257 :
保管庫2:
雪崩に巻き込まれた後、とんぬらとルーキーは山沿いに南へ移動した。
ライアンとアイラを探したいのは山々だったが、雪崩が起きたばかりの山に入るのも躊躇われた。
それで、こうして山の入り口付近を巡回して、二人がやってくるのを待っている。
勿論、ヘンリーともう一人、アグリアスがやってくる可能性もあったが、
(ヘンリーは止める。殺してでも)
腰に佩いた剣を撫でる。その目に迷いはない。
ヘンリーは親友だ。それは今でも変わらない。だが、今の自分には子供がいる。
子供のためならば、何でも出来る。それが親というものだ。
(そうだよね、父さん…)
一方、ルーキーは不安げだった。
ライアンとアイラの戦闘力が優れている事はわかっているが、
アイラはともかく、ライアンは非常にお人よし…悪く言えばオメデタイなところがある。
とにかく、策略とか駆け引きが似合わない人だ。それ故に、こんな状況では不安だった。
そうこうしているうちに、二人は湖の辺に出た。
南、湖の向こうにはなだらかな平原。東には湖を横断するように伸びた陸地と、橋が見える。
「なんだか、すんなり移動できちゃったね」
ルーキーは何となく納得できない口調で呟く。
それもそうだろう、森の各所に設置された魔術装置、あれだけ悩まされて山登りまでする事にしたのに、今はまったく迷わなかったのだ。
「そうだね。今は装置が働いていないみたいだ」
「でも、なんでだろ…誰かが止めた、って事はないよね。あれは単体でも起動するみたいだから」
「…迷った時は四人で、今は二人だから…」
「?」
「あるいは、僕と君以外、つまりはライアンさんかアイラが迷わせていたか。
色々原因は考えられるけど、とりあえず迷わされることはないってことだけは確かだね…」
それだけ言うと、とんぬらは腰から剣を抜いた。
258 :
保管庫2:02/12/26 00:33 ID:6FOhHtf3
「とんぬらさん…?」
「出てきたらどうだい?…って前にもこんな事いった気がするけどね。
出てこないなら、こちらから行かせて貰う」
けして荒げているわけではない、だが有無を言わせぬ力強さでとんぬらは言う。
ルーキーは、とんぬらが見ている木陰に何者かの気配があることに、ようやく気付いた。
急いでブーメランを取り出し、構える。緊迫した空気が周囲を満たした…気がした。
「…?あれ?」
最初は小さく、次第に大きく。木陰の向こうでなにやら言い争う声が聞こえてくる。
動きも段々激しくなっていく。木陰の向こうから、ちらちらと人影が見えるようになった。
「あの、なんか揉めてない?」
「みたいだね…どうやら敵ではないようだけど」
そして遂に、木陰から人の姿が完全に出た。
紫の髪の女の子。おかっぱに黄色いマント。
それを追って出てきたのは亜麻色の髪の妙齢の女性。ただし服装はマントの下にレオタードのみ。
「こら!危ないからでてっちゃダメだってば!」
「ヤダヤダヤダヤダやだぁっ!!離して、離してってばぁ!」
じたばた暴れる女の子を、何とか押えようとする女性。
とんぬらは、震える唇で呟いた。
「………アニー…?」
二人の女性が、とんぬらを見る。見る見るうちに女の子の瞳に涙が溜まる。
女の子は女性の手をすり抜けると、そのままとんぬらの首元に飛びついた。
「お父さん、お父さん、お父さん、お父さん、お父さん、お父さん!!!
うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーん!!!」
大声で泣きじゃくる少女、やや戸惑いながらも抱きとめる父親、唖然とする傍観者二人。
こうして、離れ離れになった父と娘は再開する事が出来たのだった。
259 :
保管庫2:02/12/26 00:48 ID:Be+ZQKqF
「でも、とんぬらさんに子供がいたって本当だったんだねぇ」
ルーキーはしみじみという。とんぬらは苦笑しながら、自分のマントの端を握ってベソをかいている娘の髪を、優しく撫でた。
「まぁ…ともあれ、めでたしめでたし、かしら?」
アリーナは、複雑な気分になっていた。傍目同世代の彼が、アニーの父なのである。
自分は恋愛だとか、そう言ったことに興味なかったし、まだ早いと思っていた。
だが、すでにこうして、子供がいる同世代もいるのだ。どうしても意識してしまう。
そんなわけで、同世代の男の娘が10歳であることの疑問点にはとりあえず気付かなかった。
それから、お互い意見の交換を行った。
ルーキーはゲーム開始当初からライアンと共に行動していたこと、
最初、アニーとクーパーは一緒にいて、パパスに守られていたこと、
パパスと逸れたこと。色々あって、クーパーとも離れ離れになったこと。
つい先程雪崩に巻き込まれ、ライアンの行方が知れないこと。
一通りの意見の交換を終えた後、とんぬらは静かに目を閉じ、口の中で呟く。
「そうか…父さんが、アニーとクーパーを………」
一方、アリーナはパン、と拳を合わせた。そして、湖の向こうを見る。
「ライアンと合流できなかったのは残念だけど、仕方ないか」
そして、踵を返す。
「アリーナさん?」
「アニー、あなたはお父さんと一緒にいなさい。私は行くから」
「一人で?」
「止めなきゃいけない奴がいてね。そう、倒してでも絶対に止めてみせるわ」
ソロ。緑の髪の勇者。自分のもっとも頼れる仲間、だった…
瞼を閉じればまだ思い出せる。ムシケラのように、人を殺してケロリとしているあの顔。
人を殺めながら自分は悪くないとあっさり言ってのける甘ったれた顔。
拳を握り締める。そして唇を強くかんだ。
「そういうことだから。私、行くわ」
260 :
保管庫2:02/12/26 00:50 ID:Be+ZQKqF
アニーは父を見上げた。困惑した娘の顔に、とんぬらは一つ息をつく。
「わかりました。これまで娘を守っていただき、ありがとうございます」
「どういたしまして。それとこれは忠告だけど、ソロって奴にあっても、けして信用しちゃダメよ。外見は緑色の髪で私と同じ年頃だから、すぐわかると思う」
「では、僕からも。ヘンリーという男に注意してください。緑色の髪で、年頃は僕より一回り上ぐらいです」
アニーが息を飲んで自分を見ている。それを感じながら、言葉を続ける。
「そいつは、完全にゲームに乗っています。話し合いだとか、そんな馬鹿な事は考えないで下さい」
「…OK。おぼえておくわ」
「それから」
「まだなにかあるの?」
とんぬらはアリーナの姿をさらりと眺めてから、いった。
「風邪ひきますよ、その格好だと」
「………」
アリーナは以前娘に話した事をそっくりそのまま父親に話すことにした。
そんなにこの格好は寒そうに見えるのだろうか、と少し疑問を感じながら。
ともあれ、アリーナは一人、雪を蹴って駆け始めた。森の向こうに消えていく彼女の姿を見送る三人。
「お父さん…」
「大丈夫、また会えるよ」
「……はい」
「僕たちも行こう。クーパーを探さないと」
「はいっ!」
【アリーナ 所持武器:イオの書×4 リフレクトリング ピンクのレオタード
現在位置:祠の西の森、南の平原へ 行動方針:ソロを止める(倒してでも)】
【とんぬら(DQ5主人公)/ルーキー/王女アニー
所持品:さざなみの剣/スナイパーアイ ブーメラン/マインゴーシュ
現在位置:台地北の森と祠西の山岳地帯の境目あたりの湖畔
行動方針:王子を助ける、パパスに会う/ライアンと合流/クーパーを探す】