∧,,∧
ミ,,゚Д゚,,彡 ほしゅだから!
(ミ ミ)
ミ ミ
U''U
小説は挿絵のために存在する
>324
異議あり!(AA省略
『飛べない翼に意味はあるんでしょうか』
遠野の言葉を、不意に思い出す。
(…意味はあるさ)
(それが、空を飛んでいた日々の大切な思い出だからな)
(………)
(そうだろ…みちる…)
_ _
〃┏━━ 、
| ノノソハ))) / ̄ ̄ ̄ ̄
Λ_リリ ;´∀`)リ < うぐぅあげ♪
( ⊂#~ ∞~~#⊃ \____
( つ/_∞__|~
|(__)_)
(__)_)
328 :
北風:02/12/11 15:37 ID:0r11MPp0
「……竜王二世、お前に従うぞ」
一瞬、時が止まったかに思えるほどの沈黙があたりをつつんだ。
その発言はトルファのものだった。トルファはゆっくりと、竜王二世のもとへ歩いていく。
「どういうことですトルファさん!」
「トルファ、なぜそんなことをするのだ!わしらの仲間ではなかったのか!!」
ベホックに「竜王の孫」、その他の者たちが厳しい顔で問い詰める。
「……これが俺の選択だ!ゴーリキ隊長とは違った、な」
そしてトルファと竜王二世は相対した。竜王二世はシュルシュルと元の姿に戻り、トルファに目線を合わせた。
「ふむ、そなただけか。まあよかろう」
竜王二世が左の手のひらを開くと、その上に小さな杯が現れた。その中には黒い液体が入っている。ボコボコと泡立ち、嫌な匂いを出している。
「さあ、これを飲むのだ。さすれば魔族へ仲間入りできる……」
トルファはそれを受け取ったが、その匂いにしばし顔をしかめる。だが意を決して杯をあおり……
「やめるんだ!トルファ!」
「竜王の孫」の声が聞こえたのだが、トルファは杯を空にした。そして竜王二世に向き直る。
「よし、飲んだか。しばらくは痛みが全身を走るが、それを耐えれば……ぬっ!」
ブシュッ!
トルファは口に含んだ液体を霧状にして吐いた。それが目に入り、竜王二世はとっさに両手を顔にあてた。
その隙を逃さず、トルファは右手に構えたままのドラゴンキラーを竜王二世の腹に刺した。刃の先端が少しの手ごたえと共に背中に突き抜ける。
「ぐっ……謀ったな……!!」
329 :
北風:02/12/11 17:24 ID:0r11MPp0
「すまないな。だまし討ちは好きじゃないんだが、あんたを倒す策はこれぐらいしか思いつけなかったんだ」
竜王二世の体が折れ、前方に崩れ落ちた。そしてピクリとも動かなくなる。
トルファはそれを確認すると、みなの方へと振り返った。
「トルファ!裏切ったのではなかったのか!」
「竜王の孫」たちの顔が驚きに満ちた。
「ああ、だます事になったな。心配をかけてすまなかった」
「まったく……俳優だな。すっかりだまされたぞ」
アーサーは文句を言った。しかしその顔は笑っている。
「いやいや、他に誰かが賛同していたら俺も困ってたぞ」
トルファは笑いながらみなを見回し……その顔が凍りついていることに気づいた。その視線につられて後ろを振り返った彼は、信じられないものを見た、という顔になった。
「馬鹿な……確かに急所に届いたぞ。体を貫いたんだ!」
竜王二世は、その腹部からドラゴンキラーを生やしたまま立ち上がってきたのだ。
「余はかりにも竜神、その生命力を侮るでないぞ」
確かに負傷しているのだろう、竜王二世は多量の血を流していた。だがその動作にあやしいところはない。そして竜王二世は自分にべホイミをかけた。
「……こしゃくなことをしてくれたな。だが余はもはや油断をしないぞ。おまえたちを完全に葬り去る!イオナズン!!」
大爆発が起こり、トルファたちは吹き飛ばされた。しかし「竜王の孫」だけはすばやくマホカンタを唱えていたので、竜王二世も爆風を受けてしまう。
だがすぐさまドラゴンへと姿を変えることで安定を取り戻す。そこで再び血を吐くが、再びベホイミを唱える。
その様子を見た「竜王の孫」は舌打ちをしたが、杖を構えなおす。
「もはや魔力も底をつきてきた。これが最後の呪文だ!ドラゴラム!!」
「竜王の孫」は再びドラゴンへと姿を変えた。しかし竜王二世に比べると一回り小さいので頼りなく見えてしまう。
『ふ!余に魔力を奪われたのでそれが精一杯か。一度戦ってかなわなかったものが、大幅に力を減らして勝てる道理はなかろう!』
『わしは人間の姿でかれらと旅をしてて学んだ……人は成長するものだと!』
「竜王の孫」は竜王二世に突進した。竜王二世もまた突進し、二匹のドラゴンは正面からぶつかり合った。しかし体格の差がきき、竜王二世は「竜王の孫」をはじき返してしまった。
330 :
北風:02/12/11 17:25 ID:0r11MPp0
そして右前脚で頭をつかみ、地面に叩きつける。
『不肖の息子よ、地獄で竜王陛下に詫びるがよい!』
竜王二世の口から火が漏れるのを見たトルファは叫んだ。
「いけない!とどめをさされるぞ!」
竜王二世は「竜王の孫」の頭部に至近距離から炎を浴びせた。ドラゴンの鱗は炎への耐性があるが、このまま熱され続ければ焦げ付いてしまうだろう。
そこへベホックがバギマを唱える。体に傷を負った竜王二世は思わず「竜王の孫」をはなしてしまった。
「これで僕の攻撃呪文は打ち止めです!あとは回復呪文に専念させてもらいます」
肩で息をし始めていたベホックが後ろに下がりながら言う。
「ありがとうベホック!後はおれたちに任せてくれ!」
戦士たちも思い思いに切りかかっていた。槍を突き立てようとする者もいれば、斧を力任せにたたきつける者もいる。
トルファはドラゴンキラーを無くしてしまったため自らの剣で切りかかったが、ドラゴンの鱗を裂くことはできない。
彼らの攻撃が有効打を出せないと見切った竜王二世は身震いとともに咆哮した。その大音量は近くにいた者たちを直撃し、彼らの多くが耳をおさえ、胎児のようにうずくまってしまった。なかには失神した者もいる。
『ふっ!その程度のレベルで余に立ち向かうとは100年早い!自らの愚行を悔やむがよい!』
身近でうずくまっている一人を踏み潰すと、竜王二世は翼を羽ばたかせて浮上した。ひとっ飛びでベホックとホークスが下がっているへ降り、そして火を吹く。
ベホックはフバーハを、ホークスはヒャダインを唱えることで炎をやわらげようとした。しかし竜王二世の炎は普通のドラゴンよりも一段と激しく、徐々に押されていく。
「くそっ!こんなところで……!」
ローブが焦げ付いてきたところで、ホークスはベホックを突き飛ばした。その瞬間、彼らが立っていた丘は炎に包まれた。
「ホークスもやられたか……このままでは全滅だ、何か策はないのか!」
331 :
北風:02/12/11 17:25 ID:0r11MPp0
「……アーサー、やつの腹に俺の持ってたドラゴンキラーが刺さったままなのが見えるよな」
「そういえば……」
地面に四本足で立っていたときには隠れていたのだが、確かに竜王二世の腹部にはドラゴンキラーが刺さったままだった。しかも血がこぼれ落ちている。
さきほどは背中まで貫いていたのがドラゴンに変身した時に抜けていったのだろうか、今では刀身の半ばまでがめり込んだ状態だ。
「あれを使おう。おい!まだ戦えるか!」
トルファの言葉の後半は「竜王の孫」へ向けたものだ。ドラゴンに変身したままの「竜王の孫」は首を縦に振り、肯定の意を示した。
「なら、もう一度組み合って、やつが腹をさらすようにしてくれ!」
「竜王の孫」が再び立ち上がったところで地面が震えた。竜王二世が彼らの前に着地したのだ。
『なにやら相談していたようだが、もはや立っているのはお前たちだけだ。
もう無駄な抵抗はやめるのだ。おとなしくしていれば楽に死なせよう』
「冗談じゃない!俺たちはまだあきらめていないぞ!」
最後の力をふりしぼるため、トルファは声を張り上げた。
『ならば!最後まで戦い、戦士として死ぬのだ!』
竜王二世は火を吹いた。しかし「竜王の孫」が自らの体を盾としてトルファとアーサーを守る。
そして火がやむと竜王二世に向け、今度はこちらが火を吹く。
竜王二世は体勢を低くし、それをものともせず、逆に炎の中へ突進して「竜王の孫」を横倒しにした。
そして首を上げたが、二人の姿はどこにも見えなかった。
『……後ろか!』
トルファがすぐ背後に迫っており、竜王二世の脇を切りつけようとした。
しかしトルファの剣は、やはり竜王二世の体を傷つけることができない。反撃を受けたトルファは地面に倒れてしまう。
『もう一人はどこだ!』
竜王二世はアーサーを探した。しかし、急に後ろへと引きずり倒されてしまった。「竜王の孫」が立ち上がり、つかみかかってきたのだ。
『そのまま死んだふりをしていればよいものを』
332 :
北風:02/12/11 20:13 ID:0r11MPp0
『あいにくだが、まだ勝機はこちらにあるのだ!』
「竜王の孫」は最後の力をふりしぼって竜王二世をはがいじめにする。
腹をさらした竜王二世に、岩陰に隠れていたアーサーが切りかかってくる。しかし竜王二世は尾を振り回し、それを受け止めようとしたアーサーごと弾き飛ばした。
『これでお前達はもう……ぬう?』
竜王二世の残った左眼は、トルファが立ち上がってくるのをとらえた。その横には疲れ切った様子のベホックがいる。
「助かったぞベホック」
「いえ、これ、が、最後のベホイミです。もう、傷ついても、癒せ……」
呪文の唱えすぎによる疲労に耐え切れず、ベホックが倒れこむ。
「あとは寝ていろ、俺が片をつける!」
トルファが再び攻撃してくる。
『馬鹿の一つ覚えか。ドラゴンのうろこをそんな剣で傷つけることなどできないぞ!』
だが、トルファは剣を投げつけたのだ。
竜王二世はその意図をはかりかねて戸惑ったが、とりあえず尻尾で剣を叩き落とした。しかしそのすきに竜王二世の腹に跳び乗ったトルファは、その手に斧を構えていた。
『トルファ、これで終わりにしてくれ!』
「ああ!これで終わりだ!!」
「竜王の孫」に応え、トルファは渾身の力をこめて斧をふるった。その目標は、ドラゴンキラーの握り手。
『ぬっ!!!』
ドラゴンキラーは深く竜王二世の体内へとつきささり、臓器をえぐった。
ドラゴンへ変身すると、体の外側と同時に内側の作りも変化してしまう。臓器が移動するとき、ドラゴンキラーの刃はそれらを傷つけていた。
竜王二世が直後に回復呪文により、確かに傷口はふさがった。しかしドラゴンキラーが刺さったままでは完治といかず……。
傷口はさらに大きく開き、血が噴き出る。そして竜王二世の身じろぎにより、傷ついたはらわたもこぼれ落ちる。
そこでトルファは落ちていたデーモンスピアを広い、鱗の隙間に突きとおした。その一撃は見事に急所を貫いた。
333 :
北風:02/12/11 20:13 ID:0r11MPp0
竜王二世は絶叫を上げ、首を二、三回振り回し、地面に震動を起こして倒れた。その姿は人の形に戻っていった。デーモンスピアが抜け落ち、ドラゴンの肉に埋もれていたドラゴンキラーも再び姿を現したが、黒い血にまみれたそれらはボロボロに錆び、すぐに崩れ落ちる。
「竜王の孫」も──こちらは自らの意思で人の姿に戻った。そして死のふちに瀕している竜王二世の横に立つ。
「父上……」
「まったく、父を殺すとは、親不孝者よ、ははっ」
ぐふっ、と血を吐く。
「それは違います。私は父上にこれ以上の悪行を行わせないために」
「みなまで言うな!その程度の事はわかっている。だが、わしはその上でこの身を悪の道に沈めたのだ。そのことに悔いはない」
「…………」
「残念だが、ここまで傷ついては、もはやお前の魔力を返すことも、できそうにない。すまないことをしたな……」
そして竜王二世は目を閉じた。これが竜王に心酔し、そしてその遺志を継ごうとした竜神の最期だった。
「お前、最後にこいつを『父上』と呼んだな……」
トルファが「竜王の孫」の肩に手を置く。それを「竜王の孫」は振り払わず、ただ顔をそむけただけだった。
334 :
北風:02/12/11 20:14 ID:0r11MPp0
「さて、ラダトームに帰還するとしよう」
アーサーは荷物から『キメラの翼』を取り出した。ちゃんと人数分……もはや人数分以上にある。
昨日一日、ベホックは蘇生呪文『ザオラル』を唱え続けた。しかし日を置いてしまったこともあるし、なによりも遺体自体の損傷が激しく、命を取り戻せたのは二人だけにすぎなかった。その中にゴーリキ隊長は含まれていない。
生き残った『竜王探索隊』の隊員はわずかに7名。途中でリタイアした者もいるが、城を出発したときには20名を数えたことを考えると、
「まったく、さびしくなったものだ」
対岸にかすんで見えるラダトーム城を目に入れながら、アーサーは感慨深げに話す。すぐ横のベホックはというと空を見上げていた。
「優秀な人材を失ってしまいましたものね。ゴーリキ隊長にメルビー師、それに……」
逝ってしまった者たちの名は忘れることが出来ないだろう。
そして、死闘を終えて歩哨も立てずに泥のように眠りこけた翌日(もう日が中天に達していた)には「竜王の孫」の姿、そして竜王二世の死体は消えていた。
おそらく天界の事情であろうということで一同は納得したが、苦難を共にした仲間と別れの言葉も言えずに離れるというのは気が重くなる。
「とにかくこれで竜王二世の野望は終わった。これで私たちの探索は終了だ。……トルファ!本当にキメラの翼はいらないのか?お前の分もあるんだぞ」
自分の荷物を抱え上げたトルファにアーサーが声をかける。
「いや……歩いていくよ。竜王二世がいなくなったんだから、もう魔物が襲ってくることもないだろう」
トルファには確信があった。再びあの男──彼を『赤い旅の扉』に誘った男が現れることを。そう、このクエストは終わったのだから。
「お前も欲のないやつだ。私たちと一緒に城へ戻れば、再びこの大陸を救った勇者として抱えきれないほどの名誉と恩賞を得られるだろうに」
「そんなのに興味は……ないわけじゃないが。俺には荷が重すぎる、それだけのことだ。勇者なんて名乗るがらでもないしな」
トルファは彼らに背を向けた。
「トルファさん……お元気で!」
「じゃあなトルファ!」
それに対しトルファは……振り返らず、ただ、右手を上げた。
335 :
北風:02/12/11 23:17 ID:0r11MPp0
竜王の島から虹の橋へと足を一歩踏み出すと、突然まわりの風景が変わった。もうおなじみとなった赤一色の空間だ。そこへ「彼」が姿を現した。
「やあ、長いことご苦労様」
「……また姿が違うな」
最初に会ったときには特に特徴のない男、この世界に来る直前には老人だった「彼」。今度は旅の商人風の中年男の姿をしていた。
「まあ、そんなことはどうでもいいじゃあないか……ところで、ここには君のほかにもお客さんがいるんだよ」
「彼」がそう言うと、新たな人物が現れた。
「……おい!お前が何でここにいるんだ!」
トルファは三人目の男──「竜王の孫」に詰め寄った。
「まあ、まずはこの手を離せ……うむ、あの戦いの後わしは夢の中でルビス様に声をかけられたのじゃ。
まあ、そこらへんの事情は詳しく話してもしょうのないことだろうから結果を手短に言おう。
わしはわしの使命──父の打倒を果たしたのだ。だが、父に奪われた魔力はもはや戻ってこない。天界の神々の力でもな。
結局、わしはある程度の魔力を新たに与えられた上、人間として生きることにしたのじゃ」
「竜王の孫」は淡々と語った。その口調はどこか楽しげでもある。
「竜神から人間へか。なんか、格下げされたみたいに思えるが……」
「そう人間を卑下するものでもない。人間もなかなかに楽しいものだということはお前たちが教えてくれたのではないか」
「ま、あんたがいいと言うのならそれでいい……で、なんでこいつがここにいるんだ?」
トルファは「彼」に顔を向けた。
「君だって、なぜ自分がここに来れたのか、それを聞こうとはおもわないだろう」
「…………まあな」
336 :
北風:02/12/11 23:18 ID:0r11MPp0
「とにかく、彼には先に扉を選ばせるよ」
「彼」が指し示すと、その先に三つの赤い扉が現れた。そしてそれぞれの行き先を告げる。
「これで本当にお別れだな」
「この先どうするんだ?俺みたいに旅を続けるのか?」
「……そうじゃな。この肉体は若いし、魔術師ならば寿命を数百年延ばすことも出来る。都合がいい世界に辿り着いたら、そこで町でもつくり静かに暮らすとするよ。せんべつにいろいろとアイテムももらったしな」
「魔術師の町でもつくるのか?」
「人間の体に封じられているが、わしの魂は竜のもの。いつか子孫が先祖返りを起こさないとも限らない。
そいつが困らないよう、知識を残しておく事も必要だと思う。その者がいつの日か、どこかの世界でそなたにめぐり合うかもしれないな」
「竜王の孫」は扉の一つを開けた。
「さらばだ、トルファ」
「あんたも達者でな」
扉が閉まり……そして三つとも消えた。
「さて、お次は君の番だ」
再び「彼」が指を指すと、赤い扉が三つ現れた。
「右からルプガナ、ジパング、そしてレイドックへ続いている。好きな場所を選びたまえ」
*長い間お付き合いただきましたが、これで私の作品は終わりです。
*次の方へようやく渡すことが出来てほっとしています。
*で、例の選択肢ですけど……最初からフォローできるようにしていたので、ちょっと皆さんの期待には添えませんでしたね。
*基本的にバッドエンドは好みじゃないんです。
*あそこまできてリムルダールの宿に戻るのも、話を世界征服に持っていくのも私には荷が重過ぎますし……。
*とにもかくにもこれにて了です。
北風さん、お疲れさまでしたー!
