉しいわ。
彼女は楽しそうに言う。思いやりがあって、素直で可愛い美人である。
この人はとても爽やかで…カンダタはオルテガの妻に「ありがとう」と言った。
「やだ、あのね、あっちの世界で二人だけで会うかも知れないでしょ。それ考えたら嫉妬するもの」
だからお礼とかやめて。とオロオロしている彼女にカンダタはもう一度礼を言って、彼女の唇に口付けた。
あら父さんごめんなさいと彼女はうろたえ、カンダタはワーッと走り去る。
走っているカンダタは用事を忘れた事に気付いた。オルテガの妻と偶然会って喋っただけで自分のしたい事を一つもせずに帰ってしまった。
214名前が無い@ただの名無しのようだ:皇紀2665/04/02(土) 02:35:23 ID:AOqERKYm
世界有数の格好良い男カンダタがおかしくなる程オルテガの妻は綺麗だった。美しいのは見た目だけではない、オルテガが愛し抜いた女性である。
“オルテガだけを思ってこれから生きて行く”あの女性がカンダタは嬉しくもあるけれど…彼女の今後を思うと心細いではないか。
薄くて綺麗なカンダタの唇、その快感を思ってオルテガの妻はペトッと床に座り込んでいた。
カンダタと喋ったり、見詰められたり、口付けられて何の感動も持たない女は逆に不健康だと彼女は思う。
(父さんだったらもっと良かったけど)
この女性は本当にオルテガの事が好きらしい。他の男に抱かれる事は生涯無い。他の男…。
“自分に取って一番長く生活を共にする異性”は彼女に取っては義父(舅)の魔法使いで、魔法使いの方も娘(息子の妻)。お互い一緒の時間を穏やかに過ごす。
オルテガは自分の父親を愛してくれる女でないと妻にする気はなかったのでこれは(オルテガが実父に嫉妬しない程度の)幸せの範囲。
まれに彼女は魔法使いに叱られる。勇者の母であり妻である事での注意もある。
俺とオルテガに惚れ込まれただけなのに可哀相な女だと思う。
初めて会った時から魔法使いも、後に孫娘バリーを産んでくれるこの人に運命めいたものを感じて親しんだ。
オルテガが好きな彼女はオルテガの父を見るとドキドキする。憧れのおじいちゃんである。
オルテガの妻はアリアハンに移り住んでも家の中ではたまに裸でフラフラし、彼女の形の良い乳房を自宅で見てしまった魔法使いはびっくりして注意した。
彼の言葉は基本的に優しくない。冷たいし、冗談もキツイし、でも彼女は彼が好きだから、好きだから言う事を良く聞いた。
215名前が無い@ただの名無しのようだ:皇紀2665/04/02(土) 02:37:27 ID:AOqERKYm

「母さんに何かしたの?」
バリーは明らかに怒って、勇者宅の前の林の中でカンダタににじり寄った。
恐いのでカンダタは泣きたくなって来た。
「あたし母さんを守る」
「お前は勇敢な男の子か」
二人は久し振りに戦っている。上半身だけを動かしグニャグニャ組み合ってカンダタが劣勢である。
勇者に背負われている赤子は、母の肩越しにカンダタのやられっ振りを観察している。
(あっ、母さん)
とバリーが気付き(お祖父様も居るじゃん)とカンダタも気付く。勇者の母は勇者の祖父と歩いて出掛ける所だった。カンダタは勇者の祖父に近付き用を済ませる。
そんな美男美女5人に歩み寄る勇者の夫。カンダタ20才、女勇者18才、息子0才、母34才、祖父79才。カンダタじゃなくてオルテガ54才だったら年代のバランスが良かった。
そしてその勇者の夫も家族に合流し、
(どうせわしぁお邪魔虫だい)
そんなカンダタは格好良い体でトコトコとどこか行ってしまった。
格好良いと女勇者は思う。あの武闘家に対してや、インテリ眼鏡をかけた夫(戦士)に対してのように「抱かれたい」とは思わないけれど。恋も愛も超越した運命の人はまたトコトコどっかに行ってしまう。
女勇者はカンダタを追った。(あんたはどんな恋するの。どんな人に恋するの)
好奇心旺盛な彼女は彼の不思議を解き明かしたい。
「あんたにお礼言わなきゃ。あたしのしたい事半分くらいしてくれてるもの」
「良いんだよ。俺はお前のファンだ」
ファン3号くらいかな。と男が言うので女勇者は「少ない…」と可愛い声で呟き「結構な旅して来てるのに」と小さくぼやいた。カンダタはゲラゲラ笑う。
女勇者は自分のファンが一人居ても「多いよ」と思う人だが、おかしなカンダタにはとことん付き合う。
216名前が無い@ただの名無しのようだ:皇紀2665/04/02(土) 02:42:30 ID:AOqERKYm
「好きだよ。お前の漢気と言うやつをかな。男っぽい母さん髭生えろ」
言われたとたんに女勇者は付け髭を取り出し、自分の口に付け「またねカンダタ」と言う。
カンダタは笑う。目の大きい可愛い顔が口髭を付けるので“父っちゃん坊や”みたいで愛くるしくイカした。
「お前が居るから寂しくないや」
子供を背負い、テテーッと帰って行く女勇者の後ろ姿にカンダタは言った。女勇者は彼の声に振り返る。
「バリーが居るからバリーの母さんは寂しくないだろ」
赤子を背負いながら若い母さんは「うん、そうだと良いね」と答えた。「下手な男と一緒になるよりは、お前と居た方が女も幸せだ」
その時「ママ」と、勇者の母が勇者を呼びに来た。実の母に「ママ」と呼ばれるからにはこのママは相当な母である。


カンダタは彼の実父に似てとんだラッキーマンだった。娘を得たのである。
(わーい)
カンダタによく似てとても綺麗な女だった。
(ひょーう)
俺より綺麗だよなぁ。とカンダタは思うが少々見誤り。カンダタの方が美貌だ。
カンダタを「お父様」と呼ぶ何だか肩透かしの様な娘だった。荒くれの前に現れたのは育ちの良い少女。
そんな少女の前にカンダタは飛んで現れる。
「どうだ、ラーミアと空を並走しているぞ」
そんな父だが、翼に見立てた飛行機具は爆発音と共に砕け散り父は海に墜落した。
217名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/04(月) 03:42:55 ID:Q1Ua7r6f
「お父様!」
飛行の失敗は珍しい。娘は心配したが、セクシーな父はすぐに陸に上がって元気な声を聞かせてくれた。
少女はこの父に会って「魅力的な男性を初めて見た」と思い、大人になっても彼女の「お父様素敵」の思いは変わらなかった。
(素敵と言ったら喜んでくれるかな。お父様はコメディタッチでもあるから私の方がからかわれてしまうかも)
恥かしいがり屋のこの少女は、なかなかカンダタの理解者であった。
父娘、二人楽しくどこまでも出掛ける。上品だが大胆な所はやはりカンダタの娘である。
ある天気の良い日二人は墓に出掛けた。カンダタの父の墓である。
少女から見れば祖父にあたる。変った墓で階段を降りた石畳の部屋にその死者は横たわって居る。
小さい少女は花を大事そうに持って父と歩む。常軌を逸して長生きすると言う事は、この少女の死も見てそれでも生きて行く事を指しているのだ。
カンダタはひっそりと何か思ったいた。
娘の死を見ても良いから長生きをひたすらに希望する父など余りにも哀れではないか。しかし何故哀れと思うのだろう。
ある所に冷静な魔法使いが居た。滅多に感情的にはならないその男がたった一人の少年に心乱し、喜び、笑い。親子であるとは一体どうした事なのか。
「不思議だね。このじいちゃんが居なければ俺はここに生きてない」
カンダタは父の墓を見ながら娘に話し掛ける。
「不思議ね」
「だな」
218名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/04(月) 03:47:17 ID:Q1Ua7r6f
「お父様が居なければ私もここに居ない」
「フフ…顔が似てる事でお前と繋がってる気にはなれるけどね」
子供は母親のもの。女の子に生まれて良かったな子供産めるよ、と父は娘に思う。
「似てるのも不思議。親子って似るんだよね」
「血が繋がってれば似るんだよ。自分に似ているから簡単に憎しみの深みにはまるのかな血族は」
「お父様も私を憎む?」
「それは無いよ。しかしお前は思春期になれば俺を邪魔者にするんだ」
そんな事しないわ。お父様は私がどんなに大人か解ってない。今の気持ちと大人になった気持ちはそんなに変ってないのだからねと、少女は少し怒った。
(お父様好きよ。少し恥かしい)
こんな気持ち誰にも言えない。そう、父親の事をこんなに好きな娘は世間から見て恥かしいのじゃないかと。
彼女はかなり成長してからこの父に出会ったので彼を男として見る事が出来ていた。彼女は育ちが良いだけではなくかなり裕福な暮らしをして来ていて、深窓のお嬢様は荒くれに心を奪われた。
しかしその荒くれは息を飲むほどの美男。お嬢様は美少女。人は自分に無いものを他人に求めて分かち合えれば幸せだろうけど、自分に似ている人を愛する事も。

少し言い争いをしたり、もう面倒になって一緒に歌を歌いながら、父娘は仲良く外への階段を登った。


最高の女     END








219名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/04(月) 03:49:22 ID:Q1Ua7r6f

男と魔物


ムーンブルク王城がハーゴンに崩され、サマルトリアの王子はハーゴンの呪いに倒れた。
そしてローレシア王太子にもハーゴンの魔の手は伸びていたのだ。その呪いはローレシア大国地下牢に身を潜めて、目の前の鉄格子が開くのを待って居た。
220名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/12(火) 03:58:08 ID:sKF0QXgo
久々に旅からローレシアに戻った王太子を国は温かく迎えてくれる。見なれた筈のこの空だけが妙に冷たく自分を見ていると王太子は思う。
空は冷たいだけでは無い、不穏。殺意と戦意。冷たさではなくそれは熱さではないのか。空が燃えているように感じる。
サマルトリア王子とムーンブルク王女の他には自分だけしか解らないだろう一瞬に、ローレシア王子は真っ黒に燃え上がる空を見た。
(モンスター!)
王太子は真っ直ぐにただ一つの場所を目指す。子供の頃から見て来た開かずの間、その牢獄の中で座る涼しげな神父、そこへ走って行った。
ローレシア王太子のスターはローレシア牢獄に閉じ込められているその神父が無実の罪で謂れの無い罰を受けているのだなと感じていた。
まだ立太子する前の少年時代。スターは神官に接近した。
「ここを出たらその代わりに、偽りのない言葉を聞かせて貰いたい」
神父は被害者ぶってみたり、爽やかに諦めの顔を見せたりと、王子が納得出来ない反応しか見せなかった。それが王子には全て嘘に見えたのだ。
この神父がどう動こうとも対処出来る自信を少年の王子は持っていた。
少年は幼い体のどこかで感じていた。“扉は開きたい”。
この神父が牢に居るのは不自然な気がする。そして出獄させるのは自分の使命のような気もしている。だから王子は自分を信じてその扉を開けようとした。
「あぁ、無理のようですね」
神官は優しく言葉を掛ける。鍵は錆びていた。もう一つの鍵は曲がっていた。とにかく今、王子の持つ鍵ではこの扉は開かない。
「なぜこの牢に?」
王子は素直に尋ねてみた。
221名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/12(火) 04:00:54 ID:sKF0QXgo
「なぜでしょう。わたしはその事に対する答えを持ち合わせません。貴方がこの扉を開く鍵を持って又ここにいらっしゃったら…あるいは私も何か答えられるようになりましょうか」
神父とのこの出会いを王子はいまだ鮮明に覚えている。少年は自分の国の牢番に見つからないよう注意して牢獄を去った。
ずっと気にかけていた。王子は今15才となりペルポイの牢屋の鍵を持って我が牢獄へ帰って来た。
仲間との作戦、話し合いは走りながら行い速やかに終了させ、ローレシア城地下の鉄格子の前へ。ローレシア王子とムーンブルク王女の二人が歩む。
15才と言えどもスターは2m近い偉丈夫に成長し、牢獄の中を静かに歩む既に聖帝であった。戴冠を済ませていないだけの王。
(なぜ即位しなかったのか。旅の為である。身軽に旅立ちをする為の即位延期と言って良い)
ローレシア王子はムーンブルク王女を傍らに控えさせ、牢獄の錠に手を掛けた。
「私をここから出してくれるのですか?」
「そうだ。そなた私を覚えているか」
神父は目を細め、嬉しそうな顔で答える。
「王太子殿下。あの時の……大きゅうなられました、やはり戦士にお成りに」
錠の外れた音がガシャンと牢に響き渡る。
「この扉を開いた後、そなたは如何する」
「聞かずとも」
「そうか」
「私は地獄よりの使い。貴方達の亡骸をハーゴン様へ捧ぐ!」
人のものとは思えない絹を裂いたような奇声の後、神父の体は一回り大きく膨れ上がった。
222名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/15(金) 12:37:50 ID:JzvFK4jU
「このローレシアごと、皆滅ぶが良い」
溢れ出しそうな魔力を抑え切れず、爆発的な速さで地獄の使いは鉄格子から飛び出る。その出端をサマルトリア王子に挫かれた。
地獄の使いの死角に立ち、完全に気配を消していた王子は魔物を狙う。マホトーンの激しい波動。
ダイ王子の低い叫びに殴られたように、地獄の使いは牢獄の床に叩き付けられた。
地獄の使いはもう一度飛翔し更なる早さで飛行、サマルトリアのダイ王子を捕えて牢獄の外へ飛び、城の外へ飛んだ。
(私の魔法を返せ!)
魔物に襟首を掴まれているダイはすかさず剣を抜き、それを見て瞬時に距離を取った地獄の使いの棍棒と一合切り結ぶ。
二合目でダイの剣が地獄の使いの肉を裂いた。出血をしながら地獄の使いは一人、空高く飛ぶ。
この飛翔の魔力も、先程のマホトーンが効いて不可能になりつつある。
「聖地よ、敵は強い。ロンダルキアよ、この戦士達と同じく目覚めよ。更なる力を」
ローレシア国の空にあった黒い炎は遥か西南の空へ飛んで行った。そして魔力の尽きた地獄の使いは地上に降りて来る。その魔物を捕えたのはローレシア王太子。
王子は長剣で接近戦を挑む。勝負はすぐにでも終わるだろう。ムーンブルクの王女が活躍せずとも勝利しそうだ。
その時サマルトリアのダイがローレシアのスターに叫んで伝える。
「殿下! 軽い!」
軽いとは地獄の使いの肉の事だ。つまり“人間である”と言う彼等の隠語だった。
スターは長剣を収め素早く短剣を抜く。その居合いは閃光、地獄の使いの肩を斬った。
223名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/15(金) 12:41:41 ID:JzvFK4jU
「ロンダルキアへ、魔力を届けた」
スターの短剣、その力に押し潰されそうな地獄の使いが喘いで言う。
「ロンダルキア?」
「聖地。今私の魔力が帰った。彼(か)の地のモンスターは更に力を付けるだろう。
私がここで敗れる事は…解っていました。私の目的はロンダルキアへの助力です。
貴方は聖地に挑むでしょう。私とも戦った。
私を牢から出したのは、これがお望みでしたか殿下。
ロンダルキアと言う戦いの最骨頂を」
一回り大きくなったと言っても神父はまだスター王太子より小さく、彼に見下ろされている形である。
その地獄の使いを甘い香りが包む。ムーンブルク王女のラリホーで地獄の使いは崩れ落ちた。
その意識の無い体をローレシアの兵数人が取り押さえる。
スター王子は5名程ローレシア重臣の名を呼び、開かずの間の神父の評議を始めると宣言した。そして王太子が裁判施行時に着る緑の衣を体に巻く。
「王子、姫。御助力下さった上に勝手を言ってすまないが、私にもう少し時間を下さい」
サマルトリア王子、ムーンブルク王女にそう言うと王太子はリザードフライの腹の色ような緑に輝く美しい衣を纏い、壮年、老年の重臣を引き連れて評議会場の方へ歩んで行った。
(殿下は美しゅう在らせられるなぁ)
戦闘を終えたサマルトリア王子は、頭を傾げ首をパキパキ言わせながらそう思った。
224名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/25(月) 21:44:38 ID:FiRQvlz2

裁判施行場。サマルトリア王子、ムーンブルク王女も入館可能だそうで二人は傍聴席に着く。
裁判長より更に上、最高位の席にローレシア王太子は座しその発言は裁判の流れであり最高の熱意と力を持った。
判決は懲役264年。
ローレシア王子の声の後、サマルトリアのダイ王子は広い館内の隅々に視線を走らせる。表情乏しいの裁判長の顔が王子に感銘を受けた驚きの為か弛んで見えた。
地獄の使いは発言を許されており、王太子の言葉の後喋り出す。
「ご存知の通り私は人間です。その長い時間を生きられましょうか」
「ならばローレシア壊滅を目論んだそなたの仲間を見つけて、罪罰を継いで貰う」
少し語調の強いローレシア王子の目はこう言っていた。
(私の国の悪は、私が捕えてこの牢に繋ぐ)
その目に見送られ、地獄の使いは長年暮らした牢である開かずの間にただ護送されて行った。
人間だからこの神父は罰を受ける事、裁判を受ける事が出来たのだ。
だがその判決は余りに早く、一日で決着が付いてしまった。その早さの事をサマルトリアの王子が裁判長に尋ねるとこう答えが返る。
「王太子様はあの神父の事、7、8年来でしょうかお調べになってお出ででした。よって判決、判断は誰よりもお早い。そして的確です。ローレシアの法を熟知された矛盾と隙の無い裁きでした」
少し高揚しているらしい裁判長は恭しく頭を下げ、サマルトリア王子の前を辞した。
225名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/30(土) 03:29:46 ID:/2Yn8rCP
懲役264年とは、地獄の使いとなる前の神父の罪業に付いては振れていない。あくまで魔物と化しローレシアを襲ったローレシア国民に与える罰である。
神父は無実の様だった。それを立証すると捕えた側の王(先代王)を責める事となるので、神父の扱いには細心の注意を払い「本当に無実なのか」果てしない探求を役人達は続けていた。
そんな時王位が降りて来たのだ。ローレシア王太子は王威を自らの心と威光で守る。王族の失点を広めたにも拘らず国民から疑われるどころか逆に信頼される結果となったからだ。
自ら(ローレシア王位)の過ちの為に、何年も戦い続ける王子など誰も見た事などなかったのだ。
「スター様が王となり、その御世に終わりが来た時ローレシアは抜け殻の様に寂しくなるでしょうな」
裁判長はそう微笑んでも居た。
226名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/04/30(土) 03:44:21 ID:SXx5jDPH
ドラクエシリーズの中で一番好きなのは?
http://www.37vote.net/ffdq/1099981809/
227名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/04(水) 02:59:50 ID:Lf12+EF8
ダイ王子は(王だな)とローレシア王子に思う。そして私の居場所では無いなと感じる。サマルトリア王子は国家の君主とは成らないのだろう。
ローレシア王子は高尚で心優しく威圧感も温かい人だ。明王の強さ、厚みがある。
サマルトリア王子にも鋭さや迫力があるが自由もあった。ローレシア王子なら持て余してしまいそうな自由を軽く謳歌するサマルトリア第一王子。
お互いがお互いを自分の体の一部の様に思い、自分自身の様なローレシア王子とサマルトリア王子、ムーンブルク王女だが深い絆は絆として全く違う人間だった。
228名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 03:41:48 ID:dgnQeqjO

「私は敗れた囚人。この杖が必要とも思えません。持って居ても詮無い物。さぁ」
と地獄の使いは雷の杖を差し出した。
鉄格子の外に立つ厳しい表情のローレシア王子はその杖を見詰めて見定める。
杖を手に持った王子はこう男に尋ねた。
「人間だった頃の事は、思い出せないのか」
「貴方の事は覚えて居ますよ」
「いや、私と初めて会った時からそなたは地獄の使いだった」
彼はこの牢の中、獄中で地獄の使いとして覚醒していた。私は人間だったそなたの無実を証明して見せたがこれ程に魔物と成って居ようとは。
「私へのお心遣い無駄骨でした。生きると言うのは無駄骨の積み重ね。生き抜いて振り返った時も又、そこには無駄しか在りますまい。無意味ばかりがこの世でございましょう。
殿下……。私の長い罰は誰に継がせるおつもりですか。この件私に仲間など居りません。私には息子が居りますがその者に継がせますか」
凛々しい顔のまま沈黙のローレシアは地獄の使いを凝視する。
229名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 03:44:31 ID:dgnQeqjO
「殿下。私は手も足も出せずに敗れると解っていたのに、それでも戦った。
永久の平和である“死”の為に、私はきっとこれからも戦う。
貴方も貴方の思う平和の為に戦うのでしょう。
どうせ死んで行くのにそれぞれの平和を求めて、その道行きで意に反する者は縛り付けその果てに戦場に辿り着く。
哀れです。私も貴方も」
ローレシア王子が地獄の使いに背を向け、歩き出すと王子の赤い衣は優しく揺れた。
そして何度も何度も閉められる厳重な扉。強い金網、厚い土塀、その奥に地獄の使いは閉じ込められた。
「罪の無い者は牢に入れん。そなたの子、捕えるとすれば罪があった時だ。
だが懲役264年は本当だ。そなたの罪の重さだ」
最後の重い扉が閉まり、歩み続ける赤。地獄の使いの視界から聴覚からローレシア王子は消えた。
(そう言えば、ハーゴンも人間だそうだ)と王子は思う。ああした神官の姿のモンスターは大概元人間である。
この世のどこかに居るハーゴンの気配を感じて、ローレシア王子は勝てると思う。だが邪神を復活させられたらその神は得体が知れない。どう攻める。攻略は。
王子は哀れと言われたすぐ後に戦いの事を考えている自分に気付いた。
230名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 03:49:07 ID:dgnQeqjO


地獄の使いは牢に閉じ込められて居るだけではない。サマルトリア王子ムーンブルク王女の魔力に縛られ戦う事が出来ない状態で捕えられていた。
「しかし私が死ぬと魔力は消えてしまいます」
絶対の力は約束出来ないと魔法の主力であるムーンブルク王女は言う。
「あの神官より先に、姫にもしもの事など有りますまい。この戦いでも貴方を危険にさらしはしない」
とローレシア王子は王女に約束してくれた。
「大丈夫です」
サマルトリア王子も頼もしく微笑んでくれる。滅びの国の王女は二人の王子に微笑みを返した。

「今日のうちにローレシアを出る。もう宿も決めていてルーラでそこへ戻る」
重臣達とのささやか酒席で、ローレシア王子はそう言った。
そうですか、さすがは殿下。とまだこの時臣達は笑顔でいる。
231名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 03:53:11 ID:dgnQeqjO
「ハーゴンは人間であると御聞き及びでしょうか」
ラウンジのカウンター、壮年の役人が王太子と二人の空間を作ってその王子に話し掛けた。
「魔物達の討伐の事を“駆除”と申す者が居ります。そんな劣悪な口からさえも殿下は“人殺し”と呼ばれ兼ねない」
この言葉は素早くその場に広がり、王太子との空間を重臣皆が共有する。
「殿下をそんな旅に行かせなければ成らなかった事が悔やまれます。情けない、私達には力が無い」
「なぜ貴方が行かねば成らない。貴方の如き王太子をただ一人で戦場に向かわせて恥じ入るばかりです。口惜しゅうございます」
今まで耐えて来た憤懣と言うものが、大臣達の中で小さく爆発していた。
「“なぜ”と問うてはならん。与えられた仕事に運命に義務に、答えて行けない者に権利も自由もない。
暗くなるな。私も辛い事がある。ローレシアから離れ皆を置いて行かねばならなかった」
今はもうローレシア王子の声の他、この酒宴に音は無い。
「なぜ皆、他国の者さえ私を称えるのか。それは臣下がそなた達だからだ。私は部下に恵まれた。
お前達がここに居るからローレシアを出て戦える。頭を下げるべきは私なのだ」
そして王子は深々と頭を下げた。重臣達は最敬礼でそれを受ける。
沈黙の酒宴はこうして終わりを告げ、王子の明るい声でもう一盛り上りするとその声の主は出立して行った。
この人の下で働けるのかと、ローレシア王子に打ち震える臣下は今日の席でも続出したとか。
232名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/07(土) 14:28:01 ID:9G11JeNU
このスレっていったいなんのスレなの?
233名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/09(月) 02:46:10 ID:3GwwXMeB
何か書いたり描いたりするスレ。雑談とか質問応答とか何が起きても良いけど今の所何も起きてません。
公共の場を使い今私が書いていますが、自分で何をして行くか決められる人が勝手に進めて行くスレです。
自分でも絵を乗っけようと思ってますがあくまで予定です。
「DQの周辺」だから、DQから少しズレたレスが良いように思います。でもDQど真ん中でも何でも良いスレです。
234名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/10(火) 17:01:25 ID:iItQWnIb

マドハンドの大群などはローレシアの剣よりも一掃出来る雷の杖が良い。戦い方の問題だ。
ローレシア王子雷の杖を振るうと
ズシリと鈍い圧迫を感じる。仮であるがこれが魔力を放つと言う事か。
サマルトリア王子にこの感覚か? と問えば
そうだと言う。いつもだと。
(全く違うんだ)
ローレシアは剣を振るう時、体は魂ごと軽くなって弾ける感覚があるのに。
サマルトリア王子、ムーンブルク王女、あの地獄の使いともローレシア王子は全く違っていた。
235名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/13(金) 04:22:36 ID:97xL2Jtf


ローレシア王子は邪神を倒し、ローレシアに帰還。
赤いマントを翻しスターは又この牢獄に訪れる。
「あちらの御仁はどちらのお方で」
「先日の王太子殿下。ローレシア国王陛下に在らせられる」
「お若く在るのになんと立派な大王でございましょう。あぁ、一度お声をお聞きしたい」
「良かったな。本日そなたに陛下がお言葉を下さるのだ」
牢番からその言葉を貰った神官のときめきがこちらに透けて見えるようだった。
236名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/13(金) 04:24:40 ID:97xL2Jtf

「今度は地獄の使いの頃の記憶を無くしたか」
そのように。と牢番は王に答える。
ハーゴンが倒れた時、地獄の使いは又変化していたらしい。ここ十数年間の記憶を無くし彼は人間に戻った。
人間の彼と、スターは初めて会う。曲がり角から姿を現わそうとする王の優雅な指先を見た瞬間に神官は叫んだ。
「陛下! 私の罪をどう思し召しか!」
今までこの心の本当を語りたいと思わせるローレシア王は居なかった。そんな勇気を起こさせる王が無かったと言って良い。
この男に殺されたいと思えて叫んだ。
「私に罪があると言うなら、ここでこの首斬り給え!」
私は無実と言う自信がある。しかし王は私の罪を罪と言える自信があるのか。長々とこの牢に留め置いてどう言うお心積もりなのか。神官は一気呵成に叫ぶ。
この神官正義の男と言って良い。なかなかしたたかだが良い男であろう。(王の声を聞きたいとは“王の声が聞こえる距離ならこちらの声も王に届く”の意味合いもあった)
237名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/13(金) 04:28:46 ID:97xL2Jtf
だが、地獄の使いの時に語った言葉がこの男の真実かも知れない。あれこそが本音でいつ又目覚めるかも知れぬ。それでも、
(そなたを許す。そなたを解き放つ)
息子も一人立ちしたし、もう思い残す事はないと神官は颯爽とした覚悟の様子だった。
(これから、死ぬも生きるもそなた一人で大丈夫なのか)
もし又魔物と化しても、又私が戦う。しかし戦う相手を間違えてはならん。私一人に挑め。他を傷付ける事は許さない。
又魔が荒れ狂っても退治する。抑制させてみせる。罪を犯せばまた罰を下そう。
ローレシア王は牢屋の錠を外し、男を放つ為に扉を押し開けた。新しい神官と新しいローレシアを見詰めて。
238名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/16(月) 00:41:10 ID:zZfaVIP3



