短いものをこつこつと
2 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/06/15 00:12 ID:BcL4dOzh
うんこくさい。うんこくさい。このこと言うなよ
3 :
1:04/06/15 00:14 ID:Dzk+FB3R
もうちょい下がったら一作目をのせます
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゛,\\νノ,/゜/,.,゜,.< 性病マンコが3げっと
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_`゛,.゜,.,.,/ ヽ,.,.,._゛..,..`゛,.,/
自分だけのルール
戦争ものは卒業
歴史物語も卒業
萌えはナシ
不必要なエロもナシ
やたら長くないもの
心にひびくもの
このせまい範囲内でこつこつとためていこう
あれ??はざまのスレがない!
まさか落ちてしまったのかああああ
まあいいや
落ちてしまうのは覚悟してたし。
1:00に第一作目スタートしよう
短いからすぐ終わりそう
<プロローグ>
私はラダトーム城下町の住人の一人、ある教会の神父だ。
私は今、教会の聖堂にて、勇者への手紙を書いている。
この手紙が、どうか勇者のもとへ届くよう祈る。
この手紙が、勇者を目覚めさせることを祈る。
この手紙が、世界を救うことになることを祈る。
このアレフガルドを救えるのは あなたしかいないのだから……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
勇者への手紙
勇者への手紙 PAGE1
このラダトームの町が廃墟と化してから、いったいどれほどの時が経っただろうか。
アレフガルドの世界は原因不明の‘灰の雨’が降り続き、建物はみるみる腐っていき、
灰にまみれた住人たちは、みるみる生命力が低下していく。
いや、ラダトームだけではない。
噂によるとメルキドの町やリムルダールの町も、同じように灰の雨に侵食されているそうだ。
世界中が灰に襲われ、水は渇き、食糧もほとんど腐ってしまった。
我がラダトーム城下町も、いずれは砂漠と化したドムドーラの二の舞となるのだろうか…。
王様は相変わらず物思いにふけりながら、城の玉座に座っているだけ。
この国のことなど何も考えておられないのだろうか。
城を守る兵士たちも、すでに戦えるような力も残ってないほど衰弱した。
だがそれでも、毎日のように住人たちが教会へ訪れる。
「神父さま、この灰の雨は魔王軍のしわざでしょうか。」
「神父さま、これも竜王の恐るべきチカラなのですか。」
「神父さま、世界を救う勇者さまはまだ現れないのでしょうか。」
「神父さま、私の子供が肺炎にかかってしまいました。」
「神父さま、私たちこれからどうなるんでしょうか。」
勇者への手紙 PAGE2
神父である私にできることは、ただ祈るだけ。
だが毎日のように教会に訪れる住人たちに、いったいどのような言葉をかけてやればいいというのだ。
日に日に衰弱していく住人たちに、いったいどのような気休めの祈りを捧げたらいい。
「いつかきっと世界を救ってくれる勇者が現れます、その日が来るまでじっと待ちましょう。」
私はこんな気休めにもならない言葉を与え、毎日住人たちの手を握って祈る。
だがそれでも住人たちは、私の言葉を信じたように微笑んでくれる。
その笑顔をみるたびに、私の胸は痛む。
子供「ごほっ…ごほっ…。」
母親「大丈夫?息が苦しいの?」
子供「だってそこらじゅう灰だらけで…。」
母親「ごめんなさいね…いくらお掃除しても、灰の雨が降ってくるから…。」
子供「ママ…お掃除はもういいから、ぼくおなかすいたよ…。」
母親「えぇ、そう思って今シチューを煮てるから…。」
子供「な、なんだよ…ホコリばっかじゃないか。」
母親「…もうイヤ!どうしてお料理にまで…!」
子供「ママ、もういいよ。ぼく、おなかすいてないから…。」
母親「うぅ…。」
勇者への手紙 PAGE3
灰の雨は二階の窓にまで届くほどつもり、私たちは雪かきならず、灰かきをする生活。
スープ鍋で料理しようとしても、できるのは灰の料理のみ。
井戸で水を汲もうとしても、灰のてんこもりが取れるだけ。
ともかくここラダトーム城下町も、そう長くはないだろう。
住人の中には、どこか空気の良い土地を探しに旅に出た者もいるが、無事に帰ってきた者は
ほとんどいない。運良く戻ってこれた者もいるが、決まって次のような展開が待ち受けている。
神父「大丈夫ですか、しっかりしてください。」
町人A「うぅ…。」
神父「よくぞ無事に戻りました、お疲れさまです。」
町人A「し、神父さま…。俺以外の者はまだ戻ってないのか…。」
神父「おそらく無事に帰ってきた者は、あなただけのようです。」
町人A「そ、そうか…ゲホッ!ガハッ!」
神父「それでどうでしたか、東の方面は。」
町人A「だ、だめだ…。東の土地も灰の雨が降り続いている…ゴホッ!ゴホッ!マイラの村も滅びた…。
も、もはや世界中が灰だらけだ…。」
神父「そうですか…。」
町人A「ち、ちくしょう!俺たちこのままじっと死を待つしかないのか…!ゴホッ!」
神父「希望を失ってはいけません、最後まであきらめずに…。」
勇者への手紙 PAGE4
町人A「きっとこれも竜王のしわざに違いない!こ、このままでは世界が滅びちまう…ゴホッ!」
神父「……」
町人A「お、俺には小さな子供が二人もいるんだぞ…ゴホッ!た、頼むから誰か助けてくれ…ゲホッ!」
神父「神よ…この世界を守りたまえ…。」
この世界を支配しようとしている魔王は、竜王という名の恐ろしいモンスターだ。
たくさんの配下を従え、現ラダトーム王の娘・ローラ姫を拉致し、竜王は世界を我が物にせんと
宣戦布告をしたのは確かだ。
だがこれに対抗する戦士として、ロトの子孫である一人の勇者が現れたこともまた事実。
だが彼は竜王討伐の旅に出てから、なぜか行方をくらましてしまった。
そもそもこの灰の雨が降り出したのは、それが始まりだった。
旅の途中でモンスターに殺されたのか。それとも彼もまた、この灰の雨にやられてしまったのか。
いずれにせよ彼がいなければ、このアレフガルドは竜王に支配されてしまう。
いや、もうすでに支配されている…。この灰の雨に…。
神父「神よ…お教え下さい、世界を救う勇者はどこに…。」
勇者への手紙 PAGE5
だが私は…いや、私たちは、とんでもない思い違いをしていたのだ。
この灰の雨は、竜王などの仕業ではなかったのだ。
私は先日、教会の聖堂で神のお告げを聞いてしまったのだ。
誰にこの真実を話せようか。王様にですら話せない。いや、話したところで誰も信じてくれまい。
神父「神よ…なぜゆえに、そのような残酷な真実を…。」
では私が神のお告げを聞いたときのことを、詳しく話そう。
信じてもらえないかもしれないが、私は神父という立場上、これを信じないわけにはいかない。
本音を言うと、これがウソであってほしい。神を偽った偽者のお告げであってほしい…。
………神父よ、この私の声が聞こえますか………
神父「!…ま、まさか!あなたは…!」
………そう、私はあなたが必死に呼びかけていた者………
神父「か、神よ…!ついにこの呼びかけが…この祈りが届きましたか…!」
………神父よ、あなたが私に何用で呼びかけたのも分かっています。そして勇者の行方を
探していることも………
神父「どうか…どうかこの世界をお救い下さい…。勇者はもう死んでしまわれたのか…!」
………いいえ、勇者は生きています。何しろ彼は世界を救うことのできる者ですから………
神父「で、ではなぜ姿を消してしまったのか…。」
………神父よ、その真実を受け止める覚悟が、あなたにはありますか………
神父「どういうことでしょう…。」
………あなたにはこの真実はつらすぎる、知らないほうがかえって良い結果にも………
神父「神よ…!このまま世界が滅んでいくのを、私たちはただ黙って死を迎えるわけには
いきません!どのような真実か知りませんが、少なくとも私はとうに覚悟はできています!
飢えた子供たちが毎日毎日死んでいくのです!…どうか真実をお教え下さい!」
………わかりました、ではあなただけにお話しましょう………
私はこの真実を神のお告げとして聞いてしまった。
だが今思えば神の言われた通り、聞かないほうが良かったのかもしれない。
神のお告げによると、実は勇者は死んだわけではなく、彼は‘世界を捨てた’そうだ…。
神父「勇者が世界を捨てたですと?!ど、どういうことでしょうか!まさか竜王と手を組んで
魔王軍に寝返ってしまったとか…!」
………いいえ、勇者はそのような欲望に負けるような輩ではありません。そもそもこの灰の雨は
竜王や魔王軍などの仕業ではないのです………
神父「ではいったい…。」
………「新世界」が誕生したからです。実は勇者はそこにいます………
神父「し、新世界?!何ですかそれは…!」
神がおっしゃるには、このアレフガルドには勇者はいないそうだ。
いや、いることはいるのだが、正確に言えば「新アレフガルド」にいるそうだ。
勇者はこの世界を捨て、新しい世界で生きる決意をしたそうだ。
そして新しい世界にて、彼の使命を果たそうとしているらしい。
何のことだが私にはさっぱりだが、ではこの世界はどうなるのだ…。彼はこの世界を見捨てる気か…。
………神父よ、勇者を呼び戻したくば、あなたの呼びかけを文面にしなさい。そして私が自ら
その手紙を勇者へ届けてさしあげましょう…。今の私には、この程度のことしか
してあげられません………
神父「勇者へ手紙を届けてくださるとおっしゃるのか…。」
………そうです。あなたたちの想いは、きっと勇者に伝わるはず。彼はきっとこの世界へ
戻ってきてくれるはず………
神父「わ、わかりました…。」
神のお告げには、いくつかの疑問点や不可解な言葉があったが、今は神を信じるしかなかった。
私は神の言われた通り、勇者への手紙を書いた。
‘どうか世界を救いたまえ。このアレフガルドを救えるのは、あなたしかいないのだ。
竜王を倒せる戦士は、あなただけなのだ。あなたは神より選ばれた勇者なのだ…’と。
だが私がこの手紙を書き終えると、なぜか神は文面を付け足した。
神父「な、なんだこれは…!勝手に文面が増えていく…!」
………神父よ、申し訳ないが文面を付け足しておく。これだけでは彼はこの世界に戻っては
これないのです。あなたには理解できないでしょうが………
神が私の手紙に付け足した文面、それは意味不明な言語だった。
まるで天界の言語のような特殊な言葉のようであり、神秘的なものを感じる。
これは神と勇者のみ通じる言葉なのか?
ともかく私は無事、神に「勇者への手紙」を渡した。
この手紙が、どうか勇者のもとへ届くよう祈る。
この手紙が、勇者を目覚めさせることを祈る。
この手紙が、世界を救うことになることを祈る。
このアレフガルドを救えるのは あなたしかいないのだから……。
………神父よ。この手紙、必ず勇者のもとへ届けましょう。…ですが彼が戻ってくる保障はできません。
決めるのは勇者本人ですから………
神父「いえ、私は信じています…。彼はきっと帰ってくると…。」
………そうですね、私もそう願いたいものです………
神はそう言うと、手紙と共に消えてしまった。
………キィィーーーーーンン!………
神父「神よ…そして勇者よ…。なにとぞこの世界を救いたまえ…。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
勇者への手紙 PAGE6
そして場面は変わり――――――
東京都 世田谷区 ある住宅街の一室にて
佐藤「おい鈴木、なんか新しいゲームないのかよ。」
鈴木「そうだなぁ、最近ハマってるのは…やっぱこれだな。」
佐藤「なんだドラクエか。しかもドラクエTじゃねーか。」
鈴木「バカ、よく見ろ。リメイクだぞ。しかもTとUが一緒に入ってるドラクエT・Uだ。」
佐藤「マジ?!こないだ発売されたばっかじゃんよ!お前いつの間に買ったんだよ!」
鈴木「ははは、やっぱFC版と違ってSFCのほうがはるかにすげーぞ。何しろちゃんと横や後ろを向いて
歩けるもんな。」
佐藤「そうだよなー。FC版のドラクエTって歩き方もダセーよな。話すときも北とか南とか
いちいち方向を指定しなきゃなんねーし。」
鈴木「やっぱ同じゲームでも、古いものより新しいほうが全然いいぞ。グラフィックもきれいだし。」
佐藤「そういやFC版はどうした?もう捨てたんか?」
鈴木「あ…そういやどこにしまったっけなぁ…。」
その少年はベッドの下をさぐると、ホコリまみれになったたくさんのゲームソフトを出した。
佐藤「げげ…ホコリだらけじゃねーかよ。」
鈴木「だってこんな古くせーの、もう飽きちゃったもんよ。」
佐藤「ど、どうでもいいけどすげえホコリだな…ゴホッ!」
鈴木「えーと…ドラクエドラクエ…あぁ、あったぞ。」
少年はホコリだらけになった「FC版のドラクエT」を見つけたようだ。
鈴木「うわー、汚ねえなこりゃ。もう何年もやってないからなー。」
佐藤「お前それクリアしたの?」
鈴木「いや、なんか途中でレベル上げるのとかダルくなっちまってな。結局クリアしてないんだ。」
佐藤「買い損じゃねえか、ちゃんと最後までやれよ。」
鈴木「いいじゃんよ、どうせ今はリメイク版があるんだし。」
するともう一方の少年が、ベッドの下から一枚の「紙切れ」を見つけ出した。
佐藤「なんだこりゃ。手紙か?」
鈴木「あれ?こんなものあったかなぁ…。」
その紙には、こう書かれてあった。
‘どうか世界を救いたまえ。このアレフガルドを救えるのは、あなたしかいないのだ。
竜王を倒せる戦士は、あなただけなのだ。あなたは神より選ばれた勇者なのだ…。’
鈴木「なんだこれ…こんなの書いた覚えないぞ…。」
佐藤「ははは、お前これプレイしてたのって小学生のころか?だったら自分で書いたんじゃねーの?」
鈴木「いや、そんなはずは…。」
そしてその文面には、最後にこう付け足してあった。
‘ぐげやそぬ なのちげつとめ ほごせれぶ ぐあぶ’
鈴木「うわっ、懐かしいなー。復活の呪文のメモだよこれ。」
佐藤「おぉ!俺もそこらじゅうに書いた覚えがあるな!そのためのノートとか買っちまったりしてな!」
鈴木「これめんどくせーんだよな、いちいちメモしなきゃなんねーのがさ。」
佐藤「ほんとだよな、ときどき復活の呪文を間違えちゃったりしてよ。」
鈴木「そうそう、そんでヤケクソになって‘め’を‘ぬ’に変えてみたりしてさ。」
佐藤「おー!俺も同じことやった!それで合うとすげえうれしいんだよな!」
鈴木「たいてい間違いだったりするけどな。」
するとそのとき、少年の母親が部屋に入ってきた。
ガチャリ
母親「ちょっと、部屋の片付け終わったの?」
鈴木「待ってくれよ母さん、今友達きてんだからさー。」
佐藤「お邪魔してまーす。」
母親「あら佐藤くん、いらしゃい。…ちょっと明人、燃えないゴミだけでもまとめてちょうだい。
今日中に全部出したいんだから…。」
鈴木「うっせーなー。わかったよ、じゃあこれ全部いらないから持ってって。」
少年はホコリまみれになった全てのFC版のゲームソフトを、燃えないゴミに出した。
佐藤「おいお前、それ全部捨てる気かよ。」
鈴木「だってこんな古いの持っててもしょうがねーだろ。」
佐藤「まぁそりゃそうだけどよ…。」
母親「あらあら、こんなに捨てるなんて…。もったいないわねぇ、だったら最初から
買わなきゃいいのに…ぶつぶつ…。」
母親はゲームソフトを全てゴミ袋に入れ、それを持って部屋を出て行った。
…バタム
鈴木「おい佐藤、リメイク版のドラクエTちょっとやってみるか?」
佐藤「おぉ!見せてくれよ!どういうふうに新しくなってるのか!」
二人の少年は、新しくなった「SFC版のドラクエT・U」をセットした。
鈴木「いつかはもっと性能のいいゲームが出るんだろうな、SFCよりももっと進化したやつが…。」
佐藤「そうだな。俺たちが大人になるころって、ドラクエってどういうものになってるんだろ。」
鈴木「きっともっとリアルなドラクエができるぞ。」
佐藤「今から待ち遠しいなー。早くやりてえよ。」
鈴木「どんどん進化していってほしいな、古いものなんてクソだよ。」
ゲームを楽しむ二人の少年たちの目は、常に未来だけを追い、過去の産物など目もくれなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
勇者への手紙 PAGE7
再び場面は戻り――――――
ラダトーム城下町 教会にて
子供「神父さま…ぼくのママが肺炎に…。」
神父「かわいそうに…。しかしもう心配いらないよ、安心なさい。」
子供「どうしてですか。」
神父「この私が勇者さまに手紙を出したのだよ、きっと今ごろ彼のもとへ届いているはず。」
子供「ほんと?勇者さまが助けに来てくれる?」
神父「あぁ、きっと来てくれる。そう信じよう。」
子供「よかった…。早く竜王を倒して、世界に平和を取り戻してほしいよ。」
神父「大丈夫、何といっても彼はロトの子孫だよ。必ず竜王を倒してくれる。そしてこの灰の雨を…。」
子供「いったい何なの?この灰って。」
神父「分からない…。しかしなぜか寂しさを感じる灰だ…。まるで遠い年月を語るかのような…。」
子供「町じゅうがホコリだらけだよ…。ぼくもなんか苦しくて…ごほっごほっ。」
神父「坊や、私と一緒に祈ろう…。一日も早く勇者さまが現れることを…。」
子供「うん。」
神父「……」
ホコリまみれの幼い少年は、教会の聖堂の前で必死に祈った。
子供「勇者さま…どうかぼくのママを助けてあげてください。そして世界に平和を…。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
勇者への手紙 <エピローグ>
時代と共にあらゆるものが進化していく、それはゲーム機でも同様だ。
携帯電話にしても、ついこないだ売り出された機種は、あっという間に古いものと化してしまう。
そして古くなったものは、もうそれきり相手にもされなくなってしまう。
ホコリまみれでベッドの下に放置され、何年も経ってからやっと引っ張りだされたと思いきや
中古で売り出されるか、または燃えないゴミ行きだ。
今こうして二人の少年(鈴木と佐藤)は、SFC版のドラクエTを楽しんでいる。
同じゲームでも古くなったものはホコリまみれとなり、そして捨てられた。
だがいずれこの新ゲームもまた、灰の雨が降る運命だろう。それも近い将来に。
それどころか、今これを読んでいるあなたにとっては、それすらもすでに古く感じられるはず。
だが中にはマニアなユーザーもおり、FC版を楽しむ人もいる。
そういう者たちに引き取られるほうが、「オモチャという立場の者」からすれば幸せかもしれない。
ゲームに限らず、ありとあらゆる古いものは時代から抹消されていく。
人は未来に目を向け、常に明日の進化を追い求めてゆくもの。
だがこれは良い傾向でもあると同時に、少々寂しさを感じることも確かだ。
もちろん人それぞれだろうが…。
勇者への手紙
完
オワリ。
しかしどういうことだこれは。
書きあげた時間よりも、うpする時間のほうがかかったってどういうことだよ。
ほんとむかつく。バーロ。
とにかく一話め終わりました。
そのうち二話め、三話めも出してみよお。
あれだ。読んでる人いるかどうか分からないけどちょっと聞いてみよう。
今後どういうものが読みたいですか。アンケートとらしてくだはい。
べつにそれに従って書くわけじゃないけど、参考までに聞いてみたい。
ちなみに自分の書きたい目標としては
>>5を参照に。
でも読みたいものが
>>5じゃなくてもぜんぜんいいや。
とりあえず「何を求めているのか」を知りたい。
個人的には下品さのないギャグSSが読みたいです。
アンジャッシュさんのネタくらいにすっきりしたネタで。
単に理不尽な展開だったり、そういったことを叫んだりするボケ、
暴力ギャグでツッコミをいれて片付ければ終わる、
これは嫌ですね。
作者さん、乙です!
自分としては、ほのかに恋愛絡みキボンです。
泣ける、切ない系がいいですね。
おーい、幻編のイリュージョンの過去ログ無いか?
中途半端に廃棄スレなんか使うから、落ちて読めんぞ
どっかで纏めてる所ねーのか?
あー、やっぱいいや
一度に読めなかったんで、もうどうでもいーや
そんなに先が気になる奴じゃないしな
そんじゃなー
とりあえず保守。
誰も使っていないのだったら、ここに俺のSSを書いてもいいかもしれない。
>>5のようなルール設定もいいだろう。でも歴史無しというのもなかなかチャレンジし甲斐があるよな。
『勇者への手紙』読ませてもらいました。
視点がぐるんとする感じの展開がおもしろかったです。
とにもかくにも乙。
>>32 ドラクエ世界の隙間補完みたいなお話し。
脇役キャラ・アイテムにスポット当てた…△△誕生秘話、○○の長い一日とか。
『勇者への手紙』のようなDQ味がにじみ出る文体の文章で是非。
agaらないので即興単発ネタでも
『その1.グングニル』
酒場〜
旅人1「この間、宝箱を開けたらよぉ〜、中にモンスターが隠れててびびったぜぇ」
旅人2「あれは驚くよな」
勇者「宝箱ってこのくらいの大きさだよね」
武闘家「まあな」
勇者「よし、スライムでも捕まえてこようか」
武闘家「悪魔かオマエは」
『その2.ああ幸運な海辺よ』
会心の一撃、モンスターを倒した
武闘家「痛ぇ〜、腕イっちまった」
戦士「これは――治療する前に、まず何かで腕を固定しなくてはいけませんね」
勇者「ほい」
―船乗りの骨―
武闘家「いらんわぁ――ッ!!」
『その3.愛から逃げるわ』
メタルスライムが現れた
メタルスライムが次々と集まっていく
なんとメタルスライム達は合体してメタルキングになった!
メタルキング「ではさらばだ!!」
ズササササ―...
メタルキングは逃げ出した
勇者「お前(等)何しにきたんだ・・・」
『その4.愛による幸せ』
勇者「この世界には幸せの靴というアイテムがあるらしい」
武闘家「どんな幸せをもたらしてくれるんだろうな」
戦士の回想
結構辛い記憶〜
母「ちょっとお母様、掃除の邪魔なんですけど、そこどいてくださる!?」
祖母「嫁さんや、窓枠に埃が溜まってるよ、ったく、最近の若い者は」
戦士の回想
ちょっと泣けてくる記憶〜
祖母「ちょいと、年寄りに脂っこいものを食べさせようなんて、何考えてるんだい」
母「都合のいいときだけお年寄りのふりですか?」
戦士
涙目の戦士「それは是非手に入れてみたいアイテムですね」
勇者「うん、そーだね」
『その5.愛のオルゴール』
なんと壺は悪魔の壺だった
悪魔の壺「いえね、お隣の奥さんが言うんですよ。
『ジョー、お宅の庭はいつ見ても草が伸びてるわね』」
悪魔の壺「それであっしはこう言ってやったんですよ
『お宅の犬がたっぷり栄養をくれるから伸びてるんですよ』ってね!」
パタン
勇者は壺に蓋をした
>>39-
>>41 何処かに元ネタがあるようにも思えるが、わりと面白いかも。
勇者への手紙、すごい切なくてなんか・・
この先灰の町の住人はどうなるんだろう・・はぁ・・・
44 :
K:04/07/23 02:05 ID:J80qdMYV
おお!
45 :
K:04/07/23 02:19 ID:J80qdMYV
>>33 ジャグ
>>34 恋愛かー。もしやきみはおんあの人ですか
泣けるものは自分もすき
>>37 よろしく!
>>38 >>脇役キャラ・アイテムにスポット当てた…△△誕生秘話、○○の長い一日
これはけっこうおもしろそう。きみが書いてください
>>39-41 おつかれさま!
>>43 ちょっと暗すぎタネ。なんかあとにひきずる
46 :
K:04/07/23 02:29 ID:J80qdMYV
それにしてもひさしぶりじゃないか
書くのはすぐできるけど、問題はうpなんだよね。この作業が一番苦痛。
なにせ書き上げる時間よりもうpのほうがかかるってぜってーおかしい。
ぜんぜん書き込めないとイライラすんし。
というわけでここんとこ時間もなかったし何も書いてない。
うpがむかつく。「連続投稿ですか?!」を見るともうキレるね。
47 :
K:04/07/23 02:39 ID:J80qdMYV
あのさ、「ぼくの夏休み」とかいうゲームしってますか
48 :
K:04/07/23 02:53 ID:J80qdMYV
もしもーし
49 :
K:04/07/23 03:05 ID:J80qdMYV
(・д・)
>>46 レスとレスの間が3分くらい空いてるのみると、苦労が忍ばれます・・
何とかならないものか・・
>>47 子供がセミとりするようなCMは見た事あるよ
やってみたいって思った どんなゲームなんだろう・・
51 :
K:04/07/23 20:14 ID:J80qdMYV
>>50 夏休みに親戚の田舎に遊びにいくゲームだよ。
毎日虫とりとか田舎のともだちとカブトムシの相撲とかする。
釣りしたり、いろんな人たちと出会ったりするんだよ。
ほのぼのとした思い出ゲームみたいなもの。
夏休み中に一つだけうpするとしたら、このネタをつかって書こうかなとちょっと思ってしまった。
主人公をタークにして、魔界の夏休みを舞台にしたほのぼの物語。
夏休みを利用して、行方不明の父親を捜しに冒険するもの。
でも魔界だから凶悪なモンスターがウヨウヨいたりする。
たくさん遊んで宿題もして、いろんな友達に出会ったり、そして少し泣けるもの。
どうだろうか。こういうのみんなすきかなー
もちろんOKっす!
でもまたドラクエ物も読みたいっす!
うpするときは、支援するんで日時を教えてくだはい!
54 :
∫'A`∫:04/07/25 01:56 ID:DwFNAnD4
正直文章書けないからうらやましい
55 :
K:04/07/25 02:11 ID:kfL3ykSo
>>52 すきですか ぼくもすきです
でもまだこれに決定てわけじゃないけど。
ほんとは映画「菊次郎の夏」みたいなほのぼのを描きたいんだけど、
舞台が魔界だと無理がありそう。
>>53 もしなんか書いたらうpの日時はまえもって発表しまs。
ドラクエものってどういうやつ?
自分が書いたもので例えを教えてくださいあ
>>54 そんかわし自分は絵がかけない
みなはん他にも何か要望をどんどこ教えてください。
56 :
K:04/07/25 02:33 ID:kfL3ykSo
絵か・・・だれか絵のうまい人、一発かいてくんないかな
前に書いた三部作、絵にかけばけっこういいかんじになると思うんだけど・・
57 :
∫'A`∫:04/07/25 02:40 ID:DwFNAnD4
がんがれです
おいらもなんかやるです
出来たら晒してみます
58 :
K:04/07/25 02:43 ID:kfL3ykSo
yattaaa!!!(・∀・)
59 :
∫'A`∫:04/07/25 02:56 ID:DwFNAnD4
いや、絵でなく。何か違うものを。短文とか簡単なAAとか。
(スキャナあぼーん中でかけない。。。お絵かき掲示板も最近とんとしてないから無理ぽ)
>>56 たわけ。
あの程度のSSで挿絵を描いてくれなどとよくも言えたものですな。
61 :
∫'A`∫:04/07/25 04:26 ID:DwFNAnD4
昨日も今日も燃えつきました
2回別な場所で違う事をして燃え尽きるだなんてアレもいいところです
62 :
K:04/07/25 07:53 ID:kfL3ykSo
残念
53です。
ドラクエ3部作、全部好きっす!
ドラクエならなんでもOKっす!
楽しみにしてまふ( ゚∀゚ )=3
64 :
K:04/07/27 01:07 ID:nPVvHGoM
次回作「ぼくの夏休み」を少しずつ書き始めました。
でもなんか長編になりそう。物語の都合上、短編では収まりきらないや。
「幻の勇者」みたいなバカ長くはならないと思うけど、100レスは超える長編になってしまう。
こんなんでよければ夏休み中にうpしてみます。
まだ前半のほうを書いてるとこだけど、主人公はタークに決定しよう
暗黒魔界を舞台にするのは初めてだけど、マスタードラゴンとかも出す予定。たぶん。
あとエッグラ&チキーラのコンビとか他にもたくさん。
ほのぼの物語を描きたいんだけど、なんか冒険ものになりそう・・
66 :
K:04/07/29 22:10 ID:BGrtAGBg
s
ドキドキ・・・
68 :
K:04/07/29 23:41 ID:BGrtAGBg
ごめんまだ第三章のへんを書いてるとこです。
うpの曜日や時間帯の希望があれば教えてもらえないかな
>>68 曜日はいつでもいいんですけど、
いつも夜中ですよね?
ちょっと夜中は寝てるんで、支援きついかも・・。
23時とか、ベストですね。
70 :
K:04/07/31 03:03 ID:NM3mf5JU
じゃあその時間帯を中心に考えようかな
うん私もそれくらいがいい
予告してくれれば支援する気満々だし
72 :
K:04/07/31 03:09 ID:NM3mf5JU
貴様はもしや
73 :
K:04/07/31 03:18 ID:NM3mf5JU
何でもないですごめn
74 :
K:04/07/31 03:22 ID:NM3mf5JU
しつもんがあります
パオームって何だっけか。ps2のdq5はいちおうクリアしたんだけど忘れてしまった
これはモンスターですか?どんな姿を?
パオームのインクとかいうのがちょっと記憶にのこってるけど
どんなものかは忘れちゃった。
>>74 お答えしますよ。
パオームはモンスターです。
見た目は、思いっきりゾウです(画像は無いです、スマソ)。
パオームのインクは、PS2版しかでてこないです。
グランバニアの北の教会で、
主人公の子供(勇者とか)が出てきてから(青年期後半)手に入ります。
その名の通り、パオームからしか作れない貴重な物で、
製法もグランバニアにしか伝わってないので、グランバニアでしか作れません。
このインクで文字を書くと、ずっと消えることがないので、
教会では、重宝されてるみたいです。
ようせいの羽ペン(妖精の村でもらえる)とセットで
クリア後に行ける過去のエルヘブンにいる若き頃のパパスに渡すと、
マーサの絵が完成して、思い出のロケットが完成します・・・
・・・・と、長々書いてしまいました(汗)
だいたいこんな感じです。
また何かあったら、訊いてください。
応援してます! ノシ
76 :
K:04/07/31 19:42 ID:NM3mf5JU
77 :
K:04/08/01 02:59 ID:FFygZSlt
8月13日金曜日 22時からスタートってのはどおでしょうか
ちょうどアテネオリンピック開催日だ。関係ないけど
時間は多少ずらせると思うので都合悪ければいってください
もっと早めの時間がよければ変更しまs
ほんとは一晩で終わらせたいけど、あまりにも書き込めなかったりしたら
何日かに分けてうpしようかと。
なんか意見くださいな
78 :
K:04/08/01 03:06 ID:FFygZSlt
∧_∧
(´・∀・`)
(_⌒ヽ
,)ノ `J
75です。
13日の金曜日でOKですよ!
支援、がんがりまつ(`・ω・´)
Kさんも、がんがってください!!
私もできれば支援したいと思います!
あいよ〜
私も家にいれば支援するよ
頑張ってください。
82 :
K:04/08/03 12:02 ID:yqHc+yGW
「ぼくの夏休み」完成シタ━━━━━━(・∀。)━━━━━━!!!
よかった・・・期日までに間に合わなかったらどうしようかと思った
おぉ!完成おめでとうございます!
来週の金曜日楽しみにしてますよ!
乙です!!
あー、早く読みたいなぁ。
楽しみにしてますね。
楽しみです。
86 :
K:04/08/05 02:35 ID:xJaHJu7o
あれ なんか予定より早くできすぎたのか
13日じゃなくてもよかったなー
うpの日にち、変えますか?
88 :
K:04/08/05 19:15 ID:xJaHJu7o
だいじょうぶだよ
92 :
K:04/08/06 03:45 ID:WMTdsJlZ
じゃ8日の日曜日ってのはどうかな。時間は同じ22時スタートで。
93 :
K:04/08/06 04:03 ID:WMTdsJlZ
94 :
K:04/08/06 04:04 ID:WMTdsJlZ
ヽ('A`)/
\(.\ノ
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はあー。支援受けられないと投稿しないような傲慢な職人もそれに付き合う香具師も、なんて言うか……ヒマですねえ。
ま、今度こそは面白くて読みやすいのお願いしますよ。
まだかなまだかな〜
約一時間前 なんとか間に合った
クル?
もうそろそろですね!
soudane 5hunnmaeni sematta
naniyara kinncyousite mairimasita
※この物語は 人間は一人も登場しません
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
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.゙ 。。゚o ・ ゚。o゚;・゚冫。゚ _ 三 ー 二/ / .ー _ l |_| l l |_ =゙、 ゙、 三゚ _ o゚= - "_ o -゚。"0。゚。゚・o ゚-。
。 、゚。゙。ゾ。゚・.' o゚。"。 :゚- 。。ー 三 / / 二。 | l |_ _| 三 ‐゙、 ゙、。─ 二 。 =`_ 。。二 '゚。o,; ゚・;゚。 =
゚_ = ゙_ノlllliilllllll ゚。;" . := - 二 _ -/ / _。= |___|//\\ 。─_ ゙、 ゙、 二 -゚ 二 ─。・。゚o;゚ lll。・ ゚。。゚_
・゚/iiiillliillllllllll`ー、゚。' ゚ 。─ / /___'_____ ̄____ ̄_______゙、 ゙、 ─ = 。 二 ・゚ ゚o。'゚。・iilll 。lll 。 。
:.: i´iilllllliiilllllllllllllll 。゚o," ゚o ・;,  ̄ |___________________| 。。二  ̄ 。- _゚o。o・llllllloilll。。lllo
<メインキャラクター紹介 〜タークと愉快な仲間たち〜>
名前:ターク
性別:♂
年齢:生後100年六ヶ月
職業:魔界27層 魔族小学校12年生
階級:デヴィル中級 ★★★(三ツ星)
物語の主人公。
原始的な生物の中でも、その強靭な肉体は「昆虫」から採取された細胞を持つモンスター。
人間界に住むあらゆる昆虫の細胞と、進化の秘法なる禁断の技を用いて生まれた父を持つ。
戦闘能力としては、みなごろしの剣を持つ二刀流使いであり、暗黒魔法も兼ね備えている。
しかし彼の父親はもともと人間だったせいか、息子のタークは他の魔族とは少し違っている。
わずかに人間の血を受け継いでいるため、どことなく人間的な感情を出すときもある。
そして遊びたい盛りの元気な少年モンスターである。
支援 1
あれ・・。止まった?
K、どうしました?
赤いのをピカッとやられましたか?
まじごめん・・やられた
さっき代理人に伝言を頼んだけど、とりあえず報告を書き込み。
けど事情でこのパソだとデータが引き出せないのでうpできない。
いったいどうなってんだこのクソ
ほんとごめん なんとか復帰できるようmにします
あらら、マジですか・・。
災難でしたね。
早く復帰できるといいですね。
復帰のメドが立ったら教えてください。
支援しますから。
待ってます。
冒頭の紹介コーナーだけで規制かよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
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ノi|lli; i . .;, 、 .,, ` ; 、 .; ´ ;,il||iγ
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r
名前:ベリアル
性別:♂
年齢:生後100年八ヶ月
職業:魔界27層 魔族小学校12年生
階級:デヴィル中級 ★★★★(四ツ星)
金髪の髪に金色の瞳、そして二本のツノを持つモンスター。
悪魔ベリアルは本来美しい姿と声を持ち、そして話術の長けた嘘つきでもある。
彼はのちに魔界の皇太子ベルゼバブの配下となり、人間界にたびたび降臨しては
悪行を働くモンスターとなる。
神を召喚させてやると称し、人間だったころの大神官ハーゴンを騙して
利用しようとした首謀者でもある。
さらに人間界の一部で同性愛と近親相姦を流行らせた張本人であり、のちに神の怒りを買って
天罰が下り、その美しい姿は、見るも無残な醜い化け物に変えられてしまうこととなる。
だが今はまだ幼い子供。かわいげのある少々イタズラっ子な魔少年である。
名前:バズズ
性別:♀
年齢:生後100年二ヶ月
職業:魔界27層 魔族小学校12年生
階級:デヴィル初級 ★★(二ツ星)
古代バビロニアの伝説の悪魔・パズス神の一人娘。
紫色の皮膚に背中に小さな黒い羽根を持ち、蛇のシッポを持つ人喰いモンスター。
だが普段は人間を釣るために、その姿は人間に似た幼い少女に変身している。
デヴィルクラスともなると、大型から小型まで姿を変化させることが可能である。
人間界での記録の一つとして、バズズは無垢な人間の少女に取り憑き、卑猥な言動や
神を愚弄させる悪行などを働いた。
だがある二人の神父によってバズズは悪魔祓いをされ、人間界から追放されることになる。
今はまだ幼い少女であり、ダイエット中のため人間を喰うことをやめている。
支援 2
復帰、おめ!
名前:アトラス
性別:♂
年齢:生後100年三ヶ月
職業:魔界27層 魔族小学校12年生
階級:デヴィル初級 ★(一ツ星)
魔界のアスタロス公爵の息子・アトラス。
やや大型の種族で、魔法よりも力に長けた一角獣のモンスター。
生まれつき知能傷害のため頭が悪く、普段はおっとりとしたモンスターである。
気が弱くおくびょうで、学校ではベリアルやバズズにしょっちゅういじめられている。
だが「池沼」と呼ばれると我を忘れるほどキレる。
同じクラスの生徒の首の骨を素手で折ったこともあり、それを止めようとした
教師のアゴを砕いたこともある。趣味は花つみと刺繍。
<プロローグ>
○月×日 (マグマ)
ぼくのお父さんは むかし 天界のドラゴンと戦ったことのある えいゆうです。
けれど、ぼくはお父さんに 会ったことがありません。
もうすぐ夏休み。ともだちはみんな 海とか旅行に連れてってもらうそうです。
でもぼくは お父さんがいないので どこへも連れてってもらえません。
一度でいいから お父さんに会いたい。
. fi_fi
ii.____ii /. l/||
ii._____|| ̄ ̄ ̄ ̄|| /. l/...||
|| ̄ ̄ ̄|| || ./. l/.. ||
|| || || l_l_ノ、. ||
今ここに、暗黒魔界なる世界にて、一匹の魔族の子供がいる。
今年も暑い夏を迎えた季節、その幼い魔少年は、実の父親を捜すため
ちょっとした冒険に出ることになる。
この物語は ある一匹の魔族の少年が かけがえのない夏の思い出を 刻み込んだ物語である。
支援 3
ぼくの夏休み
ぼくの夏休み PAGE1 第一章 〜夏のはじまり〜
――――暗黒魔界
魔界は人間界と違って、球状の惑星で形成されたものではなく、
果てしなく地下に続くもので形成された多層構造による世界である。
魔界の一番上の方の層は、おもに力の弱いモンスターしか住んでいないが、
これは地下へ行けば行くほど、凶悪で恐ろしいモンスターが存在する。
天界の世界においては、上に立つ者ほど地位の高い存在として崇められるが、
魔界はその逆で、下へ行くほど力の強い者が君臨する。
例えば人間界にたびたび降臨してくる魔王たちは、そのほとんどの棲みかが
魔王神殿の地下に居座る性癖がある。
これは魔族の本能であり、逆縦社会を示すものでもある。
魔界の猛者たちが下へ下へと潜り込む理由は他にもあり、これは太陽の光から
できるだけ遠くに逃げるためだとも言われている。
天界や人間界にとっては、太陽のエネルギーはあらゆる生命のかかせないものであり、
神の象徴でもあるゆえ、魔族にとってはそれだけ苦手なのかもしれない。
何しろ力の強い魔族ほど太陽の光は恐ろしい敵であり、そのエネルギーは魔界にまで及ぶ。
暗黒魔界には太陽は昇らないが、魔界にも一応季節というものがある。
春には冬眠から覚めた幻魔獣であふれ、夏には黒い炎のマグマが噴き出し、
秋には血のような真紅の雨が降り、冬には零下40℃を越す極寒地帯となる。
魔族にとってそれは美しい世界であり、なんとも風情な季節感を感じさせるものであった。
だが基本的に魔界は弱肉強食の世界。殺るか殺られるか、暴虐と裏切りの社会であり
殺されるやつが悪い、弱い者が悪い、騙されるやつが悪い、というはっきりとした世界である。
天界が汚れのない白だとすれば、魔界は全てを覆う黒である。
そしてその中間に存在する白黒はっきりとしない灰色の人間界。
この三つの世界は、目に見えぬ微妙な位置関係で成り立っている。
支援 4
ぼくの夏休み PAGE2
暗黒魔界 27層部「煉獄層」 東地区――――
___
/│ ̄ ̄ ̄| キーンコーン
│.| | カーンコーン
| | |
ミミ皿皿皿皿皿皿皿皿皿| |皿皿l ̄ ̄ ̄l皿皿皿_
ミミ彡ミミミ 田 田 田 田 .| /| |
ミミミミ彡彡ミ .| / | |皿皿皿皿皿
ミ彡ミミミ彡ミミミ 田 田 田 .|/ | | |
ミミミミ巛彡ミミ | .| |田 田 田│
ミ彡彡ミミミミミミ ≡ / | ̄ ̄ ̄ ̄| | │
ミミミミミミ彡ミミ二 三三 | | ---‖ | ̄ ̄| | ̄ ̄| | 三 三|
| ::;;:;;; 三三 三三 | | ┌─‖ |┐ ,| | .| |_三二 三二
| ;;:;::;;;;;;;;;;: | | | | ヽ |__| ‖ |│_| ,|____| | . || ||;;;;;;;
|二二二二二二二二二|  ̄‖_|;;;;;;;;;;;|_|;;;;;;;;;;|__|:::
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
教師「はいみなさん、今日の授業はこれまで。いよいよ明日から夏休みですねー。」
ターク「やったー!夏休み夏休みー!」
ブォーン「早く明日にならないかなー。」
魔界27層部のとある魔族学校にて、夏休みを前日に控えた季節を迎えていた。
レッサーデーモンの教師のもとに、あらゆる凶悪なモンスターの子供たちが無邪気にはしゃいでいる。
無理もないだろう、何せ明日から待ちに待った夏休みなのだ。
教師「みなさん、今年の夏は去年よりも黒炎のマグマの量が多いそうです。くれぐれも
火山帯には近づかないようにしてくださいねー。」
ターク「はーい。」
ブォーン「せんせー。やっぱ宿題とかあんのー?」
教師「はい、もちろんありますよー。」
ターク「えぇー、やだなー。」
教師「こらこら、そんなこと言ってはいけませんよ。タークくん。」
ターク「だぁってさ…。ぼく遊びたいもん。」
教師「タークくん。今からそんなことでは、あなたのお父さんのような立派な魔族にはなれませんよ。」
ターク「だってお父さんいないもん。」
教師「……」
この物語の主人公、名をタークという。
彼の父親は、かなりの魔族功績を残した英雄として有名だったが、100年ほど前から行方不明である。
噂では天界の竜との壮絶な戦いによって敗退し、殺されたとも言われている。
しかし息子のタークはそれを信じようとせず、自分の父親はきっとどこかにいると信じていた。
支援 5
ベリアル「ははは、おいターク、お前んちパパがいねーのか。じゃあ夏休み
どこも連れてってもらえねーだろ。」
バズズ「きゃははは!やーいやーい。あたしなんか三泊四日かけて魔界一周旅行だもんねー。」
ターク「いいなぁ…。」
タークのクラスの生徒の中には、さまざまな種族の悪魔の子供がおり、中にはおとぎ話に
出てくるような伝説のモンスターの子供もいた。
だが彼らはまだ無邪気な子供。いかに悪魔の神の子とはいえ、まだまだ遊びたい盛り。
ターク「アトラスくんも夏休みどっか連れてってくれるの?」
アトラス「お、おおおれ、おれは、お、お、伯父さんの田舎で、魔界のか、か、海水浴に
いい行くんだな。と、と、とっても、たたた楽しみなんだな。」
ベリアル「アトラス、無理してしゃべるんじゃねーよ。またアゴがはずれるぞ。」
ターク「へぇー、アトラスくん伯父さんの田舎に行くんだ。確か南地区の暗黒海だっけ?」
アトラス「う、う、うん。お、お、おれ、今年こそご、ご、ごじゅうメートル泳げ、げ、げるように…」
バズズ「あーもう!あんたしゃべらないで!イライラしてくるじゃん!」
各それぞれの生徒たちは、すでに夏休みの計画が立てられており、待ちきれないといった様子だった。
支援 6
教師「はいはいみなさん、おしゃべりはそこまで。それ以上無駄口をたたくとぶっ殺しますよ。」
ターク「はーい。」
ベリアル「ちぇ。」
楽しみにしていた夏休みを前に、ざわつく生徒をきりのいいところで止め、
教師はいよいよ夏休みの宿題を発表することになった。
教師「いいですかみなさん。夏休みの宿題を出す前に、各自一匹ずつ目標を立ててもらいます。」
ターク「目標?」
教師「そう、夏休みの目標です。この夏じゅうに何か一つだけ目標を立てるのです。」
ターク「…そんなこと急に言われてもなぁ。」
バズズ「はーい先生!」
教師「おっ、早いですねバズズちゃん。もう目標が決まりましたか。」
バズズ「うん、あたしこの夏休み中に人間を100人食べることが目標でーす。」
教師「はい、とても良い目標ですね。頑張って食い殺してくださいね。」
バズズ「はーい。」
ターク「ねぇバズ、確かキミはダイエット中じゃなかったっけ。」
バズズ「もういいの、あたしどうせ太ってないし。」
ベリアル「ケッ、バズのやつ優等生ぶりやがって。」
早くも目立ちたがり屋のバズズ(♀)が目標を宣言。
彼女の父親は暗黒魔界でも有名なパズス神である。古代バビロニアの伝説の悪魔・パズス神の
一人娘バズズ。だが彼女は幼い頃から甘やかされて育ったため、世間知らずの
口の減らないインテリお嬢様でもある。
するとそれを聞いて黙ってはいないベリアルが手を挙げた。
教師「他に誰かいませんかー。」
ベリアル「はい先生。」
教師「おっとベリアルくん。このクラスで最も優秀な生徒の目標を聞かせてください。」
ベリアル「はい、オレ今年の夏休み中に天界の使徒を皆殺しにしたいと思います。」
教師「えぇ?」
バズズ「何ですって?!あたしの目標よりも高いじゃん…っていうかそんなの無理でしょ!」
ターク「ちょ、ちょっとベリアルくん。そんな無謀な目標を…。」
ベリアル「へへーん、どうだまいったか。」
ざわめく生徒たちに囲まれながら、得意満面に席に座るベリアル。
彼は魔界の皇太子ベルゼバブに次ぐ、将来が期待されている有望な逸材である。
だがこの目標はいくら優等生のベリアルでもまだ無理だ。
何しろ彼らはまだ子供。天界の兵隊を相手にできるほどの力はまだ育っていない。
しかし本人のベリアルはそれを承知で発言したのだ。
支援 7
やがて隣の席のブォーンが、ボソボソとベリアルに話しかけてきた。
ブォーン「(なぁベリアル、いくらなんでも天界の使徒は相手が悪すぎるだろ…。うちのパパだって
天界には手を焼いてるんだぞ。)」
ベリアル「(いいんだよ、こういうのは適当に言っとけ。点数が上がるぞ。)」
ブォーン「(お、お前最初からそんな気なんてなかったのかよ…。)」
教師「ゴホン…まぁ夢は大きければ大きいほどいいでしょう。他に誰かいますか。」
アトラス「せ、せ、せんせ…。」
教師「はいアトラスくん、落ち着いて発言を。」
アトラス「お、お、おれ実は…マ、マ、マンドラゴラを育ててい、いいるんだな。な、な、なかなか
お花がさ、さ、咲かないんだな。」
教師「ほぅ、では今年の夏中にお花を咲かせたいと?」
アトラス「は、は、はい…。き、き、きっときれいなは、は、花を、ささ咲かせてみせるんだな。」
教師「マンドラゴラの植物は人間の養分を一番好みます、きれいなお花を咲かせるためには
並大抵の努力では育ちません。しかし非常に素敵な目標ですね。頑張ってください。」
アトラス「え、えへ、えへ、えへへ。」
ターク「……」
教師「はい、では他に誰かいますか。」
ブォーン「はい先生。」
教師「ではブォーンくん、どうぞ。」
ブォーン「はい、おれはこの夏休み中に人間界にいるサラボナの野郎どもを…。」
教師「ほぅほぅ、確かルドルフ一家でしたかな?あのクソ野郎まだ生きてたのですか。」
ターク「……」
次々に夏休みの目標を発言していく生徒たち、それは子供ならではの
有邪気で明るい夢を持ったすばらしい目標ばかりだった。
だがしかし、タークだけは…
教師「はい、みなさん本当にすばらしい目標です。先生はとてもうれしいですよ。
ではそろそろ夏休みの宿題を…。」
バズズ「せんせー、まだタークくんが発言してないわよー。」
ターク「!」
教師「おや、そうでしたね。これは失礼。」
ベリアル「おいターク、なんか言えよ。」
ターク「……」
教師「タークくん、自信を持って目標を教えてください。」
ターク「え、えーと…。」
タークは下を向いたまま席を立ち、生徒の視線に囲まれながら黙ったままでいた。
ターク「……」
教師「…どうしました、もう目標を立てていないのはあなただけですよ。タークくん。」
バズズ「何してんのよターク、あんただって目標の一つや二つあるでしょ。」
ターク「ぼ、ぼくは…。」
教師「さぁどうしました。人間狩りですか?それとも悪魔宗教のボランティアでも?」
ベリアル「おいターク、お前も人間の一人くらい殺してみろよ。楽しいぞ。」
ターク「……」
するとタークは、思いも寄らぬ発言をした。
ターク「ぼくは父さんに会いたい…。」
教師「!」
ベリアル「はぁ?」
バズズ「なにそれ?そんなのが目標なの?」
教師「タ、タークくん。あなたのお父さんは100年前に…。」
ターク「死んでなんかない!生きてるんだい!」
教師「……」
ベリアル「ははは、確か100年前に天界のドラゴンに倒されたんだってな。仮に生きていたとしても
もう封印されちまってるかもしんねーよ。」
ターク「なんだと!」
ベリアル「だいたいよ、タークのパパってもともと人間だったんだってな。そんなやつは
死んだほうがいい。」
ターク「この!もう一度言ってみろ!」
ベリアル「ほほぅ、てめえオレとやるってのか。」
ドタン! バタン!
バズズ「あーあ、始まっちゃった。」
教師「ふむ、ケンカですか。非常に動機が不純で感心しますな。あなたたち二人とも点数を
上げておきます。」
〜〜〜〜〜そして5分後〜〜〜〜〜〜〜
教師「気は済みましたか。二人とも。」
ターク「はい…。」
ベリアル「ケッ。」
支援 8
タークとベリアルはお互いキズだらけになったが、どうやらケンカはおさまったようだ。
子供のケンカゆえ、魔界の教師はそれを止める必要も義務もないのだ。
魔族は意味のない争いは好まないが、動機があればいつでもどこででも殺し合いを始めてしまう。
子供のうちはその動機が不純であればあるほど、優秀な魔族として認められる。
ちなみにベリアルはすでに20匹以上の生徒を殺害、バズズは15匹の同胞を食い殺している。
アトラスは知能傷害の発作により、5匹の生徒を半殺しにしたこともある。
教師「さぁさぁ、茶番はおしまいです。みんな席に着きなさい。」
ベリアル「はぁーい。」
バズズ「ねぇせんせー。ところで夏休みの宿題って?」
教師「えぇ、今から発表します。」
ブォーン「どきどき…。」
教師「先ほどみなさんに夏休みの目標を立ててもらいましたよね、実はそれを達成させることが
今年の夏休みの宿題です。」
ベリアル「えぇ?!」
バズズ「そ、そんな…!」
ターク「!」
アトラス「え、え、えーと。も、も、目標をたたたたっせいすることが…」
教師「ふふふ、どうしました。先ほどみなさんはすばらしい目標を立ててくれたじゃないですか。
ベリアルくん、天界の使徒をどうするんでしたっけ?」
ベリアル「あ、そ、それは…。」
教師「バズズさん、人間100人をどうやって集めるんです?」
バズズ「うぐっ…。」
教師「ブォーンくん、サラボナにはルドルフの強力な用心棒がいますよ。知っていますね?
確かリバストとかいう、かなりの腕を持った人間の戦士が…。」
ブォーン「……」
教師「みなさんのそれぞれの目標が達成されることを祈ってます。次学期にレポートとして
提出してもらいますよ。」
ベリアル「くそ…先生にしてやられた。」
バズズ「どうしよぅ…カッコつけて軽々しく言うんじゃなかったわ。」
教師「…タークくん、あなたは…。」
ターク「……」
キーン コーン カーン コーン♪
キーン コーン カーン コーン♪
ベリアル「やった!終業ベルだ!夏休みだーー!」
バズズ「せんせー!さよならー!またねー!」
アトラス「な、なな夏休みだ、だ、だ、だぁぁぁ。」
支援 9
教師「みなさん宿題を忘れないようにー!」
生徒たちは終業ベルが鳴ったと同時に、一斉に教室から出て行った。
ターク「……」
教師「ん?タークくん?」
生徒が帰ったのち、教師も教室を出ようとすると、一人残っているタークに気づいた。
教師「タークくん、どうしました。」
ターク「…先生、ぼくの父さんって…本当に死んじゃったのかな。」
教師「……」
ターク「先生なら何か知ってるでしょ?教えてください。」
教師「ふむ…。」
やがて教師はタークの向かいの席に座り、自分が知っているかぎりのことを話そうとした。
教師「タークくん…実は先生も、あなたのお父さんについて詳しいことは知りません。
何しろ100年も前のことですから…。」
ターク「どこにいるかだけでも…。」
教師「むぅ…確か最後に目撃された記録では、魔界77層部の北地区だったと思いますが。」
ターク「77層部…そんな遠いとこに…。」
教師「あの辺の層は私たちでさえ危険地域です、バズズちゃんやアトラスくんの
お父さんたちならともかく…。」
ターク「……」
教師「まさかタークくん、本当にお父さんを捜しに行くのでは…。」
ターク「うん、だって先生言ってたでしょ。目標を達成させることが宿題だって。」
教師「いけません、子供が行くようなところじゃないんですよ。ヘタに魔神などに出会ってしまうと
とんでもないことになります。」
ターク「でも…。」
教師「魔界77層部といえば、最下層にかなり近い地域です。確かあの辺りはカインたちのナワバリ…。
通常のデヴィルクラスなど比べ物にならないほどの猛者が網を張っていますよ。
彼らのナワバリを侵害すると、生きては帰れません。」
ターク「平気だよ、ぼくの父さんは強かったんでしょ。だからぼくだって強いもん。」
教師「いえ、そういうレベルではないのですよ…。はっきり言って強さの次元が違います。
タークくん、あなただってシルバニアファミリーくらい知っているでしょう?」
ターク「!」
教師「あのファミリーに手を出したモンスターは、まず無事では済みません。肉体はおろか
魂まで破壊されてしまうほど、凶悪で恐ろしい連中です…。」
ターク「……」
支援。
――――シルバニアファミリー
それは暗黒魔界において、五本の指に入るほどの凶悪で恐ろしいモンスターの家族である。
家族全員が冷たい銀色の瞳をしているところから、この俗称で呼ばれるようになった。
父のカイン、母のリリス、長男のドレアム、次男のホープ、そして末女レヴンの計五匹家族。
この凶悪な家族は、魔界最下層に限りなく近い地域まで足を運べるほどの使い手である。
特に父親のカインは残忍で冷酷であり、パズス神やベルゼバブとは悪友でもある。
教師「タークくん、あなたはまだ子供だから、そんな危険なとこへ行ってはだめですよ。
夏休みの目標は、もっと違うものにしておきなさい。」
ターク「……」
教師「…聞いてますか。」
ターク「はい。」
教師「よろしい、では楽しい夏休みを過ごしてくださいね。」
ターク「さよなら、先生。」
教師「はいさようなら、次学期にまた会いましょう。」
タークはランドセルをしょって、とぼとぼと帰っていった。
その後姿を、教師はただ見送るしかなかった。
教師「……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・
ぼくの夏休み PAGE3
東地区 世界樹の森 タークの家
暗黒魔界にも世界樹が育っている地域があり、タークはその樹木の幹に開けられた
空洞の中に棲みついていた。
彼は昆虫の遺伝子を受け継いでいるため、その本能のせいか木のそばが落ち着くらしい。
樹木の幹の大きな穴から、木で作られたハシゴが垂れ下がっており、上を向くと
無数に生い茂っている世界樹の葉が、まるで屋根のように覆っている造りである。
かなり太い大木なので、空洞の中は意外に広く住みやすい家だった。
夏は涼しく、冬は暖かく、そのシャレた住居は人間から見ても魅力のある棲みかだった。
ターク「ただいまー。」
チキーラ「おぉ、帰ったかボウズ。」
エッグラ「おい、遅かったじゃないかガキ。ちゃんと帰りにタマゴ取ってきたか?」
ターク「うん、にじくじゃくのタマゴ六個。」
エッグラ「よーしよし、じゃあ今夜はおいしいタマゴ料理を作ってやるからな。」
チキーラ「おい、トリ肉はどうした。」
ターク「逃げられた。」
チキーラ「てめえ!タマゴを取ってきて肝心の肉がねえだと?!」
エッグラ「まぁまぁいいじゃないか。タマゴさえあれば。」
チキーラ「バカかお前は。ニワトリこそ真理なんだぞ。」
エッグラ「バカとは何だ!あらゆる生命はタマゴから生まれるんだぞ!昔から言うだろ!
タマゴを制する者は世界を制すと!」
チキーラ「だからてめえはバカなんだよ!タマゴはそもそもニワトリから生まれるんだ!」
エッグラ「ニワトリが魔界にいるわけないだろ!お前こそバカだ!」
チキーラ「魔界のドードー鳥がいるだろ!」
ターク「はぁ…。」
いつものように意味不明な口論を始める二匹のモンスター。その様子を見てためいきをつくターク。
この二匹のモンスター、名をエッグラとチキーラいう。
タークがまだ赤ん坊のころ、この正体不明の二匹のモンスターに拾われ、世界樹のもとで
大切に育てられていた。言ってみれば彼らがタークの親代わりでもあった。
このエッグラとチキーラの二匹は、魔界のどの種族にも属しておらず、その存在理由は不明である。
ただ一つだけ分かっていることは、彼らは「世界樹の番人」という使命を背負っているそうだ。
千年に一度だけ咲くという‘世界樹の花’を育てることを目的とし、今までいくつもの
世界樹の花を咲かせたことがある。
彼ら二匹は多少口は悪いが、意外に面倒見も良く、炊事・洗濯・掃除までこなし
子供のタークの身の周りの世話もしていた。
支援 10
エッグラ「おいボウズ、おまえはタマゴとニワトリどっちが好きだ?」
ターク「え?」
チキーラ「ニワトリだろ?な?」
ターク「……」
エッグラ「いいや、タマゴに決まってる。このガキ見るからにタマゴ好きそうなカオしてるじゃないか。」
チキーラ「バカヤロウ、タマゴ好きってなどんなカオだ。」
エッグラ「なぁ、どっちが好きだ?ターク。」
ターク「ぼくは樹液のほうが好き。」
チキーラ「ハァ?」
エッグラ「この節足モンスターめ。おれのタマゴ料理よりも樹液をすすってるほうがいいだとぅ?
