勝手なFF小説の部屋 2

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205砂漠の王と風の覇者1
 三闘神とケフカが消滅した世界から魔法は失われ、それと引き替えに人々は平
和と緑を取り戻した。
 あれからちょうど、一年の月日が流れていた。


 旧ベクタ上空――瓦礫の塔跡地――へ、仲間達を乗せた船がさしかかった頃。
「おい、そろそろ着くぞ」
 飛空艇ファルコンの操縦桿を握っていたこの船の長でもあるセッツァー・
ギャッビアーニの声が船内に響いた。
「……着いたか」
 彼の声に従い、甲板へ次々と姿を現す懐かしい顔ぶれに、思わず表情がゆるむ。
「それじゃあ、始めましょうか」
「ええ」
 セリスの一言で、皆がそれぞれに持った花を甲板から地上に向けて投げ落とし、
祈りを捧げた。ケフカの暴走によって命を落とした多くの人々――そして、
瓦礫の塔から唯一戻らなかったシャドウ――を、弔うために。
206砂漠の王と風の覇者2:03/03/13 02:56 ID:AbIGCR3E
「インターセプター、元気だよ」
 地上に向けてリルムが囁く。
「今はワシの家で一緒に暮らしておるゾイ」
 ストラゴスがその後に続く。
「……正直、俺まだ信じられないんだ。お前、あんなに強かったのに……」
 魔列車やドマでの出来事を思い起こしながら、マッシュも呟く。
「お主が最期に……最後に見つけた物が。お主にとってそれが得た物だったとし
ても、拙者には納得いかないでござるよ」
 ――“友と家族と……”――そんなシャドウの言葉が、カイエンの脳裏によぎ
ると、思わず声を詰まらせた。
「何だかんだ言いながら、炎の中から救い出してくれたり」
 目を閉じ、サマサでの記憶を巡らせながら語るセリス。
「俺達と違う方法でも、同じ目標を追いかけてたんだよな」
 それに続くのはロック。
「……あなたの持っていた思いを、素顔を……見てみたかったわ」
 そう言うとティナは俯いた。
 それぞれ黙祷を捧げながら、旅路の記憶を語った。訪れたしばしの沈黙の後、
徐々に緑豊かになりつつある世界を眼下に見ながら、飛空艇ファルコンはその地
を後にしたのだった。

207砂漠の王と風の覇者3:03/03/13 03:05 ID:AbIGCR3E
          2

 久しぶりに集った仲間達は、互いの無事と再会の喜びを分かち合った。いつ
終わるともなく続く談笑の輪を抜け、一人操縦桿を握り続けていたセッツァーの
もとを、リルムが訪れる。
「セッツァー、どっか町に降りたら? そしたらみんなとお話できるじゃん!」
 その声の主を見下ろすようにセッツァーが振り向く。
「……そんなに時間はないだろ」
 今日集まれたのだって全員ではない。時間の都合が合わず、この場にいない者
もいた。ものまね士ゴゴに至っては行方知れずである。
 しかしこうなるのは必然的だし仕方がない。それぞれが自らの道を見出し、新たに
歩み始めている証拠。そう考えると逆に喜ぶべき事なのだろう。そんな事を考えながら
彼は操縦桿を握っていた。
「だけどさぁ、折角こうして集まったんだからセッツァーも……」
「気にするな。大体俺は誰かさんと違って口達者じゃないからな」
 素っ気ない素振りは相変わらずだなと内心でリルムは思いながら。
「誰かって?」
「さぁな」
 そう言うと、横でふくれっ面になるリルムを無視して再び進行方向へ顔を向け
操縦を続けるのだった。次にこの飛空艇が降りる町で、ロックとも別れる事にな
っているのだ、手を休める訳にはいかない。
208砂漠の王と風の覇者4:03/03/13 03:08 ID:AbIGCR3E
「……ねぇ、色男は来なかったの?」
 しばらくして聞こえて来た声に、まだいたのかと言わんばかりにセッツァーは
視線だけを動かしてリルムを見やる。
「ああ。マッシュの話じゃ、あいつ自身はここへ来る事を相当楽しみにしていた
みたいだがな。国王様は忙しいらしい」
 僅かに皮肉を込めた声で言った。
「女の人口説く方じゃなくて?」
 こちらは明かな皮肉だった。
「その口振り、相変わらずだな」
「生意気って言いたいの?」
「さぁな」
 先ほどとまるで同じ返答に、リルムはまたもふくれっ面になる。その様子を
目の当たりにしたセッツァーは、こみ上げてくる笑いを隠す事はせずに、ストレートな
感想を口に出した。
「まだまだガキだな」
「ふん! オッサンに言われたくないね」
「お前みたいなガキが大人の魅力を知るには、まだ早過ぎだ」
 12歳になったリルムだが、同じように自分も2歳老けていた事を思いだし、思
わず苦笑するセッツァーだった。
209砂漠の王と風の覇者5:03/03/13 03:18 ID:AbIGCR3E


