FFDQバトルロワイアル PART3

このエントリーをはてなブックマークに追加
196バーバラ
「大丈夫?ケガしてない?」
緑の髪の、女の人。…あたしの知らない人。
「動かないで。今、ケアルかけるから」
向こうで誰かが、あの人と戦ってる音がする。
女の人が何か言ってる。体が少し、楽になる。
「これで大丈夫ね。待ってて、今アレを倒してくるから」
……あの人を、倒す?

「ダメ!やめて!あの人は怪物なんかじゃない!あの人は…」
「わかってる。…顔見知りよ」
「だったらなんで!なんでそう簡単に殺すなんて言えるのよ!あの人は人間なんだよ!?」
「こんな事、簡単に言えるワケないでしょ!私だって、アルス君だってつらいんだから!!」
「だけど、あの人はまだ生きてる。何か助けられる方法があるはずよ!」
「私だって彼女を助けたい!だけど、方法なんかないじゃない!!」

「だけど…。こんなの、間違ってる」
「他に彼女を止める方法は無いの。だから、私達やらなくちゃいけない」
「…………」
「この選択が正解だなんて私も思ってないわ。でも、コレしか私達に選択肢がなかった。
 どれが正解かなんて、後になってみないとわからない。ううん、正解なんて無いかもしれない。
 だけどね、つらい選択肢しかなくても、それを選ばないのはやさしさじゃない。弱さよ。」
「…………」
「あなたがどうするにしても、誰にもあなたを責める権利なんてないわ。
 彼女を助けようとしても、私達を止めようとしても、ここでじっと座っていても、
 私はあなたを責めない。だから、自分が後悔するような事だけはしないで」

「…あの人、私を殺してって言ってた。私が私であるうちにって。
 だけど、あたしは殺せなかった。自分が、あきらめる事を、知りたくなかったから。
 でも、あの人の最後の願いをかなえてあげたい。それが、あの人の望んだ事だから」
「そう。…ごめんなさいね。これは私達の事なのに、あなたをまきこんでしまって」
「いいえ、これはあたしが決めたことだから。あたしがやらなきゃいけない事だから」
197バーバラ:02/12/02 20:11 ID:???
「てやぁーーー!!!」
無意識に気合の声が出る。アルスは真横に剣を振るい、脚を切り飛ばそうとする。
しかしあえなく鱗に阻まれ、硬い感触だけがアルスの手に残る。
コレに対しリュックは、羽は切られてしまったものの全身が硬い鱗に覆われており、
ダメージはくらってはいない。時折強烈な一打を受け止めた時、鱗ごと斬られたりしているが
すぐに新たな鱗が再生する。攻撃は脚を五本使い、後の三本で体を支える。
多方向からの巧みな攻撃は、しかしアルスの防御技術には及ばない。 

一見互角のように見えるこの攻防は、アルスの方が圧倒的に不利だった。
硬い装甲、かなりの再生能力。アルスの攻撃はまず通じない。
もっと強力な攻撃ができるのであろうが、この隙の少ないこの攻撃が
一番有効なのを知っているのか、大技を使ってこない。もちろんこんな小技でも、
もし当たったりしたら戦闘不能は免れないだろう。

なにより、リュックの戦闘能力はアルスを上回ってはいたのだ。
しかし強烈な飢えと、この矮小な生物に対する侮りが、正常な思考を停止させていたのだ。
羽を再生して真空波を発生させれば、距離を取って大技を使うなりすれば既に決着はついていただろう。
そして、彼は失念していたのだ。自分の敵が、まだ二人残っている事。
そしてアルスの持っている天空の剣の力を。

(くそっ!攻撃が通用しない。魔法だって効いているようには……)
アルスは焦っていた。相手の攻撃をなんとかさばけているという状態なのにこちらの
攻撃が相手に通用しているようには見えない。
それにさっきティナの魔法に直撃していたはずなのに傷ついているようにも見えない。
効果的な攻撃方法が見つからないのだ。
(…なにか弱点があるはずだ。あきらめるな)
その時、何者かの声がアルスの頭の中に響き渡った。
198バーバラ:02/12/02 20:12 ID:???
『苦労しているようだな。お前の勇気に免じて、私が力を貸してやろう』
「だれだっ!?どこにいる!」
アルスは注意をそらしてしまい、相手の攻撃を捌ききれず、リュックの脚が肩をかすめる。
『油断するな。私はお前が持っている剣だ。』
アルスはなぜ剣が喋れるのかわからなかったが、今は目の前の相手に集中する事にした。

『それでいい。緑の髪の女が相手の背後から狙っている。一番脆い羽の付根だ。
 女の剣は相手の体を貫くだろう。相手が仰け反ったら、私を相手の体に突き刺せ』
(それって、あんたの力じゃないような……)
『まず、相手の脚を数本斬り飛ばせ。私の力ならできるはずだ。』
(うわ、聞こえてた)
『そして最後に雷を落とせ。仕上げは赤毛の女がやってくれる。作戦は既に女の方には伝えてある』
(わかった。この攻撃を捌ききったらいくぞ)

「たぁーーーーーー!!」
最後の連続攻撃の後のわずかな隙をぬって、剣を脚に向かって振り下ろす。
なんども硬い鱗によって無効にされたその攻撃は、なんの手応えもなく脚を斬りとばす。
「グギャアアアアアアアアアアアア!!!!!」
初めて聞くリュックの叫び。怒りに目を燃やし、猛烈に攻撃を繰り出す。
しかし大振りな攻撃は、アルスにはかすりもしない。
攻撃を避ける動きを利用して、また一本脚を斬りとばす。