この昆虫野郎、だからてめえはタンパク質が不足してんだよ。」
ターク「ねぇ、もういい加減にしてよ。そんなことどうでもいいじゃないか。」
チキーラ「ど、どうでもいいだと?!なんて悪い子なんだキサマは!さては今日も学校で
先生に何かほめられただろ!」
ターク「ベリアルくんとケンカを。」
エッグラ「おぉ!ケンカか!おれたちもしょっちゅうしてるぞ!なぁおい!」
チキーラ「あぁ!男の子はたくさん食べて強くならなきゃな!」
ターク「(意味わかんないよ…。)」
。
エッグラ「あれ?ところでおれたちなんでケンカしてたんだ?」
チキーラ「えーと…あ、そういやなんだっけ…。」
ターク「さぁ、もういいからゴハンにしようよ。」
タークはエッグラとチキーラをなだめ、三匹はテーブルについて夕食を取ることになった。
今夜のメニューは、にじくじゃくのタマゴ焼き、魔界のムカデの丸焼き、魔魚の煮付けなど。
そして世界樹の葉をすりつぶして作ったジュース。
エッグラ「もぐもぐ…。おいターク、ちゃんと残さずに食えよ。」
ターク「だって魚きらいだもん。」
チキーラ「そんなこと言ってるとカルシウム不足になるぞ、てめえの親父のようにな。」
ターク「え?」
チキーラ「い、いや何でもない。」
ターク「チキーラおじさん、ぼくの父さんについて何か知ってることない?」
チキーラ「お前のおやっさんは天界の竜にブチ殺されたんだ。何度言わせんだクソガキ。」
ターク「そうかなぁ…。ぼく、なんか父さんってどこかで生きているような気がするんだよね。」
エッグラ「ほぅ、ガキのくせになかなか哲学的なことをほざくじゃないか。」
ターク「い、いやどこも哲学的じゃないと思うけど…。」
チキーラ「あれだ、確かオレが覚えてるかぎりでは、お前のオヤジってもともと人間だったんだろ?」
ターク「そうだよ。」
エッグラ「あーそうそう、確かチンコの秘法で魔族転生したんだってな。」
ターク「進化の秘法だよ、チンコの秘法じゃなくてさ。」
チキーラ「人間界に生息している昆虫と融合したんだってな。どうりでてめえも昆虫くせーはずだ。
こんな樹の中に家まで作らせやがって。」
ターク「昆虫をバカにしないでよ、こう見えても人間界では遺伝子の強靭さは一番なんだよ。」
エッグラ「いくら遺伝子が強くたって、身体そのものが小さきゃ弱いじゃねえか。」
人間界における弱肉強食の構図は、例えばライオンがシマウマを食い、シマウマが草を食べ、
昆虫は鳥やトカゲのような鳥類・爬虫類に食される。
確かに昆虫はこの構図でいえば、下っ端に位置されているかもしれない。
だが仮にこの全ての生物が同じ大きさだとしたら、地上最強の生物は昆虫だと言われている。
なぜならアリは自分の体重の三倍もある物体を軽々と持ち上げ、カマキリは自分よりも大きな生物を
食い殺し、ハチの嗅覚は遠く離れている蜜を嗅ぎつける能力がある。
タークの父親は、よほど人間界について勉強していたのだろう。モンスターの中でも優れた
ドラゴンなどとは融合せず、あえて昆虫類を選んだのかもしれない。あるいは選ばされたのか。
だがタークの父親のその真実を知る者は、誰もいなかった。
知っている者がいるとすれば、殺した張本人である天界の竜と、その時代を生きた者だけ。
支援 11
ターク「ぼくの父さんって、どういう魔族だったんだろ…。」
エッグラ「まぁいつまでもクヨクヨすんな。親父さんがいなくても、おれたちがいるだろ。」
チキーラ「そうさ、オレたちがお前のオヤジになってやる。文句あるかクソガキ。」
ターク「…あのね、チキーラおじさん。それとエッグラおじさんも、ちょっと食べるのやめて
ぼくの話を聞いて。」
チキーラ「何だよボウズ、あらたまって。」
エッグラ「何だ話って。さては新しい一発芸でも仕込んできたか?」
ターク「そんなんじゃないよ、いいから黙って聞いて。」
チキーラ「ほほぅ、こりゃ面白そうな話かもしれないな。よっしゃ聞いてやる。」
エッグラ「面白くなかったらぶっとばすぞ。」
エッグラとチキーラは食べるのをやめ、興味しんしんでタークのほうを向いた。
ターク「あのね…実はぼく、明日から夏休みなんだ。」
チキーラ「それは知ってる、ちゃんと宿題やってから遊べよ。」
エッグラ「日記も毎日つけろよ、三日坊主は承知しねえ。」
ターク「ぼく…今年の夏休みを利用して、父さんを捜しに行こうと思うんだ。」
チキーラ「そうかそうか、そりゃけっこうな……あん??今なんつった?!」
ターク「父さんに会いに行く。もう決めたんだ…。」
エッグラ「バ、バカかお前!何度も言ってるだろうが!お前のおやっさんはもう死んでるんだよ!」
チキーラ「そ、そうだぞ!死んだやつに会ったところでどうする!」
ターク「死んでなんかない。…それにもし死んでいたとしても、ぼくが父さんを生き返らせる。」
エッグラ「な、何だと…!」
タークの決心は、もはや誰にも止められないようだった。
チキーラ「このガキ、どうやら本気のようだぞ…。」
エッグラ「……」
ターク「ぼくが世界樹の葉で、父さんを生き返らせてあげるんだ。」
チキーラ「……」
その様子を見たエッグラは、タークを呼び止めた。
エッグラ「おいマテ、ボウズ。」
ターク「止めても無駄だよ、これは夏休みの宿題でもあるんだから。」
エッグラ「そうじゃない、おまえ世界樹の葉なんかで死んだやつを生き返らせれると思ってんのか。」
ターク「え…。」
、
チキーラ「何も分かってねえなこのガキ、ちょっとここに座れ。」
ターク「……」
チキーラ「座れってんだよ、クソガキ。言うこと聞かないと泣かすぞ。」
ターク「わ、わかったよ…。」
チキーラ「いいかターク、確かに世界樹の葉ってのは停止した生命機能を再び動かす効力がある。
けどお前のおやっさんは死んでから100年も経ってんだ。魂がないのに生命が
復活するわきゃねえだろ。」
ターク「あ…。」
エッグラ「そう、親父さんを甦らせるためには、魂と生命の両方を復活させなきゃならん。
だからたとえ世界樹の葉を100枚使ったとしても、魂までは呼び戻せねーんだよ。」
ターク「そ、そうなんだ…。」
チキーラ「魂と生命を復活させたきゃ、葉っぱじゃなくて‘花’を使うんだよボケ。」
ターク「花?」
エッグラ「そうだ、千年に一度だけ咲くという世界樹の花を使うんだ。おれたちゃ今まで何度も
花を咲かせたことがあるんだぞ。」
世界樹という樹木には、癒しの効力を含んだ成分がある。
「しずく」には傷を治療する効果。
「葉」には止まった生命機能を動かす効果。
そして「花」には、失われた魂と生命を復活させる奇跡の効果がある。
支援 12
ターク「ちょ、ちょっと待って…ってことは、もしかしてぼくたちのおうちにも花が咲くの?」
チキーラ「えーと……おい、あと何年くらいだ?」
エッグラ「100…200…そうだな、あと250年くらいだ。」
ターク「ガクッ…。」
チキーラ「そう落ち込むな、250年くらいあっという間だぞ。」
ターク「夏休み終わっちゃうよ…。」
エッグラ「…ところでおまえ、どうしてそんなに親父さんに会いたいんだ。」
ターク「息子が親に会いたいことに、どうして理由なんているの?」
エッグラ「……」
チキーラ「お、お前はなんという良い子なんだ…そんなふうに育てた覚えはないぞ!」
エッグラ「この親孝行ものめ!それでも魔族か!まるでてめえ人間みたいじゃないか!」
ターク「(……そういえばぼくって、少しだけ人間の血がまざってるんだっけ。)」
エッグラ「おいチキーラ、このガキ止めても無駄みたいだ。」
チキーラ「まさかエッグラ、‘あれ’を…?」
ターク「?」
エッグラ「仕方ないな、そんなに親父さんに会いたきゃ…。」
;
エッグラとチキーラはお互いを目で合図したかのように、彼らもまた何かを決心したようだ。
やがてエッグラは、部屋の奥から一つの箱を大事そうに持ってきた。
ターク「なにそれ。」
エッグラ「これはおれたちの宝物入れだ。……いいかターク、大事に使えよ。」
ターク「え?」
キィィーーーン…!
ターク「うわわ!な、なにこの光は…?!」
エッグラがその箱を開けたとたん、中からまぶしいほどの光があふれ、それはまるで
虹のような美しい光が差し込めてきた。そう、箱の中には「世界樹の花」が入っていたのだ。
ターク「うわー!きれいだなぁ…。」
エッグラ「これが世界樹の花だ。今まで何回か使っちまったから、もう一つしか残ってねえ。」
ターク「これが世界樹の花…。」
エッグラ「てめえのような親孝行ものは、バツとして明日から夏休みの間、ずっと家に帰ってくんな。
これを持ってとっとと出て行きやがれ。」
ターク「え…。」
支援 13
エッグラは自分たちが大切にしていた世界樹の花を、タークに譲ってしまった。
ターク「おじさん…。」
チキーラ「これだからガキってのは甘えん坊で困る。いいかげん親離れしろ。」
ターク「そんな…おじさんたちが大切にしてた花なんでしょ。どうしてぼくにくれるの?」
エッグラ「知るか。要らなきゃ返してもらってもいいんだぞ。」
ターク「……」
チキーラ「ボウズ、夏休みの宿題だか何だか知らないが、今年の夏は
とんでもない夏休みになりそうだな。」
ターク「……」
チキーラ「…ボウズ、どうした?」
タークは世界樹の花を持ったまま、しばらく黙ったままでいたが、
やがてその小さな瞳をうるませて言った。
ターク「エッグラおじさん、チキーラおじさん…ほんとにありがとう。ぼく、きっと父さんを
生き返らせてみせるよ…。」
チキーラ「なんでこのくらいのことで泣くんだ。人間の感情ってのはほんとよくわからねえ。」
エッグラ「まぁガキのお守りをしないで済む。今年の夏はゆっくり過ごせそうだ。」
ターク「ははは…。」
:
暗黒魔界の空に鳴く闇カラス。はるか彼方に響き渡る幻魔獣の遠吠え。
今年の魔界の夏は暑くなりそうだ。
今ここに一匹の魔族少年が、父親の愛を求め、そして家族の愛を求め、幼いながらも
勇気ある第一歩を踏み始めた。
口は多少悪いが、育ての親であるエッグラとチキーラ。しかしタークにとっては
彼らの愛情は充分感じ取れた。どうやらタークは、いい父親代わりを持ったようだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
支援 14
ぼくの夏休み PAGE3
――――そして あくる日の朝――――
翌日 朝
エッグラ「おいガキ、ちゃんと弁当持ったか?」
ターク「あるよ、おじさんが作ってくれたにじくじゃくのタマゴ弁当。」
チキーラ「待て、オレの作った自家製の干し肉も持ってけ。体力がつくぞ。」
ターク「はいはい。」
エッグラ「武器は三日に一度は手入れしておけ。魔界ってのは下へ行くほど湿度が高い。
あっという間にサビついてしまうからな。」
ターク「うん、わかった。」
父親捜しに出発しようとする翌日の朝、エッグラとチキーラはまるで自分の息子のように
タークの身の心配をしていた。
チキーラ「オレたちが作った魔界の地図も持っていけ、けっこう役に立つぞ。」
ターク「ありがと。」
エッグラ「おい、かんじんの世界樹の花は持ったか?」
ターク「ちゃんと持ってるよ、何度も確かめたんだから。」
エッグラ「リュックなんかに入れとくんじゃねえ、誰かに盗まれたらどうすんだ。」
ターク「そんなこと言っても隠す場所ないよ…。」
エッグラ「お前の背中の中に入れておくぞ、ここなら大丈夫だろ。」
エッグラはタークの背中のヒレの下に、世界樹の花を隠し入れた。
ターク「なんか背中がくすぐったいなぁ。」
エッグラ「ガマンしろ、ここなら誰にも盗まれる心配はない。」
ターク「うん。」
チキーラ「よし、準備OKだな。…では出発する前に、最後にもう一度だけおさらいだ。」
ターク「えぇ?また?もういいよ。」
エッグラ「バッキャロ、これが一番重要なことなんだぞ。いいからおさらいしろ。」
ターク「わかったよ…。」
チキーラ「よし、じゃいくぞ。…暗黒魔界での教訓・その一、その二、その三を復唱しろ。」
ターク「えーと…‘殺られる前に殺れ’‘誰も信用するな’‘相手が命乞いしても無視しろ’」
チキーラ「そうだ、それを絶対に忘れるなよ。魔界で生きていくための教訓だ。」
ターク「こんな非道な教訓なんて…。」
@
エッグラ「じゃあ次だボウズ、ゆうべ教えた最悪の事態に備えての教訓を言え。」
ターク「んーと…たしかシルバニアファミリーに出会ってしまったときの対策だっけ?」
エッグラ「そうだ、言ってみろ。」
ターク「‘シルバニアファミリーには見て見ぬフリをしろ。奴らとは決して闘おうとするな。
力の及ぶ限り逃げること。万が一追ってきたら、特殊な魔方陣で身を隠せ。’」
エッグラ「上出来だ。いいか、どんなことがあってもそれを絶対に絶対に、絶対に忘れるな。」
ターク「そんなに恐ろしい連中なの?」
チキーラ「当たり前だバカ、てめえどうして親父さんが魔界77層部で目撃記録があるって
もっと早く言わなかった。」
ターク「学校の先生が教えてくれたんだよ、でも本当にそこにいるかどうか分からないけど。」
エッグラ「まったく…77層部なんかに行くことを知ってれば、世界樹の花なんかやらなかったのによ。」
チキーラ「そうだな、特に父親のカインなんかに出会っちまったらえらいことになるぞ。」
ターク「…そのカインってさ、おじさんたちよりも強いの?」
エッグラ「あぁ、比べ物にならないほどな。実はおれたちも昔、一度だけカインに会ったことがある。」
ターク「へぇー。」
チキーラ「オレたちもかなり強いほうだが、ヤツに比べたら次元の違いを思い知らされる。
なにせカインを見ただけでオレたちは小便もらして腰をぬかした。あいつは
バケモノ中のバケモノだ。」
ターク「……」
エッグラとチキーラは二匹とも、暗黒魔界レベルでいえばアークデヴィルのクラスにまで
達している猛者だった。だがその彼らでさえ、カインの強さには遠く及ばない。
タークも子供にしてはかなりの腕前だったが、どこの世界でも上には上が存在するものだ。
※(本作での魔界の階級は大きく分けて5つに分類され、その順位と行動範囲は
以下の例を参照にしてください。)
階級順位(弱い順から、下へ行くほど強い。)
・デーモン……………魔界1〜40層部までが許容行動範囲
・デヴィル……………魔界1〜50層部までが許容行動範囲
・アークデヴィル……………魔界1〜60層部までが許容行動範囲
・ダミアンデヴィル…………魔界1〜70層部までが許容行動範囲
・幻魔デヴィル神……………魔界1〜80層部、及び魔界0層部が許容行動範囲
ちなみにタークは現在デヴィル中級クラス。
これは一階級レベルアップするだけでも、気の遠くなるような鍛錬と年月が要る。
支援 15
エッグラ「シルバニアファミリーは、カインを除いて全員がダミアンデヴィルのクラスだ。
おれやチキーラがコンビで闘えば、そこそこ闘えるかもしれんが、お前のようなガキが
1000匹たばになっても奴らには勝てっこねえ。」
ターク「ふーん…。じゃカインってのは?」
チキーラ「聞くまでもねえだろ、カインは幻魔デヴィル神のクラスに達している。このクラスの連中は
おとぎ話にも出てくるような伝説の悪魔だ。お前がよく読む絵本にも出てくるだろ。」
ターク「そっか…。」
エッグラ「ははは、どうした。怖くて行きたくなくなったか?」
ターク「こ、怖くなんかない!」
エッグラ「わかったわかった、とにかく油断するなよ。」
タークは旅に必要なものを入れたリュックを持ち、いよいよ出発することになった。
エッグラ「ボウズ、気をつけて行けよ。知らないモンスターが声かけてきても
ついていくんじゃないぞ。」
ターク「うん。」
^
チキーラ「アメあげるから来いなんて言われても、絶対についていくなよ。」
ターク「わかってるよ、じゃあ行ってくるね。」
エッグラ「おぉ、行ってこい。」
チキーラ「ちゃんと日記もつけるんだぞ。」
タークは出発しようとしたが、少し歩くといったんエッグラたちのほうを振り返った。
ターク「……」
エッグラ「?」
チキーラ「どうしたボウズ、忘れ物か?」
それは少し心配そうな表情で、タークは二匹に声をかけた。
支援 16
ターク「エッグラおじさん、チキーラおじさん。ぼく、父さんに会っても会えなくても……
夏休みが終わったら、またここに帰ってきてもいい?」
エッグラ「……あのバカ。」
チキーラ「バカヤロウ、てめえはまだガキなんだぞ。子供は家に帰るのが当たり前だ。」
ターク「ありがとう、必ず戻ってくるよ。…いってきまーす!」
タークは安心したように、リュックをしょって走っていった。
小走りにかけていく幼い魔少年の後姿を、エッグラとチキーラはタークが見えなくなるまで見送った。
エッグラ「ふん、あのガキ。ついこないだまで泣き虫の赤ん坊だったくせに。」
チキーラ「そうだな、あいついつの間にあんなに成長したんだろ。」
エッグラ「……しかしあいつ、ひとりで大丈夫かな。」
チキーラ「なんだエッグラ、おまえ心配してんのか。」
エッグラ「バカヤロ、誰があんなガキ…。お前こそ心配してんだろ。」
チキーラ「……」
エッグラ「……」
*
おっ
○月△日 (マグマ/くもり)
今日から夏休み。ぼくは夏休みを利用して お父さんをさがしに 出かけることになりました。
エッグラおじさんとチキーラおじさんは ちょっと口は悪いけど、とってもやさしいです。
世界樹の花というフシギな花をもらい、これでたとえお父さんが死んでいたとしても
生き返らせることができるそうです。
ぼくはもう 子供じゃない。 ひとりででも 冒険だってできるんだ。
第一章 〜夏のはじまり〜
完
(⌒ ヽ 、 (⌒ヽ ....,,....
( ,, ) ( ヽ ,,:;::'' ::::::: '::::,,
ゝ ヽ ('' ⌒) ,,:::::'':: :::::: :::: :: :::::: :'':::,,,
( `,, )(⌒ ,, ) ,,,::;;; ::;; :;;;:: :::::: ;;:::; :::: :;;;:: :::::: ;;'''::::...,,
ゝ ,) ........,,::::,,::: :;;::: ::::;;::: :;;;:;;::: ::::;;:: :::::: :: ::::;;; ;:;:::::: :::;;::
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
支援 17
\
とりあえず無事に一章終了・・
ほんと時間おくれてごめんあさい。
最初にいっておくと、この物語は第一章、第二章、第三章、第四章、エピローグ
という構成になってます。今日中に全部はまず無理ですな。
なんとか三日間くらいでアップをオワリにしたいと思います。
ところでいま支援書き込みしてるひとたちも「もうちょっと落ち着いてから・・・」とか
「連続投稿ですか」とか出てますか?
うにゅう代理人が登場
支援番号ふってる者です。
同じメッセージでますよ。
>>181 代理人?!(w
鬼畜兄貴久しぶり〜
でも、朝早いんで今夜はこれ以上支援できない…ごめん。
(あっちにも書いたけど)
>「連続投稿ですか」とか出てますか?
私の場合そのようなメッセージは出てきませんね・・・・
182さうですか・・まじでごめ
183規制されたと伝言を頼もうとしただけなのでOK。ごめんよ
184おちついてらっしゃるからですな 自分も落ち着こう
二章はわりと短いからこのまま続けようかな。ほんとたすかってます
眠いひとは無理しないでください
支援 18
頑張って〜♪
ぼくの夏休み PAGE4 第二章 〜旅はみち連れ〜
暗黒魔界27層部 南地区 暗黒海のほとり
ターク「えーと、この辺りだったと思うけど…。」
タークは魔界地図を見ながら、まず地下層へ行くために「次元空間の穴」を探していた。
魔界の地下へ行くためには、洞窟など通ってもたどり着かない。
なぜなら多層構造で成り立っている暗黒魔界は、層と層の間は亜空間になっているからだ。
そこで各層には必ずどこかに「次元空間の穴」というものがいくつかあり、この穴を利用して
上下に行き来することが可能である。
ターク「あれ…なんだよこの地図、このへんに次元空間の穴なんてどこにもないじゃんか。
まったくいい加減な地図書いて…。」
早くも海岸で行き詰ったターク、すると一匹の魔界のウミウシがぬらぬらと近づいてきた。
+
ウミウシ「オイ、子供がこんなとこで何してるシ。」
ターク「あ、ちょうどよかった、このへんに次元空間の穴ってありますか?下へ行きたいんですけど。」
ウミウシ「穴だシ?」
ターク「地図によるとこの辺りなんだけど…。」
ウミウシ「穴なら確かここの海の中に一つあるシ。」
ターク「海の中ですか?…まいったなぁ。」
ウミウシ「おい、ところでお前トシいくつシ。」
ターク「生後100年と六ヶ月ですけど。」
ウミウシ「み、未成年じゃないかシ。これより先の地下層は保護者がついてないと危険だシ。」
ターク「う、うん…でも行かなきゃならないんだ。」
ウミウシ「待て、おまえ家はどこシ。住所を言えシ。」
ターク「え、えーとその……さよなら!」
ウミウシ「あ!待つシ!」
タークは一目散に逃げ出し、海へ飛び込んだ。
ッザバァーーーン!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
暗黒海中 12メートル付近
ターク「ゴボゴボ…(危なかった…もうちょっとで家に連れ戻されるとこだった。)」
o . 。 o 。 o
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
タークは海中に潜り、泳いで次元空間の穴を探すことにした。
o . 。 o 。 o
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
ターク「ゴボゴボ…(けど海の中っていっても、どこに穴があるんだろ…。)」
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
o 。 。
魔界の海は人間界と違って、青ではなく赤である。
浅瀬のほうはウミウシやしびれくらげの棲みかであり、沖のほうにいくにつれ深くなり
突撃魚の群れや魔界のアメフラシなどが優雅に泳いでいる。
それは魔族にとって何とも美しい光景であり、タークもつい父親捜しを忘れてしまうほど
その大自然の美しさに見とれた。
o . 。 o 。 o
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
ターク「ゴボ…(うわぁー、きれいだなぁー。海の中って…。)」
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
o 。 。
支援 19
o 。 。 。 o
o 。 。
芝生のように敷き広げられた魔界のサンゴ。海溝のさけめから吹き出る泡。
波まかせにのんびりと泳ぐカメの群れ。小魚を捕らえようと、海底にワナを張っている魔界のエイ。
それはまるで、別世界のような美しい光景だった。
o . 。 o 。 o
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
o 。 。
ターク「(すごいや、海の中がこんなにきれいだとは思わなかった…。)」
o . 。 o 。 o
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
o 。 。
しばらく海中の景色に見とれていると、海の底に一匹のモンスターが沈んでいるのを見つけた。
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
o 。 。
ターク「(ありゃ、こんなとこに死体が沈んでるじゃないか…かわいそうに…って、あれ??)」
o . 。 o 。 o
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
なんとそのモンスターは、クラスメイトのアトラスだった。
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
o 。 。
ターク「(うわ!アトラスくんじゃないか…!ど、どうしてこんなとこに…。)」
アトラス「……ゴボッゴボッ…」
ターク「(よかった、まだ息があるぞ。しっかりして!いま陸へ上げるから!)」
o . 。 o 。 o
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
何とかまだ息のあるアトラスの手を取り、海上へ上がろうとしたターク。しかし…
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
o 。 。
ターク「ゴボッ…(な、なんだ…うわっ!)」
o . 。 o 。 o
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
海の底から巨大なウズが二匹を吸い込もうとしている。
ギュォォーーーー!
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
o 。 。
>
o 。 。
ターク「(や、やばい!吸い込まれる!)」
アトラス「ゴボッゴボッ…」
o . 。 o 。 o
o . . 。 o 。 o
タークは気を失っているアトラスの手を握りながら、海上へ向かって必死で水をかいて泳いだ。
しかしどんどん下へ下へと引きずりこまれていく。
ギュォォーーーー!
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
ターク「(ああああ!す、吸いこまれ…!うああああああああ!)」
アトラス「ゴボ…」
o . 。 o 。 o
o . . 。 o 。 o
ゴゴゴゴゴゴ…!
o . . 。 o 。 o
o 。 。 。 o
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
支援 20
それから一時間後―――――魔界35層部 海岸付近
ターク「……」
アトラス「……」
海岸の波に押し寄せられ、気を失っているタークとアトラスが海辺に横たわっていた。
ベビーサタンA「キー!なんだこりゃ。」
ベビーサタンB「どうした、キーキー!。」
すると二匹のベビーサタンが、海岸に倒れているタークとアトラスに気づいた。
ベビーサタンA「なんだ、ガキが二匹か。こいつら死んでるのか?」
ターク「……」
アトラス「……」
ベビーサタンB「キー。いや、死んではない。気を失ってるだけだ。」
ベビーサタンA「キーキー。じゃこいつら持って帰ろうぜ。バラモスさまのいけにえだ。」
ベビーサタンB「キー、そうするか。」
そのモンスターたちはタークとアトラスをかつぎ、自分たちのアジトへ戻っていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ぼくの夏休み PAGE5
バラモスの館 地下牢
ターク「……」
ターク「…う〜ん……ハッ!」
ようやく意識を取り戻したターク、だがさっそく難関が待ち受けていたようだ。
ここは魔界35層部の南地区、バラモスの館という盗賊のアジト。
実は先ほど吸い込まれた巨大なウズこそ、次元空間の穴だったのだ。
長い時間吸い込まれたため、27層部から一気に35層部まで下ってしまったのである。
ターク「な、なんだここは…。どうしてこんなとこに…。」
ターク「はっ、そうだ。アトラスくんは…!」
アトラス「うごぉぉぉ…。」
ターク「はーよかった、無事だったみたいだね。」
現在の状況を把握する前に、タークはとりあえずアトラスを起こすことにした。
ターク「ねぇアトラスくん、起きて。起きてよ。」
アトラス「むむ…。あ、あれ。タ、タ、タークくんがどどどどうしてここに…。」
ターク「落ち着いて、どうやらぼくたち誰かにつかまっちゃたみたいだよ。」
アトラス「えーと、お、お、おれたちつかまってししししまたのかぁぁぁ…。」
ターク「アトラスくん、きみは南地区の暗黒海に沈んでたんだよ。危うく溺れ死ぬところだったよ。
きみ確か伯父さんの田舎に遊びに行くって言ってたよね。あの海岸付近がそうだったのか。」
アトラス「う、う、うん。お、お、おれ、泳ぎのれれれ練習をしようとして、パパにダメって
言われてたのに、お、お、沖のほうまでおおお泳いでい、い、い、いこうとし、し、」
ターク「そっか、それで溺れちゃったんだね。たまたまぼくが近くまで来て良かったよ。」
アトラス「た、た、助けてくれてあ、あ、あ、ありがと。たたたタークくんもお、お、泳ぎに
き、き、きたの?」
ターク「ううん、ぼくは海の中の次元空間を探してたんだよ。でもきみを助けた直後に
海の底に巨大なウズが……あぁ!」
アトラス「ど、どどどどうしたんだい。」
ターク「そうか!あのウズが次元空間の穴だったんだ…。ってことはぼくたち今、魔界27層部よりも
もっと深くまで来てることになる…。」
アトラス「は、は、早く帰らないとパ、パ、パパに怒られちゃうんだな…。パ、パ、パパって
怒るともももものすごく怖いんだな。お、お、おれ泣いちゃうんだな。」
支援 21
_
するとそのとき、二匹のモンスターが地下牢の前にやってきた。
ベビーサタンA「へっへっへ、オマエら二匹は本日のバラモス様の夕食だ。」
ベビーサタンB「キーキー!ほんとは人間をいけにえに捧げたかったんだがな。お前らでガマンしてもらう。」
ターク「ねぇ、おじさんたち。ちょっと聞くけどここって何層部?」
ベビーサタンA「こ、こいつ話聞いてんのか。」
ターク「ぼくたち27層部から来たんだけど、ここってもっと深い地域だよね。」
ベビーサタンB「27層部だと?バカめ!この地域は35層部だ!しかもここは我らがバラモスさまのアジトだぞ!
オマエらはもう生きては帰れない!」
ターク「35層部か…けっこう深くまで来ちゃったけど、まだまだ先は長いなぁ。」
アトラス「パ、パ、パパに怒られるよぉぉぉ…勝手にさ、さ、35層部まで来ちゃったら…。」
ターク「そうだね、ぼくも先を急がなきゃならないし…。」
ベビーサタンA「ガキのくせにこんな層部まで来たことを後悔するんだな!ヒャハハハ!」
ベビーサタンB「さぁとっとと出ろ!夕食の時間だ!」
やがてタークとアトラスは、二匹のベビーサタンに連れられ、アジトの大広間に呼ばれた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
バラモスの館 大広間
ベビーサタンA「キーキー!バラモスさま、本日の夕食を連れてまいりました。」
ターク「あーあ、なんか面倒なことになっちゃったな…。」
アトラス「パパ…お、お、怒ってるだろうな…。」
クサリに繋がれたまま連れられてきたタークとアトラス。
そして大広間の中央に堂々と座る盗賊の親玉、名をバラモスという。
バラモス「おい、人間の子供を連れて来いと言ったはずだ。誰がモンスターのガキを
さらってこいと言った。」
ベビーサタンB「も、申し訳ありません。」
ベビーサタンA「バラモスさま、近ごろの人間界は天界の取り締まりが厳しくて、人間一人をさらって
くるのも命がけでありまして…。」
バラモス「いいわけなど聞きとうないわ。このバラモス、人間以外は口に合わん。」
ベビーサタンA「し、しかし…。」
ターク「(このモンスターが親分か…。けど変だな、こいつらそれほど強い妖気を感じないぞ。)」
タークはこのモンスターたちが、自分たちよりも弱いことはすでに感じ取っていた。
なぜならタークやアトラスはもともと強いゆえ、35層部の小悪党など相手にもならない。
ターク「ねぇおじさんたち、ぼくたち急いでるから帰らせてもらうね。」
バラモス「何だと?」
ベビーサタンA「キーキー!こいつバカじゃないか?自分たちの立場を理解してんのか!」
ターク「アトラスくん、いこう。」
アトラス「う、う、うん。行くんだな。」
バラモス「こ、このガキども!ワシらをバカにしておるのか!」
ターク「いや別に…。」
ベビーサタンA「キーキー!バカめ!その繋がれたクサリでどうやって逃げる気だ!逃げられるものなら
逃げてみろ!キー!」
ターク「あ、これ?(ギィィン!)」
タークは暗黒闘気を解放した。
――――ッヴァンン!!(バキン!)
ベビーサタンA「え…。」
バラモス「な、なに?!」
なんと一瞬にしてタークのクサリが破壊された。
ターク「魔法も施してないクサリに繋いでも意味がないよ…。こんなのいつでも外せるよ。」
支援 22
アトラス「じゃ、じゃ、じゃあおれも…。」
するとアトラスも、クサリを手で引きちぎった。
ッバキン!!
バラモス「な、な、なんだこのガキどもは?!何者だ貴様ら!」
ベビーサタンA「キー!こ、子供のくせに…!」
ベビーサタンB「キーキー!」
ターク「さぁ行こうアトラスくん。きみのパパも心配してるよ。」
アトラス「う、う、うん。」
バラモス「待て!何者か知らんが、ここから生きては帰さんぞ!…いでよ!我がしもべたち!」
バラモスの合図と同時に、いっせいに部下モンスターが出現した。
ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン!
ベビーサタンC「キーキー!覚悟しろ!」
ベビーサタンD「骨まで喰らい尽くしてやる!」
ベビーサタンE「あの世で後悔するんだな!」
ベビーサタンF「ガキどもめ!」
ベビーサタンG「ぶっ殺してやる!」
バラモス「フハハハハ!さすがに驚いたであろう!我が忠実な部下たちだ!」
ターク「(全部ベビーサタンじゃないか…。)」
<
アトラス「い、いち、にー、さん、えーと…よっつ、いつつ、ななつ…え、え、えーと…
ぜ、ぜぜぜ全部で七匹なんだな…。」
ターク「すごいじゃないかアトラスくん、今の計算合ってるよ。」
アトラス「ほ、ほ、ほんと?お、おおおれ、ちゃんと数かぞえられられ…。」
ターク「きっときみのパパが聞いたら喜ぶよ、ちゃんと数かぞえられたんだもん。」
アトラス「えへ、えへ、えへへ…。」
バラモス「……」
ベビーサタンA「こ、こいつら…!」
バラモス「も、もう許さんぞ!お前たち何をボサッとしておる!殺せ!殺すのだ!」
ベビーサタンB「キキー!」
ベビーサタンC「ギャァァーーー!」
魔界のベビーサタンたちは、タークたちにいっせいに襲い掛かってきた。しかし…
ターク「…やれやれ。(ギィィン!)」
タークはみなごろしの剣から闇の闘気弾を放った。
――――ッダン! ッダン!ッダン!ッダン!ッダン!ッダン!ッダン!
支援 23
ベビーサタンA「ギエーーー!」
ベビーサタンB「グァ!」
ベビーサタンC「ゲェェーー!」
ベビーサタンD「ガッ…!」
ベビーサタンE「ガァッ!」
ベビーサタンF「グォォ…!」
ベビーサタンG「ゲボッ…!」
七つの闘気弾は全てのベビーサタンに命中、あっという間に一蹴した。
バラモス「な、なんだと…?!」
ターク「暗黒魔界の教訓その一、‘殺られる前に殺れ’」
バラモス「こんなバカな…!ワ、ワシの部下たちが一瞬にして…!魔界のベビーサタンたちだぞ!」
ターク「なんてね、実はチカラを制御したからみんな死んでないよ。気絶してるだけだと思う。」
バラモス「い、いったい貴様は何者だ…!」
ターク「おじさん、あんたデヴィルクラスにも達してないね。ひょっとしてデーモン以下?」
バラモス「な、何だと?!このバラモスさまに向かって…!」
.
ターク「35層部の住人のくせに、この程度の力で驚くなんて…(ギィィン!)」
バラモス「む!な、何をする気だ…!」
タークはさらに暗黒闘気を解放した。
ッギィィーーーン!
バラモス「こ、こんな…!うぐぉぉぉおお!こんなバカな闘気があるか!ガキのくせに…!」
ターク「……(ギギギィィーーン!)」
タークの暗黒闘気でカベや天井が崩れ始めた。
ッズガン! ゴゴゴゴゴゴ…!
バラモス「…わ、わかった!もうやめてくれ!ワシの負けだ!た、頼むから命だけは…!」
ターク「暗黒魔界の教訓その三。‘相手が命乞いしても無視しろ’」
バラモス「そ、そんな…!」
タークはバラモスに向けて、みなごろしの剣を投げつけた。
―――――ッガォォン!!(ザンッ!)
バラモス「ひえええええええ!!」
ターク「あ、外れた。」
バラモス「え?」
どうやら剣は外れたようだ。いや、ワザと外したようだ。
投げつけられた剣はバラモスの顔を横切り、後ろのカベに突き刺さっている。
バラモス「……!」
ターク「ねぇ、もういいでしょ?ぼくたち急いでるからさ。」
バラモス「は、は、はい…!どどどどうぞお気をつけて…!」
すでに恐怖で固まってしまったバラモスをよそに、タークとアトラスはアジトから出て行った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
支援 24
ぼくの夏休み PAGE6
魔界35層部 南地区
ターク「えーと、この森の先を抜けていけばいいの?」
バラモス「はい、このナギラの森の奥深くに次元空間の穴がありまさ。その穴は
上へ通じてるんで、27層部へ帰れると思います。」
ターク「ありがと、おじさんけっこういいモンスターだったんだね。」
バラモス「まったく坊ちゃんたちも人が悪い、デヴィルクラスならそう言ってくれれば…。」
ターク「アトラスくんも強いよ、なんたってアスタロスさんの息子だもんね。」
アトラス「う、う、うん。パ、パパ怒るとすごくこ、こ、怖いけど…。」
バラモス「ま、まさかアスタロス公爵?!そのガキ…いやご子息でしたか!
(ゲゲ…なんでこんなとこにバケモノの息子がいるんだ…)」
ターク「じゃあね、おじさん。案内してくれてありがと。」
バラモス「お気をつけてー。」
バラモスの案内のもと、タークとアトラスはナギラの森へ入っていった。
バラモス「(くっくっく、所詮はガキどもよ。まんまと引っかかりおったわ…。その穴が
どこへ通じてるのかも知らずに…。)」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ナギラの森にて
ターク「アトラスくん、急ごう。早いとこきみを27層部まで送らないと。」
アトラス「う、う、うん。ででででも、たしかタタタークくんは、もっと下へい、い、い、
行きたかったんじゃなななななかったんだっけ…。」
ターク「うん、でもきみを無事に27層部へ帰してあげないと。」
アトラス「や、や、やさしいんだね。タタタークくんって…。」
ターク「だって友達じゃないか。当然のことだよ。」
アトラス「え、えへへ。」
だがタークは森を歩きながら、エッグラとチキーラの教訓を思い出した。
「殺られる前に殺れ」「相手が命乞いしても無視しろ」
ターク「(けっきょく教訓を守れなかったなぁ…。でも、きっとこれでいいんだ。…ぼくは
優秀な魔族になれなくたって…。)」
アトラス「タタタークくん、どどどうしたの?」
ターク「い、いや何でもないよ。」
アトラス「ももも森の中はこ、こ、こわいんだな。なななんか出てきそうなんだな…。」
ターク「あれ?そういや瘴気がうすくなってきたなぁ。アトラスくんちょっと止まって。
いま何時か調べてみる。」
アトラス「う、う、うん。」
ターク「えーと、確かあれを持ってきたと思ったけど…。あった、これだ。」
タークはリュックの中をまさぐり、闇時計のアイテムを取り出した。
そしてそのアイテムを魔界の空へ向け、現在の時間を計ってみた。
ターク「んーと……ありゃ、人間界の太陽がすごく近くまできてるや。
空気中の瘴気も薄くなるわけだ。」
アトラス「どどどどうりでカラダが、だだだダルくなるとお、お、思ったんだな…。」
魔界には太陽はないが、いちおう朝、昼、夜があり、これは人間界の太陽の位置によって定められる。
闇時計というアイテムを魔界の空へ向け、コンパスの針のようなもので太陽の位置を測定する。
太陽が遠ざかると、それは魔界の夜を示す意味があり、太陽が近づくと昼を示す。
夜は魔族にとって活動時間となるが、昼間は見えない太陽のエネルギーが身体を蝕む。
デヴィルクラス以上の魔物は、この時間に逆らうことはできず、強くなればなるほど
太陽とは‘神が近づく時間帯’と呼ばれ、恐れるようになる。
ターク「しかたないや、ここで野宿しよう。少し寝てから出発だ。」
アトラス「キャ、キャキャキャンプだね。おおおおれ、キャンプってすすす好きなんだな。」
ターク「そうだ、お弁当もってきたんだった。アトラスくんも食べなよ。」
アトラス「あ、あ、あ、ありがと。ちょちょうど、おおなかすいてたんだな…。」
/
タークとアトラスは森の木のそばにフロシキをしき、座って弁当を食べ始めた。
ターク「ははは、なんか遠足に来た感じだね。…今ごろベリアルくんやバズも旅行に行ってるのかなぁ。」
アトラス「もぐもぐ…ととところで、タ、タークくんはどこへいいい行こうとしてるの?」
ターク「うん、実は魔界77層部に行くんだ。ぼくの父さんを捜しに…。」
アトラス「げぼっ!…ごほっ、ごほっ…!」
ターク「だいじょうぶ?あわてて食べるからだよ。」
アトラス「ちょちょちょっと、いいいい今なんて言ったの?」
ターク「77層部だよ、行くのは初めてだけどね。」
アトラス「パ、パ、パ、パパがよく言ってたんだな。77層部は、しるばにあふぁみりぃという
怖い怖いモモモモンスターの家族がいいいいいるって…。」
ターク「わかってるよ、でももう決めたんだ。必ず父さんを見つけて世界樹の花を…。」
アトラス「タタタタークくんが、いくら強くても、カカカカインはちょっと相手が
わわわ悪すぎるんだな。き、き、きっと殺されるんだな。そ、そ、そしたらおれ
大事な友達がいいいいなくなっちゃうんだな。た、た、たぶん泣くんだな。」
ターク「だいじょうぶだよ、見つからないようにうまく行くよ。」
アトラス「ででででも…。」
ターク「さぁ、少し寝よう。ぼくも歩き疲れちゃったし、きみも少し休んだほうがいい。」
アトラス「う、う、うん。じゃあ、おおおおやすみなさい…。」
支援 25
紫色の魔界の空には、瘴気はしばらく薄れ、しばし暗黒魔界の静かなひとときが流れた。
ひょんなところで出会った友人アトラス。タークはひとまず彼を元の27層部へ
無事に送ってから、旅を続けようと思った。
だがこれは、そうもいかないことになってしまう。なぜならバラモスが教えた次元空間の穴は
上ではなく、さらに下へ落ちていく通路だったのだ。つまりタークはまんまと騙されたわけだ。
暗黒魔界の教訓その二、‘誰も信用するな’
あれほど口うるさく言われていた教訓は一つも守れることなく、アトラスまで巻き込むことになる。
この翌日、彼ら二匹は35層部から一気に62層部まで落ちていくことになる。
しかし旅は道連れ、苦難あれば友情もあり。親の目を盗んで冒険というのも、誰しも経験あるだろう。
溺れかけたアトラスを助けたことによって、彼らの間には友情の絆が深まったのだ。
"
。 ○月□日 (くもり/火山)
o
ヾッ
ヾjツ 。 今日ぼくは ともだちのアトラスくんに出会った。
,ッ ヾjン おぼれかけたアトラスくんを助け、変な盗賊たちと少しだけ遊んだ。
ヾソ ヾjツ 海はとってもきれいで、いろんなサカナがたくさんいました。
ヾjツ ヾjソ' o
ヾjソ ヾjツ 盗賊のおやぶんは とってもいいおじさんで 道案内までしてくれた。
ヾツ ヾッ ヾjツ' 。明日になったら アトラスくんを送り ぼくはまた旅を続けよう。
ヾjツ ヾv,jツ' 35層部まで来たけど、先はまだまだ長いなぁ。
ヾjソ' ヾjツ'
ヾjツ' ヾjツ' _
ヾjソ' ヾjソ' ゚ rヘ__}ン´く でもあきらめないぞ きっと父さんに会うんだ。
ヾjツ' ヾjツ' /´ ,トー-` そして一緒に遊ぶんだ。
ヾjソ' ヾjソ' /oヽ ノフ
ヾiツ' ヾjツ' `7ヘ>
ヾi゙' ヾjツ'
ヾi゙'
第二章 〜旅はみち連れ〜
完
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どうだろうか。この物語。今日はここまでにしませう・・・
おつかれさまでした ありがとお
了解しました。
一気に読みたいので、最後までいってから全部読みます。
その後、必ず感想書きます。
Kさん、乙です。
また支援するんで、続きの日時も教えてください。
今日はいい夢が見れそうです。
ありがとう。
今度もお願いしますね。
228 :
K:04/08/09 08:59 ID:wdLf5YcW
ぼくの夏休み PAGE7 第三章 〜小さな悪魔のパーティー〜
そして翌日、目を覚ましたタークとアトラスは再び歩き続け、ようやく次の
次元空間の穴を見つけた。
ターク「やっと着いたよアトラスくん、この穴がきっとそうだよ。」
アトラス「こここここの穴に入れば、も、も、元の27層部に?」
ターク「うん、昨日の盗賊のおじさんがそう言ってたでしょ。」
アトラス「じゃ、じゃ、じゃあここで、タタタタークくんとは、お、お、お別れなんだな。」
ターク「そうだね、ぼくは先を急ぐよ。きみは早いとこパパの元へ帰ったほうがいい。」
だがその森の影から、尾行していたバラモスたちがその様子を見ていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
バラモス「くっくっく…。よしお前たち、合図をしたら一斉に飛び出すぞ。」
ベビーサタンA「キー!がってんでさ!」
ベビーサタンB「キーキー!二匹ともまとめて突き落としてやる!」
229 :
K:04/08/09 09:00 ID:wdLf5YcW
バラモス「よし!今だ!」
バラモスたちは一斉にタークたちに襲い掛かった。
ターク「ん?」
バラモス「バカめ!地獄へ落ちろ!」
ターク「あ!おじさんは…!」
ドンッ!ドンッ!
ターク「うわああああ!」
アトラス「ああああああ!」
なんとタークとアトラスは、二匹とも穴に落とされてしまった。
ッギュォォォ!!
バラモス「くっくっく…。バカなガキどもよ、簡単に信用するからこういうことになるのだ。」
ベビーサタンA「キー!これでガキどもは魔界の猛者どもに喰われる!」
ベビーサタンB「キーキー!いかにデヴィルクラスといえど、シルバニアファミリーのような猛者には
かないっこない!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
230 :
K:04/08/09 09:07 ID:wdLf5YcW
ぼくの夏休み PAGE8
魔界62層部 中央区
シュゥゥゥ…! ドタ!ドタ!
ターク「うあ!あいたたた…。」
アトラス「うごぉぉぉ…。」
バラモスたちに突き落とされ、タークとアトラスは新たな層へ落ちてきた。
ターク「な、何だよあのおじさん…。ぼくまで突き落として…。」
アトラス「だ、だ、だいじょうぶ?タタタークくん。」
ターク「うん、何とかね。…あーあ、また27層部に戻っちゃったのか…。」
だがそこは瘴気の濃さがケタ違いであり、そこらじゅうから殺気が漂っていた。
ターク「な、なんだここ…。おかしいぞ、27層部はこんなに瘴気は濃くないはず。」
231 :
K:04/08/09 09:08 ID:wdLf5YcW
アトラス「こ、こ、怖いよぅ…。」
ターク「ちょっと待って、この辺りの瘴気の濃さを計ってみるよ。」
タークは地面に魔方陣を描き、その中央に炎を召喚して
空気中の瘴気の濃さを計ってみることにした。
ターク「…なんだかイヤな予感がするなぁ。」
魔界の「瘴気」とは、モンスターの身体から発する一酸化炭素を指す。
人間の発する息が二酸化炭素だとすれば、魔族の身体から発するのが一酸化炭素である。
魔界ではこれを「瘴気」と呼ぶ。
ゆえに抵抗力のない人間がいったん魔界へ来れば、たちまち一酸化炭素中毒を起こし
5分と持たずに死亡する。そして力の強い魔族ほど発する瘴気の濃度が高くなり、
その地域がどれほど危険かを知らせる警告でもある。
ターク「アトラスくん、できるだけ暗黒闘気を抑えたほうがいい。どうもこの辺りは危険な気がする。
そこらじゅうのモンスターの殺気を感じるよ。」
アトラス「う、う、うん…わわわかった。」
232 :
K:04/08/09 09:21 ID:wdLf5YcW
瘴気の濃さを計るアイテムはいくつかあるが、アイテムがない場合は自らの魔法で計るしかない。
まず簡単な魔方陣を描き、そしてその中央に召喚した炎の色によって、瘴気の濃度を計る。
ターク「えーと……げげ!紫色の炎になってる!ってことはここ27層部なんかじゃないよ!
50…いや、60層部に近い地域だ!」
アトラス「ろろろろろくじゅう層部…ってことは、60引くことの27は…えーと、えーと…。」
ターク「しまった…!あの盗賊にまんまと騙された。」
アトラス「ど、ど、どんどん家からとととと遠く離れていくんだな。ももももう帰れないんだな。」
ターク「……」
アトラス「き、き、きっとここは、シルバニアファミリーのテリトリーだな。お、お、お、おれも
きっと殺されちゃうんだな。」
ターク「ごめん…アトラスくん、ぼくがあいつを信用しなければ…。」
アトラス「タ、タ、タークくんのせいじゃないんだな。き、き、きみはおれをたたた助けてくれた
友達なんだな。」
ターク「……」
233 :
K:04/08/09 09:22 ID:wdLf5YcW
するとそのとき、森の奥からかすかに声が聞こえたような気がした。
ターク「?!…アトラスくん、今なにか聞こえなかった?」
アトラス「い、い、いや。何も。」
ターク「シッ…。やっぱり何か聞こえる…。」
それは息使いのような音であり、今にも死んでしまいそうなか細い音だった。
タークの聴力は通常のモンスターの30倍はあり、遠く離れた軍隊アリの群れの足音まで
聞き分けるほどの聴力である。
ターク「アトラスくん!こっちだよ!来て!」
アトラス「あ、あ、あ、うん。」
タークとアトラスは森の奥へ入り、音のするほうへ行ってみた。すると…
ターク「わわ!これは…!」
アトラス「あぁぁぁぁ…。」
なんと森の奥で、クラスメイトのベリアルとバズズが倒れているのを見つけた。
彼ら二匹は血だらけで倒れており、今にも瘴気が絶えようとしていた。
234 :
K:04/08/09 09:28 ID:wdLf5YcW
ターク「ベリアルくんとバズじゃないか!ど、どうしてこんなとこに…!」
ベリアル「……」
バズズ「……」
ターク「と、とにかく早く手当てしないと…!」
間もなくタークは、持ってきた世界樹のしずくを彼ら二匹に施し、何とか命はとりとめた。
なぜ彼らが親と一緒にいないで、こんな62層部のような危険区域にいたのか、そして誰にやられたのか。
やがて意識を取り戻したベリアルとバズズだが、彼らのその理由といきさつは、
戦慄を予感させるような展開となる…。
ベリアル「…う〜ん…。」
バズズ「うぅ…。」
ターク「よかった、気がついたみたいだね。」
ベリアル「ん…?あれ?タークか?!お前どうしてここに…!」
バズズ「ターク?あんた何してんのよこんなとこで…。」
ターク「こっちが聞きたいよ、きみたち危うく死んじゃうとこだったよ。」
ベリアル「なんだアトラスもいるじゃねえか。」
アトラス「ご、ご、ご、ごめんなさい。お、お、おれは何も…。」
バズズ「何いきなりあやまってんのよバカ、何もしないわよ。」
235 :
K:04/08/09 09:29 ID:wdLf5YcW
ターク「ねぇ、いったい何があったんだい?誰にやられたの?」
ベリアル「……」
バズズ「……」
だが二匹は黙ったまま、何も話そうとはしなかった。
ターク「ここって何層部?かなり深いとこだよね。」
ベリアル「62層部だよ。なんだお前、そんなことも知らないでここへ来たのか。」
ターク「62層部…。やっぱり下へ来ちゃったのか。アトラスくんを帰そうと思ったのに…。」
バズズ「だからあんたたちどうしてここにいるのさ。ワケを話してよ。」
ターク「うん、ちょっといろいろあってね…。」
ベリアル「?」
やがてタークは、ベリアルたちにこれまでのいきさつを話した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
236 :
K:04/08/09 09:46 ID:wdLf5YcW
ベリアル「なるほどな、盗賊の小悪党にまんまと騙されたってわけか。」
ターク「ははは、まいったよ。」
バズズ「バカね、魔界の教訓は学校でも習ったでしょ。守らないからそういう目に逢うんじゃないの。」
ターク「ぼくは構わないんだ、どうせ地下層を目指してたからさ。それよりもアトラスくんまで
巻き込んじゃったのが…。」
ベリアル「こいつはバカだから、そんなに気にしちゃいねえよ。」
アトラス「えへ、えへ、えへ。」
ターク「ねぇ、ところできみたちはどうして死にかけてたんだい。」
ベリアル「そ、それがな…。」
バズズ「……」
ターク「まさかシルバニアファミリーに出会ったのかい?」
ベリアル「い、いや、そうじゃないんだ…。」
ターク「え?」
バズズ「ターク、あたしたちがシルバニアファミリーに出会ったとしたら、今こうして無事で
いるわけないでしょ。奴ら魂まで破壊するバケモノなのよ。」
ターク「まぁ確かに…。」
ベリアル「わかった、話してやるよ。…お前には借りができちまったしな。助けてくれて
ありがとよ。」
バズズ「ふん、ありがと。」
ターク「いいよ礼なんてさ。」
237 :
K:04/08/09 09:48 ID:wdLf5YcW
そしてベリアルはいきさつを話し始めようとした。…だがなぜかタークに対して
話しづらそうな様子だ。いったい何があったのだろうか。
ベリアル「…あ、あのなターク。お前いま、世界樹の花とかいうの持ってるか?」
ターク「!よく分かったね。確かに持ってるよ。」
ベリアル「持っているのなら、今すぐそれを捨てろ…。悪いこと言わねえからさ。」
ターク「えぇ?」
バズズ「ターク、あんた知らないだろうけど、今すっごいヤバイ立場になってるのよ。」
ターク「ちょ、ちょっと待って…。落ち着いて最初から話してよ。何のことだかさっぱりだ。」
ベリアル「オレたちがここに来たのは宿題のためだったんだが、あのクソ野郎が来て…。」
ターク「?」
ベリアルはようやくいきさつを話し始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
238 :
K:04/08/09 09:49 ID:wdLf5YcW
ぼくの夏休み PAGE9
――――これより時を戻し、ベリアルとバズズのエピソードに移す――――
魔界62層部 中央地区
ベリアル「おいバズ、もう少し早く歩けよ。」
バズズ「ちょっと待ってよ…あたし歩き疲れたし、お腹すいちゃった。」
ベリアル「文句しか言えないのかお前は。人間100人喰わなきゃならないんだろ。」
魔界62層部の中央区、ベリアルとバズズが森の中をさまよい歩いていたときのこと。
バズズ「あーあ、軽々しくあんな目標立てなきゃ、今ごろパパと一緒に魔界一周旅行だったのにぃ。」
ベリアル「お前だけじゃねえよ、オレだって天界の使徒を一人でもぶっ殺さなきゃ宿題ができない。」
バズズ「…どうでもいいけどさ、ほんとそれ確かな情報なんでしょうね。」
ベリアル「それって?」
バズズ「だからー、あんた言ってたでしょ。天界の使徒が四人も魔界に降臨してきたって。」
ベリアル「オレんちのパパがそう言ってたんだから間違いねえよ、魔界の上層部の
雑魚モンスターたちが一斉に下へ逃げ出してきたんだとよ。天界の連中が
やってきたって証拠さ。」
239 :
K:04/08/09 10:00 ID:wdLf5YcW
バズズ「けどどうしていきなり使徒が四人も魔界に来るわけ?誰か何か悪さでもしたのかしら。」
ベリアル「知らねえよ、でも何か理由があるんだろうな。奴らが自ら魔界に来るなんて確かに
ちょっと妙だ。まぁオレにとっては好都合ってわけだが…。」
バズズ「降臨してきた使徒をあんたがぶっ殺したとして、あたしには何の利点があるっていうのよ。
あたしの宿題は人間を喰うことなのよ。」
ベリアル「頭つかえよバズ、使徒を皆殺しにすれば人間界を自由に行き来できるんだぞ。だいたい
天界のやつらって、人間界の取り締まりを強化することしかしない能無し野郎どもだ。
だからいったん使徒どもが魔界に来れば、人間界の包囲網に穴があく。そうすりゃ
お前も人間を喰い放題ってわけさ。」
バズズ「なるほどね…。」
ベリアル「オレに協力することでお前も宿題ができるし、オレも宿題ができるってわけだ。
だからブツクサ言わないで天界の使徒を捜すことに協力しろよ。」
バズズ「…あんたまたうまいこと言って、あたしを利用しようとしてんじゃないでしょうね。」
ベリアル「ち、ちげーよ!これは本当にウソじゃないんだ!天界の使徒は間違いなく来てる!」
バズズ「わかったわよ。その代わりあんた、使徒を倒すのは自分でやりなさいよ。あたしは
手を貸さないからね。」
240 :
K:04/08/09 10:01 ID:wdLf5YcW
ベリアル「い、いいぜ。オレ一匹で充分だ。や、奴らなんかへっちゃらさ。」
バズズ「舌が回ってないじゃん。」
ベリアル「う、うるせえよ!いいから早く行くぞ!」
バズズ「あーあ、もうやんなっちゃうな…。」
彼ら二匹は冒頭で紹介したベリアルとバズズである。
いつも学校でアトラスをいじめたり、しょっちゅう悪さをする小悪魔だ。
彼らもまた宿題をするために親の目を盗み、魔界に降臨してきた天界の部隊を探していた。
なぜ天界の使徒たちが魔界へ突然やってくるのか、その理由はひとまず置いておこう。
ともかくこの二匹は今からこの62層部にて、まずい人物に出会ってしまう。
あいにくシルバニアファミリーではないが、彼らにとって厄介な人物であることには違いないだろう。
ベリアル「おいバズ、止まれ。…誰かこっちに来る。」
バズズ「え?」
気配を察したベリアルは、バズズの手を引いて足を止めた。
すると森の中から一人の人物が……
241 :
K:04/08/09 10:08 ID:wdLf5YcW
プサン「おやおや、子供がこんなところで何を…。」
バズズ「?あんた誰?」
ベリアル「……」
その男は人間ではないということはすぐに分かったが、どう考えても不自然な容姿が目に付く。
スーツに蝶ネクタイ、物腰の良い感じの紳士的な人物。魔界でこのような格好をしているのは不自然だ。
プサン「おっと、私は怪しい者ではありません。ただ道に迷っただけです。」
バズズ「あっそ、それはお気の毒。じゃおじさん、ついでに聞くけど、あんたこの辺りで
天界の使徒を見かけなかった?」
プサン「テンカイのシト?」
バズズ「そうよ、聞こえたでしょ。テンカイのシトよ。」
ベリアル「おいバズ…気をつけろ。このオヤジ魔物の匂いがしないぞ。」
バズズ「え?」
ベリアル「神父くせえ匂いがする、こいつまさか天界の差し金じゃないか…。」
バズズ「何ですって…?」
プサン「どうかしましたか。」
242 :
K:04/08/09 10:09 ID:wdLf5YcW
ベリアルは怪しい気配を察したのか、暗黒闘気を解放した。
――――ッヴァシュゥゥ!!
ベリアル「おいオッサン、お前何者だ。天界の使徒か?」
プサン「わわ!何をなさるんですかボウヤたち!私はただ道を尋ねようと…!」
ベリアル「バズ、手を出すなよ。早くも天界の使徒を一人見つけた。」
バズズ「手早く済ませてよね、使徒って一人じゃないんだからさ。きっと他にも仲間がいるわ。」
ベリアル「任せとけ、このオッサンをぶちのめして拷問してやる。」
プサン「ひえええ!な、なんて恐ろしいボウヤだ!怖いいいいい!」
ベリアル「へへへ、子供だからって甘く見るなよ…(ギィィン!)」
ベリアルはタークと同等の強さを持ち、正確に言えばわずかにベリアルのほうが上である。
暗黒魔法と呪いの召喚術を駆使し、誘惑の瞳を使う魔少年だ。
間もなくデヴィル中級から上級へ昇進しようとしているベリアル、その才能は
魔界の皇太子・ベルゼバブのお墨付き。
だが この闘いは、相手が悪すぎた…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
243 :
K:04/08/09 10:13 ID:wdLf5YcW
ベリアル「ぐぅぅ…ち、ちくしょう!何だこのオッサンは…!」
バズズ「ゲホッ!ゲホッ!…な、何なのこの強さは…!っていうかどうしてあたしまで…。」
プサン「いけませんよ、子供がそんなオイタをしては。私もつい本気になってしまったじゃ
ないですか。」
なんとその男はベリアルとバズズを一蹴し、まるで相手にもならなかった。
ベリアル「く、くそ…!お、おかしい…天界の使徒がこんなバカみたいに強いはずないぞ…!」
プサン「はっはっは、ボウヤ。誰が使徒ですって?私は天界の使徒ではなく、天界の司令官ですよ。」
ベリアル「な、なに?!」
バズズ「…!」
その男はそう言うと、自ら正体を現した。
ッシュヴァァァーーーー!
ベリアル「こ、これは…!」
バズズ「な、何なのこいつ…?!」
それは巨大な翼を広げた竜であり、神の闘気を放つ天界のドラゴンだった。
244 :
K:04/08/09 10:19 ID:wdLf5YcW
竜「愚かなる悪魔どもよ、私は全てを統治する者…。全能なる神のしもべであり、
使徒は私の部下である。現在人間界の管理人として任務に就く者でもある。」
ベリアル「ぐっ…!そ、そうか!わかったぞ…!お前がウワサの天界の竜だな…!
タークの父親を殺したのもお前…!」
バズズ「!」
竜「いかにもその通り、進化の秘法なる禁断の術を使用した魔物をこの手で葬った。」
ベリアル「うわ!な、なにすんだこいつ!放せ…!」
その竜はベリアルをつかむと、その鋭いツメから聖なる神の炎を召喚した。
ッゴァァァ!!
