「あら…」
セーラは目を開けると、きょとんと周囲を見渡す。
「ここは……?」
自分はあの忌々しい魔物どもに追われて、何時の間にか汚らしいゴミ捨て場に足を踏み入れて……。
セーラはそこからのことを頭を抱えながら思い出す。
そういえば何か夢を見たような気がする、確か黒い服を着込んだ、そうあれは…紛れも無い。
「騎士様…夢の中で私を導いて下さったのですね」
セーラは自分で自分の胸を抱き、うっとりと夢の中での出来事を回想する。
「ああ、あのまま目覚めることなく騎士様の腕の中でいつまでもまどろんでいたかった物を」
と、そこで自分の傍らに置かれている短剣に気が着く。
その短剣は普通の短剣と違い、刀身が黒く塗られている、闇夜での使用を念頭に置いた暗殺用の物だ。
だが、セーラはその黒い刃をみて、別の解釈をしたらしい。
「貴方と同じ黒…ああ、この短剣でもって、悪を成敗せよとの仰せですね…騎士様、
セーラは貴方のために戦い、貴方のために死ぬる所存でございます、ああ、でも出来るならば二人で」
と、1人で盛り上がってるセーラだったが、そこで話声が聞こえる、2人組のようだ。
セーラは素早く短剣を胸の谷間に収めると、ふらふらとまるで疲れきったかのように2人組、
ハーゴンと導師、の前に姿を現すのであった。
「お助け……くださいまし…」
「なるほどのう……人を探しておるのか」
「ええ」
執務室へ戻る道すがら、ハーゴンと導師、それからセーラは色々と話をしている。
「その魔物の騎士が、セーラさんの仲間を殺したんですか?」
「そうですわ!しかもその罪を私に着せようと、もう少しで私は殺されるところでしたわ」
ハーゴンも導師も、セーラに対してはまるで疑いを抱こうとはしなかった。
セーラはつい数日前まで一国の姫君、その完全なまでの作法・話術等は彼らを篭絡するのには充分だった。
それにハーゴンたちは、長年の経験からまずはその人物の身のこなしに注目する、2人の見立てでは、
セーラはとてもじゃないが誰かを殺せるようなスキルを持っているようには見えなかった。
ともかく3人は執務室の前に立つ。
「をや、あの若造はどこに行きおった?」
ハーゴンはそこで護衛をしているはずのジタンの姿をきょろきょろと探し求める。
若造?あの金髪の方かしら?と、セーラは少し小首をかしげる。
「まぁいい、導師とやら頼みたい事がある」
ハーゴンは扉にかけていた魔法を解除し、開け放つ、とそこにはベッドの上で眠る女性がいた。
ハーゴンたちはその女性、マゴットのそばによって色々と治療を始める。
魔法で眠っているのだろうか?マゴットはうっとりと瞳を閉じている、顔半分は包帯で覆われてはいるが、
その顔を見た途端、とくん、とセーラの胸が鳴る。
(ああ……なんて素敵な)
あの眠れる女性の首筋をこの短剣で掻き切ったらば、どれほど良い声で鳴いてくれるだろうか?
あふれる血潮に身体を浸せばどれほど気持ちが良い事だろう。
その陰惨で、残虐な妄想に暫しセーラは我を忘れた、そう、やはりアークマージは彼女の心に重大な傷を
残していた、その影響の一端として、彼女の本来持っていた淫楽殺人癖がより病的に、かつ猟奇的、狡猾に
現れるようになっていたのだ。
そんなことは露知らず、ハーゴンたちはマゴットの治療を続けていた。
「どうじゃ…お主の呪文で直るか?」
「目の傷は多分大丈夫だと思う、体力と魔力についてはやっぱり無理をさせずに、、
このまま眠らせておくのが1番じゃないかな?、特に魔力の消耗がひどいからね」
「そうか、やはり刺激を加えずにこのまま寝かせておくか」
妙に神妙なその様子を見て導師がくすりと笑う。
「その人のことがよっぽど心配なんだね、もしかしておじさんの娘?」
「ばかをいえ」
一笑に付すハーゴンだったが、マゴットが大切な手駒であり、自分のプランの要であることは事実だ。
彼女に何かあれば計画は水泡と化す。
「魔法の効力が落ちておる……起こさぬようにな」
2人はそっと部屋を出て、廊下に出ようとする、その時初めてセーラが口を開く。
「あの……病人ですか?」
「まぁ、病気ではないが……過労といったところじゃな、それがどうかしたか?」
「いいえ、私になにかお手伝いできれば……こう見えても色々としつけられておりますので
そばについて看病くらいなら」
