忘れた頃に支援SS。今回は少し長めです
【お泊り】
「よいしょ。」
ぎぎぎ…アルスにとってもう何度も来ている屋敷だが、この重い正面扉にはいつも苦労させられる。彼の腕が細すぎるのか、この扉が重すぎるのか。
「マリベル!来たよ〜。」
「アルス!」
屋敷の奥の上り階段を小走りに、マリベルが駆け下りてくる。残り2、3段を残してアルスめがけて飛びついてきた!
「わっ!」
どさっ。尻餅をつくアルス。
「遅い〜。」
「ごめ…んん」
マリベルはアルスが謝るその口をすかさず塞いだ。アルスもそのままの格好で、マリベルの暖かな舌を迎え入れた。
世界を救った冒険の旅が終わって、すでに1年。フィッシュベルの村では二人の仲はすでに公然のものとなって久しい。
今日は特に、アミット家の面々はメイドも含めて新大陸との交易のためにマリベルだけを留守番にしていたので、絶好のチャンスとばかりにアルスを呼んだのだ。
ちゅっ…ちゅっ…。
普段は行商人や掃除するメイドなどで騒がしい玄関口を、重なりあって見つめあい、唇の先を触れ合う二人の僅かな水音が支配する。
「泊まりに来ちゃった。初めてだね。なんかどきどきする…。」
アルスの手がマリベルの胸に伸びるが、マリベルがそれを払う。
「まだッ。」
「あれ?」
アルスがマリベルのその手を掴んで、指先を見つめた。
「マリベル、手が粉だらけだよ。…お料理してたの?」
「う、うん…。」
「マリベル、お料理してんだ!」
マリベルの顔がぱっと紅くなる。
「アルスが来るっていうから…さ。ちょっと、用意してたんだ…。」
「僕のために??…ん。」
下になったアルスが、上体を起こして唇を重ねた。
「ん…そうよ…。きゃっ」