FFDQバトルロワイアル PART3

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158リュック
「…う〜ん。…あれ?ここは…」
リュックは目を覚ました。いつの間に気を失っていたのだろう。
しかし、今はそんな事はどうでもいい。今いる場所は見覚えのある、
いや、自分の家と言ってもいい場所。飛空挺の中の、休憩室。
「あら、リュック。目を覚ましたのね」
「ユウナン!?」
「どうしたの?狐に化かされたような顔して」
「…えーと」
(なんで?私、あのゲームに参加してたはずなのに)
「ふふ、大丈夫そうね。うなされてて心配だったんだから」
(そう、なの?あれは全部夢だったの?)

「ちょっと待ってて。今、食べる物持ってくるから。おなかすいてるでしょ?」
「あ、うん。お願い」
部屋から出ていくユウナの背中に、なんとか言葉をかけた。
部屋の中に誰もいないのを確認して、リュックはベッドから出た。
腕を伸ばしてみる。あの腕輪はもちろん無い。意識を集中してみる。別にヘンなトコは無い。

「…ぜんぶ、夢だったの?」
飛空挺の駆動音が、質問に答えてくれる。YESと。
「あ〜もう、ヤな夢だった。」
思いっきりベッドに仰向けに倒れこむ。あのバカらしいゲームも、銀髪の剣士も、
怪物になった自分も、…アーロンを殺してしまいそうになった事も、夢だったのだ。
みんながいる。いつもと変わらない、新しい今日が始まる。あたり前の事なのに、すごく嬉しい。
そして、長く大きな腹の音がリュックの思考を停止させた。外から美味しそうな匂いが漏れてきた。
159リュック:02/11/29 19:17 ID:???
「はい、今日のお昼ご飯。いくらダイエットしてるからって残しちゃだめよ」
(ダイエットなんかしてたっけ?まあいいや。すごくお腹すいてるし)
ユウナの持ってきたトレイの上には、ジューシーな音を立てているステーキとワインが乗せてあった。
「うわぁ、おいしそう。」
「ふふ、お代わりあるからたくさんたべてね」

「いっただっきまーす」
歓喜の声も高らかに、ナイフとフォークを巧みに操って肉を一口大に切り分ける。
中にまだ赤い部分が残っているレアステーキ。耐えきれずフォークに突き刺さったそれを口に運ぶ。
「…おいしーコレ!!」
中まで巧みに火の通った完璧なレアステーキ。味、風味、食べごたえ、どれも完璧。
フォークとナイフがきらめき、あっという間に食べきってしまった。

「ユウナン、おかわり!」
「はいはい。すぐに持ってくるからね」
お腹はまだ満たされていない。それとなく側のワイングラスに手を伸ばす。
透き通るようなクリムゾン・レッド。かぐわしい香りが鼻腔をくすぐる。
とりあえず一口。
…言葉が出ない。感動すら与えるこのワインを、リュックは一気に飲み干した。

「それにしても、ワッカもひどい事言うわよねぇ」
「モガ?」
口にお肉をほお張ったまま聞き返す。
「リュックの事、ぷにぷにっていうんだもん。女のコをなんだと思ってるのかしら」
(モグモグ、ごっくん)
「ワッカ、そんな事言ってたんだ。くぬ〜。今にみてろ〜」
160リュック:02/11/29 19:18 ID:???
「だからって、絶食なんかしちゃダメよ」
「大丈夫。明日っからたくさん運動するから」
いっぱいになったお腹をさすりながら、ワインをすする。
テーブルの上には皿が山のように積まれ、床にはワインのビンが散乱していた。
「ところでユウナン。このお肉とワイン、普通のじゃないでしょ。どこで買ってきたの?」
いたずらっぽい顔をして問い詰めるリュックに、ユウナは微笑して答えた。
「それ、アーロンさんよ」

―――沈黙だけが空間を支配した。駆動音は、いつのまにか消えていた。
ゆっくりとした波紋のように、言葉の意味が部屋の中に広がっていった。
「…ユ、ユウナン?ナニ言ってるの?」
何十秒も経ってから、ずいぶん間の抜けた声で答えた。
「なにって、リュックが採ってきたんでしょ?」
表情を変えずにユウナが答える。対照的に、リュックの心は激しく荒れ狂っていた。

「厨房にまだ残ってるから、見にいってきたら?」
既にユウナの声では無かった。しかしリュックは弾かれたように走りだした。
ドアを開けて―――
「いや、やめて、いやだよ、こんなの」

ドアを開けたソコは廊下になっているはずだが、厨房に変わっていた。
リュックの視線の先、真ん中に置いてある大テーブルの上には、後ろを向いているが間違いない。
アーロンの、生首が置いてあった。
体は…どこにも無い。床に置かれたバケツに、骨がたくさん入っていた。
血は…一滴もない。壁のところに、ワインのビンが積まれていた。

「どう?人って、とってもおいしいでしょ?」
声の方を振り向き―――ソコにユウナはいなかった。そこにいたのは―――私だ。
「どうして?どうして私がソコにいるの?…ヒッ!!」
目の前のリュックの背中から、黒い羽が生えた。
「…私はお前だ。驚く事もあるまい」
低く、暗い声。変化は、絶えず続いていた。
161リュック:02/11/29 19:19 ID:???
黒い鱗が体を覆い、腹部から何本も腕が生えてきた。蜘蛛を思わせるフォルム。
そう、さっきまでの私。
「いや、いやだよ、わたし、そんなんじゃない」
「人の肉の味はどうだ?血の味が忘れられないだろう?」
「違う、わたし、そんなもの食べてない」
「自分の親しい者を殺す快感も、残っているはずだ」
「違う、やめて、やめてぇ……」

思わず耳をふさぐ。しかし、自分の手のやわらかい感触はしない。
恐る恐る自分の手を見てみる。
「いや、いやーーーーー!!」
黒いカギ爪と化した自分の腕をみて、リュックは絶叫した。意識が弾けた。

―――冷たい感触が肌を包む。開いた目に白い景色が映って、リュックは身を起こした。
あたりを見まわす。飛空挺の中ではない。一面の、銀世界。
「…夢、だったの?」
身を刺す冷気が答える。YESと。
「…そっか。移動中に気を失っちゃったんだ。」
それにしてもイヤな夢だった。大丈夫、アーロンは生きてる。
そこまで思い出して、リュックの中でナニかが動き出した。
162リュック:02/11/29 19:24 ID:???
急激に増した飢えが、リュックの体を激しく揺さぶる。
夢の中のアイツの言葉が、頭の中をむちゃくちゃにかき混ぜる。
人の味が、心の中の倫理をぐちゃぐちゃにすりつぶす。
(もうダメだ。このままじゃ、飢え死にしてしまう!)

視界の隅に赤い髪を確認した次の瞬間、リュックは羽を広げソレに向かっていった。

【リュック(ハラぺコ):所持武器:進化の秘法 現在位置:台地中央山間砂漠南 
 行動方針:御食事 】  
(魔獣時の能力を行使可能(レベル3コンフュ・真空波)・腕輪を失えば再び暴走の危険性有り。ただし腕輪を持ってしてもいずれ暴走あるいは死が訪れる(暴走とは別に吸血衝動が現れ始めています))