ハーゴン討伐その旅の途中。ルプガナの福引にムーンブルク王女が夢中になっている頃サマルトリア王子とローレシア王子は酒場に居た。
「人間に化けている魔物の正体を見破るそうです」
「そんな人が居るんですか」
で、その女性はどこに? サマルトリア王子はぱふぱふ娘の顔を知らないらしく酒場の中を見回した。
「いや、いま少し奥で待たせています」
そう言うローレシア王子の腕をサマルトリア王子は肘でズシリと押して来た。
「後で報告を」
期待されても。
「私は殿下の全てに期待してますから」
と、サマルトリア王子はその小さい体の中に強い酒を押し込んで楽しそうな笑顔を見せた。
この爽やかで明るいサマルトリア王子、150cmと小柄だが196cmのローレシア王子と同等の成熟した体を持って居た。
(王子、表情がいやらしいぞ)
しかしサマルトリアにそう思うローレシア王子は今、女の服を脱がしてた。
女にその手の動きを(素早いなぁ…)と思われつつ、あっと言う間に彼女の上半身を素肌のみにする。
上品な顔して…貴族ってこんな事ばっかりしてるのかと、女が声に出していたら王子は「心外だな」と笑うかも知れない。
239名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/16(月) 00:43:10 ID:zZfaVIP3
女にその手の動きを(素早いなぁ…)と思われつつ、あっと言う間に彼女の上半身を素肌のみにする。
上品な顔して…貴族ってこんな事ばっかりしてるのかと、女が声に出していたら王子は「心外だな」と笑うかも知れない。
この道は王位にはとても大事な嗜みであるが彼は自由にしてみた。商売する女と言う事で自分は今客だ。ぱふぱふとは何なのか王子は女に尋ねてみた。
上半身だけと聞くと王子は頷く。わかったと言う。女は(この客絶対貴族だ)と思う。品の良さが普通の男とは比べられないものを感じた。
眼差しもしっかりとして…若いけど裁判官か何かかしらと。
ぱふぱふの形に乗っ取ると、この男女の身長差は無理があったので女は椅子の上に乗って男の肩を抱いた。
宿屋の二階。夕暮れの橙の光の中で女は深く何度も息を乱した。たまに椅子から足を踏み外しそうになるのを男が心配する。
「こうすれば、椅子は要らない」
と男は女の腰をヒョイと抱いて、共にベッドの上に雪崩れ込んだ。
「ダメ。上だけ」
「解ってる」
口付けも駄目と言う。その時女が可愛い声を上げたので王子も息を深く吸った。
と、王子の下腹に女の“何か”が当たった。
(ん!?)
隆々としたこれは…。女の胸を胸に抱いている王子は、彼女の目を見詰めた。
彼女の方は「あぁ…」と蒸気した顔を下げて自分の隆起した物を見遣る。
「これでね、嫌な客にはこう言うの“あたしが男だからってそんな事しなくて良いじゃない”」
王子は女から胸を少し離して(まさか)と驚いた様子だった。
「…女だろ」
「胸を見て」
確かに立派な乳房だ。ローレシア王子の大きな手にぴったりとはまって丁度良い。
240名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/16(月) 00:48:29 ID:zZfaVIP3
ではやはり女か。乳房か“これ”のどちらが偽物だろうか。
「どっちもあたしの体」
こう言う体の女も居るって事よと言う。王子は「はぁ」と感慨深げである。
「これで中断出来るね。お客さん別の事考えてたでしょ。
本当はぱふぱふする必要なかったんでしょ。いいよ好きにして。本当の用事は何?」
「すまなかった」
「いいよ」
王子はベッドに横たわる女から離れて椅子に座った。そして窓を指差す。
「今外に男が二人居る。人間と思えるかどうか」
「……魔物」
「やはりな。そうであろうよ」
「あら、お客さんも解るのにどうして聞くの?」
「貴方ほど明確じゃない。人間の振りをした魔物とのやり取りは確かな自信がないと行けないので。
貴方はその能力をどこで?」
「ちょっと野性を取り戻せば誰でも出来る事だと思うよ。あたしの場合小さい頃から自分が何者なのか考えてたから。男なのか、女なのか。
まぁだから半分半分になってるモンスターの気配がわかるのね」
241名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/16(月) 00:51:59 ID:zZfaVIP3
貴方の人生嫌な事も多くあったろうと、そうした事を王子は女に尋ねる。
「そうだね。嫌な事もあった」
「貴方の力で私は何に見える?」
「ハハハ。人だよ。王侯貴族の方かしら」
女は男の正体を見破った。それはこの女でなくても無理無く感じ取れる真実である。
「その通り。だから貴方を一晩の単位で買おう」
王子は人知れずおどけている。王子のくせに王子の振りをしている。
「やった。高いよ」
「いくら」
「んーと」
その途中、外から女の悲鳴が上がった。ローレシア王子と娘が窓から身を乗り出して外を見る。
「居た。ほら、造船所の方」
王子は女の声の終わらぬうちにGを袋ごと渡し窓から地面に飛び降り、夜のルプガナを駆けた。
ローレシア王子は魔物を捕まえて拳で殴り付けて居る。腕の運びが美しい。
女は窓辺に肘を付き、椅子に膝を付き四つん這いのような形で下着も丸見えで男を見ていた。
その王子は一人、素手で勝ってしまった様子。
女は先程まで王子の居たベッドにゴロゴロ転がった。
242名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/16(月) 00:53:41 ID:zZfaVIP3

こうしてローレシア王子はルプガナの造船所の娘を助け出す。
「ありがとうございます。なんとお礼を言って良いか…。お名前を聞かせて下さい」
「いいや、名乗るほどの者では」
その時娘は通り掛かった小さな老人に取り縋った。
「孫を助けて頂きありがとうございます」
老人は娘の祖父らしく、男二人(グレムリン)が孫に近付いたり船の構造を勝手に盗み見たりして困っていた様子だった。
「そんな船で良ければ差し上げましょう。荒波には負けません」
「私に?」
「貴方だからこそ。どこぞの貴族のお方ですか? お名前をお聞かせ願いたい」
「失礼。そんな様なものです。ローレシアから参りましたスターと申します。お心遣い光栄に存じます」
「素性は隠せませんな。私も最近あの男共モンスターではないかと思っていたのです。いやに腕っ節は強いし参っていた所を本当に助けて頂きました」
ありがとうと老人は頭を下げる。この男も勘が良い。この老人がスターに船を献上した事は最も勘に優れた行動と言える。世界を救う男の役に立ったのだ。

ぱふぱふ娘は宿から外へ出て、帰って来るローレシア王子と宿の入口で再会した。
「船を貰う事になった。交渉の話は面白いから聞いてみるか?」
女は王子の声に頷く。
「それから…このくらいの背で赤毛の、涼しい目が少しつり上がった男が来る。垢抜けていて、すぐにわかると思う。
その男には見付からないように、隠れて見ていて欲しい」
243名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/18(水) 03:50:33 ID:ELyxYnjQ
サマルトリア王子に対し「その男」なんて言い方を……この人の前ではもうする必要は無かったとローレシア王子は気付いた。
この人にも自分達の正体を言おうと思う。
船着場近くの狭い倉庫の中、窓から顔を出す女は造船所と王子達の話に付き合った。こんな世界があるのかと感動しているうちに女は時が経つのを忘れていた。
それに加えて倉庫の中の珍品も彼女の目を飽きさせなかったし、ウミウシの子供が迷って這って来た時は「可愛い」と声を上げる所だった。
船をすっかり手に入れたローレシア王子が彼女を迎えに来る。もう何時間も経っていると聞いて女は驚いた。
スターはウミウシを初めて見る。善良な子だったので優しく捕まえて彼の手で海へ返す。子は嬉しそうにパシャパシャと沖へ向かった。
「この隠れ場所は船の頭(老人)が教えてくれてね。知らぬはあの方ばかりだ」
「あの方?」
「さっき赤毛の男と。本当はこんな言い方は許されぬ程高貴なお方です」
「お客さんも貴族でしょう? そんな人達がこれだけ戦う力を持って何してるの?」
旅の目的を女は尋ねる。それだけは今真実を伝える訳に行かなかった。それでも王子は丁重に彼女を家まで送る。
244名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/18(水) 03:51:32 ID:gLsmQ7Fk
何だこの糸瓜売りな良スレ?
245名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/18(水) 03:51:42 ID:ELyxYnjQ

「貴方は私の事を貴人だと仰ったが、実は私はローレシアと言う国の王子。立太子も済ませてある」
二人が歩く外はもう朝朗け。薄暗さの中に深い霧が立ちこめて妖しく美しい朝だった。
「私の妻にならないか」
強い風が吹いて、道先の霧が少し晴れる。じゃあ王妃になるの? あたしが? 彼女は王子に尋ねた。
「貴方が望むなら是非に」
王子の爽やかな顔を見て、女は迷ったけれどこう言った。
「あーぁ、せめてあなたがただの王子で一生王位に就かなきゃなぁ」
贅沢な暮らしを送り名誉も権威も沢山あって、王程の責任も無くて。
成る程とスターは笑った。
「貴方を私の国へ連れて行きたいと思っているのだが」
王子は微笑みながら決断は彼女の自由に任せている。
「あたしだって、あなたとこれきりって嫌だけど…」
朝になって逆光で、女の顔が王子から一瞬見えなくなった。
246名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/19(木) 04:57:45 ID:n6lNihoM
誤爆?
247名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/19(木) 04:58:46 ID:n6lNihoM
>244 誤爆?
248名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/19(木) 05:01:28 ID:n6lNihoM
ぱふぱふ娘と別れたローレシア王子は先程まで共に居た王子を探す。サマルトリア王子はまた酒場に居た。
「造船所の女の子。可愛かったですね」
彼がそう言うとローレシア王子は頷いた。
「殿下、先程まで話をしていた人がぱふぱふ娘でしょう。私もこの窓から後姿は見ましたよ。格好良かったですね」
ローレシア王子はサマルトリア王子の言葉に穏やかな笑顔を見せると、今後の旅の話し合いを進めた。
女の話ならあの船の女の事が多い。「確かに可愛かった」と。
「でしょ?」
サマルトリア王子は(あの娘の事はとやかく聞くまい)とローレシア王子のムードに従い、長く美しい煙管をきゅうと吸った。
「やめようと思えばいつでもやめられるんですけどね」
煙草の類を言っている。吸っても吸わなくても良いのだと。
旅の為に酒も煙草も女もやめられる男である。
「私は旅の途中で女の子と遊ぶのは逆に駄目なんですよ。体や魔法の調子が悪くなりますから」
ローレシア王子は思う。サマルトリア王子はああした女(さらにあの体)をきっと面白がるだろう。ぱふぱふ娘は隠してしまいたいと思った。渡したくないと。
しかしそれも今となっては余り意味の無い思いである。
結果として婚約が微妙に上手く行かなかった。あらかじめ(彼女を)奪われるかも知れない心配をして取り越し苦労も良い所だ。
サマルトリア王子は、旅だろうといつだろうと頑健とした男で居るローレシア王子に尋ねてみた。
「好きな女の人は居るんですか?」
サマルトリア王子に問われて彼はなぜか一人の女性を思い出した。
サマルトリア王女、彼の妹である。
249名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/21(土) 02:32:13 ID:CTRJ8jET
初見から好ましい女性ではあったが旅が進むにつれて彼は彼女に深く思い染めて行く。
たまにサマルトリアに入国して彼女に会ったりしているうちに…彼女と夫婦になれたら良いと後に彼は思い始める。
ルプガナ到着当時は妻にしたいと思い付いてもいない。
だからぱふぱふ娘への諦めと失恋はサマルトリア王女への思いと関わりはない。ローレシア王子には「いつか王妃になりたいとか、王妃になっても良いから貴方と居たいと“思うかも知れない”」が通用しなかった。
今答えをくれ。もし今夜答えをくれたら王子は後にどんな女が現れても、生涯彼女だけが女だったのに。
好きな女が自分の思いに応えてくれるなら、他の女はおもいきり翳んで見えなくなる。
ぱふぱふ娘は自分の思いに誠実に答えてくれる人だとローレシア王子思ったのに…。彼はこの度、自分の眼力や彼女の人となりは疑わなかった。他に何かあるんだろうと王子も真実を見抜く。消化不良のまんじりともしない別れとなった。
250名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/21(土) 02:34:48 ID:CTRJ8jET

王子と女の別れ。本当にサマルトリア王女と関わりが無かったのだろうか。
ぱふぱふ娘には未来も見えてしまう。彼は何か(サマルトリア王女)に出会い…。その時自分が彼の妻だったらと思うと…。
(あの王子に運命の恋を経験して貰いたいしね)
好きな男に物凄い世界を見せてあげたいなと思った。…あぁでも彼と×××はしたいなぁ。野性的なのをおもいっきり。一回くらいチャンスないかなぁ。とにかく
「今すぐにでも王妃になってみよう。嫌だったらやめれば良い、王子好きだから試してみよう」
と言うのが彼女の本音だが、そんな色良い返事を彼に返しはしなかった。その野性の力で未来を少し見てしまったから。
(見え過ぎちゃって困るなぁ)
女はずっとやめていた煙草に火をつけようとした。すると小さい男が流れるような動きで彼女の煙草の先に火をつける。
「その銘柄は昔試しましたが私には強くてすぐやめてしまいました。子供なんですかね」
火のしまい方、声の渋い男である。
その朝の酒場に、ムーンブルク王女がやって来た。彼女の美しさと幼さに酒場は少し静まる。
サマルトリア王子もその場所によって爽やかな15才の少年になるが、酒場などでは目付きも変わって小さい成人男性であった。
251名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/21(土) 02:37:19 ID:CTRJ8jET
(切ない事にローレシア王子15才はどこに行ってももう少年には見えない)
そのサマルトリア王子、今はムーンブルクの王女と手を取らんばかりに喜び合っている。
「ゴールドパスを貰いました」
「凄いぞ王女」
福引場で王女は美しい羅刹の如く燃え、勝負して、このパスを手に入れた。
「スター殿下の元へ行きましょう」
「はい。スター様はどこへ」
「小1時間前から船で寝てますよ」
「船って何の事ですの?」
そうだ、話す事が沢山あるんです。
何でしょう。あぁダイ様、私一睡もしていませんわ。
ハハ、殿下と一緒ですね。行こう行こう。
と、二人は隻中へ。「そしてまず王女も眠って下さい」とサマルトリア王子は明るく優しい顔を見せる。
ムーンブルク王女の肩に軽く触れ店の外へ出掛けたサマルトリア王子に、ぱふぱふ娘は言葉を掛けた。
「可愛い娘ね。大事にしてあげてね」
サマルトリア王子は女を見返り微笑んで頷き、前を見てもう振り向かなかった。しかし
(憶えたぞ)
とぱふぱふ娘の顔を心に浮かべる。(この王子は知らないけれど)ローレシア王子が隠したかったあの女を。
旅が終わった時、サマルトリア王子もこのルプガナへ遊びに来るだろう。
252名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/23(月) 04:58:44 ID:ZlQgJEW7


ルプガナから船に乗って岸を離れようとするだけで、その行く先の海路に大陸を望める。
かつて勇者と最強の王が居たと言うもう一つの聖地アレフガルド。
253名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/26(木) 03:07:17 ID:P8uFtwvJ
船は既に、王子王女の物らしく品の良い設えに姿を変えており甲板に取り付けられた大きな日傘の下で三人は朝食を取って居た。
サマルトリア王子はスープで喉を潤しながらローレシア王子を見る。彼は伏し目がちで静かだった。
今朝会ったぱふぱふ娘がローレシア王子と一夜共に居た人なら…そんな人を傷付けたり困らせたりするサマルトリア王子ではない。好奇心旺盛な彼だがローレシア王子に対する尊敬は深い。
ローレシア王子は生れて初めてのプロポーズが失敗した今日、傷付いている自分に気付く。サマルトリア王子ムーンブルク王女に悟られない程度だが心が優しいばかりになって少し沈んでいた。
ローレシア王子は信じられない重さの錨をヒョイと片手で担ぎ甲板を歩く。その時船の雑用を引き受けてくれている魔法の人形の中に妙な気配を感じた。
ローレシア王子は殺気を込めた低い声で人形達に話掛けてみた。一体だけ妙な動きをしている。
泥人形はローレシア王子の力強さと戦士らしい声に刺激されたらしい、食事のテーブルに着いている二人の男女と錨を持つ男に襲いかかって来た。
254名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/26(木) 05:20:06 ID:P8uFtwvJ
最初の標的はサマルトリア王子とムーンブルク王女なのか、泥人形はテーブルに飛び乗ろうと跳ねる。
ローレシア王子はそれを素早く追い、錨ごとテーブルを持ち上げ“食べ物を粗末にしてはならん”キックを泥人形に炸裂させた。
その蹴りのあまりの重さと強さに泥人形は吹き飛んでしまう。
ローレシア王子は持ち上げたテーブル上のスープすら溢さない。まさに神業の蹴り。
泥人形は衝撃に体がバラバラになって、塵となり掻き消えそうになりながらも不思議な踊りを踊った。
サマルトリア王子ムーンブルク王女はその動きに悪い予感がして目を逸らす。しかしダイ王子が甲板に膝を付く。
サマルトリア王子が脱力して立てなくなっている側らをローレシア王子が駆ける。海に落ちて行った泥人形を追った。
海水に纏わり付かれながらローレシア王子は泥人形を獲捕。その木の首を胴体から切り離した。
後に残ったのは首が離れたニッコリ笑う木の人形。
「申し訳無い……気を付けます…」
サマルトリア王子は体中を怠惰に襲われ弱り切って呟いた。(セクシーだ)とローレシア王子に確認されムーンブルク王女にときめかれる小さい男である。
255名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/26(木) 05:22:19 ID:P8uFtwvJ
泥人形はあのルプガナのグレムリンが忍び込ませて居たのだろうか。笑顔の可愛い人形を暗殺者に変えるハーゴンの呪い。
その時船の下から巨大なウミウシが現れた。このウミウシで三人を一網打尽にするハーゴンの計画か。
しかしウミウシはひたすらローレシア王子に懐いて可愛いのだった。音も無く善良な怪物だ。あの夜出会った胸の大きい女も探している。
「まさかあの時の?」
ローレシア王子の声に返事らしい返事もしないが、否定もしない。
昨日の今日でそんなに育つと驚くではないか。ローレシア王子はそう言うが、ローレシアの地獄の使いも王太子の成長を見た時は驚くのだ。
ウミウシはハーゴンの呪いに出会う前にローレシア王太子に出会いそのオーラを享受していたし、断然ローレシア王子の方が好きだからハーゴンの力を軽く跳ね除けてのびのび生きている。
(そなたのおかげでルプガナは良い思い出だ)
王子はウミウシに微笑んでみた。するとウミウシはアレフガルドまで案内してくれて終わるとヌラヌラと海に帰って行った。
256名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/28(土) 02:41:46 ID:IMGumrhu

アレフガルド大陸は近寄っただけでその空気、土から音楽が聞こえるようだった。穏やかで眠たい感触の優しい音。
その昔勇者ロトと戦った大魔王に捧げられたモンスター達の歌声である。
この歌をいまだに捧げられている王がこの島に居るのだろうか。ウミウシが勇者達につい紹介したくなるような王が。
ロトと戦った大魔王。そのテリトリーに入ると、この曲は激しく音色を変えて極上の戦闘曲と化した。ロトだけが聞く事を許された大魔王の音。実はこの大陸の広野を行く時にいつでも流れている優しい音楽だった。
257名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/29(日) 22:44:15 ID:ssP2Wqds

ローレシア、サマルトリア、ムーンブルクの故郷。ラダトームへ三人は到着した。
王は失踪中。
なぜか? と三人の王子達が尋ねると「いやはや」とラダトームの臣は適当に答える。
王は心の病であると答えた者も居る。その声は正直だった。更に深く探った王の真相は
「ハーゴンを怖れるあまり王様はどこかにお隠れになりました。情けない事です……」

「こんな所まで来るとは仕方のないお人だな。わしはただの武器屋の隠居じゃよ。かっかっかっ!」
金の鍵を手に入れて、ラダトーム王に初めて会った時のムーンブルク王女の動揺と衝撃。
(お父様…)
ラダトーム王の涼しげな美しさは、自らの城と共に滅んだムーンブルク王に良く似ていた。
王女は両手で口元を覆い、まるで嘔吐を堪える様に走って武器屋を後にした。
ローレシア王子とサマルトリア王子が王女を追う。王女ははぁはぁと息を乱して武器屋の外で蹲っていた。
「陛下に…似ていたものですから…」
そうか血の繋がりもあるから似るだろうなと、王子達は王女を慈しむ。
父が生きていたらどんなにかとムーンブルク王女は思う。弱音や甘えとは違う切実な願い、祈りだった。
どれだけ醜い生き方をしようと、どんなに哀れであろうと、生きてさえ居てくれたら……
いや、こんな思いはきっと間違いなのだ。あの父が豹変してしまったらもう尊敬は出来ない。
ムーンブルクの陛下が好きだ。自分の目の前で戦って死んだあの父が好きなのだ。
258名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/30(月) 02:12:59 ID:O9LJl9a8
本当なら戦いの旅にはローレシア王子とサマルトリア王子と……ムーンブルクの王が出る筈であった。ムーンブルク王の素晴らしい強さ。
その証拠の様に、ハーゴンは最初に最強のムーンブルクを襲った。
良く晴れた暖かい日にモンスター達がムーンブルクに向かっていた。勿論その気配に最初に気付くのはムーンブルク王。
「南の門を閉めよ。神官は決して入れるな」
王はハーゴンが神官である事さえ見抜いていた。命令をした筈の王が直々に南門へ向かう。
黙って座って居られぬ戦闘力がやって来る。
ハーゴンが来た。
白い法衣を纏い百体程のモンスターを連れその最前列中央に立ち、堂々と肩を揺らし進む魔物の大神官。
「止まれ」
城門の高楼から王がハーゴンに命ずる。ハーゴンは王を見上げながら止まり、モンスター達も歩みを止めた。水を打った様な静けさが城門周辺を支配する。
「邪悪な気だ。このムーンブルクを滅ぼすつもりが無かろうと、そなたを生きて帰しはしない」
「そうムーンブルクを滅ぼすつもりはない」
259名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/05/30(月) 02:14:37 ID:O9LJl9a8
ハーゴンは確かに城下町を荒らすなどと言う事はしなかった。城下の人々がハーゴンを撃退しようとしても良さそうなものだが、普通の人間は話し掛ける事すら出来ない程のハーゴンの高貴さと恐ろしさであった。
「ムーンブルクは驚異と思わぬ。標的は大王一人」
その声が終わると王は部下に、国民に命令した。
「逃げなさい」
臣は反対する。しかし王は「私が敗れた時の事を考えておくれ。人が生きていればまた国は建つ」
「お行きなさい」
王の声は穏やかな朝を迎えた時の様に優しいのだった。役人や国防の兵士達の中でさえ「あぁ、そうするのが良い事だろう」と感じ入る者が続出する。
王の優しい声に従う者達が走って逃げて行った。怖気づいた者も居たが、殆どの者が胸に希望を抱いて駆けて行く。
偉大な王の孤独と強さ、深い優しさはいつもの事だったがこの緊急事態において透けて見える程強く輝いた。
王は高楼を降りた。ハーゴンは高楼を昇った。階段の途中、王と神官は至近距離の対峙をする。
260名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/02(木) 03:13:17 ID:tzbfYGEa
ムーンブルク王に勝算はあった。
実際にハーゴンの拳が自分の頬を打とうとした時、王は簡単にそれを避けハーゴンの間合いに入った。
近くでよくよくハーゴンの顔を見た王は思う。
(若い)
261名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/03(金) 22:19:03 ID:IwUyf4Ej
そして戦い慣れていないと見て取った。
王はハーゴンの背後に回りその腕で白い法衣の首を絞めた。
ハーゴンもなかなか力強いのだがムーンブルク王はそれを凌ぐ。
魔法力の王である筈なのに腕尽くの戦いでも主導権を握る。相手がハーゴンだろうと。
確かにハーゴンは成長の余地を残していたが、今戦闘力の高位者はムーンブルク王。
ハーゴンが最強と思った王である。まさかこれ程までの強さとは。
そしてハーゴンはローレシア王子(当時14才)がムーンブルク王に腕力体力で勝っていると気付かずに居た。
ハーゴンは足掻いて飛ぶ。階段踊り場の壁を打(ぶ)ち破り飛翔。ムーンブルク王はその首を離さず共に飛んだ。もうすぐハーゴンの息の根は止まる。離すつもりはない。
ムーンブル国内の部屋と言う部屋の中で一番広いだろう王室へ、ハーゴンは苦しみながら着地した。
喘ぎながら伸ばす神官の腕から、その鋭い爪から、ムーンブルクの玉座は遠い。
262名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/03(金) 23:03:38 ID:yMjpQ4gs
誰か在日を追い出して、半島を焼き尽くすRPG作ってくれんかなあ。
それはそうと、関係ないけど、これ、すごいね。

筑紫の反日・売国的態度も、もともと「朴三寿」君だったということなら納得できるね。
この国はものの見事に、在日や半島人、そして彼らの工作を何も考えず
信じ込む知能の低い左翼(思考能力なし、想像力なし、自己懐疑能力なし)によって
壊されている訳だ。

498 名前: マンセー名無しさん 投稿日: 2005/06/03(金) 17:33:14 ID:LYjrMSTi
>>495
間違いが判明してる部分を直したもの↓。他にも修正箇所が発見されるかも知れん。

★帰化人のかつての本名★

【朴三寿】元朝日記者、共産キャスター、『朝日ジャーナル』元編集長。→筑紫哲也
【崔泰英】「南京大虐殺」虚報の中共工作員記者、他捏造多数。→本多勝一
【□□□】赤軍派。日本赤軍の資金源「ピースボート」の元代表。→辻元清美
【韓吉竜】 マルクス経済学オンリーの反日極左評論家。→佐高信
【△△△】反日活動、言動多し。→永六輔
【趙春花】中核派、夫婦別姓、家族解体、嫡子庶子の無分別。→福島瑞穂

★帰化しない人の本名★

【○○○】土井の秘書。→五島昌子(これは通名。元社青同活動家の話より)