ベリアル「ぐああああああ!!あ、熱い…!や、やめろ…!」
バズズ「ベリアル…!」
竜「悪魔の子よ、貴様に一つ訊きたいことがある。」
ベリアル「や、やめろ…!放せ!このクソオヤジめ…!」
竜「全能なる神が不吉な予言をされた。私が殺したその魔物が、近いうち復活するそうだ。
そう、世界樹の花を使って…。」
ベリアル「な、何いってやがんだこいつは…!」
竜「その魔物には息子が一人いるそうだ、名をタークという。」
ベリアル「!」
245 :
K:04/08/09 10:20 ID:wdLf5YcW
竜「おそらく息子が父親を復活させようとしているのだろう、私はそれを阻止するために
魔界へ来たのだ。途中で部下とはぐれてしまったが…。」
ベリアル「な、何をワケのわからないこと言ってんだこいつ…!」
竜「答えるのだ、悪魔の子よ。息子のタークはどこにいる。」
ベリアル「し、知るかボケ!」
竜「…自分の立場がまだわかってないようだな。(キィィン!)」
竜はさらに聖なる炎を強めた。
ッゴォァァァ!!
ベリアル「うぐああああああああ!!」
バズズ「ベリアル!」
竜「早く答えないと神の炎で焼き殺し、二度と復活できないよう地獄へ落とす。」
ベリアル「ち、ちくしょぅ…!このオレがこんなやつに…!」
だがそのとき、辺りの瘴気が突然濃くなってきた。
ゴゴゴゴゴ…!
竜「むぅ…しまった、こんなときに…。(まずい、この瘴気はシルバニアファミリーだな…)」
246 :
K:04/08/09 10:27 ID:wdLf5YcW
ベリアル「は、放せって言ってんだろてめえ…!」
竜「(やむを得ん、これ以上ここで時間を食うわけにもいかん…。部下たちとも合流せねば
ならんしな…。)」
竜はベリアルを放し、翼を広げて一目散に飛び去ってしまった。
シュゥゥゥ…!――――ッドン!!
ベリアル「うぅ…」
力尽きたベリアルはその場に倒れてしまった。
バズズ「ぐっ…!ベ、ベリアル…!」
ベリアル「……」
バズズ「ちょ、ちょっと…!あんたくたばったの?!」
247 :
K:04/08/09 10:28 ID:wdLf5YcW
負傷したバズズが這うようにしてベリアルのそばへ行ったが、ベリアルはすでに気を失っている。
バズズ「ベ、ベリ…アル…!」
やがてバズズも気を失い、共に地に伏せてしまった。
バズズ「……」
ベリアル「……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
248 :
K:04/08/09 10:33 ID:wdLf5YcW
ぼくの夏休み PAGE10
ベリアル「まぁそういうわけでだな…。」
ターク「そうか、その竜がぼくの父さんを殺した天界の竜…。」
バズズ「ターク、あのドラゴンかなり強いわよ。あたしたち二匹がかりでもかなわなかったんだから。」
ターク「……」
ベリアル「シルバニアファミリーほどバケモノじゃないとは思うけどよ、強いことには
変わりない。…くやしいけど、今のオレでもあのドラゴンには勝てねえ。」
ターク「……」
バズズ「…ちょっとターク、あんた何考えてんのよ。」
ターク「別に。」
ベリアル「親父さんを生き返らせるためにここへ来たっつったよな。けど敵はシルバニア
ファミリーだけじゃないぞ。天界の竜までやってきたんだ。」
しかしタークは少しも動じることなく、決心を曲げようとはしなかった。
ターク「…ベリアルくんさ、きみはパパがいなくなったらどう思う?」
ベリアル「?」
249 :
K:04/08/09 10:34 ID:wdLf5YcW
ターク「バズ、きみもパパやママがいなかったらどうする。生まれたときからずっと…。」
バズズ「いきなり何の話よ。」
ターク「ぼくは生まれたときから父さんと会ったこともないし、顔さえ知らない。」
ベリアル「……」
ターク「息子が親に会いたいことに、動機も理由もいらないよ。…ぼくにとっては、これはもう
夏休みの宿題なんかじゃないんだ。自分のためなんだよ…。」
バズズ「ターク…。」
アトラス「う、う、うん。タタタタークくんは、もうりっぱなおおおお大人なんだな。」
ターク「少しくらい怖いからって、ぼくは逃げたりしないよ。先生に怒られようと、ぼくは必ず
父さんに会う。そしてきっと生き返らせてみせる…。」
ベリアル「……」
バズズ「……」
やがて他の三匹も心を動かされたのか、決心がついたようだ。
250 :
K:04/08/09 10:35 ID:wdLf5YcW
ベリアル「ターク、お前けっこう言うじゃないか。少し見直したぞ。」
バズズ「そ、そうよね。あたしだってパズス神の一人娘だもん。このくらいのことで
おじけずくわけにいかないわ。」
アトラス「お、お、おれも、もう家に帰りたいなんて、い、い、い、言わないんだな。
タ、タ、タークくんはおおおおれを助けてくれたんだな。だ、だ、だから、今度は
お、お、おれがタークくんを、た、た、助ける番なんだな。」
ターク「みんな…。」
ベリアル「よぉし、オレたち今から悪のパーティーを組もうぜ。」
バズズ「かっこいい!正義の輩を倒す悪のヒーローね!」
アトラス「パパパパパーティー大好きなんだな。お、お、おれケーキが大好物なんだな。」
バズズ「バカ、お約束のボケかまさないで。」
ターク「ははは…。」
子供というのは、絵本などに出てくるようなヒーローを物まねて遊ぼうとするもの。
誰しも幼い頃は、強いものや格好良いものにあこがれる。
251 :
K:04/08/09 10:39 ID:wdLf5YcW
ベリアル「よっしゃ、オレ主役だ!正義の勇者を倒す悪のリーダーだ!」
バズズ「あ!ずるい!主役はあたしよ!」
ベリアル「何いってんだ、お前メスだろーが。こういうのは主役は男って決まってんだよ。
リーダーの下にいるのが戦士、僧侶、魔法使いだろ。」
バズズ「じゃあいいもん、あたしお姫さまの役ー!」
ベリアル「パーティーに姫なんていたっけか?」
バズズ「いいの、お姫さまの僧侶だもん。」
アトラス「じゃじゃじゃあ、お、お、お、おれは何の役?」
ベリアル「アトラス、お前は馬車の馬の役だ。」
アトラス「う、う、うま?」
バズズ「きゃはははは!それいい!あんた馬よ!」
アトラス「ひ、ひ、ひどいんだな。」
ターク「ははは…。」
幼い頃には誰しも似たような経験があるかもしれない。それは人間だろうが魔族だろうが、
子供の世界というのはどこも同じだった。
252 :
K:04/08/09 10:52 ID:wdLf5YcW
ベリアル「ターク、オレも目が覚めたぜ。もう逃げねえよ。相手が天界の竜だろうが何だろうが、
こうなったら向かってくるやつは戦ってやろうぜ。」
ターク「ベリアルくん…。」
ベリアル「どのみちオレも天界の使徒たちをぶっ殺す宿題があるんだ、力になれることがあったら
協力するぜ。」
ターク「あ、ありがとう。ベリアルくん…。」
バズズ「あたしたち四匹が組めば無敵よ!力を合わせて天界のやつらをぶっ殺しましょ!」
どうやら役者はそろったようだ。魔界の小さな悪魔たちの、小さな友情が結ばれた。
しかしちょっと盛り上がれば、子供は調子に乗ってどんどんつけあがる。
ベリアル「おい待て待て、名前つけようぜ!オレたちのパーティー名をよ!」
バズズ「キャーーー!つけよつけよ!」
ターク「ねぇ、それより先を急がないと…。」
ベリアル「バーロ、名前が先だ。…えっと、こういうのはどうだ。‘ベリアルとその仲間たち’」
バズズ「却下。」
ベリアル「な、何でだよ!カッコイイだろ!」
バズズ「センスもへったくれもないわよ、やっぱ‘プリンセス・バズズ’これよ。」
ベリアル「何がプリンセスだバカヤロ、人間のチ○ポコ喰らうメス豚め。」
バズズ「ブタとは何よ!これでも最近あたしバストが大きくなってきたのよ!もう一人前の
レディーなんだから!」
ベリアル「お前の小さい胸なんて見たかねえよ。」
253 :
K:04/08/09 10:53 ID:wdLf5YcW
ターク「ねぇねぇ、じゃぼくも一つ考えたよ。こういうのはどうかな。」
ベリアル「却下。」
ターク「ま、まだ何も言ってないじゃないか!」
ベリアル「どうせロクなもんじゃないだろ。」
暗黒魔界の一角にて、今ここに、小さな悪のパーティーが結成された。
子供の遊びかもしれないが、彼らにとってはかけがえのない友情の絆、そして思い出となるだろう。
小さな悪魔たち四匹は、苦難に立ち向かう決心をし、そして友情というものが誕生した。
……しかし所詮は子供。この決心は次なる展開に、早くも崩れ去ることになる。
アトラス「あ…あ…あ…あ…」
ベリアル「何だよアトラス、興奮しすぎて言葉になってねえぞ。」
アトラス「あ…あ…あ…あ…」
バズズ「あーもう!はっきりしゃべりなさいよ!イライラしてくるじゃん!」
アトラス「あ…あ…あ…あ…」
ターク「?…アトラスくん?」
アトラスは何かを言おうとしていたが言葉にならず、森の奥のほうを見つめてうなってばかりだ。
しかもまるで神でも見たかのように、恐怖で固まっている。
254 :
K:04/08/09 10:54 ID:wdLf5YcW
ターク「どうしたんだいアトラスくん、いったいどこを見て……あぁッ!」
ベリアル「ん?どうした。…ゲ!」
バズズ「何よ、なんかいるの?……って、きゃあああああ!」
アトラスの見つめていた方を振り返ると、全員の息がまるで首をしめられたようにつまった。
なんと彼らの背後には……
ホープ「よォ、ボウズども。さっきからなんか楽しそうだな。」
レヴン「ハーイ坊やたち、お姉ちゃんたちも仲間に入れてくんな〜い?」
よほどはしゃいでいたのか、周りの気配に気を配っていなかったのだ。
やってきた魔族の首もとには、二匹とも‘666’というタトゥーのようなものが彫られている。
これはダミアンデヴィルクラス以上が持つ、悪魔の紋章である。
もはや説明は不要だろう。そう、この二匹は魔界最悪のシルバニアファミリーだ。
次男のホープ、及び末女のレヴンである。
ターク「あ…あ…。」
ベリアル「う…う…。」
バズズ「ひ…ひ…。」
アトラス「お…お…。」
255 :
K:04/08/09 10:58 ID:wdLf5YcW
ホープ「あん?アーだのウーだの何言ってんだか分からねェぞ。」
レヴン「うふふ、かわいー。固まっちゃってるわ。」
ホープ「ボウズども。ちょっと聞くが、さっきこの辺に天界のドラゴンが来なかったか?」
だがタークたちには彼らのしゃべっている言葉など耳に入ってない。考えていることはただ一つ。
暗黒魔界の教訓・その四、‘シルバニアファミリーに出会ったら、力の及ぶかぎり逃げろ’
ベリアル「に…に…に…逃げろォォォオオオオオオオオオ!!」
ターク「うわああああああああああああ!!」
バズズ「きゃああああああああああああ!!」
アトラス「ああああああああああ…!!」
タークたち四匹は、弾丸のごとく目にも写らぬ最高速度で逃げ出した。
―――――ッズダァァンン!!(時速750/km)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
256 :
K:04/08/09 11:07 ID:wdLf5YcW
ぼくの夏休み PAGE11
魔界62層部 中央区 北西35km地点
四匹は時速750/kmで走って逃げていた。
―――――ッガォォンン!!
ベリアル「うおおおおおおお!!冗談じゃねえぞ!今のシルバニアファミリーじゃねえか!」
ターク「ちょちょっとベリアルくん!さっき‘オレはもう逃げない’って言わなかったっけ?!」
ベリアル「馬鹿野郎!!あいつらは別だ!だいたいお前だって逃げてんじゃねえか!
何が‘ぼくは逃げたりしない’だボケ!すんげー速さで逃げてんじゃねえか!」
ターク「だ、だって…!」
森の木をすっとばし、摩擦熱で土が焼け、山を駆け上り川を飛び越え、
四匹は世界の果てまで逃げる気でいた。
―――――ッガォォンン!!
257 :
K:04/08/09 11:08 ID:wdLf5YcW
バズズ「ちょっとあんたたち!!悪のパーティーはどうなったのよ!」
ベリアル「知るかバカ!もう解散だ!!」
ターク「アトラスくん!!もっと速く走るんだ!追いつかれちゃうよ!」
アトラス「ままままま待って…!も、も、もうちょっとゆっくり…!」
やがて魔界62層部の中央地区から、西地区まで走り抜けようとしていた。
―――――ッヴァシュゥゥ!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
魔界62層部 西地区
ベビーサタンA「キー!バラモスさま、この層部はいくらなんでも危険すぎますよ。」
ベビーサタンB「キー!そうですよ、どうせあのガキどもはすでに死んでまさ。ほっといて帰りましょう。」
バラモス「黙れ!あのガキどもの死亡を確認せんと気がおさまらないわ!…このワシを
コケにしおってからに!」
ゴゴゴゴゴゴ…!
バラモス「な、何だ地震か?!」
258 :
K:04/08/09 11:18 ID:wdLf5YcW
ベビーサタンA「キーキー!バ、バラモスさま!森の奥から何かがやってきます!」
バラモス「何だと?!」
ベビーサタンB「キーキー!バラモスさま!あれを…!」
バラモス「何事だ!」
やがてバラモスたちの前に、猛スピードで走るタークたちが現れた。
ベリアル「オッサンそこをどけえええええええええええ!!」
ターク「うわああああああああ!!どいてどいてどいて!!」
バズズ「きゃああああああああああ!!」
アトラス「あああああああああ!!」
バラモス「な…?!」
避ける間もなく、バラモスたちはタークたちに吹っ飛ばされた。
――――ドカン! バガン!ドス!
バラモス「はぅあっっ…!」
ベビーサタンA「ほげっ…!」
ベビーサタンB「ぐふっ…!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
259 :
K:04/08/09 11:19 ID:wdLf5YcW
バラモスたちを吹き飛ばし、四匹はさらにスピードを上げて逃げる逃げる。
―――――ッガォォンン!!(時速820/km)
バズズ「ねぇちょっと!今なんか踏まなかった?!」
ベリアル「知るか!それどこじゃねえだろ!!」
ターク「な、なんか見覚えのある魔物のような気がしたけど…!」
アトラス「うあぁぁぁぁ…!こここ怖いよぅ…!パパ…!」
それから四匹はさらに西へ走り、魔界62層部の果てまで逃走した。
さすがにここまで来れば大丈夫だろうと判断し、ようやく彼らは疲れ果てた足を止めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ベリアル「はぁ…!はぁ…!こ、ここまで来れば…!」
ターク「はぁ…はぁ…。つ、疲れた…!」
アトラス「こ、こ、ここんなに走ったのは、ひ、ひ、久しぶりなんだな…。」
バズズ「じょ、冗談じゃないわよ…!なんでこんなに走らなきゃなんないのよ…!」
260 :
K:04/08/09 11:25 ID:wdLf5YcW
ベリアル「お、おい…全員いるか。点呼を取るぞ、1。」
ターク「2…。」
アトラス「さ、さ、さん。」
バズズ「4…。」
ホープ「5」
レヴン「6♪」
ベリアル「よ、よし…ちゃんと6人いるな。…え?」
ターク「!」
バズズ「きゃああああああ!!」
なんとホープとレヴンはすでに追いついていた。
ホープ「鬼ゴッコの次は何だ。かくれんぼか?」
レヴン「うふふ、子供のころを思い出すわね。」
ベリアル「ぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!」
ターク「こ、こんな…!(息一つ切らしてない…なんてスピードだ…)」
バズズ「ちょちょっと…ああああんたたち何とかしなさいよ…男の子でしょ…ガクガクブルブル。」
アトラス「パ、パ、パ、パパぁぁぁぁぁ!」
ホープ「オイお前ら、話の途中で逃げ出すなんて失礼じゃねェか。どういう教育受けてんだ。」
レヴン「坊やたち、いい子だからお姉ちゃんたちの質問に答えるのよぅ。天界のドラゴンは
どこに逃げたのかしらん?」
_
262 :
K:04/08/09 11:34 ID:wdLf5YcW
ベリアル「ぅぁぁぁ…。」
ターク「……」
バズズ「ブルブル…。」
アトラス「うぉ…うぉ…。」
もはや走る体力も気力も残っていない、あるのは身動きすらできない恐怖感。
シルバニアファミリーを相手に闘いを挑んでも無駄だ、もはや絶体絶命である。
だがそのときタークは、さらなる魔界の教訓を思い出した。
‘シルバニアファミリーが追ってきたら、特殊な魔方陣で身を隠せ’
ターク「(そ、そうだ…!ベリアルくん、スキをついてもう一度逃げよう。)」
ベリアル「(バ、バカ言うんじゃねえよ、こいつらスピードもハンパじゃないんだぞ…。)」
ターク「(だいじょうぶ、今度追ってきたら魔方陣で身を消すんだ。それしか方法はない…。)」
ベリアル「(し、失敗しても知らねえぞ…。)」
ターク「(ベリアルくん、やつらの注意を引くんだ。ほんの一瞬だけでいい…。)」
ベリアル「(よ、よし。わかった…。)」
ホープ「オイ聞いてんのか。オレたち天界のドラゴンの行方を捜してんだよ。さっさと答えろ。」
ターク「(よし今だ!)」
ベリアル「(OK!)」
263 :
K:04/08/09 11:35 ID:wdLf5YcW
するとベリアルは次の瞬間、最も基本中の基本とも言うべき方法を取った。
ベリアル「あぁッ!あんなとこに天界のドラゴンが!」
ホープ「何?!」
レヴン「どこどこ?!」
ベリアル「今だ!全員逃げろーーーー!!」
一斉に四匹は森の奥へ逃げ出した。
――――ッドシュゥゥン!
ホープ「こ、このガキども…!」
レヴン「…やーね、こんな子供だましの手に引っかかっちゃったわ。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
264 :
K:04/08/09 11:36 ID:wdLf5YcW
一瞬にして森の奥へ逃げた四匹、だが早くしないとまた追ってくる。
ベリアル「よ、よし!今のうちに魔方陣を描け!おいアトラス!てめえも描くんだよ早くしろ!」
アトラス「う、う、う、うん。」
ターク「は、早くしないと…!」
バズズ「ああああもう!なんであたしまでこんな目に逢わなきゃなんないのよ!!」
四匹は力を合わせて地面に「レムオルの魔方陣」を描き出した。
―――ッギカォ!
ターク「できたよ!成功だ!」
ベリアル「は、早く魔方陣の中に入れ!」
アトラス「うおおお…!」
バズズ「きゃーーーー!!」
そして魔方陣の中へ入った瞬間、早くもホープとレヴンがやってきた。
ホープ「クソ、どこ行きやがったあのガキども…。」
レヴン「いやん、見失っちゃったわ。」
どうやら作戦は成功したようだ、四匹は間一髪で魔方陣の中に姿を隠した。
265 :
K:04/08/09 11:39 ID:wdLf5YcW
============================
バズズ「(ちょちょっと…ほんとに大丈夫なんでしょうね…。こんな小さな魔方陣で…。)」
ターク「(シー、だいじょうぶだよバズ。やつらからこっちは見えてないはずだ…。)」
ベリアル「(おいお前ら、絶対にこの魔方陣から出るなよ…。一歩でも出たらゲームオーバーだ…)」
アトラス「(うぇぇぇん…こここ怖いよぅ…。)」
============================
ホープ「レヴン、お前は向こうを捜せ。オレはこっちを捜してみる。」
レヴン「いいわ。」
ホープとレヴンはまだ立ち去る様子もなく、タークたちのすぐ近くを捜している。
ちなみにこの「レムオルの魔方陣」とは、その円陣の中を透明にする効果を持つ魔法である。
これによって姿を隠すことができ、魔方陣の外からは周りの景色と同じようにしか見えない。
単にレムオルという呪文もあるが、呪文の場合はその効果が短いため、あまり実用的ではない。
しかし魔方陣の場合はその円陣から出ないかぎり、長時間その効果を発揮できる。
============================
バズズ「(ちょっとアトラス、もう少し向こうに寄りなさいよ。狭いじゃないの…。)」
アトラス「(ご、ごごごめん。で、で、でも、もういっぱいで…。)」
バズズ「(あんたちょっと太りすぎなのよ…ダイエットしなさい。)」
ベリアル「(おい静かにしろよ…声までは消せねえんだぞ…。気づかれちまうだろ。)」
ターク「(や、やつらまだ捜してるよ…。いい加減に帰ってくれないかな…。)」
============================
266 :
K:04/08/09 11:40 ID:wdLf5YcW
ホープ「おいレヴン、見つかったか?」
レヴン「んーん、こっちにはいないわ。」
ホープ「いったいどこに隠れやがったんだ…。」
レヴン「あーあ、あの子たちたぶん通常のデヴィルクラスだわ。だって瘴気が弱くて
匂いをたどれないもん。」
ホープ「お前の嗅覚でも捜せねェのか?」
レヴン「あたしたちから比べたら、あんなちっちゃい瘴気なんてわかるわけないでしょ。」
ホープ「クソ、あのガキどもから天界のドラゴンの情報をつかめると思ったんだが…。」
============================
アトラス「(ね、ね、ね、ちょちょちょっと。)」
ターク「(どうしたんだい、アトラスくん…。)」
バズズ「(何よアトラス、あんま動かないでよ…。やつらまだいるのよ。)」
アトラス「(お、お、おれ、おならしたくな、な、なっちゃったんだな…。)」
ターク「(え?)」
バズズ「!」
事態は最悪の方向へ向かっている。今ここで音を立てたら終わりだ。
ベリアル「(て、てめえ…!冗談じゃねえぞ!こんなヤバイときに…!)」
バズズ「(ガマンするのよ!)」
アトラス「(あぅあぅあぅ…!)」
ターク「(アトラスくん…!今はガマンするんだ!少しでも音を立てたら終わりだよ…!)」
アトラス「(うがぁぁぁぁぁ…!)」
============================
267 :
K:04/08/09 11:43 ID:wdLf5YcW
だがアトラスはこらえきれず、ついに魔方陣の中で一発かました。
バブッ…!
ホープ「?…おい、いま何か聞こえなかったか。」
レヴン「聞こえた。」
============================
ベリアル「(こ、このクソバカ野郎…!アホ!マヌケ!デブ!短小!包茎!)」
アトラス「(ご、ご、ご、ごめんよぉぉぉ…。)」
バズズ「(あああああ!もうあんたぶっ殺してやるからね!覚えときなさいよ!)」
ターク「(し、静かにして…!やつらこっちに気づいたかも…!)」
============================
ホープ「おかしいな、確かこの辺りで音がしたと思ったんだが…。」
レヴン「やーん。すっごい匂うわ。」
ホープ「お前が屁こいたのか?」
レヴン「バカ言わないでよ!あたしじゃないわよ!」
もうホープとレヴンは魔方陣のすぐ目の前だ。
その恐ろしいまでの彼らの瘴気は、魔方陣の中からでも強烈に伝わってくる。
・
269 :
K:04/08/09 11:46 ID:wdLf5YcW
============================
ベリアル「(ち、ちくしょぅ…!もうだめだ…!)」
アトラス「(うぁぁぁぁぁぁ…!)」
バズズ「(こんな夏休みってないわよ!あんたたち恨むからね!)」
ターク「(ハッ…!待ってみんな!誰か来たよ…!)」
============================
するとそのとき、さらに別な魔族がやってきた。
ドレアム「お前たち、こんなところにいたのか。捜したぞ。」
ホープ「!」
レヴン「あ…。兄さんじゃん。」
それはかなり長身の魔族であり、黒いマントをなびかせた新手の魔神だった。
============================
ターク「(だ、誰だろ…?)」
ベリアル「やべぇ…さらにもう一匹追加かよ…。」
バズズ「(ど、どうすんのよ…。)」
============================
.
271 :
K:04/08/09 11:50 ID:wdLf5YcW
無論その魔神も、他の二匹と同格の瘴気を放つ悪魔であり
シルバニアファミリーの長男である。名をドレアムという。
ホープ「なんだ兄貴、なんか用かよ。」
レヴン「ねぇ兄さん、このへんでモンスターの坊やたち見なかった?」
ドレアム「そんなことはどうでもいい。ホープ、レヴン、すぐに私と一緒に来い。
77層部の北地区で天界の使徒が現れたそうだ。」
ホープ「!」
レヴン「まじ?」
ドレアム「すぐに現場へ急行するぞ、天界のドラゴンも同行しているかもしれん。」
ホープ「いよいよ戦争だな、兄貴。」
ドレアム「うむ、我らの父上・カインを魔界へ堕とした憎き天界どもだ。」
============================
ベリアル「(おい、いったい何の話だ…。)」
ターク「(し、知らないよ…。)」
バズズ「(きっとこいつら、天界と戦争する気なのよ…。)」
アトラス「(パ、パ、パパからそんな話は、ききき聞いてないけど…。)」
============================
シルバニアファミリーのこの三兄弟、魔界では闇の三大魔神と呼ばれ
通称ダーク三兄弟の魔神と恐れられている。
ダークドレアム、ダークホープ、ダークレヴンという俗称を持ち、天界でも恐れられている。
その実力は父親のカインほどまでは及ばないが、ダミアンデヴィルクラスの超危険モンスターである。
272 :
K:04/08/09 11:52 ID:wdLf5YcW
レヴン「ねーねー兄さん、ところでどうして天界のやつら、今ごろになって魔界へ来たのかしら。」
ドレアム「父上の話によると、どうも100年ほど前に滅びた魔物が復活しようとしているらしい。
いや、何者かが復活させようとしている…と言ったほうが正しいな。天界の連中は
それを阻止するよう神から任務を受けたそうだ。」
ホープ「何者なんだ、その復活しようとしてる魔物とやらはよ。」
ドレアム「詳しくは知らんが、昆虫の遺伝子を持つ魔物らしい。」
============================
ターク「!」
============================
ドレアム「まぁそれほど危険な魔族ではないそうだが、父上もなぜか
あまり詳しいことを話してくださらないのだ。」
ホープ「まさかそいつ、親父の昔の知り合いか?」
ドレアム「そうかもしれんな、もともとその魔物は人間だったそうだ。」
レヴン「ふぅん…。パパってあんま昔のこと話したがらないもんね。」
ホープ「キレるとオレたちでも手がつけられねェバケモノだがな。」
{
274 :
K:04/08/09 11:54 ID:wdLf5YcW
ドレアム「ともかく理由はどうであれ、天界の連中が魔界へ来るのは、こちらにとっては
好都合というものだ。何しろ天界や人間界などでは、我らのような強大な魔神は
実力の半分も出ない。」
ホープ「そうだな、ここなら思い切り暴れられるってもんだ。」
レヴン「長年の恨みを晴らせるわね、楽しみだわー。」
ドレアム「さぁ行くぞ、77層部へ急行だ。一気に総攻撃をしかける。」
ホープ「わかった。」
レヴン「ぃやっほーー!皆殺しよぅ!」
三匹の魔神はそう言うと、魔界の風を使って一気に飛び去っていった。
―――――ッキィィーーンン!!
============================
ベリアル「(お、おい…。もう出ても大丈夫みたいだぞ…。)」
ターク「(う、うん…。)」
============================
ようやく安全を確認し、四匹は魔方陣から出た。
275 :
K:04/08/09 11:57 ID:wdLf5YcW
バズズ「はぁぁぁ……もう死ぬかと思ったわよ…。」
ターク「つ、疲れた…。まるで生きた心地がしなかったね…。」
アトラス「うごぉぉぉ…。」
ベリアル「こ、こりゃ寿命が千年は縮んだな…。」
バズズ「まったくこのバカトラス!屁なんかこくなんて信じられないわよ!」
アトラス「ご、ご、ごめんなさぃぃぃぃ…。」
ターク「まぁまぁ、もういいじゃないか。無事だっただけでもよかったよ。」
ベリアル「まったくとんだ夏休みだ…。こんなことなら家で寝てたほうがマシだったぜ…。」
次から次へと襲ってくる災難、そして戦慄の予感。
いくら宿題のためとはいえ、今年の夏休みは彼らにとって、とんでもない夏を迎えたようだ。
この日、とりあえず彼らは身近な川辺でキャンプすることになり、
身も神経も疲れ果てた身体を休めることにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【
277 :
K:04/08/09 12:01 ID:wdLf5YcW
ぼくの夏休み PAGE12
魔界62層部 西地区 ジルバの川辺
この夜、四匹は川辺で木を燃やし、魔魚を捕ってキャンプファイアーを囲んでいた。
この地域の夜は危険すぎると判断し、今夜はここで野宿するようだ。
ターク「まったくとんでもない目に逢っちゃったね。でも助かってよかったよ。」
ベリアル「もうやつらに出会うのはこりごりだ。」
バズズ「アトラス、あんた今度なにかヘマしたら承知しないわよ。」
アトラス「う、う、うん…。ほんとごごごごめんよぉ…。」
川で捕った魔界のピラニアを焼き、彼ら四匹は火を囲んで、しばし安息のひとときを過ごす。
幼い子供たちだけで集まり、知らない土地でキャンプというのは誰しも楽しいもの。
いかに危険区域とはいえ、ようやく彼らも普段のあどけない笑顔が戻りつつあった。
ベリアル「けどよ、あんときのタークの必死そうな顔で逃げる姿。今思い返すと笑っちまうな。」
ターク「よく言うよ、きみだって一番先頭で逃げてたじゃないか。」
バズズ「あはは、大したパーティーリーダーね。」
ベリアル「う、うるせえよ。」
278 :
K:04/08/09 12:02 ID:wdLf5YcW
どうやら友情の絆までは壊れていないようだ。学校ではしょっちゅうケンカし合っている四匹だが、
友達というのは、これくらいの関係で丁度いいものだ。
ベリアル「…ところでよ、あとから来た魔神が妙なこと言ってたよな。あの話ってタークの
親父のことだろ?昆虫の魔物って…。」
ターク「……」
バズズ「ターク、あんたのパパってカインと知り合いだったの?」
ターク「知らないよ。」
ベリアル「天界はなんで危険を冒してまでお前の親父の復活を止めようとするんだ。お前のパパって
人間界で何かやらかしたのか?」
ターク「だから何も知らないんだよ。…ぼく、父さんについて知ってることなんてほとんどないんだ。
名前さえ知らないんだよ、もともとは人間だったってことぐらいしか…。」
バズズ「……」
アトラス「うぉぉん…タタタタークくん、か、か、かわいそうなんだな…。」
タークにとって、父親は100年前に天界の竜に倒されたということぐらいしか分かっていない。
そして元は人間だったということだけ。何が彼をそうさせたのだろうか。
)
280 :
K:04/08/09 12:05 ID:wdLf5YcW
ベリアル「なぁなぁ、お前ら知ってるか?カインも実はもともと人間だったってウワサだぞ。」
ターク「ほんとかい?シルバニアファミリーで一番恐れられている魔神が?」
バズズ「あ、それあたしも昔パパに聞いたことがあるわ。だってカインとうちのパパ、よく一緒に
飲んだことがあるもの。そのとき酔った勢いでカインが昔のことを話したらしいの。」
ターク「えぇ?じゃバズもカインと会ったことが?」
バズズ「あるわけないわよ、パパって危険なとこにはあたしを連れてってくれないから。」
ターク「そっか…。」
アトラス「お、お、お、おれのパパも、よく話してたんだな。カカカカインは、もともと人間で、
か、か、神を怒らせたせいで、カカカインは悪魔に、さ、さ、されちゃったとか…。」
ターク「へぇー…ぜんぜん知らなかった。」
ベリアル「…それにしてもよ、カインっていったいどういう魔神なんだろうな。」
バズズ「きっと鬼のようなカオしてものすっごくデカイやつよ。だってカインって
すごく残忍で凶悪だってパパ言ってたもん。」
アトラス「げ、げ、幻魔デビル神は、もももものすごく怖い怖い魔族なんだな。バズちゃんのパパや
お、お、おれのパパも、げげげ幻魔デヴィル神だし…。」」
ベリアル「そうだな、何しろ昼間会った三兄弟なんかよりも比べ物にならねえほどだぜ。」
281 :
K:04/08/09 12:07 ID:wdLf5YcW
謎の多いシルバニアファミリーだが、ベリアルたちはカインの恐ろしさだけは熟知していた。
それぞれの親から教え込まれた悪魔カインの実態は、所詮は凶暴なバケモノだと。
ちなみに魔界で最高クラスである幻魔デヴィル神は意外に少なく、たったの七匹しかいない。
パズス神、アスタロス公爵、ベルゼバブ皇太子、G・ピサロ、皇帝ユダ、破壊神シドー、
そしてシルバニアファミリーの父親カイン。
計七匹の悪魔の神、彼らは‘七つの大罪’を背負う魔界の幻魔七神デヴィルと呼ばれている。
この七匹に対抗できるモンスターは存在しない。
事実上、天界でさえこの七匹にはうかつに手を出すことができず、タークの父親を倒した
天界の竜でさえ、この悪魔の神らには及ばない。(※ただし魔界内での場合のみ)
ターク「しかしみんなよくそんなこと知ってるね、ぼくは何も教えてもらえなかったよ。
エッグラおじさんたちって下らないジョークしか教えてくれないもん。」
ベリアル「例えば何だよ。」
ターク「や、やだよ。下らなすぎて全然笑えないんだ。言うのが恥ずかしい。」
バズズ「聞かせなさいよ、笑わないから。」
ターク「うん、ほんと笑えないんだ。」
バズズ「いやそういう意味じゃなくて…。」
282 :
K:04/08/09 12:09 ID:wdLf5YcW
ベリアル「ためしにオレたちに言ってみろよ、どれほど下らないか聞きたい。」
アトラス「お、お、おれも、ききき聞きたいんだな。」
ターク「わ、わかったよ。じゃあ一つだけ…。」
バズズ「わくわく…。」
深刻な話題の次は、少しは明るい話題に移ったようだ。
タークはエッグラとチキーラから仕込まれたジョークを一つ披露した。
ターク「えっと、森でスライムが道に迷ってしまいました。ノドが乾いて倒れそうです。
早くお水を飲まないと死んじゃいます。
そこでスライムは、意地悪のドラキーに聞いてみることにしました。
‘すみません、ノドがカラカラで死にそうです。川はどこですか?池でもいいんです’
すると意地悪なドラキーは答えました。‘うるさい、あっちにいけ’」
ベリアル「?」
バズズ「??」
アトラス「え、え、え、えーと…。」
空気が凍りついたどころか、その意味さえ分からなかった。今のはどこがオチだったのだろうか。
ターク「つ、つまりその…‘あっちに池’だよ。…だから言ったでしょ、おもしろくないって…。」
}
284 :
K:04/08/09 12:11 ID:wdLf5YcW
ベリアル「し、信じられないほどクソ面白くないな…。」
バズズ「やだ、あんたのとこのエッグラさんたちって、こんなんでバカ笑いしてんの?」
ターク「一世一代の傑作ができたって自信まんまんだったよ。二匹とも笑いすぎて転げまわってた。」
ベリアル「ぷぷぷ…!そっちのほうが面白いな。」
川の流れるそばで火を囲みながらくつろぐ四匹、遠くのほうで遠吠えを上げる幻魔獣。
それらの音をBGMにしながら、彼ら四匹は夜遅くまで語り合った。
この日はタークにとって長い一日だったが、その晩なかなか寝付けなかった。
いろいろな想いが頭の中をよぎり、父親探しの夏休みはまだ終わらない。
ベリアルたちが寝付いたのにもかかわらず、タークは寝そべりながら魔界の空をずっと見つめ、
幼い少年のさまざまな想いが交差する。
果たして自分は、父親に会うことができるのか。
天界のドラゴンからの追っ手から、振り切れるだろうか。
今度シルバニアファミリーに出会ってしまったら、逃げ切れるだろうか。
カインと自分の父親の間には、何があったのだろうか。
そもそもカインとは、いったい何者だろうか。
考えても答えの出ない謎は、寝付けないタークをますます混乱させた。
しかしどんなことがあろうと、必ず父親を捜し、生き返らせる決意は変わっていない。
それはタークにとって、もはや夏休みの宿題のためではなかったのだ…。
285 :
K:04/08/09 12:13 ID:wdLf5YcW
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○月▲日 (くもり/雷雲)
今日ぼくは 魔界62層部で ベリアルくんとバズに出会った。
彼らもまた 宿題をするために来たそうです。
ぼくたち四匹は 力をあわせて77層部をめざすことになりました。
いつもはいじわるなベリアルくんも、今日から仲良しになれました。ともだちっていいなぁ。
そうそう、今日はとんでもないことばかりの連続でした。
天界のドラゴンはぼくを追っているし、シルバニアファミリーに出会ってしまうし、
こんなに怖い思いをしたのは、はじめてです。
カインにはまだ出会ってないけど、はっきりいって会いたくありません。
けどぼくは、あきらめないぞ。きっと父さんを見つけ出して、生き返らせるんだ。
世界樹の花で、父さんをよみがえらせるんだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
286 :
K:04/08/09 12:14 ID:wdLf5YcW
……しかし翌日、目を覚ましたタークの前には、信じられぬ状況になっていた。
自分以外の他の仲間たちは、もぬけの殻だったのだ。
ベリアル、バズズ、アトラスの三匹は、どこを探してもいなかった。
あるのは何者かが暴れたような痕跡と、そこらじゅうに飛び散っている血痕。
この血はまさか仲間たちの……。そして川辺の岩につけられた、ドラゴンの爪のような跡。
通常のドラゴンがこんな大きな爪を持っているはずはない。とすると…
ともかくタークは翌日から、目的が二つになってしまう。
いったい仲間たちはどこへ…。
第三章 〜小さな悪魔のパーティー〜
完
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドキドキ・・・
288 :
K:04/08/09 12:47 ID:wdLf5YcW
※FFのカインとは何の関係もございません
289 :
K:04/08/09 12:56 ID:wdLf5YcW
ぼくの夏休み PAGE13
第四章 〜父を求めて〜
魔界77層部「牢獄層」 北地区
ベリアル「く、くそ…!おいてめえ!オレたちをどうする気だ!」
バズズ「またあんたの仕業ね!ゆうべ寝ているスキにあたしたちを襲ってきて…!」
アトラス「うぇぇぇぇんん…!」
竜「少し静かにしろ、シルバニアファミリーに気づかれてしまう。」
寝ているスキに襲われたベリアルたち、その犯人はやはり天界の竜だった。
彼らは77層部まで連れてこられ、特殊な魔法で施されたクサリに繋がれていた。
ベリアル「ち、ちくしょぅ…!こんなことしてただで済むと思うなよ!このトカゲ野郎!」
竜「もう一度聞くぞ、世界樹の花をどこへ隠した。」
バズズ「だから知らないって言ってんでしょ!タークが持ってるはずだったんだけど…!」
290 :
K:04/08/09 13:01 ID:wdLf5YcW
竜「嘘をつくとためにならんぞ、タークの持ち物からは何も出てこなかったのだ。
きっとどこかへ隠したのだろう。奴には魔法をかけておいたからちょっとやそっとじゃ
目を覚まさんはずだが…。」
アトラス「パ、パ、パパ…!」
竜「ともかくしばらく人質になってもらう、いずれタークがお前たちを助けにここへ来るだろう。
どこかに隠した世界樹の花と引き換えに、お前たちを解放してやる。」
ベリアル「は、はははは!お前バカじゃねえの?!タークはオレたちを助けるもんか!
魔界の教訓を知らないのか!暗黒魔界の教訓その五、‘たとえ仲間であっても
他人を助けるな。自分の身を最優先に考えろ’!」
バズズ「そ、そうよ!タークはこんなワナにはまるもんですか!…っていうかあんた
あたしのパパがこれ見たら発狂するわよ!」
アトラス「タ、タ、タ、タークくんは、ももももうおれたちを、助けてほしくなななないんだな。
タークくんは、自分のパパを、た、た、た、助けてほしいんだな。」
竜「果たして本当にそうだろうか。タークは父親の血を受け継いでいる。つまりわずかだが
人間の血を受け継いでいるのだ。奴は危険を冒してまでも必ずお前たちを助けに来る。
人間とはそういう生き物なのだ…。」
ベリアル「バ、バカな…!」
291 :
K:04/08/09 13:03 ID:wdLf5YcW
するとそのとき、天界の使徒が一人現れた。
炎神「マスタードラゴン様、遅くなりました。」
竜「見回りご苦労、様子はどうだ。」
炎神「はっ。ここから半径5km以内に強い瘴気が三つ。多分シルバニアファミリーかと。」
竜「おそらくダーク三兄弟だ。近づいてこないところを見ると、様子をうかがっているのかもしれん。
だが気を抜くな、他の使徒たちと合流するまではこちらも仕掛けてはならん。」
炎神「はっ。」
竜「我らの今回の任務はあくまでエスターク復活阻止だ、魔神たちとの戦争は避けたほうがいい。」
炎神「肝に銘じて…。」
炎をつかさどるこの天界の使徒、その名を「炎神の使徒」という。
竜の直属の部下であり、その任務は基本的には人間界の治安を守る戦士である。
天界の使徒は全部で七人おり、炎神、水神、風神、雷神、地神、創造神、精霊神である。
かつてその昔、天界の司令官でもあったゼニス一世は、その後継者を天界の竜に引き継がせ
今は竜がその平和を守る統率者となった。
292 :
K:04/08/09 13:08 ID:wdLf5YcW
ぼくの夏休み PAGE14
魔界62層部 西地区 ジルバの川辺
ターク「ど、どうして…みんなどこ行っちゃったんだ?!」
ターク「おーーーい!!みんなーーーー!」
だが叫んでも声はむなしくこだまするだけ。タークを除いて三匹は囚われの身となったのだ。
タークは岩につけられた爪跡を発見し、どうやら状況を把握したようだ。
ターク「ドラゴンの爪跡…。そうか、そうか…。もう許さないぞ。父さんを殺しただけでなく、
よくもみんなを…。」
怒りに震えるターク、だがさらに災難が待ち受けていた。
水神「おい、まさかこの子供か?」
風神「そのようだな。」
地神「まさにここで会ったが100年目というやつだ。」
ターク「!」
293 :
K:04/08/09 13:09 ID:wdLf5YcW
ターク「お、お前らがみんなを…!ベリアルくんたちをどこへやった!」
水神「何の話だ?」
ターク「とぼけるな!天界のドラゴンがみんなをさらっていったんだろ!」
風神「…なるほどな、マスタードラゴン様が一足先に手を打ったわけか…。」
地神「では我らも急ごう、きっと世界樹の花も手に入れなさったはずだ。この子供に用はない。」
ターク「!(そうか、やっぱりこの花が目的だったんだな…。)」
だがタークはその使徒たちを許すわけにはいかず、彼らの前に立ちはだかった。
ターク「絶対に許さないぞ!みんなをどこへやった!ドラゴンはどこだ!」
水神「おい、この子供は俺たちとやる気のようだ。殺してもいいか。」
風神「時間の無駄だ、放っておけ。」
地神「愚かな奴よ、汚れた悪魔などに我ら使徒三人を相手にできると思っておるのか。」
ターク「ばーか!世界樹の花はぼくの身体に隠してあるんだ!ドラゴンなんかに盗まれるものか!」
294 :
K:04/08/09 13:10 ID:wdLf5YcW
水神「!」
風神「聞いたか、同胞よ。わざわざ花のありかを教えてくれたぞ。馬鹿な者よ。」
地神「よし、では貴様の汚れた身体を引き裂き、花をいただくとしよう…。」
なんと天界の使徒三人を相手に、タークは自ら立ち向かった。
ターク「(負けるもんか…。みんなを必ず助け出してやるんだ…。)」
水神「どこまでも愚かな奴よ、そういうところは父親似だな…。」
無論、タークがこの使徒三人を相手に勝てるはずもなかった。
だがそれを分かっていながら、彼は闘わずにいられなかったのだ。
人間の血を引いていたせいかもしれない…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
295 :
K:04/08/09 13:12 ID:wdLf5YcW
ターク「う、うぐっ…。くそ…!」
水神「どうした悪魔の子よ、もう終わりか。」
風神「まるで闘いにもならぬ、子供がこのような無謀なことをするからだ。」
地神「フ、悪魔の子よ、これが正義の力というものだ。悪は正義には勝てぬ。それが
真理というもの。いわば神の摂理だ。」
ターク「ち、ちくしょう…。」
どのような暗黒魔法を使おうと、彼ら三人の使徒には通用しなかった。
完膚なきまでに叩きのめされるターク、その力の差にタークは自分の非力さを呪った。
自分の仲間も助けられないなんて…。
ターク「うぅ…。」
水神「む…まだ起き上がる気でいるぞ。」
風神「しぶとい奴よ、そろそろとどめを刺したほうがいい。花を取り上げねば。」
地神「それもそうだな。」
やがて水神、風神、地神の三人は、聖なる太陽のエネルギーを召喚し始めた。
(キィィン!)―――――ッシュォォォ!!
296 :
K:04/08/09 13:16 ID:wdLf5YcW
ターク「!!」
水神「悪魔の子よ、これで終わりだ。」
ターク「ち、ちくしょぅ…!」
太陽のエネルギーは、倒れているタークに向けて爆発した。
――――ッカォォ!!
風神「フ、終わったな。」
地神「ウム、早いところ遺体から花を……む!」
水神「どうした、地神よ。」
地神「あれを見ろ!何かいるぞ!」
なんと間一髪でタークは何者かに助けられた。
カイン「大丈夫だった?坊や。」
ターク「え…。」
カイン「危ないとこだったね、たまたま近くを通りかかって良かったよ。」
それは実際の年齢よりも意外に若く見え、いかにも好青年のようなさわやかな魔族だった。
だがその不気味なまでの笑顔の裏には、計り知れないほどの残忍で冷酷な瘴気が漂っている。
297 :
K:04/08/09 13:17 ID:wdLf5YcW
ターク「お、お兄さん……誰?」
カイン「ボクは通りすがりの者さ。」
ターク「え?」
水神「何奴だ貴様!」
風神「汝!我らを何者だと知っての行いか!さては汝も悪魔の手先であろう!」
カイン「坊や、少し下がってて。巻き添えを食ってしまうよ。」
ターク「あ、あの…。」
地神「聞いてるのか!その名を名乗れ!」
だがその青年はまるで無表情で、幻魔暗黒闘気を解放し始めた。
―――――ッヴァリヴァリバリバリ!!!
水神「はぁ?」
風神「ほぇ?」
地神「げほっ…。」
。。
299 :
K:04/08/09 13:18 ID:wdLf5YcW
ターク「うあああああ!!(な、なんだこの闘気は…!ぎぇぇぇ!き、気が狂いそうだ…!)」
カイン「……(ギギギ…ギーン!)」
半径10kmに及ぶその鋭い闘気が放射状に広がり、周りの草木がみるみるしなびていく。
水神「こ、こんな…バカな…!こ、これは幻魔デヴィルクラスの闘気…!」
風神「ま、まさかこの青二才が…!」
地神「カ、カインなのか…!」
いったい何が起こったのか、タークにはわけが分からないまま、その強烈な暗黒闘気を浴びて
気を失ってしまった。
その力の一部を発揮しようとした魔族の額に、みるみる悪魔の紋章‘666’のサインが浮かび上がる。
そしてタークが気を失っている間、それは目を覆いたくなるような悪魔カインの実態があった…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
300 :
K:04/08/09 13:20 ID:wdLf5YcW
カイン「やぁ、まだ生きてる?」
水神「うぐぉぉぁあああああ!!」
カイン「よかった、すぐ死んじゃったらボク寂しいよ。」
腕を二本、足を一本もぎとられ、内臓をえぐり出され、それでもまだ何とか生きている水神を
悪魔カインはもてあそんでいた。
カイン「そっちのキミはどう?なんか首がなくなっちゃってるけど。」
風神「……」
カイン「ありゃ、もう意識がないや。死んじゃったか。」
カインの一撃により、風神と地神はすでに息絶えている。
カイン「あのね、ボク今ちょっと機嫌が悪いんだ。だから早めに答えてくれないかな。」
水神「わ、わかった…!何でも言う…!だ、だから殺さないでくれ…!ひえええええ!か、神よ…!」
カイン「さすがは天界の使徒だね、正直でやさしいなぁ。」
301 :
K:04/08/09 13:21 ID:wdLf5YcW
水神「マ、マスタードラゴン様はおそらく77層部の北地区だ!きっとそこにおられる!し、しかし
我らの任務はエスターク復活阻止なのだ!け、決してシルバニアファミリーと戦争を
する気などないのだ…!ほ、本当だ!」
カイン「誰がそんなこと聞いた?早合点しないでよ、ボクの質問はそんなんじゃないよ。」
水神「わ、わかった…!何でも聞いてくれ…!」
カイン「あのね…舌を抜かれるのと、目玉をくりぬかれるのと、どっちが好きだい?」
水神「……!!」
カイン「知りたいんだ、天界の住人でも痛みってあるのかなぁって思ってさ。」
水神「あ…!う…げ…!」
カイン「ねぇ答えてヨ、それトも爪を一本一本はがされルほうがイい?」
殺した使徒たちの返り血を浴びながら、まるでさわやかな笑顔で聞くカイン。
しかしすでにキレかかっている。カインがいったんキレると、たとえシルバニアファミリー全員で
取り押さえても、機嫌が直るまで二週間はかかるそうだ。
やがて……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ガンバレ!!
303 :
K:04/08/09 13:24 ID:wdLf5YcW
ぼくの夏休み PAGE15
―――それから約30分後――――
ターク「う、う〜ん…。」
カイン「やぁ、気がついた?」
ターク「ハッ!」
カイン「もう大丈夫だよ、あいつらもういないよ。」
ターク「い、いったいぼくは…。」
カイン「ごめんごめん、これでも半分以下に力を制御したんだけどね。キミはボクの闘気を
少し浴びちゃって気を失っていたんだよ。」
ターク「そ、そっか…。」
タークが目を覚ましたとき、その魔族の額から‘666’の紋章は消えていた。
どうやら彼は、普段はその力を抑えているいるようだ。
カイン「でも子供がこんなとこで一匹でいるなんて危険だよ、しかも使徒を三人も相手に
戦いを挑むなんてさ。」
304 :
K:04/08/09 13:25 ID:wdLf5YcW
ターク「あ、あの…と、とりあえず助けてくれてありがとう。ところでお兄さんって誰?」
カイン「名乗るほどの者じゃないよ。」
ターク「……」
カイン「はっはっは、ごめん。このセリフ一度言ってみたかったんだ。ほら、よくあるだろ?
名も名乗らずに去っていく。かっこいいよね。」
ターク「……」
いかにも隣の家の好青年のようなやさしい口調、近所のお兄さんという感じの青年。
タークはまだ気づいていないが、実はこの魔族こそシルバニアファミリーの大黒柱、カインである。
魔界最強・最悪の幻魔デヴィル神であり、カインの恐ろしさとその凶暴さは、見た目には
全く想像がつかないのだ。
ターク「あの使徒三人を倒したんですか。すごいなぁ…。」
カイン「いやいや、ちょっとお説教しただけだよ。子供をいじめるなってね。」
ちなみにその説教とやらをされた使徒三人は、30分前にチリと化している。
305 :
K:04/08/09 13:27 ID:wdLf5YcW
ターク「そ、そうだ…!こうしちゃいられない!みんなを助けなきゃ!」
カイン「みんなって?」
ターク「ぼくの仲間だよ、みんな大切な友達なんだ。」
カイン「……」
ターク「お兄さん、ほんとにありがとう。ぼく行かなきゃ、ごめんね。」
カイン「待ってよ、どこへ?」
ターク「だからみんなを助けるんだよ!早くしないと殺されちゃうかもしれないんだ!」
カイン「いやだからさ、その友達たちはどこにいるのか知ってて行こうとしてるのかい?」
ターク「あ……。」
カイン「ははは、そそっかしいなぁ。少し落ち着きなよ、リルルの実でも食べる?」
ターク「……」
タークは少し落ち着いたが、改めて一つの疑問がよぎった。
ターク「あの、お兄さんって誰?」
カイン「よしてくれよ、ボクはお兄さんなんて若いトシじゃないよ。おじさんでいいよ。」
ターク「そんなに年寄りに見えないけど…。」
カイン「よく言われるんだ、でもボクはこれでも2億7500万と1532歳だよ。」
ターク「えええええええええ??」
306 :
K:04/08/09 13:29 ID:wdLf5YcW
カイン「ははは、驚いたかい?ボクはこれでも妻もいるし、子供も三人いるよ。子供はキミよりも
もっと年上だけどね。」
ターク「と、とてもそうには見えない…。」
カイン「子供っていいよね。ボクは子供好きだから、さっきキミが天界の使徒たちに
いじめられているのがガマンならなかったんだよ。」
ターク「……」
カイン「あぁそうそう、さっきキミが言ってた友達のことなら、たぶん77層部の北地区に
いると思うよ。天界のドラゴンが見張ってる。」
ターク「えぇ?!ほんとですか!」
カイン「うん、ボクの子供たちがさっき魔法で通信してきたんだ。」
ターク「ちょっと待って。77層部・北地区っていったら、ぼくがもともと目指していた地点だ。
そこでぼくの父さんが目撃されている記録があるんだった…。」
カイン「100年前に天界のドラゴンに倒された魔物のことかい?」
ターク「どうしてそれを…。」
カイン「坊や、77層部は危険なところだよ。それに天界のドラゴンがきっとキミを
待ち受けている。たぶんその友達を人質に取ってね。」
ターク「だとしたら急がなきゃ!みんなを助けてあげるんだ!」
307 :
K:04/08/09 13:34 ID:wdLf5YcW
カイン「まぁ待ちなって。これはおそらくワナだよ、ドラゴンの目的はキミの持っている
世界樹の花なんだ。たぶん友達と引き換えに渡せって言うと思うよ。何しろ天界は
何としてもキミのお父さんを復活させたくはないのさ。」
ターク「ちょちょっと待って…。お兄さんどうしてさっきからズバリズバリと言い当ててるの?!
なぜぼくが父さんを生き返らせようとしてることを知ってるの?!」
カイン「あ、ほんとだ。すごいな、ボク占い師に転職しようかな。」
ターク「……」
カイン「まぁとにかくさ、77層部は危険なところだ。ボクが一緒についていってあげるよ。」
ターク「え…。」
カイン「いいだろ?」
ターク「……」
308 :
K:04/08/09 13:35 ID:wdLf5YcW
このときタークは思った。
なぜ自分のしようとしていることを、この魔族はことごとく言い当てられるのだろうか。
まるでこの旅を今までずっと見ていたかのように、何でも知っているような口調だと。
突然現れて自分を助けてくれて、今度は77層部までついて行くと言う。
暗黒魔界の教訓・その二、‘誰も信用するな’
これは以前信用して一度失敗している教訓だ、今度こそ騙されるわけにはいかない。
親切そうな態度をしているが、けっきょく魔界の教訓は皮肉にも当たっているのだ。
しかし、それでもタークはやはり…
ターク「う、うん。わかったよ。お兄さん強いし…じゃあ一緒に行こう。」
カイン「ははは、じゃあ今からボクたちは仲間だね。」
ターク「……」
タークはまだ気づいていない、この魔族がカインだということを。
ターク「えっと…じゃあ地下層へ降りる穴をまた見つけないと。そういや地図どこやったっけ…。」
カイン「地図なんか不要さ、ここから東へ2000kmほど行くと一つあるよ。」
ターク「に…2000km…ガクッ。」
309 :
K:04/08/09 13:36 ID:wdLf5YcW
カイン「さぁ早く行こう坊や、急いでいるんだろ?」
ターク「う、うん。」
カイン「ボクにおぶさりなよ、そのほうが早い。」
ターク「え?…や、やめてよ。ひとりで歩けるってば。」
カイン「いいから早く、おぶさるんだ。」
ターク「な、なんで…。」
タークはカインの背におぶさると、カインは魔界の風を使い空中を浮遊した。
(ギィン!)――――ッグワ!
ターク「うわわ!な、なにこれ…!」
カイン「しっかりつかまってて、でないと落ちちゃうよ。」
そしてタークをおぶさったまま東の方へ向けて、一気に飛んでいった。
――――――ッキィィンン!!
ターク「ほげぇぇっ――!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
310 :
K:04/08/09 13:38 ID:wdLf5YcW
魔界62層部 中央区
カインはあっという間に次元空間の穴まで飛んできた。
ヒュッ――スト!
