エニクス「ドラゴンクエストへの道」コミックス

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〜シンプルさ、ストレートさに『ドラクエ』の魅力が〜

渡辺
『ドラゴンクエストシリーズ』の、作品としての特性はどこにあると思いますか。

千田
『ドラクエ』は、「愛と正義が大切だ」とか「コツコツ努力すればいつか報われる」という真理を単純に、はっきりと打ち出したソフトです。
あれほどストレートでケレン味のない勧善懲悪ものはない。
 昔は、本にしても映画にしてもこういうものは結構あったはずなんです。でも、メディアが進化することによって
それらが消え失せていった。そういったことを主張することがどうも照れくさくなってしまったんですね。
どこかヒネッたものを作ってしまう傾向があった。
 ゲームという新しいメディアを使いながら、あえてその原点に立ち返ったのが『ドラゴンクエスト』なんですよ。
 それで子供たちを教育しようとか啓蒙しようとか企んだわけではありません。そういったシンプルな「正義」とか「努力」の行為は、
すべての人にとって本質的に「気持ちいい」ことではないか、と思ったからなんです。

渡辺
そのシンプルさ、ストレートさが、『ドラクエ』が国民的ゲームとなった秘密なんですね。

千田
それはシステムについても同じで、その後出てきた他のRPG作品を見ていて思うのは、みなさん、
『ドラクエ』をあえて変えようとして失敗している。目新しいところを作ろうとして、ゲーム性を悪くしている。
 まあ、クリエイターというものは新しいことをやりたいものです。でも、ドラクエ・スタッフの皆さんはそのへん、
非常にバランス感覚がありますから、微妙なところで抑制して。
 幸か不幸か『ドラクエ』の制作はいつも、メモリーとの戦いでした。メモリーの制限によって、やりたいことが全部はできない。
そうすると自然に、ムダなところをギリギリに削り込んだ、ぜい肉のないものになるんです。
渡辺
今後の『ドラクエ』シリーズについて、CD-ROMなどの大容量環境が提示されたとき、
ゲームのどの要素をどのように豪華にしていくことになりますか。

千田
容量の使い方としては音声よりもビジュアル的な豪華さを拡張していくと思いますね。でも現状では、とくに「アクセス性」という点から、
カートリッジが最も優位にあるという認識は変わりません。『ドラクエ』はメディアとしてはあくまでもROMカートリッジをイメージしています。
 だから、『ドラクエ』の容量は徐々にしか増加していかないでしょう。システムも無理なく、徐々に進化していくものだと思います。

渡辺
とくに『ドラゴンクエスト1・2』についてですが、ファミコンからスーパーファミコンに進化して、どのへんが変わりましたか?

千田
ビジュアルやサウンドをスーパーファミコンの機能に合わせたほかは、基本的には大きくは変わっていません。ただし、当時容量の
関係で泣く泣く削ったところを復活させてあります。とくにメッセージについてはすべて、堀井(雄二)さんが自分で手を加えています。
また、『2』のオープニングのムーンブルク城の崩壊シーンなど当時入れられなかったイベントも再検討し、新しく入れてあります。

渡辺
ボクサーの減量みたいですね。

千田
そのへんのことを振り返りながら、クリエイターが持っていた理想的な『ドラゴンクエスト1・2』のイメージを再現したわけです。
ですからファミコン版をやった人でも、『完全版』としてもう一度楽しんでもらえると思いますよ。