俺はソルジャーじゃなかった。
魔晄色の瞳をしていても、身長より大きい剣を片手で振り回しても、
山の様なモンスター共と対等に渡り合えても、俺はソルジャーでは
ない。
飛行艇ハイウインド通路にて、クラウドは腕組みをして壁にもたれかかり
ぼうっと天井の方を見ていた。
そこに聞こえてきた大きな足音が彼の思考を引き戻す。
「おう、クラウド!あんまり辛気臭ぇツラしてるんじゃねえぜ!」
「…バレット」
「新羅のクソ野郎どもは休ませちゃくれねぇからな。早いとこ調子を戻して
くれねえと困るぜ、リーダーさんよ」
「ああ。悪いな」
バレットはクラウドの肩を強く叩くと、大変だろうが頼むぜ、と言って
歩き去っていった。
(大変だろうが、か)
クラウドが重度の魔晄中毒から回復しアバランチ(新)に復帰したのはつい
最近のことだ。
自分が意識を失っている内に世界は大変なことになっていたし仲間達も大変
な思いをしたようだったが、皆クラウドをねぎらってくれている。
バレットも荒い口調ではあるが無理はすんじゃねぇと繰り返すの。
出来るだけ早く整理してしまわなくてはならない。
新羅のことも、セフィロスやエアリスのことも、戻ってきた本当の記憶の
こともだ。
「俺は…ソルジャーじゃない」
クラウドは自分のことをソルジャーだったと思っていた。
ソルジャーの1stクラスに所属していたが、五年前の英雄セフィロスとの
確執をきっかけに新羅を辞めて反乱グループに寝返った裏切り者。
仲間と旅を続けていく中でも自分自身でそれを疑ったことなど無い。
セフィロスがそれを否定してきた時も、故郷と仲間の敵である彼の言葉など
信用できるわけもないと耳を貸さなかった。
しかしライフストリームの中で見付けた真実はクラウドの記憶とは違っていた。
五年前にあそこにいたのは本当。
狂い、クラウドの故郷を焼いたセフィロスと対峙したのも本当。
しかしソルジャーとしての記憶は偽り。
いや、正確には死んでしまった友の記憶。
「俺は五年間の間、自分さえも騙し続けていた…」
それを考えると己が情けなかった。
もしも自分が本当の記憶を失わずにここまで来ていたら、もしかしたらもっと…
(もっと、何だ?)
考えたところで状況は変わらない。
確かにクラウドは仲間を一人失い、そして世界は混沌の中に足を踏み入れようと
している。
そんな世界で、
俺は何をすればいい?
自分に何ができるのかと考えても答えは出ずに、教えてくれる者もいない。
それならば。
それならば、何をしたいか。
「…この手で」
この腕が、足が、真実を取り戻したこの体が、これから何をするか。
「この手で、できることか…」
考えるのではなく、決めるのだということ。
そう思うと不思議と迷いは晴れていった。
俺は新羅と、そしてセフィロスと決着をつける。
そのためにも今ここから一歩踏み出さなくてはいけない。
身長より大きい剣を片手で振り回しても、山の様なモンスター共と対等に
渡り合えても、俺はソルジャーではない。
しかしそれは俺が俺自身の力でここまで戦い抜いてきた証でもあるのだ。
俺はそんなに強くはないかもしれない。
けれどもこれからは、この足で俺自身の道を歩いて行くことができる。