★帰化二世の、本来の本名だったはずの名前★

【李高順】ソ連から指令と資金を受け日本赤軍に指令と資金
を出していた日本社会党の元党首。北朝鮮に親族多数。→土井たか子
【成大作】(ソン・デチャク) 帰化二世。父の本名は成田作(ソンジョンチャク)、母方の姓は池(チ)。
 在日への選挙権推進、韓国での反日活動の実績。→池田大作
263名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/04(土) 02:35:19 ID:4lActhCY
>>261
ムーンブルク王は確かに強い。しかしローレシア王子14才に比べ部下や国民との関係は乾いていて王子と比べると孤独な王である。そして孤独が嫌いではない性分のムーンブルク王であった。
「陛下!」
「あぁ姫殿下、お早いですね」
彼の娘。ムーンブルク王女は西の地下室に居た筈なのに随分早く走って来たものだ。
「走り去った者が多く。解き放したのですね」
「そうだ」
「私ここに居りますわ」
「ああ、居ておくれ」
ムーンブルク王は笑顔で言った。もう王に取ってハーゴンを倒す事は、城の中に迷い込んで来た子犬を庭に放す事くらい簡単だった。
簡単だったのだけれど……人々を去らせたのは何故か? 消えない疑惑の為だった。
自分の強さへの疑惑。ハーゴンの持つ迫力への疑惑。
ハーゴンは邪神を呼び出す大神官である。
(今ここで呼べるものか)
王は思った。ハーゴンは魔物としては幼過ぎる。だがなお残る疑惑。
264名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/04(土) 02:38:14 ID:4lActhCY
王に首を絞められているハーゴンはイオナズンを放った。王には効かず彼の涼しげな顔の前で爆音は静かに掻き消えた。
(私の、呪文が!)
(さぁ、冥界へ逝け)
180cmの優男、だがしっかりと逞しいムーンブルク王の腕に首を絞め付けられて同じ背丈のハーゴンは息が出来ない。
(負ける、このままでは死ぬ)
ハーゴンの焦りと動揺は脈拍となってムーンブルク王に悟られる。
(私は復活させると、約束した。今私が死んだら神よ、貴方は目覚める事が出来ないのです。力を御貸し下さい。貴方の力を。
邪神シドーよ与え賜え、我に力を)
王は一瞬、ハーゴンの体が10倍程に膨れ上がったように感じた。そしてその巨体の周りを青とも緑ともつかない風が立ち込めたように思えた時、ムーンブルク王は王室の端から端まで吹き飛んでしまう。
吹き飛んで床に足を着けると前のめりに蹲った。
彼の腕の血管に悪魔が入り込んで激しく動き、内側から彼の腕を食い破ろうとする。悪魔は本当に食い破り王の腕は血に染まった。
265名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/04(土) 02:44:49 ID:4lActhCY
王女が父を呼ぼうとするその瞬間に、王は自らの呪文で完全回復する。
悪魔はまた空かさず王を血に染める。王は回復する。それが何度も繰り返された。
悪魔が負けて力尽きようとしている。その時ハーゴンが王の肩を思い切り蹴り飛ばし、王は玉座に叩き付けられた。
悪魔と戦いつつ玉座に少し体を預けている王の頭を、頬を、ハーゴンは思い切り何度も殴り付けた。
ハーゴンは緊張し用心深く、王の命を奪おうとムーンブルクを滅ぼそうとする。
戦い慣れていない成りにハーゴンは懸命に挑み、油断しない。優位になった自分の立場に胡座をかかない、溺れない、真摯な神官。
必ずこの王を生贄として捧げる。こんな男を生贄にしたならシードはさぞ強くなるとハーゴンは思考回路と拳を熱くした。
266名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/04(土) 02:51:10 ID:4lActhCY
その時魔法使いの重臣達が王室に到着。ハーゴンに躍り掛かるもその神官のイオナズンに倒れる。
だが魔法使い達は倒れない上に新しい戦闘員が次々と現れる波状攻撃の型を取っていた。戦い慣れないハーゴンは王への攻撃を手薄にしてしまう。
王は玉座に備え付けられた長剣を抜きハーゴンの首を掻き切ろうと横薙ぎに振り下ろした。
王の持つ刃が閃いた時ハーゴンは自分の死を意識したが、大きな腕に体を引かれて首の肉を薄く裂かれるだけに留まり難を逃れた。
ハーゴンの体を引いた手。戦略、知恵、経験など全く問題にしない緑色の巨大な手がムーンブルク王を深く切り裂く。
裂かれた胸から血を吹き出すムーンブルク王はシドーの姿を見た。初見ではないと思ったのは彼の持つロトの血、ロトの記憶の所為だろう。
シドーは広野を行く歌をモンスターから贈られた大魔王ゾーマのまさに進化形。
シドーの標的はムーンブルク王ではなく、ムーンブルクの国でもない。この世界の全てを標準とする破壊の神。
267名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 03:14:13 ID:+F4B/9WT
ムーンブルク王は王室の赤い絨毯に倒れ、何度か苦しみ蠢くと動かなくなった。
王女が王に走り寄って彼を回復させている間、シドーの力でムーンブルク城が崩れ落ちて行く。
この城、この国の後は世界が滅んでしまうだろう。
崩れ落ちて来る城の天井を見て、重傷の王は一つの呪文を思い描いた。
「パルプンテ」。シドーに効くかも知れないと。魔法を口にするとシドーは消えてしまった。
残されたのは唖然としているハーゴンと崩れ落ち続ける城。
やはりシドーには生贄が必要であった。今仮にも出て来たのはこれからムーンブルク王が死ぬだろうと言う予感を頼っての事だ。
予感は破られた。これから何が起こるのかは破壊の神にも解らない。
城が崩れ嘆く重臣達。城の瓦礫の下で王がその部下に叫ぶ。
「城は…人が居れば建つと申した筈だぞ」
「では見捨てよと言うのですか。城と主上を捨てては行けません。死して本望」
268名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 03:18:11 ID:+F4B/9WT
王の側らで王を守る王女は自分に言い聞かせた。(王族の我々に取って忠誠を誓って貰えるのはとても大事な事だ)でも、こんなに切ない事があるだろうか。
重臣の魔法使い達は、回復を繰り返しても消えないシドーの深い傷に苦しむ王の前で皆死んだ。
シドーを目にしただけで力を格段に上げたハーゴンのイオナズンに敗れた。
吹き飛ばされ黒焦げで、瓦礫の下に居る人間達。その中にムーンブルク王女の姿もあった。
彼女はしかし生きている。一人の兵士がハーゴンの爆裂からこの王女を守ったのだ。
瓦礫に体を挟まれ、居様に狭い空間に居る男女。兵士の男が王女に話し掛けた。
「これです」
とラーの鏡を王女に見せてくれる。
「この鏡の光を浴びせ奉れば、きっと姫は生き抜かれると」
269名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 05:19:44 ID:+F4B/9WT
憶えていますか。一年(ひととせ)前の夜を。と兵士は王女を記憶の淵へ誘(いざな)う。
王女の成人の儀、一日中この兵士は王女の側に居た。夜は王女の寝顔も見た。その王女の顔の側には宝物(ほうもつ)が数多く並べられており、ラーの鏡もあった。
その鏡は光を放ち、写された者の真実をその鏡面に見せると言う。
宝物は決して使用してはならない。ただし今夜もラーの鏡はただの鏡だろう。これがいつもの事だ。
ラーの鏡は余程強い運命や魔力の波動に対してしか機能を発揮しない。魔力を持たない者がその鏡を覗く事などはかなり許されていた。
一年前の夜、兵士は悪戯心と妙な吸引力に誘われて寝ている彼女の顔をラーの鏡に写しその姿を覗いたのだと言う。
「貴方は選ばれた、勇者です」
この世を救う勇者。だからきっとここでは死なないと兵士は思った。
「私も生きられると、姫をお守り出来ると思ったから今日もこの鏡を持ちました。鏡の光を初めて見た時からそう思っていました。
現にまたこうして宝物を手に取って居るのです。貴方となら何でも致しましょう。また城を建て直す事も一緒に」
この男は王女の“言えない世話”をして来た男であり、友であり、夫となるかも知れない一兵卒だ。今最高の笑顔で王女を迎えている。
270名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/07(火) 05:24:19 ID:+F4B/9WT
「ありがとう」
と王女は泣いて頷いた。忠誠はやはり嬉しい。
「でも、陛下こそが勇者ですわ。その光を陛下に御当てして」
「勿論致しました。光は陛下に届いて在わします」
兵士は嘘をついた。ムーンブルク王は勇者であり救世主の光を十分持っていたが、少し前に見たラーの鏡に写るムーンブルク王には消えぬ死の影があった。
王女と兵士が瓦礫から出ると、ムーンブルク王は渾身の力で攀じ登ったのか瓦礫の上で仰向けに倒れていた。
「このままでは済まさぬ」
王は初めて鋭い眼光でハーゴンを睨んだ。
ムーンブルク王に睨まれて滅びなかった者は居ない。これは王の勝利の証し。
このムーンブルクでこれから何が起こるのか、今は誰にも解らない。
271名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/10(金) 02:02:47 ID:B44YgEKR
顔も腕も血塗れの王が瓦礫の上に横たわる。静かにしていれば惨死した貴族にしか見えなかった。
ハーゴンはムーンブルク王を侮る事は無かったが王の凄惨な姿に勝利の希望を見た。
“負けるかも知れない”と言う消極性と用心深さは必要だけれど、それで好機を逃す事もある。大胆さと自信も勝利には必要だ。
ムーンブルクの城の壁に飾られていた長槍は今瓦礫と共に赤絨毯の上に転がっている。ハーゴンはそれを軽快に蹴り上げ手で掴んだ。
ムーンブルク王が立ち上がり、ハーゴンに向かって来たのだ。長槍を持ったハーゴンに堂々と王は徒手空拳で挑む。
槍の刃を裂けて跳ねるうちに、王が王女の側まで飛んで来る。
「生きていた」
その王の微笑みに答えて、王女はもう魔法を使えぬ事を父に打ち明けた。
王の魔法力も尽きそうだと王女は感じて震える。
(新しいお城を、私、生き残った仲間と……陛下と作りたいの)
「大丈夫…私は必ず勝つよ」
孤独だけれど澄んだ泉の様に。小さくとも尽きずに溢れ出る王女への愛で、ムーンブルク王の瞳はいつも美しかった。
272名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/10(金) 02:06:26 ID:B44YgEKR
王がまた武器も持たずにハーゴンに向かう。槍の刃が王の腹から背へ貫通した。
とても強い手応えを感じて、ハーゴンは口を歪め薄くニヤリと笑う。
王は自分に突き刺さっている槍を持ち、鋭さのまるで無い柄の方をハーゴンに突き刺し同じ様に貫通させた。
武器はどこにでもある事を王はハーゴンに教えてくれる。
しかしそれは違うとハーゴンは血反吐を吐きながら思うのだった。それを武器に出来る術者の力量がなければ到底無理だ。
神官ハーゴンは王にもう魔法力の無い事は見抜いていたが(まだ武器がある筈だ)と注意深く目の前の勇者を見た。
すると王はハーゴンの腹を両腕で絞め、さらに強く力を込めて神官の体を圧迫した。
「私は先程シドーの加護を受けた。もう大王の腕力では倒れぬぞ」
その声の下の王は更に力を込め神官の体を屈折させた。そして王女を振り返る。
汗と血をその流麗な目元から溢しながら、王は春の太陽の如く優しく微笑む。王女に向けられたその顔。
「殿下、さようなら」
ハーゴンを襲ったのは魔法。静かで苦しい死の呪文。
「くそ」
とハーゴンは極小さい甲高い声で呟く。王とハーゴンが青い空気に囲まれたと思うと死は始まった。
273名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/10(金) 02:11:26 ID:B44YgEKR
ギョエーーーーー!!
ハーゴンが叫び、王は目を閉じて静かに攻撃を続けた。
ハーゴンも命懸けの魔法を放つ。ムーンブルク王女を犬に変えた。本当は王女を殺すつもりの呪文だったが神官は今死に掛けで狙いが定まらない。
「お父様ー!」
王女は自分の喉が犬の物に変わるその時まで王を呼び続け、その声を王は励みとした。
ハーゴンが死んで王の腕の中で脱力すると、王の亡骸も絨毯の上へ崩れ落ちる。無残に転がるハーゴンの遺体はバラバラと崩れ爛れてほぼ人の形を留めずに崩壊した。
王女はハーゴンの死によって犬の呪いから抜け出す。父王に走り寄る彼女の手はまだ少し犬で、肉球で触れると、父の肩にぼんやり透明な空間が出来た。
触ると消えてしまうと思って、王女は黙ってただ父に寄り添った。
「お父様、お返事して下さい」
優しく揺り動かそうと、ムーンブルク王はとても静かに目を閉じている。
「お父様…」
王女は初めて父の亡骸を胸に抱いた。
274名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/10(金) 02:15:55 ID:B44YgEKR
兵士は王女の変身に気付く事は出来たが、何に変身したかまでは一瞬の事で良く解らなかった。彼はラーの鏡を手に持っている。
「ハーゴン様が!」
死んだ、死んでる、と駆け付けたモンスター達は王室で騒いだ。
「む、小さいムーンブルク王が生きてるぞ!」
王女の事である。
(殺した方が良いのか?)(いや、ハーゴン様の意向を…あ。見てごらん。あの小さい王の手がハーゴン様の力で肉球になってる)
(犬だね)(犬だ)
相談を終えたモンスター達は素早く兵士を襲った。
(おいおい、戦う気があるのか!?)
兵士は蹴りや木剣でもモンスターに負けない。モンスター達はハーゴンの死を見、動揺して戸惑って浮き足立っている。
だがそんなモンスターばかりでは無い。兵士が持っていたからこそムーンブルク王女の命を救ったラーの鏡が今兵士の手を離れて空を舞った。
275名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/13(月) 03:02:04 ID:zJBkDi0X
空に舞うバピラスがラーの鏡を兵士から奪って東の方角へ飛んだのだ。兵士は本能でその竜の背に飛び移り格闘する。
高く飛んでムーンブルク領内から離れようとする時バピラスの上の兵士は(姫を誰が守る!?)と思い付いた。
兵士はバピラスに蹴り飛ばされ地上に落下する。落下する彼と入れ替わりに翼竜の背へ飛び移る兵士が居た。
落ちてしまった兵士に、頭から流血の跡を残しバピラスの背に乗る兵士は言う。 
「鏡は俺が取り返す。魔法を使えないお前ではもうこの城を生き残る事は出来ない、ムーンペタへ行け。
避難した国民が集まって混乱して居る。城の一部始終を知る者が情報を伝え落ち付かせる事だ。姫をお連れして早く」
言われた兵士は(くそ)と思う。(お前は人知れず戦うのか)と。
魔法力に優れ、顔の良い二人目の兵士。彼もムーンブルク王女の“言えない世話”を良くして来た。
この男も王女の…つまり二人の男が王女の夫と成るかも知れない。
276名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/13(月) 03:05:18 ID:zJBkDi0X
「ラーの鏡を取り返した後、俺はローレシアへ行く」
ローレシア! 地上の兵士の思考に光が差した。
「陛下が戯れに仰ったな。“私の旅の仲間がいらっしゃる”と」
「ローレシアの王子!」
魔法力の無い兵士は少し震える。もう立太子したと聞く14才、力の帝王。
今、魔法の王と力の王が世界の危機に旅立つ時だ。そして魔法の王はハーゴンを倒した。ではあの破壊の邪神を倒す男こそローレシア王太子。
「我等全力でお仕えするぞ、ローレシア王子と我が王女」
「おお! しかし王女がお前のものであろうか」
「馬鹿者、わが国の王女と言う意味だ」
「お前が言うといやらしいんだ」
「お前は無礼だ」
男達は言い争いながら一人は地上を走り、一人は空を駆けて素早く別れた。
277名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 11:30:10 ID:pcKoHk2D
この時、黒い王衣がムーンブルクへ降りて来る。
兵士は王女の居る王室へと向かった。するとモンスター達は完全に戦意喪失してムーンブルクから走り去って行く。
黒の王の力を恐れて皆ムーンブルクから撤退しているのだ。ハーゴンを失って浮き足立っている魔物も、冷静な魔物も皆引いて去る。
「モンスターが消えた…」
惨劇を終えた王室。今はとても強い安心感に守られている。安心の溜め息の果てに…つまり兵士の視線の先に黒い王が見えた。
兵士は戦慄しその場から動けなくなる。
凄惨にガラスの破られた窓から黒いマントをはためかせて、逆光の王は兵士に微笑み掛けた。
ゾクリと体中の血が逆流して兵士は冷や汗の人となる。
兵士に取っては、シドー、ハーゴンに敗れてもこの男にだけは逃げ腰になってはいけなかった。
いや、もしシドーに勝てたとしてもこの男に負けては王女の男として兵士の立つ瀬は無い。
278名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 11:33:14 ID:pcKoHk2D
(さぁ、王女を助けに行こう)
(いやだ、助けに行くのは俺だ)
王の穏やかな目に兵士は心の中で否やを唱える。震えながらもこの王の瞳から目を反らさなかったのはこの男上出来である。
王室の中、兵士は王女を呼んだ。聞き慣れた筈の声に王女は返事をしてくれない。遠くで子犬がワンワン鳴いている。
バピラスを追っていた少しの間に、王女はモンスターに攫われてしまったのか。
「見ていらっしゃいましたか…」
あっ(私から声を掛け申して)失礼をと兵士は王に恐縮した。緊急の時に楽しい奴だと王は笑顔を見せる。
「いや、姫の事は解らなかった。儂はデルコンダル王の名代。正統では無いが一応王座には座っている」
本当は“ど正統”なのだが様々な事情がある。ムーンブルクの兵士にわざわざ言う事でもあるまい。
兵士は最敬礼で跪いた。
「まさか…御助力に?」
「そうだ。しかし遅過ぎてすまない。ハーゴンが死なねば儂も動けん身だった」
279名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 11:36:26 ID:pcKoHk2D
「いいえ! 陛下の威光によってモンスターは全て消えました。そして我が国の主上も勝利したのです。遅い事など」
そう言っている途中で兵士はボロボロと泣き出し、崩れ落ちた。
モンスターが消え静寂が訪れたこの国の惨状と、王の死を前にし涙ばかりが溢れた。
「ハーゴンはやりおった。しかしそれに勝つとはな」
そう言うデルコンダル王は嗚咽している兵士の視線の先にあるムーンブルク王を見付けた。
「陛下!」
どうしたどうしたとデルコンダル王はムーンブルク王に近寄った。王は兵士に説明する。
「一度面識があってね。儂は老人の姿でお会いしたから王は憶えていないかも知れないが、
いや、見事な王であった。そうか命を賭して国を守ったか」
今デルコンダル王は30がらみであろうか、見た者が唸りを上げる見事な男だった。
少年が老人の振りをして青年のムーンブルク王に会ったのか…いや、老人が何らかの力で若返った事の方が兵士は納得が行った。このデルコンダル王普通ではないからだ。
誰の杓子定規にも収まらない男であれば、正統な筈もないのだろう。
「この王の成した事は計り知れん。誇りに思って又この国を盛り立てる事だ」
そのデルコンダル王は王女を呼んだ。
280名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/14(火) 11:41:05 ID:JURZ11hs
ぼくは言った。

A.犯人探しは美樹本さんに頼もう。
B.犯人は香山さんだ。
C.クヒッ
281名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/16(木) 00:29:51 ID:9Y7IhNsC
笛の断末魔の如き甲高い声で悲しんでいる犬がムーンブルク王の側らでキュンキュン鳴いていたが、ピクリと薄い反応をする。
「ん?」
とデルコンダル王が子犬の反応に気付いたが、犬はまたキュンキュンとムーンブルク王に甘え出す。
「お前はそんなにこの王が好きだったのか」
言われた子犬はデルコンダル王をなんとなく呆然と見詰めた。犬と同じくムーンブルク王の側で呆然としていた兵士に黒い衣の王は言う。
「きっと王女はそのムーンペタへ行っているのだろう。生きているさ、気配がする」
兵士も勿論そう感じていた。
「おいで」
デルコンダル王は犬に手を差し伸べる。
「ここは今からムーンペタの人間が戻って人々を葬り、城と町を整理するだろう。
待っているだけじゃなくて…お前もムーンペタへ行くか? それとも儂の国に来るかね?」
282名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/16(木) 00:34:22 ID:9Y7IhNsC
問われた子犬は気を違えたように悲しそうに鳴く。ムーンブルク王から離れようとしなかった。
そしてムーンブルク王は半透明となり、やがて透明となって消えて行った。
魔法力が残り少なかろうと全精力を込めて敵を打つメガンテの呪文。その最後であった。
(お父様、お父様、何処(いづく)へ)
犬のムーンブルク王女は父を探した。
今空虚の中に居る兵士の生きる縁(よすが)はこの単語しかない。“ムーンペタ”
兵士は実際(王女と気付かず)子犬を置いて、一人でスタスタムーンペタへ向かってしまっていた。
モンスター達に犬にされてしまった王女はハタと気付いた(私が犬に変身した姿でここに居ては、又この城はモンスターに狙われてしまう)
玉座に別れを告げて、肉球の足で王女は歩み出す。
ムーンペタは出会いの町と呼ばれている。それだけが王女の心を助けて、その町へ向かわせる。
「うん……お前もここには居ない方が良いだろう。一己で行(ゆ)くか」
さらばじゃ。とデルコンダル王は手を振ってくれた。
錯乱し続けている犬のムーンブルク王女はこの男が何か凄まじいと言う事は憶えたが、顔だの名前だのは忘却の彼方である。(彼の国の名前さえ)
283名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/16(木) 00:38:35 ID:9Y7IhNsC
ハーゴンはこうして確かに死んだ。
そして又復活するのだがムーンブルク王のメガンテは無駄死にではなかった。それどころか王は世界を救ったのだ。
ハーゴンが復活するまでの1年足らずの間にローレシア王子が旅立ち、二人の仲間に出会う事が出来たのだから。


ラダトーム王と出会ったローレシア王子は、仲間達と竜王の城へは行かなかった。
「静かな城だ……。きっと平和なのでしょう」
ローレシア王子の言葉にサマルトリア王子は言う。
「竜王が、あるいは竜王の子孫が居るかも知れませんよ」
ローレシア王子はそれに答えて、
「この旅が終わったら、行ってみませんか」
ウミウシののどかな案内が叶うのはもう少し後になりそうだった。
三人が向かった次の城はデルコンダル。

海沿いのラダトーム城。その対岸に立つ竜王の城は百年程前にラダトームの勇者と竜王…二人の勇者が死んだ墓でもある。その静寂の中を今行く精神の余裕はローレシア王子に無かった。
百年前…つまりラダトーム王国ラルス16世の御世にローラ姫という王女が居た。竜王に恋をし、竜王に近付き過ぎた為に女神の風格と力を得た唯一の人間女性。
そして今なお三人の勇者全てにその面影を残している母である。
ローラの子らはローレシア、サマルトリア、ムーンブルクの三国を建て今に至る。
世界の危機に異世界から突然現れ世を救い、ローラを女神にしたのは竜王であった。
それがラダトームの勇者の履歴、功績として伝えられている。つまり全てはロトの力だと。
(人々が描いて来たロトの歴史は嘘ではないのか)
ローレシア王子は“竜王が正義の王で無ければ辻褄の合わない事”をことごとく発見し、疑念を深めている。スター王子の戦いはまたひっそりと始まっていた。
284名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/19(日) 03:45:59 ID:OF6DgJNe

何があるのか解らない。行き着く限りの、行き当たりの海の旅。
甲板の上、甲板の中の小さな世界が凪ぐ波と共に世界中を巡った。
広い世界。その世界で王子達はある出会いを果たす。
町の歌姫が可愛いとサマルトリア王子が華やぎ、ローレシア王子もそれに「うん」と言ったペルポイ。彼女がその喉を振るい歌い出すと三人の勇者は涙を落とした。
三人皆が仲間二人の泣き顔を一度期に見、己の泣きっ面を仲間二人に見られた。
「なぜ」
道端で意味不明に皆で泣いて、不思議で恥かしくて三人は明るく笑い合う。
他人が見たら奇妙と思われるだろうから、三人は隠れて泣き続けた。
これはその昔、勇者ロトに恋人が捧げた恋の歌。
勇者達はその恋人が懐かしくて……切なくて楽しくて泣いてしまった。
この三人が旅立てば、ロトに出会う。
ロトに近付いて…近付いたその先にデルコンダルがある。
この広い世界なのに、たった一人の王との出会いがとても重い。
しかしこれこそが、こう言う事こそが世界である。
285名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/21(火) 03:05:37 ID:X/1p92hF

複雑な河川と荘厳な城壁。
凛とした明るい国であるが、初めて訪れた人間にその国風を判断するのは難しい。
国は高い城壁に守られた暗い通路からしか進入出来ないからだ。
真っ直ぐで長い長い通路の中を、三人の勇者は進んで行く。
「ここはデルコンダルだよ」
通路の中に屈強な男が居て三人に教えてくれた。
城下の人々が華やいでいる。王が帰って来たらしい。王が城に帰るだけで国は一盛り上りしている。
「頻繁に顔を見せる王でね、綺麗な顔した良い男だよ」
「どれどれ」
とサマルトリア王子が通路の小窓から望遠付きのゴーグル(彼が製作した)で王を望んだ。
「素晴らしい」
王女見てごらん。と王子は早速ムーンブルク王女を誘った。
そんな二人の勇者の感動から流れるように、三人の勇者は王の手で戦いを強いられる。
三人が勝った時、王は自分の両側に座らせていた女二人を下がらせ一人王座に座り口を開いた。
「ようこそ。遠い道程良く御出で下さいました。ここはデルコンダル王国、
私は国王名代カンダタと申します」
286名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/21(火) 03:09:32 ID:X/1p92hF
カンダタ。その名に三人の勇者達、王子達の目がピクリと反応し、若い芽が萌え出すように輝いた。
カンダタは
(皆、元気だね)
と笑顔でワクワクし出す。
ローレシア王子はデルコンダル王を前にして腕組みをしてしまった。
腕組みとは不遜なイメージを受けるものだが「自分を大きく見せたい」と言う微々たる防衛の現れでもある。虚勢もまた。
そんな仕組みにまでは心が及ばないながら、ローレシア王子は自分の一瞬の無礼に気付き少々慌てて腕を解くと姿勢を正す。
「儂を憶えていらっしゃるかな」
爽やかで美しい表情の王が、ムーンブルク王女に視線を集中させて言う。
王女は大きく頷く。ムーンペタで再会した兵士にデルコンダルの名は聞いていた。そう国名だけを頼りに、いつかきっと会えると信じて王女はこれまで旅をして来た。
王女は高揚して笑顔である。
(貴方は救いの神)
「あの日、ムーンブルク城で一瞬貴方をお見かけした」
「はい陛下。私、あの折の子犬でしてよ」
287名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/21(火) 03:20:36 ID:X/1p92hF
「あらら」
おやおやとデルコンダル王は王女に近付く。
「こんにちわ」
変な男である。あの子犬を王女と気付かなった。穿った見方をすれば彼女から“犬の時間”を取り上げなかったと言える。
「こんにちは」
王女も挨拶した。ご無礼お許しあれと男は言う。いいえ私何のご挨拶も出来ずにと女。
デルコンダル王は王子二人を呼んだ。
「ムーンブルク王女との時間を下さい。お二人はこの国でどうか静養を」
月の紋章を貰った二人の王子。その上デルコンダル王は静養までくれると言うのか。
何の為の静養なのかと問えば、デルコンダル大王「皆、長き旅になるでしょう」と。
そしてローレシア王子はずっと心に掛かる事があった。どこかで聞いたか。
「陛下の御名です。カンダタとは」
古い異国の名前かと。御伽噺「バハラタの妖魔」にそんな名前の男が居たような。
カンダタは凄い表情で微笑んだ。歓喜と幸せの間のような顔。面白そうにしているとも言える。
カンダタとはデルコンダル立国の太祖の名だそうで、
288名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/21(火) 03:23:11 ID:X/1p92hF
「では、ロトにも会って居てもおかしくない御名ですね」
「仰る通り勇者ロトに会っている。儂は同じ名前です。太祖カンダタは盗賊だった」
「陛下…」
「ん?」
「いえ」
とローレシア王子は大王の前を辞した。サマルトリア王子は大王と謎のコミニュケーションを取りつつ別れを惜しんでいる。
たった数時間の出会いで、デルコンダル王はサマルトリア王子のアイドルとなった。ムーンブルク王女は彼に恋でもするだろうか。
ローレシア王子は違う。体中の血が、肉が叫ぶ。俺の敵だったと。
(ロトはあの戦士と戦ったろうか)
ローレシア王子のデルコンダル王評は“全く戦闘が出来ないか達人か”のどちらかだった。
スター王子の目でも確とは判断の付かない男だ。あの王、もし戦闘が出来たらその時は…
(この腕で私が勝つ)
デルコンダル王に背を向けて歩むローレシア王子の頬が、口の端が、笑顔を作る為に少し歪もうとした。
その(他人が見ても解らない程の)微かな口の端を正し、スター王子は城を振り向かずに城下町に消えた。
若者達はこうして、大王に三者三様の萌え方をしデルコンダルを辞する事になる。
289名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/21(火) 03:27:40 ID:X/1p92hF

「どうして、あの時ムーンブルクへ来て下さったの」
「あれは春の事でしたか」
ムーンブルク助力の訳を問われ、ブラウンの重ねがとても品の良い王は「あの日から随分経ちましたね」と王女に語り続けた。
「……ハーゴンは私の国に居りました。少々懇意にしていたものですから」
言うとデルコンダル王は跪いて深々と頭を下げる。
「私がハーゴンを自由にした事は失態です。どうか…所望であればこの首差し上げます。
今私と貴方が二人で居る事、知っているのはあの王子達だけ。私の死因は闇に消せる、さぁ」