カイン「さぁ着いたよ。」
ターク「は、はや!もう着いちゃったのか…!」
カイン「この穴をくぐれば77層部に行けるよ。さぁ行こうか。」
ターク「う、うん…。」
そして二匹は穴へ入り、いよいよ魔界77層部へ向かうこととなる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
311 :
K:04/08/09 13:39 ID:wdLf5YcW
ぼくの夏休み PAGE16
魔界77層部 北地区
炎神「マスタードラゴン様、良くない知らせが。」
竜「何だ。」
炎神「先ほど他の使徒たちに魔法で連絡を取ってみたのですが、何も応答がないのです。」
竜「いかん…これはすでに殺られたかのもしれん…。」
炎神「しかしダーク三兄弟はこの辺りにいます。あの使徒たち三人を倒せる者が他に…。」
竜「カインと出会ってしまった確率が高い。もしそうだとしたら、おそらく生きてはいまい…。」
炎神「なんと…!」
竜「部下たちの魂まで破壊されていないことを祈る…。」
炎神「おのれ…カインめ…!」
竜「よせ、ヤツは放っておくしかないのだ。犠牲者が三人だけでも幸運だと思え。」
炎神「くっ…。」
間もなくやってくるタークを待つ竜と使徒。
だが彼らもまた気づいていない、タークは恐ろしい爆弾と同行していることを。
312 :
K:04/08/09 13:40 ID:wdLf5YcW
炎神「マスタードラゴン様、ときにタークは自分の父親がどこにいるか知っているのでしょうか。」
竜「おそらく分かってないだろう、エスタークの肉体がどこにあるかまではな。」
炎神「そうですな、まさかモンスターの子供が知っているはずありません。エスタークの肉体は
もはや魔界などにないということを…。」
竜「だが万が一ということもある。何しろ世界樹の花は魂と生命を復活させる、何としても
甦らせるわけにはいかん。」
炎神「恐れながら、このようなことを言うのも何ですが…。」
竜「何だ、言ってみろ。」
炎神「…もしも万が一、エスタークを復活させられてしまったら、そのときは?」
竜「……」
炎神「やはり勇者に任せるとおっしゃるのですか。」
竜「やむを得んだろう…。」
炎神「……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
313 :
K:04/08/09 13:46 ID:wdLf5YcW
ぼくの夏休み PAGE17
魔界77層部 中央区
77層部へたどりついたタークとカイン。そこはすでに瘴気の濃度が空気中に
色まで出ているほど、肉眼でそれが分かるほどだった。
ターク「うわっ…!す、すごい瘴気だ…。息が苦しいくらいだよ。」
カイン「なるべく大きく息をしないほうがいい、坊やにはこの層はまだ早すぎるからね。」
ターク「う、うん。」
カイン「さてと、北地区か…。あ、ここからならけっこう近いな。」
ターク「ねぇお兄さん、あのね…。」
カイン「なんだい。」
ターク「もうここでいいよ、あとはぼくひとりで行く。」
カイン「え?」
ターク「お兄さんまで巻き込みたくないんだ、これはぼくの問題なんだよ。」
カイン「……」
タークはこのときすでに、ある決心をしていた。
314 :
K:04/08/09 13:50 ID:wdLf5YcW
ターク「ぼく…決めたよ、もう父さん生き返らせるのはあきらめた。」
カイン「何だって?」
ターク「残念だけど…友達がつかまっちゃってるから、しょうがないや。」
カイン「待てよ、まさかドラゴンに花を渡すというのかい?」
ターク「うん。」
カイン「お父さんはどうなるんだ。もう二度と会えないかもしれないよ。」
ターク「だって友達が危険な目に逢ってるんだよ、それを見捨てるっていうの?」
カイン「……」
あれほど決意を固め、そのためにこの夏休みの旅を続けていたターク。
だが友達のため、その決心を変えることにした。
ターク「ぼくがいつか死んだら、そのとき父さんに会えるよね。でもぼくは今を大切にするよ…。
ぼくにとってかけがえのない友達なんだ…。」
カイン「……」
ターク「たったの二〜三日だけど、この夏休みでぼくの中の何かが変わったような気がするんだ。
…ぼくにとって、何か大切なものが生まれた気がするんだよ。うまく言えないけど…。
今ここで友達を見捨てると、一生後悔するような気がする…。」
カイン「……」
315 :
K:04/08/09 13:51 ID:wdLf5YcW
ターク「魔界の教訓なんてクソ食らえだよ、ぼくはみんなを助ける。」
カイン「そうか…。」
ターク「あはは、やっぱぼく人間の血が入ってるや。だから落ちこぼれ魔族なわけだ。」
カイン「……」
するとそれを聞いたカインは、タークの肩にやさしく手を置いて言った。
カイン「坊や…実はボクも昔ね、かけがえのない友達がいたんだ。」
ターク「え…。」
カイン「そいつとは仲良しでね、よく一緒に遊んだよ。もともとそいつは人間だったんだけど、
欲深かったのかな。ある秘術を使って魔族になったんだ。」
ターク「!」
カイン「そいつは魔族になってからも人間界で悪さをしてね、とうとう天界を怒らせて
殺されてしまったんだよ。」
ターク「……」
カイン「…けどボクはそいつを助けられなかった。いや、助けなかったんだ…。キミも
知っているだろ?暗黒魔界の教訓・その五、‘たとえ仲間であっても他人を助けるな。
自分の身を最優先に考えろ’。」
カインは滅多に話そうとしない昔話を、幼いタークに話し続けた。
316 :
K:04/08/09 13:52 ID:wdLf5YcW
カイン「もちろんボクだって天界の連中くらい相手にできるよ。けどね、悪魔は他人を助けない
ものなんだよ。神の摂理と同じように、これが悪魔の摂理ってことさ。」
ターク「お、お兄さんって…ま、まさか…。」
カイン「あいつが死んでから、まだ100年しか経ってないけど……今でもボクは後悔してるんだ。
どうして友達を助けてやらなかったんだろうって…。」
ターク「……」
カイン「確かにあいつは人間界では魔王だと嫌われていた。けどボクにとってはかけがえのない
友達だったんだ。そう、今のキミと同じように…。」
タークは何となく気づき始めた。今自分は誰としゃべっているのかと…。
カイン「実はボクも昔、人間だったんだ。だからキミとは考えが合う、これも人間の感情を
持っているせいだね。」
ターク「あの…。」
カイン「キミを見ていると昔のあいつを思い出すよ。友達を大切にするその感情、いつまでも
大事にしたほうがいい。ボクみたいにならないようにね…。」
ターク「そ、それでぼくを助けてくれたんですか…。」
これが先ほど天界の使徒たちを虐殺していた者には見えないほど、その魔族はまるで
人間の感情を持っているようだった。
317 :
K:04/08/09 13:56 ID:wdLf5YcW
カイン「死んだ自分の父親、かけがえのない友達、キミは迷いもなく生きている友達を選んだ。
それでいいと思うよ。……昔のボクも、本当はそうしたかった…。」
ターク「……」
カイン「キミはいい友達を持っている、いつまでも大切にね。」
ターク「は、はい…。」
カイン「さぁ行きなよ、友達が待っているんだろ。」
ターク「あ、ありがとう。カイ…い、いえ、お兄さん…。」
やがてタークは北地区へ向けて走っていった。その後姿を見守るカイン。
いったい彼は何を考えているのだろうか。
カイン「……」
だがタークが立ち去ったのち、カインは着ている袖の中から一つの花を取り出した。
カイン「……(ごめんよ、坊や。)」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
318 :
K:04/08/09 13:57 ID:wdLf5YcW
ここまでにしとこう。
けどこれなら今日中におわる!!
今夜さいごのうpします
ぼくの夏休み PAGE18
魔界77層部 北地区からおよそ2km地点
一方こちらは、天界のドラゴンたちに総攻撃を仕掛けようとしているダーク三兄弟。
しかし未だに動きが取れず、近くで待機しているだけだった。
ホープ「オイ兄貴、攻めるなら今しかねェぞ。ここを逃したらヤツらぶっ殺す機会が
なくなっちまうじゃねェか。」
ドレアム「いや、まだ動くな。」
ホープ「どうしてだ、せっかく天界のドラゴンまで魔界に来てるんだぞ。」
レヴン「そうよ兄さん、叩くなら今しかないわ。」
ドレアム「お前たちは気づかんのか…。父上が77層部に来ているぞ。」
ホープ「な、何?」
レヴン「まじで?!じゃ、じゃあなおさら…!」
ドレアム「その父上でさえ動こうとしない、何か考えがあるのかもしれん。」
ホープ「んなこと言ったってよ、親父っていつも何考えてるか分からねェからな。」
ドレアム「もし父上が攻撃を仕掛ければ私たちも行こう。だがそれまでは勝手な行動を
起こすわけにはいかん。」
ホープ「チィッ、しゃーねーな。」
レヴン「あーあ、たぶんパパったら人間だったころの悪いクセが出たのよ。きっと。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして魔界77層部 北地区
ベリアル「おいトカゲ野郎!いつまでオレたちを縛りつけておく気だ!」
バズズ「いい加減に放しなさいよ!どうせタークは来ないのよ!」
アトラス「うぉぉおおお…。」
竜「そうかな、では向こうからやってくる魔物は誰だ?」
ベリアル「え?」
炎神「フ、現れたか。昆虫の悪魔め…。」
ついに、タークが天界の竜たちの前に現れた。
ターク「……」
ベリアル「こ、このバカ!どうして来たんだよ!」
バズズ「ターク!逃げるのよ!あんたこんなとこ来たって何もできやしないんだから!」
アトラス「タ、タ、タタタタークくん…!」
竜「思った通りだ、来ると思っていた。」
ターク「……」
竜「聞くまでもないが、お前がタークだな。」
ターク「そうだよ。あなたはトカゲの親分さん?」
炎神「小僧!このお方を何者だと思っている!口を慎め!」
竜「よせ。」
炎神「はっ…。」
天界の竜は落ち着いた様子で、タークに話し始めた。
竜「タークよ、お互いの状況はもう理解しているはず。ゆえに手短に取引しよう。我らの目的は
お前の父親の復活阻止だ。そしてお前は世界樹の花を持っているはず、隠しても無駄だ。
おとなしくそれを我らに渡せば、お前の仲間たちを解放してやろう。」
ベリアル「おいターク!分かってるだろうな!絶対に渡すなよ!お前のパパと会えなく
なっちまうんだぞ!」
バズズ「そうよ!どうせこいつ、渡したとたんにあたしたちを皆殺しにする気よ!」
アトラス「うぉぉぉんん…わ、わ、わ、渡しちゃダダダダダメなんだな…。」
竜「タークよ、返事を聞こう。」
ターク「花は渡すよ、だからみんなを解放して。」
竜「まずはここに出すのだ、ものには順序というものがある。」
ターク「……」
ベリアル「おい!ターク…!」
タークは背中をまさぐり、世界樹の花を取り出した。
ターク「これがそうだよ、さぁみんなを解放するんだ。」
竜「炎神よ、花を受け取れ。」
炎神「はっ。」
やがて炎神の使徒がゆっくりとタークに近づき、世界樹の花を受け取った。
ベリアル「バ、バカ野郎が…どうしてオレたちのために…。」
バズズ「ターク…。」
炎神「フ、これでエスターク復活阻止の任務完了だ。(キィィン!)」
炎神は自ら炎を召喚すると、持っている世界樹の花を燃やしてしまった。
ッゴァァ!!
炎神「マスタードラゴン様、花は燃やしました。」
竜「うむ、ご苦労。」
ターク「さぁ約束だよ、みんなを解放するんだ。」
竜「よかろう。……おい。」
炎神「はっ。」
すると炎神はベリアルたちのそばへ行き、魔法で繋がれたクサリを外してやった。
(キィィン!)―――ッバキン!
炎神「フン、とっとと失せろ。悪魔ども。」
ベリアル「……」
バズズ「……」
アトラス「……」
炎神はようやくベリアルたちを解放した。だがしかし、天界のワナはこれより始まる。
竜「さて、これで取引は無事終了だ。…では次の任務に移る。」
ターク「?」
竜「タークよ、たとえ今ここで花を始末したところで、おそらく貴様は日を改めて
新たな世界樹の花を用意してくるだろう。ゆえに貴様を生かしておいては、
またエスターク復活をもくろむ。」
ターク「何だって…。」
竜「約束通り仲間たちは解放した、だが貴様を生かしておくとは約束してない。」
ターク「…!」
炎神「マスタードラゴン様、私にやらせてください。」
竜「よかろう、だが早めに終わらせろ。あまりのんびりともしていられん。」
炎神「一瞬で片付けます。」
ターク「!」
ベリアル「く、くそ!やっぱワナじゃねえか!あいつタークを殺す気だ!」
バズズ「もう!バカなことするから…!」
アトラス「タタタタークくん…!」
炎神「小僧!死ねィ!これが正義の力だ!(キィィン!)」
ターク「く、くそ…!」
炎神の使徒はタークに向け、聖なる灼熱の炎を放った。しかしそのとき…
ッゴァァーーーー!
ターク「くっ…!あ、あれ?」
炎神「何?!貴様ら…!」
竜「!」
なんとベリアル、バズズ、アトラスの三匹がタークをかばい、聖なる炎を止めていた。
ベリアル「うぐぉぉぉお!ま、まったく余計なことさせやがって…!」
バズズ「ちょっとターク!ボサッとしてないで攻撃しなさいよ!」
アトラス「うぉぉぉぉ…!」
ターク「み、みんな…!」
炎神「馬鹿な!悪魔が自分以外の者を助けるだと?!こんなことが…!」
それは悪魔だろうが人間だろうが、かけがえのない友情というものが、彼ら三匹の心を動かしていた。
ベリアル、バズズ、アトラスは、たった一匹の友達のため、身をはってタークを守っていた。
ベリアル「ぬおおおお!こ、これしきの炎でオレたちがやられるかってんだ…!」
バズズ「こ、今度こそ逃げないわ!悪のパーティー復活ね!」
アトラス「タ、タ、タ、タークくんを、たたた助けるときが来たんだな…!」
ターク「みんな…。」
炎神「こざかしい奴らよ!悪魔ごとき我の聖なる炎の勢いを止められるものか!」
炎神はさらに炎を強め、ベリアルたちに襲い掛かる。
ッゴァァ!―――――ッドヴァァァーーー!
ベリアル「うぐっ…!こ、子供だからってなめるなよ…!」
バズズ「あ、あたしだってパズス神の娘よ…!」
アトラス「うぉぉぉおおお…!」
ターク「よし!ぼくも力を貸すよ!」
やがてタークも加わり、四匹は力を合わせて聖なる炎を受け止めた。
ッゴァァァーーーー!!
炎神「こ、こんな…!」
ベリアル「頑張れ!もう少しでこいつを跳ね返せるぞ!」
バズズ「ぐぐぐっ…!」
アトラス「ぐぉぉぉ…!」
ターク「ぬあああああああ!」
彼らそれぞれ一匹では立ち向かえないだろうが、四匹が力を合わせて必死に戦っていた。
ベリアル「フルパワーだ!一気に跳ね返すぞ!」
バズズ「いいわ!」
アトラス「う、う、うん…!」
ターク「よーし!食らえ!」
そしてついに、タークたちは炎を跳ね返した。
―――――ッガォォンン!!
炎神「うげあああああああああ!!」
ゴァァァァーーーーー!
ターク「や、やった…!」
炎神の使徒は自らの炎に焼かれ、消失してしまった…。
ベリアル「はぁ…はぁ…か、勝った…。」
バズズ「つ、疲れたわ…。」
アトラス「うぐぅ…。」
ターク「はぁ…はぁ…。」
見事天界の使徒を倒したタークたち。しかし最後の大物が控えている。
竜「驚いたな…。子供とはいえ我が部下を倒すとは…。いや、それよりも悪魔にも
協力し合う友情があるとは…。」
ベリアル「ま、まいったな。まだ親玉が残ってるんだった…。」
バズズ「じょ、冗談じゃないわよ…あたしもう魔法力残ってないわ…。」
アトラス「ぐぅぅ…。」
ターク「……」
だがそのとき、この大修羅場に一匹の魔神がサワヤカな表情で現れた。
カイン「やぁ、どうもどうも。」
ターク「!」
竜「貴様!…(し、しまった…!ついにとんでもないヤツが…!)」
ベリアル「誰だこの兄ちゃん…。」
バズズ「な、何よこの緊張感まるでない色男は…。」
それは一部始終を見ていたかのように、カインはゆっくりと竜に向かって歩いてきた。
竜「な、何しに来たのだ。」
カイン「久しぶりだね、まぁそうかまえなくてもいいよ。」
竜「……」
カイン「もういい加減に帰ったら?どうせ闘う気もないんだろ?」
竜「あぁ…。」
カインと竜は、お互い誰だか理解しているように話している。
カイン「キミは他の使徒と違って少しは話せる。けどこれ以上この子たちに手を出すと
ボクも黙って見てるわけにもいかないなぁ。」
竜「くっ…!」
カイン「けど安心して、ボクが殺した使徒たちは魂まで破壊してないよ。だから今この子たちに
倒された使徒も含めて、半世紀もあれば天界で全員復活できるだろ?」
竜「ほぅ…貴様らしくもないな。」
カイン「このままおとなしく帰ればボクもキミを殺しはしない、今回は特別サービスだよ。
それとも戦争を始めようか?天界の軍勢を何千万と連れてきてもいいよ。」
竜「……」
カイン「けどこれだけは言っておくよ。エスタークの息子に手を出せば、たとえ何千万の
天界の軍団だろうと、片っ端から八つ裂きにして皆殺しにする。」
竜「…!」
天界の竜はカインを前に、「皆殺し」という言葉を発した瞬間、カインの笑顔の裏には
目の奥に、果てしない凶暴さと冷酷さを垣間見た。本気で天界を相手にするつもりだ。
その狂気なる幻魔デヴィル神の圧倒的なオーラを前に、竜は退却するしかなかった。
竜「わ、わかった…。今回のところは引き上げる…。」
カイン「うん、そうしたほうがいい。」
竜「だがこちらも言っておくぞ。たとえエスタークを復活させようと、人間界にだって
やがて育ちつつある勇者もいるということをな…。」
カイン「そうだね、ボクたちの戦争はまたの機会にしよう。」
竜「フン…せいぜい寝首を取られんよう用心することだ…。」
天界の竜はそう言うと、翼を広げて飛び去っていった。
グォォ!――――ッドン!!
カイン「……」
どうやら修羅場は一件落着し、タークはカインのそばへやってきた。
ターク「あ、あの…お兄さん。」
カイン「やぁ、また会ったね。ついてきてしまってごめんよ、やっぱりちょっと心配だったもんでね。」
ターク「い、いえ…。」
ベリアル「おいターク…その兄ちゃんは?」
ターク「あ、えっとその…。」
バズズ「?」
カイン「やぁキミたち、ケガはない?怖かっただろうね、もう大丈夫だよ。」
カインは子供たちの無事を確認し、改めてさわやかな笑顔で迎えた。
バズズ「な、何なのあんた?この大変なときにまるでサワヤカな顔してやってきて…。」
ターク「(ひぇぇぇ!カ、カインに向かって…!こ、殺されちゃうぞバズ…!)」
カイン「ははは、おじょうちゃん。パパは元気?そのうちまた飲もうって言っておいてね。」
バズズ「は?」
カイン「そっちの坊やもケガはなかった?」
アトラス「あ、あ、あ、うん。おおおおれ、ちゃんとタタタタークくんを、守ったんだな。」
カイン「うんうん、ちゃんと見てたよ。えらいねぇ。」
ベリアル「いやだから、兄ちゃん誰よ。」
この魔神がカインだということを、ベリアルたちに言う必要もないだろうとタークは思った。
だいいち言わないほうがいいかもしれない。やさしそうな顔をしているが、実は凶悪な魔神なのだから。
そしてその凶悪なカインはタークのそばへいき、やさしい口調で言った。
カイン「坊や、キミは本当にいい友達を持ったね…。」
ターク「うん…でも父さんを生き返らせれなかったけど…。」
カイン「大丈夫さ、世界樹の花で生き返らせようよ。」
ターク「無理だよ、見たでしょ?花は焼かれちゃったんだもん…。」
カイン「はっはっは、これのことかな?」
ターク「え…。」
なんとカインは世界樹の花を持っていた。
ターク「ど、どうして?!お兄さんも持ってたの?!」
カイン「いやーごめんごめん、実はあのときキミからこっそりと盗んじゃったんだ。代わりに
ニセモノの花をキミの背中に入れておいたんだよ。」
ターク「?!」
カイン「どうせ天界の連中は花を始末するだろうと思ってたからね。勝手にすり換えてゴメンよ。」
ターク「ってことは…ってことは…焼かれたのはニセモノの世界樹の花?!」
カイン「そうさ、これがキミの持っていた本物の花だよ。」
ターク「……」
ベリアル「おい、いったい何の話だ?」
バズズ「さぁ…。」
アトラス「ぐごぉぉぉ。」
カインは最初からタークをずっと見守っていたのだ。昔の自分の、大切な友人の息子なのだから。
カイン「坊や、今のうちに言っておこう。ちょっとつらいことかもしれないけど。」
ターク「?」
カイン「キミのお父さんはこの77層部どころか、実は魔界にはもういないんだよ…。」
ターク「えぇ?!」
カイン「彼は本当は人間界にいるんだ。…いや、正確に言えば肉体だけがね…。」
ターク「??」
カイン「確かにキミのお父さんと天界のドラゴンは、100年前に壮絶な戦いをしたよ。けどそれは
けっこう長引いてね、結局キミのお父さんが最後の激戦を繰り広げたのは、人間界へ
逃走してからなんだ。彼は人間界で死んだんだよ…だからもうこの魔界にはいないんだ。」
ターク「そうだったんだ…。じゃあ肉体がなければ、花も使いようがないね…。」
カイン「大丈夫さ、予定どうり世界樹の花でキミのお父さんの魂を呼び戻そう。
…さぁ坊や、世界樹の花を貸してごらん。」
ターク「う、うん…。でもどうやって…?」
カイン「じゃじゃーん。これなーんだ。」
ターク「?」
カインはふところから「エスタークのキバ」を取り出した。
ターク「なにそれ?」
カイン「キミのお父さんの肉体の一部を持っておいてよかったよ。これはボクがずっと
大事にしていた形見なんだ。」
世界樹の花というのは、必ずしも肉体全部に捧げなくても魂を呼び戻すことができる。
それはわずかな細胞一つでも残っていれば、魂を呼び戻すことが可能なのだ。
カイン「えーと、これに花を捧げて…。よし、これでOK。」
ターク「これで父さんが生き返るの?」
カイン「うん、でもここじゃなくて人間界で復活するよ。さっきも言ったように
彼の肉体は人間界なんだ。」
ターク「そ、そうなんだ…。」
カイン「まぁそうガッカリしないで。呼び戻した魂は、あっという間に肉体へ帰ってしまうけど
会えなくなるわけじゃない。」
ターク「うん…そ、そうだね。」
やがてエスタークのキバから、花を通じて魂が帰ってきた。
ッキィィィーーーンン!…!
そして魂はあっという間に飛び去り、魔界の空へ向けて消えていった。
カイン「うん、成功だ。」
ターク「えぇ?これだけ?今ので父さん生き返ったの?」
カイン「もちろん。間もなく人間界は大騒ぎになるよ、魔王が復活したってね。」
ターク「……」
カイン「ははは、自分の父親が復活したのに実感沸かないかい?」
ターク「だ、だって…父さんと話できるかと思ってたから…。」
カイン「あきらめちゃダメだよ、いつかきっと会えるときが来るさ。」
ターク「うん…。」
タークは少し寂しそうな表情をして、改めて自分の父親の存在意義について考え始めた。
なぜ自分の父親は人間から魔族に転生したのか、何が彼をそうさせたのか、そしてなぜ
殺されなければならなかったのか。謎の多い父親だが、この際それはもうカインに聞くまい。
それよりも自分にとって、もっと重要な疑問がある。
それはタークが 今の今まで 心の奥に封印していた 最大の謎だ。
ターク「あのね、お兄さん……これ、あなたが知ってるかどうか分からないけど…。」
カイン「なんだい。」
ターク「ぼ、ぼくのお母さんって……いるの?」
カイン「!」
母親は誰なのかとは聞かず、母親はいるのかと聞いたターク。
その質問をしたとき、一瞬カインの笑顔が止まったような気がした。
まさか母親のことまで知ってるというのか。
…しかしカインはすぐに笑顔に戻り、子供を言い聞かせるようにやさしく言った。
カイン「…さぁさぁ、もういい加減に帰りなよ。子供は家に帰るものだよ。」
ターク「う、うん……。」
最大の謎はあっさりと流され、タークは再び母親のことを心の奥深くに封印した。
所詮どこの世界でも、子供が聞いてはならぬこともあるのだろう。
するとカインは少し目をそらしながら、言いにくそうにつぶやいた。
カイン「いつかキミが大きくなったとき、またボクに会いにおいで。そのとき話してあげるよ…。」
ターク「……」
カイン「キミはまだ子供だ、過去のことよりも今を大切に生きたほうがいい。」
ターク「うん……。」
カイン「言ってただろ?キミはこの夏休みの間、いったい何が変わったんだい?」
ターク「あ…。」
カイン「そうさ、今のキミには……ほら、あそこを見て。」
カインはタークの肩に手を置きながら、向こうで待ちくたびれているベリアルたちを指さした。
そう、そこにはかけがえのない友達がいた。
ベリアル「おーい、どうでもいいけどよ、早く帰ろうぜ。」
バズズ「あたしおなかペコペコなのよ、なんか食べさせなさいよね。」
アトラス「タタタタークくん、い、い、一緒にかかか帰ろう…。」
ターク「みんな…。」
カイン「そう、大切なものはすでにキミの目の前にあるんだよ。たとえお父さんがいなくても
キミは決してひとりじゃない。あんなにいい友達がいるじゃないか。」
ターク「うん……。」
カイン「お父さんにはいつでも会える、けど友達はいつかは離れていくかもしれない。
だから今のうちにたくさん遊んでおくんだ。」
ターク「お兄さん…本当にありがとう。ぼく…」
カイン「おいおい、こんなことで泣くなよ。男の子だろ。」
多くのモンスターを殺し、多くの天界の住人を殺し、魔界で恐れられている悪魔カイン。
しかしタークにとって、それは恐ろしい悪魔の神とは思えなかった。
カインはタークをまるで自分の小さいころを思い出す感覚だったのだろう。
ターク「じゃあお兄さん、最後にこれだけ聞かせて…。それだけ聞いたら帰るよ。」
カイン「?」
ターク「あのね…ぼく実は父さんの名前知らないんだ。さっきお兄さん竜と話してるとき言ってたよね。
エス…エスなんたらって。」
カイン「お父さんの名前はエスタークだよ。よく覚えておきなよ。」
ターク「エスターク…かっこいい名前だね。」
カイン「キミも誇りに思ってほしいな、彼はボクの大切な友達だし。」
初めて自分の父親の名を知ったターク。幼い少年はその名を胸に刻み、この日を境にある決心をした。
ターク「うん…わかったよ。エスタークだね、じゃあ父・エスタークの名にかけて、
ぼくもりっぱな魔族になるよ!」
カイン「うん、その意気だ。」
ターク「ほんとにいろいろありがとう、お兄さん!」
カイン「さ、行きなよ。」
タークはベリアルたちのそばへ行き、改めて友達という輪の中でうれしそうな表情をした。
ベリアル「おいターク、あの兄ちゃんと何を話してたんだ。」
ターク「ははは、何でもないよ。」
バズズ「なによー、内緒話?いやらしぃわね。」
アトラス「タ、タ、タークくん。ケガはない?」
ターク「だいじょうぶだよ。だってみんなが助けてくれたんだもん。…ほんとにありがとう、みんな。」
ベリアル「ケッ、勘違いすんじゃねーよ。オレは宿題のために使徒を倒したんだ。」
バズズ「あら、あんたがあたしたちを先導したんじゃなかったっけ。」
ベリアル「そんな覚えねーな。」
ターク「なになに?何の話?」
バズズ「あのねターク、あのときベリアルがあんたを真っ先に助けようとしたのよ。」
ターク「ほんと?」
ベリアル「う、うるせーな。」
バズズ「‘おいお前ら、ボサッと見てないでタークを助けるぞ!’ってね。」
ターク「ははは…ありがとう、ベリアルくん。」
ベリアル「ふん、お前には借りがあったからな。でもこれでチャラだ。」
悪魔の子といえど、そこには確かな友情の絆があった。
魔族の少年たちといえど、そこには小さな悪魔のパーティーがあった。
幼い四匹の魔族の子供たちは、お互いの無事を確認し合い、それを眺める悪魔の神が
ふと昔のことを振り返る。
カイン「(見てるかいエスターク……。キミの息子はとてもいい友達を持ったようだ…。
まるで昔のボクたちを見ているようだよ…。)」
やがてターク、ベリアル、バズズ、アトラスの四匹は、カインに別れを告げ
元の層部へ帰っていった。
/
ターク「さよならー!」
ベリアル「じゃーな、兄ちゃん。」
バズズ「バイバーイ。」
アトラス「ささささよなら…。」
カイン「気をつけて帰るんだよーーーー。」
さわやかな笑顔でタークたちを見送るカイン。しかしさすがに少し寂しそうな表情をした。
カイン「……(さよなら、坊や…。)」
やがて彼らが見えなくなるまで見送ると、カインは元の悪魔カインに戻りつつあった。
カイン「……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カイン「さぁてと……。いつまで隠れている気だい?」
カイン「早く出てこないとパパ怒っちゃおっかなー。」
すると茂みの影から、ダーク三兄弟が現れた。
ホープ「わ、わかったよ親父。頼むからキレないでくれよ…。」
レヴン「やーん、パパったらとっくに気づいてたのね♪」
ドレアム「……」
カイン「気配を消してもムダだよ、おまえたちさっきからずっと見てたんだろ?」
ホープ「か、かなわねェな…。」
ドレアム「父上、天界のドラゴンの始末は…。」
カイン「まぁまた今度にしよう、今日はパパ機嫌がいいんだ。」
ホープ「な、なんか今日の親父、ちょっと変だぞ…。」
レヴン「ほんとね、まるでいつもに増して子供みたい。」
ドレアム「……」
カイン「はっはっは、パパだってまだまだ若いぞ。遊びたい年頃なのさ。」
ホープ「……(2億7500万と1532歳の遊びたい年頃って、どういう年頃だ?)」
カイン「あ、ところでリリスは?」
レヴン「ママなら家にいるわよ、早く帰らないとうるさいわ。」
カイン「よぉーし、じゃうちまで競争だー。」
ホープ「オイオイ親父、頼むからそのガキっぽいノリやめてくれよ。あんた幻魔デヴィル神だろ。」
レヴン「とても見えないわね、そんな悪の神なんて…。」
ドレアム「……」
カイン「さぁ行くぞー!パパについてこれるかなー?」
レヴン「はいはい、今いくってば。パパ♪」
危うく天界と戦争まで引き起こしかけた今回の戦い、だがとりあえず火の粉は静まったようだ。
カイン率いるシルバニアファミリーは、77層部の奥深くへと消えていった…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
,
そして一方、こちらは復活したエスタークの魂――――――
――――――人間界 アッテムト 地下洞窟内にて
エスターク「我が名は……我が名は……エスターク……」
エスターク「むぅ……それしか覚えてないとはどういうことだ……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
&
魔王デスパレス神殿
ピサロ「諸君!たった今情報が入った、帝王エスタークが復活したそうだ!」
ベビーサタン「おぉ!ついに!ついに復活なされたと!」
ピサロ「人間の手で掘り起こしたアッテムトなる地下洞窟にて、エスタークの魂が帰ってきたのだ!
諸君!ついに我が魔族の時代がやってくるときがきた!アッテムトへ急行せよ!
我が魔王エスタークを迎えるのだ!」
*「おぉーーーー!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
天空の城
部下A「マスタードラゴン様…。」
竜「分かっている、ついに復活してしまったようだな。やむを得ん…。」
部下B「勇者一向も気づいているでしょう、あとは彼らに任せましょう…。」
竜「フン、カインの奴め…。この借りはきっと返すぞ。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○月◆日 (溶岩/くもり)
ついにぼくは 父さんを生き返らせることができました。たぶん。
この旅も もう終わりです。家に向かいながら、今この日記を書いてます。
たった四日間の旅だったけど、ぼくにとって何ヶ月にも感じた旅でした。
けど夏休みはまだ始まったばかり、残りの日をどうやって過ごそうかなぁ。
とりあえず宿題も終えたことだし、みんなと一緒に遊ぼうかな。
父さんには会えなかったけど、ぼくはこの旅で、とっても大切なものを
手に入れました。それは、かけがえのない友達です。
いつかどこかで、生き返った父さんに会いたいな。それまで生きているといいけど。
いや、きっと会える。信じています。それまでにぼくも、りっぱな魔族になるぞ。
_|ゝ'"´`"'':、
へ,' ● ゙:,
'. ,' 父・エスタークの名にかけて―――――
ヽ. ノ゙゙゙フ
', ´_.ィ"゙>
ゝ、._ _.ィ′
ヽ.ノ  ̄,.ゝ'
` ´
第四章 〜父を求めて〜
完
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
終わったのでしょうか・・・・
ぼくの夏休み PAGE19
<エピローグ>
それから一ヵ月後――――魔界27層部 東地区 タークの家
エッグラ「おいガキ、そろそろ時間じゃないのか。」
ターク「そうだね、じゃぼちぼち行こうかな。」
チキーラ「ほー、今日からもう学校始まるのか。」
ターク「宿題もできたし、堂々と登校できるよ。」
エッグラ「なんだてめえ、最近やけに成長したような気がするな。」
ターク「えへへ…。」
チキーラ「親父さんを生き返らせてから、まるで脱皮したように成長したな。学校いくのが
そんなにうれしいか?」
ターク「当たり前だよ、だって友達がいるもん。」
エッグラ「そりゃ良かったな、早いとこ自立してお前もここを巣立ってくれ。おれたちゃ
ガキのお守りはもう飽きた。」
ターク「ははは、卒業したらこの家も出るよ。もうちょっとガマンしてね。」
チキーラ「ターク、てめえ今日こそ聞かせてもらうぞ。タマゴとニワトリどっちが好きだ。」
ターク「またそれ?きりがないよ…。」
エッグラ「それがイヤなら新しいジョークを聞け、これはもう超傑作だぞ。」
ターク「え、えっと…ぼく遅刻しちゃうから、学校から帰って聞くよ。」
エッグラ「だめだ、今聞け。」
ターク「いってきまーす!」
チキーラ「てめえ!待ちやがれ!」
エッグラとチキーラの二匹は、タークの卒業とともに新たな世界樹を求めて旅立った。
もともと住んでいたタークの家は、あと250年ほどかかるので、彼らはその間
別な世界樹を探しに旅立ったのである。
子供はいつしか親元から離れていくもの、タークはもう子供ではなかった。
一方、人間界ではエスタークが復活したことにより、魔王降臨の非常事態となる。
だが天空の血を引きし勇者が現れ、導かれし者らによって、エスタークは再び倒される。
昔のような強大な力も残ってないエスタークは、その後天界によって再び魔界へ堕とされ
深い眠りについた。
そしてタークは―――――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
___
/│ ̄ ̄ ̄| キーンコーン
│.| | カーンコーン
| | |
ミミ皿皿皿皿皿皿皿皿皿| |皿皿l ̄ ̄ ̄l皿皿皿_
ミミ彡ミミミ 田 田 田 田 .| /| |
ミミミミ彡彡ミ .| / | |皿皿皿皿皿
ミ彡ミミミ彡ミミミ 田 田 田 .|/ | | |
ミミミミ巛彡ミミ | .| |田 田 田│
ミ彡彡ミミミミミミ ≡ / | ̄ ̄ ̄ ̄| | │
ミミミミミミ彡ミミ二 三三 | | ---‖ | ̄ ̄| | ̄ ̄| | 三 三|
| ::;;:;;; 三三 三三 | | ┌─‖ |┐ ,| | .| |_三二 三二
| ;;:;::;;;;;;;;;;: | | | | ヽ |__| ‖ |│_| ,|____| | . || ||;;;;;;;
|二二二二二二二二二|  ̄‖_|;;;;;;;;;;;|_|;;;;;;;;;;|__|:::
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
教師「みなさん、おはようございます。」
ターク「おはようございまーす!」
教師「元気でしたか?久しぶりにみなさんに会えて先生はうれしいですよ。」
ベリアル「ちぇ、けっきょく宿題できなかったぜ。天界の使徒一人しか倒してねーもん。」
バズズ「ばーか、あたしなんかどうなるのよ。人間一人も食べてないんだから。」
ブォーン「お前らもか?おれもルドルフをぶっ殺せなかったんだよ。やべーな、先生に
怒られちまう…。」
やがて次々に生徒たちが宿題を提出していった。
教師「ほぅ、見事に咲きましたねー。アトラスくん。」
アトラス「は、は、はい。おおおおれ、ま、ま、毎日いっしょうけんめいお水を…。」
教師「美しいマンドラゴラの花を咲かせたあなたに、ごほうびに点数を上げておきましょう。」
アトラス「えへ、えへ、えへへ。」
教師「それに引き換え、あなたたち…。」
ベリアル「ぎくっ…。」
教師「ベリアルくん、天界の使徒のほうは?」
ベリアル「あ、その、一人倒したんだぜ。本当だよ!」
教師「バズズさん、人間100人食べましたか?」
バズズ「あ、は、はい。もう食べ過ぎて最近太っちゃって…。」
教師「ブォーンくん、ルドルフのほうは?」
ブォーン「えっとその…やつらツボを使っておれを封印しようと…だから…。」
教師「見え見えのウソは感心しませんね。あなたたち三匹とも廊下に立ってなさい。」
ベリアル「ガクッ…。」
バズズ「あーあ…。」
ブォーン「……」
教師は次にタークの席の前へやってきた。
教師「タークくん。」
ターク「うん!ちゃんと父さんを生き返らせたよ!」
教師「あれほど注意したにもかかわらず、77層部の危険地域へ行ったそうじゃないですか。」
ターク「だ、だって父さんを生き返らせるために…。」
教師「ほほぅ、ではどこにいらっしゃるのでしょうか。あなたのお父さんは。」
ターク「えーと、その、たぶん人間界に…。」
教師「あなたも廊下へどうぞ。」
ターク「そ、そんな…。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ぼくの夏休み PAGE20
(⌒ヽ、 (⌒ヽ、
( ) , ⌒ヽ ( )
ゝ ヽ ( .' ( ヽ
( ) ゝ `ヽ(
ゝ `ヽ,( (
( ) )
ベリアル、バズズ、アトラスの三匹は卒業後、さらに進学して魔神の道へ進むことになる。
タークは卒業後、再び父親捜しの旅に出ていったため、この三匹とはそれっきり会わなくなってしまった。
その後タークは魔界6層部にて、ある人間の家族と出会い、新たなパーティーができることとなる。
そしてついに眠っていた父親との対面を果たすことになるが、やはりエスタークは記憶が消えていた。
ベリアル「おいターク、休み時間に外で魔神ごっこしようぜ。」
ターク「うん!アトラスくんもいこう。」
アトラス「う、う、うん。」
バズズ「やーね、男の子って。そんな遊びどこが面白いのかしら。」
ベリアルはその後、魔界の皇太子・ベルゼバブの目に止まり、その能力を買われて配下となる。
それからというもの、ベリアルは数々の悪行を人間界で行うようになった。
中でもソドムとゴモラの町に疫病を撒き、あらゆる犯罪行為を人間に感染させ、
同性愛や獣姦を流行させたりした。ソドムとゴモラの町は、あっという間に無法地帯と化した。
’
ベリアル「ターク、お前勇者の役な。」
ターク「えー、またぼく?たまには魔神の役やらせてよー。」
この事件がきっかけにより天界の怒りを買い、天罰が下る。
神はソドムの町に住んでいたアブラハムの甥である正直者の「ロト」を残し、残りの住人を
町ごと焼き払った。さらにその事件の首謀者であるベリアルは、神によって天罰が下る。
美しい姿をした悪魔ベリアルは、神によって無残な醜いバケモノに変えられたのだ。
バズズ「アトラス、あんたまた花つみ?男の子のくせに…。」
アトラス「えへ、えへ、お、お、お花すきなんだな。」
だがその後もベリアルはバズズ・アトラスと共謀し、大神官ハーゴンという者を騙し、
破壊の神を召喚させようとした。しかしこれに対抗したロトの子孫たちによって
ベリアル、バズズ、アトラスの三匹は、ついに倒されることになる。
結局タークにとって、かけがえのない友達との思い出は、この夏休みだけだった。
ベリアル「なぁなぁ、新しい悪のパーティー名を考えようぜ。」
バズズ「んじゃ今度こそプリンセス・バズズよ。」
誰しも友達はいるだろうが、いつかは離れ、そしてまた新たな友達ができる。
もしも幼い頃の友達が、今もなお友人としての付き合いがあれば、それはかなりの幸運者だろう。
ターク「ねぇねぇ、だからぼくのも聞いてよー。」
ベリアル「却下。」
なぜなら友情の絆は深くても、いつかはそれが、たいていは思い出となってしまうもの。
アトラス「お、お、お、おれも、パパパパーティー名、考えたんだな。」
バズズ「まさかネームまでドモってんじゃないでしょうね。」
だが父親捜しの夏休みは、忘れられない思い出となり、タークの胸の中にいつまでも残った。
ターク「あはははは!アトラスくん!そんなかっこ悪い名前やだよ!」
ベリアル「やっぱお前、馬やっとけ。」
アトラス「あぅぅ…。」
それは人間だろうが悪魔だろうが、誰しも同じような経験があるかもしれない。
'
ターク「よーし!じゃぼく今度はカインの役だ!」
ベリアル「じゃオレ、ベルゼバブの役な。」
いつか大人になるころ気づき始める それがどれほど貴重で 二度と戻らないものだったかを。
バズズ「ねぇねぇ!あたしたち四匹、これからもずっと一緒よね!」
アトラス「う、う、うん。い、い、いつまでもずっと…。」
おさなごころの 遠き昔の 思い出を胸に……
ターク「いくぞー!父・エスタークの名にかけて!」
ぼくの夏休み
完
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
<ぼくの夏休み 物語登場モンスター>
ターク
ベリアル
バズズ
アトラス
ブォーン
バラモス
カイン
ドレアム
ホープ
レヴン
マスタードラゴン
エッグラ
チキーラ
。。
○゚
。。
。。゚○
○゚ 。。
゚○
_____ 夏休みなので夏休みを使いました。そのままです。テーマは「友情」です。
|___†_|
( ・∀・) 映画「菊次郎の夏」のようなほのぼのを描きたかったのに、魔界が舞台だと
(| ╋ |) どうしても戦いぬきの展開は無理がありました。
そこで趣向をちょっと変えてドラクエ版「スタンド・バイ・ミー」にしました。
もしも読んでくれた人の中で、こういうものに共感してくれる人がいてくれたら本望です。
誰しも幼い頃は、そのときだけのかけがえのない友達がいただろうし…。
DQUに登場するベリアル、バズズ、アトラスの三匹は、もちろんゲーム上では
天空シリーズとは関係ないと思います。タークの友人として彼らを登場させたのは
この物語のためだけです。勝手にごめんなはい。
あとエスタークの昆虫説も勝手に作ったものです。人間だったころのエスタークの
エピソードを書いてみようと思って、エスターク誕生秘話も書くつもりでした。
しかしカインの回想シーンで登場させようと思ったけど、やたら長くなるし
タークの夏休みに関係ないと思い、けっきょくカットするしかなかった…。
これはこれで、また次の機会にまわしてもいいか…。
ともかく読んでくれた人たちに感謝。支援書き込みありがとうございました。
楽しい夏休みをお過ごしくだはい。
owattaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
otukaremasadesita
終わったようですね・・・・
やっぱり昨日からリアルタイムで見てましたが、やはりいいですね。
このごろひねくれた話ばかり読んでたので王道系(?)を読むと原点を思い出します。
>>583あたりの友達についての話は思い当たる事があるから、ちょっとくるものがありますね。
いやはや、いいものを読ませてもらいました。ありがとう!
ここってFFのSS載せていいのかな・・・?
Kさんお疲れさまでした。今まではかなりシリアスな話が多かったと思うのですが、
こういうほのぼのした感じの話もいいものですね。それでいてその中にしっかりとした
テーマを織り込んでいて、それをしっかりと描いているのがさすがだな、と思いました。
いや、本当にいい話ありがとうございました!
Kさん乙。今回も楽しませてもらいました。
しかし、シルバニアファミリーにワラってしまった。
読んでる間、メルヘンな動物の人形が頭にチラついて
微妙に集中できなかった・・・w
支援 26!
Kさん、本当にお疲れ様でした!!
時間が無くて、やっと今読み終えたんですが、
よよよよかったんだな!
すっかり、アトラスくんのファンになってしまいました。
すごく、楽しかったです。
そして、支援という形で、少しでもKさんに協力できたのが嬉しかった。
またうpする時は、教えてくださいね。
次回作、楽しみに待ってます。
∧_∧
(´・∀・`) 次はちょっと怖いサスペンスものを投下 主役はフローラ
(_⌒ヽ
,)ノ `J
!!あ、あなた様はもしや、DQギャルゲースレ初代GMの天沼先生でつか!?
ありがたやありがたや・・・。
ワクワク・・・
/
/
∠二ヽ二ヲ
〔(・∀・〔=□〉 あさって19日の木曜日にサスペンス劇場を投下します
@ @ @ 時間はちょっと分からないのでまたのちほど
だいじょうぶだとは思うけど日が変更される可能性もありです
できたにはできたけど、今回のはだいぶ過激だな・・・
だれかいますか
377 :
天沼 ◆jIGM/KlEM2 :04/08/19 21:58 ID:FtHJUnyC
ittann agesasetene
だれもこない・・・しかたない、一人でがんぼろう
おっ奇遇だ!
支援するよ!
【おわび】
この物語は、DQ5のキャラクターを使った現代版のエピソードですが
今回は内容がかなり過激になってしまいました。
書いた本人もこの物語を投稿するにあたって、何回か迷って
ボツにしようとも考えましたが、思いきってアップすることにしました。
今回は前作「ぼくの夏休み」のようなほのぼのとしたものとは180度一変して、
かなり卑猥な言葉や暴言が含まれています。
サイコサスペンスの嫌いな方、またはキャラのイメージを大切にしている方へ
あらかじめここでお詫びを申し上げます。
<プロローグ1>
【選択】
@えらぶこと。適当なものをえらびだすこと。良いものをとり、悪いものをすてること。
「好きなものを――する」「取捨―」
A選択科目の略。
【選択肢】
多肢選択法において、正答を含めて設けられたいくつかの項目。
<プロローグ2>
――――人生は選択肢だという。
学校、職業、恋人、結婚など、普通に生活していても、たえず選択肢がつきつけられるもの。
右の道から行くべきか、それとも左の道を行くか、または後ろへ引き返すか。
進学にしても学校を選び、就職にしても会社を選ぶ。
人は絶えず選択肢の中から、少しでも正解の道を選ぼうとする。なぜなら誰しも人生の道を
間違えたくないからだ。
それがたとえささいなことでも、真剣に選ぼうとする。
・携帯を買い換えよう。ドコモにするか、auにするか。
・部屋のカベ紙を張り替えよう。ブルーにするか、グリーンにするか。
・AVを借りよう。アイドル系にするか、マニアック系にするか。
もし女性の方がこれを読んでいれば、仮にあなたに縁談の話がいくつかあったとする。
そのときあなたは男の写真を見比べて選ぶか、それとも年収の数字を比べて選ぶか。
両方を比べて決めるにしても、結局は男を選択している。
<プロローグ3>
ドラゴンクエスト5で登場するビアンカ&フローラ。
迷いもなくビアンカを選ぶ者、お嬢様のフローラを選ぶ者、どちらも捨てがたい選択肢かもしれない。
ゲームとはいえ、この例はうれしい選択だろう。
だが人には誰しも‘運命の赤い糸’というものがあるそうだ。
単に迷信に過ぎないが、人は自分に見合った結婚相手が生まれたときから決まっているという。
この選択を間違えるといったいどうなるのか、またはこの選択を面白く思わない輩が出現したら?
今から紹介するある一人の新婚女性。彼女はたった一つの選択肢を選んだために
最も恐ろしいゲームを仕掛けられることになる。
――――それは 何の前触れもなく 突然やってくる――――
game-DQ@ne.jp
game-DQ@ne.jp PAGE1
<Lv1:真夜中の電話>
ある街の一角、ある住宅街の一角、ある新婚夫婦のマンションにて一本の電話が鳴る。
プルルルル……プルルルル……
フローラ「誰かしら、こんな夜中に…。」
すでにベッドに入ろうとしていた女性は、少々面倒くさそうに受話器を取った。
ガチャリ
フローラ「…はい、もしもし?」
*「やぁ、こんばんは。」
それは変声機を使ったような奇妙な声だった。
フローラ「?どなたかしら?」
*「キミの声はとてもきれいだ、声優になれる。」
フローラ「は?」
*「AVの世界でもきれいな声は売れる、キミはその美しい声を売るべきだ。」
フローラ「……ちょっと、イタズラ電話はやめてください。」
ガチャ!
フローラ「まったく…どこの変態かしら。」
しかしすぐにもう一度かかってくる。
プルルルル……プルルルル……
フローラ「もう…。」
ガチャリ
フローラ「…もしもし?」
*「いきなり切るなんてひどいな、キミと話したいだけだよ。」
フローラ「あの、いったいどなたですか?主人は今夜留守で…。」
*「キミの旦那に用はない。ボクが誰?なんてこともどうでもいい。それよりもボクが
キミを‘どれだけ知っている’かが重要だよ。もう切らないでね。」
フローラ「……??」
*「人は誰しも自分という人間をあまり知らない、意外に他人が知っている部分もあるのさ。
ボクはキミが自分で気づいていない部分をたくさん知っている。」
フローラ「な、何をわけの分からないことを…!」
*「生まれは豊かで幼い頃から何一つ不自由なく育ったキミは、お嬢様ぶってはいるが
内心はいつも何かに怯えている。そしていつも何かを求めている。違うかな?」
フローラ「だ、誰なんですかあなたは!いい加減にしてください!」
*「例えばキミは男の価値を顔や金で決めないタイプだ、そういうところにはすごく好感が持てる。
金も地位もないただの男と結婚したのも性格のせいかな?それとも彼は立派なモノを
持っていたとか?キミは性的欲求不満の兆候があるね。」
フローラ「なっ…!」
ガチャン!
フローラ「……」
さらに電話は再びかかってくる
プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……
ガチャリ
フローラ「……」
*「フローラ、少しは認めてくれても罪にはならない。自分という人間をもっと知るべきだ。
もう一度言う、頼むから切らないでくれよ。」
フローラ「どうして私の名前を…?!」
*「言っただろ?ボクは何でも知っている。キミは先日、盛大な結婚式を挙げて新婚ホヤホヤだ。
だが今夜は旦那は仕事で留守。キミ一人ってわけだ。」
フローラ「だ、だから何だって言うんですか!」
*「それだけじゃないよ。キミの生まれ、職業、携帯番号、メルアド、好きな食べ物、好きな芸能人、
好きな服、そして今キミが履いている下着のメーカーまでボクは知っている。」
フローラ「ちょ、ちょっと…いい加減にしないと警察を呼びますよ!」
*「キミの生理の日も知っているさ、予定より一週間ほど遅れているだろ?それで機嫌が悪いのか。」
ガチャン!
フローラ「……」
プルルルル……プルルルル……
フローラ「(ま、また……いったい誰なのかしら…。)」
プルルルル……プルルルル……ガチャリ
フローラ「もしもし!」
*「何だよ、切るなって言ってるだろ。まだ話は終わっ…」
ガチャン!
フローラ「な、何なのいったい…!」
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プルルルル……プルルルル……
フローラ「!」
プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……
フローラ「(やだ……もういい加減にして…。)」
ガチャリ
フローラ「もしもし!いい加減にしないと本当に警察を…!」
*「オイ!切るなと言ってんだろ!!何回言わせんだテメェ!金属バットで子宮にファックされてェか!
今度電話を切ったらその上品ぶった穴を街より広げてやる!!」
フローラ「……!」
*「…そうそう、それでいいんだよ。ボクのフローラ…。」
フローラ「あ、あの…お、お願いですからもうやめてください…。」
*「何を怖がっているんだい、話をしたいだけだよ。」
フローラ「話なんてありません!イタズラ電話はやめてください!」
*「イタズラとは心外だな、ボクは本気さ。この世の誰よりもキミのことを愛しているのに…。」
フローラ「うぅ…お願いだからやめてください…。」
*「何だ、こんなことぐらいで泣くなよ。どうもキミはお嬢様すぎる、もっと精神的に強くならないと
この世の中で生きていけないよ。」
フローラ「うぅ…。」
*「よしよし、いいコだから泣かないで。ボクがなぐさめてあげるよ。どうしたんだいフローラ?
何を泣いてるの?旦那にいじめられたのかい?ボクがとっちめてあげるよ。」
フローラ「……」
*「じゃあキミを元気づけてあげるために、ちょっとしたゲームをしようねー。」
フローラ「……」
だがフローラは受話器を持ったまま、テーブルの上にある携帯を取った。
*「ははは、携帯で警察に電話を?しかしやつらトロいからなぁ。」
フローラ「!(ど、どうしてわかっ…?!)」
*「フローラ、キミは不安になるとすぐ髪をいじるクセがあるね。今も右手で髪の毛を触っただろ?」
フローラ「!!」
*「不安になると髪をいじり、寂しくなるといきなり部屋の掃除を始める。女の子ってフシギだよね。」
フローラ「(ど、どこから見てるの…?!)」
フローラは受話器を持ったまま部屋の周りを見渡した。
まさか隠しカメラや盗聴器が仕掛けられているとでも?
*「忠告しておく、警察に電話しないほうがいい。ボクはキミの飛び散った肉片を見たくない。」
フローラ「?!」
*「ルールを先に言っておけばよかったね、実はキミの部屋には3個の爆弾を仕掛けておいた。
勝手な行動をすればリモートコントローラーで起爆させる。」
フローラ「!!…そ、そんなバカなこと…!」
*「テレビの裏やパソコンの下を覗いてみなよ、高性能のプラスチック爆弾が仕掛けられている。」
フローラは受話器を持ったままテレビの裏などを覗いてみた。
……たくさんの配線がからまった機械が仕掛けられている。
フローラ「こ、こんな…!(いつの間にどうして…!)」
*「先に言っておくよ、ヘタにそれに触らないほうがいい。自分で自分を殺すことになる。
それはキミの住んでいる高級マンションのビルごと破壊できるほどの威力だ。」
フローラ「な、何なんですかあなたは…?!いったい何が目的なんですか!お金ならあげますから
もうやめてください…!」
*「おいおい、まだゲームの内容を説明してないよ。」
フローラ「ゲ、ゲームですって…?!」
*「全神経を集中させてよーく聞くんだ。いくらお嬢様のキミでもゲームくらいするだろ?
今から三つのクイズを出す、一つ正解するごとに作動している爆弾を一つずつ解除してあげる。
しかし一問でも間違えたりするとゲームオーバーだ。」
フローラ「バカなこと言わないでください!」
*「ボクはゲーマーだがバカじゃない。警察なんて怖くないさ。」
フローラ「い、いったい何の恨みで私に…!」
*「さっそく第一問目だ、ドラゴンクエストに出てくる竜王がさらった姫の名前は?
次の四つの選択肢から選べ。A:ルーラ B:ローラ C:オーラ D:マイルーラ。」
フローラ「も、もうガマンの限界だわ!切りますよ!警察を呼びますからね!」
*「人生はゲームと同じ、所詮は選択肢で運命は決まるもの。少しは楽しもうよフローラ。
さぁ答えるんだ、竜王がさらった姫の名前は?」
ガチャン!
フローラは電話を切ると、電話線を引っこ抜いた。
ブチッ!
フローラ「(い、今のうちに警察を…!)」
すかさずフローラは携帯で警察に電話をかける。
ピッピッピ……プツッ
*「はい、警察ですが。」
フローラ「もしもし!変な男の人がさっきから電話してくるんです!そ、それに爆弾が…!」
*「それはお気の毒に、精神科に繋げましょうか?」
フローラ「冗談なんかじゃないんです!ほ、本当に爆弾が…!」
*「フローラ、警察に電話するなと言ったはずだ。そんなヒマがあったらクイズに答えるんだ。」
フローラ「え…あ…えぇ?!」
*「ははは、キミの携帯はどこをかけてもボクにしか繋がらない特殊な携帯とすり換えておいた。
爆弾も全てボクの手作りだよ、こう見えても大学では電子工学を専攻したのさ。」
フローラ「くっ…!」
フローラは抜いた電話線を元に戻そうとしたが…
*「おぉっと…線を繋げないほうがいいよ。その家の電話にも爆弾が仕掛けられている。一度抜いた
電話線をもう一度繋げると起爆する仕組みになっている。」
フローラ「な、何ですって…?!」
*「信用してないのなら電話線を繋げてみなよ、痛みも分からないうちにドカンと終わりさ。」
フローラ「…!!」
*「状況を理解してもらえたかな。これでキミは外部との連絡手段を絶たれ、ボクとしか
しゃべれなくなったんだよ。」
フローラ「あ…う…!」
*「さぁて、第一問目の答えを聞こう。ボクのフローラ…。」
フローラ「……!」
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| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| フローラ「誰か!その犬をつかまえてください!」
| リリアン「ワンワン!」
| リュカ「おっと…よしよしいい子だ。」
| フローラ「はぁ…はぁ…。ありがとうございます、突然この子が走り出して…。」
| リュカ「かわいい犬だね、キミのかい?」
| フローラ「はい…。あら、いやだわ私ったらボーッとしちゃって。」
| リュカ「僕はリュカ、この街に越してきたばかりなんだ。」
| フローラ「そうですか、私はフローラといいます。」
|______________________________________
*「さぁフローラ、答えは分かったかい?竜王がさらった姫の名は?」
フローラ「も、もうやめて…。」
*「こんな問題は簡単なはず、それともキミのような上流階級のお嬢様には難しいのかな。」
フローラ「ロ、ローラ…。」
*「ん?聞こえないよ。もう少し大きな声で。」
フローラ「ローラよ!答えはBのローラ姫でしょう!これで満足ですか?!」
*「正解!さすがフローラ!ボクが見込んだコだけのことはあるよ!すばらしい!」
フローラ「じゃ、じゃあもう私に付きまとわないでください!」
*「OK、まずはテレビの爆弾の電源を切った。では第二問目だ、今度は少し難しいよ。レベル2だ。」
フローラ「いい加減にして…!」
*「第二問、ドラゴンクエストUに出てくるサマルトリアの王子、こいつとの出会いの場所を
次の三つの中から選べ。A:城の中 B:勇者の泉 C:宿屋。」
フローラ「私はあなたと下らないゲームなんてする気はないんです!お願いだから…!」
*「質問に答えるんだ、さもないとゲーム放棄とみなし爆弾を起爆させる。」
フローラ「Cよ!Cの宿屋でしょう!」
*「正解だ!!すごいよフローラ!キミもゲーム好きだねぇ!‘いやーさがしましたよ’という
セリフとともに宿屋にてサマルトリア王子の出会いがあるのさ!よし、パソコンに仕掛けてある
第二の爆弾の電源を切った。では第三問目!」
フローラ「や、やめて…!」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| リュカ「やぁ、また会ったね。えっと…フローラだっけ。」
| フローラ「え?じゃああなたも私の結婚相手に?まぁ…。」
| リュカ「う、うん。初めてきみに会った日から、どうしても忘れられなくて…。」
| ルドマン「ふむ、まぁ少しは頼りがいのある青年に見えるが…。まぁいいだろう。」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
*「さぁフローラ、第三問目だよ。今度はよーく問題を聞かないと間違えるかもしれない。
くれぐれも気をつけて。」
フローラ「も、もうやめて…!」
*「第三問、ドラゴンクエストYに出てくるレイドック王子、彼の妹の名前を次の中から選べ。
A:マリベル B:アリーナ C:セーラ D:ターニア。」
フローラ「ターニアよ!妹の名はDのターニアでしょう!早く爆弾を切って!」
*「ブーーーーーーーーー!!残念!不正解だ!」
フローラ「ど、どうして…?!そんなはずないわ!」
*「問題をよく聞けと言っただろフローラ!‘レイドック王子’の妹の名だよ!ターニアは
夢の住人なんだよ!現実の世界にもターニアはいるが、その子とは血が繋がっていないのさ!
この選択肢の場合、本当の妹は幼い頃に病気で死んだセーラだよ!というわけで答えはCさ!」
フローラ「そ、そんな…!そんなのずるいわ!」
*「あああああああ残念だ!!ゲームオーバーだよ!キミとはお別れだ!(ピッ!)」
フローラ「きゃあああああああああ!!」
――――――ッズガァァーーーーーンン!!
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| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| リュカ「フローラ、僕と結婚してくれないか…。」
| フローラ「え…そんな…。ビアンカさんはいいんですか?本当に私などで?」
| リュカ「地位も名誉も何もないけど、こんな僕でよければ…。」
| フローラ「うれしい…。ありがとうございます、私きっとあなたのいい奥さんになれるように
| 頑張ります…。」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
*「あっはははははは!フローラ、だいじょうぶ?」
フローラ「うぅ……」
*「ごめんよ、びっくりさせちゃったね。今の爆発音はこっちで鳴らしたダミーだよ。
安心して、キミは死んでなんかない。さぁ立ちなよ。」
フローラ「ば、爆弾というのはウソだったのね…!」
*「その通り、さすがにキミは頭がいい。最初に言っただろ?ボクは誰よりキミを愛していると。
愛する人の部屋に爆弾なんて仕掛けるもんか。それは三つとも爆弾に見せかけた盗聴器さ。
あ、外してもいいけどあまり意味ないよ。他にも盗聴器や隠しカメラが無数に仕掛けられているし。」
フローラ「うぅ……いったい…いったい何が望みなの…?」
*「怖がらせてごめん、でも分かってほしいんだ。まずはボクが本気だということを
知ってもらいたかった。」
フローラ「こ、こんなことして何になるっていうの…。」
*「今までのは前座、本当のゲームはこれからなんだよ。」
フローラ「いい加減にしてください!あなたが何に本気なのか知りませんけど、私に言わせれば
本気で狂っているとしか思えません!」
*「ひどいな、キミの大切なリリアンもそう思っているのかな。」
フローラ「?!な、何ですって?」
*「キミの旦那はクソだ、たかが犬をつかまえただけで結婚しやがって。だったらボクも
同じことをしてやるまでさ。」
フローラ「ちょ、ちょっと待って…!今なんて言ったの?!リリアンが何ですって?!」
*「隠しカメラや盗聴器を仕掛けることができたんだよ、キミの実家から犬の一匹や二匹を
さらうなんてわけないさ。声を聞くかい?」
フローラ「ま、また下らないウソを…!」
しかし受話器の向こうから、聞き覚えのある犬の声が…
*「ワンワン!…ウォン!」
フローラ「!…リリアン?!そ、そこにいるの?!リリアン!」
*「ははは、この子はメスだろ?かわいいよね犬って。ボクも犬は大好きさ。」
フローラ「リリアンをどうする気なの!返してください!」
*「安心して、この子の好きなドッグフードは買っておいた。散歩にも連れていくよ。」
フローラ「ど、どうしてあなたがリリアンを?!いったい誰なの?!」
*「フローラ、そんなどうでもいいことを説明しているヒマはない。キミはすでにボクに
逆らうことができない立場だってことは、もう理解できただろ?」
フローラ「な、なんて卑怯な…!」
*「人質ならぬ犬質ってとこかな。キミにとってリリアンは大切な存在だ。けどどうして
メスじゃなくオスを飼わなかったのかなぁ。寂しい夜にはキミを癒してくれたかもしれないよ。
男性が苦手なキミは獣姦に走ったかもしれない。」
フローラ「…!」
ピッ!
