FF官能小説スレ Part5

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117紫紺の誘惑
満月が震える夜。
ここ旅行公司で割り当てられた小さな一室で、
窓から夜を見上げながら男は小さく溜息をついた。
体が重い。
昼間の戦闘が崇り、今夜は流石に疲れを感じずにはいられなかった。
なのに何故かなかなか寝付けない。
勿論この時間は皆、寝ている。
ふと思い立ち、男は置いてあった徳利に手を掛けた。
(月を愛でながらの一人酒も・・・いいかもしれんな)
テーブルに徳利をとん、と置く。
と、ほぼ同時に

トン、トン―――。

扉を叩く音が聞こえた気がした。
「・・・・・・・・誰だ?」
返事が無い。時計を見れば、もう真夜中を回っている。
(空耳、か)
するとまた。

トン、トン―――。

今度ははっきりと聞き取れた。
「誰だと聞いている。」
どう考えてもこの時間の訪問は不自然だ。
不審な思いに、男は立て掛けておいた刀に手をやった。その時。
「私です・・・アーロンさん。」
「・・・・・・・・・・・・・・?」
考えてもみなかった人物の声に、一瞬返答が遅れた。
「・・・・・ルールーか?」
その問いに返事は返って来なかったが、聞き慣れた声だ。間違い無い。
扉を開けると、やはりルールーがそこに。
118紫紺の誘惑:02/08/19 20:36 ID:???
「どうしたんだ。」
ルールーは俯いたまま答えない。
明らかに様子がおかしい。泣いた後の様にも見える。
「・・・・・・・・・眠れなくて。」
お前もか、と口を開きかけ、ふと思う。
何故ここに来る必要がある―――?
するとルールーはいきなりくすくすと笑い出した。
「・・・・何がおかしい?」
「貴方に会いたくて。」
いきなり“あなた”だ。やはり普通じゃない。
「――お部屋に入ってもよろしいですか?」
今度は自分の腕をアーロンの腕に絡ませ、そんな事を。
「・・・・・・酔っているな。」
「・・・・・否定は、しません。でも・・・こんな時でないと言えませんから・・・。」

(・・・・・・まずいな)
アーーロンは気付いていた。
『アーロンさん』
この所、やけに耳に付くこの声。好意以上の韻を含むその響き。
いつからか必要以上に纏わりついて来る気さえもしていた。
それも常にアーロンが一人で居るのを見計らった様に。
鈍感な筈の自分にも判り易い最近のルールーに、アーロンは敢えて距離を取る様にしていた。
応える事は出来ない。自分には想う女がいる。
「どれだけ飲んだか知らんが、俺はもう寝る所だ。明日にしろ。」
「・・・・・・お話があるんですっ・・・!!」
酒が入っているせいか、少々興奮気味のルールー。
おかしな展開だけは避けねばならない。
アーロンは言葉を選ぶのに苦労したが、落ち着かせる為にゆっくりと。
「お前・・・酒が少々過ぎた様だぞ。部屋に戻った方がいい。」
しかしその言葉は逆効果だったらしい。
「そんなんじゃありません・・・・・っ!」
叫ぶ様に言うと肩を震わし、その瞳から大粒の涙を零した。
119紫紺の誘惑:02/08/19 21:53 ID:???
「貴方が・・・・・・好きです。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

とうとう聞く事になってしまったその言葉。
諦めと困惑が交錯するが、この娘に罪は無い。
真面目に聞いてやるのが誠意だろう。黙って耳を傾ける。
「お付き合い、して・・・・頂けませんか?」
それは無理な相談だった。
「気持ちは嬉しいが・・・。知っている筈だろう?」
「リュックとの事は・・・・・分かっています。でも・・・」
ルールーはギュッと唇を噛み締めた。
「思い出した時だけ、でいいんです。私だって・・・アーロンさんに愛されてみたい・・・。」
「・・・・俺はそんな器用な人間ではない。悪いが・・・・」
「アーロンさん!!」
アーロンが言い終える前に、ルールーはアーロンにどん、と抱き付いた。

