食事を済ませ、リュックを連れて自室に戻る。
ノブに手を掛けると、はらりと小さな紙切れが足元に落ちた。
(・・・・・・・?)
どうやら伝言の様だ。
内容を確認し、俺は頭が痛くなった。
リュックは俺から奪い取ったサングラスで遊んでいる。
気付かれていない事が幸いだった。
「中で待っていろ。」
「どしたの?どっか行くの??」
大きな瞳が、下から俺を不思議そうに覗き込む。
「・・・・・すぐに戻る。」
そう言って俺はリュックを部屋に押し込んだ。
カタをつけたつもりだったのだが。
いや・・・そのつもりでいたのは俺だけか?
ハッキリさせねばならん。
あいつが納得するまで、俺は何度でも言うつもりだった。
そうして俺は、差出人の部屋の扉を叩いた。
「・・・・・・・・アーロンさん。」
どんな思い詰めた表情で出迎えるかと身構えていたが、
普通に、穏やかな気負いの無い笑顔が返って来た。
「すみません・・・お呼び立てして。」
「・・・・話とは何だ。」
「あ・・・とにかく中へどうぞ。」
「その必要は無い。ここで済ませろ。」
冷たく言い放つ。が。
「お時間は取らせませんから・・・。さ、どうぞ。」
半ば強引にアーロンの手を引っ張り、部屋へと招き入れる。
抵抗する事も出来たのだが、それでルールーの気が済むのなら。
アーロンは諦めて、言われるがまま奥に進んだ。
「何かお飲みになります!?」
こちらの機嫌の悪さを他所に、ルールーは嬉しそうだ。
「いや、いい。それより用件を・・・」
「この間の事は」
アーロンの台詞に被せる。
「・・・・申し訳無かったと思っています・・・・。」
「・・・・・・・・その話はもういい。」
眉を寄せ、視線を逸らす。
「いいえ。」
ルールーは酒の注がれたグラスを目の前に差し出した。
「お詫びがしたいんです・・。このままじゃ心苦しくて・・・」
「・・・・・・・・・・・。」
「嫌われる事だけは・・・したくなかった・・・・・。」
この娘も、先日の件で相当自分を責めたに違いない。
今日はうって変わってしおらしい姿を見せている。
一見強そうには見えるが、本当は危うげでこんなにも弱い女。
だが、それが本来の彼女の姿だという事も、アーロンは知っていた。
「分かっている。」
アーロンは出された酒を、グイッと煽った。
「私・・・・・駄目な女ね。」
ふふ、と目を伏せ笑うルールー。
「そんな事はない。いつか・・・・」
「え・・・?」
「いつかお前だけを愛する男が現れる。」
空にしたグラスを手にしたまま、微笑み掛けた。
「ええ・・・・そう、ですね・・・いつか・・・・・。」
「・・・俺は、帰ってもいいな?」
椅子に手を掛けた。 瞬間。
ゆらり、と視界が歪んだ。