アレ許を懐かしむスレ

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11.
・・・完結してほしかった・・・・・・
 
 
 
  DISC5:http://piza2.2ch.net/ff/kako/969/969398831.html
2衝撃の糞 ◆DeMpAizs:02/05/13 23:04 ID:???
懐古すれ
ああ懐かしいな。初めのほうは面白かったよ。
とりあえず>>1よ。スレ立てたお前が完結しる
完結させたかった…。
>>4
!!!

完結させて下さーい!
6耽美主義 ◆BilbodqY:02/05/15 22:02 ID:???
>>5
何とか完結させようと頑張った事もあったんだよー。
でも、やっぱり作者さんが少なくなると、
次第にテンションを維持するのが難しくなってしまってね…。
7耽美主義 ◆BilbodqY:02/05/15 22:06 ID:???
あ、4は僕ね。
というかアレ続けるには過去ログ全部読まなきゃならんからな
誰も続きを書く気にはなれないだろう
9耽美主義 ◆BilbodqY:02/05/17 02:12 ID:???
当時の作者さんたちは今どうしているのかねえ。

>>8
確かに無理ぽ…。
10耽美主義 ◆BilbodqY:02/05/17 22:55 ID:???
自分で担当していたパートについては、
あらすじは最後まで考えていたんだよね。
いつか形にしたいと思い続けて幾星霜が過ぎた事やら(w
少しづつ書いていこうかねえ…。
ヽ(´∀`)ノ
クソage
13刺客Spartan-II信者 ◆/SpOqQTQ:02/05/18 18:23 ID:???
_______
| ::::::     ━┓|
|     , , _.  |スカルミリョーネスレはどうなったん?
|     ' '||60|\.|
| ◎    ゝ ̄  .|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
suparutannX
Final Fantasy 8.5はどうなったんだろう・・・
16◆renGe53o:02/05/21 03:55 ID:???
懐かしい…。
私、FFDQ板に来たのは久し振りにアレ許探しにきたら
隔離板になってたから覗きに来たんだったです。

あれからもう2年。すっかりいついてしまいました。
FFギャルゲはアレ許がなかったら知らないままだったかも。
ありがとう、ありがとう、アレ許。

>>10
ゆっくりでいいので楽しみにしてみたりするテスト。
17耽美主義 ◆BilbodqY:02/05/22 03:01 ID:???
ガストラ戦記もFF8.5も面白かったよね…。
FF8.5は時期がかぶるだけに、
アレ許を読み返していると何となく思い出したりもする。

>>16
アレ許は最初からFFDQ板が隔離板として分離してから
だったような記憶があるけど、どうだったかなあ…。
18◆renGe53o:02/05/23 08:49 ID:???
>>17
あらら、そうなんですか。
板分離する前に見てた気がしたけど、
じゃあ分離してすぐに来て、
しばらく来なくなってたのかな…。
あれ?

記憶がかなり曖昧ですが、
アレ許が板に戻ってくる要因だったのは
覚えてますです…(w
ところで書くんれすか?なら保守るけど
20耽美主義 ◆BilbodqY:02/05/25 19:45 ID:???
書く事にしますた。
全部の話をまとめるのには失敗した観があるから、
他の作者さんのパートが絡む部分はぼかし気味に、
自分が書いていた流れについてのみ完結させる努力をという線で。
まじで?!??!
必死に保守
うんうん がんがれ
23へじ車 ◆G93qp0D6:02/05/27 11:47 ID:???
これは・・・
24◆renGe53o:02/05/27 12:03 ID:???
む、無理せずにゆっくりで…何年でも待てます…(;´Д`)
何もかもが赤い。
沈黙が支配する地平は累々たる屍で埋め尽くされ、彼らの生命と共に流れ出した血潮によって、
どす黒い不潔な赤に染まっていた。そして大地だけではなく、天もまた赤い。黄昏時でもないのに。

「海の色が映っているからさ」
何時だったか、ビビの子供たちから空が青い理由を尋ねられ返答に窮したジタンが、苦し紛れに
そんな風に答えた事があった。ならばこの赤い空も、鮮血に染まった地上を映した結果なのかも
知れない。仰向けに倒された事で目に入ってくる赤い空を見ていて、ふとそう思いついたミコトは、
ほんの僅かだけ口元を綻ばせた。

無論ミコトは、空が青いのが海の色を映したからではないのと同様に、この赤い空が、
地上の血河を映した結果でない事も知っている。
魔王ガーネットや召喚帝エーコ、そして「滅びの意思の従者」と名乗る幾多の破壊者たち…。
彼らとの戦いにジタンが投入した数々の魔法兵器は、そのほとんどが戦いの中に散っていたが、
クリスタルの記憶から得た知識によって作られた、本来、別の世界の技術体系に属する兵器群は、
その身が砕かれた時、あたかもその正常ならざる出自を刻み付けるかのように、魔力の歪みを
ガイアに遺していったのだ。空間に歪んだ魔力が飽和した結果、最後にして最大の決戦の場
となったこの地の空は、血のように赤く染まったのである。
だが、それも一時の事だ。赤潮が何時までも海を染め続けてはいられないのと同じように、
空間に満ちた魔力もいずれは拡散し、ごく平均的な濃度にまで薄まって行くだろう。
戦いが終わった今、歪んだ魔力を空に撒き散らすものは、もう何も存在しないのだから。
26クロマ書き ◆BilbodqY:02/05/27 22:00 ID:???
リジェネが徐々にその効果を発揮し、ある程度まで体力が戻った事を感じたミコトは、
僅かに顔をしかめると、自分の首をしっかりと掴んでいた指を一本一本剥がし始めた。
指の先を視線で辿って行くと、肘から上で行先を見失う。ミコトの首を掴み、その身体を
大地に叩きつけた腕の主は、その代償として、肘から先を残して文字通り世界から消滅していた。

クジャ、そしてジタンの後継者としてガーランドが最終的に完成させたジェノムであるミコトは、
戦いを経るに従って徐々にその潜在能力を覚醒させ、今や往時のクジャすらも上回る戦闘能力を
獲得していたのだが、腕だけを残して消滅したこの敵は、そんな彼女を力を持ってしても苦戦を
強いられた強敵であった。一時は敗北の予感に恐怖が心をよぎったが、死を前にしたミコトは、
その一瞬、己の中で更なる強大な力が発動したのを感じた。その力をどう操ったのかは覚えていない。
気がつくと、敵は腕だけ残して灰と化していた。
その力の正体は、恐らくはトランスだったのだろうとミコトはおぼろげに推測した。生命の危機に
際して発動する爆発的な力、トランス。かつてトランス能力のコントロールを実現したクジャは、
たった一人でひとつの世界をことごとく破壊した。基本能力でクジャを上回る今のミコトが
トランス能力を発現させれば、腕の主を屠る事もそう難しい事ではなかったのだろう。
27◆BilbodqY:02/05/27 22:02 ID:???
ミコトは指の最後の一本を剥がし終えると、腕を無造作に放り捨て、ゆっくりと立ち上がった。
静かな風の音が周囲に流れていたが、音すらも包み込む死の沈黙が辺りの空気を支配していた。
見渡す限り一面の死。この決戦の場において、敵も味方もその多くが命を落とした。
敵方はほぼ全滅。友軍では、四天王の頂点に位置するルビカンテが、遂に戦場に果てた事が、
ミコトが腕の主との戦いに入る前に既に確認されていた。戦死者の名簿は、状況が落ち着くに
連れ、更に分厚くなって行くだろう。修理不可能と判断された大戦艦パラメキアの主砲を転用した
設置型巨大砲シスター・レイの指揮を執っていたエリンや、空陸の魔導アーマー部隊を率いていた
黒魔軍総司令官エヌオー、決戦の切り札として用意された魔力の竜巻を操っていたバルバリシアら
黒魔軍幹部たち、それにフライヤやサラマンンダーを始め、黒魔軍に直接所属してはいないものの、
それぞれの目的で戦場に入った多くの第三者たちの安否については、今の時点では全く不明だった。
28◆BilbodqY:02/05/27 22:04 ID:???
彼ら味方陣営の生存状況は気がかりだったが、誰よりも気にかけていたジタンの安否については、
ミコトは不思議と不安が無かった。ジタンが死んだら自分には分かる筈だという、自分でも根拠を
説明できない確信を、どういう訳か強く感じていたのだ。それだけに、周囲を探し歩いて
ようやく発見したジタンが、蒼ざめた顔で屍の山に横たわっているのを見た時の動揺は大きかった。

流石に不用意に身体を揺すぶったりする事は無かったが、ミコトは我知らず幾度もジタンの名前を
呼びながら、身体の具合を繰り返し調べなおした。幸い、呼吸、脈拍とも、微弱ながら確認できたが、
意識の方は完全に喪失していた。小さな傷ならいくつもあったが、特に致命的な負傷は見つからず、
出血多量の様子も無かった。にもかかわらず、意識だけはどうしても戻らない。外から見るだけでは
分からない脳や臓器への損傷が原因かも知れないと思い至り、腕の主との戦いで感じた以上の恐怖と
不安に、ミコトの胸は張り裂けんばかりだった。
当初はジタンをダテレポで黒魔軍陣地の医療設備に運ぶつもりだったが、脳や臓器に損傷があるなら、
魔法による尋常ならざる空間移動は肉体に負担をかけ、思いがけない悪影響を及ぼす惧れがある。
そうそう簡単に実行する訳にはいかない。ここはとにかく、少しでもジタンの状態を良くしようと、
ミコトは立て続けにケアルガを使用した。
29◆BilbodqY:02/05/27 22:05 ID:???
何度呪文の詠唱を繰り返しただろうか。喉の痛みに思わず咳き込んだミコトは、ふとジタンと
目が合った。いつの間に意識を取り戻したのか、目をぱちくりさせるミコトを見て、ジタンは
いつものようにニヤリと人を食ったような笑みを浮かべた。
まさか、自分が必死にケアルガを使っている様子を、ニヤニヤ笑いながら眺めていたのだろうか。
だとしたら、あまりにも酷過ぎる。抗議しようとするミコトをジタンは片手で制し、耳元でそっと
「ありがとな」と囁いた。
いきなりそんな風に言われてしまうと、それ以上はジタンを責め難い。勿論、ジタンが分かって
いてそう言ったのだろう事はミコトにも容易に推測できるが、それをずるいと感じる事はできても、
感情のコントロールに不慣れなミコトは、その時点で自分の気持ちに折り合いをつけてしまうような
器用な真似はできない。結局、やり場の無い不条理感で、複雑な表情をする破目になるのだった。

「そんな顔するなよ。本当に今気がついたばかりなんだ」
ミコトの不満を読み取ったのか、ジタンはそう言って肩をすくめた。
「…心配したわ。気がついて良かった」
しみじみと呟くミコトを見て、ジタンはその真剣さに少々ばつの悪い思いをした。ミコトに言った
言葉に嘘は無く、意識が戻ったのはつい今し方だったのだが、必死に回復魔法を使うミコトの姿を
微笑ましく思いながら眺めていた瞬間は確かにあったのだ。
「とにかく、早く本営に戻って、きちんとした設備で身体を調べた方がいいわ。仮にも、意識を
失っていたんだもの…」
「そんなに心配しなくても大丈夫だって。決着をつけて、ちょっと気が抜けちまっただけだよ」
「決着…そうね…」
この戦いにより、ジタンが掲げていた黒魔軍の目標は事実上達成された。逃亡した敵勢力残党が
僅かに残っているのは確かだが、強力な指導者を欠いた彼らには、最早、何の力も残っていない。
黒魔道士の村に侵略の魔手が伸びる事も、ガーネットやエーコの暴虐にガイアの人々が苦しむ事も
無くなったのだ。今日までの息が詰まる緊張の日々が終わり、思わず気が抜けてしまったというのは
ミコトにも十分に納得できる話だった。
30◆BilbodqY:02/05/27 23:46 ID:???
「…でも、きっとみんな貴方を心配しているわ。やっぱり、早く戻りましょう?」
「そうだな。帰ろう…」
ジタンはそう言って歩き出したものの、ほんの二、三歩で立ち止まった。
「どうしたの?」
「ミコト…悪いけど、先に戻っててくれないか? 少し、ここで考えたい事があるんだ」
「…そう。そうでしょうね。分かったわ」
今日まで戦ってきたガーネットやエーコは、ジタンに取っては因縁浅からぬ仲だ。敵味方に分かれて
殺し合う事については心の整理をつけていたのだろうが、こうして戦いが終わった今、改めて色々と
思うところもあるのだろう。少しの間、気遣わしげな視線をジタンに向けると、ミコトは小さく
ダテレポの呪文を唱えて姿を消した。
31◆BilbodqY:02/05/27 23:47 ID:???
「…さて」
しばらくミコトが姿を消した場所を見つめていたジタンは、ぽつりと呟くとゆっくり振り返った。
「何の用だ? ガーランド」
『重要な知らせだ、ジタン』
ジタンの問いかけに応じて、何処からか、音ではなく直接意思を伝達する『声』が響いた。
『かねてから我らが探していたものが、ようやく見つかった』
「遂に見つかったか…。何とか水際で間に合ったといったところだな」
『うむ…。この戦いでお前があの力を使った事で、滅びの意思は更に確固たるものとなって
いたからな。そうしなければこの戦いに勝てなかったとは言え、正直、ここに来て滅びの意思が
加速したのは、少しばかり痛かった』
ガーランドの声を聞きながら、ジタンはふと空を見上げた。
何処までも毒々しく赤い空。
ずっと以前に幻視した破滅の日にも、空は今と同じ赤い色をしていた。
「そうだ。破滅の日はもう近い…」
『だが、今ならまだ、その日が来るのを未然に防ぐ事ができるぞ、ジタンよ。我らの長らく
探し求めた『世界の是正者』が、いよいよこのガイアに姿を現したからには』
32◆BilbodqY:02/05/27 23:50 ID:???
思ったより書き込み制限がきついね…。
ろくに話が進まない(w
338.5:02/05/28 01:41 ID:???
決していい加減にやったというわけではないが、
ここで作品を読んでもらえるのは純粋にうれしかったもんだ。
どこそこへ投稿するわけじゃないからいらん気を使うこともなく、
自然に楽しみながら作品を書き込めた。
何とか賞とかに投稿した作品よりここに書いたやつのほうが
はっきりいって自分で読んでても出来がよいと思った。
このシリーズも当然好きで、期待しとります。クロマ書き殿。
34耽美主義 ◆BilbodqY:02/05/28 12:53 ID:???
>>24
お気遣いどうもです。
無理はしない…と言うかできない(w

>>33
あの当時の、読んでくれる人や他の作者さんとの
ライブ感みたいなものが楽しかったというのは僕もあったなあ。
アレ許もFF8.5も、みんな本当に楽しんで書いてる感じがした。
アレ許は初めの頃が一番面白かったという意見をよく聞くけど、
とにかくみんなが楽しんでいたからなんだろうなと思ったよ。

今、こうして続きを書いていて、それはそれで勿論楽しいけど、
あの頃のような盛り上がりをもう一度味わうのは、正直無理だろうなあ…。
35耽美主義 ◆BilbodqY:02/05/28 13:00 ID:???
×とにかくみんなが楽しんでいたからなんだろうなと思ったよ。

