何もない。
何も感じない。
遥か彼方先まで真っ暗で一筋の光も無い。
これが死んだと言うことなのだろうか。
体は動いてくれず、心は凍るように冷たい。
思ってたよりも僕の気持ちは怖いと告げてないみたいだ。
いや、何か聞こえた気がする。
まるでお祭りで騒いでいるかのよう・・・。
遠くで、遥か遠くで何かが聞こえる。
少しずつ声が近づいてくる。
人間の声だろうか。
いや、声だけでは無い。
耳を澄ませば河のせせらぎが聞こえる。
このまま眠り続けたい・・・。
しかし、少しだけ目が開く。
眩しい。
どうやら昼のようだ。
僕は一度目を閉じた。
深呼吸して再び目を開けた。
体がすごく痛い。
まるで動かない。
少しずつ、少しずつ体を回す。
どうやら、生き延びたようだ。
付近には河があるが、見たことのない景色だ。
頭が痛い。どうしてもぼーっとしてしまう。
大分流されたのだろうか。上流を先まで見てみても何も見当たらない。
流された・・・何で流されたんだっけ・・・。
そうだ!
こんな所でじっとしている時間なんてない!
早く戻らなくては!
しかし気持ちとは裏腹に体はゆっくりにしか動かない。
どうやら、体中をぶつけ続け、瀕死の怪我を負ってしまったようだ。
僕はまず河に近づいて水を飲んだ。
一瞬近づくのが怖かったが気にしなかった。
喉が酷く渇いていたのだ。
溺れていたんだから水は随分と飲んだはずなのに・・・全くおかしな話だ。
水を飲んで気を落ち着かせると何かが喋りながら近づいてきていることに気づいた。
どうやら人間達のようだ。
付近には大きな森があり、そっちの方から聞こえてくる。
きっとこの騒がしい声で目が覚めたに違いない。
声がどんどん大きくなっていく。
走っているのだろうか。
一瞬感謝の気持ちが出来たけど、今人間と出会っていいことは無いだろう。
僕は少しずつ動いて声から離れようと勤めた。
声から離れるように森に入っていく。
森に入っていくのは危険だ。
人間ともモンスターとも今の状態で戦闘になったら勝ち目が無い。
しかし、もしかしたらスライム族のモンスターに会えれば助けてもらえるかもしれない。
人間が近づいてくる以上ここに居るわけには行かない。
五分は経った。
距離から見て人間達が河に着いた頃だろう。
きっとそこで小休憩するに違いない。
しかし、僕の考えは外れたようで、人間達は再び森に入ったようだ。
それどころか僕の方に向かって走ってくる。
まずい。
しかし僕は走るわけには行かない。
いや、走ることが出来ないのだ。
目が覚めたときに比べて体が動くようになったが、それでも一歩ずつ何とか歩いているという感じだ。
人間達が走ってくる。
こうなったら、隠れるしかない。
僕は近くの大きな木の裏に隠れた。
人間達が来た。
一人だけ目立った格好をしており、他は近くの村の村人と言った様子だ。
青い帽子に青い服。剣士風の男で中々の美形だ。帽子の下には金髪が覗いている。
これは勘だが、キザで意地悪な気がする。
村人達が周りを探している。
剣士が化け物退治を依頼されて討伐をしに来たという所だろうか。
会話から、「何処に行った」「バトルレックス」という単語が聞こえる。
ここにはモンスターがいないと確信したのか、集まって走ろうとしている。
しかし青い剣士が他の者を止めている。
何か居たのだろうか?