(すごいぞ!王者の剣にひけを取らない。それに、なんて軽いんだ!)
リュックの攻撃はなおも続いていたが、本数の少なくなった脚での攻撃は
先ほどまでの命中率は持っていなかった。天空の剣が再び煌き、三本目の脚が宙に舞った。
『やはり脚の再生に集中しているようだな。コレでは羽を再生する事など
 思いつかないだろうな。次の脚を切り飛ばしたら、女が攻撃するはずだ』
「わかった。くらえ!!」
―――また宙に脚が舞い、今までで一番おおきな叫びが雪原に響き渡った。
199バーバラ:02/12/02 20:13 ID:???
『今だ!!私を突き刺せ!!!』
アルスはリュックの首に、深く剣を突き刺し、大きく間合を取る。
『魔法を!!!』
「ギガデイン!」「サンダガ!!」
魔を裁く雷帝の鉄槌が、体に刺さった二本の剣を伝い、リュックの体内をズタズタに切り裂く。
―――雷により炭化した体が崩れ去り、再び中から女性の姿が現れた。

「ごめんなさい。あたし、あなたを助ける方法を見つけられなかった。 だから、
 せめてあたしがあなたの最後の願いをかなえてあげる。絶対、地獄へはいかせない!!」

「クリスタルに込められし風の記憶。天界への道を照らし、闇に墜ちし死者を導く者よ!」

「フェニックス!!」
―――女性は、その炎をまるで愛しい者の様に抱き、ゆっくりと炎の中へ消えていった。

「…終わった……のか?」
炎の消えたソコには、この激戦を思い出させるモノは残ってはいなかった。
……リュックの死体さえも。
ただ雪原に突き刺さった二本の剣と、主を無くして佇んでいる腕輪があるだけだった。
バーバラは彼女のいた所をみつめて、彼女の為だけに、そっと涙を流した。
200バーバラ:02/12/02 20:14 ID:???
「あなたはこれからどうするの?」
あれから数十分。それぞれ異なる祈りをリュックに捧げ、それぞれ出発の準備をした。
「あたしはここから北に行きます。そこに、あたしの探している人がいるから」
目を少し赤くしていたが、その言葉と目には強い意思が感じられた。
「そうか。ティナさん、ぼく達も同行しようかと思うんだけど……」
「ええ。今は一人でも多く仲間が欲しいしね。このゲームを脱出するためにも」
ティナはゲームという言葉に、激しい怒りと嫌悪感を込めて言った。

「あたしの方からもお願いします。魔力が無くなってるから、
 あたしの方が迷惑かけちゃいそうですけど」
ただでさえ消費量の多い召喚獣を、慣れていないのに何度も使ったためバーバラの
魔力は枯渇しかかっていた。そして、精神的にも肉体的にも激しく疲労していた。
「元はといえばぼく達の責任だしね。つらい仕事を任せてしまってすまなかった」
「…あたしがやらなければいけない事だったんです。気にしないでください」

「…この腕輪、彼女のモノみたいね」
「…ティーダに渡してあげよう。彼女も彼にコレを持っていてもらいたいはずだから」

「この剣、急に喋らなくなったな。…電撃で壊れたかな?」
『失礼な。その必要がないだけだ』
(うわ、生きてた)「さっきは助かったよ」
『…。一つ頼みがある。私の主を探して欲しい』
「どんな人だ?」
『資格がある者なら、自ら私の所へ来るはずだ。お前は私を持っていればよい』
「わかったよ。恩人の頼みだしな」
『わたしは人ではない』

三つの人影が砂漠へと消えていった。この雪原の戦いの傷跡は、彼等の心の中にのみ残っている。
201バーバラ:02/12/02 20:16 ID:???
【アルス/ティナ: 所持武器:対人レミラーマの杖・天空の剣・黄金の腕輪/プラチナソード 
 現在位置:ロンダルキア中央砂漠から南 
 行動方針:仲間を探す/謎の少年(テリー)の手にかかって殺される】
【バーバラ:所持武器:果物ナイフ・ホイミンの核・ペンダント・メイジマッシャー 
現在位置:ロンダルキア中央砂漠から南 行動方針:北に】


―――闇に包まれた部屋。数多くの実験器具と装置。エビルプリーストの研究室
ここには人知をはるかに超える技術があふれている。背徳的な実験がこの部屋で数多く繰り広げられてきた。
部屋の中を照らすのは、部屋の中に直立している水晶の筒から漏れるわずかな光のみ。
その空間に、誰かの独り言が響いていた。
「…やっぱり強制送還方程式組んどいてよかったよ。おかげで大事なサンプルを
 失わないで済んだしね。小娘があの腕輪を拾ってから方程式がバグって効かなく
 なってたけど、外れたら正常に動作したし。まあ、結果オーライってとこかな」
この一つ目ピエロ……エビルプリーストの使い魔にして分身。生まれてまだ3日だが。
彼の見ているケースの中には、一人の女性―――リュックが入っていた。

「進化の秘法を行使していたみたいだからね。いろんなデータがとれるだろうし。
 取り終わったら、ゲームに戻すのもよし。別の実験に使うも良し。それに、
 こっちの新しい生物に合体させるのも良しってとこかな?」
口の形が笑みの形に歪む。愛らしい子供のように。
「さっさと修理して、データ取っちゃおっと」
リュックの入っているケースに、新たな液が加えられた。

【リュック :所持武器:なし 現在位置:エビプリの研究室 行動方針:なし 】