FFDQバトルロワイヤル PART4

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26保管庫
「じゃ、行こうか」
そういってバッツは、未踏の雪の中を歩き始めた。

「いいの?」
クーパーが追いかけながら尋ねると、バッツは振り返って答えた。
「もうすこしだけだ。城までは行かなくても、ここまできたんだからちょっとだけ行こうぜ。
 エーコたちには心配をかけるかもしれないけどさ」
それっきりバッツはまた黙りこくってしまい、クーパーも話し掛けることはなかった。

しばらくして二人は森を抜けた。
「なにも、ないね」
しばらく続いた沈黙を破り、クーパーが口を開いた。
森を抜けたが、誰に会うわけでも何か見つかるわけでもなく、見慣れた白い地平線が続くだけだ。
バッツはそれに「そうだな」と小さく相槌を打ち、地図を広げた。
この先にはちょっとした山脈があり、越えるには骨が折れそうだった。
そこを抜けると、凛冽たる寒気のする大地にはおおよそ不釣り合いな砂漠が広がっている。
平地よりも移動に手こずることは間違いない。
どんなに粘っても最低限砂漠のあたりで引き返さねばならぬだろう、
もっとも、できるだけ早く祠に戻らなければならない以上、ここから先に進むのは理屈に合わないし、
体力を消耗する割りにはなんの収穫もない可能性が高い。
だがそれでも、バッツは進めるだけ進みたかった。
それは未知の大地を探検したいという生まれてから衰えたことのない子供じみた好奇心からでもあったが、
どちらかといえばレナとファリスの死に対する自分の心がまだ落ち着いていなかったからだった。
―――二人の生きた痕跡が、この地の何処かにあるんじゃないか?
勿論、それを見つけても現実はなにひとつ変わらないが。

バッツは地図をしまい、少し空の方を仰いで言った。
「山地を抜けよう。なにもなかったら、祠に戻る」
何を言われてもクーパーはバッツについていくつもりだったので、
それがやや理不尽な行動であっても、特に疑念をもたず素直にバッツの跡を追った。
27保管庫:03/03/07 00:02 ID:KfISFWtA
山道の傾斜は存外緩く、このまま続けば二人はさほど疲れずに山を抜けることができそうだった。
勾配がきつくなっていくようであれば、途中で引き返すことも十分に考えられるが。

路傍には逞しく雪を掻き分けている草がちらほらと見え、
バッツはそれらひとつひとつにいちいち目を配っていた。
見た目はちっとも綺麗ではなかったが、その姿は悠然としていて、
このゲームに参加しているものには少なからず感ずるところがあるのかもしれない。
特に、悲しみと怒りと、憎しみの最中にある者にとってはなおのことだ。
もっとも、その受け取るメッセージは個々によりけりといえる。
そうして、バッツはなにか物思いに耽っていたが、ふいに声を上げた。
先まで視界に映るどれにも関心を示さなかったクーパーも立ち止まっていた。
山の下に湖が見える。
それは別段他の湖と代わり映えのしないものだったが、
山の上からということが相俟ってか、水面に反射している光がとても煌びやかであった。
見る者の心情の変化という点でも、祠にある湖とは別物に見えるかもしれない。
二人はどちらが声をかけるともなく立ち止まり、しばらくの間その場に佇立していたが、
やがて聞こえてきた叫び声によって、須臾止まりかけた時の流れは何事もなかったかのように動き出した。

「なにがあったんだ?」
バッツは叫び声の方向に顔を向けた。その先にはこれまでと変わらぬ道が続いている。
「い、行こう!」
クーパーは硬直していた足を一気に解き放ってかけだしていこうとしたが、それをバッツはひきとめた。
「クーパー、ちょっと待てよ」
「えっ…なんで?誰か、いるかもしれないよ?」
落ち着いたバッツの声と対照的に、クーパーの声はやや興奮していた。
「誰かいるかもしれないから、待てっていってるんだ」
そういうと、クーパーは刹那バッツの顔を見つめ、すぐに「あ、そうか」と足を止めた。
そうこうしているうちに叫び声はますます激しくなり、悲鳴まで聞こえるようになった。
バッツは一息つき、言った。
「クーパー、今の状況はわかってるなよな」
「う、うん」
おずおずと頷き返すと、そのまま続けた。
「この向こうに誰かいることは間違いない。それも、どうやらただごとじゃなさそうだ。
 わかってると思うけどな、厄介事に関わったらろくなことがない」
クーパーは何も言わなかった。
バッツはそれを見ると、躊躇無くいった。
「行くか行かないかは、お前に任せる」
「…え?」
そのとき、にわかに空気が張りつめた。

「祠にエーコたちを残していること、俺たちの目的、そして今俺たちは殺し合いをしてるってこと、
 そのへんをよく考えて、決断してくれよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「なんだ?」
バッツは少し面倒くさそうに尋ね返した。そう言われると、答えることはできなかった。
クーパーからしてみれば、この事態はまったく予想していないことなのだ。
―――そもそも山に来たのはバッツ兄ちゃんの考えあってのことじゃ?
    なんで、急にこんなことをいうのだろう?
クーパーは、叫び声が聞いたときにすぐにでも駆けつけたい衝動に駆られたが、
こう改まっていわれると、なんとも行動には移しがたい。
それはつまり、自分の行動に責任が伴われるという実感に他ならなかった。

バッツのことを見つめ直した。
一点の曇りもなく明るい好青年だと思っていたが、
それが今はなんとぶっきらぼうに見えることだろう。
それはまさしく彼が今まで見せなかった一面であった。
強烈な出会いは、初対面の者に通常あるべき壁をいくらか取り除いてくれたのだ。
だがしかし、目の前にいる青年はその壁を少しなおしてしまっていた。
それも、おそらくは無意識のうちに。
29保管庫:03/03/07 00:09 ID:i6tigwoM
―――…いや
クーパーは思った。
バッツの中に燻っていたなにかが、今この場に吹き出たというのは少なからずあるだろう。
これが彼の一面であることは疑いようのない事実である。
しかしクーパーは、バッツは本当はいまこの瞬間にもあの場に行きたいのではないか、と感じた。
それはなんとなくそう感じたに過ぎないが。
とにかく、バッツは躊躇っている。
二人であの場に行くことに、躊躇っている。
彼の心の中では、欲求と戻るべきという理性とが葛藤しているに逕庭ない。
どちらをクーパーが選択しても、彼はほっとしてそれに従うだろう。

蓄積されたなにかは、バッツの一面を表した。
もっとも、その兆候はずっとでていたのかもしれぬ。
バッツの気持ちは、「戻る」とも「行く」とも定まっていない。

相変わらず湖は眩しいまでに光を放っている。
つい先までの騒ぎはもう聞こえなかった。
時間はない。
いまこの瞬間、すべての権限がクーパーに与えられた。



【バッツ(魔法剣士 時魔法)/クーパー
 所持武器:ブレイブブレイド/天空の盾 現在位置:ロンタルギアの中央北西の山地
 第一行動方針:(戻るかそのまま行くかは次の人に託します)
 第二行動方針:祠に戻る
 第三行動方針:アリーナ(アニー)、とんぬら、パパス、エーコの仲間(名前しか知らない)を捜す
 最終行動方針:ゲームを抜け、ゾーマを倒す】