フローラ「……」
電話を切っても無駄だということは分かっているが、これ以上の卑猥なストーキングに
耐えられなくなってきたフローラ。だが案の定、携帯に非通知で再びかかってくる。
プルルルル……プルルルル……
フローラ「……ぐっ…。」
プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……ピッ
フローラ「もしもし……」
*「ごめんよ、失言だった。キミはそんな変態女ではないことは知っている。もう言わないよ。」
フローラ「リリアンを返して!」
*「うん、ちゃんと返してあげるさ。けどその前に次のゲームをクリアしてからね。」
フローラ「こ、これ以上何をしようというんですか!」
*「果たしてキミは旦那を取るか、それとも犬を取るか、これは見ものだな。」
フローラ「いったい誰なんですかあなたは!リリアンを返してください!」
*「まぁちょっと待ってよ、今それを説明しようと…」
フローラ「どうせまたウソでしょう!こんなことして恥ずかしくないんですか!あなたにも
良心というものがあるはずです!」
*「だから黙って聞いてよ、次のゲームは…」
フローラ「いいからリリアンを返して!あなたみたいな人は警察に突き出します!」
*「オォォイ!!黙れっつってんのが分からねェのか!あぁ??」
フローラ「ビクッ…!」
*「さっきからヒステリックにギャーギャーわめきやがって!!お嬢様ぶってカッコつけてんじゃねェぞ!
オレはテメェがバスルームで下の毛を処理してんのを観てんだよ!トイレの中で本読みながら
用を足してんのもずっと前から聴いてんだよ!コンビニでナプキン買うところも目撃してんだよ!!」
フローラ「……!!」
*「命令するのはこっちだボケ!!テメェは黙ってオレの言うことをマヌケ面で聞いてろ!!
お前にマゾの気があることは見抜いてんだよ!これ以上ギャーギャーわめくと
この犬に突っ込んでやるぞ!テメェも見たこともないような巨根でなァァァァ!!」
フローラ「………」
*「そうそう、それでいいんだよ。…怒鳴ってごめんね、でもボクはキミを世界で一番愛している。
キミの笑った顔、キミの悲しそうな顔、キミのやさしい顔、キミの不機嫌そうな顔、全部好きだ。
この世の誰よりもキミが好きだよ。ボクはキミのすべてが欲しい…。」
フローラ「く、狂ってるわ…。」
*「キミたち夫婦のニセモノの愛情がいつまで続くか見守ってやるさ…。これはゲームだよフローラ。
人生は所詮、選択肢によって運命が決まる。キミがあの男を選んだのも運命だとしたら、
ボクがそれを破壊することも運命だろう。」
フローラ「いったいあなたは…!」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| アンディ「フローラ、結婚おめでとう…。」
| フローラ「ありがとう、アンディ。」
| リュカ「ごめんよアンディ、君もフローラのことを…。」
|
| アンディ「ははは、気にしないでリュカ。フローラを幸せにしてあげてよ。」
| リュカ「うん、ありがとう。」
| フローラ「アンディ、あなたにも幸せがおとずれますように…。」
| アンディ「ありがとうフローラ。いつかきっと来るさ、幸せというものが……。」
|
| リュカ「さぁ行こうか、フローラ。」
| フローラ「はい、リュカさ……い、いえ。あなた。」
| リュカ「はっはっは、なんか恥ずかしいなぁ。あなたなんて呼ばれるのなんて。」
|
| アンディ「……」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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*「フローラ、キミの旦那は史上最低のクソッタレ野郎だ。ヤツには幼なじみのビアンカという
女性がいたのにもかかわらず、その女をふってキミにプロポーズした。そう、たかが犬を
つかまえただけでキミに近づき、つきまとい、金も地位も名誉もないくせにキミと結婚した。」
フローラ「やめてください!主人のことをそんなふうに言わないで!」
*「ヤツとキミの付き合いはわずか二週間たらず、それに比べてボクはキミを小さいころから知っている。
えぇ?わかってんのかテメェ……何が運命の赤い糸だ!!ヤツの糸は幼なじみのビアンカと
繋がっていたはずなのに!!このクソッタレは何のためらいもなくその糸を切ったのさ!!
そして切った糸を無理やりキミの糸に結んだんだよ!こんなことが許せるか!!」
フローラ「あ、あなたまさか…!」
*「キミの旦那が屋敷に呼ばれたとき、ヤツはキミとビアンカを前にどうしたか覚えているね?
こともあろうに二人の女性のどちらかを選ぶように、ルドマンに選択肢をもらったのさ。
あぁ?なんだそりゃあ?女を選択肢として選べだと?人を何だと思ってやがんだ!!
ボクにはその選択肢さえもらえなかったぞ!!」
フローラ「(アンディ?!そ、そんなまさか…!)」
*「今さら離婚するから許してくれなんて言うなよ、もう遅い。ボクの心は充分キズついたんだ。
だがすぐには殺さない、時間をかけてゆっくり復讐してやるよ…。まずは子供が生まれるまで待つ、
そして生まれたら男の子だったらケツにぶち込む。女の子だったら初潮が来る前に犯す。
次にキミの旦那だ。旦那の首をナワでくくり、24時間苦しめて殺してやる…。」
フローラ「……!!」
*「そして最後にキミだよ、フローラ…。どうやって愛しいキミを殺してやろうか……。
どんな方法がいいだろう、それは昼間なのか、それとも夜なのか……。キミのその白い肌を
ナイフで真っ赤に染めるのも、さぞ美しいだろうね……。」
フローラ「あ、あなた…狂ってるわ…。」
*「愛は狂気さ、それだけキミを愛していると受け取ってほしいな。けどボクのキミに対する愛は
本物だよ、信じてくれ……。」
フローラ「うぅ……もうやめて…。」
*「次のゲームを始める前に、もう一度念を押しておくよ。もしこのことを警察、両親、友人、
その他だれでも一言でも漏らしたら、リリアンはどうなっても知らない。ボクはキミの行動を
一日中見ているんだ、どこへ行こうが逃げようが、ずっとキミを見ているよ……。」
フローラ「うぐ…。」
*「フローラ、次のゲームはもうすでに始まっている。よく聞くんだ、部屋の外で何か聞こえないか?」
フローラ「?!」
マンションの部屋の外から足音が近づいてくる…。
コツ…コツ…コツ…コツ…
フローラ「(な、何なの…?!)」
*「開けてビックリ玉手箱だ、この問題は驚くぞフローラ…。第四問‘ボクは今どこにいる?’
次の三つの選択肢から選べ。A:ディズニーランド B:キャバクラ C:キミのドアの前。」
フローラ「や、やめて!!何をする気なの?!」
足音はフローラのマンションの部屋前で止まり、玄関前に誰か立っている…。
フローラ「(ま、まさか…!!)」
*「フローラ、今夜は旦那が留守だ。だからボクが旦那の代わりにキミの相手をしよう…。
毎晩キミがやってるように、ボクにも同じようにしてくれ…。」
フローラ「ア、アンディ!お願いだからバカなことはやめて…!」
玄関のドアをノックする音が聞こえる。
コンコンコン……
フローラ「きゃあああああああ!!だ、誰か!助けて…!」
*「おいおい、真夜中にそんな大きな声出すなよ。近所迷惑じゃないか…。くっくっく…。」
フローラ「お願いだからやめて…!!」
*「さぁ答えるんだ、ボクは今どこにいる?分かってるだろ…?」
フローラ「あああああ…!や、やめて…!」
再びドアをノックする音が聞こえる。
コンコンコンコン……
フローラ「いやあああああああ……!!」
*「もう一度言う、人生は選択肢だ。キミの次の行動も所詮は限られている。
さぁ選んでもらおうか。愛しのフローラ……。」
フローラは携帯を持ったまま、おそるおそる玄関のドアに近づき、ドアスコープを覗いてみた。
なんとドアの向こうにはアンディがいる!
フローラ「きゃああああ!!(や、やっぱり…!)」
するとアンディはドアの向こうから、今度は強く叩き始めた。
ドンドンドン!!
フローラ「い、いや…!やめて…来ないで…!」
ドアを叩く音が徐々に強くなっていく。今にもカギを壊して入ってくる勢いだ。
ドンドンドン!!ドンドンドン!!
フローラ「だ、誰かーーーーー!!助けて…!」
夫は不在、警察にも連絡できない、頭の中が真っ白になるばかりだ。
ドンドンドンドン!!ドンドンドンドンドンドン!!
フローラ「いやああああああああ!!」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!
フローラは極度の恐怖のあまり、携帯を持ったまま気を失ってしまった。
ドタリ!
フローラ「………」
<Lv1:真夜中の電話>
完
toriaezu kokomade
ID:2LUXzkzUの華麗な支援に感動した
続きが気になる・・・・
こういうの凄く好きだぜ・・・・!
まだかな。
game-DQ@ne.jp PAGE6
<Lv2:その男、ストーカーにつき>
フローラ「………」
フローラ「(う……)」
ようやく意識を取り戻したフローラ、そこは病院のベッドだった。
目を開けると一人の医師がフローラのベッドの前に立っている。
医師「気がついたかね、もう大丈夫ですよ。」
フローラ「(わ、私…どうして…。あ…こ、声が出ない…!どうして…。)」
医師「まだ起き上がらないほうがいい、倒れた際に頭を打ったかもしれないので。
念のため精密検査をお勧めしたいが…。」
フローラ「(こ、声が出ないわ…!)」
医師「鎮静剤を打っておいたが、何か精神的なショックを受けたのかもしれん。声が出ないのは
そのうち治る。身体も思うように動かないかもしれないが、しばらくは安静にしてください。」
フローラ「……」
医師「何も覚えてないのかもしれませんが、あなたは自宅で突然倒れたそうだ。そのときちょうど
あなたのマンションを訪ねた青年が病院まで運んでくれたのだよ。」
フローラ「(え…。)」
医師「友人なのだろう?運が良かった、彼に感謝するんだね。今病室の外で待っているよ。」
フローラ「(まさか…まさかそれは…!)」
医師「待っててください、今彼を呼んできてあげますよ。」
フローラ「(だ、だめ…!呼ばないで…!)」
病室を出ようとした医師を必死に止めようとしたが、フローラは声も出ず身体も思うように動かなかった。
しばらくすると、フローラの病室に一人の青年が入ってきた…。
アンディ「やぁ…フローラ…。」
フローラ「!!」
アンディはフローラを見るなり、不気味なほど静かに微笑み、軽く手を挙げて挨拶した。
アンディ「先生、彼女もう平気なんですか?」
医師「あぁ、まだ話すことはできないようだが、命に別状はない。」
アンディ「よかった…。」
医師「きみは彼女のご主人と連絡を取れないかね。」
アンディ「先ほど携帯に電話してみましたが圏外でした、どうもまだ仕事中らしいのです。」
医師「まったく…奥さんが倒れたというのに。」
アンディ「僕が彼女を見ててあげますよ。そばに寄っても?」
医師「どうぞ。」
アンディは寝ているフローラに近づいてきた。
フローラ「(こ、来ないで…!助けて!この人はストーカーなんです…!)」
アンディ「フローラ、ほんとにびっくりしたよ。いったい何があったんだい?」
フローラ「(な、何をしらじらしいことを…!)」
アンディは医師の手前、まるで何も知らないようなそぶりでフローラの髪にそっと手を触れる。
フローラはアンディの触れた手に恐怖感を覚え、全身に鳥肌が立って怯えた。
フローラ「(ひぃぃ…!)」
アンディ「ごめんよフローラ、あのとききみの悲鳴が聞こえたんでドアのカギを壊して入ったんだ。
強盗にでも入られたのかと思って…。」
フローラ「(先生!た、助けて…!この人は私を殺す気なんです…!)」
アンディ「まったくこんなときに旦那のリュカは仕事か…。かわいい奥さんが倒れたってのに。」
けど幸いビアンカさんだけは連絡が取れたよ、今こっちへ向かってる。」
フローラ「(うぅ…。)」
目の前にストーカーがいるのに助けを求められず、フローラは冷や汗をかき始めた。
無理もないだろう、つい先ほどまで電話でさんざん精神的に痛めつけられた相手なのだ。
医師「む…異様な汗だな。室温は常温のはずだが…。」
フローラ「(うぐ……)」
医師は異様な冷や汗をかいているフローラを見て、少し不信に思い始めた。
医師「熱はないようだが…。しかしなぜ手が震えているのだ。」
フローラ「(せ、先生!助けて…!)」
アンディ「……」
医師「フローラさんといったかね、少し暑いのか?それとも寒いかね。氷枕でも持ってこさせようか?」
フローラ「(ち、違うんです…!この人は…この人は…!」
何しろ声が出ないのだ、いったいこの男が何者かをどうやって説明すればいい?
医師「おかしいな…。脈拍が異常に高いぞ。さっきは正常だったのに…。」
アンディ「……」
フローラ「(だ、だからこの人は…!)」
アンディ「先生、彼女だいじょうぶですか?」
医師「なぜかきみが病室に入ってから異常なほど震え始めた。どういうことだ…。」
アンディ「ははは、そんなバカな。きっと彼女不安なだけですよ、何しろお嬢様ですからね。
今夜は旦那もいないし……。」
フローラ「(あ、あなたが原因でしょう!は、早く出ていって…!)」
医師「ふむ…。」
せっかく医師がフローラの心理状態に疑問を持ったというのに、いとも簡単に流されてしまった。
アンディは狡猾にシラをきり、いつまでも病室を出ようとしない。
アンディ「フローラ、旦那がいない間は僕がきみをずっと見ていてあげるよ。だから安心して…。」
フローラ「(うぅ…な、何とか伝えないと…早く警察を…)」
フローラは何とか医師にメッセージを伝えようと考えた。
だがたとえここで医師に‘この男はストーカーです。警察を呼んでください’と伝えたところで
アンディに悟られてしまったら終わりだ。
そこでフローラは、あえて医師とアンディの二人に、あるサインを送った。それは手話だった。
その意味は「お手洗い」だ。
アンディ「?…フローラ、それはなんだい?」
医師「ふむ、わかった。看護婦を呼ぼうか?」
どうやら医師には通じたようだ、フローラは首を横に振って答えた。
医師「わかった、では我々はしばらく席を外そう。ベッドの下に用を足すものがある。」
フローラ「(よ、よかった…!通じたわ!)」
アンディ「先生、今の何です?」
医師「さぁ出よう、相手は女性だぞ。今のは手話で‘お手洗い’だよ。」
アンディ「あ、なるほど…。」
医師とアンディはフローラの病室を出て行った。…しかし出て行く際にアンディは
チラッとフローラのほうを見た。
アンディ「……」
フローラ「(うぅ…は、早く出て行って…!)」
バタム
やがて二人とも病室を出ると、フローラは急いでベッドの横にあったテーブルの上の
電話に手をかけた。震える指でプッシュボタンを慎重に押しているが、彼女は今そうとうあせっている。
警察にかけたところで何ができるというのだ。
*「プツッ…はい、911です。」
フローラ「(あ…う…!だ、だめだわ!声が出ない…!)」
*「もしもし、どうしました?」
フローラ「(た、助けてください!ここにストーカーが…!)」
受話器に向かって必死に声を出そうとしたが、かすれた息が出るだけだ。
*「もしもし、どうかされましたか?強盗にでも?」
フローラ「(くっ…ど、どうすればいいの…!)」
*「もしもし、何かあったのですか?そちらの場所は?」
フローラは仕方なく受話器を戻さずにテーブルの上に置いたままにした。
何とか逆探知して、こちらに来てもらおうとした。
フローラ「(ほ、他に何か…何か手はないかしら…。何とかして誰かに伝えないと…!
ハッ、そ、そうだわ…!)」
フローラは次にテーブルの引き出しを開け、中を探りだした。
フローラ「(どこかにないかしら……あったわ!)」
キタキター!!
フローラは引き出しから紙と筆記用具を見つけたようだ。
声が出ないのなら、紙にメッセージを書こうと判断したのだ。
フローラ「(な、何とかこれを誰かに渡さないと…!)」
震えた手でメッセージを書き終えると、それを小さく折りたたんでポケットに入れた。
だが鎮静剤が効いているせいか、ベッドから起き上がって歩くのもままならない。
フローラ「(くっ…!あ、足が動かな……きゃっ!)」
ドタリ!
足がふらついて床に倒れ、それでも這って病室を出ようとするフローラ。
早くここを出ないとすぐにアンディが戻ってきてしまう。
フローラ「(い、今ここを出ないと…!くっ…!)」
ようやく病室のドアにたどりつき、ゆっくりとドアを開けた。
うまい具合にアンディは近くにいないようだ。出るなら今しかない。
フローラ「(だ、誰か…!私に気づいて…!)」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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その頃、病院のロビーでは――――
ビアンカ「はぁ…はぁ…。」
一人の女性が慌てて病院のロビーへ駆けてきた。
ビアンカ「いた!アンディ…!」
アンディ「やぁ、早かったね。」
ビアンカ「ど、どうなの?フローラさん大丈夫なの?」
アンディ「うん、命に別状はないって。今病室にいるよ。」
ビアンカ「よかった…。」
アンディ「でもリュカとは連絡が取れないんだ、仕事中みたいで…。」
ビアンカ「まったくリュカったら…!奥さんが倒れたってのになんて夫かしら!」
アンディ「もう一度彼に連絡してみるよ。ビアンカ、悪いけどフローラのそばにいててくれないか。
彼女声も出ないほど何かに怯えているようなんだ。」
ビアンカ「ほ、ほんと…?これはただごとじゃないわね。」
アンディ「今フローラは用を足しているみたいだから、そのあいだ面倒見ていてくれ。病室は401だよ。」
ビアンカ「わかったわ、じゃあ後でね。」
アンディとビアンカはロビーで別れると、アンディは内ポケットからゆっくりと携帯を取り出した。
アンディ「……」
ピッピ…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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病室401前
フローラ「(くっ…!だ、誰か…!助けて…!)」
401の病室前の廊下で這っているフローラ、だがそのときポケットの中の携帯が鳴り出した。
プルルル プルルル プルルル プルルル
フローラ「(!!…ま、まただわ…!)」
だが今度は着信ではない、どうやらメールのようだ。アドレスにandyと入っている。
フローラ「(メール…?)」
フローラは受信したEメールを開くと、察しの通りそれは犯人からだ。内容は次の通り。
‘声が出ないようなのでメールを出したよ。ふふふ、これで助けを求められないだろう?
かえって好都合さ。キミはどこへも逃げられないよ。フローラ…’
フローラ「!!」
さらに恐怖感がのしかかるストーカーの容赦ない行動。
これではっきりした、間違いなくストーカーはアンディだ。
フローラ「(だ、誰か…!誰かいないの…?!)」
真夜中の病院なので廊下は静まりかえっており、看護婦の一人さえ見当たらない。
先ほどの医師もいなければ、患者の一人さえも通らない。
フローラ「(た、助けて…!)」
だがそのとき、幸いにも一人の女性が401病室前に走ってやってきた。
ビアンカ「?…フローラさん?!」
フローラ「!(ビ、ビアンカさん…!よかった!助けてください…!)」
すかさずビアンカは倒れているフローラのそばへ寄る。
ビアンカ「ど、どうしたの?ちゃんとベッドに寝てなきゃダメでしょ。」
フローラ「(あ…う…)」
ビアンカ「アンディから連絡を受けたの。あなたが自宅で倒れたと聞いて急いで私もここへ…。
それよりいったい何があったの?」
フローラ「…!」
それを説明したいのはやまやまだが声が出ないのだ。どうすればいい。
フローラはとりあえず先ほど書いたメッセージの紙をビアンカに見せた。
ビアンカ「?何これ。」
フローラ「(お、お願いです…!早くしないと…!)」
フローラの必死のメッセージはこう書いてあった。
‘誰でもいいので今すぐ警察を呼んでください。私を病院に連れてきたアンディ・クロスという男は
ストーカーです。彼は私と私の主人を殺そうとしています。私の犬も捕らえられました。
くれぐれも彼に気づかれないように、何とか警察に通報してください。お願いします。’
ビアンカ「う、うそでしょ……。こんなバカなことが…。」
フローラ「(信じてくださいビアンカさん…!私の部屋に盗聴器が…!)」
ビアンカ「フローラさん、私ついさっき彼とロビーで会ったのよ。アンディがこんなバカなことを…。」
フローラ「(こ、これを見てください!)」
ビアンカ「?」
フローラはさらにアンディから受けたEメールを見せた。
ビアンカ「!!…ま、まさか…。」
フローラ「(は、早く警察を!リリアンが危ないんです!)」
ビアンカ「と、とにかくいったんベッドに戻ったほうがいいわ。あなた足がフラフラじゃないの。」
フローラ「(だ、だめ…!今すぐここを出ないと危険です!早くしないと……ハッ!)」
ビアンカ「?」
なんとアンディが戻ってきてしまった。
アンディ「……」
フローラ「(いけない!戻ってきたわ…!ビアンカさん!逃げましょう…!)」
ビアンカ「な、何がなんだかワケが分からないわ…。」
フローラは必死にビアンカの手を引っ張り、後ろにあるエレベーターのスイッチを押した。
ビアンカとフローラの二人と、やってきたアンディの距離は約20メートル。
今ならまだ逃げられる。エレベーターで一階まで降りて、すぐに病院を出るしかない。
ビアンカ「な、何…エレベーターで逃げろって言うの?」
フローラ「(は、早く!あなたも殺されてしまいます…!)」
ビアンカ「い、いったい何がどうなってるんだか…。」
状況をよくつかめていなそうなビアンカ、だが彼女はフローラの異様な態度に不信に思い
信じることにしたようだ。何しろビアンカの手を引っ張るフローラのその手は、ガタガタと震えて
冷や汗で濡れているのだ。誰がどう見ても正常な心理ではないことは明らかだ。
するとそれを見たアンディのほうから二人に声をかけてきた。
アンディ「おいビアンカ、フローラをどこへ連れていくんだよ。」
ビアンカ「アンディ、悪いけどそれ以上こっちへ来ないで…。」
アンディ「え?」
二人に近づこうとしたアンディは、ピタリと足を止めた。
ビアンカ「それ以上近づくと、ちょっとヤバイことになるわ。」
アンディ「な、何を言ってるんだ。どうして急に…。」
ビアンカは持っているバッグの中から痴漢撃退用のスタンガンを取り出した。
さすが精神的に強い女性だ、日ごろから身を守る心がけをしている。
フローラ「(ビアンカさん…!よかった、信じてくれたわ…!)」
アンディ「おいおい、いきなり何をぶっそうなものを…。」
ビアンカ「備えあれば憂いなし、この街には強盗や痴漢が多いわ。女性にだって身を守るアイテムの
一つや二つくらい持ってるわよ。」
アンディ「だ、だからどうして…僕は痴漢なのか?」
ビアンカ「さぁね、またはストーカーかしら?」
アンディ「!」
そうこうしているうちに、エレベーターが4階へ着いたようだ。
チーン
フローラ「(ビアンカさん!来たわ!早くエレベーターの中に…!)」
アンディ「ちょっと待てよ、彼女をどこへ連れていく気だ。……おい待て!」
ビアンカ「!」
なんとアンディが走ってこちらへ向かってきた。
フローラ「(きゃあああ!は、早く入って!ビアンカさん!)」
ビアンカ「くっ…!」
ウィーン…ガタン!
アンディ「くそ!」
間一髪でエレベーター内に入った二人、すかさずアンディは上のパネルに目をやった。
パネルのランプは四階から三階、二階、一階へと下がっていく。
アンディ「(一階か…。)」
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だめだぜんぜん書き込めない
明日にします。ちなみにLv3のエピソードとエピローグでオワリ。現在はLv2。
だから明日にはおわります
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病院 一階ロビー前
ウィーン ガタン!
ビアンカ「着いたわ、さぁ行きましょう。肩をかしてあげるからつかまって。」
フローラ「(そ、その前に警察を…!)」
ビアンカ「私ここまで車で来たから、とりあえず家まで送るわ。何だかよく分からないけど
警察にも連絡するから安心して。」
するとそのとき、いいタイミングで病院の外にパトカーがやってきた。
キキィッ!
ビアンカ「あら?どうしてもう警察が…。」
フローラ「(よかった…!さっきの通報で駆けつけてきてくれたんだわ!)」
パトカーから降りてきた一人の警官が、病院へ入ってきた。
警官「そこのきみたち、先ほど通報を受けたのだが…この病院内に殺人犯がいるらしい。」
フローラ「(殺人犯?そ、そんなこと言ってないのに…。)」
ビアンカ「お巡りさん、たぶんそれはアンディ・クロスという男です。今ここの四階にいます。」
警官「そうか、ではきみたちはすぐに避難しなさい。間もなくこの病院を封鎖する。
犯人を逃がさないように…。」
だがそのとき、アンディが階段から降りてロビーへやってきた。
アンディ「あ、二人ともこんなとこにいたのか。いったいどうしたって言うん…」
フローラ「(いけない!アンディが来たわ!)」
ビアンカ「お巡りさん!あの男がそうです!」
警官「!」
アンディ「おいおい、どうして警官が…。」
ジャキン!
警官「そこの男!動くな!両手を頭の上に置け!」
アンディ「え…。」
警官「両手を頭の上に置けと言っているんだ!さもないと撃つ!」
アンディ「ちょちょっと何ですかいきなり…!僕は何も…!」
警官「抵抗するな!調べれば分かることだ!言うとおりにしろ!」
アンディ「な、何だってんだ……。わ、わかりましたよ、これでいいのかい?」
警官「よし、そのまま後ろを向け。ゆっくりとだ…。」
アンディ「……」
警官はアンディを取り押さえ、身体検査を始めた。
アンディ「あいててて…!ら、乱暴はよせよ!免許証ならサイフの中に…!」
警官「黙ってろ、ポケットの中身を全て出させてもらうぞ。」
アンディ「くそ…!いったい何だってんだ!」
ビアンカ「よかったわ、これでもう大丈夫よ。フローラさん。」
フローラ「(ふぅ……)」
警官「…ふむ。アンディ・クロス、25歳。住所はA町サラボナハイツ102号室か。…どうやら
この男が容疑者に間違いないようだな。」
アンディ「ちょっと待てよ!何の容疑だよ!僕は何もしてないぞ!」
警官「ほぅ、ではこれは何だ?ずいぶん物騒なものを持ち歩いているんだな。」
アンディ「!!」
警官はアンディの着ている背広のポケットから、サバイバルナイフを発見した。
フローラ「(や、やっぱり…!)」
ビアンカ「げ…。ナ、ナイフなんか持っていたなんて…。」
アンディ「ちょっと待て!これは何だ!僕は知らないぞ!こんなナイフなんか持ってない!」
警官「お前の背広から出てきたんだ、知らないはずないだろう?」
アンディ「こ、こんなバカな!…フローラ!ビアンカ!何とか言ってくれ!」
警官「詳しい話は署で聞こう、さぁ来るんだ。」
アンディ「や、やめろ!僕は何も…!」
アンディは警官に連れられ、パトカーに乗せられていった。
フローラ「(よ、よかった…。)」
ビアンカ「人は見かけに寄らないって本当なのね…。まさかアンディが…。」
ほっと胸をなでおろすフローラ、どうやら事件は解決したようだ。
だが早いうちにさらわれたリリアンも助け出さなければ…。
<Lv2:その男、ストーカーにつき>
完
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<Lv3:ファイナルゲーム>
ビアンカの家にて――――
ビアンカ「フローラさん、コーヒーを入れたわ。ちょっと熱いから気をつけてね。」
フローラ「あ、ありがとう…ございます…。」
ビアンカ「よかった、だいぶ声が出るようになったわね。」
フローラ「えぇ…おかげさまで。でもまだひどいしゃがれ声ですけど…。」
その後フローラは自宅へは怖くて戻れず、今夜はビアンカの家で朝まで泊まることになった。
フローラは警察の取り調べを少しだけ受けたが、今夜はもう遅いので明日にまた署へ出頭することに。
アンディは警察署で取り調べを受けているが、明日にでもすぐリリアンを助けなくてはならない。
フローラ「リリアンだいじょうぶかしら…。今ごろお腹をすかしているのでは…。」
ビアンカ「そうね…。夜が明けたら私も一緒についてってあげる。大丈夫、リリアンはきっと無事よ。」
フローラ「はい…。」
ビアンカ「あなたのご両親には明日連絡するわ、ショック受けるといけないし…。」
フローラ「すみません、ご迷惑をかけてしまって…。」
幸いにもビアンカに助けられ、アンディは警察署の中。ゆえに今夜は少なくとも安全だろう。
だがまだ事件が完全に解決したわけではない、さらわれたフローラの愛犬リリアンを助け出さねば。
…しかしそれ以外にも疑問点がある。なぜ夫のリュカと未だに連絡が取れないのか。
ビアンカ「それにしてもリュカったらほんと薄情ね。かわいい奥さんが大変な目に遭ったっていうのに。
まだ仕事してるのかしら。」
フローラ「いいんです、主人もいろいろと大変でしょうし…。私、なるべく彼の足手まといに
なりたくないんです。」
ビアンカ「フローラさん…。」
フローラ「私は平気です、もう事件も解決したし…。アンディのことは信じられませんけど…。」
ビアンカ「……」
フローラ「私、やっぱり精神的に弱いですよね。わかっているんです、もう少し強くならなきゃって。
私もビアンカさんのように…。」
ビアンカ「フローラさん、あなたはあなたでいいじゃない。私は私よ。リュカだってそんなあなたを
選んだんだから…。今のままで充分あなたはリュカに愛されてるわ…。」
フローラ「ビアンカさん……ありがとう。」
ビアンカ「……」
リリアンのことは心配だが、ここにきてようやくフローラの顔に笑顔が戻ってきた。
フローラ「うふふ、私ビアンカさんに助けられただけでなく、何だか元気付けられましたね。」
ビアンカ「よかったわ、やっと笑顔が戻ってきたわね。」
フローラ「えぇ、私も強くなります。ビアンカさんのように…。」
笑顔が戻ったフローラの顔を見て、ビアンカは少し安心したようにコーヒーカップを置くと
ソファーから立ち上がった。
ビアンカ「さてと…シャワーでも浴びる?今夜はいろいろあって疲れたでしょう。」
フローラ「あ、ビアンカさん先にどうぞ。私はあとでもけっこうですから。」
ビアンカ「そう、じゃお先に失礼するわ。」
ビアンカは洗面所に入ると、カーテンを閉めてバスルームに入った。
そして部屋にはフローラ一人きりになった…。
フローラ「(それにしても……リュカさん何の連絡もないなんておかしいわ…。残業とはいえ
いつもだったら仕事のあいまに連絡してくるはずなのに…。)」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 刑事「もう一度聞くぞ、フローラという女性の家に何の用事で行ったのだ。」
|
| アンディ「だ、だから何度も言ってるでしょう!彼女のほうから僕にメールで連絡があったんですよ!
| 大事な用があるから今すぐ来いって…。」
| 刑事「見え見えのウソだな、フローラさんはきみを自宅へ呼んだ覚えはないそうだ。
| だいたい真夜中の夫の不在中に、独身男を家に呼ぶわけないだろう。」
|
| アンディ「だから変だと思ったんですよ。急いで彼女のマンションに行ったら、急に悲鳴が
| 聞こえてきて…。」
| 刑事「それでドアのカギを壊して押し入ったというのか。」
| アンディ「だ、だってしょうがないでしょう。ただ事じゃないと思ったから…。」
|_______________________________________
フローラ「(リリアン…きっと無事よね、必ず助けてあげるから待っててね…。)」
外は雷が鳴り始め、嵐のような豪雨が降り始めた。
ガガーーン!! ザァァァーーーーー!!
フローラ「(やだ…すごい雨だわ…。)」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 刑事「このナイフの件はどう弁解する気だ。」
| アンディ「知らないんですってば!いつの間にか入ってて…!きっと誰かが僕の背広に!」
|
| 刑事「苦しい言い訳だな、では誰が入れたというのだ。」
| アンディ「そ、それは…。」
| 刑事「きみはフローラのマンションの部屋に盗聴器や隠しカメラを仕掛けたか?」
| アンディ「仕掛けるわけないでしょう!何を言ってるんですか!」
|
| 刑事「では質問を変えよう。きみは今現在、交際している女性は?」
| アンディ「い、いえ…特にいません。」
| 刑事「そうか。では状況証拠もそろっているし、動機も充分ありうる。ストーカーとして
| きみが犯人であることは明白だ。」
|
| アンディ「いい加減にしてくださいよ!弁護士を呼んでください!僕は何もしていない!」
|______________________________________
フローラ「(あなた…早く帰ってきて…。)」
だがそのとき、部屋のクローゼットから何かが聞こえてきた…。
フローラ「?(何かしら…。)」
それはゴソゴソ動くような音であり、声を押し殺したような妙に奇妙な音だ。
フローラはチラッとバスルームのほうを目にやった。
シャワーの音が聞こえる。どうやらビアンカはまだ入浴中のようだ。
フローラ「……」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 刑事「ときにビアンカという女性は何者なのだ。」
| アンディ「詳しくは知りませんよ、大学は一緒だったけど…。」
| 刑事「彼女は大学で何を専攻したか分かるか?」
|
| アンディ「そんなこと聞いてどうするんです…。」
| 刑事「念のためだ、ちょっと気になることがあるのでな。」
| アンディ「えーと、確か電子工学を…。」
| 刑事「ふむ……いや、まさか…。」
| アンディ「?」
|______________________________________
フローラ「(ビアンカさん、まだオフロかしら…。)」
ビアンカに断ってからクローゼットを開けようと思ったが、何かイヤな予感がしたのか
フローラはおそるおそる黙ってクローゼットを開けることにした。
だがクローゼットに手をかけようとしたとたん、中から聞き覚えのある声が…!
*「クゥーン クゥーン…」
フローラ「!!」
信じたくない声が、信じられない場所から聞こえる!
フローラ「(う、うそでしょう……?そ、そんなことあるわけが…。)」
ゆっくりとクローゼットを開けるフローラ。きしむような音とともに開く。
ギギギギギギギ……
開けたとたんに息が詰まった。そう、中にはナワで繋がれ、さるぐつわをされた
リリアンが囚われていたのだ。
リリアン「クゥーン クゥーン。」
フローラ「リリアン!!そ、そんな…そんな…!そんなまさか…!」
だがクローゼットの中は犬だけではなかった。まるで心臓を握り締められたように驚愕した。
中にはさらに縛られたフローラの夫、リュカまで囚われていたのだ。
フローラ「きゃあああ!あ、あなた…!?ど、どうして?!」
リュカ「……」
どうりで連絡が取れなかったはずだ、いつまでたっても帰ってこなかったはずだ。
リュカはすでに囚われの身となっていたのだ。しかも彼は薬でも投入されたのか、完全に気を失っている。
リュカ「……」
フローラ「う、うそだわ…!こんなのうそよ!こ、こんなことがあるわけが…!!」
フローラの目からあふれる涙とともに、彼女は全ての状況を把握し、全ての謎が解け始めた。
そしてフローラの背後からゆっくりと、バスルームから出てきた一人の女性が……
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ビアンカ「……」
フローラ「!!…ビ、ビアンカさん…。うそでしょう?こんなのうそですよね?!」
ビアンカ「何がウソなのかしら、フローラさん。」
ビアンカは濡れた髪のままバスローブをまとい、さも落ち着いた様子で髪をタオルで拭いている。
クローゼットの中を見られたせいか、ビアンカはすでに開き直った様子だ。
フローラ「うそよ…。こ、こんなのうそだわ…!ビ、ビアンカさんが…!」
ビアンカ「ちょっと予定と違ったけどまぁいいわ。フローラさん、面白いものを見せましょうか?」
フローラ「?!」
ビアンカはそう言うと、引き出しの中から‘変声機’を取り出し、口に当てた。
ピピッ!
ビアンカ「<あっはははは!!フローラ!このボクの声に聞き覚えは??>」
フローラ「!そ、そんな…!そんなバカなことが…!」
ビアンカ「<男のしゃべり方を練習した甲斐があったよ、しかしキミも相当な能無しファック女だ。
ストーカーは男だと思ったかい?ブブーーー!残念!これでキミは二問も不正解だ!>」
フローラ「うぅ…し、信じていたのに…。」
ビアンカ「<さぁフローラ、ファイナルゲームが近づいている。けどその前に回答編を始めよう。>」
ビアンカは、さらに引き出しの中から拳銃を取り出した。
ジャキン!
ビアンカ「<スタンガンにナイフ、そして拳銃。何でもある。さぁ回答編を始めようか。>」
フローラ「どうして!なぜあなたがこんなことを!!」
ビアンカ「<黙って聞け!!この発情期のメス豚マゾヒステリアがッ!!ゴチャゴチャぬかすと
そのイカれた脳みそブッ放すぞ!!>」
フローラ「ビクッ…!」
容赦ない暴言を吐きながら、フローラに拳銃を突きつけるビアンカ。
ついに化けの皮がはがれたようだ。
ビアンカ「…あら、私としたことが…。失礼、少し言葉使いが悪かったわ。この変声機は
必要ないわね。もう男のフリをする必要もないし。」
フローラ「うぅぅ…!」
ビアンカは変声機を捨て、再び拳銃をフローラに突きつけて話し始めた。
ビアンカ「さてフローラさん、状況を把握できた?ゲーム回答編を始めましょ。まずは回答編その一。
‘なぜアンディは真夜中にフローラのマンションへやってきた?’そう、答えは私が
メールで呼び出したの。彼はあなたのメルアドを知らない、だから何の疑いもなく
彼はあなたのマンションにやってきたわ。うふふ、アンディったら人妻の誘惑でも
期待してたのかしら。」
フローラ「な、なんてことを…!」
ビアンカ「そうよ、アンディは本気であなたの身を心配して病院へ連れていったの。それなのに
あなたったら彼をストーカー扱いしてたわね。あなたの幼なじみなのに…。
どいつもこいつも幼なじみを大切にしないクソッタレが多いわ。」
フローラ「…!」
ビアンカ「では回答編その二。‘病院であなたにメールを出したのは?’答えはそれも私。
ロビーでアンディからあなたの声が出ないと聞いたわ。そのあとすぐに私がメールを
出したのよ。うふふ、メルアドにandyと入ってただけでアンディを疑うなんて浅はかね。」
フローラ「うぐ…。」
ビアンカ「続けて回答編その三。‘なぜアンディはナイフなんか持っていた?’答えはそれも
またまた私の仕業。最初にロビーでアンディと会って、話しながらちょっとしたスキをついて
彼の背広のポケットに入れておいたの。」
フローラ「……」
ビアンカ「さらに回答編その四。‘最終的に誰が病院に警察を呼んだ?’答えはフローラ、じゃないわ。」
フローラ「分かっています!それもあなたが呼んだんでしょう!」
ビアンカ「正解!」
フローラ「全て…全てアンディを犯人に仕立て上げるワナだったのね…!」
ビアンカ「bingo!…今ごろ彼、警察署でこってりしぼられてるはずよ。」
フローラ「な、なんて人なの…!」
ビアンカ「では回答編その五。これが最も重要な動機よフローラさん、よーく耳の穴をかっぽじって
聞きなさい。‘ストーカーは本当にフローラを愛していたのか?’答えはノー。
あいにく私は同性愛のケはないわ。だからレズなんかじゃない。覗き見のシュミもないわ。
盗聴や隠し撮りをしていたのは、あくまであなたの心理状態を見ていただけ。」
フローラ「わ、わかってるわ…。全ての原因は私の夫なのね…!」
ビアンカ「そうよ!!今ごろ気づいたなんて遅すぎるわよ!!私はリュカを愛してたのよ!
なのにあんたが全てを奪ってしまった!運命の赤い糸は私とリュカに繋がっていたのに!!」
フローラ「逆恨みもいいとこだわ…!」
ビアンカ「黙れ!!私の気持ちがあんたなんかに分かってたまるもんですか!何が選択肢よ!
あのルドマンのジジィはリュカに‘嫁にしたいほうをどっちか選べ’なんてぬかしたのよ!!
私とあなたが選択肢にかけられたのよ!いったい女を何だと思ってるのよ!!」
フローラ「……」
ビアンカ「あんたはいいわよ!リュカに選んでもらったんだから!けど私はどうなのよ!!
私は幼い頃からリュカと仲良しだったのよ!そ、それなのにあんたは、たった二週間たらずの
付き合いだけでリュカを奪った…!」
ビアンカは罵倒しながら、目に涙がこぼれ始めた。
フローラ「(ビアンカさん…。)」
ビアンカ「だいたいあんただってアンディと幼なじみだったくせに!あんたたち夫婦は
運命の赤い糸を二本も切ったのよ!えぇ?!わかってんの?!」
フローラ「……」
だがビアンカは涙をぬぐうと、再び冷静に戻り話し続けた。
ビアンカ「私はあなたたち夫婦に復讐してやると決めた…。けど予定では時間をかけてゆっくり
楽しむつもりだったわ。でもあなたがクローゼットの中を見てしまった、もう予定を
変更させるほかないわね。」
フローラ「どうすれば…どうすればあなたの心の傷を癒してあげられるのですか…。」
ビアンカ「言ったはずよ、これはゲームなの。私にとって復讐のゲームよ、誰にもこの傷は
癒せない。…さぁ、ぼちぼちファイナルゲーム開始といきましょう。」
フローラ「こ、これ以上何をする気なんですか!」
ビアンカ「最後のゲームは三人用よ。私とあなた、そしてリュカにも参加してもらうわ。」
フローラ「?!」
するとビアンカは倒れているリュカを引きずり、リビングの中央に寝かせた。
フローラ「な、何をする気なんですか!もう主人に手を出さないでください!」
フローラはリュカをかばうように覆いかぶさり、ビアンカはその光景を鼻で笑うように横目に見ながら
堂々とソファーに腰掛けた。
入浴上がりの身体にバスローブ一枚だけ、そして右手にはどこから手に入れたのか、45口径の拳銃。
ビアンカ「うふふ、彼には特殊なドラッグを注入しておいたの。ちょっとやそっとじゃ正気を
取り戻さないわ。今ごろ彼は夢の中、白目をむいて完全にラリってブッとんでる最中よ。」
フローラ「(ド、ドラッグを…?!)」
リュカ「……」
ビアンカはソファーに腰掛けながら、その美しい脚線美をまるでシャロン・ストーンのように脚を組み、
怯えているフローラに向かって、信じられないセリフで命令した。
ビアンカ「さぁフローラさん。毎晩やってたように、そのクソッタレ男とファックしなさい。」
フローラ「何ですって…。」
ビアンカ「ファックしろって言ってんのよ…。聞こえたでしょ?FUCKよ、F・U・C・K。」
フローラ「…!」
ビアンカ「あらあら、赤くなっちゃって。ウブねぇ、いくつになってもお嬢様だわ。
まさかあなたファックの意味を知らないわけじゃないでしょうね?」
女性とは思えない何とも下劣な言葉が連続される。ファックファックと。
フローラ「ビ、ビアンカさん、もうやめてください…。」
ビアンカ「うふふ、安心して。ドラッグを注入されたとはいえ、彼の‘息子’はちゃんと起きてるわ。
それとも私がしましょうか?目の前で不倫を見たいの?」
フローラ「な……」
ビアンカ「ゲームに参加する気がないのなら、今ここでリュカを撃ち殺してもいいのよ。
ファイナルゲームはすでに始まっているわ。」
フローラ「……」
ビアンカ「そうそう、最初に言っておくけど、実は私はもうとっくにファックし終えたの。
このブタ男が喘いでイクところもこの目に焼き付けたわ。」
フローラ「!!」
ビアンカ「私の予定ではかなりの高確率で妊娠するはず。私をふったこのクソ男の子供ができるわ。」
フローラ「えぇ…?!」
ビアンカ「でもゲームのルールは公平にしないと卑怯よね。だからあなたにも今からこの男と
ファックさせてあげる。公平でしょ?」
フローラ「いったい…いったい何が目的なんですか!!」
ビアンカ「まだ分からない?ファイナルゲームは‘どっちが先にリュカの子供ができるか’なのよ。
先に妊娠したほうが勝ち、しなければ負けよ。」
フローラ「なんてバカなことを…!」
ビアンカ「もしあなたが勝てば、私は今後いっさいあなたたち夫婦には手を出さない。けど私が勝てば
どういうことになるか想像がつくわよね…。善良な夫が幼なじみと不倫、幼なじみは
リュカにレイプされたと訴える。彼の子供を盾に多額な慰謝料を要求。やがてリュカは
裁判に負け、家庭はめちゃくちゃに壊れる…。」
フローラ「か、完全に狂ってるわ…!そんなことしたって私もあなたも、お互い傷つくだけだわ!」
ドキドキ
ビアンカ「あなた確かまだ生理前よね、ちょっと不利かな?なんなら予定日まで待ってあげても
よくてよ。…けど本当にリュカと愛し合っているのなら、きっと子供はできるはず。
そうでしょ?真の愛は理屈や生理的なものじゃないわ。心が通じ合っているかどうかよ。」
フローラ「もうあなたには何を言ってもムダですね…。そこまで落ちましたか。」
ビアンカ「何とでも言いなさい。これは女としてプライドの問題、そして私の愛がかかった問題よ。
誰にもこのゲームは止められないわ…。」
フローラ「……」
ビアンカ「さぁ再び道が分かれたわよ。人生は選択肢なの、私が選択肢としてかけられたように
あなたも次なる選択を選びなさい。愛妻フローラお嬢様の次なる行動は?
A:ファックする B:ファックしない C:前戯から始める。」
フローラ「……」
もはや狂った女の遊戯だろう、そのサイコ女は拳銃を片手に最も狂ったゲームを仕掛けてきたのだ。
ビアンカ「あっはははは!緊張して興奮できないかしら?何なら手伝ってあげましょうか?
このブタ男の貧粗なモノを、この私があっという間に勃たせてあげてもよくてよ?」
フローラ「……」
ビアンカ「それとも今すぐ二人まとめて殺されたいの?ゲーム放棄はルール違反よ。」
ジャキン!
フローラ「……」
ビアンカ「……ちょっと、黙ってないで何とか言いなさいよ。」
だがフローラの様子が変わった。つい今まで恐怖で怯えていた女性は、流していた涙も止まったようだ。
倒れているリュカをかばっていたフローラは、ゆっくりと立ち上がると、拳銃をかまえているビアンカの
前に堂々と立ちふさがり、その目は何かを決意したような雰囲気だ。
フローラ「……」
ビアンカ「何よその目は…。」
やがてビアンカも座っていたソファーから立ち上がった。
ビアンカ「フローラさん。いっとくけど、この私にお涙ちょうだい的なセリフは通用しないわ。
‘夫の代わりに私を殺して’なんて言うつもり?だとしたらつまらない展開ね。
そんなありきたりなママゴトのようなセリフは寒気が走るわよ、このゲームの結末は
もう二つしか残ってないの。…私が勝つか、あなたが勝つか。どちらかよ。」
フローラ「えぇ、そのようですね。」
ビアンカ「だったらスカしてないで早くしなさいよ、時間がもったいないでしょう。」
フローラ「その必要はないわ、だってゲームはすでに私の勝ちですから。」
ビアンカ「何ですって…?」
するとフローラは次の瞬間、信じられない事実を告白した。
フローラ「なぜならもう私、すでに妊娠してるの…。」
ビアンカ「?!」
その告白を聞いたビアンカは、一瞬とまどったように驚いたが、すぐに冷静に返った。
ビアンカ「ぷぷぷ…!な、何を言うかと思ったら、呆れてものも言えないわ。忘れたの?私は
あなたのマンションの部屋を盗聴してたのよ?あなたが妊娠すれば、私がそのことに
気づかないとでも思う?…まったく笑えないハッタリね。」
フローラ「いいえ、今の態度で確信しました。あなた肝心なところは盗聴していませんね?」
ビアンカ「!」
フローラ「あなたのことだから、私たち夫婦の夜の生活までは見ていないでしょう。
いえ…こう言ったほうが正しいですね。正直言って‘見たくなかった’のでしょう?」
ビアンカ「な、何を言ってんのよ…。」
ビアンカは少し後ずさりした。
フローラ「ビアンカさん、私が今なにを言ってるのか、あなたが一番よく分かってらっしゃるのでは?」
ビアンカ「黙りなさい…。く、下らないハッタリはもうたくさんだわ。」
フローラ「ハッタリはあなたのほうです、おそらくあなたは主人と寝たなんてウソね。」
ビアンカ「!!」
フローラ「世間知らずのお嬢様でも、女のカンくらいは私にもあります。なんなら当てましょうか。」
ビアンカ「あんたに何が分かるっていうのよ!」
それはもう恐怖に怯えていたお嬢様ではなく、一人の女性として立ち上がったフローラがいた。
フローラ「確かにあなたは私の夫を騙して、この家に呼んだのでしょう。そして主人を身体で誘惑し、
彼を求めた…。」
ビアンカ「だ、黙りなさいって言ってるでしょ…。それ以上ごちゃごちゃ言うんじゃないわよ…。」
フローラ「しかしあなたはリュカさんに拒否された。思っていた以上にリュカさんの理性は強く、
男の本能を揺さぶることはできなかった…。」
ビアンカ「うるさい!!黙れといってるのが…!」
フローラ「もうこれ以上誘惑しても無理だと判断したあなたは、彼を何かで殴り監禁した。
その証拠に彼の後頭部に傷がありました。おそらくドラッグというのもウソでしょう?」
ビアンカ「…!」
フローラ「どうですか?ビアンカさん、当たらずとも遠からずってところでは?」
ビアンカ「も、もう許さないわ!その減らず口に一発ブチ込んでやる!!」
ジャキ!
フローラ「殺せるものなら殺してみなさい!私は殺せてもリュカさんは殺せないでしょう!!」
ビアンカ「黙れ!!この猫っかぶりのファック嬢がッ!!」
ついにビアンカはぶち切れ、フローラを殴り倒した。
ッバキ! ドタリ!
フローラ「うぐっ…!」
ビアンカ「そんなに死にたきゃ殺してやるわよ!今すぐあんたを…!」
フローラ「うぅ…!」
ビアンカは倒れたフローラにまたがり、首を絞め始めた。
フローラ「ぐぐっ…!」
ビアンカ「あんたみたいな女に銃なんて使わないわよ!そんなにゲームがイヤなら
この手で今すぐ殺してやるわ!!」
フローラ「うぅ…!」
だがフローラは首を絞められながらも、床に落ちているコーヒーカップに気づいた。
どうやら今のもみ合いでテーブルからカップが落ちたようだ。
フローラ「う…あ…!」
ビアンカ「絞め殺してやるわ!死ね!この泥棒猫!」
意識がもうろうとしながらも、フローラは必死にコーヒーカップを手に取り
思い切りビアンカの頭に叩きつけた。
――――ッバキィ!
ビアンカ「うあっ…!」
カップは割れ、ビアンカはその勢いで後ろのテーブルまで吹き飛ばされた。
ッドガァァン!
フローラ「はぁ…はぁ…!」
ビアンカ「こ、この…!やったわね!!」
フローラ「くっ…!」
再び起き上がってもみ合う二人、それは男も顔負けの壮絶な女の闘いが始まった。
髪の毛を引っ張り合い、腹を蹴飛ばし、テーブルはひっくり返り、ソファーは倒れ、
戸棚のガラスが割れるほど頭を叩きつけ合う二人の女。
いつの間にかビアンカが持っていた銃も、リビングの床に落ちていることも気づいてないほどだ。
ビアンカ「し、しぶとい女ね!もうこうなったら…!(シャキン!)」
フローラ「!!」
ビアンカはナイフを取り出したが、一瞬早くフローラは床に落ちていた拳銃を拾った。
ジャキン!
ビアンカ「し、しまった…!」
フローラ「……」
フォークより重い物を持ったことのないお嬢様が、45口径の拳銃をビアンカに向けている。
この光景を親が見たら卒倒するだろう。
フローラ「……」
ビアンカ「……何してるの、さっさと撃ちなさいよ。」
フローラ「……」
流血しながら対峙する二人の女性、そのちょうど間には倒れているリュカがいる。
一人の男の両側に、共に愛する者をかけた女の戦いは、どうやら決着のときがきたようだ。
フローラ「ビアンカさん…もうやめましょう…。」
ビアンカ「終わりはあっても‘やめ’はないわ…。ゲームの最後はゲームオーバーと相場が決まってるの。
あなたの冒険の書を終わりにさせたければ、その引き金を引きなさい…。そうすれば
終わりにできるわ…。」
フローラ「こんな結末はあなたも望んでいないはずです…。これ以上続ければ、私は本当に
あなたを撃つしかありません…。」
ビアンカ「当たり前よ…。あなたが殺さなきゃ、私があなたを殺すもの…。」
フローラ「うぅ…。」
再び涙があふれてきたフローラ、もうビアンカを撃つしか選択肢は残っていないのか。
…だがこのとき、フローラとビアンカの両者は、あることに気づいていない。
彼女らの間に倒れているリュカの目が、ゆっくりと開いていくのが…。
リュカ「……(ピク…)」
フローラ「ビ、ビアンカさん。一つだけ教えてください…。」
ビアンカ「?」
フローラ「も、もしも私とあなたの立場が逆だったら……あなただったら、私を撃ちますか…。」
ビアンカ「……」
フローラ「もしもあのとき、リュカさんは私ではなく、あなたを選んだとしたら……この状況で
あなたは、私を殺せますか…。」
ビアンカ「……」
フローラ「確かに人は選択肢ではないかもしれません…。あなたの気持ちが少し分かってきました。
答えてください、ビアンカさん…。そうすれば私も、このゲームを終わらせることが
できそうです…。」
ビアンカ「……」
それは最後の選択肢を賭けた、ビアンカに対するフローラの問いだった。
果たしてビアンカは何と答えるのか…。
ビアンカ「……そうね…。私があなたの立場だったら、やはり撃つでしょう…。愛する夫の
リュカの命が掛かっているんですもの…。」
フローラ「そ、そうですよね……本当に愛しているのなら……。」
ビアンカ「(ま、まさか本当に…!)」
フローラ「(あなた……ごめんなさい、もうこうするしか選択肢は残ってなかったわ…。)」
フローラは目を閉じ、ビアンカに向けて引き金を引いてしまった。
ッズダァーーン…!
ビアンカ「!」
フローラ「うぅぅ……。」
撃つ瞬間に目を閉じてしまったため、フローラは自分で何をしたのかまだ理解していない。
ビアンカ「ど、どうして…!どうしてあんたが…!」
リュカ「ぐっ…!」
フローラ「え…。」
息を吹き返した夫のリュカが、‘ビアンカをかばって’撃たれたことを…。
フローラ「きゃあああああああ…!!あ、あなた…!」
リュカ「うぐっ…!(こ、これで…ゲームオーバーだ…!)」
ビアンカ「リュ、リュカ…!」
リュカは幼なじみのビアンカをかばい、妻のフローラに撃たれ、床に倒れた…。
ドタリ!
<Lv3:ファイナルゲーム>
完
game-DQ@ne.jp PAGE12
<エピローグ>
翌日の昼――――――
フローラ「先生!夫はどうなんでしょうか!」
医師「安心してください、手術は無事に済みました。」
フローラ「た、助かるんですか!」
医師「えぇ、二ヶ月ほど入院してもらいますが。」
フローラ「よ…よかった…!」
ゲームが明けて翌日の昼、長い手術も無事に成功し、リュカは何とか命をとりとめた。
幸い急所が外れていたため、銃創の傷も修復できたそうだ。
前の晩からずっと寝ていないフローラは、手術室の前で力が抜けたように安心した。
フローラ「先生、夫に会わせてもらえませんか…。」
医師「いやしかし…。」
フローラ「お願いします、ほんの少しだけでも。」
医師「…わかりました、では静かにお入りください。」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 刑事「ではビアンカさん、ぼちぼち始めるか。」
| ビアンカ「はい…。」
| 刑事「…しかし驚いたな。まさかとは思ったが、犯人が女性だったとは…。」
| ビアンカ「……」
|___________________________________
フローラ「あなた…。」
リュカ「や、やぁ…。ごめんよ…残業で遅くなってしまって…。」
フローラ「ずいぶんと長い残業でしたね…。」
リュカ「ははは…。上司の誘いを断れなくて、実はキャバクラに行ってたんだよ…。」
フローラ「そう…。ではゆうべのお相手は、ずいぶんゲーム好きの女性でしたね…。」
リュカ「あぁ…。何しろ拳銃を持った飲み相手だったからね…。」
24時間ぶりに会話を交わしたその夫婦は、もうお互い状況を把握しているようだ。
フローラ「リリアンは無事に助けました、あの子は無傷でした。」
リュカ「そ、そうか…よかった…。」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 刑事「つまりあなたは、以前フローラさんのマンションへ遊びに行ったときに
| 家の合鍵を盗んだというわけだな。」
| ビアンカ「そうです…。」
| 刑事「フローラさんたちが留守の間、毎日少しずつ盗聴器などを仕掛け、部屋の様子を
| 違法行為で監視していたということか。」
| ビアンカ「はい…。」
|
| 刑事「拳銃はどこで手に入れたのだ。なぜ女性が銃など持っている。」
| ビアンカ「刑事さん、独身女がこの街で、銃なしで生活できると?」
| 刑事「…まぁ確かにな。」
|____________________________________
フローラ「あなた…本当にごめんなさい。気づかなかったとはいえ、あなたを撃ってしまったなんて…。」
リュカ「き、気にしなくていいよ…。それで…彼女は…ビ、ビアンカは…?」
フローラ「自首しました…。」
リュカ「……そうか…。」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 刑事「ところでなぜ自ら自首する気になったのだ。」
|
| ビアンカ「リュカは私をかばって撃たれたんです、妻のフローラさんに撃たれて…。
| どうやら彼の愛情は本物のようですね、奥さんに殺人を犯させたくなかったのでしょう。
| そしてそのフローラさんも、愛する夫のために私を本気で撃ったのです。
| でも…まさかリュカが私をかばうなんて…。」
|
| 刑事「そうだな、奥さんのフローラさんも信じられない様子だった。」
| ビアンカ「私の予定通りゲームはこれで終わりです、あの夫婦はこのゲームをクリアしました…。
| 私はフローラさんをみくびっていました、あの子は思っていた以上に強い娘です…。」
| 刑事「そうか…。」
|____________________________________
リュカ「フローラ…きみも色々とあっただろうけど…ビアンカのことは許してやってくれないか…。」
フローラ「えぇ…わかっています。」
リュカ「こ、この事件で彼女を告訴することもできるだろう…。けど…。」
フローラ「安心してください。あなたの大切な幼なじみは、ちゃんとあなたの気持ちが
伝わったはずです…。」
リュカ「……」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ビアンカ「刑事さん、ときにあなたは運命の赤い糸を信じますか?」
| 刑事「?」
| ビアンカ「人は生まれたときから結ばれる相手が決まっているそうです…。けど私たち女は
| 選択肢などで運命を決められたくはありません…。」
| 刑事「……」
| ビアンカ「人生は選択肢かもしれませんが、人は選択肢ではありません。誰だって他人に
| 運命を左右されたくはないはずです…。」
| 刑事「そうかもしれんな…。」
|____________________________________
リュカ「と、ところでフローラ……きみが妊娠しているってのは…。」
フローラ「はい、もちろんウソです…。」
リュカ「そ、そうだよね。どうも変だと思ったよ…。」
フローラ「これで私も、少しは精神的に強くなれたかしら。」
リュカ「あぁ、何しろ僕も怖かったくらいさ…。きみたち二人が壮絶な戦いをしていたのが…。
ははは、あのまま寝たフリしておけば良かった…。やっぱり女って怖いな…。」
フローラ「うふふ、今ごろ気づいたんですか?」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 刑事「では全ての犯行を認めるわけだな。」
| ビアンカ「はい…。」
| 刑事「よし、ではフローラさんに告訴されたときのための準備をしておけ。きみには
| 黙秘権と弁護士を雇う権利がある。」
| ビアンカ「わかっています…。」
|
| 刑事「…しかし女性というのは恐ろしい存在だな。私にも妻がいるが、なぜか他人事のような
| 気がしない。」
|
| ビアンカ「気をつけたほうがいいですよ、刑事さん。あなたの身にだって、いつこういうゲームを
| 誰かに仕掛けられるかわかりません。女を甘く見ると大変なことになりますから…。」
| 刑事「……」
|____________________________________
フローラ「あなた…私たちこれから、うまくやっていけるでしょうか…。」
リュカ「きみはどう思っている?」
フローラ「私は…。」
リュカ「フローラ……僕がきみを結婚相手に選んだのが、たとえそれが赤い糸でなかったとしても、
きみを選んだことは事実だ…。その意味をこれから二人で…つくっていけばいいと思う…。」
フローラ「あなた…。」
リュカ「赤い糸なんかで縛られるほど…僕たちの愛情は浅くないはずだ…。人生は選択肢かも
しれないけど、人生はゲームではない…。」
フローラ「はい…。」
リュカ「僕にはきみを愛しているとしか今は言えない…。けど…それが全てだよ…。」
フローラ「はい…私も……愛しています。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドラゴンクエスト5で登場するビアンカ&フローラ。
あなたはどちらを選ぶタイプですか?
