「PS2」ドラクエXフローラorビアンカ Lv7

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「おお、サトチー。なんと水のリングを手に入れたと申すかっ!」
その丸々と太った男、ルドマンは嬉しそうに立ち上がった。
「はい……これが水のリングです」
サトチーと呼ばれた男の手の中には、とても美しいリングがある。
一瞬我を忘れ、水のリングに見とれるルドマン。

「……ゴホン! サトチーよ、素晴らしい働きであった!約束通りフローラとの結婚を認めよう!
 フローラもサトチーが相手なら文句は無いであろう?」
ルドマンはフローラに視線を移す。
「ええ、お父様……。……? そちらの女性は?」
サトチーの背後には金髪の女性が立っていた。
金髪の女性――ビアンカは辺りをきょろきょろと見回した。少し経って自分が呼ばれた事に気づく
「……え? 私? ……私はビアンカ。サトチーとはただの幼なじみで……」
そういえば、どうして私はサトチーについてこの屋敷に来たのだろう?
そう考え、わざと用事を思い出したようにビアンカは慌てた。
「さ、さあてと! 用も済んだことだし、私はこの辺で……」
間髪入れず、フローラは立ち上がった。
「お待ちください!」
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「もしやビアンカさんはサトチーさんの事をお好きなのでは……?
 それにサトチーさんもビアンカさんの事を……
 その事に気付かず私と結婚して、サトチーさんが後悔することになっては……」
ルドマンは、そんな娘の突然の言動に動揺した。
「ま、まあ落ち着きなさいフローラ。……では、こうしたらどうだ?
 今夜一晩、サトチーによく考えてもらって、
 フローラかビアンカさんか選んでもらうのだ……うむ、それがいい!
 今夜は宿屋に部屋を用意するから、サトチーはそこに泊まりなさい。
 ビアンカさんは私の別荘に泊まるといい。……いいかね?分かったかねサトチー?」
ルドマンのあまりの強引さに半ば呆れるサトチーとビアンカ。そしてフローラ。

しばらく戸惑ったが了承をし、サトチーはサラボナの宿屋へと足を運ぶ。
「ふう……ルドマンさんったら唐突過ぎるよ」

「結婚……結婚か。そういえばビアンカは綺麗になったなあ。
 お化け退治の頃は僕より元気だったのに……あんなに色っぽくなってるなんて。
 それにフローラさんも気品の良さが感じられる素晴らしい女性だ……
 ……ああ、どちらを選んでも僕は二人を傷付けてしまうことになるんだ……」
苦悩するサトチー。
「ビアンカ……ビアンカか……フローラさん……フローラさんか……」
  翌日 ルドマン廷

「よく来たなサトチー。さあ、決断はしたかね?」
ピリピリとした空気が敷き詰める部屋の中で寛ぐルドマン。
呑気なものだ。

「さて、それではサトチーが選んだ方に話し掛けるがいい」
サトチーはビアンカとフローラを見やる。
恥ずかしくてまともにサトチーの顔が見れずにうつむくビアンカ、
サトチーと一瞬目が合ったが、顔を赤くしてつい目をそらしてしまうフローラ。

サトチーはビアンカとフローラの真ん中に立つと、
正面にいる男性の両手を握り締めた。
「ルドマンさん……あなたには奥さんがいる。
 そんなあなたの手を取る僕を最低の男だと罵ったって構わない。
 でも……僕はあなたの強引さに惹かれてしまったんだ」
その言葉を聞き、ビアンカとフローラの目が点になる。