あんな選択しましたが、私もハッピーエンド大好きなんで大満足の
エンディングでした。
トルファもずいぶんかっこよくなって……(w
竜王の孫の行方とか、余韻のある終わり方も大好きです。
次は2と3と6の街ですねー。作者登場期待age。
おつかれさまでした〜。
すごいなあ、トルファ かっけー!
北風さん かっけー!
次の書き手さん期待。
おいらは書けないでふ。
書いてみたい気はするが同時並行はちと勘弁だな。
おー、お疲れ様でした。
そうですか。確かにリムルダールの宿に戻るのはつらいですね(w
うまくしめられましたね。
自分もしばらくは無理なので……新たな勇者の登場を待ちますか。
保守しまつ
,,,,.,.,,,.
ミ-д-ミ <キョウハ ポカポカ アタタカイ デシュー
""""
ほっしゅ毬藻で保守
344 :
華龍光臨:02/12/17 18:10 ID:4ydFmhdu
「これは一体…どういうことだ。」
劉備たちは程なく町にたどり着いた。
静かであった。静かすぎであった。
その原因はすぐにわかった。村のあちこちに石像がある。
…否、石にされた人々がいる。
何が原因かはわからない。このような奇病聞いたことがない。
この村はすでに死を迎えてしまったのだろうか。
「生存者がいないか探すぞ。」
「そうですな。」
各自で散開して生存者を探す。程なく生存者を見つける。
焚き火をしていたため煙が上がっていること。そこだけ明るいため迷うことはなかったが。
焚き火のそばでは老人がまるで凍ったように、石に座っていた。
雨が少しずつ、降り始めてきた。
「もし、御老人。」
劉備が声をかける。老人が多少おどろいた様子で
「ん、おお。このような町に旅人が来るとは…驚かれたことでしょう。ここはダイアラックの町。もっとも、生きている人間はわし一人なんじゃが。」
「事の仔細を話していただきませぬか。」
「…聞いたところでなんとする?」
「無論、この石になった人々を元に戻す。」
「無駄じゃ。」
雨が少し強くなる。
「何故だというのです。」
「皆を治す薬ならある。これじゃ。」
老人の反応は意外なものだった。これさえあれば村の皆は直るという。
「ならば何故!」
345 :
華龍光臨:02/12/17 18:12 ID:4ydFmhdu
沈黙が辺りを包む。響くのは雨音のみ。少し激しくなってきたようだ。
「…長い間、雨風に晒されてきたため、村の皆はすでに朽ち果てている。雨風によって朽ちてしまってはもはやこいつは効かぬ。」
そういえば腕がなかったり、耳が欠けているもの、石像自体にヒビが入っているものもいた。
要するに再生の限度を超えるほど朽ちてしまってはもはやこの「天使の涙」も効果をなさないということだろう。
「…」
「さあ、もう行きなされ。その「天使の涙」はあなた方にあげよう。…忌々しい、雨め。」
最後の言葉は劉備にしか聞こえなかっただろう。なぜなら雨音にかき消されたのだから。
大地は痩せていた。
ここは海辺に近い町だ。
潮風が強く作物を育てていくのには向かない土地であろう。
それに…水がない。
島の面積が狭く川が流れるようなところはない。
溜池を作ろうとした跡はあるようだが海岸からの潮風に乗ってくる砂によって溜池を作ったとしても砂に水分を取られてしまう。
「雨乞いの儀式やなんかの本が多いわね。」
「ああ。それだけここは水に窮していたのだろうな。」
主なき教会。あれから賊にも入られたのだろうか、ひたすらに荒れていた。
雨は激しく降り続いている。この雨だと動き回ることはできまい。
346 :
華龍光臨:02/12/17 18:12 ID:4ydFmhdu
アルスたちは町の入り口付近の家…宿屋との事…に、劉備たち一行は東の教会に分かれて休むことにした。
教会の神父は表で石になっていた。天使の涙をかけてももはや治らないほどに朽ち果ててしまっていた。
パミラからもらった薬も試してみた。
だけどすでに朽ちてしまった者には効果がない、ということがわかっただけだ。
「…」
重い沈黙が漂う。
そしてあれこれ何か策はないかと話し合っていた。
…気がつくと眠っていたようだ。
手元に特効薬があるもののもはや意味をなさず、どうして石になったのか、何が原因でなったのかがわからないため策なんて思い浮かぶわけが無かったが。
雨音はしない。どうやらもう止んでいるようだ。
染み出した雨水が劉備の頬を打つ。
雨、そうか、あの老人は忌々しい雨といっていた。
雨が原因で石になったのか?やはり魔物たちの仕業なのか?
…もう一度、あの老人の話を聞いておく必要がありそうだな。
劉備は身を起こすと静かに外へと歩き出した。
おお、ダイアラックですか。
あの町は『銀河鉄道999』の化石化ガスを思い出させました。
町を探索してて心が冷え込んできましたね。
華龍光臨を読んでいると、もう一回7をやりたくなってきますね。
今度はどんな展開になるか楽しみ。
349 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:02/12/24 08:48 ID:U3G5CC3v
華龍光臨を読ませていただきました。
確かに348さんのいうとおり、もう一度7をやってみたくなりました。
350 :
華龍光臨:02/12/25 16:43 ID:9Of2l4+t
自分のカンが正しければまだ夜中のはずであるが。
ふとそんなことを考えて昼…だろうか?出会った老人の元へと歩を進める。
まだ、何か希望はあるはずだと、自分に言い聞かせながら。
老人の後ろに忍び寄る魔物の影。
当の老人は気づいていない。
魔物がその腕を振り上げ…その次の瞬間、その魔物の腕は宙に舞っていた。
魔物は何が起きたか認識する前に絶命することとなる。
劉備が雌雄一対の剣の片方で腕を切り飛ばし、もう片方で怪物の心の臓を突いた。
返り血を思いっきり浴びる。…また、尚香に怒られてしまうな。
ふとそんなことを考えて老人に向き直る。
「…なんじゃ、まだ、いたのか。」
「危ないところでしたな。」
老人はモンスターの死骸を見つめて呟いた。…死ぬ…つもりだったのだろうか。
「…何故、そこまで、この村にこだわる?」
一陣の風が吹き抜ける。
「守りたい。この村の民はもちろん…未来を。」
351 :
華龍光臨:02/12/26 03:19 ID:rsmMZxRw
「民も…未来もすでになきこの村にまだ残っている希望があるというわけか?」
「あなたがくれた、この「天使の涙」。我らがここにやってくることができたのもあなたがこの天使の涙を捨てることなく今までずっと守り続けたからだと考えています。」
「そんなこと、偶然であろう?」
「いいえ、今の時代、この時間に私たちがやってきたことに意味がないわけがないでしょう。」
「…何?」
「まだ話していませんでしたな。多少長くなりますがお聞きいただけるとありがたい。」
「なるほど、話は大分理解した。」
焚き火を挟んでしばらく話をする。一時間くらい話しただろうか。
「…もし、この村が手遅れでないとするならば、直に始まるじゃろう。それを見て、何ができるか見極めてくるといい。」
「何が…」
「百聞は一見に如かず。村の真ん中にいればすぐわかるじゃろう…」
「それもそうですな。わかりました。今しばらく、待ちましょう。」
村の中心。村の象徴であろうか、巨大な岩がそびえている。
この岩には何か人を惹きつける魅力があるのだと感じる。
劉備はその岩に背中を預けてそのときを来るのを待つ。
かつてこの村は…いや、この島は戦場だったと聞いた。
何が何に対しての戦争だったか今は知る由もないが長い戦いの果てにこれほどまでに土地が痩せてしまったのだろうか。
そして、それが始まったのはちょうど宿屋のほうから一つの人影が見えた頃であった。
352 :
ママ先生:02/12/26 19:29 ID:7CI/lUSp
353 :
ママ先生:02/12/26 19:35 ID:7CI/lUSp
ブラクラだそうですのでご注意ください。
シャイン降臨って誘い方がなんかなあ
355 :
名も無き冒険者 ◆v4klbZfRto :02/12/27 23:46 ID:6pQRzw0E
ほしゅ
あげ
ほっしゅ
ワクワクほしゅ
360 :
華龍光臨:03/01/08 18:17 ID:JfomK1XY
完全な闇が支配するその中。
うとうとしているときにぼやけた視界の隅で何か、光った。
焚き火のそれではない。
いうなれば蛍のような光であった。
目を擦り、光へと近寄る。
「おお…」
光の発生源は石となった村人。あの老人は自分を恨んでいるのではないかといっていたがこの輝きは全く別のもの。そう思えた。
光を失ったこの村に光を取り戻さんという思いが伝わってくる。
意を決して石像に手を触れてみる──
流れ込んでくる記憶。
その人の今までの生きてきた記憶が頭の中に流れ込んでくる。
頭の中が破裂しそうな、そう思えた。
気づいたときには石像の光は弱々しくなって、ついには消えてしまった。
…石像となった村人の最後の力であったのだろうか。
頭がガンガンする。意識が朦朧とする。だが、この村の者たちの記憶をすべて…すべて受け止めることができたなら、できたならこの村も救われることだろう。
わかっていてもその足取りは重い。
この時を逃せばもう、二度とこの村が生き返らないような。そんな気がした。
ふと、前方に目をやる。人影が…
アルスだ。この異変に気づいたか…
目が合う。無言ですれ違う。
…お互いに余裕はないようだ。アルスも誰かの記憶を受け止めたか。頭を抱えていた。
後で話し合おうということを目で伝えて次の記憶へと向かって言った。
少しだけ明るくなる。朝だろうか。
そのころになってやっと全員の記憶を見ることができた。
痛む頭を水で冷やしながら、休みながらであったが。
だが、その甲斐はあったのか…
未来への鍵。それを見つけたような。そんな顔をしていた。
巨大な石柱の元で二人は大の字になって眠っていた。
他のみんなが起きてそんな二人を見たのはもう少し後のことである。
361 :
華龍光臨:03/01/11 07:06 ID:Wbmpw38p
ここは教会。劉備が筆をとる。
「兄者、それで何か手がかりになりそうな記憶はありましたか。」
「雲長、待ってくれ。今、書き出している。」
口に出すのは色々な記憶がごちゃ混ぜになって難しい。だから、一旦その記憶を書き出そう、としたのである。
白紙の巻物に筆を動かす。
素直に受け止めたことを書き込む。
退屈そうに張飛があくびをする。
さらに数時間。
巻物三つ分に書き込んだ村の者たちの記憶。
流れてきた記憶はその者の生涯のほんの一部分であるのだけれども。
「終わった?」
「ああ。私の見た記憶はこれだけだ。他の村人の記憶はアルスが見た。…おそらくそろそろやってくることだろう。」
関羽が巻物を手に取る。目に付いたものがあるようだ。
「兄者。…これが気になりますな。」
大きく劉備が背伸びしながら関羽を見やる。
バーテンの記憶。小さな男の子が何かそのバーテンに話しかけている。
傍らには父親らしきものがいる。
かつてはここは戦場であるということで地下に何かあるらしきことを話していた。
そのような記録であった。細かいことも詳しく書かれている。
「地下に何かがあるということね。」
「…!なるほど!」
「兄者、わかりましたか。」
劉備が立ち上がる。
「今までこの村の中を隅々まで歩いたが…」
うんうんと孫尚香が頷く。
362 :
華龍光臨:03/01/11 07:07 ID:Wbmpw38p
「子供の石像は一つ、それも幼い女の石像しかなかった。」
「そうですな。」
孫尚香は鳩が豆鉄砲を食らった感じの顔をしていたが思い起こしてみると確かにそうだった。
「村のいずこかにまだ見つかっていない石像があるはずだ。」
「その残っている石像はおそらく我らの目の届かぬ場所。…かつてここが戦場だったころの名残にあるのだと思われます。」
「うむ。今まで風雨に晒された石像が無事なのだ。風雨に晒されない場所にあるだろう石像は無事に違いない。」
拳を上に突き上げる。
「翼徳、起きろ。為すべき事は決まったぞ。」
「起きてるぜ。…早く探しに行こうぜ!」
さっきまで鼾を掻いていたが、よっこらせと言う声とともに張飛が立ち上がる。
「うむ。」
教会から出てきたところにアルスたちと出会う。
「アルスか。どうやら何か掴めた様だな。」
「はい。」
アルスから記憶をまとめた巻物を受け取る。ざっと目を通す。
「これを見てくれよ、劉備さん。」
そしてキーファから切れ端を受け取る。
切れ端と巻物、それを見比べる。
巻物には劉備の予想通り、無事であろう子供がいることを確認できた。
「…違いない!まだ、この村は死んではいない。」
顔を上げた劉備の目に一瞬、龍の幻が見えた。
まだ、目覚めるべき龍は眠っているのだろう。
永遠の眠りでない限り、眠りはいつかは覚めるもの。
予想が確信に変わるとき。
…龍が再び、蘇る。
363 :
華龍光臨:03/01/13 02:48 ID:/n42OQir
ザッ、ザッ。
ザッ、ザッ…
「兄者、この辺にはないようだぜ。」
ザッ、ザッ。
ザッ、ザッ…
「ここでもありませんな。」
ザッ、ザッ。
