爆撃も治まったらしいので久し振りに投稿など。
要望もありましたので途中で止めてたシュウの試験の続きです。
リハビリ?として書きましたがやっぱり8の話の勘が戻ってないです。
前の部分は
>>12-21です
蹴飛ばされた男が別の男を巻き込んで階段を転げ落ちた。
シュウは手すりから手を離した。
体が宙に投げ出される。
「レビテト」
シュウがかすかに呟いた。
言葉に出す必要はないが時として詠唱は意識を集中するより早く体が反応して魔力を放つ。
シュウの体が軽くなる。
そのまま階段の吹きぬけを3フロア分落下しながらさっき投げ出した槍を受け止め、もう一方の手で手すりを掴んだ。
ふわり、と風に舞う花びらのようにシュウは再び階段に着地した。
着地点を狙って攻撃を受ける。
シュウはにやり、と唇の端を上げると槍で相手の腕を叩きのめす。
次の瞬間にはまたシュウは空中にいた。
壁を蹴る。
その反動でまた高く舞い上がる。
腰を中心にくるり、と足を上げる。
まるで見えない鉄棒で逆上がりするように回ると、シュウは敵の一人の頭の上に着地した。
男が倒れる前に次の攻撃を避ける。
1階に降りるまでに一人でも多く潰しておきたかった。
「責任者はどこよ……」
シュウは舌打ちしながら敵に回し蹴りを叩きこんだ。
来るのは雑魚ばかりだった。
そろそろ倒した敵の数が分隊二つ(ここでは1分隊8名)になった辺りで明らかに格が違う相手が現れた。
「やっと来た……」
シュウは少しも怯む事なく槍を構えた。
「SeeD……学生の傭兵部隊だな」
戦場に不相応な年若い、しかも強い娘を前にしてその男は言った。
シュウは答えなかった。
「後五年もすればいい女になれたろうに」
男はショートソードを両手持ちで構えた。
この世界で上級兵士の接近戦では拳銃は役に立たなかった。
大抵そういう人間は何らかの方法でプロテスを装備して弾丸の威力を殺す技術を持っているからだ。
実際この男とシュウもプロテスを張っていた。
力技でプロテスの防護を破るとしたら明らかにシュウが不利だった。
ショートソードが迷いなくシュウの上に振り下ろされる。
今までの兵士はシュウの素早さと、そしてなにより少女である事に惑わされてまともに戦えなかった。
この男は違った。
シュウは間一髪でそれを避けると男の手を蹴った。
殺さずに、目的を聞き出したかった。
しかしそれはあっさりガードされた。
G.F.を召喚するべきかどうかシュウは迷った。
しかしこの状態では建物に被害を出さないで召喚できる余裕がなかった。
ショートソードを槍で受けて続けているうちに腕が疲れてきた。
早く勝負をつけないと、やられる。
それは初めて感じた焦りだった。
シュウは左手に意識を集中した。
それはほんの一瞬だった。
相手の斬撃をぎりぎりにかわし、シュウの手から雷撃が放たれ、相手の頭上に雷が落ちた。
命を絶つほどではない、しかし十分に相手の隙を作れた。
シュウの手から繰り出された槍が相手の体に刺さった。
「答えなさい」
シュウは冷然と言った。
「このビルでのあんた達の目的は何」
男は槍を体から抜こうとした。
「答えれば抜いてあげるわ」
男がわずかに口を開きかけた時だった。
銃弾がシュウの目前の男の背に浴びせられた。
その内数発が体を突き抜け、シュウの体を傷つけた。
「な、に……?」
幸いそれは肩をかすっただけだった。
いくら秘密を守秘するためとはいえ、仲間をこうも簡単に殺すなんて。
シュウは軽い衝撃を受けて、撃った男を見た。
男は無表情に銃を構えたまま、今度はシュウを狙おうとした。
とっさに、すぐそばの廊下へと駆け込んだ。
男達が追ってくる。
シュウは再度壁を蹴って飛んだ。
幸いまだレビテトは効いていた。