「そこに隠れているモンスターよ。出て来い。」
僕の方を見てそんな台詞を吐きつけた。
片方の手で剣を抜き、片方の手で髪を撫でている。
「フン・・・このオレ位の実力者になれば、モンスターの気配などすぐに分かるんだ!」
「出てこないのであればこっちから行くぞ・・・。」
キザな顔が意地悪そうに笑っている。
話が通じるかは分からないが、出てみるしかない。
僕は人間の言葉は話せないから、相手がモンスターと話せることを祈るしかない。
「こんにちは・・・。君たちに危害は加えないよ。」
しかし僕の姿見てその男が舌なめずりしたのを見逃さなかった。
「はっはっはっ。まさかこんなところではぐれメタルに出会えるとは!」
「危害を加えないだと〜。俺はこう見えても魔物使いをやってた経験があるんだ。」
「お前の目は邪悪な魔物そのものだ!」
「人間に害を加えないはずがないだろう!」
ダメだ。珍しく話の出来る人間のようだが、話の通じる人間ではないようだ。
しかし何て失礼な奴だ。
クールな気がしたが、もしかしたら喋り出したら止まらないタイプかもしれない。
それでも・・・聞きたいことがある。
「はぐれメタルって何かわかりますか?」
聞いてしまった。
本能が逃げろと言っているのだが、今を逃したら知る機会が無くなるかもしれない。
「はっはっはっ。お前はバカか?」
「お前の様なメタルスライム崩れをそう呼ぶんだよ!」
「まあいい。教えてやろう。」
「はぐれメタルとはメタルスラムの突然変異によって出来たモンスターだ。」
「あらゆるモンスターに忌み嫌われ、その倒し辛さから多くの人間の練習相手に使われる、孤独なモンスターさ。」
「モンスターには一緒に居ると不吉になると信じられている。ドロドロで気持ち悪い上に、実際に人間に四六時中追われるんだ。一緒に居るものは辛くて溜まらないだろうな。」
「さっき・・・倒し辛いと言ったが、大抵は弱いからな。人間には御馳走と変わらん。」
「いっつも群れずに生きている。群れる仲間すら作れないんだよ。」
「なんと言っても『はぐれているメタルスライム』だからな。」
「フン・・・いやいや、案外嫌われてるのは性格が悪いからかもしれないなー。」
「世界中の生き物がお前を嫌ってるんだ。わかるか?」
「お前は生きてる価値のないモンスターなんだよ!」
「母親がそう教えてくれなかったか?」
「いや、嫌われすぎて母親にも捨てられたか?」
僕は何だか分からないが、聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした。
めまいがする。
世界が音を立てて崩れていく・・・。
「くず鉄が。お礼も言えないか。」
「まあいい。どうせ死んでも悲しんでくれる者も居ないんだろう?」
「どうした・・・震えているぞ。邪悪な目がますます邪悪になっている。はっはっはっ!」
「お前を倒せば・・・オレは更に強くなれる。」
そう言い放つと剣士はこっちに向かってゆっくり歩いてくる。
「イオラ!」
僕はそう唱えると後ろに走り出した。
体が軋みをあげるが、もう構っていられなかった。
後ろで村人達の叫び声が聞こえる。
剣士はともかく、村人は遠くに居たから大した被害は無かったはずだ。
僕は自然と涙が出てきた。
僕は・・・僕達は嫌われ者だったのだろうか。
剣士のヒステリックな喚き声が聞こえる。
探せと指示を出している。
あんな奴に・・・殺されて溜まるか。
・・・胸が痛い。
涙。
あんな奴の言ってることなんて嘘に決まってる!
はぐメタだ・・・はぐメタに確かめよう。
そういや、はぐメタは無事なのか?
スタスタは?
あの二人が死んだら孤独になってしまう。
独り・・・考えたくも無い。
故郷のメタルスライムたちの意地悪な笑顔が頭によぎる。
あんなところ・・・二度と戻って溜まるか。
どんどん胸の鼓動が大きくなる。
体と頭の痛みが止まらない。
もうダメだ。
何も考えることが出来ない。
僕は目の前が真っ暗になった。
今日は中途半端ですが、ここまでです。
キター!
頑張ってください!
保守保守♪
↓ドラゴラム
↑アストロン
>>はぐりん
毎度お疲れ様でっす
超乙
↓パルプンテ
巨人に殴られた。 ↑黒い霧
まだかな〜。
↓ザメハ
寝てねーよヽ(`Д´)ノウワァン!!
