☆☆FFDQ板最萌トーナメント二回戦Round10☆☆
城を抜け出して馬を駆り、俺は一人、ゼルテニア城教会跡地にやってきた。
用意してきた薔薇の花束を、雪解け水で濡れた地面にそっと置く。一年前に受け取って貰
えなかった誕生日の贈り物を、今日改めてお前に贈ろう。
……オヴェリア、聞こえるか?
早いものだな。あれからもう一年だ。俺がここでお前を刺し殺してしまったあの日から、
そんなにも時が経ってしまったんだな。
畏国王ディリータ。イヴァリースを救った英雄。そう呼ばれることに、俺の体はまだよく
馴染まない。
まだ平民だった頃、俺は貴族に利用され、妹の命を奪われ、時代と権力を激しく憎んでい
た。戦乱に乗じて全てを引っ繰り返し、「利用される者」から「利用する者」へのし上がろ
うと躍起になっていた。
「亡き王女の身代わり」として、生かされ続けているお前に出会ったのはそんな時だ。
利用されても泣くことしか出来ない無力で哀れなお前に、俺は自分の影を見た。同じ痛み
と悲しみを持つ人間として、お前を幸せにしてやりたいと思った。
やめてやれよ!
「……そうやってみんなを利用して!ラムザを見殺しにしたように、何時か私も見殺しに
するのね!」
あれは一年前のお前の誕生日。この場所で薔薇の花束を差し出そうとした俺に、お前は憎
悪でぎらぎらした瞳を向けた。
次の瞬間、お前は俺に体ごとぶつかってきた。一瞬の間を置いて、俺の胸に鋭い痛みが走
り、生ぬるいものがどろりと腹の方に伝わった。
刺された。
そう思うより早く、俺は体から短刀を抜き取り、お前の胸を深く抉っていた。戦いに次ぐ
戦いの日々で培われた防衛本能が、一瞬にしてお前の命を奪ってしまったんだ。
あの日お前は、どうして俺を刺したんだ?
そんなにも俺が信じられなかったか?そんなにも俺が憎かったか?
俺がお前を利用しているだなんて、どうしてそんな風に考えたんだ?
……いや、分かっている。お前をそこまで追い詰めたのは俺だ。
お前は怯えていた。また誰かに利用されるのではないかと、何時もびくびくしていた。俺
はそんなお前の不安定な気持ちに気付きながら、傍にいてやろうとしなかった。
頂上を目指して走り続ける俺の強引なやり方に、お前は何時しか不安と戸惑いを覚え始め
たんだろう。一人で悶々と悩むうち、俺に対する疑念は、どうしようもなく膨れ上がって
しまったに違いない。
確かにお前には「王女」として価値があった。俺が「王女」であるお前を利用し、のし上
がろうとしていると……そう考えたんだな?
[[FD20-08mY7Fic]]
ターニア「えっ じゃあ これからも
ウイルにいちゃんって よんでも
いいのね。
ターニア「ウイルにいちゃん
だーーい好きっ!!
<<ターニア>>
誤爆(・∀・)デシタ!
だがそれは誤解だ。信じてくれ。
俺はただ、一刻も早く手に入れたかっただけなんだ。誰にも利用されることのない、俺達
二人が治める王国を。
尤も今考えると、お前は自分の王国なんて望んでいなかったのかもしれない。
何時だったか、お前は窓の外を眺めながら、ぽつりとこんな呟きを漏らした。
『鳥になれたら素敵なのに……』
『鳥?』
『そうよ。鳥になって、あなたと二人で、何処か遠くの国に飛んでいきたい』
俺はお前の子供っぽい言葉に、思わず失笑した。
『鳥になんかなったら、豪華なドレスも綺麗な宝石も身に付けられなくなる。美味いもの
も食えないし、いい酒も飲めない。それでもいいのか?』
『……そんなものなくたって……』
お前は俯いて、それっきり何も言わなかった。
今の俺には分かる。お前が本当に欲しかったのは、豪華な屋敷でも贅沢な食事でもなく、
ただの平凡な幸せだったんだろうと。
俺もお前も、貴族の世界で生きるにはあまりにも不器用すぎた。こんな時代、こんな世の
中で出会ってなかったら、俺とお前には違った未来が広がっていたかもしれない。
今更こんなことを言っても信じて貰えないと思うが、俺はお前を愛していた。この命、お
前の為なら失っても惜しくないと思っていた。
皮肉だな。俺達は一体、何処で行き違ってしまったんだろう。
俺はあれほど焦がれていた、「利用する者」の立場に立った。だが俺の心は、何時もぽっか
りと穴が開いたように満たされない。
オヴェリア、それでも俺は生きていく。
お前が生きた証を俺が語り継ごう。オヴェリア・アトカーシャの名を後世に伝えよう。
お前は歴史の中で、身代わりにされた惨めな女などではなく、正当な血を引く王家の娘と
して、畏国王の妃として燦然と輝き続ける。
それが俺がお前にしてやれる、たった一つのことだ。
俺はふと、小鳥の鳴き声が随分と近いことに気付いて顔を上げた。
一羽の小鳥が、囀りながら俺のすぐ傍へ舞い降りた。晴れ渡った空の色を掬い取ったよう
な美しい青い小鳥だ。
小鳥は囀りながら、俺がお前に捧げた花束の周りを嬉しげに飛び周る。
その光景に、俺はふと頬を緩ませた。こんな風に自然に笑うのは、お前が死んでから初め
てのことだ。
お前の少し寂しげな笑顔が、ふと俺の前を過ぎったような気がした。
「……オヴェリア。またくるよ」
小鳥は一際高い声で囀り、晴れ渡った空へ飛び立った。
俺の行く道を示すように、高く高く空の彼方へ……。