なぜ命を掛ける。そんな忠誠は辛い。王女だけれど、辛いのだ。
あの日ラーの鏡を追って行った魔法の兵士。彼も毒沼の死闘で悪魔神官に倒された。
悪魔神官はムーンブルクのミスリー王女を犬に変えた元人間のモンスター。邪神に全てを掛けた魔法力の魔物。
290名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/21(火) 03:29:52 ID:X/1p92hF
足元にラーの鏡があるにも関わらず、兵士がそれを拾えぬような緊張感。無駄な動きは即、死に繋がる。
悪魔神官は二匹である。この兵士と言えど分が悪い。
「お前達の目的は」
兵士は剣の柄に手を掛けて問う。この兵士は魔法力では悪魔神官に勝てない。しかし武術、剣技であれば。
悪魔神官達は戦いの準備を始める。姿を変え、変身しようとしている。
二匹はムーンブルク王とムーンブルク王女に姿を変えた。
この瞬間に兵士の敗北は決まる。悪辣な者が仕組んだ嘘だとしても、王と王女の姿の者を傷付ける事が彼は出来ない。
兵士は自分の剣を神官に奪われ、それで胸を刺された。
291名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/21(火) 06:22:24 ID:TnLAa0wn
この流れだから言える事がある
それは









              i⌒i           i⌒i
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.  | i   (⌒─-⌒) / .フ   (⌒─-⌒) / .フ
  し \ ( ・(,,ェ)・) /  | \ ( ・(,,ェ)・) /  |
   \  \   ヽノ /.  ノ   \   ヽノ /.  ノ 
    \  ヽ    i   | \  ヽ    i   |
  _| ̄ヽ   \∩ノ  ノ | ̄ヽ   \.∩ノ  ノ
  \ ̄ ̄ ̄ ̄(::)(::) ̄ \ ̄ ̄ ̄ ̄(::)(::) ̄ .\
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292名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/21(火) 11:52:55 ID:X/1p92hF
「目的は打倒ムーンブルク王。もう叶った」
これは虚勢である。ムーンブルクが滅んだ今ローレシアが脅威だ。言うなれば“シドーはローレシア王子にしか滅ぼせない”と同様にローレシア王子を滅ぼす事が出来る存在もまたシドーなのだ。
破壊や絶望を何度繰り返そうとローレシア王子を滅ぼさなければ宿願は叶わない。あの男の存在はロトを超えつつある。悪魔神官達はハーゴンも知らぬその事を感じ取っていた。
悪魔神官はハーゴンより鋭敏で戦い慣れても居る。だが敵を侮ったり、行動力の無さがあってそこでハーゴンに水をあけられた。
正義対悪の勝負でも、どんな形でも真面目に一生懸命努力したものが勝利者である。ハーゴンはひたむきで、悪魔神官達から一目ニ目置かれていた。
「では何故鏡に執着を」
今度は腕を斬り付けられている兵士は神官達に問う。悪魔神官は勿論、王女を犬に変えた事を兵士に漏らしてはいない。
王女は犬のままが良い。そして悪魔神官がラーの鏡を破壊する事は出来なかった。ハーゴンの意に従い王女を犬にした事で面倒を抱えている神官達。
だが解決は簡単だ。自分達以上にこの鏡に執着するこの兵士を闇に葬れ。
293名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/23(木) 04:03:00 ID:dn09tC0s
「鏡に執着などするか」
神官は嘘を言う。
「そなたを殺す為に我等はここに居る」
これは本当。
「そなたも何故鏡に執着する」
「ムーンブルクの宝物だ」
「八方に忠誠を尽くして何とする。大事だけ守れば良いものを」
「では私を葬る事の何が大事か」
言えないが鏡の事と、ローレシアに行かれても困る。そして
「ハーゴン様を復活させる為に、お前の血を使おうと」
ハーゴンが復活してくれるかどうか、本当は悪魔神官にも解らない。だが希望と可能性があった。
その希望と仄めく自信でこの兵士に絶望を与える事が出来たろうか。王城を失い自分は何も出来ぬ無力を味わっているだろうか。
今死の苦しみに居る兵士はフと考え付いた。嘘でも、王の形をした者が部下をこのように苦しめて良いものかと。
やはりこの状態を放置するのも王への非礼だろう。悪魔神官を倒す向きの方が良いし…兵士は、無理と思えた反撃を考え出した。
294名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/25(土) 03:46:33 ID:NhZnNbN8
死ぬのは苦しい。だが死ぬのが嫌だから生きるのではなくて、もっと真っ当な生き方を今こそしたい、しなければと兵士は思った。
煙たい上司もイカした同僚も、黒焦げの骸を城の中で晒していたっけ。
夢かなと思ったけれど…頑張らなければと思い、兵士は王の顔をした悪魔神官を殴った。
「これで王に顔向け出来る。お前を許しはしなかったと」
生きなければ。少なくとも生きようとした証しを。
しかし……この兵士生き残ったとしても、生きている事が申し訳ない思いに…しばらくしてから襲われる事になる。
生き残った者達…中でもムーンブルク王女と二人の兵士は、特に生きていてもこの若さで余生のような人生である。生かされてしまった申し訳なさは一生消えなかった。
だけど、三人で力を合わせてなんとかこの先を。
兵士は喉を刺され、血を吐く。
「死におった。あっけないものだな」
ぐったりしている兵士の首を掴み、変身を解いた悪魔神官二匹が空を飛ぶ。
飛んでロンダルキアへ。兵士の喉から血が出過ぎていて、枯れたら嫌だなと思いつつその聖地へ急ぐ。
しかし兵士は生きていた。ここはロンダルキア上空ではない。ローレシアの王城の上。
幻影を見せられた悪魔神官が「あっ!」と思った時には兵士はマヌーサを成功させて、その神官達の腕から脱出。ひたすらローレシア城へ落下した。
295名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/25(土) 03:49:09 ID:NhZnNbN8
「くそ、屍となれ! ローレシアにくれてやる!」
そう叫び悪魔神官はイオナズンを放つ。兵士は烈火と共にローレシア王室の赤絨毯を燃やした。
「生きているかも知れん」
悪魔神官は一匹面倒そうに言った。二匹目が答える。
「良いだろう。あの兵士がどう取り繕うとも我等邪教の神官をローレシアは脅威に思う筈だ。
わざと死に掛けの兵士をよこして挑発した。神官達の力は有り余っていると」
つまりハーゴンが死んだなどとは思うまい。
「上手くそう思い込んでくれるか。結局運任せだな。面倒な兵士だ。だからモンスターに食わせてしまおうと言っただろ」
文句と苦悩だけは一人前。そのくせローレシアに攻め込む事は悪魔神官にはどうしても出来なかった。ローレシア王子に負けるからである。

戴冠式のリハーサル中だった王太子のスターは、その赤い王衣のまま死に掛けの兵士に駆け寄った。
「酷いな。やったのはモンスターじゃない。元人間のモンスターがこうした残忍な斬り方をするものだ」
おい、聞こえるか。とスター王太子はムーンブルクの兵士に呼び掛ける。
兵士はピクリと反応する。王太子はローレシア自慢の神官達にこの兵士を預け、怪我の手当てを任せた。
296名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/26(日) 06:36:53 ID:vR4KoM3S
薄れて行く意識の中で兵士はしっかりとローレシア王太子を見た。大きな体躯の燃えるような赤。この王子が世界を救うのか。
兵士は目を閉じる。
目を開けた時、旅の支度を整えたローレシア王子が見舞いに来ていた。
鮮烈な青い戦闘服が恐れ多く、部下達とムーンブルクの兵士を覗き込んでいる。
「ここはローレシア。ムーンブルクの遥か北東です。良くおいで下さいました」
真剣で緊張している王太子の顔。やはり彼が王太子のスターなのか。
(失礼ですが……14才には見えません)
こんな成人とは、近々戴冠を控えているとは……と兵士は王子に伝える。
「少し前に15になりました」
と言うような事を王子は笑顔で教えてくれる。いや15才にも。
「王女は御存命なのですね」
その問いに兵士は頷いた。
(大王は……会えなかったか…)
春。彼は自分の誕生日の近くで大切なものを失った。喪失感は深い。
297名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/26(日) 06:39:43 ID:vR4KoM3S
──「サマルトリアには若き王子、ムーンブルクには美しい王女が居ると聞き及んで居ります」──
ローレシアの魔法使いが王子に教えてくれたものだ。その王子、王女も戦闘員だと言う。王家だけの隠密で、旅してみるか。

ムーンブルク王女と出会ったローレシア王子は、早速彼女とローレシアで養生している兵士を会わせた。
王女が彼の名を呼ぶと、彼はベッドから手をさっと挙げた。
「生きていたの…」
涙をポロポロと、ムーンブルク王女はとにかく泣いた。
「良かった事……」
王女は兵士の胸に顔を埋めて泣いた。兵士は悪魔神官に喉を斬られ声を失っていた。元人間のモンスターの攻撃は傷が癒えない。
ムーンブルク壊滅を伝える言葉が彼の最後の声だった。
(あいつはラーの鏡に写った姫が何者なのか、俺に教えてはくれなかった)と顔の良い兵士はもう一人生き残った兵士の勝手な秘密を思い出した。
(そうか。殿下、貴方は勇者だったんですね)
大事な事は語らないのが彼の持ち味だったが、筆談の人となって益々寡黙になった。ただ彼の文字はとても美しい。声の無い美しい顔も一層切ない。
お前ともう口喧嘩は出来ないんだなと思って、もう一人の兵士は悲しくなったとか。

298名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/26(日) 06:41:00 ID:vR4KoM3S
デルコンダル王に詰め寄られて、息を呑みながら王女は言う。
「どうして、皆私の事を腫れ物にでも触るように」
ローレシア王子もサマルトリア王子もそうだ。あの二人の兵士のようには絶対に行かない。
「どうして…共に戦うと言って下さらないの」
月の紋章まで下さって。
「沢山人が死んだだろう。私がハーゴンに会ったからかも知れない」
貴方が楽になるなら何だってしても良い。と言う事らしい。
「そして巷で言われているように、私は千才の老人かも知れないよ。
そんな老人が何故真っ先に死んでやれないのかと、思わないか」
「人の生き死にには、様々の形があっても」
うん、わかった。とデルコンダル王は言った。
「貴方を侮り過ぎていたようだ」
やはりムーンブルク王女よ。すまなかったと言うと、デルコンダル王は復活の呪文を教えてくれる。
そして肘を曲げてその美しい両手を重ね、自らの王座に翳した。
大きな怪物の足音が近付く。デルコンダル王はその王座にシドーを召喚させた。
299名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/28(火) 03:42:04 ID:+ORrkPQM
王は小さな斧で自分の左腕を斬っていた。召喚の呪文とその血でシドーを誘き寄せたらしい。ムーンブルク王女が怪我した彼を心配して駆け寄る。
彼の傷を治し始めた時(カンダタは「いいよう」と言いながらもじもじしている)王女はシドーを見た。
「消して、消して下さいっ」
ムーンブルク王女は王の腕を抱いたまま悲しい声で叫ぶ。
「怖気付いたか」
「違うんです」
デルコンダル王はシドーを消してやった。ムーンブルク王女は王の腕に顔を埋めて言う。
「昔、愛していた」
「シドーをか。そうか」
愛されてもいたと。カンダタは黙り込む。
「許して下さい。でも陛下が口付けしてくれたら私頑張れます」
カンダタは綺麗な目を見開いてその瞳で(今?)と尋ねた。間も無く男女のとても気持ちの良い時間が始まり、良い所で音を立てて自然に終わる。
デルコンダル王はまたシドーを呼び寄せ、王女と戦わせる。
王女はデルコンダル王の強烈な戦い方を学んだ。格好良い声の檄が飛び、王女は叱られ褒められこの短時間でレベルを上げた。
苦しくったって、悲しくったって、カンダタが見ていると思うと王女は元気だった。
300名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/28(火) 03:44:43 ID:+ORrkPQM
戦闘が終わりボロボロになった王女がハァハァ息を乱していると王が話し掛ける。
「よく頑張った」
彼女にベホマを掛けてくれた。カンダタのベホマは完璧で、王女は逆に元気に成り過ぎHな気分になって来た。
「送ってあげよう。その前にお風呂に入りなさい」
王女は凄くHな気分で大きな湯船にポツンと座り、カンダタの下女達が自分の体にチヤホヤし出すと(大王の恋人達だわ…私が大王に合うのかどうか見ている…)と恥かしくなってすぐ出る。
デルコンダル王は屋外に王女を引っ張って行き、馬車、牛車、サーベルウルフ車を見せてくれた。
王は牛車を選び、ゆっくり行こうと言う。
301名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/28(火) 03:45:58 ID:+ORrkPQM
牛が泥にはまりモーモーモーモー困っていると、王直々に車から出て牛を助けてやったりする。
二人切りの車の中は言葉が無い時も楽しい。薄暗い車の中で見ても良い男はやはり良い男だと王女はしみじみ感じ入った。その男が低い声で言う。
「貴方を腫れ物のように扱うのはな、皆貴方のような目に合いたくないからでしょう。
だからこそ、貴方を守りたいとあの二人の王子もきっと思ってるよ。
あの二人の事をもっと信じて良い。大事な仲間で同じ王族でもあるじゃないか。
貴方の立場の苦しみを解ってくれる二人だよ」
「陛下はどうなの」
「儂はね、生れた時から王位を約束された身じゃない。貴族ですらなかったし」
「でも千年生きていらっしゃったら沢山の事をご存知でしょう? 千年生きていらっしゃるなら…ロトにも会っているんでしょう」
その時モーモーモーモー牛が何者かと喧嘩を始め、デルコンダル王は「うるさいぞ、王女の声が聞こえないじゃないか」と話はうやむやに立ち消えてしまった。
302名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/06/29(水) 10:03:50 ID:jiEVCoDv
『最初はグー!ジャンケンポン!』
「勝った〜!あたしが先に乳絞りの娘さんね」
「あちゃ〜〜 牛かぁ〜〜」
「ほら、牛は早く脱いだ脱いだ!お母さんがパートから帰るまであと1時間しかないんだから!」
「わかってるよ 1回出したら交代だかんね」
「喋るな!牛は『モー』としか言わないの!」
「…『モゥ』」
「よーしよし 乳絞りの時間ですよ〜〜」
ムキュ!
「!」
「…あれぇ?もうかたいよヒロくん まだなんにもしてないのに」
「だって…… これからお姉ちゃんにいじられるって思ったら……」
「だーかーらーー 牛は喋らないの」
にゅくにゅく…
「フフ…… いやそうなフリして本当はいじられるの好きなんだーー Hな牛ねぇ」
「モ…モゥ」
303名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/01(金) 01:26:19 ID:JrwBhuwJ
>301
牛の瞼にオオナメクジの子供が張り付いたらしい。牛はそれを舌で舐め取り、地面に飛ばした。
オオナメクジはピシャッと土の上に落ち、車の中から顔を出したデルコンダル王に向かって「ごめんちゃい」と言う表情をした。
「ごめんちゃいとは良かったな。いいんだよ、気を付けてお帰り」
ヘヘッとオオナメクジは這って行く。デルコンダル王は凄く格好良い顔で黄昏の中を思った。
(あいつ…俺の親父に似てる…)
オオナメクジに顔の似た人間など居るのか。そしてそんな顔の男が良くカンダタのような顔の男を儲けたものである。
(てて(父)。儂は大切なものが沢山あるよ。沢山出来たよ)
デルコンダル王は去って行くオオナメクジの背にそんな思いをぶつけた。
その強い霊力に、野性的なオオナメクジは何か感じて王を振り返る。(何?)と赤子のような表情でナメクジは可愛いやら魅惑的やら。
(それが何かは秘密だよ)
と、王は少しだけ微笑んで夕日に映えた佳麗な横顔を見せてくれた。
ナメクジは(ふーん)と新たに牛と触れ合い、その関係を機嫌の良い物に変えて牛車を見送ってくれた。
304名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/01(金) 01:30:29 ID:JrwBhuwJ

「シドーを呼ばれた!」
いよいよもって言い知れぬ凄味を見せ始めて来たデルコンダル王のシドー召喚劇を聞いてローレシア王子が驚いた。彼が湯浴みを済ませたばかりの宿屋の中でである。
「スター様、ダイ様が、シドーと手合わせを望まれるならいつでも御助力下さると」
でも始めに私からシドーの事を聞いて欲しいと王女は言う。
「私シドーに城を崩されました。勝ちたいんです」
つまり少し特権が欲しいと。人に教える事でもっと深くシドーを知れる、学べると思った。ローレシア王子は王女の申し出を快く承諾してくれてこう言う。
「私もそうしたいと思いました。まず姫から聞いて訓練したい。そしてデルコンダルでの実戦で自らの間違いを正して行こうと」
この仲間達はまるで同一人物のように思いが合致する事が多い。サマルトリア王子も同じ思いだった。
305名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/03(日) 05:34:05 ID:2GgUrcdI
「女の買い物なんてご一緒して頂けますの?」
「いいでしょう」
と、ローレシア王子とムーンブルク王女は楽しそうに二人で外へ。サマルトリア王子は留守番である。
買い物が終わっても荷物はそれ程無いから、二人は軽そうに夜の町を歩いた。
「姫がデルコンダル城にお残りの間に、私は武器屋から鎧を頂いて」
「まぁ、スター様またお強くなるのね」
306名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 01:39:49 ID:uUBaFTWg
町から少し外れた薄暗い河川敷を歩く颯爽とした王子と王女。
その河をしびれくらげの子供が流れて行く。
水の中でくるくる回るくらげの前にタホドラキーの子供が現れた。
そのドラキーと組んず解れつザンバンザンバン(子供と言えどモンスターなので動きが力強い)波に遊ぶくらげであった。
その荒くれ振りをローレシア王子だけが少し見たが、彼等が遊び疲れた頃王女も気付いた。
「スター様、ドラキーとしびれくらげが」
河に浮いて水面に遊んでいる。「海から来たのでしょうか」と王女は無邪気だ。
王子はゆっくりとした口調で、赤子の頃にムーンブルク王に会っている事を王女に伝えた。


15年前の春の事である。
307名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 01:41:10 ID:uUBaFTWg
ローレシア王子御誕生とローラの門改装工事終了の賀と言う事で、国々の王がローレシア城に集結した。来賓の席のムーンブルク王はローレシア王子が現れるのを静かに待っている。
サマルトリア王は
「いやー」
と遅刻しないギリギリで現れた。ローレシア王子の誕生日に王妃(彼の妻)の懐妊が分かったそうで、忙しい日々であった。
「めでたい事が続きます」
そう笑うサマルトリア王にローレシア王もムーンブルク王も穏やかな笑みを向ける。
ローレシア王子御登場。
ゥクゥクと小さな息を聞かせ機嫌が良さそうだった。(いつも機嫌の良い赤子だとローレシア王は言う)
そしてその目をキリッと開ける。
生れて10日の男だが、この場に居る誰よりも王の風格を持った男だった。凛々しい眉はもう既に苦み走ってさえ見え、威風堂々落ち付いた男振り。
308名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 01:43:05 ID:uUBaFTWg
「きっと行く末は重戦士ですね。体が大きい」
と非戦闘員のサマルトリア王はローレシア王子を覗き込んで明るく言う。そして「重い…」と言いながら王子を抱いた。
王子はクックッと鼻で息をして機嫌が良さそうだった。渋いオーラさえある嬰児である。
「そうですか、また重くなったのかな」
とローレシア王が王子を抱くと彼も「重い…」
最後の最後にスター王子を腕に抱くのがムーンブルク王である。
恐らく戦士となる乳飲み子に御加護を。更に強くなるように締めくくりの験担ぎである。
「行く末は貴方と力を合わせて戦えるくらい力を付けさせたいものです」
ローレシア王の言葉が光栄で少し頭を下げるムーンブルク王は、ゆったりとローレシア王子を抱いた。
ムーンブルク王は王族の中で、いや世界中でただ一人勇者の泉に到りロトの守りの力を得た男である。
出会うべくして出会った二人の仲間。嫋やかに見えるムーンブルク王の腕は力強く、重い赤子を(その重さが嬉しいように)しっかりと抱いた。
309名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 01:45:48 ID:uUBaFTWg
「良い御子です。きっと強くなりますよ」
そう言って穏やかに笑い、王子を覗き込んでその髪を整えてくれたムーンブルク王の人差し指を、王子は小さな右手でギュウと握った。
「う」
と静かな声を出すこの嬰児の、しっかりとした握力。
優しい笑顔のムーンブルク王と真剣な顔のローレシア王子。二人の微かな誓いの瞬間であった。
ローレシア王が王子を小さな寝台に寝かせようとすると、
「あっあっ」
と王子はローレシア王に何か決意を伝えたいようだった。
季節は春と言う事で木々は萌え、様々な花も咲いて…そんな花と共に太陽の下に居るローレシア王子はなんともめでたい様子だった。
思いも寄らず酒宴となり、サマルトリア王子は陽気でムーンブルク王も楽しそうであった。
ただ、力と強さを持った唯一の勇者ムーンブルク王は少し浮いていて「貴方は立派な戦士だ」と言われた時、
「戦士であるからには、力を発揮するとなると戦いを挑まれなければなりません。両者如何かな」
ほろ酔いで優しい笑顔のムーンブルク王。他の王達は「ハハハハ」と完全に血の気が引いている。
ムーンブルク王は美しく孤独だけれど、何だか仲が良くてそれぞれがそれぞれに信頼を寄せている三人の王である。
こんな平和なバランスなんてあっと言う間の短い時間で長くは続かない事を、まるで知っているようにムーンブルク王は溜め息を付いた。
310名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 01:47:25 ID:uUBaFTWg
ローレシアに咲く花々。その中に桜があった。
「綺麗だ」
ムーンブルク王が言うとサマルトリア王とローレシア王が「散り際が見事な花だ」と愛でる。
(そうか。咲き誇っている時の方が好きだ)
口に出さないムーンブルク王の思い。風が吹いて花びらがいくつか飛んだ。
「あと何度、花の咲く季節を迎えられるでしょう…」
ムーンブルク王は少し変わっていて…それで浮くのもあるけれど、若くして死ぬ一人の王と老人まで生きる二人の王との命の輝き方目立ち方の差だったのではないか。
ムーンブルク壊滅後は特に人々にそう思わせた。
「又会いましょう。殿下」
ムーンブルク王は寝台に横たわるローレシア王子を覗き込む。小さな彼の肩に桜の花びらが二つ三つ乗っていた。
「散らさないよう、守っているのですか」
「うぁ」
ローレシア王に抱かれたローレシア王子は、ムーンブルク王に対して返事のような声を出す。こうして体勢が変わっても彼の肩から花びらは落ちず、三人の王は笑った。
311名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 01:51:04 ID:uUBaFTWg
「また」
とムーンブルク王はローレシア王子の小さな額に自分の額を当てた。王子は勇ましい返事として小さな腕をプンプン振る。
ローレシア王は(重っ…)と王子を抱いてムーンブルク王を王子と見送った。


「あと何度、花の咲く季節を迎えられるでしょうと…」
あの日の事は何度も聞かされたから、当時乳飲み子の彼も語る事が出来る。
312名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/05(火) 01:52:57 ID:uUBaFTWg
私もムーンブルク王を失ったと、ローレシア王子は言った。その手をムーンブルク王女が取る。父と誓いを結んだ手だと思って自分の手を重ねた。
「すまなかった」
会う約束をして果たせなかった。最初に出会った仲間で、それから15年間最高最強の仲間だった王を助けられなかった。ローレシア王子とムーンブルク王女は流れる川の横で抱き合う。
そして自分がローレシア国を失ったらどうなるか、想像する事すら忌諱なのにムーンブルク王女は現在こうして気丈だと王子は思いを走らせる。
「滅亡の悲哀を、私は知らない」
理解の及ばない所があると思う、許して下さいと彼は言う。でも貴方を全力で守りますと。
彼女は彼の腕の中で、目も眩むような安心を感じながら泣いた。
あの日残された王女は一人犬の姿。しかし彼女は死なず、生き抜いた。
父の強さと温もりに精一杯応えて行く、それだけが自分の一生であっても良いと思って生き抜いた王女だからこそ、スター王子の腕の中に出会う事が出来た。

ローレシア王子とムーンブルク王女が目を閉じて抱き合っている時、サマルトリア王子は宿屋で本を読んでいた。
「お帰りなさい」
小柄な王子が王女に言う。そのサマルトリア王子は机から離れ椅子から立ち上がり、その椅子を王女に向けて座るよう導いた。
313名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/07(木) 04:25:19 ID:XCqoK8oI
王子が王女の目を見て思う(おや?)
(泣いたのかな? 殿下は何をなさったのか)と
ハハ。と王子は小さく笑って王女の側の椅子に座り言った。
「殿下に何か言われましたか? 貴方を一人でデルコンダル城にお残して、私達二人は少々動揺してしまったようです」
王女はその彼の言葉少し目を見開いた。
「確かに殿下も私も、思いの深さはそれぞれですがデルコンダル王を信頼し過ぎたような気が、後からして来ましてね。
貴方は大切な方です。貴方にロトの一国その復活が掛かっていますしね。
他国の王を近づけさせないなんて……大事にし過ぎても貴方の力強さを削いでしまう思いが、何より最初に立ったものですから。
ムーンブルク復興はこの旅が終わって、いや旅の途中からでも始めて行きましょう。
私も復興に参加したいな。デルコンダル王もきっと参加して下さいますよ」
サマルトリア王子は未来の話をし、ムーンブルクが復活する事しか考えていない。
王女はドキドキして目まぐるしい思いで王子を見る。
「こちらに見覚えは?」
「あら陛下が書かれた御本ではありませんか」
314名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/07(木) 04:28:42 ID:XCqoK8oI
王女は驚く。王子は「サインして下さい」と。
王女は笑って、私がその本を書いたわけではないのにと。
サマルトリア王子は幼少の頃一度ムーンブルク王に会っている。その日彼の生徒となって勉強して、王子は魔法使いになると決めた。
ムーンブルク王の本は、この世でこの王子に一番愛された。
「駄目ですわ。陛下の書かれたものよ」
「貴方がサインする事、亡き王に否やはないと思われますが」そして王子は続ける。「恐れながら私には野望が。大それた事ですが」
「なに?」
王女の熱い鼓動の中に、時折ゾクゾクと冷たいものが混じる。王子から目が離せなくなった。
315名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/07(木) 04:29:57 ID:XCqoK8oI
「この旅でムーンブルク王に並ぼう、いや越えようとも思います。貴方と力を合わせてね。
そうでないと勝てない敵とも思う。
自分の魔法使いとしての成長を止められ、旅立つ事が出来なかった無念は私にはわかりません。
しかし訃報を聞いた時は私も悔しかった。このままでは終わらせない」
父は私がこの人と出会った事をきっと喜んでくれると王女は思った。
「陛下を思ってくれて嬉しいわ」
王女はサマルトリア王子にも泣かされてしまった。(もう、今日は仕方がない…)と王女は泣いた。今日は色々な事が起きた。
今日の大きな出来事の最後、王女が父の本にサインする。楽しく、大胆過ぎて恐いような眩暈を覚えながら自分の名を記した。
明るい悪魔と契約したような気分だが、この王子が悪魔ならきっと素敵な事だろうと。
316名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/07(木) 04:34:42 ID:XCqoK8oI


まるで未開の地、しかし確かに村はあるのだと言う。三人が向かうのはまるで森林を要塞とする深い森のテパ。
首狩り族の激しい襲撃。彼等は森に林に逃げ込みながら神出鬼没の攻撃を繰り返す。
首狩り族も元人間ではないかとサマルトリア王子が仲間達に疑問を投げかける。だが彼等は血も肉も重い。
遠い遠い昔に人間だったのかも知れない。旅人の服を着ているのは勇者だった昔の名残なのか…。狂戦士と呼ばれた人間の、これは最後の姿か。
ローレシア王子の盾が空中戦の末に木の枝に引っ掛かってしまった。(おっと)
その盾を取ろうとしている首狩り族が居る。ローレシア王子は咄嗟にそのモンスターへ白刃を走らせた。
「ギーイ!」
首狩り族は痛がってゴロゴロ転がった。
この首狩り族は王子の盾に付いている木の葉などを払い、綺麗にしようとしてくれて居ただけだ。
「悪かった、許してくれ」
申し訳なさそうな顔をしてローレシア王子は首狩り族に走り寄る。そのモンスターの傷を癒してやろうとする。
317名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/07(木) 04:37:08 ID:XCqoK8oI
「足だな」
「ギョー…」
「見てみよう」
と首狩り族の(王子に切られた)服を王子がもっと引き裂いたその時、彼の胸は力強く一度鳴った。
「そなたは…」
「?」
上半身を見ると首狩り族の胸に膨らみがあった。肌の質も柔和で瑞々しい。
「女…」
「ギ?」
いや、今はそんな事を言っている暇じゃない。傷を治してやるぞと思ったが、どうにも彼女の足が眩しくて落ち付かない。
「私には仲間が居る」
「ギーィ?」
「癒しの呪文を使える女性だから、そなたの傷を見せよう。すまないな。もう少し待ってくれ」
王子は首狩り族の彼女を負ぶって仲間の所まで歩いた。ムーンブルク王女に事情を話して診てもらうと“人に斬られたモンスターの傷”と言う事で王女の呪文では旨くないと。
薬草を100枚程使い、日数を掛けて傷を癒すしかない。
318名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/07(木) 04:39:05 ID:XCqoK8oI
ローレシア王子は「薬草を沢山やろう」と言い掛け…傷が癒えるまでの間、人間や動物に襲われては可哀想だと思った。
「そなたは今まで会った中でも最も善良な部類のモンスターだ」
言われた彼女は小首を傾げる。銀色の髪が太陽に輝いて肌の色が黒く、太ってもいないのにムチムチと非常に肉感的な女だ。
大きな口は耳の近くまで裂けていて、大きな目は顔の四分の一程の面積を占めている。つまりもう、顔は目と口だけ。
ローレシア王子は彼女との旅の同行を仲間に請う。
「良いですね。モンスターと旅がしてみたかったし」「そうですわ」
「ありがとう」スター王子は二人に感謝した。
彼女は邪魔にあるどころか力も強いし、素早いし、戦わせたら相当な戦力であるが、ローレシア王子は彼女にモンスターを攻撃させない。異種族にすら危害を加えない彼女にそんな事はさせなかった。
319名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/07(木) 04:42:20 ID:XCqoK8oI
サマルトリア王子が彼女をジッと見詰めて気付く。
「首狩り族ではない…」
そう、比べると肌の色が黒過ぎる。王女が続けて口を開いた。
「そうですわ。さっき傷を診た時に、彼女の服に…彼女は服に住所を書いていました」
『住所!?』
男二人の壮烈なツッコミ。ハーモニー。
大きな目をパチパチ瞬きさせて静かにしているバーサーカーは面白い女のようだった。
彼女の服にはこう書いてある。『ロンダルキア左上がる』