↑
ラリホーマ
↓
│ PASSさ……
│ ≡ ('('('('A` )
│≡ 〜( ( ( ( 〜)
│ ≡ ノノノノ ノ
↓
│Д゚)ソォー。○(そろそろ誰か掛かってるだろうニヤニヤ)
│Д゚;)!
>>486 │_-)zZZ
そろそろ保守
僕ははっと目を覚ました。
こんなところで寝ていてはいけないと思ったのだ!
あの剣士にやられてしまう。
しかし目の前はもう既に森の中ではなかった。
寝ボケているのだろうか。
倒れてから五分も経っていないはずだ。
目を瞑り大きく息を吸って吐く。
寝ぼけているならばこれで意思がしっかりするはずだ。
しかし目の前はやはり森の中ではなかった。
木製の小屋の一室と言うところだろうか。
床には干し草が敷き詰められており、気持ちがいい。
体は大分回復したのだろうか、随分軽い。
よく自分の体を見ると包帯が巻かれている。
誰かが助けてくれたのだろうか。
まさかあの剣士が僕を助けるとは思えない。
自分の状況が分からず悩んでいると部屋のドアがギィーと開いた。
やって来たのは小さな少女だ。
手には包帯と薬を持っている。
僕の方を見て驚いたようなホッとした様な顔をしている。
「あっ、起きたんだ。ケガは大丈夫?」
少女は少し不安そうに僕に話しかけた。
しかし何故、こんな小さな子が僕の怪我を見ているのだろうか。
僕の知り合いに居ないことは確かなのだけど。
「助けてくださったんですね。ありがとうございます。」
僕はとりあえずお礼を言った。
もしこの子が助けてくれてなかったら今頃どうなっていたか分からない。
「お礼を言ってくれたの・・・かな。ごめんね。私、君たちの言葉少ししか分からないんだ。」
「スラりん、スーラ!目が覚めたよー!」
少女がそういうと二体のスライムが部屋に詰め込んできた。
一体は青い元気そうなスライム。はたまたもう一体は赤い、これまた元気そうなスライムベス。
スラりんと呼ばれたスライムが声を掛けてくる。
「やあ!目が覚めたかい。僕は悪いスライムじゃないよ!」
「ぼっ僕も悪いスライムじゃないよ!」
僕は釣られて繰り返してしまった。
「そうか。それならよかったよ。そうじゃなかったらこの家から追い払わなくちゃならないところだった!」
スラりんはそう言うとピキー!!と鳴き声を出した。
人間の少女が笑っている。
「森を倒れているところを私達が見つけたの。酷い怪我だから助からないじゃないかと思ったわ。」
スーラと呼ばれたスライムベスが代わりに話しかけてくる。
「彼女は人間の子供だけど、親子揃ってモンスターに優しいの。私達友達なんだ。彼女に感謝してね。」
「貴方が悪さをしないなら、傷が言えるまでここで休ませてもらうといいわよ。お礼は・・・そうね、彼女と遊んであげること。この村は人口が少ないから人間の子供が彼女しか居ないのよ。」
スーラはそう言うとくるっと回って見せた。
人間の少女もまねてくるっと回って見せる。
「うん!僕、悪さしないよ。助けてくれてありがとう。彼女に僕がお礼を言っていたって伝えてもらえないかな。」
僕は改めてお礼を言った。
「いいわよ。それと無理はしちゃだめよ。」
「まだ傷も癒えてないし・・・三日間も寝ていたんだから。」
「三日間も!」
僕つい驚いて大声を出してしまった。
人間の少女がびくっとして一歩後ずざる。
スラりんが人間の少女に話しかけている。
どうやら、彼女に分かる言葉で僕の安全性を伝えてくれているらしい。
僕はてっきり五分ほどしか気を失っていないと思ってた。
それどころか、三日間も眠っていたなんて!