壁から飛ぶ前に一人の頭をボールのように蹴って宙に逃れる。
落ちながら追って来た男達の一人の頭を蹴って再び宙に戻ると槍でも二人斬った。
同時に足で一人蹴る。
頭から先に落ちそうになってとっさに槍を床に突き、それを支点して足を背に向けて折った倒立姿勢から
伸び上がりながら最後にもう一人。
シュウが再び床に足を付けるまでに6人の男が倒れた。
さすがに息が乱れた。
シュウは倒れた男を見て違和感を覚えた。
なんとなくユニフォームのサイズが合っていない感じがしたのだ。
ドッグタグをひっくり返してそれは確信に変わった。
「そういう事なの……」
シュウは再び今来た道を駆け上がった。
「撤退するわよ!!」
息を切らせながら叫んだシュウにサラとベルナールは驚いた。
「何があったの?」
サラがシュウの肩の傷に気付いてケアルをかけた。
「私達が戦っているのはたぶん『テロリスト』じゃないのよ」
シュウがはぁはぁと息をつく。
「どういう事だ?」
ベルナールがシュウの言葉に倒して縛り上げた兵隊を見た。
シュウは倒れている男のドックタグを引っ張った。
「生年月日が合わないの。テロリストは特殊部隊の人間よね。それなら
あまり若かかったり年を取っていてはおかしいでしょ?」
特殊な任務を実行するのにはある程度の経験と体の俊敏さが必要だった。
「大抵20代半ばから30代までよね。下で倒した男はどう見ても30代後半なのに、タグだと25歳なの」
タグは戦闘時において血液型や、時として身元の判別に使われる。
普通は就寝時も外さないし、他人の者と間違える事はありえない。
「よく見て。たぶん、特殊部隊の別動部隊が他の人間とすり変わったんだと思うのよ」
ベルナールが意識を失った男を数人確認して回った。
「とてもじゃないけれど普通ならこんな風に確認できるようなはずないから、そこまではこだわらなかったんでしょうね。
「そうか、それでわかった」
ベルナールが納得したように呟いた。
「何が?」
「爆弾の意味さ。ここが爆破されたら堂々と乗り込んで来れる人間がいる」
サラの問いにベルナールは苦い笑みを浮かべた。
「この場所の近くに、ガルバディア大使館があったはずだ。そんな所で州兵による爆破テロがあってみなよ。
ウィルディア市だけじゃなくウィルバーン自治州全体がガルバディアに対して反意があるとみなして
武力行使できるいい口実じゃないか」
そういう事であればガルバディア軍やガルバディア・ガーデンの対応が曖昧なのも頷ける。
後で問題になれば自治を認めている地区に軍隊を派遣するのはどうかと審議していたとでも言い逃れできる。
「そういう時だけは遠慮がちなのね」
サラが呆れたように呟いた。
「とにかく、これ以上は私達が首を突っ込むのはまずいわ」
シュウが本部に有線連絡するため、受話器を取り上げた。
その時だった。
普通の通話とは明らかに異なる発信音がした。
「え?」
シュウが戸惑った瞬間、ベルナールが反応した。
「シュウ、どいて!!」
電話の据えられたコンソールのカバーをベルナールが叩き割るように開いた。
「やられた……!!」
ベルナールは額を手で覆った。
「小型爆弾だ」
シュウは一瞬頭が真っ白になった。
その隙にベルナールは爆弾を調べ始めた。
「なるほど。本命のセットが間に合わなかった時はこいつで誘爆させるって事か」
「構造的にはどう、ばらせる?」
シュウは自分の迂闊さを呪った。
「電池はリチウムじゃないし、サーモセンサーのない単純な奴だから液体窒素があれば……」
当然、そんな物はなかった。
「二人とも、冷気魔法持ってる?」
サラが思いついたように言った。
「ブリザラなら」
「僕も」
「悪いけど、こっちに頂戴」
