エニクス「ドラゴンクエストへの道」コミックス

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〜エニックスはあくまでも管制塔(コントロール・タワー)として機能する〜

渡辺
ちょうどオリジナル版の『ドラゴンクエスト(1)』が出たころのマニア中心層が今年、大学を卒業する年齢になっています。
『ドラクエ』のようなゲームを作りたいと、ゲーム業界を目指している若者も多いと思います。
どういう人材が現在の業界には必要だと思われますか。

千田
僕自身は、一つの分野で何か優れたものを持っている人に来てもらいたいと思っています。
エニックスでは、毎年10名程度採用しています。
 倍率は高いですけれども、筆記試験はないからチャンスだと思いますよ(笑)。
 ただし、エニックスはゲームの制作部隊を社内に抱えないシステムの会社です。外部のスタッフを組み合わせて
ソフトを制作していく、そしていいものを作った人間には個人としてきちんとペイバックしていく、という方針です。
そこがクリエイターの皆さんに評価されているところなんです。
渡辺
ゲーム業界ではきわめて珍しいシステムですね。ただ、ハリウッド映画のシステムはすでにそういうふうに進化しています。
昔は映画会社の内部に全ジャンルのクリエイターを抱えていたのが、今は衣装だとか、メイクとか、特撮とか、
専門技術の会社がたくさんあって、映画会社は個々の作品ごとにそういったクリエイターをまとめてチームを作って、
制作配給を進めていく。
 エニックスのシステムは、ゲーム業界の未来を先取りしているように思います。

千田
出版でいえば編集という機能なんです。ドラゴンクエストの世界観をプロデュースする、つまりコントロール・タワーとして機能していく、
それが他のメーカーとの違いでしょうね。
 ですからエニックス・ゲームスクールというのもありますけれども、その設立目的は優秀な人材をエニックスで
独占することではありません。エニックス周辺のソフトハウスに、いい人材を供給するために機能していけばいいと思っています。
 ソフトの容量が大きくなるのに伴って、ゲームの制作体制も爆発的に巨大化しています。そういう現場で戦力となるためには
「プログラム」なり「グラフィック」なり「音楽」なり、どれか一つの分野でいいから、プロとしての専門知識を持っていなくてはならない。
だから、今年からカリキュラムを多少変更しています。専攻コースを決めて、2年制で育てていこうということになりました。
渡辺
『1』に比べて『5』の容量は24倍ですね。作業量もそれだけ増えている。かつて天才少年が1人で大ヒットゲームを
作ったような時代はおしまい、ということですね。ゲーム制作は大人数のチームワークになっていく……。

千田
昔と違って今のゲーム制作は、何十人が1年以上かけてコツコツやっていく作業ですから。そして最も人材が必要な分野は、
グラフィックです。ハードが進化するのに合わせて、今後グラフィッカーの重要性が上がっていくと考えます。

渡辺
『ドラゴンクエスト5』では、クリエイターとしてこれまでのゲームデザイナー、プログラマー、音楽に加えて
グラフィッカーの方を立てていらっしゃいましたね。

千田
そうです。ドラクエの世界観を表現する要素としていちばん大切になってきているのがグラフィックです。それもただ色数を増やし、
描きこむだけではなく、ゲーム的なデフォルメが重要なんですね。そこで卓越した感性が必要とされるわけです。
 また、現場の作業としてもこの部分の制作量が、いちばん増えてきています。人手も必要なのです。
なにがなんでもゲームのクリエイティブ現場に入りたい、という人にもお薦めです。まあ、非常に入りやすい領域ではありますよ(笑)。

(続く)