かなり真面目にFFをノベライズしてみる。

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379名前が無い@ただの名無しのようだ
FINAL FANTASY IV #0071 2章 2節 光を求めて(30)

ダムシアンに来た時は東にあった太陽が、いまでは真上に上りつつある。
セシルとリディア、それにホバー船を操縦するギルバートは小さくなって行く城を背後に、
一路アントリオンが棲むとされる辺りを目指していた。
「なかなか乗り心地いいね。これ」
後ろへ流れていく風景を眺めながら、リディア。
「ああ。低空しか飛べないし武装も何もないけど、この子の機動力は飛空艇並みだよ」
速度を少し上げながら、ギルバートが答える。
「襲撃された時も、生き残った人達はこのホバー船に乗って領内の集落に逃げたんだ。無事だといいのだけれど…」
「大丈夫、きっと無事さ」
顔を曇らす彼を、セシルが軽く励ます。

そんな話を暫く続けていると、砂の地面が一旦途切れ、少し先に浅い海が広がった。
3人を乗せたホバー船はその海を強引に突っ切り、数キロ先の対岸を目指して一直線に走って行く。
「たったいまファブールの領内に入った」
対岸へ渡り終えた時、ギルバートが言った。
「アントリオンの巣はこの先のホブス山のふもとにある。そろそろ着くよ」
彼がそう続けた時、地平線の向こうに尖った何かが見えた。
それは近づくにつれ高く大きくなっていき、やがて気高い岩山である事が分かる。
「ホブス山だ」
セシルが、遠くにそびえる巨峰を見やりながら言う。
「おっきい…」
リディアはその巨大さに圧倒されている様子だ。
実際、ホブス山は彼女が生まれ育った山々よりも遥かに高い。
世界でも1,2を争う偉大さだが、セシルはこれに匹敵する山を見た事がある。
ただ、あそこは何やら尋常ではない雰囲気を感じ、近づきがたい感じだ。
ホブス山がいよいよその全景を現した時、
その膝元に明らかに周りの景色と馴染んでいない「穴」のようなものが認められた。
「着いたよ、2人とも」
ギルバートがその「穴」を指差しながら言う。
「あれがアントリオンの産卵地だ」
380名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 23:18:27 ID:dnAVp8Kc
FINAL FANTASY IV #0072 2章 2節 光を求めて(31)

停止したホバー船から降り、アリ地獄をそのまま大きくしたような巣の中央へと歩いていく。
中央へたどり着いた時、ギルバートはその場に座り込み、砂の大地の中に手を突っ込んだ。
「えーっと、確かこの辺りに…あった!」
そう叫ぶと、地中をまさぐっていた右手を引きぬく。
その手には、美しい輝きを放つ紅い宝石が握られていた。
「これが”砂漠の光”?」
ギルバートから宝石を受け取りながら、セシル。
「そうだよセシル。さあ、日の暮れない内にカイポへ…」
その時、ギルバートの背後に巨大な鋏が、地面を突き破りつつ真下から現れた。
「アントリオン!」
突然の出現にセシルは鋭く叫びながら交代し、リディアは「キャー!」と叫んで巣の上のほうまで駆け戻る始末だ。
ギルバートだけは落ち着き払った様子で、その場に立ったまま鋏の形をした腕を見据えている。
「大丈夫。凶悪な外見の割にアントリオンはおとなしいんだ。
 人間には危害を加えない。さあ、行」
そこまで言った時、鋏が突然大きく開いたかと思うと、
――ギルバートめがけて伸びてきた。

「うわあ!」
「危ない!」
セシルが咄嗟に短剣を投げる。
それはギルバートを襲おうとした鋏の関節の辺りに突き刺さって一瞬怯ませる。
その隙を見て命からがらギルバートが逃げてくる。同時に、腕だけを露わにしていたアントリオンがその姿を現す。
――蟹に良く似た、先端が鋏の形をした太い腕を2本持ち、それよりもだいぶ細い足が4本生えている。
全体としてはザリガニか尻尾の無い蠍、そうでもなければトンボの幼虫のような姿だが、全身を硬そうな甲殻で包んでいる。
砂漠の巨獣アントリオンが、今まさに3人を襲おうとしていた。
381名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 23:20:23 ID:dnAVp8Kc
FINAL FANTASY IV #0073 2章 2節 光を求めて(32)

「ええい!」
セシルは剣を抜き、あの独特の構えに入る。数瞬後に、その刃を闇色の光が包み、そして放たれた。
一発。顔を狙ったが、硬い皮膚に弾かれてダメージは与えられない。
二発。頭は効かないと見て腕を狙うも、やはり効果は無い。
三発。今度は少し離れた所からリディアが魔法で援護してくれ、
そちらに気を取られている隙に左腕を付け根から斬り落とした。
その痛みに怒声を上げ、体を苦しげによじるアントリオン。
だが、魔物の痛みはすぐに怒りに変わり、残った右腕を一閃して鎧を着たセシルを軽々と弾き飛ばす。
「セシル!」
宙を舞うセシルをギルバートが受け止めるような格好になり、二人はもんどりうって砂の大地に倒れる。
「だ、大丈夫?」リディアが駆け寄り、ケアルで応急処置を施す。
「ああ、なんとか…」頭を押さえ、セシル。
そこへアントリオンがザクザクと不気味に足音を響かせながら詰め寄ってくる。
その動作が以外に速く、すぐに攻撃の射程に入ってしまう。