○その頃が一番みんなが楽しんでいたからなんだろうなと思ったよ。
36:02/05/28 22:11 ID:???
こっそりと自分も応援してます。
37へじほ ◆G93qp0D6:02/05/29 19:45 ID:???
subarasii
38応援どうもです ◆BilbodqY:02/05/30 23:41 ID:???
度重なる激闘によって大被害を受けた黒魔軍飛空艇艦隊旗艦パラメキアは、最終決戦までに
その機能を回復させる事が不可能と判断され、不時着したクレイラ東において、黒魔軍本営として
運用されていた。決戦での敵軍の攻撃はこの巨艦にも及び、破壊の爪跡がそこかしこに見受けられる。
しかしその無残な姿とは裏腹に、ミコトが帰還した時、艦内には不思議な活気が溢れていた。
耳に入って来る会話から察するに、既にこの戦いの終結と黒魔軍の勝利が噂になっているらしかった。
村の外の人間とはほとんど接触した事が無く、感情面でも未発達だったジェノムや黒魔道士までが、
黒魔軍に参加していたリンドブルムやアレクサンドリアからの亡命者たちと嬉しげに談笑している。
それは殺し合いという忌むべき極限状況が無理矢理引き出した、悲しいものだったのかも知れない。
しかし、例えそれが呪われた成果であったとしても、ミコトに取っては、今日まで戦って来た
何がしかの甲斐を感じさせる光景だった。

「ミコトさん」
笑いあう人々に見入っていたミコトに、誰かが背後から声をかけた。
「…エリン艦長?」
振り返ると、そこには煤塗れのエリンがにこにこと笑いながら佇んでいた。顔も服も黒く汚れ、
あちこちに小さな怪我を負っていたが、そんな事はまるで感じさせない溢れんばかりの生命力に、
ミコトは圧倒される思いだった。初めて会った時から、ミコトはエリンの屈託の無い気性に
気圧されるのを感じていた。嫌いだというのとは違ったが、エリンと話していると、ミコト自身は
全く持ち合わせていない前向きな性格、少なからずジタンに似たその性格に呑まれてしまう。
平たく言えば、エリンはミコトに取って少々苦手な相手だったのだ。しかし、兵士たちの活気に
影響されたのか、今日ばかりはエリンの人懐こい雰囲気も心地良く感じられ、ミコトは微かに微笑んだ。
39◆BilbodqY:02/05/30 23:42 ID:???
「ご無事で良かった。これで主要幹部全員の安否は確認されました。エヌオー総司令も、バルバリシア
さんも、既に本陣に帰還していますよ、ミコトさん。ルビカンテさんの事は残念でしたが…」
戦死したルビカンテの名前が出た時には、流石に明るい表情だったエリンも、一瞬、顔色を曇らせた。
「全員の安否……それなら、ジタンはもう戻っているの?」
「いえ、まだ連絡ありませんです。でも、ミコトさんはもうお会いしたんですよね?」
「…どうして分かったの?」
必要の無い話を聞く事は滅多にないミコトだったが、エリンの確信を不思議に思い、そう尋ねてみた。
「だって、ジタンさんの安否が不明なら、ミコトさんはもっと心配そうな顔をしていますよ。
でも、今日のミコトさんはとっても柔らかい表情をしていましたから、もうジタンさんに会って、
安心しているのかなって」
「そうなの…」
ミコトはジタンが何らかの危険に挑む時、自分が心配している事については自覚的だったが、
同時にブラン=バルの閉鎖的な環境で育った自分が、感情面で未成熟であり、感情を外に表す術が
不得手であるとも知っていた。それが、はたから見てもジタンを心配していると読み取れる程に
感情を表出していた事に、ミコトは純粋な驚きを感じた。時の凍ったブラン=バルを去り、
うつろいゆくガイアに来た事で、思っていた以上に自分は変わっていたのかも知れないと。
ジタンなら、それを成長と呼ぶのだろうか?
40◆BilbodqY:02/05/30 23:43 ID:???

「二人で何を楽しそうに話してたんだ?」
「ジタン…!?」
思い浮かべていた顔が突然目の前に現れて、ミコトはどきりとした。
「ジタンさん、いつこちらに?」
「ああ、たった今な」
純粋に諸感覚の能力だけを比較するなら、既にミコトはジタンより上にいる。にも関わらず、
ジタンがすぐ目の前に来るまで全く気がつかなかったのは、余程注意力が散漫になっていたのだろう。
ミコトは我が事ながら呆れ果て、小さく溜息をついた。黒魔軍の被害状況についてエリンと話していた
ジタンはその様子を目敏く見つけると、「どうした?」と問いかけた。
「…別に」
「ふーん…何でもいいけどさ、お前も上級幹部なんだし、みんなの前でそんな顔はしてやるなよ。
せっかく勝った勝ったと喜んでる連中に水を差すのも野暮ってもんだぜ」
言われてみれば、確かに幾人かの兵士が不安気にミコトの様子を伺っているのが見えた。こんな時に、
人々を安心させられるような微笑のひとつも、咄嗟には浮かべられない自分の不器用さに少々辟易
しながらも、ミコトは慌てていつも通りの冷静な表情を取り繕う。それを見て一応は安心したのか、
兵士たちは自分たちの談笑に戻っていった。
41◆BilbodqY:02/05/31 00:00 ID:???
大戦艦パラメキアの円卓会議室──最高幹部たちによる特別会議専用のこの部屋を、数週間ぶりに
魔法の照明が照らし出した。不自然な間隔の空席が、否応なく前回会議でその場所に座っていた者
たちを思い出させ、決定的な勝利という状況下には不似合いな、ひどく沈んだ雰囲気をかき立てる。
重苦しい空気が流れる中、それでも会議は滞りなく進行した。
この会議で議題となったのは、戦争終結を宣言するタイミングであった。
人々が戦いに疲弊している今、戦争終結宣言は早いに越した事は無い。
だが、魔力の飽和によってもたらされた赤い空が、その障害となっていた。
この世ならざる光景。
それが大多数の人間にとっての、赤い空への思いである事には疑問の余地が無かった。
その問題を残したまま戦争の終結を宣言すれば、解放者として黒魔軍を支持する人々に、
見捨てられたとの思いが芽生える可能性は少なくないだろう。黒魔軍の霧の大陸への侵攻が、
超越者たちの暴威から人々を開放するという名目に拠っている以上、それは得策ではなかった。
エヌオーの予想では、1週間程で異常飽和した魔力は拡散し、空が元に戻るという。
ならば、戦争終結宣言はその時まで待とうというのが会議の結論だった。
それと同時に、煮え切らない状況に余計な不安感が広がらぬよう、アルテミシオンを通じ、
モグネットの力で、事実上、既に戦争が終結しているとの噂を各国に流布させる手配もなされた。
42◆BilbodqY:02/05/31 00:01 ID:???
会議が終わり、出席者は次々に部屋を後にしていった。ミコトも席を立って後に続こうとしたが、
途中でジタンに呼び止められた。
「なあ、ミコト。お前、少し疲れているんじゃないか?」
「…え?」
気遣わしげに自分を見ているジタンを、ミコトはきょとんとした表情で見返した。
この戦いが始まってからの、いつも張り詰めていて、冷徹とさえ言える硬い表情のジタンに、
ミコトは慣れきっていた。時折、内に秘めた感情が見え隠れする事はあったが、ここまで
あからさまに感情をあらわにしているジタンを見たのは、本当に久しぶりだった。
「会議の前にエリンと話していた時、溜息なんかついてただろ? お前にしちゃ珍しいから、
何だか気になってさ。それとも、戦いが終わって気が抜けちまったのか?」
43◆BilbodqY:02/05/31 00:01 ID:???
言われてみれば、確かに珍しい事だった。戦争が始まる前でもそうだったのだから、ジタンが
言うように戦いが終わって気が抜けてしまったのだとも思えない。考えこんでしまった様子の
ミコトを見て、ジタンは苦笑した。
「そんなに難しい顔をするなよ。それよりどうだ? 気分転換に何処かに遊びに行かないか?」
「遊びに…」
ジタンの意外な申し出に、ミコトの顔に浮かんだ困惑の色は更に深まった。
「ああ。やっぱりお前は疲れてると思うんだよな。どうせ後1週間は時間があるんだし、どうだ?」
「………」
「お前を何処かに連れて行ってやった事なんて、一度もなかったしな。何処でも行きたい場所に
連れて行ってやるよ。ま、世界中、あちこち酷い事になっちゃいるが、ダゲレオ辺りなら…」
44◆BilbodqY:02/05/31 00:20 ID:???
赤い空。
しかしそれは、魔力の歪みが生み出した戦場の空とはまるで違っていた。
ブラン・バルの青い光の中で育って来たミコトには、魔力の飽和が生んだ赤い空に感じる違和感も、
ガイアの自然な空に感じるそれと比べて、格段に大きいという訳ではなかった。
だが、夕闇の何処か寂寥感をかき立てる赤を見ていると、ガイアの正常な空との調和という点では、
魔力で染まった空が明らかに異質である事が今更ながらに実感できる。
耳に響く音は、川のせせらぎと、微かなそよ風、それと隣に座るジタンの微かな息づかいだけ。
その心地良い沈黙を、ミコトは満ち足りた気分で楽しんでいた。
45◆BilbodqY:02/05/31 00:21 ID:???
「なあ…」
赤い陽を背にした、シルエットのジタンが、ぽつりと呟いた。
「本当にここで良かったのか? 遠慮しないでも良かったんだぜ」
「ううん…。本当に、ここが…ここが良かったのよ…」
黒魔道士の村。
ミコトが来る事を望んだのは、第二の故郷とも言えるこの場所だった。
一応ミコトに疑問を投げかけたものの、ジタン自身は村の空気に満足していた。
川の流れに沿って走る板張りの通路に腰を下ろし、水の流れが爪先をくすぐる感触に身を委ねると、
心身の疲れがそっくり抜け落ちていくのが感じられる。少なくとも今という瞬間においては、
果てる事の無い戦いの日々の中、ジタンが密かに求めた心の平安そのものが得られる場所だった。
ミコトが同じように感じているのなら、確かにその言葉に嘘はないのだろうとジタンは納得した。
46◆BilbodqY:02/05/31 00:21 ID:???
太陽がコンデヤ・パタの峰々の向こうに姿を消してから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
天を染めていた赤い残光は、次第に薄れつつあった。
足元を流れる水から立ち上る冷気も、心地良さを通り越し、ちくちくと肌を噛み始めている。
「冷えてきたな。そろそろ、部屋に戻らねえか?」
「…もう少し。少しの間だけ、月を見たいの」
「そっか。お前、意外と風流なところがあるんだなー」
「…そうかしら?」
「ああ。ちょっと驚いちまったぜ。俺は先に戻ってメシの用意でもしてるよ」
47◆BilbodqY:02/05/31 00:22 ID:???
口実だった。
今という安らぎの時間が持つ空気は、あまりにも甘過ぎた。
まだ、俺にはなすべき事が残されている。ジタンはそう自戒する。
だから今、これ以上この蜜を貪り続けるのは危険だった。
「待って!」
立ち上がってその場を後にしようとしたジタンの袖を、ミコトは咄嗟に掴み、引き止めていた。
「…もう少しだから、それまで一緒にいて、ジタン」
これ程強い意思表示を、しかもほとんど我儘も同然の意思表示をミコトがしたのは、これが初めての事
だったかも知れない。ジタンは驚きに目を丸くしたが、それ以上にミコト自身が自分の咄嗟の反応に
途惑いを隠し切れない様子だった。
48◆BilbodqY:02/05/31 00:39 ID:???
困惑しきったミコトを見ていると、ジタンは何か暖かい気持ちが湧き上がってくるのを感じた。
それは最前までのような、取り込まれてしまいかねない危険性を孕んだ甘い安らぎを越え、
何としても目指す目的を成し遂げるという意思をも強くしてくれるように思えた。だからジタンは、
何ひとつ意識する事無く、ごく自然に、安心させるかのようにミコトの頭をぽんぽんと軽く叩くと、
いつも通りニヤリと人を食った笑みを浮かべ、そのまま腰を下ろした。
「分かったよ、俺の負けだ。今夜は好きなだけ一緒にいてやるよ」
「…ありがとう、ジタン」
49◆BilbodqY:02/05/31 00:40 ID:???
少しだけ、という筈だったのだが、月はとっくに昇って、既に中天にさしかかっていた。
夜気に身体もすっかり冷え切っている。だがジタンもミコトも、その場から立ち去ろうとはせず、
そのままじっと月を眺めていた。
天を運行する青と赤との二つの月。月は、ガイアとテラ、それぞれのクリスタルの光に照らし出され、
それぞれのクリスタルの色で輝いている。青い月は、ガイアのクリスタルの色に輝くガイア本来の月
だったが、ミコトはテラの赤い月よりも、ブラン・バルを満たしていた輝きに似た、青い月の光が
好きだった。そして今夜は、赤い月の軌道が青い月の背後に隠れ、夜空はただ青い光にのみ包まれる
日であり、ミコトにはそれが少しだけ嬉しかった。本当に安らいだ気分だった。
一方ジタンは、いつしか肩に持たれかかっていたミコトの頭を時折優しく撫でながら考えこんでいた。
『ミコトがあんな風に言い出すなんてな…。明日という日に何かを感じ取っているのか、ミコト?』
月の綺麗な、静かな夜の事だった。
50◆BilbodqY:02/05/31 00:41 ID:???
今日こそは青い空を見る事ができるだろうと、エリンはそう期待していた。
エヌオーの予言通り、魔力飽和による空の異常は確かに収まっていた。
しかし、戦争終結宣言が出される今日という日の空は、朝から分厚い黒雲に覆われており、
諦め切れずに空を見上げると、その都度がっかりする羽目になった。
「この分だと、一雨来るかもしれないわね…」
エリンの隣を歩きながらそう呟いたミコトも、何処か気落ちしたような様子だった。
二人が今日の式典の野外会場に着いた時には、既にアレクサンドリアとリンドブルムの暫定政府の
代表団と、ブルメシアのパック王子、それに彼らのの護衛が集まっていたが、その中にも今日の空を
不安げに見上げる者が少なくなかった。
二人が席に着くと、隣の席で所在無さげに会場を見回していたフライヤが片手を挙げて挨拶した。
51◆BilbodqY:02/05/31 00:54 ID:???
「せっかくの日だと言うのに、生憎の空じゃな」
「式典終わるまで空が持ってくれればいいんですけどね。これだけの人数を一箇所に収容できる
場所は、大戦艦の中にもありませんから」
「ふむ…。終わり良ければ全て良しと行きたいところじゃが…」
フライヤがそう言いかけた途端、稲光が閃いた。会場の奥に見える二つの巨大な尖塔─その半ばから
折れた結果として天を突く形になった巨砲シスター・レイと、「魔力の竜巻」の核であった飛行兵器
クリスタルタワーが、雷を反射し、墓碑めいた姿を暗い空の下で一層不気味に際立たせた。
「いかんな。この分ではすぐに降りだすぞ」
フライヤがそう嘆息した時、突然会場内に割れんばかりの拍手が巻き起こった。演説用に用意された
雛壇に、ジタンが姿を現したのだ。
「まだ時間じゃありませんけど…この天気で予定を早めたんでしょうか?」
エリンが小さく囁く中、ジタンは落ち着いた調子で喋り始めた。
52◆BilbodqY:02/05/31 00:55 ID:???
「皆さん御覧の通り、今日は生憎の悪天候。従って、予定を繰り上げさせていただきます…」
そしてジタンは語った。アレクサンドリア・リンドブルム両国の圧政からの解放と、この世界大戦の
終結を。しかし、話を聞き進めるうちに、ミコトの顔色はみるみる蒼ざめていった。
「なんと言ったのだ、ジタン」
パック王子が信じられないという表情で立ち上がり、ジタンを問い質した。
「だから、暴政者を抑止する力を持たないアレクサンドリアとリンドブルム、それに彼らの暴威から
自国を守る力も持たない貴方のブルメシア。この三国には今後二十年の間、一切の自治を認めないと
言ったんですよ、王子」
「馬鹿な! そんな事が許されるとでも…」
「許すも許さないもないぜ。今、俺がしているのは交渉ではなく、既に決定済みの事を通知している
だけだからな。アレクサンドリアはエヌオー、ブルメシアはバルバリシア、そしてリンドブルムは、
この俺が直接統治する事になる」
ジタンのあまりに意外な宣言に、会場は騒然となった。
53◆BilbodqY:02/05/31 00:55 ID:???
「お主たち、知っておったのか!?」
そう問いかけたフライヤは、揃って色を失ったエリンとミコトを見て、返事を聞くまでもなく事情を
理解した。この茶番は、ジタンとごく小数の者たちにより、極秘裏に推し進められていたのだと。
「どうやら、皆さんご不満のようですな」
わざとらしい丁寧な口調でジタンが続けた。
「当たり前だ!」
激昂したパック王子が、厳しい口調でジタンに詰め寄る。会場からも次々に不満の声が上がった。
「そうか…。さっきも言った通り、俺が話した内容は決定事項だ。そして、それは話すと同時に実効
を発揮するって事になってる。だから早速だけど、あんたたちには、国家反逆罪が適用されるぜ」
そう言ってジタンがパチンと指を鳴らすと、何処からともなく光球が次々に会場へと飛来した。
「テレポッド…!」
使い慣れた魔法装置の名前をミコトが口にするのと同時に、光球群は黒魔道兵の姿に実体化した。
「来たか。では、皆さんを監獄へ案内して差し上げろ」
前大戦でアレクサンドリア軍、そして今大戦では黒魔軍の尖兵として猛威を振るった黒魔道兵の力は、
誰しもが知るところだった。各国代表団は勿論、その護衛ったいの多くまでもが黒魔道兵の姿を見て
腰を抜かして抵抗する気力を失った。
54◆BilbodqY:02/05/31 01:08 ID:???
しかし、その場の全員が黒魔道兵の恐怖に負けた訳ではなかった。無論、フライヤもその一人であり、
彼女はランス・オブ・カインを水車のような勢いで回転させ、パック王子に迫る黒魔道兵たちを
次々になぎ倒していた。
「…そこの愚かな飼い主同様、この俺に手向かう気なのか、フライヤ?」
黒魔道兵の攻撃が途切れたタイミングで、ジタンは氷のような一切の温かみの無い声で告げた。
「愚かなのはお主の方じゃ! これではガーネットたちと同じではないか! 何故、変心したのじゃ、
ジタン!? それとも、最初からこの事を企んでおったのか!?」
しかしジタンはその問いには答えず、冷たい笑みを浮かべるだけだった。
「ふん…。あくまで逆らう気か。よし…エリン、ミコト、そこにいるパック王子を捕らえろ。ヤツを
確保すれば、フライヤも手向かいはできまい」
「そ、そんな…。私は…私はこんな事の為に戦ってきたんじゃない…。お願いです、ジタンさん!
お願いですから、考え直して下さい…!」
ジタンの命令に、エリンは涙を流して抗議した。しかしジタンはつまらなそうに首を振るだけだった。
「お前も俺に逆らうつもりなんだな。ふん、まあいい。監獄の夜は寒いぜ、エリン。後になって後悔
するなよ。だけどミコト、お前は違うよな? 俺の命令を聞いてくれるだろう?」
「わ、私は…」
55◆BilbodqY:02/05/31 01:09 ID:???
「迷う事は無いぜ、ミコト。お前はいつものように俺の言う事を聞いていればいいんだ。生きる目的も
意味も、俺がいくらでも与えてやるよ。これまでもずっとそうだっただろ? 難しく考え過ぎるなよ」
生きる意味と目的。ガーランドが死に、テラとブラン・バルが崩壊した時にミコトが失ったそれらを、
ジタンが与え続けてきた事は間違いなく、ミコト自身、それに依存していた面があるのも確かだった。
しかし、ゾディアックブレイブとの激闘の果てに死の淵で自分の心を見つめなおした時、ジタンから
与えられただけではない、自分から望んだ目的があった事にミコトは気がついていた。
全てを捨てても目的を遂げようとしているジタンの心。それが虚無に沈んでしまう事がないように、
どんな事があっても絶対にジタンを見捨てず、その心を救うという事。それがミコトの望みだった。
裏切られようと見捨てられようと、あるいはジタンが悪に堕そうと、その決意には変わりが無い。
だからミコトは、ジタンの命令に盲従するというのではなく、自らの意思でジタンに従う事を決め、
ゆっくりとパック王子の方に向き直った。
『駄目だよ』
その時だった。何処かで聞いたような声がミコトの頭の中に響いた。
「ジタン…命令は聞けない」
奇妙に静まり返った会場で、自分の声が、自分の意思に反して勝手にそう言うのをミコトは聞いた。
56◆BilbodqY:02/05/31 01:10 ID:???
「そうか。ミコト、お前もか…」
そう呟くジタンの声が、遥か遠くに聞こえた。何が起こったのか理解できずに混乱するミコトを
取り残し、事態はなおも新たな推移を見せつつあった。
「抵抗は…無駄…だ」
掠れた声と共に、突如何も無い空間から紫色のローブが姿を現し、凄まじい勢いで高速回転していた
ランス・オブ・カインを難無く掴み止めた。
「貴様は…!」
「総司令!」
フライヤとエリンが同時に叫んだ。エヌオーはフライヤの槍を無造作に放り捨てると、フライヤには
聞き覚えのある呪文──かつてビビがそれを使うのを何度か見た事のある呪文の詠唱を始めた。
「この術…ストップか…!」
言い終えるのと同時に、フライヤは凍りついたようにその動きをと思考を封じられた。エヌオーの
魔法は、続けてエリンやパック王子をも縛り、術に抵抗する気力を振り絞るどころか、未だ自分に
起きた現象に愕然とするミコトをも捕らえ、その意識を忘却の彼方に運び去った。
57◆BilbodqY:02/05/31 01:19 ID:???
激しい雨だった。
既に黒魔道兵の姿も無く、式典参加者も連れ去られ、ジタンは会場に一人佇んでいた。
『上手い具合に事が運んだようだな、ジタンよ…』
「ああ…」
頭の中に響くガーランドの声にジタンは答えた。
「これで準備が整った…。ふりだしに、ようやくたどり着いたという事か」
58本日分終了 ◆BilbodqY:02/05/31 01:20 ID:???
冷たい石の上だった。
ミコトは自分が石畳の上に寝ていた事に気がついた。
「あ、気がついたんですね。大丈夫ですか?」
心配そうなエリンの声が聞こえた。
「ここは…?」
「ここには以前にも来た事がある。デザートエンプレスの地下牢じゃな」
フライヤの声が答えた。
周囲を見渡すと、そこがあまり広くない部屋で、自分とフライヤ、それにエリンの三人が
閉じ込められているのが分かった。
「デザートエンプレス…」
「そうじゃ。ジタンから聞いた事は無いか、ミコトよ? かつて、クジャが自分の本拠地として
使っていた古城がこの場所なのじゃ」
「…クジャ。そう…あれはクジャの声だった」
「どうしたのじゃ、ミコト? 何を言っておる。クジャならとっくに死んで…」
「御名答。流石に君は僕の妹だね」
フライヤの声を妨げるように、式典でミコトの頭に響いたのと同じ声が聞こえた。
まさにその声の主、クジャが、ニコニコと機嫌良く笑いながら、格子の向こうに立っていた。
59耽美主義 ◆BilbodqY:02/05/31 21:22 ID:???
一応保全しておくか…。
応援します
61ミ・∀・ミ ◆G93qp0D6:02/06/01 18:57 ID:???
圧縮の季節。
まじで保守
やっぱクロマ書きさんのは良いですね、
激しく胃胃
保全急浮上
>>59
おお、ここでも書いてたのですか。
67耽美主義 ◆BilbodqY:02/06/05 01:34 ID:???
うーん、保守してくださる方には頭が上がらない。
早く書こうと思いながらも、次回は週末になってしまいそうな予感…。

