229 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:03/01/25 19:15 ID:lp/dCVgD
キッチンまで、ぼりぼりと頭を掻きながら歩いてゆく。
朝食がなかった。
一度だけならまだしも、二日続きで。
流しを見ると、ひとり分の食器だけが、浸け置きしてあった。
それは間違いなく由起子さんのものだった。
彼女は、自分の分の朝食を食べ、そして出かけていったのだ。
もしかしたら、何かの話しの行き違いがあったのかもしれない。
だがここ最近、由起子さんには会っていないし、その日常の繰り返しに変化が起きるほうがおかしい。
浩平(………)
一度、会って話せばいい。
会って話して、どうして朝食を作っておいてくれなくなったのか、聞けばいい。
案外簡単な理由かもしれない。
そろそろ自立しなさい。
由起子さんなら、ありそうな話しだ。
彼女自身が自立した女性であるし、オレにもそろそろ自分のことは自分でしろと。
なら、書き置きのひとつぐらいあってよさそうなものだ…。
………。
250 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:03/01/25 19:16 ID:lp/dCVgD
自分が急速に消えゆく感覚。
それはまるで、遠い昔に描いた夢のようだった。
ずっと昔。
それは幼い日の戯れだ。
浩平「望んだ世界が生まれていたとして、そうしたら、どうなると思う?」
オレは唐突に話しを切り出した。
長森「望んだ世界…?」
浩平「そう。例えばこうだ」
浩平「小さなときに、お菓子の国のお姫様になりたいと強く思っていた女の子がいたんだ」
長森「あ、わたしがそう。そんなこと思ってたよ」
浩平「時が経って、ほんとうにお菓子の国は、その子の強い願望によって生まれていたんだ」
長森「そんなことあるわけないよ」
浩平「あったとしたら、だよ。想像力を働かせろ」
長森「あ、うん…」
浩平「すると、どうなると思う」
長森「女の子は選ぶんだろうね。その国に移り住むのか、あるいはここに残るのか」
255 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:03/01/25 19:17 ID:lp/dCVgD
選択肢なんてあるのだろうか…?
違う…。この物語には第三者が居たはずだ。
浩平「王子様がいるんだ、その国には」
長森「うん」
浩平「盟約を交わしていたんだよ。一緒に暮らすっていう」
長森「うん」
浩平「条件が変わった。すると、どうなると思う」
長森「うーん…そうなると、その国に強制的に連れていかれるんじゃないかな」
浩平「するとオレは…いや、女の子は、この世界ではどうなると思う」
長森「いなくなるんだよ」
オレは刹那、薄ら寒さを覚えた。
すると、なんだ。
オレは今からこの世界から消えてなくなろうとしているのか…?
そんな子供の戯れ言のようなおぼつかない口約束が、現実にオレの存在を危うくしているというのか…?
まさか…。
しかしオレは実際、その過程上にいるじゃないか。
由起子さんに忘れ去られて…長森にだって、オレは記憶を曖昧にされている。
本当に、あの遠い空の向こうへとオレは旅だってしまうのだろうか…。