今更!! ギガスラッシュを偲ぶスレ

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■父との別れ■
床を濡らす深紅の雫。留まる事無く広がり続ける血溜りの中に、膝を付いたまま彼は沈黙していた。
そっと手を伸べ、震える指先で彼の人の唇に触れる。もう二度と言葉を紡ぐ事の無いその唇に。
 …ずっと名前を呼んで欲しかった。名前を呼んで、良くやったと、良くここまで来たと、そう抱きしめて欲しかった。
望んでいたのはただそれだけだったと言うのに。
「父さん…」
ずっと、貴方の様になりたかった。
「父さん…父さん…」
ずっと貴方の後を追って、ずっと貴方の背中を追って、そしてとうとうここまで来た。
ここまで来ればきっと貴方に追いつけると・・・・そう、ずっと信じていたのに。
(ーーーーーけれど、もう叶わない)
彼の叫んだ最後の言葉はとうとう父へと伝わらなかった。
名乗り合う事さえ出来ぬままに、彼は永遠に自分の道標であった人を失ってしまった。

「父さん…父さん、父さん、父さん…っ」
急速に失われていく温もりが、確かな死の感触を指先へと伝えてくる。ようやく手にした何かが指と指の間をすり抜けて落ちて行く。
そしてそれを留める術を、決して勇者は持ち得なかった。
「父さん…嘘だ父さん、父さんっ!!」
一緒に帰ろう、あの国へ。今も俺達を待って居てくれる、暖かなあの人の待つ家へ。
零れ落ちて行く生命を少しでも留めたくて、勇者は強く強く父の身体を抱き締めた。
程良く鍛えられたオルテガの身体は、まるで精巧に作られた人形の様で、逆に勇者に逃れ様の無い現実を突きつけてくる。
(ーーーーそう)
彼が追いかけ、追い続けた父はもうこの世界の何処にもいないのだと。
前を進む父の背中を目にする事はもう二度と無いのだと。
「嘘だ…こんなの嫌だよ父さん・・」
濃紺のマンとが朱に染まる事さえ厭わぬまま、勇者は強く強く父の身体にしがみ付いていた、だが…
「・・・・ゃ」
ふっと、細い声が僅かに空気を震わせた。微かに響く、優しさと温もりに満ちた声。
197父との別れ2:02/07/20 21:56 ID:???
「…勇者…」
その声が自分の名前を紡いでいるのだと気づいた時、勇者はようやく顔を上げた。涙に濡れた瞳に映る彼等の顔。
ある者は労わる様に、ある者は気遣う様に、そしてある者は自分と同じ様に泣き出しそうになりながら。
それでも誰もが優しさを込めて、真っ直ぐに勇者を見つめていた。
「みんな…」
その瞳に、脳裏に薄く甦るのはあの日の記憶。遠いあの日…幼いあの時。父の死を聞かされた時。
自分はあの時も今の様に、涙を流す事しか出来なかった…まるで年相応の幼く無力な子供そのままに。

(俺はーーーあの時のままか?)
自分の心に問いかける、自分自身の声が聞えた。
(あの時の様にー悲しさと悔しさに涙を流すしかない無力な子供のままか?)
その声が、彼の心の中に、もう一度消えない何かを灯した。
「違う…違う、違うっ!」
(俺はもう、無力な子供のままじゃない。何も出来ない悔しさに、一人で震えている子供じゃない)
勇者は冷たくなった父を床に横たえると、再びゆっくりと口を開いた。
「父さん…少しだけここで待っていて欲しい。余り居心地の良い場所じゃないけど・・でも、俺にはまだしなくちゃならない事が在るんだ」
そう、今なら分かるから。自分が何を為すべきなのか…自分に何が出来るのか。
「でも必ず迎えに来るから…後で一緒に母さんの所に帰ろうな」
最後にもう一度だけ物言わぬ父に微笑むと、表情に笑みを浮べたまま、勇者は彼等を振りかえった。
「さあ行こうみんな…アレフガルドに朝を取り戻す為に!」
・・・・そう。もう彼は決して、一人きりの無力で孤独な子供ではない。共に生き共に歩んだ仲間と共に、父と肩を並べる「勇者」として、ようやくここまで辿り付いたのだ。
(有り難う父さん。貴方の分も…貴方に託された想いの分も、俺は最後まで闘ってみせる)
長い長い旅の間に得た「仲間」と云う名の光を胸に、勇者は再び歩み始めた。
今度こそ彼自身の足で・・…彼が討つべき魔王の元へ。
198終幕〜そして伝説へ1:02/07/20 21:59 ID:???
■終幕〜そして伝説へ■
 穏やかな風の流れの中に彼は身を委ねていた。微かに耳を打つ水の流れる音。僅かに肌を擽る草の感触。
穏やかに流れる時の中に…勇者は身を委ねていた。