>>66
ミコトスレの住人さんかな?
別に気にせんでもよす。マターリ保守。
保全sage
保全デチ
71◆BilbodqY:02/06/09 23:21 ID:???
「クジャッ! 貴様、生きておったのか!」
フライヤの殺気走った視線がクジャに突き刺さる。かつてブラネ女王の統治下のアレクサンドリアが、彼女の故郷ブルメシアと、同族たちの地クレイラを滅ぼした時、ブラネの背後で暗躍していたのが
クジャだった。アレクサンドリアによる虐殺の責任全てが彼にある訳では勿論無いが、クジャが
許しがたい役目を果たした事に違いはない。
「そんな怖い顔をしないで欲しいな。僕は以前に君の命を助ける手伝いをした事もあるんだよ?」
「永遠の闇との戦いが終わった時の事か? 放火魔が自分で起こした火事の鎮火作業を手伝ったからと
言って、それに感謝するものはおらぬ!」
「ひどい…僕の心は深く深く傷ついたよ」
額に手を当てたクジャは、芝居がかった大げさな動作でヨロヨロとよろめいた。
「それなら、これでどうかな? 今から君たちをそこから出してあげるよ。君たちには、かごの中の
小鳥という役目は相応しくない。大空を自由に羽ばたくべきなのさ」
「何じゃと?」
「その代わり、僕を許せとは言わないけど、そんな剥き出しの殺気をぶつけるのは止めて欲しいな」
72◆BilbodqY:02/06/09 23:22 ID:???
フライヤの返事を待たず、クジャは扉の前で手をひらひらと振った。キラキラと輝く光の粒が、クジャ
の白い指の周りで蝶の鱗粉のように舞い散って行く。最後の一粒がかき消すようにフッと空気に溶けた
瞬間、カチリという金属質の音が響いた。
「さあ、これでもう君たちはその身を縛り付けておく鎖から解き放たれたよ」
扉は不快な軋みを立てながら、ゆっくりと開いていった。
「それと、贈り物もあるんだ。麗しい美姫たちへの贈り物としては、少しばかり無粋なものだけどね」
そう言って一度廊下の奥に姿を消したクジャは、両手に何かを抱えながらすぐに戻って来た。
「フライヤ、君にはこの飛竜の槍をあげるよ。君が本当に大切にしている武器が、あのランス・オブ・
カインだという事は分かっているけど、あれはジタンが自分の目が届く場所にしまい込んでしまった
からね。それを取り戻すまでの間に合わせに使ってくれればいいよ」
鈍い輝きと鋭い穂先を持った槍をフライヤに渡したクジャは、次いで美しい装飾の施されたハンマーを
エリンに差し出した。
「空の海を行く船乗りの君には、このトリトンハンマーが扱い易いと思ってね。勿論、扱い易さだけ
ではなく、美しさと威力についても折り紙付きさ」
73進まなくてスマソ ◆BilbodqY:02/06/09 23:24 ID:???
無言で様子を見ていたミコトの目の前に、クジャは不思議な色をした小さなベルを突き出した。
「こればかりは、正確には贈り物とは言えないな。何故ってこのティンカーベルは、他の2人への
贈り物と違って、元々、君の物だったからね。僕はそれを取り戻してあげただけさ」
ミコトは黙ってティンカーベルを受け取ると、突然キッとクジャを睨みつけ、受け取ったばかりの鐘を
小刻みに鳴らした。水に沈んだ氷が融け、閉じ込められていた空気が解放される瞬間に似た、澄んで
神秘的な音色が鋭く響く。美しい音色は指向性の破壊音波にと転化され、クジャに向けて殺到した。
しかしクジャは少しも顔色を変えず、僅かに首を傾げると、その直前まで頭が合った場所を通り抜けて
行った不可視のエネルギーが、背後の壁を分子レベルに粉砕し、砂に変えた音を聞いて肩をすくめた。
破壊音波に巻き込まれた僅かな銀髪が、幾筋か虚しく宙に舞うのを哀しげな顔で掬い集めるクジャを、
ミコトは例え様もない冷たい口調で問い詰めた。
「…幾つか聞きたい事があるわ。貴方が生きている理由と貴方の目的、そして何より、あの式典の時、
何故私の邪魔をしたのかを」
「いいとも。君にはそれを聞く権利があるよ」
ミコトの冷たい怒りなど何処吹く風といった、至極上機嫌な口調でクジャは答えた。
これは続きが気になる・・、
保全
保全
76へじほ ◆G93qp0D6:02/06/12 20:39 ID:???
ぎゃおす
捕手
78へじほ ◆G93qp0D6:02/06/15 13:06 ID:???
よし!
79◆BilbodqY:02/06/16 06:44 ID:???
「さて、何処から話せば分かりやすいかな…」
両目を閉じて腕を組み、ブツブツと呟きながらしばらく考え込んでいたクジャは、突然何かに
思い当たった表情でパチンと指を鳴らした。
「そう…僕は世界を滅びから守るんだよ、ミコト。そこから話すよ。それが僕の目的さ」
「世界を…?」
クジャのあまりに唐突で途方も無い言葉に、ミコトは勿論、エリンやフライヤも狐につままれた
ような表情で顔を見合わせた。
「貴方のつまらない冗談に付き合う気は…」
「違う、違うよ。僕は本気さ。僕はその為にガイア帰って来たんだからね」
「…それが本当なら、クジャ、貴方は一体何から世界を守ろうと言うの? ジタンからなの?」
「確かにジタンは、結果的にこの星の、ガイアの終焉を早めているよ…」
クジャはそう言って軽く溜息をついた。
「でも、彼自身はガイアを滅ぼすこの世界の究極の敵という訳じゃない。それをするのは
滅びの意思──ガイアに根源的な破滅をもたらすものさ」
80◆BilbodqY:02/06/16 06:45 ID:???
滅びの意思。その名を口にした刹那クジャの瞳に閃いた恐怖は、至極単純な語句の組み合わせに、
ほとんど啓示的とさえ言える不吉な説得力を与えた。しいんと不快な沈黙がその場に降りる。
「…仮に、お主の話が本当だとしよう」
耐えがたい苦痛を内包した静寂を打ち破ろうと、フライヤが躊躇いがちに口を開いた。
「滅びの意思とは、ひどく抽象的な呼び方ではないか。またぞろ、あの永遠の闇のような、
世界を無に帰す為の存在が現れたと言うのか、クジャよ?」
「違うよ。永遠の闇は、ただただ無に回帰する為だけの存在──他の事は考える事すらできない、
衰退そのものの具現化に近い存在でしかなかった。でも、滅びの意思は違う…違うんだよ」
更に何か質問しようとするフライヤを手で制して、クジャは青い顔で叫んだ。
「駄目だ…! 僕にこれ以上、あれの話をさせないでくれ! あの宇宙的な恐怖については、
無闇に知らない方が君たちの為さ…。ただ、滅びの意思がその忌むべき望みを遂げれば、
このガイアは全てを失って、僕たちは、初めから何処にも存在しなかったかのようになる──
そして、僕たちは誰も…いや、僕たちに百倍するような力の持ち主であっても、誰であろうと
滅びの意思を制圧する事はできない──その事だけ分かっていれば十分だよ」
81◆BilbodqY:02/06/16 06:46 ID:???
再び重苦しい沈黙が降りて来たが、今度はクジャ自身がそれを嫌うかのように、頭を振って
話を続けた。
「でも、今ならまだ、ガイアの破滅を回避する手立てが全く無い訳じゃない。あの式典の時、
僕が介入したのもその準備のひとつなんだよ、ミコト」
「介入? どういう事なんですか?」
そう訊ねたエリンに、クジャからではなく、すぐ隣から返事が来た。
「私はあの時、ジタンの命令に従うつもりだった。パック王子を捕らえろという命令に…」
「ミコト、お主…?」
「ミコトさん!」
驚きの眼差しを向けるフライヤとエリンを気にした風も無く、ミコトは淡々と言葉を続けた。
「でも、私は自分の意思に反した言葉を口にしていた…。どうやったのかは分からないけれど、
そこにいるクジャの望む言葉を」
「ああ、それなら簡単だよ。そもそも魂の器として作られたジェノムという種は、正しい方法と
然るべき準備さえ用意できれば、外部からの意識操作がさして難しくないのさ。僕たちのような
特別なジェノムも、同じ基本設計から作られている以上は決して例外じゃない」
82◆BilbodqY:02/06/16 06:46 ID:???
ミコトの冷たい視線を涼しい顔で受け流しながら、クジャは得々と語り続けた。
「ジタンがテラに来た時の事を覚えているかい? あの時、ガーランドがジタンに施した処置と
ほぼ同じ手法なんだよ。ただ、君の魂の力が僕の強制力に対して強過ぎたから、少しばかり苦労
したのは否めな…」
そこまで話してようやくミコトの瞳に浮かぶ殺意に気がついたのか、調子に乗ってぺらぺらと
捲し立てていたクジャの長広舌はぴたりと止まった。
「…悪い癖ね、クジャ。私はそんなおしゃべりを聞きたい訳じゃないわ。貴方が何故、私の行動を
邪魔したのかを訊いているのよ」
そう言いながらも少しも和らがないミコトの殺気にぞくりと身震いしたクジャは、いかにも渋々と
いった様子で話し始めた。
「…ジタンのガイア制圧を阻止する為だよ」
それを聞いたミコトの顔に驚きの色が浮かんだ。しかしそれも一瞬の事で、たちまちいつも通りの
無表情に戻ると、ミコトはクジャの横を通り抜け、廊下の奥へと歩き出しだ。
「ジタンのところに戻るのかい?」
ミコトは答えなかったが、黙って歩き去る背中はクジャの言葉を否定していなかった。
83◆BilbodqY:02/06/16 07:19 ID:???
「戻っても無駄だよ、ミコト」
それ以上の話を聞くつもりが無いという拒絶感もあらわなミコトに、クジャは再度声をかけた。
「ジタンの心が虚無に沈むのを防ぐ…。君の目的が前に聞いた通りままならね」
その言葉は決定的だった。凍りついたように止まった歩みを見て、クジャは満足気な笑みを浮かべた。
「さっきも少し話したけど、ジタンの行動はガイアの終焉を招き寄せている…。彼がガイアを完全に
制圧すれば、遠くない未来に滅びの意思は目的を遂げる。ガイアは根源的な破滅を迎える事になるよ。
そしてもし、その日が到来したなら、ジタンは、心はおろか身も魂も虚無に奪い取られる。ガイアと
そこに生きる全ての命と諸共にね」
「…私にどうしろと言うの?」
がっくりと肩を落として振り返ったミコトに、一時哀れみの視線を向け、クジャは話しを続けた。
「ジタンの手からガイアを解放するんだ。ミコト、君までがジタンの手を貸せば、ジタンの支配は
決して覆せない不動のものになる。だから君がジタンの心を虚無から救いたいのなら、君はジタンを
阻止する側に立って戦わなくちゃならない」
「………」
84◆BilbodqY:02/06/16 07:20 ID:???
黙り込んでしまったミコトから視線をそらし、クジャはフライヤたちの方に向き直った。
「フライヤ、エリン、君たちは最初から今回のジタンの行動には反対だったね。なら、彼を阻止する
為の戦いに力を貸してくれるだろう?」
「ああ。お主の言いなりになるようで、いささか業腹じゃがな」
フライヤはそう言って頷いた。
「正直、お主の言う滅びの意思とやらの話が何処まで本当かは分からん。じゃが、ジタンの暴挙は
確かな事実よ。それを、指を咥えて黙って見過ごす事などできはせんのじゃ」
「わ、私もフライヤさんと同じ気持ちでっす!」
エリンもフライヤに続いて力強く賛意を示す。
「それなら話は早い。まずは、パック王子を助けに行こう」
「それでは殿下は、殿下は無事なのだな?!」
勢い込んで訊ねるフライヤに、クジャは頷いて見せた。
「ああ。彼は、と言うより、あの式典の参加者は全員無事さ。何しろ、あの場にいたのは全ての国の
代表だからね。ジタンに取って人質としての価値は計り知れない。殺したりする筈が無いよ」
85◆BilbodqY:02/06/16 07:20 ID:???
「殿下…」
主君の安否を知り、フライヤは安堵の吐息を漏らした。
「人質としての価値が高いという事は、彼らを助け出せば、僕らに取って大きな力になるという事
でもあるよ。僕ら4人じゃ、とてもじゃないけどジタンの軍勢には太刀打ちできない。パック王子が
僕らに協力してくれれば、ジタンへの反乱勢力をまとめるのも容易になる」
「ならば善は急げじゃ。クジャよ、殿下はどの監房に閉じ込められておる?」
「いや、彼はここにはいない。あの式典の参加者は、それぞれバラバラの場所に幽閉されてるんだ。
パック王子が捕らえられているのは黒魔道士の村だよ」
「それなら、尚更急がないと。私たちが逃げた事が分かったら、監獄の警備が一層厳重になるのは
間違いないです」
頷いたクジャは、再び振り返って、黙ったままのミコトに声をかけた。
「そういう訳だから、急ごう、ミコト」
「…分かったわ」
ミコトはのろのろと頷いたが、途中でふと動きを止めた。
86◆BilbodqY:02/06/16 07:44 ID:???
「…待って。もうひとつだけ…貴方が生きている理由がまだよ」
ミコトの口にした疑問に、クジャは渋面を作った。
「確かにまだだったな。殿下の事に気を取られて忘れるところであったが、お主が私たちの血肉を
喰らおうと企む亡者でないという保証は無い。その辺りをはっきりさせておかねばな」
更にフライヤまでが追い討ちをかけ、クジャはますます渋い表情になったが、やがて両手を広げて
降参の意を示した。
「やれやれ、やっぱりその事も話さなくちゃいけないようだね。…そうだな、少なくとも僕は亡者
なんかじゃないよ。疑うなら、今この場でエリクサーでも飲んでみせようか? それにミコトには
以前も会っているから、彼女に聞いてもらってもいいよ」
「そうなんですか、ミコトさん?」
エリンの問いにミコトは頷いた。
「…ええ。でもあの時のクジャは、肉体を持たない精神と魂だけの存在だった…」
「何と…。だが、肉体を持たない魂だけの存在とは、それこそ亡霊ではないのか?」
「違うと思う…。あの時、クジャの霊魂からは、亡霊とは違う生命力のようなものを感じられたの」
87◆BilbodqY:02/06/16 07:44 ID:???
「つまり、生霊という訳か?」
「多分…。でもそれがどうして、再び肉体を取り戻し得たのか…。そしてあの時、クジャはこうも
言っていたわ。『向こう側』から現世に呼び戻されたと。なら、そもそもクジャを呼び戻したのは
何者なのか…。依然として疑問は残っているわ」
それを聞き、フライヤはふんと小さく鼻を鳴らした。
「聞けば聞く程、胡散臭い話じゃな…。まあよい、納得のいく説明をしてもらおうか、クジャよ」
「新しく肉体を再構築するには、かなりの力が必要なんだよ。以前、ミコトに会った時の僕には、
それだけのエネルギーが無かった…。本当の事を言ってしまうと、今だってそれ程の力は無いよ。
でもその代わり、僕には運があったのさ」
「運…?」
「そうだよ。一度は死を迎えた僕の肉体…。冷たい土の下に埋葬されていた僕の亡骸を活性化し、
新たな命の火を点してくれた殊勝な連中がいてね。さぞかし苦労しただろうに」
そう言ってクジャは、さも面白くてたまらないといった風にクスクスと笑った。
「お主に協力する者がいたという事か?」
88◆BilbodqY:02/06/16 07:45 ID:???
「協力者? まあ、結果的にはそうなるね。何の事は無い。滅びの意思とその従者たちの仕業さ。
大方、僕の肉体を自分たちに都合のいい人形として利用しようと企んだんだろうけど、例の式典で
ミコトに仕掛けた技の応用で少しね。意思も魂も持たない空っぽのジェノムの制御を奪うなんて、
この僕には赤子の手を捻るより簡単な作業だったよ」
「…それで、貴方をこの世界に呼び戻したのは結局何者なの?」
クジャの話から自分が操られた事を改めて思い出させられたミコトは、言葉の端に僅かに不快感を
滲ませながら訊ねた。
「…世界は潰え去る事を望んではいないんだよ」
「何を言っているの、クジャ…?」
「僕を呼び戻したのは、言わば世界の…!?」
そこまでクジャが言いかけた時、突然辺りに激しい振動と轟音が走り抜けた。
「じ、地震ですか!?」
「いや、違う…。何者かによって攻撃されているのじゃ、このデザートエンプレスが!」
そう話している間も振動は続き、周囲から砂埃が雨のように降り注ぎ始めた。
89◆BilbodqY:02/06/16 08:02 ID:???
「いけない…早く脱出しないとこのまま生き埋めにされるわ…!」
「そうだ、急ごう!」
クジャの先導に従い、ミコトたち3人も慌てて後に続いた。幾つもの廊下と魔法陣を通り抜け、
地上が近づくにつれて、振動と轟音もいよいよその激しさを増していく。
「何者なのじゃ、ここを攻撃しておるのは?」
「誰かは知らないよ。でも、分かる事もある。攻撃しているのは、僕たちを滅却しようと企む、
滅びの意思から差し向けられた刺客に決まっているさ。おしゃべりに少し時間を使い過ぎたよ。
まさか、連中がここまで素早く動くなんて…」
「…! 光が見えてきました!」
4人は、かつてヒルダガルデ1号が繋留されていた飛空艇ドックに差しかかっていた。
「しめた! ここまで来れば外はすぐそこだ! 外にホバー船を用意してあるから、それに乗って
黒魔道士の村に…」
「伏せて…!」
後ろから伸びたミコトの手に、クジャの顔面はしたたか地面に叩きつけられた。
90◆BilbodqY:02/06/16 08:02 ID:???
「何て事をするん…だ!?」
抗議しようとしたクジャの頭上を、蒼白いエネルギーの束が炸裂音を立てながら通り抜けて行き、
今しがた4人が通って来た廊下に突き刺さった。次の刹那、眩いばかりの閃光と共に爆音が轟き、
廊下は瓦礫の山と化していた。
「何と言う破壊力じゃ…。もう少し脱出が遅れていたら、私たちもあの中で…」
「どうやら、刺客はすぐ外にいるようだね。用心しながら近づいてみよう」
顔に着いた泥を払いながら、クジャはドックの開口部に近づいて行った。他の3人も後に続く。
「あれは…?」
エリンが疑問の声をあげた対象、クジャの言うところの滅びの意思からの刺客は、人間ではなく、
それどころか、彼女知るどんな魔物にもまるで似ていなかった。蟹と昆虫を混ぜ合わせたような
金属質の体を持ったそれは、4本の足でその巨体を支え、ギチチギチチと不快な音を立てながら
ドック開口部付近を忙しなく動き回っていた。
「オメガ…」
そう呟いたミコトの背に、冷たい戦慄が走り抜けた。
91◆BilbodqY:02/06/16 08:03 ID:???
「オメガじゃと? あの化け物が何か知っておるのか、ミコト?」
「ええ…。フライヤ、貴女は4つのカオスの事は覚えている?」
「ああ。そこにいるクジャが、記憶の場所で私たちに差し向けた魔物じゃ」
非難するような眼差しを向けるフライヤに、クジャは苦笑いで応えた。
「クジャから聞いたと思うけど、カオスは、クジャがクリスタルの記憶から呼び起こした遥かな
世界の魔物だったわ…。そして今度の戦争では、ジタンも同じような手段で戦力を作っていたのよ。
クリスタルの中に眠る、既に失われてしまった文明の記憶から、様々な兵器の知識を引き出して、
黒魔道士の村の特別技術陣に研究させていた。その成果が、大戦艦であり、魔導アーマーであり、
バブイルの巨人だった…」
「では、あの機械めいた魔物も、その成果とやらのひとつなのか?」
「少し違うわ…。滅び去ったロンカ文明の生み出した自律型最終兵器オメガ──あの呪われた遺産の
強大過ぎる力を制御するだけの技術は、テラの技を受け継ぐ黒魔道士の村の特別技術陣の力を持って
しても、どうしても作り出す事ができなかった。である以上、オメガを建造するという事は、純粋に
無軌道な破壊者をガイアに放つ事と同義だった…。結局、オメガに関する全計画は凍結されたわ」
92◆BilbodqY:02/06/16 08:31 ID:???
「ならば、あそこにいるオメガは…」
「クジャの言う通り、敵が差し向けた刺客だとするなら、敵はオメガを作り出し、且つそれを自在に
制御するだけの技術を持っている事になる…。つまり、ジタンが持つ技術以上の超技術を」
「そんなものは、滅びの意思の持つ力のほんの一端に過ぎないよ」
クジャが意地の悪い笑いがこもった声で、背後からそう囁いた。
「そんな事より、あの怪物は僕たちの力でどうにかできるのかい?」
「きちんとした準備を用意できれば多分…。でも、武器だけで、あとは身ひとつの今の私たちでは、
正直、かなり難しいと思うわ…」
ミコトは小さく溜息をついた。
「そうか…。なら、逃げるしかないね。外に出たら、西に20分くらい歩いてくれ。ホバー船が
