この物語の主人公たちはとうとう大魔王の前に辿り着いた。
長い道のりだった。
狭間の世界にたどり着くまでに犠牲となった仲間たち。
最後に体を張って前に進めさせてくれた善良なモンスターたち。
それぞれの思いを受けて主人公は幾度と無く死線を超えてきたのだ。
今居る仲間たちの思いも一緒だ。
全ては元凶である大魔王を倒すために!
「あれが大魔王か・・・。俺がみんなの仇を打ってやる!」
「あせっちゃだめですよ。しかし・・・大きい。」
「本当・・・本来の大きさの千倍はあるわ。」
大魔王は動き出した。
その動きは鈍いが一つ動くごとに地面が揺れる。
その大きさは山ほどあった。
「なんて迫力なんだ!」
「大魔王なんてものじゃないわ。王を越えている!」
大魔王は息を吸い込んで灼熱の炎を吐き出した。
「みんな。私の後ろへ。フバーハ。」
しかしその威力は通常のモンスターの比ではなく、先頭に立った女性は無残にもボロボロになって倒れてしまった。
「よくも・・・。よくもねえさんをーーー!!!」
一人の剣士がいきり立って切りかかる!
ぷちっ♪
なんとあっさりと潰されてしまった!
「テリィィィィィーーーー!」
しかしその剣士が弱かったわけではない。大魔王が強過ぎたのだ。
あの巨体に潰されてはたとえドラゴンであったとしても耐えられなかっただろう。
大魔王が体を振って体当たりを行った。
体当たりと言うよりは押しつぶしであった。
「みんな、今の内に逃げろーーー!一人でも逃げるんだーーー!」
「ハッサン!みんなを庇って!?」
一人の男が体を張って体当たりを止めるが数秒で潰されてしまった。
「もういやあああーーー。お家にかえしてーーー。世界なんてどうなってもいいからーーー!!!」
「泣いてる暇があったら逃げて!?・・・もう自分もお別れのようです。」
「足を痛めつけられてしまいました。ドランゴ君。この二人を連れて逃げてください。頼みましたよ・・・。」
「メガンテ!」
想像を絶する大爆発が大魔王を襲う。
しかし大魔王の巨体の前ではかすり傷に過ぎなかった。
主人公から見ればまるで悪夢のようだった。
そして・・・主人公は逃げる途中・・・一匹の魔物の死体を見つけてしまった。
ぺちゃんこにひしゃげているが・・・豪華な服装・・・残忍な顔・・・大魔王が持つといわれる二つの宝玉・・・明らかにあの男が本来の魔王であった。
「なんでこんなことに・・・。何であのモンスターが大魔王なのよ!」
バーバラが泣いている。
後ろでドランゴが倒れた。二人を庇って攻撃を受けたのだ・・・。
主人公はやるせない思いを隠せなかった。
本当に・・・なんでこんなことに!
・・・・・・・・・・・・・
ZZZ・・・ZZZ・・・
ZZZ・・・
・・・
「ゆめかあ・・・。」
一匹のモンスターが目を覚ました。
最近はこんな夢ばかり見ている。
ピーピーと鳴いている。
青い体を震わせて体を伸ばしている。
まだ眠いのか大きなあくびをして見せた。
おっと。どうやら勇者の卵が現れたようだ。
このモンスターは知っていた。
あの勇者の卵は最初こそ弱かったが、最近は強くなっているのだ。
逃げた方がいい。
幾人もの勇者の卵と戦ってきた経験がそういっている。
きっとあの勇者の卵もそろそろこの大陸を巣立つに違いない。
スライムは逃げ出した!