『世界は何て美しいのか』
そんな酷く単純で…けれど誰もが忘れてしまっていた真実。
ようやく訪れた夜明けと共に、誰もが今、それをその身で実感している事だろう。
長く閉ざされていた世界に取り戻された命の息吹。生きていると言う事は、こんなにステキで素晴らしいのだと言う事。
その単純で簡単なたった一つの真実を・・・一体どうして人は見失ってしまうのか。

「…勇者よ…よくぞ我を倒した。だが、光在る限り闇もまたある…。
私には見える、再び何者かが闇から現れよう。だがその時、お前は年老いて生きてはいまい」

 …そう。人の中に、心の闇がある限り。人が平和を当然のものとして受けとめて、それに馴れ合ってしまう限り。
いつかまた、人が…或いは異形のものが、穏やかな時の流れの隙間から現れるだろう。
確かにその時、自分は既にこの地にはいない…自分にはどうする事も出来ないのだ。

「・・・・確かに貴方の言う通りだよ、人は光だけでも闇だけでも生きていけない。
世界に必ず朝と夜とが在るように、人はいつか忘れてしまうだろう。
この時に見た夜明けの美しさを…この朝に手にいれた平和の素晴らしさを。けれど・・・・」

 ゆっくりと振り向いて彼は微笑んだ。瞳に映る仲間達の笑顔。
旅の間に出会った、触れ合った、沢山の・・懸命に生きている人々の笑顔。

「けれど…人の心に闇が存在する限り、必ず光も存在する。例えその時俺が居なくても。
俺達の血を、俺達の心を継いで行く者が、いつか必ず現れる。
それが人が生きていく意味…想いを未来へ繋いで行く事が、人間が手にする永遠の意味なんだ」
199終幕〜そして伝説へ2:02/07/20 22:00 ID:???
 彼が、父の後を追って旅にこの身を投じた様に。それを誰よりも知っているから・・・・だから勇者は信じる事が出来る。
例えこの身が滅び去り、その想いも、その存在も、全てが人の記憶から消え去ってしまう時が来ても。

「この国が闇に包まれた時には…世界が闇に包まれた時には、新しい誰かが剣を取り、
自分自身の物語を、伝説を紡いで行くさ…きっと必ず…どれだけ時が流れても」

 そして彼は再び瞳を閉じ、風の流れへと身を委ねた。
何処までも流れつづける風の様に…新しい旅へと想いを馳せて。

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 かくしてロトの称号を受けた勇者はここアレフガルドの英雄となる。
だが、この後勇者の姿を見た者は誰もいない。
彼が残して行った武器防具は「ロトの剣」「ロトの鎧」として
聖なる守りは「ロトの印」として後の世に伝えられたと云う

 ……………そして伝説が始まった。

To Be Continued To 「DRAGON QUEST 1」


 実際この板の住人の殆どがこの作品をクリアし、この作品のEDに感動したのでは無いでしょうか?
私は当時小学生でしたが…かなり感動しました。
岩山の…後の「ロトの洞窟」から出てきた時のBGM。それに伴って昇る太陽。
アレフガルドに夜明けが訪れた時…そしてラダトーム城でロトの称号を受けた時。
FC版の3で始めて「ロトのテーマ」を聞いた時には全身に鳥肌が立ちました。

 彼がいなければDQは無く、日本でこれだけRPGが普及する事も無かった。
DQ3の勇者に清き一票をお願いします。