読みこみ速度を短縮する技術とその周辺の開発裏話について。
こうやって参考資料を出すのも約二ヶ月ぶりか。
今回はファミ通編集部の永田氏による山名・眞島両氏へのロングインタビュー。
山名氏はFC版DQ3(FC)からプログラミングを担当し、
やがてチュンソフトより独立してハートビートを興した人物。
眞島氏はDQ5で助っ人としてCG製作に関与し、
SFC版DQ1・2(SFC)からメインCGデザイナーとして活躍してきた人物。
では、長くなるがひとつ。
永 田 泰 大 の 『 ゲ ー ム の 話 を し よ う 』
さあ『ドラクエVII』です。プログラムディレクション担当の山名学さんと
アートディレクターの眞島真太郎さんにお話をうかがいます。
まずは、という軽い質問から始めたところ、なんだか話は深い方向へ。
大作を作り終えた現場の声。
連載146回目。
今週の話題: つ ぎ へ の 原 動 力
大きな作品を作り終えたあとのリアルな心境。そして、つぎに作り出すための原動力について。
● そ れ が 終 わ っ た 瞬 間 な ん で す よ ●
永田
終わってみて『VII』はどういう感じでしたか?
山名
う―――ん、『VII』は た い へ ん だ っ た なぁ(笑)。
眞島
まぁ終わって、何も言うことがないってことはないんですよ。
何もないと、 つ ぎ が 作 れ な く な っ ち ゃ う んで 。
永田
なるほど。でもまあ終わって落ち着いてきた感じですか?
眞島
今回は内容がもう盛りだくさんですし、正直言って、マスターを入れたって話を聞いても、
まだその 落 ち 着 き き れ な い ってのはありましたね。
だから、『 VII 』が こ こ で 完 全 に 終 わ っ た っ て い う よ う な 意 識 は な か っ た ま ま ですね。
永田
な か っ た ま ま ! 終わった瞬間が訪れないままなんですか。
眞島
う〜ん、ROMの時代ってのはできてから商品として出るまでに1ヶ月くらいあって、
その間に自分の中で整理がついて終われるってのはあったんですけど、
今回はその時間も短かったですし。
永田
そうかそうか。
山名
打ち上げがあったんですよ。マスターあげてしばらくしてから。
で、そこでも な ん か よ く わ か ら な い っていうかね。
「 な ん の 飲 み 会 だ ろ う 」っていう感じで(笑)。
永田
ああー、わからないんだ。
山名
外側は冴えてるんですけど、 内 面 が つ い て こ れ な い んですよね。
永田
ああ、どのモードなのか 混 乱 し た ま ま っていう感じなんだ。
山名
そうそうそうそう。
眞島
マスターが出たっていう現実の状況と、自分の体の回復具合と、
気持ちの問題とが、 同 じ レ ベ ル で そ ろ っ て い な い っていうか。
永田
あああ。
眞島
そういう意味では、ガイドブックの仕事を継続してやってたんですけど、
それが完成してやっとうちに見本誌が届いて、
や っ と そ こ で 気 持 ち 的 に ひ と つ 終 わ っ た か な っていう感じがしてるんです。
それが 昨 日 だ っ た んですね(笑)。
永田
昨日(笑)!
眞島
そこでやっとある程度の線で折り合いがつけられたかな。
永田
それはあの、こういう言いかたするとなんですけども、
苦労して終わって、終わってすら混乱してて、
発売から2ヶ月以上経った昨日やっと折り合いがついたって状態で
「 さ あ つ ぎ だ !」って、 健 康 的 に 進 め る も ん な ん で す か?
眞島
まぁ、そこは一種 別 の 頭 を 作 る し か な い ですね。別の頭を何個か持ってないとツラいですよ。
永田
ああ、混乱しつつもまたモードを増やしていくというか。
眞島
そうですねえ。
永田
つ ぎ へ 進 む 原 動 力 っていうのはなんになるんですか?
