その声を聞いてもエドガーからの返答はなかった。
かわりに、部屋中に散らばった紙片を全て集めた束をそっとテーブルに戻すと、
横に置かれた椅子に腰掛け、改めて手にしたいくつかの絵を眺めた。
不意にぽつりと、聞こえるか聞こえないか分からない様な小さな呟きを漏らす。
「彼は……生きてるんだ」
エドガーの言葉にリルムは弾かれたように顔を上げ、続く言葉に期待を込めた視線を向ける。
「この中に」
視線を紙に落としたままエドガーは告げた――それは瓦礫の塔で描かれた、最後のシャドウの姿。
「……絵じゃん」
裏切られた期待に、落胆の色を隠さずリルムが呟く。
「そう。だけどこの中でシャドウは生き続けている――リルムの思いが込められ
たこの絵の中で、いつまでも」
そして彼と旅路を共にし、この絵を目にした自分たちの中にも。
「あたしが望んでたのは……そんなんじゃ……ないもん」
込み上げてくる気持ちを押し殺そうとして、よけいに声が震える。
膝の上に乗せた両手の拳をぎゅっと握りしめ、揺れる視界の中でリルムは天井を見上げた。
「リルム」
「なん……で? あ……たし達……が」
――一緒に帰ろうって、約束したワケじゃないけどさ。
「……残して……いっ」
――だって、悲しいじゃん。
思うことはたくさんある。心が痛い。
それが言葉にならない。溢れてくるのは涙ばかりで。
――やっぱりダメだ。今は……。
「ゴメン……出てってよ」
――こんな姿、誰にも見られたくないから。
嗚咽を堪えてようやく紡がれたその言葉に、エドガーは苦笑する。
「……すまなかったね」
いつもの口調で言うと、彼は席を立った。