ザッ、コツッ…
「ありました!劉備さん。」
「おおっ!ついに見つかったか!」
村の西、枯れ木が立っている辺り。
よくよく見ると壁に「目印」と書いている。
今考えてみると、すべての鍵はこれにあったんだろう…
土を払う。足元に鉄製の扉が。
「これを持ち上げりゃあ、いいんだな。」
張飛が扉を持ち上げる。大きな音を立てて扉が取り除かれる。
「これを小さな子供が持ち上げたというのかしら?」
それは子供があけるには到底無理な扉。
大人であっても簡単には持ち上がらないだろう。
「ここに板があったようですね。」
扉横に木の板が。そしてその下には空洞が。小さい子供なら入れるだろう。
「なるほど、扉ではなく、この空洞から出入りしていたということか。」
「行こうぜ、兄者!」
階段の奥からすでに降りて言った張飛の声が聞こえる。
「ああ。」
イイ!!(・∀・)
365 :
華龍光臨:03/01/14 07:28 ID:aqG7iBPZ
カンテラに火を点す。
カンテラからの光が辺りを包む。
そこは思った以上に広く、しっかりとしていた。
何気なく壁を見やる。
そこには子供が書いたと思われる字で…
「『ひみつきち その2』と書いてありますね。」
「ということはその1があるわけだな。」
アルスが読む。そしてキーファがそれについての観想を言う。
「他にも地下室があるというわけね。」
通路を歩く。ここは相当大事な拠点だったのだろうか。
通路の脇にはボロボロでその役割を果たせない装備が山積みになっていた。
折れた銅の剣、先端が欠け、突き刺さらなくなった槍、ズタズタにされ鎧の役割を果たさなくなった皮の鎧…
絶望に近い、そんな戦況だったのだろうか。
それでも信じる何かのために戦ったのだろう。
「この手記を見ると、兵たちの士気は高かったようだな…」
部屋の隅の引き出しにあった手記を眺めながらそう呟いた。
「兄者、石像は見当たりませんぞ。」
「ここではなく、もう一つの地下室にある可能性があるからな。とりあえず、ここを色々調べてみよう。」
劉備はいつでも石化を治療できるようにその手に天使の涙を携えていた。
…奥への通路に目をやる。
あの梯子は何処へと通じているというのか。
吸い寄せられるようにその梯子を上っていく。
そろそろ、出口だな。
366 :
華龍光臨:03/01/14 07:35 ID:aqG7iBPZ
劉備を迎えたのは海沿いの町特有の潮風。
町中心のあの石柱。その上に劉備は立っていた。
この穴は人の手が加えられた跡はない。おそらくは自然に開いたものだろう。
自然の力にはほとほと驚かされる…
「風が強いな。」
辺りを見回す。島を一望できる。
戦時にはここに見張りを立てていたのだろうか。
空には真っ黒な、何物も通さない思い雲。
邪悪な何者かの意思が具現化したような雲。
人の絶望を喰らいそれは広がっていったのだろうか。
そして眼下には生気をなくした町が広がる。
…否、龍が眠っている大地。劉備は確信していた。
龍が目覚めれば、必ずやこの地に希望を取り戻してくれる。
どのような形かはわからないが、それだけは確信していた。
また、潮風が吹きつける。先ほどより強い…
劉備の手に握られていた天使の涙がその潮風にさらわれる。
しっかり握っていたはずなのになぜか風にさらわれた。
まるで、意思を持っていたのかのように…
風に乗って、それはダイアラック中に。
煌くそれは眠りし龍の目を覚まさん…
念の為ほす
保
このスレのリレー小説は、
>>336 で止まってますよ〜
と、告知しつつ 保守
ヒョイ , ,,,,.,.,,,.
(_&ミ・д・ミ ミ ___
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このスレッドは大角あらくれが保守中です。
やる気はありませんが、なんら問題はありません。
タリー
タリー タリー
(~~Y ̄ ̄\ タリー
\ _) ▼ | タリー
\ 皿 (~\_/ ̄ ̄\__/~)(~~\_/ ̄ ̄\_/~~) タリー
/ つ \_|▼ ▼ |_/ \_|▼ ▼ |_/ヽ、
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だれかこのスレにザオリクを
保守
374 :
華龍光臨:03/02/10 05:29 ID:bvZhrxi7
潮風に乗ってそれは珠のように。
潮風に乗ってそれは華のように。
潮風に乗ってそれは、まさに風のように。
潮風に乗ってそれは、「龍」のように。
天使の涙が宙を舞う。
煌くそれは風に乗って、町の東へ。
目でそれを追う劉備。
そして煌きはある場所にて消えた。
それと同時に煌く空。
そう、空は…いつの間にか晴れていた。
まぶしいばかりに輝く太陽。
突如晴れた空に目が慣れない。
脳裏を走る龍の姿。
確かに見た。「水龍」の姿を。水の精霊とも名乗っていたが。
「…錯覚ではない、な。」
目が慣れてきた。そうして辺りを見回す──
石像の穴から顔を出したのは孫尚香。
「あれ?いつの間に晴れたの?…って、劉備何処行くのよ!」
その声は石柱から飛び降りた劉備に向けられる。
だけど孫尚香の呼ぶ声も今の劉備の耳に入らない。
昨日寝泊りした教会の裏辺りで何か動く影を見たのだ。
そのことに気づいた孫尚香も後に続く。
そして、関羽、張飛、アルスたちと続く。
375 :
華龍光臨:03/02/10 05:30 ID:bvZhrxi7
間違いない。
龍は奇跡を起こした。
そこに石化から治った子供がいる。それが何よりの証拠だ。
近くに先ほどまでいたと思われる地下室がある。
あそこに隠れていたため風雨の害を免れたのだろう。
子供はまだ周りの様子がつかめないでいることだろう。
自分の周りに起こったことが信じられないことだろう。
…だけど、それは事実。焦らなくとも、その事実を受け止めていくことになろう。
「やりましたな。」
「…御老人。」
いつの間にか劉備の傍らにあの老人がいた。
「…あれからどのくらいの年月が過ぎただろうか。その間の空白の時間を取り戻せそうな気がしますな。」
老人が子供の下へと駆け寄る。
「ありがとうございます。今日はささやかながら宴会を開くことにしましょうか。」
子供の名はヨゼフ、説明をするにつれ、彼もこの事実を受け止めてきた。
かなりの年月が経ったこと、この町の住民はもう治らないこと、そして──自分だけが助かったこと。
その日は老人がいた焚き火のそばで宴会をやった。
老人もヨゼフも、そして劉備たちもこの町の奇跡を喜び、祝った。
376 :
華龍光臨:03/02/12 01:35 ID:kxZ2rcBj
照りつける太陽。
昨日まで天幕のような雲が覆っていたとはとはとても思えない。
雲ひとつない空。
どこまでも青く、蒼く──
「行かれるのですか。」
翌朝。皆は村の入り口に集まっていた。
ヨゼフは幼馴染の女の子の石像の元にいる。
…事実は知った。だが、やはりつらいものがあることだろう。
その女の子の顔をしっかり焼き付けるかのようにじっと見つめていた。
「うむ。この町の在りし日の思い出はたとえこの村がなくなってもあり続けるものです。…あなた方にもわかりましょうか。」
「ええ。」
ふと、彼の地を思う。
「兄者。」
「わかっている。雲長。」
もう、戻ることはない地。
だけど、彼の地は心の中で在り続ける。
…未来永劫。
いつか彼の地のことを書物にまとめておきたいものだ。
ふと、そう思った。
377 :
華龍光臨:03/02/12 01:35 ID:kxZ2rcBj
「この地に起きた出来事を、各地に伝えていきたいと思います。この灰色の雨、各地に伝えることによって原因を突き止めれるやも…知れません。」
「…お気をつけて。」
「貴方たちの旅にご加護があることを祈っていますぞ。…ヨゼフ!寂しいじゃろうが、そろそろ行くぞ。」
「うん…」
ヨゼフが老人の元に駆け寄る。
「色々と世話になりましたな。では、我々はこれで。」
ここは小さな孤島。
彼にはいくあてがあるのだろうか。…もちろんないだろう。
だけど、心配する必要はない。
なぜなら彼らには龍の加護がある。
そう思えるのだ。
島の隅から一艘の小舟が出て行った。
老人が「外界との接点を持つ唯一の手段」といっていたあの小舟。
あの小舟は二度と、戻ることはないだろう。
そして主なきこの村は滅ぶことになろう。
…だけど、記憶の中の村はけして滅びることはない。
いつまでも、いつまでも。
毎度有難うございます。
面白く読ませてもらっています。
379 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:03/02/17 23:34 ID:TFrBMJ2M
しばらくこれませんでしたけどちゃんと進んでいたんですね。
嬉しいです、『華龍光臨』のスラリソさん。
386 :
華龍光臨:03/02/20 08:19 ID:U0Jjrm1d
何処までも空は蒼く──
何処までも海は藍い…
ここがあの地、ダイアラック、…とは思えない。
肥えた土地、豊かな緑。海に広がるは珊瑚礁。
あの地とは思えないほどここは豊かになっていた。
それでもここがダイアラックだとわかるのはあの石柱が今も変わらず在り続けたのであったためである。
この石柱は町の終わりを見届けた。
そして今、新たな始まりをも見届けようとしている──
「おお、人がいたか。…見たところ旅人のようじゃの。」
ダイアラック跡地。そこには一人の老人と数人の若者が集まっていた。
「あなたは?」
「…わしはシムといっての。ここに町を作ろうと思っているんじゃ。いま、そのための打ち合わせをしているところじゃ。」
「ここに町、ですか。」
「左様。ここにはかつていくつもの町が興された。」
シムと名乗った老人は遠い目で空を眺めた。
「ここにはひきつける何かがある。そう信じてここにやってきた。その答えはすぐそばにあったじゃがの。」
シムは石柱に手をやる。ここから少し離れた浜辺には彼のものと思われる船が停留していた。
その船から色々な資材が小舟を使われ運ばれていく。
聞くと、あれは彼の全資産を投げ売って買ったものであると。
すべてを捨て、再出発をここで図ると。
退屈な日常を捨て、危険な冒険に身を躍らせるということを。
387 :
華龍光臨:03/02/20 08:19 ID:U0Jjrm1d
「ところで、おぬしらは旅人じゃの?」
「ええ。そうですが。」
多少呆けていた劉備に代わってアルスが答える。
「うむ。わしたちはこれよりここで町を興す。じゃが、わしらだけではどうしても人手は足りない。」
「人手がほしいって訳ね。それとこの話に乗ってくれそうな有力者もいれば言うことなしね。」
「お嬢ちゃんはよくわかってるじゃのう。…で、お嬢ちゃんは何かいい案があるというのかの?」
「このマリベル様に任せておいて。最悪でも人手の協力のほうは何とかして見せるわ。アルス!行くわよ!」
「俺も行こうか。親父への話をつけてくるぜ。」
こういうことはこちらの世界の住民であるアルスたちに任せるべきだろう。劉備はそう判断した。
あれから二日。
二日でこれほどのことができるとは思いもしなかった。
自分たちはここで狩りや釣りをしつつ気長にアルスたちを待つつもりであった。
すでにグランエスタード城下町ではこの開拓村へ行かんとする勇士を募っているようだ。
キーファが持ってきた書状。
そしてフィッシュベルよりやってくるアミット船。
なにもかも予想以上であった。
「シム爺さん。これが親父からの書状だ。」
バーンズ王からの書状を手渡す。
「おお。王子自ら…」
「よせやい、柄じゃないぜ。」
書状の内容については、この島はグランエスタード国の支配下に置く。とのこと。
王自身こういうことはなれていないようだ。
まあ、仕方がないのだろう。何せついこの間まで、グランエスタード島しかなかったのだから。
書状には後々バーンズ王自らこの地へやってくるとも書いてあった。
シムとその連れはこれには驚きを隠せない様子だ。
388 :
華龍光臨:03/02/20 08:19 ID:U0Jjrm1d
「そろそろパパの船が見えるはずよ。」
フィッシュベル一番の金持ちアミット家の所有する船が徐々に見えてくる。
舵を執るはボルカノ。アルスの父親。グランエスタード島に知らないものはいない凄腕の漁師。
張飛曰く。もし戦い方を知り経験を積めば一騎当千の猛者になりうる資質を持つ、と。
近くの浜辺にアミット船が着く。
個人所有の船のためそれほどの数の荷物は載せることはできないが少なくともこれからの必要最小限の物資を持ってきたようだ。
そしてシムと何かを話す。
しばらくの間、この船が必要な物資を人手を運搬するということだけを聞くことができた。
これからの急務は簡素でもいいから港の整備ということになりそうである。
この村は必ずや大きな町となるだろう。
劉備はなんとなくだが、確信があった。
…なぜなら、ここには「龍」がいる。
「龍」がいる限りこの村は外敵の恐怖にさらされることはないだろう。
あの人たちは無事に…生きたのだろうか──
今はもう亡くなっているはずの、過去で出会った二人を空に思い描いていた。
ヒョイ , ,,,,.,.,,,.
