「あのヒヒじじい、余計な事を」
あのまま大人しくスクラップ置き場でくすぶっていればしばらくは見逃してやったものを、
肉欲目当てで襲うのならまだしも、参加者に憑依するのはいくらなんでもやりすぎだ。
そんな内心の焦りを、おくびにも出さず、エビルマージはピエールへと厳かに告げる
「まぁ、良く考えることだ、このまま単なる哀れな魔物で終わるか、それとも己の手を汚してでも
再起に賭けるか」
黙り込んだまま、わなわなと身体を振るわせるピエールを残し、エビルマージは姿を消して
スクラップ置き場へと向かった。
スクラップ置き場までは特に何事もなく辿り着く。
その扉を明けた瞬間、おびただしい魔素が溢れ出す。
「このような場所で魔法陣を……」
精神憑依の魔法は多大な魔力を使う、その痕跡がここにはまだありありと残っている。
「身体だけ隠しても無駄ですよ……」
その残り香をたどり、エビルマージはゴミの山を掻き分けて行く。
案の定、エビルマージの足元になにやら柔らかいものが触れる。
「シャナク」
呪文が効力を発動し、エビルマージの足元に眠りこけるアークマージの姿が現れた。
他者の肉体に完全に精神を移植させる、そんなことはいかに魔族でも不可能だ。
噂では高位の竜族は転生することで知識や記憶をある程度、保つ事なら出来るらしいが、
それでももう1度赤ん坊からやりなおす事になってしまうし、新たな環境の中では、
本来の人格は失われる可能性が高くなる。
肉体が滅べば精神もまた滅ぶ、万物に対してのその大前提は決して覆らない。
少なくともエビルマージが考える限りでは。
ともかく今、アークマージの命は、完全にエビルマージの手中にあった。
わずかに脈打つ心臓、1突きすればそれで終わる。
エビルマージは無言で短剣を振り上げるが、その時ふと一計を思いつく。
それはまさに妙案だった、もしかすると自分はトンでもない事をしでかしたと後で思うのかもしれないが、
少なくとも今は名案に思えた。
エビルマージは短剣を引っ込めると、かわりにアークマージのローブに火をつける。
それから数分後……
「うわっちゃっちゃっちゃ!」
中身がアークマージのセーラが転がるようにスクラップ置き場へと戻ってくる。
胸をはだけ、スカートを半分ずり下ろしたその姿を見て、エビルマージはこの老人が、セーラの身体で
何をしていたか、瞬時に理解した。
(この下衆が……)
この一族の恥を、今すぐ殺してやりたいところであったが、ここは我慢だ。
エビルマージはアークマージがこちらに気がつく前に、土下座し大声で詫びるのであった。
「叔父上!お許し下さい!」
「ゾーマめの監視がきつく、ついあのような真似をしてしまいました!本気でかからねば奴らの目を、
ごまかせないと思いましたので!」
アークマージは何が何だか、という風にきょとんとしている。
「生半可な攻撃では叔父上には勝てぬと思い、本気を出させていただきました!