サラが言うが早いかドローのために意識を集中した。
G.F.をジャンクションする事によって身につけられる一種のエナジー・ドレイン能力だ。
二人は頷いて精神領域を解放する。
サラは二人から冷気エネルギーを受け取るとしばらく意識を集中していた。
やがてサラの手から、かなり強い冷気が噴出した。
手から放たれた冷気は爆弾を完全に凍らせた。
こうしてしまえば電池が低温によって科学反応起が鈍り、爆回路を作動させる事が出来なくなる。
「今のうちにばらして」
サラの言葉にベルナールは軽く口笛を吹くとポケットから手袋と簡易ツールを出して解体にかかった。
「終わり」
ベルナールが雷管を引き抜いてようやくその場に安堵が訪れた。
「でも、気付いて良かったよ。遠隔操作も出来るタイプだったからうかうかしてたら帰り際に大爆発だったかも」
ベルナールがシュウを慰めるように言った。
「ありがと」
シュウは軽くため息をついた。
「それにしても、この事件、どうやって落とし前つけるのかしら」
サラが呟く。
会話記録を取られている事はそろそろ忘れかけていた。
「さあね。『SeeDは何故と問うなかれ』だもの」
シュウは立ち上がった。
「撤退します」
その言葉に二人は敬礼で応えた。
三人が撤退を決めてすぐ、ガーデン本隊からの応援部隊が来た。
本隊もシュウ達と同じく異変に気付き、クライアントとの迅速な審議の結果秘密に収束させるべく隠蔽工作にかかった。
テロリスト自体は対話のためにビルを占拠しただけでまだ誰一人殺してはいなかった。
シュウ達がいたビルの一室に、人数が合わなかった『テロリスト』のメンバーが重傷を負った状態で監禁されているのが
見つかった。本隊とは別に行動して合流前に攻撃を受けたらしい。
爆破工作しようとしていたメンバーは傭兵で、決して雇い主が誰か、口を割らなかった。
むしろ、州当局はそこまで尋問しなかったというのが正しい。
シュウに知らされたのは、シュウの目の前で撃ち殺された男が『テロリスト』の情報をどこかにリークした人物で、
今回の騒動の首謀者の部下だったという事だけだった。
「結局なんだったのかしら」
サラは学食から買ったコーヒーを片手にシュウに言った。
事件が事件だっただけに事後処理が大変で、いつもならすぐに発表される試験結果がまだ出ていなかった。
「状況から推測すると自治州がガに干渉受けてるのにしびれ切らしたお馬鹿が騒ぎ起こしたはいいけど、
首謀者の下の万年bQがガ軍に情報リークしてたって事でしょ?出なきゃ、間に合わせとはいえ偽装用に
傭兵の人数分特殊部隊の衣装なんか用意できないって」
シュウの中では今回の事件は完全にガルバディアの干渉があったという事になっている。
あのビルにいた『テロリスト』は実際の人数より沢山いたのだ。
そうでもないと説明がつかない。
SeeDは依頼に対して質問はできないし、しない。
「でも、私達まだSeeDじゃないもんね」
サラがくすっと笑った。
「シュウって案外へ理屈多いよね」
「そういえばサラ、なんであの時ブリザガ使えたの?」
SeeD候補生で上級魔法を使える、というより入手している生徒は少ない。
確かサラも試験直前は使えなかったはずだ。
「ああ、あれ」
サラは笑った。
「私、今回の試験で『C−8』を割り当てられてたの」
そのコードネームで呼ばれているのは氷の女王の姿をした冷気属性のG.F.だった。
取り扱いが難しいとされ、以前使用していたSeeDがガーデンを去って以来固定で使用している者がいない。
「あのG.F.、冷気魔法のエネルギーを集めて上級魔法に精製する能力があるらしいの。
あれのお陰で助かったんだけど、測定結果として相性は今イチだったからもう外されたけれどね」