「ロンダルキアの左上がそなたの家か」
「ギーイ!」
そうらしいのだ。ロンダルキアと言う言葉に懐かしそうに反応する。ローレシア王子は「そうか」と頷く。
「どうやってロンダルキアから来たのだ。素直に情報収集するよりそなたから聞いた方が早い」
王子は絵を書いてここがテパだとバーサーカーに認識させ、そこからどの方角か彼女に聞いてみた。
320名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/07(木) 04:44:44 ID:XCqoK8oI
「ギョッ、ギョッ」
と彼女は絵を書いてくれるが女の子らしさか方向音痴でよくわからないらしい。なんと言うか今ロンダルキアに帰りたいわけでもなさそうだし。
今バーサーカーはローレシア王子と共にテパの宿屋に居た。スター王子の大きな衣服やマントを使い、彼女に上手く着けさせ人の振りさせて宿屋に入れた。
彼女は何だか三人の空気を読んで、モンスターとばれないようにしてくれているのか宿屋の廊下やフロントではとても静かにしている。
「うーん、わからいないか」と溜め息を付いて、ローレシア王子は上半身の服を脱いだ。
彼の裸体を見てバーサーカーがびっくりする。
「着替えるだけだよ」
321名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/07(木) 12:36:33 ID:zDoTcGXL
貼り師乙
322名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/09(土) 03:39:47 ID:hzwyAARa
逞しく扇情的でありながら床しい上半身をさらした王子は、重くゆっくりとした足取りで部屋の窓辺へ歩む。
「ロンダルキアと言う言葉が、近頃一層聞かれるようになって来た。そこへ行くには邪神の像が必要とか」
王子は窓辺の机に体重を掛ける程度で腰掛けている。
バーサーカーはベッドの上で服を脱ぎ出し、全裸になって座っている。
ローレシア王子は驚いて間の抜けた顔をした。こんな体の女を見た事がない。
「ちょっと出て来る。失礼」
と、服を着るのも忘れて王子は部屋を出ようとする。バーサーカーは彼について行こうとする。
「なんだ」
バーサーカーは困った声を出す彼の前でピョンピョン跳ねる。
「そなたが服を着るか、私が部屋を出るかだ」
王子はベッドへ向かってシーツを手に取ると、彼女の体に巻き付けた。グルグル巻きの彼女はそのままの状態でベッドに座る。王子もベッドにギシリと座った。
「そなた私に何か伝えたい事があるのか?」
裸でグルグル巻きのバーサーカーは王子の目を見詰めながら、何か考え事をしている。そして首を深く傾げた。
王子はベッドに仰向けに寝転がった。バーサーカーもなんとなくそうした。
「先に脱いだのは私だしな。いいか。もう寝よう」
323名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/11(月) 08:10:33 ID:S6hqfECB
勿論眠るには王子にもシーツが要る。バーサーカーは自分の体に纏われたそれを解いてローレシア王子にも掛けた。
そして彼女はスースー寝てしまう。余りに寝付きが良くて王子が驚くとその驚きを感じたのか彼女は
パチッと目を開け「ギィ」と起きてしまった。
「あぁ、余りに早く寝るから驚いてしまって」
その王子の声を聞き終えると彼女は少しクルッと丸くなって又スースー眠ってしまった。
半裸の男と全裸の女が入るシーツの中はすぐにも温かくなって、ぬくぬくと二人は眠る。
寝るには少し早い時間。「殿下」とサマルトリア王子がローレシア王子の部屋をノックする。
中からローレシア王子の開豁な声が「ハハハ」と聞こえて来た。そのスター王子は「どうぞ」と言う。
部屋に入るとスター王子は半裸で立っていた。
サマルトリア王子は用件を言いながら、こちらに背を向けて横臥しているバーサーカーを見る。
彼女の肩から腰のくびれにかけての滑らかで柔らか、悪魔的な曲線に自分の目を釘付けとした。
「ノックの音で二人同時に起きてね。彼女はすぐ寝てしまえるんです」
スター王子は用件を聞くと他には何もせずベッドへ帰って行った。

翌朝ローレシア王子はサマルトリア王子に「癒されました」と健やかな顔で言った。彼女と眠って体と言わず心と言わず回復した。潤った。
それは彼女がローレシア王子にだけあげたもの。彼を思っての力である。
当然朝早く起きてしまったローレシア王子は二人の仲間より一足早くドン・モハメの元へ向かった。
324名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/12(火) 00:47:28 ID:Ua7LkaeS
一行三人はモハメの水の羽衣の事、満月の塔の事、月のかけら水門の鍵──
様々にあるテパでの件によりもう一日この村に停泊する事になった。
またサマルトリア王子がローレシア王子の部屋を訪れた時、裸でベッドに座る王子の膝の中に裸のバーサーカーが座っていた。
ローレシア王子は腰までシーツを掛けている。それを決して解かないところを見ると下にも何も着ていないかも知れない。彼は左手にシーツを上手く絡めてバーサーカーの体をサマルトリア王子の目から隠してやっている。(サマルトリア王子の為にも)
水門の鍵を奪ったラゴスなる者はペルポイで噂になっていた筈だ、そこへ行きましょうと言う話になり、
「デルコンダルにも」
とローレシア王子が言う。「行きますかついに」とサマルトリア王子が続く。
バーサーカーは二人の王子の喋る方、喋る方に代わる代わる視線を向ける。
サマルトリアのダイ王子が部屋から出るとスター王子はドサッとベッドに横たわった。「ギィ」と裸の彼女が裸の彼を覗き込む。

「おかしいな。殿下はあの娘と二人で寝ているのに私達が一人ずつと言うのは…」
天井を見ながら真面目な顔でぼやくサマルトリア王子に同室のムーンブルク王女はドキドキしながら言う。
「スター様のお部屋のベッドは三人寝られる位大きくて、私達のお部屋は小さなベッドが一つずつだからではないでしょうか」
「あーぁ。なるほど」
サマルトリア王子はわざとらしく納得した。ムーンブルク王女はドキドキしながら少しシーツの中に潜り込む。
325名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/12(火) 00:54:16 ID:Ua7LkaeS

彼女はローレシア王子に何か伝えたいようだった。
「そんな顔をされては気になるではありませんか」
彼の高い鼻を撫でて来る。プクプクと気持ちの良い指である。
彼女はついに王子にペッタリとくっついて目を閉じた。乳房が痒いらしくて優しくポリポリ掻いている。
ローレシア王子が交代してくれて彼女の胸は彼の手中となった。バーサーカーは王子の手が離れてプルンと揺れる自分の乳房を見ながら「ギー」と言う。
王子はバーサーカーの大きな口を見た。「唇はあるのか?」と言って探す。弄ると極薄のそれを見付けた。王子が指で触れると
「イー!イー!」
と彼女は目を閉じて嫌がる。とてもくすぐったいらしい。王子は「ごめん」と謝ると彼女の胸などはもう見ないようにして彼女をグッと抱いた。
男の胸に女の柔らかい乳房が乳首ごと当たって、少し潰れている。その乳首の方はムクムクと固さを得て来て男はそれを自分の肌で直接感じてしまった。
彼女の胸がドキドキと鳴っている。彼女は息苦しいらしくて困って「ギョー…」と囁いている。
王子は彼女の胸の高鳴りを感じて自分の胸も鳴らした。王子は彼女を離さずにいるのでお互いがお互いの胸の高鳴りを感じて体が熱くなって来る。
バーサーカーはプハッと溜め息を付く。王子もフゥと静かにそれをする。
326名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/12(火) 00:56:05 ID:Ua7LkaeS
「怪我は良くなって来ていますか?」
王子は自分が傷付けた彼女の足の付け根の辺りに触れる。彼女は「ギョッ」と返事する。足の調子は良いらしい。
足が治ったらこの娘はどこかへ行ってしまう…。
「貴方の事を可愛いと思っています」
「ギーィ」
王子の心の動きにとても温かいものを感じてバーサーカーは喜んだ。自分の事を言われていると分かっているだろうか。
彼女は王子に抱かれて、仰向けの彼の体の上に馬乗りにさせられてしまう。なんのつもりなのかと思ったバーサーカーは自分の顔を王子の顔に近づけた。
「私はローレシアの王太子。この旅が終わればすぐにも即位致します。
生れた時から救世主と呼ばれて、何十万と言う人間が私に守られる事を良しと思ってくれています。
だからと言って、何をしても良いと思うか」
王子は彼女をヒョイと持ち上げ、もう彼女に触れず横臥した。
「逆だ。だからこそ律した道を行かなければ」
こんな事をわざわざ口に出さねばならぬ程、彼は今調子が悪いらしい。
バーサーカーが思った通りだ。この王様は弱っている。仲間の二人以外何かの助けが要り様に感じた。
バーサーカーは目からビビビビと光線を出しローレシア王子を眠らせた。彼女は本気になればバーサーカー以上の能力を魅せてくれる人らしい。今の呪文はラリホーか。
327名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/12(火) 01:00:03 ID:Ua7LkaeS

裸の彼女は自分の服を持ち、他の宿屋の客に見付からないように廊下をキョロキョロ見まわした後テテーッと走って目的地へ急いだ。
サマルトリア王子の真似をしてドアをノックしてみた。小さい声で「ギィ、ギィ」中の二人のご機嫌を窺う。
「おや、私の所へも裸で来てくれたんですね」
ドアを開けたサマルトリア王子は驚くより先に喜ぶ。彼女はバサバサ服を着出しサマルトリア王子はそれを手伝う。
「人の目を気にするくらいなら服を持ち運ばずに着替えてしまえば良かったのに。こんな事するくらいなら私も是非同室させて下さい。興味がお有りなら人間の男の事を色々教えて差し上げる」
バーサーカーは色々喋るサマルトリア王子を不思議そうに見詰める。パチパチ瞬きする彼女の前ではローレシア王子もサマルトリア王子もやっぱりスケベである。
「朝から何か御用ですか」
バーサーカーは王子の腕を引っ張る。「おや」と力強く引かれてサマルトリア王子はあれよあれよと部屋の窓辺へ。
バーサーカーの彼女は遠くに見える三人の船を指差した。「ギィギィ」
「船で出発したいの?」
「ギョー」
「待って下さい。ペルポイに行って、次は満月の塔かデルコンダルだよ。貴方のスター殿下が決めた順路なんだから」
また彼女はサマルトリア王子を引っ張って今度は廊下へ、あれよあれよとスター殿下の部屋へ。
328名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/12(火) 01:07:08 ID:Ua7LkaeS
ローレシアのスター王太子は物凄く爆睡していた。死んだのかと思える程の力の抜けっ振り。
「運び出せって事?」
「ギーィ」
と彼女はもうスター王子を担ぎ上げている。彼女の腕力では彼は重くはないが、大き過ぎる彼の体が扱い辛くてヨロヨロしている。
「わかった、わかりました」
とスター殿下起きた。そして「悪戯するな」と眠たそうな声でバーサーカーを叱った。
「気の済むようにすると良い」
さすがローレシア王子はバーサーカーの思いを見抜いている。そして自分でも少し気になっていた様子だった。このままでは危ないと。
バーサーカーは船にピョンピョン乗り込んだ。
「どこに行くんです」バーサーカーに尋ねるローレシア王子に「このままでは危ないってどう言う事ですか」とサマルトリア王子が尋ねその王子に「確かに後回しにしている地がありましたわ」と伝えるムーンブルク王女に対し(この王も胸が膨れている)と思うバーサーカー。
その四人の前にモンスター。前に会ったウミウシである。久し振りで三人がびっくりしていると、バーサーカーは「ギイ」とウミウシに頼み事をしている。
ウミウシは船を先導し出した。北へ北へ。
329ろーれしあA:2005/07/12(火) 02:32:16 ID:fDiA+iBE
長々書いて頂いたんですけど、まったく面白くないです。
330名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/12(火) 03:05:47 ID:IJcGEiZE
俺は好きだけどな
このスレ読んでDQ3が楽しめるようになったよ。
ストイックに書いてるトコも好きなんでレスは付けないようにしてたが。
楽しみにしてるんでマイペースに書き続けていただければこれ幸いと。
331名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/12(火) 04:39:03 ID:4Zc8MPx2
意味が分からず全く面白くありません。
キャラ設定が意味不明。
332名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/12(火) 14:35:16 ID:7xRC4GE/
>329 >331 ごめんね
>330
ありがとう。今書いてるの途中だけどDQ3の短編でもはさみますか?
333330:2005/07/12(火) 17:29:04 ID:IJcGEiZE
いやいや気を使わずに自由に書いていただければと。
続きも楽しみにしてるんでどうぞそのまま書いてください。
ではROMにもどります。
334名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/14(木) 04:43:59 ID:erCWReeE

夜々に実はあったのか。サマルトリア王子はローレシア王子に聞いて来た。
「ハハ。彼女には何もありませんでしたが」
持ち前の低い声でスター王子は言う。ない。彼女の足の付け根の所には何もないのだ。
「じゃあお得意のぱふぱふなどで…」そんな事を言うサマルトリア王子にローレシア王子は溜め息を付いた。
「王子…貴方はぱふぱふの奥の深さを知らないな」
(なにおう!)とサマルトリア王子は発奮したが何分未経験なので(うぅ…)と恐縮する。
ローレシア王子はぱふぱふを思って黄昏の中に居る。
「得意になんて…一朝一夕ではなれないよ」
(この人は急にエロだからな)とサマルトリア王子はのんきに思う。真面目な人なんだが時々で手の平を反したようにエロなのだ。
「ギイギイ」とバーサーカーはご機嫌でローレシア王子と遊びたがる。
「よし、なんですか」
微笑む王子に向かい彼女は斧を構える。スター王子は剣を抜く。甲板の上、キンキン二人で切り結ぶ。
斧と剣を合わせた力比べでもスター王子は笑顔であり「力強い」と彼女を褒めている。
335名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/15(金) 05:16:48 ID:r3VaLXyC
そしてローレシア王子は簡単に彼女を押さえ込んでしまう。彼女は跳ねるように逃げ出した。
ローレシア王子を爆睡させている間バーサーカーは“ローレシア王子と友達のモンスター”を念力で呼び寄せたわけだが、そのウミウシ(初対面)とはすぐにも仲良くなってぬるぬるの彼と触れ合っている。
「殿下と訓練しては彼女のレベルが上がってしまいますよ」
サマルトリア王子の声にスター王子は「良いではありませんか」と返す。
「敵になってしまうかも知れないんですよ」
この男女が好き合ってる事など知っているサマルトリア王子故に、かなりの苦言である。ただし尤もな言葉だ。
彼女は魔物。ハーゴンの力も宿らないと言い切れるのか。
「大丈夫ですよ、彼女はスケールが大きい。王子は彼女と一晩でも寝ていないでしょう」
寝たらわかるのかも知れないが、それは許さないとスターはダイにビシッと言った。そしてスター王子は歩き出したのにわざわざ振り向いて、寝るのは許さないともう顔も真剣。ダイ王子は恐縮する(に、二回言った…)と。
336名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/15(金) 05:17:44 ID:0K66gNy4
age
337名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/15(金) 05:18:17 ID:r3VaLXyC
日の暮れないうちに船上からアレフガルドが見えて来た。
「なんだ、アレフガルドに行きたかったのかい」
サマルトリア王子がバーサーカーに驚く。私のルーラでラダトームへ行こうかと誘うとバーサーカーは何か感じたらしく嬉しそうだった。
「ルーラとは復活の呪文、その詠唱の新しい地へ飛ぶのでは」
ローレシア王子が問うとサマルトリア王子は
「なーに、ロトの戦士はラダトームへ飛べると決まっています」
なんたる都合の良い男だろう。そして近距離からだと成功率が高いらしい。ウミウシごと船と四人はラダトームへ飛んだ。

バーサーカーはピョーンピョーンと跳ねて三人の勇者を竜王の城へ呼ぶ。
338名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/15(金) 21:15:04 ID:86uyNt4u
4の話は面白かった
339名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/17(日) 03:55:06 ID:ejE/hIwf
旅立つ天空


見上げても見上げても、頂上どころがその中腹も見えぬ大木を痩せた戦士が見上げている。
「ライアン、何か見えるの?」
緑髪の美男が、エルフと共に大木を見ている痩せた戦士にそう尋ねる。
「人が居る。…しかし、人かな」
隣に居るエルフにさえ見えないのに目の良い戦士には羽根が見えるそうだ。綺麗なモンスターかも知れない。
「綺麗って…」
ライアンが見ているのは女性らしい。そして隣のエルフは羽根の女性の事をライアンに伝える。
「助けを求めているようです。行こう」
勇者を誘いこの剣士が刀の柄を持って走りだそうとした時、緑の髪の勇者は待ったを掛けた。

「やっぱり女の子は女の子が助けに行かなきゃ。男ばっかりじゃびっくりして可哀相だよ」
それに俺のパーティーの女は強いんだと、ちょっと誇らしい気持ちで勇者はアリーナとマーニャ、ミネアを連れてエルフの里の世界樹を上へ上へと上って行く。
こうも自然に男一人女三人の行動が出来るのはもう無いかも知れないと思って勇者はちょっとウハウハしている。案の定男一人、彼一人と言う理由の元に事件が起こった。
勇者達は無事、木の上の彼女を見付け出したわけだが、
「どうか、どうかお助け下さい。わたしはルーシア。天空より世界樹の葉を摘みに舞い降りて来たのですが……。魔物達に襲われ翼を折られてしまいました」
340名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/17(日) 04:00:07 ID:ejE/hIwf
これは又綺麗で可愛い娘で、何か申し訳なさそうに三人の女達を見る。
彼女は勇者がとても苦手の様だ。アリーナ、ミネア、マーニャにこそっと伝える。
「ゾクッとして」
余り良くない戦慄である。何か気持ち悪いらしい。それはこのルーシアが天空人で、勇者の彼が天空人と地上の人間のハーフだからであった。
彼をまともに見れないので困ってしまう。しかし彼女は少し我慢しながら勇者に近付いて、天空の剣を得た彼の呪文で翼を少し治して貰った。
もうすぐ自分の力で天空の城へ帰れそう。しかし彼女は彼に耳打ちした。
「…男の人を連れて来て」
人間の男を見た事がないらしいのだった。こんな機会はもう無いかも知れないと思い、彼女は思い切って打ち明ける。
女の人は見た事があるし、話した事もあるからどうかお願いしますと。彼女は──天空のある女性が罪を犯しても恋したと言う人間の男と言うのを見せて欲しい──とも思っていた。
“男が見たい”なんて恥かしい理由は私だけとの秘密にして…と、ルーシアは勇者に言う。勇者は「うん」と応じる。
「彼女をあそこから運び出さなきゃならないが、四人じゃ多いって。三人で来てってさ」
確かに…羽根を傷めて空を飛べない彼女が座るこの幹の脆さでは、彼女を助け出し5人で歩くのは無理だった。今三人になるため仲間の一人が単独で引き返すのは危険だし、
「ここはパーティー再構成だ」
ちょっと強引な展開だが通らない事もない。勇者達は男4人の元へ帰った。
341名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/17(日) 04:04:19 ID:ejE/hIwf

「と言うわけなんで、皆で行こう」
男5人で彼女を助けようと。脆い幹など通る時は3対2くらいに別れてなんとか行こうと。
「その人は天空人ですか?」
ブライがズバリと聞いて来る。「そうなんだ」と勇者は言う。勇者が彼女の願いを叶えてやりたい気持ちは解る。だがクリフトはこう言った。
「天空の女性と人間の男が会うのは…良いのでしょうか」
そんなクリフトはブライに「暗い」と溜め息を付かれる。消極的で。
「格好良い人達で行って来て下さいよ」
とトルネコが言う。「いや、太ったおじさん好きかも知れないよ」と勇者が言う。そして「俺は嫌われてるみたいだ」と寂しそうだった。
「俺とトルネコは残ろうか」と勇者は笑う。仲間の女達を二人占めだ。
ルーシアと勇者の問題に根の深さを感じたのかライアンが、
「逃げてはいけない」
と言う。「私もですか?」とトルネコが問うと痩せた戦士は笑った。

ルーシアは何とか自分で自分の身を守っていたがそろそろ限界。
(あぁ、あんなわがままを言わずにしっかり羽根を治してもらうのだった…)
その彼女の前に若い神官が現れた。
「居た…」
と安堵したような若く優しい声。
(まぁ。なんて瑞々しい)
342名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/17(日) 04:06:55 ID:ejE/hIwf
あの素敵なお兄様に助けて欲しい。と思っていると彼の後ろから剣士がやって来た。
(素敵なおじ様!)
助けてー。と彼女は二人の男に助けを求める。トルネコが現れた時は可愛いオジさんとウキウキし、勇者を見た時はまた嫌に心臓を傷める感覚を持つ。
「ルーシア!」
どうだ良い男揃いだろうと勇者は偉そうにして、最も格好良い男はこの人だと言わんばかりに隣に居る老人の背を勇ましく叩いた。
ルーシアはそのブライに対し(あら、おじいちゃん)くらいの感動しか持たない!
ガーン
ブライの心の音がする。
彼はウゥンと頭を落とし、腰を曲げた。勇者は(じいちゃん…)と真っ暗なブライを心の中で慈しむ。
凄くしょんぼりしているブライを見て笑顔のライアンが言う。
「ご老公、暗い男は強いと聞き及んでおります」
戦士殿や商人殿はどうなのだ、明るいくせに強い。人は様々だ。天空人とてそれは例外ではない。あの女は変えられるとブライは言った。
「ジジイの良さを解らせてやる」
この人のこう言う所が全く老人らしくないので大いなる矛盾。説得力に欠けるのだ。
さぁ、助けに行こうとクリフトとライアンが歩を進めた時、二人は世界樹で作られた落とし穴にズボッと落ちてしまった。
343名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/17(日) 04:11:46 ID:ejE/hIwf
「こ、これは…」
と身動き取れない二人にグリーンドラゴンの牙が襲いかかる。
「あぁ! なんで俺の仲間をこんな目に!?」
勇者が悲しんでいるとルーシアも少しびっくりしながら「だって」と言う。
「強い男の人が良かったんだもの」
落とし穴は作ったがグリーンドラゴンの事は予定外である。こんなタイミングで現れるなんて思って無かったと。
「考えたら解りそうな事じゃないか!」
勇者はもう泣きそう。天空人がこんな事をしたと思うと更に心が滅入る。ブライは「面白い」と言って宙を飛んだ。
「勇者さん。さぁ行って」
とトルネコが勇者を促がす。「強い男の人が良いって言うなら私よりも貴方でしょう」と。勇者は「でももう三人行っちゃったよ」と。
「結局私達は待つ事になりましたね。果報は寝て待て、と」
「果報だなんて、ごめんよ。ルーシアが」
勇者はルーシアとの間にどこか連帯感、一体感があるのだろう。彼女が謝らないうちは自分が謝ってしまいたい。
344名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/17(日) 04:15:53 ID:ejE/hIwf
ライアンが一足先に落とし穴から飛翔して抜け出した。重い剣を軽々と振るい、一太刀でドラゴンを二匹倒す。
クリフトはゆっくりと這い上がって来て、マヌーサの呪文を纏いながらそれでドラゴンの攻撃を狂わせる。
「援護します」
「感謝します閣下」
と、大胆な正義の神官と端正な性格で力強い戦士は戦場での相性が良い。
その二人の側らを物凄い速さで何かが飛んで行く。
ルーシアはその物凄い何かに抱かれた。助けられた筈なのに固いものに抱かれて彼女は少し痛いくらいだった。
それはバイキルトとピオリムを纏ったブライだった。戦場は魔法使いの彼の物。
「フフ、爺さんで悪かったよ」
魅惑的な声の老人にルーシアは顔を赤らめてまごまごしている。
(やはりな。成長する女かどうかは見てすぐに解る)
「ごめんなさい…わたし…」
「儂に謝るのはどうであろう。それにあの二人だって簡単に落ち過ぎだ」
ブライは少し嘲笑うような顔でクリフトを見た。
(ブライ様、飛び方が少し危険でしたよ)
(今回は引けんのだ)
変な笑顔の神官と楽しそうな魔法使い。この二人はもう目と目で会話出来る関係である。
345名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/17(日) 04:19:28 ID:ejE/hIwf
「さぁ、謝るなら行くと良い。正し情けない男達だぞ」
とブライはルーシアを放してライアンにも笑顔を向けた。戦士は(やれやれ)と気の抜けた優しい溜め息を付いている。豪快に穴に落ちて恥かしかったし。
「ごめんなさい」
二人に飛び付くと、男らしい体型でガッシリとしたイメージのあったクリフトは温かくて優しい感触があった。
痩せてしなやか、この男達の中で最も女性的に見える体を持つライアンの固さと逞しさには驚いた。実際、触ればこのパーティーで一番逞しい。
見るとライアンは鼻血を出していた。いやよく見ると鼻を少し切っているだけ。ルーシアが彼を癒す。
ルーシアのホイミは鋭く、確かに回復しているのに逆に斬られる感覚があった。ミネアのホイミとはやはり違う。クリフトのホイミの良さをすぐに思い出さない所はやはりライアンの男らしさである。
勇者のホイミに似ている。やはり天空の血か。モンスターのホイミンのホイミは元気に成り過ぎて本当に鼻血が出たものだ。
「ライアンさんごめんよう」
「うぅ」
ライアンがホイミンを思い出す回数は多い。この世界で最も変化し成長した生物、命である友。

ルーシアは勇者に何度か傷を癒して貰い、天空の城とまでは行かないがもう飛べそうであった。
「お気を付けて。私はこの里で傷を癒し、きっとお城へ戻ります。貴方達とどちらが早いか競争ね」
346名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/17(日) 04:23:12 ID:ejE/hIwf
自立を宣言するルーシアの声の後、アリーナがこう言った。
「天空の城はどんな所なの」
こう見えてもアリーナは思いやりのある王女である。勇者が居ない所でルーシアに問う。
ルーシアは語った。自由と言う言葉を忘れたかのような清潔で孤高の天空人の性質。マスタードラゴンには縛られているのか守られているのか…いつも鈍いストレスが溜まっているような城の空気。
特にある女の話を語る。彼女はいつも泣いていると。好きな男の人が居るのだそうだ。それは天空人ではなくもう亡くなっている地上の男性。
ルーシアはパーティーの男達を見回して言う。
「彼女は悲しみの余り少々気狂いを……貴方達を見たら強く心を乱すかも知れません。思いやってあげて下さい」
347名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/18(月) 04:48:18 ID:DGaXsTvF
大人数との会話はお開きとなって、ルーシアはライアンを引きとめた。
「きっと彼女は貴方に強く頼って来るわ」
「なぜ」
「このパーティーの中では彼女と年も近いし、頼り甲斐がありそうだもの」
その言葉にライアンは「いえ」と言って、瞼と頭を少し伏せる。
「それにトルネコさんは結婚しているしね。彼女はまだ本能的に恋したいのよ。家庭の匂いのしないクリフトさんや貴方を見ると思います」
「見るだけで…彼女は自由になれないんですか?」とライアンは問う。
「彼女自身自由になる事がもう、苦しいんだと思います」
そう言ってルーシアは凛とした美しい目の瞼を少し伏せた。
348名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/20(水) 10:51:23 ID:Vqr9s3LR

家庭の匂いのしない男…その中にブライも居るのだけれど、彼には孫が居た。
「ブライさん、なんでちゃんとお爺ちゃんじゃないのかしら」
「儂は子供は育てたが孫は育ててないからなぁ」
ルーシアはブライが喋るだけでワクワクしている。まさにサントハイムの憎い男、王宮の悪童である。
成人近い孫がいるこの男に、ルーシアは言う。地上の男と天空人の男はやっぱり違う、勇者はそのどちらとも言い切れずパーティ−の中でも人ならぬ独特な存在じゃないかしらと。
「これは勇者殿のパーティーではないのかも知れない。このパーティーの主役は地上に住む我等の方かと」
それはどう言う事ですか。勇者の一行ではないのですかとルーシアが問うと、
「確かに。しかしあの勇者殿は世界に降りて来た客人なのさ。我等に色々としてくれるゲスト。
だからあの人の母親が住む天空を、あの人が帰ってしまうかも知れない天空をより良い物にしたいと儂は思うね」
勇者が可哀相とルーシアは言う。「天空にも彼の居場所は無いかも知れないのに、地上の人にもそんな事を言われて孤独な人」と。
349名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/20(水) 10:53:35 ID:Vqr9s3LR
「人間は煎じ詰めれば皆一人だ」
そんな言い方は安易だ、簡単だとルーシアは少し向きになった。勇者を孤独から救う気はないのか、いや救えるだけの力が無いのか問う。
「ハハハハハハッ」
ブライは若々しい声で哄笑する。
「儂はな、勇者殿に嫉妬しておる」
なんと言うか、アリーナとクリフト、アリーナとライアンが結ばれるのは結構なのだがアリーナと勇者は結ばれるのは許せんブライである。
「嫉妬じゃないかも知れないがね。サントハイムとは良い意味で距離を取って頂かないと」
勇者の名の力はサントハイム女王の名の力を脅かすだろう。恋人である事も秘密の夫である事も駄目。
「姫の行く道を惑わす者は、孤独にもさせるし地獄にも突き落とします」
ブライはアリーナと一緒に孤独とは程遠い世界で生きてる。
「儂は姫の事が好きなんですよ。おかしいですか」
ブライは悪戯に笑う。ルーシアは少し慌てて「いいえ」と首を振った。ブライの迫力に負けただけではなくて、心のどこかで本当に(ブライとアリーナの心の微かな恋愛はありじゃないか)と思えたから。
ブライは嫉妬、憎しみ、畏敬の思いを寄せ勇者を“一人の人間”として見てくれている一番の仲間と思われた。
(嬉しい…)
350名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/20(水) 10:57:19 ID:Vqr9s3LR
ルーシアも勇者と連帯感があるのか、何故かブライの存在をそう思った。
こうして深夜はブライと過ごすルーシアである。

