42 :
保管庫:
えっちらおっちらとジタンはイスを持って執務室の前に立つ。
いくらなんでも数回に分けて運ばなければ、とても人数分を揃える事は出来ない。
面倒くさい作業だったが、それでも余計なことを考えずに済むだけでもマシというものだろう。
ともかくジタンはイスを設置して、また会議室にとって返そうとしたのだが……。
ズルリ。
背もたれを持つ手に妙な感触を残してイスが廊下を滑る、いぶかしげにジタンが床を見る、そこには。
「これは…血?」
いかにマヌーサで偽装していても、扉の隙間から溢れ出す赤いものまでごまかすことはできない。
くんくんと鼻を鳴らすとやはりかすかだが血の匂いが漂ってくる。
この部屋にいたのは……マゴットとそしてあのセーラとかいう女の子だ。
「何があったんだ……」
そのまま扉のある場所を押してみる……簡単に開いた、と同時にむせかえるような血臭が溢れ出す。
何回嗅いでも慣れない匂いだ、ジタンは鼻をつまんで思わず目を伏せる、と同時に彼は見てしまった。
あのセーラの首無し死体を……。
いきなりの死体とのご対面、しかもついさっきまで確かに生きていたのに……その残酷な事実に、
耐えきれず”うう”とうめき声を上げてしまったジタンだが、次の瞬間には抜け目なく状況の確認を行う。
「なんて奴だ…逃げようとした相手を後ろから…」
ぱっと見ただけでも分かるのは、セーラの傷がほとんど背中側についている事だ、さらにおぞましい事実も分かった、
血痕の状況から見て、おそらく彼女は生きたまま首を刎ねられたということだ……。
そういえばマゴットは!?
ジタンは周囲を見まわすが、ハーゴンの呪文の効果か、視界がやや悪い…部屋の中に隠れてるのかもしれないし、
もしかすると先に逃げたのかもしれない。
外に探しに行きたいが、あともう少しだけ状況を知りたい、ジタンはさらに死体を調べようと自分の背中を、
廊下側から部屋側に向けたその時、部屋の奥の机の下に息を潜めて隠れていたマゴットがジタンへと、
襲いかかったのであった。
その回避し得ないかと思われた致命の一撃をジタンは紙一重で回避した。
視線を下に向けていたから助かった、それでもし床に映る相手の影を発見する事が出来なければ、
間違いなく彼もセーラと同じ運命を辿っていただろう。
「な!おまえはっ!」
次々と振り下ろされる鎌を床を転がりながら避けるジタン。
いきなりの攻撃に驚き慌てるジタンだったが、その正体を見てまた驚く、そうその姿はまごうことなく、
マゴットその人だったからである。
「おい!正気に戻…」
ジタンはマゴットに呼びかけるが、それは横薙ぎの鎌の一閃でさえぎられる。
今度も紙一重で避けたジタンは冷や汗を掻く、あと少し遅ければ首を斬り裂かれていた。
さらに容赦なく踏みこんでくるマゴットの斬撃を右に左に交わしながら、ジタンはあることに気がつく。
セーラの身体についた傷、あれは曲刃系の武器でつけられた傷だった、そう、例えば…
「まさか!お前がセーラを…」
その言葉にマゴットは答えない、ただクスリ…と笑っただけだ、その笑顔を見てジタンは確信した、
コイツは正気だ…素面でセーラを殺し、さらに今度は俺まで、ってまさか!
自分でこれまでわずかながらも感じていた様々な疑惑がここにきて一本の糸で繋がり始めた。
(おっさんは確かにこのゲームを壊すって言った…だけどもそれは俺たちのタメじゃない、
あくまでおっさん個人のため、俺達は駒ってことか?)
