今更!! ギガスラッシュを偲ぶスレ

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145新世界へのいざない1
■新世界へのいざない■

それは、突然勇者に襲いかかってきた。
「・・・・・・・・・っ?」
初めての感覚では決して無い。生まれてからの16年…その間に何度も経験して来た感覚。
だが、こんな所で、こんなふうに急激に訪れる睡魔に襲われたのは初めての事だった。
「なっ…」
 そして、その睡魔を感じたのもほんの一瞬。
次の瞬間には信じられないくらいの熱が、彼の背中を焼いていた。

「うあぁぁぁぁぁあぁぁぁっ」
 なんとかその熱さから逃れ様と、背中を床にこすりつける様にして倒れこむ。
その摩擦で何とか勢いを顰めた炎は、一瞬の間に彼のマントに大きな穴を開けていた。
「くっ…皆、皆、大丈夫か!?」
 ひりひりと背中を今も焼き続ける痛みを噛み殺しながら、顔を上げて勇者は叫んだ。
だが、その呼びかけに応じる声は無い。
其処にあるのは、ぐったりと力を失って倒れる中間達の姿。
そして…闇の向こう側から覗く、明らかに邪悪な意思を帯びた二対の瞳。

「まさか、こんな所にまで追いかけて来るなんてな」
 今はもう目と鼻の先に存在する、静かな水面を称えた泉。
嘗て、彼の生まれる以前に起こった大戦時。その際に封印されたと言う「旅の扉」。
海域が強力な力を持った魔物に犯された今、勇者達がアリアハンを脱出する為に選んだのは、この「旅の扉」の封印を解くと言う手段だった。
 だが、長く封印されていた洞窟に「魔法の玉」を使って無事進入したものの、其処は既に魔物の巣窟と成り果てていた。
お陰で、予想していなかった戦闘を強いられながらも、何とか「旅の扉」まで辿り付いたものの、最後の最後でモンスター達が突然襲いかかって来たのだ。

(しかも、厄介な事にこいつらか)
 心の中で僅かに舌打しながら、勇者はもう一度銅の剣を握り直した。
じんわりと広がる冷たい汗の感触に、意識して自分自身を奮い立たせる。
現れたのは、この洞窟で最も彼等が手を焼いたモンスターたちだった。魔法使いとアルミラージ。
一方は「メラ」の、一方は「ラりホー」を使うこの魔物達に、何度苦戦を強いられたか分からない。
 丁度今、勇者は前方をアルミラージに、後方を魔法使いに遮られる様にして立っていた。
仲間が目を覚ます気配はまだ無い。
146新世界へのいざない2:02/07/15 10:52 ID:???
「絶望的な状況か…」
 自分自身でも意識しないままに呟いた言葉。その言葉に、今度は実際に舌打ちをする。
こんな時でも…どんな状況でも。逃げる事など出来る筈も無い。
仲間を置いて、新しい世界を目の前にして逃げる事。そんな事が出来る筈は無かった。
「だったら…戦うしかないだろうッ!」
 瞬間。覚悟を決めた様に、勇者は床を蹴った。その勢いで魔法使いへと一気に間合いを詰める。

 そして、そんな彼の動きに反応してモンスター達も行動を起こした。
魔法使いは蓄えていた魔力で火炎を生み出し、アルミラージがその角を突き出す様にして背後に迫る。
三者の動きで、最初にその行動を完了させたのは魔法使いだった。
深紅の炎がごう、と唸り声を上げながら指先を離れ、真っ直ぐに勇者の方へ襲いかかる、だが…
「………く…っ」
メラの炎が勇者の視界を染めるほんの一瞬前。突如としてその軌道上から勇者の姿が消えた。
駆け出した勢いを殺し、彼はその両膝を床へと付けると、上体を折りメラの起動から自分自身の身を反らしたのだ。
そのまま、彼の真上を通り過ぎた炎は、すぐ背後まで迫っていたアルミラージの身体を包み込んだ。
「・・・・・・・・・アァァァァッ」
 声にならぬ声、音にならぬ声でアルミラージが哀しげな悲鳴をあげる。
そしてそれと同時に勇者はついていた両膝に渾身の力を込め立ち上がると、勢いを剣に乗せてそのまま魔法使いの身体を逆袈裟に切り裂いた。
「・・・・・・・」
 こちらは声も上げぬまま、ぐったりとその身体から力を失った。
どう、と、彼の代わりに大きな音を立てて、その身が床に倒れ臥す。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
荒くなった息を懸命に整えながら、勇者は剣を鞘に収めた。だが…
147新世界へのいざない3:02/07/15 11:00 ID:???
(なっ…)
 その背中に、既に事切れたと思っていたアルミラージが襲いかかってきた。
炎に焼かれた身体は焼け焦げてはいたが、瞳には先程よりも一層濃い憎悪の色を浮かべ、額の角は迷う事無く勇者の心臓のある場所を狙っていた。
「しまった…ッ!」
 自分自身の爪の甘さを呪いながら勇者は身を翻し、先程納めたばかりの剣を抜き放つ。
だが、遅い…間に合わない!アルミラージの殺意を帯びた鋭利な角が正面から勇者の心臓を貫く…その一瞬前。
「危ない、勇者ぁっ!!」
 流石に意識を取り戻したのだろう。目覚めた仲間の一撃が、無防備だったアルミラージの生命を、今度こそ完全に奪っていた。
 背後に魔法使いの、目の前にアルミラージの躯を見下ろしながら、勇者は再び冷たい汗を拭った。
「ふぅ…済まない、助かった」
 まだ僅かに引きつった顔で不器用な笑みを浮かべながら礼を言うと、仲間は苦笑しながら左右に首を振った。
元々、ラリホーの魔法にかかってしまったのは自分達なのだからと。
「・・…・お互い様って云う事かな…でも、有り難う」
 そんな仲間の心遣いに感謝しながら、勇者は今度は心からの笑みを浮かべた。
そうして改めて、そちらに視界を戻す。先程、目の前で生死を賭けた戦いがあった事など知らぬふうに、旅の扉は穏やかな水面を称えている。
「じゃあ改めて…行こうか皆、新しい世界へ!」
 勇者は仲間達に大きく頷くと、一気にその身を泉の中へと躍らせた。
冷たい感触、そして次に襲ってくる光の洪水。その眩い光の渦に飲まれる様に、勇者の意識は遠のいていった…・・・・・・・・・・・・