山名
あの、つぎに行くときにいちばんいいのは、 じ つ は そ れ が 終 わ っ た 瞬 間 なんですよ。
終わったときって、あーしときゃよかったって残ってるわけですよね。
たとえばプログラマーとしては、作りながら変えざるを得ない部分があって、
「最初からこう作っておけばよかった」っていう部分が何カ所か見えてくるんですよ。
そういうのを い ち ば ん 覚 え て る の が 終 わ っ た 瞬 間 なんで、
だからもうなんというかすぐに作業始めたりできる。
永田
ああ、じゃあ そ れ が つ ぎ へ の 原 動 力 になるわけですか。
山名
そうですねえ。
永田
それでつぎへ進むっていうのもタフな話ですねえ。たとえばスポーツが、
練習して勝ってガッツポーズして「つぎ!」っていう試合単位の回りかたであるとすると、
ゲームはそういう試合単位で区切るんじゃなくてひとつの完成形に向かって上っていって、
とりあえず 終 わ っ て も 下 り る わ け じ ゃ な く 、
ま た ず っ と そ こ か ら 上 っ て い く ような感じなんですかね。
山名
でもスポーツ選手も 勝 っ て 終 わ り じ ゃ な い と思うんですよ。
永田
ああ、なるほどなるほど。
山名
勝ったけど、「いやあ、まだここがどうも」っていうところがあるんじゃないのかなぁ。
永田
そうですねぇ。
山名
たとえば 金 メ ダ ル 取 っ た と し て も 、 反 省 点 は あ る んですよ。
だからもしもストレート勝ちしちゃって、
「今回の『VII』は何も反省点ないじゃん、 も う パ ー フ ェ ク ト だ 」っていう場合、
つ ぎ へ の 原 動 力 っ て 僕 は 生 ま れ な い と 思 う ん で す 。
永田
なるほど。そういえばスポーツ選手でも、一流の選手になるほど、
勝ったつぎの瞬間のインタビューで冷静だったりしますよね。
眞島
うん。あと、スポーツでも、ひとつのシーズンごとのペースとは別に、
こ の 先 10 年 の 自 分 の 選 手 生 活 を 考 え た う え の ペ ー ス 配 分 ってのがありますよね。
だからそういうところでまた頭が違うんだと思うんです。
怒濤の勢いでゴールしたペースをそこでプツッと切ってまたゼロからっていうんでなくて、
今度は自分の今後10年ぐらいのモノ作りのペースを考えて、
そ こ ま で 上 が っ た 技 術 と か テ ン シ ョ ン っ て い う も の を
い か に つ ぎ に つ な げ て い く か っていう部分も重要だと思うんですよね。
永田
そうですね。 だ か ら こ そ 、 で き て も 終 わ れ な い わけですね。
[永田泰大の『よもやま話をしよう』]
もちろんゲームの中にやり残しがあることを肯定するわけではないのです。
ただ、少しでも高みを目指すという作り手の欲望のみが、
混乱の中で唯一わかりやすい拠り所であるということでしょう。
違った言いかたをすると、ゲームを作って出すという過程が
それだけ複雑になっているということなのかも。
(ファミ通626号掲載)
永 田 泰 大 の 『 ゲ ー ム の 話 を し よ う 』
『ドラゴンクエスト』の現場を支える屋台骨、
山名学さんと眞島真太郎さんにお話をうかがっています。
今週は、シリーズ伝統のウインドーの話になりました。
しかし、それはひとくちに伝統的といってくくれるものではないようです。
連載147回目。
今週の話題: ウ イ ン ド ー
シリーズお馴染みのウインドーですが、そこに至るには毎回さまざまな試行錯誤があるとか。
● や っ ぱ り こ れ が ベ ス ト だ ろ う ●
永田
シリーズを重ねると、背負うものもあるでしょうね。
変えなきゃいけないものとか、変えちゃいけないものとか。
山名
よく言われるのが、「あのウインドーはもう古いんじゃない?」っていう話なんですよ。
でも、 な ん ――― ど 考 え 直 し て み て も 、 や っ ぱ あ れ が ベ ス ト !!
永田
(笑)
山名
だからけっきょく変えなかった。でもね、よーく見ると変わってるんですよ。
ファミコンとかスーファミを引っ張り出してやってみれば す ぐ に わ か る 。
永田
なるほど。
山名
前作をやってからあらためて『VII』をやると、「 ぜ ん ぜ ん 違 う !」って
わかってもらえると思いますけど、パッと見は変わらない。
そこに苦労してるんですけどね(笑)。
眞島
今回、ウインドーの打ち合わせをしたとき、 白 地 に 黒 文 字 に し よ う って話まで
はっきりと具体的に出ましたから。
永田
へえ―――。
眞島
シリーズでずっとやってるから、「ウインドーの色なんか別にいいですよね?」で
済んじゃってるように思われてるふしがあるけど、
むしろ「 そ こ ま で 話 す ?」 っ て い う と こ ろ ま で 話し合っちゃうんです。
山名
実際、作りましたしね。
永田
白地に黒?