しかし叔父上、あの小娘には遅れを取ったとはいえ、お強い!、いやあの小娘とて本来は
叔父上の研究の成果!改めて感服いたしました!」
性欲ばかりが先走った、その衰えた頭脳では甥っ子のヨイショ攻撃に対抗はできなかったらしい。
「おお、そうかそうか、ワシは最初からとうに見抜いておったぞ、くくくワシは良い弟子を持ったわ」
アークマージはたちまちご満悦となり、だらしない笑顔を浮かべる。
「しかし安心してはいられませんぞ、叔父上は疑われておりまする、お逃げ下さい、出来るだけ目立たぬように」
「そうじゃ、大事な身体でのう、自重せねば」
エビルマージは毒々しい赤色のキメラの翼を数枚手渡す。
「私はともかく、ここでは移動系は使えませぬ、これを……」
「ようやってくれた、当然じゃがの!これからもワシに尽くせ、さすれば世界の50分の1くらいならくれてやるでの」
(下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、)
今、この場で縊り殺してやりたいのを必死でこらえながら、震える声でエビルマージは頭を下げる。
「有り難き……幸せ」
「では早速逃げるとするか、ああそれから今度会うときはワシの下半身を作りなおしてくれよ、この娘を
犯しそこなってしもうたわ、ぐふふふ」
こうして捨て台詞を残し、アークマージは去って行く。
その姿を見送りながら、エビルマージはようやく一息つく、あと数秒奴が立ち去るのが遅ければ我慢できず、
この場で殺していたであろう、だが。
これでよい、あのジジイは自分の権力と生命に対する執着だけは人一倍なので、余計なことさえ考えなければ、
しばらくは大丈夫だろう。
万が一、参加者の手に落ちても機密なぞ何も知らぬから痛くも痒くも無いし。
「せいぜい逃げ延びてください、イザというときの犠牲の羊としてね、と、ここからが肝心だな」
エビルマージは水晶球を操作して、ゾーマを呼び出し、その姿が現れると同時に平伏する。
『何事だ、エビルマージよ』
「ゾーマ様、戦場に勝手に降り立ち、その後潜伏中のアークマージですが、どうやら叛意の兆しがある模様」
それを聞き、ゾーマはわずかに唇を歪める。
『ほう、それは遺憾な事であるな、あの者、衰えたとはいえかつては我が腹心の1人
本当ならば甚だ残念なことよ、分かった…追っ手を差し向けるとしよう』
「追っ手の件ですが、この私めにその役目を与えては下さいませぬか?」
「ほう?理由を聞こうか」
「はい、今ここで派手に動きましては参加者たちに変事を悟られる恐れがございます、
それで『宴』に影響が出ては元も子もありませぬ」
「さらに言うのならば、これは我が一族の問題でもあります、なればこそこの目、この耳でまず最初に真実を
確かめ……もし、叛意が確実ならば、私自身で……」
嘘は言っていない、強いて言うならアークマージを探すつもりなぞ毛頭ないと言う事くらいか、彼が探したいのは……。
『よかろう……ならばやってみるがよい、貴様に我が城と戦場との自由往来を認めようぞ』
「有り難き幸せ、手はずが整い次第、早速」
そう言い残しエビルマージは通信を切る、上手くいったと心の中で小躍りしながら。
続いてエビルマージは人気が無いのを確認して、セーラを担いでスクラップ置き場を出る。
彼女はこちら側にとって貴重な駒の一つだ、自分の意思で『乗って』いるのだから。
「そういえばこの娘、武器はどうした、さては叔父上め、何処かに落としてきたな」
拾って手渡してやっても良いのだが、そこまでしてやる義理も無い。
かわりに自分が持っていた短剣、アサシンダガ−を懐の中に入れてやる。
「ここらでいいだろう」
エビルマージは手ごろな場所でセーラを下ろして姿を消す。
未だに気を失ったままのセーラだったが、しかし、
セーラの中にはわずかな時間だったとはいえ、魔族の精神が宿っていた。
それは彼女の表面的な人格や感情に表れることはないにせよ、深層心理下で行動に影響を与えることは必至だろう。
そして同じ頃玉座では、
「エビルマージよ、焦りは無いにせよ今のはちと強引だな」
ほくそ笑みながらゾーマは指先で銀色の何かを弄ぶ、それは参加者たちにはめられた首輪だった。
「貴様の首にもこれが嵌るのが近いと見たが……はたしてどうかな、せいぜい楽しませてもらおう」
【ピエール 所持武器;珊瑚の剣 現在位置;神殿 行動方針:不明】
(結構迷ってます)
【セーラ(気絶中) 所持武器:アサシンダガー 現在位置:神殿 行動方針:騎士様を探す&皆殺し】
(ブレイズガンは神殿内に放置)
(アークマージはロンダルキアの何処かにいます)
訂正
>>435 「ようやってくれた、当然じゃがの!これからもワシに尽くせ、さすれば世界の50分の1くらいならくれてやるでの」
(下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、下衆、)
今、この場で縊り殺してやりたいのを必死でこらえながら、震える声でエビルマージは頭を下げる。
「有り難き……幸せ」
「では早速逃げるとするか、ああそれから今度会うときはワシの下半身を作りなおしてくれよ、この娘を
犯しそこなってしもうたわ、ぐふふふ」
こう捨て台詞を残し、アークマージは自分の身体に戻り、キメラの翼(特別製)を使い
いずこかへと去って行った。