川に流されてからどれくらい経っているんだろうか。
彼女たちに会えたのは幸運だ。
覚悟して聞かなくっちゃいけない。
「最近、この辺りで洪水なんてありませんでしたか?」
スラりんとスーラの顔が暗くなる。
僕は嫌な予感がしてきた。
「六日前の夕方だったかしら。この辺り、いえ遥か上流の方から全てのモンスターが山の方に避難を始めたの。」
「見たこともない大軍勢だったわ。村のお年寄りなんか、それを見て魔王の再来だってお祈りまで始めちゃって・・・。」
「そしてこの村にも一匹のモンスターが使いに来たの。プチファイターだった。プチット族はこの辺じゃ精霊の使いと言われてたから、人間たちも素直に忠告を聞いたわ。」
「洪水が起こるかもしれないからすぐに逃げてくれって。」
スーラが息継ぎをする。ところが続きはスラりんが話し始めた。
「僕たちも高い所に素直に逃げ出したんだ。」
「そしてその日の間は何も起こらなかった。」
「でも・・・次の日の朝だった。大きな洪水が起きて多くの魔物の住処や森、人間の村々が河の水に襲われたんだ。」
「この村は大丈夫だったんだけど、上流の方の村は家が軒並み壊されて、田畑も荒れてしまったんだって。」
「この家のお父さんも遠くの村の再興工事を手伝いに行ったんだ。」
「不幸中の幸いは忠告が有ったおかげでも死者が少なかったことかな。」
「それでも人間が100人は行方不明らしい。モンスターも含めたら一体どれだけの生き物が・・・」
僕はそれを聞いてガクッと肩が落ちたのが分かった。
僕達の抵抗が失敗して、その上多大な被害が起きてしまったからだ。
いや・・・そうじゃない。
洪水が起きたと言うことは・・・一人抵抗を続けた一匹のスライムが・・・。
僕はそこから頭が回らなくなった。
考えるのを何かが止めさせようとしているかのようだった。
スラりんがまだ何か言っているがうまく聞こえない。
どうやら、どれだけの被害があったか教えてくれているらしい。
僕の様子がおかしいのにスーラが気づいたようだ。
食事はいつでもしていいからゆっくり休んでねとのことらしい。
人間の少女が僕の包帯を変えてくれている。
何か言ってくれたが、分からない。励ましてくれた気がする。
僕は何をすればいいのか分からなくなった。
・・・とりあえず目を閉じることにした。
真っ暗だ。目の前も夢の中さえも。
・・・夜になったのだろうか。
僕はお腹が空いて目が覚めた。
そういえば六日間も何も食べていないのだった。
僕は何か夢を見たのだろうか。
しっかりとは思い出せないが、はぐメタやスタスタに会った気がする。
僕は部屋を出た。
少女の笑い声がする。
食べ物のいい匂いも・・・。
僕は彼女たちのところへ行って再三お礼をいい、久しぶりの食事にありついた。
野菜のスープは傷ついた体を癒してくれた。
人間の少女とも、スラりんとも、スーラとも仲良く話せた。
彼女達との会話は僕の心を少しだけ癒してくれた。
そういえば、僕はこんなに人間とモンスターが仲良くしているところなんて見たことが無かった。
人間なんて例の剣士や何時ぞやのバブすけの天敵みたいな奴らばかりなんだと思っていた。
それどころか『嫌われ者』の僕とすら明るく接してくれている。
全ての人間とモンスターがこんなに仲良く過ごせたら、争いなんてなくなってしまうかもしれない。
僕も・・・ここに住ませて貰おうかな・・・。
親愛なる友が居なければあの敵たちには勝ち目が無いし・・・僕が『嫌われ者』である以上旅の先も暗い・・・。
その日は少女が休んだ後もスラりんやスーラと話し続けた。
洪水の他にもこの村には災難があったらしい。
本来はこの辺りには生息していない凶暴なモンスターが森に住み着いてしまったそうだ。
バトルレックスという大斧を振り回す竜族だ。
僕の会った青い剣士は雇われた討伐屋さんで、二人も嫌な奴だと息巻いている。
しかしこのバトルレックス、巨体の割には素早いのか、同時刻に別々の遭遇報告上がっているという。
そしてこの家の母親は病気らしい。
液状の薬が有ったらしいが、誤って落としてしまったそうだ。
いつもは父親が薬のもとの薬草を森に摘みに行っているが今は居ない。