ゲームを例とした一つの架空の事件でしたが、これは実際にありえない出来事とは言い切れない。
迷ったときには自分の選択肢を思い浮かべてみるといいでしょう。
たとえそれが間違っていたとしても、その選択があなたの運命です。
ただし女性の心理は計り知れない思考と本能が眠っている。
お嬢様だと思っていた女性が、実は男も顔負けの、肝が据わった根性の持ち主かもしれない。
やさしい姉のような存在だと思っていた女性が、実は凶暴な愛情の持ち主かもしれない。
選ぶのはあなた自身、その結果をどう捕らえるのもあなた自身。
運命の赤い糸は ときとして その糸がほつれたりする。
―――――あなただったら そのほつれた糸を
どうやって解きますか―――――
プルルルルル……プルルルルル……プルルルルル……
カチャリ
フローラ「はい、どなたですか?」
*「キミの声はとてもきれいだ、声優になれる。これから仲良くしよう、ボクのフローラ…。」
フローラ「!!」
game-DQ@ne.jp
完
<game-DQ@ne.jp 登場人物>
フローラ
ビアンカ
アンディ
リュカ
_____
|___†_| 過激な暴言や卑猥な言葉が多くて申しわけありませんでした。
( ・∀・) キャラのイメージを大切にする人たちにとっては、こういうサイコな
(| ╋ |) サスペンスはちょっと引いてしまったかも。
今回のテーマは「選択」でしたが、最終的に‘女の強さ’というのが描きたかったために
この物語を書いてみました。
ただし一般に聞くような女の戦いというのは、表面的には仲良くて、影ではボロクソに
ウワサをするような、いわゆる女性特有のドロドロとした世界かもしれません。
(※女性の方へ:ごめんなはい、あくまで一般論です。)
けど本当に描きたかったのは、ラストで繰り広げられたような男も顔負けの肉弾戦です。
何かを守ろうとする女性というのは、いざというとき男以上に強いものだと思ってます。
これが母親になると、もっと強くなるとも思ってます。
それがお嬢様タイプだろうと、お姉さんタイプだろうと、女性には誰しも
母性的な「やさしさと強さ」があるのではないかと。
感じ方はそれぞれでしょうが、ちなみに自分は迷わずビアンカを選ぶタイプです。
読んでくれた人たちに感謝。支援書き込みありがとうございました。
短めながらも物凄く面白かったです!
読みながら緊張感がひしひし伝わってきてドキドキしながら読みました。
私がビアンカ派でもなくフローラ派でもなくてよかったですw
私もDQ5で、選ばれなかった方の気持ちはどうなんだろうと考えた事はありました。
それがこんな小説になって表現してくれるとは思わず、同じ女として共感できました。
DQ5のサイドストーリーとして納得できました。
おつかれさまでした。
何か、大事なものを考えさせられた気がします。
ハラハラ、ドキドキしながら読んでました。
すごくよかったです。
いつもありがとう。
しばらくお休みするので誰か書いてはどうか↓
序章みたいなんだけでもいい?めっちゃ短いけど。しかも微妙。
daremokakanaine
soreha,kitto,isogashiikaradesuyo
soudesuka
yokuwakarannga kowai
mechakucha kowai
zennbu kikenai
500 :
1234567890 ◆6VG93XdSOM :04/09/06 22:49 ID:Y0FAAiQP
500age
3つとも一気に読んじゃった
面白かったよ〜
501 ドーモアリガト
あれ 久しぶりにきたけどほんと誰も書かないな。493は結局うpしないのかな。
ところでここを見てる住人さんたちにまたアンケートをとらしてください。
1:どういうものを読みたいですか
2:誰が主役の物語を読みたいですか
3:どんなジャンルがいいですか
4:何のテーマがいいですか
要望がなければ「なんでもいい」でもいいけど、できれば
2番の質問だけは答えてもらえたらうれしいい
2:誰が主役の物語を読みたいですか
赤魔導士
3:どんなジャンルがいいですか
一昔前の冒険物
2:勇者に倒される魔王。
503 FFdesuka?
504 それまじで言ってんですか。むずかしそうだけどけっこう興味深い。
ちょっと考えてみます
1:どういうものを読みたいですか
正義のなんたるかを高らかに宣言するもの(ジャスティス)
2:誰が主役の物語を読みたいですか
ドラクエ6のバーバラ
3:どんなジャンルがいいですか
表はギャグありで軽く見せつつ実は重く深いの
4:何のテーマがいいですか
ジャスティス!
507 :
504:04/09/20 08:48:31 ID:sabLXz1z
>>505 物語って、結構正義の味方サイドの話が多いじゃないですか。
じゃなくて、勇者に倒されるまでの、魔王の苦悩みたいなのがいい。
イメージ的には、ドラクエ4のピサロみたいな。
ただ単に、世界征服が目的じゃない、裏のドラマが読みたいです。
ただ単に世界征服を目的としたほうが俺には興味深い
>>507 悲劇の悪のヒーローか・・
その手のやつ昔けっこう書いたけど、少しちがったものを考えてみようかな。
もしかして無理になってしまうかもしれないけど、いちおう聞いておこうかな
魔王の主役だったら誰を推薦しますか
ゾーマ様
>>509 ハーゴン。
上司(シドー)、部下(雑魚モンスター)、ライバル(勇者)の
3方向から責められる、
中間管理職w
ミルドラースをお願いします。
理由
・本編で地味
・人間の時はどうだったかなど
ha ha ha
ゾーマ ハーゴン ミルドラース
ばらばらに意見が分かれたな。じゃあ他にも書き手をふやそうよ
そうすればいっきに三つも物語ができるじゃん
ここ見てる人とか書き込んでくれてる人の中で、一人くらい書き手いそうなきがする。
>>510-512 あながたたはどうですか。どれか書いてみませんkあ
515 :
512:04/09/22 07:37:50 ID:cjjMk6Ui
言い訳っぽいかもしれないけれどリア工で今の時期、修学旅行と文化祭できついんですよ
ノ
推薦もし受かってタラ、書いてみたいと思う受験生であります。
512 りょうかい
516 おねがいします
518 :
516:04/09/23 20:20:52 ID:IGKoet5r
では、ゾーマで。とりあえず頑張って徐々に書き溜めていく所存。
しかし、神の横で書くのは緊張しますね・・・・
ぬおおおおこれで書き手が一人フエタ!!11
引き続き魔王主役の物語を募集!!!!
>>506 テーマはいいかもしれない。ずっと前に「正義」というテーマで書いたことあるけど。
521 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:04/09/25 00:22:47 ID:5T87smR9
野茂とホモの見分け方
完投して喜ぶのが野茂、浣腸して喜ぶのがホモ
打たれるのを嫌がるのが野茂、打たれるのを喜ぶのがホモ
野茂はホモを狙わないがホモは野茂を狙う事がある
好プレーするのが野茂、チンプレーするのがホモ
家族で楽しくみるのが野茂のプレー楽しくみれないのがホモのプレー
お尻を見せて球を投げるのが野茂、お尻を見せて球を揺らすのがホモ
アメリカで観戦するのが野茂。アメリカで感染するのがホモ
野茂はあまり喋らないが、ホモはよくしゃぶる
タマを投げてチームを守るのが野茂。タマを触って相手を攻めるのがホモ
いっそのこと魔王対魔王でいいじゃねえか。
デスタ対ミルドでいけ。
書き手あらわれないね。もうこれ以上まってもムダかな
524 :
1234567890 ◆9000m780/k :04/09/30 14:45:17 ID:U2TfiCuE
@ge
クル?
526 :
1234567890 ◆9000m780/k :04/09/30 15:08:46 ID:U2TfiCuE
いや、引き続き書き手募集のつもりで上げたんです。
>>526 失礼しました。
ここでDQ小説を良く見ますが、FFもありなんでしょうか?
考えがまとまったら是非とも書きたいもので。
527 おねがいしますおねがいします
ちょっとだけ時間ができそうなので、自分もぼちぼち次回作をかこうかと思う。
>>511 主役はハーゴンにしたよ。
一番人気なさそうだし、ちょうど書きたい題材があった。
その内容とは違うけど、それでよければ加工かと思う。
例の三匹組も再登場させてみよう。
まだはっきりとはしないけど、初の恋愛物語にちょうせん。
人間だったころの若かりしハーゴンと○○○のカップリングで
がんばってみようかと思う。かなり危険だし大変だ。ボツになったらごめんあさい。
恋愛物だ!!やった!
なんだかむずかしいな・・やっと半分くらいかけた。
そもそもDQ2なんてやったことあるひといるのかな
書き手のひとたち調子はどうですか
533 :
516:04/10/04 19:40:16 ID:vZ95F1lx
つい先日校内推薦通ったんで、まだ序章だけ。
アドバイスとか欲しいんで、序章だけ晒してみてもいいですか?
doozo-
アドバイスはできないかもしれないけど、機にしないでどんどん書いてしまえばいいよ。
FFの物語はどうなったんだろ・・
l l \\ / ./ / / / / ./ ./
ヽ.. \`〈 | | /./ / / /
ヽ, \\ | | / / |/ ./
ヽ, \\| |/ ./ /
ヽ, \ヽ L∠ -―-- 、_ /
ヽr'"二二/jヽ二二ニニ== 二ニ==、 /
〉' ̄/‐、ヽ/ イ"⌒ヽl | lー===/
| .l .rr 、 ,ri―、, l | l |||i
| ト、l.|( | | l、O|' |i | ||||
| |'ヽ−' r  ̄ ̄ .|j| | |||
| | l ー‐' || | ||
| l ` 、 __,、‐'.| | l |
| l | ,,`コニニ, ノ / | | |
| i .lヽ、 /! ll__,,-'//l.ノl| | | |
l l ヽ_ゝi/ ll.ニ7/ /.ノ' j| | | .| |
ヽヽ, Vi  ̄ ̄ / /i | | | .| i |
\y | / /.l | .| lノ.ノ
新作「英雄ロト伝説」というタイトルで一応完成したけど、なんかこれ暗すぎるな・・・。
主役は大神官ハーゴンで、おとなになった大神官フォズとの短編の恋愛物語かな。
グロいし暗いし悲しすぎるし、いいとこぜんぜんないや。
どうもあんま気が乗らない。こんなんでもよければ誰か読みますか?
>537
おいどんはSSに飢えてござるので、是非読みたいっす。
よみたーい
540 :
K ◆6VG93XdSOM :04/10/06 21:38:05 ID:v8K7xCKt
じゃいったんagemasu
ぼちぼちいこうかな。
この作業が一番しんどいけどがんばろう
<プロローグ>
ここローレシア城では、今からある一匹の魔王の処刑が行われようとしていた。
その魔王は邪神の教祖として人々を何百人も殺し、破壊神シドーを召喚したという罪人だ。
しかし結果的には世界を滅ぼすことに失敗し、半死半生で捕らえられ、さんざん拷問させられたあげく
これよりギロチン台にかけられる。
その魔王の名は大神官ハーゴン。
城の広場に集まったローレシア王、兵士たち、国民。
彼らは冷たい目で、大神官ハーゴンの最期を見届けようとしていた。
王「何か言い残すことはないか。」
ハーゴン「……」
王「この世を去る瞬間だ、せっかくだから何か言いたいことはないのか。お前のような畜生魔王でも
神の慈悲を得ることができるかもしれん。」
ハーゴン「……フン、では一つだけ言っておこう。」
王「何だ。」
ハーゴン「ロトの子孫などクソ食らえじゃ。」
王「……」
兵士「こいつ!最期くらいマトモなことを言えんのか!」
王「よせ、もはやこいつに何を言っても無駄だ。」
兵士「はっ…。」
ハーゴン「くっくっく…。見損なっては困るのぅ。このワシが命乞いでもすると思ったか。
ワシは最後の最期まで魔王じゃ。決して人間どもに屈服はせん。」
王「元は人間だったくせによく言う。…ところでこれは何だ。」
ハーゴン「!」
ローレシア王はふところから、何とも古びた小さな「首飾り」を出すと
一瞬ハーゴンの表情が変わった。だがすぐに目をそらしてそっぽを向いた。
王「お前の神殿の玉座に飾られてあったそうだ。これはお前のか?」
ハーゴン「……」
兵士「おい!王様がお尋ねしている!答えろ!」
ハーゴン「…そのような安物、貴様にくれてやるわ。」
王「首飾りの石に刻まれた文字があるな。かなり小さくて読むのに苦労したぞ。
‘ジュニアより愛を込めて――――’このジュニアとは誰のことだ。お前か?」
ハーゴン「……」
王「…答えてもらっても損はないと思うが。」
ハーゴン「何とも古い思い出を持ち出すのぅ。ワシをその名で呼んでいいのはこの世で一人だけ。
あいにく貴様は違う。」
王「そうか……。何があったのか知らんが、この首飾りの持ち主は?」
ハーゴン「とうにこの世を去ったわ…。」
王「……」
兵士「王様、そろそろ…。」
王「うむ、これ以上ムダ話は無用だな。よし、始めろ。」
兵士「はっ。」
大広場の中央にギロチン台が置かれ、二人の兵士に連れられ数段の階段を上がるハーゴン。
そこにいるのはもう魔王でもなく、大神官でもなく、無力な醜い魔物だった。
ハーゴンは無言、無表情でギロチンの穴に頭を入れ、特にこれといった抵抗もなく淡々としていた。
それは魔王として堂々としていたというよりも、まるで作業的に処刑を受けようとしていた印象だった。
ハーゴン「………」
王「…最期の瞬間まで無言か。悪魔万歳とでも言うかと思ったら…。」
兵士「王様、よろしいですか。」
王「うむ、ではロープを切れ。」
ハーゴン「……(フォ…フォズ……)」
ギロチンのロープを切る直前、大神官ハーゴンの最期の言葉は、あまりにも小さく、
あまりにもか細い声だったため、誰にも聞こえなかった。
――――――ッザン!!―――――――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
英雄ロト伝説
英雄ロト伝説 PAGE1
昔々、人々がまだ信仰を捨てていないころ、この世には神と悪魔が存在すると信じていた。
嵐や大洪水のような天変地異は神の災いだと信じ、人の心の歪みは悪魔の仕業だと恐れた。
人々は精霊を崇め、作物の収穫を祝い、神を愛し、誰でも当たり前のよう聖書を朗読した。
「人をあやめてはならぬ、嘘をついてはならぬ、右の頬をぶたれたら左の頬を差し出せ。
この世の悪を滅する前に、まず己の悪を追放せよ。真に神に愛されることが人生の最終段階としたら、
悪魔は人が生まれたときから、誰にでも手軽に入手できる。」
町の人々はもちろん、エルフやドワーフなどのような小民族も、神の種類は違っても信仰は同じ。
人々は神を敬い、祈り、毎週日曜日には必ず教会を訪れた。
しかし光あれば闇もまたあり。
神の宗教が存在すれば、悪魔の宗教もまた存在する。
どちらが恐ろしい宗教かといえば、誰しも悪魔の宗教に決まってると判断するだろう。
しかしこれは見方を変えれば、どちらも恐ろしい信仰と言える。
なぜなら宗教はもともと人の心を動かす力を持っており、それは想像を絶するほど
人の心を完全に抑圧する。
例えば神を敬う信仰深い人間に対し、神を愚弄するような言動を発するとする。
すると一見おとなしそうな人間が、神を侮辱したという動機で殺人をも犯す。
つまり宗教の真の恐ろしさとは、何を信じるかではなく‘どれだけ信仰深いか’であろう。
かつて死海のほとりにそびえ立つ、「ソドムとゴモラ」という双子の町が存在していたころ、
宗教の教えは世界中にまで広がる全盛期となった。
しかしこの二つの町は呪われた聖域と呼ばれ、神の宗教とは180度異質の邪神の宗教が栄えており、
住人は全て悪魔の信仰に身を捧げる狂人集団だった。
一方、聖なる教えを広める「バルクの国」は、このソドムとゴモラの町とは正反対の
神の宗教が盛んな都市。
バルク国王を筆頭に、息子のゼルク王子、参謀役の大神官が一人、そしてその弟子の神官が一人。
バルク国は事実上、この四人の最高指導者のもとで平和を保っていた。
だがある日、ソドムとゴモラの町から、バルク国に次々と刺客が送り込まれてくるようになる。
始めは単なる友好条約を結ぶ和平交渉としてだったが、それは表向きの建前に過ぎず
その悪意に満ちたソドムの真意はすぐに悟られた。
理由は不明だが、ソドムとゴモラの目的はただ一つ、バルク国の大神殿を統括する
‘大神官の能力’を欲したのだ。
ソドムとゴモラの町を支配する三匹の悪魔は、大神官を欲し、その能力ゆえ
仲間として引き込もうとした。
もともと異教同士の対立国としても争いはあったが、今回の来訪者はただでは済まなそうだ。
もはやこの国を救える唯一の希望は、伝説の英雄「ロトの子孫」だけ。
バルク国に危機が訪れたこの日、大神官とその弟子は、無駄な和平交渉も通じない相手に
戦いの準備も整っていなかった。
――――この物語は かつて世界を破滅に導こうとした 大神官ハーゴンの若き日の時代であり
彼の人生を変えたその一連の事件と、ある一人の女性との
悲哀な恋愛を描いたエピソードである―――――
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英雄ロト伝説 PAGE2
<第一幕 三匹の悪魔>
バルクの国 大神殿
ジュニア「大神官さま、ここは僕が押えます。貴方は早くお逃げください。」
フォズ「バルク王たちは無事に逃げられましたか?」
ジュニア「避難命令はすでに出ています、王たちもきっと脱出を。」
フォズ「深夜の外交使団とは穏やかではありませんね、すでに悪魔の気配を感じます。」
ジュニア「くそ!もう少し時間があれば‘ロトの子孫’を捜し出すことができたのに…。
とにかく大神官さま、早く逃げましょう。ぐずぐずしていると…。」
ドンドンドン!
神殿の扉を叩く音が、今にもぶち破ってきそうなほどだ。
ジュニア「まずい、奴らもうそこまで来てますよ!」
フォズ「城に残っているのはもう私たち二人だけのようですね。仕方ありません、和平が通じぬなら
この私も闘う所存です。」
ジュニア「だめです、貴方が奴らに捕らえられればこの国は終わり。ならばそれを命を賭して
守るのがこの僕、ジュニアの役目。闘うのはあくまで僕一人。」
わずか12歳という異例の年齢で賢者となり、この国の大神殿を統括する大神官フォズ。現在21歳。
そしてそれを護衛する弟子の少年神官、名をジュニアという。この当時17歳。
神官ジュニアは大神官フォズの一番弟子であり、賢者の悟りを開かせてくれた恩師でもある。
二人の神官は、扉の向こう側から叩くソドムの刺客を待ちうけ、命を捨てる覚悟で
戦闘に備えて魔法力を解放し始めた。
フォズ「ジュニアよ、敵の正体は人間とは限りません。くれぐれも油断は禁物です。(キィィン!)」
冷静沈着の大神官フォズは、水の精霊の力を借り、聖なる魔法力を解放した。
ッヴァシュゥゥ!!
ジュニア「汚れたソドムの住人なんかに、貴方さまには指一本触れさせません。ご安心を。(キィィン!)」
血気さかんな正義感の強い神官ジュニアは、太陽の精霊の力を借り、聖なる魔法力を解放した。
ッヴァシュゥゥ!!
フォズ「来ますよジュニア!防御魔法に集中しなさい!」
ジュニア「うわっ…!こ、これは…すごい邪悪なエネルギーだ!吐き気がする…!」
耳をつんざく爆発音と共に、ついに神殿の扉が破られ、謎の三人の刺客が大神官たちの前に現れた。
―――ッズガァァーーーンン!!
ベリアル「よォ、お姫さま。今日はいい返事を聞かせてもらえるんだろうな。」
バズズ「やっほー!遊びに来たよ〜。」
アトラス「え、えへ、えへ。大神官をもらいにききききたんだな。」
フォズ「こ、これは…三人が三人とも人間ではない…!」
ジュニア「大神官さま!下がってください!ここは僕が!」
やってきた三匹の悪魔たち。まず金髪をなびかせる長身長髪の悪魔ベリアル。
その美形は男なのか女なのか区別もつかないほど、妖しい色気を漂わせている。
そして隣にくっつくようにいる悪魔バズズ。人間の女性に似せて化けた人喰いモンスターだ。
露出の多い紫色の衣装を身にまとい、豊満な胸をみせびらかすように男を誘う悪魔である。
残った一匹が怪力の一角獣アトラス。他の二匹と違って、このモンスターだけは
変身能力がないらしい。頭は悪そうだが、巨大な棍棒を片手に今にも暴れ出しそうな巨漢だ。
ジュニア「こ、この悪魔どもめ!大神官さまに手を出したら、この僕が許さないぞ!」
ベリアル「あん?なんだこの小僧は。」
バズズ「うふふ、ボーヤ。声が震えてるわよ♪そんなザマでフォズを守れるの?
たのもしい大神官の側近ね。」
アトラス「うは、うは、うははははは。」
ジュニア「黙れ!これでも食らえ!(キィィン!)」
神官ジュニアはイオナズンの波動を爆発させた。
(ギカァッ!)―――――ッズガァァーーーンン!!
ジュニア「ど、どうだ…!」
しかし三匹の悪魔には通用せず、その場に立っているだけだった。
ベリアル「おいおい、今さらそりゃねーだろ。さんざん気を持たせといて古くせえ爆発魔法か。」
バズズ「あーあ、服が汚れちゃったじゃないの。これお気に入りだったのにぃー。」
ジュニア「こ、こんな…!」
ジュニアが気を取られている瞬間、すぐさまアトラスが背後を取った。
ヒュッ―――!
フォズ「後ろですジュニア!」
ジュニア「しまっ…!」
アトラス「えへ、えへ、つかまえたんだな。」
ジュニア「ぐぁぁっ!は、放せ…!」
フォズ「ジュニア…!」
ベリアル「よしアトラス、そのままそのうるせー小僧をつかまえておけ。」
アトラス「ぎょぎょぎょ御意。」
ジュニア「く、くそ!お前らの相手は僕だ!殺すなら僕を殺せ!」
バズズ「あはは、あたしたちあんたにゃ用はないの。用があるのはこっちのお姫さまよ。ね、大神官♪」
フォズ「……」
ジュニア「大神官さま!お逃げください!」
やがて金髪の悪魔ベリアルが、大神官フォズの前にゆっくりと近づいてきた。
ベリアル「噂どおりの美人だな、あんたもう男を知っている身体だよな。まさかその歳で処女か?」
フォズ「……」
ベリアル「ははは、そう怖いカオすんな。冗談だ冗談。」
目の前に三匹の悪魔を前にしても、フォズ大神官は少しも動じることなく
落ち着いた様子で魔法力を全開にして防御していた。
フォズ「深夜の来客に大したおもてなしはできませんが、お茶ぐらいはお出ししましょうか。
悪魔のお口に合うかどうか分かりませんが。」
ベリアル「ほぅ、わりと肝っ玉の据わったお嬢さんだ。さすがは大神官、けどお茶はいらねーよ。
オレの好きな飲み物は人間の血だ。」
フォズ「ではお引取り願うか否か、すぐにご決断を。ここには悪魔の望むものなどありません。
神の教えを広める宗教の国です。用件があれば聞きましょう。」
ベリアル「フン、分かってるだろ。オレたちはお前の能力が欲しいんだ。ソドムの町には
お前ほど召喚術を極めた賢者はいねえ、邪神の教団の仲間になれ。それが用件だ。」
フォズ「何度も申し上げるように、悪魔の仲間などになる気はありません。」
ベリアル「この国を第二のソドムの町にしてもいいんだぜ。あんたらの神は無力だが、オレたちの神は
全世界を掌握できるカリスマ教祖がバックに控えている。このバルクの国なんざ
一夜にして悪魔宗教の国に一変できるぞ。」
フォズ「……」
ジュニア「ふざけたことを言うな!そんなことさせないぞ!」
ベリアル「うるせーぞ小僧、外野は黙ってろ。」
ソドムとゴモラの町を支配するその三匹の悪魔。目的は大神官フォズの恐るべき能力にあった。
フォズは賢者の中でも特異体質を持っており、他人の新たな能力を目覚めさせる術がある。
その昔、フォズがダーマの神殿に仕えていたころ、彼女の能力で何人もの勇者を
誕生させたことがあるほどだ。
その中でも彼女の召喚術は極めて貴重な能力だった。
神の使いと交信できる反面、凶悪な悪魔を召喚できる禁断の術も兼ね備えていた。
悪魔ベリアルはその能力を欲し、このバルクの国にも悪魔の宗教を広めようとした。
フォズ「カリスマ教祖と申しましたね。おおよその見当はついていますが、一応お聞きします。
あなた方の黒幕は誰ですか、答えなさい。」
ベリアル「さぁな、仲間になったら教えてやってもいいぜ。」
フォズ「では当てましょう、あなたの首もとにはハエの紋章が刻まれています。
おそらく黒幕は魔界のベルゼバブですね。」
ベリアル「!」
ジュニア「な、なんだって…!」
フォズ「蠅の王者・ベルゼバブの配下が何用で召喚術を欲するのですか。ソドムとゴモラの町に
悪魔宗教を広めたのは、あなたが犯人ですね。」
ベリアル「ほぅ……この姉ちゃん、ただもんじゃねーな。魔界の知識まで身につけているのか。」
バズズ「へー、ますます仲間に欲しくなったわ。」
フォズ「答えなさい、私の召喚術で何を望むのですか。」
ベリアル「この世の正しき教えを人間どもに広めてやろうってのさ、うさんくせえ神の宗教なんかより
はるかに高尚な信仰だよ。」
フォズ「神の御心に反する教えに従う気は毛頭ありません、お引取りを。さもなくばこの場で
あなた方を全力で倒すのみ。」
ベリアル「あんた体液交換は経験済みか?流行遅れのあんたにゃ分からないだろうが
時代はアナルセックスだよ、このオレが人間どもに教えてやったのさ。」
フォズ「…!」
ジュニア「も、もう許さないぞ!大神官さまに向かって、そんな下劣な言葉を…!(キィィン!)」
フォズ「やめなさいジュニア!これは挑発です!」
だがすでに頭に血が昇ったジュニアは、太陽の精霊に念じ、全魔法力を解き放った。
ッキィィーーーン!
ベリアル「ははは、こうも簡単にひっかかるとは。(ギィィン!)」
フォズ「(しまった…!)」
ベリアルはジュニアの全魔法力を、暗黒魔法の力で吸収してしまった。
ギュォォォーーーー!!
ジュニア「そ、そんな…!僕の魔法エネルギーが…!」
ベリアル「ボウズ、よほどのことがない限り、うかつに全魔法力を解き放つのはお勧めしないぜ。
オレみたいに吸収能力を持つ使い手もいるんだからよ。」
バズズ「きゃはははは!まんまとワナに落ちちゃって!」
アトラス「えへ、えへ、えへへ。」
フォズ「(くっ…!最初からまずはジュニアを落とす気でいたとは…!)」
ジュニアは全て魔法力を失い、力尽きて倒れてしまった。
ドタリ!
ベリアル「さてと、悪のお決まりのセリフで悪いが、お約束の言葉を言わせてもらうぜ、大神官。
弟子を殺されたくなかったら、オレたちの仲間になれ。」
フォズ「くっ…!」
バズズ「あっはははは!かわいい弟子が死ぬにはまだ若すぎるわよん。」
ジュニア「く、くそ…!す、すみません大神官さま…!」
悪魔ベリアルは口舌の長けた嘘つきとして有名である。
暗黒魔法の使い手としてもかなりの腕を持っているが、彼の本当の恐ろしさは
その巧みな話術を駆使した性格にあった。
フォズ「……」
ベリアル「さぁどうするよ、大神官。まさか弟子をあきらめてオレたちと勝負するか?」
ジュニア「だ、大神官さま!僕にかまわずこいつらを…!」
フォズ「わ、わかりました。あなた方に従います…。彼を放しなさい。」
ジュニア「大神官さま!」
ベリアル「話の分かる嬢ちゃんだ、ではオレたちと一緒に来てもらおうか。」
バズズ「大神官さま、あたしたちの町へ案内するわ。この世のあらゆる娯楽が待っているわよん。」
アトラス「でへ、でへ、でへへ。」
ベリアルは倒れているジュニアを放し、フォズ大神官を連れ去ってしまった。
ジュニア「大神官さま…!あ、貴方がいなければこの国は…!」
フォズ「…ジュニア、あとを任せます。これからはあなたが、この国の大神官として…。」
ジュニア「そ、そんな…!」
そしてフォズは倒れているジュニアの耳元で、そっとささやいた。
フォズ「(‘ロトの子孫’のことは忘れなさい、バルク王にもそう伝えて…。)」
ジュニア「!」
ベリアル「おい、何してんだ。早く行くぞ大神官。」
フォズ「(頼みましたよ、大神官ジュニア…。)」
ジュニア「ま、待ってください…!」
ベリアル「じゃーな小僧。」
バズズ「ばいばい♪」
アトラス「さおなら。」
ジュニア「く、くそぉぉおおおおーーーー!!」
大神殿に響き渡るジュニアの叫びもむなしく、若き日の神官は自分の無力さと愚かさを呪った。
大神官フォズはベリアルたちに捕らえられ、ソドムとゴモラの町へと連れ去られていった。
ジュニア「だ、大神官さま……!」
<第一幕 三匹の悪魔>
完
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英雄ロト伝説 PAGE3
<第二幕 大神官からのメッセージ>
バルクの神殿 王宮
王「ふむ、ではジュニアよ、もう一度確認するぞ。大神官は間違いなくソドムとゴモラの町に
連れ去られたと言うのだな。…その三匹の悪魔どもとやらに。」
ジュニア「はい、バルク国王。全て僕の責任。いかなる処罰も覚悟はできています。」
避難命令が解かれたのち、城へ戻ってきたバルク王のもとへ神官ジュニアが呼び出された。
ジュニアは大神殿で起こった事実を全て打ち明け、フォズはソドムの刺客に捕らえられたと伝えた。
バルク王は静かに状況を把握しようとしたが、息子のゼルク王子は怒りが収まらなかった。
王子「ジュニア!お前それでもフォズの弟子か!師匠がさらわれて、なぜ弟子のお前が
のうのうと生き残っている!」
ジュニア「申し訳ありません王子。国民をほったらかしにした貴方が、兵士たちを率いて
真っ先に避難されたので、神殿を守る兵士が一人も残っておりませんでしたから。」
王子「何だと?俺のせいだって言うのか!」
ジュニア「そうは言ってません、僕は事実を述べただけ。」
王「ゼルクよ、今のは本当か。」
王子「うっ…。」
ゼルクなる若き王子は、国民からその権威を振りかざす高慢な青年と呼ばれ、裏では腰抜け王子と
陰口を叩かれていた。何を差し置いても国民より自分の身を優先し、他人のことなどお構いなしだった。
しかもなんと、その王子がフォズのフィアンセだったのだ。
王子「と、とにかく父上!神官ジュニアの処罰を!」
王「今は処罰どころではないだろう、問題はこれからどうするかだ。大神官を救い出す対策を
考えるのだ。」
ジュニア「バルク王、一つ提案をお許し願いたいのですが。」
王子「お前は黙ってろ!この能無し賢者が!」
王「よせゼルク、内輪もめをしている場合ではないだろう。」
王子「……」
ゼルク王子はふてくされた様子で、そっぽを向いた。とても23歳の青年とは思えない。
その様子を神官ジュニアは気にもしなかったが、やれやれといった表情で首を振った。
王「神官ジュニアよ、その提案を聞こう。」
ジュニア「はい、僕は以前からこのような非常事態のために、ある対策をすでに考えてました。
勝手ながらその対策を今こそ実行に移すべきだと。」
王「ジュニア、それは‘ロトの子孫’のことを言っておるのか。」
ジュニア「そうです。」
王子「ふん、どこにいるかも分からない英雄の子孫にすがったところで、フォズは救い出せないぞ。」
王「ゼルク、彼はかつてアレフガルドを救ったといわれる伝説の英雄だぞ。」
王子「分かっております父上、大魔王ゾーマを倒した勇者のことでしょう。けどどこにいるんですか、
その英雄の子孫やらは。…だいいち彼は勇者からコジキに成り下がったそうじゃないですか。
とても子孫を残しているとは思えませんね。」
その昔、アレフガルドという大陸に現れた勇者ロトは、何人かの仲間と共に大魔王ゾーマを倒し、
この世界に光を取り戻したという武勇伝がある。
だが世界を救ったのち、その後の彼の行方は誰にも分からなかった。
世間ではいくつもの噂があり、彼は天界へ旅立ったとも言われ、または故郷へ帰ったとも言われ、
はたまた勇者を捨て、物乞いとして堕落し、毎日食べ物をあさっていたとも噂されていた。
世間では、英雄ロトは物乞いに堕落した説が強く、みじめ無残に野垂れ死にしたそうだ。
そのために彼の妻、及び子供がいるかどうかは不明であり、ロトの子孫の存在すら未確認だった。
無論フォズ大神官は、その堕落した英雄の子孫などとうにあきらめていた。
しかし弟子のジュニアはその希望の光をあきらめず、この世界のどこかにいる
英雄ロトの子孫の存在を信じていた。
王「ジュニアよ、確かフォズはロトの子孫など頼りにしてはおらんはずだったが。」
ジュニア「ぐっ…。」
王「物乞いに堕落した英雄の子孫などワシも期待できん。この国の問題はこの国で解決する。」
ジュニア「……」
王「それよりも問題は大神官フォズだ。お前にフォズを救い出せるか。」
ジュニア「今回の不祥事は僕の責任、何としても大神官さまを救い出します。」
王「しかしお前は…。」
王子「父上、こいつはただの神官ですよ。その任務、俺が引き受けます。」
王「むぅ…。」
ゼルク王子と神官ジュニアの二人は、フォズ救出作戦の指揮の取り合いとなった。
いや、指揮の取り合いというよりも恋ガタキというべきか。
ゼルクとジュニアはお互い睨み合い、まるで見えない火花が散っているようだった。
何しろゼルク王子にとって、フォズはフィアンセなのだ。
ジュニア「バルク王、ソドムを支配する悪魔どもには、とんでもなく凶悪な黒幕がいるようです。
なぜなら三匹の悪魔のうち一匹は、ハエの紋章が刻まれていました。これは間違いなく
魔界の蠅の王者・ベルゼバブの紋章。つまりその配下の悪魔です。」
王「黒幕は古代悪魔・ベルゼバブ……。それが本当なら、この神の宗教を広めるバルクの国どころか
全世界が滅ぼされるぞ…。」
王子「ま、まじかよ…。」
ジュニア「ベルゼバブの配下に太刀打ちできる者は、もはやロトの子孫しかいません。
…それに僕はロトの子孫の存在を信じています。そして僕は大神官さまからじきじきに、
神官から大神官として認められました。」
王「本当か。」
王子「な、何だと…お前が?!」
ジュニア「どうか僕に今一度チャンスをください。今度こそ彼女を…」
王子「ふざけるな!彼女は俺が助けるんだ!お前は引っ込んでろ!」
ジュニア「……」
王「ゼルク、少し黙れ。」
王子「チッ…。」
ゼルク王子は剣士としてそこそこの腕を持っていたが、その性格は自己中で最悪だった。
たくさんの妾(めかけ)と遊ぶ女ったらしとして有名であり、一人の女性にとどまる性格ではなく
そのくせフォズには早く結婚を求めようとしていた。
ジュニアは当然この婚約に反対であり、こんな男のとこへ嫁にいこうとしているフォズの
心理が分からなかった。
英雄ロト伝説 PAGE4
王子「とにかく父上、この任務はジュニアには不適任です。俺にやらせてください。」
王「お前、いざというときに逃げ出さないだろうな。ちゃんとフォズを守れるか。」
王子「だ、大丈夫です。まかせてください。」
ジュニア「(ふん、どうだか。)」
王「ふむ…。」
バルク王は目を閉じてしばらく考え込むと、突然耳をつんざくような高音が聞こえ出した。
キーン キーン キーン キーン キーン
王「ぬお!何事だ!この音は…!」
王子「うああ!な、何だこりゃ…!」
ジュニア「(この音は…まさか…)」
キーン キーン キーン キーン キーン
王子「おい兵士たち!敵だ!敵が来たぞ!早く俺を守れ!」
王「落ち着けゼルク!敵がいきなり王宮まで来るわけがないだろう!」
キーン キーン キーン キーン キーン
だがジュニアは落ち着いた様子で、この音の真意を理解したようだ。
ジュニア「王子、この音はパルス(信号)です。何者かが魔法で暗号文を送っています。」
王子「パ、パルス…??」
王「そ、そうか。ではジュニア、解読してくれ。」
ジュニア「わかりました。……(けどおかしいな。交信したいのなら魔法通信すればいいのに、
なんでわざわざ原始的な信号を送るんだろ…。)」
ジュニアは不信に思ったが、静かに瞑想に入り、まず信号の発信地を確かめようとした。
キーン キーン キーン キーン キーン
ジュニア「……」
王子「おいジュニア、早くしろよ。うるさくてしょうがないだろ。」
ジュニア「王子、少し静かにしてください。集中できません。」
王子「……」
パルスとは、遠く離れた場所から魔法で信号を送ることのできる、いわゆるモールス信号のようなものだ。
賢者はこの能力に長けているが、魔法文明の栄えた今の時代、このような原始的な通信は使わない。
これは本来、敵に会話を盗聴されないために使う手段であり、今ではすたれた魔法だ。
ジュニア「発信位置はここから北東……12秒間隔で不規則な配列を繰り返してます。」
キーン キーン キーン キーン キーン
ジュニア「方角は分かったけど距離がいまいちつかみにくいな。…かなり複雑な暗号文です。」
キーン キーン キーン キーン キーン
しえn
ジュニア「なるほど…やっぱり思ったとおりだ、このパルスは大神官さまからです。」
王「何だと?…で、何と言っておる。」
王子「早く解読しろ!」
キーン キーン キーン キーン キーン
ジュニア「‘ソドム…ゴモラ……ロト…子孫……私を……助け……’」
王子「それじゃ分からないだろ!文になってないぞ!ちゃんと読め!」
ジュニア「しかしすぐには無理ですよ、魔法辞書でも読まないかぎり…。」
王子「お前賢者だろ!何とかしろ!」
王「よせゼルク、パルス魔法など今の時代、誰も使わん。瞬間的にこれだけ解読しただけでも
大したものだ。」
王子「ケッ。」
ジュニア「すみません…。」
王「いや、よくやったジュニア。残りの信号を忘れないうちに書きとめておけ。フォズからの
重要なメッセージかもしれん。」
ジュニア「はい。」
やっぱり支援は大切だね。
ノシ
王子「しかし父上、これではっきりしましたね。ここから北東といえばソドムとゴモラの町しかない。
このパルスはSOSだ。フォズは囚われの身にも関わらず、我々に必死に助けを求めたに違いない。」
王「……」
王子「父上?」
王「あ…そ、そうだな。一刻も早くフォズを助け出さねば…。」
王子「?」
ジュニア「……(いや、何かおかしいな…。大神官さまらしくないぞ…。)」
ジュニアは少し気になったが、とりあえずすでに音が消えてしまった残りの信号を書きとめた。
そしてバルク王は意を決して、作戦命令を下した。
王「よし、では息子ゼルク、それからジュニア。お前たち二人で手を組め。お互い協力し合って
大神官フォズを助け出すのだ。」
王子「えぇ?俺がジュニアと?」
王「そうだ、何か不満か。」
王子「い、いや……。」
ジュニア「分かりました、仰せの通りに。必ずロトの子孫を見つけ出します。」
王「ジュニアよ、ロトの子孫などどうでもいい。お前はフォズを助けることに念頭を置け。」
ジュニア「いや、でも…。」
王「言ったはずだ。どこにいるかも分からん子孫など探しても、時間の無駄なのだ。」
ジュニア「……」
王子「そうだぞジュニア、お前は黙って指示に従え。」
ジュニア「は、はい…。」
王「兵士たちの指揮はゼルク、お前が執れ。ジュニアは先ほどの信号の解読に急げ。ソドムの町に
向かうのは明日にしろ。今夜は遅いし、今ここで兵士たちに出撃させても危険すぎる。」
ジュニア「はい。」
王「よいか二人とも。時間はないが、落ち着いて行動するのだ。」
ジュニア「分かりました、必ず大神官さまを救い出します…。」
王子「ふん、ジュニア。言っておくがこの作戦の指揮官は俺だ。お前は俺の指示に従うんだぞ。」
ジュニア「……」
意気投合せず、歯車の合わないゼルクとジュニアの二人。ともあれフォズ救出作戦として手を組んだ。
<第二幕 大神官からのメッセージ>
完
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けっこうゆれたね。ちょっとびびった
こっちにも震度1ぐらいだったけど来たよ。
保守しながら揺れたよ
英雄ロト伝説 PAGE5
<第三幕 ソドムとゴモラ>
それから一時間後――――バルク城 バルコニーにて
王子「父上、こんなとこにいたんですか。」
王「むぅ…お前か。どうした。」
星を眺めながら、この国の未来を案じていた王の前に、ゼルク王子がバルコニーにやってきた。
王子「じき兵士たちと作戦会議なので、俺が指揮を執ってもいいかどうか許可を。」
王「兵士たちはお前に任せたのだ、好きにするがいい。」
王子「わかりました。」
王「……」
王子「どうしたんです父上、何か元気がないように思えますが。まあ無理もありませんけど。」
王「…何でもない、少し星を見ていたかっただけだ。」
バルク王は考え事に沈んでいたが、王子はさらに話しかけた。
王子「ところで父上、なぜ俺にジュニアなんかと手を組めとおっしゃたのです。」
王「ジュニアはフォズの一番弟子だ、彼の才能はお前もよく知っておろう。ゆくゆくは彼が
この国の大神官として、神の教えを広める指導者となる。」
王子「あいつにフォズのような包容力はない、信者なんか一人もつくもんか。」
王「…お前どうしてそこまでジュニアを嫌う。」
王子「だってよ、俺は…。」
王「フォズとジュニアは師弟関係だ、妙なかんぐりはやめろ。第一お前はフォズのフィアンセだろう。
フィアンセならフィアンセらしく、男らしく堂々としてろ。」
王子「わかってますよ、けど…。」
王「お前の嫉妬心は顔に書いてある。神の教えには他人の出世を妬むなとあろう。
それは男と女の恋愛関係とて同じこと。」
王子「いやそうじゃなくて、なんていうかその…。」
王「何だ、はっきり言ってみろ。」
王子「ジュニアが大神官として、この国の未来を任せるには何だか不安なんです。俺はときどき
夢を見る。…いつかこの国が滅ぼされ、あいつが邪神の教祖となって世界を破滅させる夢を…。」
王「縁起でもないことを言うな、この国が滅ぼされてたまるか。」
王子「あいにく俺のカンは外れたことがない、なぜかイヤな予感がするんだ…。」
王「……」
夜空は無数の星が散りばめられており、それを眺める王と王子は、お互いこの国の未来を案じていた。
ゼルク王子は再び王の方を振り返り、今度は少し首をかしげらながらつぶやいた。
王子「ときに父上、ロトの子孫ってのは本当に存在するのでしょうか。」
王「さぁな。」
王子「俺にとってはどうでもいいけど、ジュニアのやつ熱心に調べ物してますよ。こないだもあいつ、
竜王を倒したロトの子孫の記録を探し出したくらいです。確かローラとかいう姫と結婚…」
王「ゼルク、もうその話はよさんか。重要なのはフォズを救出することだけだ。」
王子「……」
バルク王はまるでロトの話を嫌がるように、話題を変えようとしてばかりだ。
王「それより見ろゼルク、東の空の雲行きが怪しくなってきたぞ。これは何か不吉な前兆かもしれん。」
王子「ほんとだ。気持ち悪いですね……。」
北東の方角から雷雲が押し寄せてくるのが見える。それはまるで、神が怒って降りてきたかのように。
王「あの辺りはソドムの町だな…。主なる神も、いよいよ天罰を下されるときがきた…。」
王子「えぇ、あの掃き溜めの町、ソドムとゴモラに…。」
王「天罰が下る前に、何としてもフォズを救い出さねばならん。さもなくば彼女まで巻き込まれる。」
王子「父上、主なる神は良しき者も悪しき者も、全て一緒に始末なさるのですか。」
王「まことの選ばれし者なら、主は決して滅ぼしたりはせんだろう。だが神の御心は神秘だ。
誰が選ばれし者かは神自信が決めること。」
王子「……」
王「…ゼルク、そろそろ会議を始めろ。こんなとこで油売ってる場合ではないだろう。」
王子「わかりました、では失礼します。」
王子はバルコニーを出て、会議室へと向かった。
そしてバルク王は一人、星を眺めながらフォズの無事を祈った。
王「……(フォズよ…お前は何としても死んではならぬ存在…。必ず救い出してやるぞ…。
だが相手がベルゼバブの配下では、とてもワシらでは太刀打ちできぬ…。あのジュニアでさえもな。
これからワシがやることを…どうか許してほしい…。)」
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英雄ロト伝説 PAGE6
一方こちらはソドムの町 地下牢獄にて
じめじめとした地下牢にフォズ大神官は閉じ込められ、床には封印魔法陣が敷かれており、
さらに部屋の周りには無数の呪札が貼られている。
そのせいで彼女の魔法力は完全に封印され、ここから出るどころか、扉にさわっただけでも
大けがをしてしまうほどだ。
ベリアル「よォ、少しは気も変わったか?大神官。」
フォズ「……」
やがて地下牢の前にやってきた悪魔ベリアルは、鉄格子の向こうからフォズを見下ろすように
食糧を持ってきた。
ベリアル「腹減ってるだろうと思って食い物を持ってきた。ゆうべから何も喰ってねェだろ?」
フォズ「結構です。」
ベリアル「まぁそう言うな。けっこういけるぞ、この肉。」
フォズ「私はベジタリアンです。」
ベリアル「あぁそうか、クリスチャンてのは肉を食わないんだっけか。じゃお前普段なに食ってんだ。」
フォズ「生まれてこのかた、パンと山菜、お水と塩以外は口にしたことがありませんので。」
ベリアル「お前ちょっとおかしいぞ、人間のくせにそんなんで人生を楽しめるのか。」
フォズ「おかしいのはあなた方と、この町の住人です。ソドムとゴモラの町は狂っています。」
ベリアル「良かったらまた町の観光でも案内してやろうか?けっこう楽しかっただろ。」
フォズ「や、やめてください…。もうたくさんです…。」
ベリアル「武器屋のオヤジ、なかなか楽しいやつだっただろ。ヤツはああやって
子供のケツにぶち込む性癖が治らない。クスリのせいもあるが、あのオヤジは女に
自分のクソを食わせる趣味もあるらしいぜ。」
フォズ「……」
――――死海のほとり ソドムとゴモラの町
悪魔ベリアルはこの町、ソドムとゴモラに大量の疫病を撒いた。
そのためにこの町はあらゆる犯罪行為と、神の教えに反する同性愛や近親相姦などが流行した。
そしてベリアルは邪神の宗教を栄えさせ、人々の心の弱い隙間につけこみ、完全に精神を抑圧させた。
今やこの町では殺人・強盗・強姦・麻薬・生贄・少年犯罪はもちろん、健全な男と女の恋愛はなく
アナルセックスやスカトロジーに性的興奮を覚えさせ、全て神の教えを愚弄させる信仰を広めた。
ベリアル「人間てのは面白い生き物だな。ちょっとコツを教えてやりゃ、まるでサルのように
どいつもこいつも同性愛や近親相姦に走る。」
フォズ「……」
ベリアル「実はついさっきもよ、道具屋の主人が実の娘に膣内射精しやがった。
そのうち娘の体内から奇形児でも産まれてくるんじゃねェかな。」
フォズ「いい加減にしなさい…。このようなことを続ければ、この町はきっと主なる神からの
恐ろしい天罰が下るでしょう…。」
ベリアル「ははは、お前もそのうちこの町を気に入るぜ。まぁゆっくりしていけ。それがイヤなら
オレたちの言うとおり、お前の召喚術で魔界の猛者を召喚しろ。」
フォズ「お断りします。」
ベリアル「ベルゼバブ様はお喜びだ、もうすぐ人間界に降臨できるってな。あとはお前が
その能力を使って召喚させれば、この町もこの世界も、全て邪教の世界に変えられる。」
フォズ「どのような拷問をかけられようと、決してあなた方の言いなりにはなりません。
殺すならさっさと殺しなさい。」
ベリアル「あんたもかなり頭が切れるようだが、オレはそれ以上に切れる。頭脳はオレのほうが上だぜ。
お前が企んでいたことぐらい、このオレが見抜けないとでも?」
フォズ「ぐっ…。」
ベリアル「ロトの子孫の存在くらいオレだって知っているさ、あんたの弟子は熱心にそいつを
捜そうとしているようだが、ムダな努力だってことを教えてやらねェのか?」
フォズ「……」
ベリアル「…あぁそうそう、言い忘れてたが、さっきあんたがパルス魔法を使って
バルク国に極秘送信してたこともバレバレだ。」
フォズ「何ですって…?!」
ベリアル「無数の呪札が貼られたこの状態で、パルス魔法を使うとは大したもんだ。あんたの魔法力は
まるで底なしだな。」
フォズ「(し、しまった……もしや内容まで聞かれていたのでは…!)」
ベリアル「あぁ、察しの通り内容は解読したよ。もうすぐあんたの弟子とゼルク王子がここへ
助けに来るようだが、それもムダな作戦だ。オレはつねに先手を打つタイプなんでな。」
フォズ「いったいあなたは…!」
ベリアルはすでにジュニアたちが救出に向かうことも、パルス魔法を使っていたことも
全て把握していた。いったいこの悪魔は何を企んでいるのか。
ベリアル「くくく…。今どき拷問なんて流行らないぜ大神官。オレのやり口はもっと狡猾で残忍さ。
あんたは殺されてもオレたちに協力しないってことぐらい承知している。
だが他のヤツならどうかな?」
フォズ「ま、まさか…!」
ベリアル「そう、本当の目的はあんたのかわいい弟子だよ。オレはあえて弟子をさらわずに
師匠のあんたをさらったんだ。この意味わかるよな?」
フォズ「ジュ、ジュニアをどうする気です!彼はあなた方には決して屈服しません!」
ベリアル「さぁて、そいつはどうかな…。まぁ何にしてもよ、もうすぐケリはつく。
もうしばらくここでおとなしくしてろ。じきにある人物がここへ来る。」
フォズ「ある人物…?」
ベリアル「くくく…楽しみにしていろ。とっておきのスペシャルゲストを招いてやる。
そいつが来ればショーの始まりだ…。」
意味ありげで、かつ意味不明な言葉を発する悪魔ベリアル。
彼の言葉には、いったいどんな意味があるというのだろうか。
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英雄ロト伝説 PAGE7
バルク城 作戦会議室前にて
ジュニア「王子、王子。ちょっといいですか。」
王子「何だジュニア、俺は忙しいんだ。何か用か。」
ジュニア「例のパルスが少しずつ解読できたので、ご報告に。」
王子「あとにしろ、俺はこれから兵士たちと会議だ。」
ジュニア「時間はとらせませんよ、ほんの1分だけでも。」
王子「しつこいやつだな、じゃ1分な。」
ジュニア「はい。…えーと、どこから説明すればいいのかな…。」
王子「早くしろ、お前と遊んでるヒマはねーんだよ。」
ジュニア「まだ全部を解読できたわけじゃないんですけど、どうもこれはSOSじゃない気がするんです。」
王子「あん?」
ジュニア「これはおそらく警告ですよ、なぜか大神官さまは僕たちにソドムの町へ来させまいと。」
王子「何を言ってる、さっきお前が解読した文に‘助けて’と入ってただろ。」
ジュニア「ですからそれは…」
王子「何にしても明日、ソドムの町へ攻めることには変わりない。お前は足を引っ張らないよう
兵士軍の最尾列に並べ。そうすりゃ少なくとも邪魔にはならない。」
ジュニア「聞いてくださいよ、これは悪魔どものワナかもしれない。」
王子「どけ、お前のたわ言に付き合ってる時間はないんだ。」
ジュニア「ま、待ってくだ…!」
ゼルク王子はジュニアの肩を押し、突っぱねるようにして会議室へと入ってしまった。
ジュニア「……」
ジュニアの片手にはパルス文の一部を解読したメモが握られ、それにはこう書かれていた。
‘私はフォズ。 作戦変更、ソドムとゴモラの町へ来てはなりません。
ロトの子孫のことは忘れなさい。そして決して私を助けようとしてはなりません。
この町は近い将来、主なる神によって天罰が下されるでしょう。
繰り返します、私はフォズ。ソドムとゴモラの町へ来てはなりません。’
<第二幕 ソドムとゴモラ>
完
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バルク国 大神殿 聖堂―――――
ジュニア「大神官さま……僕は必ず貴方を助け出してみせます…。」
聖堂でただ一人、神の像の前で祈りを続けているジュニア。
その少年の想いは不安で、複雑で、疑問だらけだった。
ジュニア「主なる神よ……この世界のどこかにいる、ロトの子孫の存在をお教えください…。」
ジュニア「どうか大神官さまをお守りください…。僕が身代わりになってもいい…。」
ジュニア「しかし神よ…なぜ大神官さまは、あんな男なんかと婚約を……。」
ジュニアはろくに眠っていなかったため、祈りを続けながらそのまま眠ってしまった…。
ジュニア「……」
英雄ロト伝説 PAGE8
<第四幕 少年の想い>
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ジュニア「大神官さま!できましたよ!」
| フォズ「お見事です…。相変わらずあなたの才能には驚かされますね。わずか半年で
| 神官クラスへと昇進するとは。」
| ジュニア「えへへ…。」
| フォズ「その魔法の才能、ゆくゆくは神の教えに従い、この国の宗教の指導者として磨きなさい。」
| ジュニア「うん!」
|
|
| まだ幼き少年、当時それは恋ではなく恩師に過ぎなかった。
|
| フォズ「あなたのような有能な弟子を持って、私もうれしいです。」
| ジュニア「弟子かぁ…。」
| フォズ「え?」
| ジュニア「ううん、何でもないよ大神官さま。」
| フォズ「うふふ、変な子ね。」
|
| ジュニア「まだまだ未熟だけど、ぼくきっとあなたのような偉大な賢者になります。
| そしていつか一人前の大神官になったら…今度はぼくが大神官さまをお守りするんだ。」
| フォズ「まぁ、頼もしい神官ね。期待してますよ。」
|
| ジュニア「身寄りのない奴隷民族だったぼくを拾ってくれて、ここまで育ててくれたんだもん。
| 神さまにお祈りしたかいがあったよ、主は正しき者を救うってほんとだね。」
| フォズ「そうですね、主なる神はいつでも見守ってくださいます…。」
|
|
| 少年は神を信じるがゆえ、正しき者は救われると本気で信じていた。
|
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|
| やがて少年はロトの子孫に興味を持ち、彼らがこの国を救う希望だと信じ始めた。
|
|
| フォズ「おはようジュニア。朝から熱心ですね、今日は何の調べものですか。」
| ジュニア「あ、大神官さま。おはようございます。」
|
| フォズ「…またロトの子孫についてですか。」
| ジュニア「はい、英雄ロトはすごい功績を残してますよ。この本読みましたか?なんと彼は
| 大魔王ゾーマを倒したそうですよ。」
| フォズ「知っております、さぞかしお強かったのでしょう。」
|
| ジュニア「すごいなー。僕も彼みたいに歴史に刻む功績を残したいな。きっと子孫も偉大な
| 人でしょうねー。」
| フォズ「そうでしょうか…。」
|
|
| だがフォズは英雄から物乞いに堕落した輩の子孫などに、何の期待も寄せてなかった。
|
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|
| やがて少年が17歳になるころ、フォズに対して尊敬以外の感情が芽生え始めた。
|
|
| ジュニア「大神官さま、お誕生日おめでとうございます。」
| フォズ「ありがとう、そんな気を使わなくてもいいのに…。」
| ジュニア「えーと、今年で確か…。」
| フォズ「こら、女性に向かって歳のことを言うもんじゃありませんよ。」
| ジュニア「はいはい。」
|
|
| だがフォズはジュニアに対し、まだ子供のようにしか思ってなかった。
|
|
| ジュニア「いろいろ考えたんですけど、気に入ってもらえるかどうか…。」
| フォズ「まぁ、きれいな首飾り…。」
| ジュニア「すみません、こんな安物しか買えなくて…。」
| フォズ「そんなことありません、素敵なプレゼントですよ。」
| ジュニア「さっそくつけてあげますよ、ちょっと失礼…。」
| フォズ「……」
|
|
| いつの間にか身長をフォズよりも越したジュニアは、正面からそっと首飾りを回し
| フォズにつけてやろうとした。
|
| フォズ「ジュニア…あなた背が伸びましたね。いつの間にそんなに大きくなったのでしょう…。」
| ジュニア「ははは、いつまでも子供じゃありませんよ。…大神官さま、ちょっと頭さげて…。」
| フォズ「は、はい。」
|
| ジュニア「どうしたんです、顔が赤いですよ。」
| フォズ「な、何でもありません…。」
| ジュニア「よかった、似合いますよ大神官さま…。」
| フォズ「……」
|
| ジュニア「あ、やっぱり気に入りませんか…?」
| フォズ「い、いえ…。どうもありがとう、ジュニア…。」
| ジュニア「……」
|
|
| うつむいていたフォズはようやく顔を上げると、ジュニアはそっと顔を近づけるが
| フォズはすぐに理性を取り戻す。
|
|
| フォズ「だ、だめ…。」
| ジュニア「どうしてです…。僕じゃダメなんですか…。」
| フォズ「ごめんなさい、失礼します…。」
| ジュニア「ま、待ってくださ…!」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|
| 抑えられない初恋の想いは、修行に打ち込むことで忘れようとする少年。
|
|
| 妾「あらジュニアくん、今日も魔法の修行かしら?」
| ジュニア「えぇ…。」
| 妾「うふふ、ところであなた、フォズ様のことが好きなのね。」
| ジュニア「……」
|
|
| ゼルク王子の妾が誘惑してくることもしばしばあったが、少年の心はフォズにあった。
|
|
| 妾「隠しても分かるわよ、こないだだってフォズ様の浴室を覗き見してたでしょ。」
| ジュニア「そんなことしてない、僕は彼女の浴室を掃除して…」
| 妾「そうだったかしら、まぁいいわ。…ところであなた、女の子の裸まだ見たことないんでしょ?
| 2000ゴールドでいいわ、あたしと遊ばない?」
|
| ジュニア「……」
| 妾「教会の寄付いくらか持ってるんでしょ?あなたもそろそろ遊んだほうがいいわ。
| ゼルク王子ったら最近あたしと遊んでくれないの。」
| ジュニア「僕にさわるな…。」
| 妾「ねぇ…あたし、あなたとなら…。」
|
| ジュニア「さわるな!汚らわしい!」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|
| 複雑で純粋で、その想いが伝えられない少年は、あせりと苛立ちを感じ始めた。
|
|
| ジュニア「何かお呼びでしょうか、バルク王。」
| 王「ジュニア…。単刀直入に言おう、お前フォズのことをどう思っておる。」
| ジュニア「……」
| 王「お前は確か今年で17歳だったな。年頃の少年の心はワシも分かっておる。近ごろのお前は
| 修行に身が入っておらんようだし、いつもいつもフォズのことばかり気にして…。」
|
| ジュニア「しかし大神官さまは僕を一人前として認めてくださいます…。」
| 王「あぁ、一人前の賢者としてな。決して男としてではない。」
| ジュニア「……何がおっしゃりたいのでしょうか。」
|
| 王「いくら恩があるとはいえフォズは年上だぞ、お前の相手ぐらいワシが紹介してやる。」
| ジュニア「恋愛に年齢の差なんて関係あるのでしょうか。」
| 王「ゴホン…とにかくあまりフォズに近づくな。年頃のお前が女性に近づくのが危なくて見ておれん。」
|
| ジュニア「見損なわないでください、僕は貴方の息子さんのようなスケベじゃありませんから。」
| 王「ゼルクが何だと?もう一度言ってみろ。」
| ジュニア「も、申し訳ありません…。口が過ぎました。」
| 王「いいか、何度も言うがお前はフォズの弟子だ。妙な色目を使ってフォズを困らせるな。」
| ジュニア「……」
| 王「分かったのか。」
| ジュニア「はい…以後気をつけます…。」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 王子「おいジュニア、ちょっと話がある。」
| ジュニア「何でしょうか王子。」
|
|
| 女たらしで自己中なゼルク王子。少年はこのころから彼が嫌いだった。
|
|
| 王子「来週、城で盛大なパーティーが催されることは知ってるだろ。お前も出席すんのか。」
| ジュニア「魔法の授業が終わってから出席しようかと。」
| 王子「よし、じゃあそのとき俺の妾を一人紹介してやる。」
| ジュニア「は?」
| 王子「向こうもお前のことが気に入ってるらしい。元は娼婦だがけっこういい女だ。
| お前のようなガキにはもったいないくらいだ。」
|
| ジュニア「…王子、いったい何の話です。」
| 王子「俺の言いたいことは分かってるだろ…。これ以上フォズに近づくんじゃねーって
| 言ってんだよ。あの女は俺のものだ。」
| ジュニア「……」
| 王子「いいか、もしフォズに手を出したら…。」
|
|
| 怒りを隠せなかった少年は、そのとき初めて人に手を上げてしまった。
| バキィッ!
|
|
| 王子「うわっ!て、てめえ…!殴ったね…!王子の俺を殴ったな!親父にもぶたれたことがないのに!」
| ジュニア「殴ったがどうした!お前みたいなやつに大神官さまがなびくもんか!」
| 王子「も、もう許さねーぞ!親父に言いつけてやる!お前なんかクビだ!」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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|
| しかし無情にも、運命はジュニアの方には向かなかった…。
|
|
| ジュニア「大神官さま、ゼルク王子と婚約したって本当ですか。」
| フォズ「え、えぇ…。」
| ジュニア「なぜです、どうしてあんな男と。」
| フォズ「ジュニア、失礼なことを言うんじゃありません。彼はこの国の王子ですよ。」
|
| ジュニア「あいつがどれだけ女を泣かせてきたか知っているでしょう。妾どころか
| 町の女性とも遊んで…。」
| フォズ「……」
| ジュニア「王子が貴方を幸せにできるとは、とても思えませんね。僕には貴方の心理が
| 分かりません。」
| フォズ「私が何だと言うのです。もう決まったことなのですよ。大人の話に子供が
| 首を突っ込まないで。」
| ジュニア「どうせバルク王が無理強いに婚約させたんでしょう。大神官さまはどうなんです。
| 貴方の気持ちを教えてください、でないと僕は…。」
| フォズ「何ですか。」
|
| ジュニア「僕は…僕はその…。」
| フォズ「はっきり言ってごらんなさい、男の子でしょう。」
|
| ジュニア「男の子じゃない……僕は男なんだ…。どうして貴方はいつも僕を子供扱いして…。」
| フォズ「ジュニア…。」
| ジュニア「もういい!誰とでも勝手に結婚してしまえ!」
|
| フォズ「ジュニア!待ちなさい!」
|
|
| ついに想いを打ち明けられなかった少年は、気持ちを吐き出す場所もなく道を失ってしまった。
|
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 王子「フォズ、まだ起きてたのか。」
| フォズ「王子…。」
| 王子「おいおい、その王子ってのはもうやめようぜ。俺たち婚約者なんだからさ。
| ゼルクって呼べよ。」
| フォズ「はい…。」
|
| 王子「少し早いけど指輪を買ってきた。…ほら、見てみな。」
| フォズ「……」
| 王子「すごいだろ、この宝石は南の鉱山で発掘されたカラーストーンの原石だよ。
| それを磨いて作った高価な指輪さ。」
| フォズ「……」
| 王子「…少しはうれしそうな顔しろよ、これすごく高かったんだぞ。」
| フォズ「はい、うれしいです…。」
|
| 王子「ん?何だこの首飾りは。」
| フォズ「こ、これは…。」
| 王子「こんなもん外せよ。お前にはこんな安物似合わないぞ。もっといいものを買ってやる。」
| フォズ「いやです、これは私の大事な…。」
| 王子「どこで買ったか知らないけどダサすぎるんだよ、こんな首飾り。いいから外せ。」
|
| フォズ「いやです!やめてください!」
| 王子「わ、分かったよ…。お前がそこまで言うのなら…。」
| フォズ「……」
|
|
| 今まで抑えてきたフォズの想いも、自分自身で少しずつ考え始めた。
| 自分はいったい、誰を愛すべきなのかと…。
| 王子「……なぁ、式にはこの指輪をはめてやるよ。俺たちいつまでも幸せになるように…。」
| フォズ「お、王子…やめてください…。人が入ってきたらどうするんです。」
| 王子「何を恥ずかしがっているんだ、身体を触られるのがそんなにイヤか?」
|
| フォズ「ジュ、ジュニアが隣の部屋でまだお祈りを…。」
| 王子「年頃のあいつにも見せてやろうか、俺たちのエッチをよ。きっとそれを覗きながら
| 右手が自分の股間に…。」
| フォズ「失礼なことを言わないで!」
|
| パシ!
|
| 王子「いて!な、何するんだよ…!」
| フォズ「ジュニアを侮辱する者は、王子だろうが何であろうが私が許しません…。」
| 王子「お、お前まさかあんなガキに…。」
| フォズ「……」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| フォズ「バルク王…。私はもうこれ以上耐えられません…。」
|
| 王「ワシの息子と結婚するのがそんなに嫌か。」
| フォズ「違います!自分の気持ちに嘘をつくのが嫌なんです!」
| 王「お前…。」
| フォズ「うぅ…。」
|
|
| フォズは必死に自分の気持ちを隠そうと、そして抑えようとする。
|
|
| 王「まさかお前の気持ちはジュニアに…。」
| フォズ「わ、わかりません…。自分でもどうしたらいいのか…。」
| 王「お前はゼルクと婚約しておるのだ、神の教えに背くつもりか。」
| フォズ「……」
|
| 王「よいかフォズ…。自分の立場を忘れるな。そしてワシの立場も忘れるな。
| ジュニアに対して特別な感情を抱いてはならん…。お前のフィアンセはゼルクなのだ。」
| フォズ「承知しております…。」
|
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ジュニア「う、うぅ〜ん……。」
王「(ジュニア…。)」
昔の夢を見ながら聖堂で眠り続けているジュニアの横へ、バルク王がゆっくりとやってきた。
王はジュニアを起こさずに、そっと神官の上着をかけてやった。
かけられた上着、それはジュニアがいつも着ている神官クラスの装束ではなく、
三つの鳥が描かれている大神官クラスの装束だった。
どうやらバルク王も、ジュニアを大神官として認めたようだ。
ジュニア「……」
王「(ジュニア…お前は優秀な賢者だ、ワシも認めよう。だがフォズのことはあきらめてくれ…。
ワシはあのどうしようもない息子に嫁が欲しいのだ…。そうすれば息子も女遊びをやめ
この国のことを少しは考えてくれるはず…。)」
ジュニア「……」
王「(息子に何としても子供を産んでもらわねば…。ワシは孫の顔を見るまでは
死んでも死にきれん。)」
ジュニア「……」
王「(お前は女性に愛されなくとも、神に愛されておる。主なる神はきっとお前を
見守ってくださるはずだ…。お前に神のご加護があらんことを…。)」
ジュニア「……」
静まり返る真夜中の大聖堂、バルク王は眠っているジュニアに代わって神に祈った。
この国に未来を―――
この世界に希望を―――
聖なる愛のご加護を―――
そしてバルク王は祈り終わると、最後に神の御前でこうつぶやいた。
王「神よ……お許しを…。」
すると王は今度はなんと、ふところから鉄の棍棒を出した。
王「ジュニア……許してくれ…。」
ジュニア「……」
何を血迷ったのか、王は眠っているジュニアの頭を思い切り棍棒で殴りつけた。
ッガン!!