「な、な……な、なんと、この私が好きと申すか!?
そ、それはいかん! もう一度考えてみなさい!!」
さすがのルドマンも、予想だにしなかったサトチーの行動に動揺を隠せない。
だが、サトチーはルドマンのふくよかな両手を離そうとはしなかった。
「逃げないでください! 好きです。好きなんだ……ルドマンさん」
サトチーは真っ直ぐな目でルドマンを見つめる。
心を丸ごと包み込んでしまうようなサトチーの優しい目……
それによってルドマンの瞳は潤み、心は崩壊寸前だった。
「い、いかん……落ち着くのだサトチー! 考えてみなさい、私達は男同士ではないか!」
ルドマンは力を込め、自分の手を掴んでいたサトチーの手を振り払う。
「何故ですか? 男だからって……あなたを好きになるのはいけないことなんですか?」
サトチーの目は真剣そのものだった。
「サトチー……」
今度はルドマンがサトチーの手を握る。
途端に、サトチーの表情が明るくなった。
「サトチーよ……わしのケツの穴は締まりも悪いしイボ痔だけど……
 ……よろしくな」
最後の方は小声でとても聞き取れなかったが、サトチーにはそれで充分だった。


ガシャーン!

結ばれたサトチーとルドマンに何かが投げつけられた。
振り返ると、鬼のような形相を浮かべた貴婦人が……ルドマンの妻だ。
妻は、ルドマンが趣味でコレクションしていた食器、壷、女神像などをぶつけてくる。
「あなた、私への気持ちは嘘だったんですか!?
 あの時、永遠の愛を誓い合った私への気持ちは!!」
泣きじゃくり、広間にあった椅子を持ち、彼女はルドマンの方へ向かってきた。
「あなたを殺して私も死ぬわーっ!!」
しっかりとした造りの椅子の足が、ルドマンを狙う。
「危ない!」
サトチーの機転により、ルドマンの妻の特攻は辛うじてかわすことができた。
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「ルドマンさん、逃げましょう! どこか遠くへ!」
ルドマンの手を取り、屋敷の入り口へ向かうサトチー。
しかし、サトチーの足は止まった。
入り口付近に二人の女性がいたからだ。
「サトチー……」
「お父様……それにサトチーさん……」
軽蔑……絶望……それらを含んだ瞳がサトチーとルドマンに投げかけられる。
「ビアンカ、フローラさん……すまない。僕は……」
ちらりとルドマンの方に目をやると、再び正面を向き、サトチーは屋敷の門をくぐる。
騒ぎを聞きつけ、ぞろぞろと集まってくる町人の視線さえ気にも止めなかった。
それだけ、サトチーにとってはビアンカとフローラの視線は痛い物であった。

無我夢中で走る二人。
「ハァ、ハァ……ヒィヒィ……ゼェゼエ……」
サトチーに手を引かれているものの、彼のスピードには到底付いて行けず、ルドマンは息切れを起こした。
「すいません、ルドマンさん。でも、もう少しすれば町の外ですから」
サトチーはルドマンの体を持ち上げ、抱えた。
「おおお!? サトチーよ……」
いわゆる「お姫様抱っこ」というやつである。
ルドマンの丸々とした肉体を抱え、必死で馬車へと走るサトチー。

その異様な光景は、後にサラボナの伝説となり、それを元にした絵画や饅頭が売り出されたとかなかったとか……
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半年後――。

ルドマンは、サラボナに残してきた妻と娘に手紙を書いていた。
私の残した財産と屋敷は慰謝料として受け取って頂きたい……という内容の手紙を。
「何を書いてるんだい?」
ルドマンの手紙を、興味深そうに覗き込むのはサトチーだった。
「な、なんでもない」
サトチーに見られまいと、手紙を自分のふくよかな手でそっと覆うルドマン。
「ふふ、そう言わずに見せてごらんよ。ルドマンは恥ずかしがりやなんだね」
「何を言うか。サトチー……いや、あなたも意地が悪いな……ぽっ」

ぎこちないながらも、その微笑ましいやり取りは
まさに新婚夫婦そのものであった。


そう、愛はすべてを乗り越えるのだ。
この先どんな困難が待ち構えていても、
サトチーとルドマンはそれを乗り越えて行くことであろう。



                                           たぶん。





ドラゴンクエスト5 −天空の花嫁− 完