「セッツァー、今度また物資運搬手伝ってくれるか?」
 最後に訪れた地サウスフィガロでマッシュを降ろすとき、さり気なくそんな事
を言われた。
「言っとくが俺だって暇じゃないからな」
「分かってるさ。それじゃそん時にまた!」
 フィガロ国王の弟マッシュは城には入らず町で奮闘しているらしい。建築や土
木工事から地域に密着して国と兄を支えてる、実に彼らしいやり方だと皆感心し
ていたものだ。
 それはセッツァーも同じだった。口振りとは裏腹に快く彼の申し出を引き受け、
サウスフィガロを後にする。後は自分の住処――と言っても、彼の場合は飛空艇
そのものが家同然だったが――へ戻るだけなので気が楽だ。
 帰途につくべく進路をジドール方面へ向け、飛空艇は離陸した。この先はまた、
しばらく気楽な一人旅が始まる。
 ……予定だった。
「ねえ!」
 気がゆるんでいたことも手伝って、突然耳に響いた少女の声に酷く驚いた。普段は
それ程感情を表に出さない怜悧な顔が、驚きと不審でわずかに歪んだ。
「……リルム。何でまだいるんだ?」
「隠れてた」
 聞きたいのはそう言う答えじゃない。とセッツァーが口を開こうとした瞬間。
「フィガロ城に行きたいの。連れてってよ」
 思いがけない言葉を耳にして、セッツァーは困惑した表情を浮かべたのだった。
210砂漠の王と風の覇者6:03/03/13 03:22 ID:AbIGCR3E
「……は?」
「良いじゃない。ついでなんだし」
 帰途にフィガロ城はない。と反論する間もなく、リルムは操縦桿を握る。
「何なら私の運転でも良いわ」
「待て!」
 それだけは危険だと直感と勘が告げていた。セッツァーは丁重に、だが確実に
ファルコンの操縦権を取り戻すと、あからさまに安堵の溜息を漏らした。
「あのねぇ……」
 その様子に異議を唱えるリルムだったが、先手を打ったのはセッツァーだった。
「分かった。お前と口論する気にはなれん。連れてってやるが……フィガロ城に
何をしに行くつもりだ? 行ったところでエド……」
 しかし、言葉が終わらないうちにリルムはそれを否定した。
「ちょと! あんな色男に用があるワケじゃないわよ!!」
 いつになく強い口調で否定する姿に、納得したようにセッツァーは微笑しつつ
頷いた。
「分かった分かった。行ってやるから少し黙ってろ」
「あ〜もう違うって! ちょっと聞い……って!?」
 途端に飛空艇が大きく傾く。何の前触れもなく襲った揺れに、危うく転げそう
になる身体を寸での所で踏み止まった。
「旋回するぞ、コケたくなかったらその辺に捕まってろ」
「する前に言えーーーーっ!」
 リルムの激しい抗議の声を響かせ、飛空艇は急きょフィガロ城へと進路を向け
て進むのだった。

