FFDQバトルロワイアル PART3

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バッツとクーパーが祠を出てから、もう二時間がたとうとしていた。
辺りは木が鬱蒼と生い茂っており、雪原のように雪が白く輝くこともない。
ただただ肌寒く、昼だというのに森の中はひどく暗かった。
それが関係しているのかはわからないが、
この間彼らに会話がなされることはほとんどなかった。
といって、二人の仲が拗れたわけではない。
短い時間とはいえこの異常な状態の中で共に暮らしていた二人は、既に沈黙なが苦になるような間柄ではなかった。
もっとも、時が経つに連れてバッツの顔が少しずつ険しくなっていくものだから、クーパーとしても話し掛けづらかったのかもしれない。

しかし北の森の中央部のあたりで、バッツは急に立ち止まったかと思うと空を仰いで言った。

「なあクーパー、俺、思うんだ」
なんの脈絡もない話にクーパーは目をぱちくりとさせたが、構わずに続けた。
「実は全部悪い夢なんじゃないかって」
バッツはクーパーの方へと向き直った。
「ほんとは、俺は今頃森の中で野宿してるんだ。
 タイクーンにいって、レナやファリスたちと会うために。
 そしてさ、着いたら、みんなと笑って最近のことを話すんだ。
 クルルは相変わらずガキで。レナはしっかりしてるけど、でもどこか抜けてて。
 ファリスは全然王女って柄じゃなくて、それを俺がからかうと怒るんだよ。
 そのくせ、王女なんて嫌だっていうんだよな。
 うん、それで、田舎には幼馴染みのあいつらがいて、暖かく俺のことを迎えてくれる。
 おやじたちの墓参りをしたあと、ボコと、またどこか旅にいく…」
そこまで一気に話すと、バッツは俯いて、
それを見やりながら、クーパーも口を開いた。
名前を聞いても誰かはわからなかったが、それがバッツにとってどういう存在なのかはわかる。
「僕も、同じようなこと考えたよ。でも…」
クーパーは須臾躊躇ったが、はっきりといった。

「これはやっぱり、夢じゃないよ」
2202/3:02/12/14 23:55 ID:aHyrUvLj
その声はやや絶望的な色を帯びていたものの、同時に現実から逃げることのない力強さも感じられる。
バッツは溜息をつきながらクーパーを見やると、クーパーはなにか思い出しているように見えた。
元の世界のことを思い出していたのか、それともいつかの夢のことを思い出していたのか、それとも…

―――ああ、そうだったな。クーパーはもう、大事な人を、一人失ってるんだ。

バッツは再び空を見た。
視界のほとんどは木で埋まってしまっけれど、辛うじて一部の青を見ることができる。
腰にささっている剣は最初ほどではないにせよ燦然と輝くなどということはなく、
そして今の自分ではこれ以上の光は欣求したところで得ることはできないだろうと諦観していた。
現段階では恐らく、クーパーの方が持ち主としては相応しいであろう。
バッツはそんな自分に対して苛立ちを僅かに感じていた。
こんな気持ちになったのは、彼らの気の持ちようの違いからきたのかもしれない。
自身が生き延びることよりもあの姉妹の命のほうが、天秤にかけるまでもなくバッツにとっては重かった。
ゲームを脱出することだって、彼女らを助けるという前提条件によるものである。
もっとも、現在のところ肝心の脱出手段が暗中模索の状態ではあるのだが…。

なんにせよ、彼にとって己の命に対する興味はさほどなかったといってよい。
そしてそれは、最初に懊悩したように自分の死を悲しむ人がいないと思いこんだ故に他ならないのだが、
今にしてみると、少なくともこの少年やパパス、祠においてきた皆がいる間は、
いかなることがあろうとも生きていたいという気持ちも少しずつではあるが彼の中にも生じてきた。
後はそれを決定づける「何か」が必要なのである。
無論、レナやファリスに会えば心情的な打開の道は開けただろうが、もはやそれも叶わぬことだ。
彼らが知る由もないが、既に二人とも逝去している残酷な訃音がもうすぐに伝えられる。
そのときが彼、バッツ自身にとって一つ目の山場となるに相違ない。
「レナとファリスの生存」という彼にとって不変の真理にも近かったそれが否定されるのだ。
2213/3:02/12/14 23:59 ID:aHyrUvLj
さらにやはりこの大地の神というのは相当に意地が悪いらしく、
先のミレーユとの遭遇の件もそうであったように、彼らが祠を南ではなく北へといったのもまた運命の擦れ違いである。
もしも南へと進んでいたならば、悲劇を知らされるまでに今もっとも会うべき人物に会うことができたであろう。
しかしながら、どのような運命にあっても彼はそれに抗しなければならない。
それこそがクリスタルに導かれたる戦士の所以なのだから。

しかしながら、どのような運命にあっても彼はそれに抗しなければならない。
それこそがクリスタルに導かれたる戦士の所以なのだから。

刹那、バッツはクーパーを見ると、視線を森の奥へ戻していった。

「放送までにはまだ時間があるはずだ。このまま、南の城へ行こう」

現実には、放送までの時間などほんのわずかなのだが、放送回数が増えたことなどを知るべくもなかった。
ただバッツたちが南へと向かうのは、性悪の神もようやくにして悪戯心をおこしたからだろうか?
そこには少なからず運命的な出会いがあるかもしれない。
もっとも、この冷ややかな地の主が最後まで気が変わることがなければ、だが…。
しかし、この鮮やかな雪原こそ不変のように見える中、それはきっと杞憂であろう、恐らく、多分。



【バッツ(魔法剣士 時魔法)/クーパー
 所持武器:ブレイブブレイド/天空の盾 現在位置:ロンタルギアの北西の森から南へ(中央の砂漠を通る)
 行動方針:アリーナ(アニー)、レナ、ファリス、とんぬら、パパス、エーコの仲間(名前しか知らない)を捜す。最終的にはゲームを抜ける】