眞島
そう。それで「ああ、 や っ ぱ り ダ メ だ ね 」とかってね(笑)。
山名
カ ー ソ ル が バ ー に な っ て る のとか、 立 体 で ぐ る ぐ る 回 る やつとか、 木 目 とか(笑)。
いろいろ作ったけど、 け っ き ょ く ど れ も ダ メ !
永田
あははははは。
眞島
これはいらないだろう、ムダなデコレーションだろうっていう話になっちゃって。
けっきょく 必 要 な も の を 残 し て い っ た ら 、まえと同じウインドーに(笑)。
永田
(笑)
眞島
でも、それを 毎 回 や っ て る こ と が 大 事 なんだと思いますよ。
永田
そう思います。
山名
なんか、すったもんだ2ヵ月ぐらいやってたもん、俺。
眞島
やってたねぇ〜(笑)。
山名
で、けっきょく俺の結論としては、 フ ォ ン ト の 質 を 上 げ る 。 以 上 。 終 わ り 。みたいな(笑)。
永田
なるほど(笑)。ウインドーを変えることが進化じゃない、と。
眞島
うん。だからもしも劇的にいいものが生まれて、
しかもそれが『ドラゴンクエスト』にふさわしかったら、そうするかもしれない。
べつにあのウインドーに 意 固 地 に 固 執 し て る わ け じ ゃ な い んですよ。
永田
頑固に伝統を守ってるわけじゃないんだってことですね。
眞島
そう。 毎 回 毎 回 考 え て 、 や っ ぱ り こ れ が ベ ス ト だ ろ う というところで落ち着いてる。
山名
とくにあのゲームはね、じつは コ マ ン ド ゲ ー ム なんだよ。
永田
はぁはぁはぁ、なるほど。
山名
コ マ ン ド 操 作 し て い る と き が い ち ば ん ゲ ー ム なんです。
でも、イベントとかのほうが目立つし、
その部分をもっともゲームらしいと思ってる人がいると思うんですけど、
じつは全部、「 は な す 」 と か っ て コ マ ン ド し て る わけですよね。
永田
そうですね。
山名
話したり調べたりするのも全部。戦闘だってそうです。
みんなが思ってるゲームらしい部分っていうのは
じ つ は す べ て ウ イ ン ド ー を 介 し て や っ て る わけですよ。
永田
だから、 逆 に ウ イ ン ド ー は 意 識 さ れ な い こ と の ほ う が 重 要 だったりするわけですよね。
山名
そうそう。ってなると、ウインドーがいろんな形に主張してくると邪魔になって、
本 当 に 楽 し ん で も ら い た い 部 分 に 悪 影 響 を 及 ぼ す わけです。
それでもまあ、いろいろ作ってみるんですけどね(笑)。
永田
いちおう(笑)。
山名
で、 ダ メ だ っ て こ と を 確 認 し て 、「やっぱこのウインドーだ!」っていう結論に至る。
たぶんつぎの『ドラクエ』でもそうなるんです。
永田
でもまた(いろいろなウインドーを)作ってみるんですよね?