211砂漠の王と風の覇者7:03/03/13 03:27 ID:AbIGCR3E
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「……夢を見たの。とっても不吉な夢だったわ」
 フィガロ城が崩れ落ちる夢だった。まるで砂で出来た城のように脆く、やがて
跡形もなく砂漠に没するその光景が、目に焼き付いて離れないのだとリルムは言
った。
「たかがそれだけの理由か?」
 呆れたように笑うセッツァーを睨み付けながら、相変わらず反抗的な口調で抗
議する。
「うっさいな。……女の勘は当たるのよ」
「ほー、『女』とはいっちょ前に」
「なにをー!?」
 右手に拳を作ってさらにきつく睨み付けるリルムを横目に、だがセッツァーは
愉快だと言った表情で笑った。
「その頑固さと行動力は、たいしたもんだ」
 予想もしなかったセッツァーの言葉に、思わず拍子抜けした声で問い返す。
「え?」
「ギャンブラーになる素質十分だ」
「……そういうコトかよ……」
 誉め言葉かとちょっとでも期待を抱いてしまった自分がバカだった――セッツ
ァーの言い分とすれば貶している訳でもないのだが――と、肩を落とすリルムを
見ながら、セッツァーはまた笑うのだった。
212砂漠の王と風の覇者8:03/03/13 03:34 ID:AbIGCR3E
 それから程なくして、フィガロ城上空にさしかかる。
「一番近いルートで砂漠を越えられる所に降ろしてやる。それで良いな?」
「ありがと」
 短く礼を言って手すりの方へ駆け寄ると、眼下にそびえるフィガロ城を眺めやる。
 リルムが異変に気付いたのは、その直後だった。
「あれ……?」
「どうした?」
 取り立てて重要なこととは思わなかったが、一応何かとセッツァーは尋ねた。
その問いに返された答えは、まったく予想外の事態を告げるものだった。
「城の周りに兵士が……たくさんいる」
「兵士?」
「うん。まるで城を取り囲むみたいに」
「…………?」
 気になったので操縦桿を固定してから、セッツァーも手すりの方へと歩み寄る。
リルムと同じ方向に顔を向けると、言われた通りの光景が目に飛び込んで来た。
「あんな数の兵士が、城の周りで一体何を……?」
 明らかにおかしな光景だった。城門は閉ざされ、その周囲を多くの兵士が取り
巻いていた。だがこの高度からだと、それ以上詳しい様子を伺い知る事は出来ない。
「……あれ? 何だろ」
 リルムはそんな人集りの中から、一人駆けだした兵士の姿を見つけた。
「……何かやってる?」
 その兵士は少し離れた場所でくるくると回っている。まるで何かの踊りを踊っ
ている様に見えて、その姿がリルムの笑いを誘う。
「おい、ちょっと待て」
 しかし、暫くしてセッツァーが深刻な声を漏らした。振り向いたリルムは彼の
表情から、ただならぬ事態なのだと察知する。
「これは――救難信号?!」
 正確には少し違うのだが、少なくとも何かが起きている事を地上からこちらに
知らせたい事は確かだった。
「リルム、すぐ降りるぞ!」
「わかった!」
 声と共にセッツァーは固定していた操縦桿を再び握ると、飛空艇を急降下させた。
213砂漠の王と風の覇者9:03/03/13 03:40 ID:AbIGCR3E


 幸いなことに、その兵士とはすぐに出会う事ができた。お互い息をきらせては
いたが、それでも兵士の言葉を聞いた直後、彼らの疲労感は一気に消え失せた。
「……じ、実は城が占拠されてしまったんです」
「!?」
「それも、王を人質に取られています」
「エドガーが人質!?」
 そんなことはあり得ない。と、二人はほぼ同時に叫んだ。そんな彼らに気圧さ
れながらも兵士が続ける。
「ど、どうやらクーデターだと思われますが、今のところは何とも……」
 二人はこの類の話が得意な訳ではなかったが、この状況が非常にマズイと直感
的に感じた。犯人の要求は、国王の命そのものなのだろうと。
「サウスフィガロにマッシュがいるよね!」
「事態は一刻を争います。できれば我々が……」
「手出しできねぇから俺達に知らせたんだろ!」
「しかし……」
「迷ってる場合じゃないでしょ!?」
「あっ、は、はい」
 狼狽しきった兵士とは対照的に、二人は勢いづいていた。
「セッツァー、サウスフィガロまでどのぐらいかかる?」
「……20分……いや、15分で行ける」
「15分……いいわ、行きましょう!」
「よし、戻るぞ」
 飛空艇へ向かおうと踵を返すセッツァーの背に、リルムの声が飛んだ。
「セッツァー! マッシュを連れて15分で必ず戻って!」
「なっ!?」
 この時、なぜリルムがここに残ろうとしていたのかは分からなかった。だが、
強い意志の宿ったその瞳を見れば、自ずと言葉が出てくる。
「……任せておけ! 必ず戻る」

 こうして、フィガロ城奪還作戦は幕を開けたのだった。