朝は、目映い光と共に神秘的に優しく現れる姿の良い青年にルーシアは会った。
「おはようございます」
爽やか過ぎて、美し過ぎてルーシアはびっくりする。勇者の次に男性的な体付きが逞しいサントハイムのクリフトである。背が高く体の大きな男だ。
351名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/23(土) 03:31:28 ID:tCqwHwri
「朝早く起きるんですね」
ルーシアは品良くしかし懐っこい笑顔で話し掛け挨拶する。
「毎日こうですよ。子供の頃からの習慣です」
「同じ国出身のブライさんはまだ寝てるのに」
「ブライ様は自分が必要と思った時に早く起きたり遅く起きたりします。色々自分で決める御方ですので」
「自分で決めるのは良い事でしょう?」
クリフトが複雑な表情で喋るのでルーシアはそう尋ねた。
「流れのままに…大きな力の指し示すままに身を委ねると言う形も…ブライ様にはもう少し持って頂いても」
「あら、意地っ張りで力の強いブライさんの事を貴方は好きかと思っていました」
「子供の頃からの付き合いですからね。嫌いなわけではないですけど…私達は良く喧嘩します」
「喧嘩…ブライ様の、自信を持って自由に生きている所が嫌なの? 貴方は束縛が嫌じゃないの?」
「私のように身寄りのない者に取っては、逆に束縛されるのは幸せでもあります。サントハイムの王室などには例え細かに管理されたとしても苦になりませんね」
「そうか貴方の言う大きな力って神様の力だと思ったけど、サントハイムの王室でもあるんだ。
…絆の深さは置いといて、きっと貴方よりブライさんの方がアリーナ姫に対してクールなのね。だから喧嘩になるんだね」
「それはどう言う…」
クリフトは神官らしく端正に動揺している。
「ブライさんも貴方もサントハイムが大切なんでしょう? アリーナ姫は女王になるとか。
国って大きな単位だけどやっぱりまず人よね。王様に魅力がなきゃあね」
何だかからかわれた気がしないでもないが、クリフトは凛々しい顔で答えた。
「そうですよ。城も国も人が作った物。それを動かすのもきっと人でしょう」
352名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/23(土) 03:53:15 ID:Wt71innj
氏ね
353名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/23(土) 18:17:53 ID:hGQWvZrY
ブライがこんなに格好良いとはww
続き楽しみにしてるから頑張ってくれ
354名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/23(土) 20:59:33 ID:hTfH7Pfm
ひっそり応援中
355名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/24(日) 04:33:51 ID:Dxl5RXb8

太陽が天高く数多を照らす頃にはトルネコに会った。
ルーシアが彼の家族の事について聞くと、妻と息子がエンドールで待っていると言う。
幸せな三人家族。だがこうしてトルネコは仲間達と旅立っているのだからごく普通の家庭とは違っていて、冒険と隣り合わせの緊張感のある家。
もしかしたら勇者は。
(彼の息子さんのように過ごせる運命もきっとあった)
だが勇者はそうでは無かった。

夕暮れの中、勇者はそれでも元気に鼻歌を歌っている。
356名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/25(月) 04:13:15 ID:kgHRPVrK
ルーシアは彼に少しずつ近付けるようになって来た。少しずつだけれど、彼の側に寄って話す事も出来るように。
勇者はあからさまに嬉しそうな顔をして温かく彼女を迎えてくれる。
「いやぁ、エルフの里に入った時も似てる子がいっぱい居るなと思ったんだ。でもルーシアが一番近いかな。エルフ達みたいに顔も雰囲気もそっくりってわけじゃないのに一番似てると思ったよ」
似てる、似てると……一体誰と私が似てるんだとルーシアは勇者に問う。
「シンシアだよ」
シンシアと言った瞬間に彼の目から涙が零れた。彼はまるで自分のそれに気付いていないように喋り続けている。
「あの…」
ルーシアが話し掛け、彼に何とか事態を教えてあげる。
「あ…」
と彼が気付くと、そのまま黙って泣き続けてしまった。大きな手の逞しい指で自分の涙を何度も拭う。耐え切れなくて勇者は小さな嗚咽を漏らした。
ルーシアは指を伸ばして彼の涙を拭い、傷めた羽根を少しはためかせ飛翔すると勇者の唇にキスした。
彼は一瞬目を丸くして驚いたがすぐにも目を閉じた。しばらくしてルーシアが自分の行動に驚き彼の唇から離れる。
357名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/25(月) 04:15:43 ID:kgHRPVrK
「びっくりした?…わたしもびっくりしたけど…」
「ちょっと」
少しびっくりしたのだろう。言うと勇者は優しく微笑んだ。涙の跡はあっても彼の表情は柔らかだった。
ルーシアは彼に背を向けてフワフワ飛んで行ってしまう。
(素敵な人だ…吸い込まれるようにしてしまった)
一目では解らなかった彼の凄味である。さすがは世界が得た勇者。……だがその凄さはやはり世界の為にやって来た客人の孤独を持っていた。
(でも私も貴方と同じで天空の人の子孫なの)
でも彼には羽根がない。(関係ないもの)ルーシアはそんな事さえ思うようになっていた。

また夜が近くなって、ルーシアはライアンと擦れ違った。そして自分が歩いて行く先に居るクリフトと、振り向いてくれたライアンに夜の挨拶をする。
ライアンはちょっと挨拶と笑顔を返すとスタスタと軽そうに歩いて行ってしまった。
「おじ様…。もし天空にいる彼女とおじ様が二人でお話したらそれだけでドキドキしちゃうな」
ルーシアは自分の想像に興奮して顔が赤い。言われたクリフトも少し興奮。
358名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/25(月) 04:17:00 ID:kgHRPVrK
朴訥として善良なきこりを愛した彼女の前に現れる、戦いの男。
王宮戦士の気品がありそして神秘的で素朴でさえもあるライアン。
「ライアンさんの正義は質実剛健でとても温かです。力の強過ぎる正義でもあるので孤独になりそうですが、どうやら盟友が居るみたいですよ」
そう言うとクリフトは自分の事を語り出した。確かにアリーナ姫と旅をして彼女の為を思えば思うほど恐ろしくなっていく自分を感じていたと。
「いくら年の功とは言え、スマートで変わらないブライ様が恨めしい時もありましたよ。それで喧嘩にはなりませんけどね、変わらない事に関しては羨ましいと思ったりしてました」
クリフトは自分はアリーナで変わり、ライアンでも変わったと。
「ライアンさんには自分は剣士、戦士に向いていると教えられました。
何だか粗暴になってしまった気がします。剣を振るっているライアンさんより私の方がずっと」
「それは貴方、いきなり素質を見出されたからよ。磨けば貴方はいくらだって光るわよ」
「そうですか」
「そうよ」
「では私と、私達と共に旅に出ませんか」
翼の折れた天使を神官のクリフトが誘う。
「前に、城も国も人が作ったもので動かすのは人だと言ったでしょう。あれは天空城の事を言ったんですよ」
359名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/25(月) 04:19:18 ID:kgHRPVrK
歩を進めて行ったライアンは馬車に辿り付き、クリフトとルーシアが話している間ガラガラと小さな音を立てて道具や武器を物色していた。
ルーシアの装備出来そうな武器を見繕い、彼女に差し出して戦士は言う。
「貴方の力で天空を変えられたら」
「どうやって」
「一緒に行こう」
旅に出ないかと誘う。ライアンは又こう言う仲間を得られたら嬉しい。異種族の仲間は彼の心を躍らせる。
「おじ様と…?」
「うん。天空城まで共に行かないか」
違う世界を沢山見た彼女がきっと新しい空気を天空の城に運ぶだろう。
「ハハハ」
ブライの笑い声を聞くと「私達と共に」とライアンは詳しく言い開く。
「クリフトも“私と”旅しようと言い掛けたな。何だ二人共姫が好きなんじゃなかったのか」
ブライはいかにも良い男然と微笑む。
「ルーシア殿、行こうか?」
ブライも誘う。ライアンは涼しそうな顔でルーシアの答えを待っているし、クリフトは改めて「一緒に行きましょうよ」と優しく誘う。
「はい」
地上の男達の迫力にルーシアは息付く暇も無く頷いた。
360名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/26(火) 04:07:23 ID:I6s/YLCp

「俺に相談も無しに決めたんだな」
勇者はおっとりした声でブライとクリフト、ライアンとマーニャを責めた。(マーニャはライアンと共に勇者とルーシアの雰囲気を感じ取り「彼女は行けるんじゃないか」と合意していた)
「でも全く問題ないよ」
と勇者はもっとおっとりした声でルーシアのパーティー参入を快諾した。

トルネコはルーシアに様々な道具を見せ道中の彼女を飽きさせなかったわけだが、
「私の船もこの気球にはやられましたよ。しかしこの気球さえ、貴方の羽根には敵わないんですね」
世界は広いなぁとトルネコは清々しく明るい。
「でも天空人の羽根の効力は高さなのよ」
この広い海、広野を東西南北に飛んで渡る事は出来ない。余程羽根の力、体力に自信のある者でも人の足と同等の早さでそこそこしか進まないだろう。
361名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/26(火) 04:09:52 ID:I6s/YLCp
「空は高いように思っているでしょう? そうでもないのよ。空の果ては人が思っているよりずっと近いの」
「でも階段で天まで渡れと言われたら壮絶ですね」
「それは無謀よね」
と明るく笑う男女だが、天空の塔なるものに出会ってしまった。
階段、階段、又階段、そして階段である。
あのライアンさえバテたと語り草の塔の上にその城はあった。
362名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/28(木) 01:12:40 ID:We23rm3q

白い雲が西から東に流れて、踊って、その白から白銀の城壁が見えた。
雲の上に立つ人間7人は呆然と謎の城を望む。
ルーシアは平然とフワフワ浮いていて、勇者は誰よりも先に歩を進め城に辿り付くまで振り向かなかった。
ルーシアや勇者に取って見れば謎の城でもなんでもないのだろう。ここは天空の城。彼らの故郷。
勇者の背中が仲間の目に遠く感じられた。今までこんな事は何度もあってそんな時仲間達は勇者が不憫見え胸が一杯になったりしたものだが、今回は勇者の遠い背が少し嬉しくも感じられた。
勇者はその大きな背と肩を使い、逞しい腕で天空城の扉を押し開けた。
363名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/31(日) 03:58:25 ID:/IfOLAEC

白い空の回廊を渡りながら勇者はピサロを思い出す。
ピサロは敵か…?彼は思った。勇者はピサロから自立していて、勇者の心中に本当の所ピサロは居ない。
バルザック。あの男相手にマーニャもミネアも良く頑張ったと彼は思うのである。
勇者の敵は人類絶滅の大望を持つ魔物もそうだろうけれど、家族を壊して来る圧倒的な力こそ。
バルザックは遠い未来に勇者の…勇者家族の眼前で甦るかも知れない。

城の中を巡ると時々でドラゴンの声が聞こえる。

「その昔、地上に落ちてきこりの若者と恋をした娘がおりました。
しかし天空人と人間は夫婦になれぬのが定め。きこりの若者は雷に撃たれ、娘は悲しみに打ちひしがれたまま連れ戻されたのでした。
しかし娘はどんな時でも地上に残して来た子供の事を忘れた事はありません。
もし今の貴方を見ればきっと涙に暮れる事でしょう。 うっうっ……」
女に貴方と呼ばれた勇者は話を聞くと仲間達と西の小部屋を、彼女の前を後にした。
勇者一行は天空城を巡る。マスタードラゴンにも会った。本も読んだ。
様々に動き、歩いた後、勇者は彼女の元に戻って来た。
364名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/31(日) 04:00:17 ID:/IfOLAEC
西の小部屋の“ある女”を見詰めて勇者はこう言った。
「父さんはどんな人だったの?」
「その娘でない私が、何故答えられましょうか」
「一言」
「さぁ、お仲間がお待ちですよ」
「父さんは…」
貴方が出て行かないなら私が出ますと、彼女はこの小部屋から抜け出そうとする。
わかりましたと、勇者はわかった振りをして部屋を出た。
勇者は部屋を背にし回廊を走った。まるで勝手知ったように足取りに迷いがない。人気の無い開かずの間を見付け、その扉の前で倒れるようにしゃがみ込む。
薄暗く狭い空間に大きな体を押し込んで勇者は泣き叫んだ。
彼を見付けられたのはルーシアだけ。
勇者はただ
「寂しい…寂しい」
と泣き続ける。
「大丈夫よ。彼女が冷たいのは今日だけよ」
365名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/31(日) 04:02:38 ID:/IfOLAEC
今日だけにしなければとルーシアは思った。
勇者とルーシアは抱き締め合い、彼の腕を感じているルーシアは明るい未来を祈るように想像した。

「彼の母親が、彼の為に生きる機会は今です。そして最後の機会だと」
西の小部屋の彼女の前でライアンははっきり言う。
「彼は母親無しに生きて行ける程成人しているわ」
「我子ですよ自分自身の身なんてどうでも良いと…そこまでの気持ちになった事は無いんですか。ただの一度も」
「思った筈です」
ただライアンは素敵だな、喋り方に迫力があるのに眼差しの奥がまっ新だな。と彼女は思っていた。この戦士様子供はあるのかしらと。
「彼は忌子なんですね」
クリフトが彼女に言う。天空人達もルーシアと同様に勇者を気味悪がった。
366名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/07/31(日) 04:07:01 ID:/IfOLAEC
「だけどルーシアさんのように、一緒に旅をすれば彼がわかるでしょう。凄い勇者です、素晴らしい人ですよ」
クリフトに取って勇者は時に拝みの入る人である。しかし勇者の方が「神官様だ」と言ってクリフトを拝むので恐れ多い申し訳ない気持ちになってクリフトは身の置き所が無い思いをしている。
「天空で忌子とされた男が、世界を救ってくれるのです」
ブライが堂々と椅子に座り込んで青年のような声で言う。少し鋭くした晴れやかな眼光。「壮快ではありませんか」と言って目で人を射貫く。
また三人の男が勇者に相談も無く、そして勇者の為に天空女の生きて行く先を変えてしまうかも知れない。
彼女の前で堂々と語る男達を見て、ルーシアは明るい未来を“想像”するだけでは頼りないなと思った。
(作って行かなくては、今この時も)
367名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/03(水) 04:30:07 ID:bqPdd6k7

トルネコは小部屋の彼女にも地上の道具を見せて、彼女を驚かせ楽しませる。
きこりを彷彿とさせる斧を見た時に彼女はギクリとした様子だった。
しかしトルネコは大丈夫、大丈夫と宥めすかして彼女にじっくりと斧を見せ、触らせたりもした。

彼女はクリフトとトルネコがお気に入りらしい。
ライアンとブライは男らし過ぎて彼女は目がチカチカするのだった。確かにライアンとブライが喧嘩でもしようものなら恐ろし過ぎて、竜虎相打つ、である。
このパーティーもぶち壊しで勇者も悲しみ、バトランドとサントハイムの国交にも暗雲が立ち込める。
(ホイミンとの旅を成功させてしまったライアン、今はもうバトランドの名を背負える程の英雄となっていた。ブライはサントハイム王の側近である)
二人共喧嘩をする程短慮ではない。ただこの男二人は人として力が強く、大きな物を壊せてしまえる能力があるので要らぬ心配をされてしまう。
368名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/03(水) 04:36:44 ID:bqPdd6k7
トルネコからは穏やかな家庭の匂いがするのに、男として気に入られた様子だとパーティーは華やいだ。
ネコちゃんは良いお父さんかも知れないけど冒険家だものと、マーニャは得心顔である。
ルーシアも冒険家と言えないか? と言う話に発展し、
「さて、ルーシア殿は誰を気に入っているのでしょうか」
お前だろうが、嫌味な奴だと、発言したライアンは仲間達から集中砲火を浴びる。
「そんな事は…私は勇者殿と彼女が似合いに見えます」
仲間達に語るライアンの声を偶然聞いてしまったルーシアは(おじ様の口からそんな事聞きたくなかったわっ)とちょっと機嫌を損ねてしまった。
369名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/06(土) 04:53:22 ID:pyq48E0o

ピサロの事。「倒そう」とブライは張り切りライアンは笑顔である。
この男達の力強さに負けないように、ちゃんと一人立ちして彼等に流され過ぎぬように…そのあたりの勇者の判断と振る舞いは鮮やかだった。勇者であるべき所ではちゃんと勇者でいたり、不思議な男である。
勇者は結局その二人対し困った顔をして、後々は「ロザリーが可哀相」とか言うのだった。
これは勇者が女に弱いどころの話ではなくもっと根の深い意味深長な言葉なのだが、とにかく勇者が女に弱い事は確かだった。

クリフトとルーシア。ぎこちない言葉を交わしちょっと悪質なじゃれ合いをするこの二人だが良く喋った。
ルーシアはクリフトをからかうし、クリフトもルーシアをからかって彼女の顔を赤くさせる事もあった。
なぜ神官様が人をからかうなんて事をしてしまうのか。やっぱり彼女と気が合うからである。
ただしクリフトは冒険家と言うより革命家である。大胆だが神経質で緻密な行動派。いざとなればブライと並ぶ迫力を持つサントハイムの男だが、何分壊れやすそうで危険な香りもする。
何が起きても壊れはしないアリーナやブライとは一線を画した男である。
370名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/06(土) 04:55:08 ID:pyq48E0o

(おじ様…)
少し気を抜くとルーシアの目からライアンは遠退いてしまう。彼はどんどん前に行く。
(わたしもっと頑張って前向きになるからね。変わってみせるから)
あの遠い背はルーシアが変わったなら、
(振り向いてくれるかなぁ…)

ルーシアはトルネコに尋ねた。貴方のようなダンナ様を持てるかなと。
貴方はもっと良い人に出会いますよとトルネコは言う。
良い家庭を築きたいなとルーシアは言い、トルネコは貴方はそれが出来ますよと言った。
371名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/06(土) 04:57:25 ID:pyq48E0o
「皆さんともそろそろお別れね。寂しいです」
「儂のルーラでいつでも参りますよ、この城へは」
「そう、ブライさん魔法使いだものね」
「貴方は出会った頃と様変わりしましたね。表情が引き締まって見える」
「本当?」
「うん。貴方の変わって行く様子をもう少し見てみたいと思うが、行かなくては」
ブライは軽やかに天空の椅子から立ち上がり、仲間達と共に決戦の場へ向かおうとする。
「ブライさん、わたしブライさんの事…」
「ん?」
彼は男の可愛らしい顔で、先の見えない事を楽しむような好奇の表情を見せた。
「うぅん…なんでもない…」
ところでアリーナとブライの関係が唯一無二のものにルーシアには見えている。
自分とああした固い絆で結ばれている人がもし居るのなら…もう出会っているのか、まだなのか、そしてその人とこの先を歩んで行けるのかルーシアは思いを巡らせた。
372名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/06(土) 05:00:25 ID:pyq48E0o
ミネアの、メガンテとかメガザルとかの呪文を覚える所が勇者は少し嫌だった。
この人とは分かり合えないんじゃないかと思ったりもしたけれど…この頃ミネアは変わった。
なんと言おうか温かくなったような気がして、勇者はホッとする。
ミネアも将来は子を産み、母になるのだ。今妊婦だとしてもおかしくはない。
神秘的な体の彼女に、勇者は幸せな気分になって微笑み掛ける。
勇者は幸せだった。勿論の勇者がお腹の子の父親ではないがそんな事はこの男の前では全く問題にならない。
勇者は子供からおばあさんまで女の人が好きな男で、「お母さん」の温かさもとても好きだった。
373名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/06(土) 13:50:03 ID:YtYMi3OQ
バコタ話と関連してるのか!
374名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/08(月) 03:35:12 ID:/S121CIm


希望の祠の天空女性に対し、勇者は以前会った事があると思った。
「ここは希望の祠。貴方達の来るのを待っておりました。
デスピサロは宮殿の周りに結界を張ってそこで進化を続けています。
4つの結界を破らぬ限り不思議な力が貴方達の行く手を阻む事でしょう。
まず結界を破るのです!
勇者達に神の御加護があらん事を!」
あのピサロに切り裂かれた母以外で勇者が自分の母と感じた唯一の人。あの村が襲撃された時、この天空女性に勇者は会った。
──────────────────────────────
「まあ大変! 私の事はいいからすぐにお逃げ!」
母がそんな事を言うので勇者は嫌だ嫌だと駄々をこねたが、その時母が姿を変えたのだ。
「17年お前を育ててくれた人を苦しませはしません。私達は戦いを決めた事で心が結ばれました。
私の力でこの戦場を切り抜け、この女性の体を守れるか、やってみましょう」
375名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/08(月) 03:37:31 ID:/S121CIm
その女の背には羽根があり、風のように戦場へ行った。勇者が生れて始めて見た女戦士は天空の女性だった。
──────────────────────────────
あの時の天空の女が目の前に居る。
(母さん…)
彼女に体力と魔法力を回復させて貰った勇者はそう感じた。
勇者の最高の瞬間を見届ける為に、彼の最高の戦いを援護し彼を導く為に、この天空女はここに居る。
「おゆきなさい」
大きな手を翳し背筋を伸ばして胸を開き、こんな勇ましく鮮烈な女も居ない程の輝きであった。
(母さん)
「行け」と言うのに勇者はその場にしゃがみ込んでウキウキと笑顔でいる。
ずっと居るので天空女はちょっと困りだした。その光景を祠の入り口で待っていたライアンが気付く。
「勇者殿」
戦士が少し強く引くと「あーん」と勇者は嫌がった。
祠を出るとあの人の姿が人魂になっちゃうと、勇者はその変化を見守る心の準備が出来ていないようだった。ライアンは少しだけ勇者を自由にした。
376名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/08(月) 03:43:33 ID:/S121CIm

天空城に居た女性は勇者の母ではなかった。彼女も確かに地上の男に恋したのだが…
(いくら息子の為とは言え、死してまで)
勇者と顔が良く似ている希望の祠の女性の戦士振りにライアンは狼狽した。彼女はきっと勇者の為に天空で死に、死の霊力を勝ち取りこの場に現れたのかも知れない。
そして勇者の村に駆け付け、あの村で一番非力な勇者の育ての母に苦痛を与えず、彼女の死の苦しみを引き受けてピサロに敗北した。今は霊魂として結界を見据え、勇者達を見守っている。
「ご老公」
ライアンはブライを呼んだ。勇者はルーシアと似合いで、ミネアは聡明で心優しいバルザックと似合い。もしかしたら占い師の彼女は勘の鋭い盗賊のバコタとも似合いなのかもしれないけれど。
人間だとかモンスターだとか、ましてや男と女である事も度外視するとライアンとホイミンだって似合いだ。
女王アリーナも良いけど、鮮烈で強靭な幽霊の女とだってブライはしっかりとはまる筈だ。
ブライは“彼女と貴方はどうだ”と言うライアンの誘いの前に笑顔を見せたが、
「それは…恐縮です」
と彼女に対し最高の賛美を惜しまなかった。
377名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/08(月) 03:46:00 ID:/S121CIm
刺すような美貌で渋い女が勇者の母だった。母も勇者を待っていたし、勇者も最後の最後に自分を真の勇者と認めてくれる人が天空の実母であった事で最後の強大な力を得た。
仲間達は導かれて、出会った日からずっと彼の近くに居る。

彼女は数日後にその凛々しい声で高らかと言う。
「結界は消え去りました!」


378名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/08(月) 03:49:11 ID:/S121CIm
天空城でいつも泣いていた女性は勇者の母ではなく、勇者の父を助けようとして共に雷に打たれ死んだ男が忘れられぬと言う。
勇者はびっくりした。「その人生きてるよ」と。
けつだけを雷に打たれて後遺症となってしまった。心が動いた時などにそのけつが痒くなって仕方が無いのだと。
「陰気臭い人は嫌いだって」
女は泣いてその場から動けなくなってしまった。勇者も一緒に泣いている。
「だから明るくなって、頑張ろうよ。俺は陰気臭いガキだって言われてけつボリボリ掻かれたから…俺も頑張る」
「生きていたのね」
「生きてたよ」
勇者と小部屋の女性は寄り添って、相手の服を自分の涙で濡らした。勇者は鼻水でも彼女の服を濡らしてしまうと思って変な動きでひらひらとその事態を避ける。
この女性が、あのケツのきこりと結ばれ既に子供も儲けていたとする。そしてきこりが勇者の祖父だとしたら…この女は勇者の祖母と言う事である。
つまり勇者の父こそが天空人と地上の人間のハーフであり、その彼が生粋の天空女性と結ばれた事になるので勇者は天空人の血を濃く受け継いでいると言うわけだ。
そんな事を沢山尋ねてみたいのだが(このおばあちゃんは喋りたがらないしなぁ…)と勇者は困った笑顔で優しく彼女の背を撫でた。
379名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/09(火) 06:06:00 ID:ozzz1kwK
天空の血が濃いなら勇者の背にもいつか羽根が生えるんじゃないのかとアリーナが言う。
「大きい翼だろうね」
と大きな体の勇者を思い出して少し幸せそうな王女である。ブライが眉を寄せて一瞬厳しい顔をした。こんなアリーナの様子は面白くない。
クリフトは穏やかである。勇者に対抗意識は持たない。
(ブライ様、勇者様に張り合おうなんて、例え貴方が張り合うに耐え得る人だとしても思い上がりですよ)
そんなクリフトはライアンとアリーナが仲良くしているのを見るとムカッ心が騒いで落ち付かない。
「天空の血が多いと聞くと何だか勇者殿が違って見えます」
ライアンは勇者に改めて興味を深めているようだし、トルネコなどは虫眼鏡を手に下げて勇者を覗き込む隙を窺っている。
「前から肩甲骨が普通の人より大きいなとは思ってたのよ」
と、この場に現れた勇者を見ながらマーニャが色っぽい事を言うのでマーニャ以外の皆がドキッしたが、マーニャ本人は変な所が鈍感で仲間達の反応に「?」と可愛い表情で黙っている。
「そう言えばミネアは俺の事“天空人の要素の方が多い筈”って言ってたっけ」
ミネアの予言、予知は大概当たる。“要素が多いと判明する今”を予知していた。
「私は占い師ですが、予知能力ならアリーナ姫の方が優れていますよ」
とミネアは大人しい。しかし勇者は「ねぇ」とミネアに頼んでくる。
「これからの俺に何か見える? ミネアが見る事の出来る一番大きな物で」
380名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/09(火) 06:08:13 ID:ozzz1kwK
この時、勇者達は天空城に居た。勇者がおばあちゃんに冷たくされて泣き、その後彼女と触れ合って鼻水を垂らしたばかりの頃である。
「……………祠が見えます。勇者様の……いいえ、私達の大きな希望…力となってくれる場所です。
それまでどんな苦労をしても、辿り付くべきだわ」
結局ミネアの占いは当たる事になる。処女を失ったミネアは調子が良い。占い師の能力を格段に上げた。
男(または子)が一度体の中に入って力を増すタイプの女占い師。その凄味である。
「じゃあ、そこはまず体力と魔法力を回復させてくれる場所じゃないのかな」
やはりアリーナの勘も鋭い。決して間違いではないし、戦う女として機能的な予知である。


旅が終わった後、希望の祠に再訪した勇者は天空女に言うのだった。
「貴方は人の為に沢山犠牲になって来た」
これからはもう少しだけ違う生き方をしてねと、勇者は死霊に言う。
381名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/09(火) 06:10:26 ID:ozzz1kwK
そしてこれからは俺と一緒の所に居よう、もっと側に居ようと彼女を誘う。
女はもう少しだけ待ってくれと言う。
「私はまだ旅の途中」
と、この祠に今少し留まりたい旨を言った。
(手強いぞ)
と勇者は彼女に身構える。強い戦士であり強い旅人である彼女とどう幸せに渡り合って行けるのか彼は思案顔になった。


ルーシアは勇者達との別れの日に一人散歩しながら思った。
天空で革命を起こして地上の人との自由な行き来や結婚も出来るように、私が旗頭となってやって行けって事なのね……とルーシアは物思いに耽る。
勇者達が出発の支度をしているのを見ると何か落ち付かず、自分の体が自分に何かを急かして来るのを感じる。
382名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/09(火) 06:11:58 ID:ozzz1kwK
(天空なんて、世界なんて、変えられるのかな)
ルーシアは思った。出来る出来ないじゃなくて、自分が何をしたいかだ。
世界がひっくり返る時、世界に大革命が起きる時、それは……自分自身が変わった時だ。
(そうだ)
ルーシアは勇者の元へ走った。
(私は貴方を変えたい)
天空人に嫌われ、地上の人からも孤独な彼の元へ飛んだ。
(貴方もっと天空人らしく、地上の人らしくなれば良いのよ)
貴方まだまだ中途半端よと、ルーシアは翼でパタパタ飛んで行った。

天空の雲にはぽっかりと大きな穴が開いていた。遥か遠くの地上から天に向けて邪悪な波動が発せられその為に雲が貫かれた。
この真下にあの男が居る。邪な進化の魔物デスピサロ。
ピンクの鎧のライアンが最初にパトリシアと飛び降りた。その次はアリーナを先頭にサントハイムの三人。次はこんな所まで来てしまった善良な商人トルネコ。
後は勇者の最初の旅の仲間、姉妹のマーニャとミネア。マーニャは勇者に口付けしてから飛んだ。ミネアもちょっと大胆に勇者の腕に触れて微笑むと飛び降りた。
落ちて行く二人の姉妹がとても綺麗だなと思っている勇者が最後に飛ぶ。天空城を背にしてスッと真っ直ぐ飛び降りた。
383名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/09(火) 06:16:33 ID:ozzz1kwK

