辿り着いたツェンの街にはやはり活気は無かった。
世界が崩壊する以前も帝国に睨まれていたせいか大人しい所だたが、
それでもまだ人々には活力があった。
今では人間達が見えるのにその足音すら聞こえない。
「店はやってるのか…ん?」
ふいに、たたたた、と地面を叩く音がした方を見ると…
(誰もいねぇ?)
思わず身構える。
そんなマッシュの腹のあたりにぼふんと何かがぶつかった。
「あいたた…」
「…あ」
「うわっ!ごめんなさい!」
子供だった。ぶつかってしまった相手の体格に驚いているのか、おろおろと
辺りを見回している。
「俺は平気さ。君は大丈夫か?」
「は、はぁい」
「一人?」
「お家、あっちにあるよ。お母さんもそこ」
子供が指さした先にはこの街でも目立つ大きい屋敷があった。
「そっか」
こんな世界になっても小さな子供は元気に走り回っている。
それなのに自分が頑張らないわけにはいかない。マッシュは目を細め、
その子供の大きな瞳を見た。
そこには希望があった。
「気を付けろよ?危ないから」
「はーい!」
そう返事をして、子供は走り去っていった。
…それから数十分。
一通り聞き込みをしたが大した手がかりは得られなかった。
「ふぅ。仕方ないか」
また次の街に期待するしかない。
(それじゃあ、とっとと日の暮れない内に…)
その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
(な!?)
「うわああああッ」
「裁きの光だーッ!」
人々の悲鳴が街中を駆け巡る。
…裁きの光。ケフカがある時は気に入らない場所に、ある時は見せしめのように
与える攻撃のことだ。
それは予告もなく、巨大な破壊力をもって襲ってくる。
(…チクショウ、ケフカの野郎!)
「離して!中にあの子が…!」
女の悲痛な叫び。聞こえた方を見ると、大きな屋敷の前で若い女性が取り乱し
何人かに取り押さえられていた。
「無理だ!建物の中は危険だ!」
「だって、だって、子供が中に…出てこないのっ」
(屋敷の子供…!?さっきの子か!)
マッシュがその場に荷物を放り出し屋敷に駆け寄った時だった。
屋敷の壁に大きな亀裂がいくつもはしった。
「崩れるぞ!」
「きゃあああッ」
街の人間の叫びも、あの子供の母親であろう女の叫びも、聞こえなかった。
考えるのは苦手なんだ。
だから、今しなくちゃいけない事を。
俺にしかできないことを…俺がやる!
地面はまだ揺れている。
誰もが屋敷から背けていた目をそろそろとあげる。
「…!!」
屋敷は、崩れてはいなかった。
もう少しで崩れ落ちそうなところで支えられていた。
「う…おおおおぉぉッ!!!」
他でもない、マッシュだった。
太い腕で一番脆くなった場所を支え、家の形を保っていた。
「あ…」
母親が涙も拭わずただ彼のことを見る。
「…いじょうぶ」
マッシュは母親に笑いかけた。
「まだ…息子さん、大丈夫だからっ…」
そうは言ってもそう長くはもちそうにない。
ただでさえこの騒ぎに慌てている街の人間達では、おそらく子供を助けて
また外に出てくることは不可能だ。
(誰か…誰か…!)
自分がこの家を支えている間に子供を助けられるような人間を。
誰か…!
(…?)
汗で曇った視界に、金髪の女が駆けてくるのが見えた。
見覚えのある女。幻かとは思ったが、この状態では目をこすることもできない。
「マッシュ!」
自分の名前を知っている。
…やはり、間違いない!
「セリス!いいところに…!」
マッシュが途切れ途切れに事情を説明すると、セリスは力強く頷いて屋敷に
駆け込んだ。
彼女なら大丈夫だ。
きっとあの子を助け出せる。
だから俺は全力でこの家を支えていればいい。
あとは仲間を信じて、再会を喜べる時間を待とう。
きっと他のみんなも生きてこの世界のどこかにいる。
俺はずっと信じている。