クリフトとアリーナの想いは その2

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町での用事を済ませて、馬車に帰る道の途中。
久しぶりの2人の時間と、綺麗な夕焼けにはしゃいでいた私は
足場の悪い土手を斜めに行ったり来たりして、道草しながら歩いていた。
「危ないですよ」
上からクリフトが注意を呼びかけてくる。
「へーき、へーき!…あっ」
勢いよく踏み出した足が、伸び放題の草に取られて滑った。
「うわわっ」
バランスを崩した体勢を立て直そうと、闇雲に腕を振り回してみたって
慌てた手は虚しく空を掴むだけ。転ぶ、と目をつぶりそうになった瞬間だった。
見慣れた黒手袋が私の腰に回されて、後ろから抱きとめられた。
…私が転ぶのなんて、どうせ彼にはお見通しだったんだろう。
クリフトの落ち着いた行動が、私の悪戯心に火をつけた。
大丈夫ですか、と言う彼を無視して、後ろにぐい、と背伸びするように体重をかける。
「う、わ!?」
そのまま倒れていく背中から小さな悲鳴が聞こえた。
クリフトは私の下敷きになって、私に両の手を回した格好のまま尻餅をついてしまった。
受け身を取れなかったから、痛かったろう。…ちょっとやりすぎたかな。
私は彼の怒った顔を想像しながら、おそるおそる振り返った。
291タイトル無し2/3:03/07/28 21:26 ID:yyopHhD7
「ーーだから言ったじゃないですか」
クリフトは怒っているというより、言う事をきかない私に呆れたといった様子で
小さくため息をついた。
いつもそう、彼は滅多に本気で怒らない(小言はしょっちゅうだけども)。
というより、感情をストレートに出そうとしない。
だけど私を見つめる碧の瞳は、どんな詩人の言葉より雄弁に『愛してる』を語りかける。
照れくさくなった私は、彼の瞳の中の自分から顔を背けて
この甘い空気から逃れるように戯けて言った。
「ため息をついたら幸せが逃げちゃうよ」
「ため息が追いつかないくらい幸せだからいいんですよ」
そう言って、彼は私の頬を優しく撫でた。
「!」
心臓が高鳴る。どきどきしながら睫毛を伏せた私に、彼はしれっと言った。
「草がついてました」
「あ、そ!」
不機嫌な声を出しても、彼は優しい瞳をこちらに向けたまま。
なんだかムシャクシャして立ち上がり、クリフトを置いたまま土手を駆け上がった。
顔が熱いのは、夕焼けに照らされたせいだけじゃないだろう。
憎たらしい男!
292タイトル無し3/3:03/07/28 21:27 ID:yyopHhD7
いつのまにかクリフトは私の隣に立っていて、服についた土埃や草を払っている。
汚れてしまった手袋を外している姿を見ると、さすがに申し訳なくなってきた。
「服とか、汚れちゃったね」
「あなたといるとね、慣れっこですよ」
ーー前言撤回。ふん、と私は鼻を鳴らした。
でも、私だって彼をどきどきさせることが出来る。
私は彼に手を差し出した。
「クリフト、帰ろう!」
彼は躊躇した。いつものように黒手袋をしていないから。
そんなクリフトに、私は更にぐい、と手を突き出す。もちろん極上の笑顔と一緒に。

「…帰りましょうか、ブライ様」
「うん」
私はクリフトの手を、ぎゅっと握った。彼は今、どきどきしてるに違いない。


オワリ