父親に関わらず村の男はほとんどが再興のボランティアに行っている。
残ったやや年寄りの男達も剣士に付き添って森の中に入ってしまっているとのこと。
仕方なく、少女とスラりんたちが森に摘みに行ったらしい、その途中で僕を拾ったらしい。
スーラはバトルレックスが討伐されるまでは森に行くべきじゃないというが、明日にもまた薬が切れてしまうらしい。
再び森に行くとのことなので僕も連れて行ってもらうことにした。
僕がここに住みたいといったら、畑仕事を手伝えるなら歓迎すると言われた。
夜遅くになって僕は部屋に戻って干し草の上に寝転がった。
本当にここに居ついちゃおうか。
どうせ世界が滅びるのならば最後は幸せに過ごすのもいいかもしれない。
「起きろー。ご飯よ。ご飯ご飯。」
朝になって食事だとスーラに起こされる。
実は昨日食べた分だけでは足りなかったので、急いでテーブルに向かった。
少女やスラりんに会っておはようを告げる。
こんなに楽しい気分で食事をしたのは久しぶりだ。
森に行くためにみんなで準備をする。
僕たちスライムもスライム型のカゴを背負う。
三日前には思いつかなかったのだが、スラりんの提案で少女が作ったのだそうだ。
これならたくさんの薬草を持ち帰ることが出来るだろう。
僕達は家を出た。
太陽がまぶしく暖かい。
二十三・・・プラス・・・六・・・プラス・・・一・・・。
今日で三十日目。
久しく数えてなかった日にちを数える。
旅に出て一月で幸せな場所に辿り着けたのかもしれない。
太陽が祝福してくれている。
森に入った。
キャタピラーやおばけありくい、キラービーと数回出会ったが僕らの相手ではなかった。
スラりんがスクルトを唱えて少女の前に立ち、僕が呪文で、スーラが体当たりで戦った。
驚くべきはスラりんの魔法よりも、スーラの体当たりだった。
恐るべき怪力で巨体のおばけありくいをやすやすと吹き飛ばしてしまったのだ。
彼女とケンカをしてはいけないだろうと心に刻みこんだ。
そうやって歩き渡り薬草を探してはカゴの中に放り込む。
時には少女と遊び、スラりん達と笑いあう。
しかし、そうこうしている間に一人の人物と出会ってしまった。
例の青い剣士だ。
森の地形をもう覚えたのだろうか、村人が周りに居ない。
僕を見て何とも嬉しそうな顔をする。
まるで長年追いかけた宿敵に出会ったかのような笑顔だ。
「『嫌われ者』のはぐれメタルがこんな所で何をしている!」
それを聞いてスラりんがきょっとした顔で僕を見る。
知られてしまった!
「おっと、失礼!はっはっはっ。知られていなかったのか。」
「よく覚えておくといい。この気持ちの悪いメタルスライム崩れがはぐれメタルというモンスターだ!」
「はっはっはっ。そこのお嬢ちゃん、今この森は危険ですよ。」
「入ってはいけないと言われているでしょう。」
「このモンスターはオレが倒しておくから森から出て行きなさい。」
そういうと剣士は剣を抜いて一直線に切りかかってきた。
嫌味な口とは裏腹に鋭く正確な剣筋だ!
僕はそれをかわして間合いを取る。
スラりん達はどうしたらいいのか迷っているようだ。
僕もどうすればいいのか分からない。
この憎い剣士を倒してしまえば村に居ることは不可能だろう。
しかし、もう知られてしまったのだ。
その恨みは晴らしておくべきだろうか。
何度か剣をかわす内にとうとう剣士の一撃が当たってしまう。
しかし、どうも剣が良くないのか、ほとんど痛くない。
僕のぽかーんとした顔を見て剣士が舌打ちする。
「やはり、このなまくら刀ではだめか。はがねの剣といえど使い続ければ痛んでしまう。」
そう言ったかと思うと剣士は剣を鞘にしまった。
剣士は良く見るともう一本の剣を持っている。
そっちを使うつもりだろうか。
そうかと思いきや、なんと道具袋に手を突っ込んだではないだろうか。
何を取り出すつもりだろう。
出てきたのはなんとはがねの牙だ。
それを剣士は口にくわえてしまう。
「お前に新品の剣などもったいない。こいつで十分だ。」
「じわじわと噛み砕いてやるぜ!」
牙を口に挟んだ剣士なんて聞いたことがない!
