『ニンゲンって、コワイ?
ニンゲンって、コワイ?イタイコト・・・スル?』
つい逃げ出してしまうんだ。ボクは魔物の中でも臆病なモンスター
なんせ『はぐれ』メタル、なんて言われてしまうくらいだからね。
すぐ一匹だけ群れから離れてしまうんだ。本当はボクだって、仲間と一緒に戦いたいのに
ああ・・・ホラ、だめだ、敵を目の前にすると、もう体が震えてきたよ・・・み、み、
「みんなっごめんなさーーーーーい!」(はぐれメタルは逃げ出したっ!)
ああ、悔しいな。どうしてボクはこんなに臆病なんだろう?
もっと勇気が欲しいな。こんな自分が嫌だ。悔しくて悔しくて泣きたくなるよ
こんなんだから、ボクには友達が出来ないんだよ・・・
・・・夢を見た。寂しいときにはいつもこの夢を見る
いっぱい色んな仲間に囲まれて暮らす夢
みんなが笑ってる。ボクも笑ってる。幸せそうな夢・・・ああ、これこそボクの理想だよ
でも夢さ。理想さ。本当じゃないんだ。目が醒めるといつもそれを思い知る
森の中で誰にも見つからないように、一人隠れてコソコソと寝る。それが、ボクだ。
気がついたときには、傍になんて誰もいやしない
悲しいな。寂しいな
『ニンゲンなんか怖くない』そう思えたら、ボクも、もっと強く変われるのかなぁ・・・
『ニンゲン』 ニンゲンかぁ。ボクはいつも怖くて逃げ出してしまうけど
本当のところ、ニンゲンってどうなんだろう?ホントに怖いのかな?どうなのかなぁ?
ボク、ニンゲンと話がしたいな。それも怖さなんか感じさせない優しい人に、逢ってみたい
・・・ま、無理だろうけどね。そんなこと臆病なボクに出来るわけないさ・・・
ん・・・足音?それもたくさん?誰かが来たのかな・・・?
うわっ、またニンゲンだ!!隠れなきゃ。隠れなきゃ!
・・・うん?おかしいな。ニンゲンのまわりにモンスターがいっぱい
なんで?なんで一緒に暮らしてるのさ?・・・変なの。あんなの初めて見たよ
でも、なんか・・・いいなぁ、ああいうの。あ、笑ってる。・・・うらやましいなぁ
「ねえ、君、どうして僕らの方をさっきからそんなにジロジロ見てるの?」
「え・・・うわぁっ!」
気が付いたら目の前にスライムがいた。この地方にスライムはいないから彼らの仲間か
さすがのボクも、スライム相手に逃げ出したりはしなかった・・・逃げだしそうには、なったけど
「驚かさないでよ。だってさ、ニンゲンとモンスターが一緒にいるのが珍しくって」
「あはは、そう?まあそうだろうね。みんな初めはそう言うよ
でも、しばらくしたらみんなわかるんだ!僕たちが仲良くしている理由」
「何?それ?」
「カンタンだよっ!僕たちはみんなご主人様が大好きだからさっ!
ねえ、今一人なの?よければ君も一緒に来ない?ご主人様に紹介してあげるからさっ!」
(・・・ボクが、ニンゲンと一緒に・・・?)
ああ、また体が震えてきた。本当にそんなことできるのか?
でも、逢ってみたいんじゃなかったのか?そう思っていたんだろう、ボク?
モンスターと一緒に生きていける人、ひょっとしたら、そうだボクの望んでいた人かもしれない
勇気を出せ、勇気を出せ、勇気を出せ・・・!
「うん・・・でも・・・それはボクを、倒してからだっ!」
ち、ちがうっ!ああ、何か変なこと言ってる!違うよ。今必要なのはそういう勇気じゃないよ
倒すだなんて柄にもないことを!戦いに勝ったことなんかないクセに
すっかり気が動転してしまったんだ・・・ボクのバカ・・・
これで、倒されて、気を失って、それでおしまいか・・・ああ・・・ホントにバカ・・・
しばらくして・・・ボクは目を開けた。そして驚いた。すぐに穏やかな声が聞こえてきたから
「気が付いたかい?」
案の定ボクは負けて、やっと意識が戻った時、色んな顔がボクをのぞき込んでいた。
もう日が大きく西に傾いてたのに、彼らはまだいて、ボクを心配そうに見てくれていたんだ
なんだかおかしかったよ。怖いのに、怖いはずなのに、その時はもう震えてなかった
戦って、負けて吹っ切れたのかな?それとも、もしかして・・・安心したのかな?
そうかもしれない。そう、なんだか、とっても、暖かいところだったんだ
『仲良くしてる理由?カンタンだよ!僕たちはみんなご主人様が大好きだからさ!』
ああ、そうか。そういうことか。やっとわかったよ。こういうことなんだね
目が覚めたボクを、さっき声をかけてくれた、彼らが言うご主人様が腕に抱き上げて
「一緒に行かないかい?」
微笑みながら、そう言ってくれた。ボクには、拒否する理由なんて、一つとしてなかったよ
信じていいかな?信じて・・・いい、よね?
そしてボクはみんなの仲間になった。
でも、今でも戦いになると怯える。ビクビクする。なかなか性格は治らない。困ったものだよ
でも一つだけ・・・いいことがあったよ。ボク、もう逃げないんだ。
だってここにいたいから。ここは、ボクが憧れていた場所、そのものなんだ
だから怖くっても、逃げなくなった。それだけでも少しは成長したのかなぁ・・・?
それに、あの時話しかけてくれたスライムは、ボクより強かった。最初はボクより弱いはずなのに
そうだ。いつか、きっと、ボクも強くなるよ。
人とも魔物とも話し合える勇気を身につけるんだ・・・ボクたちのご主人様のように
そうさ。ご主人様こそ、ボクの憧れ、ボクの目標なんだ!
頑張って!ご主人様!あともう少し・・・ボクたちも応援しているよ
最後まで心をしっかり持って、前を向いて頑張ってね
そう・・・それはあなたが、かつてボクに教えてくれたことなんだ!