今更!! ギガスラッシュを偲ぶスレ

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162王様生活1
 ■インターミッション1「王様生活」■

 ふぅ…退屈じゃのう…何かまた楽しい事は無いものじゃろうか…。
外を見ればあんなにぽかぽかとお日様が照っておるのに…窓を開ければこんなにそよそよと風が吹いておるのに…
どうして、こんな王宮の奥なんぞで座っておらねばならぬのか。
「はぁ…全く退屈じゃわい」
「何か仰いましたか?」
 おっとっと、思わず口にしとったか…危ない危ない。
ジロリとこちらを睨む大臣の視線から顔を反らしながら、またこっそりと溜息を付く。

(全く…またこうしてここに座らねばならんとはな…)
 どうしてあの時に
「嫌なものを続けさすわけにもゆくまい。あい分かった!勇者よ!そなたはやはり旅を続けるが良かろう!」
 等と言ってしまったのか。まぁ、闘技場で勝ちが続いておったからの…ちぃとばかり気分が大きくなっていたのもあるのかのう。

 あの時?あの時と言うのは勿論あの時じゃよ…ほれ、アリアハンの勇者が「金の冠」を持ち帰って来た時じゃ。
流石のわしも驚いたぞ…いくらオルテガの息子と言えども、まさかあのカンダタから取り返して来るとは思わなんだでな。
お陰で大臣との「勇者が持ち帰って来たら一月は真面目に公務をこなす」と云う賭けにも負けてしもうたわい…わっはっは。

 それでな、それがイヤでイヤで…つい言ってしもうたのじゃよ。
「そなたこそ真の勇者!どうじゃ?わしに代わってこの国を治めてみる気はないか?」
とな。いや、面白かったわい。あの時の勇者の表情。鳩が豆鉄砲食らったと言うのはまさにあれじゃろう。
「・・・・・・・は?」
 口をぽかんと開けたきり二の句が告げなかった様での。大臣の
「お、王様…一体何を仰います」
と言う悲鳴にようやく我を取り戻した様じゃった…そう言えばあの時の大臣の顔も見物であったの…今でもはっきり覚えておるぞ。
163王様生活2:02/07/15 21:38 ID:???
 それでそこまで言ってしまってな、わしはふと気付いたのじゃよ。
それが…意外にイケテル考えなんじゃないかとな。
勇者の度量と腕は王となるにしても遜色のないモノであったし、馴れない内は大臣達が上手く補佐してくれるじゃろう。
何よりも隣で頬染めたわしの姫が嬉しそうだったし、わし自身も煩わしい公務から解放される!

 勇者が「はい」と言えば、万事が万事解決じゃ…後ろにいる勇者の仲間たちは渋い顔をしておった様じゃがの。
 ところが…ところがじゃ。事もあろうに勇者の奴、その申し出を断りおった。
「あ…有り難い申し出だとは思いますが、私にはまだするべき事が残っています。
それを半ばにして、その様な大儀を受け賜る事は出来ません」
とな。だからわしも言ってやったのじゃ。
「まあそう言わず なにごとも経験じゃよ」
 と…そう言って聞かせると、勇者もついに折れた。何だか少し情けなさそうな顔をしておったがの。

……何?強引に押しつけたんじゃないかじゃと?そんな訳無かろう。
まぁ確かに…6回…7回…いや、もう少し多かったかの?
勇者が「いいえ」と応えるたびに「まあそう言わず なにごとも経験じゃよ」と諭してはやったのじゃが。

 とにかく、そんなこんなでわしも一時はこの堅苦しい王様生活から解放された訳じゃ。
全く庶民の生活は溜まらんかったわい…何処に行くにも自由で、面倒な公務に縛られる事も無くての。
思ってみれば、わしは生まれてからずっと王宮で育った…そこから出る事は叶わんかったからの。
見るもの全てが面白く、新鮮に感じられたものじゃ。特に闘技場にははまったぞ。
闘技場と云うのはな、その、あれじゃ。モンスター同士を捕まえてきて戦わせるのじゃよ。
そして、どのモンスターが勝つかを賭けて勝負する…ま、庶民の娯楽の一つじゃな。
だが、これが簡単な様で結構難しくての…かといって予想屋が立てた予想もそうそう当たる訳でも無い。
まさに、自分の運と勘に全てが委ねられる訳じゃ…其処が逆に面白くての。
勝った時など、嬉しくて嬉しくて笑いが止まらんのじゃよ。
164王様生活3:02/07/15 21:39 ID:???
 勇者がこれまた情けなさそうな顔をして訪れたのも、丁度そんなわしが「ツイテいる」時じゃった。
わしの気分の良い時を狙ってきたのかどうかは分からんがの。もしもそうだったのじゃとしたら、かなりの策士じゃのう。
 
 ともかく、その情けな〜い顔で「もう王様は結構です」と言って来おった。
その様子が余りに憐れでの…しかも良く見ると、後ろの方で、仲間達も同じ顔をしておるではないか。
 思わず「嫌なものを続けさすわけにもゆくまい。あい分かった!勇者よ!そなたはやはり旅を続けるが良かろう!」
 と言ってしまったのじゃよ…どうしてそんな事を言ってしまったのかのう…

 まぁ、そうした訳で、わしはまたこうしてここに座っておるわけじゃ。あれからも、勇者が来る度に
「わしはそなたにこの国を譲りたかったのに。まあ 仕方あるまい。ところでどうじゃ?もう一度わしの代わりをやってみたいじゃろ?」
とは言っておるのじゃがの、その度にあの情けなさそうな顔をして首を横に振るものじゃから、無理強いする事も出来んのじゃよ。

 …はぁ…外はあんなにも良いお天気での、城下の者はあんなにも楽しそうな声を上げておる。
今日もおそらく闘技場には民が集まって、モンスター当てに一喜一憂しておるのじゃろう。
わしはここでこうしてぼんやりと座っておる事しか出来んと言うのにのぅ…
165王様生活4:02/07/15 21:40 ID:???
じゃがの、その一連の事で気付いた事があるのじゃよ。
つまり…ある意味では王様と云う職業は、勇者よりもずっとずっと大変な仕事じゃと云う事じゃ。
だってそうじゃろう?でなければ、わざわざあんな顔で「また旅に戻らせて下さい」等と言う筈も無かろう。
勇者には勇者の苦労があり、王様には王様の苦労がある…わしがこうして退屈を噛み殺しておる様にの。
 だから…これはナイショじゃがの、今でも時折こっそり城を抜け出して行くのじゃよ。
その・・・・城下の者のフリをしての、こっそりと闘技場に行くのじゃよ。
 だって仕方が無いとは思わぬか?勇者さえ音を上げる程の苦労を背負う者…それが王様と云う職業なんじゃからのう。

 ……………アリアハンの勇者が「金の冠」を取り返して以来。
夜な夜な市民の格好をして、城を抜け出す王様の姿を城の兵士が目にしているが
「もう二度とあんな事の無い様に見て見ぬ様にしてやってくれ」
と言う大臣の言葉に、誰もが気付かぬフリをしているのだと言う…