今更!! ギガスラッシュを偲ぶスレ

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111眠 ◆7J..NEMU
幼い頃に父がよく言っていた。
この国は砂漠に囲まれているけれど決して不自由で寂れた国などでは
ないのだと。
それは生活に困る困らないの問題ではなくて、この国の人間はこの国を
穏やかに愛しながら暮らしていてくれるからだ。
そしてその上に立つ事を任された私達もまたこの国を愛するべきである。
無理に愛さなくてはならないのではない、
この国を愛せない者がこの国の指導者になる事は、国にとってもその者に
とってもよくない。
それはいつか考えなくてはならない事なのだ、と。


「おかしら!ジェフのおかしら!」
「ん?…ああ、なんだ?」
「フィガロへの潜入の話ですが…」
「後にしろ。宿の他の客が寝静まった後、俺の部屋でだ」
「へい!すんませんでした」
走り去ってゆく盗賊の姿を見送りながらジェフは溜息を吐いた。
彼は、ケフカの暴走により荒れてしまった世界でフィガロから逃げ出した
盗賊達と出会い、その頭となった。
盗賊達は正体も知れぬジェフによく付いてきた。
ジェフはそうさせるだけの実力とカリスマを兼ね備えた男だった。
112眠 ◆7J..NEMU:02/07/01 21:55 ID:???
「…砂漠の城、フィガロか」
フィガロの城は今、砂の下で沈黙している。
フィガロ城が砂漠の砂の中を移動してサウスフィガロとコーリンゲンを
行き来できるシステムは有名であり有用でもあったがそれが仇となったのだ。
ジェフは盗賊達に、地中に埋もれた城に忍び込もうと提案した。
城の者はきっと皆動けなくなっている。今忍び込めば捕まることはない。
それから綿密な計画を立て、実行の日はすぐそこに迫っている。

(…あいつらには悪いことをしたな)

実は、ジェフは海賊達を利用していたのだ。
ジェフの本当の目的は動かなくなった城から宝を盗み出すことではない。
盗賊達の調べたルートで城の中に忍び込み…城を地上へ戻す。
「もうすぐ助けてやる…からな」
盗賊達は自分の過去を語ろうとしないジェフを疑うことはなかった。
そしてジェフ、彼もまた自分のことを語れるはずもなかった。
彼の正体は盗賊達をフィガロの檻に閉じ込めたフィガロの国王、エドガーで
あったのだから。
113眠 ◆7J..NEMU:02/07/01 21:55 ID:???
その夜更け。
「明日、船でサウスフィガロに向かいます。そこから洞窟へ…」
「洞窟の中を通って城に…」
「その後の手筈は…」
話し合いの続くなかでジェフ、もといエドガーはぼんやりと考えていた。
目の前にいるのは罪人であり自分はそれを裁いた人間だった。
しかし今は自分の目的の為に率先して罪を犯す計画を立てている。
本来の目的はそのようなところにはないにしても事実は事実だ。
それだけの事をしてでも彼はフィガロ城を、その中の人々を助け出したいと
思っていた。
今ならまだ手遅れではない。今ならまだ、救い出せる。
フィガロを救い出したら、世界をこんな風にしたあの男、ケフカを…
「…そういう事ですから、おかしら」
「…ああ。それでは今日はもう休め。明日は早い」
そう指示すると、盗賊達はぞろぞろと部屋の外へ出ていった。

(フィガロが無事に地上に戻ったら…)

城をどうにかしたら、もうジェフでいる必要もない。
騙されていたと知った盗賊は俺に復讐を企むかも知れないが…
逃がしてやろう。ああ、それが俺にできるせめてもの礼だ。
彼等は罪人だが、話してみれば悪い男達ではなかった。
盗みはしても弱い者を痛めつけることはなく、こんなになった世界でも未だ
希望を捨ててはいない。
きっと立派にやっていけるだろう。
114眠 ◆7J..NEMU:02/07/01 21:55 ID:???
そうだ。そう言えばトレジャーハンターを名乗るロックを泥棒だとよく
からかったものだった。
「ロック、か」
生きているだろうか。
彼だけではない、リターナーのメンバーとして共に戦っていた仲間達。
世界が崩壊したあの日以来誰とも会っていない。
生きている、はずだ。
少なくとも俺はそう信じている。
信じているから、また彼等と顔を合わせるその前に俺の一番大切なものを
取り返す。
「もう少しだけ我慢して待っていてくれ、フィガロ城の人々よ…」
俺が必ず救い出してやる。
そしたら仲間達を探して…そうだな、マッシュには一番に伝えてやりたい。
フィガロは無事だから安心しろと。きっとあいつもフィガロのことを心配して
いるだろう。


そして夜が開けた。
115眠 ◆7J..NEMU:02/07/01 21:56 ID:???
朝の港で、盗賊の頭と二人の戦士が対峙する。
「エドガーなんでしょ?」
「俺はジェフだ」
すまないね、セリス。俺は一度会ったレディの顔は忘れやしないよ。
「兄貴…!」
「知らないね」
マッシュ、お前は騙せないな。もうちょっと待っててくれよ。

「俺は生まれた時からジェフって名だ」

二人はどうやら俺達の後を追って来てくれるようだ。
向こうに着いたら正体を明かせるだろう。
けれども、この計画を成功させる為には今はまだ知らないふりをするしかない。
俺の故郷を無事に救い出すまでは。

夢は他にもあったけれど。
けれども今の俺はフィガロ王として…
そして一人の人間として何よりこの国を愛している。