いや、駒ならまだマシだった、今の状況ではどう考えても生贄としか思えない。
ハーゴンへの怒りがふつふつと涌いてくるが、とりあえずは今この場を切りぬけなければ、
生贄にされてからでは文句も言えない。
ここでマゴットの状態についてわずかながら説明させていただく。
実はハーゴンは余りに消極的なマゴットの性格に不安を感じ、万が一を考えマゴットにはイザというとき
攻撃的に動けるよう、あくまでも軽い暗示を何度かに分けてかけていたのだが、
力の源であるシドーを失った事により、ハーゴンはわずかずつであるが自らの能力の制御が利かなくなりつつあった。
それは彼本人にもわからない、微妙なものであったが、その微妙な狂いが積み重なり、
暗示は彼女の精神に過度の重圧を与え、そして蓄積された負担がある一点を越えたとき、
それは恐るべき形となってマゴットの精神を押しつぶしたのであった。
44 :
保管庫:03/03/10 22:30 ID:QmfBRE1S
そう、今の彼女は活動的を通り越し、意識こそ明晰ではあるが、人間的な感情が麻痺した、
いわゆるソシオパスとなっていたのだ、今の彼女はハーゴンやアルスですらも平然と手にかけるであろう。
そしてまた、その開花したありあまる攻撃性をいかんなく発揮して、再びマゴットはジタンへと迫る。
しかし今度はジタンも反撃に出る、抜き放った仕込み杖で鎌を受けとめるとそのまま手首を返して
鎌の刃を天井に向けさせ、マゴットの力を分散させるとそのまま肩から体当たりをかます。
たまらずマゴットは手を離してしまい、スッポ抜けた鎌は壁に突き刺さる。
そして体勢を崩したマゴットの襟元を両手で掴むと、そのままジタンは背中から床へと倒れこみ。
その反動で相手を投げ飛ばすそう、柔道で言う巴投げだ。
だが、床に倒れこんだその時、ジタンの目に目を見開いたままのセーラの生首が入る。
この予想外の物体に動揺したジタンの手元が狂い、マゴットはあさっての方向へと飛んでいき
やはり壁に叩きつけられる。
駄目だ、これじゃ入りが甘い、来る。
そう考えたジタンは慌てて起きあがろうとするが、完全に起きあがったとき彼が見たもの…それは。
実はマゴットが叩きつけられたのは、死神の鎌が突き刺さった壁の真下だった、
鎌はその衝撃でそのまま下へと滑り落ち、そしてまさにギロチンのごとく、マゴットの首を半ば切断したのだ。
どう考えても致命傷だ、しかしそれでもマゴットはまだ立ちあがろうとする。
がたがた、がたがたとまるで壊れかけの自動人形のように、首から噴水のように血飛沫を上げながら…
その恐るべき光景に流石のジタンも動けない…だがそれも長くは続かなかった。
やがて、プツリ、という音と共にマゴットの首は完全に胴体から千切れて、手前に組んでいた
自らの腕の中に転がり落ちる、そのまるで自分の首を抱いているかのような奇妙な亡骸、
それはセーラの残した呪詛の成せる業だったのかもしれない。
45 :
保管庫:03/03/10 22:31 ID:QmfBRE1S
ジタンは部屋の真ん中にへたり込んだまま動こうとはしない。
これからどうする、これ以上面倒に巻き込まれたくないならこのままずらかるのも手だ、
だがもし自分が逃げたとして、その後はどうなる?
