107 :
保管庫:
リディアは絶叫していた。エビルプリーストの腕が咽喉に食い込んで
ろくに声も出せなかったが、目から涙がこぼれ、胸の奥がひゅうひゅうと鳴っている。
悲しいこともある。ただ、それ以上に許せなかった。
剣を捨て、すまなさそうに自分を見るピピンの姿が、爆炎に飲み込まれて消えていく姿が瞼に焼き付いて消えない。
ピピンは命をかけて自分たちを救おうとしてくれた。なのに自分はそれに答えられなかった。
だから、自分が許せなかった。
そしてまた、剣を捨てた男性が目の前にいる。自分のせいで、死んでしまう。
そんなことは許せなかった。
もがき、暴れる。だが、エビルプリーストの腕はまったく揺るぐことはない。
自分が身動きするたびに締め付けはきつくなり、意識は遠くなっていくが、
それでもリディアは絶対に諦めるわけには行かなかった。
そんなリディアの精一杯の抵抗も、エビルプリーストは歯牙にとめない。
彼は武よりも文の性質であったが、腐っても魔族である。小娘が暴れたところで動じることなどない。
「さて、先ほどの例をさせてもらおうか。おっと、貴様はマホカンタが効いていたな」
エビルプリーストは邪悪な笑みを浮かべながら、とんぬらが捨てた剣の方へ歩いていく。
ルーキーは悔しげに、とんぬらは静かな怒りを秘めながら、身動きひとつせずそれを見ていた。
そんな二人にエビルプリーストは舌打ちする。剣を拾い上げ、ゆっくりととんぬらに近付いていく。
「その目、気に入らんな。貴様は危険だ」
とんぬらは冷たい目でじっとエビルプリーストを睨みつけていた。
抵抗する様子はない。手をだらりと下げ、無防備な姿で佇んでいる。
一歩、一歩近付くにつれ、リディアの焦燥は積もっていき…
エビルプリーストがとんぬらを切り殺そうと剣を構えた、その時。リディアの中の何かが切れた。
108 :
保管庫:03/04/15 01:28 ID:EsGhIdyO
刹那。強烈な力が弾けた。
「うおおッ…!?」
リディアの全身から緑色の光が溢れて視界を塗り潰す。
突然生まれた衝撃にエビルプリーストはリディアを投げ捨てる、だが現象は止まらない。
何らかの力が集まって一つの物体として具現化していく。
「ば、馬鹿な…!?」
それはリディアを包んで巨大化していき、遂には巨大なドラゴンを形どった。
音もなく、雪原に突然現われた白いドラゴンは鎌首を下に…エビルプリーストに向ける。
エビルプリーストはパクパクと口を上下させた。何かを言おうとしたが、声にならない。
ドラゴンは口を開いた。咽喉から白い煙が零れる。
熱も冷気も電撃もない霧のブレス。次の瞬間、彼の全身を激しい痛みが襲った。
本来なら、耐え切れた攻撃かもしれない。だが、ゾーマの魔力に包まれたこのフィールドでは、
魔法に制限がかかっているように、耐性にも彼が思っている以上に制限がかかっていた。
こんな筈ではなかった。エビルプリーストは、自分がどこで誤ったかを考えた。
あの小娘を人質に取ったとき、逃げることを考えなかったことか。
いや、そもそもあの小娘を人質にしてしまったことか。
それとも…
そんなエビルプリーストの全身を氷柱が貫き、彼の存在はそこで潰えた。
とんぬらは呆然とその一連を見ていた。
とんぬら自身は、エビルプリーストが攻撃を仕掛ける瞬間を狙っていた。
幸いな事に自分にはマホカンタがかかっている、エビルプリーストは直接的に自分に手を下すだろう。
そこに付け入る隙がある。危険だったがそれしかない、と思っていた。
だが、実際はそれを行う前に、少女が少女自身の力で自分を救った。
自分は…自分が人質になったあの時、自分は見ているだけだったのに。
109 :
保管庫:03/04/15 01:28 ID:EsGhIdyO
霧のドラゴンは攻撃を終え、存在する所以を失ったそれは静かに消えていく。
現われたとき同様、音もなく消えた後には倒れ伏すリディアの姿があった。
少女の下に駆け寄る。意識を喪失しているようだ、一見して少女の顔色が酷く悪い事が確認できる。
念の為に脈をとってみると、あるにはあるが恐ろしく弱い。
あのドラゴンを呼んだ際に力を使い果たしてしまったのだろう。
このままでは危険かもしれない。
とんぬらはリディアを抱き上げた。少女の軽さに、何ともいえない気分になる。
こんな少女も、この馬鹿げたゲームの参加者なのだ。それがやりきれなかった。
振り向くと、アニーがこちらに歩いてくる。何となく、不機嫌そうだった。
実際、アニーは不機嫌だった。
「お父さん、何で剣を捨てたの?」
「アニー?」
「お父さんは、私よりあの子が大事なの?」
とんぬらが不思議そうに自分を見ている。それがまたアニーの癇に障った。
「お父さんは死なないっていったじゃない!なのにあんな子の為に剣を捨てて!」
「アニー…」
今にも泣き出しそうな娘の前で、困惑する父親。
そんな気が重くて窒息しそうな状況で、ルーキーはかなり控えめに口を出した。
「ねぇ…そろそろ中の人たちが出てきそうなんだけど?」
次の瞬間。
離れの扉が蹴破られ、見るも無残な姿に成り果てた扉が雪原に投げ出される。
扉が地面に倒れた勢いで雪が舞い上がった。
ちらつく雪の影に、男が二人現われる。
オルテガとリバストだった。
110 :
保管庫:03/04/15 01:31 ID:zwJ8r872
【リディア
所持品:なし 現在位置:ロンタルギアの祠の外
第一行動方針:エーコ、バッツたちと合流
第二行動方針:仲間(セシル?)を捜す
力を使い果たして昏倒しています。そう簡単には回復しません】
【とんぬら(DQ5主人公)/ルーキー/王女アニー
所持品:さざなみの剣/スナイパーアイ ブーメラン/マインゴーシュ
現在位置:祠の離れのそば
第一行動方針:リディアとオルテガたちとどう接しよう?
第二行動方針:クーパー・パパス・ライアン・アイラをみつける】
【エビルプリースト 死亡】