「そうじゃのう」
わざわざ看病を買って出てくれるのを断る理由は無い。
出来れば自分がそばに付いておきたかったが、キラーマシーンの件等、色々とある。
やはりここで大人しくしているわけにもいかなくなる。そのたびに扉をガンガンと叩かれるのは迷惑だ。
それにこの少女、わずかな時間だったが、話してみる限り怪しいそぶりは特に見えなかった、まず大丈夫だろう。
動きを見る限り、戦闘に長けているわけでも魔法が使えるわけでもなさそうだ。
「なら、その言葉に甘えるか、2時間ほどお願いできるか?」
だが、ハーゴンも導師も気がついていなかった…弱者には弱者の戦い方があるということを。
それは彼らが一流の使い手であるがゆえの重大な見落としだった。
と、そこに、とぼとぼとジタンが戻ってくる。
「どこに行っておった?」
「フライヤを弔いに……花を備えて腕を組ませてやるくらいならいいだろ…でも、身体がもうぐちゃぐちゃでさ、
腕を組ませるにも崩れてきちまって…」
そんな事だろうと思った、ハーゴンはジタンの肩に手を置く。
「持ち場を離れるな…後で略式で良ければ葬儀を行ってやる、ところでスライムの騎士を見なかったか?」
「いや、誰にも会わなかったぜ」
それからしばらく黙っていたジタンだったが、ふと呟く。
「なぁ、おっさんはこのくそゲームを壊して脱出するって言ってたな…だったら、
これから具体的には何をしようと思っているんだ?」
「話してもお前には理解できんぞ」
「俺は今まで、人を助けるのに理由なんていらないって思ってた……だけど
ダガー、ビビ、サラマンダー、フラットレイ、クイナ、ベアトリクス、そしてフライヤ…
こんなにもたくさん死んじまった、だから俺はあいつらのためにも絶対に正しい道を選ばないと
いけないような気がするんだ」
「頼む、アンタは何か理由があってまだ秘密にしておきたいんだろうけど、
このままだと自分が本当に正しいのか不安で仕方がないんだ」
そこで導師が口を挟む。
「僕にも聞かせてください、役に立てるかも」
「そうじゃな……」
たしかにギリギリまで伏せては置きたい、だがここまで来てつまらない理由で離反されるのも問題だ、
時間が無いし、人材は喉から手が出るほど欲しい。
差し障りのない概念・概要程度なら教えてもいいだろう、それでもかなり時間がかかるが。
「よかろう、ならジタンお前は会議室から机とイス、それから黒板を持って来い、この廊下で講義を行うぞ。
導師はワシと共に書庫へついて来い」
時間にして10分程度だが、また執務室を離れる事になる、出来れば自分は残りたかったが、
片手では机の持ち運びは不便だし、自分でなければほとんど焚書されたとはいえ、
書庫の本の位置は分からない、
ジタンを残してもいいのだが、今の状態で役に立つとも思えない。
ハーゴンはここをしばらく離れることをセーラに告げ、部屋の中から資料一式を取り出すと。
施錠の魔法を幾重にもかけた上で、さらにマヌーサを唱え扉が壁に見えるように偽装する、
見事な出来映えだ、これで大丈夫だろう。
ハーゴンたちは大急ぎで準備を進めに立ち去って行く。
そしてそれと時を同じくしてセーラはゆっくりと行動を開始したのであった。
【セーラ 所持武器:アサシンダガー 現在位置:神殿
第一行動方針:マゴットを殺す 第二行動方針:騎士様を探す】
【ハーゴン(あと二日で呪文使用不能、左手喪失)
武器:グレネード複数、裁きの杖、ムーンの首、グレーテの首、首輪×2 現在位置:神殿
第1行動方針:ジタンたちに授業
第2行動方針:マゴットに授業 最終行動方針:ゲームの破壊】
【導師:所持武器:天罰の杖 星降る腕輪 現在位置:神殿
第一行動方針:ハーゴンの授業を聞く
第二行動方針:首輪の入手 エドガーに会う それ以外は不明】
【ジタン:所持アイテム:仕込み杖、グロック17、ギザールの笛 現在位置:神殿
第1行動方針:ハーゴンの授業を聞く
第2行動方針:サマンサとピサロの殺害 最終行動方針:仲間と合流、ゲームから脱出】
【マゴット(MP残り僅か、左目負傷・睡眠中) 武器:死神の鎌 現在位置:神殿
第1行動方針: 睡眠し、体力・魔力の回復
第2行動方針:ハーゴンに呪法について習う 第3行動方針:ゲームから脱出、仲間と合流】
(授業は執務室前の廊下で行われます)