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藤原カムイ作のDQ7漫画を勧められて読んでみました。
すごく面白かったです。
同時に、華龍光臨を思いました。
どちらも物語の背後に歴史の大河があるのだってことが
きちんと描かれていて、だから面白いのかなあと思いました。
リレー小説もあわせ、楽しみにしています……。
391 :
華龍光臨:03/03/01 13:52 ID:48aXMlI5
<聖獣>
「なるほど、そういうことがあったのですな。」
「ええ。こちらの世界に着てから毎日が驚きと発見の連続でして…」
フィッシュベル。アルスの家。
あれから物資の運搬をしているうちに夜が更けてしまった。
さあ、グランエスタード城の宿に戻ろう。としたところ、もう夜が更けているのでうちに泊まっていってください。とアルスが申し出た。
「最初アルスが連れてきたときはどこかの王様かと思ったぞ。」
「はは、そうですか。」
間違いではない。蜀漢を建て、実際に皇帝と名乗ったのだから。
「では、もう一杯。」
「ありがとうございます。」
ボルカノが劉備のグラスに酒を注ぐ。
今、ここにいるのは二人のみ。
張飛も関羽も孫尚香もすでに寝ている。
寝付けなく物思いにふけているところを酒に誘われたのだ。
「明日にはもう行くのか?」
「ええ。まだまだたくさんの石版があるようです。この石版の謎を追っていけば何かつかめるはずです。」
机の上に石版を出す。ボルカノはまじまじとそれを見つめる。
「…息子をよろしく頼みます。」
「わかりました。貴方も確か明日には漁に出られるとか。…お気をつけて。」
劉備が席を立つ。二階ではなく外へ足を向ける。
「…散歩か?」
「ええ。今日は、どうやら寝付けそうもありませんから。」
「夜風に当たりすぎないようにな。」
「わかりました。」
そういって、外へと出る。
夜風は少し、冷たかった。
392 :
華龍光臨:03/03/05 04:05 ID:/I3xQvhU
見慣れた星空とは違う空がそこにある。
…不安はある。
果たしてやっていけるのだろうか。
空に煌く星も違うような場所で右も左もわからず、ただ導かれるままに進んでいく。
だけど。
「願わくば、この世界のあらゆる民に希望の光があらんことを。」
…迷ったりする。転んだりする。時には逆走したりもする。
だけど、目指すことは何時、何処にいようと同じ。
民の平和、平穏。
まだ、封印されている台地には魔物の圧力の中で苦しんでいるに違いない。
そう。あの死道の悲劇を繰り返さないのだ。
死道の手、この地にも及んでいるのはすでに確証は得ている。
あのまがまがしい炎。忘れるはずもない。
必ずや死道の野望を止めて見せる。
剣を掲げ、自分の意思を確かめた。
…目的さえ見えていれば、いつかたどり着けるはず。
そう、信じて。
393 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:03/03/06 08:18 ID:6pizl4Gu
ここまで読んだ。
394 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:03/03/09 22:00 ID:mf00/VEy
面白いです。
しかし、劉備はこのままでいいのでしょうかね(w
395 :
華龍光臨:03/03/10 12:20 ID:zLtpaaJn
翌朝。
身を起こし窓の外を眺める。
窓から差し込む朝日が…
げしっ。
日差しが痛い、わけがない。
視界が斜めに移る。
目覚めの一撃にしてはあまりにも痛い。
いわずと知れた弓腰姫様の回し蹴りである。
「起きるの遅い!」
「…すまない。」
一番起きるのが遅かったようだ。
下では慌しいようだ。マリベルの声が聞こえる。
どうやら皆来ているらしい。
「準備はできてるの?」
「昨日のうちに済ませておいた。」
そう言って荷物を手に取る。もっとも簡素な道具袋に携帯食、僅かな路銀、そして雌雄一対の剣しかないためこじんまりとしたものであった。
「雲長たちはもう下にいるのか。」
「そうよ。もっとも、準備に追われているけど。」
396 :
華龍光臨:03/03/10 12:39 ID:zLtpaaJn
劉備が梯子を降りたとき、ちょうど張飛の準備が終えたところであった。
「おせぇぞ!兄者!」
「お目覚めになりましたか。」
二人は椅子に腰掛けていた。
ボルカノの姿はない。開拓村への物資の輸送のため忙しいとのこと。
「ああ。遅くなってすまない。私の準備はできている。」
台所にはマーレ、そしてアルスの姿が見える。
「あとはキーファが来るだけね。」
「弁当を作っているからもう少し待ってて下さい。」
台所からアルスの声がする。マーレとともに弁当を作っているようだ。
「申し訳ない。色々と世話してもらって…」
「いやいや、アルスが世話になってるんですよ。このくらいはお安い御用ですよ。」
てきぱきとサンドイッチを作っていく。
こちらの世界に来てから食事も慣れないものが多い。
…張飛は相変わらずではあるが。
だけど、どこか懐かしい感じがする。そう思ってもいた。
味とかそういうものではない、根本的な何かがそう告げている。
「アルスをよろしく頼みますね。…アルスも足手まといになるんじゃないよ。」
マーレは大きめのバスケットを用意している。
それに入る弁当の半分は張飛の腹に納まるだろう。
「…にしても、キーファ、遅いわね。」
キーファがやってきたのはそれから一時間後のことだった。
続きはまだ?
ほっしゅっしゅ〜
399 :
華龍光臨:03/03/16 15:10 ID:fyw3NHEz
「準備はいいか?」
「はい。準備はできてます。」
ここは謎の神殿。劉備が暇さえあればやってくる場所。
誰がここにそんな神殿を立てたか、何故立てたか、謎に包まれている神殿。
まだ、ここにはたくさんの石板の台座がある。
この数だけ歴史から葬られた過去がある。
この数だけ魔物の恐怖におびえる民がいる。
「いざ参らん!」
かちりと石版をはめる音が静かな神殿内部に広がる。
光の渦が新たな土地へといざなう。
空を見上げる。
空は漆黒。ウッドパルナやダイアラックを思い起こさせる。
ここの民は魔物からどのような苦痛を受けているのだろうか。
「ねぇ、劉備。何か臭わない?」
孫尚香の声にはっとして辺りの臭いを嗅ぐ。確かに臭う。
周りを見回すも臭いそうなものはない。ここは平地。そのようなものはない。
「兄者!あっちのほうから臭ってくるぜ。」
張飛の指差した先には…かすかにだが町の姿が見える。
…これからの起こる出来事に誰となく溜息が漏れた。
「…何よこれ。動物だらけじゃない!」
マリベルが鼻をつまみながら叫ぶ。
町に近づくほどその異臭はひどくなっていく。
そして町にたどり着くとそれは頂点へと。
思わず鼻をつまみたくなるほどの異臭。
肥溜めに突き落とされたというか。
とにかく鼻を押さえずには…
「劉備、平気そうね。」
三兄弟は平然としていた。
400 :
キリ番getterARK:03/03/17 20:12 ID:P4u0c83Q
面白いー。
続きガンガレ。
リレー小説もそろそろ誰か書かないかなぁ……。
402 :
華龍光臨:03/03/19 22:31 ID:e3FDCvE9
「ん?ああ。放浪していたときがあるからな。」
「確か、翼徳が路銀をすべて酒に注ぎ込んだときのことでしたな。」
「まだ覚えていたんですか?兄者。」
張飛がげっとした顔で二人を見る。
「一度や二度じゃないだろう。その結果無断で家畜小屋で寝ることもあったな。」
「外で寝るよりはよかったですな。少なくとも寒さを凌げる分には。」
「うむ。それで翌日になって追い回されたりもしたな。」
「挙句の果てに町の衛兵を張り倒したときもございましたな。」
「仕方ねぇだろ。あの時は役人をぶっ飛ばしちまったからな。」
「…ホント、あなたたちは驚かされるわね。…いろんな意味で。」
盛大に孫尚香が溜息をつく。
「…妙ですね。」
アルスか緊張した面持ちで空気を変える一言を放った。
「…アルス。気づいていたか。」
アルスが頷き辺りを見渡す。
「人影がありません。何処もかしこも動物ばかりです。」
「まさか、ここの民は全員連れ去られてしまったのか?」
劉備の顔に焦りの色が見える。
「…二手に分かれよう。誰か見かけたら呼んでくれ。」
一同は散開する。
辺りは何処もかしこも動物だらけ。
劉備たちは道具屋、宿屋にならもしくは…と思って入ってみたが。
「まさか鶏が店番をしているとはな。」
店の中も動物だらけであった。
「…最初からここは動物だけしかいなかったのか?」
思わずそんな言葉が飛び出るほどであった。
店を切り盛りしている鶏は言葉こそ喋れないがしっかりと接客に応じる。
まるで人間が切り盛りしているが如く。
(まるで、人間のように…か)
どこか、それが頭のどこかに引っかかる劉備であった。
アルスたちがここに残っている住民を見つけるのはそれからしばらく後のことであった。
404 :
華龍光臨:03/03/21 15:45 ID:IEaloJAj
アルスが生存者を見つけたのはそう時間がかかったことではなかった。
が、その生存者は問題を抱えていた。
…会話が全く成立しないのであった。
こっちを見据えていて何かを伝えようとしている。
が、出てくる言葉はまさに言葉にならない呻き声。
「…兄者。筆談ならなんとかなるんじゃねぇか?」
と張飛の言葉によって筆をとらせてみるも文字すら書けない状況であった。
「いい案だと思ったんだがなぁ。」
「うむ。…アルス。他に生存者はいたのか?」
孫尚香がその間にもあれやこれやとその人から何かを聞きだそうとしてもうまくいってないようだ。
「いたのですが…」
「まさか、みんなこんな感じなの?」
ええ。と溜息をつくアルスにつられて溜息が出る。
「弱ったな。まさか今まで言葉を使わずに生活してきたわけでもあるまい…?」
ふと、劉備の何かが頭の中で引っかかる感覚に襲われた。
「どしたの?」
「…兄者。妙ですな。」
「雲長も何か感づいているんだな。」
「まだ、はっきりとはわかりませぬ。ですが、あと少しでわかりそうな気がするのです。」
「…そうか。」
辺りを見回す。辺りは動物だらけ。
両手で数えれる程度の数の人間。
…どこか、引っかかる。
そう感じずに入られなかった。
405 :
華龍光臨:03/03/21 15:50 ID:IEaloJAj
町の全員の生存者と接触を試みるもやはり言葉が通じることはなかった。
途方にくれる一行の目にとまったのは町の奥。
…奥に見えるは周りの家とは一回り大きい屋敷。
「あれはこの町の長の屋敷だろうな。」
「ええ、今キーファたちが行ってる筈なんですけど。」
「ふむ、行ってみるか。」
屋敷の中は町の長であろう物とすれば質素なものであった。
少なからずマリベルの家とは比べれるものではない。
「だめ、この人も話が通じない。」
家の中には一人女性がベッドに腰掛けていた。
孫尚香が彼女に話を聞こうとしたが全く話が通じなかった。
女性だったので孫尚香ならあるいは…と思ったのだが。
「仕方ない。何か他の手がかりを探そう。」
「そうね。もし私たちがこの子達と話ができたなら話が早いのだけど…」
子猫を孫尚香が抱き上げて、そう呟く。
「そうだな。」
色々と思索し始めようと椅子に腰掛けようとする。
「劉備さん!大変です!」
椅子に腰掛けた直後にいきなりアルスが入ってきたものだから思いっきり椅子から落ちてしまった劉備であった。
コケる劉備ワロタ(w
すごい長編になってますな。ガンガレー!
407 :
名前が無い@ただの名無しのようだ:03/03/22 20:32 ID:LP+dYz3f
ほす
で、曹操や孫堅や董卓や袁紹は何時活躍するんですか?