岩陰に隠してあるから、そこで合流しよう」
「合流…? どういうつもり…」
「僕があいつを引きつけておくから、君たちはその間に逃げろって事だよ」
気楽な調子でそう言い残すと、クジャは開口部の物陰から飛び出し、オメガの方に突進した。
93◆BilbodqY:02/06/16 08:32 ID:???
「クジャ…!」
「何、心配しなくても大丈夫だよ。僕は空も飛べるし、囮には最適さ」
クジャは手をひらひらと振って答えると、そのまま振り返らず、何やら魔法を使ってオメガへの
攻撃を開始した。敵の存在に気がついたオメガは、先に見せたエネルギー波や実体弾などで反撃
したが、クジャはその言葉通り、ひょいひょいと空を飛び回って器用に攻撃を回避した。
「あの様子では大丈夫そうじゃな。ここはホバー船とやらに急いだ方が良いのではないか?」
「…そうね」
3人は頷き合うと、オメガの注意を引かないように、岩陰伝いにそっとその場を離れ始めた。
一方クジャは、長らく失っていた肉体を取り戻し、久方ぶりに自分の身体能力を思う様に発揮する
機会に恵まれて、幾分高揚とした気分になっていた。
『やれやれ…破滅の意思も手駒不足なのかな。思った程大した敵じゃないね。ミコトは大げさに
考え過ぎだよ。こんなガラクタが相手なら、囮になるどころか、僕独りで勝てそうだ』
そんな事を考えながら飛び回る標的に、オメガは幾発もの誘導ミサイルを発射して来た。その一発
一発がフレア級の破壊力を持っていたが、クジャには子供だましとしか思えなかった。
94◆BilbodqY:02/06/16 08:33 ID:???
「そら…!」
クジャの爆発的な魔力が周囲の空間に解放された。アルテマ──究極の魔法とも言われるその破壊
エネルギーに巻き込まれ、クジャに殺到していたミサイル群は、ことごとく空中で爆発し、周囲は
朦々たる白煙に包まれた。
「花火はそれでお終いかい? フフフ…」
クジャはそう言って笑ったが、煙が晴れた後、周囲に奇妙なエネルギーの輪が展開されているのに
気がついて、その表情から笑みが消えた。
『何だい、これは…? 放って置いたら、少し面倒な事になるかも知れないな』
クジャは慌てて輪の中心から逃れようとしたが、それより早く輪が動いていた。
「う、うわーっ!」
「クジャさ…!」
輪をくぐったクジャの姿は、その場からかき消すように消えていた。クジャの絶叫に振り返った
エリンは、目撃した光景に思わず悲鳴を上げそうになったが、その前にフライヤの手がエリンの
口元に伸び、声が漏れ出るのを防いだ。
「気づかれなかったか?」
フライヤが小声で囁く。
「…大丈夫のようね。早く安全な場所まで退避しましょう」
3人はそれまでより一層気配を殺して、じわじわとその場を離れていった。
95本日分終了 ◆BilbodqY:02/06/16 09:06 ID:???
「あれは一体…クジャさんはどうなったんですか?」
ホバー船の座席に腰を下ろしたエリンは、安堵の溜息をつくと、ミコトにそう訊ねた。
「…私もオメガについて詳しい知識がある訳ではないわ。資料にざっと目を通した事があるだけ
だから。ただ、クジャを消したあの攻撃…あれは確かサークルという名の武装の筈よ」
「サークル?」
「…どんな原理の攻撃か分からないけど、少なくとも命を奪う類の武装ではなかったわ。多分、
何処か遠くへ空間跳躍させられたんだと思う。下手をしたら、別次元辺りに…」
「そんな…」
命を奪う武器でないと知って一度は安心したエリンだったが、その後の言葉を聞いて再び消沈した。
「この問題で私たちに打てる手は何か無いのか、ミコトよ?」
フライヤの質問にも、ミコトは哀しげに首を振るだけだった。
「とにかく今は、当初の予定通りに動くしかないわ…。エリン、この船は操縦できそう?」
「は、はい。何とかやれそうでっす」
やがてホバー船はゆっくりと浮かび上がると、黒魔道士の村に向けて走り出した。
great!!
97◆G93qp0D6:02/06/17 18:35 ID:???
subarasii
期待保守、ガンバ!!
ssss
100へじほ ◆G93qp0D6:02/06/20 21:15 ID:???
hosyu
hozenn
102あぼーん:あぼーん
あぼーん
こんなスレがあったとは・・
保守!!
ho
105◆BilbodqY:02/06/23 10:46 ID:???
「のう、エリン…」
ホバー船の舵を取るエリンに、後部座席のフライヤが声をかけた。
「黒魔道士の村じゃが、防備態勢はどうなっておる? もとより、パック殿下を簡単に救い出せる
とは思っていないが、敵地に乗り込むからには、情報は少しでも多い方がよい」
「すいません…。私はそっちの方の情報はほとんど知らないんです。飛空艇による攻撃を防ぐ為に、
上空に魔導バリアが展開されているのは知ってますけど、今の私たちにはあまり関係ない事ですし…」
「ふむ…。では、ミコト、お主は何か知らないのか?」
「………え?」
ミコトは眠っていた者が起こされた時のごとく、半ば呆けたような声を返した。
「…大丈夫か、ミコト?」
「え、ええ…」
心配そうに覗き込むフライヤに、ミコトは汗顔の思いだった。思い返せば、確かにフライヤに声を
かけられていた記憶はある。しかし、まるで夢の中で聞く声のようにそのまま聞き流してしまった。
注意力がはっきり自覚できる程低下しているのだ。原因は分かっている。これから自分が取るべき
行動が見えず、思考が堂々巡りをしているからだ。
106◆BilbodqY:02/06/23 10:46 ID:???
ジタンによる支配の完成は、ガイアそのものの破滅を招くとクジャは語った。その行為の何が滅びを
引き寄せるのか、遂に理由は聞き出せないままクジャと分かれる結果になってしまったが、ジタンの
行動を許せば終焉が訪れるというクジャの主張を、ミコトは疑っていなかった。同じ特別なジェノム
として双方が持つ精神感応能力の影響なのか、ミコトは本能的な部分でクジャの言葉に嘘が無い事を
確信していた。そうである以上、ジタンの魂を救う為には、彼によるガイア制覇を阻止せねばならぬ
という、クジャの第二の主張も受け入れざるを得ない。しかし、その戦いの中で自分は何をすべきか、
そして何を目指すべきなのかという点についての結論は、考えれば考える程見えなくなっていった。
ジタンによるガイア制覇を単に阻止するだけなら、そう難しい事ではないかも知れない。ガーネット
とエーコという独裁者に苦しめられてきた霧の大陸の住人にしてみれば、ジタンによる今回の宣言は、
所詮は独裁の頂点が変わるだけとしか映らないだろう。そこにパック王子のような指導者が現れれば、
圧制へ不満を持つ者たちは決起するに違いない。そうして戦いを継続するだけなら、クジャやジタン
の後継者として、ガイアに戦乱を起こす為に必要な教育を受けたミコトには造作もない事だ。
しかし、いくらそれがガイアの破滅を遠ざけるからと言って、勝利を目標としない、言わば戦う為の
戦いにも等しい戦乱に人々を駆り立てて行くのは、合理主義的なミコトの目から見ても、あまりにも
残酷だった。そしてまた、ジタンが戦乱を戦い抜けば戦い抜く程、心を虚無に蝕まれて行くところを
見てきたミコトには、果ての無い戦乱が、ジタンの心を押し潰してしまうのではという危惧もあった。
107◆BilbodqY:02/06/23 10:47 ID:???
だから、戦いを終わらせなくてはならない。
その一点においては既に結論は出ている。だが、どう終わらせればいいのだろう? 黒魔軍に拮抗し
得るだけのを軍勢を組織し、諫政的な立場からジタンに撤兵を促がすなり、講和するなりすれば良い
のだろうか? しかし、それで本当にジタンは自分の計画を諦めるのだろうか? 黒魔軍を打ち破り、
遂にはジタンの命を奪うまで戦わねばならないのだろうか? 疑問符で脳内が埋め尽くされるような
気分だった。
「…ホバー船で行けるのはここまでですね」
エリンのいつも通りはきはきとした声に、ミコトは我に返った。またも、自分の思考の中に飲まれて
いたらしい。気がつくと、ホバー船は停止し、目の前には見慣れたマグダレンの森が広がっていた。
その最深部に黒魔道士の村を包み込んだ、外側の大陸では随一とも言える巨大な森林である。
「黒魔道士の村まで、まだ結構距離がありますね。チョコボでも用意できれ良かったんですけど」
「うむ…。しかし、無いものねだりをしていても時間の無駄というものじゃ。歩くしかあるまい」
そう言って先に船を下りた2人に、ミコトも慌てて続いた。
「村の防備の事だけど…」
いつになく静まり返った森の中で、ミコトが思い出したように口を開いた。
108◆BilbodqY:02/06/23 11:03 ID:???
「私の知る限りでは、対人用の特別な防備装置は無かったわ…。魔導バリアのように、飛空艇による
攻撃への防備は幾つか用意されていたけど、地上は警備兵が巡回している程度。この森そのものが、
天然の防壁として大規模な地上部隊の進攻を困難にしているし、いざとなれば、ブラネ女王の時代に
黒魔道士たちが隠れ住んでいた頃に編み出した、幻覚魔法による地形隠蔽術を使う事もできたから…」
「それだけか」
フライヤは拍子抜けしたのか、驚きを隠せない様子だった。
「ガイアで最後に残った大軍勢の本陣の防備にしては、いささか貧弱過ぎるような気がするが…」
「元々黒魔軍は、アレクサンドリアやリンドブルムの巨大な兵力には到底及びもつかない、弱小な
勢力だったのよ…。だからこそジタンは、正面から戦おうとはしなかった。機会に乗じる事でしか
勝ち目は無かったから…。他国から人材を引き抜いたり、新たな技術と兵器を次々に開発させたり、
それもこれも圧倒的な兵力差を補う為の手段だったの」
ミコトは遠い目つきでぽつぽつと語り続けた。
「私たちの戦いは、終わりの無い綱渡りをしているも同然だったのよ…。本陣である村まで敵兵力が
進行してくるような状況になったら、それは即ち敗北と言ってもよかった。ジタンが村の地上防備に
あまり熱心でなかったのは、それが理由だと思うわ」
109◆BilbodqY:02/06/23 11:04 ID:???
「なるほど…」
フライヤは納得したように頷いたが、ミコトは更に話を続けた。
「でも正直言って、村の防備が今どうなっているのかは分からないわ…。あの式典で捕まった時から、
デザートエンプレスで目が覚めるまで、どのくらい眠らされていたのかも分からないし、あそこから
脱獄してここに来る迄にも、既に2日以上も過ぎている…。その間に、ジタンが防備態勢をすっかり
変更してしまったかも知れない。流石にあまり大規模な防備を用意する時間は無かったと思うけど、
パック王子のような重要人物を監禁しているのなら、警備兵の大幅増員は間違いないでしょうね…」
「やっぱり、そう簡単にはいきませんね…」
そう嘆息したエリンの隣で、フライヤは突然緊張の面持ちで立ち止まった。
「フライヤさん?」
「今、近くで気配が…」
その瞬間、彼女たちの足元の大地が爆ぜた。周囲に立ち込める土煙の中から飛び出した無数の節足が
フライヤの体を挟み込んで高々と持ち上げると、続いて煙の中から現れた、不気味な輝きをその中に
明滅させた黒い口が、耳障りな甲高い鳴き声を周囲に轟かせた。
「うぐ…」
節足が激突した衝撃で臓器を痛めたのか、フライヤの口の端から真紅の滴りが零れ落ちた。
110◆BilbodqY:02/06/23 11:04 ID:???
フライヤを襲ったのは、百足を戯画化したような奇怪な怪物であった。生物として大切な何かが欠如
しているが、それでいて機械のような無生物とも明らかに違う、異次元的な別種の生命を感じさせる
形態をしたその魔物は、挟み込んだフライヤの体をギリギリと締め上げ続けた。
『いかん…このままでは…』
生命そのものが抜け落ちていくような身を切るような冷たい感覚に、フライヤはぞっと身震いした。
最早、触腕から逃れるだけの体力が残っていない事を悟ったフライヤは、精神を集中させ、表層的な
苦痛を意識から切り離すと、体の深奥に蓄積された竜の気を解放した。
最高位に達した竜騎士のみが初めて行使できるという秘奥義、竜の紋章。倒した竜の生命力を自らに
取り込み、己が力とすると言われる神秘の技であった。
轟音と共に大地から噴出したエネルギーの奔流が百足に突き刺さる。エネルギーの圧力に耐え切れず、
次々に甲殻に走った裂け目から、嫌な臭いのする緑灰色の体液が迸った。しかし、その苦痛に身悶え
したものの、百足の奇怪な生命力は未だに健在だった。技の持つ潜在力を完全に引き出す事が可能な
フライヤ程の使い手が放つ竜の紋章なら、通常の生物ならまず一撃で屠るだけの威力を持っている。
相手の尋常ならざる生命力に、フライヤは再び戻って来た苦痛と共に舌打ちした。
111◆BilbodqY:02/06/23 11:25 ID:???
「このっ…! フライヤさんを放しなさいッ!」
澄んだ金属音が、一瞬途切れそうになったフライヤの意識を繋ぎ留めた。重い瞼を無理矢理開くと、
エリンが両手で構えたトリトンハンマーを、百足の外殻にガンガンと振り下ろしているのが見えた。
クジャが語ったように、その破壊力は凄まじく、エリンがハンマーを打ちつける度に、見るからに
堅牢な百足の外殻は、心地良い硬質な響きと共に粘土のようにひしゃげていった。それと同時に、
フライヤを締めつけていた触腕も次第次第に緩み始める。
しかし、そんなエリンの猛攻も、フライヤの救出にまでは至らなかった。エリンの戦士としての実力
は、一流と言っても差し支えないだけのレベルには十分達している。だが、人の限界を越え、正しく
超人の域にまで達したフライヤですら苦戦する相手の前では、一流という言葉も空しいだけだった。
絶え間なく続くとすら見えたエリンの攻撃のほんの僅かな隙を突いて、百足の触腕がエリンの腹部を
強打したのだ。式典の日、万が一の用心にとセーラー服の下に着込んでいた黒装束が無かったら、
内臓破裂で即死しかねなかった程の衝撃を受け、エリンの体は数メートルも後方に弾き飛ばされた。
「エリンッ…!」
フライヤの悲痛な声が響く。邪魔者を退けた百足は、再び生贄を締めあげる触腕に力を込め始めた。
この上更に触腕による圧搾を受ければ、それに耐えるだけの生命力は既に残されていまい。フライヤ
の顔に焦燥の色が浮かんだ。しかし、いつまで待っても覚悟していた圧力はやって来なかった。
112◆BilbodqY:02/06/23 11:26 ID:???
「蔦地獄…」
ミコトが口にした言葉通り、百足は緑の地獄に捕らえられていた。周囲の木々に絡み付いていた蔦が、
さながら蛇のようにうねくりながら、百足の触腕、そして本体をも、金属の鎖にも勝る強靭な拘束力
で縛り付けていたのだ。歴戦のフライヤも聞いた事が無い不思議な術だったが、蔦がミコトの意思に
操られている事は間違いが無い。その特殊能力を示すかのように、次にミコトが片手を上げた時にも
周囲の自然は彼女の指揮に応えた。
「…ブランチスピア」
辺りに密集した数十もの木々から、枝がひとりでに千切れ飛んだ。空を裂く飛槍と化した無数の枝は、
まるで狙いすましたかのように、フライヤとエリンの攻撃で生じた外殻の裂け目に吸い込まれて行く。
堪らず、百足は奇怪な悲鳴を発した。それは、最後の機会の到来をフライヤに告げる鐘でもあった。
半分以下に弱まった触腕から残された力を振り絞って抜け出したフライヤは、そのまま百足の顔面を
踏み台に、竜騎士ならではの超人的な跳躍力で飛び上がった。密集した小枝をベキベキと砕きながら
森林の上空まで到達したフライヤは、眼下に広がる緑の隙間に垣間見える、内側に無数の光点が輝く
百足の奇怪な黒い口を目掛け、自らの肉体をも脇に構えた槍の一部と化して突撃した。
113◆BilbodqY:02/06/23 11:27 ID:???
森に、再び静寂が戻って来た。
「…大丈夫?」
「あ、はい」
一瞬、きょとんとした表情で自分の体に起こった変化に驚いていたエリンは慌てて頷いた。ミコトの
繊手から伝わって来る柔らかな白い輝きが患部に染み込むと、打撲の痛みが何の残滓も残さずふいと
消え去る。何の事はない、単なるケアル系回復魔法だが、その治癒力の高さにエリンは目を見張った。
痛みが跡形も無く消滅する瞬間には奇妙な爽快感さえ感じられ、生来楽天的なエリンは、先の激闘で
感じていた緊張を早々に忘れ去り、この感覚は癖になるかも知れないなどと呑気な事を考えていた。
ミコトの魔力の高さが支える圧倒的な治癒力は、ほとんど全ての力を使い果たしていたフライヤが、
既に歩き回って、いつもと変わらぬ様子で百足の死骸を調べている事からも窺えた。
「この化け物…こやつは、やはり霧の魔獣だな」
「フライヤさん、御存知なんですか?」
「一応はな…。私も詳しい事は知らぬ。元々は、クジャが魔力を使って霧から作り出した魔物だと、
そうジタンから聞いた。勝手に増殖したのか、クジャが新しく作ったのかは知らんが、ガイア全域が
霧に覆われた時には世界中いたる所に姿を見せおってな。私も何度か戦った事がある」
114◆BilbodqY:02/06/23 11:45 ID:???
「霧の魔獣は、霧が晴れたあの日を境にガイアから姿を消した筈…生き残りが地中に潜んでいたの?」
ミコトは魔獣の死骸に訝しげな視線を向けた。
「いや、同じ霧の魔獣と言っても、こやつは、世界が霧に覆われていた頃に出没していたものよりも
遥かに強大な力を持っておった。形態にもかなり違う部分がある。単なる生き残りではあるまい…」
「新種…」
ミコトのその呟きと共に3人は沈黙した。そう、確かに新たに生み出された新種であるというのが、
最も納得の行く推測であった。では、誰が新たな霧の魔獣を作り出したのか? それを可能とする
力と動機を持つ人物は、1人をおいては他に無い。
「迂闊だったわ…。森全体のこの不自然な静寂。元々の動物相は、既に追い散らされていたのね」
「くっ、これが防備の強化という訳か。ジタンめ、何という事を!」
「とにかく、あんな怪物がうようよしているなら、村にたどり着くのも簡単じゃないですね…」
エリンの言う通りだった。あれだけの戦闘力を持った怪物が間断無く襲撃して来るであろう大森林を
踏破しようと試みるのは、彼女たち3人の実力を持ってしてもあまりに危険な、いや、ほとんど無謀
とすら言える行為であろう。3人は深刻な表情で顔を見合わせた。
115本日分終了 ◆BilbodqY:02/06/23 11:47 ID:???
ミコトたち3人が森の入口付近で霧の魔獣と戦っていたのとほぼ同じ時刻、マグダレンの森の更に奥、
より黒魔道士の村に近い場所で、別の3人組が、やはり別の霧の魔獣と対峙していた。
土煙を立てながら凄まじい速度で突進して来る魔獣を、狙われた男は、何処か炎の揺らめきにも似た
流れるような動きで、難無くかわしてみせた。いや、単に回避しただけではなかった。すれ違い様に
魔獣の節足のひとつの、節と節との繋ぎ目に鋭く抉り取っていたのだ。その一撃で突進の衝撃と自重
を支えきれなくなった節足が、音を立てて千切れ飛ぶ。その結果、本体を支えていた微妙なバランス
にまで狂いが生じ、霧の魔獣は派手な音を立てつつ転倒した。そして男は、自ら計算して作り出した
隙を決して見逃しはしなかった。雄叫びと共に、剥き出しになった魔獣の柔らかな腹部へと男の拳が
次々に突き刺さる。起き上がろうともがいていた魔獣の節足の動きがほとんど狂気じみた速度にまで
高まったが、その虚しい抵抗も、ほんの僅かな間の事で、魔獣の痙攣はあっけなく停止した。
「やれやれ、何で巡回くらいでこんな危ない目に合わなくちゃならねーんだろうな」
離れた場所で戦いを静観していた男が、4本の腕を組みながら不満気にそう漏らした。
「お前は何もしてないだろうが。それより、ひとまず村に戻ろうぜ」
「ああ…」
第3の人物、背嚢を背負ったモーグリに声をかけられ、たった1人で魔獣を倒した焔色の髪の男は、
興味無さげに頷いた。かつてジタンからエクスカリバーIIの奪取を依頼され、今また黒魔道士の村の
警備を務める者たち──ギルガメッシュ、スティルツキン、そしてサラマンダーが彼ら3人の名だった。
hosy
 