落下してる勇者にルーシアが追い付く。
白い雲を掻き分け二人は出会った。
「わたしもいつかは結婚式挙げるの。貴方出席してね」
それは客人としてなのか、新郎としての出席なのか。勇者はそんな事は何も考えず「うん」と元気に返事する。
「又会おうね」
「うん」
「わたしの強い友達を預けます。旅が終わったら天空城の家まで送り届けて。貴方城に来てよ」
「わかった」
じゃあねぇー〜と、ルーシアは飛翔し天空城へ戻って行った。
その後、とても大きな陰が勇者の頭上を暗くする。
勇者はマスタードラゴン? とか思いながらも一瞬本能的に剣を抜こうとした。しかし偉大な何かが命令する(それを斬り付けるなんてとんでもない!)
デカイドラゴンは勇者にボヨンと当り、そのまま一人と一匹はくっ付きながら深い深い地の底へ落ちて行った。
384名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/11(木) 06:47:37 ID:9kkabDyd
ドラゴンの重量を得た勇者はモンバーバラの姉妹を追い越し、中途半端禿げの老人、神官の長い帽子、お転婆のマントを追い越し、髭のライアンどころかパトリシアの馬車まで追い越して地面に激突(突入)した。
地上に着地した勇者の仲間達が、ドラゴンの下敷きとなり地面にめり込んでいる勇者らしき人を発見する。
(ああっ、なぜ我等の勇者をこんな目に!)
彼の上に乗るドラゴンを7人で見詰める。ライアンとアリーナがドラゴンに対して(可愛い)と言う眼差しを送るので、仲間達はドラゴンに何もせず黙って成り行きを見守った。(謎の生命体に出会った時、このパーティーはライアンとアリーナの動物的勘に頼るところが多々ある)
「名前がわかんないよう」
うつ伏せにめり込んでいる勇者がめり込んだまま苦悩を語る。そして彼は起き上がりオレンジ色のドラゴンをちょっとだけ持ち上げ、その体を調べる。
「お前、名前は?」
「ギシャー、ゴワッ、ゴアッ」
勇者に問われてドラゴンは鳴く。
「ルーシア言い忘れるんだもんな」
385名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/11(木) 06:52:49 ID:9kkabDyd
しかし心配はなかった。ドラゴンは首から鎖付きのプレートをぶら下げており、そのプレートにはドランと書かれてあった。
「ドラン」
「グゴーン、グゴーン」
ドラゴン……勇者に取って、運命の生き物だ。裁きの稲妻に撃たれる父をマスタードラゴンは助けてくれなかった。
勇者の父が何をしたと言うのか。天空の忌子だからか。裁かれるべき忌子でも、勇者に取ってはたった一人の実父だった。
「ドラン、ドラン、仲良くしよう」
勇者とドラゴンはお互い瞳を閉じて、出会ったばかりの額を当て合った。
386名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/13(土) 12:06:07 ID:6Z9cLjQM

「なぜ私も裁かれぬのでしょうか。あの息子の力になれるならどんな姿になっても」
16年前…天空城に住まう自分の、戦士としての限界を感じた勇者の母は天空を出る事にした。
「私に雷を。そしてあの息子に成長する時間を」
語る勇者の母にマスタードラゴンは問う。その子に時間を与えて何があると。
「勇者となります」
母は彼が真の勇者であると信じた最初の人でもある。
この母も勇者と呼べる。勇者の母はマスタードラゴンの御前で稲光に焼かれ、死して霊力を得た。邪悪なる者を寄せ付けぬ希望の祠の主はマスタードラゴンの手の平の上には収まり切らなかった最初の天空人である。
そして勇者が始めて心を通わせた異種族の仲間はドラゴンだった。彼のドランへの思いも、マスタードラゴンが思いも寄らなかった壮快な愛情。
彼等はドラゴンから少しずつ、もう少しだけ自由になりながら、ゆっくり静かに長い旅をしているのか。
ルーシアも生粋の天空人ではない男と楽しく生きるのだ。

「勇者殿の戦う相手はもっと大きいか」
デスピサロを倒せ倒せのライアンだがそんな言葉も発し、勇者に歩み寄ってくれなくもない。
デスピサロを倒せ倒せのブライはその思いを生涯揺るがさず勇者を挑発し続けた。しかし考え方感じ方のまるっきり違う勇者と信頼で結ばれている老人である。
387名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/13(土) 12:07:07 ID:6Z9cLjQM


ドランのプレートには彼についての記述が細かく書かれており、最後に「ドラン」の字と同じくらいの太さ大きさで「愛を込めて」と記されてあった。
異種族との旅が好きなライアンへだろうか「うぅん…」
ドランは教会の竜だったからクリフトに準えてか「えぇ?」
ドランのプレートの内容を一番楽しんでくれそうな商人トルネコか「面白いですねぇ」
氷と冷気の魔法使いブライの足りない所を補う為に、炎を吐く竜を送ったのか「フフ…」
「誰に対しての言葉なのか、わざと書かなかったのかな」
半笑いでブライが言うと勇者は「いやぁ、そんなこ洒落た事するかな」と言って、
「おっちょこちょいだから書き忘れたんじゃないのかな」
ルーシアったら若いのに頭呆けちゃって…変えてやりたいなと彼女に、この勇者の割りには珍しく図々しいような大胆な思いで微笑んだ。
その頃天空城のルーシアはくしゅんくしゅんとくしゃみをしていた。地上の人間に風をうつされたのだろうか。熱に浮かされて赤い顔をしている。
あの頭が少し狂ったおばあちゃんが「全く地上の男は迷惑だ」とルーシアを撫でて慈しむ。そして珍しく自分から好きな男の事を語り出した。
地上ではドランが大きな目を瞬かせて忙しそうに人間達の表情を見詰めている。
388名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/13(土) 12:08:53 ID:6Z9cLjQM

バコタとパノンの話の続きでした。
おてんば姫の旅に着いて来る教育係の老人が普通っぽい人に思えないのでこうなります。
389名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/13(土) 12:11:05 ID:6Z9cLjQM

>>337
バーサーカーの背を見失わないように、王子達は竜王の城の中を歩む。だがローレシア王子は彼女の案内を少しだけ待って貰い道を逸れた。
宝箱の中にあるロトの剣を発見。
最初にロトの物だったこの剣、それが何百年間も初代竜王が所持帯刀していた。
今から百年前にロトの勇者のサンがこの剣を取り、彼は自らの遺体と共にこの剣をこの城に残す。
剣は血に濡れてその効力と強靭さを失っていた。なぜロトの剣の威力が下がったのか。それは斬ってはならない者を斬ったからではとローレシア王子は思った。
剣は勇者の血で穢れたのではないか。竜王は斬ってはいけない勇者だったのか、ラダトームの勇者が自刃して果てたのか。
竜王の謎、ロトの謎を具現化したような剣が今目の前にある。ローレシアのスターはその静かな剣に触れゆっくりと握った。
ひっそりと呪われている剣に
(私と行こう)
とローレシア王子は心の中で呼び掛けた。
390名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/16(火) 05:29:08 ID:L5E/OuRK
残された一本道をただひたすらに行って地下へ潜る。バーサーカーの背、その緑のマントが見えた時、彼女はただ一点の元へ走っていた。
「ギイ!」
一点は彼女の声に「なぬ!?」と答える。
「ギーーーイ!」
「うわぁぁぁ!!」
王座と思しき豪奢な大椅子の上でギッタンバッタン王とバーサーカーは出会う。バーサーカーの腕は王の腕に触れてしまったり、彼に彼女が馬乗りに近い形になり少し絡み合う。男と女の体が擦れ合う。
「何じゃ!?」
「ギィギィ」
男とモンスター女の長閑な会話だがローレシア王子とムーンブルク王女は官能的な男女の姿勢に釘付け。サマルトリア王子は見ちゃいられないと思い、そっとこのエロティックに背を向けた。
「動きの煩い奴だなぁ。座っとけ」
と王はバーサーカーの彼女に王座を譲ってしまった。「ギ?」と言う彼女はチョコンと王座に座らせられネズミの耳のような王冠も被させられてしまった。「ギョ」
黒い王冠恐らく布製は、彼女の黒い肌に良く似合った。元気な銀髪が雑草のように王冠の下でピンピンはねている。
王も彼女と同じく黒い肌が精悍であり、浅く波打つ短めの金髪で人間の男の姿をしている。だが人間ではないのだろう。
391名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/16(火) 06:56:50 ID:prRDnudq
何このオナニースレ
392名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/18(木) 16:44:18 ID:VLCH0gcS
勇者達を助けられる第三者の存在を紹介するなら何よりも先にデルコンダル大王を推すべきだが、彼女はこの王の元に勇者達を招いた。それは彼女がバーサーカー、つまりモンスターだからだ。
393ナジミ:2005/08/19(金) 00:18:37 ID:T/gUNdpS
/guest
a
394名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/19(金) 00:20:40 ID:f6JNqRM5


あなたお友達


女勇者は自ら描いた絵を売って、Gの代替に劇場でベリーダンスを教えてもらった。
ハーレムパンツを履いて踊り子達と華やかに町を歩く女勇者は擦れ違う美人をも振り向かせる。
「こんばんわお嬢さん。星がとっても綺麗な夜ね」
こんな声をパフパフ娘に掛けられる女勇者は彼女の客にはなれなかったが、夜の戦闘を終えて鎧姿で町を歩くと
「あら素敵なお兄さん。私とパフパフしましょ」
パフパフ娘は同じ人間と気付かず勇者を誘って来た。
「パフパフって?」
そう尋ねて来る勇者の声にパフパフ娘は仕事を忘れる。低い嗄れ声だが女の声のようでもあり、その勇者の在り様、存在が凄く気になった。有態に言うとこの勇者に誘惑された。
「着いて来て。試してみないと」
とパフパフ娘は女勇者と知らずに鎧姿の戦士を引っ張って行った。
パフパフ娘の自宅なのだろうか、薄暗く狭い廊下を渡りながら勇者は「これはエロだ」と感じた。
395名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/19(金) 00:23:04 ID:f6JNqRM5
「私女…」
「え?」
「女です」
「そんな断り方ないじゃない」
もうどっちが客の心理になっているのかわからないまま、勇者はベッドに座らされ
「灯り消すわよ…」
と囁かれた。暗い部屋の中で勇者はやっと兜を脱ぐ事になる。暗闇の中で見た勇者の眼差し……それは凛々しさを持ちながらも女性のようにパフパフ娘は感じた。
しかしパフパフ娘も止まれない。止まれないから…女勇者の肩は何者かの手に掴まれた。
「これは…」
「ハハハ、どうだいぼうず」
暗がりの中で男の低い声がする。その男の手が女勇者の肩を揉み続ける。
「気持ち良い…」
男もその勇者の囁きにギクリとして一瞬プロの手を止めた。その隙に男はパフパフ娘に手を引かれて隠し扉から隣の部屋に連れて行かれてしまう。
「父さんのお客にするつもりなかったのよ、ごめん」
396名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/19(金) 00:25:56 ID:f6JNqRM5
「俺が居るのを忘れて本気になるんじゃねぇ。イチャつきたいならヨソでやんな」
「ごめんってば。だって「俺は女だ」なんて言うからカッとなって…」
彼女はここが仕事場である事を忘れて勇者にのめり込んだ。
「で、あの人どっちの客になるんだよ」
「私のお客に…」
「やめろパフパフなんて」
このパフパフ娘はパフパフで商売した事はない。客引きだけをして父のマッサージに回すのが仕事だ。つまり彼女の行為は詐欺である。
「私だって…」
「だから、この仕事以外の事がしたいならヨソに行けよ!」
隠し扉の向こうの部屋…つまり親子が喧嘩をしている部屋は明るく、半開きの扉から射し込んでくる光を少し頼って勇者は無言のまま鎧を脱いだ。
親子が勇者の居る部屋に戻って来ると、ヌギヌギと鎧を脱ぎ終えた勇者が静かにベッドに座っていた。
厚い唇を持った口と、青い瞳、姿の良い乳房の全てが大きく、間違い無く女の色気だった。
「本当に女だったの…」
「うん」
と返事する女勇者に親子は視線の全てを奪われる。父親の方など言葉も無い。
397名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/19(金) 00:28:36 ID:f6JNqRM5
「どう言う事なの?」
と勇者は親子の言い争いの理由を尋ねて来る。
「なんだ、そっか…。ねぇ普通にマッサージで売れば良いじゃない」
「そりゃ、普通にも売ってるよ。でも俺の技が騙された後でも続けたいものなのかどうかたまには試したいんだ」
この男はここアッサラームの町に長く居過ぎて、この歓楽の町に慣れてしまってもっと刺激を欲しがっている。ぼったくりも詐欺もやる。それはGの為、そして捻じ曲がったプライドの為に。
(危ないなぁ)
と勇者は思う。そして彼女は
「G払うからマッサージして」
と男を誘った。
「じゅあ…そこに横になって」
言われた勇者は心の中で(わぁい)と歓喜して
「お願いします」
と見事な女体をベッドにしっとりと横たわらせた。
398名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/21(日) 14:34:57 ID:fg7tAAaS
男は脱ぐように勇者に言う。
「え、全部?」
勇者が少し驚いて尋ねると、下半身の物は纏って居ても良いと聞かされた。
勇者は思い切って脱ぎ出す。男に背を向け脱ぎ終えるとうつ伏せになった。
男は指先を宙でパキパキと鳴らし、
「よろしくお願いします」
と太く長い指を彼女のしなやかな背にそっと押し当てた。
399名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/24(水) 14:54:09 ID:vlujAxY4
勇者は息を漏らし眉を顰める。
始めは足から。勇者は男の指に合わせてパンツ一丁の体を少しくねらせる。
「さすが、鎧を着た戦闘で汗一つかかないだけの事はある。こりが殆どない」
「でも(気持ち)良い…」と伝える勇者はたまに「あっ…」と囁いてしまう。
最初彼女は「男の指だ」と思って妙な意識と緊張を持ったようだが…その意識すら解れて今は刺激の強い安らぎの中に居る。
男の仕事は今日も実を結んだ。彼女の喜びこそが幸せである。
充実を得ている男、その下で寝そべる女勇者はパフパフ娘の存在を探した。見渡すとこの部屋には居ない。
(あら、二人っきりだ)
と思う勇者が男に聞くと、パフパフ娘は隣の部屋に居るようだった。彼女はたまにこちらの様子を覗いてくれているようである。
(近くに居てくれて嬉しいな。ここに居てくれても良いのに)
勇者はそう望むが(父さんが裸で悶える若い女を揉んでるところなんて直視したくないだろうし)との思いも及ぶ。
余りに気持ちが良くて、彼女は涙が出て来てしまった。それを男は垣間見る。
彼女の背に指を滑らせながら、男は良い仕事を叶えている喜びで良い汗をかきながら息を弾ませる。
大きな体を熱くさせている指圧師。熱くなっているのは「男」としての血ではないのか…そう感じる度彼は自分を見据え、平静を取り戻す。
彼女の体に落としそうになる自身の汗を姿の良い腕でそっと拭い、男は勇者に仰向けになるように言った。
女勇者はハッとして、うつ伏せの姿勢から軽やかに寝返りを打つ。そして乳房を両腕で隠すとベッドに座り少し丸くなってしまった。
「ん?」
と良い汗が流れている男の顔が尋ねて来る。
男もベッドに座り彼女に迫ると彼女はもっと丸くなってしまった。
「俺に仕事を続けさせて欲しい」
「……」
強く見詰めて来る男を、女勇者は無言で優しく見詰め返す。
彼女は男を買い、仰向けになって自らの腕を解いた。
唇、乳首、性器には触らないと男は言う。安易な所には絶対に触れない。
(ここでイカせてやる)
男の指がそこに優しく触れると
「うぅ…」
と彼女の反応は良好である。
乳房の脇に触られ続けた時などは「イヤ、イヤ…」と彼女は変な気持ちになっていた。まず施術として快感だからまた泣いていた。
400名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/24(水) 14:57:03 ID:vlujAxY4
「やっぱり駄目、男の人…」
「大丈夫。俺を男と思ったら俺も貴方も幸せじゃないよ」
しかし勇者は「あん」と可愛い声を出してしまった。
はぁはぁと息を乱す女勇者を見詰めて、男もハァハァ息が上がって来る。
下腹に触れられた時、彼女はイッてしまった。それとほぼ同時にマッサージ師もイッた。
男は呆然として指が止まる。勇者はその停止をすぐには気付く事が出来ず、乳房を上下させて何度も深い吐息を漏らしていた。

こんな失態は始めてだと。驚きと悔しさで男は止まってしまったが、仕事は最後までやり遂げる。
髪を少し乱しながら笑顔でGを払おうとする女勇者を、マッサージ師は断った。
「あら」
勇者がびっくりしても、いらないと男は首を振る。
「どうして」
「仕事じゃなかった。貰えない」
「どうぞ」と女勇者は言う。そんな彼女に、Gを貰えない理由を男は語る。
「貴方に悪いよ。ここはどうか俺の言う通りに」
彼女は男の言葉を受け入れてGをしまう。
「こんな事言うの変だけど」
と女勇者は恥かしそうな笑顔でこう言った。
「あたしはじっくり見てても良いって言ったのに…娘さんはやっぱり今日お父さんの仕事あんまり見たくなかったのかな」
女勇者バリーのお父さん、オルテガの仕事は凄まじく結局彼女の目の前で死んでしまったりする。バリーは死に行くオルテガさえも見たかったのだろうか。何でも見ようとする彼女は幸せなのだろうか。
ただ勇者のバリーは頭が良く、胆力に優れた女性である事をマッサージ師は感じていた。そんな彼女を(お疲れでしょう)と指で労わった。
401名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/24(水) 14:59:30 ID:vlujAxY4
「今日は…裸の女の客なんて始めて見たから驚いたんだろうが、仕事は面白がってくれてるよ。でもあいつは継いでくれないや」
「女の子はあんまりお父さんの家業継がないよ」
「貴方はどうなんだい」
「ウフ」
「父さんは戦士だろ」
「はい」
「強い?」
「安定はしてないの。日々強くなってく感じ」
402名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/25(木) 12:41:40 ID:S8d9jEzp
「父さんいくつ?」
「52」
「年上…。その年で剣を振るう戦士で居るのはキツイだろう」
「そんな事ないよ。父さんの場合は魔法も使うから余計に戦えるだろうけど」
魔法を使う重戦士なんて居ない筈だ、凄く難しい存在だと、指圧師は本当に驚いている。
「あたしもそうだよ」
あんた達何者なんだと、男は少しゾッとした。女の艶かしい唇が動くのを待った。
「両方使えるのは生まれつきかもね。それで得もあるし損もあるよ。今日始めて会った人の顔や胸に触ってGにしても良い人とそうじゃない人も居ると思う。持って生れたものを上手に活かして…貴方は天職だね」
「貴方もこの職向いてる。俺だって貴方に触られたいと思うよ。実際男も女も貴方に吸い付いてくるだろ?」
「そう見えるの? ありがとう。でもあたし……あたしアリアハンから来たの。父さんが魔王を倒そうとしてるから助けに行こうとしてる」
と鎧姿の勇者は男の前で階段を上がった。彼女が彼の家を出る時はもう夜明けで、太陽を背に逆光の女勇者は男が今まで会った誰よりも強者に見えた。目映い光の中で黒の存在感を放つ女勇者は男に言う。
「でもその事なるべく、ちょっと内緒にして」

沢山の人や客に会って来たけれど。
「貴方みたいな人初めてよ」
「そう? あたしもパフパフ娘と指圧師の親子初めて見た」
そして「パフパフでやってくって考えてるの?」と勇者は娘に尋ねる。
「うぅん」と娘が首を振ると勇者は「ふぅん」と大きな目をパッチリ開いて納得する。
403名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/25(木) 12:42:36 ID:S8d9jEzp
女勇者はパフパフの事を指圧師に教えてもらった。お互いがハァハァ息を乱すベッドの上で。
「だから…おっぱいとおっぱいを…こうして…」
男がそう囁くと、「うそぉ…」と勇者は可愛い声で驚いていた。
「ほんと、ほんと…」
と男は少しうめきながら勇者の腰を押し流す。
「エッチ…」
勇者は半開きの口ではぁはぁ吐息を漏らしながらそう男をなじった。
「俺が考えたんじゃないよ…」
でも貴方は人を癒す技を次々に考え出しそうだと、勇者はワクワクしながら男に言ってくれる。
「…パフパフが人の癒しになると感じてる時点で貴方かなり…」
言われた勇者は恥かしがった。男の前で隠さない乳房がゆっくり揺れる。

朝のアッサラームの中を、滅茶苦茶に凛々しい戦士が歩んで行く。鎧の中身はアリアハンから来た16才の娘である。若い女はハツラツとあの指圧師を思い出していた。
(イイ男だったなぁ)

(くそう、イイ女だったなぁ!)
とマッサージ師は自室の机に突っ伏していた。彼はあの女勇者と“ヤリ”たかったのだろうか。
(いいや。人間としてのエロの高みを体験出来た。俺は幸せな経験した)
と男は緩やかに感動していた。
父が余りに堪えているので「そんなに心残りあるの?」とパフパフ娘は尋ねた。
「あぁ。あの人と一緒に働きたい。この町に戻って来てくれねぇかなぁ」
404名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/26(金) 12:28:48 ID:C0qhMWjP

鎧の戦士は歩きながら思った(そうだ、きっと兜を着けてるから男と思われるんだ)
女勇者は道端で兜を脱ぐ。精悍な鎧の上に女の顔が乗って、これで男と思われる事はないだろう。その女勇者が(あっ)と気付いた。
兜に大きなひびが。(あらあら)勇者は両手で兜を持って少し途方に暮れながら町の中を歩いた。
(買いかえよう)勇者はきょろきょろ町を見渡した。
屈強な男が営む北の武器屋は夜明けと共に店じまいしている。
その武器屋の西に大きな邸宅があり、更に西へ行くと洗練された武器屋がっあった。
北の武器商人は勇者に気付かず、欠伸をしながら店の扉を閉めている。西の邸宅はまだ皆寝ているのか静かだ。
西の武器屋の小太りな店主はもう起きていて、プックリと出た腹をポツポツと揺らしながら眠そうに武器を磨いていた。
だがこの武器屋も扉を開けそうにない。店が開くのはまだ先なのだろう。
405名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/26(金) 12:29:42 ID:C0qhMWjP
武器も商人も勇者から見ればガラス越しに見えているだけに過ぎない。ショーウィンドウと言う珍しいガラスの設置物である。
勇者はそこに並ぶ鉄の兜をぼんやり眺めてしまう。ガラスに少し写る自分の顔に勇者はちょっと驚く。厚い唇を半開きにした物欲しそうな顔がみっともなくて勇者は自分で少し可笑しくなった。
恥かしくてガラスからパッと顔を反らした勇者に、小さな扉を開けた店主が話し掛ける。
「何かお探しですか。店が開くのは5時間後です」
「兜を下さい。一度寝てからまた来ます」
そう言って去ろうとする勇者に向かい、商人は更に言葉を掛ける。
「Gで買うのですか」
「え?」
「この店で働いた報酬として兜二つと言うのはどうです」
「面白そう。私が働いて良いの?」
勿論です。わぁい。と言う商談が成立し、男女は手を振りながら5時間後を約束して別れた。
406名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/28(日) 01:38:53 ID:71jC87mR
ニャー
407ワック:2005/08/28(日) 01:40:22 ID:jGYGPNdN
408名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/28(日) 05:42:04 ID:9zSkv8Nr

女勇者が宿屋に向かい小走りしている頃、男はゆっくり噴水のある大通りへ進んでいた。
勇者と行き違いに歩んでいるこの男は、長い黒髪の三つ編みを大きな背で踊らせている体の大きな武闘家。
背の高い彼が眩しそうにしていた日はふいに曇った。あれほど光が満ちていた夜明けだが今日と言う日は長じて曇るのだろうか。
「素敵なおじさん」
女が声を掛けるとその三つ編みの男は振り向く。本当に素敵だったので女は驚いて二の句が継げなかった。
顔は決して端正ではない。しかしその顔もセックスアピールがあって性的刺激の強い中年である。
こんなイイ男は余り居ないようで珍しくて、立ち居振る舞いは落ち付いてはんなりとしていて長い手足も厚い唇も厚い胸も印象的、眼差しも惑的な武闘着姿。だがその着衣は少し乱れている。
つまりパフパフ娘は黙り込んだ。さっきの女勇者の次にこれかと言う驚きもある。
武闘家は言葉を失っている娘の様子を珍しがるでもなく、不思議がるでもなく黙っている。
パフパフしましょうと娘が誘うと
「よろしくお願いします」
と男は朝日の中、即金で払い終える。
男と並んで歩いているだけで女は興奮して寒気を覚えた。
(寝てないし、あの勇者にHなところを見せ付けられたし)それもあって娘は頭がボーッとする。男の美声で体が濡らされるような気分がする。体の奥まで濡れるような。
娘は早速自分の部屋へ武闘家を招待した。勿論父の仕事へ回す為。なんだか自分の“客”にしたくないと娘は思ったのだ。
(こんな形じゃなくて、そして私がもっと大人だったらな…)
ごめんねおじさん。と娘は目を閉じて男を抱いた。
女の肩を抱いていた艶かしい色の武闘着、その肩を、二人目の男の太い指が掴む。
武闘家は少し驚き、戦い慣れた彼の踵が触れようとした指圧師の首に向かって振り落とされた。
この町で物欲しそうな顔をしてはいけない。それは売る側、施術者の方にも言える事だった。
武闘家の重い重い体重ごと、マッサージ師の意識は地に落ちて消えた。
409名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/30(火) 11:00:52 ID:T6QNBv6P

昼間の西の商人は
(嫌われそうだから言わない)
そう思って女勇者に自分の今までの商法を隠した。
彼女の方も商人と打ち合せをしながら余計な事は何も聞かない。人間性も落ち付いて静かな人でそこも色っぽいのが彼女である。彼の心を読んでいるようにも見える不思議な女。
410名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/08/30(火) 12:33:01 ID:MWElvY0+

アッサラームの商人は極上の笑顔で武闘家を迎えてくれた。
「やあ。よくおいで下さいました。あなた友達」
その商人の隣にチョコンと女が立っている。
「はぁい。友達」
彼女は武闘家の仲間の女勇者だった。
「何やってんだ」
「鉄兜が欲しくて。働いた報酬で2つ貰う事にした」
この店にいきなり良い女の店員が現れたと言う事で「どら、どんな女じゃ」と覗きに来る客が多く、店はとても繁盛していた。
さらに彼女が居る間、品物は正規の値段となっていたので客の数は異常。
「薄利多売ね」
「この娘が居る間は祭りですよ。全く私首吊る覚悟」
「あなたもちゃんと並んで」
と勇者は笑顔で武闘家に言ったが、
「いや。働かせて貰いたくて…」
と武闘家は自分の大きな背中から、女性を一人覗かせた。
「貴方は…夜の」
と商人が驚く横で武闘家は言う。
「この娘の親父と俺とで事故があって」
「どうしたの」
と勇者は驚いている。
「蹴っちゃった」
全治云々。「何やってんの」勇者は驚き続ける。
「この娘を雇って欲しい」
「宜しいでしょう。貴方も働くならね」
と商人は武闘家に言う。
「俺?」
「さぁさぁ。忙しいのだからこちらへ」
この商人は元々アッサラームから出てしまうつもりで居た。可愛い女の子を雇って在庫処分の祭りである。女勇者と出会えた商人の喜びは大きい。運の良さそうな武闘家と美しいパフパフ娘も得て更に完売の兆しが見える。
それに…この女勇者とパフパフ娘と武闘家男……この三人と“やれたら”なぁ…なんて商人は思っていた。
4人一辺とは行かなくとも、誰か一人とでも官能的な関係になりたいと商人は思ったのだ。
商人がアッサラームを出て新しく目指す町はバハラタ。彼は黒胡椒に目を付けている。あれは大きな商売になると。
411名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/01(木) 17:05:12 ID:2/K0kckj

「いらっしゃいませ」
聞いたならいらっしゃるしかない武闘家の美声。身のこなしも声も端正で官能的、客は女も男も彼に誘われている。
パフパフ娘は印象的で美しい商売をする。
商売をしながら女勇者と男武闘家は密やかに語らう。
「お前への報酬はあの商人が処分したい在庫じゃないか。都合良く利用されてるんだぞ」
武闘家は勇者に明るく笑いながら言う。「あら、大変だ」と勇者も楽しそうに言う。
アッサラームは自分なりに遊んでこそ物の種だと、勇者も武闘家もわかっているのだ。
騙されてもぼったくられても平和な心。その平和を二人で確認し合って楽しく笑う。
「いらっしゃいませ」
客の影を感じて男女は共に言う。楽しそうな勇者と武闘家は声も笑顔も最高である。
女勇者と武闘家の仲間である戦士は…客としてこの店に入り圧倒されていた。
「イシスへはいつ」
いつ出発するんだと、男戦士は武闘家に問う。
あの砂漠を越えるのか! と店内は客と店員入り乱れて少し盛り上った。
「お客さん、話は店が終わってから」
武闘家は既にしゃんとした店員である。「店が終わるのはいつなんだ」と戦士が問うと「もうすぐだ」と武闘家は言う。
「完売するまで」
その武闘家の美声と頼もしさに店長の商人はゾクゾクして震えた。
412名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/04(日) 05:53:12 ID:0v3c6mt5