ジュニア「うぐっ…!」
王「……」
ドタリ
ジュニアはそのまま気絶し、ハラリと舞う大神官装束が彼を再び包んだ。
<第四幕 少年の想い>
完
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英雄ロト伝説 PAGE9
<最終幕 大神官ハーゴンの誕生>
あくる日――――
王子「おい、父上を知らないか。」
兵士長「いえ、今日はご覧になっておりませんが。」
王子「ジュニアのやつもいないんだ、どこへ行ったんだ…。」
兵士長「大神殿のほうにおられるのでは?」
王子「すでに捜した。どこにもいないから聞いてんだよ。」
兵士長「王子、とりあえず部下を門前に集合させてもよろしいですか。出撃準備を整えたいので。」
王子「あぁ、けど親父とジュニアがいなければソドムの町へ出撃に向かえないぞ。」
兵士長「どうしたのでしょうか…。」
王子「兵士たちを全員集めたら親父とジュニアを捜せ。俺ももう一度捜してみる。」
兵士長「はっ、了解しました。」
王子「まったく…!これから出撃だってのに、二人ともどこ行っちまったんだ…!」
〜〜〜〜〜〜だが そのころ〜〜〜〜〜〜〜〜
英雄ロト伝説 PAGE10
ソドムの町 地下牢獄
ベリアル「おい大神官、起きろ。ぼちぼちスペシャルゲストの登場だぞ。」
フォズ「え…。」
ベリアルはそう言うと、フォズの牢屋のカギを開け、扉を開けた。
カチャン! ギギーーー
バズズ「やっほー、連れてきたわよん。」
アトラス「でへ、でへ。」
フォズ「いったい誰を…。」
バズズとアトラスの案内のもと、なんと地下牢に現れたのは…
王「待たせたな…。」
フォズ「?!…バ、バルク王!なぜあなたがここに…!」
なんと気絶したジュニアをかついで、バルク王がソドムの町にやってきた。
ベリアル「よォ王様。待ってたぜ、入れよ。」
王「……」
フォズ「ジュ、ジュニア?!何事なのですか!これはいったい…?!」
王「フォズよ、心配いらん。ジュニアは気絶しているだけだ…。それよりケガはないか。」
フォズ「バルク王!いったいこれはどういうことです!」
さすがのフォズも、この状況をどう把握していいか分からなかった。
バルク王は落ち着いた様子で、気絶しているジュニアをベリアルに差し出した。
王「悪魔どもよ、約束どおり弟子のジュニアを引き渡す。フォズを返してもらおうか…。」
ベリアル「あぁ、ご苦労だったな。」
フォズ「ま、まさかあなたは…!」
王「すまん…こうするしかないのだ…。」
やがて状況を少しずつ理解し始めたフォズ、それと共に怒りがこみ上げたきた。
フォズ「そういうことですか、バルク王…。すでに悪魔の手先に成り下がっていたとは…。」
王「仕方なかろう、お前を助けるためだ。お前は何としても死んではならぬ存在…。
このワシも、息子ゼルクも。」
フォズ「ジュニアならどうなってもいいと言うおつもりですか…。」
王「悪いと思っている…。」
フォズ「ジュニアなら死んでも何も損はない。そう言いたいのですね…。」
王「……」
滅多に感情を表に出さないフォズだが、さすがにこれにはキレたようだ。
フォズはゆっくりとバルク王に近づいてきた。
フォズ「私は今日ほど人を憎いと思った日はありません…。もうあなたを王とは認めな…」
だが次の瞬間、ベリアルはフォズの首筋に当て身をくらわせた。
ッダン!
フォズ「うあっ…!」
ドタリ チャリーン…
フォズ「……」
フォズは倒れ、首筋を殴られた際に、彼女の胸元から首飾りも一緒に外れてしまった。
ベリアル「危うくケンカになるとこだったな、まぁとりあえずこれで取引は成立だ。
フォズを持ってけ。」
王「うむ…。」
バルク王は倒れたフォズを抱きかかえ、地下牢を出て行った。
床にはヒモの切れた首飾りが落ちており、まるで愛情の糸も一緒に切れてしまったようだ。
英雄ロト伝説 PAGE11
ベリアル「フン、人間も所詮は裏切り者だが、魔界では珍しいことじゃねえな。」
バズズ「ねーベリアル、このコどうすんの?」
ベリアル「決まってんだろ、こいつにはこれからたっぷりと働いてもらわないとな。…だがその前に
ぼちぼち真実を話してやってもいいだろ。」
ベリアルは指先に魔法を集中し、気絶しているジュニアの額に当てた。
ギィィン!
ジュニア「う、う〜ん…。」
ベリアル「よォ、目が覚めたか?ボウズ。」
ジュニア「え……ハッ!お、お前は…!」
ベリアルの魔法によって意識を取り戻したジュニアは、驚いた様子で構えた。
ベリアル「イキのいいボウズだな、まぁそう構えるな。何もしねーよ。これからオレたちは
仲間になるんだからよ。」
ジュニア「何だと…?!」
バズズ「うふふ、よろしくね。坊や。」
アトラス「えへ、えへ、えへへ。」
まったく状況のつかめないジュニア、自分は仲間に売られたとも気づかずに。
ベリアル「さぁてと……しかしどこから説明してきゃいいんだ。」
バズズ「単刀直入に言ったら?‘あんたは裏切られた’ってさ。」
ジュニア「なに??」
ベリアル「まぁそうだけどよ、年頃の少年には少々刺激が強すぎる。この真実はな…。」
ジュニア「お前ら!いったい何を言ってる!そんなことより大神官さまはどこだ!」
ベリアル「安心しろ、フォズはバルク王が連れて帰った。お前と引き換えにな。」
ジュニア「え…。」
バズズ「だーかーらー、あんたはあたしたちに売られたってことなのよ。わかる?」
ジュニア「……!」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 王子「親父…いや父上!今までいったいどこに!捜しましたよ!」
| 王「すまん…。」
| 王子「ハッ…!フォズ?!どうしてフォズが!」
| 王「安心しろ、気を失っているだけだ。」
| 王子「まさかソドムの町へ?父上がフォズを助けてくれたのですか!」
|
| 王「あぁ、ジュニアと引き換えにな…。」
| 王子「何だって…?」
| 王「ジュニアを悪魔に売ったのだ、何か文句あるか。」
| 王子「?!」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ベリアル「なぁボウズ、人間ってのはちょっとしたことで簡単に気が変わるものだ。たとえ
神の宗教に仕えているやつだって、神のためなら裏切りも殺人もできる。」
ジュニア「黙れ!」
ベリアル「お前はフォズの弟子だ、魔族として生まれ変われば今よりももっと力をつけられる。
オレたちの仲間になれ。そうすればお前の望む神を召喚させてやる。」
ジュニア「ぼ、僕は…僕はお前らみたいな悪魔などと…!」
ベリアル「そもそも悪魔ってのは誰の心にも持っている感情だ。バルク王やゼルク王子にも
心の中に悪魔を飼っている。なぜお前を売ってまでフォズと結婚させたがるか分かるか?」
ジュニア「な、何のことだ…!」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 王子「親父!何のためにこんなバカげたことを!」
| 王「何のためにだと?お前以外の誰のためだと思っておる!!ワシはお前のために
| フォズを言い聞かせて…!」
|
| 王子「こんなことして恥ずかしくないのか!ジュニアを引き渡しただなんて!
| い、いくらあいつでも、そこまでするなんて…!」
| 王「フォズとお前を守るためだ!お前たちは結婚するのだ!何度も言わせるな!!」
|
| 王子「こ、こんなことして…今に神の天罰が下るぞ!」
| 王「いいや!神は決してワシに天罰は下さん!これは運命なのだ!」
| 王子「ど、どうしてだ…!」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ベリアル「お前も熱心にロトの子孫を捜していたようだが、見つけたところで
ムダだってのが分からねーかな。」
ジュニア「うるさい!ロトの子孫さえいればお前たちなんか一発で…!」
ベリアル「ははは、大した子孫だな。」
ジュニア「何がおかしい!」
バズズ「あっはははは!このコまーだ気づいてないみたいよ。ベリアル、いい加減に教えてやったら?」
ジュニア「な、なに…??」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 王子「親父!ま、まさかロトの子孫ってのは…!」
| 王「そうだ!!察しの通り、このワシがロトの子孫なのだ!つまりお前もだ!ゼルク!」
| 王子「な、何だって…?!」
| 王「英雄の血筋は巧妙に隠しておかねばならん…。さもなければ、いつ何者かにその血統を
| 絶やされ兼ねん…。いくら英雄の子孫とて、今のワシやお前ではあの悪魔どもには到底及ばん…。
| だからお前にも隠しておいた…。いつの日か、強い戦士が生まれるまで…。」
|
| 王子「お、俺がロトの子孫だって…?!」
|
| 王「そうだ!そ、それなのにお前ときたら…!朝から晩までロクに訓練もせず遊びほうけおって!
| ワシはとうにお前などに期待していないのだ!ワシは孫に希望を託しておるのだ!!」
| 王子「…そ、そのために俺とフォズを結婚させようと…!」
|
| 王「フォズのような天才はおらん…。彼女の生まれ持った賢者の才能と、ロトの血筋がまざれば
| 史上最強のロトの子孫たちが誕生する…。」
| 王子「なっ…。」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ベリアル「分かるか小僧、お前はバルク王に…いや、ロトの子孫に利用されたんだよ。
自分たちの血統に強い戦士を産ませるためにな。」
ジュニア「そ、そんなの…そんなのウソだ!」
ベリアル「確かに今の王子は、なさけねーロトの子孫だよな。だからフォズのような有能な賢者と
血を混ぜさせたかったのさ。そうなると残ったお前が使い物にならねえゴミだ。
やつらはゴミのお前を売って、ロトの血筋を守ったってわけさ。」
ジュニア「だ、大神官さまは…!」
ベリアル「あぁ、フォズも知らされていた。彼女がなかなかお前に振り向かなかったのはこれが理由だ。
お前の初恋もとんだ結果に終わっちまったな。」
ジュニア「……」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 王子「こ、こんなやり方が神の教えだと言うのか!そこまでしてロトの子孫を…!」
| 王「ワシらは選ばれし者だ!選ばれしロトの子孫のためであれば、神は罪だって黙認するのだ!
| 滅ぶべき者は悪だ!あの邪悪なソドムとゴモラの町だ!」
|
| 王子「く、狂ってる…!あんたは人間じゃない!」
| 王「うるさい!!ロトの血統の風上にも置けんお前に言われとうないわ!お前は黙って
| ワシの言うことを聞いてればいい!せめて有能な子孫ぐらい残せ!!」
|
| 王子「ク、クソ親父が…!」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ベリアル「お前が毎日祈りを捧げていた神も、やつらには天罰を下さねェ。何しろロトの子孫だ。
神は選ばれし者を残し、この腐ったソドムの町とオレたち悪魔にしか手を下さないのさ。
不公平だとは思わないか?」
ジュニア「……!」
ベリアル「憎め!自分の憎しみを増幅しろ!お前は神にもフォズにも愛されてねェんだよ!
神を恨め!ロトの子孫に復讐しろ!!オレたちと手を組むんだ!」
ジュニア「う、うぅ…!」
ベリアル「オレの神は魔界の教祖だが、仲間になればお前をこの世界の教祖にしてやる!
お前は大神官だ!だから邪神の大神官としてこの世界に君臨しろ!!」
ジュニア「う、うぁぁぁあああああ!!」
胸が張り裂ける思いで叫ぶジュニアの声と共に、ソドムの町に地響きが鳴り出した。
ゴゴゴゴゴ…!!
バズズ「あら、ぼちぼちこの町も終わりね。神がイオウの雨を降らせようとしてるわ。」
アトラス「ソソソソドムとゴモラの町は、焼かれてししししまうんだな…。」
ベリアル「そうだな、だが今ここで一人の人間が生まれ変わろうとしている。オレたちで
祝ってやろうじゃねェか。今日は記念すべき日だ。」
バズズ「そうね、みんなでカンパイしましょ。」
ジュニア「うぅ…!」
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 王子「クソ親父!あんたなんかもう王でも父親でもない!人間でもない!!」
| 王「黙れ!役立たずのバカ息子が!」
|
| 兵士長「お二人とも!おやめください!親子喧嘩している場合ではないですぞ!」
| 王「ええい放せ!」
| 王子「ぶっとばしてやる!この腐ったオヤジが!」
|
| 兵士長「ハッ…!待ってください!あそこを見てください!空が…!」
| 王「?!」
| 王子「え…。な、なんだありゃ?!」
|
| 兵士長「ソ、ソドムの町の方角です!空から炎の雨が…!」
| 王「…ふん、ついに天罰の時がきおったか…。」
| 王子「ま、町が焼かれていく…!ジュ、ジュニアが…!」
|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
やがて外は雷雲で包まれ、空から燃えたイオウの矢が降り、住人たちを焼き尽くす。
これが世に言う「ソドムとゴモラを焼き尽くした、神の怒りの炎」である。
ベリアル「ジュニアだったか?オレの血を飲め。今日からお前も仲間だ。この地上では
オレたちがお前の手足になってやる。」
バズズ「これから仲良くやろーね、坊や。」
アトラス「うは、うは、うはは。」
ジュニア「……」
空から降る燃えたイオウの矢は、やがてこの地下牢にも届き、周りは炎に包まれてしまった。
ッゴガァァァーーーー!!
ベリアル「この町の最期と共に、オレたちも地獄まで付き合ってやる。だが死ぬわけじゃねェ。
生まれ変わるんだよ…。邪神の教祖としてな…。」
ジュニア「……」
悪魔ベリアルは指先を切り、自らの血をワイングラスに注ぐと、ジュニアの前に差し出した。
ベリアル「さぁ、これを飲め。そうすればお前は生まれ変われる。」
ジュニア「……」
ベリアル「記念のしるしとして、お前が生まれ変わったら新しい名前をオレたちがつけてやる。
ジュニアなんて弱々しい名前は捨てろ。」
ジュニア「……」
バズズ「はーい!あたし考えたげる。」
アトラス「お、お、おれも考えたんだな。」
ベリアル「お前はよせ、どうせろくな名前考えやしねーんだから。」
アトラス「うぐぅ…。」
なかなか血を飲もうとしないジュニアを見て、ベリアルはワイングラスを取り上げてこう言った。
ベリアル「ジュニア、オレの顔を見ろ。まるで神が描いたような美形だろ?男のようにも見えるし
女のようにも見えるオレの顔は、お前の好みではないかもしれねェが…。」
ジュニア「…?」
ベリアル「オレの唇をお前にやろう、オレの愛の証だ。」
ベリアルはそう言ってワイングラスに口をつけ、一気に自分の口の中へ入れた。
だが飲み干したわけではない。血を口の中に入れたままだ。
ベリアルの口からしたたり落ちる血は、唇をまるで口紅をつけたように真紅に染まり、
その美形をさらに美しく、妖しく見せた。そして…
ジュニア「な、何を……うぐっ!」
ベリアル「……」
バズズ「わぉ♪大胆ね〜。」
なんとベリアルは口移しでジュニアに血を飲ませた。同性同士の接吻なのかは分からないが、
その光景は何とも恐ろしく、鳥肌が立ち、そして美しかった。
長い悪魔の接吻が終わると、ベリアルは口をぬぐいながらこう言った。
ベリアル「…悪かったな、相手がフォズでなくて。」
ジュニア「……」
悪魔の血を飲んだ少年の心に、徐々に闇が支配していくのを感じた。
バズズ「あれ?ジュニア、あんたキス初めてだったの?」
ジュニア「……」
ベリアル「ははは、まぁとりあえずこれで洗礼は済んだな。」
そしてジュニアはようやく床に落ちている首飾りに気づき、それを拾いながらこうつぶやく。
ジュニア「……ジュニアという名前は、小さいころ大神官さまにつけてもらったんだ…。」
ベリアル「そうか…。」
決して高価なものではないが、少ないお金で買った首飾りを眺めながらフォズを想う。
ジュニア「彼女、もうこれは要らないみたいだな…。きっともっと高価なものを買ってもらえる…。」
ベリアル「あぁ、ロトの子孫の王子様にな…。」
ジュニア「幸せにしてくれるだろうか…。それだけが気がかりだ…。」
ベリアル「期待できねェと思うぜ、女たらしで自己中なヤツだ。」
ジュニア「……」
首飾りを手にしながら一粒の涙が落ちる、人間として最後の涙だった。
ジュニア「身寄りのない僕を拾ってくれて…。」
ベリアル「もう忘れろ…。」
それは少年として最期の言葉でもあり、人間として最期の言葉だった。
ジュニア「僕は…本気で彼女を愛していた…。」
ベリアル「あぁ…。わかってるよ…。」
ジュニア「あれほど人を好きになることも、もうなくなってしまうのか…。」
ベリアル「そうだな…。」
すでに逃げ場のない獄炎に囲まれた牢屋、そこには三匹の悪魔と一人の人間。
何とも奇妙だが、妙な妖しさと悲哀な美しさがあった。
ジュニア「誰にも愛されずに、一生を終えてしまうのか…。」
ベリアル「安心しろ、これからはオレたちがお前を愛してやる…。」
炎に包まれた地下牢は徐々に狭まり、やがてジュニアたちを焼き尽くしてしまった…。
闇の中で、悪魔とジュニアのささやき声が、遠く彼方へ消えるように聞こえる。
…………お前は今日からハーゴンと名乗れ。大神官ハーゴンだ…………
…………変な名前だ……センスもくそもない…………
…………お前が生まれ変ったら、まず何をしたい?…………
…………そうだね、まずはバルクの国でも滅ぼしてやるかな……僕を見捨てた、あの国を…………
…………名案だ、オレたちも協力してやる。……………………
…………ところで、いつになったら僕は生まれ変れるんだ……………
…………まぁ焦るな、外の時間では何十年とかかるかもしれないが、ここではあっという間だ…………
…………じゃあそのころには、みんな生きていないかも…………
…………だがロトの血筋は生きている。奴らに復讐してやろうぜ…………
…………わかったよ……僕にはもう、神さまはいないし…………
邪悪なソドムとゴモラの町は滅び そして新たな邪神の教祖が 今ここに誕生しようとしていた…。
<最終幕 大神官ハーゴンの誕生>
完
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英雄ロト伝説 PAGE12
<エピローグ>
ソドムとゴモラの町が滅び、あれから三年後―――――
王「ほーら、高い高い〜。」
ブルク「バブバブ…。」
王「はっはっは、かわいいのぅ。お父さんとお母さんにそっくりだわい。」
ブルク「バブ〜。」
産まれて一歳の誕生日を迎えた赤ん坊を抱くバルク王。
ゼルク王子とフォズ大神官の子供である。名を「ブルク」と名づけた。
王「いや、ワシに似ておるかな。そうだワシ似だ。なぁ、お前もそう思うだろう?」
妾「はい、バルク王に似ていらっしゃいますわ。おほほほほ。」
ブルク「バブ…。」
この産まれた男の子、月の精霊のご加護を受け、バルク王はこの孫に
王位を継がせる決心はすでにしていた。
息子のゼルクは王子の権威を剥奪され、一年前に国を追放された。そして彼は二度と
この国へは帰ってこなかった。
フォズは子供を産んでから間もなく自害し、遺言にはこう書いてあったそうだ。
「約束どおり、神の教えには従いました。しかし人の心はたとえ神でも操れません。
仲間を裏切ってまで守ろうとする神の教え、私には理解不能です。
英雄の血筋のために自分に嘘をつくぐらいなら、私は死を選ぶでしょう。
真実の愛を押し殺してまで、神に従わなくてはならないのなら、いっそのこと
あの世でこの国の行く末を見守っています。
私の愛があるとすれば、それはこの世でたった一人のもの。
あの世で今度こそ、私は自分に正直に生きてゆきます…。」
王「ブルクよ、これからはお前が王子だ。期待しておるぞ、ロトの子孫よ。はっはっは。」
ブルク「バブバブ…。」
バルク王はこのフォズの遺言を読んだ直後、無表情で破り捨てたそうだ。
彼女の自殺は夫への不満が動機だったと偽り、国民には真実を全て隠した。
孫が生まれてから、バルク王は全てを闇に葬り去ったのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
やがて20年後、バルク王が病に倒れるころ、この国に新たな王が誕生した。
月の精霊のご加護を受けているブルクは‘月のブルク’と呼ばれ、「ムーンブルク」という
新しい国の王として統治することに。
そしてバルク王の予感通り、70年後には隔世遺伝が起こり、史上最強のロトの子孫たちが三人も誕生した。
ローレシア国の王子、サマルトリア国の王子、そしてムーンブルク国の王女。
彼らはそれぞれロトのような強い肉体、精神力、そしてフォズのような知力、魔法力を兼ね備え
何者にも負けない戦士として育った。
だが間もなく全世界を支配する大神官ハーゴンがこの地上に降臨し、その第一目標として
ムーンブルク城を襲わせた。つまり旧バルク国だ。
ハーゴンはこの国を真っ先に攻撃することを決めており、ロトの子孫を根絶やしにしようとした。
ムーンブルク城は大神官ハーゴン率いる魔王軍によって、あっという間に崩壊した。
そしてこの当時のムーンブルク王を殺害することには成功したが、彼には娘の王女がいたことに
気づかなかった。ハーゴンは部下に血眼でムーンブルクの王女を捜索させ、追い詰められた王女は
無力な犬の姿に変化させられた。
ロトの子孫たちにとっては、ハーゴンがムーンブルク城を襲った理由は教えられていなかった。
大神官ハーゴンの野望はロトの子孫たちを絶滅させ、この世界に破壊の神を召喚させること。
しかしベリアルたちの協力もあったが、最終的にはロトの子孫たちに敗れ去り、ハーゴンは処刑された。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
英雄ロト伝説 PAGE13
そして現在 ムーンブルク城 廃墟にて――――
大神官ハーゴンが処刑されたのち、ムーンブルクの王女が父親の墓を訪れたときのこと。
そばには仲間の王子たちも墓参りに来ており、世界を救った王子たちが集まっていた。
リンダ「お父様…。ようやく戦いは終わりました。ハーゴンは処刑され、世界に平和が訪れました。」
アレン「リンダ、これでお前の親父さんも、うかばれるだろ。」
リンダ「そうね…。」
トンヌラ「ボクたち三人の力でハーゴンをやっつけたもんね。」
アレン「あぁ、そうだな…。」
墓参りを終えると、リンダ王女は立ち上がって二人の王子の方を振り返った。
リンダ「ねぇ、二人とも。ちょっと私についてきて。見せたいものがあるの。」
アレン「何だよ。」
トンヌラ「なになに?」
リンダ王女はそう言って、二人を廃墟となったムーンブルク城の裏庭へ案内した。
リンダ「…これよ、このお墓。」
アレン「誰の墓なんだ?ずいぶん朽ち果ててるな…。」
トンヌラ「ねぇリンダ、これが何なんだい?」
リンダ「昔、お父様から聞いたんだけど…。このお墓はね、私のご先祖さまが眠っているの…。
私にとって、遠い遠いおばあさまよ。」
アレン「ふーん…。」
リンダ「若い頃に自殺したらしいんだけど、どうも失恋が原因らしいの。」
トンヌラ「へぇー。」
リンダ「ねぇアレン、あなたハーゴンの処刑を見たんでしょ。」
アレン「あぁ、親父の付き添いでな。まぁ遠くからチラっとしか見てないが…。」
リンダ「そのときハーゴン何か持ってなかった?首飾りのような…。」
アレン「なんだ、それなら今オレ持ってるぞ。親父から預かっててな。」
リンダ「ほんと?ちょっとそれ見せてもらえる?」
アレン「あぁ、いいけど…こんなもんどうすんだよ。」
アレン王子はポケットから「首飾り」を出し、リンダ王女に手渡した。
リンダ「……やっぱりそうだわ、ここの石のところを見て。文字が彫ってあるの、かなり古いから
読みにくいけど…‘ジュニアより愛を込めて――――大神官フォズさまへ’」
アレン「それが何だっていうんだ?」
リンダ「アレン、悪いけどこれ私にくれない?」
アレン「おいおい、お前それハーゴンが持ってた首飾りだぞ。なんか呪いでもかかってんじゃねーか?」
リンダ「いいえ……なんだかこの首飾りには、悲しい愛を感じるわ…。どうしてか分からないけど…。」
トンヌラ「……」
アレン「お前な…親父さんを殺した仇の物だぞ。そんなもん捨てちまえよ。」
リンダ「私はこのお墓に眠るご先祖さまに近い子孫だから分かる気がするの…。彼女はこの首飾りを
ずーっと前からここで待っていたような…。」
アレン「トンヌラ、お前こいつの言ってること分かるか?」
トンヌラ「ううん、わかんない。」
リンダ王女は朽ち果てた墓石の前に、首飾りをそっと置き、手を合わせて祈った。
リンダ「遠いおばあさま、あなたの好きな人が帰ってきましたよ…。これでもう寂しくありません…。」
アレン「分からないな…女ってのは。こんなことして何になるっていうんだ…。」
リンダ「うふふ、女心が分かってないわねアレン。愛し合っている者同士は、死んでからも
一緒に眠っていたいものよ。たとえ仇であろうと、昔は恋をしたこともある
純粋な少年だったかもしれないじゃない?」
アレン「あのハーゴンがか?ありえねーなそりゃ。」
トンヌラ「うん、あり得ないね。」
リンダ「いいの、女の子ってのはそういう風に考えたいものなの。」
アレン「そういうものか…。」
リンダ「そういうものです。」
廃墟と化したムーンブルク城、空は夕焼けに変わっており、朽ち果てた墓を照らしていた。
ようやく持ち主のもとへ帰ってきた首飾りは、この朽ち果てた墓と共に永遠に眠った。
墓に眠るご先祖は安心したように微笑むようで、そして首飾りはもう魔王としてではなく、
一人の少年の安らかな寝顔が見えるようだった…。
英雄ロト伝説
完
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<英雄ロト伝説 物語登場人物>
神官ジュニア
大神官フォズ
ゼルク王子
バルク王
ベリアル
バズズ
アトラス
ローレシア国:アレン王子
サマルトリア国:トンヌラ王子
ムーンブルク国:リンダ王女
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
_____
|___†_| もう暗い物語はやめようと思っても、やはりまた暗くなってしまった。
( ・∀・) 今度こそ陰気な物語はこれで終わりにしよう。ともあれ読んでくれた人に感謝。
(| ╋ |)
今回は特にテーマはないです。もともと長編にしようとしていたハーゴン説を
できるだけ短くまとめたものにしました。
ロトの子孫を尊敬し、彼らに希望を託していた少年が、実はロトの子孫に利用されたという事件を
恋愛を通して作ってみました。けっきょく彼は最後まで結ばれることはなかったけど…。
映画「スターウォーズ」のアナキン・スカイウォーカーが、のちにダース・ベイダーとして
悪の道に染まってしまうような悲劇なドラマが描けたらよかったけど、この手のやつ
もうかなり出尽くしてるし次は違ったものにしよう。もっと明るいやつとか。
ジュニアと悪魔ベリアルのキスシーンを、もっとエロティックに美しく描けたらいいなと思いました。
ちなみに旧約聖書に出てくる「悪魔ベリアル」は、正確にいうとソドムの町に同性愛と獣姦を
流行させたらしいっす。実際にその町の住人がウンコ食ったり、ケツにぶち込んでたのかどうかは
わかりませんけど、かなり頭のイカれた住人だとのことです。今ごはん食ってるひとごめんなはい。
とにかくもともと考えていた内容があまりにも過激な暴力で、下品でおぞましくて、薬物中毒とか
近親相姦とか、とてもじゃないけど吐き気のもよおすストーリーでした。
だからカットしまくって短くしすぎたせいか、描ききれてない部分がたくさんあるや。
例えばソドムとゴモラの町が滅ぶとき、最後には大洪水を起こして「ノアの箱舟」で
選ばれし者たちを助けるシーンもあったんだけど…。
グチはよそう、ともかく読んでくれておつかれさまです、ありがとうございました。
owattaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
今回もハラハラしながら読ませてもらいました。
ドラクエは何となく「明るい」ストーリーのイメージがあったので
今作を読んで、いい意味で衝撃を受けました。
カットされたところも読みたかったなぁ・・・
以前、ハーゴンで書いてくださいとカキコした者です。
今回は、支援できなくてごめんなさい。
今回も、とてもおもしろかったです。
すごく、切なかった。゚。(ノд`)。゚。
感動しました・・・。
お疲れさまでした。
保守
>>644-646 arigato
ついでにもうひとつできそう。なんか暗い話のままでオワッテルのいやなので
明るいほのぼのを書いた。
次回作「はじめてのおつかい」というタイトルでもうじき発表します。
主役はスライムのスラリン。けっこう幼稚だけど読むかなこれ・・・
>>647 ぜひ、読みたいです!!
うp、お願いします!!
完成した・・だれかいますか?
人
(・∀・)test
.  ̄ ̄
いますよ
クソ・・・ちょっとまってて。もう少ししたらはじめられる
分かりましたー。
<プロローグ>
人間の家庭で飼われるペットたちといえば、さまざまな動物が挙げられるが
一般に多くしめているのは犬や猫が主流だろう。
他にも小鳥や亀、金魚、中にはブタを飼う家庭もあるそうだが、たいていの家庭で
飼われるペットは犬や猫が多い。
ネコは人間に仕えるような動物ではないが、イヌは飼い主に従順で頭も良い。
中には買い物カゴをくわえて、お使いに行けるようなイヌもいるほどだ。
もしも動物たちが、人間と同じように社会性を持ったとしたら、どういう世界になるだろうか。
もしも動物たちが人間と同じような職を持ち、人間と共存する世界があったとしたら
どんなに美しい町になるだろうか。
今回の舞台は、人間とモンスターが共存して生活するのは珍しくもない時代である。
スライムが人間の家庭で飼われていたり、キメラが郵便配達をしたり、ゴーレムが
大工の仕事に精を出し、オークがバスの運転手をするなど、モンスターが人間の社会性に
目覚めた時代を紹介しよう。
ある山奥、ある村の一角、ある家で飼われている一匹のスライムが、今回の物語の語りべになる。
彼の名はスラリン。
水分たっぷりのそのやわらかい身体は、こう見えても意外にデリケートだ。
彼は川の水は肌に合わないらしく、ミネラルウォーターしか飲まないグルメであり、好奇心旺盛で
冒険好きのわんぱくぼうずだ。
そんなある日のこと、彼は飼い主から思いがけない任務を命じられることになる。
なんと夕食のおかずを隣町まで買いに行くよう、「お使い」という重大な任務を課せられたのだ。
スラリンは名誉かつ責任重大な任務を背負い、買い物カゴを引きずって
カブト村からクワガタ町まで冒険することになったので、さぁ大変。
果たして彼は、任務を完遂することができるのか。
無事におかずを買って、今夜の夕食にありつけさせることができるのか。
スライムことスラリンは、家族のため、自分のため、かつてない冒険に旅立つことになる。(日帰り)
まずはいつものように、彼が目を覚ました朝から追っていこう。
我らがスラリンの朝は 今日も雲ひとつない すがすがしい日を迎えたようだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
はじめてのおつかい
はじめてのおつかい PAGE1
<第一章 ミッション:インポッシブル>
カブト村 一丁目 ヤマダ家――――午前8:00
スラリン「ぐぅ〜…。」
天井からつるされた手製のハンモックに揺られ、まだ夢心地のスラリン。
窓から差しこめる日の光が、徐々に彼の顔を照らしていく。
スラリン「うぅ〜ん…。」
日の光がまぶしいのか、身体をそらして寝なおすスラリン。まだ目が覚めないようだ。
スラリン「ぐがぁぁぁ…。」
スライムとは思えない大きなイビキをかき、のん気に身体を揺らして眠っている。
すると日の光が徐々に、寝ているスラリンの横に仕掛けられた虫メガネに差し込んだ。
スラリン「ぐごごご…。」
太陽光線を浴びた虫メガネは、その光の焦点がじりじりとスラリンの頭を焦がしていく。
ジリジリジリ……
スラリン「ん…?うあちゃ!!あちちち!うわっ!(ドタン!)」
頭を焼かれ、飛び起きるように目を覚まし、ハンモックから豪快に落ちたスラリン。
どうやらこれは目覚ましだったようだ。
スラリン「あいたたた…。あ…そうか。オイラ自分で仕掛けてたの忘れてたや…。」
おっす、オイラの名はスライムのスラリンさ。
目が覚めたので、今から主役のオイラがナレーションを務めよう。ときどき忘れちゃうかもしれないけど、
そこんとこはカンベンしてよね。さぁ、今日も顔を洗って水を飲んで、すばらしい一日にするぞ〜。
スラリン「ふぁ〜。今日もいい天気だなー。」
オイラは健康に気を使っているので早寝早起き、水は一日平均50ガロン飲み
睡眠はきちんと10時間とるようにしている。
オイラたちスライムにとっては、水はかかせない大切な資源さ。だから飼い主も気を使ってくれて、
高山地で取れる雪解け水のミネラルウォーターを買ってきてくれるのさ。
ちなみに朝はアモール、昼はロート、夜はバジルと決めている。
流行に敏感なオイラは、一番よく売れるエセレートは飲まない。
こいつぁイナカもんが飲む水さ、オイラは水には糸目をつけないオシャレさんなのさ。
さぁて、飼い主もいないことだし、勝手に冷蔵庫を開けて水を飲むか。
スラリン「ごくっごくっごくっ……っぷはー!この一杯のために生きてるなぁ〜。」
うまい。さすがに朝一番のアモールの水は身体にこたえる。
なんていうか全身にチカラがみなぎってくるようだ。
おっと、のん気に水を飲んでる場合じゃないぞ。まずは起きたら郵便受けの朝刊を取りに行く。
この家のご主人が読むために、これはオイラに課せられた日課さ。
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支援いる?
はじめてのおつかい PAGE2
ヤマダ家 門前 郵便受け
スラリン「さてさて、今日の新聞は…。」
キムラ「よう、おはよう。今日も早いなスラリン。」
スラリン「あ、郵便のおじさん。おはようございます。」
朝刊を拾おうとしたオイラの前に、翼を広げて空から降りてきたこのキメラ。郵便配達のキムラさんだ。
鳥のくせに帽子をかぶり、たくさんの手紙などが入ってる手さげを抱えた、ちょっとクールなキメラさ。
キムラ「おい、スラミちゃんからお前宛にハガキがきてるぞ。」
スラリン「え?」
キムラ「ほらよ、確かに届けたぜ。」
スラリン「えーと、なになに…‘スラリン、あんた早く貸したおカネ返しなさいよね。スラミより’」
キムラ「はっはっは。ラブレターじゃなくて残念だったな。」
スラリン「まったくスラミのやつ…。こんな用事でわざわざハガキ出すなよな…。」
二丁目のスラミは、ちょっとマセた女の子のスライムベスさ。
こないだシシリのアイスを買おうとして、おカネ落として彼女に借りたんだった。
んなことはどうでもいい。さて、家に入ろう。
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はじめてのおつかい PAGE3
ヤマダ家 台所
スラリン「さてと、今日は何して遊ぶ…」
ミナ「<あー!スラリン!アモールのお水のんだでしょー。勝手にのんじゃダメじゃないの〜。>」
スラリン「あ、なんだこいついたのか…。」
ミナ「<も〜。あたしがママにしかられちゃうでしょ。>」
オイラが飲み干したペットボトルを振り回すこの人間の女の子。
名前はミナ、確かまだ小学生らしい。
もともとオイラはこいつに拾われて、このヤマダ家に住み着いているって寸法さ。
ガキのくせに色気づいた子で、ママさんの口紅を勝手に使って遊んだりする。まぁ黙っておいてやるか。
オイラたちモンスターは人間の言葉は分かるが、人間たちにはモンスター語が分からないらしい。
だから遠慮なく文句言いたい放題さ。
おっと、誤解しないでくれよな。これでもオイラはこの家族に感謝してるし、オイラにとって大切な家族さ。
人間とモンスターが共存するってのは、大変なこともあるけど、これ以上すばらしいことはないやね。
マナ「<ねぇミナ、ちょっとお使い行ってくれない?>」
ミナ「<えーやだー。>」
マナ「<どうしてそういうこと言うの。ママの言うことが聞けないの?>」
ミナ「<だってミナ、今日はレミちゃんとこに遊びに行くお約束してるんだもーん。>」
マナ「<ママ今日は仕事が遅くなっちゃうのよ、だからあなたが代わりにクワガタ町に
夕食のお買い物に行ってほしいのよ。>」
ミナ「<クワガタ町なんて遠くてやだー。>」
マナ「<わがまま言うと、お夕食ぬきにしますよ。今すぐ行かなくていいから、夕方までに
行ってきてちょうだい。今日の市場はお魚が安く売ってるから必ず行くのよ。>」
ミナ「<ぶー。>」
スラリン「……」
思えばこれがきっかけだった。
ママさんが娘のミナに買い物とやらを頼もうとしたときさ。
オイラは自分には関係ないと思って、外へ遊びに行こうとしたら……
ミナ「<あ、スラリン。ちょっと待って。>」
スラリン「なんだよ。」
ミナ「<あんたがあたしの代わりにお使いに行ってきてくれない?>」
スラリン「はぁ?オイラがそんな大仕事できるわけないだろ。」
ミナ「<え?ほんとに引き受けてくれるの?>」
スラリン「いや言ってないし。」
ミナ「<やったー!大好きスラリン!>」
スラリン「ぜんぜん通じてないや…。」
人間にはオイラたちスライムの言葉は「ピキー」しか聞こえてないみたいだ。
少しは言葉を勉強してほしいな。
しかしよくよく考えてみれば、これは責任重大な任務だぞ。
もしもオイラがお使いに失敗すると、いったいどういうことに?
家族は飢え死にして全滅じゃないか。
これは大変だ。オイラはもしかしてスライム史上、最大のミッションを任されたのでは?
こりゃすごい、友達に自慢できるぞ。いや、この任務が成功すれば、オイラはカブト村の
英雄じゃないか。ゆくゆくはオイラのブロマイドなんか売れちゃったりして、それはもう
女子高生を中心に世界のスターだぞ。やった!
ところでお使いって、何するんだ?
ミナ「<いい、よく聞くのよスラリン。この買い物カゴにオカズの材料のメモが入ってるでしょ?
このメモどおりの物を買ってくるの。>」
スラリン「ピキピキ…。」
ミナ「<ゴボウ、トマト、ジャガイモ、レタス。お肉は豚肉200g。お魚はアジとヒラメを一匹ずつ。
クワガタ町の市場がいいわ。あそこには野菜もお肉もお魚も売ってるから。>」
スラリン「??」
ミナ「<ママのおサイフも入ってるから落とさないようにね。あそうだ、あとお釣りもちゃんと
もらってくるのよ。レシートもね。>」
スラリン「ピキー!パコー!ポコピキピー!(早くて何が何だかわからないぞ!)」
ミナ「<そうよね、いきなりぜんぶ説明しても分からないよね。いいわ、あたしが今から
手本を見せたげる。>」
スラリン「ピキー。」
ミナ「<いい?まずここが八百屋さんだとするわね。まず野菜を買うときは、なるべくおいしそうな
痛んでないやつを…。>」
スラリン「(ふんふん…。なるほど…。)」
ミナの説明を20分ほど聞いたオイラは、これよりスライム史上初の最大任務に出向くことになった。
「お使い」……なんて重い響きの任務だろう。かつてこれほど危険なミッションに挑んだスライムが
いただろうか。
ミナ「<じゃあ気をつけてね。いってらっしゃーい。>」
スラリン「ピキー!」
さぁ行こう、胸高鳴る冒険の旅へ。
失敗は許されない、家族の運命はオイラがにぎっているのだ。
遥か彼方にそびえ立つというクワガタ町。いったいどれほどの距離があるのか。(隣町)
心配そうな目で見送るミナ。すまない、だが行かねばならないのだ。許してくれミナ。(小学生)
オイラは今、果てしない冒険に身を投じ、重大な任務を背負ったのだ。(お使い)
<第一章 ミッション:インポッシブル>
完
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はじめてのおつかい PAGE4
<第二章 英雄の旅立ち>
カブト村 とんぼ通りにて
スラリン「さてと、クワガタ町まで行くには…。」
買い物カゴを頭に乗せ、いよいよ冒険の出発だ。
そういやオイラ、ここんとこカブト村から出たことがないぞ。
この村は山の頂上付近にあるが、クワガタ町ってのは山を降りた海に面している都会さ。
え?どうやってそこまで行くのかって?よし、教えてやろう。
まずカブト村のはずれにある、ホタルバス停へ行く。
そのバス停からバスに乗って田舎道を下山すれば、クワガタ町へたどりつく。
ここはイナカだから、バスは一日に三本しか来ない。乗り遅れたら大変だ。
まぁそういうわけで、クワガタ町へ行くには並大抵の進路じゃないってことさ。
おや?向こうから誰か来るぞ。
スラボン「あ、スラリンくん。おはよ〜。」
スラリン「よぅスラボン。元気か。」
スラボン「うん、ボクは元気だよ〜。」
とんぼ通りをさっそうと歩くオイラの前に現れたこのスライム。
こいつは二丁目のタナカさんとこで飼われている友達のスラボンさ。
ちょっとトロくさいが、なかなかいいやつだ。
スラボン「あれ?スラリンくん、頭の上に乗っけてるものはなぁに?」
スラリン「いい質問だスラボン。いいか、聞いて驚け。オイラはこれから、どこへ何しに
行こうとしていると思う?」
スラボン「うーん、わかんないや。」
スラリン「まずこいつは買い物カゴといってな、選ばれし者だけが装備できるという伝説のアイテムさ。」
スラボン「ふ〜ん…。」
スラリン「そしてなんと、オイラはこれからクワガタ町まで‘お使い’という重大な任務に
向かうところなのさ。」
スラボン「ほんと?お使いってスライムでもできるの?」
スラリン「いや、そこらのスライムじゃこの任務は不可能だろうな。何しろお使いってのは
失敗すれば家族が飢え死にしてしまう。」
スラボン「え〜。そりゃ大変だぁー。」
スラリン「そうさ、だから勇気ある選ばれしスライムだけが、この任務に就くことができる。」
スラボン「へぇー。」
スラリン「へへーん。やいスラボン、オイラに‘スラリンくんってスゴイんだね’って言え。」
スラボン「スラリンクンッテ、スゴインダネ。」
スラリン「棒読みじゃないか。もっと尊敬しろよ、オイラ村へ帰ってきたら英雄だぞ。」
スラボン「うん、がんばってね。スラリンくん。」
スラリン「あぁ、じゃあな。」
スラボンと別れ、ホタルバス停まで歩きながら、オイラは何だか胸がドキドキしてきた。
何度も言って悪いが、これは名誉かつ重大な任務だ。
さぁ先を急ごう、旅はまだまだ長い。
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はじめてのおつかい PAGE5
とんぼ通り 四丁目
スラリン「ゴレムスさん、おはようございます。精が出ますね。」
ゴレムス「おぉスラリンくんか。おはよう。」
四丁目を過ぎようとしていたとき、重そうな木材を肩にかつぐゴレムスさんに会った。
このおじさんは大工の仕事をしながら生計を立てているゴーレムさ。
相変わらず肉体労働に精を出す、がんばり屋さんでやさしいモンスターだ。
ゴレムス「ん?何だ買い物カゴなんぞ頭に乗せて。」
スラリン「オイラこれからクワガタ町までお使いに。」
ゴレムス「ほー。そりゃえらいな、ひとりで大丈夫か?」
スラリン「へへん、オイラもうガキじゃないですよ。この任務は責任重大でさ。」
ゴレムス「ははは、そうかそうか。じゃあ頑張ってな、気をつけて行けよ。」
スラリン「はーい。」
村のみんながオイラを激励してくれる。なおさら失敗は許されないぞ。
よし、今のうちにもっと村のみんなに挨拶しておこう。
だってもしもオイラの身に何かあったら、家族は飢え死にしてしまうのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
スラリン「よぅピッキー、オイラこれからお使いに行くんだぞ。」
ピッキー「プクー!」
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スラリン「マリーンのおばあさん、オイラ今から重大な任務に。」
マリーン「おやおや、それは大変じゃのぅ。」
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スラリン「ドラキ、もしオイラが死んだら、村を頼むぞ。」
ドラキ「キィー!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
スラリン「オイこらアリンコども、オイラはこれからお使いに行くんだぞ。」
アリ「……」
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それから村中を回って、すっかり任務とやらを忘れているスラリン。
しばらくはナレーションも無理だろう、そして彼はもう一つ重大なことを忘れている。
ホタルバス停からクワガタ町へ向かうバスは、一日に三本きり。
午前9時、午後12時、夕方午後4時。この三本しかないのだ。
お使いは夕方までに済まさなくてはならないので、午後12時のバスに乗らなくては間に合わない。
只今の時刻は午前11:50分。あと10分しかない。
すると村中を駆け回っているスラリンの前に、空から先ほどの郵便配達のキメラが降りてきた。
キムラ「よぅスラリン、こんなとこで何をしている。」
スラリン「あ、キムラさん聞いてくださいよ。オイラこれからクワガタ町へお使いに。」
キムラ「クワガタ町?だったら急いだほうがいいんじゃないか。12時のバスに乗らないと
間に合わないぞ。」
スラリン「あ!しまった!」
ようやく事の重大さに気づいたスラリン、しかし今まで道草を食いすぎたので
ここからホタルバス停までかなり距離がある。どんなに早く走ってもスライムの足では間に合わない。
スラリン「うわー!どうしようどうしよう!間に合わないよ〜!」
キムラ「仕方ないな。ほれ、乗んな。」
スラリン「え?送ってくれるの?!」
キムラ「今回だけだぞ。俺も勤務中なんでな。」
スラリン「やったー!ありがとうキムラさん!」
スラリンは郵便配達のキメラの背に乗り、翼を広げて徐々に上昇していった。
グワッ!――――バサッ!バサッ!バサッ!バサッ!
スラリン「ぃやほーーーいい!」
キムラ「おい、あんまりはしゃぐな。落ちるぞ。」
みるみる村が広がるように高度を上げるキムラ。さすがに鳥だ、村の地形は全て把握している。
キムラ「ふむ、ホタルバス停はあっちだな。見えるか?」
スラリン「おぉ!見える見える!すごいや!こんなに高いとこで村を眺められるなんて…!」
キムラ「特別サービスだぞ。よし、しっかりつかまってろ。」
スラリンを乗せたキムラは、ホタルバス停に向かって飛んでいった。
ッヒュゥゥーーー!
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はじめてのおつかい PAGE6
ホタルバス停 午後12:00
ブロロロ…キキィ!
*「カブト村ホタル停〜ホタル停〜。お乗りの方はいらっしゃいますか〜。」
ネコの形をしたバスが止まり、運転手のオークが出迎えていた。
キムラ「うむ、グッドタイミングだ。」
スラリン「やったぁ〜!」
やがて空からバス停前に降りて来たキムラとスラリン。何とか間に合ったようだ。
オーキ「乗るのかい?坊や。」
スラリン「乗るよ!ちょっと待って!」
キムラ「じゃあなスラリン、気をつけて行けよ。」
スラリン「ありがとキムラさん。配達がんばってね。」
キムラは再び配達に向かい、翼を広げて飛んでいった。
バサッ!バサッ!バサッ!ッヒュゥゥーーー!
オーキ「よし、じゃあ早く乗りな。出発するぞ。」
スラリン「OK!」
ひょこひょことネコバスに乗りこみ、錆びた手動のレバーでドアを閉めるスラリン。
シュゥーーガシャン!
オーキ「ではクワガタ町行き、出発進行。(ガタン)」
スラリン「しゅっぱーつ!」
もうもうとケムリを上げて走り出す、今にも壊れそうな田舎のポンコツバス。
客はスラリン一匹しかいない。
だが不思議と親近感の沸くネコバスは、一匹のスライムをゴトゴトと揺らしながら
新たなる冒険の道へ送る。
スラリン「わわ、オイラひとりでカブト村を出たぞ。すげ〜。」
オーキ「はっはっは、坊や。クワガタ町へは行ったことないのかい?」
バスの運転手のオーク(オーキ)が、ハンドルを握りながらスラリンに話しかけてきた。
スラリン「何回か行ったことあるけどさ、ひとりでは初めてだよ。」
オーキ「そうか。…ところでもしかして、きみもスライム格闘場に行くのか?」
スラリン「なにそれ。」
オーキ「あ、違うのか。てっきりきみも試合に出るのかと思って…。」
スラリン「運転手のおじさん。オイラこれからお使いに行くんだぜ。」
オーキ「ほー、そりゃご苦労だな。今日は市場がセールをやってるようだからちょうどいい。」
スラリン「しかしそれにしても…このバスぼろいなー。」
外側はネコの姿をかたどったバスだが、中は木造であちこち床が腐っている。
エアコンは何年も前に壊れ、つり革も数えるほどしか残ってなく、窓はほとんど開けっぱなし状態だ。
ときどきドカンドカンとうるさい音を立てるエンジンは、年月を感じさせるというよりも
風前の灯火といったところか。
スラリン「このバスだいじょうぶ?なんか今にもぶっ壊れそうじゃん。」
オーキ「だいぶ年寄りだからな、あちこち傷んで修理修理の繰り返しさ。」
スラリン「どうでもいいけど乗客がオイラしかいないよ。」
オーキ「あぁ、ここんとこ不景気でな。モンスターも人間と同じように車を運転するようになったのさ。
おかげでこっちはメシの食い上げだよ。バスの修理代も会社に回ってこない。」
スラリン「ふーん、大変なんだね。」
オーキ「キメラのような翼を持つモンスターはともかく、近ごろは人間さえも乗らなくなった…。」
スラリン「でも昔は繁盛してたんでしょ?子供のモンスターたちを幼稚園まで送るとかさ。」
オーキ「あの頃は良かった…。懐かしいぜ。」
スラリン「……」
運転手のオーキは山道を走りながら、ほんの少しだけ昔のことを思い出していた。
遠くを眺めるように運転するオークの背中は、何とも哀愁が漂っていたが、
この仕事に誇りを持っているようにも見えた。きっと何十年も、このバスを運転してきたのだろう。
スラリンはそう思うと、このポンコツのネコバスが少し好きになってきた。
スラリン「ねぇおじさん、オイラこのバス好きだぜ。ちょっとボロいけど、とってもステキさ。」
オーキ「そうかい、ありがとよ。」
スラリンは運転しているオークの横に座りながら、窓から見えるのどかな田舎景色を楽しんでいた。
思えばカブト村のモンスターたちは、みんなそれぞれ誇りを持って仕事をしている。
空を飛びながら郵便配達をするキメラ。毎日汗にまみれながら働く大工のゴーレム。
そしてこのようなボロバスを運転するオークも、みんな自分の仕事に誇りを持っている。
スラリンはそんなカブト村を愛しており、そして人間もモンスターたちも大好きだった。
オーキ「坊や、きみは大人になったらどんな職に?」
スラリン「オイラは…。」
オーキ「スライムのきみでも、将来どんな職にでも就けるさ。夢と誇りを持って頑張りなよ。」
スラリン「うん!」
まだ子供のスラリンでも、今はれっきとした仕事を持っている。夕食のおかずを買いに行くだけだが
それでもりっぱな仕事だろう。任務というのは大げさだろうが、彼にとってはちゃんと誇りを持って
お使いに行こうとしている。運転手のオークには、何となくそれが分かったようだ。
さて、そうこうしているうちに、遠くのほうに海岸が見え始めた。
いよいよクワガタ町に近づいてきたようだ。
オーキ「見えたぞ、あれがクワガタ町だ。」
スラリン「おぉー!久しぶりだ!わくわくするなー。」
海に抱かれるようにそびえ立つクワガタ町。漁業も盛んで、この季節にはたくさんの魚が捕れる。
市場では新鮮な魚や野菜、そして肉や穀物が売っており、買い物にはうってつけの町だ。
やがてポンコツバスがクワガタ町の領域に入ると、バスの窓から心地よい潮の香りが入りはじめた。
海岸付近はカモメの群れが飛び交い、たくさんのボートや漁業船が停泊し、陸はテント張りの
大きな市場が町の中心に広がっている。
今日もにぎやかなクワガタ町は、あふれる人やモンスターだらけだ。
ブロロロ…キキィ! プシュゥーー!
