キャラがゲームで言えなかった本音を語るスレ【その2】
おれが住んでた村が、魔物どもに滅ぼされた。
生き残ったのは、おれだけだ。
両親や幼なじみや剣の先生たちはおれを護って死んでいった。
どうやら、おれは「伝説の勇者」であるらしい。
魔物たちが去っていったあとの村には何も残っていなかった。
焦げ臭い。どうやら村人達はみんな跡形もなく焼き殺されたようだった。
仄かな恋心を抱いていた幼なじみが、よく寝転がっていた花畑に
元の面影はなく、悪臭を放つ毒の沼地になっていた。
ちょっとした丘になっていたそこのてっぺんには、彼女が
大切にしていた羽帽子が、まるで奇跡のように、奇麗なまま落ちていた。
その後の記憶は、ない。
気が付いたら、村を出て、歩いていた。頬が濡れていた。泣いていたらしい。
村の外に出るのは生まれて初めてのことだった。あんなに切望していた
ことがこんな形で実現するとは、なんて皮肉なんだろう。
魔物に対する怒りとか、村を失った悲しみとかは、まだ実感できなかった。
ただ、一人でいるのが嫌でたまらなかった。
魔物は何回か襲ってきた。
どうやって切り抜けたのかは、正直よく覚えてない。
でも、初めて魔物を斬った感触は、この手にまだ残っている。
どれだけ歩いただろうか。
顔をあげると、ブランカの城門が目の前にあった。
幼なじみの羽帽子を握りしめた手が白くなって硬直していた。
城下町で、普通に歩いている人々を見て、ようやく手から力が抜けた。
世間知らずのおれは、そのまま立ち尽くすことしかできなかった。
山奥の村とはあまりに違い過ぎるその風景に圧倒された。
しばらくして、ようやく周りからの不躾な視線に気付いた。
道中何度も転び、また魔物に襲われたおれはボロボロだった。
自覚すると急にみじめな気持ちになった。腹もすいてたまらなかった。
何日間、食べてないんだろう。
せめて、パンのひとかけだけでも欲しい、と
幼なじみの羽帽子を握りしめながら思った。
宿屋についた。カウンターの向こうに座った主人がジロジロとおれを見た。
「金はあるのか」
主人はそう言った。おれは言葉につまった。金なんて、持ってなかった。
お見通しだったのだろう。主人はおれを追い出そうとした。
けれど、腹が減って、疲れ果てたおれに他に行く場所なんてなかった。
主人に縋るように、懇願した。他の客が気味悪そうにおれを見ていた。
ふと、おれの手から、羽帽子が滑り落ちた。
ずっと握りしめていたせいで少し形が崩れたそれを慌てて拾い上げると、
宿屋の主人が、おれの手の中のそれをじっと見ていた。
しばしの沈黙。やがて、主人が口を開いた。
今、おれの手の中には、形の崩れた羽帽子の代わりに、ひとかけのパンがある。
一晩限りのものだけど、暖かい部屋も手に入れた。
明日の朝は、武器を買いにいこうと思っている。
もう、心配することはなにもないのだ。