しかし、腐っても新品のはがねの牙。
以前ドラゴンマッドに噛まれた事があるが、あのくらいの痛みは覚悟した方がいいだろう。
剣士の両手をかわし、後ろを振り向く。
倒すべきか、否か。
突然少女の悲鳴が聞こえる。
僕はそっちに顔を向けてしまい、両手に捕まってしまった。
そして僕が見た先には・・・なんとも巨大な竜の姿!
両手で大きな斧を持っている!
少女の前によだれをたらして立ちふさがって居る。
そして巨大な咆哮!
剣士が噛み付いてくる!
痛い!
だが、それどころではない!
「離れるんだ!みんな!」
スラりんが少女を連れて離れる。
バトルレックスが追いかけようとする!
「イオラ!」
僕は間一髪でバトルレックスに呪文を当てることが出来た。
剣士が僕を地面に叩きつけて牙を口からはずす。
そして余興は終わりだと言わんばかりに新品の剣を抜いた。
僕は三人に逃げるように言ってバトルレックスの前に立ちふさがった。
三人は走って駆けて行く。
「二匹まとめて退治してやる!」
「まずはでっかい方からだ。お前はその後切り刻んでやるからまっていろ!手出しは無用だ!」
「わからずや!」
僕は大声で怒鳴った。
剣士がバトルレックスに切りかかる。
バトルレックスが僕に大斧を振り下ろす。
僕はそれをかわす。
攻撃の対象を変え、戦いが続く。
三つ巴になってしまったか・・・そう思ったときに又もや戦いが中断された。
遠くから少女の悲鳴が聞こえたからだ!
そして遠くでも又もや巨大な咆哮!
剣士が冷静な顔でつぶやく。
「フン・・・やはり二匹いたか。報告を聞いたときからそう思っていた。」
「少女を見殺しにするのは体裁が悪いな。」
剣士はそういうと声の聞こえた方に走り出した。
しかしそれをバトルレックスの尾が捕まえてしまう!
「フン!時間さえあればお前など!」
セリフとは逆に剣士の顔が冷や汗にまみれている。
少女が危ないと予見しているんだろう。
「僕が行く!」
僕はそう言い放った!
許されなくても無視していくつもりだった。
しかし剣士の言葉は予想とは違っていた。
「・・・ひっこんでいろ。といいたいところだが、どこぞの『嫌われ者』は足が速いらしい。」
「さっきお前は俺から逃げることよりも、少女を救うことを優先した。」
「その点だけは信用してやる。」
剣士は持っている剣でバトルレックスの尾を切り裂き始めた。
「俺が行くまででいい。持ちこたえて見せろ!」
僕はその言葉を聞いた瞬間に走り出した。
あんないい人たちを、モンスターと人間の親しい大切な関係を奪われて溜まるか!
少女の元についたときには、スラりんはボロボロで、スーラが必死に二人の前で戦っていた!
少女は泣いてしまっている!
あんなに優しい子供を!
僕は威勢良くイオラをバトルレックスにぶち当てた!
バトルレックスがよろけながらも大斧を振り回す!
僕は少女の前で身を固めた!
二度切られたが、敵は時機に転んでしまった。
スーラがバトルレックスの片足に体当たりを食らわせたのだ。
スラりんがボロボロの体でスクルトを唱える。
きっとさっきから唱え続けているのだろう。
バトルレックスの大斧はたいした威力だったので二発でも堪えてしまったが、まだまだ戦える。
さらにイオラを当てる!
スーラには下がって少女を守ってもらう。
スラりんがさらにスクルトを!