鋏が3人の首めがけて繰り出されるその瞬間、3人の姿はそこから消えた。
382名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 23:22:01 ID:dnAVp8Kc
FINAL FANTASY IV #0074 2章 2節 光を求めて(33)

突然姿を暗ました敵に訝り、アントリオンが滅茶苦茶に腕を振りまわす。
が、砂以外の何にも触れない。獲物を完全に見失ってしまっている。
実は、3人はアントリオンのすぐ近く、足下の辺りに隠れていた。
攻撃を受けようというその瞬間に、ギルバートがセシルとリディアを脇に懐に飛びこんだのだ。
これが意外な盲点でまさに灯台下暗し、それまで前方にばかり注意を払っていた巨獣は彼らを見つけられずにいる。
「驚いたな…咄嗟にここまで上手い隠れ場所を見つけるなんて」
「僕、逃げたり隠れたりするのは昔から得意でね」
声を殺していうセシルに、ギルバートは自嘲気味に笑う。
「それより、ここ熱い…」
リディアが、体の砂を払いながら呟く。
確かに、彼らは砂漠の日ざしによって焼石のように熱された砂に、半ば埋もれるようにしている。
仮にこのままアントリオンをやり過ごせても、
それまでには3人とも残らず干物か天然バーベキューか、さもなければ踏み潰されてミンチ肉が関の山だ。
「どうする?ここにいたらいずれ見つかってしまうし、
 そもそも見つかるまでもなくこの熱さにやられてしまうかも…」
「それなら大丈夫だ。僕に任せて」
ギルバートはそう言うと背負っていた竪琴を取り出した。

「楽器なんかで何するの?」
「暫くの間注意を引きつけるのさ、リディア」
訝しげに竪琴を見つめるリディアにそう答えながら、吟遊詩人は狭い中で器用に演奏できる体勢になる。
「それともう一つ教えておくと、これはただの楽器じゃない。
 …モンスター用に作られた、一風変わった武器でもあるのさ」
そう言って彼は竪琴を奏で始め、辺りに美しい調べの音が響いた。
383名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 23:25:52 ID:dnAVp8Kc
FINAL FANTASY IV #0075 2章 2節 光を求めて(34)

その途端、アントリオンが殴られでもしたかのように悶え始める。
魔物はそのまま逃れるようにその場から逃れる。その拍子に彼らを見つけたが、
わき目もふらずに竪琴の音色から少しでも遠くへと移動して行く。
巣の反対側まで来てようやく落ちついたのか、立ち止まって憎々しげにこちらを睨むが、決して近づいてこない。

「一体何をしたんだ?」
訝しげに、まだ竪琴を奏で続けるギルバートを見やる。
「この竪琴は特殊でね。人間には普通に聞こえても、
 モンスターが聞くと驚くぐらいに嫌がるんだ。あんな風にね」
答えながら、近づこうか近づくまいか迷うような素振りをする魔物を見やる。
「それよりセシル、倒すなら今だ!」
「わかってる!」

怒鳴り返し、剣を手に一気にセシルが走り寄る。
動きが鈍い鋏の迎撃をかわして顔まで到り、一気に鎧のような甲殻に守られていない眼に剣を突き刺す。
太い鳴き声でアントリオンが咆哮する。それに混じって、リディアの「どいて!」という叫び声が聞こえる。
セシルが剣から手を放してその場に伏せると、背後からサンダ―の雷が飛んできた。
雷は狙いたがわずセシルの突き刺した剣にあたり、そこから巨獣の全身を剣もろとも貫いた。
ゴオウ、という唸り声とともに、アントリオンが数歩後ろに仰け反る。
しかしそれも束の間、体勢を整えて目の前のセシルだけでも殺そうと隻眼片腕で襲いかかる。
が、当のセシルはその場で棒立ちし、ただ迫る魔物を見据えていた。
「チェックメイト」

そう暗黒騎士がいうが早いか、
眼に刺さったままの剣から放たれた暗黒の刃によって砂漠の巨獣アントリオンは中から切り刻まれた。
384名前が無い@ただの名無しのようだ:05/03/20 23:28:25 ID:dnAVp8Kc
FINAL FANTASY IV #0076 2章 2節 光を求めて(35)

「おかしい」
竪琴を背負いなおし、アントリオンの死骸を見下ろしながら、ギルバート。
「おれほど大人しい生き物の筈のアントリオンがなぜ…」
「最近、魔物の数が以上に増えている」
訝る彼に、セシルが言う。
「これまで大人しかった者達まで襲いかかってくる…」
そこで一旦、かぶりをふる。
「やはり、何かが起ころうとしている前触れ…」
そう続けると、3人を厭な予感めいた物が襲った。
何かとてつもなく不吉で、不穏な何か…
バロン王の豹変、戦争の拡大、魔物の増加に生き物の狂暴化…
一体、何が起きている?
いくら考えてもわかりそうにない。
「ね」
沈黙を破ったのはリディアだった。
「早くローザさんの所へ!」
「ああ、行こう!」
懐から”砂漠の光”を取りだし、セシルはホバー船に走った。

カイポに戻った時には、日は既に西に沈みかけていた。