このお題でFFDQ創作小説を書いてみよう

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495バトンタッチ  ◆F/WveZadCU
今日は祭りの日のようだ。
一体何の祭りなのだろうか。
多くの人々が通りを歩いていく。
角の仮面を被ったゴツイ男。ヘアバンドをした赤髪の女性。おじいさん。おばあさん。子供たち。
屋台の数も様々だ。
金魚すくいならぬ大王イカすくい。型抜きならぬ呪文抜き。
アンチョビサンド売りも居れば闘技場出張サービスなどというイカツイ店まである。

一人の少年が噴水の前で待ち合わせをしていた。
広場の時計を見る。時間はとっくに過ぎていたが相手の遅刻にはもう慣れっこであった。
目の前をスライムの団体さんが通っていく。
そう今日はモンスターも人間も関係ない。無礼講の日なのだ。

一匹のスライムが団体からはぐれて迷いかけている。
少年は優しく話しかけて団体さんまで抱きかかえて行ってあげた。
普段はいがみ合っていたモンスターを助けるとはなんて変わった日なのだろう。
スライムのオドオドしたけど喜んでくれた顔が忘れられない。

「群れからはぐれないようにね。」
そういって少年は団体を見送った。

「モンスターに話しかけるなんて何やってるのよ!」
背後から鋭い言葉が突き刺さる。
待ち合わせ相手がやってきたのだ。
おてんばそうな少女が珍しく正装をしてやってきた。
その姿を見て少年はつい笑ってしまいそうになった。
もっとも少年もそれなりにいい格好をしている。
彼らは今日やらねばならないことがあるのだ。

「他の人はこないの?それに・・・あいつも?」
少女が聞き返す。
496バトンタッチ  ◆F/WveZadCU :04/11/27 03:52:39 ID:aFs/NDD2
「うん。みんな忙しいみたい。でも彼からは手紙が届いたよ。代わりに頼むって。」
そう言って少年は少女に手紙を見せた。

「あいつ・・・。こんなくさいこと・・・。頼んだの。私はイヤ。絶対イヤ。任せたからね。」
そういって少女は歩き出した。
バカにしておきながらも久々の手紙にどこか嬉しそうではある。
それは少年も一緒であった。

通りを歩いていく。
時間に余裕があるので屋台を見て回ることに決めた。
少年は大王イカすくいに挑戦したが失敗してしまった。どうも力が足りなかったらしい。

周りを見渡せば本当に色々な人が居る。
変わった服装の姉妹が占いとカジノの屋台を開いているし、その近くでは太ったおじさんが色々な珍品名品を売りに出していた。
『王様生活体験屋敷』などという謎な店も有る。『勇者と魔王』という屋敷に比べればましか。
真面目そうな戦士がカチカチに緊張しつつホイミスライムの人形を売っていたのには失礼と思いつつ笑ってしまった。
もっともその五店の中では戦士の店が一番繁盛していたようである。

町を歩く人たちもマチマチだ。
オーソドックスな勇者、戦士、僧侶、魔法使いの四人組のパーティがいるかと思えば、勇者、魔法使い、魔法使い、魔法使いという賭けに出たようなパーティもおり、勇者以外は遊び人というパーティまでいた。もっともどのパーティも楽しそうに歩いていた点だけは共通している。
よく見ればお忍びできたような二人組みも居る。姫様と勇者の二人組みだ。ハメを外してはしゃいでいるお姫様に比べて勇者の方は今にも城の者に見つからないかとドキドキしているようだ。
497バトンタッチ  ◆F/WveZadCU :04/11/27 03:56:11 ID:aFs/NDD2
町を歩くのは人間だけではない。
少年たちが更に先に進むと大勢のモンスターが集っていた。
数十匹という単位ではない。数百匹と居るのである。
スライムからももんじゃ。ももんじゃからキラーパンサー。キラーパンサーから鉄鋼魔人。あらゆる種類のモンスターが居る。もしかしたら全種類のモンスターが集っているのかもしれない。

どのモンスターもそわそわしている。
ドラキーが祈るような格好で震えている。涙目だ。
いつもはびくびくしているスライム族がなぜか自信たっぷりだ。
近くに居たギガンテスがとうとう叫び声を上げた。耐え切れなかったのであろう。
腐った死体がタキシード姿でマイクのテストを始めた。
その上には「出現モンスター発表会場」と書かれている。