商人の在庫は夜を待たずに売り切れ。
「ばんざい」
と商人は勇者と喜び合い、手を振り合って別れた。結局彼女には官能的な事を何も告げられずに終わる。(返す返すも残念だ)
「楽しかったよ」
笑顔と凄い美声でそう言ってくれる武闘家に、報酬の見躱(かわ)しの服を渡す自分の手が緊張で震えているんじゃないかと商人は恐怖した。
「貴方からは学べる」
女性客に対する武闘家の仕事振り…あぁ男の色仕掛けとはあんなものかと商人は開眼する。
「私はバハラタに行こうと思っています。又貴方に会いたいものです」
「あぁ、俺はバハラタに妻子と家があるんだよ。元々の出身はダーマだけど」
「では、また会えますね。あなたダーマの男らしいと思っていたのです。黒髪がセクシーですよ」
会えたら会おうと武闘家に言われ商人は喜びを隠し切れないまま、うっかり武闘家を帰してしまった。
パフパフ娘にも報酬を渡し、商人は言う。
「私のアッサラームでの商売はこれで終わりです。もうこの店では働けないけれど貴方は技術よりも物を売る方が性に合いそうですね」
「そう、どうも。店長はこれからどこへ行くの」
「バハラタ。なんだかピンと来て。貴方は何か感じないですか」
「行ってみたい。でも今すぐには…お父さん意識取り戻したばかりだし」
「上手くないですね。でも家族は大事ですからね」
「さようなら」と商人は店の中へ帰って行った。最後の整理でもするのだろう。
413名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/06(火) 11:28:44 ID:s8R4W68h

商売がしたいなら北の武器屋が良いんじゃないか。世界標準の仕事が出来るだろう。
勇者と共に歩んでいたが今は西の武器屋近くに残っている武闘家、一人立っていたパフパフ娘に話し掛けた。
「貴方色々心配してくれるね…貴方が教えてくれた父さんへの処置だって…教会で聞いてみたら完璧だって」
「目の前で倒れたらね」
「先に私達が騙したわ」
「俺が何かするのもこれが最後だよ」
そう言って全てを終わらせようとしている武闘家を呼びとめて、娘は囁いた。
「ごめんなさいね」
父を蹴り倒した男と…女は何をするのだろう。いや、父を助けてくれた男と思って…女は男に抱かれて………
いる途中で、いやこれからと言う時に男女は商人に見付かった。
(屋外で大胆な)と思う商人の前、彼は絶妙な暗さの路地裏でパフパフ娘と仲良くしていた。
武闘家は商人男を認めると、微かに恥を乗せた笑顔を見せる。
(人の気も知らないで。知ってるくせに)商人は声も動きも全て止めて黙っている。
武闘家は、何か商人の具合が悪いんだと思い「どうした?」と暗がりから聞く。
パフパフ娘も武闘家に潤まされたその目で商人を見る。娘も武闘家もおかしな店長を心配した。
駆け出す商人を武闘家も娘も咄嗟に追う。
娘は諦めたが武闘家は彼を追った。今まで女の前にいて…それで乱した服のまま武闘家は商人を追い掛ける。店長は妙な病気かと。
414名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/06(火) 11:30:11 ID:s8R4W68h
「おい」
武闘家は商人の肩を掴む。自らの顔を上げるのを拒むが、武闘家にその涙を悟られた小太りの店長は今来た道を駆け戻って行った。
「ちょっと」
一人残った武闘家に話し掛ける女がある。
銀髪を清潔に、短く切った黒い肌。ギョロッとした鋭い目と厚い唇。
「あんな太った女が良いの」
(女と思われた。その方が良いか)
男と関係があると誤解されるのは面倒だと武闘家は思った。自分の夫が男色に関わるなんて良いものではあるまい。
女性と居たらしい夫に対し妻は怒っている。武闘家は取り立ててあの商人(大した事はなさそうだったので)にも妻にも用事はない。昨夜はこの女の所へ泊まって喧嘩した。今夜も泊まったが喧嘩はしなかった。

走る店長はパフパフ娘と鉢合わせとなった。
「店長具合悪いの?」
それはメダパニのような混乱…疲れから来る一種のヒステリーなのか(恐いなぁ)と思いながら
パフパフ娘は商人に話し掛けた。
「いいや」
首を振る店長の涙の跡までは解らなかったものの、今の彼の態度や顔をつぶさに見て娘はやがて悟る。店長はあの現場を見て…武闘家男に感動したのじゃないか。
確かに色気はあの人(武闘家)の方があるけど。
(私は何なのさ)
この場のばつの悪さから来る勢いで、この娘と店長がさっきの路地裏の続きをしても良さそうだが彼はそうしない。あの武闘家の女には手を出さない。
415名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/06(火) 11:32:15 ID:s8R4W68h
女勇者に何も出来なかった、しなかったのも、武闘家と働く彼女を見たからだ。あの女勇者、武闘家の女だろうと。
商人はおしとやかに家に帰る。
残されたパフパフ娘はアホらしいと思っているのか居ないのか。
(帰ろ)
彼女もこの場を去った。


“まさかお前が盗賊とは思わなかった”
だから別れる。それにお前は結婚当初の約束も守らないし。と武闘家は昔妻に言ってある。この二人離縁していたのである。
「盗賊じゃないってば」
416名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/09(金) 01:29:15 ID:RM6sYixp
武闘家は彼女の親も見て彼女と結婚した。しかし彼女の両親も盗賊だったのだ。
「盗賊じゃない!」
「ピラミッドは、イシスの陵廟は、行ったんじゃないのか親子三人で」
「…それは……あなたはあれだね、黄金の爪どころか武器事体に興味ないよね」
「要らないね。大体その爪は埋葬品だろ、死人から盗むわけだ。死んでたって人間だよ」
「…ピラミッドに興味はあった。でも墓荒らしなんてしてない。私達が手に取るものは人が所有していた物じゃないんだ」
この女の言葉は信じられるし、信じてやりたいけれど…数年前会った時に彼女は盗賊団の中に居た。
「ごめんよ、ごめんよ。あれは違うんだってば」
女盗賊(人の物は盗らずの盗賊)は夫に甘えて来ているように見える。
「別れる」とこの男に言われた時は「あー、別れてやるとも!」と勢い良く言ったが本当はその瞬間から(しまった!)と彼女は後悔していた。
(あんたと情が切れたら生きていけない)
こんな事を口に出すのは何だか腹立たしいので言わないけれど、彼女の本音である。
「見て」
と彼女は自分の手にはめている武器を武闘家の前に出す。
「これのもっと強力なのはランシールにあるんだって。あなたの持つ武器はこれになるよ。
あなた物が介入すると良くないから体一つで戦うでしょ。声も良いしね(自分の体から出た強みと言う事で)
鉄の爪とさえ相性良くなかったでしょ、これなら戦う形が素手と変わらない」
この小ささが渋い武器は彼に良く似合っている。ランシールで言うパワーナックル。
417名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/09(金) 01:32:26 ID:RM6sYixp
「これ私の武器でもある。あたしはね、隼の剣も使える。この剣ランシールで修行すれば武闘家にも使えるけど裏の技だよね。
あたしこの剣で堂々と神の竜とだって戦える。武闘家にあるものは持ってるんだ」
この女はまた生意気を言った。夫が武闘家である事が昔から気に入らないらしい。自分と同じくらい旅に役立つ能力を付ければ良いのにと夫に思っていた。あなたなら出来るのにと。
「私達、連発出来る会心の一撃はないけど」
武闘家は(お)と思った。この女ちょっと可愛くなっている。
復縁したいとか貴方の旅に着いて行きたいとかは意地を張って言わないけれど、彼が武闘家である事にケチを付ける気が無くっているし、彼が旅立つ事も良いらしいのだ。
(寂しいけどね)
寂しいなと、彼の顔を見るたび思う。この人笑わなくなった。
そう思った先に、男は女に向かってニコッと笑った。この女がここまで歩み寄ってくれているなら彼も一歩近付いてくれたのだろう。
(あっ、どうしたのあなた)
そうだった、この人こんな母性本能をくすぐる笑顔だった。だけど低い笑い声はメチャクチャ格好良くて倒錯的。
(やだよう。また変な気持ちになるじゃないか)
アッサラームで会ってから毎日毎日営んでいるこの夫婦。昨夜は喧嘩と喧嘩の間に抱擁があった。
今日はゆったりと甘く、二人仲良くお互いの(雄雌の体の)思いを叶える。
418名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/09(金) 01:37:19 ID:J1PjotE1

「どこに行くの?」
ベッドとシーツの間から、黒い上半身だけを月明かりにさらしている女は男に聞いた。
「散歩」
「連れて行ってよ」
「すぐに戻る」
女は、男の背と空を見上げながら雨が降りそうだなと思った。

散歩しながら武闘家は思った。
(あいつを置いて、行きたくも無いイシスに向かうのは嫌だな)
黄金の爪の噂を聞くのが辛い(彼とこの爪の間には何か因縁があるらしい)、イシスの女王に捕まるのも嫌(以前囚われて大変な事に発展したので)。
つまり彼に取ってはイシスは再訪の地である。
419名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/09(金) 01:41:35 ID:J1PjotE1
彼女は窓からヒョイと首を出して、彼が早く帰って来ないか夜の町を見て待っていた。
その町を世界屈指の良い男が歩いて行く。
「カンダタ!」
女は慌てて若い盗賊の名を呼んだ。
「あ! どうも、お久しぶりです。あれから引っ越ししなかったの」
「ちょっとあんたっ、あんたの父(てて)! 今アッサラームに居るんだ! 盗賊だってバレたらあんた殺されるよ」
「え………会いたいな…」
「あんたよくそんなクソ度胸で盗賊やってるよ! もっと臆病になりな!」
逃げろ、死んでも知らないからなと、女は警告してくれる。
「アッサラームだって広いぞ。そんな調子良く会わねぇよ」
カンダタはそう言って走って行った。
走るカンダタに溶け込まれ、着き従う三つの影も見える。
カンダタが子分達と見ているのは北西の大邸宅。黒装束の男4人が庭まで侵入し不法に芝生を犯す。
420名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/10(土) 11:57:30 ID:i9S+viJp
「なんだぁ、盗むのかいボス?」子分のAはカンダタに問う。Bは「盗みじゃないんだな」と言う。「変な事考えないでよ親方」とC。
「学者の主人と遊んで来るよ」
黒胡椒の商売が当たるか否か、学者からも聞き出すカンダタのクオリティ。
彼はバハラタ出身。土地柄からダーマ男の血が強く混ざり、くせの無い髪が黒く、肌は乾いた砂漠の色。髪も装束も黒い男は白い壁に飛び付き音も無く屋根へ駆け上った。

散歩中の体の大きな武闘家は北西の邸宅を振り返った。
住宅の中にモンスターの気配を感じて北を見詰めるが、その視界が不意に潤んだ。
雨は夜になってから降り出したらしい。

カンダタは不法侵入中、雨で滑る屋根に足を取られて高い邸宅から落下した。
本当は雷が恐くて(キャー)と思ったり、モンスターの気配が体中を駆け上ってびっくりした事なども重なり身を持ち崩したのだ。
あーと落ちる彼の腕を掴み、屋根の上へ引き上げようとする逞しい腕。カンダタはその長くしっかりとした腕、自分を救出する全てに戦慄した。
助けてくれている武闘家はその眼差しでこの美男の端正さを褒めてくれる。
(抱いてくれ、あんたが嫌なら俺があんたを抱く)
そう思うカンダタは色っぽいおじさんにしみじみし、武闘家はすげぇ良い男だなとカンダタに感心した。二人で相手の男振りにびっくりしている。
「どこかで会った事があるか?」
武闘家は彼をシャンパーニの塔で会った盗賊だと思い出せずにいる。(いけず)とカンダタ。
「うぅん、はじめまして(嘘である)。助けてくれてありがとう。貴方はなんでここに」
「モンスターの気配がしたから来たんだが、話しに聞くとここの主人が飼ってるらしいな」
「本当に飼ってるのかな。ヤバイ感じだ。俺はここの主人に用があったんだけど」
「屋根に居ないで普通に尋ねたら良いだろ。俺は落ちそうな影を見たから咄嗟に上ったけど」
「鍵がかかってるんだよ。扉に魔法も掛かってる。何か変だと思って、本当にヤバかったら主人を助けてやろうかと」
421名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/10(土) 11:59:10 ID:i9S+viJp
武闘家は魔法の鍵には俄然興味を示した。魔法の鍵はイシスの持ち物ではないと以前女王から聞いてもいた事だし。盗掘云々とはレベルの違う神からの授かり物。
(お前が言っていたのはこれだな)
武闘家は妻を思い出して胸を鳴らした。
彼には沢山妻が居るが、彼と一緒に旅が出来そうな妻はアッサラームの彼女だけだろう。
他の妻への気遣いで、一人の妻に対し飛び抜けた特別扱いしないと言うのがこの武闘家と妻達の間にある約束。
だがこの約束の中から例外を、彼の方から彼女に与えようとしている。
(ピラミッドにお前を連れて行く)
15年も連れ添って居るが、契りの年数が長い妻達の中で子供が出来ないのは彼女だけだった。友達のような恋人のような彼女に例外を。

バハラタに行きたいと言うアッサラームの商人も魔法の鍵がなければどうにもならない。
勇者一行に商人も加わり、一時期4人パーティーとなってイシスを目指した。
「ほら、あそこがすごろく場だ。財産擦るなよ」
と武闘家に送られる商人はアッサラーム南のすごろく場で時間稼ぎである。難関の砂漠へは勇者達三人で向かった。

アッサラームの劇団の座長は、操縦の仕方もわからないながら何と無く砂漠の船を持って居た。
座長は好奇心旺盛で、趣味の良い所もあるけれど意味不明な物も良く持って居る。
武闘家は一度イシスに行った事があるのでキメラの翼を使えばある程度近付けそうだが、あの武器屋の客の盛り上りを裏切れないのでこの船で渡る事にした。
そして地獄のはさみのしぶとさも仲間達に経験させようと武闘家は思ったし、訪れたのはもう古い記憶なので頼りない。この高速の船で行こう。
422名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/10(土) 12:01:04 ID:i9S+viJp
「見様見真似だけど俺がなんとか」
「先生凄いんだな」
と戦士が武闘家を褒める。
勝手知ったるように猛然と武闘家は船を飛ばす。
「この船一つだけ解らない事がある」
一つだけかぁ。と若い二人は憧れの眼差しで武闘家を見ていた。
「ブレーキだ」
もの凄い勢いで船は砂の上を吹き飛んで行く。オアシスが見えた時戦士が言った。
「止まりたい、止まりたいって!」
勇者はこの事態に一番能動的。船の裏に回ったりして止まる方法を静かに探している。

案外無事に到着してしまうのが三人の地力である。
武闘家は新しいイシスを記憶するとすぐにもアッサラームへ帰って妻を呼び、イシスのオアシスへ彼女と入る。入国はしないで仲間二人を待っていた。
「お前を俺の何だと紹介しようか」
「友達で良いんじゃない? あたし好きだよこの言葉。アッサラームに長く居過ぎたかな」
「仲間の男戦士の方はお前と俺の関係知ってる筈だ。この前道で会っただろ白くてデカイの」
「夫婦とは言ってないでしょ? 良いじゃない」
「あと女戦士の方、あいつも盗賊みたいのが好きじゃなくてね。お前の力見せてやれよ」
「あんたにもね」
武闘家と女は視線を合わせた。
「あんたにも私の力を見せてやる」
鋭い視線を交し合って、15年来の夫婦とは思えない迫力である。
二人の間にライバル同士の熱く冷列な空気が流れる。女勇者と戦士の影が見えた時、その強い空気は鳴りを潜めた。

睨み合いながら激しく抱き合う男女である。アッサラームに居る時と変わらず好きな男に毎日抱かれている女は何とも言えない絶妙な顔付きになっており、
「言って置きたい事があるんだけど」
と、戦士と女勇者を呼び出してそう言った。
423名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/12(月) 12:30:57 ID:nAsgsn5V
あの人は超専門の武闘家と言う訳じゃない。呪文だってどうにか使える筈なんだ。体が思い出せないだけ。昔は勇者と呼ばれる程の…でも色々あって今はああして武闘着を着ています。
人の為、世界の為に本気で戦える人なのでどうかよろしく。嘗めたら私があんた達を倒すので。
と最後を結ぶ。
こんな恋心と尊敬を、勇者も戦士も初めて眼前で見て聞いた気がした。
あぁあの人の事、私なりに伝えられかな…と彼女はハラハラして来た。
彼をわかってあげたい。でも全部は勿論わかれない。15年は短い。
そうか専門家じゃなかった…と女勇者は思う。勇者でありつつ生粋の格闘家の雰囲気も持つ(勝ち取る)のは並大抵ではない。(騙されちゃったな)と女勇者は彼を思って照れた。
「嘗めるとは」
女盗賊の言葉に戦士男が鋭く斬り込んだ。
「この女勇者を第一の勇者と見る事は、あの先生に取ってはいけない事か」
戦士の嗄れ声に女は「いや」と言う。「それはそれで良い。そんなあんたをあの人は認めてるんだろう。あんたの目が未熟かどうかは私じゃなく、これからの世界が教えてくれる。
だたの武闘家としては見ないで欲しいと言う事さ。私が倒すとかそれ以前にあの人侮ったらあんた達が損するよ。友達だろうから余程の事がない限りあんた達を殺しはしないだろうけど」
彼はダーマ神殿の側で育った。人が変わる瞬間を何度も感じて来た男である。
「こんな事言うのなんだけど、凄い男さ。凄い事してくれるよ」
424名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/14(水) 04:52:23 ID:xKSciOmp
喋りながら女は物静かな勇者を感じていた。見た目は女だが逞しい男にしか感じられない時もある。
彼女は夫の仲間、一人ずつとも話をした。
女勇者の場合
自分より色っぽい唇、自分より低い声。彼女が自分より良い女かどうかは
「私女だけど…あんた見た時ドキッとしたよ」
「エヘヘ…」
言われた勇者は嬉しそうに笑った。恐れ入りますと言う風で邪気が無い。
「あたしも貴方を見た時に」
そんな事を言う勇者の瞳に、彼女はまたギクリとする。“町を歩けば突き刺さってくる男の眼差し”と同じ様な鋭さと性の喜びを女勇者の視線は持って居た。
女の自尊心を強く刺激してくれる男の目。この女もなぜかあの喜びを与えてくれる。
男の目で女性を見る事が出来る女である。
(面白い奴だな…)
良い女。だけどあの人に似てる。どこがと問われると「どことなく」だが
(やっぱりあの人勇者だわ)
と夫を思う。そして女勇者にこう言った。
「あの人もあんたを良い女と思ってる筈よ」
(凄い事言うな)と女勇者はこの人妻に緊張する。
「でもあの人自分に似たもの好きじゃないから」
言われた女勇者は元気の無い顔を見せた。盗賊は勇者に対し(沈んじゃって、素敵な顔)と思いながら、自分は“どうだ顔”をする。
「まぁ、私とあの人も似てると言えば似てるけどね」

戦士の場合
「男同士喧嘩しちゃ駄目だ。絶対駄目になるあんた達」「はい」
返事をしながら戦士は煙草を吸う。
「煙草嫌がるでしょ」と言われ「そう」と戦士は頷く。
戦士は以前武闘家に「体を使って本気で戦って行きたいなら煙草はやめなさい」と言われた事がある。
他人の嗜好をとやかく言う男じゃないが、友達なら。
武闘家の戦友は咄嗟に「はい」と言ってしまう。
「そりゃ、好きな女が俺の子を妊娠したとか起こればやめるよ」
そう返事をしながら戦士は何と無く涙が出そうになった。あのありがたさは一体何だったのだろうとたまに思う。本当に勇者なのかも知れない。
425名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/17(土) 01:30:51 ID:/tR9zPzv

勇者の仲間二人は良い男過ぎる。こう言う男二人組みは余り見ない。その内一人は自分の夫なので「変な気持ちだけど」と断わりつつ女盗賊はこう言った。
「こんな男二人と三人で旅して照れない?」
てれるとは、やっぱり言葉選びの妙な人だと勇者は思った。そして(可愛い)と。

「変な事を言う奴だな」
俺は武闘家だよ。勇者と呼ばれていた時期が異常だったんだ。と彼は妻に言った。
「それに勇者だ武闘家だとか、この旅で拘る必要もない。大体俺の事はどうでも良いよ」
「迷惑だったの。あなたの事を思って私言ったのに。そりゃごめんなさいね。あんたはどう言う事がどうでも良くないと思ってるのさ」
「お前と行くピラミッドは楽しみだ。よろしく」
そう言うと彼は大きな手を彼女に差し出した。彼女はその手をきゅっと握って小さく振りながら
「どう言う意味があるのその言葉」
男に問う。男は妻にこう答えた。
「お前の事が好きなんだよ」
彼にこんな事を言われたのはこれで二度目。前に言われたのはずっと昔だった。
「駄目だよ、すぐにもピラミッドに行くんだから」
「え?」駄目とは何の事なのか男は考え、色っぽい声で「あーぁ」と気付く。
(あぁ、また私は余計な事を)
そう後悔する彼女の乳房は小振り。だが足は肉感的な魅力で、太股のしっとりした瑞々しさと曲線は彼に愛された。
彼がその両太股に分け入る事は今夜も簡単である。
しかし二人は少し離れた所で仰臥した。武闘家が盗賊に低い声で言う。自分の事を思って(夫を勇者と信じ)行動した彼女を迷惑と言わず「お世話になってます」と。
自分の行動に対して彼はしつこいようにも、すっきりと優しいようにも感じられて、女は閉口した。
「だから好き勝手してごめんって言ってるじゃないか」
不機嫌そうに言う女は彼に謝っているらしい。
426名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/19(月) 12:17:54 ID:sW1CNbEu

「グリグリ」
勇者は女盗賊に対してそんな言葉を発した。
「その名前で呼ばないでよ」
本名で呼ばれるのを嫌がる盗賊だが、武闘家が勇者の背後で朝食を食べながら(食べ歩き)親から貰った名前なんだから大事にしなさいと口をもごもごさせながらでかい体で言う。
私に何か用かと盗賊は勇者に問う。
「一緒にお風呂に入ろう」
「なにっバリーこのやろー!」
盗賊は(くらえ)と言う事でレミーラを使って女勇者をキラキラ輝かせた。
勇者は困っている。盗賊の鍵やら沢山持っている彼女はギラギラで、恥かしいわ眩しいわ。
結局二人は一緒に入ってしまう。(デカイ胸自慢しようってのか)と不機嫌ながら盗賊は、夫が大事にしている女勇者を見る為に同行した。
勇者は別に深い意味も無く盗賊を誘ったが、自分には無い彼女の魅力を見たかったのかも知れない。彼女の持つ圧倒的な魅力を。

四人パーティーで向かうピラミッド。
女勇者は砂漠を飛び地獄のハサミを倒す。彼女が勝利する度、喋る度、笑う度に、男二人の背中が華やいでいるのを女盗賊は見た。
427名前が無い@ただの各無しのようだ:2005/09/19(月) 12:19:53 ID:sv/dfLwu
改行をもうちょっとしっかり汁。
428名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/21(水) 03:11:12 ID:5YlQJLOu
失礼しました。ありがとうございます
429名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/22(木) 05:30:42 ID:R0Tjsubj
脳内キャストはバリーが中島美嘉でカンダタが室伏だな
FFの天野が中島と室伏を描いたらこうなるんじゃないか的なイメージで
とにかく応援してるんで続けてくださいね〜
430KINO ◆v3KINOoNOY :2005/09/22(木) 09:23:18 ID:uZTdV5V4
そろそろスレ移動ですか?
個人的にものすごい応援してます(*゚▽゚)
431名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/22(木) 19:33:48 ID:g41SOegc
私的にはバリーはt.A.T.uの黒い方なイメージがある。
432名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/23(金) 04:00:38 ID:fAlEOlex
>29,31
カンダタ室伏、バリーが中島美嘉とかt.A.T.uとか意外です。面白かった。ありがとうございます。
ローレシア王子は見た目ピアノマン。FC公式イラスト金髪碧眼だと思うので。

>30 どうもありがとう。では次スレも考えてみます。
433名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/23(金) 04:06:37 ID:fELVng4i
倒したと言っても地獄のハサミは気絶しているだけ。目を覚ますと砂を力無く蹴って逃げて行く。
女勇者のバリーは10才の頃からアリアハンで働いていたので自らの財産がある。モンスターを売ってGに変える必要は無かった。
地獄のハサミが砂漠に残して行った上腕のハサミの跡。それは勇者の仲間の胸より小さかった。
でっかい、でっかいと女勇者が二人の胸を言う。
言われた男二人はへにゃへにゃ。楽しいやら恥かしいやら。
「バリーはあんた達のアイドルなの?」
女盗賊の言葉が掛かる。バリーがアイドルとはまんざらでもない…と言う風の男達。戦士などはコクッと頷く。そして男達は恐る恐る明言する。
「アイドル」
「うーん…アイドル」
「バーカ」
盗賊は吐き捨てると男二人に背を向けた。
(私もバリーに「あなたの○○○○○でっかい」とか言われたら興奮するけどさ)
そう思うと彼女は本当に変な気持ちになって来た。

ピラミッドにまた一歩近付いた時盗賊女は砂の上に座り込む。
あの人が、あの人がと、砂も空も自分に話し掛けているように彼女には感じられた。
あの人が
(取られちゃう)
取られてしまうよあの人を、と。
あの人を持って、待って、何年も寂しい思いを。その重く寂しい思いさえあの女勇者の前では屈してしまうのか。待っても彼が戻らない日が来そうだ。
(他に女が居ても、私のところにちゃんと来てくれた)
他の女の存在が嫌だと思って過ごして来た15年はなんだったのか。たった一人の女の為に。
バリーを嫌いになるのも憎むのも嫌だし。
「どうした」
見たらギョッとする男である。透けるような白い肌の大男。顔貌の一つ一つはとても端正で繊細。だが全体像となると何か物足りない面差しである。
女勇者に取って抱かれたい率100%はあの武闘家だけだか、この戦士が眼鏡を掛ければその数値に近い。眼鏡の欲しい顔である。眼鏡マッチョこそが彼である。
434名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/23(金) 04:09:42 ID:fELVng4i
「あの人バリーを女と思ってない。一番煩い私に紹介したんだし。大体妹じゃないか」
どこから妹と言う発想が出たのか。(そう言えば似てると言ってたっけ)と戦士は思う。
「でも女は女だ。俺だってバリーの兄貴だとしてもあのおっさん先生邪魔くさいよ」
盗賊は、この戦士何か妙だと思った。戦士の顔はあのお馴染みの武闘家の顔と同じくらいの高さから女を見ている。
「私はあの人の女だ。そんなに安くないんだよ」
盗賊は啖呵を切るが、この戦士の腕力で襲われたら絶対やられてしまう。実際戦士の方も彼女の小さい胸や色っぽい足に興味が無いわけではない。
「何もしないよ。あのおっさんにビビッてるわけじゃねぇ。俺は今一人の女の事しか考えてない。俺がそうしたくてしてるんだ」
「あんた二十歳でしょう。その、我慢してるわけじゃないの?」
「これは我慢じゃない」
凛々しい青年を前にして女は「バリー…」と溜め息を付く。
「死んでくれないかなぁ…」
戦士は盗賊の言葉に爆笑した。彼女の悪意よりも可笑しさをより多く受け入れて大きな声で笑った。
「バリーが死んだら俺は真っ先にあんたに手ぇ出すよ。あのおっさんといつか本気で喧嘩したいとも思うしな」
「バカだ。アハハ」
この男女には何か仲の良い、喜劇的な相性の良さがあった。
俺も女からこんな愛され方を得られる男かな、そうありたいもんだけどなと戦士は思った。
435名前が無い@ただの名無しのようだ:2005/09/23(金) 04:15:49 ID:EnGVOgBy
436名前が無い@ただの名無しのようだ
後に“ここアレフガルドに貴方の血を残しなさい”と言われるバリー。彼女はこれから始まる強大な世界と長い歴史の母である。
“この女は俺の子を丈夫に元気に産んでくれそうだ”と思うから男達は彼女に近付いているのかも知れない。男本人にも解らないながら強い本能で彼女に魅了されていると。
女勇者のバリーはふぅと溜め息を付いた。
母親になれば、自分が女である事や夫が男である事を忘れる瞬間が今よりは増えるだろう。それは女親として当たり前の事だ。
女勇者ロトは、あの武闘家に永遠に女として愛される運命の女盗賊を思っていた。子の産めない女の魅力を思っていた。

因縁のピラミッド。未踏の武闘家が想像していたよりずっと大きく威厳に満ちていた。美声の彼は(おぉ)と圧倒される。