読ませてもらいました。
続きを希望。
ほしゅほっしゅ〜
hosu
hosu
414 :
華龍光臨:03/03/30 22:27 ID:ey3ZiuP2
「なんていうことだ!」
「こんな小さい子にこんなことを!」
案内されてきたのは村の長の所有していると思われる倉庫。
そこには首輪をつけられた子供が苦しんでいた。
まさに息もできないのではないか。そう思える。
「兄者。ご丁寧に鍵までかかってやがるぜ。」
張飛と関羽が二人がかりでが暴れる子供を抑える。
「それにしてもまるで動物のような扱いだな…?」
そう言葉を出したところで劉備に何か気持ち悪いものがよぎる。
「兄者。先にこの子供を助けましょうぞ。」
「うむ。そうだな。」
雌雄一対の剣の小剣のほうで器用に鍵を壊す。
「この金具も壊す必要があるな。」
首に負担をかけないようもう一つ金具を壊す。
金具を壊すと同時に首を締め付けていた首輪がはずれる。
それと同時に二人が子供を解放する。
「これでもう安心だぞ。」
その言葉とともに一行が駆け寄ろうとした刹那。
ガシャン。
窓を派手に割って少年が飛び出していった。
「あれだけ元気なら大丈夫ですな。」
「…礼もなしでいっちゃったわね。」
マリベルが溜息をつく。やれやれと態度で示す。
「情報を聞き出そうと思ったのだが、おそらくあの子供にも話は通じないのだろう。」
劉備が倉庫の床に腰を下ろす。
「兄者。」
「おぼろげながら事態が見えてきた。この町に起こっていることが。」
空気が張り詰める。ゴクリと唾を飲む音が聞こえてきそうだ。
「おそらく──」
夏候淵萌え
416 :
華龍光臨:03/03/31 03:15 ID:BELtBJz+
「む…」
「村人と動物の姿が入れかわちまったってわけだろ。」
そう、さも当然のように張飛がいった。
一瞬沈黙が辺りを支配した。
「ん?なんだ?」
何事もないように張飛が言う。
「…あんたの頭の中は筋肉だけじゃなかったのね。」
「んだよ、それ?」
こうしてしばらくの間、孫尚香と長飛の口喧嘩が始まるのであった。
「…終わったようですな。」
「うむ。」
口喧嘩の間、弁当箱を開き食事をしていた。
「…ところで翼徳、何故そう感じた。」
「いやな、さっきの小僧を見て思ったんだが普通、人間に対してあんなことやらんだろ。」
「うむ、そうだな。」
「動物ならまあ、別に珍しいことじゃねぇだろうなと思うし。」
張飛はサンドイッチをがぶりつく。
「あの小僧の首輪があれだけ締まっていたのはおそらく元の姿のときはあれでちょうどよかったんだろうよ。」
「ふむ。」
「まあ、鶏が店番してりゃ、そう考えたって不思議じゃねぇな。」
「ふーん。そう考える脳みそくらいはあったんだ。」
「んだと!?」
また口喧嘩が勃発。劉備は盛大に溜息をついた。
もし、書いてもいいならトルファの冒険のほうの続きも書きたいのだが。
>>417 是非書いてください。楽しみにしてます。
空が青い。
潮風の匂いがする。
なるほどここは港町なのだとトルファは感じた。
町の外れの人気のない空き地。
狭い通路を抜け、目の前に広がるは…
巨大な商船。行きかう人々。
──トルファが選んだ道は港町、ルプガナであった。
あれは何処の船だろうか。
ああ思い出した。
ラダトームの衛兵と押し問答していたときにちらりと見たあの紋章だ。
よく見ると船腹のところどころに鉄板を張っている。
そしてかなりの数の大砲が装備されている。
要するにあれは軍船だ。
だけど見る限りここは軍港ではない。
…物騒なことにならなければいいのだが。
「さて、どうするっかな。」
メインストリートに出てゆっくりと考える。
近くでカランカランと鐘がなる音が聞こえる。福引のようだ。
徐々に町の出口へ近づいていく。
すると、それが見えた。
宿屋である。
「さすがに腹が減ったな。今日はゆっくり休んで…」
パンと腰に手を当てる。…当てているつもりはない。あるべきものがない。
…見る見るうちにトルファの顔が青くなる。
ない。
財布がない。
「まさか、落とした?」
たしか、こちらに着てから確認はした。
そのときは確かにあった。
「こっちに着てから落としたか。」
まだ間に合うかもしれない。何処で落としただろうか。
1 港 2 福引所前 3 空き地
もちろん2でしょw
わーい、続きだ続きだー!
1でいってみよー。
なんか展覧会の絵を思い出しますね。
3で
しかし、いつからこんな下にさがってるんだ。
んじゃあげるか。
司馬仲達萌え、諸葛亮逝って良し、と。
見事に票が割れとるw
2で
(2 福引所前へ…)
俺は福引所前に移動した。
ここは先ほどよりかは人が少ない。
そういえばここは人でごった返していたな。
「人の波にも揉まれてるうちに落としたってワケか。」
綺麗に石畳で舗装された通りにはあるべき財布はない。
ガクリと肩を落とす、すっからかんに等しい財布だがなくしたらなくしたでショックだ。
先ほどのようにあれだけ人がいれば拾った財布を猫糞するやつがいてもおかしくない。
世の中いいやつばかりではない。
「野宿確定か…」
幸いにもまだ保存食はある。
町に来ておきながら街角で野宿確定かと思うとかなり惨めなものではあるが。
町外れから良いにおいがしてくるとさらにダメージが倍になったりする。
それはともかくこれからのことを考えてどっかりと福引所横のベンチに座る。
傍から見れば相当不機嫌に映っていることだろう。
…横からカランカランと鐘の音が聞こえる。
やたらと当たるようだが。今の俺には知ったこっちゃない。
「四等賞、魔よけの鈴です!」
気に入らない。
「三等賞、魔道士の杖です!」
…気に入らない。
「一等賞、ゴールドカードです!」
…気に…
………
「やめよう、自分が惨めになるだけだ。」
苛立ってきた自分に嫌気がさしてきた。
なんで知らない人に苛立たないとならないんだ。
元はといえば俺自身の不注意なのに。
「先ほどの空き地で寝るか。そのほうがいい。」
はあ、と一つ溜息をついて腰を上げる。
福引所の前を通る。
「あ。」
ふと、声をかけられた。
福引で当たりを引いていた女性。
ぱっと見お嬢様。そんな感じだった。
「やっぱり来たのですね。」
「なんだ?…って!」
その手には落とした財布が。
「落ちてましたよ、貴方の財布。」
「あ、ああ、すまん。」
財布を受け取る。ふう、と溜息をつく。
「落としたのに気づかないでに行ってしまわれたのですから驚きました。」
「宿屋に泊まろうとしたところで気づいたんだ。礼を言うぞ。」
「どういたしまして。…ですが、宿屋、部屋が空いていたのでしょうか。」
丁寧にお辞儀をする。育ちのよさが伺える。
「え゛?」
「港にラダトームの軍艦が停泊していたのをご存知ですよね。」
「ああ。ありゃあ、たいそうな軍艦だったな。」
「聞いた話ですが、ラダトームの大臣様がこのルプガナの町に滞在しているとのことです。おそらくはムーンペタに向われると思いますが…」
「わかった。要するに宿屋のほうはそれで泊まれるかどうか怪しいってワケだな。」
「ええ。とりあえず宿屋に聞いてみましょうか。」
「それがいいな。…俺はトルファだ。とりあえず、よろしく。」
「私はスイと申します。以後お見知りおきを。」
スイと名乗った女性とともに宿屋に向っていった。
「…その財布、あんまり入ってなかったですね。」
「…ほっといてくれ。」
夕日が水平線のかなたに沈んでいく…
時すでに遅し。
といったところか。
「…はぁ。」
「その様子ですと空いてなかったようですね。」
「ああ。」
「困ったですね。」
二人は宿屋前に立ち尽くしていた。
もっとも項垂れているのはトルファだけで、スイのほうは笑顔を浮かべたまま、全然困った様子はない。
「そうですね。雨風を防ぐのならここから南に格好の場所がありますが。」
「雨?」
「ええ。遅かれ早かれ降ると思いますよ。潮風に雨の匂いが混ざってますから。」
雨、と聞いてまた溜息を漏らした。
「ちょっと遠いですから行くなら急がないと途中で降られてしまうかもしれませんね。」
「そうだな。」
「決まったなら早く行きましょう。」
そう言って町の外へ歩き出したスイの背中を唖然と見ていた。
「どうかしましたか?急がないと雨が降り出してきますよ。」
「いや、…行こう。」
「はい、急ぎましょう。」
空を見上げると少し暗雲が広がっていた。急がないと本当に降られそうだ。
「どうやら間に合いそうもないですね。」
スイが全くあわてた様子もなくそう言う。
「…結構遠いな。」
「ですが、もうすぐ見えてくると思いますよ。」
「その言葉何回言った?」
もう10回以上は言っているだろう。
「十二回ですね。」
このやり取りも十二回目。
「…だが、確かに見えてきたな。」
かすかにそれが見えてくる。あれは…塔か?
「ええ、ドラゴンの角、です。あれは川を挟んで二つの塔があります。」
「話は後だ、急がないと雨に降られる。」
「急ぎたいのですが…ちょっと足止めされてしまいそうな気がしますね。」
全く動じない様子で一言言う。
トルファが剣を抜く。
「モンスターか?」
「ええ。バブーンのようですね。数はおおよそ10といったところですね。」
「多いな。…下がっていてくれ。ここは俺が切り開く。」
「ありがとうございます。…ですが、私も戦えるのでご心配なく。」
ふとスイのほうを振り返って見て思わずトルファはぎょっとした。
「私の家系は先祖代々それなりに名を上げた戦士の家系です。今まで自己鍛錬の旅を続けてきましたので腕には自信がございます。」
スイが構えていたのはトルファの両手剣によりはるかに大きい戦闘用のハンマー。…大金槌と呼ぶ…であった。
…見た目のイメージとギャップがありすぎて少し呆けていたがバブーンの群れに向き直る。
一匹目のバブーンがトルファに襲い掛かってきたのである。
先の冒険で戦ったドラゴンには劣るとはいえ、その豪腕から放たれる一撃は一撃で人間を屠る威力を持つため旅人から、特に魔法使いには恐れられている。
バブーンが振りかぶったその腕をトルファに叩きつける。
咄嗟にトルファがバックステップでかわしたためその腕は台地をえぐる。
「…こりゃあ、すごい。食らったらひとたまりもないな。」
再びバブーンが腕を振りかぶったところを一歩踏み込んで…
一閃。
上空へと振り上げた剣がバブーンの腕を切り飛ばし…
さらにもう一歩踏み込む。
振り上げた剣をそのままバブーンの体へと叩きつける。
真っ二つにされたバブーンは断末魔を上げることも叶わなかった。
「いっちょあがりっと。」
さて、スイのほうは…と振り返るとバブーン三体と同時に戦いつつも全く怯む様子もなく、逆に押している様子であった。
すばやい動きで大金槌を片手で振り回し圧倒していた。
「真っ…空っ…波ぁ!」
激しく武器を振り回すことで真空の刃を作りだす。
さらに激しく武器を振り回し、嵐を作り出す。
真空の刃によって取り囲んでいた三体のバブーンは吹き飛ばされることになる。
致命傷には至らないものの相手を怯えさせるには十分であった。
「…ギラッ!」
トルファの手から閃熱がほとばしる。
燃え易い落葉の積もった大地を駆け抜けて炎が一度に数匹のバブーンを包む。
これならたとえ術者が放ったのがギラであったとしても威力はベギラマに近いものになろう。
「燃えすぎてもいいな。どうせ、雨が降ることだろうし。」
また激しい突風が辺りを包む。スイの真空派がまた唸りを上げたのだ。
その風に撒かれて炎がさらに勢いよく広がる。
炎が勢いよくあたりを燃やす。
「あらあら。火が広がりましたね。」
全く動ぜずにそうスイは言った。もう彼女に襲い掛かってくるバブーンはいないようだ。
「山火事になりかねない勢いだな。」
「大丈夫ですよ、雨がもうポツリポツリと降り出していますから。」
遠巻きに倒されず、傷を負ったバブーンが二人を取り囲む。
スイが二度大きく大金槌を振ると怯えて逃げ出してしまった。
「これで、いいですね。」
「すごい怯えようだな。」
「ふふ、これが私の一族に先祖代々伝わる必殺技の一つ、「真空波」です。これは本当は剣技ですけど私なりにアレンジしてみたんですが。」
「恐れ入った。あんたがこれほどまでに強いなんてな思いもしなかった。」
「いえ、私はまだまだ強くならないといけないのです。これでは、駄目なのです。」
「…そうか。」
一瞬スイの闇をのぞいた気がした。とりあえず、この話題はここでやめよう。そう思った。
「雨が少し強くなった。急ごう。」
「ええ、そうですね。これなら山火事の心配もないでしょうね。」
…結局、雨が本降りになる前にドラゴンの角にたどり着くことはできなかった。
おお、いったいどんな話になるんだ。がんがってください。
<二日目>
空は気持ちいいほど晴れ渡っていた。
昨日滝のように降り出した雨はそれが嘘のように上がっていた。
「二、三日は足止めされると思ってましたが…」
ここドラゴンの角は旅人で溢れかえっていた。
旅の商人、武者修行の戦士、一攫千金を夢見た冒険家。色々な人たちがいる。
「ところで、これからどうなさるのですか?」
「ん?ああ。」
そういえばここに来たのは宿が空いておらず、雨風を凌ぐためどこか寝泊りできる場所を探していたのであった。
「昨日の話から…貴方はこの付近は初めてですよね。」
「ああ。」
無論、老人がどうだとか赤い旅の扉とかどうかは話してない。
「できればしばらくの間御一緒願いませんか?旅は一人より二人のほうが楽しいでしょうから。」
この地で何をするべきか。それがわからない今、この話は悪くはない。そう思った。
「わかった。よろしく頼むぜ。」
「ええ、こちらこそ。」
スイはぺこりと頭を下げた。
「ところで、そういうあんたは何故、旅をしているんだ?」
「…ムーンペタに行く予定です。ちょっと用事が…」
少し答えるのを躊躇った様子だった。
「そうか。…ここから、ムーンペタまではどのくらいかかるんだ?」
だが、聞かなかった。他人の事情に土足で踏み入るような真似だけはしまい。そう思っていた。
「おおよそ三日といったところですね。」
「意外と近いのだな。」
「ええ。まずはここから南、砂漠のオアシスに向います。」
「今日はそのオアシスで休むんだな。」
「はい。そうですね。」
二つの土地を分け隔てる海。
それは長年もの間人々の往来を拒んでいた。
かつて、勇者ロトの子孫たちは風のマントを身にまとってこの海を飛び越えたといわれるのだが。
「風のマントの製法は今でも知られておりません。おそらく世界にそう多くない貴重品だと思われます。」
スイが色々と説明してくれる。
「見たことはあるのか?その風のマントとやらを。」
「見たことだけならございます。数少ない一つがラダトーム国王に送られ、たいそう王がお喜びになったということも聞いています。」
要するに当時はどうだか知らないが今ではかなりの貴重品ということだ。
「…それではあまりにも交通の便がよくないとラダトーム王が仰せられてこの橋が作られたということです。」
二人はその橋を歩いていた。ルプガナとムーンブルクをつなぐその橋を。
「かなりの大きさだな。」
「ええ。これに投じた工事費用はおおよそ五百万ゴールドと…」
「…貧乏人の俺にはとても手の出ない金額だな。」
クスクスとスイが笑う。
この橋が通行する人が多い。絶えず人の流れができている。
「港町はそう多くはございません。それだけ、ルプガナの役割は大きいということでしょうね。」
ちょうど橋の終着点が見えてきた。
「この街道を進んでいきますと砂漠が見えてきます。砂漠といってもそれほど大きくないので安心してくださいね。」
橋の次は人々が踏みならした土のむき出しの街道が広がっている。
荷馬車が横を通っていく。かなりの量だ。
「後ろから何か来ますね。」
「ああ。」
振り返る。はるか遠くから豪華な馬車がやってくる。
ロトの紋章が掘り込まれた豪華な馬車だ。
「ルプガナの港にあったラダトームの大臣様の馬車、でしょうね。」
「おそらくは。」
その馬車がゆっくりと二人を追い越していく。
「…おそらく、行き先は同じでしょうね。」
「わかるのか?」
「ええ。」
「…また。寝る場所を追われそうな気配がするな。」
その言葉に苦笑いを浮かべたスイであった。
「で、案の定また寝る場所を追われたのだが。」
トルファが愚痴る。
砂漠のオアシス。ここは交易場として各地の商人が集まる場でもある。
「仕方ないですよ。馬車でもこの砂漠を一夜で越えることはできませんから。」
交易場として、また旅人が体を休める場所としてこのオアシスは発展して来た。
オアシスの中心の一番大きいテントにラダトームの大臣は休んでいる。
「…ムーンペタにつくまでの間、こんな感じになるのだろうか。」
そう言ってトルファは草地に寝転んだ。スイが苦笑いを浮かべる。
「たまには夜空を眺めて休むのも悪くはないですよ。」
そう言ってスイが手渡された毛布に包まる。
「明日は早く出ましょう。運がよければラダトームの馬車よりここを発てるかもしれません。」
「だな。」
そういってトルファは目を閉じた。
<三日目>
目覚めは最悪だった。
「…口の中がジャリジャリする。」
目覚めた最初の感触が口の中に入った砂を噛んだ感触だった。
何度も何度もオアシスの水で口の中を洗う。
「おはようございます。」
「おはよう。」
すでにスイは身だしなみを整えていつでも出発できる状態にあった。
まだ、朝日は地平線の彼方から姿を現してない。
…俺にしてはずいぶんと早起きだな。
ふとそう思った。
「日が高くなる前にこの砂漠を抜けましょう。日が高くなるととても暑くなりますから。」
「わかった。」
愛用の両手剣を持ってトルファが立ち上がった。
「順調に行けば正午になるまでに砂漠を抜けれますね。」
スイ曰く、ここらが真ん中らしいとのこと。
まだ、日差しはさほど鋭くない。
「しかし人通りが多いな。」
道もないというのに行きかう人の姿は途絶えない。
「この砂漠はルプガナに行くにも、ムーンペタに行くにも避けては通れないのですから。」
「…ところで今日は何処まで進むんだ?」
オアシスを出る前に受け取った水筒の中の水を飲みつつ言った。
「ムーンブルクです。あそこまで行けばもうすぐです。」
「へぇ。」
「ロトの子孫が建国したのですが…」
スイがそこまで言ってふと前方の喧騒に気がついた。
「魔物かしら?」
「そうかもな。」
二人は駆け出していた。
「あらあら、これは困ったですね。」
全く困ってなさそうに手を頬に当ててそう言った。
「…鎧ムカデか?」
「いえ、あれはもっと甲羅が硬い兜ムカデですね。」
目の前にいたのは兜ムカデの群れ。
バブーンが魔法使い泣かせならこちらは戦士泣かせ。
堅牢なその甲羅は鋼の剣をもはじく。
その上毒を持っておりかつ、痛烈な一撃を放つまさにモンスターの盾。
「真空波もはじくんですよ。」
「それはすごい。」
「ですが…」
一匹二人の下ににじり寄ってきた。
それに対しスイがガツッと大金槌が兜ムカデに叩きつける。
一撃の下に硬い甲羅さら兜ムカデを叩き潰す。
「こういう相手は剣や槍より質量兵器の方がいいときもあるんですよ。」
スイがにっこり微笑んで再び大金槌を振り上げる。
トルファが兜ムカデの群れに向き直る。
「はぁっ!」
渾身の力を込めて兜ムカデに切りかかる。
ガツンッ!