オーキ「さぁ着いたぞ、気をつけてな。市場は人やモンスターだらけだから、買い物カゴを
落とさないようにな。」
スラリン「うん、じゃあはい、おカネ。」
オーキ「まいど。」
スラリン「ばいばーい!」
ポンコツのネコバスはスラリンを降ろしたのち、今度は西のほうへ向かって走り出した。
その様子をスラリンは、見えなくなるまで見送った。
ブスブスと音を立てながら走るそのバス、見えなくなるとスラリンはちょっとだけ寂しくなった。
スラリン「……」
さて、寂しんでばかりもいられない。彼の任務はこれからがスタートだ。
無事に夕食のオカズを買わねばならない。関門はまだまだ続く。スラリンの旅は
いよいよ本番を迎え始めた。
<第二章 英雄の旅立ち>
完
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はじめてのおつかい PAGE7
<第三章 尻にしかれた英雄>
クワガタ町 市場にて
スラリン「うわぁー、すごい人だかりだなー。」
おっす、再びスラリンのオイラがナレーションを務めよう。
諸君、いよいよクワガタ町の市場へ着いた。これからが任務の始まりだ。
オイラこの町は初めてじゃないけど、市場で買い物するのは初めてだな。
見てのとおり、スゴイ人だかりだろう。人間だけでなくモンスターも買い物したり
くだものを叩き売りしてるのさ。
スラリン「さてさて、まずは何を買ったらいいかな。」
オイラは買い物カゴの中をまさぐり、まずメモをもう一度読んでみることにした。
‘ゴボウ、トマト、ジャガイモ、レタス。豚肉200g。アジとヒラメを一匹ずつ’
へへん、オイラだって字くらい読めるんだぜ。こんなのへっちゃらさ。
スラリン「よし、まずは野菜だ。市場の八百屋さんに行こう。」
スラリンは再び買い物カゴを頭に乗せ、テント張りの大きな市場へ入っていった。
……しかしここで、早くもアクシデントが起きたことに気づいていない。
潮風に吹かれて、買い物カゴからメモの紙が…
ヒュゥゥーーー!パラッ!
スラリン「おっと、風が強いな。さすが海の町だ。」
なんと彼は、買い物リストのメモが飛んでいってしまったことに気づいていない!
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はじめてのおつかい PAGE8
八百屋 野菜売り場センターにて
ホイミン「<いらっしゃいませ〜。新鮮な野菜やくだものがいっぱいですよ〜。>」
主婦「<あら、おいしそうなスイカね。>」
ホイミン「<奥さん、目のつけどころが違いますね。このスイカはおいしいですよー。>」
主婦「<そう?じゃいただこうかしら。>」
ホイミン「<まいど〜。>」
活気あふれる市場の中、オイラはまず野菜を買うことにした。
ホイミスライムが八百屋さんの店長か。この町もけっこうモンスターがいるなぁ。
ホイミン「おや?そこのキミ、良かったらオレンジでも買うかい?中身ズッシリの果肉、
ジューシーでとってもおいしいよ。」
スラリン「おいしそうだなー。でもオイラ今日は野菜を買いにきたんだよ。」
ホイミン「本日の野菜はカボチャがとっても熟れてるよ。栄養たっぷり。」
スラリン「えーと、ちょっと待って。メモをもう一度読んでから……あれ??」
ホイミン「どうかした?」
スラリン「あれ?あれ?メ、メモが…!」
しまった!買い物リストのメモを失くしたぞ!さっき読んだばかりなのに…!
ど、どうしよう…何を買うんだったっけ…。
スラリン「うがぁぁぁぁ…!メモがなきゃ買うものがわからないよ…。」
待て、落ち着け。落ち着くんだ。えーと、確かゴボウにトマト…。ジャ、ジャガイモ…
えーとそれから何だっけ…。
スラリン「キュウリだったかな…いや違う、ニンジン…いや待てよ、ブロッコリーだったかな…。
いや、そんな長い名前の野菜じゃなかったような…。」
ええいめんどうだ、ぜんぶ買ってしまえば……い、いやそういうわけにもいかないか…。
だいいち野菜だけじゃなく、これからサカナやお肉も買わなきゃならないんだ。
どうすりゃいいんだちくしょおおお。
スラミ「あら?スラリンじゃないの。こんなとこで何してんの。」
スラリン「スラミ?!お前こそこんなとこで…。」
ひょんなとこでスライムベスのスラミに会った。
けど今はそれどこじゃない、買い物リストのメモがあああああ…。
スラミ「あたしご主人の付き添いでお買い物に来たのよ、あんたも付き添い?」
スラリン「いや、オイラひとりでお使い任務に来たんだ。けどとんでもないことに…。」
スラミ「えぇ?あんたひとりでクワガタ町まで来たの?バスに乗って?」
スラリン「そうだよ。」
スラミ「スゴイじゃん、けどちょうど良かったわ。あたしさっきさ、変な紙を…」
スラリン「スラミ、悪いけどオイラお前にかまってるヒマはないんだ。ご主人のとこへ戻れよ。」
スラミ「失礼しちゃうわね、まるであたしを厄介者あつかいしてさ。」
スラリン「だからオイラそれどこじゃないんだってばぁぁぁぁぁあああ!」
スラミ「なによなによ、そんなにあわててどうしたのさ。お姉さんに話してごらんなさい。」
スラリン「買い物リストのメモを失くしたんだよ!あれがなきゃ何を買っていいか分からないんだ!」
スラミ「!」
スラリン「どうしよぅ…。家族が飢え死にしてしまう…。この任務は失敗するわけにはいかないんだ。」
スラミ「ふっふっふ。お困りのようね、スラリン♪」
スラリン「ニヤニヤすんじゃねーよ、笑い事じゃないんだ。」
スラミ「あら、あんたあたしにそんな口きいていいわけ?」
スラリン「は?」
なんとスラミがメモの紙を持っている。
スラリン「あああああああ!それだあああああ!」
スラミ「おっと。まだダメよ。」
スラリン「返せ!オマエが盗んだのか!」
スラミ「人聞きの悪いこと言わないで。これさっき市場の前で拾ったのよ。まさかこれが
あんたの探し物だったとはね。」
スラリン「頼むよ、返してくれよ。それがないと任務を果たせないんだ。」
スラミ「ちゃんと返してあげるわよ。でも条件つきよ。」
スラリン「なんだよ。」
スラミ「あたしあんたにおカネ貸してるの覚えてるわよね。」
スラリン「!…わ、わかってるよ。今朝ハガキが届いてた。」
スラミ「シシリのアイスをあたしおごりなさい。そうすればこれ返してあげる。借金もゼロよ。」
スラリン「ちぇ、仕方ないな…。」
ちくしょう、まずいやつにつかまっちゃったよ。まぁしょうがないか。
それに買い物リストのメモも見つかったことだし、良しとするか。
とりあえずオイラとスラミは、買い物は後回しにしてアイス屋さんに向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
はじめてのおつかい PAGE9
アイス屋 ルイーダ
ルイーダ「<いらっしゃーい。あら、かわいいカップルのお客さんね。>」
スラリン「ピキー!」
ルイーダ「<あら、人間の言葉はまだしゃべれないみたいね。>……いいわ、久しぶりだけど
モンスター語で接客するわ。」
スラミ「アイスくださいな〜。」
ルイーダ「はいはい、どの種類にする?おじょうちゃん。」
スラミ「んーとね〜。」
スラリン「スラミ、安いやつにしろよ。シシリでいいだろ?」
スラミ「それは借金返済のぶんよ、この買い物リストを見つけたのはあたしよ。落し物のお礼を
一割もらうのが当然でしょ。」
スラリン「おいおい、お前さっきシシリでいいって…。」
ルイーダ「あら〜。ボク、彼女のためにもっとふんぱつしなきゃ。」
スラミ「そうよね〜。やっぱそう思うでしょ?お姉さん。」
スラリン「彼女じゃないぞ…。」
スラミは昔から人の弱いとこにつけこむのがうまい。
オイラこいつはちょっと苦手なんだ。まぁ悪いヤツじゃないけどさ…。
スラリン「じゃあ早く決めろよ、オイラ買い物まだなんだし。」
スラミ「うーんと、そうねぇ。ラミネも捨てがたいけど、エルザでがまんしたげる。」
スラリン「おいちょっと待て、エルザなんて高すぎ…」
ルイーダ「OK、エルザのアイスね。サイズはどうする?」
スラミ「トリプルでお願いしまーす。」
スラリン「エルザのトリプルだと?!ふざけるなよ!」
スラミ「任務とやらのためでしょ?これくらいガマンしなさい。買い物リスト返してほしければね。」
スラリン「とほほ…高くついたなぁ…。」
もちろんママさんのサイフから買うわけにもいかず、オイラのこづかいからアイスを買ってやった。
ちくしょー。エルザのトリプルなんて、オイラだって年に二回くらいしか食べないのにー。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
はじめてのおつかい PAGE10
それから再び市場へ戻り――――
スラミ「スラリン、あんたもちょっと食べる?」
スラリン「いらないよ、オイラそれより任務があるんだ。」
スラミ「任務ねぇ…。それってたかが買い物でしょ。」
スラリン「バッカ、これは責任重大なお使いなんだぞ。オイラの家族の運命がかかっているんだ。」
スラミ「はいはい、がんばってね。」
マウスストラップを頭にかぶり、アイスをおいしそうに食べるスラミ。
オイラはちょっとうらやましかったが、気にせず買い物任務を続けることにした。
(※マウスストラップ
腕や足のない単細胞モンスター用に開発された、アイスやジュースを口の前に固定させるストラップ。
これは使い捨てなので外でも携帯でき、スライムでも歩きながらアイスを食べることが可能である。
ちなみにこのアイテムは人間の障害者としても有効であり、社会問題にならないよう
料金は無料である。)
スラリン「…なぁ、ところでどこまでついてくるんだ。ご主人が心配するぞ。」
スラミ「町の婦人服店に行ったから、二時間は出てこないと思うわ。あたしんとこのママさんって
ブティックショップに目がないの。」
スラリン「オイラ遊んでるわけじゃないんだぞ…。」
スラミ「いいじゃない、あたしもお買い物に付き合ったげる。あんたどうも危なくて見てられないもの。」
スラリン「なにお、オイラひとりでも買い物ぐらいできるぞ。」
スラミ「買い物リストのメモを落とすくらいよ、そのうちおサイフだって落としかねないわ。」
スラリン「オマエはオイラの母ちゃんじゃないぞ、子ども扱いするな。」
スラミ「あーほらほら、いいからお買い物しましょ。ぐずぐずしてると日が暮れるわよ。」
スラリン「ちぇ…。」
まったく女ってのはこれだからなぁ…。お使い任務を何だと思ってるんだ。
これは勇気ある選ばれしスライムだけが、この任務に就くことができるんだぞ。女子供はすっこんでろ。
まぁいい。いい機会だから、ここは一つオイラの華麗な買い物を披露してやるか。
ちょっとカッコイイとこ見せて、コイツの目を尊敬のまなざしに変えてやる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ディスクとらぶった。このぼけばかしね
はじめてのおつかい PAGE11
市場 魚屋センター
スラリン「とりあえずサカナから買うか…。」
スラミ「何のおサカナ?」
スラリン「アジとヒラメを一匹ずつだよ、こんなのへっちゃらさ。」
スラミ「ふ〜ん…。」
とりあえずスラリンは野菜を後回しにして、魚を買うことにしたようだ。
魚屋センターは海の香りがしており、中にはまだ生きている魚もたくさん売り出されていた。
威勢のいいスライムナイトが、大きな声を出して魚を売っている。
ピエール「らっしゃいらっしゃいー!今日は特別セールだよ!マグロ、アジ、ヒラメ、タイ、エビ、
そのほかサザエやアワビ、ここにあるものは全て二割引だ。もってけドロボー!」
スラリン「すみませーん、サカナくださいな。」
ピエール「よ、兄ちゃん。お使いか?この捕れたての新鮮なタイはどうだい、ピッチピチだよ。」
スラリン「えーとね、アジとヒラメを一匹ずつ…」
ピエール「てやんでい、こうなったら大サービスだ。とっておきのメバルのさしみも出してやる。」
スラリン「いやあのね、アジとヒラメを…」
ピエール「いかんぜ兄ちゃん、今夜はもっと豪勢にいこうぜ。このイシダイなんてどうだい。」
スラリン「そ、そうかな…。」
スラミ「はぁ〜…。ダメだわこりゃ。見てらんない。」
魚屋のスライムナイトに、いいように言いくるめられるスラリン。
それを見かねたスラミは…。
スラミ「ちょっとスラリン、あたしに代わりなさい。」
スラリン「な、なんだよスラミ。ジャマするなってば。」
スラミ「いいから、あたしに任せて。」
ピエール「よ!ご両人。仲良くお買い物かい?だったらカジキマグロ買っていきな。」
スラミ「おにーさん、このアジとヒラメおいしそうね。」
ピエール「あったりめーよ、今朝とれたものばかりだぜ、お嬢ちゃん。」
スラミ「あら、向こうのスーパーでは半額だったわよ。二割引にしてはおサカナが小さくない?」
ピエール「!」
スラリン「お、おいスラミ…。」
ピエール「かー!お嬢ちゃんにはかなわねーな。よっしゃ、兄ちゃんの負けだ。大サービスして
アジとヒラメ3匹ずつで二割引にしてやる。もってけドロボー!」
スラミ「うふふ、そうこなくっちゃ。」
スラリン「すげー…。」
さすが買い物にかけては、男よりも女のほうが一枚上手だ。スラリンは開いた口が塞がらなかった。
スラミはご主人が買い物をしているところをずっと見てきたので、こういう市場での買い物は
お手の物だった。
スラミ「お兄さん、おいくらになるかしら?」
ピエール「あいよ!全部で400万ゴールドだ。」
スラリン「えぇ??二割引でなんでそんなに高いんだよ!」
スラミ「スラリン落ち着いて、お魚屋さんってのはどの値段も万単位をつけて呼ぶものなの。」
スラリン「あ、そ、そうなの…?」
スラミ「ほら400ゴールドよ、出しなさい。」
スラリン「う、うん…。じゃあ500ゴールド札で。」
ピエール「まいど!じゃあお釣り100万ゴールドだ、あとレシートな。」
スラミ「ありがとー。」
ピエール「また来てくれよな!」
スラリン「……」
かっこいいところを見せようとしたスラリンだったが、逆にスラミに助けてもらった。
そしてこの調子でどんどんと…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
肉屋センター
アンクル「いらっしゃい、何のお肉にするかね。」
スラミ「スラリン、お肉は何を買うの?」
スラリン「え、えーと、ブタ肉200gだよ。」
スラミ「わかったわ。あたしにまかせて。」
スラリン「う、うん…。」
すっかりスラミにリードされてしまったスラリン。まるで将来スラリンが、奥さんのスラミに
尻にしかれているようだ。
やがてスラミは肉屋売り場をざっと見渡し、何が売って何が売ってないのかを把握した。
スラミ「えーと、そうねぇ……。ベリーネの上肉ってないのかしら。」
スラリン「な、なんだって?ちょっとスラミ!クリスマスじゃあるまいしベリーネの肉なんて高すぎるよ!
ふつうのブタ肉でいいんだってば!」
スラミ「いいから黙ってなさい。」
アンクル「あー悪いねぇ。ベリーネはこの時期なかなか手に入らないんだよ。お嬢ちゃんかなり
いいとこのお嬢さんなんだね。」
スラミ「うふふ、じゃあドドバのモモ肉でいいわ。それならある?」
アンクル「いやーまいったなこりゃ。ドドバは見てのとおり売り切れちゃってね。」
スラミ「もー。何もないじゃないの、じゃあいいわ。ブタ肉200gちょうだい。」
アンクル「ほいほい。じゃあ今包んであげるよ。…しかしすまないねぇ、お詫びといっちゃなんだが
300gにおまけしとくよ。」
スラミ「ありがと、おじさん。」
スラリン「……」
もはや市場はスラミの独壇場だった。
買い物のコツをマスターしているスラミは、そこらの主婦よりも買い方がうまい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
スラミ「さてと、おサカナにお肉も買ったわね。あと何を買うの?」
スラリン「あとは野菜だけだよ。」
スラミ「そう、じゃ八百屋さんに行きましょうか。」
スラリン「…しかしオマエすごいんだな、オイラ尊敬しちゃったよ。」
スラミ「いいこと?お買い物ってのは買われちゃダメよ。こういう市場ってのは
その場の雰囲気に飲まれやすいんだから。」
スラリン「ははは、大したもんだよ。オイラかっこいいとこ見せようと思ったのに、逆にオマエに
助けてもらっちゃった。」
スラミ「アイスをおごってくれたお礼もあるし、お買い物はあたしに任せなさい。」
スラリン「…オマエ、将来いい奥さんになりそうだな。」
スラミ「うふふ、誰の?」
スラリン「え…。」
スラミ「ほら行くわよ、お買い物まだ残ってるんでしょ。」
スラリン「ま、待ってくれよ…。」
スラミのあとを、買い物カゴを頭に乗せながら、ひょこひょことついていくスラリン。
英雄も女にはかなわない。先が思いやられる将来の旦那さんだ。
とりあえず彼の任務はもうじき終わりそうだ。……が、そうもいかない事態が
このあと起こってしまう。
<第三章 尻にしかれた英雄>
完
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
完
読みにくいと感じてしまうのはなぜだろう?
はじめてのおつかい PAGE12
<第四章 英雄復活>
八百屋センター
ホイミン「いらっしゃいませ〜。新鮮な野菜やくだものがいっぱいありますよ〜。」
スラリン「さてと、あとは野菜を買えば任務完了だ。」
スラミ「野菜は何を?」
スラリン「んーとね、ゴボウとトマトと…ジャガイモにレタスだよ。」
スラミ「そう、じゃあまたあたしが…」
スラリン「あれ?ちょっと待ってくれ。」
スラミ「どうしたの?」
するとそのとき、スラリンの横で泣きべそかいている一匹のはぐれメタルがいた。
はぐりん「うぇーん…。」
スラリン「オイこら、何を泣いてるんだい。」
はぐりん「うぇーん…。」
スラリン「泣いてちゃ分からないだろ、オイラに話してみろ。」
スラミ「どうしたの坊や、ママとはぐれちゃったの?」
はぐりん「うぐっうぐっ…ちがうよぉ…。ママに頼まれてスイカを買いにきたんだけど、
おカネをおカネを…。」
スラリン「まさかおカネ落としたのか?」
はぐりん「ちがうよぉ〜…。」
スラリン「じゃ何だよ、はっきり言ってみろ。」
はぐりん「怖いお兄ちゃんに脅されて、おカネとられちゃったんだよぅ〜…。ひっく…。」
スラリン「あちゃー、そりゃ災難だ。」
スラミ「悪いヤツもいるものね、いったい誰なの?」
はぐりん「あそこだよぅ…あの怖いスライムのにいちゃんたちに…。」
はぐりんが泣きながら見つめている先に、二匹のスライムが向こうに見える。
少しガラが悪そうな二匹のスライムは、市場の店を荒らしまくっている。
スラリン「あいつらか…。」
スラミ「なんかガラ悪そうね。スラリン、あんただいじょうぶ?」
スラリン「たぶん平気だ、オイラが取り返してくる。」
スラミ「頼んだわよ、あたしこのコ見ていてあげる。」
お使い任務の途中だが、勇敢なスラリンにとってこれは放っておけない。
いよいよ英雄の腕の見せどころだ。スラリンはひょこひょこと歩き出し、ガラの悪そうな
二匹のスライムたちの前へやってきた。
スラリン「おいオマエら、ちょっと聞きたいことがある。」
スラキ「あん?なんだてめえは。」
スラム「なんかモンクあんのか、あんちゃんよぉ。」
ヨタヨタとつっかかってくる二匹のチンピラスライム。
スラリン「あそこにいる、はぐれメタルの子からおカネ取ったのはオマエらか?」
スラキ「はーん?そりゃこれのことか?」
スラム「はっはっは、ガキがカネ持っていてもネコに小判。親と一緒にいないのが悪いのさ。」
スラリン「それはあの子のお使いのおカネだ、返してやれ。」
スラキ「クソ食らえだ。」
スラリン「……」
やがてスラリンは、先ほどまで頼りなかったスライムではなく、みるみる表情が変わっていった。
スラリン「いいかオマエら、あと一度しか言わないぞ。おカネ返してとっとと消えろ。」
スラキ「てめえ!おれたちをナメると…!」
だが次の瞬間、目にも止まらぬスラリンの回し蹴りが炸裂した。
――――ッズガン!ッバガン!
スラキ「ほげっ…!」
スラム「ぐふっ…!」
そして空中で一回転半し、さっと着地するスラリン。
あっという間にチンピラスライムを一蹴した。
スラキ「ぐぉぉおお…!」
スラム「いてぇよぉぉおおお…。」
スラリン「さぁ、とっととおカネ返してもらおうか。」
スラキ「ア、アニキ…!」
スラリン「え?」
するとなんと、新手のスライムが一匹やってきた。
チャンプ「ほぅ、けっこうやるな…。」
スラリン「誰だオマエ。」
スラキ「チャ、チャンプのアニキ!こいつをやっつけてください!」
スラム「は、はははは!バカめ!アニキが来ればこっちのものよ!おまえなんか泣かされちゃうぞ!」
その現れたチャンプというスライム、どうもただものではなさそうだ。
その経験と強さは、スラリンにも肌で感じ取れた。
スラリン「(こいつ…わりと強そうだな、まぁ他の二匹に比べたらの話だけど…。)」
チャンプ「見かけない顔だな、お前クワガタ町のスライムじゃないだろ。」
スラリン「オイラはカブト村のスライムだ。」
チャンプ「ほー、あんな田舎村にも強いスライムがいたんだな。ひょっとしてお前も出場するのか?」
スラリン「?何の話だよ。」
チャンプ「ん?お前スライム格闘場に出場するんじゃないのか。」
スラリン「何の話だか知らないけど、オイラそれよりもおカネ返してほしいんだよ。あの子のさ。」
チャンプ「フッ…。悪いが少しお前の強さを試させてもらうぞ。(ヒュッ!)」
スラリン「!(しまった、いきなりか…!)」
チャンプは目にも止まらぬ速さでスラリンの背後に回った。
―――ッシュン!
チャンプ「(もらった…!)」
スラリン「ハズレ。」
チャンプ「なに!」
だがそれは残像だった。スラリンはさらにチャンプの背後をとった。
――――ッドシュゥ!
チャンプ「くっ…!」
スラリン「もうやめとけ、少しでも動くと背中に風穴があくぞ。(キィィン!)」
チャンプ「なっ…!」
なんとチャンプの背後から、スラリンは瘴気弾の波動を溜め込んでいる。
ゴゴゴゴゴゴ…!
チャンプ「(こ、こいつなんて速さだ…!こ、このオレが身動きできないなんて…!)」
スラリン「まだやるか?それとも引き上げるか?」
チャンプ「わ、わかった…。お前の強さは充分わかった…。」
スラリン「じゃあ帰れ。ここは市場だぞ、買い物をするところだ。」
チャンプ「チィッ…!おい、行くぞ。」
スラキ「は、はい…。」
スラム「アニキ〜…。」
ようやくチャンプは二匹のチンピラを引きつれ、市場から立ち去り
やがてスラミも、はぐりんを連れて駆けつけてきた。
スラリン「ふぅ〜。」
スラミ「スラリン!あんたケガない?!」
スラリン「大丈夫だよ、オイラなんともない。」
スラミ「よかった…。さすが男の子ね。あんたの強さはあたしも知ってるけど、
また強くなったんじゃない?」
スラリン「へへん、どうだ見直したか。」
スラミ「まぁちょっとだけね、ほんのちょっとよ。」
スラリン「ちょっとか…。」
しかしどこか抜けているスラリンは、肝心なことをすっかり忘れている。
はぐりん「おにーちゃん…。」
スラリン「あああああ!しまった!おカネ取り戻すの忘れてたあああああ!」
スラミ「はぁぁぁぁ……。」
大きくためいきをつくスラミ。何のためにチンピラスライムを撃退したのか
まったく意味をなさなかった。
スラミ「もうばか!ばか!どうしてあんたはそういつも抜けてるのよっ!」
スラリン「なんだよ!オマエさっきオイラのこと見直したって言っただろ!」
スラミ「おカネ取り戻さなきゃ意味ないでしょ!このばかー!」
はぐりん「うぇ〜ん…スイカ楽しみにしてたのにぃ〜…。」
スラリン「わ、わかったよぉ。泣くなボーズ、あいつらにおカネいくら取られたんだい。」
はぐりん「1000ゴールド札だよぅ…。スイカ10コ買ってくるように言われてたんだ…。」
スラリン「はぐれメタルのくせにずいぶん食べるな…。まーいい、オイ、これを持ってけ。」
スラリンはサイフから1000ゴールド札を取り出し、はぐりんにやった。
はぐりん「えぇ?いいの?おにーちゃん。」
スラリン「あぁ、オイラは英雄なんだぞ。困っているモンスターを放っておけるか。」
スラミ「ちょ、ちょっとスラリン…。あんたそれお使いのおカネ…」
スラリン「さぁ、これでスイカを買いな。」
はぐりん「あ、ありがとう!スライムのおにーちゃん!」
はぐりんは大喜びで、スラリンからもらったお金でスイカを10個買った。
スラリン「ははは、あんなにスイカ買って食べきれるのかな。」
スラミ「スラリン!あんたおカネ残ってるの?!」
スラリン「んや、もうほとんどないや。オイラのママさん、サイフの中に一日ギリギリの予算しか
入れておかないから。」
スラミ「ど、どうするのよ…。あんた野菜まだ買ってないわよ。」
スラリン「……」
スラミ「もう、カッコつけてバカなことして…。」
スラリン「いいじゃないか、だって放っておけないだろ。」
スラミ「そりゃそうだけど…。」
スラリン「見てみなよ、あのうれしそうなカオ。」
八百屋の前でうれしそうに、スイカが10個入ったアミをずるずると引きずるはぐりん。
はぐりん「おにーちゃん!ありがとう!ママにもよろしく言っておくね!」
スラリン「スイカを海に落とすなよ、気をつけてな〜。」
はぐりん「ばいばーい!」
スラミ「……」
スラリン「な、これでいいだろ?」
スラミ「うふふ、そうね。…あたし今度こそ少しあんたを見直したわ。けっこういいとこあるのね。」
スラリン「ばかやろ、オイラはタプタプの太っ腹なんだぞ。このくらいなんてことないさ。」
スラミ「あははははー。」
お互い顔を見合わせて笑う二匹のスライム。ついさっきまでケンカしていたのも収まったようだ。
しかし彼はこれからどうするつもりなのか。まだ野菜を買っていないのだ。
スラミ「ところでどうする?おカネなきゃお買い物できないわよ。…あたしも今そんなに
おこづいかい持ってないし…。」
スラリン「オイラもオマエにアイスを買ってやったからなぁ。う〜む…。」
するとスラリンは、市場のカベに貼られている一枚のポスターに気づいた。
スラリン「ん…なんだこりゃ。」
スラミ「どうしたの?」
そのポスターにはスライムのイラストが大きく描かれ、下にこう書いてあった。
「勇気あるスライムよ、キミも男なら挑戦せよ。本物の男たちが集う、ここスライム格闘場。
コブシとコブシで語り合え。腕に自信のあるスライムは誰でも参加可能。
みごと優勝者には、10万ゴールドの賞金がキミを待っている。
―――――大会開催者スラッジ。」
スラリン「賞金10万ゴールド…。なるほど、さっきのやつが言ってたのはこれのことかぁ。」
スラミ「ちょっとスラリン!これチャンスよチャンス!あんた強いでしょ?出なさいよ!」
スラリン「けどオイラ、今はお使い任務の途中だ。」
スラミ「ばか、賞金10万ゴールドよ10万ゴールド。どうせおカネないんだし、優勝して賞金を
もらってきなさいよ!」
スラリン「う〜ん…。」
確かに彼はスライムにしては、こう見えてもかなりの格闘の腕前を持っている。
なぜならカブト村をはじめ、クワガタ町どころか、このカマキリ島の全スライムの中でも
No.1の強さを持っているだろう。もし大会に出場すれば、優勝も夢ではないかもしれない。
だがスラリンはその広告を見て、なぜか気がすすまない表情をしていた。
スラリン「……」
スラミ「ちょっとここ見なさいよ、出場スライムの倍率が書いてあるわ。」
スラリン「え?」
スラミ「見て、チャンプってスライムが一番倍率が低いわ。きっとこいつが本命なのよ。
優勝候補ってわけね。さっきのあいつがチャンプでしょ?」
スラリン「ふーん…。それほど強くはなかったけど…。」
スラミ「あんたが出場すれば、あんなチャンプなんて目じゃないわよ。優勝できるわよ。」
スラリン「……」
スラミ「あぁぁぁ…10万ゴールドがあったら、エルザのアイスがいくつ買えるかしら…!
いいえ、それどころか高級なアポロンの水だって…!」
スラリン「……」
スラミ「ね!スラリン!出なさいよ!どうせ野菜買わなきゃならないでしょっ。」
スラリン「しかしなぁ、野菜は10万も要らないぞ…。」
スラミ「もぉー!こんなチャンスめったにないわよ!任務はどうしたのよ任務は!
賞金で野菜を買うのよ!そしてあたしにも何かおごりなさい!」
スラリン「……」
果たしてスラリンはどうするのだろうか。
大会に出場する気なのだろうか。
<第四章 英雄復活>
完
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はじめてのおつかい PAGE13
<第五章 働かざる者 食うべからず>
場面をいったん変え、ここはスラリンが飼われているヤマダ家。
マナ「<ミナー、ところでお使いに行ってくれたの?>」
ミナ「<あ…う、うん。スラリンが代わりに行ってくれてるの…。>」
マナ「<何ですって?>」
ミナ「<だ、だいじょうぶよママ。スラリンちゃんとお買い物してくれるもん。たぶん…。>」
マナ「<冗談じゃないわ、スライムにお買い物なんてできるわけないでしょう。その前に
クワガタ町なんて行けっこないわ。>」
ミナ「<そうかなぁ…。>」
この時点でようやくママさんがスラリンに気づき、いてもたってもいられなくなった。
マナ「<あぁー…心配だわ。こうしちゃいられない、ちょっとママ出かけてきますからね。>」
ミナ「<えぇ?どこへ?>」
マナ「<決まってるでしょ、スラリンを探しによ。>」
ミナ「<あーん待って、あたしも行くー。>」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ヤマダ家 門前
マナ「<きっとカブト村のどこかで迷子になってるんだわ、早く探さないと日が暮れてしまうわ…。>」
ミナ「<ママ、落ち着いてよ。スラリンそんなに子供じゃないわのよ。>」
マナ「<のん気なこと言ってる場合ですか。もう…ママあんたに頼んだのが間違いだったわ。>」
オロオロしているママさんの前に、郵便配達のキムラが空から降りて来た。
バサッ!バサッ!バサッ!
キムラ「キィー!」
マナ「<あ、郵便配達さん。あなた確か人間の言葉しゃべれますよね。助けてくださいまし。>」
キムラ「<どうかしましたかい、奥さん。>」
マナ「<うちのスラリンを見かけませんでしたか?お使いに行ってしまったようなのです。>」
キムラ「<おや?奥さんがあの子に頼んだんじゃなかったのかい。>」
マナ「<えぇ?どういうことですの?>」
キムラ「<スラリンならとっくにクワガタ町へ向かいましたぜ、俺がホタルバス停まで
送ってやったんでさ。>」
マナ「<えぇ?!>」
キムラ「<今ごろクワガタ町で買い物してるんじゃないですかい?まぁアイツも子供じゃないし
ほっといても平気でしょう。>」
マナ「<とんでもありませんわ、スライムがお買い物なんて無理です。あぁどうしましょう…!>」
ミナ「<もー、ママったら心配性ね。だいじょうぶよ、スラリンってもともと野生で育ったのよ。>」
キムラ「<奥さん、お嬢ちゃんの言うとおりですぜ。あいつはイッパシの仕事をきちんと片付けて
ちゃんと買い物して帰ってきますよ。>」
マナ「<そ、そうかしら…。>」
ママさんの心配をよそに、郵便配達のキムラはスラリンを信じていた。
いや、そもそも村の全てのモンスターたちは、スラリンがきちんと仕事を終えてくることを
当たり前のように信じていた。
この村のモンスターたちが、スラリンが買い物に行くのを止めなかったのがそれを証明している。
さてさて、そのころクワガタ町では、スラリンとスラミがスライム格闘場のポスターを見ているときだ。
お金がなくなったとはいえ、果たして彼は賞金を稼ぐために、大会に出場する気なのだろうか。
では場所を移してクワガタ町の場面へ戻ろう。……なんと、我らがスラリンの取った行動は…。
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はじめてのおつかい PAGE14
クワガタ町 市場 野菜売り場センターにて
ホイミン「いらっしゃいませ〜。おいしい野菜がいっぱいですよ〜。」
スラリン「らっしゃいらっしゃいー。とっても熟れた果物もありますよー。」
主婦「あら、このブドウおいしそうね。」
スラリン「おっと奥さん、目のつけどころが違いますね。そいつぁ南のコオロギ島で取れた
とってもジューシーなブドウらしいですよ。」
主婦「そう?じゃこれいただこうかしら。」
スラリン「まいどー。」
ホイミン「おやお客さん、今夜のメニューは何ですか?」
客「そうだな、今日はカレーにしようと思うんだけど、てごろな野菜あるかい。」
ホイミン「はいはい〜。ジャガイモにニンジン、タマネギと…。おっと、タマネギがもう終わりか。
スラリンくん〜、奥の二番倉庫からタマネギ出してきておくれ〜。」
スラリン「はーい親方、今いきまーす!」
なんとスラリンは、野菜を買うためにアルバイトをすることにしたのだ。
店長のホイミンに頭を下げ、何とか今日だけ臨時で雇ってもらったそうだ。
スラリンは大会に出ることよりも、働くことに興味を持ったようだ。
やがてスラミが、働くスラリンの様子を見にきた。
スラミ「おにーさん、トマトくださいな。」
スラリン「あいよー、ちょっと待っ…あれ?なんだスラミか。」
スラミ「なんだじゃないわよ。はぁー…。まったくあんたってひとは…。」
スラリン「そう言うなよ、このほうがオイラらしいだろ?」
スラミ「そうね、まったくバカのあんたらしいわ。大会に出れば優勝間違いなしなのに…。」
スラリン「ところでスラミ、オマエご主人どうしたんだよ。」
スラミ「うん、さっきようやくお買い物終わったみたいだから、そろそろ帰るみたい。」
スラリン「そっか、じゃあ気をつけてな。オイラまだ仕事があるから先に帰ってなよ。」
スラミ「あーそれがね、うちのママさん車でもう先に帰ったの。」
スラリン「は?」
スラミ「心配しないで、ご主人には先に帰ってって言っておいたから。」
スラリン「おいスラミ…。」
スラミ「あんたがお仕事終わるまで待っててあげる、がんばりなさいよ。」
スラリン「……」
ホイミン「お〜いスラリンく〜ん、タマネギどうしたんだよ、早く持ってきておくれ〜。」
スラリン「あ、そうだ。はーい!ただいまー!」
スラミ「うふふ、がんばってね。」
スラリン「う、うん…。」
夕方近い時刻、市場は美しい夕日が差し込め、波の音が静かに満ちていくのを感じる。
それでもまだ活気あふれている市場は、働くスラリンをさらに活気付けていた。
―――――そして二時間後――――――
ホイミン「おつかれさま、今日はよくがんばったね。」
スラリン「ありがとうございました親方。でもオイラ、ヘマばっかりして…。」
ホイミン「ははは、大変だったでしょ。市場っていつもこんな感じだよ。」
スラリン「うん…でも少しだったけど、なんだかいろいろ勉強になりました。オイラ働くのって
初めての経験だったので…。」
ホイミン「よかったらまた来なよ、キミはけっこうがんばり屋さんだ。…はい、約束のもの。」
スラリン「うわー!こんなにもらっていいんですか?」
スラリンは初めて「給料」というものをもらった。
ホイミン「それはキミががんばったものが形になったのさ、遠慮なく受け取りなよ。」
スラリン「ありがとうございます!」
ホイミン「さぁさぁ、今度はキミがお客さんになる番だろ。好きなもの買っておいきよ。」
スラリン「うん!」
そしてスラリンはお使い任務の最終段階として、野菜をたくさん買っていった。
予定ではゴボウ、トマト、ジャガイモ、レタスだったが、ホイミン店長のはからいで
思わぬ高い報酬を受け取ったスラリン。
彼は追加してオレンジやブドウ、パイナップルまで買っていった。
それは自分で働いて稼ぎ、稼いだお金で果物を買ったのだった。
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はじめてのおつかい PAGE15
クワガタ町 港 ヒグラシバス停前にて
ブロロロロ…
*「カブト村いき〜カブト村いき〜。お乗りの方はお急ぎください〜。」
ヒグラシバス停の前に停まるポンコツバス。それを追いかける二匹のスライムが来た。
スラリン「待って待って待ってーーー!」
スラミ「きゃーーーー!乗り遅れちゃうーーー!」
オーキ「おーい、早くしろ。出発するぞ〜。」
何とか帰りのバスに間に合ったスラリンとスラミ。
錆びた手動のレバーを下げてドアを閉めた。
シュゥゥーーーガタン!
オーキ「よーし、カブト村へ向けて出発ー!」
スラリン「しゅっぱーつ!」
スラミ「おー!」
ブスブスと音を立て、よろよろと走り出すネコバス。
彼の任務は完了し、これよりカブト村へ帰還しようとしていた。
バスの窓から見えるクワガタ町が、徐々に遠くなっていく。
それを見たスラリンはまた少し寂しくなり、夕日を反射している海の美しさに別れを告げた。
<第五章 働かざる者 食うべからず>
完
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はじめてのおつかい PAGE16
<最終章 任務完了>
ブロロロ……
ポンコツバスに揺られながら山道を走る、ネコバスに乗っているスラリンとスラミ。
相変わらず他に乗客はいない。
スラリン「……」
スラミ「……」
二匹はなぜかしばらく黙っていた。たぶん想いがありすぎて言葉が出ないのだろう。
みかねた運転手のオークが、そっと声をかけてやった。
オーキ「坊や、お使いご苦労さんだったな。」
スラリン「うん…。」
オーキ「どうした?何か元気ないな。」
スラリン「そんなことないよ、オイラこの一日で、なんだかいろんなことを勉強したよ…。」
オーキ「そうか…。いい一日だったようだな。」
スラリン「……」
やがてスラミもようやく口を開き始めた。
スラミ「スラリン、おつかれさま。働いてるあんたって、ちょっとかっこよかったわよ。」
スラリン「えへへ…。」
スラミ「はー、それにしてもノドかわいたわねー。早く帰ってアモールのお水のみたいわ。」
スラリン「あ、そうだスラミ。よかったらオレンジ食べる?」
スラミ「いいわねー、じゃいただくわ。」
スラリン「運転手のおじさんもどうぞ、たくさんあるからさ。」
オーキ「ほぅ、こりゃ悪いな。ありがとよ。」
オレンジをほおばる三匹のモンスター。スラミは食べながら、少しうつむき加減でスラリンに話しかけた。
スラミ「…ねぇスラリン、ちょっと聞きたいんだけど…。」
スラリン「なんだい。もぐもぐ…。」
スラミ「あのさ…あんたどうして働きたくなったの?」
スラリン「うん…なんでだろうな。オイラもよくわかんないや…。」
スラミ「……」
スラリンはまたしばらく黙ったが、再びスラミのほうを振り返って言った。
スラリン「あのさスラミ…。」
スラミ「な、なに?」
いつもらしくないスラリンの表情、スラミは少し不安になった。
スラリン「オイラこの村が好きだし、村のみんなが大好きだよ。クワガタ町も好きになりそうだ…。」
スラミ「なによなによ、あんたらしくもなく真剣ね。」
スラリン「スラミ…。オイラたちの住むカブト村のモンスターたちってさ、みんなそれぞれ
自分の仕事に誇りを持っていないかい?」
スラミ「……」
スラリン「郵便配達のキムラさん、大工のゴレムスさん、そしてこのポンコツバスを運転する
オークのおじさんだってさ…。」
スラミ「そうね…。」
スラリン「カブト村だけじゃないさ、クワガタ町の市場を見ただろ?みんな一生懸命がんばって
自分の仕事に誇りを持ってるよなぁ。」
スラミ「……」
スラミの不安は消えたが、どうもいつものスラリンとは違う。まるで一年分ほど成長したように。
スラリン「八百屋さん、魚屋さん、アイス屋さん、肉屋さん…。なんだかオイラあれを見てたら、
無性に自分の買い物がむなしくなってきてさ…。」
スラミ「そんなことないじゃないの、あんたはお買い物するためにクワガタ町へ来たんでしょ?
お使いだってりっぱなお仕事よ。…まぁ大会のことはちょっと残念だったけど。」
スラリン「うん…確かに大会に出場すれば、優勝できたかもしれないよ。けどさ、なんだか
そんなことよりも、もっと大事なものを見つけたような気がしてさ…。
うまくいえないけど、誇りを持った職業ってのかなぁ。」
スラミ「……」
スラリン「たったの二〜三時間ほどの仕事だったけどさ、オイラあんなに目が回るほど働いたのって
初めてだったよ…。今までどんなスライムと戦ってきたよりも、はるかにきつかった。」
スラミ「そう…。」
スラリン「でもさ、終わってからの充実感っていうか、給料っていうものをもらったときの感動が
忘れられないよ…。やり遂げたんだなぁってさ。」
スラミ「……」
スラリン「オイラ確かに、お使いという仕事のためにクワガタ町へ行ったよ。…けど
あの市場の仕事ぶりを見てたら…任務だなんて大げさなことを言ってた
自分が恥ずかしいや…。」
スラミ「スラリン…。あんただってきちんとお仕事したのよ…。もっと自信を持って。」
二匹のスライムが会話をしているところへ、運転手のオークが話しかけてきた。
オーキ「坊や、おじょうちゃんの言うとおりさ。きみはお使いというれっきとした仕事をした。
もっと自分に自信を持っていいと思うよ。」
スラリン「おじさん…。」
オーキ「昼間きみがこのバスに乗ったとき、あのときのきみの目が今でも焼きついているよ。
なんていうか誇りと自信にあふれた目をしていたなぁ。はっはっは。」
スラリン「そ、そうかな…。」
オーキ「無事に任務とやらを完了させたのだろう?きみはリッパに仕事をやり遂げたんだ。
もう一人前のスライムだよ。」
スラリン「ありがとう、おじさん…。」
運転手のオークは、今度は少し寂しそうな表情でつぶやいた。
オーキ「…私もいつまでこのバスを運転できるか分からん…。だが私は一度たりと決して辞めようと
思ったことはない。このポンコツバスの息が続くかぎり、私も一緒に走っていたいのだ…。」
スラリン「……」
スラミ「……」
オーキ「たとえ乗客が一人でもかまわん…。たとえ一日に三本しか走らないバスでもかまわん…。
それでも私は、こいつと一緒に走っていたい…。私の誇りは、このポンコツバスだよ…。」
スラリン「おじさん…。」
オーキ「人やモンスターには、それぞれ自分に見合った職がある。坊やはこれから大人に向けて
きっとすばらしい職業が見つかるさ。今日はいい経験をさせてもらったな。」
スラリン「うん…。」
ゴトゴトと揺れるバスの中、夕日はすでにバスの車内全体を紅く染めていた。
オーキ「はっはっは、私もトシかなぁ。こんな説教くさいことを言うようになってはな。
まるで私もこのバスと一緒にトシをくっているようだ。」
スラリン「あっはっは。」
スラミ「うふふ、バスもステキだけど、おじさんもステキよ。」
オーキ「そうかい、ありがとよ。」
ようやく三匹のモンスターたちに笑顔が戻ってきた。
夕日は彼らを激励するかのように、さらにまぶしく照らしている。
スラリン「ねぇオークのおじさん。オイラたち、またこのバスに乗りにくるよ。だからこれからも
ずっとずっと運転し続けてね!」
スラミ「そうよそうよ、あたしもまた乗りたいわ!」
オーキ「はっはっは。いつでも乗りにおいで。私は毎日バス停で待っているよ。」
スラリン「ねぇおじさん、もっとスピード出ないの?」
オーキ「ほほぅ、よーし。じゃ久しぶりに飛ばしてみるか。」
スラリン「ぃやっほーーい!」
スラミ「ちょ、ちょっと大丈夫?ムチャしないでよね…。」
オーキ「行くぞ、しっかりつかまってろ。」
スラリン「うわわっ…!」
よろよろと走るネコバスは、カブト村へ向け、明日へ向け、まだまだ走り続ける…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
はじめてのおつかい PAGE17
カブト村 ヤマダ家 夕方5時30分
スラリン「ただいまー!」
ミナ「<あー!ママー!スラリン帰ってきたよー!>」
マナ「<ス、スラリン!あなた無事だったのね!よかった…!>」
おっす、物語りもぼちぼち終わりなので、再びスラリンのオイラがナレーションを務めよう。
あ〜あ、お使いから帰ってきただけなのに、ママさんったらいいトシして泣きじゃくって…。
そんなにオイラがいなくて寂しかったのかぁ。
ミナ「<あれ?買い物カゴにくだものがいっぱーい!わーい!>」
マナ「<えぇ?ママそんなにお金入れてなかったと思うけど…。>」
スラリン「ピキー!」
ははは、いいおみやげになったかもね。ママさんたちは知らないだろうけど、これはオイラが
働いて稼いだおカネで買ったくだものさ。ちなみにスラミにもオレンジをたくさん分けてやったよ。
彼女にはいろいろ助けてもらったし。
ミナ「<ママー、おなかすいたよ〜。早くゴハンにしてー。>」
マナ「<はいはい、そうね。すぐに支度するわ。…スラリン、あなたも今日はよく頑張ったから
ごほうびにバジルのお水を出してあげましょうね。>」
スラリン「ピキー!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ヤマダ家 リビングルーム 夜9時
マナ「<あなた、今日はスラリンったらお使いに行ったのよ。>」
ヤマダ「<ほー、あいつお使いなんて行けるようになったのか。>」
マナ「<えぇ、一時はどうなるかと思ったけど、あの子もけっこうやるものね。>」
ヤマダ「<ははは、将来あいつどんな職に就くんだろうな。>」
マナ「<あら?そういえばスラリンの姿が見えないわね、どこ行ったのかしら…。>」
ミナ「<ママー、スラリンもうとっくに寝ちゃってるわのよ。>」
マナ「<そう、よっぽど疲れたのね。うふふ。>」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ミナの部屋にて
スラリン「ぐがぁぁぁぁ…。」
ふぁ〜。今日はホント疲れたよ。オイラお疲れ。
明日のためにゆっくり寝るか。
スラリン「ぐごごご…。」
ねぇねぇ、人間の仕事っておもしろいね。オイラでもできるかなぁ。
人間とモンスターが共存して、それぞれがみんな、自分の仕事に誇りを持ってるのっていいね。
少なくともオイラは、今日のお使い任務に誇りを持っていたよ。
スラリン「ぴゅるるる…。」
人間のキミたちの中に、もしまだオイラのような子供がいたとしても、
いつかは職に就いて仕事するんでしょ?夢を持ってその職業に就けるといいね。
もしすでに職に就いている人がいれば、誇りを持ってやれる仕事だといいね。
オイラもいつかは、自分に誇れる職業に就くよ。
スラリン「ぐぐぅぅ…。」
もしオイラがまた次の任務を命じられたら、またこの村へ遊びにきておくれ。
友達のみんなも快く迎えてくれるはずさ。
スラリン「がぁぁぁ…。」
じゃあまたそのときまでサラバだ!おやすみなさい!
はじめてのおつかい
完
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
<スラリンと、お使いの途中で出会った仲間たち>
スラリン
友達のスラミ
友達のスラボン
郵便配達のキムラさん
大工のゴレムスさん
運転手のオーキさん
八百屋のホイミンさん
お魚屋のピエールさん
お肉屋のアンクルさん
アイス屋のルイーダさん
お使いのはぐりんくん
スラッジのチャンプ
チンピラのスラキ
チンピラのスラム
小学生のミナ
ママさんのマナ
ご主人のヤマダ
_____
|___†_| おつかれさまでした、どうもありがとう。
( ・∀・) 幼稚だけど、ようやく明るい物語を書きました。なんか前作は後味が悪かったもので。
(| ╋ |) 「ぼくの夏休み」に続く、ほのぼの第二弾を作ってみました。
よくテレビでやる子供がお使いに行くやつをモチーフにし、モンスターと人間の共存を舞台にしました。
テーマは「仕事」とか「職業」だと思いますけど、最終的には‘誇り’かな…。
映画「魔女の宅急便」のような、人々が自分の仕事に誇りを持っているような街を描こう、という
きっかけから始めました。今回の話、ドラクエ関係ないね、ごめん。
仕事というのは報酬をもらってこそ、初めて仕事になると言われますが、たとえ夕食のお使いでも
れっきとした仕事だと自分は思ってます。
今回は戦いをほとんど抜きにした冒険にしたくて、スライム格闘場へと展開する
ありきたりな戦闘ものにしたくはなかったです。
あくまでお使いを舞台にした冒険と、主人公の心境の変化を描きたかったので。
あと今回は魔法世界ではなく、現代の背景をたくさん取り入れました。
バスが走っているのもその一つで、あえて古くさい機械ものを出しました。
最初は「となりのトトロ」のような、生きたネコバスを出そうかとも思ったけど、
なんとなくファンタジー世界でなく、のどかな海の町を舞台にしたかったもので…。
幼稚すぎたかもしれないな。けど明るいエンディングにしてよかった。
読んでくれた人ありがとうございました。
オワッタ
人
(・∀・)オチカレー
>だが次の瞬間、目にも止まらぬスラリンの回し蹴りが炸裂した。
人
(・∀・)アシドコー?
乙でした〜〜!
ほのぼの系も、いいですね。
もっと、長くてもよかったかも。
おもしろかったです。
730 (;・∀・)
731確かにみじかすぎた・・
SSこないな・・・。このスレももうオワリダネ
オワリオワリ言わないでくれよう。
何か書くにはけっこう時間がかかるんだ。
ごめんよ。容量のことで。
へいきなのかな
734非常におしいIDだだ。あとeが入ってれば
うーむ
とにかくこれから登校するひとは新すらでないと無理っぽいかも
ここはウメタテしないかい
誰かが完成すればそのとき立てたらいいか。
14kbを通常のレスだけで埋めるのはけっこう大変ですよ。
ひとつのレス容量いっぱい使っても7レスかかりますから。
即興で何か書ければいいんですが、あいにく漏れはエロネタしか思いつかない劇場屋なんでw
サッカーはじまりました。
今それ自分も思った。撤回
hosyu
微妙な残量
1: □■FF10総合スレ No.15■□ (820) 2: DQシリーズ今後のリメイクにつ
いて (94) 3: FF]=ギャルゲー FF]-2=エロゲー (316) 4: 【総合】
ドラクエ5〜天空の花嫁〜其之四十一 (459) 5: 負の言葉に「天空の」をつ
けて±0にするスレ (263) 6: ●●ドラクエ攻略質問スレッド第41章●● (
894) 7: 【総合】 ドラゴンクエスト VIII 第90章 (469) 8: 迷ったけ
どドラクエ8予約したぞって人が集うスレ (13) 9: FF5総合スレッドLv25 (
850) 10: ドラクエ8、税込6400円前日販売します (788) 11: DQ8の
ラスボスの名前を最初に当てる!10 (916) 12: クリフトとアリーナの想い
は その2 (698) 13: 【DQ】マイナーモンスター語りスレ【FF】 (260) 14
: モンスターの強さをリアルに考察 (73) 15: ドラゴンクエストのお医者
さん (259) 16: ユウナんとえっちしたい (14) 17: 【総合】FF6スレNo.
31 〜それは大きなミステイク〜 (237) 18: DQ8は延期すると断言して
たバカ共を集めて笑うスレ (30) 19: □■FF攻略の総合質問スレッドVol.25
□■ (993) 20: 【エェー】FF・DQ(・3・)質問箱14【アルェー】 (448)
21: もしもFFDQの世界に2ちゃんねるがあったら (157) 22: ファイナ
ルファンタジーS 第4幕だが死ね (360) 23: クラウド×エアリスでカプば
な〜18 (264) 24: ドラクエしりとり その27 (353) 25: 【テリールカイル】DQ
M総合スレッド【キャラバン】 (542) 26: 【実況】今プレー中のFF.DQを語るス
レpart2【感想】 (410) 27: ビアンカは臭い (197) 28: 【FF】みんな
で物語を書いていくスレ【FF】 (47) 29: ■ひとつだけ魔法・呪文がお
ぼえられたらpart2■ (226) 30: FFのアレンジ曲を作ってみようスレ Pa
rt5 (8) 31: 【DQ】いただきストリート
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そんな無理矢理埋めんでも
|!____i| `ーっ 厂`ー、
∧ / ̄ ̄ ̄ ̄∧∧ ( ノ⌒ヽ、_二-‐'⌒ >
/=ヘ/=‐::::::::::::::::/ / ハ ∧ (
/‐= ヘ────ト /= ハ / ヘ (⌒⌒ヽ_ノ⌒〃
⌒ゝ 〃⌒⌒ヽ_ /=‐ ヘ ロ ロ ロロ| /-‐=ハ /= ヘ `〜‐-、__二ニ(
`ー' ,-、_ノ⌒) /____ヘ ロ |/__ハ/=‐ ヘ
-‐〜─'´ ‐-、 ⌒ゝ ノ⌒) ]二二ニ[ ]二二ニ[| ̄ ̄ | ∧
-‐〜─'⌒ゝノ⌒ヽ、-〜、ノ ゝ |ロ ロ ロ | |ロロ ロロ|\....::::| /=ヘ
/⌒ヽ、_ ,-‐--、 _ |′″ |=======:|゛,′ | \ :|/=‐ヘ
_,,ノ"´ `゛ー-、\-─''"″ヽ゛` `ヽ| ″ | | | |/__-ヘ __/⌒ヽ∧_,∧_
"´′ "ノ ヽ-‐' ′ `゛ ┌冖冖冖冖冖冖冖冖冖冖冖冖冖冖冖¬¬ ´ `/=∨ハ`ー、_
",-\ ∧ |===============|====l\_/_ハ__ハ '⌒
,ノミゝ `/ ヘ-、__, |____ ェェ ニコ =‐ __」 : ‐- | | | ロ| ロ| '"
彡ゞノソヘ爻乂ヾゞノ从/=-ヘミノ从/:::::::::::""/| ェェ ェェ コ 冖 :i. | | |″'''| ,,'|
爻ノゞヽノノ个ゞゝソミ /=- ヘ彡∠___/::::;|::. r==========ヘ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
^^~" ̄~~゙Fニニニニニニニニニニニi | | :;|:: ェ /=-‐ == ハヘ | ̄∧ | ̄∧=
| / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∧| "'''| r=====ョ / ハヘ= | /Aヘ | /Aヘ
从 ノゞ/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∧ /ロヘ :::| ||冂||冂|| /== - ‐-ハヘ レ'イ△ヘ レ'イ△ヘ
ノ爻ゞ /____ -‐ =/ロヘ /ロ ロヘ :| ||iロlliロ|| /- ‐- ハヘ=- ̄ ̄=-‐ ̄ ̄
ノゞヽ/\ \ -=/ロ ロヘ :/┌┐ | :|:: ||iロlliロ|| /________ハヘ_______
ゝ'/ \=- \ /=¬=ヘ/l .| ||: | // ̄ ̄ ̄[INN] ┌┬┐ | ┌┬┐┌┬┐
/ [] \‐- \|. |_| |¬ //′″,, | _ ...:::├┼┤ | ├┼┤├┼┤
[] [] \ / ̄ /|__ ̄ " / ̄ /| :└┴┘ | └┴┘└┴┘
_______\__| ̄ ̄|/| / | ̄ ̄|/|________. |_______
エコ ュ | ̄ ̄| ''|/ ′′ '''' | ̄ ̄|| ̄ エコ ェェ コ
匚] エコ ''|′″| │ =- | || 匚 ] エエ エコ
ェェコ |~ コ| │ =- | ″ || ェ
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エ コ 匚 | | │ | ||
_,,vy,、,_,,,,___,wv、,,_,,,,,|_ ,,_|,/ 二= -‐ |_,,_ ||,,_ __ _,,vw_,,_ _,,,y从w,,_、、,,,__vy,,
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| ̄| ̄ ̄ ̄| _________________
| | () .()| /
| | ∀ | < 新スレにひっこそう
| | | \
_.丿 | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ノ __ノ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/\ー―、_ _/|>7~~>
< >-、 _ ̄ヽ^、 ̄ー、,―-、 ___ __ __ __ ,― ̄)/ ̄ _ / /
\∠/ヽ ヽ~\ヽヽ D ) | _ |/|~ ┌__ll' ̄'l「| |~| l' ̄'l| || || // /7__//~//\)/ /
ヽ ヽ ヽ ヽヽ、 ´、| || | | | (~l| .∩|| `' | |∩|| ‖ || l二(_´ ̄)、ヽ/// |\/
ヽ ヽ ヽ_」 ヽ、 |~| || '' | | U || U || |.、 | |U|l、 || l二',-:ニ/ / / メ / |
ヽ/ヽ _/ヽ | |__||__|~|__| `―-.^゙,ニフl.ニl、ロ b ∠、二'L_/(__/ | / /\|
< L- ̄/V二/´-'―`ー´` ̄ `ー' `―``―、__ノ|/ /
ヽ∠― ̄ \/
あれ まだ書ける
あと3kbですよ!
なにゆえもがきくるしむのか
さあわがうでのなかでいきたえるがよい
_ _ _..= T ̄| ̄T` = 、.
∧ _ - ― = ̄  ̄`:,ヾヽ ヽ | -┴-、| //\∧
, -'' ̄ __――='∵_../:::::::::::::::::::ヽ..._/ |
/ -―  ̄ ̄ = | l/:::_. ((:::::::; "~丶::::::::)) _/| | 〜完〜
/ ノ | |ヽヽ~ Υ:::゙、_゚_ノ::::Υ/~/ | |
/ , イ ) ........._ ゝ\ヽヽ|::;;‐、::||::;:-、:| / //--‐‐‐‐--、
/ _, \ (--__::::::: ̄~\,A、 |::| `、※ノ |:|/ /::::::::::::__//
| / \ `、 ヽ / 二二_-- | .,|丶::)V~~V|(ノ∠`‐‐‐‐~~´ ヽ /
j / ヽ | // lゝ、  ̄| _|彡.,ヘ|l二'レ||‐:‐ ||| |、ヽ
/ ノ { | >|/ -‐\.` -' ゝ.⊥⊥二、:::||‐:‐ ||/ _| |_>
/ / | (_ >| ) ∠ _,...-''´:::::::||:‐‐|||,イ´ ̄ |´|
`、_〉 ー‐‐` |_,ゝ-‐'´ _/ ,/|::::::::::::::::||‐//`/⌒ ノ ||
|`´ ̄|´l|:::::lll二_||::::::::::ヾ、‐、:::/ |、 / | ||
||:|::::::::| |::::::|||__||::l`,--;'lヽ `\ `~二)>||
sibutoi
ある男が、自分を愛している3人の女の中で誰を結婚相手にするか長いこと考えていた。
そこで彼は3人に20000ゴールドずつ渡し、彼女らがその金をどう使うか見ることにした。
一人目の女は、スパンコールドレスとガラスの靴を買い、うつくし草を集め、自分を完璧に
見せるためにゴールドを全て使って こう言った。
「しゃくだけど、あたしは、あんたが好きなの。だから、あんたがこの世界でいちばん可愛くて
優しくて美しい奥さんを持ってるって、他の連中に思わせてあげたいのよ。感謝しなさい」
二人目の女は、夫になるかもしれないその男のために、おしゃれなスーツ、キャプテンハット、
幸せの靴を買って 残らず使いきると、こう言った。
「あなたは、この私にとって一番たいせつな人であります。未熟者の身ではありますが、
お預かりしたお金はすべて、あなたのために使わせていただきました」
最後の女は、20000ゴールドをカジノに投資し、倍にして男に返した。
「ふふ、わらわはそなたをこの上なく愛しておる。 わらわが王女とはいえ、浪費などせぬ
良妻賢母になれるということを、そなたに分かってもらいたかったのじゃ」
男は考え、3人の中で一番おっぱいの小さい女を妻にした。