山名
作 っ て み る ん で す よ (笑)。
永田
あははははは。
眞島
だからそういう意味ではね、やっぱりなんていうんだろう、
手 を 動 か す こと を お っ く う が っ た と き に 「 も の 作 り 」 は 落 ち て き ま す よ 。
永田
ああ、なるほど。
既出。市ねカス
眞島
やっぱりやってみないとわからないし、「とりあえずやってみるか」っていう、
フ ッ ト ワ ー ク の 軽 さ がないとダメですよね。
永田
「木目はナシでしょ」ってところで終わらせるわけじゃなくて。
眞島
とりあえず一回やってみて。
山名
一 回 全 部 木 目 に して。
眞島
「 た ぶ ん ダ メ だ と 思 う け ど 」。
永田
あはははははは。
眞島
そういうことは本当によくありますね。
「 た ぶ ん ダ メ だ と 思 う ん で す け ど 、どうスかね?」「うん、 ダ メ だ ね 」ってことは(笑)。
満 場 一 致 で ダ メ で終わるという(笑)。
永田
ある意味で美しいですね。
山名
そういうこと多いですよ。まあ、端から見ると「同じじゃん」って言われるものも、
じ つ は 一 度 絶 対 考 え 直 す っていう。も っ と な ん か あ る か も って思いますからね。
[永田泰大の『よもやま話をしよう』]
ウインドーが開く速さとか、階層の深さなども何度も検討したそうです。
たしかにあのウインドーって、ゲーム中はまったく意識されない。
意識されないように努力するってのもたいへんなのだろうと思う。
個人的な報告ですが、先日『VII』をクリアー。
ファミ通.comで82日間続いたプレイ日記もついに終了。
(ファミ通627号掲載)
永 田 泰 大 の 『 ゲ ー ム の 話 を し よ う 』
『ドラゴンクエストVII』の開発者である山名学さんと眞島真太郎さんにお話をうかがっています。
今週は、僕がぜひ聞きたいと思っていた素朴な疑問をぶつけました。
それは、読み込みの速さ。どういう仕組みなんスか、と素人っぽく。
連載148回目。
今週の話題: 読 み 込 み 時 間 (1)
なぜ読み込み時間が短いのか。今週はプログラマーの立場から山名さんに語っていただきます。
● ま ず 、 頭 出 し を し な い こ と ●
永田
読 み 込 み 時 間 の 短 さ にかなり驚いたんですが。
山名
ああ、結果としてああなったんですよね。
なんていうのかな、非常に 基 本 に 忠 実 に 作 っ た つもりなんですよね。
永田
ふ――ん。
山名
ただ、意外にそこまでやってるゲームが、まあ、あるんでしょうけど、少なかったっていう。
永田
そういう感じですか(笑)。
眞島
ていうか本来「NOW LOADING」って文字が出てる時間って、 な く て い い 時 間 ですから。
な く て い い 時 間 は 可 能 な 限 り な い ほ う が い い ですよね。
山名
ゼロにはならないから、限りなくゼロにしたいって思って。
永田
なるほどなるほど。でも、その、 ぶ っ ち ゃ け た 話 、言うほど簡単じゃないんでしょう(笑)?
山名
い や ー 、 え ら い 難 し か っ た 。
永田
ですよねぇ(笑)。あれってその、非常にバカな質問で恐縮ですけど、 ど う や っ て る ん で す か ?
一同
(笑)
山名
いや、簡単ですよ。まず、 頭 出 し を し な い こと。
永田
頭出しをしない?
山名
CDって頭出しするでしょ?
永田
はい。
山名
たとえば、ふつうの音楽CDだと、何曲目にこれがあるってときに、
キューンって頭出しをする。そして曲のデータを読みとる。
永田
うんうんうん。
山名
なんだけど、ゲームの場合はそううまくいかない。
絵 の デ ー タ もあって、 プ ロ グ ラ ム もあって、 シ ナ リ オ の デ ー タ もあって、
付随しているものがいっぱいある。
永田
はいはいはい。
山名
たとえば、お城があるマップに来たとき、まずお城の絵を読みましょう、つって
CDの中でお城の絵の入ってる部分をキューンと頭出しするわけですよ。
で、つぎにここに必要なプログラムは何?ってまたキューンって頭出しする。
つぎにシナリオを頭出しする。となると、
読 む べ き も の が 5 種 類 あ れ ば 5 回 も 頭 出 し す る わけです。
永田
捜しに行く作業を。
山名
そうそう。じつは C D は そ の 作 業 に 時 間 が か か る んですよ。
眞島
物理的な時間ですから。
山名
非常にアナログなんですよ。CDってレコードと同じなんで。螺旋構造になってますから。
永田
はぁーはあはあはあ( 不 安 )。
山名
こう、きれいに同心円状に並んでるんじゃなくて、ミクロで見ると斜めになってるんですね。
永田
ああ、ああ( わ か っ て な い )。
山名
だからレンズがどっちのラインに照準を合わせていいかっていうのに迷うわけなんですよ。
永田
……はい( あ と で 考 え よ う )。
山名
あと、C D の 内 側 と 外 側 っ て 読 む と き の 回 転 数 が 違 う んですよ。
永田
へええ(ここは理解)。どこを読むかで変わるわけですか?
山名
そう。だから内側と外側を行ったり来たりして捜してるうちに、
モ ー タ ー の 回 転 が 変 わ る んですよ。
そうすると物理的な問題が起こるんです。 慣 性 の 法 則 ですね。
たとえば分速1000回転で回ってるときに急に2000回転になったとき、
慣性があるから 安 定 す る ま で に 時 間 が か か る わけですよ。
たとえばそれが5回も起こったら――。
永田
う ん 、 そ れ は 遅 い !!