渾身の力を込めた一撃は一番殻の厚いところに叩きつけられたためか刃毀れを起こしただけだった。
「呪文は苦手なんだがな。」
剣での攻撃を諦めたトルファは呪文を唱えだす。
「…ギラッ!」
閃熱が兜ムカデを焼く。
いくら殻が厚くとも、腹部や間接の繋ぎ目などは殻に守られておらず、兜ムカデは炎の中でのた打ち回る。
「兜ムカデの丸焼き一丁上がりだな。」
「食べれませんですけどね。」
他の冒険者たちも戦っている。もはや乱戦である。
…結局、日が高く上がるまでに砂漠を抜けるのは叶わなかった。
あれから突き刺さるような日差しの中絶え間なく続く怪物たちの襲撃を退けながらの移動となった。
ここはムーンブルクへの行程の約三分の二の地点にある祠。
日はすでに沈みかけようとしていた。思った以上にモンスターはしぶとかったのである。
「なんだか関所っぽいな。」
橋を囲むように立てられたその祠はすでに主なき祠であった。
ささやかな教会が存在していた跡がうかがえる。
「…どうだったのでしょうね。私はそうは思えませんが。」
橋の上で一息をつく二人。
ちょうど、二人の後ろをラダトームの馬車が通り過ぎる。
「また、か。」
ほとほとうんざりとした様子でトルファがぼやく。
「あの馬車もムーンブルクで一旦休むのか?」
「必ず、足を止めるはずです。…ロトの子孫に縁があるのですから。」
「そうか。」
スイが立ち上がる。愛用の大金槌を手に持って。
「ちょっと急ぎますね。このままではムーンブルクに着く前に日が沈んでしまいます。」
「ああ。」
夕日によって橙色に染まる海を眺めつつ砂浜を行く。
「…この辺は治安が行き届いてません。」
「なんだ?盗賊でも出るのか?」
「いえ、…この辺はかつて邪教を広めんとした大神官ハーゴンの拠点、ロンダルキアに近いのです。」
「でも、ハーゴンは討伐されたのではないか?」
旅の途中、色々とスイが話してくれた話を総合すると、そういうことになる。
…もっとも、何故そんなことを知ってるんだ?ということが多いのだが。
「ええ。ですが、自然の要塞ロンダルキアに魔物討伐軍を編成する力は何処の国もなかったのです。」
「自然の要塞ってどんなもんだ?」
「竜王の城がある島、イシュタル島も自然の要塞と言われてますよね。」
「ああ。行ったことがあるからなんとなくだがわかる。」
トルファは竜王二世との激戦を思い出す、あの時は竜王の孫の協力があったとはいえ下手したら命を落としていたかもしれない。
…いや、協力がなかったら確実に命はなかった。
「ロンダルキアが何故天然の要塞といわれているかはそこにたどり着くための唯一の通路である洞窟にございます。」
「なるほど。」
「数多くの落とし穴。宝箱に仕掛けられた罠。方向感覚を狂わせる無限ループ。そして何より凶悪なモンスターが数多く生息しています、」
「へぇ、どんなやつらがいるんだ?」
「色々いますが…やはりドラゴンでしょうね。あと、ハーゴンがいた時代にはキラーマシンという凶悪な機械人形がいたと聞いています。」
どのように作られたかはまさに謎なんですけどね。とスイが付け加える。
「なるほど、それでは軍を出したとしても損害を出すだけでロクに戦果は挙げられなさそうだな。」
「ええ。ですが、天然の要塞といわれている理由がその洞窟にあるとしても、軍が出せない最大の原因は洞窟を抜けた先でしょうね。」
「どういうことだ?」
「ロンダルキアは極寒の地です。軍を派遣したらおそらくはその大半がその寒さにやられてしまうことでしょう。」
一息ついて付け加える。
「それにアークデーモン、シルバーデビル、ギガンテスなど凶悪な魔物が当たり前のように存在してます。」
「…それじゃあ、手が出せないな。」
「ええ。ですから結局各国の間で何度か協議されたもののいい案が出せずに放置するしかなかったのです。」
川を渡り今度は砂浜でなく平原を歩く。
「ムーンブルクが見えてきましたよ。なんとか日が落ちる前にたどり着きましたね。」
「そうだな。」
<in ruins>
そこは廃墟だった。
「ここがムーンブルクか?」
「ええ。」
崩れた城壁が時代の経過を示す。
かなりの時間が経ったのだろう。
過ぎ行く風が物悲しさをさらに際立たせる。
廃墟の傍らに例の馬車がある。
スイが手招いている。
「こちらに地下室がございます。ここで休みましょう。」
地下室に降りようとした時、呼び止められた。
「待たれよ。今現在、大臣様がお休みになられておる。何人たりともここを通すなとの御命令だ。」
階段の奥から護衛兵が道をふさぐように現れる。豪華な装備をしているが腕のほうは如何なものか。
「…ぐわっ、ここでもか。」
「仕方ありませんね。」
ふう、とスイが溜息を漏らす。ジロリと護衛兵がにらむが意に介せず。
…最も、下手な戦士より彼女の方がずっと強いが。
「こちらで休みましょうか。仕方ないですから。」
連れられた先は王の間であっただろう場所。
「天気がよくて何よりです。」
空には満天の星空、雨が降る気配など微塵もない。
「雨が降ってたら最悪だったな。」
薪になりそうな小枝を集めて焚き火をする。
「…ここの事、お話、しましょうか?」
「頼む。」
火の調節をするトルファ。
「でも何処から話せばいいんでしょうかね。」
「好きにしてくれ。」
「…そうですね。先ほど、ここ、ムーンブルクはロトの血筋のものによって建国された…ということはお話しましたね。」
「ああ。」
手ごろな棒で火の調節をしながら答える。
「もう二つ、ロトの血筋が建国した国がありますが…その辺は追々話すとしますか。」
「そうしてくれ。」
「…ここ、ムーンブルクは他のロトの血筋の二国から多少離れています。それ故、少しばかり事情が異なっていたのです。」
おおよそ、歩いていくと三日ほどの距離だという。ずいぶん近いのではないか?と聞くと。
「他の二国は朝出立して夕方には目的の国に着くことができます。そのくらい近いのです。」
「なるほど。」
「それにあちらのほうはモンスターが弱いので行き来が容易なのです。」
「わかった。話を続けてくれ。」
「まず、この国が行ったことは…多少離れたところに町を作ったことです。」
「ムーンペタ、だな。だけど、何故離れる必要がある?」
「非常に言いにくいことですが…その二国に対しての防衛拠点だったという話を聞いたことがあります。」
「何故?いわば兄弟国家じゃないのか?」
「二国の関係が密になる様を見てムーンブルク王が何かしら危惧を覚えたのでしょうね。」
それは当時の王に聞くしかありませんと溜息をつく。
「そして、何を思ったか今度はここから西にある無人島に灯台の建設を命じたのです。」
「まさか。」
「…ラダトームの監視目的ですね。」
それが今では魔物の巣窟となってしまいましたが。とまた溜息をつく。
「東は山や川が入り組んでおり、通行は困難。南は湖と高い岩山に囲まれてまさに天然の城壁…」
焚き火の勢いが弱くなりトルファは手に持っていた枝もたきぎの中に放り込む。
「ですが、ある日突然南から魔物の集団がムーンブルクを襲撃したのです。」
「その天然の城壁とやらがロンダルキアで、ハーゴンというやつが命じたんだな。」
「ええ。…王は苦渋の選択を迫られました。不審の念を抱いている兄弟国に応援を呼ぶか。否か。」
ふう、と溜息をつく。三度目だ。
「結局答えは出せずじまいに魔物の攻撃により、王は殺されました。一人娘の王女は命こそは助かれど姿を犬に変えられたといいます。」
「…ちょっと待ってくれ。なぜ、そこまで色々と知っている?」
「…」
恐らく話してはくれないだろう。だけど聞かずにはいられなかった。
「話、続けます。」
「ああ。」
…やはりか。トルファは心の中で溜息をついた。
「その後、城中が荒らされ“滅亡”しました。…ですが、一兵士が藁をも掴む思いで兄弟国の元に。」
「まさか断ったりはしなかっただろう。」
「もちろんです。兄弟国はそれぞれ、ロトの血を強く引く王子を向わせました。」
「王子をか。…一人ずつで大丈夫だったのか?」
ロトの血は思っているより強大です。すでに王子二人はその状態で常人以上の力を持っていたのです。との説明を加えられた。
「血の力は強大だな。」
「…ええ。ですが時が経つにつれて、世代を重ねるにつれていろんな意味で血は薄くなっていきます。」
「互いの婚姻とかはしなかったのか?」
「歴史書を見る限りではなかったようですね。それまでは。」
焚き火がが消える。
「適当な枝とかを探してくる。」
「ええ、お気をつけて。」
続きキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
スイの正体が気になります……!