またあの男は同じ事を繰り返すような気がする、それを関わりのないこと、と割りきるには、
ジタンは関わり過ぎていた、それとは別に騙されていたという怒りも、もちろんある。
「とりあえず騙してくれたお礼はしないとな…」
こうしてジタンはセーラの首を持つと、そのまま部屋の外へと飛び出していった。
【ジタン:所持アイテム:仕込み杖、グロック17、ギザールの笛 現在位置:神殿
第1行動方針:とりあえずハーゴンに一言
第2行動方針:サマンサとピサロの殺害
第3行動方針:仲間と合流、ゲームから脱出】
【マゴット 死亡】
46 :
保管庫2:03/03/10 22:34 ID:QmfBRE1S
「おい…何のマネじゃ?」
書庫から出て、執務室に向かうハーゴンたちの前にその行く手を阻むようにジタンが立ちはだかる。
その剣呑な雰囲気はただ事ではない。
「よくも…騙してくれたな」
「何の話じゃ?」
「俺達を犠牲にして、テメェたちだけで逃げようと思っていたんじゃねぇのか?」
それを聞いてハーゴンは無心ぎくりとしたのだが、勤めて平静を装う。
(そのテメェの中にワシは入っておらんがの…だが似たようなもんじゃ)
「何を言うかと思えば、いいか?不安なのは分かる、じゃがの……」
「だったらこれは何だ!」
ジタンはハーゴンへと何かを投げつける、それはセーラの首だった。
それを見て導師がひぃと声を上げる。
「調べたら傷のほとんどが背中についていた…どう考えても逃げようとしている所を強引に襲ったとしか思えない」
「俺達もああいう風にするつもりだったのか!答えろ!」
それを見るとハーゴンも流石に平静ではいられなかった。
「バカな…わしはそこまでしろとは命じてはおらぬ!」
確かにセーラを供物にしようと思ったことは事実である、だがそれはあくまでも後々のことで、
今この場で手を下すつもりなど無かった、万が一を考えマゴットにはイザというとき攻撃的に動けるよう、
軽い暗示をかけていたが・・・。
もしや…もうすでに自分の力を思うように操る事が出来なくなっている…だからほんの軽い暗示も、
思わぬ形でマゴットへと影響を及ぼしたのか…。
「それで、マゴットは…マゴットはどうした!…まさか」
答えを聞くまでもなく、ハーゴンは執務室へと走る、そしてその扉近くで物言わぬ骸と化したマゴットを見たとき、
「なんと…なんということじゃ…」
ハーゴンはふらふらとマゴットの亡骸に歩みより、その場にへたり込む
まぶたを閉じればここまでの数々の画策が甦ってくる、あと少し…あと少しで上手く行くはずだったのに。
47 :
保管庫2:03/03/10 22:37 ID:APr5zuqD
ハーゴンは自分を呪わずにはいられなかった、確かに手を下したのはジタンだ、しかし元を正せば
策を弄した挙句の結果である、彼は人の心を操るのに長けていたが故に人の心を侮り過ぎたのである。
「このロンダルキアはワシにとっては……聖地などではなく死地でしかなかったのかぁ〜〜〜」
するとハーゴンの身体からしゅうしゅうと煙が上がり、肌にはシワが刻まれ、その髪は白くなり抜け落ちていく
力の源であったシドーを失って以来、その肉体・魔力の崩壊を必死で食い止めてきたハーゴンだったが
この衝撃は大きかった、そしてついに力を繋ぎとめていた儚き1本の糸がぷつん、と切れたのだった。
「おっさん…」
後から追いついたジタンが見たものそれはただの無力な老人、ただ眼光だけは未だに鋭いままの姿だった。
実はジタンも不安だった、1時の感情に流され、人を殺めてしまった事に対する後悔。
だから彼は願っていた、自分の思っていた通り、ハーゴンとマゴットが自分を騙していて欲しかったと、だが。
その結果は皮肉なものだった。確かにハーゴンは自分を謀っていたのだろう、しかし…マゴットの亡骸のそばで
うなだれる姿は彼の想像していたものとはかけ離れていた。
「おっさん……そこまでしなきゃいけなかったのか?」
「ああ、必要ならばワシは神でも殺した、いわんやおぬしらごとき」
「騙したワシが…憎いか?殺したいか?」
そのハーゴンの呟きにジタンは答える事が出来ない。つい数分前まではそうだったのに。
(ちくしょう…おれこれじゃバカじゃないか…ちくしょう)
そんなジタンの内面の葛藤も知ってか知らずか、ハーゴンはジタンへと頭を下げる。
「だが、ワシはまだ殺されるわけにはいかぬ!ワシの全てを奪ったあの者にせめて一糸報いるまでは!」
「改めて頼む!この通りだ……お前の力をワシに貸してくれ!その後でならこの命くれてやる」
枯れ枝のようになった身体の何処にそんな気力があったのだろう?
