すでにキーファとカシムがソファーに座っていた。
「よう、アルス。久しぶりだなあ。元気にしてたか?」
ソファーに身体を投げ出し気味にしてくつろいでいたキーファが、脳天気な声を出す。
途端にアルスは頭が沸騰しそうになり、思わず大声を出していた。
「元気にしてたか、じゃないよっっ。キーファに会えなくなって王様やリーサ姫がどんなに
嘆かれたかわかってんのかっっっっ!」
「おいおい、久しぶりの再会でいきなり怒るなよ〜」
立ち上がってそばに行き、ぽんぽんと肩を叩く。
キーファのそんな仕種が余裕に満ちている事にも腹がたつ。
「キーファはいつだってそうやって僕をごまかそうとするんだっっ」
「ごまかしてなんていないさ〜。久しぶりに会ったのに急に怒るから……」
「きょ、今日だって、バーンズ王がどんなにここに来たいと言っておられたかっ」
「げっっ、親父に直接会うのは勘弁してくれ」
「なんでだよ、王の気持ちがわからないわけじゃないだろっっ」
「わかるから、だよ………自分のした事がどれだけ親不孝だったか、わかってるさ。
だから尚更……会わせる顔がない、ってやつさ」
「本当に王に悪かったと思ってるのか?」
「悪かった、というとちょっと違うんだが……。説明不足だったというか、フォローが
足りなかったと反省はしてるさ」
…………共に旅していた頃よりも多少大人になったようなキーファの言葉に、
アルスは怒りをおさめる事にした。
「ああそうか。さっきは名前だけの自己紹介だったから、一体どんな人だったか
思い出せなかったんだが……こちらの色男は、女に惚れて国を捨てた王子サマだよな?」
カシムがのんびりと口を開いた。途端にキーファの顔が紅潮する。
「なっ……おいアルス! どういう説明してるんだよ、俺の事!?」
「いやいや、ただひとりと心に決めた女性を想って生きるのは、悪い事ではないさ。
私だって、あの人への思いがなければ、決闘場を生き抜く事は出来なかっただろう
(当時を思い出して、ひとり感慨にふけり始める……)」
「カシム、なんでぼ〜っとしてんだ? まだ足が短い事を気にしてるのか?」
「ぐっ………ガボ、その話はやめよう……」
皆の視線が下半身に集中するような気がして、カシムはソファに腰掛け直した。
その時、再び扉が開いて、今度はメルビンがやってきた。
「おやおや、皆さんお揃いのようですな。遅れてしまってかたじけない」
「シャークアイのおっちゃんがまだだぞう。だけど、メルビンも元気そうだな〜。
神殿でいいもん食ってんのか?」
「ははは、ガボ殿は相変わらずでござるな。元気でござるよ」
ガボとメルビンを眺めつつ、キーファがそっとアルスに囁いた。
「この時代錯誤な話し方のご老人は一体?」
「老人とは、初対面からあんまりなお言葉ですな、キーファ殿。時代錯誤と呼ばれても
仕方ないでござるが。何しろ、数百年もの間、石にとじこめられておりましたからなあ」
はっはっはっと豪快に笑うメルビンに、キーファはアタマをかいた。メルビンは
意外と地獄耳らしい(註:こんな話はゲーム中に出て来ませんが)
「私の名前はメルビン。キーファ殿が暮らしておられる時代よりもずっと前に、
神に封印されてしまった情けない男でござるよ。神と共に魔王とを討つはずでござったのに。
ひとり戦っておられた神の姿は、今でも目に焼き付いているでござる……」
「でも、魔王を倒して神の仇を討ったんだろう? 今さらそんなに暗い顔をする事はないさ」
フッと笑みを浮かべるカシムに、メルビンも笑みを返した。
「そうでござるなあ。まあそれに、正確には仇ではなかったのでござるが。神は生きて
おられましたからなあ」
「そうだね。神には驚いたね‥‥あんなに鍛えたなら自分で対戦してくれても……」
何やらしみじみとし始めたアルスとメルビンに、キーファはガボの顔を覗き込んだ。
「神は無事復活したのか?」
「カミってどれだ? おいら一杯カミって言葉知ってるぞ?木こりのおっちゃんが字を教えて
くれるやつの事か?」
「………ごめん、悪かった。ガボに聞いた俺が悪かったよ」
困り顔のキーファを見て、アルスはちょっと笑った。