hoayuhosypdr
119◆BilbodqY:02/06/30 17:49 ID:???
柔らかな心地良い木漏れ日の中を、清新な緑の香りに彩られた涼やかな風が通り過ぎて行く。
小川のせせらぎを遠くに聞きながら、ギルガメッシュとサラマンダーの2人は、丸太造りのベンチに
腰を下ろして黙々と武器の手入れに勤しんでいた。
世界中の勢力を巻き込んだ大戦の中、ここ黒魔道士の村は、各陣営の本国としては唯一、外敵からの
攻撃を一切受けなかった場所であった。半ば廃墟と化したアレクサンドリアやブルメシアとは違い、
まるで戦争など無かったかのような牧歌的な風景が広がっている。無論、攻撃を受けなかったからと
言って、この村に戦争の影響がまったく無かったという訳ではない。単なる倉としか見えない建物も、
その実は、テラの技術による空間を制御によって、外観からは想像もできない広さを内側に持つ巨大
兵器庫であったりするし、村の地下の広大な空間には、様々な技術が開発される世界最大の研究設備
が設けられていた。
大戦の最初期には、村から少し外れた場所に効率第一の設計思想に基づいた無骨な工場群が建造され、
景観を損ね、環境を汚染しながら戦力生産を急いでいた時期もある。そこに訪れたベアトリクスが、
工場を村そのものと誤解して、話に聞いた村の様子との違いに愕然とした事もあった。しかし、その
工場群も今は停止し、数々の設備には分厚くほこりが積もっている。
黒魔道士の村は、少なくとも表面上は、昔通りの牧歌的な姿を維持していた。敵対勢力からの間者の
目を欺くという名分はあったが、本質的な理由は、指導者であるジタンが、空間制御のような高度な
テクノロジーをわざわざ投入してまでも、変わらぬ村の姿の維持に執着したというのが一番大きい。
120◆BilbodqY:02/06/30 17:50 ID:???
とまれ、黒魔道士の村の平穏な光景は、自分が武器など触っている事に奇妙な違和感を感じる程で、
ギルガメッシュはボロ布で剣の汚れを拭いながら、しきりに首を捻った。
「あ、あの…ご飯です」
そう声をかけられてギルガメッシュが顔を上げると、何人かの黒魔道士とジェノムが、湯気の立つ
パンが詰まった籠や料理が盛られた皿を持って立っているのが目に入った。
「おう、わざわざ悪いな」
そう言いつつ食器を受け取ったギルガメッシュは、上機嫌でパンにバターを塗り始めた。
「しっかし、スティルツキンのヤツ、昼飯だってのに何処で油を売ってやがるんだ?」
スティルツキンの姿を求めて辺りをキョロキョロと見回したギルガメッシュは、食事を運んで来た
村人の中に意外な顔を見つけて口笛を吹いた。
「へえ…あんたが食事当番だなんて、ちょっと驚いたぜ」
それは、ギルガメッシュたちがエクスカリバー2の探索に当たっていた時、彼らが使った飛空艇の
乗員として同行していた銀髪の女ジェノムだった。
「我、戦闘用試作型…。戦争終結後、行動指針喪失…」
「この子は戦いが終わってする事はなくなっちゃったんだ」
「だから、何でもやってみて、やりたい事を見つけられたらと思って」
困ったような顔になった銀髪のジェノムの後を引き取って、一緒にいた黒魔道士たちが答えた。
121◆BilbodqY:02/06/30 17:50 ID:???
「ふんふん、それで料理当番をね…。いやあ、大いに結構だと思うぜ。戦う為に作られたからって、
戦いだけやってなくちゃいけねえって事は無いわな」
「行動指針不鮮明、難解…」
「難しく考える事はねえ。黒魔道士の兄ちゃんたちが言う通り、何でもやってみて、感じたままに
行動すりゃあいいのさ。どうだい、次は、男と女の関係を試してみるってのは?」
そう言って抱きつこうとしたギルガメッシュから、銀髪のジェノムはすっと身をかわすと「別機会、
考慮」と言い残して踵を返した。行き場を失ってバランスを崩したギルガメッシュが、派手な音を
立てつつその場に転倒しする。クスクスと笑いながら立ち去って行く他のジェノムや黒魔道士たちの
背中を恨めしげに見送りながら、ギルガメッシュはエールのジョッキをあおった。
「やれやれ、何やってるんだ、お前は」
声のほうに振り返ると、通りの向こうからスティルツキンが歩いて来るところだった。
「う、うるせえよ。お前こそ、何処で遊んでやがったんだ」
「別に遊んでた訳じゃない。支度をしてたんだ」
そう言ってスティルツキンは、膨らんだ背嚢をぽんぽんと叩いて見せた。
「ん? どうしたんだ、そんな格好して。次の定時巡回はまだ先だぜ?」
「巡回じゃない。俺はここから出て行くんだ」
122◆BilbodqY:02/06/30 18:05 ID:???
スティルツキンの思いがけぬ言葉に、ギルガメッシュは目を丸くした。
「な…突然、何を言い出すんだよ。冗談だろ?」
「いや、本気だ」
「ど、どうしてだよ? ここは飯も美味いし、空気も綺麗だ。この御時世、世界中何処に行っても
ここよりいい場所なんて無いぜ。金だって、ジタンの旦那からしこたま貰ってるじゃねえか」
「そのジタンが問題なんだよ」
スティルツキンはそう言って溜息をついた。
「例の式典からこっち、どうもあいつの様子がおかしいってのはお前も気がついてるだろ?」
「世界中の国から自己統治権を取り上げたアレの事か? でも、旦那が言った通り、他の国の連中が
ガーネットやエーコを止められなかったってのは本当じゃねえか。旦那が圧政でみんなを苦しめてる
ってなら話は別だけど、実際にはそうじゃねえ。そりゃ捕まった連中は気の毒だけど、旦那が世界を
治めた方が、みんな前よりいい暮らしができるんじゃねーのか?」
「ま、お前の言う事に一理あるのは認めるぜ」
ステイルツキンは肩をすくめた。
「珍しい話だが、今回ばかりはお前の言う事の方が筋は通ってると思う。でも、俺はもっと別な部分、
心のずっと深い場所でジタンを信じ切れないんだよ。これでもう世界は安心だって気にはどうしても
なれないんだ。俺だけじゃない、みんなが漠然と不安がってる気がするんだよ。この村もな」
「ここが? この村は俺たちが来た時から、ずっと平和でみんなが安心してるじゃねえか」
123◆BilbodqY:02/06/30 18:06 ID:???
「確かに平和だよ。でも、俺たちが来たばかりの頃、例の式典の話が聞こえて来る前、パック王子が
ここに護送されて来る前と比べたら、やっぱり何処かにぎこちなさが滲み出てるぜ。お前は全然気が
つかなかったのか?」
「そ、そりゃあ、俺だって少しは…。でもよ、時間が立てばみんなだってもっと落ち着くだろ?」
「確かにそうかも知れないな。だけど、ここはジタンのお膝元。世界中の何処よりもジタンを信じて
いる連中の本拠地だぜ。そんな場所にしちゃ、みんなの不安は大き過ぎるんじゃないか?」
「………」
「お前の言う通り、ジタンは上手く世界を治めていくかも知れないし、そうすればみんなの不安感も
いつかは落ち着くかも知れん。でも、俺はあいつを信じ切れないんだ。だから、少し離れた場所から、
あいつのやる事を見守る事にした。ジタンには、お前から適当に言い訳しといてくれ」
「そ、そんな事を言われても…」
スティルツキンは4本の腕を振って抗議するギルガメッシュを無視して、2人のやりとりを黙って
見ていたサラマンダーに声をかけた。
「サラマンダーよ、お前はどうする?」
「俺か…」
元々口数が多い方ではなかったサラマンダーだったが、エクスカリバー2の探索が終わってからは、
その寡黙さに一層拍車がかかっていた。久々にサラマンダーが口を開いた事に驚いたギルガメッシュ
はスティルツキンに抗議するのも忘れて黙り込んだ。
124◆BilbodqY:02/06/30 18:07 ID:???
最初から絶望しているより、一度希望を与えられてから絶望に叩き落された方が打撃は大きい。
サラマンダーに取って、ラニの一件がそれだった。ガーネットから派遣された刺客ゾーンとソーンの
姦計にはまり、相棒であったラニを自らの手にかけてしまったサラマンダー。その復讐に、ゾーンと
ソーンを倒したものの、全ての元凶であるガーネットには力及ばず敗れ去った。心身ともにボロボロ
になったサラマンダーを拾ったのは、ジタンの命を受けて彼に接近したギルガメッシュだった。
かくてクジャとの戦い以来の共闘関係がジタンとサラマンダーの間に結ばれ、サラマンダーはジタン
からの依頼を引き受け、エクスカリバー2の探索に乗り出す事となったのである。
その契約の時、ジタンはラニが甦った事を告げ、そして自分がラニを守ってみせると約束した。
しかし、その約束は果たされなかった。
エクスカリバー2を持ち帰ったサラマンダーを待っていたのは、ラニではなく、彼女の再度の死を
知らせるジタンだった。元々、ラニが甦ったという話を頭から信じていた訳ではなかった。いっそ、
ラニの復活が全くの出鱈目であったなら少しは気が楽だったかも知れない。だが、ジタンに詰め寄り
無理矢理奪い取ったモグネットからの報告書が、ラニの復活と2度目の死のいずれもが事実であると
証明していたのだ。その残酷な事実に、サラマンダーは己の感情全てが麻痺するような気持ちだった。
約束を破ったジタンへの怒りすらも湧いてこなかった。結局ラニの死が、ジタンの手の届かない場所
で起こった半ば彼女自身の責任とも言えるものだった事も、サラマンダーの虚しさを一層増大させた。
125◆BilbodqY:02/06/30 18:21 ID:???
こうしてサラマンダーは無気力無感動の人形のような状態に陥った。最後まで残っていた激情である
ガーネットへの復讐心も、既にガーネットがエーコに倒された状況ではその行き場を失い、かえって
心の虚しさを強めるばかりだった。そんなサラマンダーを見かねてか、ジタンは新たな仕事を用意
した。それが黒魔道士の村の警備であった。
黒魔軍の中でも極一部のものしか知らなかったのだが、村の防備強化策として、マグダレンの森には
大戦の早い段階から霧の魔獣が大量投入されていた。聖属性を嫌うその性質を利用し、村そのものと
決められた林道には魔獣を近づけないための細工が施されていたが、村程強固に守られていない林道
の方には、時に暴走した魔獣が出没する事があった。それを見つけて、排除する事がサラマンダーら
3人に与えられた仕事だった。
ひたすら、戦い続けるだけの日々。厭世的な気持ちがそうさせるのか、サラマンダーはまるで生と死
の境を弄ぶかのように、自ら危険な地域に踏み込んで戦いに身を投じる事さえあった。戦い続ける事
で、技と力はいたずらに膨れ上がり、ただ強くある為だけに強さを求めた、ずっと以前の精神状態に
戻っていく事をサラマンダーは自覚していた。
しかし、その悪夢のような戦いの日々は、サラマンダーに取っては再生の儀式だったのかも知れない。
少なくとも、今のサラマンダーには己の現状を自嘲するだけの感情が戻ってきていた。深い迷いの中
を彷徨う我が身と比べ、戦う為に作られたが故に指針を失いながらも、新たな道を模索していた銀髪
のジェノムを羨ましいと感じる事もできた。それが狙い通りの効果だったとしたなら、ジタンが今の
仕事をサラマンダーに与えたのは、荒療治ながらも正解だったと言えるかも知れない。
126◆BilbodqY:02/06/30 18:21 ID:???
「俺はここに残る」
サラマンダーの返事にスティルツキンは肩をすくめた。
「お前はジタンを信じてるのか?」
「いや、どちらでもいいからだ…。お前の言うように、漠然とした不安感のようなものが村に漂って
いるのは俺にも分かるが、だからどうこうしたいという気持ちにはなれん。ジタンが世界の救世主に
なろうが、ガーネットたち以上の暴君になろうが、俺には関係無い…」
そう言いながら、サラマンダーは磨き上げたルーンの爪を右腕に装着した。
「ただ、こうやって戦っているうちに、俺には見えなくなっていたものが、また少しずつ見えてきた。
だから、俺はここに残って戦い続ける。いずれもっとはっきり見る事ができるかも知れないからな」
「そうか…。確かにお前にはここでの戦いが必要だったかも知れない。でもな、サラマンダー。今の
お前にも、ただ戦うだけの日々が本当に必要なのかもう一度考えてみてくれ。昔、無目的に戦うだけ
だったお前は、ジタンたちと一緒に戦って変わったんだろ? 今のお前に必要なのはもう戦いの為の
戦いじゃなくて、もっと別な何かだと思うぜ。言っちゃ悪いが──今のお前は逃避してるようにしか
俺には見えんよ」
「逃避、か。そうかもな…」
スティルツキンの指摘に、サラマンダーは自嘲的な苦い笑みを浮かべた。
「ま、今すぐ答えを出せって訳じゃない。ただ、何をしたらいいのか、もう一度考えてみてくれって
事だ。それじゃ、俺はそろそろ行くぜ。次に会う時までには何でもいいから答えを出してろよな」
127本日分終了 ◆BilbodqY:02/06/30 18:22 ID:???
サラマンダーに別れを告げたスティルツキンが林道の奥に姿を消すのを見て、ギルガメッシュの焦り
は最大限に高まった。スティルツキンの失踪をジタンに報告するという、どうにも嬉しくはない立場
に立たされる事への恐れと、純粋な友情の両方が、このままを行かせてはいけないと命令していた。
「おい、サラマンダー! 何をボーッとしてるんだよ。スティルツキンを止めようぜ!」
「ヤツにはヤツの考えがあるんだろう。好きにさせてやれ」
「で、でもよぉ、ここまで一緒にやってきて、いきなりおさらばってのは薄情過ぎるだろ。それに、
今あの森を1人で歩くのは危険過ぎるぜ!」
それは確かにギルガメッシュの指摘通りだった。外部からその縄張りを侵す者でも現れたのか、ここ
数日、霧の魔獣の暴走件数はかなりの増加を見せていた。スティルツキンがかなりの実力者である事
は確かだが、1人で霧の魔獣と戦えば、いかなスティルツキンと言えども命を落としかねない。
サラマンダーは仕方がないといった表情で林道に歩き出し、ギルガメッシュもその後に続いた。
急いで追いかけないとスティルツキンを見失うかも知れないと危惧していたギルガメッシュだったが、
その心配は杞憂に終わった。スティルツキンは、村の入口に近い場所でじっと立ち止まっていた。
慌ててギルガメッシュが声をかけようとする前にスティルツキンが口を開いた。
「気配が…」
「ああ…。そことそこと、それからそこだ。出てきな。隠れても無駄だ」
「我ら3人の気配をその位置まで正確に読み取るとは、更に腕を上げたようじゃな、サラマンダー」
そう言って姿を見せたフライヤの脇を、その背後から現れたミコトとエリンがしっかりと固めた。
保守
またーり逝こう
おもしろあげ!!
保守
応援します
133◆BilbodqY:02/07/08 00:43 ID:???
「あんたたちか…」