しかもハーゴンが…この尊大な男が恥も外聞もなく血涙を流しながら土下座をしているのである。
その鬼気迫る姿にジタンは圧倒された。
48 :
保管庫2:03/03/10 22:37 ID:APr5zuqD
重苦しい沈黙の中、ようやくジタンが口を開く。
「あんたのためじゃない…殺さなくても良かったのに、殺しちまったマゴットのためだ…」
「そうか」
ハーゴンもそれ以上の言葉は発さない、ただ。
「こっちへこい」
ハーゴンはジタンを連れてまた別の部屋へと向かう。
「導師、お前もじゃ」
その言葉で物陰から様子をうかがっていた導師も、はっ、と気がついたように後を追うのであった。
それからしばらく経過して、ハーゴンの私室内。
「良いか、これの術式が完璧に解ける者でなければ連れてきても無駄じゃ、30分以内に解けぬ者は失格として扱え」
ジタンは数枚の紙を手渡されている、そこにはぎっしりと何やら難しい字が書きこまれていた。
どうやら魔法の公式のようだ。
「それと、これも持って行け」
ハーゴンが続いて茶ばんだ紙を渡す。それには地図が記されている。
「このロンダルキアの地下には縦横に通路が通っておる、そのマップじゃ」
「地上を歩くのとでは距離にして4倍は得が出来る、うまくやれば全土を十分回れるはずじゃ」
ワシはもう少しは保つかもしれんが、おそらく明日の朝までの命、それまでに必要な知識を全て伝えねばならぬ。
じゃからこの時計で0時になるまでに戻ってきてくれんかの」
ジタンは手渡された時計を見る、現在15時、ということは後9時間しかない……。
49 :
保管庫2:03/03/10 22:38 ID:APr5zuqD
一方。
「これは単純に魔力の強さや知識のみを問う問題ではない、ぶっつけ本番で儀式を成功させるには、
特別なセンスが必要、つまりこれはそのセンスを計るのが目的、それに魔力は人数でカバーできるしの」
そう声をかけるハーゴンの隣で導師は先ほどから例の術式にかかりっきりだ、
白魔法マスターの彼がてこずるあたりが問題の難易度を物語っている。
「おい、お前は行かないのか?」
ジタンの言葉に導師は申し訳無さ気に答える。
「僕は残るよ…病人を放ってはおけないから、そうだ、君にこれを」
導師は星降る腕輪をジタンへと差し出す。
「君は足が速いからきっと役に立つよ、それとお願いがあるんだけど、ここのすぐ東の森に、
ティファって胸のおっきな女の人と、デッシュってちょっとちゃらちゃらした男の人がいると思うから
よろしく伝えといて!」
「ああ、じゃあもう行くぜ」
「無理をしないで!危ないと思ったら逃げてよ」
ジタンは導師の言葉に背中越しに手を上げて応じると、そのまま足早に部屋を後にしていった。
それを見送るハーゴン、全てはジタンがどのような魔法使いを何人連れてくるかにかかっている。
それによって儀式の内容、方法も、果ては結果までもが変わってくるだろう、
そのための準備は整えておかねば……頭を抱えながら問題に取り組む導師の隣で、
ハーゴンは震える手で書物のページを紐解いていくのであった。
50 :
保管庫:03/03/10 22:41 ID:k7pcipDG
【ハーゴン(呪文使用不能、左手喪失、衰弱・老化)
武器:グレネード複数、裁きの杖、ムーンの首、グレーテの首、首輪 現在位置:神殿自室
第1行動方針:儀式の下準備
第2行動方針:不明
最終行動方針:ゲームの破壊】
(作中には書きませんでしたが、ジタンにいくつかグレネードを渡しています)
【導師(MP減少):所持武器:天罰の杖 首輪 現在位置:ハーゴンの自室
第一行動方針:問題を解く
第二行動方針:ハーゴンの看病
最終行動方針:不明】
【ジタン:所持アイテム:仕込み杖、グロック17、星振る腕輪、ギザールの笛 グレネード複数
試験問題・解答用紙複数(模範解答も含む)、時計
現在位置:神殿から外へ
第1行動方針:魔法使いを探す
第2行動方針:サマンサとピサロの殺害 最終行動方針:仲間と合流、ゲームから脱出】