なるほど。
少年はモンスターたちの異常な様子の理由が分かった。
ここの決定で下手したら四年間近くの待遇が決まってしまうのだ。
少年は珍しく少女を引っ張って会場を抜け出した。
この会場に居るのはまずいと思ったのだ。
入れ替わりにスライムの団体さんとすれ違った。
少年は手を振る。きっと彼らは大丈夫だろう。

更に歩くと人間とモンスターが仲良くしているワンシーンに出会った。
紫色のターバンとマントを被った男が息子と娘だと思われる子供たちと話している。
ドラゴンキッズが少年に抱きついた。頬をなめている。一緒居た者たちが笑っている。
仲の良い一家だな。少年はそう思ってその場を後にした。

とうとう目的の会場に近づいた。
498バトンタッチ  ◆F/WveZadCU :04/11/27 04:01:49 ID:aFs/NDD2
!?
その瞬間ゴーグルをつけた男の子が目の前を走り抜けて言った。
危ない!轢かれる所だった!
安心したのも束の間、おてんばそうな女の子が目の前を横切った。
少年はなんだか自分たちに似ているな・・・と思った。
こっちのおてんば娘がキーキー文句を言っている。
一人の少年が近づいてきて「ほんとうにごめんねー。」と謝った。
さっきの二人に比べてどこかまったりとしている。
二人は大丈夫ですと応えて先に進み始めた。

とうとう会場に入ったのだ。ここには多くの人間が集まっている。
前回は・・・自分たちが向こう側に立ったのだ。

一組の団体が近づいてくる。
男らしいモヒカンの男やドラゴンに抱き付かれているキザな剣士。
優しそうなお姉さんに明るそうなお姉さん。メガネの少年に村の英雄。
そして剣を背中にしょった男の人。
前回は彼から受け取ったのだ。
あの時から時間が経ったものの今でも元気にやっているようだ。

「とうとう本当の意味でお疲れ様になってしまったね。今までご苦労様。」
男が優しそうにつぶやいた。
499バトンタッチ  ◆F/WveZadCU :04/11/27 04:03:39 ID:aFs/NDD2
「ありがとうございます。」
少年は切ないような嬉しいような表情でお辞儀をした。
少なくとも・・・受け取ったものに恥じないよう一生懸命頑張ったはずだ。
それは少年がもっともよく分かっていた。

「もう時間よ。」
相方の少女がいつもと違ってしおらしそうに声を掛けてくる。

「うん。わかった。」

二人は舞台に向かって歩き出した。
祭りに来ていた人々が拍手で迎えてくれる。
彼らへの賞賛と労いを込めた拍手だった。

向こう側から別の団体がやってくる。
一人はトゲトゲの兜を被った山賊風の男。
一人は色っぽくて優しそうなお姉さん。
一人はこれまたキザな銀髪の男。
一人は緑色のモンスターの様な生き物。
そして先頭は赤いバンダナをした男。
500バトンタッチ  ◆F/WveZadCU :04/11/27 04:06:13 ID:aFs/NDD2
団体と二人が対峙する。
会場がしんとする。
固まっている少年を少女が突っつく。

少年は先頭の男の目を見た。優しそうな目だ。
少年は深呼吸をして話し出した。
「僕はその・・・口下手なのでうまくいえないのですけど。・・・がんばってください。」

少女が右手で頭を押さえた。昨日練習したせりふとぜんぜん違う。
少年が続ける。
「それと・・・僕の友たちが今日来れなかったんですけどその言葉を伝えます。」
「大人たちに昔を思い出させるような冒険を。子供たちに大きな夢と希望を与えてください。・・・だそうです。」

先頭の男が笑顔で頷く。
501バトンタッチ  ◆F/WveZadCU :04/11/27 04:07:53 ID:aFs/NDD2
少年は更に続けた。
「あの、やっぱり付け加えさせてください!」
「その他に・・・振り返って自分でよかったと思えるような頑張りを期待していいですか?」

男は再び頷きそっと手を差し伸べた。
少年はしっかりとその手を握り返した。
祭りに来ていた人々から大きな拍手が送られた。

となりでは相方の少女が向こうのお姉さんと抱き合っている。
きっと少年が必死にひねり出した言葉など聞いてなかったのだろう。
だがそれでも良いと少年は思った。

・・・。
少年は帰路に立った。
さっきの団体は今頃様々なイベントをしているに違いない。
行きと変わらず多くの人々が歩いている。
少年の目にドラキーが泣きながら叫んでいる姿が映った。
うれし泣きだ。出番があると決まったのだろう。

少年はふと思い直した。
もしかしたら自分たちの冒険もまだまだ続いていくのではないかと。

おしまい。