クリフトとアリーナの想いは その2

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彼らが一つの洞窟を抜け、外に出るとそこには一面の銀世界が広がっていた。
思えばここに来るまで様々な苦悩があった。
殺された幼馴染、滅ぼされた王国、愛弟子に殺された父親。
旅を続けてきた中でこの痛みが癒えることはなかった。
敵を討つことの虚しさを覚えた。悲しさを覚えた。
でも、楽しいこともあった。この汚れ一つ無い大自然の雪原を見ているとまさにそのことが思い出されるようだった。
その絶景は馬車外で戦ってきた4人にのみ与えられた。
聖職者の村に突然出来た穴。その奥にあったのがこの雪原だ。
この雪原がどこにいくかはわからなかった。それでも雪原には珍しい快晴の青空。
目的はすぐに見つかりそうな気がした。

「わーっ、綺麗」
洞窟の外の世界、すなわち光の世界では決して見られることのない絶景を目の当たりにして立ち尽くす四人の中、アリーナという名の少女が口を開いた。
その隣にいたアリーナの付き人、聖職者であるクリフトがこう返した。
「光の世界ではこのような雪は滅多に見られません。雪原では同じ風景が続くので遭難しやすいので気をつけましょう。」
この男は今のように真面目に発言することもあるのだがたまに変なことも口走るので困る。
この前もアリーナがいない時一人でどこから持ってきたかも分からないアリーナのプロマイドをじっと眺めていた。
それを偶然部屋に入ってきた旅の仲間に見られた時のクリフトのリアクションはおかしくてたまらなかった。
クリフトは一国の王女であり、世界一の旅の武道家でもあるアリーナを慕っていた。
たまにそのようなこともするが、相手の反応も悪くは無い。
端から見ても気持ちの良いカップルと呼べるのではないだろうか。

しばらくして、彼らのリーダー各であろう「天空の勇者」と呼ばれる男が声をかけた。
アリーナ、クリフト、そして共に旅をしてきた仲間の戦士・ライアンは仕度を終え、雪原をすすんだ。
908名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/24 23:51:30 ID:65b1ESz/
しばらくして、雪が降り始めた。
それは徐々に勢いを増してまたたく間に吹雪へと変わった。
アリーナが無意識のうちに自分の腕を抱え、自分を暖める動作をした。
洞窟の向こうにこんな世界があるなんて思いもしなかったから誰も防寒対策はしていない。
特に、寒いのが大の苦手であるアリーナにとってこの格好は耐えられなかった。
そんなアリーナの様子を見ていたクリフトは自分が着ていた神官着をアリーナに渡した。
「あっ、ありがとう」
ぎこちなく礼を言うとアリーナは暖かいそれを羽織った。
アリーナのそんな動作を見て、勇者は歩く速さを上げた。
軽装のアリーナはもちろん、クリフトも寒さを感じてきた。
重装備の勇者とライアンはあまり寒さを感じなかったが、吐く息が白くなるのを見ると相当寒いのだろう、と思った。
会話が絶える中、そいつは表れた。

彼らの前に現れた怪物が大きなこんぼうをこちらに振り回してきた。
勢いよく振り回されるそれがアリーナの体にぶつかる。
倒れるアリーナをその化け物がひょいとつまみあげると遠くへ思い切り投げ飛ばした。
飛んでいくアリーナの悲鳴を聞くとクリフトはアリーナの体を目で追うようにして一目散に走っていった。
クリフトの頭はすでにアリーナの身の安全でいっぱいでさっき言ったことなど忘れていた。
その内吹雪はさらに勢いを増し、クリフトとアリーナの体を冷やしていった。
勇者達は悪天候の中、なんとかその怪物に勝利し、炎の呪文で日を作ると二人を探しに出た。
909名前が無い@ただの名無しのようだ:05/01/25 00:08:33 ID:qUTrPedb
「姫様!」
クリフトが雪原の真ん中で吹雪に打たれているアリーナを見つけると呼びかけた。
アリーナの返事は無かった。クリフトが顔を近づけると顔が赤くなり、息が荒くなっていることを感じた。
危険を察したクリフトはすぐに回復呪文をかけたが、熱は下がらなかった。

「ク・・・リフト」
困惑しているクリフトにアリーナのかすかな小声がかかった。
「どうなされたのですか?私はここにいます。」
クリフトが泣き喚きながらアリーナに話しかけるとアリーナも声を振り絞って「寒い」と答えた。
わかっていたことだが、改めてそう言われるとさらにクリフトは慌てた。
しかし、落ち着きを取り戻してからクリフトは勇者の元へ合流しようと考え、
「失礼します」と言い放ってからアリーナを抱きかかえた。
クリフトに抱きしめられるとアリーナはクリフトの腕に抱きついていった。

女性の免疫が無い、ましてやその女性がずっと前から想っていた少女なのだからクリフトは気が気でなかった。
「クリフトの体、暖かいよ」
そんなことを言われてクリフトは熱があるアリーナに負けないぐらい顔が赤くなった。
歩くスピード上げると、いつか勇者とめぐり会った。
事情を話すと勇者はリレミトの呪文を唱えてくれた。

こうして雪山での冒険は幕を閉じた。
アリーナの体調が戻ったらまた行くそうだ。
アリーナは皆と顔を合わせると申し訳なさそうに頭を下げたがすぐに薬を飲み、ベッドで安静にした。

クリフトはというと、アリーナを抱きかかえた時の感触が忘れられなく、アリーナの前ではずっとうつむいていた。

続く?