スティルツキンの眉がピクリと上がった。
「よくあの森を抜けられたもんだな。正しい道はあんたも知らないと思っていたが」
問いかけるような眼差しを向けてきたスティルツキンに、ミコトは懐から極彩色の尾羽のような何か
を取り出して無言で突き出した。
「フェニックスの尾か?」
「そうじゃ。確かにこの森は3人で抜けるのは普通なら無理であったろう。じゃが、そこのミコトが
この森に巣食っておる霧の魔獣──連中が普通の生物でないと、端的に言えば亡者の一種である事に
気付いてな。コンデヤ・パタまで足を伸ばし、亡者が苦手なフェニックスの尾を大量に仕入れて来た
という訳よ」
「なるほど。ここの警備にそんな弱点があったとはな」
ヒューッと口笛を吹いたスティルツキンにギルガメッシュが慌てて声をかけた。
「感心してる場合じゃないぜ、スティルツキン! こいつらは確か、例の式典の時にジタンの旦那に
逆らって捕まった筈じゃねえか。それが何だってこんなところに…」
「愚問だな。捕まった連中が自由に歩き回ってるって事は、要するに脱走したからに決まってるだろ。
逃げた後、わざわざここに来たのは、パック王子が目的なんだろうな」
134◆BilbodqY:02/07/08 00:43 ID:???
「ハハハ、流石に世界中を旅していただけあって事態の飲み込みが早いのう。確かギルガメッシュと
言ったか…おぬしも少しはスティルツキンを見習った方がいいぞ」
揶揄するようなフライヤの声にギルガメッシュは小さく舌打ちした。
「クッ…それじゃあんたら、監獄破りに来たって事か」
「いかにも。そしておぬしらは、そのような手合いを阻止する警備の者という訳じゃな?」
「まあ、そういう事になるな。もっとも、俺はついさっき辞めさしてもらったが」
「…辞めた?」
スティルツキンの言葉にミコトは不思議そうに首を傾げた。
「ああ。俺はジタンのやり方について行けなくなった。その点ではあんたらと同じだな」
「なら、私たちと一緒に…」
勢い込むエリンに、スティルツキンは首を振って答えた。
「いや、あんたらと同じなのはジタンについて行けなくなったって事だけだよ。あんたらが最終的に
何を目指すのか? 実際に何をできるのか? そういう事が見えてない今の段階じゃ、こう言っちゃ
悪いが、信用できないって事に関しちゃジタンもあんたらも同じなのさ。俺はあくまで傍観者だよ」
「ふむ…。慎重さは美点にも欠点にもなり得るが、確かに今の我らにおぬしの疑念を払拭するだけの
実績が無いのは確か。おぬしが傍観者に徹するのも仕方があるまい」
フライヤは溜息をついた。
「スティルツキンの事はそれでいいとして…おぬしらはあくまでジタンに従って我らを阻むのか?」
「え…? そ、そりゃ…どうする、サラマンダー?」
微妙に後退しつつギルガメッシュは訊ねた。ギルガメッシュが問題を少しでも先送りにしようとして
そう聞いたのなら、その判断は間違っていたと言わざるを得ない。
「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさとかかって来たらどうだ?」
「これ以上かつての仲間と刃を交えたくは無かったが、こうなれば是非も無い」
闘争の意思を剥き出しに身構えたサラマンダーを見て、フライヤもそれ以上の交渉は諦め、ランス・
オブ・カインの穂先でサラマンダーに狙いをつけた。
「あああ、なんてこった…って、え!?」
「えーいっ!」
いきなりの戦闘状態突入に動揺するギルガメッシュの頭上から、空気を引き裂く音と共に鈍く輝く塊
が振ってきた。ギルガメッシュも一応は名の知れた冒険家だけの事はあり、まともに喰らう事だけは
咄嗟に回避したが、兜の飾りが金属質の甲高い音を立ててへし折られる事までは防げなかった。
「惜しい…」
「クッ…この源氏の兜は、手に入れるのにえらく苦労したレアものだったのに…」
トリトンハンマーを両手で構えたエリンと、飾りが折れた兜を撫でるギルガメッシュは、それぞれの
理由で悔しさを顔に滲ませながら、お互いに睨み合って相手の動きを牽制した。
>>135
> 今回は少しだけでスマソ
いやいや、何年でも待ちますので(w
頑張って下さい!
保全
保守?
139名前が無い@ただの名無しのようだ:02/07/09 16:09 ID:xKFl2TL6
保守
応援保守
保全
142名前が無い@ただの名無しのようだ:02/07/12 16:52 ID:Kzb/YCf6
浮上
コソーリ応援&期待・・
保守
保全?
146名前が無い@ただの名無しのようだ:02/07/16 16:23 ID:c3QcEvg2
age
保守
148名前が無い@ただの名無しのようだ:02/07/17 09:52 ID:RBojcGYY
BilbodqYは神だな
アレ許みたいなのってFFXでもあったのかなあ?
>>149
無いと思う
151◆BilbodqY:02/07/17 21:56 ID:???
次の日曜日には何とか…。
>>151
まあそう焦らんと下さい
またーりいきましょうや
153名前が無い@ただの名無しのようだ:02/07/18 17:51 ID:jqdIGekQ
age
154名前が無い@ただの名無しのようだ:02/07/19 19:33 ID:A20S9jMs
応援の意を込め保守
保守をかねつつage
保守
157◆BilbodqY:02/07/21 13:02 ID:???
「本気で行くぜ!」
ギルガメッシュはそう叫ぶと、4本の腕で刀や剣といった複数の武器を同時に振り回しながら
エリンに躍りかかった。数人がかりでの攻撃にも等しい激しい連続攻撃であったが、
戦闘の地力そのものに差があるのか、エリンは繰り出される攻撃を尽く受け切って見せた。
とは言え、トリトンハンマーが攻撃を受け止める金属音はほとんど絶え間無く響き続けており、
エリンの側としてもギルガメッシュに反撃する機会をどうしても掴めずにいた。
かくして2人の戦いは、ほぼ互角の状態を維持したまま、どちらかの集中力が尽きて
隙が生じるのを待つという、持久戦の様相を呈しつつあった。
エリンとギルガメッシュが激しく撃ち合うのとは対照的に、フライヤとサラマンダーは
身構えた姿勢のまま睨み合うばかりで、お互いにピクリとも動こうとしなかった。
2人がいる、ほとんど究極とも言える戦闘レベルにおいては、僅かな隙が死に直結する。
このクラスの戦闘者同士が戦う時、無闇に攻撃を繰り出す事はほとんど自殺行為も同然であった。
攻撃範囲という点においては、槍を使うフライヤの方が有利であろう。しかし、最初の一撃で
相手を仕留め切れずに、一度懐に飛び込まれたなら、フライヤには万に一つの勝機も無い。
接近戦では槍の長さが逆に仇となり、サラマンダーの殺人拳が悠々とフライヤの命を奪うであろう。
そしてフライヤには、余程決定的な好機が無ければ、今のサラマンダーを一槍で仕留めるだけの
自信は無かったのである。
158◆BilbodqY:02/07/21 13:02 ID:???
フライヤは、竜技という槍以外の攻撃手段も持っていた。
その奥義とも言える竜の紋章なら、槍より更に広い間合いで攻撃を繰り出す事ができる。
しかも、その攻撃を回避する事は魔法と同様に事実上不可能であった。
殺傷力という観点から見ても、フライヤ程実戦を重ねた竜騎士が放つ竜の紋章なら、
あるいはサラマンダーを一撃で倒す事も不可能ではないかも知れない。
しかし、サラマンダーには彼が独自に編み出した生命力制御技術があった。
その技法の1つ、オーラという技を用いれば、仮に瀕死の状態に追い込まれようとも
たちどころに戦いを続行できる状態にまで回復する事ができる。
竜の紋章を放った直後にサラマンダーのオーラが発動したなら、
フライヤの側に致命的な隙が生じる事は避けられない。
そして竜の紋章の長い予備動作は、サラマンダーに相手の攻撃の正体を悟らせ、
対抗手段としてオーラを使用するには十分過ぎる時間を与えるものだった。
滞り、空間に飽和した殺気で、空気そのものがねっとりとした感触を持ったようだった。
その不快で重苦しい静寂がどれくらい続いたのだろうか。
均衡を打ち破り、静から動に転じたのはサラマンダーであった。
159◆BilbodqY:02/07/21 13:03 ID:???
「ふん…こうやって隙を探り合う緊張感も悪くは無いが…」
空気が割れるような炸裂音が轟いた。サラマンダーが大地を蹴り、死の風と化して突進したのだ。
「そろそろ飽きた。終わりにさせてもらうぜ!」
「ぬぅっ!?」
フライヤの瞳が驚愕に見開かれた。
無謀な攻撃が死に直結するこの状況でサラマンダーが動いた事に。
そして何より、その無謀としか思えぬ連続攻撃に反撃する事ができない自分に。
サラマンダーの攻撃は無造作な乱打としか見えなかった。
しかしフライヤは、その中にほとんど何の隙を見つける事ができず、辛うじて見出した隙にも、
防御する事が精一杯で反撃する余裕などまるで無かった。
この事実は、今のサラマンダーの実力が、フライヤの遥か上に位置する事の証左であった。
エリンとギルガメッシュ、そしてフライヤとサラマンダーという2つの戦いの趨勢を、ミコトは
一歩下がった場所から見守っていた。いざ味方が不利となれば、すぐにも援護できる態勢である。
いずれの組み合わせも敵味方の実力がほぼ互角との判断故に選んだ戦術であったが、
それはつまり、フライヤ同様、ミコトもサラマンダーの実力を見誤っていたという事でもあった。
160◆BilbodqY:02/07/21 13:27 ID:???
サラマンダーの実力が明らかになった以上は、すぐにでもフライヤを援護したいところであったが、
今の状態で下手に戦闘に介入しようものなら、逆にフライヤの集中力を乱して邪魔になりかねない。
サラマンダーの繰り出す攻撃の密度はそれ程濃密なものであった。
魔法に類する攻撃は、高速で移り変わるサラマンダーの位置を考えれば、至近距離で戦うフライヤに
まで影響を及ぼす可能性が高い。ミコトの愛用武器であるティンカーベルにしても、飛び道具という
性質は魔法に近いものがあり、同様の危険を持っていた。
設定された能力をほぼ完全に発揮している今のミコトなら、間接戦闘が不可能な状況であっても、
格闘戦という選択肢がないではない。単純な身体能力ならミコトはサラマンダーすら上回っている。
単なる魔物が相手なら、素手による白兵戦であっても問題無く戦えよう。
しかし、勝利する為の技術を研鑚し、積み重ね、1つの体系にまで昇華した格闘術を、
実戦の場において体現するサラマンダーが、己の身体能力を十二分に活用しているのに対して、
基礎的な格闘術を訓練した経験があるだけのミコトでは、いかに高い身体能力を持っていようと、
それを完全に活かす事は難しい。
結局、総合的な格闘能力ではサラマンダーが勝っている可能性は高く、自分の腕では、
援護するどころか返り討ちにされてもおかしくは無いというのがミコトの判断だった。
161◆BilbodqY:02/07/21 13:28 ID:???
僅かでもいい。これだという好機が無ければ、援護をする事も難しかった。
どうにか機会を掴もうとサラマンダーの一挙手一投足を逃さず観察していたミコトは、
その動きの中に奇妙な違和感を感じていた。
サラマンダーの力、技、速さ──いずれもが、あまりにも高くフライヤの上を行っている。
その圧倒的な実力差を考えれば、フライヤがこれ程長く持ちこたえていられる筈が無いのだ。
サラマンダーの殺気は間違いなく本物であり、手加減をしているとも思えない。
2人の戦いが尚も続いているのは、異常と言うより他になかった。
あるいはそこに、この危機的状況の突破口が見つかるかも知れないと、
ミコトは自分自身に隙が生じるのを覚悟の上で、全神経をサラマンダーの観察に集中した。
超人的な集中力が、ミコトの諸感覚を変化させる。
まず最初に、聴覚が鈍化した。あたかも海底の深淵に飲み込まれたかのように、
あらゆる音から本来の意味が消失し、それが何の音なのか理解できない無意味な響きと化した。
続いて、触覚、嗅覚、味覚と、あらゆる感覚が睡眠状態に等しい最低限の段階まで低下していく。
遂には視覚までもが制限され、観察の対象であるサラマンダーを除いて、
視界内の全てが薄暗い幕に覆われ、物体はぼんやりした輪郭としてしか認識されなくなった。
162本日分終了 ◆BilbodqY:02/07/21 13:28 ID:???
一方、目標物であるサラマンダーは、些細な動きから毛穴のひとつに至るまで全てが目視できた。
目に入る映像が1コマずつゆっくりと確認され、消えない残像として動線を示し続けていた。
攻撃の際、緊張した腕の筋肉が膨張する割合すら、手に取るように正確に読み取れた。
筋肉の動きどころか、内臓諸器官の脈動すら全て透けて見えるような感覚さえも存在した。
サラマンダーの動作の全てを分解し、その流れを解析してみると、改めてサラマンダーの体術の
完成度の高さが実感できる。攻防いずれを取っても、事実上完璧に近い格闘術と言えた。
サラマンダーの実力はそうやって再確認するまでもなく分かっていた事だったが、
そのレベルにまで意識を集中して、ミコトに初めて見えてきたものもあった。
攻撃動作の最終段階、最後の詰めとも言うべき瞬間、拳の動きに微妙な甘さが出るのだ。
それはごく僅かなぶれのようなもので、反撃する機会には到底ならない程度の、
隙と言うにはあまりにも微小過ぎる瑕であった。
実力的にサラマンダーに一歩譲るフライヤが、本来なら避けられない筈の攻撃を回避できるのは、
数多の戦いを潜り抜ける事で養われた戦場の勘とも言うべき直感が、無意識の内にサラマンダーの
攻撃に潜在する甘さを捉えているからに違いなかった。
やっぱり迫力と緊張感があるな・・。
今回も有難う御座います。以後も応援させて頂きます。
頑張って下さい!!
隠れた名スレだな
ところでアレ許知ってる奴って今のFF・DQ板にどの位いるんだろう?
165名前が無い@ただの名無しのようだ:02/07/22 08:40 ID:dJinOBuo
久しぶりにアレ許、最初から読み直してみようかな・・
保守
167名前が無い@ただの名無しのようだ:02/07/23 16:19 ID:SAf4VesA
ageとくよ
168名前が無い@ただの名無しのようだ:02/07/25 08:13 ID:VIPAjVJE
age
169◆SGmxUf7A:02/07/25 10:38 ID:???
知ってる人にとっちゃ良スレだな
応援しますよ
170名前が無い@ただの名無しのようだ:02/07/26 11:28 ID:EGY4OGq.
age
171◆SGmxUf7A:02/07/26 23:45 ID:???
保守
hoshu
今になってアレ許スレ復活に気付くとは…