山名
絶 対 遅 い 。だから1回にしたい。1回はしなきゃいけない。
永田
1 回 は し な き ゃ い け な い !
山名
だから、 頭 出 し を し な い 。
永田
し、しない? つまり捜しに行く作業をさせないように、配置するってことですか( 不 安 )?
山名
そんな感じです。データをまとめて読むと同時に、
データの種類を見て 適 切 な 場 所 に 収 め て い く 感じかな。
マルチでやってるというか。そういう仕組みが必要。
永田
はあ(なんとなく)。
山名
あとは簡単なところでいうと、 デ ー タ を 短 く すればいい。
永田
はいはい( こ れ は わ か る )。
山名
圧 縮 したデータを読み取って、それを 解 凍 するようにすれば 時 間 は 半 分 で済みますよね。
永田
なるほど(理解)!
山名
このふたつですよ基本的に。そんなに難しいことじゃない。
永田
でもやってるゲームは少ないわけですよね。それはなぜ?
山名
じつはそれをやるためには C D の 盤 面 上 の ど こ に デ ー タ を 配 置 す る か っていうのを
自動化しなきゃいけないんですよね。
永田
はあはあはあ( ま た 不 安 )。
山名
『VII』だけで何万ってファイルがあるんですよ。
それを自動化するには、ゲームの開発に入るまえに、
作 ら れ る ファ イ ル が 自 動 的 に C D の 最 適 な 場 所 に
配 置 さ れ る よ う に し な き ゃ な ら な い 。
使用頻度の高いものは読みやすい場所に置かれるように。
つまり、そのCDのデータを構築するための仕組みが最初に必要なんです。
となると、CDのデータそのものよりも――。
永田
(おそるおそる)どっちかというと 工 場 の 問 題 っていうか?
山名
うーん、どちらかっていうと工場に出すマスターディスクの再構築自動化の問題ですね。
永田
なるほどぉ( 漠 然 と 理 解 )。
[永田泰大の『よもやま話をしよう』]
ええと、なんとなくわかりましたよね?
つまりCDに書き込む作業まで配慮しないと、あそこまで速くならないということらしい。
素人まるだしの僕に親切に説明してくれた山名さんに感謝。
来週はこの話を受けて眞島さんに語っていただきます。
読み込み時間短縮を目指すアートディレクターの極意。
(ファミ通628号掲載)
永 田 泰 大 の 『 ゲ ー ム の 話 を し よ う 』
『ドラゴンクエストVII』の読み込み時間の短さについて、
今週はアートディレクション担当の眞島真太郎さんの話をメインにお届けします。
もちろん話はそこにとどまらず広がっていきます。
いつの間にやら連載3周年。21世紀もよろしく。
149回目。
今週の話題: 読 み 込 み 時 間 (2)
なぜ読み込み時間が短いのか。今週はグラフィック担当の立場から語っていただきましょう。
● そ こ に 作 り た い も の が あ る ん だ か ら ●
永田
読み込み時間を短くすることは、 グ ラ フ ィ ッ ク の 制 限 にはなりませんか?
眞島
もちろんなります。けれど、いくらすごいグラフィックでも、
それを読み込むたびに何秒も待たされるのでは、 ゲ ー ム と し て ま ず だ め だ ろ う と。
永田
ああ、個々のグラフィックがどうこう言う以前に。
眞島
うん。だから町のCGも、全力を尽くして小さい容量にしました。
感覚的にも、『ドラクエ』はやっぱり 歩 い て 移 動 す る ゲ ー ム なんです。
空間を省略するんじゃなく魔王がいる場所まで歩いてたどり着くのだから、
全 部 陸 続 き だ と 感 じ さ せ た い 。そうなると、
やはり 読 み 込 み 時 間 を な く す 、 ア ク セ ス 数 を 減 ら す ことが答えなんです。
永田
なるほど。
眞島
だから1回で読み込む量の中に可能なかぎり町のすべての要素を盛り込むことが必要になる。
そうすると、テクスチャーは 16 色 と い う 少 な い 色 数 で押さえて、
しかも『ドラクエ』ならではの質感を出す工夫をしなければいけない。
永田
ストレスは感じませんか?