適当な焚き木を持ってくる。
火打石を出すのが面倒でギラを唱える。
「ごめんなさいね。呪文は私、全く使えないんです。」
「自分だってそんなに得意じゃない。」
「…話し、続けますね。」
「ああ。」
ちょっとばかり火が強かったな。そう感じていた。
「ロトの子孫の国がそれぞれの王子を旅出させたところからですね。」
「そうだな。」
「…旅の出来事についての内容が書かれているような文献は現存してません。」
「そうだな。日記をつけるような王子様はそうそういないとは思うが。」
スイが苦笑いを浮かべる。
「聞くところによると精霊ルビス様の加護を受けたという話もありますが。」
「精霊。」
「ええ。アレフガルドを創造したといわれる精霊です。」
「…すごい精霊だな。」
「…その加護を持って、ハーゴンの幻影を看破し、ハーゴンが呼び出した破壊神シドーを打ち倒したと聞きます。」
「それで、めでたしめでたし…って、まだ終わりじゃないよな。ここのこと話してないぜ。」
一息ついて、水筒を手渡す。スイが頷く。
「ええ。それから、ムーンブルク王女の総指揮によってここムーンブルクの再建が行われました。」
「この城の有様はこの後の話ということだな。」
「ええ。」
風雨に晒されて朽ち果てた玉座を眺めてスイが言葉を紡ぐ。
「それからしばらくは王女はこの城に留まったのですが、王女が兄弟国に嫁ぐことになりロトの血筋を引くものがいなくなってしまいました。」
「で、結局誰がここを継いだんだ?」
「騎士団長と、聞いています。」
「…相当荒れたのだろうな。」
「…推して、知るべし。ですね。」
声は重かった。
「それでも、まだ王女が存命中のときはまだよかったのです。」
「王女がいてそれだからかなりのものだったのだろうな。」
「王女がお亡くなりになって一月後。ムーンブルクでクーデターが起こりました。」
「…ついに起こったわけだ。」
「主犯は大臣。その他重鎮のものも加わりました。」
「相当手を回したようだな。」
「しかし、クーデターは失敗し、クーデターに参加したものは国を追われることになりました。」
そのような動き、兄弟国が見逃すはずもないのに。と、溜息をつく。
「それからしばらくは平和でした。ただ、クーデターに参加したものの消息は全くつかめませんでした。」
「しばらくって事はまた何かやらかしたんだな。」
「しばらくと言いましても、50年位ですが…」
「…まあ、この際どうでもいいな。」
火の勢いが強すぎるな。そう感じ、少し調整を図る。
「大臣の息子がムーンペタで蜂起しました。」
「…よくもまあ、見つからずにいたな。」
「ムーンペタにはかつて地下に魔物を捕らえていた牢屋があります。そこに隠し部屋を作って潜伏していたようです。」
かつて、そこにはルビス様の加護を受けるための紋章があったとか、と付け加えていた。
「反乱軍はムーンペタの占領後、ムーンペタの北のローラの門を制圧しました。」
「ローラの門?」
「兄弟国との陸地での唯一の接点です。」
「なるほど。そこを制圧すれば兄弟国からの敵援軍は断てると。」
「…ええ。それでも終始、ムーンブルク軍が有利に戦闘を続けていました。…しかし。」
「しかし?」
「あるときを境にそれが逆転しました。聞くところによると魔物の姿があったとか…」
「…魔物。」
トルファの顔に緊張が走る。
「ええ。間違いは…ないと思います。」
「しかし、そんなのがいたら味方の軍でさえ、不審だと思わないか?」
「ですが、そういったことはなかったようですね。…ムーンブルクはそのまま敗北し。この有様、です。」
ふうとまた、溜息を着く。
「捕縛されたムーンブルク王その血族は皆処刑されました。王は公開で処刑された…と。」
「…しかし、城をこんなにしてよかったのか?」
「大臣の一族にとってこの城は要らないものであったんでしょうね…」
それもそうか…と、思う。パチ、パチと焚き火の音が当たりに響く。
「今現在、ムーンペタには派手な王宮があります。もっとも、そのためでもあるんでしょうね。」
「…となるとわからんことがあるな。」
「何がです?」
「なぜ、反ロトな国にあんな使者がやって来るんだ?」
あんな使者というのはいわずと知れた今地下室で休んでいる大臣ご一行のことである。
「…威圧、されたんでしょうね。きっと。」
「脅して何かやらせようってことか。」
「ええ。」
沈黙が辺りを包む。
「…寝よう。これ以上起きていると起きれなくなる。」
「そうですね。おやすみなさい。」
焚き火を消して寝袋に包まる。
風邪は寂しく、泣いていた。
<四日目>
昨日あれほど遅くまで話していたのに不思議と目が覚めた。
旅をしているとはいえ、この時間に起きているとはありえない。
きっと、何かあるのだろうな。
地平線からまだ姿を現しきってない朝日を眺めながらそう思っていた。
「おはようございます。」
すでに身支度を終え、いつでも出立できる様子でスイがいった。
…この人はいつ寝て、いつ起きているのだろうか。
そうも思っていた。
「…おはよう。…ここからムーンペタまでどのくらいかかるんだ?」
「今すぐ出立すれば昼には着きましょうね。何事もなければ、ですが。」
「そうか。…よし、顔を洗ったら出発しよう。」
「わかりました。」
森の中を歩く二人。
木々の間から漏れる日の光が柔らかい。
踏み固められた街道の隅では露天商が装飾品を並べている。
「結構深い森だな。」
「ええ。ここはかつてはかなり危険な場所だったと聞いていますが。」
ハーゴンが討伐された際に姿が見えなくなったと聞いています。とのこと。
確かにこの森からは怪物の気配がしない。
「それでも夜になれば危険で、ムーンペタ住人には夜間の出歩きは自制するよう言われているようです。」
「まあ、それはそうだよな。」
川が目の前に横たわっている。
こちらですとスイの案内に進むと、橋がある。
橋を渡る最中に木々の間から何か建物が見えた。
「もう、近いのだな。」
「ええ。先ほど見えたのは王宮の尖塔かと思われます。敵の接近を事前に知るための見張り塔でもありますね。」
「なるほど。」
「きっと驚きますよ。町の規模に。」
「それは楽しみだ。」
背後から蹄の音が聞こえる。
「…今日は宿を追われることはありませんから安心してくださいね。」
「そうだな。…もう懲り懲りだ。」
追い越していく場所を見送りながらその後を追う。
程なく町の入り口に着いた。
とりあえず、目的の町、ムーンペタに辿り着いたのであった。
hosyu
更新しようと思ったらヤフー規制に引っかかってしまいました。
難民辺りにいますのでよろしく頼みます。
なんてこった...ご愁傷様です>452
あらららら。
早く規制がとれるといいですね。
ほっしゅ
はやく規制とれないかねぇ
ほしゅ
規制解除祈願
ほしゅ
ほぜん
462 :
スラリソ:03/04/24 14:38 ID:by9GD1zS
携帯からです。誰か小説をこのスレにUPしてください。
463 :
スラリソ:03/04/24 14:53 ID:8Edbgeat
携帯入力慣れてない為、トリップなしなのはご容赦のほどを。
保守代わりになってちょうどいいね。
まさに大都市。
「…人と人とが出会う町。それがムーンペタ、です。」
石畳で綺麗に舗装され、綺麗に何かが彫られたメインストリート。
その上を行きかう様々な人。
メインストリートの脇を飾るは武器屋防具屋を筆頭に劇場や…
「あ、福引所がありますね。」
「行くのか?」
「いえ、福引券はルプガナで使ってしまいました。」
福引所から鐘の音が聞こえる。
今日も出血大サービスのようだ。
この「町」は少なからずいい「町」であるようだ。
「…あそこに見えるのが現国王が住んでいる王宮です。」
指差した先にはまだ新しいであろう王宮があった。
周りには水路があり、守りやすい城のようだ。
「贅の限りを尽くしたって感じがするな。まだ城にしては新しいのもあるけどな。」
「…あまり大きな声ではいえませんが。」
スイが辺りを見回す。
「ムーンブルク国を攻め滅ぼしたとき、そこにあった宝物財宝の類を奪い取り、それに飽き足らずムーンブルク王家の墓を暴いたのです。」
中にはあの伝説の勇者ロトの武具もあったという。
「…戦勝国の権利とはいえ、やりすぎだな。」
「…ええ。」
先ほど辺りを伺っていたのは恐らく兵士とか、そういう者を警戒していたのであろう。
「…先に宿屋へ向かいましょう。今日も野宿だとさすがに堪りませんからね。」
「同感だ。」
「二部屋取れてよかったですね。」
「ああ。」
ここはムーンペタで一番古い宿。
かつて、ロトの子孫達も寝泊りしたという宿屋。
「やれやれ。何かものすごく疲れた気がするぜ。」
…宿屋の親父に散々冷やかされたのだ。
付き合ってどのくらい?だとか、一緒の部屋にするか?だとか。
思いっきり狼狽する俺の後ろでスイが頬に手を当てながらあらあらと、全く動じてない様子でその様子を見守っていたのが印象的だ。
「これからどうしますか?」
ふと、声をかけられた。
…そういえば、まだ、トルファ自身もその目的がはっきりとは見えてこない。
この町が目的地であろうか?
恐らくはそうなのだろうが。
なぜならスイの目的地がここ、ムーンペタなのだから。
彼女の目的はわからない。話そうとしない。
…無理に聞くことはできない。
「どうしようか。とりあえず何も考えてない。」
「そうですか。」
「明日になってから考えるよ。」
「そうですね。それがいいのかもしれませんね。」
とりあえず、スイの案内で色々と案内してもらうことにした。
町外れの教会で祈りを捧げる。
ここの教会もかなり古くからあるらしい。
歴史を感じさせる空気。
この教会の中だけ時が止まっているように思える。
「普段は教会なんて来ないのだけどな…」
「そうなのですか?」
「こういうところは苦手なんだ。」
「そうなのですか。」
だけど、ここは心地いい。素直にそう思える。
椅子に深く座り背凭れに体を預ける。
大きく息をつく。
そしてパイプオルガンの音が教会に響く。
その調べはこの町の歴史を感じさせるようで──
…気づくと眠っていたようだ。
朝が早かった分少し眠くなったのだろうな。
軽く伸びして辺りを見回す。
教会内にスイの姿はない。窓の外に彼女の姿がある。
「あら、目覚めましたか?」
スイがこちらに気づく。先ほどまでその視線は城に向けられていた。
空は橙色に染まっていた。彼女の表情は影で伺えなかった。
「ああ。悪かったな。」
「いえ、今日は早かったですから少し疲れが残っていたのかもしれませんね。」
「そうかもな。」
「それなら早く宿へ戻って休んだほうがよろしいですね。」
「そうだな。」
そう言って宿へと向かっていった。
<四日目・夜>
空には満天の星。
町は闇。
今は真夜中。一般人はすでに夢の世界へ。
そして城を見やると常に松明が城を照らしている。
食事のオーダーはスイがしてくれた。どれもこれも絶品で思わず腹いっぱいまで食った。
トルファが横になっているベッドは昼の間、暖かい陽光を受け続けて温もりが残っている。
普通の生活をしているならば夢の中へと落ちて、新しい一日の始まりに向けて体を休めるときなのだが…
…だが、トルファは目が冴えていた。
「…」
昼に少し眠ったためなのかと思ったのだが、どうもワケが違う。
窓から身を乗り出し隣の部屋の様子を見る。
…スイのいる部屋は明かりが消えている。
つい先ほどまで「毎日の武器の手入れは欠かせないのですよ」と、一生懸命大金槌を磨いていたようだが、どうやらもう寝たのだろう。
「…」
もう一度ベッドに横になる。
何をするまでもなく何処を見つめるでもなく、ただ、天井を眺める。
…どのくらい時間が経ったのだろう。
かすかな音ながら足音が聞こえる。
静かな深夜だから聞こえたその足音にトルファの顔に緊張が走る。
剣に手を掛ける。聞こえるか聞こえないかそんなかすかな足音。
一般人なら足音を忍ぶ様な真似はしまい。
ゆっくりと気配を殺し部屋の入り口の扉に手を掛ける。
心を落ち着かせ、耳に全神経を集中させる。
…自分はここの世界の住人ではないから狙われる筋合いはない。
だが、スイはどうだ?
少なからず何か抱えているようだ。
追手から逃げる生活。そんな生活をしていたのやも知れない。
…足音はゆっくりとトルファの部屋の前を…
足音が止まる。
思わず剣を握る手に力がこもる。
一秒が一時間に思える。
闇の中を沈黙が包む。
…しばらくの沈黙の後、また足音がした。
忍ぶようなそれは少しずつ離れていくようだった。
「…」
気づかれないように尾行することにした。
…それが、自分の成すべきことと、直感が言っていたから。
深夜の闇の中。
その影はゆっくりと城へと向かっていた。
フードをすっぽりかぶってその顔は見えない。
メインストリートから路地へと入る。
路地はメインストリート以上に暗く深い闇が広がっていた。
メインストリートには警備兵が通り過ぎていた。
真夜中だというのにご苦労なことだ。
その人物は警備兵がこちらに気づいていないことを確認すると暗い路地をさらに奥へと進んでいった。
足元が見えない。そんな暗闇の中を何者にも邪魔されず目的の場へと向かう。
そして。路地を抜け、目的の場、かつて紋章があったとされる地下牢獄への入り口。今では城へと続く地下通路の入り口へとたどり着く。
その人物は辺りを伺う。先ほどの警備兵が帰っている可能性がある。
辺りを静寂が包む。
決心がついたのかゆっくりと路地から姿を現す。
その人物はゆっくりと地下通路へと近づく。
「待て。そこの者。」
背後から声をかけられる。
「このような時間に何をしている。」
ジャラジャラという音が聞こえる。 重装備の衛兵か。
「何か言ったらどうだ?」
その手に笛らしきものが…
ドガッ。
すばやい動きで体当たりを食らわせる。 手に持ってた笛が宙に舞う。
すばやく笛を奪い取り、体勢が崩れた衛兵を路地へと突き飛ばす。
「が、がっ…」
後は早かった。すばやく詰め寄って忍ばせていたナイフで首に一閃。
どさりと倒れた衛兵に心臓への一突き。 返り血がマントを赤く染める。
路地の奥深くへ引き摺ってその屍を放置する。
引き摺った跡が残っているから明日にでもなれば大騒ぎになるだろう。
しかし、夜のうちなら見つかることもあるまい。
「…大きめのマント、買っておいて正解でしたね。」
マントのフードをはずす。闇に映える銀色の髪。
「やりたくはなかったのですが、仕方ありませんね…」
マントをはずし屍にかぶせる。銀色のドレスも闇に映える。
軽く祈りをささげる。 こうやって、これまでどれほどの命の火を消したことだろうか。
「…私が望んだ生き方ですから。」
ふうと溜息をつく。
「出てきてください。返答次第では…斬ります。」
しばらくの沈黙の後。
「…気づかれていたのか。」
トルファがゆっくりと姿を現す。
「私のほうが経験はあるようですね。こういうことは。」
経験の差ということだ。 そういや、こういうことはやったことがないな。
ふと、そんなことを思ってみる。
「…私を止めますか?」
スイが大金槌を構える。
「いや、止めはしない。」
「ならば、今すぐここを離れてください。」
「その、つもりもない。」
スイの大金槌を握る手に力がこもる。
「俺にも協力させてくれ。」
「…?」
緊張の糸がいまだ張り詰めている。
「私のやろうとしている事は許されない行為です。たとえどのような事情があろうとも、です。」
「構わない。」
「…」
沈黙が辺りを包む。
「後悔はしませんね。」
トルファは確信していた。これが自分のなすべきことと。
「もちろんだ。」
漆黒の路地に二人の姿が浮かぶ。辺りの空気が凍りつく。
「…わかりました。何故、私のすることにそこまで執着するのかは…聞かないほうがよさそうですね。」
スイが一瞬顔を緩めるがまた緊張のそれに変わる。
「目的だけを話します。理由などは後々できたらよろしいのですが。」
「目的だけでも話してくれればいい。」
「国王を…暗殺します。」
---------------------
改行が多い、本文が長いと言われたので、二つに分けざるを得ませんでした。
スマソ>462
それと、更新おつかれ!
471 :
スラリソ:03/04/24 21:43 ID:WfwfFlQP
禿しくサンクス
スラリソたん、代理たん、まりがとー!