がんがって〜応援sage
俺も保守
ほsy
176名前が無い@ただの名無しのようだ:02/07/31 00:09 ID:Tp1aQCC.
懐かしいなage
応援するでござる
178◆SGmxUf7A:02/08/01 23:48 ID:???
保守
保全
180名前が無い@ただの名無しのようだ:02/08/03 04:35 ID:nuqaBo4M
あげ
181山崎渉:02/08/03 06:53 ID:???
(^^)
保守
またーりまたーり
184◆BilbodqY:02/08/04 16:32 ID:???
最近更新できなくてスマソ…。
>>184
いえいえ、いつまでも待ちますので。
というわけで保守。
186名前が無い@ただの名無しのようだ:02/08/05 11:56 ID:2tlX/dhc
たまにはageとこう
ジタ〜ン三世
188セーブモーグリだったもの:02/08/05 23:53 ID:???
アレ許ログ保存していたhopsから
「お前の所規約違反だから削除しておいたよ じゃ〜ね♪」と
メールが来てました…
復帰の需要ありますかね?
一応データは全部残してます。
>188
くらはい
190セーブモーグリだったもの:02/08/06 23:43 ID:???
じゃあどこかサーバ探してサイトごと復帰させますか…
焦らずお待ちください。
このスレ、お気に入りに登録しますた。
それでは、読ませて頂きますです。。。
>>191
13時13分とは不吉だな
193山崎渉:02/08/08 12:29 ID:???
(^^;
>>190
セーブモーグリさんも降臨か。。