「・・・・放すんだ、ルールー。」
「・・・好きなんです・・・・!もう、どうしようもない位!!」

大声を出すルールーに皆が起き出しはしないかと、流石のアーロンもたじろいだ。
「どうしても・・・・どうしても、駄目ですか・・・・?」
「ルールー・・・頼む。無理を言わんでくれ。」
ルールーも、馬鹿ではない。
愛する相手を・・・よりによって自分が困らせている。
分かっていた。それは十分に。
それでも・・・・。どうしても・・・・・!
何故、決まった相手がいる男にこれ程焦がれてしまったのか。
この男の優しい眼差しが自分を見つめる事は、絶対に無いのか。
考えれば考える程に募る、やり場の無い熱い想い。
苦しかった日々が、ルールーをこんな一方的な行動に駆り立てていた。
もう止めたくても、止められない。
120紫紺の誘惑:02/08/19 21:56 ID:???
「キスして下さい・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「私、誰にも言いません。約束・・・します。」
「そういう問題ではない。」
アーロンの脳裏に、一人の少女の顔が浮かぶ。
「あれの事だけは・・・・・・絶対に裏切れん。」

頑なな言葉。アーロンらしかった。
彼がそういう男なのは分かっていた。だからこそ愛した。
でも!
「お願いします・・・・・・秘密にしますから・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「一度だけ・・・一度だけでいいんです!」
「ルールー!!」
胸に縋るルールーを、強引に引き剥がす。

「いい加減にしろ!俺にはあいつだけだ!!」

・・・・・・・頭を割られた気がした。
理解しているつもりではあった。
が、実際にそれを口にされると信じられない程の衝撃で。
“あいつだけ”・・・“あいつだけ”・・・
たった今はっきりと告げられた真実が、
暗く、重い塊になってルールーに襲い掛かる。
いけない事だと知りつつも、リュックへの嫉妬と怒りが黒く渦巻く。
でも、それだけは悟られたくなかった。
やっとの思いで濁流を飲み込むと、
「・・・・わかりました・・・・ごめんなさい。」
ルールーは、アーロンに力無く微笑みを向けた。
「・・・・・・・部屋に戻れ。」
そうして背中を向けたアーロンは、
微笑んだルールーの口元が、醜く歪んだ事には気付かなかった。
121紫紺の誘惑:02/08/19 21:57 ID:???
その後暫くのルールーは、見ていられた物では無かった。
アーロンは気付かぬ素振りを通したが、
幽鬼の様に漂う、魂の抜けたルールーを確認する度に深い自責の念に駆られた。
それでもあれで良かったんだ、と思う。
受け取れない心。俺の事など忘れさせてやった方がいい。
最近は大分落ち着いて来た様子だ。
楽しそうに仲間と話す姿も見られる様になり、
アーロンの方もようやく肩の荷が下りたといった所だった。

「ね〜おっちゃん!」
自分の遥か前方を、跳ねる様に歩く少女。
振り返り、ぱたぱたと足踏みしながら、後ろ向きで自分を呼ぶ。
「・・・・・何だ。また転ぶぞ?」
「“また”って何〜?転ばないモ・・・・・・・・・・・・ぎゃっ!」
言った途端にお約束をカマす。
「・・・・見事なものだな」
「ニシシシ・・・・・・・・・」
全く、こいつは。
もう慣れはしたが、自分には到底理解出来ぬ動きの数々。
やれやれ・・・である。
しかし、そんなリュックが可愛くて仕方が無いのも事実だった。
(フッ・・・この俺が、な)
思わず自嘲的な笑みが零れてしまう。
そんなアーロンの本音を知ってか知らずか、リュックはきゃっきゃと楽しげに笑っている。

「ね、おっちゃん!今日ゴハンの後、部屋、遊び行っていい?」
「何だそれは。誘っているのか?」
「っ・・・・違うってば!!」
こんな馬鹿みたいなやり取りが、
厳しく生きて来たアーロンの心を、いとも簡単に癒してしまう。
思えばジェクトともこんな風だった。