バトルレックスが起き上がって大斧を振り下ろしたが、もはや痛くはない。
しかし安心したのも束の間、バトルレックスが息を吸い込む。
この位置での息攻撃は危険だ!
少女に当たってしまう!
しかし僕が攻撃するよりも早く、スラりんがメダパニを唱える!
混乱呪文だ。
バトルレックスは見事に混乱して踊りだしてしまった。
炎は曲芸のように天に向かって吐き出している!
僕はイオラをさらに数発唱える!
バトルレックスはとうとう伸びてしまった。
僕達は肩を抱き合って喜んだ。
少女が泣き止むように三人で笑いかける。
しかしスラりんはボロボロなので痛いしかった。
少女はこんなときに笑って居られなかったのだろうが、流石に賢い。
泣き止んでにっこり笑ってお礼を言ってくれた。
スラりんが言う。
「さっきは驚いた顔をしてごめんね。はぐりんが何であろうと、はぐりんははぐりんだよ。」
「ありがとう。ゆるしてくれるかい?」
僕は当然だと答えた。
しばらくすると幾らか傷ついた剣士がやってきた。
美形な顔にも残念ながら血がついている。
バトルレックスの血を被ったのかもしれない。
「はっはっはっ。完璧にマスターしたぜ。ドラゴン切り。」
「次はメタル切りでもマスターするかな?」
少女が嫌な顔をして剣士を眺める。
「冗談さ。小さなお嬢ちゃんを泣かせるほど俺はバカじゃない。」
「それと・・・はぐれメタル、お前は思っていたよりもずっといいモンスターだった。」
「こんなことは言いたくないが・・・俺に見る目が無かった。許せ。」
「余計なお世話かもしれないが、一言いっておくよ。」
「残念ながらお前が忌み嫌われているというのは事実だ。その辛さに耐えられないようならここに永住しちまった方がいい。」
そう言うと、剣士はもう一体のバトルレックスに止めを刺し、去って行った。
僕たちは再び薬草を摘んで家に帰った。
家に帰ったらスラりんの手当てをして、少女の薬作りと食事作りを手伝った。
またおいしいごはんだった。
また居心地の良い会話をした。
でも僕は・・・明日になったらここを出ることを告げた。
今日の出来事が僕に一つの決心をくれたからだ。
僕は今日、みんなに死んで欲しくなかったから必死だった。
その死んで欲しくないって気持ちは飾りっけのない素直な気持ちだった。
あいつらを・・・ゆうぼうを放って置いたらいずれここも襲われてしまうかもしれない。
現に被害が無かったけれど洪水は起きてしまった。
このままではみんな死んでしまう。
そう思うと、不思議と今まで出会った大切な仲間の顔が次々と浮かび上がった。
スタスタはきっと僕を信じて待っていてくれている。
はぐメタだって死んだとは限らない。
例え悲しい結果が待っていようとも、僕一人でも抵抗してやる。
そう決心した。
僕はここに来れて本当に良かった。
旅先ではいつもそう思うんだけどね・・・。
眠った。
次の日になった。
三十一日目の朝だ。
川に流されてから既に一週間が過ぎている。
家を出る僕に少女が何かをくれた。
スーラが言うには彼女の宝物だそうだ。
丸い水晶の様な石。それに紐を通して作ったネックレス。
ちょっと僕には大きいがそれを首に掛けた。
怪我をおしてスラりんが声を掛けてくれる。
「また来るんだよ!」
そしてピキーという鳴き声。
僕も真似てみた。キュルっと言う鳴き声になっちゃったけど。
スーラが笑ってさよならを言った。
「短い間だったけど楽しかった。」
そしてぐるっと回って見せる。
僕も真似てみた。回るのはちゃんとできたみたいだ。
少女が泣きながら手を振って見送ってくれた。
僕はこんなにいい人間が居るとは思って居なかった。
つい涙がこぼれてしまった。
「さようなら!」
僕はそういって走り出した。
僕は何度か後ろを振り向いた。
とうとう彼女たちも見えなくなった。