このスレ応援します、ってわけで保全。
保守
196 ◆BilbodqY :02/08/12 05:09 ID:???
保守ありがd
今週中には少し続きを書けそうです。
>>196
ども、楽しみに待ちます
保守るぜ
199セーブモーグリだったもの:02/08/14 23:21 ID:J48Ld7tp
おまたせ。復活。
http://members7.tsukaeru.net/are2/
>>199!!!!!!!!!1
----------!!!!!!!

乙です
>>199
ども〜
保守
しかし、何故そのような詰めの甘さが生じるのだろうか。
それがサラマンダーの元々の癖だとは思えなかった。
甘さを抱えながらもフライヤを圧倒できるのは、サラマンダーに今の凄まじい実力があっての事だ。
だが、サラマンダーとて、最初から今の実力を持っていた訳ではあるまい。その格闘術が完成する
以前の未熟な時期に、今と同じような甘さを持っていたなら、常に戦いの中に身を置いていたと
伝え聞くサラマンダーが今日まで生き延びる事ができよう筈もないのだ。
とは言え、フライヤに危機が続くこの状況では、それ以上サラマンダーの甘さの原因を追求している
余裕は無い。甘さの存在が明らかになったという事は、本来なら危険なタイミングまで踏み込む事が
可能になったという事であり、フライヤを救援するにあたってはそれで十分だったのだ。
諸感覚を通常の状態に戻そうとしたミコトは、しかし意図せずしてその理由を目撃する事になった。
それまで注視していた格闘術としての身体の動きとはまるで異なった個所、攻撃を繰り出す瞬間の
サラマンダーの瞳の中に。
そこに煙が渦巻くような揺らぎという形で存在したのは、深く濃い迷いの色だった。
『迷い…? 何を迷っていると言うの、サラマンダーは?』
この戦いに対する迷い、たとえばかつての仲間と戦う事への迷いでない事は、気弱な者なら
近づいただけで気が絶えかねない、身体の真芯に突き刺さるような殺気からも明らかだった。
204 ◆BilbodqY :02/08/18 16:17 ID:???
戦う事への迷いでないにも関わらず、戦っている最中にも消えぬ迷い。
となれば、より根源的な自分の行動そのものへの迷いなのではないだろうか?
アレクサンドリアの再侵攻から始まるこの戦争において、サラマンダーが何を失い、
その彼にジタンが何を約束し、そして約束がかなえられずに終わったという顛末について、
ミコトはおおよその概要をジタンから聞き知っていた。
そのサラマンダーが、今こうしてジタンの配下として戦っているのは、一切の目的を失った
空虚な心を取り敢えずは塞いでくれる力強い指針として、ジタンという強烈な意思の持ち主が
近くに存在していたからではないのか? 
テラの崩壊と共にそれまでの全てを失った時、新たに生きる目的を与えてくれる存在として、
ジタンに依存していたかつての自分というものを自覚している今のミコトは、その推測が限りなく
事実に近いものである事を強く確信していた。
心の何処かで己の行動が一種の逃避であると理解し、ただ諾々とジタンに従う事への疑問をも
感じているのに、自らの意思で受動的な立場から抜け出す事への恐れを克服する事もできない。
そんな自らが為すべき事を見失った状態こそが、サラマンダーが抱いている迷いの正体であり、
それはかつてミコト自身が囚われていた精神の牢獄と同じものなのだろうと。
205 ◆BilbodqY :02/08/18 16:19 ID:???
サラマンダーに、相手を倒すという意思が無い訳ではない。ただ、それはまとわりつく虫を
潰そうという程度のものであり、どうあっても相手を打ち破るという強固な決意ではないのだ。
心の枷となった迷いは、決定的な部分で意思に力が入りきらないという事態を招き、攻撃の中では
詰めの甘さとなって発露しているのだろう。
サラマンダーを見て、迷いを捨てきれぬままに戦いの場に立つ事で生じる弊害の大きさを、
ミコトは改めて感じた。
意思の強さだけが戦いの趨勢を左右するものでない事は、己に一片の迷いも持たぬフライヤが、
地力で勝るサラマンダーに結局は逆転できていない事からも明らかだ。しかし、これがもっと
力の差が少ない者同士の戦いだったなら、サラマンダーの迷いが、文字通り致命的な結果を
もたらしたであろう事は疑いようも無い。
そこに考えが至った時、ミコトは今の己を省みて背筋に冷たいものが走るのを感じた。
ジタンの世界制覇を阻止しなくてはならないと理解し、その為の戦いに身を投じながらも、
如何なる形でジタンの行く手を阻むのか、戦いの中で何を為すべきなのかを未だ決めかねている
現状のミコトは、いつの間にか、抜け出した筈の迷いという陥穽に再びはまっていたのだ。
そんな不安定な心構えのままジタンと戦っても、彼を阻止する事などできよう筈も無い。
今のサラマンダーがそうであるように、迷いによって力を殺され、ジタンに手が届くより早く
命を落とすのは必定だ。まして、ミコトの本当の願いであるジタンの救済など夢のまた夢だろう。
206 ◆BilbodqY :02/08/18 16:32 ID:???
「決断するしかないのね…」
サラマンダーとフライヤが相対する場に向かってゆっくりと足を踏み出しながら、
ミコトは自分に言い聞かせるかのように、その思考を言葉の形に紡ぎ出した。
これ以上結論を先送りにすれば、遠からず重い代償を支払う事になるだろう。
必要がすぐ後ろに迫って後押しするまで待っていれば、押された拍子によろめく事は避けられない。
自ら一歩先を進んでいればその危険は減少するし、場合によっては、進む道をある程度選ぶ事さえ
できよう。ならば、最早背中を押されるまで立ち止まっている事はできない。
クジャに言われるまま、状況に流されるまま漠然とジタンを阻止する戦いに参加するのではなく、
自らの手で戦乱の舵を取り、最悪の場合にはジタンの命が失われる事をも覚悟して戦いに臨む事を
ミコトはその瞬間に決意した。
この絶望的な戦いの中でジタンを救える可能性は、恐らくそこに、その過酷な道の中にしか無いと
ミコトは心の何処かで理解していたのかも知れなかった。
澱みの欠片すら無い瞳で眼前のサラマンダーを見据えたミコトは、ほとんど無造作とすら見える
流れるような動きで足払いを仕掛けた。
中途半端な介入は、逆に援護すべきフライヤの邪魔をする事にもなりかねない緊迫した空間。
しかし、サラマンダーの甘さをはっきりと認識した今のミコトには、その間隙を突く事も
さしたる難事ではなかった。
207 ◆BilbodqY :02/08/18 16:32 ID:???
矢継早の攻撃で流石に防御の手も緩んでいたフライヤに、正に必殺の一撃を打ち込まんとしていた
サラマンダーの身体が、驚く程のあっけなさで宙に舞った。
尻餅を着いたサラマンダーと、危機を救われた形になったフライヤの顔が等しく驚愕に染まる。
勿論、双方ともミコトの接近に気がついてはいた。しかし、こうもあっさりとサラマンダーの
間合いを潜り抜け、易々との己の間合いに入り込むような離れ技を可能とする者がいるなどとは、
流石の2人も予想だにしなかったのだ。
「…ここは私が引き受けたわ」
ミコトはそう言って、すいとフライヤの前に踏み出した。
「ミコト!? じゃが、おぬし独りでは…」
「大丈夫よ…」
返事をする際、一瞬フライヤの方に意識が向いたミコトの様子に、転倒しながらも油断無く
相手の隙を窺っていたサラマンダーは格好の機会を見出した。
腰の脇に下ろした両腕の力だけで、自身の巨体を跳躍させるサラマンダー。斜め上方に位置する
ミコトの顎を目掛けての両足蹴りである。
それは、ミコトの細い首を一撃の下に粉砕するだけの威力を持った必殺の蹴りであったが、
命中を確信していたサラマンダーの予想とは裏腹に、相手の肩を僅かにかすめるだけに終わった。
208本日分終了 ◆BilbodqY :02/08/18 16:34 ID:???
ミコトの背後に着地したサラマンダーは体勢を整えようと慌てて振り返ったが、
そこに見たのはミコトの背中ではなく、サラマンダーの懐に飛び込んで来るミコトの姿だった。
(な、何だ、こいつの動きは…!)
サラマンダーの眼には、ミコトの動きは相手の攻撃を無視した無謀な突撃としか映らなかった。
力任せの素人の喧嘩ならいざ知らず、サラマンダー程の実力者を敵とした戦闘においては、
防御を考慮しない攻撃など、返り討ちの好機を相手に提供するだけの意味しか持たないのが普通だ。
だが現実には、サラマンダーが繰り出した反撃は虚しく空を切り、無謀と見えたミコトの掌底が
連続して叩きつけられて行く。サラマンダーの肋骨の幾本かが、不快な軋みと共にへし折れた。
(何故、当たらん…)
苦痛に若干血の気を失った顔に困惑を滲ませるサラマンダーに、とどめの一撃を加えようと、
ミコトは再度攻撃の構えを取る。一見無謀としか思えぬ踏み込みも、
サラマンダーが持つ詰めの甘さを見切ったミコトからすれば、至極安全なものであった。
この戦いに幕を下ろすべく、ミコトの身体がゆらりと動く。
だが、戦闘におけるサラマンダーの判断力は、迷いを抱えている今も変わらず、有効に働いていた。
凡百の戦闘者なら混乱せずにはいられない、自分の攻撃がまるで当たらないという異常事態を、
サラマンダーはあっさりと受け入れた。その原因を追求する事もこの危機的状況では後回しと
判断され、その頭脳は、今、彼を滅却せんと迫り来るミコトへの有効な対処を冷静に計算していた。
すごすぎるさげ

やっぱ文章が凄い
最後の一文とかスゲー緊迫感というか臨場感

ってわけで保守
保全age

>>210
禿同。なんとも言えない迫力があるよな。
すごいね。ここ。
真剣に語ってるんるん。
保守
懐かしいなアレ許