わくわくしてまつ。
では、保守がてらUP開始します。
モンスターを倒すのと人間を殺めるとは違う。
自分も長く旅をしてきたが、実際にそのようなことに手を染めてはいない。
「覚悟は良いですか?」
たとえいくら金を積まれても、
たとえどのような事情があるとしてもやろうとは思わない。
「ああ。構わんぜ。」
だが、自分は了承した。
自分のやるべきことだとわかっていた。
「…今から行くのだな。」
「はい。今しかありません。」
「衛兵は外にはいないようだが。」
「恐らく地下通路にいると思われます。」
「だな。」
地下通路からかすかに声が聞こえる。
数人いるようだ。
「堀みたいなものを渡っていくことはできないのか?」
「無理ですね。…ボートがありませんですし。」
「気づかない衛兵がいるとも思えないしな。」
遠めで見れば豪華が際立つ城も近くで見ればなかなかの要塞。
「贅の…限りを尽くした城ですから。」
要するに見た目で贅を尽くしただけでなく守るための贅を尽くしたのである。
「実際攻め落とすとなると相当骨が折れそうだな…」
「これだけの城を建てるのに、どれだけのムーンブルクの宝物が奪われたことか…」
「戦勝国の権利」として奪われた宝物がどれほどのものか。想像もつかない。
「正面突破しかないのだな。」
トルファの拳に力がこもる。
「ええ。ですが…準備は万端です。これを使いましょう。」
「これは?」
スイが取り出したのは少し見覚えのある薬草であった
そこはかつて地下牢獄があった。
その牢屋が捕らえていたのは人ではなく、魔物。
紋章を隠し持っていたようであった魔物が囚われていた。
そして時は流れ、現国王がクーデターを起こす時、ここを拠点としていた。
そして今、牢屋は取り払われ机や椅子、ベッドなどが置かれて兵士たちの詰め所となっていた。
そこにいる兵士は四人。
カードゲームに興じているようだ。
「先輩、強すぎますよ。」
「違うんだ。お前が弱すぎるんだ。」
はあ、と後輩と呼ばれた兵士が溜息をつく。
「ということで明日の昼飯はおごりな。」
はははと笑い声が響く。
──カツン…
緊張が兵士たちに走る。
「…見てくる。」
「気をつけて。」
先輩兵士が鉄の槍を油断なく構えて入り口へと向かう。
「…誰だっ!」
大声で先ほどの音の主に怒鳴りつける。
そこには──
「にゃーん。」
猫がいた。
「…なんだ、猫か。」
はあ、と溜息をつく。
「先輩。今度は負けませんよ。」
音の主が猫とわかったのか詰め所から後輩兵士の声が聞こえる。
「おう、返り討ちにしてやる。」
そしてまた、カードゲームへと没頭するのであった。
「…こういう時は変に忍び足をしないほうがいいのですよ。」
普通どおり歩けばいいのです。とスイが言う。
「だがな、まあ、なんとなくだ。」
漫画のように抜き足差し足忍び足で歩いていたトルファであった。
自分で思ってみるがかなり間抜けであった。
ここは城の裏口前。人影はないように見える。
「あ、効果が切れてきましたね。」
ゆっくりと覚めるような銀色の髪が見えてくる。
「やれやれ。思い出した。「消え去り草」だな。」
「ご名答です。ご存知でしたか。」
そういえば竜王の孫とやらが持っていたものだ。
「まあな。知り合いが持っていたんだ。」
「そうですか。…今では貴重品になってしまって滅多に手に入れることはできなくなってしまわれましたが。」
「ということは?」
「はい。消え去り草はもうございません。」
残念そうにスイが言う。
「そうか、後は自分の実力で、だな。」
「はい。」
スイが大金槌ではなくナイフに手を掛ける。大金槌は腰にしっかりと留められている。
そしてゆっくりとドアに手を掛ける。
「…できれば人は殺めたくはありませんが、邪魔立てするなら誰であろうと切り捨てていきます。…よろしいですね。」
「ああ。」
確認するように答えて裏口へと入っていった。
裏口のドアが音もなく閉められた。
「誰もいないですね。」
「つまみ食いしている兵士がいるかと思ったが期待はずれだったな。」
ここは厨房。
厨房といっても城中の食事を一手にまかなうものだからとにかく広い。
しばらく息を潜めて誰もいないことを悟るとゆっくりと立ち上がる。
時間帯からすれば当然なのだが。
「まずは行きたいところがありますからそちらに付き合ってはくれませんでしょうか?」
「構わないぞ。」
厨房から食堂へ。そして食堂から回廊へ。
途中兵士がいたため食堂でやり過ごすことになった。
そして。
「ここは倉庫か?」
「はい。どうせなら貰える物も貰っておきたいとも思いまして。」
意外と強か…って、今に始まったことではないだろう。
「ここは廊下からは死角です。こちらで様子を見ましょう。」
倉庫前には衛兵が一人いる。欠伸をかみ殺している。
「下手に血の跡を残す訳にはいきませんね。」
「大騒ぎになってしまうな。」
「…呪文、使えますよね?」
「…眠らせるのか。」
「ええ、ラリホー、お願いします。」
「自信はないがやってみるよ。」
ラリホーなんてロクに使ったことがないな。そう考えていた。
ゆっくりと衛兵に見つからないように、ラリホーが届くぎりぎりの距離に近づく。
周囲に気を配りつつゆっくりと確かめるように詠唱に入る。
「それは忘却の道標。誘うは夢の花園。暗き闇へと落ちろ。…ラリホー。」
呪文の詠唱は意思を統一し集中力に影響を及ぼすための手助けに過ぎない。
魔力の流れを自在に操るため集中力を高めるのだ。
ぶっちゃけて言えば集中さえできれば詠唱なんて不要である。
ロクに使ったことがない呪文ではさすがに集中のための詠唱は必要であったが。
がくりと衛兵が倒れこむ。
「どうやら成功したようですね。ありがとうございます。」
「いや、このくらいならな。」
スイが手早く衛兵を縛り上げる。猿轡もして騒がれないようややきつめに縛る。
衛兵は知らずにぐうぐうと寝ている。
「倉庫の奥にでも閉じ込めておくか。」
「それがいいですね。」
衛兵を引き摺って倉庫へと入っていった。
衛兵は奥の柱に縛り付けた。
あれだけ乱暴に扱ったのに目を覚まそうとしないこいつの神経はどうなっているのやら。
まあ、明日になれば自分の状況に驚くことだろう。
スイは奥で何か探している。
まあ、それが目的だろうし。
俺はすることがなく外の警戒をしている。
人が通る気配はない。
だが、万が一ということもある。
何より衛兵はいないし倉庫の扉は開いている。
倉庫には鍵がかかっていたがスイが大金槌で派手に壊した。
「細かい作業って苦手なんですよ。」
「だからといって、なぁ。」
…後々、衛兵が鍵を持っていたことに気づくのであった。
とにかくばれたら大騒ぎは間違いなしだ。
あの時、結構大きい音がしたのだ。 「何を探しているんだ?」
「剣、です。」
「剣?」
「ええ。捨てられてないと思いますが…」
事情があるようだ。特に深入りはしないほうがいい。
「…見つけました…」
確信に満ちた様子で埃だらけの箱を手に取った。
そのときのスイの瞳が忘れられない。
箱の蓋を取り、その剣を見つめる。
しばらくの間、その剣に見入っていたようだった。
「…まずいことになった。」
「誰か、ここに来たのですね。」
「ああ。」
入り口の方を見る。
見回りの兵士が二人。
今度ばかりはラリホーも期待しないほうがいいか。
「片方が効かなかったら大騒ぎですね。」
そういうことだ。
「もう片方は私が仕留めるというのもありますが。まだ、騒ぎは起きてほしくはありません。」
「…だが」
「やるしかないですね。」
息を潜める。
心を落ち着かせる。
頭の中で何度もラリホーの詠唱をめぐらせる。
集中力を高めさせる。
そして…
「ラリホー…!」
「…!」
…気づかれた!?
兵士はこちらに気づいたようだ。違いない。
でなければあからさまにまあいを取りはしまい。
気づいたときは駆け出していた。
「賊がっ!」
兵士は一瞬大声を張り上げるか迷ったようだ。
大声を出されたらさらにまずいことになった。
が。
がつん!
トルファの剣と兵士の剣がぶつかり合う。
こちらのほうが圧倒的に腕の差があるようだ。悟ったトルファはすぐに兵士の剣を弾き飛ばし思いっきり斬りつけた。
肉を切り骨を経つ。
嫌な感触だった。
兵士は方から腰まで深く切りつけられ、絶命した。
「おとなしく眠っていればいいものの…」
トルファは血溜まりを見てそう呟いた。
自分の手を見つめる。今、人を殺めた自分の手を。
二度と忘れないだろうな。
ふうと溜息をつく。
ここは倉庫の奥のほうだ。このまま放置しても見つかりづらいだろうな。
そう思った直後スイがやってきた。
ドレスが返り血で紅く染まっていた。
「こちらは終わりました。」
「そうか。」
「…慣れてほしいとは言いません。それではただの殺人鬼ですから。」
「ああ。」
「私のほうは奥に引きつけましたから多分見つからないかと思います。」
「そうか。じゃあ、そろそろここから離れよう。」
「ええ。寄り道してすいませんでした。」
「構わんさ。」
---------------------
職人さん、おつかれ〜。
すみません・・・
>484は諸葛亮スラリソ代理です
階段を上りつつ先ほどの剣をじっと見つめるスイ。
その瞳はなんともいえない光をともしていた。
その剣にその瞳は何を映しているのだろう。
「…ところでここは?」
「客間でしょうね。」
「というと、あの大臣がいるということか。」
ラダトームの大臣のことである。
「そうでしょうね。」
少し辺りを伺ってみる。
…人気はさほどない。
利用している人は少ないのだろうか。
「そのようですね。」
見る部屋見る部屋「空き部屋」という看板が立てられていた。
そして鍵がかかっていて開かないようだ。
「少し休めればと思っていましたが、残念ですね。」
「冗談だろう?」
「ええ、冗談ですよ。」
何処までが冗談なのか自分には分かりかねない。
「とりあえず、休むのはすべてが終わってからです。」
「まあ、そうだな。」
そこの曲がり角を曲がろうとして…トルファに緊張が走る。
「誰か…いるのですか。」
「あの衛兵のようだ。」
部屋の前に置かれた椅子に座って微動だにしない。
通路から顔を出してスイが様子を伺う。
「妙ですね。」
「だな。」
ゆっくりと足音を立てずにスイが衛兵に近づく。
スイの顔に緊張の色が濃く現われる。
ゆっくりと首筋に手を当てる。
「どうした?」
「…死んで、います。」
「!!」
「外傷は見当たりません。恐らく何か薬で…」
ゆっくりとトルファも近寄る。
「…確かに脈が止まっている。しかし、ぱっと見て死んでるとは思えんな。」
いつ動き出しても本当におかしくない。そんな状態であった。
「中の大臣は大丈夫なのか?」
トルファが扉に手を掛ける。
「無駄でしょう。恐らく大臣も死んでいるものかと思われます。」
「…そう、だな。大臣だけを生かしておく必要はないよな。」
「ええ。長居は無用です。それに何某かの罠を仕掛けてある可能性も否定できません。」
「そうだな。急ごう。」
物言わぬ屍になった衛兵に祈りをささげてその場を去った。
王宮エントランスホール。
遠回りしてここまで来た。
真正面から来ることができればどれほど早く来ることができようか。
「ですが、それは無謀というものです。」
「さすがに命は惜しいからな。」
もちろん相当の覚悟が必要なのはいうまでもないだろう。
ホールから見下ろす形で様子を伺う。
兵士が数人集まっていた。
「倉庫を見られたのでしょうか。」
「かもしれないな。」
見回りの兵士が戻ってこなかったのだから不審に思うのは違いない。
「もしくは使者が殺されていることが知れたかもしれません。」
「…どちらにしろ急がないといけないわけだ。」
急ぐといってもここまできたら迂闊な行動は許されない。
王の間への扉を守るのは衛兵二人。
片方はなんとかラリホーが届く距離だがもう片方は届かない。
「もう少し近づきましょうか。」
ゆっくりと姿勢を低くして少しずつ、足音を殺して…
ギリギリまで近づく。
「心の準備はいいですか?」
これ以上進んだら見つかってしまう。
あとは突撃するしかない。
「構わない。」
腹は決まった。後は動くだけ。
衛兵の注意が逸れているうちに駆け出す。
スイは奥のほうへと駆け出す。
トルファはすぐそばの兵士に剣を向ける。
「何者!」
「そう聞かれて答えるやつがいるかって…」
迷わない。迷ったらこっちが死ぬだけ。
「の!」
振り上げた両手剣を渾身の力で叩きつける。
衛兵の返り血が自分の鎧にかかる。
…こっちに呼びかけている暇があるなら剣ぐらい抜いてくれ。
そう思わずにはいられなかった。
ふとホールを見る。
先ほど集まっていた兵士たちの姿は見えない。
倉庫か客間に向かったのだろう。
「後、は…」
スイがゆっくり扉に手を掛ける。
足元には首から血を流している衛兵。
首に一閃。声出す暇もなかっただろう。
「この奥の王だけですね。」
静かに扉を開ける。
ゴクリと唾を飲む。
そしてゆっくりと扉の奥へ進んでいった。
王の間に入る。
ゆっくりと奥へと向かう。
床に伏したるは衛兵の姿。
真紅の絨毯をさらに血で紅く染めて。
自分がその衛兵と剣を受け止めている間にすばやくスイが背後に回って首を一閃。
彼女はトルファの背後に隠れていたためトルファしか見えてなかった衛兵は何が起こったかわからなかったまま命を落としたことであろう。
「もう、行く手を阻む衛兵はいませんね。」
「そのようだな。」
ぐっと拳を作る。
豪華な玉座に一瞥して…
一気にスイが剣を抜き払う。
玉座は上下に真っ二つになり片方が宙を舞う。
ゴトリと宙を舞った椅子が音を立てて落ちる。
「いけませんね。落ち着かないといけないのに。」
「どうした?」
「申し訳ありません。いざと言うとなるとこの手が震えるのです。」
「…」
「ですが、これは決めたことですから。」
そう言って奥の王の寝室への扉に手を掛ける。
「…」
俺は彼女の後を追うべきか──
あえて、彼女にこの「仕事」を任せるか。
選択を迫られていた。
1.追う 2.待つ
491 :
スラリソ:03/05/07 19:20 ID:vt6gNeVF
携帯から ありがトン。 早く規制解除してホスィ