眞島
いや、むしろやりがいあります。マシンのスペックにこだわって
「 フ ル カ ラ ー じ ゃ な き ゃ 」 み た い な 作 り か た は 好 き じ ゃ な い です。
永田
なるほど。
眞島
だからたとえばゲーム業界が衰退していって、大手メーカーも撤退して、
マシンが8ビットの白黒2階調に逆戻りしちゃって、
「『ドラクエ』どうします?」って言われたら、 僕 は 2 色 で 作 り ま す よ 。
2色でもいい絵は描けるはずだし。
永田
……なるほど。
眞島
2色なら2色でいいんです。 そ こ に 作 り た い も の が あ る ん だ か ら 、
そ れ を そ の 色 数 で ど こ ま で で き る か っていう問題だと思うんです。
ただ問題は、16 色 で 描 け る 人 が い ま 意 外 と い な い んですよ。
永田
あぁー。
眞島
写真を撮り込んで16色に変換したりすると、質が低いくせに容量を食うんです。
少 な い 色 数 に な る ほ ど 人 の 手 を 動 か し て 作 る ほ う が 、 色 数 が 制 御 で き る 。
16色でそれらしく描けて、かつ4色ぐらい色の空きができたりするんです。
永田
なるほどなるほど。
眞島
そういう空きがあれば変更があったときの保険になりますし。
描きたいだけ描いてプログラマーに「あとよろしく」っていうふうにしたら
ゲ ー ム 作 り は 崩 壊 し ち ゃ う 。
永田
開発に携わる全員が、 作 る ゲ ー ム の 目 指 す 地 点 を 知 っ て な い と 、
ばらばらになっちゃうという。
眞島
そうですね。まあ当然、同じ内容のものを小さく作るとなると時間はかかりますけど。
だから、 地 道 で す よ !! ひ じ ょ ―― に っ !!
永田
あははははは。
山名
プログラマーとしては最初にまず、「 16 色 で 描 い て ほ し い な ぁ 」と思うんです(笑)。
永田
はい(笑)。
山名
16色で描くとなると、描ける人が少なくなって難しくなるってのは わ か っ て る 。
でも16色で描けば で き る こ と が い ろ い ろ 増 え る 。
永田
ゲームとしては。
山名
もちろん256色を使っていい場合も当然あって、
そういう場合はなんならフルカラーで描いてもいいんですよ。
ただそれによって、完成するゲームにどういう影響があるかっていうことを、
意 識 し て る か し て な い か で 大 違 い なんです。
永田
なるほど。
山名
効果的な場所で描き込むのはぜんぜんオーケーだし、オーケーなように作っておきます。
ただ、「 全 部 そ れ で い く の ? 」って話で。
永田
せめぎ合いですね。
山名
せ め ぎ 合 い 。
眞島
ホントそうです。意地を張り合うようなものではなく、
必 然 性 の あ る 詰 め の 作 業 でのせめぎ合い。ただ、それ以前の段階として、
やっぱり 不 必 要 に 重 い も の は 必 要 な い っていう認識はありますね。
永田
それは、1枚目の絵を描くときすでにきちんと頭の中に。
眞島
うん、ずーっとありますね。
山名
よくできてるゲームは結果的に
16 だ と か 256 だ と か っ て い う こ と に 関 係 な く う ま く で き て ま す よ。
まとまってるし、結果、お客さんには16色だなんてのはわかんない。
永田
そうかもしれませんね。
山名
やっぱり描ける人と、そのよさが理解できるプログラマーが作っているゲームは見栄えもいいし、
絵 だ け じ ゃ な く て 本 当 に ゲ ー ム の 内 容 が 遊 べ る よ う に な っ て る 。
永田
そう考えるとやっぱりひとりでは難しいですね。相互に理解し合える人たちが集まってないと。
眞島
ただ、力のあるアクの強いやつらが
み ん な で 民 主 的 な こ と を 言 っ て た ら 進 ま な い ってとこもあってそこが難しい。
足してならしたときに平均50なんだけど、それが全部50の人がそろってる50なのか、
100の部分もあって0の部分もあって、ならして50なのかっていう違いってあるじゃないですか。
永田
うんうんうん。
眞島
やっぱり 強 い 主 張 を 強 い 主 張 で ま と め て 、
調 整 し 合 っ た 50 みたいなところが必要ですよね。
[永田泰大の『よもやま話をしよう』]
話は読み込み時間の短縮というテーマにとどまらず、
おふたりの姿勢がにじみ出るような展開となりました。
そしておふたりともつぎの会議の予定時間となってしまいタイムリミット。
ご多忙中すいませんでした。さて、連載開始から3年ですよ。
当初、3年継続は夢のような目標だったのに。少し感慨深い。
(ファミ通630号掲載)